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【事件名】ピンク・レディのパブリシティ権事件
【年月日】平成20年7月4日
 東京地裁 平成19年(ワ)第20986号 損害賠償請求事件
 (平成20年4月25日 口頭弁論終結)

判決
原告 A
原告 B
原告両名訴訟代理人弁護士 竹内三郎
同 清起一郎
同 溝口修
被告 株式会社光文社
同訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 清水琢麿


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告らに対し、それぞれ186万円及びこれに対する平成19年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 訴訟の概要
 本件は、女性デュオ「ピンク・レディー」を構成していた原告らが、原告らの写真を無断で使用した記事を女性週刊誌に掲載した被告に対し、不法行為(パブリシティ権侵害。民法715条)に基づいて、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実
(1) 当事者
ア 原告らの著名性
(ア) 原告A(以下「原告A」という。)及び原告B(以下「原告B」という。)は、歌手であり、昭和51年から昭和56年にかけて、女性デュオ「ピンク・レディー」を結成して活動し、広く世間に知られていた。
(イ) ピンク・レディーは、デビュー曲の「ペッパー警部」以来、斬新で大胆なコスチュームと過激な振り付けのステージアクションにより、子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その振り付けを真似することが社会的現象にさえなった。
(ウ) 原告A 及び原告B は、 ピンク・レディー解散後は、 それぞれ「A ’」「B’」の芸名で、ソロアーティストとして芸能活動を続けている。
 また、原告らは、昭和59年以後数回にわたり、期間限定でピンク・レディーを再結成し、最近では平成15年から平成17年にかけて、全国100会場で昼夜2回のコンサート活動を行った。
(エ) したがって、本件におけるパブリシティ権侵害の有無を検討する上で、原告らは、ピンク・レディのメンバーとして、著名な芸能人である。
 (以上、争いのない事実、甲1、2、弁論の全趣旨)
イ 被告
 被告は、書籍、雑誌等の出版、発行等を業とする会社であり、週刊誌「女性自身」を毎週発行しており、その発行部数は約52万部である。
 (争いのない事実)
(2) 本件雑誌及びその表紙等
ア 被告は、平成19年2月13日、週刊誌「女性自身平成19年2月27日号」(乙3。以下「本件雑誌」という。)を発行した。本件雑誌の大きさは、縦26cm×横21cmのAB変型版サイズである。
イ その表紙右中央部には、赤紫地に白抜きの「C解説!ストレス発散“ヤセる”5曲」の見出し(右側)と大きさ縦9.6cm×横1.7cmのピンク色の下地に黄色で「『ピンク・レディー』ダイエット」の見出し(左側)がある。
 それらの見出しの上には、その左側のDに関する同種記事の上にもわたって、横書きで「奇跡のボディを作る!」とある。
ウ 本件雑誌32頁には、大きさ縦9.0cm×横18.8cmの白黒の目次欄があり、その中央下部「今週のトピックス」欄の4番目に、大きさ縦0.5cm×横6cmの「踊って脂肪を燃焼!『ピンク・レディーdeダイエット』」との見出しがある。
 (以上、争いのない事実、乙3)
(3) 本件記事及び本件写真
ア 本件記事の概要
(ア) 本件雑誌の白黒グラビア頁部分のうち16頁から18頁までの3頁に、ピンク・レディーの代表的楽曲である「渚のシンドバッド」「ウォンテッド」「ペッパー警部」「UFO」「カルメン’77」の5つの楽曲における振り付けを利用したダイエットに関する「ピンク・レディーdeダイエット」と題する記事が、原告ら両名が写っている写真14枚(以下、これらを「本件写真」という。)を使用して掲載されている(以下、この記事全体を「本件記事」という。)。
(イ) 本件記事は、次の部分から構成されている。
a 見出し部分(16頁右端)
b 5つの楽曲についての各説明(16頁上、下、17頁上、下、18頁上)
c ナイスバディ記事(17頁左端上半分)
d Cの思い出(17頁左端下半分)
e 本誌秘蔵写真で綴る思い出(18頁下)
f Eの思い出(18頁下端)
 (争いのない事実)
イ 各部分の詳細
(ア) 見出し部分(本件写真1)
