判例全文 line
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【事件名】立体商標“コカコーラ”事件(2)
【年月日】平成20年5月29日
 知財高裁 平成19年(行ケ)第10215号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年3月13日)

判決
原告 ザ コカ・コーラ カンパニー
訴訟代理人弁護士 鈴木修
同 小林邦聡
訴訟代理人弁理士 中田和博
被告 特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人 長澤祥子
同 石田清
同 小林和男


主文
1 特許庁が不服2005−1651号事件について平成19年2月6日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成15年7月2日、別紙商標目録に示すとおりの構成からなる立体商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、ビール製造用ホップエキス、乳清飲料、飲料用野菜ジュース」として、商標登録出願(商願2003−55134号。以下「本願」という。)をしたが、平成16年10月22日付けの拒絶査定を受けたので、平成17年1月31日、これを不服として審判を請求し(不服2005−1651号事件)、同年11月25日、指定商品を第32類「コーラ飲料」に補正する手続補正をした。特許庁は、平成19年2月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(附加期間90日。以下「審決」という。)をし、同月20日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
 別紙審決書写しのとおりである。要するに、本願商標は、商品、商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下、これらを併せて「商品等」という場合がある。)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから、商標法3条1項3号に該当し、また、本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとはいえないから、同法3条2項の要件を具備していない、というものである。
第3 当事者の主張
1 取消事由についての原告の主張
(1) 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)
 審決は、本願商標が、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、商標法3条1項3号に該当すると認定判断した。
 しかし、以下のとおり、本願商標に係る立体的形状は、生来的に自他商品識別力を有するものであり、原告による独占使用が公益に反することもないから、審決の上記認定判断は誤りである。
ア 本願商標の構成
(ア) 立体的形状
a 本願商標は、指定商品「コーラ飲料」の容器の立体的形状に係るものであり、下記(a)ないし(e)の特徴(以下、これらの特徴をそれぞれ「特徴点(a)」などといい、これらをまとめて「本願商標の特徴的形状」という場合がある。)を有する、極めて斬新なものである(甲70)。
(a) 上部から徐々にふくらみをもたせ、底面からほぼ5分の1の位置にくびれをもたせていること。
(b) くびれの下に台形状の広がりをもたせていること。
(c) ほぼ中央にボトル全長の約5分の1の高さの凹凸のないラベル部分を設けていること。
(d) 全体にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に柱状の凸部を10本並列的に配していること。
(e) ラベル部分の上には同様に柱状の凸部を10本並列的に配し、上部に行くに従い自然に消滅させていること。
 なお、本願商標の構成には、容器としての機能を果たすために必要な口部が含まれるが、後記(2)ア(ア)bのとおり、口部の形状は、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であって、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないから、本願商標の特徴的な部分ということはできない。
b 被告は、清涼飲料水の容器には、本願商標に類似する立体的形状を有するものがあると主張するが、現在市場に流通するもので、特徴点(a)ないし(e)を兼ね備えるものは存在しないし、過去にそのような例を発見したときは、原告は、直ちに警告して、販売を中止させている(甲128、129)。
(イ) 色彩
 審決は、本願商標について、「やや緑がかった半透明」(審決書3頁7行)であると認定した。
 しかし、本願商標の構成要素はその立体的形状のみであり、審決の上記認定は誤りである。本願の願書(甲70)の写真は、いずれも無色透明のガラス瓶を撮影したものであり、本願において登録を受けようとする商標の構成要素に色彩は含まれない。
イ 本願商標の自他商品識別力
 審決は、「本願商標を構成する容器の特徴は、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにする等の目的で同種商品が一般に採用し得る範囲内のものであって、商品『コーラ飲料』の容器として予測しがたいような特異な形状や特異な印象を与える装飾的形状であるということはできない。」(審決書3頁26行〜30行)と認定判断した。
 しかし、以下のとおり、本願商標の特徴的形状は、美感や機能を高めるためではなく、同形状に自他商品識別力を持たせることを目的として原告が開発・採用したものであって、正に生来的な自他商品識別力を有するものであるから、審決の上記認定判断は誤りである。
(ア) 本願商標の特徴的形状の由来
 本願商標の特徴的形状は、自他商品識別力を持たせることを目的として、原告が開発・採用したものである。すなわち、同形状は、1915年(大正4年)にアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)で考案され、1916年(大正5年)に原告の業務に係るコーラ飲料「コカ・コーラ」(以下「原告商品」という。)の容器(瓶)への使用が開始されたもので、消費者が原告商品を模倣品から区別することができるようにするとともに、原告商品の統一的イメージを形成することを目的として、原告により開発・採用されたものである。同形状を用いた瓶は、当時、他に全く類を見ない極めて斬新なデザインであったことから、デザインの専門家から「現在出まわっているうちで、最も完璧なデザインの容器」と評され、また、1960年(昭和35年)にはアメリカの特許商標庁において、その立体的形状のみが商標として登録されるに至った(甲27、28、33、36〜40、71〜73)。
 本願商標の特徴的形状を備えた原告商品の容器(瓶)は、特徴的な輪郭(contour)が女性の体のように見えることから「コンツアー・ボトル」と呼びならわされ、あるいは、1910年代にアメリカで流行した「ホッブル・スカート」に形状が似ていることから「ホッブル・スカート・ボトル」と呼びならわされてきたものであって(甲1、4、6)、ブランドの構築にとって重要な役割を果たす「ブランド・シンボル」として認識され(甲77)、「ブランドのアイデンティティと固く結びついているため、世界中どこでもボトルの形だけで(製品名が書かれていなくても)、コカ・コーラであると認識される」(甲79)といわれている。原告商品は、本願商標の特徴的形状を用いたからこそ、そのブランド構築及びマーケティングに成功し、世界に知られるヒット商品となり得たのである(甲80、81)。
(イ) 本願商標に係る立体的形状の採用の困難性
 本願商標の特徴的形状を備えた容器の製造は困難であるから、本願商標に係る立体的形状は取引業界において容易に採用されるようなものではない。このことは、本願商標の特徴的形状を備えた原告商品の容器(瓶)がアメリカで開発された際、類似の形状のものが存在しなかったこと、我が国での原告商品の製造、販売の開始に際し、国内で規格を満たす容器(瓶)を生産できるまで半年の月日を要したこと(甲76)などから、明らかである。
 また、本願商標の立体的形状におけるように、くびれ部分を瓶の中心より下に配した場合、重心が高くなるため、瓶のくびれ部分を持った際、手で持ちにくくなるが、このようにあえて機能を低下させるような形状を選択することは容易ではない。
(ウ) 本願商標が商標法3条1項3号に該当しないこと
 本願の指定商品「コーラ飲料」をはじめとする清涼飲料の容器としては、内容物(清涼飲料)を収納し、外部に漏出しないような形状でさえあれば、その機能を確保することが可能であるから、特徴点(a)ないし(e)を兼ね備えた本願商標に係る立体的形状は、清涼飲料の容器の「機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」(商標法4条1項18号)ではなく、立体商標として登録される可能性が肯定されるべきである。
 そして、本願商標に係る立体的形状は、極めて斬新なものであること(前記ア(ア))、本願商標の特徴的形状は、消費者が原告商品を模倣品から区別することができるようにするとともに、原告商品の統一的イメージを形成することを目的として、原告が新たに開発・採用したものであること(前記(ア))、本願商標に係る立体的形状は、取引業界において容易に採用されるものではないこと(前記(イ))などからすれば、本願商標に係る立体的形状は、同種の商品等が一般的に採用し得る範囲を超えるような特別な印象を与える装飾的形状というべきである。
 さらに、本願商標の特徴的形状は、世界各国において、著名であり、強力な自他商品識別力を有することから、これを指定商品「コーラ飲料」に使用することを欲する者は、原告とそのグループ会社以外には、これまで存在しなかったし、今後も同様であろう。我が国では、他の同業者も、原告による本願商標の事実上の独占使用を許容しており(甲82〜84)、本願商標を登録することは公益に反するものではない。
(2) 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)
 審決は、本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとはいえないから、商標法3条2項の要件を具備していないと認定判断した。
