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【事件名】商標“GABOR”侵害事件
【年月日】平成20年6月18日
 東京地裁 平成19年(ワ)第4876号 商標権侵害差止等請求事件
 (平成20年4月16日 口頭弁論終結)

判決
原告 ガボラトリー インク(以下「原告会社」という。)
原告 A(以下「原告A」という。)
原告両名訴訟代理人弁護士 中川康生
同 入野田泰彦
被告 株式会社トムスジャパン
同訴訟代理人弁護士 飯塚孝
同 荒木理江
同補佐人弁理士 若林擴


主文
1 原告会社の請求
(1) 被告は、別紙原告商標目録1記載の登録商標と同一の標章を自らが販売する別紙被告商品目録1の1記載の商品に付し、同標章を付した同商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
(2) 被告は、別紙類似商標目録記載の登録商標を自らが販売する別紙被告商品目録2記載の商品に付し、同登録商標を商品又は包装に付した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
(3) 被告は、被告の本社、営業所及び倉庫に存在する別紙原告商標目録1記載の登録商標と同一の標章又は別紙類似商標目録記載の登録商標を付した商品、印刷物及び広告物を廃棄せよ。
(4) 被告は、別紙被告商品目録3記載の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入してはならない。
(5) 被告は、被告の本社、営業所及び倉庫に存在する別紙被告商品目録3記載の商品並びにこれら商品を掲載した印刷物及び広告物を廃棄せよ。
(6) 被告は、原告会社に対し、308万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(7) 原告会社のその余の請求を棄却する。
2 原告Aの請求
(1) 被告は、別紙原告商標目録2記載の登録商標と同一の標章を自らが販売する別紙被告商品目録1の2記載の商品に付し、同標章を付した同商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
(2) 被告は、被告の本社、営業所及び倉庫に存在する別紙原告商標目録2記載の登録商標と同一の標章を付した商品、印刷物及び広告物を廃棄せよ。
(3) 被告は、原告Aに対し、40万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(4) 原告Aのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用等
(1) 訴訟費用は、被告に生じた費用及び原告らに生じた費用の3分の1を被告の負担とし、原告らに生じたその余の費用を原告らの負担とする。
(2) 本判決の第1項(1)ないし(6)及び第2項(1)ないし(3)は、仮に執行することができる。
(3) 原告らのために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 原告会社
(1) 主文第1項(1)ないし(5)と同旨。
(2) 被告は、原告会社に対し、次の金員を支払え。
ア 商標法に基づく使用料相当の損害金の請求
(ア) 150万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員、
(イ) 350万円及びこれに対する平成20年1月23日から支払済みまで年5%の割合による金員
イ 不正競争防止法に基づく使用料相当の損害金の請求
(ア) 150万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員、
(イ) 350万円及びこれに対する平成20年1月23日から支払済みまで年5%の割合による金員
ウ 弁護士費用相当の損害金の請求
100万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員
2 原告A
(1) 主文第2項(1)及び(2)と同旨。
(2) 被告は、原告Aに対し、次の金員を支払え。
ア 商標法に基づく使用料相当の損害金の請求
(ア) 300万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員、
(イ) 260万円及びこれに対する平成20年1月23日から支払済みまで年5%の割合による金員
イ 弁護士費用相当の損害金の請求
 100万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による金員
第2 事案の概要
1 訴訟の概要
(1) 原告会社の請求
ア 商標法に基づく請求
 装飾された「G」の文字の上に王冠を配した構成から成る商標権を有する原告会社が、被告に対し、同商標権に基づき、これと同一又は類似する標章の使用差止め(商標法36条1項、37条1号)、商品等の廃棄(商標法36条2項)並びに損害賠償金500万円及びこれに対する遅延損害金の支払(民法709条、商標法38条3項)を求めた。
イ 不正競争防止法に基づく請求
 原告会社の販売するシルバーアクセサリー等の商品の立体的形状が商品等表示として周知であるとして、原告会社が、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号に基づき、これと同一又は類似する商品の譲渡等の差止め(同法3条1項)、商品等の廃棄(同法3条2項)並びに損害賠償金500万円及びこれに対する遅延損害金の支払(同法4条、5条3項1号)を求めた。
ウ 弁護士費用相当の損害賠償金の請求
 原告会社は、弁護士費用相当の損害賠償金100万円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払(不正競争防止法4条)を求めた。
(2) 原告Aの請求
 「GABOR」との英文字から成る商標権を有する原告Aが、被告に対し、同商標権に基づき、これと同一又は類似する標章の使用差止め(商標法36条1項、37条1号)、商品等の廃棄(商標法36条2項)並びに損害賠償金560万円、弁護士費用100万円及びこれに対する遅延損害金の支払(民法709条、商標法38条3項)を求めた。
2 前提事実
(1) 当事者等
ア B
 B(平成11年1月16日死亡。以下「B」という。)は、昭和63年ころから、自らの工房でシルバーアクセサリー等を製造し、これを販売してきた。
 平成6年に原告会社が設立された後は、原告会社が、Bの事業を承継し、シルバーアクセサリー等を製造、販売していた。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
イ 原告ら
(ア) 原告会社
 原告会社は、シルバーアクセサリーの製造、販売等を業とする米国法人である。
 原告会社は、BとC(以下「C」という。)によって平成6年に設立された法人である。
 原告会社は、平成8年ころから、日本国内にシルバーアクセサリーを輸出、販売していた。
(イ) 原告A
 原告Aは、Bの妻であり、その相続人である。
 原告Aは、原告会社の代表者であり、かつ、筆頭株主である。
(以上につき、甲15、16、乙2、弁論の全趣旨)
ウ 被告
 被告は、舶来バッグ、アクセサリー等の輸入、卸売等を業とする株式会社であり、数多くのブランド商品を取り扱っている。
 被告は、平成16年11月、後記エのCDM社との間で、米国ネバダ州法人であるガボールインコーポレイテッドユーエスエー(以下「USA社」という。)が取り扱うシルバーアクセサリー等の日本における独占販売元契約を締結し、同製品の日本における総販売元となった。
(争いのない事実、乙18、35、弁論の全趣旨)
エ CDM社
 D(以下「D」という。)は、米国カルフォルニア州において、シーディーエムエクスチェンジカンパニー(以下「CDM社」という。)を経営しており、同社は、USA社の親会社である。
(弁論の全趣旨)
オ インターナショナル社
 E(以下「E」という。)は、Bと共に原告会社でシルバーアクセサリー等の製造に当たっていたが、Bの死後である平成13年5月29日、Fと共に、米国ネバダ州法人ガボラトリーインターナショナルインク(以下「インターナショナル社」という。)を設立した。
