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【事件名】断熱建材の不正競争事件
【年月日】平成20年6月26日
 東京地裁 平成19年(ワ)第17832号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年5月16日)

判決
原告 株式会社佐武
訴訟代理人弁護士 斎藤利幸
同 前澤智子
被告 A
被告 近代ホーム株式会社
被告 株式会社せらら工房
上記被告3名訴訟代理人弁護士 一色秀夫
同訴訟復代理人弁護士 杉原光昭
被告 ウイッシュホーム株式会社
訴訟代理人弁護士 岩井重一
同 安田隆彦
同 平澤慎一
同 小林真
同 阿久津真也
同 高橋隆二


主文
1 被告Aは、原告に対し、20万円を支払え。
2 被告株式会社せらら工房は、原告に対し、10万円を支払え。
3 原告の被告Aに対するその余の請求、被告近代ホーム株式会社に対する請求、被告株式会社せらら工房に対する主位的請求及びその余の予備的請求、被告ウイッシュホーム株式会社に対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の100分の5と被告Aに生じた費用との合計の10分の1を同被告の、10分の9を原告の各負担とし、原告に生じた費用の10分の1と被告株式会社せらら工房に生じた費用との合計の100分の1を同被告の、100分の99を原告の各負担とし、原告に生じたその余の費用並びに被告近代ホーム株式会社及び被告ウイッシュホーム株式会社に生じた費用については、全部原告の負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1(1) 被告Aは、別紙書籍目録記載の書籍を増刷し、販売又は頒布をしてはならない。
(2) 被告Aは、別紙書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
(3) 被告Aは、原告に対し、200万円を支払え。
2 被告近代ホーム株式会社は、原告に対し、9032万円及びこれに対する平成19年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3(1) 主位的請求
 被告株式会社せらら工房は、原告に対し、1003万円及びこれに対する平成19年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
 被告株式会社せらら工房は、原告に対し、200万円を支払え。
4(1) 主位的請求
 被告ウイッシュホーム株式会社は、原告に対し、1003万円及びこれに対する平成19年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
 被告ウイッシュホーム株式会社は、原告に対し、200万円を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、原告の商品又は営業の表示(以下「商品等表示」という。)として周知であり、かつ、著作権を有する写真及び図面を、被告らが書籍、ホームページに掲載した行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当し、また、原告の著作権(著作財産権のうちの複製権、著作者人格権)を侵害すると主張し、被告A(以下「被告A」という。)に対し、不正競争防止法又は著作権法に基づく書籍の増刷等の差止め及び廃棄並びに著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を、被告近代ホーム株式会社(以下「被告近代ホーム」という。)に対し、不正競争防止法に基づく損害賠償を、被告株式会社せらら工房(以下「被告せらら工房」という。)及び被告ウイッシュホーム株式会社(以下「被告ウイッシュホーム」という。)に対し、それぞれ主位的に不正競争防止法に基づく損害賠償を、予備的に著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2 前提事実(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実である。)
(1)ア 原告は、住環境改善のアイテムの研究、開発、販売を業とする株式会社である。
イ 被告近代ホーム及び被告せらら工房は、いずれも木造建築工事を業とする株式会社である。
 被告Aは、被告近代ホームの代表取締役及び被告せらら工房の代表取締役である。
ウ 被告ウイッシュホームは、建築工事の設計施工等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告は、平成15年4月24日、米国法人であるリフレクティックス社(Reflectix,Inc.)との間で、同社が製造販売する遮熱材等の製品(以下「リフレクティックス製品」という。)について、原告が同年5月1日から日本における独占販売権を取得する旨の独占販売契約を締結し、以後、日本における同社の総代理店となった(甲2の1、甲29、弁論の全趣旨)。
(3)ア 別紙写真1記載の写真(以下「本件写真1」という。)は、原告代表者が米国インディアナ州所在のリフレクティックス社の工場内を撮影したものである(甲29)。
イ 別紙写真2−1記載の写真(以下「本件写真2−1」という。)は、リフレクティックス製品である遮熱材を、別紙写真2−2記載の写真部分(以下「本件写真2−2」という。)は、同遮熱材とリフレクティックス製品である絶縁テープを撮影したものである(弁論の全趣旨)。
ウ 別紙図面1記載の図面(以下「本件図面」という。)は、リフレクティックス製品である遮熱材の構造(7層の積層構造)を図示したものである(弁論の全趣旨)。
(4)ア 別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)は、被告Aが執筆し、株式会社エール出版社(以下「エール出版社」という。)が発行した(甲1、乙10)。
 本件書籍(甲1)の4頁には、本件写真1及び本件写真2−1が掲載され、本件写真1の説明として「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との記載が、本件写真2−1の説明として「スーパー遮熱断熱シート」との記載がある。
 また、本件書籍の132頁には、本件写真2−1が掲載され、その説明として「スーパー遮熱シート」との記載がある。
イ 被告せらら工房は、平成19年2月6日当時、同被告のホームページ(「・省略・」)に、本件写真1を掲載し、「屋根からの熱もシャットアウト」との見出しの下に、「米国インディアナ州のリフレクティクス社では、壁、天井にスーパー遮熱断熱シート(SSS)を施工しています。この工場では、真夏の外気温38.5℃でもエアコンを使わないで快適に作業しています。室内に熱源のある工場のみ小型エアコンが1台動いています。」との文章を掲載していた(甲12)。その後、被告せらら工房は、平成20年3月28日までに、上記ホームページから本件写真1及び上記文章を削除した(乙8、9)。
ウ 被告ウイッシュホームは、平成19年4月5日(本訴提起の日)当時、同被告のホームページ(「・省略・」)に、本件写真2−2及び本件図面を掲載し、本件写真2−2のうち遮熱材の説明として「■商品名/ウルトラフォイル ■サイズ/7.93o×1、220o×38m ■荷姿/600φ×1、220w ■重量/14.1s/ROLL」と、本件写真2−2のうち絶縁テープの説明として「リフレクティックス専用絶縁テープ」と、本件図面の説明として「ウルトラフォイル構造(7層)」と掲載していた(甲13)。その後、被告ウイッシュホームは、同年10月23日までに、上記ホームページから本件写真2−2及び本件図面(上記各説明を含む。)を削除した(丙1)。
