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【事件名】法律実務書題号の著作物性事件
【年月日】平成20年5月29日
 大阪地裁 平成19年(ワ)第14155号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成20年3月7日)

判決
原告 X
被告 社団法人金融財政事情研究会
被告 株式会社きんざい
上記両名訴訟代理人弁護士 関沢正彦
被告 Y1
被告 Y2
被告 Y3
上記3名訴訟代理人弁護士 辰巳和男
同 西島佳男
同 目方研次
同 駒井慶太
同 妻鹿直人
同 坂根智和
同 中島亮平


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 (主位的請求)
(1) 被告社団法人金融財政事情研究会(以下「被告研究会」という。)は、別紙目録記載の書籍を複製し、頒布してはならない。
(2) 被告株式会社きんざい(以下「被告きんざい」といい、被告研究会と併せて、「被告研究会ら」という。)は、別紙目録記載の書籍を頒布してはならない。
(3) 被告らは、原告に対し、連帯して金800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告研究会、被告きんざい及び被告Y1については平成19年11月20日、被告Y2及び被告Y3については同月18日)から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 (予備的請求)
(1) 被告研究会は、別紙目録記載の書籍を製造及び販売してはならない。
(2) 被告きんざいは、別紙目録記載の書籍を販売してはならない。
(3) 被告らは、原告に対し、連帯して金800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告研究会、被告きんざい及び被告Y1については平成19年11月20日、被告Y2及び被告Y3については同月18日)から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 基礎となる事実(証拠によって認定した事実は末尾に証拠を掲げた。それ以外は争いがない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)
(1) 原告書籍
 原告は、時効に関する法律実務書として、昭和63年から平成19年までの間に、以下の書籍(以下「原告書籍」といい、それぞれの書籍は、例えばA記載の書籍を「原告書籍A」のごとくいう。)を著作し、新日本法規出版株式会社より出版した。(被告研究会らについては甲1ないし5)
A 「時効の管理−法律問答一三〇−」(昭和63年)
B 「続 時効の管理」(平成3年)
C 「時効の管理〔増補改訂版〕」(平成7年)
D 「続 時効の管理〔増補改訂版〕」(平成13年)
E 「新版 時効の管理」(平成19年)
(2) 被告書籍
 被告研究会は、平成19年8月21日以降、別紙目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を発行している。被告きんざいは、被告研究会が発行した書籍の販売を目的とする会社である。被告Y1、被告Y2及び被告Y3(以下、この被告3名を「被告編著作者ら」という。)は、被告書籍の編著作者である。
2 争点
(1) 著作権・著作者人格権侵害行為該当性
ア 原告の主張
(ア)  「時効の管理」という題号は、時効による権利義務の消滅が時間という時の経過により必然的に生じるところの人間が左右し得ない権利義務の消滅という旧来から存したイメージを断ち切って、むしろ権利義務の一方当事者が主体的にこれを管理しコントロールすべきものであるとの視点から再認識した思想を創作的に表現したものであり、原告書籍以前に「時効の管理」という表現が使用されたことは一度もなかったという意味でも創作性のある書籍の題号である。
 原告書籍発行前後の時効に関する書籍の題号と比べても、「時効の管理」は際だった特徴を有する題号であった。
(イ) 被告研究会は、原告書籍の題号「時効の管理」に依拠して、「時効管理の実務」という題号を被告書籍に冠して出版し、被告きんざいをして販売させている。これは、原告の著作物「時効の管理」の著作権及び著作者人格権を侵害するものである。