 しかし、以下のとおり、本願商標の特徴的形状が長年にわたり使用された結果、本願商標に係る立体的形状は、単独で自他商品識別力を獲得するに至っており、原告による独占使用が公益に反することもないから、審決の上記認定判断は誤りである。
ア 本願商標の特徴的形状の使用実績
(ア) 本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の容器(瓶)
a 本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の容器(瓶)には、回収して再利用するもの(以下「リターナブル瓶」という。)と、再利用を予定しないもの(以下「ワンウェイ瓶」という。)がある。リターナブル瓶は、キャップに王冠を用いたものであり(甲16、43、64)、ワンウェイ瓶は、キャップにPPキャップを用いたものであって(甲61、乙5の1、5の2)、いずれも本願商標の特徴的形状をすべて備えている。なお、原告商品の容器として用いられたリターナブル瓶及びワンウェイ瓶には、それぞれ平面標章部分が異なるものがある(甲16、乙5の1)。
b 本願商標に係る立体的形状は、リターナブル瓶の立体的形状と実質的に同一である。
 審決は、「使用に係る商標の、立体的形状部分(判決注、リターナブル瓶の立体的形状を意味する。)は、上部のキャップ部分を除き本願商標と同一の範囲内のものである」(審決書5頁4行〜5行)と認定判断し、被告は、本願商標とリターナブル瓶とは、その口部がスクリューキャップ用か王冠用かという点で相違し、また、口部が全体において占める割合が異なると主張する。
 しかし、前記ア(ア)aのとおり、本願商標の構成中、口部の形状は、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であって、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないし、リターナブル瓶の口部の形状も同様であるから、キャップ部分ないし口部に注目することは誤りである。
 王冠は、かつてJISにより標準規格化されていたものであり(甲125)、瓶の口部の下部に設けられるふくらみは、開栓時に瓶が破損しないよう強度を高めるためのもので、王冠用のガラス瓶に普通に設けられており(乙2の16、2の17)、極めてありふれた形状である。
 また、スクリューキャップは、標準規格化されていないものの、清涼飲料など液体の商品の容器はもとより、医薬品、食品その他の商品の容器に広く用いられており、スクリューキャップを嵌合するために瓶の口部に設けられるねじ山部分の形状は、機能的な形状であるのみならず、極めてありふれた形状であるということができる。なお、ワンウェイ瓶入りの原告商品にコカ・コーラに用いているスクリューキャップは、清涼飲料メーカー各社が様々な製品に汎用しているものと同じである。
 このように、スクリューキャップ用の瓶であれ、王冠用の瓶であれ、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であるから、需要者が商品を識別する対象とはなり得ない。
c 本願商標に係る立体的形状は、ワンウェイ瓶の立体的形状と完全に同一である。
(イ) 本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の販売実績
a 本願商標の特徴的形状を有するリターナブル瓶は、1916年(大正5年)にアメリカで原告商品への使用が開始され(甲71)、その後、太平洋戦争が始まるまで、我が国に輸入販売された原告商品にも用いられた(甲35、85)。太平洋戦争により原告商品の輸入販売は中断したが、昭和32年、原告の100%子会社である日本コカ・コーラ株式会社(以下「日本コカ・コーラ」という。なお、当時の商号は、日本飲料工業株式会社であった。)が、ボトラーである東京コカ・コーラボトリング株式会社(以下「東京コカ・コーラボトリング」という。なお、当時の商号は、東京飲料工業株式会社であった。)を通じ、東京においてリターナブル瓶入りの原告商品の製造、販売を開始した(甲71、86)。昭和35年には、大阪、京都、兵庫、福岡、佐賀、長崎において、そして、昭和38年までには、我が国全土において、リターナブル瓶入りの原告商品が販売されるに至った。以後、現在に至るまで、我が国で、リターナブル瓶入りの原告商品が販売されている。
 また、本願商標の立体的形状と完全に同一の立体的形状を有するワンウェイ瓶入りの原告商品も、実際に販売されている。
b 我が国におけるリターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は、製造、販売を開始した昭和32年の直後には年40万ケース(1ケースは24本入り、以下同じ)であったが、昭和36年には年100万ケース(2400万本)を突破し、昭和46年には年9951万ケース(23億8833万本)を記録した。その後、容器にアルミ缶、スチール缶、ペットボトルを用いることが多くなるにつれ、リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は徐々に減少したが、それでも年400万ケース(9600万本)前後が販売されている(甲8、41、86)。
 また、ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売数量は、平成18年で21万2458ケース(約510万本)である(甲126)。なお、原告商品(ダイエット・コーラ、コカ・コーラ・ライトなどの姉妹品を含まない。)は、コーラ飲料において常に販売数量1位を保ち、最大で90%を超える市場占有率を有している(甲89、甲90)。
(ウ) 本願商標の特徴的形状に係る広告宣伝
 原告及び日本コカ・コーラは、本願商標の特徴的形状を用いた瓶入りの原告商品の販売促進のため、長年にわたり、莫大な費用を投入し、広告活動を行ってきた(甲91〜94)。昭和36年に本格的な広告宣伝を開始した後、キャッチフレーズを用いた広告宣伝を展開し(甲9、42〜55、85)、新聞・雑誌における広告の掲載やテレビ・ラジオにおけるコマーシャル放送等を繰り返し(甲91、92)、その結果、原告商品の販売数量は劇的に増加した(甲85、甲95)。平成9年から10年間の広告宣伝費は、制作費やタレントの出演費等を含まない媒体費だけで、年30億円である(甲91)。なお、広告宣伝では、本願商標の特徴的形状を用いた瓶入りの原告商品を用いることにより、本願商標の特徴的形状を需要者に印象付けており(甲9、43、64)、容器にアルミ缶、スチール缶、ペットボトルを用いることが多くなった後も、同様である(甲91、甲92、甲96)。
 なお、原告は、瓶入り以外の原告商品においても、本願商標の特徴的形状を表した平面的図形を表示し(甲59)、あるいは、ペットボトルに本願商標の特徴的形状と極めて類似したデザインを採用している(甲60、114)。また、原告及び日本コカ・コーラは、本願商標の特徴的形状を原告商品に使用するほかに、グループ自体を示すコーポレートマークとしても用いてきた(甲115〜117)。さらに、本願商標の特徴的形状を使用した原告製品の瓶をミニチュアにした飾り物やキーホルダーが販売されるなどしており(甲3〜6)、本願商標の特徴的形状は、単なる清涼飲料の容器という概念を超え、ブランドの象徴として、消費者に親しまれている。
(エ) 平面標章部分との関係
 審決は、「使用に係る商標は、これに接する取引者、需要者において、その構成中、看者の注意を惹くように顕著に書された著名な『Coca−Cola』の文字部分(平面標章部分)を自他商品の識別標識として捉えるのに対し、立体的形状部分は、商品の容器の形状を表すものと認識するにとどまり、それ自体自他商品識別標識として捉えることはない」(審決書5頁17行〜21行)と認定判断した。
 確かに、「Coca−Cola」の文字等を有する平面標章部分は、強い自他商品識別力を有しているが、以下のとおり、本願商標の特徴的形状は、平面標章部分に匹敵する自他商品識別力を獲得するに至っており、自他識別に平面標章部分が不可欠であるとはいえないから、審決の上記認定判断は誤りである。
a 本願商標の特徴的形状は、極めて斬新なものであり、我が国において、原告商品の製造、販売が開始されて以来、その容器(瓶)に継続して使用された結果、「ビンが常に中身の飲料Coca−Colaを想起させ、製品の均一性とその出所を保証している」(甲87)と認識されるに至っており、正に、「コンツアーボトルは、文字表記がなくても、消費者が飲料『コカ・コーラ』を選択購入あるいは判別するうえでの機能を果たしている」(甲80)と認識されるに至っている。需要者の多くは、本願商標の特徴的形状を用いた瓶入りの原告商品を購入しこと、あるいは、その広告宣伝に接したことがあり、同形状のみによって、商品の出所を識別することができる。
b 本願商標の指定商品「コーラ飲料」を含む清涼飲料は、店頭で文字等を有する平面標章部分が前面に向けて陳列されているとは限らないし、消費者が同部分をじっくりと確認して購入する性質の商品ではないから、平面標章部分が常に購入者に認識されるというものではないのに対し、清涼飲料水の容器の立体的形状部分は容易に購入者に認識され、短時間での商品の識別が可能である(甲78)。
c 原告商品は、世界各国において販売されているが、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語などの主要言語以外の外国語の文字が記載されている場合には、我が国の需要者は、平面標章部分から原告商品を識別することができないが、容器の立体的形状により、原告商品を識別することが可能であるし、各種イベントにおいて原告以外の企業のロゴ等を表示した特別なデザインのコカ・コーラが販売され、原告以外のロゴが表示されている場合にも、容器の立体的形状によって、原告商品を識別することが可能である。
d 原告は、瓶入りの原告商品の販売数量が原告商品全体に占める割合が相当に低下した現在においてもなお、瓶入りの原告商品をいわば旗艦的に用い、本願商標の立体的形状部分を強調した広告宣伝をしているが(甲96、43、59、61、62)、それは、本願商標の特徴的形状を用いた瓶が、原告商品を象徴し、体現するものであるからである。
e 後記イ(ア)のとおり、社会調査の結果によれば、文字を含む平面標章部分の有無は、需要者の識別に決定的な影響を与えていないことが認められる。