 同社は、シルバーアクセサリーの輸出、販売をしていた。
 CDM社とインターナショナル社との間では、インターナショナル社からCDM社へインターナショナル社の米国商標権等を譲渡する旨の平成15年9月3日付け及び同月5日付け契約書の写し(乙27、39)が存する。
 インターナショナル社は、平成17年6月1日に解散した。
(甲21、24、乙27、39、弁論の全趣旨)
(2) 原告らの商標権
ア 本件登録商標1
(ア) 原告会社は、別紙原告商標目録1記載の商標権(以下、この商標権に係る登録商標を「本件登録商標1」という。)を有している。
 本件登録商標1は、別紙原告商標目録1記載のとおり、上部の王冠部分と下部の装飾された「G」文字部分(以下「Gロゴマーク」という。)から成る。
(甲1の1・2)
(イ) 本件登録商標1及びGロゴマークは、Bがデザインしたものであり、Bは、シルバーアクセサリーの製造を開始した当初から、その製品のすべてに本件登録商標1を刻印していた。
 原告会社は、遅くともBが死亡する前から、本件登録商標1を使用していた。
 本件登録商標1は、遅くともBが死亡する前から、B又は原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
(ウ) 原告会社は、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて、本件登録商標1を付したシルバーアクセサリー等を日本へ輸出、販売している。
(争いのない事実、甲12の4、弁論の全趣旨)
イ 本件登録商標2
(ア) 原告Aは、別紙原告商標目録2記載の商標権(以下、この商標権に係る登録商標を「本件登録商標2」という。)を有している。
 本件登録商標2は、別紙原告商標目録2記載のとおり、「GABOR」の英文字(標準文字)から成る。
(甲2の1・2)
(イ) 本件登録商標2は、Bのファーストネームを意味している。
 原告会社は、遅くともBが死亡する前から、本件登録商標2を使用していた。
 本件登録商標2は、遅くともBが死亡する前から、B又は原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
(ウ) 原告Aは、原告会社に対し、本件登録商標2の使用を許諾している。
(弁論の全趣旨)
(エ) 原告会社は、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて、本件登録商標2を付したシルバーアクセサリー等を日本へ輸出、販売している。
(争いのない事実、甲12の4、弁論の全趣旨)
(オ) CDM社は、平成19年5月16日、原告Aを相手方として、本件登録商標2が、その出願時(平成16年8月4日)において、CDM社の業務に係る商品「身飾品」の商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていた下記(4)イ(ア)の米国ガボール商標と同一又は類似であり、商標法4条1項10号に違反して登録されたものであるとして、その商標登録の無効審判請求をしたが、特許庁は、平成20年4月2日、請求不成立の審決をした。
(甲29、乙3)
(3) 原告会社の商品等表示
ア 原告会社による国内販売
 原告会社は、別紙原告標章目録記載のとおり、パンサー、ブルドック、ライオンの顔を模した立体形状部、スカルやスネークを模した立体形状部、十字架をデザインした立体形状部等(以下、これらを「本件立体的形状」という。)を有する商品を、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて日本へ輸出、販売している。
(争いのない事実、甲13の2、弁論の全趣旨)
イ 商品等表示
 本件立体的形状は、その形状において創作性及び審美性があり、商品形態そのものにおいて特定の営業主体を識別する能力を備えている。
(甲13の2、弁論の全趣旨)
ウ 周知性
 本件立体的形状は、遅くともBが死亡する前に、原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
(争いのない事実)
(4) 被告関係者の商標権等
ア 本件類似商標
(ア) CDM社は、別紙類似商標目録記載の商標権(以下、この商標権に係る商標を「本件類似商標」という。)を有している。
 本件類似商標は、別紙類似商標目録記載のとおり、Gロゴマークから成る。
(争いのない事実)
(イ) 原告会社は、平成19年1月15日、CDM社を相手方として、本件類似商標が、本件登録商標1と同一又は類似であって、本件登録商標1と同一又は類似の指定商品について使用されるから、商標法4条1項11号等に違反して登録されたものであるとして、その商標登録の無効審判請求をした。
 特許庁は、平成19年11月5日、商標法4条1項11号に違反することを理由として、本件類似商標の登録を無効とする審決をした。
(甲8、23)
イ 米国商標
(ア) 米国ガボール商標
a インターナショナル社は、米国特許商標庁に対し、次の商標の登録出願をし、その登録を得た(以下、この商標を「米国ガボール商標」という。)。
 登録番号 第2695716号
 登録日 平成15年3月11日
 出願番号 第78068868号
 出願日 平成13年6月13日
 登録商標 「GABOR」の文字から成る。
 指定商品 第14類(U.S.国内分類2、27、28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、すなわちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング
(乙4)
b 米国ガボール商標については、平成19年4月10日、CDM社に移転する旨の登録がされた。
(乙4、14の1)
(イ) 米国王冠付Gロゴマーク商標1
a インターナショナル社は、米国特許商標庁に対し、次の商標の登録出願をし、その登録を得た(以下、この商標を「米国王冠付Gロゴマーク商標1」という。)。
 登録番 号第3039819号
 登録日 平成18年1月10日
 出願番号 第78066129号
 出願日 平成13年5月29日
 登録商標 本件登録商標1の下に唐草模様を、更にその下に「GABORATORY」の文字を配した文字と図形から成る。
 指定商品 第14類(U.S.国内分類2、27、28及び50)シルバー製ジュエリーの限定版
(乙5)
b 原告会社は、平成14年10月31日、インターナショナル社の米国王冠付Gロゴマーク商標1の出願に対して異議申立てをしたが(第91153492号)、平成17年7月18日、後記ウ(アの本件極秘和解契約に従い、異議申立てを取り下げ、米国特許商標庁は、同月22日、異議申立てを却下する決定をした。
(乙19の1)
c また、原告会社は、平成13年8月9日に米国特許商標庁に対して米国王冠付Gロゴマーク商標1と同一の商標につき、登録出願をしていたが(出願番号第78078466号)、平成18年11月6日、その登録出願を放棄した。
(乙20)
d 米国王冠付Gロゴマーク商標1については、平成19年4月10日、CDM社に移転する旨の登録がされた。
(乙5、14の2)
(ウ) 米国王冠付Gロゴマーク商標2
a インターナショナル社は、米国特許商標庁に対し、次の商標の登録出願をし、その登録を得た(以下、この商標権に係る商標を「米国王冠付Gロゴマーク商標2」といい、「米国ガボール商標」、「米国王冠付Gロゴマーク商標1」と併せて、「被告側米国商標」という。)。
 登録番号 第3039823号
 登録日 平成18年1月10日
 出願番号 第78076328号
 出願日 平成13年7月30日
 登録商標 米国王冠付Gロゴマーク商標1の下に「International」の文字を配した文字と図形から成る。
 指定商品 第14類(U.S.国内分類2、27、28及び50)リング、ブレスレット、チェーン、ネックレスを含むスターリングシルバージュエリー
(乙6)
b 原告会社は、平成14年9月27日、インターナショナル社の米国王冠付Gロゴマーク商標2の出願に対して異議申立てをしたが(第91154058号)、平成17年7月22日、米国特許商標庁は、異議申立てを却下する決定をした。