(ウ) 被告編著作者らは、「手形研究」の319号(増刊号)(株式会社経済法令研究会昭和56年11月20日発行。以下「本件手形研究増刊号」という。丙1)の編集部のあいさつ文中の使用文言をもって「時効の管理」という表現は昭和63年当時においても慣用表現であり、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、上記あいさつ文は、「貸付金の消滅時効の管理は、貸付金管理のイロハであって」とあって、ここでの管理はあくまでも貸付金の管理として位置付けられた表現である。本件手形研究増刊号の新版が平成5年に「手形研究」475号(増刊号)として発行されているところ、そのあいさつ文中では、「貸付金を消滅時効にかけないように管理することは、貸付担当者にとってのイロハである」との表現があり、文末には「本書が本部および担当の方々にとって、貸付金管理の一助となるものと信じている」との表現があり、これらのことから、起案した編集部は時効を管理するという思想を持ち得なかったことが理解される。本件手形研究増刊号の執筆者の論文内の表現でも、いずれの実務家も貸付債権の管理として消滅時効の問題を取り扱っており、時効を管理するという観点からの表現を全くしていない。
 また、昭和62年から63年にかけての「金融法務事情」(乙2の1ないし3)の中において被告研究会ら代理人関沢弁護士のした「時効管理」との表現は、何らかの思想的表現ではなく、貸付債権の管理と同義で使用されている表現であり、原告の「時効の管理」とは全く異なる。
イ 被告研究会らの主張
 書籍の題号については、著作権法20条1項による同一性保持権が定められているだけであって、題号自体に著作物性はない。また、「時効の管理」は、通常の法律用語、普通名詞を組み合わせただけのシンプルなものであって、金融法務の世界においては、通例的に用いられる用語例であり、特段の独創性があるものとはいえず、著作物性がないことは明らかである。
 金融法務の世界においては、債権管理の一局面として時効の問題が常態的に取り上げられており(被告研究会が昭和43年5月に出版した堀内仁監修の「貸付管理全書」(上)事後管理においても「債権管理」の一局面において「時効」の項目を掲げており、同年6月に出版した「旬刊金融法務事情総索引」においても「管理」の一項目として「時効」を掲載している。同年7月に出版した「旬刊金融法務事情・銀行窓口の法務対策130講」においても「管理」の項目に「消滅時効」の問題を分類している。)、原告書籍に独自のものではない。被告研究会の努力により定着した金融法務の一分野である債権管理と時効とを結びつけた「時効の管理」は、むしろ被告研究会による成果を都合よく利用した題号にすぎないということさえできる。
 時効は中断も援用も権利義務当事者の営為に基づくものであって、管理は権利当事者が行うべきであるということは、原告書籍の発行前から法律の世界では定着した発想なのである。ことさら「時効の管理」に創造性があるのではない。
ウ 被告編著作者らの主張
(ア) 書籍の題号は、俳句を題号にしたような例外的な場合を除き、思想感情を表現したものではなく、かつ、創作性がないため言語の著作物に当たらない。著作権法20条1項が著作物の題号の改変を同一性保持権の内容として掲げているのは、著作物の題号のみでは別個著作物とならないことを示している。
(イ) 民法上「管理」(行為)とは、保存行為、利用行為、改良行為を総称し、保存行為には消滅時効の中断が含まれる。法律実務書として「時効の管理」と表現した場合の「管理」という語句は、民法上の管理行為を意味し、中でも保存行為としての消滅時効の中断を指すことになる。なぜなら、金融機関等の行う債権管理回収業務のうちの「債権管理業務」に消滅時効の時効中断が含まれ、「債権管理業務の一分野である消滅時効の管理業務」を総称して「時効管理」という慣用表現が従来から広く用いられているからである。したがって、「時効の管理」との題号を用いた場合、消滅時効の中断に関する問題を扱った書籍の内容を表現する題号としてありふれている。
 「時効」とは、消滅時効、取得時効を総称する一般的な法令用語、普通名詞であり、極めてありふれたものである。「○○の管理」という表現も、「債権の管理」、「延滞の管理」、「期日の管理」など、極めてありふれた表現である。したがって「時効の管理」は、極めて短くありふれた表現であり、思想、感情を創作的に表現したものではない。
(ウ) 「時効の管理」は、原告書籍Aが発行された昭和63年当時においても慣用表現であり、ありふれたものである。例えば、本件手形研究増刊号の1頁には、「特に、貸付金の消滅時効の管理は、貸付金管理のイロハであって」「取引先および取引形態の多様化が進む中で、消滅時効の管理にあたってもこれら新しい判例の考え方の理解が不可欠」との各文がある。また、被告研究会発行の全国的に著名周知の法律雑誌である「金融法務事情」の中において、昭和62年7月の時点で、被告きんざい代理人が、「時効管理」なる用語を法律用語として使用している。