f 以上によれば、リターナブル瓶又はワンウェイ瓶に付された平面標章部分は、需要者がその商品を識別するに際し、不可欠ではないというべきである。
イ 社会調査の結果
 以下のとおり、本願商標に係る立体的形状が自他商品識別力を有することは社会調査の結果にも、示されている。
(ア) 第一次調査
a 原告は、審査段階において、社会調査の専門業者である株式会社インテージ(原告とは何ら支配関係のない独立した調査会社である。)に、本願商標と同一の立体的形状の無色容器(以下「無色容器」という。)、本願商標と同一(口部を除く。)の立体的形状の薄緑色容器(以下「着色容器」という。)、及び、本願商標と同一の立体的形状の容器に「Coca−Cola」と横書きしてなる文字商標を付したもの(以下「文字商標付容器」という。)を上記の順に提示し、当該容器と同じ形状をした飲料を見たことがあるか(以下「質問@」という。)、その飲料の商品名を知っているか(以下「質問A」という。)を回答させる調査(以下「第一次調査」という。期間:平成15年1月26日から28日、場所:東京及び大阪、調査対象者:20歳から59歳までの男女合計200名〔東京、大阪で各100名〕)の実施を依頼した(甲26)。なお、第一次調査に用いられた調査票に「係りのものの指示があるまでページはめくらないでください」と記載されているとおり、調査員は各容器を調査票記載の質問の順番で呈示しており、ある質問を回答し終えた調査対象者が、それより前の質問に戻り回答をやり直すことはできない仕組みとなっていた。
 第一次調査の結果は、質問@に対し調査対象者が見たことがあると回答した割合は、無色容器については91%、文字商標付容器については98%であり、質問Aに対し調査対象者が「コカ・コーラ」と回答した割合は、無色容器については81%、文字商標付容器については97.5%であって、文字商標が付されている場合と付されていない場合の差は、質問@につき7%、質問Aにつき16.5%というものであった。上記結果は、本願商標の場合、「立体的形状が識別標識として機能」し、「そこに付された平面標章部分が不可欠であるとする理由が認められず」、「立体的形状に施された変更、装飾等をもって需要者に強い印象、記憶を与える」ものであることを示している。
b 審決は第一次調査の信用性を否定するが、以下のとおり、審決の指摘は不当である。
(a) 審決は、第一次調査について、「調査人数は不明であり、調査地域は東京、大阪のみであって、また、調査対象は20歳から59歳であるところ、指定商品『コーラ飲料』の需要者は、20歳未満の者や60歳以上の者も含まれるものであるから、調査対象者の選定には適切を欠くものがある。」(審決書6頁32行〜35行)と説示する。
 しかし、以下のとおり、第一次調査の調査対象者には、指定商品「コーラ飲料」を含む清涼飲料の需要者層全体がほぼ含まれていると評価される。まず、第一次調査の調査対象者の数は、東京、大阪で各100名の合計200名であり(甲26)、社会調査の領域において偏りのない調査結果を得るために必要かつ十分と考えられるサンプル数である(甲99)。また、東京、大阪という大都市の繁華街で調査を実施すれば、調査対象者には隣接府県から来ている人も含まれることになるから、地域的な偏りが大きいとはいえない。そして、60歳以上の年齢層の清涼飲料の購買量及び消費量はそれ程多くないと考えられ、調査対象者である20歳から59歳の年齢層が清涼飲料の需要者全体において占める割合は、我が国の人口全体に占める割合(第一次調査が行われた当時は、54.94%であった〔甲101〕。)よりも、はるかに大きくなると考えられるのであって、指定商品「コーラ飲料」を含む清涼飲料の需要者層のほとんどをカバーしていると考えられる(甲100)。
(b) 審決は、「本願商標は、別掲のとおり、やや緑がかった半透明のものであって、調査対象容器中に『着色容器』が含まれており、『着色容器』の銘柄想起理由のうち、約70%の者が『瓶の色緑色』を挙げていることからみても、調査報告書中、『無色容器』が本願商標と同一のものであるという請求人の主張は、にわかに採用し難い」(審決書6頁39行〜7頁4行)と説示している。
 しかし、前記(1)ア(イ)のとおり、本願商標の構成要素に色彩は含まれていないから、本願商標と無色容器の形状が同一であることは明らかである(甲99)。また、需要者が本願商標(無色容器)をその形状により識別しているか否かと、「『着色容器』の銘柄想起理由のうち、約70%の者が『瓶の色緑色』を挙げた」かどうかは、何ら関係がない。
(c) 審決は、「調査票において示されている容器の立体的形状には、上部のキャップ部分が、いわゆるスクリューキャップをはずした状態のらせん状の溝をもつ本願商標とは相違しているものがあることからも、本願商標と同一の立体的形状よりなる容器について、正確な調査がなされたということはできない。」(審決書7頁4行〜8行)と説示する。
 しかし、無色容器は、らせん状の溝があるキャップ部分があり、本願商標と同一の立体的形状からなる容器である。着色容器は、らせん状の溝があるキャップ部分はないが、無色容器の識別結果との差異があるかを調査する目的のために調査対象に加えたものにすぎない。また、前記(1)ア(ア)a及び前記ア(ア)bのとおり、本願商標の構成中、らせん状の溝があるキャップ部分は、特徴的な部分ではなく、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないから、当該キャップ部分の有無を問題にすることは誤りである。
(d) 審決は、「回答者は、回答に当たり、調査の趣旨を推測しながら正解が何であるかについて熟考した上で回答したことが推認される」(審決書7頁9行〜10行)と説示している。
 しかし、審決は「推認」の根拠となる事実を示しておらず、恣意的な判断というべきである。また、第一次調査のような、単に設問に回答するだけのアンケート調査においては、調査対象者は設問等にあまり注意を払うことなく回答する傾向があり、特にCLT調査(調査対象者を路上で勧誘してブースで調査票に記入してもらう方式)の場合には、「早く回答を終わらせて帰りたい」と思いながら調査に協力するのが普通である(甲99)から、正答することにインセンティブのない調査対象者が無責任な回答をしてしまわないよう、調査員が傍らで監視するのである。さらに、第一次調査のように、調査対象者がある物を想起できるかできないかという調査においては、調査対象者の回答は、知っているか否かにより直ちに決まるのであり、「熟考」と識別率の向上に直接の因果関係はない。
(e) 審決は、「調査対象容器について『コカ・コーラ』ブランドの商品を想起した者は、『無色容器』が81%、『着色容器』が72%であるから、『無色容器』」については19%、『着色容器』については28%の者が、請求人の取り扱いに係る「コカ・コーラ」ブランドの商品を想起していない」(審決書7頁12行〜14行)と説示している。
 しかし、平面標章部分がなく、立体的形状のみからなる容器の形状のみを呈示された調査対象者の91%が「見たことがある」と回答し、81%が「コカ・コーラ」を想起したという第一次調査の結果は、本願商標の自他商品識別力の獲得を証するに足りるものというべきである。
 なお、前記(c)のとおり、着色容器は、無色容器の識別結果との差異があるかを調査する目的のために調査対象に加えたものにすぎないから、着色容器に関する結果は本願商標の識別力とは関係がないものであり、また、ある商標が自他商品識別力を有しているというためには、商品名まで認識される必要はなく、「あの商品」と需要者に認識されるので十分であるから、本願商標と同一の形状の容器の自他商品識別力を論じる際に用いられるべき数値は、質問@に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合であって、質問Aに対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合ではないともいえる。
(f) 審決は、「需要者が、本願の指定商品の購入にあたり、短時間で購入商品を決定する場合が少ないとはいえず、購入に際して払う注意力はさほど高いものとはいえない」(審決書7頁15行〜17行)と説示している。
 しかし、短時間での購入商品の決定に必要な識別のために、正に本願商標のような独特で特徴のある形状を有する容器が用いられるのであり、これにより「消費者もまた特定ブランドを容易に識別でき、購入時の意思決定を単純化できるようになった」(甲78)といえる。
(イ) 第二次調査
 原告は、第一次調査の調査結果が信頼に足りることを裏付けるため、社会調査に実績がある日本インフォメーション株式会社(原告及び第一次調査を実施した株式会社インテージとは何ら支配関係のない独立した調査会社である。)に依頼して、本願商標の形状を用いた瓶の銘柄想起調査(以下「第二次調査」という。)の実施を依頼した。第二次調査は、第一次調査と同じCLT調査(場所:東京及び大阪、調査対象者:15歳以上の男女合計300名〔東京、大阪で各150名〕)に加え、ウェブ調査(事前に調査対象者候補として登録した者に対し、ウェブサイトのURLを記載した電子メールを送信し、当該ウェブサイトにアクセスして質問に回答させ、年齢・性別・居住地域等、調査対象者に必要とされる条件に適合した者による回答が一定数に達した時点で調査を終了する方式。調査対象者は、15歳以上の男女合計1200名〔北海道、東北、関東、北陸・甲信越、東海、近畿、中国・四国、九州・沖縄の8つエリアにつき各150名〕。)により行った。なお、調査対象者は、調査票又はウェブサイト上に表示された質問の順序どおりに回答し、ある質問を回答し終えた調査対象者が、それより前の質問に戻り回答をやり直すことはできない仕組みとなっていた(甲102、103)。
 CLT調査では、本願商標と同一の形状の容器について、同じ形状の商品を見たことがあるかという質問(以下「質問@’」という。)に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は93.7%、その形状の商品の名前を知っているかとの質問(以下「質問A’」という。)に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合は73.3%であり(甲102)、ウェブ調査では、本願商標と同一の形状の容器について、質問@’に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は89.4%、質問A’に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合は60.3%であった(甲103)。なお、第二次調査の結果によれば、原告商品以外の5つの清涼飲料の容器についても、調査対象者は容器形状のみで相当程度の識別をしているが、本願商標の形状を用いた容器は、他の容器を圧倒する高い識別率を示している。
