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【事件名】建設機械リース管理ソフトの著作権侵害事件
【年月日】平成20年5月20日
 大阪地裁 平成16年(ワ)第1091号 損害賠償等請求事件(第1事件)、
 平成16年(ワ)第13231号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件)、
 平成18年(ワ)第6554号 著作権侵害差止等請求事件(第3事件)
 (口頭弁論終結日 平成20年2月21日)

判決
第1事件原告・第2事件被告 株式会社アールビィシィ
第2事件被告 X1
第3事件被告 X2
第3事件被告 X3
第3事件被告 X4
第3事件被告 X5
第3事件被告 X6
第3事件被告 X7
第3事件被告 X8
上記9名訴訟代理人弁護士 山上和則
同 繪川長昭
同 森正博
同 雨宮沙耶花
同 井口敦
上記9名補佐人弁理士 吉田稔
第1事件被告・第2事件原告・第3事件原告 株式会社ケイシィエス
第1事件被告 Y1
上記2名訴訟代理人弁護士 門間秀夫
同 大東恭治
同 辻本希世士
同 田中崇公
上記2名補佐人弁理士 窪田雅也
同 上野康成
第3事件原告 株式会社ケイシィエス
補佐人弁理士 辻本一義
同 神吉出
同 森田拓生

【当事者名の略称】
以下、当事者名の表示を次のとおりとする。
1 RBCら
 第1事件原告・第2事件被告株式会社アールビィシィを「RBC」という。
 第2事件被告X1を「X1」、第3事件被告X2を「X2」、同X3を「X3」、同X4を「X4」、同X5を「X5」、同X6を「X6」、同X7を「X7」、同X8を「X8」という。
 第3事件被告ら7名を併せて「X2ら7名」、これにX1を併せて「X1ら8名」といい、RBCとX1ら8名を併せて「RBCら」という。
2 KCSら
 第1事件被告・第2事件原告・第3事件原告株式会社ケイシィエスを「KCS」、第1事件被告Y1を「Y1」といい、両名を併せて「KCSら」という。


主文
1 KCSらは、RBCに対し、連帯して220万円及びこれに対するKCSは平成16年2月6日から、Y1は同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 KCSらは、それぞれ別紙1「謝罪文送付先目録」記載の者に対し、別紙2「謝罪文」記載の謝罪文を内容証明郵便により送付せよ。
3 RBCの第1事件に係るその余の請求を棄却する。
4 KCSの第2事件及び第3事件に係る請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、第1事件ないし第3事件を通じ、RBCに生じた費用の10分の1をRBCの負担とし、RBCに生じた費用の10分の9とX1ら8名及びKCSに生じた費用の全部をKCSの負担とし、Y1に生じた費用の全部をY1の負担とする。
6 この判決の第1項は仮に執行することができる。

第1 請求
1 第1事件
(1) KCSらは、RBCに対し、連帯して3741万7000円及びこれに対するKCSは平成16年2月6日から、Y1は同月7日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) KCSらは、それぞれ別紙1「謝罪文送付先目録」記載の者に対し、別紙2「謝罪文」記載の謝罪文を内容証明郵便により送付せよ。
2 第2事件
(1) RBC及びX1は、RBCが販売している「ミスターアドバンス」「Mr.レンタル」「Team S」と称するソフトウェア(以下、「RBCソフト」と総称する。)を複製・頒布・翻案してはならない。
(2) RBC及びX1は、別紙3「営業秘密目録」(1)記載の開発方針(以下「本件開発方針」という。)及び同(2)記載のプログラム作成に関する情報(以下「本件プログラム作成情報」という。)を、RBCソフトの作成・製造・販売に使用し、又はこれを開示してはならない。
(3) RBC及びX1は、RBCソフト、本件開発方針及び本件プログラム作成情報の記録された書類を廃棄し、電子的記録を削除せよ。
(4) RBC及びX1は、KCSに対し、連帯して1億円及びこれに対する平成16年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第3事件
(1) X2ら7名は、RBCが販売している「ミスターアドバンス」「Mr.レンタル」「Team S」「Team D」「Team M」「Team V」「Team F」と称するソフトウェア(以下、これらのソフトウェアを総称する場合も上記2(1)で定義した場合と区別することなく「RBCソフト」という。)を複製・頒布・翻案してはならない。
(2) X2ら7名は、別紙3「営業秘密目録」(1)記載の開発方針(本件開発方針)及び別紙3「営業秘密目録」(3)記載のプログラム作成に関する情報(以下、同情報を指称する場合も上記2(2)で定義した場合と区別することなく「本件プログラム作成情報」という。)を、RBCソフトの作成・製造・販売に使用し、又はこれを開示してはならない。
(3) X2ら7名は、RBCソフト、本件開発方針及び本件プログラム作成情報の記録された書類を廃棄し、電子的記録を削除せよ。
(4) X2ら7名は、KCSに対し、連帯して1億円及びこれに対する平成16年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 第1事件
 RBCが、KCSらに対し、以下のとおり主張し、(1) 不正競争防止法4条又は民法709条に基づく損害賠償(第1事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めるとともに、(2) 不正競争防止法14条に基づく信用回復の措置を求めた事案である。
(1) KCSが別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書(以下「本件文書1」という。甲1)及び別紙5記載のパンフレット(以下「本件文書2」という。甲2)をRBCとの競合取引先宛てに送付した行為及びY1が別紙6記載の「商標権侵害会社のお知らせ」と題する文書(以下「本件文書3」という。甲3の1)をRBCとの競合取引先等に宛てて送付した行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争又は民法709条の不法行為に該当する。
(2) Y1及びKCSの意を受けた従業員はRBCとの競合取引先等に対して、RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した。Y1及びKCSの従業員のかかる行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争又は民法709条の不法行為に該当する。
2 第2事件
 KCSが、RBC及びX1に対し、以下のとおり主張し、(1) 著作権法112条1項及び2項に基づき、RBCソフトの複製・頒布・翻案の差止め及び廃棄を求め、(2) 不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、本件開発方針及び本件プログラム作成情報の使用・開示の差止め及び廃棄を求め、(3) 著作権侵害の不法行為、不正競争防止法4条及び民法709条の不法行為に基づく損害賠償(第2事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めた事案である。
(1) 著作権侵害
ア (RBCに対し)
(ア) (貸出君新版プログラムに対する著作権侵害)
 RBCソフトのプログラム(Windows版〔以下「Win版」という。〕とビジネスサーバ版がある。以下、Win版とビジネスサーバ版を併せて「RBCプログラム」という。)は、KCSが開発したソフトウエア「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」(以下、両者を併せて「貸出君新版」という。)のプログラム(以下「貸出君新版プログラム」という。)に対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。
(イ) (貸出君プログラムに対する著作権侵害)
 RBCプログラムは、KCSが販売しているソフトウェア「貸出君」(Win版とビジネスサーバ版〔オフコン版、ASP版ともいう。以下「ビジネスサーバ版」又は「ASP版」という。〕がある。)のプログラム(以下「貸出君プログラム」という。)に対するKCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著作者の権利)を侵害する。
(ウ) (「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対する著作権侵害)
 RBCプログラム(Win版)は、「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。
(エ) (「貸出君ASP新版」のプログラム及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類に対する著作権侵害)
a RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、「貸出君ASP新版」のプログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(翻案権)を侵害する。
b RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著作者の権利)を侵害する。
c RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は、「貸出君ASP新版」のプログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。
d RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は、貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。
(オ) (「貸出君 for win 廉価版」及び貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアルに対する著作権侵害)
a RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は、「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)に対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。
b RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は、貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害する。
イ (X1に対し)
 X1は、RBCの代表者として、上記アの著作権侵害を実行した。
(2) 不正競争
ア (X1に対し)
 X1は、KCSから示された本件開発方針及び本件プログラム作成情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で又はKCSに損害を加える目的で使用し開示した。
 X1の上記行為は不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。
イ (RBCに対し)
 RBCは、不正開示行為であることを知って本件開発方針及び本件プログラム作成情報を取得し使用した。
 RBCの上記行為は不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当する。
(3) 民法709条の不法行為
 RBC及びX1は、貸出君新版プログラム及び貸出君プログラム並びにこれらプログラムに係る表示画面、開発用書類、オペレーションマニュアル等の資料(以下「貸出君関連成果物」と総称する。)をデータその他の媒体で持ち出し、KCSが10年以上かけて開発・改良してきたソフトウェア(以下「KCSソフト」という。)に適宜修正を加えることによって極めて短期間にRBCソフトを完成させ、これをKCSの顧客に販売し利益を得ている。
 RBC及びX1の上記行為は民法709条の不法行為に該当する。
3 第3事件
 KCSが、X2ら7名に対し、以下のとおり主張し、(1) 著作権法112条1項及び2項に基づき、RBCソフトの複製・頒布・翻案の差止め及び廃棄を求め、(2)不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、本件開発方針及び本件プログラム作成情報の使用・開示の差止め及び廃棄を求め、(3)著作権侵害の不法行為、不正競争防止法4条及び民法709条の不法行為に基づく損害賠償(第2事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めた事案である。
(1) 著作権侵害
 X2ら7名は、RBCのために、共謀して、貸出君関連成果物を複製及び翻案して、RBCプログラム及びその関連成果物を作成した。
 よって、X2ら7名は、RBCによる前記2(1)アの著作権侵害について共同して責任を負う。
(2) 不正競争
 X2ら7名は、KCSから示された本件開発方針及び本件プログラム作成情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で又はKCSに損害を加える目的で使用し開示した。
 X2ら7名の上記行為は不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。
(3) 民法709条の不法行為
 X2、X3、X4及びX5は、KCSに対する各種背任行為に及んだ中心人物であり、貸出君関連成果物を持ち出してRBCプログラム及びその関連成果物を作成し、RBCソフトとして販売し、KCSの取引先を不正に奪うことを中心になって共謀していた首謀者であり、X3、X4、X6、X7及びX8は、RBCソフトの開発行為に関わった者らである。
 よって、X2ら7名は、RBCによる前記2(3)の不法行為について共同して責任を負う。
第3 前提事実
 次の事実は、末尾に証拠を掲記したものを除き、当事者間に争いがない。
1 当事者
(1) RBCら
ア RBC
 RBCは、建機等リース管理に関するコンピュータハード及びソフトの制作・販売を業とする会社であり、平成15年3月6日にKCSの元従業員によって設立された。
イ X1ら8名
 X1ら8名は、いずれもKCSの元従業員である。
(ア) X1は、KCSから、平成15年3月31日、懲戒解雇の意思表示を受けた。
 X1は、RBC設立に伴い、その代表取締役に就任した。
(イ) X2は、KCS在籍当時、専務取締役の地位にあったが、平成14年12月6日開催の株主総会において、取締役に再任されなかった。
 X2は、RBC設立に伴い、その相談役に就任した。
(ウ) X3は、KCS在籍当時、システム開発の責任者の地位にあったが、平成15年1月6日、KCSを退職した。
 X3は、RBC設立に伴い、その取締役に就任した。
(エ) X4は、KCSから、平成15年3月31日、懲戒解雇の意思表示を受けた。
 X4は、RBC設立に伴い、その取締役に就任した。
(オ) X5は、KCSから、平成15年3月31日、懲戒解雇の意思表示を受けた。
 X5は、RBC設立に伴い、その取締役に就任した。
(カ) X6は、KCSに対し、平成15年1月15日、退職届を提出した。
(キ) X7は、KCSに対し、平成15年1月20日、退職届を提出した。
(ク) X8は、KCSに対し、平成15年2月28日、退職届を提出した。
(2) KCSら
ア KCS
 KCSは、建機等リース管理に関するコンピュータハード及びソフトの制作・販売を業とする会社である。
イ Y1
 Y1は、KCSの代表取締役であったY2の次男であり、平成14年9月20日開催のKCSの臨時株主総会において、その取締役に選任され、以来今日までその地位にある。
2 RBCソフト等
(1) RBCソフト
 RBCは、その設立後、「Mr.Advance/ミスターアドバンス」の名称で建機・仮設レンタル業向けのソフトウェアの販売を開始した。その後、RBCは、上記ソフトウェアの名称を「建機・仮設レンタルシステム」に変更し、更に「Mr.レンタル」、「Team S」等に変更した。
(2) RBCプログラムのソースコード
ア 甲第123ないし第125号証は、RBCプログラム(Win版)のソースコードの一部である。
イ 甲第128、第129号証は、RBCプログラム(ビジネスサーバ版)のソースコードの一部である。
(3) RBCプログラムの開発用書類
 甲第20号証は、RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類の一部である。
(4) RBCプログラムのオペレーションマニュアル
 甲第96号証は、RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアルである。
3 KCSソフト等
(1) KCSソフト
 KCSは、平成2年ころから、「貸出君」の名称で建機・仮設レンタル業向けのソフトウェアを販売している。
(2) KCSプログラムのソースコード
ア 乙第76ないし第78号証は、貸出君プログラム(Win版)のソースコードの一部である。
イ 乙第81ないし第82号証(枝番を含む。)は、貸出君プログラム(ASP版)のソースコードの一部である。
(3) KCSプログラムの開発用書類
 乙第49、第58号証(枝番を含む。)は、貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類の一部である。
(4) KCSプログラムのオペレーションマニュアル
 甲第87号証は、貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアルである。
4 KCSの商標権
(1) ミスターアドヴァンス商標
 KCSは、平成15年4月23日、「ミスターアドヴァンス/MISTERADVANCE」の文字から成る商標(「ミスターアドヴァンス」の文字列を横書きにして上段に配し、「MISTER ADVANCE」の文字列を横書きにして下段に配した商標)について、商標登録出願を行い、同商標は、平成15年11月21日、商標登録された(登録された上記商標を、以下「本件登録商標」という。なお、本件登録商標の「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」は、第9類、電子計算機用プログラムを記憶させたフロッピーディスク及びコンパクトディスク、その他の電子応用機械器具及びその部品等である。)。
(2) 貸出君商標
 KCSは、「貸出君」の標準文字から成る商標の商標権者である。
5 本件文書1の送付
 KCSは、平成15年3月29日、RBCとの競合取引先約350社に対し、本件文書1(別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書)を送付した。本件文書1には、次の記載がある。
(1) 「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」
(2) 「弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があります」
6 本件文書2の送付
 KCSは、平成15年10月、RBCとの競合取引先多数に対し、本件文書2(別紙5記載のパンフレット)を送付した。本件文書2には、次の記載がある。
(1) 「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」
(2) 「貸出君・ミスターアドヴァンスは、潟Pイシィエスの登録商標または商標です。」
7 本件文書3の送付
 Y1は、平成15年12月4日、RBCとの競合取引先多数及びファイナンス会社多数に対し、本件文書3(別紙6記載の「商標権侵害会社のお知らせ」と題する文書)に、KCSがRBCに送付した警告文の写し(甲3の2・3)、本件登録商標の商標登録証の写し(甲3の4)及び「貸出君」の商標登録証の写し(甲3の5)を添付して、送付した。本件文書3には、次の記載がある。
(1) 「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いている」
(2) 「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発、販売を行っており、著作権を有し」
(3) 「この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。」
第4 第1事件の争点
1 本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
(1) 本件文書1の記載(1)(「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」)の虚偽性の有無
(2) 本件文書1の記載(2)(「弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があります」)の虚偽性の有無
2 本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
(1) 本件文書2の記載(1)(「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」)の虚偽性の有無
(2) 本件文書2の記載(2)(「貸出君・ミスターアドヴァンスは、潟Pイシィエスの登録商標または商標です。」)の虚偽性の有無
3 本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
(1) 本件文書3の記載(1)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いている」)の虚偽性の有無
(2) 本件文書3の記載(2)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発、販売を行っており、著作権を有し」)の虚偽性の有無
(3) 本件文書3の記載(3)(「この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。」)の虚偽性の有無
4 Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
5 KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
6 KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか
7 本件文書1ないし3の送付並びに前記4ないし6のY1らの発言は民法709条の不法行為を構成するか
8 RBCの被った損害の額
9 不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否
第5 第2事件及び第3事件の争点
1 RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか(そもそも貸出君新版プログラムはKCSの著作物として存在するか。仮に存在するとしてその内容はいかなるものか)
2 RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか
(1) 貸出君プログラムの著作物性の有無
(2) 貸出君プログラムに対する依拠性の有無
3 RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するか
(1) 表示画面の著作物性の有無
(2) 表示画面に対する依拠性の有無
4 RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発用書類及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権を侵害するか
5 RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル及び貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵害するか
6 本件開発方針及び本件プログラム作成情報について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか
(1) 本件開発方針の営業秘密該当性の有無
(2) 本件プログラム作成情報の営業秘密該当性の有無
(3) RBCらの不正競争行為の有無
7 貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不法行為の成否
8 KCSの被った損害の額
第6 第1事件の争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(1)〔本件文書1の記載(1)(「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
 本件文書1の記載(1)「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」との記載のうち、X5、X1及びX4を「弊社が懲戒解雇した社員」という点は、同人らはいずれも平成15年3月5日にKCSに退職届を提出しているから、同人らについては、同日から2週間を経過した平成15年3月20日には任意退職の効力が生じており、KCSによる懲戒解雇は、意味をなさないので、本件文書1の記載(1)は、この点において虚偽である。
