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【事件名】商標“MACKINTOSH”侵害事件(2)
【年月日】平成20年6月24日
 知財高裁 平成20年(ネ)第10014号 商標権侵害差止請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成19年(ワ)第6214号)
 (口頭弁論終結日 平成20年5月29日)

判決
控訴人 栄進物産株式会社
控訴人 株式会社ニュース
控訴人 有限会社ミディネット
上記3名訴訟代理人弁護士 飯塚孝
同 荒木理江
同補佐人弁理 士若林擴
被控訴人 マッキントッシュ リミテッド
同訴訟代理人弁護士 尾関孝彰
同 鰺坂和浩
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹
同補佐人弁理士 小暮君平


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、英国法人である被控訴人(1審原告、以下「原告」という。)が、日本国内でアイルランド製コート類の販売を予定している控訴人ら(1審被告ら、以下「被告ら」という。)に対し、その商品に関して使用される5つの標章(別紙標章目録)について、原告の有する商標権(別紙商標目録)を侵害すると主張して、商標法36条1項に基づき、その使用の差止めを求めた事案である。
 原判決は、被告らが使用する上記5つの標章が原告の有する商標権に係る商標と類似しているとして、原告の請求を認容した。
 これに対して被告らは、原判決を不服として本件控訴を提起した。
2 前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張
原判決の「事実及び理由」欄の第2及び第3(原判決2頁12行目から13頁20行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、略語は、すべて原判決と同様の表記とする。
 被告らは、当審において、@被告らは、被告標章1の標章を単独では、使用していないこと、A「Macintosh」は米国アップル社製コンピュータを指す商標として著名であるから、本件商標中の「MACKINTOSH」の文字部分は、本件商標の要部と解すべきでないこと、B「マッキントッシュ」の名称は、我が国のアパレル業界やファッションに関心のある需要者の間において、ゴム引き防水布地又は同布地製コートを意味する名称として、取引上普通に使用されているので、普通名称と理解すべきであること、C本件商標の登録時点において無効事由に該当する瑕疵がある場合、登録後5年間の除斥期間を経過した後においても、原告の本件商標権に基づく請求を権利濫用として排斥すべきこと等を主張するが、いずれも、原審における主張に新たな内容を付加するものではない。
 原告は、Aに対しては、取引者又は需要者が本件商標中の「MACKINTOSH」の付された商品について、米国アップル社の業務に係る商品であると認識する可能性は極めて小さい、Bに対しては、我が国のアパレル業界においても、「MACKINTOSH」又は「マッキントッシュ」がゴム引き防水布地又は同布地製コートという意味を有すると認識している者は一部であり、多くは、「MACKINTOSH」又は「マッキントッシュ」の付された商品について原告の商品であると認識している等を反論する。
 なお、被告商品は、本件商標の指定商品と類似する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の被告らに対する商標法36条1項に基づく差止請求を認容するのが相当であると判断する。
 その理由は、次のとおり、訂正し、後記2項の判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」1から4まで(原判決13頁21行目から33頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決28頁23行目の「と、」の次から29頁10行目末尾までを「証拠(甲84〜91)及び弁論の全趣旨によれば、米国アップル社は、商標戦略上、汎用のパーソナルコンピュータ等の商品等について、『iMac』、『iPod』、『iTune』、『iPhone』などのように『i』を中心とした統一ブランドの構築を企画していることが窺える。そのような事実に鑑みれば、米国アップル社の使用に係る商標『Macintosh』が、米国アップル社ないし同社の商品等を指すものとして周知であるという事実が認められたとしても、本件商標の要部を判断する上において、『MACKINTOSH』の文字部分が、識別性の高い部分であるということの妨げにはならない。」と訂正する。
(2) 原判決33頁1行目の「しかしながら、」の次から7行目の「さらに、権利不」の前までを「米国アップル社が使用する『Macintosh』との商標は、コンピュータ関係の商品において著名ではあるが、他方、本件商標は、イギリス製のジャケット等の被服などを指定商品とするものであって、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準にすれば、本件商標中の『MACKINTOSH』の文字部分により、本件商標の付された商品の出所が、米国アップル社及びその関連会社であると誤認することはないものと解されるのであって、本件商標に商標法4条1項15号の無効事由があるということはできない。」と訂正する。