(乙19の2)
c 米国王冠付Gロゴマーク商標2については、平成19年4月6日、CDM社に移転する旨の登録がされた。
(乙6、14の3)
ウ 米国商標等に係る紛争
(ア) 本件極秘和解契約
 原告会社は、平成15年7月29日、E及びインターナショナル社ほか1社を相手方として、米国商標の使用差止等を求める訴訟を米国裁判所に提訴したが、その係属中である平成16年8月17日ころ、インターナショナル社ほか1社(以下「上記被告ら」という。)との間で、次の内容の和解契約を締結した(以下「本件極秘和解契約」という。)。なお、原告会社は、Eとの間では、本件極秘和解契約以前に、紛争を解決した(前文G)。
a 原告会社は、上記被告らに7500ドルの支払をする(本文1)。
b 原告会社は、上記訴訟(本訴)を取り下げ、上記被告らは、反訴を取り下げる(本文2)。
c 上記被告らは、米国ガボール商標の署名済み譲渡証書を第三者預託物(escrow)として原告会社訴訟代理人に交付する。原告会社訴訟代理人は、裁判所の命令又は原告AとCとの合意に至るまで譲渡証書を保管する(本文3)。
d 上記被告らは、米国王冠付Gロゴマーク商標1及び2の出願を放棄し、今後、類似の商標の出願をしない(本文4)。
e 原告会社は、米国特許商標庁における米国王冠付Gロゴマーク商標1及び2の出願に対する異議申立手続を終了させる措置を執る(本文5)。
f 上記被告らは、原告会社がした米国王冠付Gロゴマーク商標1と同一の商標の出願(出願番号第78078466号)等について異議申立てをしない(本文6)。
g 上記被告らは、今後、「GABOR」又は「GABORATORY」と同一又は類似する標章を使用しない(本文7)。
h 上記被告らは、今後、原告会社の商品と同一又は類似の商品の製造、販売等をしない(本文8)。
i 上記被告らは、原告会社に対し、オリジナルの金型や生産用の金型をすべて引き渡す(本文9)。
j 原告会社は、本和解条項に定める以外の請求をすべて放棄し、上記被告らは、本和解条項に定める以外の請求をすべて放棄する(本文10)。
(甲17の1、弁論の全趣旨)
(イ) 譲渡証書の交付
 インターナショナル社は、本件極秘和解契約に従って、第三者預託物の保管者に米国ガボール商標の譲渡証書を交付したが、米国ガボール商標の譲受人を原告会社とするか原告Aとするかについて、原告AとCとの間で合意できないため、第三者預託物としての保管が継続されている。
(甲17の2、弁論の全趣旨)
(ウ) 訴訟終了
 上記(ア)に係る訴訟は、原告会社とE及び上記被告らとの訴え却下の合意により、平成16年8月20日、訴えが却下された。
(甲18)
(5) 被告による商標及び商品等表示の使用
ア 本件登録商標1
 被告は、遅くとも平成16年12月ころから、別紙被告商品目録1の1記載の商品(以下「本件商品1の1」という。)を輸入、販売している。
 本件商品1の1には、本件登録商標1と同一の標章が付されている。
(争いのない事実、乙35)
イ 本件登録商標2
 被告は、遅くとも平成16年12月ころから、別紙被告商品目録1の2記載の商品(以下「本件商品1の2」という。)を輸入、販売している。
 本件商品1の2には、本件登録商標2と同一の標章が付されている。
(争いのない事実、乙35)
ウ 本件類似商標
(ア) 包装
 本件商品1の1及び本件商品1の2は、本件類似商標が付された巾着袋に収納されて販売されている。
(争いのない事実)
(イ) 本件商品2の2
 被告は、遅くとも平成16年12月ころから、別紙被告商品目録2記載2の商品(以下「本件商品2の2」という。)を輸入、販売している。
 本件商品2の2には、商品本体に本件類似商標が付されている。
(争いのない事実、乙35)
エ 本件立体的形状
 被告は、遅くとも平成16年12月ころから、別紙被告商品目録3記載の商品(以下「本件商品3」という。)を輸入、販売している。
(争いのない事実、乙35)
(6) 類否等
ア 商標について
(ア) 標章の類似
a 上記(5)アのとおり、本件商品1の1に付された標章は、本件登録商標1と同一である。
b 上記(5)イのとおり、本件商品1の2に付された標章は、本件登録商標2と同一である。
c 本件類似商標は、本件登録商標1に類似する。
(弁論の全趣旨)
(イ) 指定商品の類似
a 本件商品1の1、本件商品1の2及び本件商品2の2は、本件登録商標1に係る指定商品と同一か、少なくとも類似する。
b 本件商品1の2は、本件登録商標2に係る指定商品と同一か、少なくとも類似する。
(以上、弁論の全趣旨)
イ 商品等表示について
(ア) 商品等表示の類似
 本件商品3は、本件立体的形状のうちのいずれかと同一の形状をその構成に含んでおり、原告会社の商品と同一又は類似である。
(争いのない事実、甲7、13の2。別紙「原告標章及び被告標章比較目録」参照。同目録記載の各被告商品の末尾に被告商品目録3記載の当該商品の番号を付した。)
(イ) 誤認混同のおそれ
 したがって、各本件商品3に接した需要者、取引者は、その出所を各対応する原告会社の商品と同一の出所に係るものであると誤認混同するおそれがある。
(甲7、13の2、弁論の全趣旨)
(7) 関係記事
ア 原告会社
(ア) 平成9年4月、マガジンハウス発行に係る「POPEYE」平成9年4月10日号(甲10の1)には、「いくらコピーが増殖しても本物を超えるコトは不可能だ。」「数限りないコピーや模造品に悩まされるのは、カリスマにとって避けられない道。中でも〈ガボール〉ほど、ヒステリックにコピーされるジュエリーもないだろう。・・・」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(争いのない事実、甲10の1)
(イ) 平成11年1月、学習研究社発行に係る「GETON! 特別編集シルバーアクセサリーバイブル」(甲10の2)には、「GABOR ガボール高貴な無骨シルバー」「・・・ガボールのシルバーを付けていると、それだけでアメリカでは一目も二目も置かれる。なぜなら、いくら金があってもコネクションが無ければガボールの作品は買えないからだ。・・・」との記事が掲載されるとともに、同誌のために特別に原告会社で製作したシルバーアクセサリーや財布が紹介されている。
(甲10の2)
(ウ) 平成11年4月、宝島社発行に係る「smart 特別編集シルバーアクセ最強読本2」(甲12の2)には、「希代の天才デザイナーに訪れた早すぎた死・・・。追悼!B緊急特集!!」との見出しや「最愛の妻・Aに直撃インタビューこれからのガボールは一体どうなるのか? シルバー界の巨星、堕つ・・・。」「新生ガボールがスタートした!」「・・・彼のひらめきから生まれたデザインの数は膨大で、Aが一生かかっても作りきれない数だと言う。Bがいなくなったこれから、彼のアイディアはガボールスピリットを受け継いだ精鋭のスタッフたちと、仕事の面でも一番のパートナーだったAを中心に、チームワークで実現されていく。今までも、Bのデザインを実際に商品化していたメインは彼らなので、これからのガボールには、正直いってなんら不安もないのが実情だ。・・・’99年は基本的に今のカタログをもっと充実させる予定。・・・」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(争いのない事実、甲12の2)
(エ) 平成13年12月、ベストセラーズ発行に係る「シルバーアクセ完全FILE5」(甲10の3)には、「最強の人気ブランド2001年特大最終スクープ13連発」「Scoop!1 Brand GABOR〜ガボール〜(PART1) 未見最新作を世界初公開&Aに直撃インタビュー」「故Bの妻、そして現ガボールオーナーのAが来日した。世界に先駆けて最新作のプロモーションを兼ねて、アメリカと日本のインターネット上でガボールの商品が流通していることについての弁明が目的だと言う。『今インターネットで流通しているガボールの商品は買わないで欲しいの。・・・本物と呼べるのは私たちのファミリーが作っている作品だけ。・・・』・・・」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(甲10の3)