【KCSらの主張】
 KCSの従業員の一部は、平成14年8月ころから、専務取締役のX2を中心として、X5、X1及びX4らが首謀者となって、KCSの代表者であるY2からKCSの経営権を奪おうと企てた。これらの者は、経営権の奪取に失敗するや、新会社(RBC)を設立し、X2がその相談役に就任したほか、X5が取締役、X1が代表取締役社長、X4が取締役に就任した。KCSは、上記首謀者のうち、X5、X1及びX4の3名を平成15年3月31日付けで懲戒解雇した。
 したがって、RBCが、これら懲戒解雇されたKCS元従業員によって設立された会社であることは事実であるから、本件文書1の記載(1)は虚偽ではない。
2 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(2)〔本件文書1の記載(2)(「弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があります」)の虚偽性の有無〕について【RBCの主張】
 本件文書1の記載(2)中の「弊社権利を侵害している会社」の部分は、その前段の「『貸出君』は、弊社にて開発、販売を行っており弊社が著作権を所有し、商標登録しております」を受けて、受け手において「貸出君の著作権と商標権を侵害しているRBC」との意味に受け取られる。
 しかし、本件文書1が送付された平成15年3月29日当時RBCが「ミスターアドバンス」の商品名で販売していたソフトは、「貸出君」とは全く異なる発想でRBCが新たに開発したものであり、「貸出君」に係るKCSの著作権を侵害するものではない。この点については、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】において詳述する。
 また、KCSが「ミスターアドヴァンス」について商標登録出願をしたのは平成15年4月23日であり、商標登録がされたのは同年11月21日であって、本件文書1が送付された同年3月29日時点では未だ、KCSは「ミスターアドヴァンス」の商標権を有していなかった。
 したがって、RBCはKCSの著作権及び商標権のいずれも侵害していないから、本件文書1の記載(2)中の「弊社権利を侵害している会社」の部分は虚偽であり、したがってまた、「差止請求される可能性があります」の部分も虚偽である。
【KCSらの主張】
(1) 本件文書1が送付された当時は、KCSの元従業員によってRBCが設立されて間もない時期であり、KCSとRBCとを混同し、RBCがKCSの業務を引き継いだのではないかと誤解する取引先が存在した。このような状況からすれば、本件文書1の趣旨は、その受け手であるKCSの取引先をして、KCSとRBCが別の会社であり、「貸出君」は名実ともにKCSのソフトであって、RBCを含む他社のソフトではないことを確認させることに尽きるものである。
 したがって、本件文書1の記載(2)の意味は、「KCSとRBCが無関係であること」「KCSが引き続き『貸出君』の著作権及び商標権を有すること」「『貸出君』という商標を用いたソフトの販売や『貸出君』の複製・翻案等を行うKCS以外の会社と取引をすると、KCSによる差止等の対象になること」であると解釈されるところ、これらはすべて真実である。
(2) 仮に、本件文書1の記載(2)の意味をRBC主張のように解釈するとしても、RBCは「貸出君」に係るKCSの著作権及び商標権を侵害しているから、同記載は真実である。著作権侵害の点については、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【KCSの主張】において詳述する。
3 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(1)〔本件文書2の記載(1)(「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
 KCSは、「ミスターアドヴァンス」の名称のソフトを自ら開発したり、販売したことはない。KCSらは、当時RBCが「ミスターアドバンス」の商品名で販売していたソフトはKCSの元従業員がKCS在職中に開発したものであるからKCSに著作権がある旨主張するが、その主張に理由がないことは、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】のとおりである。また、KCSが「ミスターアドヴァンス」をバージョンアップしたことがないことも、以上より明らかである。
 そうすると、「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」との記載は、その受け手においては、当時RBCが「ミスターアドバンス」の商品名で販売していたソフトは古いものとなってしまっており、KCSの新しい「貸出君」に変更されたと認識することになるが、これは明らかに虚偽である。
【KCSらの主張】
 争う。
4 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(2)〔本件文書2の記載(2)(「貸出君・ミスターアドヴァンスは、潟Pイシィエスの登録商標または商標です。」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
 KCSは、自らは一度も使用したことのない商標である「ミスターアドヴァンス」について、RBCの未申請を奇貨として平成15年4月23日に商標登録出願した。その商標登録がされたのは同年11月21日であって、本件文書2が送付された同年10月時点では、未だKCSは「ミスターアドヴァンス」の商標権を有していなかった。したがって、「ミスターアドヴァンス」がKCSの「登録商標または商標です」との記載は虚偽である。
【KCSらの主張】
 本件文書2では、「貸出君」「ミスターアドヴァンス」の順に対応する形で、それらがKCSの「登録商標」「商標」であるというように、言葉が使い分けられている。したがって、本件文書2の記載(2)の意味は、KCSは「貸出君」の商標を登録済みであり、「ミスターアドヴァンス」については登録に至っていないということになるが、本件文書2が送付された平成15年10月当時の状況は、まさにこのような状況であったから、本件文書2の記載(2)は真実である。
5 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(1)〔本件文書3の記載(1)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いている」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
 「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いているコンピュータソフトウェアです。」との記載は、KCSが「ミスターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売し、その販売先500社がそれを使用している、と読み手が受け取ることは明らかである。しかし、KCSは「ミスターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売したことはないから、本件文書3の記載(1)は虚偽である。
【KCSらの主張】
 争う。
6 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(2)〔本件文書3の記載(2)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発、販売を行っており、著作権を有し」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
 「ミスターアドヴァンス」をKCSが開発、販売したという事実はない。また、「ミスターアドヴァンス」は、RBC従業員がKCS在籍中に開発したものでもない。したがって、「ミスターアドヴァンス」をKCSが開発、販売し、KCSがその著作権を有するとの上記記載は虚偽である。
【KCSらの主張】
 争う。
 KCSがRBCプログラムの著作権を有することは、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【KCSの主張】のとおりである。
7 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)の(3)〔本件文書3の記載(3)(「この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。」)の虚偽性の有無〕について
【RBCの主張】
(1) RBCは、本件文書2が出回っていることを知り、平成15年10月20日ころインターネットで調べたところ、KCSが商標登録出願中であることが判明した。そこで、RBCは、弁理士の指導を受けて、同年11月1日以降、「ミスターアドヴァンス」の標章の使用を中止した。
(2) 権利の濫用
 仮に、RBCが過失により「ミスターアドヴァンス」の標章を使用したことがあったとしても、KCSらは、RBCがKCSの商標権を侵害している旨の主張をすることはできず、本件文書3の送付は違法行為となる。
 すなわち、「ミスターアドヴァンス」というソフトは、RBCの関係者がKCS退職後の平成15年1月以降開発に着手した独自のものであって、KCSが開発、販売をしたものではなく、KCSには、商標である「ミスターアドヴァンス」がKCSの商品であることの出所を示すべき商品そのものがない。KCSが平成15年4月23日に「ミスターアドヴァンス」の商標登録を申請したのは、もっぱらRBCが「ミスターアドヴァンス」という標章で建機リースソフトを販売することを妨害するためである。
 ところで、商標法の立法趣旨は、一般需要者の信頼を保護するために商標の出所識別機能を保護することにある。しかるに、KCSは、RBCによる上記ソフトの販売開始からあまり日数を経過していない平成15年4月23日に、RBCが商標登録申請をしていないのを奇貨として、RBCによる販売活動の妨害だけを目的として商標登録を申請したのであり、KCSによる登録商標の取得は、商標の出所識別機能の保護を目的とする商標法の立法趣旨に著しく反するものである。
 したがって、KCSがRBCに対して「ミスターアドヴァンス」の使用を止めるよう警告する行為そのものが権利の濫用であり、顧客に対して「商標権侵害会社」などと流布する行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当する。
(3) KCSらの主張に対する反論
ア KCSらは、RBCプログラムの著作権はKCSが有しており、本来「ミスターアドヴァンス」の名称でソフトを販売することができたのもKCSである旨主張するが、KCSはRBCプログラムの著作権を有していない。この点については、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】において詳述する。
イ KCSらは、いわゆるポパイ事件判決(最高裁判所平成2年7月20日)及びウィルスバスター事件判決(東京地方裁判所平成11年4月28日)の解釈として、両判決は、商標の著名性に着目して権利濫用の法理を適用したものであるところ、「ミスターアドヴァンス」は著名性がないから権利濫用の法理を適用できないと主張する。しかし、両判決が権利濫用の法理を適用したのは、商標権を主張する者の権利行使が、主観的要素を加味してその行使方法に反社会性があると認めたからである。したがって、KCSらの上記主張は理由がない。
【KCSらの主張】
(1) 本件文書3では、「商標権侵害会社のお知らせ」というタイトルのもとに、「商標権が侵害されている」「商標権侵害の疑いがございましたら」という言葉を用いて商標権侵害に対する注意喚起が行われ、商標権侵害についての警告書と商標登録証の各写し(甲3の2〜5)が添付されている。したがって、本件文書3の趣旨は、その受け手をして、KCSが有する商標権の内容を確認させ、商標権侵害を行うことのないように注意を喚起することにあるというべきである。また、本件文書3で「この件について」「その商標権侵害」として引用されている件の警告書(甲3の2)にはRBCのパンフレット(乙3)が具体的に引用されている一方、本件文書3には「RBCが『貸出君』と『ミスターアドヴァンス』の双方の商標権侵害に及んでいる」などとは一言も記載されていないことからして、具体的に摘示されるRBCの商標権侵害は「ミスターアドヴァンス」に対するものである。したがって、本件文書3の趣旨は、KCSが「貸出君」と「ミスターアドヴァンス」の商標権を有することの確認と、RBCによる「ミスターアドヴァンス」の使用に加わることのないようにするための注意喚起である。そして、本件文書3を送付した平成15年12月当時、KCSは「ミスターアドヴァンス」の商標権を有していた。よって、本件文書3の記載(3)は真実である。
(2) 仮に、本件文書3の記載(3)の意味をRBC主張のように解釈するとしても、RBCは、KCSが「ミスターアドヴァンス」の商標登録を受けた平成15年11月21日より後の同月26日に、朝日リース株式会社に対して「Mr.Advance」の標章を付したシステムの提案書(乙21)を提示し、KCSの商標権を侵害しているから、同記載は真実である。
(3) 権利濫用の主張に対する反論
ア 後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【KCSの主張】のとおり、KCSはRBCプログラムの著作権を有しており、本来「ミスターアドヴァンス」の名称でソフトを販売することができたのもKCSなのであって、KCSが「ミスターアドヴァンス」の商標登録を受け、その商標権に基づきRBCに対して警告を行ったことは正当な権利行使であって、権利の濫用には当たらない。
イ いわゆるポパイ事件判決(最高裁判所平成2年7月20日)及びウィルスバスター事件判決(東京地方裁判所平成11年4月28日)に照らしても、KCSがRBCに対して商標権侵害の警告を行ったことが権利の濫用とされる余地はない。
 すなわち、ポパイ事件判決は、商標権者が著名な名称にただ乗りして商標登録を受けた場合に、当該商標についての権利行使が権利の濫用に当たるとしたものである。これに対し、本件の場合は、「ミスターアドヴァンス」の名称によってRBCが連想されるような状況にはなく、出願時において「ミスターアドヴァンス」の著名性はなかった。
 また、ウィルスバスター事件判決は、登録商標が商標としての機能を有していない状況で、著名になっている被告商標の使用に対して、原告商標権に基づいて権利行使を認めることは商標法の趣旨に反するとして権利の濫用に当たるとしたものである。これに対し、本件の場合は、KCSが本来「ミスターアドヴァンス」の名称でソフトを販売できたにもかかわらずRBC従業員らによるプログラム等の持ち出しによりやむを得ず販売の延期を余儀なくされていたものにすぎないし、また、RBCの商標に著名性は全く認められないから、KCSが商標権に基づきRBCに対して警告を行ったことが権利の濫用とされる余地はない。
8 争点4(Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
【RBCの主張】
(1) 発言内容
 Y1は、平成15年12月12日、リコーリース株式会社(以下「リコーリース」という。)名古屋支社を訪問し、同社のP2氏に電話で次のような事実を告げた。すなわち、「株式会社日成工業所(以下「日成工業所」という。)は、RBCのソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないにもかかわらず、リース料金を支払っている。日成工業所は、RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないため、非常に立腹していた。そのようなことは至るところで発生しており、ある客先では、リース会社と同行の上契約検収を行い、リース会社が帰った後に機器を持ち帰りその後納品を行わないという詐欺のような販売を行っている。」と(甲6の2)。
(2) 虚偽性
 日成工業所は、平成15年12月15日付けで、リコーリースに対し、「同年3月にRBCのシステムを導入し、10月に最後のテストを完了、11月から本稼動を始めた。今後も十分に活用することはもちろん、RBCとも長いお付き合いをするつもり」との、RBCに好意的な手紙(甲8)を出している。
 この手紙からも明らかなように、Y1は、日成工業所で既に平成15年11月から稼動しているシステムについて、同年12月時点でまだソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないとの虚偽の事実、また、RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないとの虚偽の事実を述べたのである。
 また、RBCのソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないということ、RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないことが至るところで発生しているとの点も虚偽である。
【KCSらの主張】
 Y1が平成15年12月12日にリコーリース名古屋支社を訪問し、同社のP2と電話で話をしたことは認め、その余は否認ないし争う。
 日成工業所は、KCSの元営業社員であるP5が平成15年3月20日に退職するまで頻繁に訪問していた企業であり、KCS在職中にリコーリースに対し、KCSの商品に関し、日成工業所とのファイナンスリース契約の可否についての事前審査依頼を行っていた経緯もあった。ところが、P5はその後KCSを退職してRBCに入社し、その後日成工業所についてはリコーリースがRBCの商品のファイナンスリース契約を締結するに至った。一方、P5が乙第1号証に見られるようにKCS在職中からRBCの名前でKCSの取引先に見積書を提出していたこともわかった。そこで、Y1は、日成工業所のリース契約の事実関係を確かめるために平成15年12月12日リコーリース名古屋支社を訪問して同社与信グループリーダーと面談の上、担当者のP2からY1宛てに電話をもらうよう依頼したところ、同日P2より電話があり、「RBCから、『KCSが事前審査依頼した物件とRBCが日成工業所に納入するソフトとは全く別業務のソフトである』という説明を受けたので、問題なくファイナンスリース契約を締結した。」旨の説明を受けた。
9 争点5(KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
【RBCの主張】
(1) 発言内容
 KCSの営業担当社員P6は、平成16年1月6日、中村建機株式会社(以下「中村建機」という。)のP3氏を訪問し、次の事実を告げた(甲9)。
ア RBCのユーザーではトラブルばかりで、稼動しているところはまだない。特に広島の顧客は未だに稼動していない。
イ RBCが納入しているソフトは、KCSにあった「貸出君」を持ち出し、修正を加えて販売している。著作権はKCSにあるので、今後使えなくなる。
ウ RBCへ行った元社員は、退職時に書類などを持ち出していった。
エ RBCのX2らが、在職中に中古機等のアルバイト的なことを行っていた。
(2) 虚偽性
 上記(1)のアについては、前記8の日成工業所の件でもわかるとおり、平成16年1月6日現在RBCのソフトは稼動中であり、稼動しているところがないというのは事実に反する(平成16年1月現在、広島における顧客は、長浜産業株式会社(以下「長浜産業」という。)1社のみであるが、同社はRBCの対応に満足している(甲10)。
 上記(1)のイについては、RBCのソフトが「貸出君」の著作権を侵害していないこと、及びRBCの従業員がKCS在職中に作ったものでないことは、後記第7(第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張)の1ないし5の【RBCらの主張】のとおりである。
 上記(1)のウ及びエについては、KCSらによる悪意に満ちた中傷であり、事実無根である。
【KCSらの主張】
 KCSの営業担当社員P6が平成16年1月6日に中村建機を訪問し、P3社長と面談したことは認め、その余は否認ないし争う。
 P6は、平成16年1月6日を含め数回同社を訪問しているが、あくまでユーザー企業への表敬とリプレイス商談推進を目的としたものであり、P3社長との面談においてRBC主張の事実を述べた事実はない。
10 争点6(KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
【RBCの主張】
(1) 発言内容
 KCSの従業員であるP7及びP6は、平成16年3月31日ころ、株式会社川嶋機械工業所(以下「川嶋機械工業所」という。)を訪問し、同社のP4氏に対し、「RBCについては社員がどんどん退職しており、人手不足の状態である。あの会社はいつまで続くかわからないのでメンテに問題がある。RBCとは(取引を)止めておいた方がよい。」との事実を告げた(甲11の1ないし3)。
(2) 虚偽性
 RBCでは社員が大量に退職した事実はなく、また人手不足でもない。メンテナンスも誠実に行っている。P7及びP6の上記発言内容は虚偽である。
【KCSらの主張】
(1) 発言内容
 KCSの従業員であるP7及びP6が平成16年3月31日を含め3回川嶋機械工業所を訪問し、同社のP4専務と面談したことは認め、その余は否認ないし争う。
 両名の訪問は、ユーザー企業に対する表敬と商談を目的とするものであり、その中でKCSのシステム提案に関する話はしたが、他社の信用を害する発言はしていない。
(2) 虚偽性
 RBCで社員が大量に退職した事実はないとのRBCの主張は、否認ないし争う。
 KCSの調査によれば、RBCに入社したKCSの元従業員等26名中、14名が既に退職しており、大量退職の事実は明らかである。
11 争点7(本件文書1ないし3の送付等は民法709条不法行為を構成するか)について
【RBCの主張】
 本件文書1ないし3の送付並びに前記8ないし10のY1らの発言は、RBCの信用を毀損するものであり、不法行為に該当する。
【KCSらの主張】
 争う。
12 争点8(RBCの被った損害の額)について
【RBCの主張】
(1) 営業上の損害
ア A社ないしC社との商談解消
 KCSらによる前記不正競争ないし不法行為により、RBCは別紙7「損害一覧表」記載のとおり、A社ないしC社から合計2693万円の商談を解消された。このうちハード代金については1割5分が粗利、ソフトについては全額がその粗利である。よって、その損害額は2541万7000円である。
イ センターリース及び友清商店との商談解消
 上記アのA社ないしC社の会社名については、KCSら(特にY1)による営業妨害が続いている現在、これを明らかにすると、各社に思わぬ迷惑がかかるため、これを明らかにすることはできない。そこで、これに代えて、次の2社との商談解消による損害について主張する。これら2社との商談の解消問題は、第1事件訴え提起時には未だ現実化していなかったが、その後KCSらの営業妨害により、結局商談が解消されたものである。
(ア) 売買契約締結
 RBCは、次のとおり、株式会社センターリース(以下「センターリース」という。)及び株式会社友清商店(以下「友清商店」という。)との間で、コンピューターのいわゆるハードおよびソフトの売買契約を締結した(リース契約を介するため、形式は賃貸借契約になっている)。
a センターリース(甲93、94)
 ハード代金 92万円
 ソフト代金 210万円
 契約締結日 平成15年12月8日
 納入予定日 平成15年12月末日
 リース会社 尼信リース
b 友清商店(甲95。なお、値引をした結果、ハード、ソフトの各代金の割り振りは、次のとおりとしている。)
 ハード代金 50万円
 ソフト代金 240万円
 契約締結日 平成15年12月中旬ごろ
 納入予定日 平成15年12月20日
 リース会社 九州リース
(イ) 契約解消
 ところが、KCSらは、RBCの取引先やリース(ファイナンス)会社に対し、本件文書3を送付したため、リース(ファイナンス)会社の中には、RBCとの契約を拒むものが続出した。
a センターリースとの契約について
 RBCは、センターリースとの間で、平成15年12月に契約を締結し、リース会社を尼信リースとすることになっていた。そして、尼信リースはRBCに対して注文書(甲98)を発行するまでに進んでいた。しかるに、KCSらの営業妨害のため、尼信リースから解約を申し込まれるという事態に至り、センターリースとの契約が白紙となった。
b 友清商店との契約について
 RBCは、友清商店との間で、平成15年商談に入り、同年12月15日付けの見積書にて導入を決定するとの口頭での約束を取り付けた。そして、友清商店の顧問税理士の紹介で、九州リースにファイナンスを申し込んでいた。しかるに、KCSらから営業妨害のための書類が送付されているとの理由で、最終的に友清商店との契約は白紙に戻されることになった。
(ウ) RBCの損害
 上記各契約によって、RBCが得べかりし粗利は、ハード代金については1割5分、ソフト代金についてはその全額であった。
 したがって、RBCはKCSらの前記不法行為により、少なくとも(上記アの損害が認められないとしても)471万3000円〔(92万円+50万円)×0.15+(210万円+240万円)〕の損害を被ったものである。
(2) 無形損害