 本件雑誌16頁右端には、「デビューから30年・・・今、お茶の間で大ブレイク中!」「ピンク・レディーdeダイエット」「覚えてますよね、あの踊り!親子で踊ってストレス解消!脂肪を燃焼!」「Cの実践講座」との見出しが、大きさ縦約20cm×横約4.7cmの範囲内に4行にわたって掲載されている。
 この見出しの上部に、大きさ縦4.8cm×横6.7cmの「サウスポー」をステージで歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真1」という。)が掲載され、その下に「奇跡のBODYを作る!!」との文章が記載されている。
(イ) 渚のシンドバッド(本件写真2)
 本件雑誌16頁の上半分には、最上部に「超ハード! 全身運動No.1」「『渚のシンドバッド』」「ピンク・レディーの全曲中でもっとも運動量が多い曲」との見出しがある。
 この見出しの下に、「Cのひとことアドバイス」と題する5行の文章がある。
更にその下に、右側から、大きさ縦9.0cm×横7.5cmのCの写真、「ココが効きます足の筋肉プルプルだからぁ」との文章、大きさ縦8.0cm×横5.5cmの「渚のシンドバット」を歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真2」という。)がある。
 上記見出し等の左側に、4コマのイラスト及び文字による振り付けの図解解説がある。
(ウ) ウォンテッド(本件写真3)
 本件雑誌16頁の下半分には、最上部に「二の腕とウエストに効果大!」「『ウォンテッド』」「何かを捕まえるイメージで力強く踊れば、脂肪もストレスも退散」との見出しがある。
 この見出しの下に、右側に「お馴染みのポーズが意外な効果を」との文章及び大きさ縦8.6cm×横6.7cmのCの写真、左側に大きさ縦9.3cm×横6.3cmの「ウォンテッド」をリハーサルにおいてステージで歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真3」という)及び、 「Cのひとことアドバイス」と題する6行の文章がある。
 上記見出し等の左側に、4コマのイラスト及び文字による振り付けの図解解説がある。
(エ) ペッパー警部(本件写真4)
 本件雑誌17頁の上半分には、最上部に「内モモを細くしてヒップアップ!!」「『ペッパー警部』」「覚えやすく踊りやすい曲です」との見出しがある。
 この見出しの下に、「Cのひとことアドバイス」と題する5行の文章がある。
 更にその下に、右側から、大きさ縦9.7m×横4.8cmのCの写真、「恥ずかしがらずに足を開きましょう」との文章、大きさ縦7.8cm×横5.7cmの「ペッパー警部」をステージで歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真4」という。)がある。
 上記見出し等の左側に、4コマのイラスト及び文字による振り付けの図解解説がある。
(オ) UFO(本件写真5)
 本件雑誌17頁の下半分には、最上部に「太モモと腰回りを強くする」「『UFO』」「誰もが知ってるあのポーズもエクササイズに?」との見出しがある。
 その下に、大きさ縦5.0cm×横7.5cmの「UFO」をステージで歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真5」という。)がある。
 更にその下に、右から、大きさ縦7.0cm×横3.7cmのCの写真、「Cのひとことアドバイス」と題する6行の文章、「腰のひねりを意識的に“グッ”とね」との文章、大きさ縦9.0cm×横6.1cmのCの写真、「そってそってまたそって!」との文章がある。
 上記見出し等の左側に、4コマのイラスト及び文字による振り付けの図解解説がある。
(カ) ナイスバディ記事(本件写真6)
 本件雑誌17頁の左端上半分には、「このボディを作ったのがあの振付なのです」との見出しと「ピンク・レディーに、また新たな神話が。“振付しながら踊って楽しく痩せられる”と。この2人のナイスバディが夢ではないのです。お子さんやお友達とコミュニケーションをとりながら踊っちゃいましょう。詳細は『ピンク・レディーフリツケ完全マスター』(講談社)でどうぞ。」との7行の文章がある。
 その下に、大きさ縦7.0cm×横4.4cmのビーチでビキニ姿をしている原告らの写真(以下「本件写真6」という。)がある。
(キ) Cの思い出
 本件雑誌17頁の左端下半分には、「女の子が羨ましくてC」との見出しとCがピンク・レディーの思い出などを語る20行の文章がある。
 その下に、大きさ縦5.0cm×横3.9cmのCの写真がある。
(ク) カルメン’77(本件写真7)
