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【事件名】商標“青丹よし”侵害事件 【年月日】平成20年7月10日 大阪地裁 平成19年(ワ)第14984号 商標権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成20年5月16日) 判決 原告 株式会社御菓子司鶴屋徳満 訴訟代理人弁護士 拾井央雄 被告 株式会社萬勝堂 被告 有限会社千代の舍竹村 被告 株式会社萬々堂通則 被告ら訴訟代理人弁護士 西田正秀 同 中村悟 同 馬場勝也 同 戸城杏奈 被告ら訴訟代理人弁理士 小林良平 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社萬勝堂は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録1記載又は同4記載の標章を付してはならない。 2 被告株式会社萬勝堂は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録1記載又は同4記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。 3 被告株式会社萬勝堂は、菓子に関する宣伝用カタログ、パンフレット、看板その他の広告に別紙被告標章目録1記載又は同4記載の標章を付して展示若しくは頒布し、又は菓子に関する情報に同標章を付してウェブサイトで提供してはならない。 4 被告株式会社萬勝堂は、別紙被告標章目録1記載又は同4記載の標章を付した菓子、菓子の包装、袋、宣伝用カタログ、パンフレット、看板を廃棄し、ウェブサイトにおける同標章を付した菓子の情報から同標章を削除せよ。 5 被告有限会社千代の舍竹村は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録2記載又は同4記載の標章を付してはならない。 6 被告有限会社千代の舍竹村は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録2記載又は同4記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。 7 被告有限会社千代の舍竹村は、菓子に関する宣伝用カタログ、パンフレット、看板その他の広告に別紙被告標章目録2記載又は同4記載の標章を付して展示若しくは頒布し、又は菓子に関する情報に同標章を付してウェブサイトで提供してはならない。 8 被告有限会社千代の舍竹村は、別紙被告標章目録2記載又は同4記載の標章を付した菓子、菓子の包装、袋、宣伝用カタログ、パンフレット、看板を廃棄し、ウェブサイトにおける同標章を付した菓子の情報から同標章を削除せよ。 9 被告株式会社萬々堂通則は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録3記載又は同4記載の標章を付してはならない。 10 被告株式会社萬々堂通則は、菓子又は菓子の包装に別紙被告標章目録3記載又は同4記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。 11 被告株式会社萬々堂通則は、菓子に関する宣伝用カタログ、パンフレット、看板その他の広告に別紙被告標章目録3記載又は同4記載の標章を付して展示若しくは頒布し、又は菓子に関する情報に同標章を付してウェブサイトで提供してはならない。 12 被告株式会社萬々堂通則は、別紙被告標章目録3記載又は同4記載の標章を付した菓子、菓子の包装、袋、宣伝用カタログ、パンフレット、看板を廃棄し、ウェブサイトにおける同標章を付した菓子の情報から同標章を削除せよ。 13 被告株式会社萬勝堂は、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成19年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 14 被告有限会社千代の舍竹村は、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成19年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 15 被告株式会社萬々堂通則は、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成19年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 16 訴訟費用は被告らの負担とする。 