 KCSらの前記不正競争ないし不法行為により、RBCは、取引先からのこれに関する問合せが多数寄せられ、また多数の取引先及び多数のファイナンス会社に釈明、善処を求めることに忙殺された。
 これにより、RBCの信用は大きく失墜することとなり、会社としての名誉も毀損されるばかりか、多大な業務遂行上の支障が生じたものであり、RBCがKCSらの不法行為により被った無形損害は1000万円を下らない。
(3) 弁護士費用
 KCSらの不法行為により、RBCは本件訴訟を提起せざるを得ず、その弁護士費用は200万円と見積もられる。
(4) RBCの損害
 RBCは、KCSらの前記不正競争ないし不法行為によって、上記(1)ないし(3)の合計3741万7000円の損害を被った。
【KCSらの主張】
 否認ないし争う。
 RBCの主張(1)のイ(センターリース及び友清商店との商談解消)について、甲93ないし95によっても、KCSらの行為によってセンターリース及び友清商店との契約が解消された事実は何ら立証されていない。
(1) センターリースとの契約(甲93、94)について
 ファイナンスリース会社とファイナンスリース契約を行う場合、事前にファイナンスリース会社において納入先に対する与信が可能か否かの与信審査を行い、その結果について、与信審査結果書という書面で回答がなされる。しかるに、センターリースについては、見積書と約定書が提出されるのみで、上記の与信審査結果書が提出されていないため、そもそもファイナンスリース会社の与信審査の結果自体明らかでない。
 また、仮にファイナンスリース会社が与信審査の結果、センターリースに対する与信を不可としたとしても、その理由がKCSらの行為によるものとはいえない。なぜなら、センターリースについては、KCSが商談を行い、平成14年9月24日、株式会社日本ビジネスリースにリース審査を依頼した経緯がある(乙27)。それに対し、同社からは、同日、与信を不可とする回答がなされた(乙28)。この事実に照らせば、仮に、ファイナンスリース会社が与信審査の結果、センターリースに対する与信を不可としたことが事実だとしても、その理由は、KCSらの行為によるものではなく、センターリース自体の信用不足その他別の理由によるものと推認されるからである。
(2) 友清商店との契約(甲95)について
 友清商店については、単に見積書が提出されたのみで、与信関係の証拠書類はもちろん、約定書すら提出されていない。甲95は、KCSらの行為によってRBCが契約を解消された事実を証するものといえないことは明らかである。
13 争点9(不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否)について
【RBCの主張】
 KCSらの一連の不法行為は、虚偽の事実を通告・流布することにより、競争関係にあるRBCの営業活動を不当に妨害することを目的とした極めて悪質かつ違法性の強いものである。また、KCSらの行為によりRBCの名誉・信用が著しく毀損されている。したがって、判決により謝罪文送付を強制することがRBCの名誉を回復するために必要不可欠である。
【KCSらの主張】
 争う。
第7 第2事件及び第3事件の争点に関する当事者の主張
1 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)について
【KCSの主張】
 RBCプログラムは、KCSが開発した貸出君新版プログラム(「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)をRBCの関係者が持ち出し、これを複製ないし翻案して作成したものであり、貸出君新版プログラムの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害するものである。以下詳述する。
(1) RBC設立前の準備行為
ア 貸出君新版の開発経緯
(ア) 貸出君新版の開発に至る経緯
 KCSは、昭和54年に設立された後、種々のシステム開発・販売を主たる業務としてきたが、平成元年ころから、建機・仮設レンタル業用に特化したシステム開発・販売を行うようになった。KCSは、平成2年ころから、建機・仮設レンタル業用システムに「貸出君」というブランドを付し、自社の主力商品として、営業活動を強化していった。「貸出君」はASP(オフコン)版で開発されたが、平成9年ころからWin版でも開発され、より多くの需要者を得るようになっていった。
 具体的には、次のとおりである。なお、ASPとは、オフコンを稼動させるために必要な富士通社製OSの商品名のことであり、KCS社内ではオフコン版のことをASP版と呼んできたものである。
 昭和63年ころ建機レンタル業用システムを開発(ASP版)、建機・仮設レンタル業向けシステムを開発(ASP版)
 平成2年ころ建機・仮設レンタル業向けシステムを「貸出君」とネーミングし、KCSの主力商品として販売
 平成3年ころ「貸出君」システムの業種拡大を図りシステム開発(ASP版)
 平成5年ころ「貸出君」システムをリニューアルして開発(ASP版)
 平成9年ころ「貸出君」システムのWin版を開発
 平成12年ころ「貸出君」ASP版をリニューアルして開発、「貸出君」Win版をリニューアルして開発
 平成13年ころ「貸出君」ASP版の拡充を図りシステム開発
 平成14年ころ「貸出君」Win版廉価バージョンの開発に着手、「貸出君」ASP版入力簡素化バージョンの開発に着手
(イ) 貸出君新版の開発計画
 KCSは、第23期(平成13年9月〜平成14年8月)には、X4を課長とする開発課において、「貸出君」のWin版廉価バージョン(「貸出君 for win 廉価版」)とASP版入力簡素化バージョン(「貸出君ASP新版」)の開発を計画し、順次これに着手した。
 このことは、平成13年9月1日にX2(当時KCS専務取締役)が作成した「第23期(上)を迎えて」と題する文書(乙5)、同月8日にX4(当時開発課長)が作成したマル秘扱いの「23期上期開発部方針」(乙6)、平成14年3月2日にX2が作成した「第23期(下)を迎えて」という文書(乙7)、同日X4が作成した「23期下期開発計画」(乙8)の記載からも明らかである。
 すなわち、乙第5号証の2頁の「貸出君」の欄に「EASP版のWeb化」とあり、乙第6号証の「2.商品化計画」のE「ASPシステムのWeb化」の欄に「画面の見映えを強化して行きます。」と記載されているが、これが「貸出君ASP新版」に該当する。そして、乙第7号証の2頁に「ASP版の入力画面の大幅変更」と書かれ、乙第8号証の「1.商品化計画」のEにも「ASP貸出君の入力画面の変更」として「入出庫の画面を伝票形式に対応し入力の簡素化及び画面イメージを良くする。」と書かれていることからも、ASP版を入力簡素化して商品化していく計画が立てられていたことは明らかである。
 また、「貸出君 for win 廉価版」については、乙第5号証の2頁の「貸出君」の欄に「Win版廉価バージョン」を開発していくこと、乙第6号証の「2.商品化計画」の欄にも、@に「貸出君for win 廉価版」のことが記載されている。また、乙第6号証の3頁には、「貸出君for win 廉価版」の開発計画まで記載されている。また、乙第7号証と乙第8号証にも、「貸出君 for win 廉価版」の開発を引き続き進めていくことが記載されている。
 そして、上記の開発計画については、Y2が客観的資料(乙5ないし乙8)の記載と完全に一致した証言をしている。これに対し、X4は、「貸出君 for win 廉価版」につき、開発を引き続き進めていくことが記載されているのにもかかわらず計画倒れになった旨証言し、「貸出君ASP新版」につき、入力簡素化のことが記載されているにもかかわらず利用料金が廉価になる計画であった旨証言しており、客観的事実に完全に反する証言をしている。
 その後、Y2は、「貸出君ASP新版」や「貸出君 for win 廉価版」の開発状況を常に気にかけ、随時、X2に進捗状況を尋ねていたが、X2は、後記イ(ア)のころから、同進捗状況を隠匿するようになっていった(乙51)。
イ X2らによる不正な企て
(ア) RBC設立準備行為
 X2は、平成14年ころからKCSの経営権を不正に奪取しようと企て始め、平成14年7月に社内改善委員会なる組織をX3やX5に作らせるなどして、Y2やY1に対し理由もなく一方的に辞任を迫るようになった(乙34ないし乙36、乙51)。また、X2は、平成14年9月にHIK基金(X5、X2、X3の頭文字)という名前の基金を作り(乙31)、同月11日にKCSを退職したP8を代表者にし、有限会社エムエスシィなる会社を設立して(乙32)、RBC設立資金の受け皿とし、KCSの従業員に対して上記基金等にできるだけ多額の出資をするよう促すとともに、本来であればKCSが取得するはずの代金を横領することにより、着々と資金集めを進めていった(乙34ないし乙36、乙51)。さらに、X2らは、なるべく大量の従業員をRBCに移籍させてKCSを倒産に追い込むべく、2週間に1度の割合で秘密裏にミーティングを重ねた(乙34ないし乙36)。
 Y2やY1にも、X2らの動きは明らかに不審に映ったため、X2は、平成14年12月6日の株主総会では取締役に選任されず、KCSを退社することになった(乙51)。
 なお、RBCらは上記のような準備行為の事実を否定しようと試みるが、X2らは、対外的にも、「X2専務と共に新たな出発を開始します」「数十人の社員が出資する予定です」などと記載した文書を平然と配布しており(甲108)、もはや疑う余地はない。さらに、X3は、退職後にミスターアドバンスの開発を1人で始めた旨証言するが、開発に加わる者の人数やコンピュータ開発における専門分野につき全く不透明な状態で、1人で開発を始めるなど一見して虚偽であることは明白である。
(イ) ミスターアドバンスの開発
a 開発当初の状況とネーミング
 X2らは、RBC設立後に販売するソフト(「貸出君ASP新版」や「貸出君 for win 廉価版」として開発が予定されていたソフト)の開発についても着々と準備を進めており、実際の作業はX4が課長を務めていた開発課を中心に行われた。
 当時のKCSの組織構成は乙第68号証の組織図記載のとおりであり、「貸出君ASP新版」の開発担当はX4及びX3などで、「貸出君 for win 廉価版」の開発担当はX4及びP9などであった。
 当時開発に従事していた従業員はほとんど全員がKCSを退職してRBCに移籍してしまい(乙68)、成果物もほとんどが持ち去られてしまったために、KCSの社内に残る資料はごくわずかである。それでも、KCS社内において開発が順調に進められていたこと、開発中にすでに「ミスターアドバンス」という名前が決定していたことは、たとえばP10(当時システム部課長補佐。以下「P10補佐」という。)が明確に説明するとおりである(乙63)。
 すなわち、P10補佐は、平成14年11月23日に行われたミーティングで、X2から新しいソフトウェアの名前が「ミスターアドバンス」であるとの説明を受けたものであるし、平成15年1月11日に行われたミーティングでは、X4から、新ソフトのエントリー画面の開発はほぼ終了したとの説明を受けた。
 なお、「ミスターアドバンス」という名称がどんなに遅くとも平成15年1月10日までに決定されていたことは、RBCらが提出したプログラム定義書(甲20の5。RBCらによれば作成日付「平成15年1月10日」)のユーザー名欄に「Mr. Advance」と明記されているとおりであって、これに反するRBCらの主張は自らが提出する証拠の記載とも完全な齟齬を来たしている。
b オペレーションマニュアル(乙9)の作成
(a) X4らは、平成15年1月ころまでに「貸出君 for Win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」の両バージョンの開発をほぼ完成させ、KCSのインストラクター職の地位にあったP11(以下「P11」という。)に対し、「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアルを2週間程度でとりあえず作成するよう指示した。これを受けて、P11は、平成15年1月22日から同年2月7日にかけて、開発済みの「貸出君for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながら、X4の指示どおりに、同システムのマスタの一部と稼動・販売・問い合わせの部分のオペレーションマニュアル(乙9の1の1、乙9の2の1、乙9の3の1、乙9の4の1。以下、これらを総称して「乙第9号証」又は「乙9」という。)を作成し、KOサーバーの中の「業務課」「インスト」「マニュアル」「for win」というフォルダに「とりあえず○○」というファイル名で保存した。
(b) RBCらは、乙第9号証は偽造されたものであると主張するが、その作成経緯はP11が当時の経験をありのまま証言するとおりであって、その証言態度はきわめて素直で自然であり、またその証言の内容も事実に即しているからこその具体性を備えている上、不自然な点もなく、他の証拠とも符合している。
 RBCらは、KCSらが本件訴訟のために乙第10号証を作成したと主張し、その根拠として甲第29号証を提出する。しかし、乙第10号証は、KCSの記録に残っていたものをそのままプリントアウトしたものである。むしろ、甲第29号証こそ、RBCらによる持ち出しの事実を裏付ける証拠である。すなわち、甲第29号証は、乙第10号証の更新日時だけでなくサイズまで全て同一であるが、通常、両号証のような規模の文書を作った場合、文書自体をコピーしない限り、サイズ(バイト数)まで全く同じ文書はできない。つまり、RBCらは、P11が作成したオペレーションマニュアル(乙9)をデータの形で持っていてそれをコピーしたからこそ、甲第29号証のようにサイズまで全く同じ文書(のプロパティ)を作成することができたのである。なお、乙第10号証のフォルダ名は、Y1が今回の訴訟用に「貸出君 for win新版マニュアル」という名前を付けて保存したものである。
 さらに、P11の作業日報(乙54の1〜12)も、同人がオペレーションマニュアルの作成に携わっていたことを示している。この作業日報も当時作成されたものである。なお、上司の確認印が押印されていないが、KCSでは、作業日報提出後に上司の確認印をもらうという手順は踏まれていなかったため、何ら不自然なものではない。このことはRBCら側のX6も認めるところである。
(c) また、RBCらは、P11が入社後1年も経っていないことを理由にオペレーションマニュアルを作成する能力がなかったなどとも主張するが、マニュアルの改訂作業は、旧マニュアルを参照しながら、新しい画面の内容や動きをチェックしながら適宜項目を追加したり入力内容の説明を行ったりという修正を加えていくものであり、P11でも十分可能な作業である。実際、P11は、平成14年10月中旬から同年12月中旬にかけて、P30係長と2人で貸出君ASP版のマニュアル改訂作業を行った経験もあった。「貸出君for Win 廉価版」のオペレーションマニュアルについても、P11は、わからないことについては開発課のP12やP13に聞きながら作成作業に当たったものであって、作成能力に何ら問題はない。
(ウ) 各種資料等の持ち出し
a 各種資料の持ち出し及びKCSの対応
 Y1は、平成15年3月6日に、KCSの営業所が存在するビルの管理人から、KCS従業員がKCSの書類等を大量に持ち出しており、とりわけ、X4においては、休日に届出もせずに出社して大量の資料を持ち出していた、との報告を受けた。そこで、KCSにおいて調査したところ、X4が管理しているはずの「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」の成果物が存在せず、その他X5(当時営業部長)が管理しているはずの顧客名簿・契約書・顧客に納入した各システムの仕様書等営業秘密に関する重要書類も全て持ち出されていることが判明した。
 そこで、Y1は、同日に朝礼を開き、全従業員に対してKCSの書類等を持ち出した社員がいることを伝えた。そうしたところ、P14(当時係長。以下「P14係長」という。)が平成11年8月以前の注文書控えや平成13年9月以前の営業月報等を持ち出したとして、P14係長とX5がこれらの書類のみを返却したが、最も重要な「貸出君 for win廉価版」と「貸出君ASP新版」の成果物や直近の顧客名簿等の資料の返却はなかった。このため、KCSは、大阪府警東警察署に被害届を提出して同署の捜査に委ねることとしたところ、同署からP14係長に対して任意出頭するよう要請があり、同人に対する取調べまで行われた。
 以上の事実は、Y1において、盗難届(乙37の1)の日付とも完全に一致した具体的かつ詳細な供述をしていることから、もはや疑いの余地はない。
b ドキュメントのコピー
 さらなる調査で、平成15年1月、X1がP11にKCSの取引先数社に関するプログラム仕様書、ファイル仕様書、議事録などのドキュメントのコピーを指示して持ち出し、業務課のフォルダ内のマニュアル全部、ソフト見積書その他社内資料のコピーを指示していたことが判明した。これらの事実はP11が明確に証言し、同人の作業日報(乙53の1ないし3)にも記録が残っているとおりである。
 さらに、X2はP10補佐に対し、平成14年9月ころから、同人が担当していた全取引先のドキュメントファイルをコピーするよう指示し(乙34の4頁)、着々とKCSの資料収集を進めていた。
c K6900のRBCへの持ち込み
 KCSで貸出君の開発に使用されていた富士通製オフコン「K6900」(以下「K6900」という。)を、X4が、KIT社(現在RBCの協力会社)に返還しなければならなくなったとの虚偽の説明を弄して(乙60)KCSからレンタカーで持ち出してX2宅に運び込み、その後RBCに運び込んで使用していたことは、P15(以下「P15」という。)、P10補佐、P16、P17、P18らが陳述書で明確に説明するとおりである(乙62、63、65ないし67)。X6ですら同X2宅からRBCにコンピュータを運んだ事実自体は認める証言をしている。
 実際、当時X4が使用したレンタカーの走行距離は52kmに上っており(乙61の1)、KIT社(当時大阪市北区(省略)所在)とKCS(当時大阪市中央区(省略)所在)との往復距離とは符合しない。実際にはKIT社ではなくX2の自宅車庫に運び込んだからである。この点、X4はKIT社ではなく尼崎辺りの倉庫に持ち込んだ旨証言するが、KCSらがレンタカーの走行距離の不自然さを指摘したことから何とか辻褄を合わせようと思いついた虚偽の説明にすぎない。
(2) 持ち出された成果物等とミスターアドバンスの一致
 以上のとおりの経緯で、RBCらは、KCS社内から貸出君関連の成果物等を各種の媒体で持ち出し、ミスターアドバンスとして完成させた上で、KCSの取引先に対して営業活動を行うようになったものであるが、貸出君関連の成果物等とミスターアドバンスが一致していることの主な根拠として、次の各点を改めて確認しておく。
ア 「ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルの記載事項と一致すること
 KCS社内には「貸出君 for win 廉価版」についてはそのオペレーションマニュアル(乙9)がかろうじて存在するが、RBCが発行した「ミスターアドバンス」のパンフレット(乙3、乙11の2)に記載されている各種図表・説明の多くは、同マニュアルに記載されている事項と一致する(乙11の1)。とりわけ、「貸出君 for win 廉価版」の最大の特徴は、従前は別になっていた入庫画面と出庫画面の統一化であり、このことはX4が打ち出した方針であるところ(乙6)、「ミスターアドバンス」のパンフレットでも「入出庫が同一画面で登録可能」として強調されている(乙3・乙11の2頁中段左、乙11の1)。
イ 「ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新版」の仕様書と同一内容であること
 「ミスターアドバンス」の仕様書(甲20)はKCS社内に残る「貸出君ASP新版」の仕様書(乙23)と同一内容であることが本件審理の中で明らかとなった。
 既に説明したとおり、平成15年3月までに「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」の成果物その他顧客名簿・契約書・顧客に納入した各システムの仕様書等営業秘密に関する重要書類のほとんどがKCSの元従業員によって持ち出されてしまったが、わずかに残る資料の中で、KCSの福岡営業所のパソコンに残存していたのが、乙第23号証の仕様書(現場マスタメンテナンス)である。
 乙第23号証は、当時KCSの福岡営業所に勤務していたP19(以下「P19」という。)が平成15年1月以前に発見し、Y1に報告したものであるが(乙48)、この乙第23号証と甲第20号証を比較すれば、両者が同一のシステムの仕様書であることは誰の目にも明らかである。
 たとえば、甲第20号証の16・17として提出されている取引先マスタのファイル仕様と乙第23号証の7枚目及び8枚目として提出されている取引先マスタのファイル仕様書とを比較対照すれば、直ちに両者が書式はもちろん、項目名、形式、桁数、バイト数、桁位置に至るまで全くの同一内容であることがわかるからである。
 RBCらがこれまで頑なに主張してきたように、平成15年1月以降「ミスターアドバンス」を独自に開発したというのであれば、KCSのパソコンに、RBCらが甲第20号証として提出する「ミスターアドバンス」の仕様書(得意先マスタメンテナンス)と同一内容の仕様書(現場マスタメンテナンス)が残っているはずがない。RBCが、KCSにおいて開発された成果物をそのまま利用したからこそ、KCSの保有する乙第23号証とRBCらが提出する甲第20号証とが同一の内容なのである。
 他にも、たとえば乙第23号証の8枚目の左上部「ファイル名取引先マスタ」の右の「1/2」という表示は、7枚目から続く取引先マスタ2枚中の2枚目であるので、本来「2/2」と表示すべきものの誤記である。そして、甲第20号証の17においても全く同様の誤記がなされている(正しい表示がなされているものとして、たとえば甲21の19と20参照)。両者が同一のものであり、RBCがKCSにおいて開発された成果物をそのまま利用しているからこそ、両者は誤記に至るまで共通しているのである。
 RBCらは、乙第23号証は、X6がKCSを退職した後の平成15年2月下旬から3月下旬の間に、福岡営業所のP20に送付したものだというが(甲92)、先にも述べたとおりP19は平成15年1月には乙第23号証を発見しており、RBCらの主張は虚偽である。
 そもそも、平成15年1月以降に、KCSとは一切関係なく「一から」開発したというミスターアドバンスの開発作業を、KCSの従業員であるP20に依頼すること自体矛盾している。しかも、RBCらによれば、ミスターアドバンスの開発にあたっては、特にKCSの貸出君の権利侵害とならないよう注意していたというのであるから、そのような細心の注意を払っていたというRBCらが、KCSの従業員に対し、かつKCSの福岡営業所のパソコン宛てに開発資料を送るなどということはあり得ないことである。
 X6が何らの疑問も感じることなくKCSの従業員であるP20に対し、かつKCSの所有物であるパソコン宛てに乙第23号証を送付したのは、それが「RBCの開発資料」ではなく、KCSで開発中のソフトウェアの開発資料だったからにほかならない。
 ちなみに、乙第23号証は新規開発を指示する仕様書ではなく、開発済みのプログラムに対する修正を指示する仕様書であるから、乙第23号証の作成以前にその元となった新規開発を指示する仕様書が作成されプログラムが開発されていたはずであり、RBCらにおいても乙第23号証の送信日が平成15年2月から3月であったと主張し(平成16年9月9日付準備書面(4)9頁)、X6もこれに沿う証言をする。しかしながら、甲第116号証(ビジネスサーバ版プログラム履歴リスト)の22には、RBCは現場マスタメンテナンスのプログラム開発を2003年4月11日に着手した旨記載されており(担当者はP20)、自らの主張及び証人の証言と証拠の整合性すら全くとれていない。
(3) RBCらの弁解が不合理であること
ア プログラムの数
(ア) プログラム数に関する主張立証に矛盾があること
 RBCらは、裁判所からの指示に反し、明らかに虚偽の弁解を繰り返しつつ、Win版及びビジネスサーバ版の双方につき、大半のプログラム及びその作成経過を提出しておらず、とりわけ、ビジネスサーバ版のプログラムについては、平成16年6月14日の段階で作成されているもののみで214本存在すると陳述した上に(甲13)、X3は平成17年12月15日の時点でもその事実は正しい旨の証言をしているにもかかわらず、改めて作成履歴等の提出を求められるやいなや一転して30数本しか存在しないなどと強弁し始めており(甲115)、もはや主張整理の結果として、RBCソフトのうち自らが作成したプログラムは僅かであり、残りの大半はKCSのプログラムを流用したことが明らかになっている。
(イ) 甲第115号証及び甲第117号証のプログラム一覧は一部にすぎないこと
a ASP版プログラム
 別紙8「KCS13準・別表1」は、RBC代表者自らが説明したRBCのASP版プログラム一覧(甲13)と、RBCらがようやく提出するに至ったプログラム一覧(甲115の1及び2)の比較表である。
 甲第13号証のプログラム一覧においてマスキングのために項目名が明らかでない部分を除いた合計162本のうち、実に125本のプログラムは甲第115号証の1・2のプログラム一覧には記載がない(甲13のプログラム一覧でマスキングされている部分を含めると、さらに100本前後のプログラムにつき甲115の1・2のプログラム一覧には記載がないことになる。)。RBCらは、少なくとも、上記125本のプログラムについては、自らが作成したものではないことを自認しているのである。なお、甲第115号証の1・2において記載があり甲第13号証においては記載の有無が明らかでない14本のプログラムは、恐らく甲第13号証においてマスキングされているプログラムの一部であると推定される。