(ウ) 第一次調査及び第二次調査の信頼性
 社会調査の専門家であるA(第一次調査を行った株式会社インテージ及び第二次調査を行った日本インフォメーション株式会社とは何ら関係がない。)が、第一次調査及び第二次調査について、「3回の調査を実施することで、一般的な調査設計により調査を行った場合と同様の結果が得られるよう工夫されており、調査設計として妥当であり、調査ごとのデータを分析することで信頼性に足る結果が提供できる。」(甲105)と述べているとおり、第一次調査及び第二次調査の調査結果は、いずれも社会調査の専門家に支持される方法によって実施された信頼し得るものである。
ウ その他の主張
 以下の事情に照らしても、本願商標の形状は自他商品識別力を有するというべきである。
(ア) 原告による独占使用
 我が国において、本願商標の指定商品「コーラ飲料」について、本願商標と同一又は類似の形状の容器を使用する清涼飲料メーカーは、全く存在しなかったし、今後も同様であろう。我が国では、他の同業者が、原告による本願商標の形状を指定商品「コーラ飲料」について独占使用することを事実上許容しているということができ(甲82〜84)、本願商標の登録を認めることに公益上の障害はない。なお、清涼飲料の容器そのものではないが、我が国において、本願商標の特徴的形状を冒用した雑誌広告を掲載したアパレル会社があったので、原告が警告し、中止させたこともある(甲118、119)。
(イ) 商標法の専門家及び社会一般の認識
 本願商標の特徴的形状は、数多くの商標法の専門家によって、立体商標として登録すべきもの、あるいは、それ自体が自他商品識別力を有するものと認識され(甲17〜24、106、108)、また、社会一般からも、原告商品を示すものとして、広く認知されている(甲37、40、79、106、107、甲80)。
(ウ) 諸外国における登録例
 本願商標と同一の形状は、既にアメリカ、英国、カナダ、オーストラリア、ロシア、中国、欧州共同体を含む世界数十か国において、立体商標として登録されている(甲27〜32、112、113)。
2 被告の反論
(1) 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)に対し
ア 本願商標の構成
(ア) 立体的形状
 本願商標は、液体を収納する容器(瓶)に係る立体商標であり、上部に口部があり、底部が円形で、縦長の形状を有する。口部は、スクリューキャップを外した状態の細い形状であり、該口部の下は、容器の首の部分がやや長く、下方に向かって、なだらかに膨らみがあり、容器の下方で、ややくびれを持たせたような形状である。また、容器の中央よりやや上部に、ラベルを貼付する部分があり、該部分は、容器全体をぐるりと囲むようになっている。該ラベルを貼付する部分を除き、首の部分の中程より下部分から、瓶の底部より少し上部のあたりまで、数本の縦のラインが施されている。
(イ) 色彩
 原告は、本願の願書(甲70)の写真は、いずれも無色透明のガラス瓶を撮影したものであり、本願において登録を受けようとする商標の構成要素に色彩は含まれていないと主張する。
 しかし、登録を受けようとする商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならないところ(商標法27条1項参照)、本願の願書に表された本願商標には、全体として、やや緑がかった白色半透明の色彩が施されており、無色透明ではない。原告の上記主張は失当である。
イ 本願商標の自他商品識別力
(ア) 自他商品識別力が認められないこと
 本願の指定商品は「コーラ飲料」であるが、コーラ飲料を取り扱う業界と清涼飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター等の飲料を取り扱う業界とは、その製造者、販売者、需要者等が共通する。そして、清涼飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター等の飲料を収納する容器は、口部分が他の部分に比べ細く、底部が円形で、縦長のものが多く、飲料の販売に用いられる容器には、文字等が付されたラベル部分があることが一般的であるが、持ちやすさを考慮して容器にくびれや膨らみを持たせたり、美感を起こさせるため模様を施したりされることも少なくなく、透明(無色)、半透明、緑色等の色彩が施されたものも多い(甲2、乙2の1〜2の17)。容器の口部分の形状は、蓋(スクリューキャップ、王冠、コルク栓、紙蓋など)として何を用いるかにより、相違する。
 なお、一般に、炭酸飲料用のガラス瓶の場合、内部圧力に耐え得るために、ガラスを厚くする、肩部をなで肩にする、胴部横断面を円形にすることなどが必要であり、容器という性質上、ある程度似通った形状にならざるを得ない(乙2の17)。
 上記のような取引の実情によれば、本願商標における前記アの各特徴は、いずれも商品等の機能又は美感に資することを目的とするものというべきであり、需要者において予測可能な範囲の飲料の容器についての特徴であるといえる。
 そうすると、本願商標の立体的形状は、審決時及び現在において、指定商品「コーラ飲料」の容器の基本的な機能、美感を発揮させるために必要な形状の範囲内というべきであって、同種の商品等が一般に採用し得る範囲を超えるものとはいえないから、当該立体的形状は、これに接する需要者が指定商品「コーラ飲料」の出所を識別する標識として、認識し得るものとはいえない。
(イ) 原告の主張に対し
a 原告は、本願商標の特徴的形状は、自他商品識別力を持たせることを目的として、原告が開発・採用したものであると主張する。
 しかし、需要者は、必ずしもそのように認識するものとはいえない。また、開発・採用時に、他に全く類を見ないものであったとしても、前記(ア)のとおり、審決時及び現在において、同種の商品等が一般に採用し得る範囲を超えるものとはいえない。原告の上記主張は、失当である。
b 原告は、本願商標の特徴的形状を備えた容器の製造は困難であること、くびれ部分の配置に起因して手で持ちにくくなるという機能の低下があることから、同形状は、取引業界において容易に採用されるようなものではないと主張する。
 しかし、技術の進歩により、製造が容易になることはあり得るし、くびれの配置が直ちに機能を低下させるとはいえない。また、現実に使用されている等の事実は、商標法3条1項3号の適用において必ずしも要求されない。原告の上記主張は、失当である。
c 原告は、我が国では、他の同業者も、原告による本願商標に係る立体的形状の独占使用を事実上許容しているから、本願商標を登録することは公益に反するものではないと主張する。
 しかし、商標権は、登録され、更新されることにより、半永久的な権利となるのであるから、現時点において、指定商品の製造、販売業者の一部が本願商標の登録を問題視していないとしても、直ちに公益の問題がないとうことはできない。
(2) 取消事由2に対し
ア 本願商標の特徴的形状の使用実績の主張に対し
(ア) 本願商標との相違について
 以下のとおり、本願商標と、原告商品に使用されたリターナブル瓶及びワンウェイ瓶とは、リターナブル瓶については、平面標章部分の有無、立体的形状、及び、色彩の3点において、ワンウェイ瓶については、平面標章部分の有無、及び、色彩の2点において、それぞれ顕著な差異があり、同一のものということはできないから、本願商標は、使用された結果、自他商品識別力を有するに至っているということはできない。
a 平面標章部分の有無
 リターナブル瓶及びワンウェイ瓶は、平面標章部分に「Coca−Cola」などの文字を有するところ、同文字は、原告がコーラ飲料に使用し、我が国において著名な商標であり、同平面標章部分は、いずれも、容器の中央部分のよく目立つところに、容器全体の大きさから見て大きく描かれている。なお、イベント用に企業のロゴ等を表した特別デザインの原告商品の容器(瓶)であっても、「Coca−Cola」などの文字を有する平面標章部分が付されている(乙9)。
 また、前記(1)イ(ア)で主張したところに照らせば、リターナブル瓶及びワンウェイ瓶の立体的形状部分及び色彩は、同種の商品が一般に採用し得る範囲内のものであるし、原告も、コーラ飲料に、ペットボトル、500ml入り容器(ホームサイズ)、300ml入りの容器、1000ml入り容器など、リターナブル瓶やワンウェイ瓶と同一の立体的形状や色彩を有しない容器を使用していること(甲2、9、乙3)からすれば、リターナブル瓶及びワンウェイ瓶の立体的形状の特徴は、容器の機能、美感を追求するためのデザインとして理解されるべきである。
 一般に、出所表示のための標識としては、本来的には識別力のない商品の立体的形状よりも、文字や図形などの平面標章(特に文字)が適しており、本願の指定商品「コーラ飲料」を含む飲料の取引界においても、需要者が文字等が付されたラベル部分を無視して商品を購入することは考え難く、現に、商品の広告では、文字等が付されたラベル部分が確認できるようにされており(乙2の2、4の1〜4の4)、自動販売機や店頭における陳列も同様である。
 さらに、原告商品の広告では、常に「Coca−Cola」などの文字部分が目立つようにされており、立体的形状部分が強調されているとはいえないし、容器全体の形状が把握できないものが少なくない(甲43など)。なお、原告商品には、リターナブル瓶やワンウェイ瓶と同一でない形状の容器を使用したものが少なくないし、イラストで表されたもの(甲43、59、61、62など)は、原告主張の特徴点(a)ないし(e)を有するものではなく、リターナブル瓶及びワンウェイ瓶とも、本願商標とも同一でもない。
 上記の点を総合すれば、リターナブル瓶及びワンウェイ瓶において、「Coca−Cola」などの文字を含む平面標章部分は不可欠であり、立体的形状部分のみが独立して自他商品識別機能を有するに至っているとはいえない。
b 立体的形状の相違
 本願商標に係る立体的形状とリターナブル瓶の立体的形状とは、口部分や首部分の長さにおいて顕著な差異を有し、全体の印象も大きく異なる。コーラ飲料が入れられ、実際に販売される際には、本願商標の口部は、スクリューキャップで覆われてしまうのに対して、リターナブル瓶の王冠の下の膨らみ部分は、王冠と首部の間にあって、キャップで覆われることはなく、存在感のある部分である。