エ 被告近代ホームは、平成19年2月6日当時から、同被告のホームページ(「・省略・」)に本件書籍の「表表紙」の写真を掲載している(甲11)。
第3 当事者の主張
1 被告Aに対する請求関係
(1) 原告の主張
ア 周知の商品等表示該当性
(ア) 熱移動の比率は、伝導熱5%、対流熱20%、輻射熱75%であるため、夏の暑さの中でも涼しく過ごせる快適な住環境を実現するには、輻射熱を阻止することが必要不可欠である。しかし、我が国の住宅建築業界では、輻射熱阻止による「遮熱」という考えが乏しく、その対策は皆無であった。
 原告は、輻射熱をはじき返すリフレクティックス製品に着目し、前記第2の2(2)のとおり、リフレクティックス社から日本におけるリフレクティックス製品の独占販売権を取得した後、「外気温38.5℃でもエアコン不要の工場」のキャッチフレーズとともに本件写真1を掲載した、リフレクティックス製品のパンフレット(甲4の1、2、甲5の1、2)を作成して頒布した。
 また、原告は、自社のホームページ(甲3)上に、同様に、本件写真1を掲載して、リフレクティックス製品の宣伝広告をした。
 さらに、原告は、@本件写真2−2及び本件図面を掲載し、かつ、A本件写真2−2のうち遮熱材の説明として「■商品名/リフレクティックス ■サイズ/7.93o×1、220o×38m ■荷姿/600φ×1、220w ■重量/14.1s/ROLL」、本件写真2−2のうち絶縁テープの説明として「リフレクティックス専用絶縁テープ」、本件図面の説明として「リフレクティックス構造(7層)」と記載した、リフレクティックス製品のパンフレット(甲4の2、甲5の2)を作成して頒布した。
(イ) 原告は、月に1、2回、工務店に対し、輻射熱や遮熱シートについての講習、リフレクティックス製品の正しい使用法(工法)を広める一泊研修を行い、また、研修終了者との間で、リフレクティックス製品の代理店契約を締結した。原告は、その講習、研修の際に、本件写真1、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面(以下、これらを総称して「本件写真等」という。)を使用し続けた。
 現在では、上記一泊研修の受講社数は2000社に及び、原告の代理店は67社、原告が認めた中小企業は400社に至っている。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の結果、輻射熱対策、「遮熱」という概念が意識されるようになるとともに、「遮熱」のための素材であるリフレクティックス製品は、日本国内において徐々に知名度や信頼性が高まり、現在では、需要者である業者の間において、本件写真等は、原告の販売する商品であるリフレクティックス製品を表示するもの、又は原告の営業を表示するものとして、広く認識されるに至った。
 したがって、本件写真等は、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)として、周知である。
イ 著作物性・著作権の帰属
(ア) 本件写真1について
a 原告代表者は、平成14年8月、米国インディアナ州所在のリフレクティックス社を訪問し、同社の工場を見学した。原告代表者は、その際、天井にリフレクティックス製品を使用した同工場においては、外気温38.5℃であってもエアコンを使用せずに、快適な作業環境が保たれていることを認識した。そこで、原告代表者は、上記状況を表現するために、リフレクティックス社から特別の許可を得て、同工場内を撮影し、本件写真1を作成した。
 原告代表者は、その撮影の際、通常であれば設置されてしかるべき箇所にエアコンが存在しないことを示すために、極めて広いアングルを選択し、また、天井及び側面(壁面)の全面にリフレクティックス製品が張り巡らされている状態が一目で分かるように、天井等を3分の2以上の画面配置とした。また、原告代表者は、涼しげな工場内部を表現するためにストロボは使用せず、ブルー系の室内ライトをそのまま利用した。
 このように本件写真1においては、被写体の組合せ・配置、構図・カメラアングル、光線・陰影、背景等に独自性が表れており、著作物性が認められる。
b 原告代表者は、原告の発意に基づき、リフレクティックス社を訪問した際に職務上本件写真1を撮影したこと、原告は、原告名義のホームページ(甲3)及びパンフレット(甲4の1、2、甲5の1、2)上に本件写真1を掲載して公表したことによれば、本件写真1は、原告の職務著作に該当し(著作権法15条1項)、その著作者は原告である。
(イ) 本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面
a 本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面は、いずれもリフレクティックス社が作成した著作物である。
b 原告は、リフレクティックス社の日本における総代理店(総輸入元)となり、リフレクティックス社から、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面の各著作権のうち、日本国内における複製権の譲渡を受けた。
 したがって、原告は、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面についての日本国内における複製権を有している。
ウ 被告Aによる不正競争・著作権侵害
(ア) 被告Aは、本件書籍に、本件写真1及び本件写真2−1を掲載し、「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との説明を加えることにより、本件写真1及び本件写真2−1を、被告Aが代表取締役を務める被告近代ホーム及び被告せらら工房の商品である遮熱シート「SSS」等を表示するものとして使用し、原告のリフレクティックス製品と上記遮熱シート「SSS」等の商品との混同を生じさせている。
 したがって、被告Aの上記行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。
(イ)a 被告Aは、前記(ア)のとおり、本件書籍に本件写真1及び本件写真2−1を掲載し、本件写真1及び本件写真2−1についての原告の複製権を侵害した。
b 被告Aは、前記(ア)のとおり、本件書籍に本件写真1及び本件写真2−1を掲載するに際し、原告が本件写真1及び本件写真2−1の著作者であることを表示せず、本件書籍をエール出版社によって発行させることにより公衆へ提供し、これにより本件写真1及び本件写真2−1についての原告の氏名表示権を侵害した。
c 被告Aは、前記(ア)のとおり、本件書籍に、本件写真1及び本件写真2−1を掲載し、「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との説明を加えたが、本件写真1はリフレクティックス製品を使用した工場内の写真であって、「SSS」の施工工場ではなく、上記説明は虚偽の説明であるから、本件写真1及び本件写真2−1についての原告の同一性保持権を侵害した。
エ 被告Aに対する差止請求の根拠及び必要性
(ア)a 被告Aは、前記ウ(ア)及び(イ)aのとおり、不正競争防止法2条1項1号の不正競争を行い、本件写真1及び本件写真2−1についての原告の複製権を侵害した。