 もっとも、かかる詳細な分析なくしても、甲第13号証のプログラム一覧と甲第115号証の1・2のプログラム一覧を見れば、RBCらが今般提出してきたプログラムがごく一部にすぎないことは、一目瞭然である。
 また、真に甲第115号証の1・2のプログラムしか存在しないというのであれば、RBCが販売しているソフトは、受注入力も、引取入力も、商品移動入力も、その他別紙8(別表1)で×印が付された機能は全て存在しない、全く無価値なソフトを販売し続けていることになる。かかる観点からも、RBCらの説明は、客観的に、誰がどう見ても、明らかに虚偽である。
b Win版プログラム
 別紙9「KCS13準・別表2」は、RBC代表者自らが顧客に販売したソフトのオペレーションマニュアル(甲96)に記載されている機能から存在すると断定できるプログラムと、今般、RBCらがようやく提出するに至ったプログラム一覧(甲117の1〜3)の比較表である。甲第96号証に記載されている機能を実現するためには、別紙9(別表2)に記載した51本のプログラムが最低限度必要なはずであるが、このうち甲第117号証の1〜3に記載されているプログラムは、わずか19本にすぎない。RBCらの主張を前提とすれば、RBCは、プログラムなしに勝手に思うままに稼動してくれるソフトを開発販売したということになる。
 また、真に甲第117号証の1〜3のプログラムしか存在しないというのであれば、RBCが販売しているソフトは、メニューも、得意先照会も、名称照会も、その他別紙9(別表2)で×印が付された機能は全て存在しない、全く無価値なソフトを販売し続けていることになる。かかる観点からも、RBCらの説明は、客観的に、誰がどう見ても、明らかに虚偽である。
(ウ) 甲第115号証と甲第116号証との間に齟齬が生じていること プログラム履歴リスト(甲116の1〜26)によると、RBCらは、自らが苦し紛れに編み出したプログラム本数の数え方に従うようにして、わざわざIDごとに作成修正の履歴を説明しているが、真にそのような数え方をするのであれば、自らが提出したプログラム一覧(甲115の1・2)を前提にしても、200本以上のプログラムの作成修正履歴が記載されていないと辻褄が合わない。たとえば、出庫入力だけで5つの作成修正履歴が記載されるべきところ、MA0102AとMA01020の2つの作成修正履歴しか記載されていない(甲116の1〜4、25)。RBCらは、自らが苦し紛れに編み出したプログラム本数の数え方を維持するために、同時に提出したプログラム一覧表(甲115の1・2)と作成修正履歴(甲116の1〜26)との間に、齟齬を来たしてしまったのであろう。
イ 開発期間に関する矛盾
 RBCらは、平成15年1月から同年2月にかけてKCSを退職した者らが順次「ミスターアドバンス」の開発を開始し、同年3月に販売を開始したと主張するが(甲5)、僅か1か月や2か月で「ミスターアドバンス」のような規模のソフトの開発ができるはずがなく、このことはRBCら自身も「業界状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要」と主張することによって認めている(平成16年5月11日付準備書面第1の5(4))。
 ところが、甲第15号証によれば、Win版システム及びASP版システムのいずれをとってみても、RBCらが「開発・発売」を開始したと主張する平成15年3月の時点から1年が経過した平成16年3月20日の時点に至ってもなおRBCらが投入したシステムエンジニアーの延べ工数は、Win版で25人/月、ASP版で47人/月にすぎない。これは、RBCらがシステム開発に必要と主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1にしか達していない数字である。
 すなわち、RBCらの提出する甲第15号証は、真にRBCらが平成15年1月10日からシステム開発に着手したのであれば平成16年3月20日の時点においてですらシステム完成にはおよそほど遠い状況にしかなりえないことを如実に示しているのである。
ウ 開発スケジュールに関する矛盾
(ア) 仮に「ミスターアドバンス」の開発経緯に関するRBCらの主張(甲15)が事実だとすれば、Win版システム及びASP版システムのいずれについても、KCSの元従業員が開発を開始したという平成15年1月の時点から1年以上が経過した平成16年3月20日の時点に至ってもなおシステムエンジニアーの延べ工数が、RBCらがシステム開発に必要と主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1にしか達していないことは既に指摘したとおりである。
 上記事実のみに照らしてもKCSを退職したX3が平成15年1月に開発に着手したというRBCらの主張が虚偽であることは明白であるが、平成15年1月から開発を開始したことを前提とする「開発スケジュール」(甲14)が架空のものであることもまた明らかである。
 開発スケジュール(甲14)については、RBCらは、当該スケジュールに沿って開発がなされたと主張していたにもかかわらず、実際には実態に即さないものであることはX3自身自白している。しかも、甲第14号証に代わる実際の開発経緯についてはついに明らかにされなかった。
 ちなみに、百歩譲って、甲第14号証の「開発スケジュール」どおりに開発が進んだと仮定しても、RBCは開発開始後わずか2か月、マスター系プログラムしかできていない状態で「ミスターアドバンス」の販売に成功したことになる。しかもRBCらによれば営業用のパンフレット(乙3、乙11の2)は平成15年7月1日以降に作成したというのであるから、営業用のパンフレットすら存しない状況での販売ということになる。
 しかしながら、現在のソフトウェア業界の常識としてそのような販売活動は不可能といわざるをえない。なぜなら、確かに、ソフトの構築前にソフトを販売することが可能であった時期もあるがはるか以前のことであり、現在のように各種ソフトが氾濫し、現実に競合ソフト(たとえば「パワフル建機」「レン太郎」など)が販売されていて購入先が競合ソフトウェアを体感することができる状況においては、最低限デモンストレーションを行うことができなければソフトを販売することなどできないからである。
 これを甲第14号証の「開発スケジュール」に当てはめるとすれば、最低限「入出庫稼動プログラム」(RBCらの主張によればその完成は平成15年4月末)が完成していなければデモンストレーションを行うことすらできない。競合ソフトが現に販売されているなかで、デモンストレーションもできず、営業用パンフレットすら存しないソフトを販売することなど不可能である。
 ところが、実際には、RBCは会社設立直後の平成15年3月13日には、早くもKCSの納入先であった日成工業所との間で「ハードウェア一式238万円」「ソフトウェア一式260万円」など具体的な金額まで確定した契約を締結している(甲70)。
 上記の契約は、KCSの元従業員が平成15年1月に開発を開始したソフトではなく、KCSにおいてほぼ開発が完成していたソフト(ミスターアドバンス)の成果物を利用し、さらにKCS従業員による背任行為ないしは営業混同行為にあたる営業活動を行ったからこそなし得たものである。具体的には、上記契約は、KCSの営業社員であったP5がKCS在職中にRBCの名義で行ったのである。
 しかも、以上は、甲第14号証どおりに開発が進んだと仮定しての話であり、まして、X3自身が、同号証の開発スケジュールどおりに開発が進まなかったと自白しているのであるから、ミスターアドバンスが平成15年1月以降に開発を開始したソフトウェアでないことはさらに明白である。
 ちなみに、RBCらの弁解を前提にすると、ミスターアドバンスにつき、X3の証言によれば「まだごくほんの入り口の部分」しか完成していなかったにもかかわらず、日成工業所から毎月のリース料を取得し続けていたことになるが、機能しないソフトのために毎月のリース料を何のクレームもなしに支払い続ける顧客が存在するはずもなく(しかも、リース残存期間は次第に少なくなっていく)、RBCらの弁解は一見して虚偽である。
(イ) RBCらは、RBCソフトを平成15年3月に販売した事実からRBCプログラムが貸出君新版プログラムに依拠して作成された事実が推認されることを妨げるため、RBCプログラムが請負型であることを強調する。しかしながら、RBCは、自らのホームページにおいて、RBCソフトであるTeamシリーズにつき「システムパッケージ製品として結晶化しました」と積極的に広報しており(乙119)、その主張が虚偽であることは一目瞭然である。
 ちなみに、RBCらは、KCSのホームページ(甲230)を根拠としてKCSソフトが請負型であるなどと断定するが、同ホームページの記載によって請負型であると断定できる合理的理由は全く存在しない。KCSソフトがパッケージ型であることに間違いはなく、顧客ごとに異なる商品コードの桁数等に対応するために、導入までには数回の打合せが必要になるにすぎない。
 このように、請負型であることを前提とするRBCらの主張は明らかな虚偽である。そもそも、現在においては、少なくともデモンストレーションができる状態にまでソフトが完成していない限りソフト販売が不可能であり、RBCらも、結局は、RBCソフトの相当部分がパッケージ化されていること自体は認めている。そうだとすれば、RBCらは、その設立時の平成15年3月には、少なくともデモンストレーションができる状態にまでソフトを完成させていたからこそ、ソフトを「販売」できたとしか考えられず、そして、KCSプログラムに依拠したのでない限り、同月時点で、少なくともデモンストレーションができる状態にまでソフトを完成させることはできなかったのである。
 以上の観点からも、RBCプログラムが貸出君新版プログラムに依拠している事実は明らかである。
【RBCらの主張】
 KCSが開発に着手していたと主張する貸出君新版プログラム(「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)などは存在せず、KCSらの捏造であることは以下の理由から明白である。
 まず、KCSの主張は、開発した貸出君新版の成果物も書類も全てKCSの元従業員が持ち去ったというものであるが、2年以上も行ってきたという開発に関する証拠を全て持ち去るというのはおよそ不可能であり、主張自体荒唐無稽である。
 次に、貸出君新版の成果物というものが存在するのであれば、会社財産として最重要であるにもかかわらず、警察への盗難届(乙37の1)にも、その後の退職従業員への持ち去った物の返還を要求する手紙(甲217)にも、貸出君新版の成果物を記載しておらず、不自然である。
 そもそも、本件訴訟の発端であるKCSらによる不正競争行為は、RBCシステムがKCSシステムの著作権及び商標権を侵害しているという取引先等への文書(甲1)であるが、システム自体が持ち出されたのであれば、かかる事実(虚偽ではあるが)を記載すればRBCらの著作権法違反の理由が明らかとなるため、システム自体の持ち出しについて強く主張するのが合理的である。しかるに、KCSは、抽象的に著作権を侵害するとしか記載せず、その後においては著作権ではなく商標権のみの主張となっている(甲2、3)。
 これらの点からみれば、KCSの主張する「貸出君新版の持ち出しによる著作権法違反」は、本件訴訟が開始してからの主張であることが明らかであり、全く信用性がない。したがって、貸出君新版などというものがKCSの捏造であり実際には存在せず、RBCシステムは貸出君新版に関する著作権法違反とはならないことは明らかである。
 以下詳述する。
(1) 新会社設立の経緯
ア KCSの歴史
 KCSは、昭和54年9月に株式会社内田洋行(以下「内田洋行」という。)とキング商事株式会社が合弁で設立した会社であり、Y2の独裁体制であったキング商事株式会社の体質を継承していた。
 昭和56年7月21日に内田洋行から出向者としてX2を受け入れ、その後X2はKCSに転籍し、KCSの発展に寄与し、Y2は企業活動には何ら関心を示さなかったが、金銭管理だけはX2に任さず、経営者としての実権を握り続けていた。
イ Y1の問題
 Y1は、もともとは内田洋行で勤務していたのであるが、平成5年ころに、内田洋行からKCSで引き取るよう強い要請があり、KCSの東京営業所で勤務することになった。ところが、Y1の常軌を逸する言動や自己中心的な態度に対し東京営業所の社員からは不満の声が常に上がり、平成11年ころにY1が東京営業所の責任者になると、Y1の態度はますます酷くなっていき、Y1は、平成14年5月、東京に出張していたX2に対し、社員の見守る中で突然暴言を浴びせかけ、あまりの不遜な態度に、X2はY1に即刻退社を勧告した。しかし、Y2より上記の件については不問に付して欲しいと依頼を受け、やむを得ず1週間後、Y1の現場復帰を認めたが、Y1の態度は改まるどころか、何をしても辞めさせられることはないという自信からか、いっそう不遜なものとなった。そして、ついに、東京営業所社員一同から同年6月20日に辞表が提出された。
 東京営業所社員一同の辞意は、X2によって押しとどめられたが、X2はKCSの経営の危機を深く感じ、KCSやY1の処遇について、Y2に対し話合いを提案したが、Y2はこれを拒否した。
ウ 不正経理問題
 Y1の問題で社内が揺れる中、平成14年7月、経理担当事務員P21により、Y2の不正経費使用が明らかにされた。それによると、Y2の不正経費の額は年間3000万円にも及び、妻がデパートの食料品売場で購入した惣菜等までが会社経費として計上されていた。このことに対し社員はY2に対し強い不満を抱くに至り、幹部社員全員で話し合った結果、正常な企業環境を取り戻す方策を具体化する社内改善委員会なる組織を立ち上げ、結束を図り改善する方向を模索しようとの結論になり、同年8月より隔週土曜日に会合を持ち、改善案を話し合うことを決定した。社内改善委員会では、今後のKCSのあり方やY2の不正経費流用を防ぐ方策が検討されたが、まずは経営上影響の強い内田洋行に改善の助力を願おうということになり、甲第108号証を作成し、内田洋行に持参することとなった。
エ Y2の専横
 X2が平成14年8月23日に内田洋行へ甲第108号証を持参し説明を行なった後、Y2は社内改善委員会の存在を知り、同月30日に緊急役員会議を開き、X2の解任のための臨時株主総会の開催の案内を行なった。この事実を知った社内改善委員会のメンバーは、Y2らの不遜な態度に、もはやKCSを見限るしかないと憤慨した。また、内田洋行からも話合いをすべきであるとの要請があり、Y2も社内改善委員会との間で話合いを開始することとした。
 ところが、Y2との話合いは難航し、最後には社内改善委員会の要求とはほど遠い内容の合意書案が出来上がってしまった。
 そして、社内改善委員会がまず初めに要望したことが、前述の8月30日開催の取締役会議議事録にあるX2退任の臨時株主総会の開催中止であり、Y2は、開催しない旨を伝達して話合いを進めていたが、その兄であるP1と両名で開催したことにし、X2退任こそ決議しなかったものの、Y1の取締役就任を決定した。このことを事後的に知った社内改善委員会は、Y2のことなど信用できないとし、合意書に捺印を拒むという結果になり、Y達との対立は冷戦状態となった。
 KCSは、社内改善委員会の場でX2らが新会社設立を話し合い、HIK基金に不正な金を入金していたと主張する。たしかに、新会社を設立しようという話が出たり、万一に備えて資金を集めておくことを目的にHIK基金ができたのは事実であるが、平成15年1月までは新会社設立を本気で話し合ったことはないし、HIK基金の入金はそれぞれの資金であり不正な金などは全くなかった(甲218)。誰でも、危険を冒して新会社を設立するよりも、同じ会社にいたいのは当然であり、問題が解決してKCSに在籍し続けることを第一の希望としていたのであるが、それが不可能だった場合の保険としてHIK基金を設けたに過ぎず、新会社を具体的に計画などしていなかった。
 他方で、X2は、顧客や社員のために企業の存続は絶対必要であると考え、平成14年10月末、営業責任者、システム責任者に対し、すべての問題は一時期棚上げし、業績回復のため、一層努力するよう要請し、営業活動をもう一度立て直すべく活動しだした矢先の平成14年12月6日、今までは形式的にしか開催していなかった株主総会において、X2欠席のまま、Y2らはX2の取締役就任を否決し、Y1を社長に就任させたのである。KCSは、単なる任期満了で再任しなかっただけだと主張するが、長年KCSの発展に寄与してきたX2を就任させないというのはまさに「解任」というべき事態であり、Y一族のこのような卑劣な謀略により、社員の人心が離反するばかりであった。
 しかも、取締役就任拒否の連絡を東京営業所で受け取ったX2は、同月7日に帰阪し、Y2に対し、せめて同月20日までの間、長年お世話になった各顧客や関係筋に挨拶に行きたい旨を伝えたが、一切の出社を認めないとの返事であり、社員や顧客への挨拶はおろか、私物の整理すら許されなかった。
 また、平成15年1月6日には、Y2が社内改善委員会の責任者であり、システム開発の責任者であるX3に対し、任意退職を余儀なくさせるという事態を生じさせた。
オ 新会社設立
 X3は、予想だにしていなかった事態になり、途方に暮れたが、X2と話し合い、これを機に、使いやすい新たなプログラムを開発し、新会社を立ち上げようと決意した。X3自身も、KCS在籍時から貸出君に不満を持っていたが、新たなプログラムにすると、過去のプログラム資産が全く使用できなくなるため、KCS在籍中では変更できなかったのである。
 資金繰りも覚束ない新会社を立ち上げるにあたっては、少数精鋭にすべきであるのは当然であるが、X2やX3はYらに対する社員の不満を嫌というほど分かっており、来る者は拒まずというスタンスをとったため、思いがけず大人数となったのであって、RBCがKCS従業員を無理に引き抜いたというような事実は全くない。なお、KCSを退職してRBCに入社した者の中には、主体的に考えてRBCに移ったのではなく、皆が移るからという理由で移ったというような者もおり、こういった者の中には、RBCが資金繰りが苦しく、開発を急いでいたため、多忙なRBCを辞めてKCSに戻った者もいる。また、平成15年3月にはKCSからの嫌がらせの手紙(甲219)が相次いだため、同年4月には8人が辞め、同年12月にはKCSがファイナンス会社に商標権侵害であるとの手紙(甲3の1)を出したためにファイナンス会社からの入金が止まり、給与が払えないような状況に追い込まれ、RBCから7人が辞めた。このように、KCSは、RBCからの退職者が多いとして、RBCこそが悪質な会社であると主張しているが、KCSらの所為により退職しているのがほとんどなのである。
カ KCSらの悪質性
 KCSらの悪質性は、KCSらが取引先やRBCの従業員に宛てた手紙(甲1〜3、217、219)でも分かる。
 また、KCSは、自ら開発したわけでも、使用したわけでもない、「ミスターアドヴァンス」という商標を、RBCが使用していることを知りながら、RBCが登録していないことを奇貨として自ら登録するという悪質極まりない行為を行っている。この点、KCSは、「ミスターアドヴァンス」はKCSで開発したシステムで、名称も決まっていたと主張するが、KCSが開発したシステムでないことは後に述べるとおりであり、使用していないにもかかわらず登録していることには変わりがない。
キ 結論
 以上のとおり、RBCは、KCSらの不当な行為により、緊急避難的に設立されたものである。
(2) RBCシステムの特徴(新開発であること)
 RBCシステムの特徴につき、以下説明し、RBCシステムがKCSシステムとは全く異なる新たなシステムであることを明らかにする。
ア 新システム開発の決意及びその基本的な考え方
(ア) 上述のとおりKCSを自主退職することを余儀なくされたX3は、平成15年1月7日、X2と話し合い、新会社を設立することにした。
 そして、KCSにおいて長年KCSシステムの開発、バージョンアップ等に携わってきた経験を生かし、建設機械等のリース・レンタル業界向けのソフトを開発し販売することを決意した(甲220)。
 したがって、X3がRBCシステムの開発を決意した時点は平成15年1月7日であり、これ以前にRBCシステムの開発が進んでいたわけでは決してない。
(イ) KCSシステムには、ビジネスサーバ版とWin版とで原因こそ異なるものの、双方とも、@処理スピードが遅い、A操作性が悪い、Bネットワークに弱いという大きな欠陥があり、平成14年ころのKCS社員の日常業務の大半がトラブル解決に費やされているような状態であった。
(ウ) そして、KCSシステムのバージョンアップ等ではこれらのトラブルを解決することは不可能であり、これらのトラブルを解決するためには、全く新しいシステムとする必要があった。
 しかしながら、KCSシステムのファイル構造を作りかえ、全く新たなシステムとすると、KCSシステムを開発して以来蓄積されてきた多くのプログラム資産が全て使用できなくなることに加え、トラブル処理に追われてプログラム開発の十分な時間すらとれない中で、そのような全く新しいシステムを作ることは不可能であった。
(エ) 以上のような経緯から、X3は、KCSにおいてKCSシステムのメンテナンス等をする中で最も痛感していた欠点を克服する全く新たなシステム、すなわち、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化を基本的な考え方とする全く新たなシステムを開発しようとした(甲220)。
イ ビジネスサーバ版について
(ア) 総論
 RBCシステムのビジネスサーバ版は、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化したものであり、その結果KCSシステムとは全く異なる新たなシステムとなったほか、KCSシステムのビジネスサーバ版と比較した場合に、プログラムの組み方が全く異なるという特徴がある。
 以下、詳述する。
(イ) 各論
 RBCシステムにおいて3つの基本的な考え方をどのように具体化したかを、KCSシステムが有していた欠陥と対比することにより、説明するとともに、併せて、RBCシステムとKCSシステムが全く異なるものであることを説明する。
a 処理スピードの向上
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
@ 第1に、KCSシステムは、ファイルを構成している項目を増加することができないために、別ファイルを追加しなければならないという欠陥があり、ファイル構造が肥大化して処理スピードが遅くなっていた(甲220別紙1・第1)。
A 第2に、KCSシステムでは、各ファイルにおける各レコードレングスが長く設計されている為に、処理スピードが極めて低下していた(「レコードレングス」の意味については、甲220別紙2)。これは、各レコードレングスが長いとファイルの中のデータが増える結果処理スピードが遅くなるからである。
(b) RBCシステムにおける「処理スピードの向上」の具体化
@ 上記第1の欠陥に対し、RBCシステムにおいては、たとえば、初期設計段階において、商品マスタ(商品名などの固定情報)と商品ランク単価マスタ(単価項目毎のランク情報)とを分けて設計するということを随所で行い、ファイル上不要な項目が出ない設計とし、処理スピードの向上を実現した。
 この結果、ファイルが短くかつ不要な項目もないため、処理スピードが向上し、ファイルを追加することもなく、同一ファイルの項目の使い回しもなくなったために、バグの大幅な減少が実現された。
A さらに、上記第2の欠陥に対しては、甲220別紙3記載のとおり、各々のファイルのレコードレングスを短く設計したことによっても、処理スピードの向上を実現した。これは、各レコードレングスを短く設計すれば、各ファイルの中のデータが減少し処理スピードが向上するからである。
 ハード性能の向上と相まって、多くの機能を保存させるためにレコードレングスを長くすることが多い中で、レコードレングスを短く設計するという発想自体が大胆であるが、加えて、レコードレングスが異なれば、全く異なるファイルとなるため、無論、KCSシステムにおいて開発された種々のプログラムをRBCシステムに流用することなど全くできない(甲220別紙4)。
b 操作性の向上
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
 KCSシステムは、@画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず使用上不便であり、更に、1行毎に入力を行った後に、明細表示部へ移行させるという手間のかかる画面構造上の不便さという欠点があった。また、A入力する際に、入力に必要の無い画面項目にカーソルが移動し、キーボード入力のタッチ回数が多く操作性が悪いという欠点、Bオフコン端末使用になっており、オフコン用キーボード配列のキー操作が必要で操作性が悪いという欠陥があった(甲220別紙1・第2)。
(b) RBCシステムにおける「操作性の向上」の具体化
 RBCシステムでは、@画面上に伝票形式の明細行数が10行表示されており、しかも、各行へ直接入力する方式を採用している上、A不要な動作なしに任意に入力したい欄に入力することも可能で、かつ、Bパソコン用キーボード仕様となっており、これらによって操作性の向上を実現した(甲220)。
c ネットワークの強化
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