 本件雑誌18頁の上半分には、最上部に「上半身のラインを美しく」「『カルメン’77』」「これぞピンク・レディーSEXYNo.1/ エロティックにいきましょう」との見出しがある。
 その下に、右側に大きさ縦8.0cm×横10.0cmの「カルメン’77」をステージで歌唱中の原告らの写真(以下「本件写真7」という。)、左側に「Cのひとことアドバイス」と題する6行の文章、大きさ縦12.0cm×横6.2cmのCの写真及び「激しく、大胆に! カルメンになりきって」との文章がある。
 上記見出し等の左側に、4コマのイラスト及び文字による振り付けの図解解説がある。
(ケ) 本誌秘蔵写真で綴る思い出(本件写真8ないし14)
 本件雑誌18頁の下半分(面積で約3分の1)には、「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」との見出しがある。
 その下に、右から順に、次の写真がある。
G大きさ縦9.1cm×横5.5cmのバックステージで「透明人間」の衣装姿をしている原告らの写真(以下「本件写真8」という。)、
H大きさ縦5.0cm×横5.6cmのステージで「サウスポー」を歌唱中の原告らの写真(上側。以下「本件写真9」という。)とI大きさ縦4.1cm×横5.6cmの私服姿でリハーサル中の原告らの写真(下側。以下「本件写真10」という。)、
J大きさ縦4.1cm×横6.3cmの「Do Your Best」をステージで歌唱中の原告らの写真(上側。以下「本件写真11」という。)とK大きさ縦4.1cm×横6.3cmのFからインタビューを受けている原告らのオーディション時の写真(下側。以下「本件写真12」という。)、
L大きさ縦2.8cm×横3.6cmのリハーサルにおいて「マンデーモナリザクラブ」をステージで歌唱中の原告らの写真(上側。以下「本件写真13」という。)とM大きさ縦5.4cm×横3.6cmの「ピンクタイフーン」をステージで歌唱中の原告らの写真(下側。以下「本件写真14」という。)
(コ) Eの思い出
a 本件雑誌18頁下端には、「小学生のときは私はピンク・レディーとして活動してましたE」との見出しとEがピンク・レディーの思い出を語る31行の文章がある。
 その左端に、大きさ縦4.7cm×横3.6cmのEの写真がある。
b この部分は、本件写真8ないし14のすぐ下にあり、同写真との間に仕切り線のようなものもないから、同写真と共に、「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」を構成しているものと認められる。
(サ) 本件写真
 本件写真は、原告らが取材時間として特に許可した機会に被告が撮影した写真であり、撮影については、原告らの同意があった。
 (以上、争いのない事実、乙3、弁論の全趣旨)
(4) 本件記事掲載の経緯
ア(ア) 平成18年秋ころ、ダイエットに興味を持つ女性、特に主婦らを中心として、ピンク・レディーのヒット曲に合わせてダンスを踊ってダイエットをすることが流行した。また、講談社からは、原告らが振り付けを実演する「ピンク・レディーフリツケ完全マスターDVD」が発売されていた。
(イ) 本件記事を担当した契約記者及び被告の編集担当者(以下「本件担当記者ら」という)は、本件雑誌の読者層。が子供時代にピンク・レディーに熱狂した女性ファン層と重なり、小さい子供を抱える主婦層となっていることから、ピンク・レディーの曲に合わせてその振り付けをし、親子でコミュニケーションを図りながらダイエットをすることを紹介する本件記事を企画した。
(ウ) 本件担当記者らは、振り付けや目標を説明するために、ピンク・レディーのファンであり、その振り付けの実演を得意と自負するCを起用し、プロのイラストレーターによるイラストを使用し、本件写真1ないし7を使用した。
(エ) さらに、本件担当記者らは、読者が往時のピンク・レディーのことに思いを巡らせることが当然予想できたため、本件写真8ないし14を掲載するとともに、これに、人気振付師で、ピンク・レディーのファンでもあるEによる回顧談を付した。
 (以上、甲2、4、乙3、5の1〜5、弁論の全趣旨)
イ 本件担当記者らは、本件記事中に本件写真を使用することにつき、原告らの承諾を求めることはしていない。
(争いのない事実)
(5) 本件雑誌の宣伝広告
ア 平成19年2月14日付け毎日新聞朝刊(甲6)及び同日付け朝日新聞朝刊(甲7)の本件雑誌の広告記事には、いずれも、「『ピンク・レディー』ダイエット」「C解説“ストレス発散”振りつけマスターやせる5曲」との見出しと「渚のシンドバッド」を歌唱している原告らの写真1枚が掲載された。