b 本件書籍を発行したのは、エール出版社である。しかし、被告Aとエール出版社は、被告Aの執筆による本を発行するとの企画の下に、被告Aにおいて本件書籍を執筆し、エール出版社において本件書籍を発行したのであるから、被告Aは、本件写真1及び本件写真2−1が掲載された本件書籍の増刷、販売又は頒布による本件写真1及び本件写真2−1の著作権侵害につき、エール出版社と共同不法行為責任を負うというべきである。
(イ) 本件書籍は、現在も販売、頒布されており、今後も本件書籍の増刷、販売又は頒布のおそれがあるから、上記増刷等の差止めの必要があり、また、侵害の停止又は予防に必要な措置として本件書籍の廃棄が必要である。
(ウ) したがって、原告は、被告Aに対し、不正競争防止法3条1項、2項又は著作権法112条1項、2項に基づき、本件書籍の増刷、販売又は頒布の差止め及び未販売の本件書籍の廃棄を求めることができる。
オ 原告の損害額
 前記ウ(イ)b、cのとおり、被告Aが本件写真1及び本件写真2−1についての原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したことにより、原告は、精神的損害を被った。原告の精神的損害に対する慰謝料は、200万円が相当である。
カ 小括
 よって、原告は、被告Aに対し、不正競争防止法又は著作権法に基づき、本件書籍の増刷、販売又は頒布の差止め及び本件書籍の廃棄を求めるとともに、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償として200万円の支払を求める。
(2) 被告Aの反論
ア 不正競争の主張に対し
(ア) 被告Aは、原告が「遮熱」の概念に着目する前である平成13年までに、独自に「遮熱」に関する研究を進め、同年12月15日発行の著書「外断熱住宅はもう古い」(乙5)において、「遮熱」の概念の記述と遮熱パット商品(商品名・「ウルトラ遮熱パット」)の紹介を行った。また、被告Aが代表取締役を務める被告近代ホーム及び被告せらら工房は、カナダ国の商社であるCANADA@HOME社(Canada@Home Inc.)から、リフレクティックス社製の真正商品である断熱材を仕入れ、遅くとも同年7月から、当該商品に「スーパー遮熱断熱材シート」あるいは、その略称である「SSS」の商品名を付して、顧客のために当該商品を用いた施工を行っている。
 したがって、原告が「遮熱」の概念に着目する前に、「遮熱」という考えが乏しく、その対策は皆無であったとはいえない。
(イ) 本件写真1及び本件写真2−1は、いずれも写真としての印象が極めて平凡であり、写真だけを見ても、その被写体が何であるのか不明である。また、本件写真1及び本件写真2−1自体にリフレクティックス製品との具体的関連を示すような独特の工夫が凝らされているわけではなく、本件写真1又は本件写真2−1がリフレクティックス製品に付されているわけでもない。
 このように本件写真1及び本件写真2−1は、これを見る者にとって、リフレクティックス製品という商品を他の商品の出所から区別して認識せしめるに足りる要素が全く含まれておらず、自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するに足りる表示とはいえないから、商品等表示に該当しない。
 また、リフレクティックスの名称や商品自体、日本において広く知られたものでもない。
(ウ) 原告は、単に流通業者として商品(リフレクティックス製品)の流通に関与しているだけであるから、不正競争防止法2条1項1号により保護されるべき主体には当たらない。
(エ) 以上によれば、原告主張の被告Aの行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しない。
イ 著作権侵害の主張に対し
(ア) 前記ア(イ)のとおり、本件写真1及び本件写真2−1が与える印象はいずれも極めて平凡であり、写真だけを見ても、その被写体が何であるのか理解し難いことなどからすると、本件写真1及び本件写真2−1を得るための撮影意図、撮影方法につき独自の創意工夫があったとは到底いえず、結果として得られた写真自体に表現の個性や独自性はない。
 また、本件写真1は、工場内において撮影者がカメラのシャッターを押せば、工場内のどの地点であろうとも、ほとんどの写真が本件写真1のアングル、画面配置になったと思われる程度の平凡なアングル、画面配置にすぎず、アングル、画面配置の点において独自性は認められない。原告が主張する「涼しげな工場内部を表現するためにストロボは使用せず、ブルー系の室内ライトをそのまま利用した」という点についても、要は、光線・陰影等の調整を何ら行わなかったというにすぎない。
 したがって、本件写真1及び本件写真2−1には、著作物性が認められない。
(イ)a 原告は、本件写真1は原告代表者が職務上作成した職務著作であるから、本件写真1の著作者は原告であると主張する。しかし、仮に本件写真1を撮影したのが原告代表者であったとしても、原告代表者が写真の撮影を自らの職務としていたとは考えられず、本件写真1は、原告代表者が職務を遂行している過程において、職務との関連で作成されたものにすぎないから、「職務上作成する」(著作権法15条1項)との要件を満たしていない。
 また、本件写真1が掲載された、原告のパンフレット(甲4の1、2、甲5の1、2)には、本件写真1について著作者としての原告の表示がないから、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」(著作権法15条1項)との要件も満たしていない。
 したがって、本件写真1が原告の職務著作であるとの原告の主張は失当である。
b 本件写真2−1がリフレクティックス社が作成した著作物であることは不知であり、また、原告がリフレクティックス社から本件写真2−1の著作権(複製権)の譲渡を受けた事実は否認する。
(ウ) 以上のとおり、本件写真1及び本件写真2−1に著作物性は認められず、また、原告が本件写真1及び本件写真2−1の著作権を有するといえないから、被告Aによる本件写真1及び本件写真2−1の著作権侵害をいう原告の主張は理由がない。
ウ 差止請求の根拠及び必要性の主張に対し
(ア) 本件書籍は、エール出版社が発行したものであって、被告Aが発行したものではない。
 エール出版社は、本件書籍に掲載された本件写真1及び本件写真2−1について、本件書籍の増刷分から削除することを表明しており(乙10)、今後本件写真1及び本件写真2−1を使用して本件書籍を増刷することはない。また、今後、被告A自ら又はエール出版社以外の出版社が、本件写真1及び本件写真2−1を使用して本件書籍を増刷することもない。
 また、仮に原告主張の被告Aによる本件写真1及び本件写真2−1の著作権侵害が認められるとしても、当該写真部分についてのみ削除すれば足り、本件書籍全部の増刷等の差止め及び廃棄の必要性はない。
(イ) したがって、原告の被告Aに対する本件書籍の増刷等の差止請求及び廃棄請求は理由がない。
エ まとめ
 以上のとおり、原告の被告Aに対する請求は、いずれも理由がない。
2 被告近代ホームに対する請求関係
(1) 原告の主張
ア 被告近代ホームによる不正競争
(ア) 前記1(1)アのとおり、本件写真1及び本件写真2−1は、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)として周知である。
