判例全文 line
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【事件名】「占い本」の著作権侵害事件(激数占い)
【年月日】平成20年6月11日
 東京地裁 平成19年(ワ)第31919号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年4月23日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 沼田安弘
同 石山卓磨
同 宮之原陽一
同 中村正利
同 倉本義之
同 菊地和加子
同 佐藤仁良
同 森田健介
被告 B(以下「被告B」という。)
同訴訟代理人弁護士 龍村全
同 楠本雅之
被告 株式会社講談社(以下「被告講談社」という。)
同訴訟代理人弁護士 美勢克彦
同 秋山佳胤
被告 株式会社テレビ朝日(以下「被告テレビ朝日」という。)
同訴訟代理人弁護士 伊藤真


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1(1) 被告Bは、別紙書籍目録記載1 の書籍(以下「被告書籍1」という。)及び同目録記載2の書籍(以下「被告書籍2」という。)を発行し、販売し、贈与してはならない。
(2) 被告Bは、その占有する被告書籍1及び2を廃棄せよ。
(3) 被告Bは、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を、同目録記載4の条件で掲載せよ。
2(1) 被告講談社は、被告書籍1を発行し、販売し、贈与してはならない。
(2) 被告講談社は、その占有する被告書籍1を廃棄せよ。
(3) 被告講談社は、別紙謝罪広告目録記載2の謝罪広告を、同目録記載4の条件で掲載せよ。
3(1) 被告テレビ朝日は、被告書籍2を発行し、販売し、贈与してはならない。
(2) 被告テレビ朝日は、その占有する被告書籍2を廃棄せよ。
(3) 被告テレビ朝日は、別紙謝罪広告目録記載3の謝罪広告を、同目録記載4の条件で掲載せよ。
4 被告B及び被告講談社は、原告に対し、連帯して1億円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告B及び被告テレビ朝日は、原告に対し、連帯して1億円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、被告書籍1及び2が、原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張して、著作権法112条に基づき当該書籍の販売等の差止め及び在庫品の廃棄、民法709条に基づき損害賠償金及び遅延損害金の支払、並びに著作権法115条(同一性保持権侵害)に基づき謝罪広告を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、数霊占術学会から出版された「数霊占術講義(1)入門初級編(改訂版)」(平成3年7月28日改訂版発行。甲1。以下「原告書籍」という。)の著作者であり、著作権者である。
(甲1、弁論の全趣旨)
イ(ア) 被告講談社は、雑誌及び書籍の出版等を業とする株式会社であり、平成19年6月19日、被告書籍1(甲2)を発行した。
(イ) 被告テレビ朝日は、放送法によるテレビジョン、その他一般放送事業、出版物の刊行並びに販売等を業とする株式会社であり、平成17年12月5日、被告書籍2(甲3)を発行した。
(ウ) 被告Bは、被告書籍1の著作者であり、被告講談社に対し、被告書籍1の出版を許諾した。
 被告Bは、被告書籍2の著作者であり、被告テレビ朝日に対し、被告書籍2の出版を許諾した。
(以上、争いのない事実、弁論の全趣旨)
(2) 各書籍の記載内容
ア 原告書籍、被告書籍1及び被告書籍2には、別紙原告書籍と被告書籍1及び2との対比表(以下「別紙対比表」という。)記載のとおりの記載箇所がある。
(争いのない事実)
イ 原告が被告書籍1につき侵害を主張する箇所は、次のとおりである。
(ア) 旧暦に基づく算出(別紙対比表1の波線部分)
a 原告書籍1
 原告書籍(24頁)には「生年数」、 を旧暦に基づいて算出することについて、「生年数を出す時、一番大事な観点は、暦における節入で、入門初心者がかならずと言ってよいほど、間違いを起こすところですから、何回も繰り返して、ご記憶下さい。毎年の立春から翌年の節分までを一年として区分けします。立春は、平年は二月四日頃、閏年は二月五日頃が節入りとなります。従って一月生れ、二月節入り前に生れた場合は、前年で計算します。」と記載されている(以下、この記載を「原告書籍1」といい、他の記載についても同様に略称する。)。
b 被告書籍1の1
 被告書籍1(22頁)には、「宿命数」を旧暦に基づいて算出することについて、「ひとつだけ気をつけていただきたいのは、この占いは旧暦がベースになっているということ。ですので、一年間は、節分の2月3日までとなります。つまり、1月1日〜2月3日までの間に生まれた方は、前年生まれになるのです。」と記載されている(以下、この記載を「被告書籍1の1」といい、他の記載についても同様に略称する。)。