 なお、第一次調査(甲26)によれば、容器の口部分がリターナブル瓶と同一である着色容器について、原告商品を想起した理由として、「ビンの口」部分を挙げている者が少なからずいる。
 このように、本願商標とリターナブル瓶の立体的形状は、口部などにおいて明らかに異なるものであり、両者が実質的に同一であるといことはできない。
c 色彩の相違
 本願商標とリターナブル瓶及びワンウェイ瓶とは、色彩が明らかに相違する。容器の色彩は、容器全体の印象を左右するものであり、重要な構成要素といえる。
(イ) 原告商品の販売実績及び広告宣伝について
a 上記(ア)のとおり、本願商標と原告商品に使用されたリターナブル瓶とは同一でないから、原告の主張に係るリターナブル瓶を用いた原告商品の販売実績は、本願商標の使用実績ということはできない。リターナブル瓶に関する広告宣伝についても、同様である。
 なお、リターナブル瓶を用いた原告商品の販売数量は、我が国の国民が年間に1本購入するかどうかという程度であり、本願の指定商品のように日常的に消費される商品にあっては、これを高く評価することはできない。
b 上記(ア)のとおり、本願商標と原告商品に使用されたワンウェイ瓶とは同一でない。そもそも、ワンウェイ瓶を用いた原告商品については、その販売実績や広告宣伝を示す具体的な証拠はほとんど存在しない。
 なお、原告は、甲126がワンウェイ瓶入りの原告商品の販売数量を示すものとしているが、同証拠には、「リターナブルボトルとワンウェイボトルは、形状は同じである。」、「500ml等の他サイズのものの販売数量は含まない。」との記載があるものの、サイズが同程度の再利用を予定しない瓶には、王冠を用いるものが存在すること(乙9)、原告がリターナブル瓶を本願商標と実質的に同一であると主張していることに照らせば、甲126に示される販売数量がすべてワンウェイ瓶の販売数量であるとは認められない。仮に、甲126によるとしても、ワンウェイ瓶の販売数量は、平成18年ですら510万本弱と少ない上、0本の年(その前年は3万本弱、翌年は18万本弱)もあり、ワンウェイ瓶が継続して使用されているとはいえない。
イ 社会調査の結果の主張に対し
 以下のとおり、原告の行った社会調査は、第一次調査、第二次調査とも、実際に使用されていない商標を対象とするなど、十分なものとはいえないから、本願商標が商標法3条2項に該当するに至っていることを示す根拠とはならない。
(ア) 第一次調査、第二次調査とも、質問では容器の色彩を特定していない(第一次調査では、ことさら容器の色を無視するよう指示している。)から、回答者は容器の色彩を無視して回答している。
(イ) 本願の指定商品「コーラ飲料」については、文字等が表示されたラベルにより商品を識別するのがごく普通であるという取引の実情があり、容器の形状に対する注意力は、必ずしも高いといえないところ、原告は、本願商標の特徴を有するが、立体的形状や色彩を異にする容器やイラストを使用している。してみると、回答者は、質問@又は@’、A又はA’に対し、原告が使用した複数の瓶や広告宣伝用のイラスト等に描いた瓶を想起して、「見たことがある」、「知っている」などと回答したものであり、必ずしも調査対象の容器自体を知っていたものではない。
(ウ) 本願指定商品の需要者は、20歳未満の者や60歳以上の者も含むところ、第二次調査の結果によれば、第一次調査の対象となっていない10代の原告商品のブランドの想起率は、全体に比べて、低い数字となっているから、10代の需要者を除いて調査がなされた第一次調査の調査結果は、本願の指定商品の需要者が認識する割合を正確に反映しているものとはいえず、調査対象者の選定に適切を欠くものである。
(エ) 普通に考えるならば、使用実績のない無色容器よりも、長年使用している着色容器の割合が高くなるものと思われるが、逆の結果になっていることからすれば、無色容器についての回答結果は、他の色彩の類似する容器をも想起したか、調査における誤差の範囲が小さくないことを示すものである。
(オ) 第二次調査によれば、10代や20代の原告商品のブランドの想起率は、全体に比べ、かなり低い数字となっているところ、リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は、1971年(9951万ケース)をピークに減少し、現在15歳の者が生まれた1992年には、950万ケースとなり、2004年には、404万ケースにまで減少している(甲41)。平成16年度の原告商品の販売シェアは62.7%となっているが、その販売比率は、ペットボトル入りが35.2%、缶入りが30%となっており、瓶入りは、わずかに4%でしかない(甲88)。瓶入りの原告製品の販売数量が大きく減少した後に、コーラ飲料の需要者となった10代の者は、半数程度しか原告商品を想起していないことからすれば、現在の瓶入りの原告商品の販売数量や広告宣伝は、瓶入りの原告商品の容器の立体的形状に識別力を与えるには足りないというべきである。
ウ その他の主張に対し
 以下のとおり、原告のその他の主張もすべて失当である。
(ア) 原告による独占使用の主張に対し
 本願商標は、それ自体について使用の継続という事実状態がないから、現実に使用された商標と類似のものであったとしても、取引界において、原告の独占使用が容認されたものということはできない。なお、原告が、警告により、使用を中止させたのは、本願商標とは立体的形状を異にし、平面標章部分を含むリターナブル瓶のイラストであって、本願商標ではない(甲118、119)。
(イ) 商標法の専門家及び社会一般の認識の主張に対し
 原告は、本願商標は、商標法の専門家が立体商標として登録すべきものと認識し、社会一般からも広く認知されていると主張するが、本願商標それ自体がそのように認識されているということはできない。
(ウ) 諸外国における登録例の主張に対し
 原告の指摘に係る外国での登録例は、いずれも本願商標とはその形状や色彩が同一ではないし、そもそも、本願商標の登録の可否は、我が国の商標法により、判断されるべきものである。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における商品等の形状
ア 商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項、5条2項参照)。
 ところで、商標法は、3条1項3号で「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を、同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」旨を、4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は、同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を、26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては、商標権の効力は及ばない旨を、それぞれ規定している。
 このように、商標法は、商品等の立体的形状の登録の適格性について、平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが、同法4条1項18号において、商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については、登録を受けられないものとし、同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと、商品等の立体的形状のうち、その機能を確保するために不可欠な立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
 そうすると、商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については、商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば、立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも、以下のイで述べるように、識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。)、また、出願に係る立体商標を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
イ 以上を前提として、まず、立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
 そうすると、商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されると認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また、商品等の具体的形状は、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品等について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として、同号に該当するものというべきである。
 けだし、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないからである。
(ウ) さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
 けだし、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、商品等の形状について、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。
(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標の構成
(ア) 立体的形状
 本願商標は、別紙「商標目録」のとおりの構成からなるものであり(甲70)、これによれば、本願商標は、本願の指定商品「コーラ飲料」の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり、同形状は、次のような特徴(以下、これらの特徴をそれぞれ「特徴点a」などという。)を有している。