17 仮執行宣言 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、被告らが菓子及びその包装等に後記標章を付してこれを販売等している行為が原告の商標権を侵害しているとして、原告が被告らに対し、商標法36条1項に基づき、上記標章を菓子及びその包装に付し、また上記標章を付した菓子及びその包装の譲渡等並びに菓子に関する宣伝用カタログ等の広告における同標章の使用の各差止めを求め、同条2項に基づき、同標章を付した菓子、菓子の包装及び宣伝用カタログ等の広告の廃棄等を求めるとともに、商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として被告らそれぞれに対し300万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日である平成19年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記したものを除き、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告及び被告らは、いずれも菓子の製造販売業者である。 (2) 原告の商標権 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。甲1)を有しており、和三盆と葛粉で短冊型に打ち固めた干菓子に本件商標を付してこれを販売している。 登録番号 第2283425号 出願年月日 昭和61年8月30日 登録年月日 平成2年11月30日 存続期間の更新登録年月日 平成12年9月26日 登録商標 別紙原告商標目録記載のとおり 商品の区分 第30類 指定商品 和三盆と葛粉で短冊型に打ち固めた干菓子 (3) 被告らの使用する標章 ア 被告株式会社萬勝堂(以下「被告萬勝堂」という。) 被告萬勝堂は、遅くとも平成12年ころから現在まで、菓子及びその包装並びにパンフレット、ウェブサイト及び看板等の広告に別紙被告標章目録1記載の標章(以下「被告標章1」という。)又は同目録4記載の標章(以下「被告標章4」という。)を付して、同菓子を販売している。 イ 被告有限会社千代の舍竹村(以下「被告竹村」という。) 被告竹村は、遅くとも平成12年ころから現在まで、菓子及びその包装並びにパンフレット、ウェブサイト及び看板等の広告において、別紙被告標章目録2記載の標章(以下「被告標章2」という。)又は被告標章4を付して、同菓子を販売している。 ウ 被告株式会社萬々堂通則(以下「被告萬々堂」という。) 被告萬々堂は、遅くとも平成12年ころから現在まで、菓子及びその包装並びにパンフレット、ウェブサイト及び看板等の広告において、別紙被告標章目録3記載の標章(以下「被告標章3」という。)又は被告標章4を付して、同菓子を販売している。 (4) 本件商標権の指定商品と被告らが販売する菓子との同一性被告らが販売する上記各菓子は、いずれも本件商標権の指定商品である「和三盆と葛粉で短冊型に打ち固めた干菓子」に含まれる。 (5) 「青丹よし」の販売 原告及び被告らは、遅くとも昭和28年5月8日から現在に至るまで、「和三盆と葛粉で短冊型に打ち固めた干菓子」に「青丹よし」という名称を付してこれを販売してきた(甲24、25、弁論の全趣旨)。 3 争点 (1) 被告標章1 ないし4( 以下これらを合わせて「被告各標章」ともいう。)が本件商標と類似するか(争点1)。 (2) 被告らは被告各標章の使用について、先使用権(商標法32条1項)を有するか(争点2)。 (3) 原告の本件商標登録は商標法4条1項10号の規定に違反してなされたものか(争点3)。 (4) 損害額(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件商標と被告各標章との類似性)について (1) 原告の主張 被告各標章と本件商標とは、いずれもその要部に「青丹よし」の文字を含んでおり、「アオニヨシ」の称呼を生じ、同一又は類似である。 (2) 被告らの主張 ア 「青丹よし」という名称が出所識別機能を有しないこと青(緑)と赤の短冊型の干菓子を「青丹よし」と呼ぶようになったのは、江戸時代末期のことであり、この名称は有栖川熾仁親王が命名したものである。