(オ) 平成14年1月、成美堂出版発行に係る「Men’s Brand」平成14年1月号(甲3の1)には、「再び動き出したシルバー界の巨人Bの魂は永遠に死なない。」「あまりにも大きすぎた存在が突然我々の前から姿を消して3年近い月日が流れようとしている。キング・オブ・スカル。シルバーフリークならば誰もが憧れる孤高のブランドは、主を失ってもなお多くの人々を魅了して止まない。そしてフリークが心配していた疑問に今ひとつの答えが出る。」「・・・そして1999年2月、突然の訃報。その後、様々な憶測が飛び交ったが、ガボールは婦人のAさんが存続させていくという。日本でも新生ガボラトリーが東京・恵比寿にオープン。ガボール伝説は再び動き始めたようだ。」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(甲3の1)
(カ) 平成14年1月、学習研究社発行に係る「シルバーアクセサリー完全バイブルGETON! SILVER」平成14年号(甲12の3)では、「新世紀シルバーアクセサリー頂上対決100ブランド2000アイテムガボール/・・・」との見出しがあり、原告会社の商品が紹介されている。
(甲12の3、弁論の全趣旨)
(キ) 平成14年5月、ベストセラーズ発行に係る「シルバーアクセ完全FILE6」(甲12の4)には、「“天才”と呼ばれた男のアートワークのすべてB“魂のコレクション” シルバーアクセサリー界の真の先駆者であり、天才と称されるデザイナー故B。そんな彼が世に残したブランド『GABOR』が創り出すアイテムは、荘厳かつ、最高の彫金技術を駆使した唯一無二のアイテムばかり。独自の世界を表現する彼の残したデザインを基にした新作も登場し、一層のラインナップの幅も広がった。」「・・・B氏没後、主を失ってしまったブランド『ガボール』は、一時生産をストップすることになる。だが、B氏の趣味趣向、持ち味、作品に対するプライドや情熱の一番の理解者であり、妻であるA氏が、ガボラトリーのオーナーとして、ブランドを再稼働させた。・・・」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品やこれを取り扱っている店舗が紹介されている。
(甲12の4)
(ク) 平成14年7月、学習研究社発行に係る「シルバーアクセサリー完全バイブルGETON! SILVER2」(甲12の5)には、「史上最多ブランド、最多モデル掲載!! シルバーアクセサリー・コンプリートカタログ100ブランド2000アイテムクロムハーツ/ガボール/・・・」との見出しがあり、原告会社の商品が紹介されている。
(甲12の5、弁論の全趣旨)
(ケ) 平成15年1月、学習研究社発行に係る「GETON! SILVER3」(甲12の6)には、「2003年最注目ブランド新作&定番モデル完全詳解トラヴィス・ワーカーゴーストリードMFG ティム・キャンピークロムハーツガボール・・・史上最多ブランド、最多モデル掲載!! 150ブランド2500アイテムシルバーアクセサリー・コンプリートカタログ」との見出しや「B亡き後も妻とスタッフが意志を引き継いで作品をリリース」との紹介文があり、原告会社の商品が紹介されている。
(甲12の6)
(コ) 平成15年2月、イーストライツ発行に係る「Free&Easy」平成15年2月号(甲9)には、「Gaboratory MARIA NAGGYBからAへ。自由の旅から自由の空間へ。『ガボラトリー』にハッピースカルの魂を見た。」「・・・’90年代に強烈なインパクトを解き放った“シルバーの鬼才”、Bの死から早4年が経った。そして『夫の死を冷静に受け止められるようになった』という彼女は、長く締まっていた工房を明け、本格的に『ガボラトリー』を再稼働させたのである。・・・」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品を扱っている店舗が紹介されている。
(甲9)
(サ) 平成15年5月、ベストセラーズ発行に係る「シルバーアクセ完全FILE8」(甲12の7)には、「“天才”と呼ばれた男が生んだジュエリーのすべてガボール“魂のコレクション”」との見出しがあり、原告会社の商品やこれを取り扱っている店舗が紹介されている。
(甲12の7)
(シ) 平成16年1月、学習研究社発行に係る「GETON! SILVER5【シルバーアクセサリー完全バイブル】」(甲3の2)には、「・・・’99年に亡くなったBの意思通りのスタイルが貫かれていたことによって孤高の存在に高まり、今日の名声を築き上げていったともいえる。その意思を受け継ぎ、現在でもロスのファクトリーのみでガボールは生産され、ハイクオリティな仕上がりを維持している。頑固に貫かれた生産体制と魅惑的なデザイン、そして高い彫金技術に裏打ちされた孤高の存在は、決して色褪せることなく輝き続けている。」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(甲3の2)
(ス) 平成17年1月、学習研究社発行に係る「GETON! Silver7 シルバーアクセサリー完全バイブル『3000アイテム』」(甲10の4)には、「スカルモチーフの王道を行く人気4ブランドのスカルを徹底紹介! スカルモチーフの魅力」「誰もが欲しがるハッピースカル GABOR スカル・キングと呼ばれるガボール。笑っているような表情を見せるスカルに、魅了された者は数多い」「他の追随を許さないほどの完成度の高さを誇る」「スカルといえばガボール、といわれるほどのカリスマブランド。デザイナーのB氏は、1998年(ママ)に他界したが、妻のAがブランドを再稼働。現在でも信奉者が後を絶たない。・・・シルバー好きが最後に行き着くのは、ガボールのスカルなのかもしれない。」との記事が掲載されるとともに、原告会社の商品が紹介されている。
(甲10の4)
イ 被告側
(ア) 平成14年6月、ぶんか社発行に係る「最新ワイルドシルバー読本 2002」(乙7)には、インターナショナル社のF「・・・Aが死んで、そのブランドについての権利みたいなものの所有者が明白なカタチで存在しなくなってしまったのは事実だ。そして、AがたしかにBの奥さんだというコトも事実。けど、『ガボール』という『ブランドについてのビジネス』には、Aはまったくの素人なんだよ。そして今、このブランドに関して最も近い存在にいるのはE のほかにはいないんだ。・・・」との発言が掲載されるとともに、インターナショナル社の商品が紹介されている。また、同誌には、「ガボールの激レア アイテムが商品化!?」「没後3年でようやく見つかった、ガボールの秀作を目にする日は近い。ガボラトリー・インターナショナルでは、幻のリングとペンダントトップの商品化を検討している。・・・」との記事が掲載され、インターナショナル社の商品紹介があるほか、「故・Bの遺志を受け継ぐ正真正銘の職人衆は彼らしかいないGaboratory International」「なぜそうなってしまったのか・・・巨匠Bの亡きあと、世間ではそのあとに残ったブランドをめぐって、にわかに騒がしいことになっているようだ。・・・」とのインターナショナル社に関する記事が掲載され、さらに、「世界初のオンリー・ショップが4月20日、日本で誕生!」として、「ガボラトリー インターナショナル ジャパン」の旗艦店が上野にオープンする旨が紹介されている。
(乙7)
(イ) 平成14年8月、笠倉出版社発行に係る「SILVER ACCESSORIES 聖銀辞典U」(乙9)には、俳優GとGaboratory International Japan代表との対談記事が掲載されているほか、Gaboratory International Japanの正規販売代理店募集の広告が掲載されている。
(乙9)
(ウ) 平成15年1月、ぶんか社発行に係る「ワイルドシルバー読本VOL.2 2003」(乙10)には、「新生ガボールがこだわり続けるのは“ファミリー・オペレーション”」「偉大すぎた“キング・オブ・シルバー”、Bの死去から約4年、新生ガボールの誕生と共に生じた困惑、『一体どっちが本物?』。・・・Eはガボラトリーの現場のすべてを任されるほど故Bから絶大なる信頼を受けていたし、事実〈ガボール〉をリーガルに運営するための重要な書類などは、すべてEに託していたのである・・・」との記事が掲載されるとともに、インターナショナル社の商品が紹介されている。