(イ) 「命数」の出し方(別紙対比表2の破線部分)
a 原告書籍2
 原告書籍(90頁)には、「命数」の出し方について、「・・・年・月・日を加えて、単数化した数を、命数とし、」と記載されている(原告書籍2)。
b 被告書籍1の2
 被告書籍1(22頁)には、「宿命数」の求め方について、「・・・生年月日をすべて一桁の数にばらします。そして、それをはしから足していく・・・」と記載されている(被告書籍1の2)。
(ウ) 具体例(別紙対比表3の二重線部分)
a 原告書籍3
 原告書籍(91〜92頁)には、「命数」の出し方の具体例として、
 「昭和29年(1954)3月20日生。
 1+9+5+4=19 1+9=10 1+0=@。3月は生月の数がBですから、そのまま使用します。20日の場合は複数ですから、2+0=Aとします。そのうえで、年月日の単数を加えます。
 @+B+A=E このEを命数と呼びます。」と記載されている(原告書籍3)。
b 被告書籍1の3
 被告書籍1(22頁)には、「宿命数」の求め方の具体例として、
 「1981年2月1日生まれの方は、1980年2月1日として計算をしてください。この場合、1+9+8+0+2+1=21となり、2+1=3で宿命数は3となります。」と記載されている(被告書籍1の3)。
(エ) 数霊盤の数の展開(別紙対比表4の破線部分)
a 原告書籍4
 原告書籍(35頁)には、「数霊盤」の数の展開について、「・・・A場にD数を入れ、アルファベット順に数を入れて行きます・・・」と記載されている(原告書籍4)。
b 被告書籍1の4
 被告書籍1(116頁)には、「命式」の作り方について、「・・・黒丸数字の順序に従って、数字を配列します。」と記載されている(被告書籍1の4)。
(オ) 破壊数の説明(別紙対比表5の一点鎖線部分)
a 原告書籍5
 原告書籍(42頁)には、「破壊数」について、「・・・凶作用を誘発する、凶性の意味をもつ数・・・」と記載されている(原告書籍5)。
b 被告書籍1の5
 被告書籍1(24頁)には「破壊、 数」について、「破壊数は、人生においてマイナスとなる性質や運勢傾向を表す数。・・・」と記載されている(被告書籍1の5)。
(カ) 数字の印の付け方(別紙対比表6の太い一点鎖線部分)
a 原告書籍6
 原告書籍(43頁)には、「数霊盤」に記入した数字の印の付け方について、「破壊数の記号は『×』です。数霊盤に記入する十二支の記号は『○』です。」と記載されている(原告書籍6)。
b 被告書籍1の6
 被告書籍1(117頁)には、「命式」に記入した数字の印の付け方について、「数字をすべて埋めたら、破壊数に×を、宿命数と姓名数に○をつけます。」と記載されている(被告書籍1の6)。
(キ) 数霊簡易暦(別紙対比表7。別紙Aと別紙C)
a 原告書籍7
 原告書籍(153〜170頁)には、1912(大正1)年から2000(平成12)年まで、別紙Aの「数霊簡易暦」の縦書きの一覧表の形式で、各年の月ごとに、旧暦に従った「節入(日)」、「(生)月数理」、「十二支」、月ごとの「破壊数」が記載され、各年ごとに、「(生)年数理」、「十二支」、年ごとの「破壊数」が記載されている(原告書籍7)。
b 被告書籍1の7
 被告書籍1(184〜189頁)には、1935年から2006年まで、別紙Cの「破壊数早見表」の横書きの一覧表の形式で、各年の月ごとに、旧暦に従った「節入(日)」、「激数」、「破壊数」が記載されている(被告書籍1の7)。
(ク) 破壊数一覧表(別紙対比表8。別紙Bと別紙C)
a 原告書籍8
 原告書籍(152頁)には、別紙Bの「破壊数一覧表」のとおり、大正1(1912)年から平成13(2001)年までの各年ごとの「破壊数」の一覧表が掲載されている(原告書籍8)。
b 被告書籍1の8
 被告書籍1(184〜189頁)には、1935年から2006年まで、別紙Cの「破壊数早見表」の形式で、各年の月ごとの「破壊数」の一覧表が掲載されている(被告書籍1の8)。
(ケ) 数霊盤(別紙対比表9)
a 原告書籍9
 原告書籍(35頁)には「数霊盤」、 の数の展開の説明において、別紙対比表「9数霊盤」に記載のとおりの図(5図)が記載されている(原告書籍9)。
b 被告書籍1の9
 被告書籍1(117頁)には、「命式」の作り方の説明において、「激数8の人の場合」として、別紙対比表「9 命式」に記載のとおりの図が記載されている(被告書籍1の9)。
ウ 原告が被告書籍2につき侵害を主張する箇所は、次のとおりである。
(ア) 旧暦に基づく算出(別紙対比表1の波線部分)
a 原告書籍1
 前記イ(ア)aと同じ。
b 被告書籍2の1
 被告書籍2(9頁)には、「宿命数」を旧暦に基づいて算出することについて、「・・・旧暦がベースとなり、1年は、節分(2月4日)からスタートすると考えるのです。たとえば、2006年は2006年2月4日〜2007年2月3日まで。2006年1月1日〜2月3日は、宿命数を考える上では『2005年』となることを覚えておいてください。」と記載されている(被告書籍2の1)。
(イ) 破壊数の説明(別紙対比表5の一点鎖線部分)
a 原告書籍5
 前記イ(オ)aと同じ。
b 被告書籍2の5
 被告書籍2(68頁)には「破壊、 数」について、「・・・最大かつ最凶の影響を与えるのが『破壊数』です。」と記載されている(被告書籍2の5)。