そして、明治時代には既に奈良の多数の菓子業者が「青丹よし」と称する干菓子を作っていた。 100年以上にわたり「青丹よし」と称する干菓子が奈良の複数の業者により販売されてきた結果、奈良の菓子業者及び消費者において「青丹よし」といえば、青と赤の短冊型の干菓子を指す普通名称又は慣用名称となっている。 よって、「青丹よし」というだけでは、その出所が原告であると識別することはできず、原告の本件商標は、「青丹よし」という書体及び花形の紋章、「鶴屋徳満」の店名を合わせて初めて有効なものである。 イ 本件商標と被告各商標とが類似しないこと 本件商標は、左下に「鶴屋徳満」の社名が記載されたものであって、これと「青丹よし」の文字が一体となって商標登録されている。前記のとおり、「青丹よし」は普通名称又は慣用名称であるから、他の業者との識別力を有する「鶴屋徳満」の社名と一体として本件商標を捉えるべきである。 被告標章1は、「青丹よし」の書体につき、本件商標とは異なり、毛筆体風ではなく、明朝体風のものを使用している。また、被告標章1に鶴屋徳満と誤認させるような文字を配置していない。よって、被告標章1と本件商標は類似しない。 被告標章2は、本件商標に比して、商標の店名そのものと店名の配置が異なる。そのため、本件商標と被告標章2とは類似しない。 被告標章3には、鶴屋徳満と誤認させるような文字を配置していない。本件商標と出所混同の危険はないので、本件商標と被告標章3とは類似しない。 (3) 被告らの主張に対する原告の反論 被告らは、「青丹よし」といえば、青と赤の短冊型の干菓子を指す普通名称又は慣用名称であって、その名称には出所識別機能がない旨主張するが、以下のとおり理由がない。 ア 一般的な日本人の語彙力を超過するといえる小型の国語辞書には「青丹よし」との語は採録されていない。さらに、一般的な日本人の語彙力を遙かに凌駕し、一度収録された単語は容易に削除されない広辞苑や大辞林にさえも、「青丹よし」の語について菓子を示唆する記載は何らされていない。したがって、平均的日本人は、「青丹よし」という名称から「青と赤の短冊型の干菓子」を容易に想起できない。また、原告の主張によっても、「青丹よし」なる菓子が指称する菓子については、せいぜい干菓子あるいは落雁の一種という社会通念しか形成されておらず、普通名称性を議論するまでの商品カテゴリーは形成されていない。 原告と被告らは、昭和26年2月3日に、共同で「青丹よし」について商標登録出願し、昭和28年5月8日に登録されて以来、昭和58年5月8日に存続期間満了により登録が抹消されるまで、30年間にわたり商標権を維持し、被告らもその商標を独占使用してきたのであり、しかも、被告らは、かかる登録商標が抹消された以降も、「青丹よし」の文字に「登録商標」との表示を付して使用を続けていたのである。被告らがこのような表示を用いていたのは、「青丹よし」が識別力のある名称だからこそである。 被告らは、パンフレット、ウェブサイト等において、「青丹よし」がどのような材料で作られたどのような菓子であるかの説明をしているが、これは「青丹よし」が普通名称として通用しておらず、その表示だけではどのような物か分からないからである。 以上のとおり、「青丹よし」が普通名称として一般に使用されている事実はない。 イ 現在、「青丹よし」の名称を使用して「青と赤の短冊型の干菓子」を製造販売しているのは、原告及び被告らの4業者のみである。「青丹よし」を商標の一部として「青と赤の短冊型の干菓子」に使用する業者もない。 しかも、前記のとおり、原告と被告らは「青丹よし」について、共同で商標登録し、その名称を排他的に使用してきた結果、同名称で同干菓子を製造販売する新規参入業者はいない。 「青丹よし」が「青と赤の短冊型の干菓子」について複数の業者に使用されてきたといっても、それは原告及び被告らが排他的・閉鎖的に使用してきたのであって、同業者間で慣用的に自由に使用されてきたわけではない。 以上のとおり、「青丹よし」が慣用的に自由に使用されている事実はない。 2 争点2(被告らは、被告各標章の使用について、先使用権(商標法32条1項)を有するか)について (1) 被告らの主張 被告らはいずれも、遅くとも本件商標の出願日前である昭和9年から現在に至るまで、日本国内において、青と赤の短冊型の干菓子を製造してきており、その菓子に「青丹よし」という標章を使用してきた。 被告竹村は、本件商標の出願直前である昭和60年当時、「青丹よし」の名称を用いて干菓子を販売し、需要者の間に広く知られていた。