(イ) 前記1(1)ウ(ア)のとおり、本件書籍には、本件写真1及び本件写真2−1が掲載され、「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との説明が加えられていることにより、本件写真1及び本件写真2−1は、被告Aが代表取締役を務める被告近代ホーム及び被告せらら工房の商品である遮熱シート「SSS」等を表示するものとして使用され、原告のリフレクティックス製品と上記遮熱シート「SSS」等の商品との混同を生じさせている。
(ウ) 被告近代ホームは、平成19年2月6日当時から、同被告のホームページ(「・省略・」)に、本件書籍の「表表紙」の写真を掲載するとともに、被告近代ホームの販売する住宅建築物が本件書籍に詳しく説明されていることを前提として「本当の高気密・高断熱住宅他は何か、迷われたときに読んでいただきたい1冊です。」などと紹介している。このように被告近代ホームは、被告Aと意を通じて、自社のホームページで本件書籍を積極的に宣伝利用することにより、原告の商品であるリフレクティックス製品と被告近代ホームの商品との混同を生じさせている。
(エ) 以上によれば、被告近代ホームの上記行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。
イ 原告の損害額
 被告近代ホームによる前記アの不正競争により、原告が被った損害は、9032万円(下記(ア)及び(イ)の合計額)を下らない。
(ア) 財産的損害及び信用毀損による損害 8211万円
(イ) 弁護士費用 821万円
ウ 小括 よって、原告は、被告近代ホームに対し、不正競争防止法4条に基づ
く損害賠償として9032万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告近代ホームの反論
ア 不正競争の主張に対し
(ア) 前記1(2)ア(ア)ないし(ウ)と同旨である。
(イ) また、被告近代ホームが自社のホームページに被告Aの著書である本件書籍の「表表紙」を掲載したことが本件書籍を宣伝したことになったとしても、「表表紙」には本件写真1及び本件写真2−1が掲載されていないから、被告近代ホームが本件写真1及び本件写真2−1を自社の商品又は営業の表示として使用したことにならないことは明らかである。
(ウ) したがって、原告主張の被告近代ホームの行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しない。
イ まとめ
 以上のとおり、原告の被告近代ホームに対する不正競争防止法に基づく請求は、理由がない。
3 被告せらら工房に対する請求関係
(1) 原告の主張
ア 被告せらら工房による不正競争・著作者人格権侵害
(ア) 前記1(1)アのとおり、本件写真1は、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)として周知であり、また、前記1(1)イ(ア)のとおり、本件写真1は、原告を著作者とする著作物である。
(イ) 被告せらら工房は、平成19年2月6日当時から、同被告のホームページ(「・省略・」)に、本件写真1を掲載し、「屋根からの熱もシャットアウト」との見出しの下に、「米国インディアナ州のリフレクティクス社では、壁、天井にスーパー遮熱断熱シート(SSS)を施工しています。この工場では、真夏の外気温38.5℃でもエアコンを使わないで快適に作業しています。室内に熱源のある工場のみ小型エアコンが1台動いています。」との説明を加えることにより、本件写真1を、被告Aが代表取締役を務める被告近代ホーム及び被告せらら工房の商品である遮熱シート「SSS」等を表示するものとして使用し、原告のリフレクティックス製品と上記遮熱シート「SSS」等の商品との混同を生じさせた。
 したがって、被告せらら工房の上記行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。
(ウ) 仮に被告せらら工房の上記行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないとしても、被告せらら工房は、以下のとおり本件写真1についての原告の著作者人格権を侵害した。
a 被告せらら工房は、同被告のホームページに本件写真1を掲載するに際し、原告が本件写真1の著作者であることを表示せずに公衆へ提供し、これにより本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害した。
b 被告せらら工房は、同被告のホームページに、本件写真1を掲載し、「米国インディアナ州のリフレクティクス社では、壁、天井にスーパー遮熱断熱シート(SSS)を施工しています。」との説明を加えたが、本件写真1はリフレクティックス製品を使用したリフレクティックス社の工場内の写真であって、同工場には「スーパー遮熱断熱シート(SSS)」が施工されておらず、上記説明は虚偽の説明であるから、本件写真1についての原告の同一性保持権を侵害した。
イ 原告の損害額
(ア) 主位的請求関係
 被告せらら工房による前記ア(イ)の不正競争により、原告が被った損害は、1003万円(下記a及びbの合計額)を下らない。
a 財産的損害及び信用毀損による損害 912万円
b 弁護士費用 91万円
(イ) 予備的請求関係
 前記ア(ウ)のとおり、被告せらら工房が本件写真1についての原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したことにより、原告は、精神的損害を被った。原告の精神的損害に対する慰謝料は、200万円が相当である。
ウ 小括
 よって、原告は、被告せらら工房に対し、主位的に、不正競争防止法4条に基づく損害賠償として1003万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償として200万円の支払を求める。
(2) 被告せらら工房の反論
ア 主位的請求に対し
(ア) 前記1(2)ア(ア)ないし(ウ)と同旨である。
(イ) したがって、原告主張の被告せらら工房の行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しない。
イ 予備的請求に対し
(ア) 前記1(2)イ(ア)及び(イ)aと同旨である。
(イ) したがって、被告せらら工房による本件写真1の著作者人格権侵害をいう原告の主張は理由がない。
ウ まとめ
 以上のとおり、原告の被告せらら工房に対する主位的請求及び予備的請求は、いずれも理由がない。
4 被告ウイッシュホームに対する請求関係
(1) 原告の主張
ア 被告ウイッシュホームによる不正競争・著作者人格権侵害
(ア) 前記1(1)アのとおり、本件写真2−2及び本件図面は、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)として周知であり、また、前記1(1)イ(イ)のとおり、原告は、リフレクティックス社から、本件写真2−2及び本件図面の各著作権のうち、日本国内における複製権の譲渡を受けた。
(イ) 被告ウイッシュホームは、平成19年4月5日当時から、同被告のホームページ(「・省略・」)に、本件写真2−2及び本件図面を掲載し、本件写真2−2のうち遮熱材について「■商品名/ウルトラフォイル ■サイズ/7.93o×1、220o×38m ■荷姿/600φ×1、220w ■重量/14.1s/ROLL」と、本件写真2−2のうち絶縁テープについて「リフレクティックス専用絶縁テープ」と、本件図面について「ウルトラフォイル構造(7層)」との説明を加えることにより、本件写真2−2及び本件図面を、被告ウイッシュホームの商品である「ウルトラフォイル」等を表示するものとして使用し、原告のリフレクティックス製品と上記「ウルトラフォイル」等の商品との混同を生じさせた。