(ウ) 破壊数一覧表(別紙対比表8。別紙Bと別紙D)
a 原告書籍8
 前記イ(ク)aと同じ。
b 被告書籍2の8
 被告書籍2(70〜71頁)には、別紙Dの「生まれ年で見る破壊数早見表」のとおり、1950年から1999年までの各年ごとの「破壊数」の一覧表が掲載されている(被告書籍2の8)。
2 争点
(1) 争点1 複製権又は翻案権の侵害の有無及び同一性保持権の侵害の有無
ア 実質的同一等
イ 依拠
(2) 争点2 故意又は過失
(3) 争点3 損害の有無及び額
(4) 争点4 謝罪広告の必要性
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(複製権等及び同一性保持権の侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 原告書籍の内容
(ア) 数霊学は、暦を生活の基盤とし、数と言語に時間論を導入し、周期・波動・構造によって、万学に通じる超科学としての未来予知学の基礎を確立する学問である。原告書籍は、数霊学の理論を活用して占術に採り入れた「数霊占術」に関する著書である。
(イ) 数霊占術の特徴は、@下記(ウ)の「命数」「破壊数」等の基本用語を使用すること、A下記(ウ)Cの「生年数」の出し方にあるとおり、各桁の数字を1つ1つ加えることを繰り返して1桁の数にする単数化という方法を採用していること、B「数霊盤」という正方形を9等分したマス目に入る数の配置から、未来予知をすることにある。
(ウ) 「数霊占術」の基本用語は、次のとおりである。
@ 「陽数理」(ようすうり)
 時間論の基本で、生年、生月、生日、生時の時間数理をいう。
A 「命数」(めいすう)
 生年、生月、生日を加えた単数で、統括された生命環境をいう。
B 「破壊数」(はかいすう)
 マイナス要因の数のことをいう。
C 「生年数」(せいねんすう)
 生年を西暦年数で表し、1つ1つ加えて単数化した数をいう。なお、「生年数」は旧暦に基づいて算出する。
D 「生月数」(せいげつすう)
 生まれた月の数をいう。
E 「生日数」(せいじつすう)
 生まれた日の数をいう。
イ 原告書籍と被告書籍1との実質的同一性
(ア) 旧暦に基づく算出
 原告書籍1と被告書籍1の1とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(イ) 「命数」の出し方
 原告書籍2と被告書籍1の2とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(ウ) 具体例
 原告書籍3と被告書籍1の3とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(エ) 「数霊盤」の数の展開
 原告書籍4と被告書籍1の4とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(オ) 「破壊数」の説明
 原告書籍5と被告書籍1の5とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(カ) 数字の印の付け方
 原告書籍6と被告書籍1の6とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(キ) 数霊簡易暦
 原告書籍7と被告書籍1の7とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(ク) 破壊数一覧表
 原告書籍8と被告書籍1の8とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(ケ) 数霊盤
 原告書籍9は、1〜9までのすべての数を数霊理論で展開したときに各場にどのような数が配置されるかを表した別紙Eの複数枚の図(6図。原告書籍36頁)を統一的に表したものであり、原告の数霊に関する思想と計算方法を、文章によって表現するのではなく、マス目にアルファベットと数字を配置することによって視覚的に表現したものであって、独創的表現である。
 被告書籍1の9は、原告書籍9と同様に、正方形に9等分されたマス目を用い、全く同じ順番で「激数」を1つずつ大きくなるように配置し、配置された各数字と場の持つ意味との関係を視覚的に理解できるようにしたものであり、数字の配置の順序の表記がアルファベットか黒丸数字かというわずかな違いがあるだけで、原告書籍9の表現上の本質的特徴を直接感得できる。
 したがって、原告書籍9と被告書籍1の9とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
ウ 原告書籍と被告書籍2との実質的同一性
(ア) 旧暦に基づく算出
 原告書籍1と被告書籍2の1とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(イ) 「破壊数」の説明
 原告書籍5と被告書籍2の5とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
(ウ) 破壊数一覧表