また、同時期に被告萬勝堂及び被告萬々堂も「青丹よし」の名称を用いて干菓子を販売して需要者の間に広く知られていた。 原告は、被告らが「登録商標」との表示を付して販売していたことをもって不正競争の目的があったと主張するが、原告も本件商標が登録される前に同様の行為を行っていたのであり、不正競争の目的があったとはいえない。 よって、被告らには被告各標章につき先使用権がある。 (2) 原告の主張 被告らが、本件商標登録出願日前から被告各標章を使用していたとか、出願の際に需要者の間に広く知られていたとはいえない。 また、被告らは、被告各標章が登録商標ではないにもかかわらず、「登録商標」の表示を付し、消費者を欺瞞する態様で「青丹よし」を使用してきたのであり、不正競争の目的で使用してきたというべきである。 3 争点3(原告の本件商標登録は商標法4条1項10号の規定に違反してなされたものか)について (1) 被告らの主張 原告の本件商標登録は、昭和61年8月30日当時、既に青と赤の短冊型の干菓子について広く認識されていた「青丹よし」という商標を登録しようとするものであるから、商標法4条1項10号に反して登録されたものである。 また、前記のとおり、原告と被告らは、過去に共同で「青丹よし」という商標登録を行っており、原告はこれを認識していたのであるから、原告は被告らの商標使用を知りつつ独占的に「青丹よし」の呼称を使用しようとしたものであり、不正競争の目的で商標登録を受けたといえる。 よって、本件商標登録は、商標登録無効審判により無効にされるべきものであるから、商標法39条1項において準用する特許法104条の3第1項により、原告は被告らに対し、その権利を行使することができない。 (2) 原告の主張 否認ないし争う。 4 争点4(損害額)について (1) 原告の主張 被告萬勝堂は、平成16年以降、被告標章1を付した菓子の販売によって、1年間当たり少なくとも300万円の利益を得ている。よって、被告萬勝堂の商標権侵害による原告の損害額は、3年間で900万円を下らない。 被告竹村は、平成16年以降、被告標章2を付した菓子の販売によって、1年間当たり少なくとも300万円の利益を得ている。よって、被告竹村の商標権侵害による原告の損害額は、3年間で900万円を下らない。 被告萬々堂は、平成16年以降、被告標章3を付した菓子の販売によって、1年間当たり少なくとも300万円の利益を得ている。よって、被告萬々堂の商標権侵害による原告の損害額は、3年間で900万円を下らない。 (2) 被告らの主張 いずれも否認する。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件商標と被告各標章との類似性)について (1) 本件商標の構成は、別紙原告商標目録記載のとおりであり、中央に大きく縦書き毛筆体で「青丹よし」と大きく表示され、その右側上方に比較的小さく縦書きで「元祖登録商標」と、左側下方に比較的小さく縦書きで「鶴屋徳満」とそれぞれ毛筆体で書され、上記「青丹よし」の文字の真上に、小さく毛筆体で「献上銘菓」という文字を十字に配して草の模様で囲った図形(以下「上部図形」という。)を配し、さらに上記各文字及び図形の外周を略長方形で囲ったものである。 被告各標章は、後記構成を有し、いずれも「青丹よし」との文字を含むものであるところ、原告は、本件商標における「青丹よし」との部分そのものを要部と捉えて、被告各標章はその要部において本件商標と同一又は類似であるから全体としても本件商標と同一又は類似である旨主張する。そこで、まず「青丹よし」が本件商標における要部であるかどうかについて検討する。 ア 以下の各項末尾に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、「青丹よし」という名称について、以下の事実が認められる。 (ア) 「大和百年の歩み 政経編」(昭和45年8月20日発行)という書籍において、「青丹よし」の由来について、「幕末嘉永のころ、下御門町東側に興福寺の大乗院や中宮寺の御用をつとめていた菓子屋藤原直次がいた。粳米を炒(い)って粉にし砂糖をまぜてかため、四角にきった炒米糖、おなじようなものにゴマをかけた真砂糖という菓子をつくっていた。たまたま有栖川熾仁親王が中宮寺で、これらの菓子の妙味をほめ、これからは青と赤の二色をつくり、白雲(雪あるいは霞との説もある)を入れて短冊形にせよ、菓子名は『青丹よし』とすることを教えられたという。