 (甲6、7)
イ(ア) 電車等の公共交通機関等の中吊り広告(乙4)には、「奇跡のボディ作る」「C解説!ストレス解消“ヤセる”5曲」「『ピンク・レディー』ダイエット」との見出しが掲載された。
 (乙4)
(イ) これらの中吊り広告において、原告らの写真が掲載されたことを認めるに足りる証拠はない。
3 争点
(1) パブリシティ権侵害の有無
(2) 故意過失
(3) 損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(パブリシティ権侵害の有無)について
ア 原告ら
(ア) まとめ
 以下に主張するとおり、本件記事は、原告らの肖像を本件雑誌の販売促進という商業目的のために用いたものであるから、原告らのパブリシティ権を侵害する。
(イ) 本件写真の使用状況
a 本件記事では、原告らの写真が合計14枚使用されており、写真が使用されている面積が誌面に占める割合は、16頁で約25%、17頁で約21%、18頁で約48%であって、3頁全体の平均では約31%に及んでいる。
b 前提事実(1)アのとおり、ピンク・レディーは、デビュー曲の「ペッパー警部」以来、斬新で大胆なコスチュームと過激な振り付けのステージアクションにより、子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その振り付けを真似することが社会的現象にさえなったものであるから、ピンク・レディーにおいては、楽曲のタイトルやその曲に合わせた振り付け自体も、ピンク・レディー自身の姿を直接印象付けるものである。
c 本件記事中の楽曲のタイトルや振り付けの図解解説部分を含めると、ピンク・レディーに関係する部分が誌面に占める割合は、3頁にわたる紙面のほとんどすべてになる。
d したがって、本件写真の使用は、通常モデル料が支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同視できる程度のものである。
(ウ) 本件写真1ないし7と本件記事の企画構成
a 本件記事は、本件写真1ないし7により、そこに記載されたダイエットを実践することでピンク・レディーのような美しいスタイルになることができることを読者の視覚に訴えて、そのダイエット効果を強く実感できるようにしている。
b 本件記事の図解解説部分は、楽曲の歌詞内容のごく一部を抜粋し、4コマのイラストとわずかな文章でごく簡単に振り付けの説明をしているのみである。読者がそこで紹介しようとしているダイエットを理解できるのは、読者がピンク・レディーの楽曲の歌詞や振り付けを鮮明に記憶しており、一部の歌詞だけからでも容易にその楽曲全体を想起でき、かつ、写真1枚と4コマの図解解説部分だけからでもその振り付け全体を思い出すことができるからである。
c したがって、本件記事の企画構成自体、世間に広く知られたピンク・レディーの楽曲並びにそれに合わせたピンク・レディーの振り付け及び歌唱が存在することなしには成立し得ないものであり、本件記事自体、ピンク・レディーの肖像等の著名性に依拠しており、ピンク・レディーの顧客吸引力を利用して本件雑誌の読者の購買意欲を惹き付けようとするものである。
d 後記被告の主張(ウdは否認する。
 本件写真1ないし7とCの写真の大きさ、分量等とを比較しても、それほどの差異はなく、いずれが主であり、いずれが従であるかを決することはできない。むしろ、振り付けを想起させる効果は、当時実際に演じていた原告らが写っている本件写真1ないし5及び7の方が大である。
(エ) 本件写真8ないし14と本件記事の企画構成
a 前提事実(3)イ(ケ)のとおり、本件写真8ないし14の使用は、約3分の1頁の範囲に7枚の写真が掲載されているものであるから、通常モデル料が支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同視できるものである。
b 本件写真8ないし14は、ダイエットに関する本件記事とは直接には関係がなく、本件写真12は、振り付けとも全く関係のない写真である。
c したがって、被告が本件写真8ないし14を掲載した目的は、ピンク・レディーの写真を多数掲載することでその顧客吸引力を利用し、本件雑誌の販売による利益を得ることにあった。
(オ) 宣伝広告状況
 前提事実(2)の本件雑誌の表紙及び目次の記載並びに前提事実(5)の本件雑誌の新聞等における宣伝広告によれば、被告がピンク・レディーの顧客吸引力を利用して雑誌販売による利益を得る目的を有していたことは、明らかである。
イ 被告
(ア) まとめ