 原告書籍8と被告書籍2の8とは、表現において異なる点があるが、実質的に同一である。
エ 依拠
 被告Bは、原告書籍に依拠して、本件書籍1及び2を著作した。
オ 結論
 よって、被告らによる被告書籍1及び2の発行等は、原告書籍に関する原告の複製権(主位的)又は翻案権(予備的)を侵害し、同一性保持権も侵害するものである。
(被告らの主張)
ア 原告書籍の内容
 原告の主張アは知らない。
イ 原告書籍と被告書籍1との実質的同一性
(ア) 旧暦に基づく算出
a 同イ(ア)は否認する。
b 被告書籍1の1は、原告書籍1と表現において全く異なり、原告書籍1の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍1と被告書籍1の1との共通点は、「旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分までを1年として区分する」という「方法」ないし「アイデア」にあるにすぎない。
 また、占いにおいて、旧暦に従って計算するという「方法」ないし「アイデア」自体は、ありふれたものである。
(イ) 「命数」の出し方
a 同(イ)は否認する。
b 被告書籍1の2は、原告書籍2と表現において全く異なり、原告書籍2の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍2と被告書籍1の2との共通点は、生年月日を構成する数字を西暦で表し、1桁の数字になるまで各桁の数字を加算するという「方法」ないし「アイデア」にあるにすぎない。
 また、占いにおいて、このような「方法」ないし「アイデア」自体は、ありふれたものである。
(ウ) 具体例
a 同(ウ)は否認する。
b 被告書籍1の3は、原告書籍3と表現において全く異なり、原告書籍3の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 被告書籍1の3は、上記(イ)の計算方法を具体例にあてはめたにすぎず、上記(イ)と同様、著作権法の保護対象ではない。
(エ) 「数霊盤」の数の展開
a 同(エ)は否認する。
b 被告書籍1の4は、原告書籍4と表現において全く異なり、原告書籍4の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍4と被告書籍1の4との共通点は、枠に数字を配列するという「方法」にあるにすぎない。
 また、この「方法」自体は、ありふれたものである。
(オ) 「破壊数」の説明
a 同(オ)は否認する。
b 被告書籍1の5は、原告書籍5と表現において全く異なり、原告書籍5の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍5と被告書籍1の5との共通点は、破壊数の意味内容が「凶」であるという「事実」又は「アイデア」にあるにすぎない。
 また、占いにおいて、マイナスの意味を有する「凶」の概念は、ありふれたものである。
(カ) 数字の印の付け方
a 同(カ)は否認する。
b 被告書籍1の6は、原告書籍6と表現において全く異なり、原告書籍6の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍6と被告書籍1の6との共通点は、数字を記入したマス目に○と×を記載するという「方法」にあるにすぎない。
 また、この「方法」自体は、ありふれたものである。
(キ) 数霊簡易暦
a 同(キ)は否認する。
b 被告書籍1の7は、原告書籍7と表現において全く異なり、原告書籍7の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 「節入(日)」の記載が同一となるのは、いずれも旧暦を採用する以上、必然である。
 「破壊数」の欄の記載が同一となるのは、同一の算出方式を採用する以上、必然である。算出方式自体は、「方法」又は「アイデア」にすぎない。
(ク) 破壊数一覧表
a 同(ク)は否認する。
b 被告書籍1の8は、原告書籍8と表現において全く異なり、原告書籍8の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
(ケ) 数霊盤
a 同(ケ)は否認する。
 被告書籍1の9は、原告書籍9とは、例示として記載されている数字が異なり、数字を配列する順序を示す符号においてもアルファベットか黒丸数字かの違いがあり、表現において全く異なり、原告書籍9の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍9と被告書籍1の9との共通点は、マス目に数字を記載するという「方法」にあるにすぎない。
 また、この「方法」自体は、ありふれたものである。
ウ 原告書籍と被告書籍2との実質的同一性
(ア) 旧暦に基づく算出
a 同ウ(ア)は否認する。
b 原告書籍1は、旧暦を用いて計算することを短い文章で平易に説明した文章にすぎず、著作物性を有しない。
 被告書籍2の1は、原告書籍1と表現において全く異なり、原告書籍1の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍1と被告書籍2の1との共通点は、「旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分までを1年として区分する」という「方法」ないし「アイデア」にあるにすぎない。