(2) 不正競争行為該当性
ア 原告の主張
(ア) 「時効の管理」は、前記(1)アのように従来と全く異なる観点から創作された表現であり、他に類書がほとんど存在しなかったこと、前記「時効の管理−法律問答一三〇−」(原告書籍A)の発行後「続 時効の管理」(原告書籍B)やこれらの増補改訂版(原告書籍C及びD)が順次出版されたこと、またいわゆるバブルの崩壊による不良債権の管理回収が長期にならざるをえなかったことなどから、消滅時効にかからせないための法的手段が注目を浴びた。これらの結果、「時効の管理」は、平成18年ころまでには、法律書の時効に関する分野において原告の書籍を示す表示として広く知られるようになり、著名となった。
 書籍は、著作者個人の思想又は感情を創作的に表現するものであり、その書籍と著作者は一体不可分である。この点でテレビアニメなどとは異質なものである。書籍の題号はそれ自体が著作物であると同時に他の書籍との自他識別力を有し、むしろ題号による著作主体(ここでは著作者)を識別する表示として十分に認識され得るものである。特に、当該題号を付した書籍が永年にわたり広く流通すると著作主体と一体として周知となり、より一層出所表示機能を発揮するに至る。ちなみに、ドイツ商標法5条1項では、著作物の題号が取引上の表示として保護されることを明文で規定している。本件では、時効に関する法律実務書の分野では、時効を管理するという観念が全くの新規な発想であったことから、より強力な自他識別力又は出所表示機能を有するに至っていたものである。
(イ) 被告書籍の題号「時効管理の実務」は、原告の商品等表示「時効の管理」と同一又は類似である。
(ウ) しかも、被告書籍は、書籍の内容、特に著作形式として「問い」に対する「解答」方式の点においても、また取り上げている「問い」の種類・内容の点においても原告書籍と酷似していることもあり、原告書籍(具体的には、原告書籍C、D、E)との混同を生じさせている。
(エ) よって、被告書籍を製造販売する行為は、不正競争防止法2条1項2号(主位的主張)又は同項1号(予備的主張)に該当する。
イ 被告研究会らの主張
(ア) 「時効の管理」は需要者間に広く認識されていないし、著名な商品等表示でもない。「時効の管理」という書籍が原告書籍を指すものと理解する者はそれほど多くはなく、著作者名及び出版社の表示と相まって特定できるのである。書籍を購入したり利用したりする者は、書物の題号のみで当該書籍を特定するのではなく、題号の他に著者、場合によっては更に出版社をつきあわせて特定しているのであり、書店で書籍を購入する場合も、特に法律書においては、著作者と題号をあわせて特定し、購入しているのが実態である。
(イ) 被告書籍の題号「時効管理の実務」は、「時効の管理」とは同一ないし類似の表示ではない。
(ウ) 前記のとおり、書籍は、題号だけではなく、著者・出版社等により特定され、購入されるから、原告書籍と被告書籍には混同が生じない。
(エ) 「時効の管理」は普通名称・慣用表示であって、不正競争防止法19条1項の規定により不正競争行為にはならない。
ウ 被告編著作者らの主張
(ア) 原告は出版の主体ではなく、原告書籍を製造販売しておらず、単に印税を受領しているにすぎない。このため、原告は商品等表示の主体に該当せず、「他人」に当たらない。
(イ) 「時効の管理」という書籍の題号(の一部)は、単に金融機関や法律実務家が関与する債権の管理行為の一分野として、消滅時効の中断に関する問題を扱った書籍であるという書籍の内容を示すものにすぎず、自他識別力又は出所表示機能を有するものではないから、商品等表示に該当しない。
(ウ) 「時効管理の実務」という被告書籍の題号は、金融実務者向けに債権を時効にかからせないための管理、すなわち消滅時効の管理に関する分野を扱った書籍であるという内容・特徴を示すものにすぎない。したがって、被告書籍の題号は、商品等表示としての使用ではない。
(3) 被告編著作者らの行為
ア 原告の主張
 被告編著作者らは、被告書籍の題号を「時効管理の実務」とすることを了解し、もって共謀して原告の著作権及び著作者人格権を侵害し、また、被告研究会の不正競争行為に共同した。
イ 被告研究会らの主張
 被告研究会らと被告編著作者らとの間に、「時効管理の実務」の題号使用について共謀があったことは否認する。「時効管理の実務」という題号を決定したのは被告研究会であり、被告研究会が題号制作に当たって、被告編著作者らと相談したり、共謀した事実はない。被告書籍を販売したのは被告きんざいであるが、販売について特段の共謀もない。
ウ 被告編著作者らの主張