 以下に主張するとおり、本件記事は、専ら原告らの顧客吸引力に着目してその経済的利益ないし価値を利用するものとはいえないから、原告らのパブリシティ権を侵害するものではない。
(イ) 本件写真の使用状況
a 原告らの主張(イ)aは認める。
b 同bは否認する。
 楽曲のタイトルは、楽曲という著作物の一部をなすものであり、振り付けは、振付師によって創作されたものである。したがって、楽曲を歌唱し、振り付けを演じたピンク・レディーは、実演家にすぎないのであって、その楽曲のタイトルや振り付けに対して何らかの権利を有するものではない。また、楽曲のタイトルや振り付けそれ自体は、特定人の人格と一体化された象徴というべき性格を持つものではない。
c 同cは否認する。
 原告らの算定は、Cが独自に作成した解説や本件記事の解説部分までも含めているものである。
d 同dは争う。
 本件写真は、いずれも、白黒の小さな写真にすぎず、モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真などとは全く異なる利用態様である。
(ウ) 本件写真1ないし7と本件記事の企画構成
a 原告らの主張(ウ)aは否認する。
 本件写真1ないし5及び7は、各楽曲について1枚だけを用いたにすぎない。本件写真1ないし7は、小さな白黒写真にすぎず、特に顔の大きさからみると、本件写真1ないし7に肖像写真としての意味はほとんどなく、それ自体を鑑賞をするような態様の写真ではない。
b 同bは認める。
 ただし、後記dのとおりである。
c 同cは否認する。
 本件記事の価値は、昭和50年代にそれを真似ることが社会的現象となった5楽曲の振り付けを、著名なCが自ら実演しコメントを付したところにあり、ピンク・レディーの著名性により存立しているものではない。
 本件写真6も、本件記事にあるようなダイエットが有効であることを説明するためのものにすぎない。
d(a) 本件写真1ないし7は、いずれもCの実演写真より小さい。
(b) これらの写真は、ダイエットに関する本件記事の中で、参考資料として、補足的、従属的に使用されているにすぎない。
(エ) 本件写真8ないし14と本件記事の企画構成
a 原告らの主張(エ)aは争う。
 本件写真8ないし14は、いずれも白黒写真で、最も大きなものでも縦9.1cm×横5.5cmにすぎず、グラビア写真としての使用とは同視はできない。
b 同bは認める。
 前提事実(4)ア(エ)のとおり、本件写真8ないし14を使用した記事は、当時のピンク・レディーを懐かしんでもらうためのものであり、過去の芸能事象や人物評伝を扱うジャンルの芸能記事と基本的に異なるところはない。このような場合にパブリシティ権が働かないことは、明らかである。
c 同cは否認する。
(オ) 宣伝広告状況
 原告らの主張(オ)は否認する。
(2) 争点(2)(故意過失)について
ア 原告ら
(ア)a 被告は、本件記事を掲載するに当たり、事前に被告の親会社である講談社に対し、同社が発行している「ピンク・レディーフリツケ完全マスターDVD」に付属の図解写真を本件記事に使用する許諾を求めた。
b しかし、同社の担当者は、原告らの許可なしに写真を貸与することはできないとして、これを断った。
(イ) したがって、被告は、本件写真を掲載することが不法行為に当たることを十分に認識していながら、その行為を行ったものである。
イ 被告
(ア) 原告らの主張(ア)のうち、aは認め、bは否認する。同DVDの発売から2年以上経過していることなどから、その場で許諾が得られなかっただけである。
(イ) 同(イ)は否認する。
(3) 争点(3)(損害)について
ア 原告ら
(ア) 使用料相当額
a 原告らの写真の通常の使用料は、各原告につき、1枚3万円である。
b 大手出版社である被告が確信犯的に肖像パブリシティ権を侵害したことによって、従前原告らに使用料を支払ってきた他のマスコミ各社においても、今後使用料の支払を拒否することが十分に予測される。
c この点を考慮すると、原告らの被った損害額は、それぞれ、使用料相当額である42万円(3万円×14枚)の3倍である126万円を下らない。
(イ) 弁護士費用相当額
 本件訴訟の着手金等として、原告Aは、原告ら訴訟代理人竹内弁護士に対し、60万円を、原告Bは、同清弁護士及び同溝口弁護士に対し、60万円をそれぞれ支払う旨を約した。
(ウ) 合計
 以上から、原告らの損害額合計は、それぞれ186万円である。
イ 被告
(ア) 使用料相当額
 原告らの主張(ア)のうち、aは不知、その余は否認する。
(イ) 弁護士費用相当額
 同(イ)は知らない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(パブリシティ権侵害の有無)について