 また、占いにおいて、旧暦に従って計算するという「方法」ないし「アイデア」自体は、ありふれたものである。
(イ) 「破壊数」の説明
a 同(イ)は否認する。
b 原告書籍5の「凶作用を誘発する、凶性の意味をもつ数」という表現は、単純な用語の説明にすぎず、ありふれた表現であり、著作物性は認められない。
 被告書籍2の5は、原告書籍5と表現において全く異なっており、原告書籍5の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 また、占いにおいて、マイナスの意味を有する「凶」の概念は、ありふれたものである。
(ウ) 破壊数一覧表
a 同(ウ)は否認する。
b 被告書籍2の8は、原告書籍8と表現において全く異なっており、原告書籍8の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。
 原告書籍8と被告書籍2の8との共通点は、占いに使用する数字の「計算方法」にあるにすぎない。
エ 依拠
 同エは否認する。
オ 結論
 同オは争う。
(2) 争点2(故意又は過失)について
(原告の主張)
ア 被告B
 被告Bは、被告書籍1及び2の発行を許諾するに当たり、同書籍が原告の複製権又は翻案権、及び同一性保持権を侵害することを知っていたか、少なくともこれを知らなかったことにつき過失がある。
イ 被告講談社
 被告講談社は、出版を業とする者として、被告書籍1の発行に当たり、被告Bの著作内容に複製権等の侵害がないか調査、確認すべき義務を有していたが、これを怠った過失がある。
ウ 被告テレビ朝日
 被告テレビ朝日は、出版を業とする者として、被告書籍2の発行に当たり、被告Bの著作内容に複製権等の侵害がないか調査、確認すべき義務を有していたが、これを怠った過失がある。
(被告らの主張)
ア 被告B
 原告の主張アは否認する。
イ 被告講談社
 同イは否認する。
ウ 被告テレビ朝日
 同ウは否認する。
(3) 争点3(損害の有無及び額)について
(原告の主張)
ア 被告書籍1
(ア) 売上部数
 被告講談社は、被告書籍1を発行してから平成20年2月22日までに、少なくとも20万部を販売した。
(イ) 利益率
 被告講談社の利益率は50%である。
(ウ) 損害額
 以上によれば、被告講談社は、被告書籍1の発行、販売により、少なくとも1億3000万円の利益を得た。
 1300円(単価)×20万部×50%=1億3000万円
 よって、著作権法114条2項により、原告の損害額は約1億3000万円と推定される。
(エ) 結論
 したがって、原告は、被告B及び被告講談社に対し、上記損害金の内金1億円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
イ 被告書籍2
(ア) 売上部数
 被告テレビ朝日は、被告書籍2を発行してから平成20年2月22日までに、少なくとも20万部を販売した。
(イ) 利益率
 被告テレビ朝日の利益率は50%である。
(ウ) 損害額
 以上によれば、被告テレビ朝日は被告書籍2の発行、販売により、少なくとも1億円の利益を得た。
 980円(単価)×20万部×50%=約1億円
 よって、著作権法114条2項により、原告の損害額は約1億円と推定される。
(エ) 結論
 したがって、原告は、被告B及び被告テレビ朝日に対し、上記損害金1億円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
(被告らの主張)
 原告の主張はいずれも否認する。
(4) 争点4(謝罪広告の必要性)について
(原告の主張)
 被告らによる同一性保持権侵害に基づいて原告に生じた名誉毀損の回復をするためには、請求欄1(3)、2(3)、3(3)の謝罪広告が命じられるべきである。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 複製、翻案等
 著作権法は、思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものである(著作権法2条1項1号)。したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁参照)。また、上記の複製にも翻案にも当たらない著作物は、同一性保持権を侵害するものでもない。
2 原告書籍と被告書籍1との実質的同一性について
(1) 旧暦に基づく算出
ア 前提事実(2)イ(ア)によれば、被告書籍1の1は、原告書籍1と表現において全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、「旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分までを1年として区分する」という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(2) 「命数」の出し方