 KCSシステムでは、「処理スピードの向上」の点で記載したとおり、ファイルのレコードレングスが長く、かつファイルが重複等していたので重く、本店営業所間等のネットワークに弱いソフトであった。
(b) RBCシステムにおける「ネットワークの強化」の具体化
 この点、RBCシステムでは、「処理スピードの向上」の点で記載したとおり、@ファイルのレコードレングスを短くし、しかも、Aファイルを分けて作成してファイル構造を分割するという方式をとったことにより、ネットワーク上のデータ量を軽くする設計を行うことにより、ネットワーク上のスピードの向上を実現した。
d まとめ
 以上のとおり、RBCシステムは、@処理スピードの向上、A操作性の向上、及びBネットワークの強化という基本的な考え方を具体化したKCSシステムとは全く異なる新しいシステムである。
 もちろん、画面設計においても、『得意先マスタメンテナンス画面(ビジネスサーバ版)』(甲134の1ないし3別紙図面1。RBCシステム)と『得意先マスタメンテナンス画面(ビジネスサーバ版)』(甲134の4。KCSシステム)、『出庫入力画面(ビジネスサーバ版)』(甲135の1別紙図面2)を比較すれば明らかであるが、RBCシステムとKCSシステムでは全く異なる。
(ウ) 小括
 以上より、RBCシステムは、上記の3つの基本的な考え方を具体化したもので、その結果、KCSシステムとは全く異なる新たなシステムとなっているのである。
 しかも、プログラムの組み方という極めて根本的な点で両者は相違している。すなわち、RBCシステムは、「構造化プログラム」といわれる方法でプログラムを組んでいるが、KCSシステムは、「非構造化プログラム」といわれる方法でプログラムを組んでおり、両者はその名前から明らかなように全く異なるのである(甲220別紙5)。
ウ Win版について
(ア) 総論
 RBCシステムのWin版は、ビジネスサーバ版と同様、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化したものであり、その結果、KCSシステムのWin版とは全く異なる新しいシステムとなった。
 また、KCSシステムのWin版は、KCSシステムのビジネスサーバ版をもとに作られたシステムであるため、上記同様に、多くのシステム構造上の欠陥や操作上の問題を抱えていた。
(イ) 各論
 RBCシステムにおいて、上記の(ア)の基本的な考えをどのように具体化したかについて、KCSシステムの有していた欠陥と対比する形で説明し、併せて、両者が全く異なるものであることを説明する。
a 処理スピードの向上
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
 KCSシステムには、入力データを同じファイル内で保存していくというファイル構造に、大きな欠陥があった。
 つまり、KCSシステムの場合は、入力データファイルが、1月度・2月度・3月度と入力すればするほどデータが溜まっていくところ、通常、この入力データファイルに保存されたデータを呼び出してきて請求書を発行する仕様となっているため、処理スピードが遅くなるのである(甲220別紙8)。
(b) RBCシステムにおける「処理スピードの向上」の具体化
 これに対し、RBCシステムにおいては、入力データファイルは1か月間だけにして、過去のデータは必要に応じて取り出しができるように別ファイル(累積データファイル)として切り分けする全く新たな構造とし、処理スピードの向上を実現した。
 このように別ファイルとすれば、入力データとして呼び出されるのは、常に1か月分であるため、請求書発行等の処理スピードは格段速なる。
b 操作性の向上
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
 KCSシステムのWin版は、KCSシステムのビジネスサーバ版をもとにしたシステムであるので、KCSシステムのビジネスサーバ版における欠陥が同様に存在する。
 すなわち、画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず、使用上不便であり、さらに1行毎に入力を行った後に、明細表示部へ移行させるという手間がかかる画面構造上の不便さという欠点が同様に存在していた。
 また、KCSシステムにおいては、リース単価変更時の仕様に欠陥があり操作性が悪いこと、期間貸し(シーズン貸し)の時にリース期間の自動延長ができず操作性が悪いという欠陥も存在していた(甲220別紙8A)。
(b) RBCシステムにおける「操作性の向上」の具体化
 RBCシステムのビジネスサーバ版と同様、画面上に伝票形式の明細行数が10行表示されており、しかも、各行へ直接入力する方式を採用し、操作性の向上を実現した。
 また、上記のようなKCSシステムにおける操作性が悪いという欠陥は、RBCシステムでは存在しない。
c ネットワークの強化
(a) KCSシステムの有していた欠陥について
 KCSシステムでは、営業所コードが存在しないことにより、支店・営業所単位での処理が出来ず、営業所間のネットワークに対する対応が弱いという欠陥があった。
(b) RBCシステムにおける「ネットワークの強化」の具体化
 RBCシステムでは、取引先マスタ(得意先マスタ)上に、営業所コード(5桁)を採用し、営業所を複数管理している顧客が営業所単位で業務処理を行うことが可能で、ネットワークが強化されている。
d まとめ
 以上のとおり、RBCシステムは、@処理スピードの向上、A操作性の向上、及びBネットワークの強化という基本的な考え方を具体化したKCSシステムとは全く異なる新しいシステムである。
 もちろん、画面設計においても、『得意先マスタメンテ画面(Win版)』(甲135の2別紙図面3)、『入出庫入力・出庫入力画面(Win版)』(甲135の3別紙図面4)を比較すれば明らかなごとく、RBCシステムとKCSシステムでは全く異なる。
 その結果、当然ではあるが、RBCシステムとKCSシステムには多数の相違点が存在している(甲220別紙9)。
(ウ) 小括
 以上より、RBCシステムのWin版は、上記3つの基本的な考え方を具体化した結果、KCSシステムとは全く異なる新たなシステムとなっている。
エ 結論
 以上のとおり、RBCシステムは、ビジネスサーバ版、Win版ともに、KCSシステムとは全く異なる新しいシステムであることが明らかである。
(3) RBCシステムの開発状況及び顧客へのサポート状況
ア はじめに
(ア) 設立当初の顧客のうち、最初に契約に至った8社について、契約日、代金入金日、各業務ソフトの納入日などを下表に示す。
a ビジネスサーバ版の早期受注4社契約及びサポート各工程完了日
  日成工業所 南海建設興業 ベストレンタ 長浜産業
販売関係業務 契約日 平15.3.13 平15.4.23 平15.5.28 平15.4.9
入金日 平15.3.31 平15.4.30
平15.5.30
平15.6.30 平15.6.20
ソフト納入日 システム分析スタート日 平15.3.13 平15.4.2 平15.5.26 平15.4.3
マスター業務納入日 平15.4.10 平15.7.22 平15.7.10 平15.4.17
稼動業務納入日 平15.5.8 平15.7.23 平15.9.24 平15.7.8
販売業務納入日
請求業務納入日 平15.5.21
平15.11.末日
平15.8.22
平16.4.10
平15.9.末日
平15.10.14
平15.10.24
平15.11.末日
売掛業務納入日 平15.10.末日 平16.1.28
在庫管理業務納入日
仕入業務納入日
統計業務納入日 平15.11.末日
ネットワーク業務納入日 平15.9.6 平15.9.12
受注業務納入日(随時業務納入日)
修理業務納入日
稼動開始日 請求業務開始日 平15.12.1 平16.4.13 平15.10.12 平15.12.1
平16.1.1
稼動確認取得日 平16.5.17 平16.7.14 平16.1.30
b Win版の早期受注4社契約及びサポート各工程完了日
  鈴建輸送 名晶興産 興南機械 中村建機
販売関係業務 契約日 平15.4.18 平15.6.19 平15.6.23 平15.8.2
入金日 平15.3.28
平15.4.25
平15.7.25 平15.7.16 平15.10.1
ソフト納入日 システム分析スタート日 平15.3.14 平15.6.13 平15.6.25 平15.8.28
マスタ業務納入日 平15.3.14 平15.7.1 平15.7.30 平15.9.4
稼動業務納入日 平15.4.18
平15.5.13
平15.7.1 平15.8.1
平15.11.5
平15.9.6
平15.10.27
販売業務納入日 平15.7.1
請求業務納入日 平15.5.30
平15.9.18
平15.7.1
平16.11.2
平15.8.1
平15.11.末日
平15.9.18
売掛業務納入日 平15.7.1
在庫管理業務納入日
仕入業務納入日
統計業務納入日
ネットワーク業務納入日
受注業務納入日(随時業務納入日)
修理業務納入日
稼動開始日 請求業務開始日 平15.11.20 平16.2.1 平16.1.1 平16.1.1
稼動確認取得日 平16.9.9 平18.1.16 平16.11.16
(イ) RBCシステムは、そもそも、各顧客のニーズに応じたカスタマイズ部分を含む商品であり、商品の販売時点において、既にシステムが完成しているということがあり得ないことは、前記のとおりである。
 これに加えて、本件においては、RBCを設立して直ちに売上げを上げる必要があったことから、RBCシステムの開発をすると同時に、顧客に対しても同時進行で同システムを販売し、完成している部分から順次導入していったものであり、各顧客との契約時点、代金受領時点においてRBCシステムが全て完成していたものでは全くない。RBCは、相応の労力をかけてRBCシステムを開発していったものである。
 この点を明らかにするために、以下、ビジネスサーバ版、Win版双方につきシステム開発の経緯を説明するとともに、各々について、RBC設立後、最初に契約に至った4社に対するシステムの導入状況を説明する。
イ ビジネスサーバ版について
(ア) RBCシステムの開発状況
 RBCは、主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)については、平成15年1月10日から同2月20日ころの期間に完成させた(甲220)。
 次に、稼動業務、販売業務については、同月25日ころから同年4月1日ころの期間に完成させた(甲220)。
 請求業務については、同年3月10日から開発に着手し、同年5月上旬ころに一応完了させた(甲220)。
 その他の業務ソフトは、これ以降、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正に追われる中で、少しずつ開発していった(甲220)。
(イ) 顧客へのサポート状況
 RBC設立後、RBCシステムのビジネスサーバ版において最初に契約に至った4社は、日成工業所、南海建設興業株式会社(以下「南海建設興業」という。)、長浜産業及びベストレンタル株式会社(以下「ベストレンタル」という。)である。
 以下、この4社につき、契約時期、契約代金の受領時期を明らかにするとともに、RBCシステムのどの業務機能をいつ入れて、いつどのような指導を行い、最終的にいつ稼動したのかを説明する。
a 日成工業所について
(a) 契約日、入金日
 日成工業所とは、平成15年3月13日に契約を締結し、同月31日、契約代金全額を受領した。
 日成工業所との契約時点においては、RBCシステムのデモ画面等は無論完成しておらず、これらは提示していないが、RBC営業社員と日成工業所担当者との信頼関係により受注に至った(甲221)。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 平成15年3月13日時点では、RBCシステムは、マスタ業務しか完成しておらず、基本的な事項すら完成しておらず、RBCシステムは使用できるものではなかった。
 それにもかかわらず、この時点で契約に至ったのは、会社を設立して早急に資金を必要としたRBC側の事情もあるが、主要マスタの開発が一応完了していたことから、日成工業所にはマスタの登録業務をしばらく行ってもらうことにより、時間を稼ぎ、その間に順次、早急に他のプログラムを完成させていく方針であったこともある。
 なお、顧客としても、当方のシステムが完全に立ち上がるまでは旧来の方法で請求業務等を行うことから、不都合を生じるものではなかった。
(c) サポート状況
 日成工業所では、平成15年3月13日にシステム分析を開始し、マスタ業務ソフトは同年4月10日に納品したものの、それ以降のソフトについては、開発でき次第納品していった。
 すなわち、稼動業務ソフトについては同年5月8日に納品し、請求業務については同月21日に基本ソフトを納品し、カスタマイズをして、同年11月末日に日成工業所の要望に沿ったソフトを再納品している。
 そして、同年12月1日、ようやく、RBCシステムを本格稼動させて請求業務を開始することができ、平成16年5月17日に顧客の要望に沿ったカスタマイズが全て終了したことを双方で確認して稼動確認書を取得した。
b 南海建設興業について
(a) 契約日、入金日
 南海建設興業とは、平成15年4月23日に契約し、同月30日、同年5月30日契約代金を受領した。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 この時点においても、マスタ業務、稼動業務、販売業務までしかできておらず、請求業務はできていない状態であり、ソフトとしては基本的動作ができず、全く使い物にならない状態であった。
 デモ画面等は無論存在せず、RBC営業社員と客先との人的信頼関係等により、成約に至った(甲221)。
(c) サポート状況
 南海建設興業とは、契約に先立ち、平成15年4月2日よりシステム分析を開始し、既に完成していたマスタ業務、稼動業務につき、それぞれ同年7月22日、同月23日に納品している。
 そして、請求業務については、基本ソフトを平成15年8月22日に納品し、カスタマイズをして、平成16年4月10日に再納品した。
 以上の経過で、同月13日にRBCシステムを稼動させて請求業務を開始することができ、同年7月14日には稼動確認書を取得した。
c 長浜産業について
(a) 契約日、入金日
 長浜産業とは、平成15年4月9日に契約をし、同年6月20日、契約代金を受領した。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 ソフトとして基本的な動作ができていない状態であったことは南海建設興業との契約の点で記載したとおりであり、デモ画面等は無論存在せず、RBC営業社員と客先との人的信頼関係等により成約に至った(甲221)。
(c) サポート状況
 契約に先立ち、平成15年4月3日システム分析を開始し、同月17日にマスタ業務を納品している。そして稼動業務を同年7月8日に納品した。請求業務については、基本ソフトを同年10月24日に納品し、同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。
 また、長浜産業ではネットワークを構築する必要があり、同年9月12日にネットワーク業務を納品している。
 長浜産業は2段階に分けてRBCシステムを稼動させたため、同年12月1日、平成16年1月1日の2段階でRBCシステムを稼動し請求業務を開始した。
 そして、同月28日に売掛業務を納品する等し、同年4月15日に稼動確認をしたが、稼動確認書は取得しないままとなった。
d ベストレンタルについて
(a) 契約日、入金日
 ベストレンタルとは、平成15年5月28日に契約をし、同年6月30日契約代金を受領した。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 ベストレンタルとの契約時点では、請求業務までが一応完成しつつあり、ソフトとして最低限基本的な事項が完成しつつあり、ようやく不完全なものではあるがデモ画面が完成し、同画面を示して説明が可能となった(甲221)。
(c) サポート状況
 平成15年5月26日よりシステム分析を開始し、同年7月10日マスタ業務を、同年9月24日稼動業務を納品した。
 請求業務については、同月末日に基本ソフトを納品し、同年10月14日、カスタマイズしたソフトを納品した。
 そして、ネットワークを構築する必要があったため、同年9月6日にネットワーク業務を納品し、同年10月12日より本格稼動し、請求業務を開始した。
 なお、システム稼動確認書を取得したのは平成16年1月30日である。
ウ Win版について
(ア) RBCシステムの開発状況
 主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)については、平成15年1月21日から同年2月10日ころの期間に完成させた。
 次に、稼動業務、販売業務については、同月12日から同年3月26日までの間で完成させた。
 請求業務については、同月11日から同年5月ころまでの間で完成させた。
 そのほかの業務ソフトは、ビジネスサーバ版の開発同様に、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正に追われる中で、少しずつ開発していった(甲221)。
(イ) 顧客へのサポート状況
 RBC設立後、RBCシステムのWin版において最初に契約に至った4社は、鈴建輸送株式会社(以下「鈴建輸送」という。)、名晶興産株式会社(以下「名晶興産」という)、有限会社興南機械(以下「興南機械」という。)、及び中村建機である。
 以下、この4社につき、契約時期、契約代金の受領時を明らかにするとともに、RBCシステムのどの業務機能を、いつ入れて、いつどのような指導を行い、最終的にいつ稼動したのかを説明する。
a 鈴建輸送について
(a) 契約日、入金日
 鈴建輸送とは、平成15年4月18日契約をし、同年3月28日、同年4月25日に契約代金を受領した。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 契約時点では、請求業務が完成しておらず、RBCシステムは基本的動作すらできない状態であり、デモ画面等も出来上がっていなかったが、人間関係を基礎として契約に至った(甲221)。
(c) サポート状況
 契約に先立ち、平成15年3月14日、システム分析を開始し、同日マスタ業務を納品した。
 そして、稼動業務については、基本ソフトを同年4月18日納品し、カスタマイズしたものは同年5月13日に納品した。
 請求業務についても、同月30日に基本ソフトを納品し、同年9月18日にカスタマイズ品を納品した。
 そして、同年11月20日にRBCシステムの本格稼動ができ、請求業務を開始し、平成16年9月9日に稼動確認書を取得した。
b 名晶興産について
(a) 契約日、入金日
 平成15年6月19日契約し、同年7月25日に契約代金を受領した。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 契約時点では、RBCシステムは、基本的動作が可能な程度には完成していた。したがって、一応のデモ画面が完成していたために、それを見せて契約している(甲221)。
(c) サポート状況
 平成15年6月13日にシステム分析を開始し、同年7月1日に、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務、売掛業務を納品した。
 そして、同年11月2日に、カスタマイズ後の請求業務を納品した。平成16年2月1日には、RBCシステムを本格稼動させ、請求業務を開始し、平成18年1月16日になって、ようやく稼動確認書を取得した。
c 興南機械について
(a) 契約日、入金日
 契約日は平成15年6月23日で、契約代金入金日は同年7月16日である。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 同時点においても、既にRBCシステムは一応基本的動作はできる状態であったため、不完全ながら一応のデモ画面を見せて契約した(甲221)。
(c) サポート状況
 平成15年6月25日にシステム分析を開始し、同年7月30日、マスタ業務を納品した。稼動業務については同年8月1日に基本ソフトを納品し、カスタマイズ品を同年11月5日に納品した。
 請求業務についても、同年8月1日に基本ソフトを納品し同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。
 平成16年1月1日、RBCシステムを本格稼動させ請求業務を開始し、同年11月16日稼動確認書を取得した。
d 中村建機について
(a) 契約日、入金日
 契約日は平成15年8月2日で、契約代金入金日は同年10月1日である。
(b) 契約時のRBCシステムの開発状況
 契約時において、RBCシステムは基本的動作ができる程度には一応完成しており、不完全ながらも一応のデモ画面を見せて契約した。
(c) サポート状況
 平成15年8月28日システム分析を開始し、同年9月4日にマスタ業務を、同月6日に稼動業務を納品した。稼動業務についてはカスタマイズがあり、同年10月27日にカスタマイズ品を納品した。
 請求業務については、同年9月18日に納品した。
 そして、平成16年1月1日からRBCシステムは本格稼動を開始し、請求業務を開始した。なお、同年後半に稼動確認を行ったが、稼動確認書を取得しておらず、正確な日時は不明である。
エ まとめ
 以上から明らかなごとく、RBCは、RBCシステムを開発するにあたり、ビジネスサーバ版であれば約1年、Win版でも、7か月から3年を費やしているものであって、RBCシステムとKCSシステムが根本的に相違することから当然のことではあるが、RBCシステムの開発に相応の期間をかけている。
 要するに、KCSシステムを剽窃・流用して、RBCシステムの開発期間を短縮した、という事実はないのである。
(4) KCSの主張(1)(RBC設立前の準備行為)に対する認否・反論
ア KCSの主張(1)ア(貸出君新版の開発経緯)について
(ア) KCSの主張(1)ア(ア)(貸出君新版の開発に至る経緯)について
 KCSが平成14年ころ「貸出君」のWin版廉価バージョン(「貸出君 for win 廉価版」)とASP版入力簡素化バージョン(「貸出君ASP新版」)の開発に着手したとの点は否認する。
(イ) KCSの主張(1)ア(イ)(貸出君新版の開発計画)について
 KCSが第23期(平成13年9月〜平成14年8月)に、X4を課長とする開発課において「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」の開発を計画し順次これに着手したとの点は否認する。
a 平成13年9月1日付「第23期(上)を迎えて」と題する書面(乙5)及び平成14年3月2日付「第23期(下)を迎えて」と題する書面(乙7)は、X2がKCSの専務取締役在職中に作成したもので、また平成13年9月8日付「23期上期開発部方針」と題する書面(乙6)は、乙第5号証の方針内容を受けX4が作成したものである。
 これらはX2が、KCSの成長、業績、拡大のために、組織内システムの確立・改善を実践したものに関連して作成されたもので、決算会議と呼ばれる年2回開催の会議で発表された方針を示す文書である。
 X2は、この中で各担当部門に対し、今後6か月間に実践してもらいたい内容を記載していた。しかし、現実には、達成できなかった年度もかなりあった。
b 乙第5号証によれば、2頁目「商品施策」欄に記載のとおり、「Win版廉価バージョン」の商品化が求められており、これが第23期(上)の商品施策の大きな目標の1つとなっていた。これを受けてX4が、乙第6号証のとおり、開発部方針のひとつとして、「貸出君 for win 廉価版」の商品化を策定したのである。
 KCSの主張によれば、この「貸出君 for win 廉価版」が「ミスターアドバンス」であるということになるが、荒唐無稽な主張というほかはない。
 第23期(上)当時、KCSが販売の主としていたものは、「貸出君」のASP版とWin版の両者であったが、実際には、この当時の販売実績の中心は、ASP版であった。その理由は、当時のWin版がかなり重大な欠陥を有しており、顧客より多くのクレームが発生していたためである。そのため、これに対処することが、第23期上期の商品施策の1つとなっていた(乙5、2頁目)。
 しかし、上記欠陥の内容は、「貸出君」Win版で使用されているデータベース、SQLサーバの基本的な条件設計の誤りによるものであり、この商品を、今後改善、改良を加えるということは、新しいものを一から作り直す程の時間と費用をかけなければならない状況であった。
c そこで、とりあえず、「貸出君for win 廉価版」というものを新しく開発することを計画したのであり、その内容は、OSにWindows2000、データベースにオラクルを使用するというものであった(乙5)。
 ところが、この「貸出君 for win 廉価版」は全く開発できないまま、半年後の第23期(下)を迎えてしまったのである。このことは、乙第7号証にも明記されていることである(2頁目、中段)。
 また、乙第7号証の記載内容から明らかなように、結局、その2頁中段(T(小文字))「貸出君」Win版の改良や、同(W(小文字))「貸出君 for win 廉価版」の開発を諦め、Linuxにその軸足を移し、同時に、もう一方の主力商品であるASP版に力点を置く計画に変更したのである。