直次はさっそくそのような菓子をつくり、南都はもちろん京都でも好評を得た。」との記載があり、明治時代には奈良の多くの菓子屋において製造されており、「青丹よし」について「明治19年、南玉堂は登録商標を申請したが、もうそのころは奈良の町の多くの菓子屋でつくられていたため許可されないありさまであった。」と記載されている(乙1)。 (イ) 「日本の名菓」(昭和60年2月1日発行)、「和菓子の一流品年鑑’90」(平成2年発行)及び「美味探訪日本のお菓子」(同年発行)という各雑誌並びに京菓子協同組合事務局が開設するウェブサイトにおいても、「青丹よし」は、有栖川宮が命名した銘菓として、また被告竹村の製造販売する菓子として紹介されている(乙4、13、14、15)。 (ウ) 「日本国語大辞典第二版」(平成12年発行)において、「青丹よし」が「菓子の名。片栗と砂糖を原料として、短冊形に押し固め、表面に斜めに白いかすり引きの模様をつけたもの。奈良の名物。」と説明されている(乙6)。また、「角川茶道大事典(普及版)」(平成14年発行)において、「青丹よし」が「奈良の枕詞として詠まれる『青丹よし』を銘とする菓子。昔は白色で、江戸中期、有栖川宮が中宮寺に御仮泊の時献上したもの。青と紅の二色に白い雲が散らされている。」と説明されている(乙8)。 (エ) 昭和9年当時、奈良市内の菓子製造業者は、いずれも「青丹よし」という名称を使用して「青ト赤トノ二色ヲ一組トナシタル落雁ト同種ノ干菓子」を販売していた(乙2)。 (オ) 今日に至るまで、「青丹よし」という名称そのものについて商標登録が認められた例はない(甲24、25、乙2、9〜11)。 イ 上記認定した事実によれば、「青丹よし」は、幕末又は江戸時代中期に有栖川熾仁親王ないし有栖川宮が命名したものと伝えられ、その後、主として奈良市内において複数の菓子業者によって広く製造販売されてきた「青と赤との二色を一組にした落雁と同種の干菓子」であり、その名称は奈良において製造販売されるこの種の干菓子に広く付せられてきたものである。そして、「青丹よし」という名称そのものについて商標登録が認められた例はないことからすれば、「青丹よし」という名称そのものが特定の業者の製造した上記干菓子を表示する機能を有しているとは認め難い。まして、原告の製造販売する上記干菓子として出所識別力を獲得したと認めるに足りる証拠は全くない。 この点、原告は、原告と被告らは、昭和26年に共同で「青丹よし」に係る商標登録出願し、昭和28年5月8日に登録されて以降、昭和58年に至るまで商標権を維持してきたことをもって、「青丹よし」には出所識別力があると主張する。しかしながら、証拠(甲24、25)によれば、当該登録に係る商標は、「青丹よし」の文字のみではなく、その上部に「南都名産」との文字を十字に配して草の模様で囲った図形と相まって成る商標であり、「青丹よし」そのものに出所識別力が認められたわけではないのであるから、原告の主張は採用できない。 ウ 以上のとおり、「青丹よし」との部分の出所識別力はきわめて弱いといわざるを得ない。したがって、被告らの主張するように「青丹よし」が普通名称又は慣用名称とまで認められるか否かはともかく、同部分は本件商標の要部たり得ないことは明らかであって、同部分と「献上銘菓」という文字を十字に配して草の模様で囲った図形(上部図形)及び「鶴屋徳満」という製造元の表示等と相まって初めて出所識別力が生じるものというべきである。また、本件商標において商品の出所を識別するものとして需要者の注意を引くのも、これらの部分にあるといえる。したがって、本件商標の要部は、本件商標全体又は本件商標中央部の「青丹よし」の文字に加えて、上部図形及び左下部の「鶴屋徳満」の文字の全体にあると解するのが相当である。 (2) 以上を前提に、以下、被告各標章について、本件商標と類似するかどうかを検討する。 ア 被告標章1について 被告標章1は、「青丹よし」との明朝体風の文字を斜体で縦に配したもののみで構成されるところ、本件商標における毛筆体風の「青丹よし」と字体が異なる上、被告標章1には本件商標における上部図形及び「鶴屋徳満」との部分が存在しない。よって、外観において被告標章1と本件商標とは類似しない。 被告標章1は「あおによし」との称呼を生ずるのに対し、本件商標は、「けんじょうめいか がんそ とうろくしょうひょう あおによし つるやとくまん」又は「けんじょうめいか あおによし つるやとくまん」などとの称呼を生ずるものであるから、称呼において被告標章1は本件商標と類似しない。 