ア 前提事実(2)イ(イ)によれば、被告書籍1の2は、原告書籍2と表現において全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、生年月日を構成する数字を順次加算し、1桁の数字になるまで繰り返すという「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(3) 具体例
ア 前提事実(2)イ(ウ)によれば、被告書籍1の3は、足し算の数式の部分で同一性を有すると認められないではないが、その部分は創作性のない部分であると認められる。その余の部分では、被告書籍1の3は、原告書籍3と表現において全く異なっていると認められる。よって、被告書籍1の3は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、「命数」の出し方という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(4) 「数霊盤」の数の展開
ア 前提事実(2)イ(エ)によれば、被告書籍1の4は、原告書籍4と表現において全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、「数霊盤」の数の展開という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(5) 「破壊数」の説明
ア 前提事実(2)イ(オ)によれば、被告書籍1の5は、原告書籍5と表現において全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、「破壊数」の概念という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(6) 数字の印の付け方
ア 前提事実(2)イ(カ)によれば、被告書籍1の6は、破壊数の記号等の部分で、原告書籍6と同一性を有すると認められないではないが、印の付け方として、○や×を採用し、殊に悪いものに×を付することはありふれた表現であると認められるから、上記の箇所での同一性は、創作性のない部分におけるものであると認められる。その余の部分では、被告書籍1の6は、原告書籍6と表現において全く異なっていると認められる。よって、被告書籍1の6は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、×の使用等の創作性のない部分での同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(7) 数霊簡易暦
ア 前提事実(2)イ(キ)によれば、被告書籍1の7は、「節入(日)」、「(生)月数理」、月ごとの「破壊数」の部分で、原告書籍7と同一性を有すると認められるが、占いの方法として旧暦を採用すれば、「節入(日)」が同一となるのは当然の結果であるし、占いの方法として原告と同じ方法を採用すれば、「(生)月数理」、月ごとの「破壊数」の部分で同一となるのは当然の結果であるから、これらの部分での同一性は、「アイデア」などの表現それ自体ではない部分での同一性にすぎないと認められる。
 また、月ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に記載することは、ありふれた表現であると認められる。しかも、被告書籍1の7は、各年を旧暦では前年に属する1月を除外して2月から開始し、原告書籍7には存在する「十二支」や年ごとの破壊数等を有しないなどの点で、原告書籍7と異なっていると認められる。
 よって、被告書籍1の7は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。
(8) 破壊数一覧表
ア 前提事実(2)イ(ク)によれば、月ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に記載することは、ありふれた表現であると認められるから、表形式の採用の点で、被告書籍1の8が原告書籍8と同一であると認めることはできない。その余の部分では、被告書籍1の8は、原告書籍8とは、内容においても表現においても全く異なっている。
 よって、被告書籍1の8は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。
(9) 数霊盤
ア 前提事実(2)イ(ケ)によれば、原告書籍9と被告書籍1の9とは、正方形を9等分したマス目に1〜9の数字の配列順序を記入したものである点で共通すると認められるが、原告が主張するとおり、原告書籍9は、1〜9までのすべての数を数霊理論で展開したときに各場にどのような数が配置されるかを表した別紙Eの複数枚の図(6図。原告書籍36頁)を統一的に表したものであり、原告の数霊に関する思想と計算方法をマス目にアルファベットと数字を配置することによって視覚的に表現したものであるとすると、このような思想を分かりやすく説明するために他に様々な表現方法があるとは認められないから、被告書籍1の9における9つに区分した正方形のマス目の部分は、表現上の創作性のない部分において、原告書籍9と同一であるにすぎないと認められる。