 したがって、被告ウイッシュホームの上記行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。
(ウ) 仮に被告ウイッシュホームの上記行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないとしても、被告ウイッシュホームは、本件写真2−2及び本件図面についての原告の著作者人格権を侵害した。
 すなわち、被告ウイッシュホームは、同被告のホームページに本件写真2−2及び本件図面を掲載して公衆へ提供するに際し、原告が本件写真2−2及び本件図面の著作者であることを表示しなかったことにより、本件写真2−2及び本件図面についての原告の氏名表示権を侵害し、また、本件写真2−2及び本件図面についての原告の同一性保持権を侵害した。
イ 原告の損害額
(ア) 主位的請求関係
 被告ウイッシュホームによる前記ア(イ)の不正競争により、原告が被った損害は、1003万円(下記a及びbの合計額)を下らない。
a 財産的損害及信用毀損による損害 912万円
b 弁護士費用 91万円
(イ) 予備的請求関係
 前記ア(ウ)のとおり、被告ウイッシュホームが本件写真2−2及び本件図面についての原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したことにより、原告は、精神的損害を被った。原告の精神的損害に対する慰謝料は、200万円が相当である。
ウ 小括
 よって、原告は、被告ウイッシュホームに対し、主位的に、不正競争防止法4条に基づく損害賠償として1003万円及びこれに対する「原告準備書面2」送達の日の翌日である平成19年9月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償として200万円の支払を求める。
(2) 被告ウイッシュホームの反論
ア 主位的請求に対し
(ア) 被告ウイッシュホームは、CANADA@HOME社から、リフレクティックス社製の真正商品である壁用断熱材及び床用断熱材を輸入した。このうち、床用断熱材には、CANADA@HOME社が独自に付したブランドである「ULTRA フォイル」の商品名が付されていた。被告ウイッシュホームは、上記床用断熱材を「ULTRA フォイル」の商品名で販売した。
 なお、リフレクティックス社が製造する断熱材は、アメリカ宇宙局NASAが有する特許権のライセンスを受けた約5社が製造・販売している同一又は同種の製品の一つにすぎない。他社が製造した同種の製品も広く流通しており、日本にも輸入されている。
(イ)a 本件写真2−2は、原告が販売する商品又はその付属品の外観を普通の方法で撮影した写真であり、本件図面は、その商品の図面である。原告は、原告のパンフレット(甲4の2、甲5の2)上に、本件写真2−2及び本件図面を上記商品の外観又は性能等の説明を示すために使用しているが、商品の出所表示を示す態様で使用しているものではなく、本件写真2−2及び本件図面は、商品出所識別力を有していないから、そもそも商品等表示に該当しない。また、仮に本件写真2−2及び本件図面が商品等表示に該当するとしても、それは製造元のリフレクティックス社を表示するものであって、原告の商品又は営業を表示するものではない。原告がリフレクティックス製品の輸入代理店であっても、単に流通業者として商品の流通に関与したにすぎないから、商品等表示に化体された保護主体たり得ない。
b そして、上記(ア)のとおりリフレクティックス社製の真正商品を取り扱っている被告ウイッシュホームが、自社のホームページ上に本件写真2−2及び本件図面を使用したからといって、原告の商品等表示を使用したことにはならず、原告の商品又は営業と混同を生じさせるものでもない。
c さらに、リフレクティックスの名称及びリフレクティックス社製の商品は、日本で広く知られたものではなく、本件写真2−2及び本件図面も、需要者の間で広く認識されているものでもない。
(ウ) したがって、原告主張の被告ウイッシュホームの行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しない。
イ 予備的請求に対し
(ア) 本件写真2−2及び本件図面は、表現の創作性を有せず、著作物に該当しない。
(イ) 原告が本件写真2−2及び本件図面の著作者人格権を有するとの主張は争う。
(ウ) したがって、被告ウイッシュホームによる本件写真2−2及び本件図面の著作者人格権侵害をいう原告の主張は理由がない。
ウ まとめ
 以上のとおり、原告の被告ウイッシュホームに対する主位的請求及び予備的請求は、いずれも理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 被告Aに対する請求について
(1) 不正競争の成否
ア 周知の商品等表示該当性について
 原告は、本件写真1及び本件写真2−1は、原告の販売する商品であるリフレクティックス製品の表示又は原告の営業の表示として、広く認識されているから、原告の商品等表示として周知である旨主張する。
(ア) 前記第2の2の前提事実と証拠(甲2ないし10、24、29(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
a 原告代表者は、米国法人であるリフレクティックス社が製造販売する遮熱材であるリフレクティックス製品に着目し、原告の事業として、これを日本に輸入して販売することを企画し、平成14年8月、米国インディアナ州所在のリフレクティックス社を訪問し、同社の工場を見学した。原告代表者は、その際、リフレクティックス社の社長及び工場長から、天井及び壁の全面をリフレクティックス製品で覆うように遮熱施工した同工場においては、外気温38.5℃であってもエアコンを使用していない旨の説明を受けた。
 そこで、原告代表者は、リフレクティックス社から撮影の許可を得て、上記工場内を写真撮影した。その際、原告代表者は、同工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されている状況並びに工場内にエアコンが設置されていない状況などを表現するために、天井、左側壁面及び前方奥の壁面を主な被写体として、これらを写真全体の3分の2程度に大きく取り入れた構図とし、低いアングルから工場内全体を撮影し、本件写真1を作成した。
b その後、原告は、平成15年4月24日、リフレクティックス社との間でリフレクティックス製品について独占販売契約を締結し、日本における同社の総代理店(総輸入元)となった。
c 原告は、平成16年2月ころ、「リフレクティックス〜断熱から遮熱の時代〜」などと題したリフレクティックス製品のパンフレット(甲4の1)及び「外気38.5℃でもエアコン不要の建物を実現!」、「宇宙産業から生まれた」、「リフレクティックス」などと題したリフレクティックス製品のパンフレット(甲4の2)を作成した。
 上記パンフレット(甲4の1)には、「外気温38.5℃でもエアコン不要の工場」、「米国インディアナ州の夏の暑さは半端でありません。我々がリフレクティックス社工場で体験した事は、外気温38.5℃、湿度60%、でもエアコン不要の工場でした。」との説明とともに、本件写真1が掲載されており、同パンフレットの末葉には「総輸入元 株式会社 佐 武 環境マテリアル研究所」との記載がある。