d このように上期における方針が、わずか半年後の下期において変更されたのは、前記のように、「貸出君」Win版は、欠陥商品としてのイメージが強く、対処療法ではあるが一部修正も終わったので、一から新商品を開発する程度の費用と時間を費やすぐらいならば、今後市場にて主力となるであろうLinuxを使った新たな「貸出君」を作る方が得策と判断するに至ったからである。
 しかし、第24期(上)に至っても、結局、Linux版プロトタイプはできず、またもや計画倒れとなってしまった。
 それは、前記のように、第23期(上、下)における多数のクレーム発生で、その対応に多大な時間と戦力を費やさざるを得なかったためである。
 なお、KCSは、ASP版入力簡素化バージョンを、平成13年9月に開発したと主張しているが、乙第5、第6号証のどこにもそのようなものの記載はない。
e 以上、要するに、「貸出君 for win 廉価版」なるものは、OSをWindows2000とし、データベースをオラクルとして、開発する計画であったが、結局、開発できなかった(なお、現在、KCSにもRBCにもデータベースにオラクルを使用している商品はなく、RBCの現在の販売商品もデータベースは「SQLサーバ2003」を使用している。)。
 このように、KCSにおいて開発できなかったものが、「ミスターアドバンス」になったとするKCSの主張は事実に反している。
イ KCSの主張(1)イ(X2らによる不正な企て)について
(ア) KCSの主張(1)イ(ア)(RBC設立準備行為)について
 X2が平成14年ころからKCSの経営権を不正に奪取しようと企て始め、Y2やY1に理由もなく一方的に辞任を迫るようになったとの点、本来であればKCSが取得するはずの代金を横領することにより着々と資金集めを進めていったとの点、なるべく大量の従業員をRBCに移籍させてKCSを倒産に追い込むべく秘密裏にミーティングを重ねたとの点は否認する。
 RBC設立の経緯は前記(1)(新会社設立の経緯)で述べたとおりである。
(イ) KCSの主張(1)イ(イ)(ミスターアドバンスの開発)について
a KCSの主張(1)イ(イ)a(開発当初の状況とネーミング)についてX2らが、KCS在職中にRBC設立後に販売するソフトの開発の準備を進めていたとの点、開発中に「ミスターアドバンス」という名前が決定したとの点は否認する。
 「ミスターアドバンス」は、RBCが平成15年3月設立時に、「前貸し」を意味する「アドバンス」に「ミスター」を付けて名付けたものである。
 これに対し、KCSは、作成日付が平成15年1月10日となっている甲第20号証の5に「Mr.Advance」と書かれており、RBCらの上記主張と矛盾すると主張する。
 この点、甲20号証の5は、プログラム定義書であり、当該プログラムを作成したのが平成15年1月10日であることは間違いないが、甲第20号証の5自体の作成は同日ではない。すなわち、当該プログラムを開発した当初は数名で開発を行っており、きちんとした定義書など作成する暇もなく、メモ書き程度を残して、次々とプログラムを開発していた。その後、順次KCSを退職した人間が手伝うようになり、RBCを設立して人数が増えると、ようやくX3にも余裕ができ、過去に作成したプログラムについてメモを見ながら定義書を作成する作業ができるようになった。そして、甲第20号証の5を実際に作成したときには、ミスターアドバンスという名称が決まっていたため、同名称を入力したのである。
b KCSの主張(1)イ(イ)b(オペレーションマニュアル(乙9)の作成)について
 否認する。
(a) KCSは、X4がP11にオペレーションマニュアル(乙9)の作成を指示したと主張するが、事実に反する。KCSの主張を前提にすると、次のような矛盾が生じる。
@ P11に作成能力がないこと
 P11は、平成14年4月にKCSに入社し、同年6月ころインストラクターとして就業した。本来、インストラクターは、顧客に納入したソフトウェアの操作を指導することがその職務内容である。KCSでは、インストラクターは「貸出君」というソフトウェアの操作説明をすることになるが、そのためには、自分自身がこのソフトウェアの機能、動作を理解していることが前提となる。すなわち、乙第9号証のようなオペレーションマニュアルを作成するためには、そのソフトの機能・動作等を十分に理解していなければならない。しかし、平成15年1、2月当時のP11は、入社してまだ1年未満であり、「貸出君」の中身の全体を熟知しておらず、それまで、一度として操作指導等のために顧客を訪問したことはなかった。
 そのP11が、仮に乙第9号証を作成したとすると、文章をWordで単純に入力して作ったとした場合、下書き原稿が必要となるが、X4はもちろんのこと、誰もP11に対して入力の指示をしたり原稿を渡したりなどしていない。存在しないソフトウェアのオペレーションマニュアルの原稿など、作成できたはずがない。
A 作成期間が短すぎること
 それでは、原稿がないまま乙第9号証を作成したと仮定してみる。このように原稿がない場合のオペレーションマニュアルの作成は、まず、インストラクターにソフトウェアの内容を知悉させるため操作練習及び操作・機能説明を行ない、インストラクターはこれに基づいて自ら下書き原稿を作成し、Wordを使ってオペレーションマニュアルを完成する、という手順をとる。甲第14号証の「開発スケジュール」を例にとると、インストラクターは、まず、平成15年3月10日ころ、操作練習及び操作・機能説明を受ける。そして、最初に、マスター系のオペレーションマニュアルの下書き原稿を作成し、このマニュアルを完成させる。次に、平成15年4月末ころから入出庫稼動等の操作練習及び操作・機能説明を受け、下書き原稿を作成し、このマニュアルを完成させる、という手順になる。
 ところが、KCSの主張によると、これらを平成15年1月30日から平成15年2月7日までの期間に一挙に作成したことになる。KCSによれば、乙第9号証の1の1は「Aマスタ登録業務」のオペレーションマニュアル、同号証の2の1は「B稼動業務」のオペレーションマニュアル、同号証の3の1は「C販売業務」のオペレーションマニュアル、同号証の4の1は「問合せ」のオペレーションマニュアル、ということであり、同号証の各1の2、2の2、3の2、4の2には、各オペレーションマニュアルを作成したとする日が記載されている(P11の署名捺印あり)。これらには作成期間が記載されておらず、作成したとする日が1日だけ記載されているが、各オペレーションマニュアルを1日で作成したなどということはあり得ない。たとえば、乙第9号証の3の1は、平成15年1月30日に作成したとされているが(乙9の3の2)、Wordを使用し、画面の切り取り、張り付け等の作業を行なわねばならず、これを1日で仕上げるなど考えられない。
 そこで、各オペレーションマニュアルの作成と説明に一定期間を要するとの前提で考える。乙第9号証の2の1と同号証の4の1は、いずれも平成15年2月4日に作成したとされている(乙9の2の2、乙9の4の2)。これらについて、同号証の3の1(上記のとおり平成15年1月30日に作成したとされている。)の作成完了後、直ちに作成作業に取り掛かったとすれば、その作業期間は、平成15年1月31日、2月3日、2月4日の3日間となる(2月1日、2日は土、日)。しかし、3日間でこれらを仕上げることなど極めて困難である。また、同号証の1の1(平成15年2月7日に作成したとされている〔乙9の1の2〕。)に至っては、2月5日、2月6日、2月7日の3日間で作成されたことになるが、このようなことはおよそ不可能である。
 ところで、X4が原稿を作成し、P11がそれに基づいて入力作業を行なったとすると、両者の間で、原稿の内容及びマニュアルの全体イメージ、構成等についての協議がなされ、P11からX4に対して質問が発せられたはずである。しかし、これらのことをY1に気付かれないように行うことは不可能である。また、P11は、2月4日に乙第9号証の4の1を作成し、2月7日に同号証の1の1を作成したと記載しているが、X4は、2月4日と2月5日は沖縄へ出張しており、大阪に不在であった。P11は誰に質問をし、誰によって解決しながらこのマニュアルを作成したというのであろうか。
B 作成順序が不自然であること
 ここで強調すべきは、P11が述べている乙第9号証の作成順序が極めて不自然であるということである。
 コンピュータソフトの開発は、マスター系を開発することがまず最初の手順である。これは、たとえば、建物を建築する時の基礎工事と同様で、これなくしてソフトはできない。したがって、本来なら、「Aマスタ登録業務」(乙9の1の1)が最初に作成され、次に「B稼動業務」(乙9の2の1)、「問合せ」(乙9の4の1)、「C販売業務」(乙9の3の1)の順に作成されるはずである。
 ところが、P11によれば、最後に作成されるべき「C販売業務」(乙9の3の1)が最初(1月30日)に作成されたことになっており、逆に、まず最初に作成されるべき「Aマスタ登録業務」(乙9の1の1)が最後(2月7日)に作成されたことになっている。このようなことは、X4の依頼によるものだとすれば、あり得ないことである。
C 作成の必要性がないこと
 そもそも、平成15年3月にKCSを退職する従業員が、何のために同年1、2月の時点でKCS内で危険を冒してまでオペレーションマニュアルを作る必要があったのか不自然極まりない(X4が退職届を提出したのは平成15年3月6日であるが、同人は、同年2月初旬には既に退職の意思を固めていた。)。
 オペレーションマニュアルは、顧客に納入した後、各業務毎に提供するものであり、P11が述べる作成期間を前提にするなら、乙第9号証は、10日間もあれば作成できることになるから、X4らは、KCSを退職した後に作成しても十分間に合うはずである。平成15年2月当時は、同じフロア−でY1が毎日常在しており、KCS内で誰が何をしているか見張っていたのであり、しかも、このころ、Y1は、KCSの東京営業所において不始末が発覚したと大騒ぎしていた時期であり、P11が乙第9号証作成のため連日入力作業を行い、X4と何度も話合いを行なっていたのであれば、Y1が気付かないはずがない。このような時期に、KCS内で危険を冒してまで、P11に命じてオペレーションマニュアルを作成する必要性など全くなかった。
D 乙第10号証について
 KCSは、乙第10号証は、乙第9号証が平成15年1月から2月にかけて作成された事実を証明するものと主張するが、乙第10号証もまた、KCSらによってごく最近になって作成されたものであり、何の証拠にもなり得ない。
 このような文章フォルダを作成することはいとも簡単なのである。RBCらも、乙第10号証と同じ内容の文章フォルダ(甲29)を作成した(ただし、乙10中の「とりあえず」の文言を、甲29では敢えて「完成された」と打ち直して作成した。)。
E 作業依頼書が作成・提出されていないこと
 乙第7号証の4頁の組織図にあるとおり、平成15年1、2月当時、P11は業務課(X1課長補佐)に配属されており、X4は開発課の課長であった。当時、他の課に仕事を依頼するには、依頼元の課長が「作業依頼書」を手書きで作成して捺印し(サインの場合も多い。)、依頼先に提出するのがルールとなっていた。したがって、X4がP11にオペレーションマニュアルの作成を依頼するのであれば、X4がX1に「作業依頼書」を提出することになるが、X1はこれを受領したことがなく、X4も提出したことがない。
(b) 乙第9号証は、RBCが各顧客に「オペレーションマニュアル」として渡したものをKCSらが入手し、あるいは他の方法で手に入れて、本件訴訟用に変造したものである。このことは、次のとおり、乙第9号証の表紙のデザインが、KCSの貸出君のマニュアル(甲87)の表紙のデザインと同じことから明らかである。
@ 「オペレーションマニュアル」は顧客に配布するためのものなので、それなりの体裁が整えられており、通常、まず目次があり、各章毎に章の表紙を付けている。その表紙のデザインには、簡素ではあるが、多くの場合、作成者のセンスに応じ、ロゴが付されている。
 乙第9号証の1の2の「Aマスタ登録業務」とある表紙にも、小さな葉のようなロゴが付けられている。
 ところが、このロゴは、KCSが、平成14年にも、平成15年にも顧客に配布していた「オペレーションマニュアル」(甲87)の表紙に使われているものと全く同じものである。
A KCSの主張によれば、乙第9号証は、X4が、KCSを退職する1か月程前に、現在のRBCのために、部下を使って作成させたというのであるが、もしそうであれば、既に、KCSが表紙に使っていたものと同一のロゴを使用することなどおよそあり得ない。
 しかも、このロゴは、以下に述べるように、KCS独自のもので、一般化されていないものである。RBCは、マイクロソフト社製のWordという文章作成ソフトを利用しているが、このソフトには、約3000種のロゴ、カット絵等が「クリップアート」として標準装備されており、Word上で簡単に使用できるものである。ところが、KCSの使用している前記表紙のロゴは、この標準には入っておらず、独自のものである。もし仮に、X4が、KCSの主張のとおり、平成15年1月30日から同年2月7日までの約10日間の短期間に、乙第9号証のようなものをKCS代表者やY1に内密で作成するとすれば、前記ソフトの標準に入っていない特殊なロゴをわざわざ真似るようなことをせず、簡単に作成し得る別のクリップアートを使用していたはずである。
B このロゴの部分を含め、甲第87号証の各章毎の表紙は乙第9号証の1の2、2の2、3の2と全く同じデザインで作られている(番号のA、B、Cの形状まで同一である)。
 前記のとおり、X4が、今後、自分たちで販売するつもりの商品のオペレーションマニュアルを作成したとするなら、当時KCSが使用していた表紙のデザインを用いることなど、これまたあり得ない。
(c) 乙第9号証は、RBC作成の「ミスターアドバンス」のオペレーションマニュアル(甲96)を変造したものであるが、そのため、両者には異なる箇所が多々ある。これをまとめたものが別紙10「乙9・甲96対比表」である。
 他方、上記対比表の「異なる点」の欄で指摘したとおり、乙第9号証は、KCS作成の「貸出君」のオペレーションマニュアル(甲87)と多くの点で類似している。
 すなわち、KCSらは、「貸出君」のオペレーションマニュアル(甲87)を基本にして、「ミスターアドバンス」のオペレーションマニュアル(甲96)に変造を加えて、本件訴訟に提出しているのである。
(d) 乙第9号証では、次のとおり異なるコード表示がなされており、そもそもプログラムが正常に稼動しない。
@ コンピュータシステムを創るには、まずマスタを決定し、その後、必要な業務処理に関し、多数のプログラムを構築していく。そのマスタは、業種や業界によりその特徴が表わされる。そして、一旦、マスタにおいて決定された各項目の条件(たとえば、得意先コードの桁数、仕入先コードの桁数、区分コードNO等)は、同じコンピュータシステム内においては、統一して使用される。
A ところが、乙第9号証の1の1(マスタ登録業務)を注視してみると、ページにより、条件が不統一、不一致となっている記載を多数確認することができる。これをまとめたものが別紙11「乙9不統一・不一致表」である。すなわち、乙第9号証には、得意先コード7桁のプログラムと6桁のプログラムが混在していることになっており(表1)、仕入先コードも同様に異なる桁数が記載されている(表2)。また、「仮設」という商品区分が頁によってB、Kという異なる記号で表現されており(表3)、項目の名称も表示画面により異なった表現となっている(表4)など、同一のソフトならおよそあり得ない事態となっている。
 ちなみに、甲第114号証の1〜9は、大塚商会が販売しているレンタル業界向けコンピューターソフトの「運用オペレーションマニュアル」の一部であるが、得意先コードはどの頁も6桁であり、仕入先コードもどの頁をみても6桁で、それぞれが統一されている(得意先コードが、ある頁では5桁などということにはなっていない)。
B そこで、乙第9号証において異なるコード表示がなされていることの理由を改めて分析すると、2種類のシステムの一部ずつ張り合わせて作成されたためであることが明らかとなる。KCSらは、2種類のオペレーションマニュアルの根本的な違い(コードの桁数など)を見逃して乙第9号証を作成したため、このような破綻を示したものといえる。
(e) 乙第9号証は、およそオペレーションマニュアルとしてはあり得ないものである。
 すなわち、乙第9号証は、各種マスタプログラムについてのオペレーションマニュアルである。たとえば、同号証の1の1の頁(2−1)に、「得意先マスタ登録・修正・削除」というマスタプログラムが存在することを前提として、頁(2−1)から(2−4)までが、そのプログラムの内容の説明ということになっている。ところが、詳細に検討すると、「型式マスタ・登録・修正・削除」という別異の表現が随所にみられる。その記載箇所を一覧にしたものが、次の表である。
(表)乙9の1の1に「型式マスタ・登録・修正・削除」という語彙が記載されているページ
行数
2−4
2−26
2−27
2−28
2−45
2−49
2−54
2−55
 上から17行目
 下から4行目
 下から3行目
 最下行
 最下行
 最下行
 下から8行目
 下から4行目
 これによると、「型式マスタ・登録・修正・削除」という名称のプログラムが、同号証の1の1内に存在することになる。しかし、このようなプログラムはこのオペレーションマニュアルのどこにも存在しない。
 前記のとおり、同号証の1の1は、KCSソフトのオペレーションマニュアル(甲87)から20数頁をそのままコピーし、他のオペレーションマニュアルと合成して作り上げたものであるために、このような矛盾に満ちたものになってしまったのである。
(f) 小括
 KCSは、乙第9号証はP11がX4から指示されて作ったオペレーションマニュアルであり、実際にシステムを稼動させながら、平成15年1月22日から同年2月7日にかけて作成したと主張する。
 しかし、前記(d)(e)のとおり、桁数が同じでなければならない部分が違う桁になっていたり、存在しない「型式マスタ登録修正削除」という項目が何度も出てきたりしており、乙第9号証のとおりのシステムであれば稼動しないことが明らかである。
 いかに「とりあえず」作っておいてくれと言われたからといって、システムを稼動させながら作っていたのであれば、ここまで間違いだらけのマニュアルを作ることはない。
 そして、RBCらからのこの指摘に対して、KCSからは何ら反論がなされていない。また、P11は、証人尋問において、同期が全員辞めるという異常な事態にもかかわらず、会社内の雰囲気に何も感じなかったと述べたり、覚えていないと述べたりするなど、その尋問態度は不自然であり、到底信用できない。
(ウ) KCSの主張(1)イ(ウ)(各種資料等の持ち出し)について
a KCSの主張(1)イ(ウ)a(各種資料の持ち出し及びKCSの対応)について
 KCS元従業員が書類等を大量に持ち出したとの点は否認する。
(a) そもそも「貸出君 for win 廉価版」と「貸出君ASP新版」なる成果物などは存在せず、このようなものをKCSが主張する平成13年9月から開発などしていたら、KCSに現在在籍している従業員も当然その成果物を見ているはずである。
(b) X4が休日に届出もせず出社していたのは、当時は通常のことで、その多くはトラブル顧客の解決のためであった。すなわち、平成13年、平成14年当時は、トラブルを持つ顧客が多数存在し、その対応にX4を含むシステム担当者も、日々忙殺されていたのである。
(c) また、当時のKCSの顧客はRBCの現在の営業担当従業員がすべて販売していたものであり、個人記録帳で十分に間に合うから、X4らが顧客名簿、契約書など持ち出す必要など全く存在しない。
 この点に関し、P14係長は、KCS在職の過去10年間の自分の作成した書類は自分の保有物と思い込み、それらを持ち出したことはあるが、それらがKCSのものであるとの説明を受け全部返却している。またこのことで、東警察署に事情聴取を受けたことも事実である。
 しかし、警察による事情聴取の内容(つまり、警察の主な関心)は、専らY1の人格についてのものばかりで、P14係長が、警察から、何を聞かれたかについて現在記憶しているのは、そのことだけである。
(d) RBCはKCSの主張する資料や、「貸出君」のソースプログラム等を所持する必要など全くないものであり、したがってKCSから成果物を持ち出したことはない。
 ソースプログラム等は多くの顧客のコンピュータシステム内に存在しており、そのようなものを持ち出す必要性などまったく存在しない。
b KCSの主張(1)イ(ウ)b(ドキュメントのコピー)について 争う。
c KCSの主張(1)イ(ウ)c(K6900のRBCへの持ち込み)について 否認する。
 K6900は、KITシステムズが、リース期間終了後に廃棄する際(平成13年9月ころ)、当時KCSに在籍していたX4が、KITシステムズのP22より、できるだけ早く返還、廃棄することを前提に貸与されたものである(なぜなら、当該オフコンは、ファイナンス会社の所有物で、KITシステムズが廃棄することを請け負ったものである)。
 貸与の条件は、KITシステムズの顧客那覇鋼材のシステムチェックであったが、機械の不足を補うために他のメンバーも使用していた。そのためX4は、KCS在籍中、当該オフコンを使い、那覇鋼材のシステムの細かなチェックを行っていた。平成15年2月、X4が、KCSを退社することを決定した後に、責任上、KITシステムズに連絡し、当該オフコンの内部のデータすべてを抹消して、廃棄の手続を行ったものである。したがって、KCSに所有権などが存在するものではない。
 KCSは、P18、P17に、「RBC内で見た」「使用した」と虚偽の陳述をさせている。P18、P17とも、在籍期間1か月程度であり、当該オフコンを使用することなどあり得ない。すなわち、両名とも、卒業後に入社したKCS在籍中に、それぞれWindowsやLinuxを中心とした仕事に従事しており、オフコンなど使用したこともなく、また使用できる技術力は全くなかった。
(5) KCSの主張(2)(持ち出された成果物等とミスターアドバンスの一致)に対する反論
ア KCSの主張(2)ア(「ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアルの記載事項と一致すること)について
 乙第9号証が、KCSのオペレーションマニュアル(甲87)を基本にし、RBCのオペレーションマニュアル(甲96)に変造を加えたものであることは、前記(4)イ(イ)bのとおりである。
 したがって、「ミスターアドバンス」のパンフレットの記載事項が乙第9号証の記載事項と一致するからといって、これによって、KCSによって開発されていた「貸出君for win 廉価版」がKCSの元従業員によって持ち出されて「ミスターアドバンス」として販売されたことを裏付けることにはならない。
イ KCSの主張(2)イ(「ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新版」の仕様書と同一内容であること)について
(ア) X3とX6は、KCSに在籍中、プログラム定義書を作る作業に従事していた。そして、P20(当時KCS福岡営業所勤務で福岡に居住)は、プログラム定義書に基づいて、実際に作動するプログラムを作成する業務に従事していた。
(イ) X3は平成15年1月6日、X6は同年1月20日にKCSを退職した。
 同年2月中旬ごろ、Y1は、同年2月20日にKCS福岡営業所を閉鎖する方針を打ち出したが、P20、P10、P19に対し、同年3月20日付で解雇するが、それまで同営業所で残務整理するように命じた(それ以外の者は直ちに解雇された。なお、上記方針どおり、2月20日に同営業所は閉鎖された)。
(ウ) 前記のとおり、同年1月にKCSを退社していたX3とX6は、同年2月末日ごろ、P20(母子家庭)に対し、夜間や土、日曜の時間帯を利用して、X3やX6が作成する定義書に基づいて、生活費の足しにするためアルバイトとしてプログラムを作ることを依頼し、そのために必要なオフコンをP20の家に置いた。ところが、自宅のオフコンに対しては定義書を送信することができないため、同年2月末か3月初めころ、X6は、大阪からP20が残務整理をしていた福岡営業所のパソコンに定義書を送信した。それが残ってしまったのが、乙第23号証の2枚目以降である。
 すなわち、これは、KCSを退職した後に、X3、X6が作成したもので、(残務整理とはいえKCSに在籍していたP20に対して送信したことは不適当ではあるが)KCS在籍中職務上に作成されたものではない。
 なお、乙第23号証の1枚目の送付書にあたる部分は、X6が作成したものであるが、上記のとおり同年2月末か3月初めころ作成されたものである。
(エ) KCSは、この送付書から送信日が分かる部分を切り取ってコピーし(すなわち、同年2月末か3月初めに作成された送付書を変造し)、本件訴訟用に乙第23号証を作り、「平成15年1月以前」に作成されたものと主張しているのである。
(オ) KCSらの証拠説明によると、乙第23号証の作成日は「平成15年1月以前」という曖昧なものであるが、本書自体には日付が一切記載されていない。この種の書類は、Excelという表作成用のソフトウエア(マイクロソフト社製)を用いて作成されるが、その際には、必ずツディー(today)処理を行なっているので、その処理をした日付が記載される。ところが、乙第23号証に全く日付が記載されておらず、特に、必ず送信された日付が強制的に入るようになっている発信文書にも、日付の記載がない。このような奇怪ともいうべき文書である乙第23号証は、KCSらにおいて、本件訴訟用にX6のメールから日付を消去し、切り取って変造して作成されたものであることは明らかである。
(カ) したがって、「ミスターアドバンス」の仕様書が「貸出君ASP新版」の仕様書と同一内容であるからといって、これによって、KCSによって開発済みの「貸出君ASP新版」プログラムがKCSの元従業員によって持ち出され、「ミスターアドバンス」として販売されたことを裏付けることにはならない。