a 底部を円形とし、上部にスクリューキャップをはずした状態の細い口部を設けた、縦長の容器の形状であること。
b 口部の下は、やや長い首部があり、その下方に向かって、上部から徐々にふくらみをもたせ、底面からほぼ5分の1の位置にくびれをもたせていること。
c くびれの下に台形状の広がりをもたせていること。
d ほぼ中央にボトル全長の約5分の1の高さの凹凸のないラベル部分を設けていること。
e 全体にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に柱状の凸部を10本並列的に配していること。
f ラベル部分の上には同様に柱状の凸部を10本並列的に配し、上部に行くに従い自然に消滅させていること。
(イ) 色彩
 審決は、本願商標について、「やや緑がかった半透明」(審決書3頁7行)であると認定し、被告は、やや緑がかった白色半透明の色彩が施されていると主張する。
 確かに、本願の願書(甲70)は2枚の写真(イメージデータ)を含むところ、上記写真において、容器はうっすらと緑がかっているように見えなくもない。
 しかし、一般に、無色透明のガラスであっても、照明の当て方により、端部が緑がかって見える場合があること、本願の願書における写真は、無色透明の容器を被写体として撮影されたものと認められること(弁論の全趣旨)、上記写真において、緑色に見える部分は一様ではなく、容器の底部など端部(厚みのある部分)の方が、より緑がかって見えるが、他方凸部など白く見える部分もあること等を総合すれば、上記写真は、背景を黒とし、照度や照明等を工夫することによって、コントラストを強調し、無色透明な容器の立体的形状を、できる限り明瞭に表現して、本願商標の構成(立体的形状)を特定しようとしたものというべきであって、緑色の色彩を特定したものと認めることはできない。
イ 事実認定
 証拠(甲2、乙2の1〜2の17)及び弁論の全趣旨によれば、本願の指定商品「コーラ飲料」をはじめとする清涼飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター等の飲料の容器として用いられるものとしては、@口部分が他の部分に比べ細く、底部が円形で、縦長のものが多いこと、A文字等が記載されたラベルが貼付されるのが一般的であること、Bくびれや膨らみを持たせたもの、模様を施したものが少なくないこと、C口部分の形状は、装着する蓋(スクリューキャップ、王冠など)に合わせて、成形されるものであることが認められる。
ウ 判断
 前記ア及びイによれば、本願商標の前記ア(ア)の立体的形状のうち、特徴点aは、液体であるコーラ飲料を収納し、これを取り出すという容器の基本的な形状であって、このうち口部の形状はスクリューキャップの着脱という機能に関連するものであり、特徴点b及びcは、容器の握り易さに資するとともに、容器の輪郭に美感を与えるものであり、特徴点dは、容器の美感を維持しつつ、ラベルの貼付を容易にすることに資するものであり、特徴点e及びfは、容器の輪郭に美感を与えるものであことが認められる。また、本願商標に係る立体的形状は、飲料の容器において通常採用されている、前記イ@ないしCのような形状を組み合わせた範囲を大きく超えるものとは認められない。
 そうすると、本願商標の立体的形状は、審決時(平成19年2月6日)を基準として、客観的に見れば、コーラ飲料の容器の機能又は美感を効果的に高めるために採用されるものと認められ、また、コーラ飲料の容器の形状として、需要者において予測可能な範囲内のものというべきである。
エ 原告の主張に対し
(ア) 原告は、本願商標の特徴的形状について、美感や機能を高めるためではなく、同形状に自他商品識別力を持たせることを目的として原告が開発・採用した斬新な形状であり、技術的観点あるいは機能的観点から、取引業界において容易に採用されるものではないと主張する。
 しかし、原告の主観的な意図が、美感や機能を高めるためではなく、同形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであったとしても、そのことにより、本願商標の立体的形状が有する客観的な性質に関する判断が左右されるものではない。また、需要者において予測し得ないような斬新な形状であるか否かは、原告が当該形状を採用した時点ではなく、審決時を基準として判断すべきであり、原告以外の同業者が当該形状を現実に採用していないとしても、そのことから直ちに同形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。したがって、原告の上記主張は失当である。
(イ) 原告は、他の同業者が、原告による本願商標に係る立体的形状の事実上の独占使用を許容していると主張する。
 しかし、現時点において、本願商標に係る立体的形状を使用することを欲する原告以外の第三者が顕在していないとしても、そのことから直ちに、当該形状を独占させることが公益に反しないすることはできない。したがって、原告の上記主張は失当である。
(3) 小括
 以上検討したところによれば、本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における使用による自他商品識別力の獲得
 前記1(1)アのとおり、商標法3条2項は、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には、商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。
 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品等の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。
 もっとも、商品等は、その製造、販売等を継続するに当たって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり、また、技術の進展や社会環境、取引慣行の変化等に応じて、品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば、使用に係る商品等の立体的形状において、企業等の名称や記号・文字が付されたこと、又は、ごく僅かに形状変更がされたことのみによって、直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく、使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお、立体的形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。
(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
 そこで、上記の観点から、本願商標が使用により自他商品識別力を備えるに至っているかどうかを判断する。以下、 「使用商標の使用の実情」、「使用商標と本願商標との対比」の順で認定、判断をする。
ア 事実認定
(ア) リターナブル瓶の採用の経緯
 原告は、アメリカにおいて、1915年(大正4年)に現在のリターナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を考案し、1916年(大正5年)にこれを用いた原告商品の販売を開始した(甲33、35、36〜40、71〜73)。
 原告商品の瓶の形状の由来は、必ずしも明らかではないものの、1910年代に、アメリカのファッション界で大流行した「ホッブル・スカート」(ウエストを締め付け、膝部分を極度に細く絞ったワンピース・スカートの形状)を模したもので、暗闇の中でさわってもコカ・コーラだと分かるような特別な形状の瓶にすることを意図して創作したとの逸話が残されている。
 上記のとおり、1916年(大正5年)に、アメリカにおいて、リターナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を使用した原告商品の販売を開始した。当時、原告商品の上記形状の瓶は、ユニークかつ特徴的であると評価されて、さまざまな話題を提供し(甲36〜40、71〜73)、その後、原告商品の上記形状の瓶は、「コンツアー・ボトル」、「ホッブル・スカート・ボトル」などと呼ばれたりすることがあった(甲1、4、6、36〜40)。
(イ) 原告商品の我が国での販売実績
 我が国では、昭和32年に原告の100%子会社である日本コカ・コーラを通じて、原告商品の製造、販売の準備が開始された。同社はボトラーである東京コカ・コーラボトリングを通じ、昭和32年に東京地域においてリターナブル瓶入りの原告商品の製造、販売を開始した(甲71、86)。昭和35年には、大阪府、京都府、兵庫県を営業地域とする近畿飲料株式会社及び福岡県、佐賀県、長崎県を営業地域とする日米飲料株式会社が設立され、上記各府県における販売が開始された。その後、他の地域にもボトラーが設立され、昭和38年までには、我が国全域において、リターナブル瓶入りの原告商品が販売されるに至った。昭和32年の国内における製造、販売の開始から現在に至るまで、半世紀にわたり、リターナブル瓶入りの原告商品が継続して販売されている。
 リターナブル瓶は、本願商標の特徴点a(スクリューキャップをはずした状態の口部を設けたとの点を除く。)ないしfのすべてを備えている。
(ウ) リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量等
 リターナブル瓶入りの原告商品については、我が国において、清涼飲料分野で記録的な販売実績を挙げた。我が国において製造、販売を開始した昭和32年には、年間販売数量は40万ケース台にとどまったが、昭和36年には、年間販売数量は100万ケース(2400万本)を突破し、昭和46年には、年間販売数量は9951万ケース(23億8833万本)を記録した。その後、アルミ又はスチール缶入り商品やペットボトル入り商品の比率が上昇するにつれ、リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は徐々に減少したが、近年でも400万ケース(9600万本)前後の年間販売数量をあげている(甲8、41、86)。
(エ) リターナブル瓶入りの原告商品の宣伝広告の状況