 上記パンフレット(甲4の2)には、「外気温38.5℃でもエアコン不要の工場!」、「米国インディアナ州のリフレクティックス社では、壁、天井にリフレクティックス断熱材を施工しています。この工場では、真夏日の外気温38.5℃でもエアコンを使用しないで快適に作業しています。室内に熱源のある工場のみ小型エアコン1台が動いていました。」との説明とともに、本件写真1が掲載されており、同パンフレットの表紙には「総輸入元/株式会社 佐 武」、同パンフレットの末葉には「株式会社 佐 武」との記載がある。また、上記パンフレット(甲4の2)には、「超薄型高断熱のリフレクティックス」との見出しの下に、本件図面及び本件写真2−2が掲載され、本件図面の説明として「リフレクティックス構造(7層)」、本件写真2−2のうち遮熱材の説明として「■商品名/リフレクティックス ■サイズ/7.93o×1、220o×38m ■荷姿/600φ×1、220w ■重量/14.1s/ROLL」、本件写真2−2のうち絶縁テープの説明として「リフレクティックス専用絶縁テープ」と記載されている。
 その後、原告は、上記各パンフレット(甲4の1、2)を改訂したリフレクティックス製品のパンフレット(甲5の1、2)を作成したが、改訂後の各パンフレットにおいても、上記の説明部分の語句を一部訂正したほかは、上記とほぼ同様の態様で、本件写真1、本件図面及び本件写真2−2が掲載されている。
 原告は、上記各パンフレット(甲4の1、2、甲5の1、2)を使用してリフレクティックス製品の宣伝を行った。
d 原告は、自社のホームページ(「・省略・」)に、「外気温38.5℃でもエアコン不要の工場!」、「米国インディアナ州のリフレクティックス社では、壁、天井にリフレクティックス遮熱材を施工しています。この工場では、真夏日の外気温38.5℃でもエアコンを使用しないで快適に作業しています。室内に熱源のある工場のみ小型エアコン1台が動いていました。」との説明とともに本件写真1を掲載している。同ホームページには、「株式会社 佐 武」、「Copyright(c)2004-2007 Satake Corporation All Rights Reserved」との表示がある。
 また、社団法人日本建築士連合会が平成18年11月1日に発行した「建築士」(VOL.55 NO.650)の誌上に掲載された原告の広告記事には、本件図面が掲載されている(甲9の17)。
e 原告は、リフレクティックス製品の販売促進のため、工務店に対する講習や一泊研修を行い、その講習、研修の際に、本件写真等を使用した。また、原告は、研修終了者との間で、リフレクティックス製品の代理店契約を締結し、原告の代理店は80社以上となっている。
f なお、原告は、原告が販売するリフレクティックス製品に本件写真等を付して使用していない。
(イ) 以上の認定事実を前提に検討する。
 まず、@本件写真1は、リフレクティックス社の工場内を撮影した写真であるが(前記(ア)a)、本件写真1そのものからは、リフレクティックス社の工場内の写真であること並びに同工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されていることを確認することはできないこと、A原告のホームページ(甲3)及びパンフレット(甲4の1、2、甲5の1、2)に掲載された本件写真1については、各説明文(前記(ア)c、d)と相まってはじめて、リフレクティックス製品が天井等に使用されたリフレクティックス社の工場内の写真であることを理解することができるにとどまること、B原告は、リフレクティックス製品に本件写真1を付して使用しているわけではないこと(前記(ア)f)に照らすならば、本件写真1は、リフレクティックス製品を他の者の商品から識別する表示として認識されるものではなく、また、同様に、本件写真1は、リフレクティックス製品の販売等を行う営業主体を識別する表示として認識されるものでもないから、本件写真1は、原告の商品等表示に該当しない。
 次に、本件写真2−1(本件写真2−2の一部である遮熱材部分)は、「■商品名/リフレクティックス ■サイズ/7.93o×1、220o×38m ■荷姿/600φ×1、220w ■重量/14.1s/ROLL」の説明とともに、原告のパンフレット(甲4の2、甲5の2)に掲載されているが(前記(ア)c)、同掲載箇所には、「■リフレクティックス物性」の表、「■リフレクティックスの特徴」の表も併せて掲載されていること(甲4の2、甲5の2)に照らすならば、上記各パンフレットにおいて本件写真2−1は、リフレクティックス製品の形状や機能を説明するために用いられているものであり、本件写真2−1がリフレクティックス製品を他の者の商品から識別する表示又はその販売等を行う営業主体を識別する表示として用いられているとはいえない。また、原告がリフレクティックス製品の販売促進のため、工務店に対して行った講習や一泊研修に本件写真等を使用したこと(前記(ア)e)を勘案しても、本件写真2−1がリフレクティックス製品の表示として広く知られているものとまで認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件写真2−1は、原告の周知の商品等表示に該当しない。
イ 小括
 以上によれば、本件写真1及び本件写真2−1は、原告の周知の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に該当しないから、その余の点について検討するまでもなく、原告主張の被告Aによる不正競争は認められない。
(2) 著作権侵害の成否
ア 本件写真1の著作物性・著作権の帰属
(ア)a 前記1(1)ア(ア)aのとおり、@本件写真1は、原告代表者が、リフレクティックス社の工場内の天井、左側壁面及び前方奥の壁面を主な被写体として、これらを写真全体の3分の2程度に大きく取り入れた構図とし、低いアングルから工場内全体を撮影したものであること、A原告代表者は、上記工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されている状況並びに同工場内にエアコンが設置されていない状況などを表現するために、上記構図及びアングルを選択したことに照らすならば、本件写真1は、被写体の構図及びアングルの選択において、撮影者である原告代表者の創作性が認められ、原告代表者の思想又は感情を創作的に表現したものと認められるから、著作物(著作権法2条1項1号)に当たるものと認められる。
b これに対し、被告Aは、本件写真1が与える印象は極めて平凡で、写真だけを見ても、その被写体が何であるのか理解し難く、また、本件写真1は、工場内において撮影者がカメラのシャッターを押せば、工場内のどの地点であろうとも、ほとんどの写真が本件写真1のアングル、画面配置になったと思われる程度の平凡なアングル、画面配置にすぎず、アングル、画面配置の点において独自性は認められないなどとして、本件写真1には、著作物性は認められない旨主張する。
 しかし、前記aのとおり、本件写真1は、リフレクティックス社の工場内の天井、左側壁面及び前方奥の壁面を主な被写体として、これらを写真全体の3分の2程度に大きく取り入れた構図とし、低いアングルから工場内全体を撮影した写真であって、構図及びアングルの選択において創作性が認められ、被告Aがいうように工場内のどの地点でカメラのシャッターを押しても本件写真1の構図及びアングルになるものではないから、被告Aの上記主張は採用することができない。