被告標章1の観念は、単に「青丹よし」というのみであるところ、本件商標からは「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」という観念を生じさせるから、観念においても、被告標章1は本件商標と類似しない。 このように、被告標章1は、本件商標と、外観・称呼・観念のいずれも類似しない。 イ 被告標章2について 被告標章2は、中央に大きく「青丹よし」という文字を配し、その上部に「南都名産」という文字を十字に配して草の模様で囲んだ図形を配し、「青丹よし」の文字の右上には比較的小さく毛筆体で「御銘」と、左下に比較的小さい文字で長方形で囲った中に「登録商標」との文字を配しているものである。このように、被告標章2は、同図形中の文字の配置及び模様の外観において本件商標の上部図形と類似する部分があることが認められ、また、毛筆体で書した「青丹よし」や、被告標章2の左下部に文字が配されている点は、本件商標と同様の構成を取っているものといえる。 しかしながら、被告標章2は、その上部にある草模様に囲まれた文字が「南都名産」であり、本件商標の「献上銘菓」とは異なる上、「青丹よし」の左右に配された文字が本件商標とは異なるから、本件商標と外観において類似しているとはいえない。 本件商標は、「けんじょうめいか がんそ とうろくしょうひょう あおによし つるやとくまん」又は「けんじょうめいか あおによし つるやとくまん」などとの称呼を生ずるのに対し、被告標章2は、「なんとめいさん おんめい あおによし とうろくしょうひょう」又は「なんとめいさん あおによし」などという称呼を生じるから、称呼において類似しているともいえない。 また、被告標章2では、製造者の表記がなされていないので、その観念は「南都名産である青丹よし」というにすぎず、本件商標における「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」という観念とは異なるといわざるを得ない。 このように、本件商標と被告標章2とは、外観において一部共通点が認められるものの、称呼及び観念において全く異なり、出所の誤認混同を生じる余地はないというべきである。よって、被告標章2が本件商標と類似するとは認められない。 ウ 被告標章3について 被告標章3は、「青丹よし」という文字を毛筆体風に縦に配したもののみから成り立っていて、本件商標における「青丹よし」との部分と外観上共通するところがある。しかし、被告標章3には、本件商標における上部図形も「鶴屋徳満」との文字もないことから、外観において本件商標と類似しているとはいえない。 被告標章3の称呼は「あおによし」であるのに対し、本件商標の称呼は、「けんじょうめいか がんそ とうろくしょうひょう あおによし つるやとくまん」又は「けんじょうめいか あおによし つるやとくまん」であるから、称呼において被告標章3と本件商標とは類似しない。 被告標章3の観念は、単に「青丹よし」というのみであるところ、本件商標の観念は「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」というものであるから、観念においても本件商標とは類似しない。 このように、本件商標と被告標章3とは、外観・称呼・観念のいずれも類似せず、両者には出所の誤認混同を生じ得る余地はない。よって、被告標章3が本件商標と類似するとは認められない。 エ 被告標章4について 被告標章4は、色彩、字体を問わず、「青丹よし」なる文字のみを指すものであるところ、被告標章3と同様、本件商標とは外観(被告標章3の「青丹よし」は本件商標と同様に毛筆体であるのに対し、被告標章4の「青丹よし」は色彩、字体を問わないというのであるから、その類似性の隔たりは被告標章3よりも大きい。)・称呼・観念とも類似しないことが明らかである。したがって、被告標章4が本件商標と類似するとは認められない。 (3) 以上からすれば、被告各標章は、いずれも本件商標と類似するものとはいえないから、これを菓子又はその包装に付し、また、これを付した菓子又はその包装を販売等する被告らの行為は本件商標権を侵害するものとは認められない。 2 結語 以上の次第で、原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次 裁判官 西理香 裁判官 北岡裕章 |
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