 被告編著作者らが、「時効管理の実務」を被告書籍の題号とすることを認識していたことは認めるが、共謀して原告の著作権・著作者人格権を侵害し、かつ被告研究会の不正競争行為に共同したとの原告主張は争う。
(4) 原告の損害
ア 原告の主張
(ア)  原告は、被告らの著作権侵害あるいは不正競争行為により、500万円を下らない財産的損害を被った(算式被告書籍の発行部数5000部×5000円(1冊あたりの本体価格)×0.2(利益率)=500万円)。
(イ)  著作者人格権(あるいは著作者の人格的利益)侵害による精神的損害は300万円を下らない。
イ 被告研究会らの主張
 否認ないし争う。
ウ 被告編著作者らの主張
 不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(著作権・著作者人格権侵害行為該当性)について
(1) 「時効の管理」の著作物性について
ア 証拠(甲1)によれば、原告書籍Aが発行されたのは昭和63年12月1日であることが認められる。したがって、原告主張に係る「時効の管理」の著作物性を判断するには、同日の時点を基準として判断すべきである。
イ 時効は、民法第一編第七章に規定されている法令用語であって、時効に関する法律問題を論じようとする際には不可避の用語である。昭和63年よりも前から「管理」とは、「@管轄し処理すること。とりしきること。A財産の保存・利用・改良を計ること。→管理行為。B事務を経営し、物的設備の維持・管轄をなすこと。」(新村出編・広辞苑第3版(岩波書店、昭和58年))という意味で日常よく使用される用語であったこと、及び保存行為、利用行為及び改良行為を併せて管理行為と呼び、保存行為には消滅時効の中断が含まれるとする見解が法律学上有力であったことは当裁判所に顕著である。また、昭和63年より前の民法でも「共有物ノ管理」(平成16年法律第147号による改正前の民法252条)、「事務ノ管理」(同法697条1項)という用語も用いられている。
 そうだとすると、「時効の管理」は、時効に関する法律問題を論じようとする際に不可避の用語である「時効」に、日常よく使用され、民法上も用いられている用語である「管理」を、間にありふれた助詞である「の」を挟んで組み合わせた僅か5文字の表現にすぎない。しかも「の管理」という表現も民法に用いられるなどありふれた表現である。以上のことからすれば、「時効の管理」は、ありふれた表現であって、思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。
ウ のみならず、管理行為の一つとして保存行為をあげ、保存行為には消滅時効の中断が含まれる見解が法律学上有力であったことは前示のとおりであるから、消滅時効の中断などの時効に関する債権の管理行為について論じようとするとき、これを「消滅時効の管理」というのはごく自然な表現である。また、消滅時効と取得時効を併せて「時効」といい、時効の中断は、消滅時効に限らず、取得時効についても存在する。したがって、「消滅時効の管理」の意味で簡略に「時効の管理」と表現することも、取得時効も含めた意味で「時効の管理」と表現することも、いずれも創作力を要しないものであって、「時効の管理」は、この点からみても、思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。
 証拠(乙2の1ないし3、丙1)によれば、本件手形研究増刊号(昭和56年11月20日発行)1頁には、編集部が、「特に、貸付金の消滅時効の管理は、貸付金管理のイロハであって」「取引先および取引形態の多様化が進む中で、消滅時効の管理にあたってもこれら新しい判例の考え方の理解が不可欠」として「消滅時効の管理」との表現をしていること、関沢正彦弁護士が、金融法務事情1147号(昭和62年2月25日号)44頁に「時効管理の大切さを肝に銘じていただきたいものである。」、45頁に「時効管理をする必要のないことが本件判決から明らかになった。」、金融法務事情1162号(昭和62年8月5日号)101頁に「保証人に対する時効管理は少なくとも更正計画認可決定確定時までは安心してよい。」、金融法務事情1192号(昭和63年7月5日号)41頁に「時効管理上、最後の弁済があった時から消滅時効を起算するのが通例」として、いずれも「時効管理」との表現をしていることが認められるが、上記事実も、「時効の管理」が、思想又は感情を創作的に表現したものではないことを裏付けるものということができる。