(イ)a そして、@本件写真1は、原告代表者が、米国法人のリフレクティックス社が製造販売する遮熱材であるリフレクティックス製品に着目し、原告の事業として、これを日本に輸入して販売することを企画し、平成14年8月、米国インディアナ州所在のリフレクティックス社を訪問し、同社の工場を見学した際に、リフレクティックス社から撮影の許可を得て、同工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されている状況並びに同工場内にエアコンが設置されていない状況などを表現するために撮影した写真であること(前記(1)ア(ア)a)、A原告は、平成15年4月24日、リフレクティックス社との間でリフレクティックス製品について独占販売契約を締結し、日本における同社の総代理店となった上(前記(1)ア(ア)b)、本件写真1を原告のパンフレット及びホームページに掲載してリフレクティックス製品の広告宣伝を行っていること(前記(1)ア(ア)c、d)に照らすならば、本件写真1は、原告代表者が、原告によるリフレクティックス製品の販売事業を企画・展開するために、その業務執行としてリフレクティックス社の工場を見学した際に、同工場内におけるリフレクティックス製品の使用状況等を表現するために撮影した写真であるといえるから、本件写真1は、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する原告代表者が職務上作成した著作物であると認められる。加えて、本件写真1は、原告のパンフレット及びホームページに掲載されて公衆に提供されたものであって、パンフレット及びホームページにはそれぞれ原告の名義である「総輸入元 株式会社 佐 武 環境マテリアル研究所」、「総輸入元/株式会社 佐 武」又は「株式会社 佐 武」の表示がされているから(前記(1)ア(ア)c、d)、原告が自己の著作の名義の下に本件写真1を公表したものと認められる。
 そうすると、本件写真1は、職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作者は原告であると解される。
b これに対し被告Aは、原告代表者が写真撮影を自らの職務としていたとは考えられず、本件写真1は、原告代表者が職務を遂行している過程において職務との関連で作成されたにすぎないものであって、「職務上作成する」という要件を満たさず、また、本件写真1が掲載された原告のパンフレットには、本件写真1について著作者としての原告の表示が存在せず、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」との要件も満たしていないから、本件写真1につき、原告の職務著作は成立しないと主張する。
 しかし、前記aのとおり、本件写真1は、原告代表者が、原告の業務執行としてリフレクティックス社の工場を見学した際に、同工場内におけるリフレクティックス製品の使用状況等を表現するために撮影した写真であるから、職務上作成されたものと認められ、原告代表者が写真撮影を固有の職務としていたかどうかは問わないというべきである。また、前記aのとおり、原告のパンフレット及びホームページに原告名義の表示がある以上、特に断りのない限り、パンフレット及びホームページに掲載された著作物である本件写真1についても、原告の著作名義で公表されたものと認められる。
 したがって、被告Aの上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上によれば、本件写真1は、原告を著作者とする著作物であり、その著作権(著作財産権、著作者人格権)は原告に帰属する。
イ 本件写真2−1の著作物性・著作権の帰属
(ア) 原告は、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面はいずれもリフレクティックス社が作成した著作物であり、原告は、リフレクティックス社の日本における総代理店(総輸入元)となり、リフレクティックス社から、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面の各著作権のうち、日本国内における複製権の譲渡を受けたから、本件写真2−1の複製権は原告に帰属する旨主張する。
 しかしながら、原告は、本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面がリフレクティックス社が作成した著作物であることについて具体的な主張立証をしていない。
 また、原告提出のリフレクティックス社と原告間の2004年6月3日付け覚書(「Memorandum」)(甲27)中には、「3.リフレクティックス社は株式会社佐武に、リフレクティックス社及び株式会社佐武の日本市場に於ける知的所有権を守るために訴訟及び解決を委託している。」、「4.上記株式会社佐武宛の権限は株式会社佐武がリフレクティックス社の総代理店である限り有効とする。」との記載があるが、上記記載部分から原告が本件写真2−1、本件写真2−2及び本件図面の各著作権のうち、日本国内における複製権の譲渡を受けた事実を認めることはできない。他に上記譲渡の事実を認めるに足りる証拠はない。
(イ) したがって、本件写真2−1は原告が著作権(複製権)を有する著作物であるとの原告の主張は理由がない。
ウ 差止請求及び廃棄請求
(ア) 本件写真1の著作権が原告に帰属することは、前記アのとおりである。そこで、原告の被告Aに対する著作権法に基づく差止請求及び廃棄請求について判断する。
 原告は、被告Aとエール出版社は、被告Aの執筆による本を発行するとの企画の下に、被告Aにおいて本件書籍を執筆し、エール出版社において本件書籍を発行したのであるから、被告Aは、本件写真1及び本件写真2−1が掲載された本件書籍の増刷、販売又は頒布による本件写真1の著作権(複製権)侵害につき、エール出版社と共同不法行為責任を負い、今後も侵害のおそれがあるから、被告Aに対し、著作権法112条1項、2項に基づき、本件書籍の増刷、販売又は頒布の差止め及び未販売の本件書籍の廃棄を求めることができる旨主張する。
 しかし、@原告も認めるとおり、本件書籍を発行したのは、エール出版社であって、被告Aではないこと、A被告Aは、エール出版社との間で本件書籍の出版契約を締結し、エール出版社に対し、本件書籍の出版を許諾したものであり、被告A自身が本件書籍を複製、頒布を行ったものではないこと(弁論の全趣旨)、Bエール出版社作成の平成20年3月31日付け報告書(乙10)中には、本件書籍の今後の増刷分からは本件写真1及び本件写真2−1を削除し、今後、これらの写真を使用した形で本件書籍を増刷することはない旨の記載があること、C被告Aは、同年5月16日付け準備書面(5)で、今後、エール出版社以外の出版社又は自ら、本件写真1及び本件写真2−1を使用した形で本件書籍が増刷することはない旨述べていることに照らすならば、被告Aが本件写真1を掲載した本件書籍を増刷、販売又は頒布を行うことにより本件写真1の著作権(複製権)を侵害するおそれはないものと認められるから、原告の上記主張は理由がない。
(イ) 以上のとおり、原告の被告Aに対する著作権法に基づく差止請求及び廃棄請求は理由がない。
エ 損害賠償請求
(ア) 氏名表示権侵害について
 甲1によれば、被告Aは、本件書籍に本件写真1を掲載するに当たり、原告が本件写真1の著作者であることを表示しなかったことが認められる。
 したがって、被告Aは、原告主張のとおり、本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(イ) 同一性保持権侵害について
 原告は、被告Aは、本件書籍に、本件写真1及び本件写真2−1を掲載し、「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との説明を加えたが、本件写真1はリフレクティックス製品を使用した工場内の写真であって、「SSS」の施工工場ではなく、上記説明は虚偽の説明であるから、本件写真1についての原告の同一性保持権を侵害した旨主張する。