(乙10)
(エ) 平成15年5月、笠倉出版社発行に係る「聖銀辞典V SILVER ACCESSORIES」(乙11)には、「偉大なるH、Aの遺志を継承する職人達」「・・・シルバー界の首領とも言うべきBがこの世を去った後、ガボラトリー内では権力闘争やクオリティの劣化などのゴタゴタが相次いで発生し、一時は存続の危機にまで陥った。しかし、それらの問題に区切りをつけガボール・ブランドを立て直したのは、Bからシルバー作りに対するアティチュードやテクニックの全てを叩き込まれた職人、Eであった。Bの右腕として晩年のガボラトリーを支えてきたEは師匠の遺志を継承するべく、パートナーのFと共に『ガボラトリー・インターナショナル』を設立。・・・」との記事が掲載されるとともに、インターナショナル社の商品が紹介されている。
(乙11)
(オ) 平成15年8月、ぶんか社発行に係る「ASAYAN SILVER master N°1」(乙8)には、4頁にわたりインターナショナル社の商品が紹介されており、その中に「Gaboratory International」と印刷されたTシャツの写真が掲載されている。
(乙8)
(カ) 平成18年9月、アポロコミュニケーション発行に係る「月刊Brand Bargain Men’s!」(甲4の1)には、「『GABOR INC USA』は、米国の投資グループ(筆頭株主:CDM EXCHANGE INC)が新たな会社名にて設立したガボールブランドを製造、販売する米国の株式会社である。GABOR INC USAが製造、販売する商品は日本を含む世界各国のネーム、ロゴ、デザイン商標でその権利が保護されている。従来のGABORATORY INTERNATIONALのマネージメントスタッフは、各々の個人的理由にて辞めてしまい、全く新たな資本、経営団にてオペレーションをしている。製造に関しては、オリジナルのマスターに基づき熟練Hにて作られており、製造環境には一切の変化は生じていない。過去にGABORATORY INC側の経営首脳からガボールを統括したいとの提案があり、日本側の販売をすべて当方へ頼むこと、GABORATORY INTERNATIONALのガボール・オリジナルモールドの提供を委託したいとの話し合いにて、GABORATORY INC、GABORATORY INTERNATIONALの米国、日本の関係者全員で、取り決めをした時期があり、GABORATORY INC側の契約違反及びGABORATORY INC側の経営首脳の破局を受け、当方が多大な被害を被り、最終的にはその話はまとまらなかった。その結果、日本においても多数のユーザーを混乱させる結果となったが、GABOR INC USAの会社本体の問題ではなく、・・・。GABORATORY INTERNATIONAL、GABORATORY INCの過去から現在にかけての日本側の関係者はINTERNATIONALでもありINCでもあるといえる。現在では、従来の関係者にガボールを取り扱う権利を持っていない。現在、日本での正規店舗は、日本総販売元である(株)トムスジャパンかGABOR INC USA本社が認定するショップのみである。・・・」とのUSA社及び被告名での釈明広告が掲載されるとともに、USA社の商品が紹介されている。
(甲4の1)
3 争点
(1) 本件類似商標の使用と商標権の行使
(2) 本件登録商標1及び2の無効(商標法4条1項10号)
(3) 商標の先使用(商標法32条)
(4) 本件立体的形状の原告会社の商品等表示としての周知性(不正競争防止法2条1項1号)
(5) 商品等表示の先使用(不正競争防止法19条1項3号)
(6) 不正競争行為についての故意過失及び営業上の利益の侵害(不正競争防止法3条、4条)
(7) 損害
4 争点についての当事者の主張
(1) 本件類似商標の使用と商標権の行使
ア 被告
(ア) 商標権の行使
 本件類似商標の使用は、CDM社が商標登録を受けた商標権に基づくものである。
(イ) 本件類似商標の無効
 後記原告の主張(イ)は争う。
イ 原告ら
(ア) 商標権の行使
 被告の主張(ア)は不知。
(イ) 本件類似商標の無効(商標法4条1項11号)
 本件類似商標は、本件登録商標1に類似する商標であり、その指定商品も本件登録商標1のそれと同一又は類似するから、商標法4条1項11号に該当し、その登録は無効である。
(2) 本件登録商標1及び2の無効(商標法4条1項10号)
ア 被告
(ア) 後記(4)イ(イ)のとおり、原告会社は、Bの死後、事業を中断したが、E又はインターナショナル社は、BのEを後継者とする遺言(乙12)や米国での商標権を含む原告会社の営業上のすべての権利をインターナショナル社に譲渡する旨の契約(乙36)により、原告会社の事業を承継した。そして、E又は同人が設立したインターナショナル社は、原告会社の元職人や原告会社の金型を利用し、本件登録商標1及び2と同一又は類似の標章を使用してシルバーアクセサリー類を製造、販売及び輸出するとともに、平成13年5月の設立直後から、被告側米国商標の登録出願をした。そして、CDM社は、平成15年7月から同年9月までの間に、インターナショナル社から、同社の日本及び米国における商標権等を含むすべての営業上の権利を譲り受けた。
(イ) したがって、本件登録商標1及び2と同一の標章は、本件登録商標1及び2の出願前に、E、インターナショナル社及びCDM社の販売及び宣伝広告活動により、インターナショナル社又はその事業の承継人であるCDM社の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内において周知性を有するに至った。
イ 原告ら
(ア) 後記(4)ア(イ)のとおり。
(イ) 被告の主張(イ)は否認する。
(3) 商標の先使用(商標法32条)
ア 被告
(ア) 上記(2)アのとおり。
(イ) インターナショナル社又はその業務を承継したCDM社に不正競争の目的はなかった。
(ウ) 被告は、インターナショナル社又はその業務を承継したCDM社の先使用権を援用することができる。
イ 原告ら
(ア) 上記(2)イのとおり。
(イ) 被告の主張(イは否認する。
(ウ) 同(ウは争う。
(4) 本件立体的形状の原告会社の商品等表示としての周知性(不正競争防止法2条1項1号)
ア 原告ら
(ア) 本件立体的形状は、遅くともBが死亡する前に、原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていたが(前提事実(3)ウ)、平成8年から平成12年初めころにかけては有限会社ワキサカが、平成12年初めころから平成14年7月ころにかけてはShin Andoが、平成14年7月からは有限会社ムーンワークスが、原告会社の商品を日本国内に輸入し、販売していたから、本件立体的形状の原告会社の商品であることを示すものとしての周知性は、失われることなく存続していた。
(イ)a 後記被告の主張(イ)aは否認する。
b 同bは否認する。
 遺言書写し(乙12)や譲渡契約書写し等(乙36、37)は、偽造文書であり、原告会社がインターナショナル社から営業譲渡の代金を受け取ったこともない。原告会社の金型も、Eが無断で持ち出したにすぎない。
c 同cは否認する。
d 同dは認める。
e 同eは否認する。
 米国カルフォルニア州中部地区地方裁判所におけるCDM社と原告会社との間の訴訟(事件番号CV07−03904MMM(Ex)、2007年11月6日訴え却下)では、乙27及び39は提出されていなかった。それらの証拠は、米国訴訟での敗訴を受け、最近になって作成されたものである。
f 同fは否認する。
g 前提事実(4)ウ(ア)のとおり、原告会社とインターナショナル社は本件極秘和解契約を締結しており、インターナショナル社は、原告会社の事業を承継しなかったことを自認している。
イ 被告
(ア) 原告の主張(ア)は否認する。
(イ)a 原告会社は、Bの死後、Eら職人が金型を持って退社したため、事業を中断した。原告会社が事業を再稼働したのは、平成15年以降である。