 原告及び日本コカ・コーラは、昭和36年に、リターナブル瓶入りの原告商品について、本格的な広告宣伝を開始し、以降、多大な広告費を投入し、長年にわたり、新聞・雑誌における広告の掲載やテレビ・ラジオにおけるコマーシャル放送等を繰り返し、行うことにより、リターナブル瓶の形状を印象付ける広告宣伝を継続している。
 すなわち、本格的な広告活動が開始されると同時に、キャッチフレーズの使用、新聞・雑誌における広告の掲載、テレビ等におけるコマーシャル放送等が繰り返された。その広告費用は、平成9年からの10年間では、広告の制作費用や広告に出演するタレント契約料等を除外した、テレビの放映、新聞、雑誌等の掲載などの、いわゆる媒体費用のみでも、年間30億円もの金額が投じられた(甲91)。このような広告活動においては、登場人物にリターナブル瓶入り原告商品を持たせたり、リターナブル瓶入りの原告商品を放映、掲載したりして、リターナブル瓶入り原告商品の形状を需要者に強く印象づけるような工夫を施した広告が実施された(甲9、43、64)。
 原告商品において、アルミ又はスチール缶入り商品やペットボトル入り商品の販売数量が増加するにつれ、原告商品全体に占める、リターナブル瓶入り原告商品の販売数量が占める割合は相対的に低下した。それにもかかわらず、原告は、広告活動においては、依然として、リターナブル瓶入り原告商品を用いて、同瓶の形状を需要者に印象づけるような広告を継続してきた(甲91、92、96)。
 原告は、リターナブル瓶入り原告商品の形状を、商品の出所識別標識として機能させるような宣伝広告態様を継続してきたことによって、リターナブル入りの原告商品の形状は、それ自体が「ブランド・シンボル」として認識され(甲77)、「ブランドのアイデンティティと固く結びついているため、世界中どこでもボトルの形状だけで(製品名が書かれていなくても)、コカ・コーラであると認識され」(甲79)、「ビンが常に中身の飲料Coca−Colaを想起させ、製品の均一性とその出所を保証している」(甲87)ものと広く認識され、理解されるようになった(甲9、43〜55、64、85、91〜94、96、114)。
(オ) 本願商標と同一の立体的形状の無色容器の出所識別力調査の結果 原告が専門会社に依頼して実施した複数の調査においては、以下のとおり、本願商標と同一の立体的形状の無色容器(文字等の平面標章は付されていない。)を示された調査対象者の9割前後(後記第一次調査では91%、後記第二次調査では93.7%〔CLT調査〕又は89.4%〔ウェブ調査〕)が同容器を「見たことがある」と回答し、6割から8割程度(後記第一次調査では81%、後記第二次調査では73.3%〔CLT調査〕又は60.3%〔ウェブ調査〕)がその商品名を「コカ・コーラ」と回答している(甲26、102、103)。すなわち、
a 第一次調査
 原告は、平成15年1月、社会調査の専門会社に委託して、本願商標の形状と同一の瓶における銘柄想起調査(第一次調査)を実施した。その概要は、具体的には、CLT調査(街頭等に設置されたブース内において、任意の調査対象者が調査票に記入する方式)により、本願商標と同一の立体的形状の無色容器、本願商標と同一(口部を除く。)の立体的形状の着色容器、及び、本願商標と同一の立体的形状の容器に「Coca−Cola」と横書きしてなる文字商標を付した文字商標付容器を上記の順に提示し、当該容器と同じ形状をした飲料を見たことがあるか(質問@)、その飲料の商品名を知っているか(質問A)を回答させる調査(期間:平成15年1月26日から28日、場所:東京及び大阪における書面を用いた調査、調査対象者:20歳から59歳までの男女合計200名〔東京、大阪で各100名〕)である(甲26)。
 第一次調査の結果は、質問@に対し調査対象者が見たことがあると回答した割合は、無色容器については91%、文字商標付容器については98%であり、質問Aに対し調査対象者が「コカ・コーラ」と回答した割合は、無色容器については81%、文字商標付容器については97.5%であって、文字商標が付されている場合と付されていない場合の差は、質問@につき7%、質問Aにつき16.5%であった。
b 第二次調査
 また、原告は、平成15年4月、別の社会調査の専門会社に委託して、本願商標の形状を用いた瓶の銘柄想起調査(第二次調査)を実施した。その概要は、具体的には、第一次調査より規模等を拡大した調査であり、@東京及び大阪における調査票を用いたCLT調査(調査対象者は、15歳以上の男女合計300名である。)、及び、Aウェブ調査(事前に調査対象者候補として登録した者に対し、ウェブサイトのURLを記載した電子メールを送信し、当該ウェブサイトにアクセスして質問に回答させる調査で、調査対象者は、日本全域の15歳以上の男女合計1200名である。)である(甲102、103)。
 CLT調査では、本願商標と同一の形状の容器について、同じ形状の商品を見たことがあるかという質問(質問@’)に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は93.7%、その形状の商品の名前を知っているかとの質問(質問A’)に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合は73.3%であり(甲102)、ウェブ調査では、本願商標と同一の形状の容器について、質問@’に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は89.4%、質問A’に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合は60.3%であった(甲103)。
c この点、被告は、原告の行った第一次調査は、20歳未満の者や60歳以上の者が調査対象者に含まれていない点においても、不適切であると主張する。しかし、本願の指定商品「コーラ飲料」の需要者に占める60歳以上の者の割合がさほど大きいとは考えられないこと、また、第二次調査の結果によれば、10代の調査対象者が商品名を「コカ・コーラ」と回答した割合は、全体の平均に比べて若干低い数字となってはいるものの、6割から7割がその商品名を「コカ・コーラ」と回答していることに照らすならば、第一次調査における調査対象者の範囲が不適切であったとはいえない。
d 上記各結果は、本願商標に係る立体的形状は、リターナブル瓶の立体的形状と口部において相違することとはかかわりなく、識別標識として機能していること、また、当該立体的形状のみでなく、これに「Coca−Cola」などの文字を含む平面標章部分を付することが、商品の出所表示のために不可欠であるとまではいえないこと、そして、本願商標の立体的形状の特徴的な部分が、需要者に強い印象、記憶を与えるものであることを示しているといえる。
(カ) リターナブル瓶の形状についての認識
 リターナブル瓶の形状については、数多くの専門書籍、一般書籍等において、商品の立体的形状に自他商品の識別力が存する典型例として引用されている。例えば、@弁理士会が作成、配布した「商標法の改正について」と題する冊子の「立体商標の導入」との項目における「清涼飲料水のビン(写真2)のような立体商標形状も十分に識別標識として機能を果たしています」との記載及びリターナブル瓶の形状を撮影した写真、A新・注解「不正競争防止法」(小野昌延編著、青林書院発行)における「商品の形態が、コカコーラの瓶のように、いわゆるセカンダリー・ミーニングを獲得して商品標識として働きだした場合の、周知性のある商品形態の模倣に対しては、不正競争防止法上の周知表示として旧法1条1項1号によって保護され、・・・」との記載、B第12版「パリ条約講話」(後藤晴男著、社団法人発明協会発行)における「立体商標は、その典型的なものとしては例のコカコーラのビンがあげられるでありましょう。」との記載など、数多く存在する(甲17〜24、106、108)。
 また、原告商品のリターナブル瓶の形状に関連した歴史、エピソード、形状の特徴等を解説した書籍、雑誌等が、数多く出版され、紹介されてきた。そのような媒体を通じて、社会一般においも、原告商品のリターナブル瓶の形状が、原告の出所を示すものとして、広く認識されているといえる(甲37ないし40、79、80、107、)。
 さらに、我が国における、他の清涼飲料水メーカーにおいても、原告が本願商標を独占的に使用することが、事実上受け入れられ、尊重されている(甲82〜84)。
(キ) リターナブル瓶と類似する他社商品の流通状況
 現在、リターナブル瓶のように、本願商標の特徴点a(スクリューキャップをはずした状態の口部を設けたとの点を除く。)ないしfのすべてを兼ね備えた容器や、ワンウェイ瓶のように特徴点aないしfのすべてを兼ね備えた容器に収納された清涼飲料水は、原告製品以外には、市場に流通していない。
 原告は、第三者が、リターナブル瓶と類似する形状の容器を使用したり、リターナブル瓶の特徴を備えた容器を描いた図柄を使用する事実を発見した際は、直ちに厳格な姿勢で臨み、その使用を中止させてきた(甲128、129、118、119)。
 この点を例示すると、@平成13年に、原告は、清涼飲料を製造、販売する会社の商品が、原告商品のリターナブル瓶に類似しているのを発見し、同年4月4日付けで、同社に対して、同製品の製造、販売の中止要求を含む警告書を発したところ、同社から、同月11日付けの書面で、製造工場を閉鎖し、製造、販売を中止し、空き瓶の回収、廃棄を確約する等の内容を含む回答書を受けたこと、また、A平成19年に、原告は、デザイン広告社が、装飾雑誌の裏表紙に、原告商品のリターナル瓶容器に類似ないし連想させるデザインを掲載したのを発見し、警告したところ、同広告社は、同年2月9日付けで、原告の要求を受けて、原告の了解なくデザインを使用した事実を確認するとともに、原告に対して謝罪する趣旨を含んだ「お詫び」と題する書面を作成、公表したことがある。
 このような原告における、原告商品のリターナブル瓶に類似する容器に対する厳格な管理態勢の結果として、我が国の市場において、リターナブル瓶の立体的形状を備えた容器(瓶)は、原告商品を除いて、市場に流通する清涼飲料水には用いられていない(甲128、129)。
(ク) ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売状況
 清涼飲料業界では、消費者の嗜好、生活様式の変化、販売形態、輸送、回収費用等の変化に伴って、リターナブル瓶の市場優位性が低下したため、ワンウェイ瓶への転換が図られるようになった。