(キ) KCSは、乙第23号証の内容が開発済みのプログラムに対する修正を指示する仕様書であるとして、この時点以前に現場マスタメンテナンスの開発が開始されているはずであり、甲第116号証の22で現場マスタメンテナンスの開発開始が平成15年4月11日というのは矛盾すると主張する。
 確かに、乙第23号証のみを見れば、そのようにも思える。しかし、実は、同号証を送付する直前に、現場マスタメンテナンスの開発を指示する仕様書を送付しており、同号証は、その仕様書についての変更を指示したものなのである。すなわち、同号証が送付された時点では、現場マスタメンテナンスのプログラムは未だ開発されていなかった。そして、P20は、もともと土日と夜間のみのアルバイトの予定であったが、結局はKCS在職中は忙しくて開発することができず、退職してからの開発となったため、開発開始は平成15年4月11日としているのである。
(6) KCSの主張(3)(RBCらの弁解が不合理であること)に対する反論
ア KCSの主張(3)ア(プログラム数)について
(ア) KCSの主張(3)ア(ア)(プログラム数に関する主張立証に矛盾があること)について
 甲第13号証の別紙は、今後作成する予定のプログラムまで全て含んだ一覧であり、同号証提出時における作成本数と矛盾しない。同号証別紙は開発予定のプログラム一覧であるが、プログラムID等の番号は、予め決めておいたのである。
 甲第115号証は、専門委員の判断に必要な限度で提出した書面であり、全てを出したわけではないから、プログラムの一部にすぎなくとも当然である。RBCらが提出したプログラムが少ないのは、営業秘密であるから全てを出すことができないことや、専門委員による創作性・類似性の判断のためには、全てを出す必要がなく、専門委員に伺った上で、提出プログラムを絞ったからである。
(イ) KCSの主張(3)ア(イ)(甲115及び甲117のプログラム一覧は一部にすぎないこと)について
 上記のとおり、甲第115号証は、専門委員の判断に必要な限度で提出した書面であり、全てを出したわけではないから、プログラムの一部にすぎなくとも当然である。
(ウ) KCSの主張(3)ア(ウ)(甲115と甲116との間に齟齬が生じていること)について
 甲第116号証は、修正履歴であるが、メインプログラムのみを修正し、それ以外の部分は一度作ったら修正不要であるため、メインプログラムのみに修正履歴があるのである。したがって、甲第115号証と甲第116号証は矛盾しない。
 修正が不要なプログラムについてまで本数に含まれるのが慣例であるのは、プログラマーが、自分が開発した本数を多く見せたいという気持ちからだと思われる。
イ KCSの主張(3)イ(開発期間に関する矛盾)について
(ア) 「120人/月」に関する当事者の主張の経緯
a KCSは、平成16年3月18日付け準備書面(1)7頁において、「原告(RBC)の従業員らは、被告(KCS)に在籍していた平成13年ころから貸出君の新バージョンの開発に従事しはじめ、15年1月ころにはこれを完成させた。原告(RBC)の従業員らはこのプログラム及びドキュメントを社外に持ち出して原告(RBC)のソフトを完成させた」と主張した。
b これに対し、RBCらは、KCS社内で、KCSの貸出君の新バージョンを完全に新しくカスタマイズさせるとすれば、そのような短期間(平成13年から平成15年1月)ではできないことを指摘するために、平成16年5月11日付け準備書面(2)において、「そもそも一企業の存続を決定するほどの規模のパッケージシステムを造るとすれば、業界状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要であり、KCS在籍中に誰も知られずに大きなシステムを造ることなどできるはずがない」と反論したのである。
 ここでRBCらが、KCS在籍中に誰も知られずに大きなシステムを造ることなどできるはずがない、と述べていることから見れば、RBCの反論は、KCS社内で貸出君の新バージョンを完全に新しくカスタマイズさせるには120人/月の人力が必要であり、KCSが主張するそのような短期間(平成13年から平成15年1月)ではなし得ない、と反論していることが明白である。換言すれば、RBCらがミスターアドバンスを開発するために、120人/月の人力が必要であると主張したものでないことも、また明白である。
 なお、プログラムの業界においては、通常、「人/月」とは、1人の人間が1日8時間で23日働いた労力を指すため、このときもその意味で使用している。また、「システムエンジニアー」と記載しているが、顧客に対して見積もりを出すときにシステムエンジニアーとプログラマーを分けて記載しないのが通常であり、プログラマーも含む趣旨で使用している。
c しかるに、KCSは、以後の準備書面(平成16年6月16日付け、同年8月6日付け)において、RBCらがミスターアドバンスを開発するには120人/月の人力が必要であることを自認している、とRBCらの主張の真意を、敢えてKCSの都合のよい意味にすり替えた。すなわち、KCSは、RBCらがミスターアドバンスを開発するに必要な数字として述べたものでないことを、あたかもRBCらがそのような趣旨で述べたように誤って主張したものである。
(イ) RBCのシステムを作成するに必要な「人力」
a KCSは、甲第15号証から、平成16年3月においても、Win版で25人/月、ASP版で47人/月の人力しかかかっていないと主張する。
(a) しかし、RBCが平成15年1月から平成16年3月までにシステム開発に要した人力は、別紙12「甲15の説明表」のとおりである。すなわち、
@ Win版システム:58人/月の人力(15年1月から平成16年3月迄)
A ASP版のシステム:83人/月の人力(15年1月から平成16年3月迄)
となる。したがって、KCSの主張とは相違する。
(b) KCSの主張が、別紙12「甲15の説明表」とは異なるのは、KCSがシステムエンジニアーの担当部分だけを取り上げ、プログラマーの担当部分を除外しているが、前記のとおり、RBCらの主張する「人/月」はプログラマーも含むものだからである。
(c) また、甲第15号証記載の月数は、1日8時間労働で23日勤務で換算したものではなく、単純な延べ月数であるが、RBCらは短期間で開発するために全員が一丸となって開発を進めていたため、1日の労働時間は8時間をはるかに超えていたし、休みもなく働いており、「人/月」計算に換算すれば2倍近くなると思われる。
 しかし、労働時間の記録はなく、1日8時間労働で23日勤務に換算しての人力の主張は不可能なため、単純な延べ月数での主張にとどめる。
b それでは、RBCシステムは一体どのくらいの人力をかければ完成するかということであるが、これは、RBCシステムは顧客ごとにカスタマイズを予定していて、常に半製品であり、パッケージソフトのような「完成」形態というものは存在しない。また、顧客ごとに「完成」という時点はあるが、顧客によってプログラム数も異なり、かかる人力も異なってくる。
 したがって、RBCシステムが何人/月で「完成」するかは、顧客ごとに異なってくるといえるが、複数の顧客のシステムを同時並行的に開発しているため、各顧客ごとの工数を出すのは極めて困難である。
 そこで、最初の販売先の稼動確認ができた時点で、一応の完成と定義づけ、この時点での工数を出すことにするが、そうすると、Win版では平成16年9月に稼動確認し、ASP版では同年1月に稼動確認しているため、Win版においては、平成16年9月までの人力、ASP版においては、同年1月までの人力が、完成までに必要な人力となる。
 別紙13は平成16年1月までのASP版の人力を、別紙14は同年9月までのWin版の人力を、それぞれ表にしたものである。すなわち、
@ Win版システム:103人/月の人力(15年1月から平成16年9月迄)
A ASP版のシステム:89人/月の人力(15年1月から平成16年1月迄)
 となる。
 当然、このときも、他の顧客の作業も含まれているため、最初の販売先のみにかかった工数というわけではないし、前述したとおり、残業時間や休日勤務まで含んでいるため、正確な「人/月」ではない。
 なお、最初の「販売」ができた平成15年3月の人力も念のため表にすると、別紙15のとおりとなり、
@ Win版システム:4人/月の人力(15年1月から平成15年3月迄)
A ASP版のシステム:12人/月の人力(15年1月から平成15年3月迄)
 となるが、「販売」ができた時点で「完成」とはいえないことは、後記ウのとおりである。
c よって、RBCシステムの完成を稼動確認時と定義すると、完成に必要な人力は、Win版で103人/月、ASP版で89人/月となる。
(ウ) 以上のように、KCSが「原告(RBC)はミスターアドバンスの開発に120人/月の人力が必要と認めておきながら、16年3月時点でその1/3〜1/5にあたる、25人/月の人力、47人/月の人力でミスターアドバンスを開発したと主張していることは、平成16年3月時点においてすらシステムの完成にほど遠いことを表している」と主張しているのは、前提問題をすり替えた空論である。
ウ KCSの主張(3)ウ(開発スケジュールに関する矛盾)について
(ア) RBCシステムは請負型であること
a コンピュータソフト開発業者が顧客との間で顧客の要求を分析するという作業から仕事を始め、その顧客の要求に応じたシステムの基本設計を行い、合意に達した内容を基に具体的なプログラミング作業を行い、検収の上納入するという方式を一般的に「ソフト請負方式」と呼んでいる。洋服や住宅の例でいえば、完全なオーダーメイド服や完全な注文住宅というものが、コンピュータ業界のソフト請負方式となる。
 ソフト請負方式の利点は、顧客の要求に沿ったソフトであるために顧客の満足度が高いという長所があるが、欠点としては、開発までの期間が長く、開発費用が高額になってしまうということが挙げられる。大企業は、ソフト請負方式による開発を依頼することが多いが、一般的に中小企業は、ソフト開発に高額を投じることが難しいのが現状である。
b これに対し、「完全パッケージ方式」のソフトも存在し、長所としては安価なこと、短所としては自由度が全くないことが挙げられ、ソフト請負方式とは正反対となる。洋服や住宅の例でいえば、既製服や建売住宅ということになる。
 完全パッケージ方式のソフトは、全く同じ内容ソフトを相当数販売するから、安価で販売しても開発コストを回収できるのであり、需要が多くなければならないし、販売に先行して開発するコストをコンピュータ開発業者が負担しなければならないため、よほど力のあるコンピュータ開発業者でなければ不可能である。また、押し着せのソフトでは満足できない顧客も多く、個別の要望を取り入れて欲しいという声が多かった。
c そこで大手コンピュータメーカーは、昭和50年ころより、多数の中小企業向けにコンピュータを販売するためにはソフトの安さが必須であるとの考えから、ソフトの「基本パッケージ化」という考え方を取り入れたのである。
 この考え方は、顧客要求のうち共通化できる部分は、一度開発したものを他の顧客にも用いることで、比較的低価格でコンピュータソフトが販売できるというものであり、共通した部分を「基本パッケージ」と呼ぶ。また、その他の顧客要求は個別に開発を進めるため、個々の要望にも対応できるのである。すなわち、「基本パッケージ」「販売」などという用語は使用するものの、その実態は請負型である。
 基本パッケージ方式は、開発の工数が軽減されるために完全請負方式に比べて早く完成し、安価である上、顧客の要望も取り入れることができるという長所を持っていて、ソフト請負方式と完全パッケージ方式の長所を併せ持つ上、「販売」という名称を用いるために、契約時に金銭を回収してから個別開発をすすめることができるというメリットもあり、何種類かの基本パッケージ方式のソフトが大手コンピュータメーカーから発売された。
d しかし、大手が販売を開始した基本パッケージでカバーできる業務は、企業形態として比較的多数存在する物販業者(商事会社)やアセンブル業者(製造業)などに限られ、その他多くの業種の事業形態にはこのような方式は取り込めない状態が続いていた。
 そこで、平成元年ころ、KCSに在籍していたX2が中心となり、当時全く手付かずであった市場規模の小さな建設機械のレンタル業者向けのコンピュータソフトを開発するにあたり、この業界独自の基本パッケージ化を着想しソフトを開発、販売し始めたのが「貸出君」である。「貸出君」においては、RBC従業員がKCS在籍中に「可変システム」という表現を思いつき、「可変システム」であることを強調していた。
 したがって、「貸出君」は基本パッケージ方式として請負型に属し、RBCも、基本パッケージ方式で「ミスターアドバンス」を開発販売して今日に至っており、いずれも請負型である。
 そして、RBCシステムは、請負型であるため、平成15年1月から開発を開始し、同年3月の会社設立と同時に販売(契約)することが可能だったのである。
(イ) KCSの主張
 KCSは、RBCシステムが平成15年1月に開発を開始して同年3月に「販売」可能になることはあり得ないと主張しているが、この主張は、RBCシステムやKCSシステムが請負型ではないということを前提にしている。
 そして、KCSは、KCSシステムの販売には、変動経費はかからないと主張し、その理由として、「一度プログラムが完成してしまえば、1つ追加的に販売するために、原材料の仕入れ等の追加的費用が必要となる訳ではない。」としているところ、請負型であれば、販売ごとに開発経費がかかるのであるから、KCSの上記主張は、KCSシステムが請負型ではなく、完全パッケージ型であるという趣旨である。
 また、KCSは、RBCが、販売時からリース料を受け取っていたことに対し、「機能しないソフトのために毎月のリース料を何のクレームもなしに支払い続ける顧客が存在するはずもなく、RBCらの弁解は一見して虚偽である」と主張する。以下、KCSの上記各主張について反論する。
(ウ) KCSのウェブサイト
 KCSは、自らのホームページにおいて、「貸出君導入手順イメージ」として、「現状調査分析」「基本設計」「詳細設計」が必要であることを明記している(甲230の1)。このことは、請負型のソフトであるということを自認している。
 この「貸出君導入手順イメージ」には、マスタ原票の作成・登録・指導の後に、詳細設計が置かれているが、これはRBCが、マスタープログラムの主要部の開発後に要望事項を順次開発納品するという手順と全く同じである。また、RBC従業員がKCS在籍中に考えた「可変システム」という表現もそのまま使い続けている(甲230の2)。
(エ) KCSの顧客
 KCSは、RBCが信用誹謗行為をしているとして、大東建機株式会社の担当者からのメール(乙117)を提出したが、その大東建機株式会社は、KCSから「貸出君」を購入し、ファイナンスを利用して支払を実施したにもかかわらず、KCSからプログラムの納入を受けることができなかったという損害を被っている(甲232)。したがって、KCSがあり得ないと主張する、ソフトが機能していない状態でリース料を払い始めるということは、KCSにおいても当然のごとく行われていたものである。
 このように、ソフトが機能していないのに契約金額を受領するのは、RBCもKCSも、資金が潤沢にある大手企業ではなく、開発にかかる経費を先に回収するというスタイルをとらざるを得ず、そのことを顧客にも理解してもらい、きちんと最後まで完成させるということを信頼してもらっているからである。
 ところが、KCSは、ソフトを完成させることができなかったのであって、顧客に大変な損害を与えているのである。
(オ) 小括
 以上のとおり、RBCシステムが請負型であるため、開発が完了していなくても、平成15年3月にRBCシステムの販売を開始することが可能だった。
2 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)の(1)(貸出君プログラムの著作物性の有無)について
【KCSの主張】
(1) 判例上の基準
 プログラムが著作権法上の保護対象である著作物に当たるというためには、思想、感情を創作的に表現したものであることが必要であるが、創作的に表現したものというためには、当該表現が、開発者の個性が発揮されたものであれば十分であり、厳密な意味で独創性のあることまで要求されるわけではない。すなわち、プログラムは、具体的記述において、開発者の何らかの個性が表現されていれば、著作物として著作権法上の保護対象となる(東京地判平成15年1月31日判時1820−127)。
 また、プログラムが著作権法上保護対象である著作物に当たるというためには、特別に高度の創作性が必要とされる訳でもなく、制御用プログラム等において、指令の組み合わせがハードウェアに規制されるために誰が作成しても本来的に同様にならざるを得ない場合や、極めて一般的な指令の組み合わせを採用しているにすぎないような場合に限り、創作性が否定され得るにすぎない(東京高決平成元年6月20日判時1322−138)。
(2) 貸出君プログラム
 貸出君プログラムは、Win版にしても、ビジネスサーバ版にしても、制御用プログラムのようなものではなく、パーソナルコンピュータやオフコンで実行されるアプリケーションプログラムであり、ハードウェアの規制により表現方法が限定されるということはない。しかも、ソースコードは膨大な量からなり、開発のために相当な人員と期間を要しており、プログラム言語の文法等の制限があるにせよ、誰が作成しても同様な記述となり得るものではなく、開発者の個性が表現されたものであることが明らかで、著作物性を有していることはいうまでもない。また、乙第84号証等において赤色で着色した貸出君プログラムとRBCプログラムとの共通部分は、貸出君プログラムの一部であるが、この部分だけをとっても、以下に説明するとおり、開発者の個性が表れており、著作物性を有していることが明らかである。
ア Win版
(ア) 貸出君プログラムのWin版のソースコードは、プログラム言語VisualBasicで記述されたものであるが、VisualBasicでは、プログラムをサブルーチンの組合せとして記述する。すなわち、まず、行おうとする処理を機能ごとに分割して全体構成を考え、そして各機能を担うサブルーチンを作成することによってプログラムが構成される。
 サブルーチンは、「Private Sub」〜「End Sub」までのまとまりであり、各サブルーチンにどのような機能を持たせるか、各サブルーチン内に実行される命令語をどのように記述するかは、開発者が自由に決定することができる。つまり、各サブルーチンにどのような機能を担わせるか、そしてサブルーチンをどのような順序で配置するかという全体構成の点、並びに各サブルーチンにおいて機能を実現するための命令語を具体的にどのように記述するかの点で、開発者の個性が表れることとなる。
 乙第84号証の得意先マスタ登録のソースコードのうち、赤色に着色したRBCプログラムと共通性のある部分には多数のサブルーチンが含まれているが、この部分は、得意先マスタ登録の表示画面において、表示された個々の項目に対するユーザーからのキー入力やマウスのクリックが行われたとき等の、イベントが発生した場合に実行される処理内容を記述したものであり、各イベントに対応するサブルーチン群として構成されている。そして、この着色した部分のサブルーチンの個数は100個を超えている。
 パーソナルコンピュータやオフコンで実行されるアプリケーションプログラムにおいては、画面に表示される項目や、ユーザーの操作方法、それに対応するコンピュータの処理内容には無限の組合せがあり、項目の選択、各処理を担うサブルーチンの並び順や個々のサブルーチンの記述内容は、開発者が自由に設定することができ、ハードウェアやプログラム言語上の制限、処理目的等によって一律に定まるわけではない。
 サブルーチンが100個もあれば、その並び順(単純計算では100の階乗通りという無数の組み合わせが可能)や個々の記述内容において十分に開発者の個性が表れたものとなることは明らかである。
 したがって、貸出君プログラムのWin版のソースコードにおけるRBCプログラムとの共通部分は、誰が作成しても同様な表現となり得るようなものではなければ、本来的に同様な表現とならざるを得ないようなものでも、極めて一般的な指令の組み合わせを採用しているものでもないため、著作物性が認められる。
(イ) 貸出君プログラムの得意先マスタ登録に関するWin版ソースコード(乙76)におけるRBCプログラムとの共通部分(乙84)は、以下の@〜Fの部分を有している。
@ ComboBoxコントロールに対する操作を行うサブルーチン群を記述した部分(乙76の37頁〜47頁)
 乙第76号証の37頁〜47頁には、「Private Sub Add_cboSEIK_KR_PRT() 〜 End Sub」、「Private Sub Add_cboTOMT_PAYM_KB()〜 End Sub」等、名称に「Add_」が含まれているサブルーチンが多数存在するが、これらはVBのComboBoxコントロールに対する操作を行うものである。
 ComboBoxコントロールは、ユーザーがキーボード等から入力可能なテキストボックスを備えているとともに、その右端の▼のボタンを押すと、選択肢のリストを表示し、その中から1つ又は複数の項目を選択できるようになっている。
 ComboBoxコントロールは、開発者が編集画面において配置するものであり、その個数やそれぞれの位置、大きさ、プロパティ等は自由に設定することができる。貸出君プログラムのソースコードの一部である乙第76号証の第1頁〜第36頁第25行目には、ComboBoxコントロールやその他の画面上に配置されるコントロールの情報が記述されている。
 各ComboBoxコントロールには、「cboSEIK_KR_PRT」、「cboTOMT_PAYM_KB」等の固有の名称が付されているが、前記共通部分において、これらの名称の前に「Add_」を付した名称を含むサブルーチンは、対応するComboBoxコントロールに、項目の追加を行うものとなっている。
 たとえば、「Private Sub Add_cboSEIK_KR_PRT() 〜 End Sub」というサブルーチンにおいては、「With cboSEIK_KR_PRT 〜 End With」の構文中において、2つの「AddItem」というメソッドにより、「cboSEIK_KR_PRT」という名称のComboBoxコントロールに対して、リストに”0−あり”及び”1−なし”の2つの項目を追加している。
 そして、これ以外にも「Add_」を付した名称を含むサブルーチンは多数存在するが、それらはいずれも、「With 〔ComboBoxコントロールの名称〕〜 End With」の構文を使用することにより、記述形式の統一がなされている。さらに、これらComboBoxコントロールに項目を追加する操作を行うサブルーチンを、連続的に配置している点で、表現上の特徴を有する。
 なお、サブルーチンの記述のうち、「Private Sub」や「End Sub」は定型的なものであるが、「Add_」等の記述は定型的なものではなく、開発者が任意に決定できる。
A 出庫・入庫・売上・入金の各データに関するチェックを行う関数(Function)を記述した部分(乙76の47頁〜49頁)
 次に、前記@の後に、「Private Function Data_Check() 〜 End Function」という関数が配置されている。この関数には、’出庫データをチェック’、’入庫データをチェック’、’売上データをチェック’、’入金データをチェック’という項目が存在するが、これらはいずれも、「SQL=」で始まる段落と、「rc=」で始まる段落とで構成されている。
 各項目の「SQL=」で始まる段落では、データベースへの問合せ言語で記述した”SELECT 得意先CD・・・”というデータベースへの指示内容を文字変数SQLに格納し、「rc=」で始まる段落において、前記指示内容を共通関数「DB_Sub_Select(SQL)」に渡して実行し、その値をrcに代入し、rcの値が真なら「Msg_Err」の項へ飛び、Sub_Table.EOFの値が真なら「Msg_Print」の項へ飛び、そしてSub_Tableファイルを閉じるという処理を行う。
 以上のように、この関数は、‘出庫データをチェック’、‘入庫データをチェック’、‘売上データをチェック’、‘入金データをチェック’という項目について、データベースへの問合せとその後の処理に関し、統一した記述形式が繰り返されている点で、表現上の特徴を有する。
B ComboBoxコントロールがクリックされた場合に実行されるサブルーチンとフォーカスされたときに実行されるサブルーチンの組の群を記述した部分(乙76の49頁〜60頁)
 次に、前記Aの後に、「Private Sub cboAUTO_CALC_KB_Click() 〜 End Sub」、それに続いて「Private Sub cboAUTO_CALC_KB_GotFocus() 〜 End Sub」というように、ComboBoxコントロールの名称に「_Click()」が付されたサブルーチンと、同じComboBoxコントロールの名称に「_GotFocus()」が付されたサブルーチンの組が、複数連続的に配置されている。
 「_Click()」が付されたサブルーチンは、当該ComboBoxコントロールがクリックされた場合に行う処理内容を記述したものであり、「Chang_Flg=True」によってデータ変更フラグをセットする。「_GotFocus()」が付されたサブルーチンは、当該ComboBoxコントロールがフォーカス、すなわち入力可能な状態にされた場合に行う処理内容を記述したものであり、「NowTabIndex=cboAUTO_CALC_KB.TabIndex」によるTabキーが押された場合の入力位置の設定、「Call DispGuide(cboAUTO_CALC_KB、Me)」によるガイド表示と、「Call IME_OFF(ActiveContorol)」による日本語入力の設定のオフの処理を行う。