エ 原告は、@本件手形研究増刊号の編集部は時効を管理するという思想を持ち得なかった、A前記各金融法務事情の中において関沢正彦弁護士のした「時効管理」との表現は、貸付債権の管理と同義で使用されている表現であり、原告の「時効の管理」とは全く異なると主張する。しかし、著作物とは、思想又は感情を創作的に「表現したもの」であって、表現した者の思想自体を保護するものではない。そして、表現としてみると、「時効の管理」は、「消滅時効の管理」と比べて「消滅」の部分が足りないだけであり、「時効管理」とはほぼ同一ということができるから、「時効の管理」は、従来の表現である「消滅時効の管理」や「時効管理」だけからみても創作性が認められないものというべきである。
 また、原告は、原告書籍以前に「時効の管理」という表現が使用されたことは一度もなかったと主張する。しかし、「時効の管理」という表現が使用されたことがなかったとしても、そのことは以上の認定を左右するものではない。
(2) 小括
 以上のとおり、「時効の管理」という表現を著作物ということはできないから、著作権及び著作者人格権に基づく原告の請求は、いずれも理由がない。
2 争点(2)(不正競争行為該当性)について
(1) 書籍の題号について
 書籍の題号は、普通は、出所の識別表示として用いられるものではなく、その書籍の内容を表示するものとして用いられるものである。そして、需要者も、普通の場合は、書籍の題号を、その書籍の内容を表示するものとして認識するが、出所の識別表示としては認識しないのものと解される。
(2) 原告書籍の「時効の管理」について
 証拠(甲1ないし5)によれば、原告書籍Aが、「どちらかといえば、金融機関における消滅時効の管理がその中心となっている」(甲5の昭和63年11月付け「はしがき」)時効に関する法律書であるのを始めとして、原告書籍は、いずれも時効に関する法律書であることが認められる。他方、前記1(1)イ、ウ認定の事実によれば、「時効の管理」という表現は、管理行為たる消滅時効の中断を始めとする時効に関する法律問題を論じる際のありふれた表現ということができる。そうだとすると、原告書籍の題号に接した需要者は、原告書籍の題号のうち「時効の管理」という部分を、時効に関する法律書であるという内容を表現したものと認識するにすぎず、それ以上にこれを商品等表示と認識するものとは認められない。したがって、仮に原告書籍の存在が広く知られるようになっているとしても、「時効の管理」なる表示が原告の商品等表示として周知ないし著名となったとすることはできない。ちなみに、証拠(甲17、18)によれば、原告書籍に言及した書籍やブログは、題名の全部と著者名及び出版社を掲げて原告書籍を特定していることが認められるところである。
 他に、「時効の管理」が、原告の周知商品等表示又は著名商品等表示となっていたと認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告書籍の「時効管理の実務」について
 証拠(乙1の1ないし3)によれば、被告書籍は、「金融機関は、多くの権利を管理しなければならず、この際特に注意しなければならないのは、時効の問題である。・・・完成の阻止(時効の中断)をめぐっては、複雑な問題を包含しているため、特に金融機関において権利管理の職務にあたる者は・・・時効法理の研究をおろそかにしてはならない。本書は、このような立場から、時効(特に消滅時効)の基本的な法的問題だけでなく、金融機関で生じやすい問題を中心に、設問形式で解説した。」(はしがき)として権利管理の立場から特に消滅時効や管理行為である時効の中断の問題を扱った実務書であることが認められる。上記事実によれば、被告書籍の題号「時効管理の実務」は、管理行為たる消滅時効の中断を中心とする時効に関する法律実務書であるという内容、特徴を表現するために用いられているものであって、出所を表示するもの(商品等表示)ということはできない。したがって、被告研究会らが、「時効管理の実務」という商品等表示を使用したり、その商品等表示を使用した商品を製造販売しているとすることはできない。
(4) 小括
 以上のとおり、「時効の管理」を原告の周知商品等表示又は著名商品等表示ということはできず、かつ、被告書籍の題号を商品等表示をいうこともできないから、原告の不正競争防止法に基づく請求は、いずれも理由がない。
3 結論
 以上の次第で、原告の請求は、その余について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田知司
 裁判官 村上誠子
 裁判官 高松宏之は、差支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官 山田知司
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