 原告においても、平成6年ころから、ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売を開始した。その販売数量は変動が激しく、平成6年は年59万9321ケース(約1440万本)であったが、平成11年には販売実績がなくなり、その後、平成13年に109万8176ケース(約2636万本)を記録した後、再び徐々に減少し、平成18年には21万2458ケース(約510万本)となっている(甲126)。(なお、ワンウェイ瓶の立体的形状は、本願商標の特徴点aないしfのすべてを備えているが、原告は、本件訴訟において、ワンウェイ瓶入り原告商品の形状をもって、原告の使用に係る商標であるとする主張をしているものではないと理解される。)
 前記(エ)において認定したとおり、原告は、ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売を開始した後においても、広告活動に当たっては、リターナブル瓶入り原告商品を用いて、リターナブル瓶の形状を需要者に印象づけるような広告を継続している(甲91、92、96)。
(ケ) リターナブル瓶入り原告商品の形状と本願商標との対比
 原告の使用に係る商標(リターナブル瓶入りの原告商品の形状)は、本願商標の特徴点a(スクリューキャップをはずした状態の口部を設けたとの点を除く。)ないしf、すなわち、「a 底部を円形とし、上部に・・・細い口部を設けた、縦長の容器の形状であること。」、「b 口部の下は、やや長い首部があり、その下方に向かって、上部から徐々にふくらみをもたせ、底面からほぼ5分の1の位置にくびれをもたせていること。」、「c くびれの下に台形状の広がりをもたせていること。」、「d ほぼ中央にボトル全長の約5分の1の高さの凹凸のないラベル部分を設けていること。」、「e 全体にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に柱状の凸部を10本並列的に配していること。」、「f ラベル部分の上には同様に柱状の凸部を10本並列的に配し、上部に行くに従い自然に消滅させていること。」のすべてを備えている。
イ 判断
 上記アで認定した事実を総合すれば、次の点を指摘することができる。
(ア) リターナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を使用した原告商品は、既に、1916年(大正5年)に、アメリカで販売が開始され、開始当時から、その瓶の形状がユニークかつ特徴的であるとして評判になったこと、そして、我が国では、リターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に販売が開始されて以来、その形状は変更されず、一貫して同一の形状を備えてきたこと
(イ) リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は、販売開始以来、驚異的な実績を上げ、特に、昭和46年には、23億8000万余本もの売上げを記録したが、その後、缶入り商品やペットボトル入り商品の販売比率が高まるにつれて、売上げは減少しているものの、なお、年間9600万本が販売されてきたこと
(ウ) リターナブル瓶入りの原告商品を含めた宣伝広告は、いわゆる媒体費用だけでも、平成9年以降年間平均30億円もの金額が投じられ、テレビ、新聞、雑誌等において、リターナブル瓶入りの原告商品の形状が需要者に印象づけられるような態様で、広告が実施されてきたこと
 特に、缶入り商品やペットボトル入り商品の販売が開始され、その販売比率が高まってから後は、リターナブル瓶入りの原告商品の形状を原告の販売に係るコーラ飲料の出所識別表示として機能させるよう、その形状を意識的に広告媒体に放映、掲載等させていること
(エ) 本願商標と同一の立体的形状の無色容器を示された調査結果において、6割から8割の回答者が、その商品名を「コカ・コーラ」と回答していること
(オ) リターナブル瓶の形状については、相当数の専門家が自他商品識別力を有する典型例として指摘していること、また、リターナブル瓶入りの原告商品の形状に関連する歴史、エピソード、形状の特異性等を解説した書籍が、数多く出版されてきたこ
(カ) 本願商標の立体的形状の本願商標の特徴点aないしfを兼ね備えた清涼飲料水の容器を用いた商品で、市場に流通するものは存在しないこと、また、原告は、第三者が、リターナブル瓶と類似する形状の容器を使用したり、リターナブル瓶の特徴を備えた容器を描いた図柄を使用する事実を発見した際は、直ちに厳格な姿勢で臨み、その使用を中止させてきたこと
(キ) リターナブル瓶入りの原告商品の形状は、それ自体が「ブランド・シンボル」として認識されるようになっていること
 以上の事実によれば、リターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に、我が国での販売が開始されて以来、驚異的な販売実績を残しその形状を変更することなく、長期間にわたり販売が続けられ、その形状の特徴を印象付ける広告宣伝が積み重ねられたため、遅くとも審決時(平成19年2月6日)までには、リターナブル瓶入りの原告商品の立体的形状は、需要者において、他社商品とを区別する指標として認識されるに至ったものと認めるのが相当である。
ウ その他の事項に対する判断
(ア) リターナブル瓶入りの原告商品に付された「Coca−Cola」の表示との関係について
 リターナブル瓶入りの原告商品及びこれを描いた宣伝広告には、「Coca−Cola」などの表示が付されているが、この点に関し、以下のとおり判断する。
 取引社会においては、取引者、需要者は、平面的に表記された文字、図形、記号等からなる1つの標章によって、商品の出所を識別する場合が多いし、また、商品の提供者等も、同様に、1つの標章によって、自他商品の区別をする場合が多く、また、便宜であるともいえる。しかし、現実の取引の態様は多様であって、商品の提供者等は、当該商品に、常に1つの標章のみを付すのではなく、むしろ、複数の標章を付して、商品の出所を識別したり、自他商品の区別をしようとする例も散見されるし、また、取引者、需要者も、商品の提供者が付した標章とは全く別の商品形状の特徴(平面的な標章及び立体的形状等を含む。)によって、当該商品の出所を識別し、自他商品の区別することもあり得るところである。そのような取引の実情があることを考慮すると、当該商品に平面的に表記された文字、図形、記号等が付され、また、そのような文字等が商標登録されていたからといって、直ちに、当該商品の他の特徴的部分(平面的な標章及び立体的形状等を含む。)が、商品の出所を識別し、自他商品の区別をするものとして機能する余地がないと解することはできない(不正競争防止法2条1項1号ないし3号参照)。
 そのような観点に立って、リターナブル瓶入りの原告商品の形状をみると、前記(2)アで認定したとおり、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実(ア(イ))、大量の販売実績(ア(ウ))、多大の宣伝広告等の態様及び事実(ア(エ))、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果(ア(オ))等によれば、リターナブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は、極めて強いというべきである。そうすると、本件において、リターナブル瓶入りの原告商品に「Coca−Cola」などの表示が付されている点が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害になるというべきではない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。
(イ) リターナブル瓶入りの原告商品における口部の形状について
 リターナブル瓶の立体的形状と本願商標とは、口部において、前者が王冠用であるのに対して、後者がスクリューキャップ用であるという点で相違する。
 口部の形状は、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であって、特段の事情のない限り、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないというべきであるから、そもそも、本願商標の特徴的な部分ということはできない。また、本件において、特段の事情は存在しない。
 のみならず、前記(2)アのとおり、リターナブル瓶入りの原告商品の形状について、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実(ア(イ))、大量の販売実績(ア(ウ))、多大の宣伝広告等の態様及び事実(ア(エ))、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果(ア(オ))等を総合すると、リターナブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品識別力は、極めて強いというべきであるから、リターナブル瓶入りの原告商品の口部の相違が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害となるというべきではない。
エ 小括
 以上のとおり、本願商標については、原告商品におけるリターナブル瓶の使用によって、自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。これに反する被告の主張は、いずれも採用の限りでない。
(3) 以上検討したところによれば、本願商標は、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであるから、本願商標を同項に該当しないとした審決の判断には誤りがあり、原告主張の取消事由2は理由がある。
3 結論
 以上によれば、審決の認定判断には誤りがあり、この誤りが審決の結論に影響するから、審決は違法であり取り消されるべきである。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 嶋末和秀
 裁判官 大鷹一郎は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 飯村敏明


別紙商標目録 略
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