b 他方、E又はインターナショナル社は、Bの平成10年12月付けEを後継者とする遺言(乙12)や個人及び原告会社の代表者としてのBの平成10年12月10日付け米国での商標権を含む原告会社の営業上のすべての権利をインターナショナル社(ただし、法人となる前)に対し譲渡する旨の契約(乙36)及び代金20万ドルの支払(乙37)により、原告会社の事業を承継した。
c そして、E又は同人が設立したインターナショナル社は、B死亡直後から、原告会社の元職人や原告会社の金型を利用し、本件登録商標1及び2と同一又は類似の標章を使用してシルバーアクセサリー類を製造、販売及び輸出した。
d また、インターナショナル社は、平成13年5月の設立直後から、被告側米国商標の登録出願をした。
e CDM社は、平成15年7月31日から同年9月5日までに間に、インターナショナル社から、同社の日本及び米国における商標権等を含むすべての営業上の権利を57万ドルで譲り受けた(乙27、39)。
f したがって、本件立体的形状は、インターナショナル社又はCDM社の日本国内における販売及び宣伝広告活動により、上記両社の商品等表示として周知性を獲得している。
g 原告の主張(イ)gは否認する。
 本件極秘和解契約は、Cがマフィアの力を背景にE及びFを脅迫したことによりされたものである。
(5) 商品等表示の先使用(不正競争防止法19条1項3号)
ア 被告
(ア)a 前記(4)イ(イ)aないしeのとおり。
b このように、Eが設立したインターナショナル社は、本件立体的形状が原告会社の商品等表示として日本国内で周知性を有する前から、本件登録商標1及び2と同一又は類似の標章を使用してシルバーアクセサリー類を製造、販売及び輸出していた。
(イ) インターナショナル社又はその業務を承継したCDM社に不正の目的はなかった。
(ウ) 被告は、インターナショナル社又はその業務を承継したCDM社の先使用権を援用することができる。
イ 原告
(ア)a 前記(4)ア(イ)aないしeのとおり。
b 被告の主張(ア)bは否認する。
(イ) 同(イ)は否認する。
(ウ) 同(ウ)は争う。
(6) 不正競争行為についての故意過失及び営業上の利益の侵害(不正競争防止法3条、4条)
ア 原告ら
(ア) 原告会社は、本件商品3の販売等により、営業上の利益が侵害された。
(イ) 被告には、本件商品3の販売等による原告会社の営業上の利益の侵害につき、少なくとも過失がある。
イ 被告
 原告の主張は否認する。
(7) 損害
ア 原告ら
(ア) 原告会社
a 商標権侵害に基づく損害(商標法38条3項)
(a) 売上高
 本件商品1の1(本件登録商標1及び本件類似商標)及び本件商品1の2(本件類似商標。本件商品2の2は、すべて本件商品1の2に含まれる。)の平成16年12月から平成20年1月22日までの売上高は、2500万円を下らない。
(b) 使用料率
 本件登録商標1の使用料率は、売上高の8%が相当である。
(c) 損害
 売上高2500万円に8%を乗じた200万円が損害である。
b 不正競争防止法違反に基づく損害(不正競争防止法5条3項)
(a) 売上高
 本件商品3の平成16年12月から平成20年1月22日までの売上高は、2500万円を下らない。
(b) 使用料率
 本件立体的形状の使用料率は、売上高の8%が相当である。
(c) 損害
 売上高2500万円に8%を乗じた200万円が損害である。
c 弁護士費用
 100万円が相当である。
(イ) 原告A
a 売上高
 本件商品1の2の平成16年12月から平成20年1月22日までの売上高は、7000万円を下らない。
b 使用料率
 本件登録商標2の使用料率は、売上高の8%が相当である。
c 損害
 売上高7000万円に8%を乗じた560万円が商標権侵害に基づく損害である。
d 弁護士費用
 100万円が相当である。
イ 被告
(ア) 原告会社
 原告会社の主張はいずれも否認する。
 被告の平成16年12月から平成19年11月末までの関連商品の売上高は、1740万0990円にすぎない。
(イ) 原告A
 原告Aの主張は否認する。
 被告の平成16年12月から平成19年11月末までの関連商品の売上高は、1740万0990円にすぎない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(4)(本件立体的形状の原告会社の商品等表示としての周知性)について
(1) Bの生前
 前提事実(3)ウのとおり、本件立体的形状は、遅くともBが死亡する前に、原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
(2) Bの死後
ア 原告の周知性の継続
(ア) 上記(1)のとおり、平成11年1月以前に、本件立体的形状が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、前提事実(3)アのとおり、原告会社は、本件立体的形状を有する商品を、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて日本へ輸出、販売している事実によれば、原告会社の商品等表示として周知性は現在まで継続して維持されているものと認めるべきである。
(イ) 確かに、前提事実(7)ア及びイの関係記事によれば、原告会社では、B死亡後に内紛が生じ、平成11年1月ころから平成13年12月ころにかけて事業を中断し、又はかなりの程度縮小させたことが認められる。しかし、その中断等の期間は3年程度であり、平成14年1月以降は、事業を再稼働させ、それに伴い本件立体的形状や本件登録商標1及び2を有する原告の商品が継続的に各種雑誌に取り上げられ、高い評価を受けていること(特に、前提事実(7)ア(エないし(キによる。)やBの生前のシルバーアクセサリーの世界における極めて高い評価にかんがみれば、原告会社の事業が中断されていた期間があったとしても、その期間に本件立体的形状が原告会社の商品等表示としての周知性を喪失したとは考え難い。
イ 被告の周知性の併存
 本件立体的形状が原告会社の商品等表示として周知性を維持していたとしても、本件立体的形状がインターナショナル社又はCDM社の商品等表示としても周知性を有することもあり得ないではない。
 しかしながら、前提事実(7)イのとおり、インターナショナル社又はCDM社に関する各種雑誌記事は、ごく最近の釈明広告である前提事実(7)イ(カ)を除けば、平成14年6月から平成15年8月までの約1年間に掲載されたもののみであり、しかも、その時期は、既に原告会社が事業を再稼働させた時期以降であるから、インターナショナル社又はCDM社が原告会社の周知な商品等表示と並存して商品等表示の周知性を獲得したものと認定することは、到底できない。
ウ 事業の承継
(ア) 被告は、インターナショナル社が原告会社の業務を承継した証拠として、B名義の遺言書写し(乙12)や原告会社とインターナショナル社名義の平成10年12月10日付け契約書写し(乙36)を提出する。
(イ)a 被告の提出に係るB名義の遺言書写し(乙12)は、原告会社のマークが透かしとして入った紙面に、「親愛なるE 私亡き後、ガボラトリーの私の事業を貴方に続けてもらいたい。私は、貴方が最大の敬意をもって私の名声を維持し、私が一生をかけた仕事の遺産を引き継いでくれるよう信じている。私は、私がいつもそうしていたように、貴方にも私の職人達を貴方の家族のように世話をしていってほしい。
B (手書き)
B 1998年12月
ガボラトリー インク」という内容が、手書きの部分を除いてタイプで記載されているというものである。
b しかしながら、上記遺言書写しの原本の提示はなく、写しに対応する原本が実際に作成されたのか、さらに、その手書き部分が真実Bのものであるかを認めるに足りる証拠はない。
c Bのシルバーアクセサリー事業は、平成6年から法人化し、原告会社によって行われていたところ(前提事実(1)ア)、遺言書の内容自体、Eに原告会社に残ってその重要な社員又は役員としてシルバーアクセサリー事業の継続に貢献してほしいと解する余地があり、一義的にEに原告会社の株を譲渡するとか、シルバーアクセサリー事業を譲渡するものと解することはできないものである。