 その余の部分においては、被告書籍1の9は、例示された数字が異なり、数字を配列する順序を黒丸数字で示している点で、原告書籍9とは異なっている。
 よって、被告書籍1の9は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。
(10) まとめ
 以上のとおり、被告書籍1の1ないし9は、原告書籍の複製ないし翻案であるとはいえないし、その同一性保持権を侵害するものでもない。
 よって、原告書籍の複製権又は翻案権に基づく被告書籍1の販売等の差止請求等、上記複製権又は翻案権侵害を理由とする損害賠償請求、並びに同一性保持権侵害を理由とする謝罪広告の掲載請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
3 原告書籍と被告書籍2との実質的同一性について
(1) 旧暦に基づく算出
ア 前提事実(2)ウ(ア)によれば、被告書籍2の1は、原告書籍1と表現において全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は「、 旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分までを1年として区分する」という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(2) 「破壊数」の説明
ア 前提事実(2)ウ(イ)によれば、被告書籍2の5は、原告書籍5と表現において全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、「破壊数」の概念という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。
(3) 破壊数一覧表
ア 前提事実(2)ウ(ウ)によれば、占いの方法として原告と同じ方法を採用すれば、「破壊数」の部分で同一となるのは当然の結果であるから、これらの部分での同一性は、「アイデア」などの表現それ自体ではない部分での同一性にすぎないと認められる。
 年ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に記載することは、ありふれた表現であると認められるから、表形式の採用の点で、被告書籍2の8が原告書籍8と同一であると認めることはできない。
 その余の部分では、被告書籍2の8は、昭和又は平成による年を併記せず、年齢を併記している点で、原告書籍8とは内容においても表現においても異なっていると認められる。
 よって、被告書籍2の8は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。
イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。
(4) まとめ
 以上のとおり、被告書籍2の1、5及び8は、原告書籍の複製ないし翻案であるとはいえないし、その同一性保持権を侵害するものでもない。
 よって、原告書籍の複製権又は翻案権に基づく被告書籍2の販売等の差止請求等、上記複製権又は翻案権侵害を理由とする損害賠償請求、並びに同一性保持権侵害を理由とする謝罪広告の掲載請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
4 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 大竹優子
 裁判官 中村恭


(別紙)書籍目録
1 書名B 運命の激数占い
著者名 B
発行日 2007年6月19日
発行所 株式会社講談社
定価 1300円(消費税別)
2 書名激数占い
著者名 B
発行日 2005年12月5日
発行所 株式会社テレビ朝日コンテンツ事業部
定価 933円(消費税別)
以上

(別紙)
謝罪広告目録
1 私Bは、平成17年12月5日、書籍『激数占い』を株式会社テレビ朝日コンテンツ事業部から、また、平成19年6月19日、書籍『運命の激数占い』を株式会社講談社から発行しましたが、同書籍は、A氏執筆の著作物を無断で利用したものです。これにより同氏の著作権を侵害し、同氏に対し多大の迷惑をお掛けいたしました。よって、ここに同氏に対し謝罪いたします。
 B
2 当社株式会社講談社発行の「運命の激数占い」は、A氏執筆の著作物を抜粋し、改変を加えたものを同氏に無断で転用し、出版したものです。
 当社は、ここに上記事実を認め、A氏に深くお詫びを申し上げます。
 株式会社講談社
3 当社株式会社テレビ朝日発行の「激数占い」は、A氏執筆の著作物を抜粋し、改変を加えたものを同氏に無断で転用し、出版したものです。
 当社は、ここに上記事実を認め、A氏に深くお詫びを申し上げます。
 株式会社テレビ朝日
4 掲載条件
 朝日新聞、読売新聞、毎日新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面に、2段2分の1頁の大きさで、表題部は20ポイント活字、その余の部分は10ポイント活字で、1回ずつ掲載すること
以上
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