2 当審における判断
 以下、原審の判断に補足して判断する。
(1) 本件商標の「MACKINTOSH」の識別力
ア 本件商標のうち「MACKINTOSH」の下段に小さく「Madein Scotland」と記載された文字部分は、平易な英語「Made in」と英国の地名「Scotland」からなり、当該製品の産地を示したものと一般に理解されるので、その識別力は弱い。また、本件商標のうち、「MACKINTOSH」の右側に描かれた帽子をかぶりステッキを持った紳士の図形部分も、格別の特徴がなく、その識別力は弱い。他方、「MACKINTOSH」と大文字により大きく記載された文字部分は、我が国の一般の取引者、需要者にとって日常生活上、さほどなじみのある語とはいえないから、注意を強く引き、商品の出所の識別標識としての強い印象を与える部分と解される。
イ 米国アップル社の「Macintosh」商標との関係
 米国アップル社が使用する「Macintosh」との商標は、コンピュータ関係の商品において著名ではある。他方、本件商標は、イギリス製のジャケット等の被服などを指定商品とするものであって、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準にすれば、本件商標中の「MACKINTOSH」部分により、本件商標の付された商品の出所が、米国のアップル社及びその関連会社であると誤認することはないものと解される。したがって、本件商標の識別力のある部分の判断に当たり、コンピュータ業界における米国アップル社の「Macintosh」という著名な商標の存在は、「MACKINTOSH」の文字部分を本件商標の要部と認めることの妨げにはならない。
 なお、米国アップル社の「Macintosh」の著名商標があるからといって原告の被告らに対する本件差止請求が権利の濫用に当たるともいえない。
ウ 「MACKINTOSH」の意味について
(ア) 「MACKINTOSH」とは、英国では、ゴム引き防水布地又は同布地製コートを意味する場合があり、我が国においても、辞書等において、英国における用例に倣った意味を掲載する例が存在する。
 しかし、英国において「MACKINTOSH」が「ゴム引き防水布地又は同布地製コート」をも意味するようになったのは、その開発者である英国スコットランドの科学者チャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh。1766年〜1843年)の名前に由来する(乙1の1及び4、乙3、乙14の2、乙17の1〜6、乙19)。すなわち、マッキントッシュの経営に係る会社等の製造したゴム引き防水布地製コートが、当時の英国において大ヒットし、19世紀中ころのファッションとなったため、「MACKINTOSH」の語が、その開発者の人名から転じて、ゴム引き防水布地又は同布地製コート一般を意味するようになったものである。ところが、改良前のゴム引き防水布地製コート自体は、そのゴム独特の匂い、通気性の悪さや、分厚い生地などのために、有蓋鉄道列車の普及とともに消費者から次第に敬遠されるようになり(乙17の6)、一部の完全防水の需要を除き、1900年代初期に登場した綿素材のコートに取って代わられるようになった(乙17の1及び4)。このような経緯に照らすと、英国においては、「MACKINTOSH」が、ゴム引き防水布地又は同布地製コート一般を意味するとしても、今日、我が国においては、そのような製品が幅広く取引の対象となることが想定されない以上、取引者、需要者の間で、一般的にそのような意味に用いられることは考え難い。
(イ) 他方、原告は指定商品等を販売するため、平成6年に日本において本件商標の出願をし、平成9年にその登録を受けた後(甲1)、平成15年10月から平成19年2月までの間には合計約5200万円の広告宣伝費を支出し(甲19)、「MACKINTOSH」商標及び同商標を付した商品の宣伝に努めるなどしたことにより、女性用衣服を中心として、年間売上高を平成15年度の約4億6500万円から、平成18年度の約9億9800万円にまで伸ばし(甲18)、取引者、需要者の間に、ゴム引き防水布地製コートの名称としてではなく、原告の出所を示す識別表示として「MACKINTOSH」の名称を広く浸透させてきたことが認められる(甲10〜16、20〜57、60、76、77の1及び2、95〜132、乙16の1〜3、18の1及び2、20)。
(ウ) このような諸事情及び原判決認定の事実経過を総合して判断すると、「MACKINTOSH」が英国及び日本の一部において普通名称としての意味を有する例があるとしてもなお、「MACKINTOSH」の文字部分を本件商標の要部と認定することの妨げにはならない。これに反する被告らの前記主張は採用することができない。
3 結論
 以上によれば、原告の被告らに対する商標法36条1項に基づく差止請求は理由があるからこれを認容すべきであり、本件控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 齊木教朗
 裁判官 嶋末和秀


商標目録 略
標章目録 略
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