d 加えて、Bは、1953年5月30日生まれであり(甲12の2)、その死亡も、「シルバー界の首領といわれたBにあまりに突然の死が訪れたのはある早朝のことだった。いつものように、妻のAさんが彼を起こしに行ったところ愛犬のピッド・ブル、Dr.SPOCKと一緒に彼は静かに眠っていた。死因は心不全。享年45歳。前日の夜は友だちと自宅で、大好きなビリヤードをいつもと同じように楽しんでいたにも関わらず・・・」(甲12の2)とあるように、不意のものであったことが認められる。なお、甲29によると、Bが慢性の肝臓病を患っていたことがうかがわれるが、入院中であったなど、死期間近であったことを推認させるに足りる証拠はない。したがって、当時45歳のBが、その死亡の1か月前に、不意の死を予見したかのような遺言を残す理由も動機も見当たらない。
e よって、B名義の遺言書写し(乙12)は、採用することのできない証拠であるというほかはない。
(ウ)a 被告提出に係る平成10年12月10日付け原告会社とインターナショナル社名義の契約書写し(乙36)は、「・・・Bは、商標、著作権、オリジナルのシルバー金型の原型、営業権を含む(ただし、これらに限られない。)『ガボール』と『ガボラトリー』に関する事業のすべての権利をGI(インターナショナル社)に譲渡することを望む。・・・
B (手書き)
B プレジデントガボラトリーインク
F (手書き)

ガボラトリーインターナショナル」というものである。
 また、被告提出に係る平成10年12月10日付け領収書写し(乙37)は、上記契約に対する対価20万ドルを原告会社が領収したことを確認する内容の書面であり、B名義の署名がある。
b しかしながら、上記契約書写し及び領収書写しの原本の提示はなく、写しに対応する原本が実際に作成されたのか、さらに、その手書き部分が真実Bのものであるかを認めるに足りる証拠はない。
c また、乙36及び37の提出経過は、あまりにも不自然である。両号証の内容からすれば、本件において極めて重要な証拠資料であることは明らかであるにもかかわらず、その提出は、訴状が送達された平成19年3月15日から約8か月が経過し、しかも、原告らの損害についての審理が始まった平成20年1月22日の第6回弁論準備手続においてされたものであり、いかにも時機に後れた段階でされている。
 この点につき、被告は、原告AのパートナーであるCは、マフィアの構成員であり、Eにピストルを突き付けたり親友のギャングにCDM社の従業員を取り囲ませて脅迫をするなどしていたのであり、自分もそのCから命をねらわれるなどの脅迫を受けていた旨のDの陳述書(乙40、41)やこれに沿うFの陳述書(乙38)を提出する。しかしながら、マフィアに脅迫されても、米国で本件商品3の製造、輸出を継続しながら、他方で、マフィアに脅迫されたから日本の裁判所に提出する証拠を被告に手渡すのが遅れたというのは、いささか首をかしげざるを得ない弁解である。しかも、Dから被告に渡された遺言書写し(乙12)は、既に平成19年7月6日の第2回弁論準備手続において証拠提出されているから、同じ時期に契約書写し(乙36)及び領収書写し(乙37)の提出ができなかった事情があったとは考えられない。
 さらに、Fの平成19年11月19日付け供述書(乙24)は、Bが平成10年12月にEに遺言書を渡し、EがBの事業を引き継ぐことを望む旨告げたことを供述しながら、それと同時期に作成された契約書(乙36)及び領収書(乙37)の存在について触れていないが、このことは、極めて不自然である。
d さらに、前記(イのとおり、Bの死去は全くの急死であり、当時45歳であったBが、その死亡の1か月前に、不意の死を予見したかのように、全事業をたかだか20万ドルでインターナショナル社に譲渡し、原告会社の事業を取り止める理由も動機も見当たらない。
e したがって、平成10年12月10日付け契約書写し(乙36)は、領収書写し(乙37)と共に、採用することのできない証拠であるというほかはない。
(3) 結論
 以上のとおり、平成11年1月以前に本件立体的形状が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、その周知性は、現在まで継続して維持されているものである。
2 争点(2)(本件登録商標1及び2の無効)について
(1) 「他人の業務」(商標法4条1項10号)について
 本件登録商標1及び2が商標法4条1項10号により登録を受けることができないとするためには、本件登録商標1及び2が、原告会社ではなく、「他人の業務」に係る商品を表示するものでなければならない。本件においては、本件登録商標1がその出願日(平成13年8月8日)までに、本件登録商標2がその出願日(平成16年8月4日)までに、それぞれインターナショナル社又はCDM社の業務に係る商品を表示するものとして日本国内で周知性を有していたことが必要である。
(2) Bの生前
 前提事実(2)ア(イ)及びイ(イ)のとおり、本件登録商標1及び2は、遅くともBが死亡する前から、B又は原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
(3) Bの死後
ア 原告の周知性の継続
(ア) 上記(2)のとおり、平成11年1月以前に、本件登録商標1及び2が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、前提事実(2)ア(ウ)及び同イ(エ)のとおり、原告会社は、本件登録商標1及び2を有する商品を、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて日本へ輸出、販売している事実によれば、本件登録商標1及び2の原告会社の業務に係る商品を表示するものとしての周知性は現在まで継続して維持されているものと認めるべきである。
(イ) 確かに、前記1(2)ア(イ)のとおり、原告会社では、B死亡後に内紛が生じ、平成11年1月ころから平成13年12月ころにかけて事業を中断するなどしたが、その中断等の期間は3年程度であり、平成14年1月以降は、事業を再稼働させ、それに伴い本件登録商標1及び2を付された原告商品が継続的に各種雑誌に取り上げられ、高い評価を受けるとともに、Bは生前シルバーアクセサリーの世界で極めて高い評価を得ていたものであるから、原告会社の事業が中断されていた期間があったとしても、その期間に本件登録商標1及び2が原告会社の業務に係る商品を表示するものとしての周知性を喪失したとは考え難い。
イ 被告の周知性の併存
 前記1(2)イのとおり、インターナショナル社又はCDM社に関する各種雑誌記事の大部分は、平成14年6月から平成15年8月までの約1年間に掲載されたもののみであり、しかも、その時期は、既に原告会社が事業を再稼働させた時期以降であるから、本件登録商標1及び2が原告会社だけでなく、インターナショナル社又はCDM社の商標としても周知性を獲得したものと認定することは、到底できない。この点は、商標の先使用に関する商標法32条における周知性について認定できないことも同様である。
ウ 事業の承継
 被告の事業の承継の主張に理由がないことは、前記1(2)ウのとおりである。
(4) 結論
 以上のとおり、平成11年1月以前に本件商標1及び2が原告会社の商標として周知性を獲得し、その周知性は、現在まで継続して維持され、本件登録商標1及び2がインターナショナル社又はCDM社の商標として周知性を獲得したことは認定できないものであるから、被告の本件登録商標1及び2の無効(商標法4条1項10号)の主張は、理由がない。
3 争点(1)(本件類似商標の使用と商標権の行使)について
(1) 前提事実(6)ア(ア)c及び(イ)aのとおり、本件類似商標は、先願である本件登録商標1に類似し、本件登録商標1の指定商品と同一又は類似する商品に使用するものであるから、その商標登録は無効とされるべきであると認められる。
(2) したがって、被告の本件類似商標の使用と商標権の行使の主張は、理由がない。
4 争点(3)(商標の先使用)について
(1) 本件登録商標1及び2が、インターナショナル社又はCDM社の業務に係る商品を表示するものとして周知性を獲得したと認定できないことは、前記2(3)イにて認定判断したとおりである。