(1) パブリシティ権について
ア 人は、著名人であるか否かにかかわらず、人格権の一部として、自己の氏名、肖像を他人に冒用されない権利を有する。人の氏名や肖像は、商品の販売において有益な効果、すなわち顧客吸引力を有し、財産的価値を有することがある。このことは、芸能人等の著名人の場合に顕著である。この財産的価値を冒用されない権利は、パブリシティ権と呼ばれることがある。
 他方、芸能人等の仕事を選択した者は、芸能人等としての活動やそれに関連する事項が大衆の正当な関心事となり、雑誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって批判、論評、紹介等の対象となることや、そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にある。そして、そのような紹介記事等に、必然的に当該芸能人等の顧客吸引力が反映することがあるが、それらの影響を紹介記事等から遮断することは困難であることがある。
 以上の点を考慮すると、芸能人等の氏名、肖像の使用行為がそのパブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは、その使用行為の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断すべきである。
イ なお、原告らも被告も、通常モデル料が支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用と同視できる程度のものか否かの基準に言及するが、この基準ないし説明は、東京地裁平成16年7月14日判決(判例タイムズ1180号232頁〔ブブカアイドル第一次事件〕)の事実関係の下では適切なものであるとしても、他の事実関係の事件にそのまま適用することができるものではないことに注意を要する。
(2) 本件写真1ないし7について
 本件雑誌及びその表紙の態様(前提事実(2))、本件記事及び本件写真の掲載態様(前提事実(3))、本件記事掲載の経緯(前提事実(4))及び本件雑誌の宣伝広告状況(前提事実(5))によれば、@ピンク・レディーが歌唱し演じた楽曲の振り付けを利用してダイエットを行うという女性雑誌中の記事において、その振り付けの説明の一部又は読者に振り付け等を思い出させる一助として、本件写真1ないし5及び7を使用し、さらに、ダイエットの目標を実感させるために、本件写真6を使用したものであり、A使用の程度は、1楽曲につき1枚のさほど大きくはない白黒写真であり、BCの実演写真、Cのひとことアドバイス、4コマの図解解説など振り付けを実質的に説明する部分が各楽曲の説明の約3分の2を占め、本件写真2ないし5及び7は、各楽曲についての誌面の3分の1程度にとどまり、Cその宣伝広告や表紙の見出しや目次においても、殊更原告らの肖像を強調しているものではない。
 したがって、本件写真1ないし7の使用により、必然的に原告らの顧客吸引力が本件記事に反映することがあったとしても、それらの使用が原告らの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としたものと認めることはできない。
(3) 本件写真8ないし14について
 本件雑誌及びその表紙の態様(前提事実(2))、本件記事及び本件写真の掲載態様(前提事実(3))、本件記事掲載の経緯(前提事実(4))及び本件雑誌の宣伝広告状況(前提事実(5))によれば、@本件写真8ないし14を使用した記事は、ピンク・レディーが歌唱し演じた楽曲の振り付けを利用してダイエットを行うという記事に付随して、現在も芸能活動を続ける原告らの過去の芸能活動を紹介する記事であり、A誌面1頁の約3分の1の中に、原告らが撮影されたさほど大きくはない白黒写真7枚を掲載し、Bその宣伝広告や表紙の見出し及び目次においても、殊更原告らの肖像を強調しているものではない。
 したがって、本件写真8ないし14の使用により、必然的に原告らの顧客吸引力が本件記事に反映することがあったとしても、それらの使用が原告らの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としたものと認めることはできない。
2 結論
 よって、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 中村恭
 裁判官 宮崎雅子
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