 しかし、原告の上記同一性保持権侵害の主張は、被告Aが本件写真1について加えた説明が本件写真1の被写体と一致していないというものであって、本件写真1そのもの又は本件写真1の題号を変更、切除その他の改変をしたというものではないから、その主張自体理由がない。
(ウ) 損害額(慰謝料額)について
 被告Aが本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したことは、前記(ア)のとおりである。
 そして、本件書籍における本件写真1の掲載態様(前記第2の2(4)ア)、本件書籍は第5刷分まで発行済みであること(乙10)、その他本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告が被告Aによる本件写真1の氏名表示権の侵害により被った精神的損害に対する慰謝料は、20万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
 以上によれば、原告の被告Aに対する請求は、本件写真1の氏名表示権侵害の損害賠償として20万円の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。
2 被告近代ホームに対する請求について
(1) 前記1(1)ア認定のとおり、本件写真1及び本件写真2−1は、原告の周知の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に該当せず、また、被告近代ホームが自社のホームページに本件書籍の「表表紙」を掲載したからといって本件写真1及び本件写真2−1を商品等表示として使用したことにならないことも明らかであるから、その余の点について検討するまでもなく、原告主張の被告近代ホームによる不正競争は認められない。
(2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告近代ホームに対する請求は理由がない。
3 被告せらら工房に対する請求について
(1) 主位的請求について
 前記1(1)ア認定のとおり、本件写真1は、原告の周知の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に該当しないから、その余の点について検討するまでもなく、原告主張の被告せらら工房による不正競争は認められない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告せらら工房に対する主位的請求は理由がない。
(2) 予備的請求について
ア(ア) 甲12及び弁論の全趣旨によれば、被告せらら工房は、自社のホームページに本件写真1を掲載するに際し、原告が本件写真1の著作者であることを表示しなかったことが認められる。
 したがって、被告せらら工房は、原告主張のとおり、本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(イ) 原告は、被告せらら工房は、同被告のホームページに、本件写真1を掲載し、「米国インディアナ州のリフレクティクス社では、壁、天井にスーパー遮熱断熱シート(SSS)を施工しています。」との説明を加えたが、本件写真1はリフレクティックス製品を使用したリフレクティックス社の工場内の写真であって、同工場には「スーパー遮熱断熱シート(SSS)」が施工されておらず、上記説明は虚偽の説明であるから、本件写真1についての原告の同一性保持権を侵害した旨主張する。
 しかし、原告の上記同一性保持権侵害の主張は、被告せらら工房が本件写真1について加えた説明が本件写真1の被写体と一致していないというものであって、本件写真1そのもの又は本件写真1の題号を変更、切除その他の改変をしたというものではないから、その主張自体理由がない。
イ 被告せらら工房が本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したことは、前記ア(ア)のとおりである。
 そして、被告せらら工房のホームページにおける本件写真1の掲載態様、その掲載期間(前記第2の2(4)イ)、その他本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告が被告せらら工房による本件写真1の氏名表示権の侵害により被った精神的損害に対する慰謝料は10万円と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば、原告の被告せらら工房に対する予備的請求は、本件写真1の氏名表示権侵害の損害賠償として10万円の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。
4 被告ウイッシュホームに対する請求について
(1) 主位的請求について
ア 前記1(1)ア(イ)で説示したところに照らせば、本件写真2−2及び本件図面は、本件写真2−1と同様に、原告のパンフレット(甲4の2、甲5の2)においてリフレクティックス製品の形状や機能を説明するために用いられているにすぎず、リフレクティックス製品を他の者の商品から識別する表示又はその販売等を行う営業主体を識別する表示として用いられているとはいえない。また、本件写真2−2及び本件図面がリフレクティックス製品の表示として広く知られているものとまで認められない。
 したがって、本件写真2−2及び本件図面は、原告の周知の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に該当しないから、その余の点について検討するまでもなく、原告主張の被告ウイッシュホームによる不正競争は認められない。
イ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告ウイッシュホームに対する主位的請求は理由がない。
(2) 予備的請求について
 原告の被告ウイッシュホームに対する予備的請求は、本件写真2−2及び本件図面の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。
 しかし、前記1(2)イ(ア)のとおり、原告は、本件写真2−2及び本件図面が著作物であることについての具体的な主張立証をしておらず、また、その著作者人格権が原告に帰属することについての具体的な主張立証もしていない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告ウイッシュホームに対する予備的請求は理由がない。
5 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、被告Aに対し20万円の支払を、被告せらら工房に対し10万円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、被告らに対するその余の請求(予備的請求を含む。)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 関根澄子
 裁判官 杉浦正典


別紙 書籍目録
題号:新外断熱住宅はもう古い!
著者:A
発行所:エール出版社
発行年月日:2006年5月15日
型式:A5版、246頁、ハードカバー
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/