(2) したがって、被告の商標の先使用(商標法32条)の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
5 争点(5)(商品等表示の先使用)について
(1) 前記1に認定判断のとおり、本件立体的形状は平成11年1月以前に原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、その周知性は現在まで継続して維持されているものであるところ、インターナショナル社又はCDM社が平成11年1月以前に日本国内に本件商品3を輸出、販売したとの主張はない。
(2) したがって、被告の商品等表示の先使用(不正競争防止法19条1項3号)の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
6  争点(6)(故意過失及び営業上の利益の侵害)
(1) 営業上の利益の侵害
 原告会社の周知な商品等表示である本件立体的形状と同一の形状を有する本件商品3を販売することが原告会社の営業上の利益を侵害することは、明らかである。
(2) 故意過失について
ア 前記1及び2で認定判断したとおり、平成11年1月以前から、本件登録商標1及び本件立体的形状は、原告会社の商標及び商品等表示として、既に周知であった。
イ また、前提事実(7)ア及びイのとおり、被告がCDM社との間でUSA社が取り扱うシルバーアクセサリー等の日本における独占販売元契約を締結した平成16年11月以前から、原告会社とインターナショナル社との間で商標の正当性を巡って紛争のあることが雑誌に記載されているから、その紛争は、少なくとも取引者の間では公知であったと認められる。
ウ 被告がCDM社と取引を始めた平成16年11月時点では、前提事実(2)アのとおり、本件登録商標1は既に原告会社の商標として登録されていたが、前提事実(4)イ(イ)及び(ウ)のとおり、米国王冠付Gロゴマーク商標1及び2は、いまだ米国で登録を得られていなかった。
エ しかるに、前提事実(1)ウのとおり、被告は、舶来バックの輸入卸売を業とし、数多くのブランド商品を取り扱い、原告会社とインターナショナル社との間で紛争のあることが知られた状況下にあったにもかかわらず、CDM社又はUSA社の被承継人とされているインターナショナル社の権原について調査をした形跡は認められない。
オ したがって、被告には、本件商品3の販売等による原告会社の営業上の利益の侵害につき、少なくとも過失があることが認められる。
7 争点(7)(損害)について
(1) 原告会社
ア 商標権侵害に基づく損害
(ア) 売上高
 本件登録商標1を商品に使用した本件商品1の1の売上高として、別紙「損害計算表(被告商品目録1の1)」記載のとおり(各別紙損害計算表の記載内容については、別紙損害計算表の説明書で説明を加えた。)、1589万8340円を認めることができるが(乙31の1〜12、32、弁論の全趣旨)、これを超える売上高があることを認めるに足りる証拠はない。
 本件登録商標1と類似する本件類似商標を包装に使用した本件商品1の2(本件商品2の2を含む。)のうち、本件商品1の1と重複しない商品の売上高として、別紙「損害計算表(被告商品目録1の2−非重複分)」記載のとおり、27万8120円を認めることができるが(乙31の1〜12、32、弁論の全趣旨)、これを超える売上高があることを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 使用料率
 シルバーアクセサリー製品は、ブランドが尊ばれる商品であり、本件登録商標1及び本件類似商標は、このようなシルバーアクセサリー製品に付され、しかも周知性を有するものであるから、その使用料率は、8%を下回るものではない。ただし、両者が使用されている場合でも、いずれも同一の出所識別表示機能又は品質保証機能しか有しないものであるから、これを倍増させることはしない。
(ウ) 損害
 以上から、本件登録商標1及び本件類似商標の商標を使用したことによる原告会社の商標権侵害に基づく損害は、売上高のおよそ8%である129万円となる。
((1589万8340円+27万8120円)×0.08)≒129万円
イ 不正競争防止法に基づく損害
(ア) 売上高
 本件商品3の売上高として、別紙「損害計算表(被告商品目録3)」記載のとおり、1616万0720円を認めることができるが(乙31の1〜12、32、弁論の全趣旨)、これを超える売上高があることを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 使用料率
 本件立体的形状は、シルバーアクセサリーというデザイン及びブランドが重視される商品の形態そのものであり、その売上げに寄与すべきもっとも重要な部分であるから、その使用料率は、8%を下回るものではない。そして、商品本体に係る商品等表示の使用料は、出所識別表示機能又は品質保証機能を果たす商標の使用料とは別に算定されるべきである。
(ウ) 損害
 以上から、本件立体的形状を使用したことによる原告会社の不正競争防止法に基づく損害は、売上高のおよそ8%である129万円が相当である。
1616万0720円×0.08≒129万円
(エ) 弁護士費用
 本件訴訟の内容、認容額等の諸般の事情にかんがみると、弁護士費用としては、50万円が相当である。
(2) 原告A
ア 売上高
 本件商品1の2の本件登録商標2が登録された平成18年6月16日以降の売上高として、別紙「損害計算表(被告商品目録1の2)」記載のとおり、376万9110円を認めることができるが(乙31の1〜12、32、弁論の全趣旨)、これを超える売上高があることを認めるに足りる証拠はない。
イ 使用料率
 本件登録商標2は、原告会社の商品をデザインし、シルバーアクセサリーの業界において高名を博したBのファーストネームを意味し(前提事実(7)ア)、本件登録商標1と共に原告会社の商品の売上げに対し高い寄与をするものと認められるから、本件登録商標1と別な評価を要するものというべきであり、その使用料率は、本件登録商標1と同様に、8%を下回るものではないと認められる。
ウ 損害
 以上から、本件登録商標2を使用したことによる原告Aの損害は、売上高のおよそ8%である30万円が相当である。
376万9110円×0.08≒30万円
エ 弁護士費用
 本件訴訟の内容、認容額等の諸般の事情にかんがみると、弁護士費用としては、10万円が相当である。
8 結論
(1) 原告会社
 原告会社の請求のうち、損害賠償請求を除くその余の請求は全部理由があるからこれらを認容し、損害賠償請求は、258万円(129万円+129万円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年3月16日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払、並びに弁護士費用分50万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年3月16日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。
(2) 原告A
 原告Aの請求のうち、損害賠償請求を除くその余の請求は全部理由があるからこれらを認容し、損害賠償請求は、30万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年3月16日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払、並びに弁護士費用分10万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年3月16日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。
(3) 結語
 よって、仮執行の宣言は、主文第3項(2)の限度で付するのを相当と認め、その余は付さないこととし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 中村恭
 裁判官 宮崎雅子
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