 このように、複数のComboBoxコントロールについて、それぞれクリックされた場合に行う処理と、フォーカスされた場合に行う処理について、統一した記述形式が繰り返されている点で表現上の特徴を有する。
C CommandButtonコントロール「cmdEntry」が操作された場合の処理を行うサブルーチン群を記述した部分(乙76の60頁〜61頁)
 次に、前記Bの後に、「Private Sub cmdEntry_Click()〜 End Sub」、「Private Sub cmdEntry_GotFocus()〜 End Sub」、「Private Sub cmdEntry_LostFocus()〜End Sub」、「Private Sub cmdEntry_MouseDown(Button As Integer、 Shift As integer、X As Single、Y As Single)〜 End Sub」の各サブルーチンが続く。
 これらのサブルーチンは、CommandButtonコントロールである「cmdEntry」が操作された場合の処理について記述したものである。前記各サブルーチンは、乙第76号証の第3頁で記述されている「cmdEntry」というCommandButtonコントロールについて、クリックされたとき(_Click)に得意先レコードの更新処理を行うこと、さらに、フォーカスされたとき(_GotFocus)、フォーカスを失ったとき(_LostFocus)、マウスボタンが押されたとき(_MouseDown)に、それぞれ行われるTABキーのエミュレーション(擬制)についての設定が記述されたものであり、これらのサブルーチンの順序等の配置の点で、表現上の特徴を有する。
D TABキーのエミュレーション、入力された文字の桁数チェック、初期化処理、終了処理のそれぞれに関するサブルーチン群を記述した部分(乙76の61頁〜63頁)
 次に、前記Cの後で、サブルーチン「Private Sub Form_KeyDown(KeyCode As Integer、 Shift As Integer)〜 End Sub」により、Enterキーが押された場合のTABキーのエミュレーションの処理を行い、サブルーチン「Private Sub Form_KeyPress(KeyAscii As Integer)〜 End Sub」により、入力された文字の桁数チェックを行い、サブルーチン「Private Sub Form_Load()〜 End Sub」により初期化処理を行い、サブルーチン「Private Sub Form_QueryUnload(Cancel As Integer、 UnloadMode As Integer)〜 End Sub」及び「Private Sub Form_Unload(Cancel As Integer)〜 End Sub」により終了処理を行うようにしており、これらのサブルーチンの配置の点で、表現上の特徴を有する。
E Labelコントロールがクリックされたときに実行されるサブルーチン群を記述した部分(乙76の63頁〜71頁)
 次に、前記Dの後に、「Private Sub lbl_MARU_KB_Click()〜 End Sub」のように、名称に「lbl_」及び「_Click」が含まれているサブルーチンが多数続くが、これらはVBのLabelコントロールがクリックされたときに行う処理内容を記述したものである。Labelコントロールは、タイトルや項目の名称を表示する部分である。
 たとえば、「Private Sub lbl_MARU_KB_Click()〜 End Sub」では、乙第76号証の第30頁で記述されている「lbl_MARU_KB」というLabelコントロールがクリックされた場合に、当該Labelコントロールに対応するComboBoxコントロール「cboMARU_KB」を、「cboMARU_KB.SetFocus」によりフォーカスさせるという処理を行うようにしたものであり、これらのサブルーチンの配置の点で、表現上の特徴を有する。
F Menuコントロールがクリックされたときに実行されるサブルーチン群を記述した部分(乙76の71頁〜73頁)
 次に、前記Eの後に、「Private Sub Mnu_Edit_Clear_Click()〜 End Sub」のように、名称に「Mnu_」及び「_Click」が含まれているサブルーチンが多数続くが、これらはVBのMenuコントロールがクリックされたときに行う処理内容を記述したものである。Menuコントロールは、一般のアプリケーションソフトに見られる、「ファイル」メニューや「編集」メニューのような、個別に選択可能な選択肢を含むポップアップメニューを実現するものである。
 たとえば、「Private Sub Mnu_Edit_Clear_Click()〜 End Sub」では、乙第76号証の第35頁で記述されている「Mnu_Edit_Clear」というMenuコントロールがクリックされた場合に、「If MsgBox(Msg_Clear・・・」によりユーザーに対して画面をクリアするかしないかを問い合わせるメッセージボックスを表示し、「Call Int_Window」によりウィンドウを初期化し、「DoEvent」(制御をオペレーティングシステムに渡す命令)によりタイミング調整を行い、「Call Int_Value」により変数を初期化し、画面先頭項目にカーソルを移動するため、「Call txtTOMT_CD_GotFocus」によりサブルーチン「txtTOMT_CD_GotFocus」を呼び出し、「txtTOMT_CD.SetFocus」により、乙第76号証の第21頁で記述されている「txtTOMT_CD」というMaskEdBoxコントロールにフォーカスを移すという処理を行うようにしたものであり、これらのサブルーチンの配置の点で、表現上の特徴を有する。
 以上、乙第84号証に示した貸出君プログラムのWin版のソースコードにおけるRBCプログラムとの前記共通部分は、前述の@〜Fの部分から構成されているが、各部分は処理内容及び記述形式が相互に異なるもので、これらの組合せによって一の結果が得られるプログラムを構成している。そして、これらの部分の配置順序等の組合せ方は、開発者の独自の思想に基づくものであり、プログラム言語の規約やハードウェアによる制限、あるいはプログラムの使用目的や要求される機能から必然的ないし機械的に導かれたものではない。また、各部分の記述を個別的に見ても、それぞれ構文の形式の統一性や機能ごとのまとまり等を考慮した構成となっているなど、処理内容を実現するために使用した命令語や組込み関数の選択、配置に関して独自性がある。
 また、この分野のプログラムは、他に2つ程度存在するのみであり(甲137、138)、当然、これらのソースコードが公開されていたわけではなく、貸出君プログラムが他社のプログラムのソースコードを参考にして作成されたものでないことも明らかである。
 したがって、前記共通部分は、開発者の個性が表れたものであって、ありふれたものではなく、著作物性が認められることが明らかである。また、同様に、乙第86号証に示した共通部分についても、著作物性が認められる。
イ ビジネスサーバ版
(ア) 貸出君プログラムのビジネスサーバ版のソースコードは、プログラム言語COBOLで記述されたものであるが、COBOLのプログラムは、@「IDENTIFICATION DIVISION」(見出し部)、A「ENVIRONMENT DIVISION」(環境部)、B「DATADIVISION」(データ部)、C「PROCEDURE DIVISION」(手続き部)の4つのDIVISIONで構成されるもので、具体的に実行される命令語を記述するのはC「PROCEDURE DIVISION」である。
 「PROCEDURE DIVISION」においては、開発者が自由に段落や節を設置し、命令語を記述することができ、これらの点において、開発者の個性が表れることとなる。
 乙第87号証の受注入力に関するプログラムのソースコードにおいて、赤色に着色したRBCプログラムとの共通性のある部分には、「日数セット」、「日数セット1」、「終了日セット」という注釈が付された3つの段落(サブルーチン)が順に記述された箇所があるが、これと同じ機能を実現するためのプログラムは、このような構成に限定されるわけではなく、これとは異なる段落の分け方も可能である。
 また、各段落の記述内容についても、たとえば、期間の日数の計算を行うことを処理内容とする「日数セット」は、貸出君プログラム及びRBCプログラムでは、カレンダーマスタのデータベースをアクセスしてそのレコード数をカウントするという手順を表現したものとなっているが、同様の処理は、たとえば乙第90号証の1のような記述内容とすることによっても行うことができる。
 また、同じ日数の計算処理であっても、処理速度を重視して、データベースを利用しない方法を採用することも可能であり、その場合は、たとえば乙第90号証の2のような記述内容とすることができる。
 したがって、貸出君プログラムのビジネスサーバ版のソースコードにおけるRBCプログラムとの共通部分は、誰が作成しても同様な表現となり得るようなものではなければ、本来的に同様な表現とならざるを得ないようなものでもなく、極めて一般的な指令の組み合わせを採用しているものでもないため、著作物性が認められる。
(イ) 貸出君プログラムの受注入力に関するビジネスサーバ版ソースコード(乙81の1)におけるRBCプログラムとの共通部分(乙87)は、以下の@「日数セット」、A「日数セット1」、B「終了日セット」の3つの部分を有している。
@ 日数セット
 日数セットは、「XNISU.」、「XNISU−02.」、「XNISUEX.」の3つのセクションから構成されている。
 「XNISU.」セクションでは、期間日数を表す変数WDAYと、開始日を表す変数MO01−Kの初期化を行い、次の「XNISU−02.」セクションで読み込むファイル「MOFL」の読み込み位置を設定する。次に、「XNISU−02.」セクションでは、ファイル「MOFL」から読み込んだレコードの数を変数WDAYに加え、それが完了すると、「XNISU−EX.」セクションに移行する。そして、「XNISU−EX.」セクションにより処理を終了する。
 各セクションの具体的な記述内容は次のとおりである。
 「XNISU.」セクションでは、2つのMOVE文により、変数WDAYにZERO(0)を、変数MO01−Kに変数ST−YMDの値(開始日の年月日)をそれぞれ代入して初期化する。そして、START文により、カレンダーマスタである「MOFL」という名称のファイルの読み込み位置を、「KEY IS >= MO01−K」で変数MO01−Kの値以上という条件を満たすものに設定し、この条件を満たすものが存在しない場合は、「INVALID GO XNISU−EX.」により「XNISU−EX.」セクションに移行する。
 「XNISU−02.」セクションでは、READ文によりファイル「MOFL」を読み込み、既に読込み済みであった場合は「AT END」「GO XNISU−EX.」により「XNISU−EX.」セクションに移行する。もし、変数MO01−Kが終了日を表す変数ED−YMDより大きければ、IF文により「XNISU−EX.」セクションに移行する。前記2つの場合の「XNISU−EX.」セクションへの移行がなければ、COMPUTE文により、変数WDAYに1を加え、そして「GO XNISU−02.」により、「XNISU−02.」セクションを繰り返し実行する。
 そして、「XNISU−EX.」セクションでは、EXIT文により、日数セットの処理を終了する。
 このように、日数セットの部分は、2つのMOVEと1つのSTART文で構成される、初期設定に関する「XNISU.」セクション、READ文、IF文、COMPUTE文及びGO文で構成される、繰返しの計算処理に関する「XNISU−02.」セクション、そしてEXIT文により処理を終了する「XNISU−EX.」セクションを、順に配置している点で表現上の特徴が認められる。
A 日数セット1
 日数セット1は、前述の日数セットと大部分が共通しているが、次の点で異なっている。
(a) 日数セットの各セクションの名称「XNISU.」、「XNISU−02.」、「XNISU−EX.」が、それぞれ「XNISU1.」、「XNISU1−02.」、「XNISU1−EX.」となっている。
(b) 「XNISU1−02.」セクションにおいて、IF文により、変数MO05−Kが4でないときに限り、COMPUTE文が実行されるようになっている。
 すなわち、変数MO05−Kは日数計算の対象の期間の属する年度がうるう年か否かを判定するためのものであり、その値が4である場合に、@の日数セットの例外(うるう年)としての処理を行うものであり、この点で@とは異なる表現上の特徴が認められる。
B 「終了日セット」
 終了日セットは、「XNISU2.」、「XNISU2−02.」、「XNISU2−SET.」、「XNISU2−EX.」の4つのセクションから構成されている。
 「XNISU2.」セクションでは、変数ED−YMD、WDAY、MO01−Kの初期化を行い、次の「XNISU2−02.」セクションで読み込むファイル「MOFL」の読み込み位置を設定する。次に、「XNISU2−02.」セクションでは、ファイル「MOFL」から読み込んだレコードの数を変数WDAYに加え、それが完了すると、「XNISU2−SET.」セクションに移行する。「XNISU2−SET.」セクションでは、変数ED−YMDに変数MO01−Kの値を代入する。そして、「XNISU2−EX.」セクションにより処理を終了する。
 各セクションの具体的な記述内容は次のとおりである。
 「XNISU2.」セクションでは、2つのMOVE文により、変数ED−YMD、WDAYにZERO(0)を、変数MO01−Kに変数ST−YMDの値をそれぞれ代入して初期化する。そして、START文により、ファイル「MOFL」の読み込み位置を、「KEY IS >= MO01−K」で変数MO01−Kの値以上という条件を満たすものに設定し、この条件を満たすものが存在しない場合は、「INVALID GO XNISU2−EX.」により「XNISU2−EX.」セクションに移行する。
 「XNISU2−02.」セクションでは、READ文によりファイル「MOFL」を読み込み、既に読込み済みであった場合は「AT END」「GO XNISU2−SET.」により「XNISU2−SET.」セクションに移行する。前記「XNISU2−SET.」セクションへの移行がなければ、COMPUTE文により、変数WDAYに1を加える。もし、変数NISUの値が変数WDAYの値と一致する場合は、IF文により「XNISU2−SET.」セクションへ移行する。そして「GO XNISU2−02.」により、「XNISU−02.」セクションを繰り返し実行する。
 「XNISU2−SET.」セクションでは、MOVE文により、変数ED−YMDに変数MO01−Kの値を代入する。
 そして、「XNISU2−EX.」セクションでは、EXIT文により、終了日セットの処理を終了する。
 このように、終了日セットの部分は、2つのMOVE文と1つのSTART文で構成される、初期設定に関する「XNISU2.」セクション、READ文、COMPUTE文、IF文、及びGO文で構成される、繰り返しの計算処理に関する「XNISU2−02.」セクション、1つのMOVE文で構成される「XNISU2−SET.」セクション、そしてEXIT文により処理を終了する「XNISU2−EX.」セクションを、順に配置している点で表現上の特徴が認められる。
 以上のとおり、乙第87号証に示した貸出君のビジネスサーバ版のソースコードにおけるRBCプログラムとの前記共通部分は、前述の@〜Bの部分から構成されており、Win版の場合と同様に、プログラム言語の規約やハードウェアによる制限、あるいはプログラムの使用目的や要求される機能から、必然的ないし機械的に導かれたものではなく、開発者の個性が表れたものであって、ありふれたものではなく、著作物性が認められることが明らかである。また、乙第88号証に示した共通部分は、@日数セットとB終了日セットの2つの部分から構成されているが、これについても、同様に著作物性が認められる。
(3) RBCらの主張に対する反論
ア RBCらは、貸出君のWin版及びビジネスサーバ版の各ソースコードのRBCプログラムとの共通部分について、プログラム言語が規定する命令語や関数が大半を占めるため、著作物性がない旨主張する。
 しかし、プログラムにおいて、プログラム言語が規定する命令語等が大半を占めるのは当たり前のことである。プログラムは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であって、「指令」(命令語や関数)の選択や組合せ方において著作物性が認められるのである。
 また、RBCらは、前記共通部分が全体の中に占める割合の小さいことを理由に著作物性を有しない旨主張するが、全体の中の一部分であっても、思想・感情の表現において開発者の何らかの個性が発揮されたものであれば著作物性は認められる。著作物全体の中のごく一部の複製・翻案であっても、著作権侵害が成立し得ることは、キャンディ・キャンディ事件判決(最判平成13年10月25日)等からも明らかである。
 プログラム言語が規定する命令語が大半を占め、かつプログラム全体の中の一部分であっても、著作物性が認められることは、東京地判昭和62年1月30日(判例時報1219号48頁)においても示されている。当該判決では、ザイログ社製8ビットCPU「Z80」用のアセンブリ言語で記述された合計229ルーチンで構成されるプログラムのうちの、わずか18ステップからなる1つのルーチン(アドレス3CECから3D11までの38バイト)について、著作物性が認められている。前記ルーチンで使用された命令語(ニーモニック)は、CALL、JP、RST、INC、DEC、PUSH、LD、CP、POPの9種類で、当然これらはいずれもZ80の命令セットの一部として規定されたものである。アセンブリ言語は、機械語とほぼ1対1に対応した低級言語で、その命令語や文法はCPUのハードウェア構成に強く依存しており、VBやCOBOLのような高級言語に比べて、文法やハードウェアによる制限が遥かに多い。にもかかわらず、前記ルーチンに著作物性が認められたのである。
 貸出君のソースコードにおける貸出君プログラムとの共通部分は、アセンブリ言語よりも自由度の高いVBやCOBOLで記述され、前記ルーチンよりもステップ数が多く、しかも、ハードウェアに依存しない高度な処理を行うものであることから、著作物性が認められることは当然である。
 なお、RBCらは、画面構成や操作方法、付加機能の相違を主張しているが、これらはプログラムの著作物性とは直接関係がない。また、RBCらは、前記共通部分の記述は、プログラム言語の規約に従えば誰が行っても同じになるかのように主張するが、乙第90号証に示したように、命令語や関数の選択・組合せ方は多様であり、誰が行っても同じになるものではない。
イ(ア) Win版について
 乙第84号証のソースコードにおいて赤字で示した箇所は、前記のとおり、互いに異なる記述パターンで記述された@〜Fの部分から構成されている点で表現上の特徴がある。
 RBCらは、前記@〜Fの各部分について、必然的なものであるとか、VB言語において当然の記述であるなどと主張するが、所定の機能を実現するためのプログラムは、開発者の思想に基づいて、各構成部分の内容や構成部分の数を自由に設定することができるのであり、乙第84号証の赤字で示した箇所のプログラムを前記@〜Fの7つの部分で構成することは何ら必然的ではなく、VB言語によって自動的に前記@〜Fの部分の記述内容が生成されたりその配置が決まったりするわけでもない。
 また、RBCらは、RBCプログラム中に貸出君プログラムと一致する部分があるのは、RBCプログラムの開発者の中に貸出君プログラムの開発を経験した者が含まれているからであると主張する。しかし、貸出君プログラムの著作権侵害とならないように貸出君プログラムと同じ機能を実現するプログラムを記述することは可能であり、貸出君プログラムの開発を経験した者であれば、当然にそのような配慮を行うべきである。貸出君プログラムの開発を経験したことは、RBCプログラムの作成において貸出君プログラムの複製・翻案となる行為を無断で行うことが許容される理由とはならない。
(イ) ビジネスサーバ版
 乙第87号証のソースコードにおいて赤字で示した箇所は、前記のとおり、互いに異なる記述パターンで記述された「日数セット」等の@〜Bの部分から構成されている点で表現上の特徴がある。
 RBCらは、前記@〜Bの各部分について、一般的に用いられているロジックを利用したものであるとか、@の「日数セット」について、甲第160号証の例題プログラムサンプルと同様な記述方法であるなどと主張する。しかし、貸出君プログラムのロジックが一般的なものであるとか必然なものであるとするRBCらの主張には根拠がない。貸出君プログラムの「日数セット」について、これとは全く別のロジックにより同じ機能を実現できることは、乙第90号証の1、2で説明したとおりである。
 さらに、甲第160号証の例題プログラムサンプルは、金額を計算して順次改行しながら印字する処理を行うものであり、貸出君プログラムとは全く目的の異なるものであって、いくつかの行における命令語の用法等、プログラム言語の規約に関して一致する部分があるにすぎず、前記@〜Bの3つの部分からなる貸出君プログラムの構成とも全く異なっており、具体的な記述内容において相違している。
 また、所定の機能を実現するためのプログラムは、開発者の思想に基づいて、各構成部分の内容や構成部分の数を自由に設定することができるのであり、仮にプログラムの基本的なロジックが同じであったとしても、プログラムの表現の仕方は多様であり、乙第87号証の赤字で示した箇所のプログラムを前記@〜Bの3つの部分で構成することは何ら必然的なものではない。
 また、RBCらは、「日数セット1」のサブルーチンにおける変数MO05−Kに関するKCSの主張の誤りを指摘し、RBCプログラムのサブルーチンはKCSとは全く異なった目的の処理を行うもので、独自の設計仕様に基づき作成されたものであると主張する。しかし、RBCプログラムの日数計算方式のロジックが貸出君プログラムと一致していることは、RBCらも認めるところであり、しかも、記述形式においても一致しているのであるから、RBCプログラムが独自の設計仕様に基づき作成されたものでないことは明らかである。
(4) 結論
 以上により、Win版及びビジネスサーバ版のいずれにおいても、貸出君プログラムとRBCプログラムとで共通する部分につき、貸出君プログラムは著作権法上の保護対象となるために要求される創作性を備えており、著作物性がある。
【RBCらの主張】
(1) KCSの主張(1)に対する反論
ア 判例上の基準
 KCSは、プログラムの著作物性に関する判例上の基準につき、東京地裁平成15年1月31日判決及び東京高裁平成元年6月20日決定を掲げ、独自の見解を述べているが、上記東京地裁判決がプログラムの著作物性について判示するところは、プログラムの性質上、その創作性の認定を限定的に行うべき旨を判示している。また、上記東京高裁決定は、債権者による侵害事実の疎明、あるいは債務者の非侵害事実の疎明の十分、不十分を主要な論点として決定を下しているにすぎず、プログラムの著作物性について正面から基準を提示しているのではなく、むしろ、同決定の原審決定では、プログラム記述において、他に違った表現をし得る余地があったとしても、通常のプログラマーであれば同様のプログラムを組む可能性が高い場合には、創作性を否定するべきことが説示されているのである。
イ 貸出君プログラムの著作物性
(ア) Win版
a KCSは、乙第84号証の「得意先マスタ登録」のソースコードを例にとり、着色した部分のサブルーチンの個数が100個を超えているために、その並び順が100の階乗通りという無数の組合せが可能であり、また、個々の記述内容においても十分に開発者の個性が表れたものとなることから、貸出君プログラムのWin版のソースコードにおけるRBCプログラムの共通部分には著作性が認められると主張する。
 しかしながら、乙第84号証においてKCSが共通と主張する割合は30%にすぎず、しかも、それらのほとんどの部分は使用プログラム言語上の命令や規約に関するものであるから、著作権法上創作性のある著作物として保護され得ないものであり(著作権法10条3項)、実質的な比較対象となる「項目名称」についても同一分野のレンタル業務上の必然により、同一の内容となるものが使用されているのであり、結局貸出君プログラムには保護するべき著作物性がない。
 乙第84号証に表れた着色部分(KCSが共通と主張する部分)に係るサブルーチンのいくつかについて、ソースコードの意義を検証してみると、要旨次のとおりである。
(a) 「Private 動産補償As Integer」について(甲147)
 『動産補償という項目を整数型で定義します』という意味で通常用いる文法である。
 「動産補償」という用語は建設機械のレンタル業務を行う上で、一般的に用いられる用語である。
(b) 「Private Sub Add_cboSEIK_KR_PRT()」について(甲147)
 アプリケーションソフトを活用する上で必要となる請求繰越印字の項目に対して、「あり、なし」をユーザが選択できるようにしたサブルーチンである。
 非表示にしておいて表示したい値を再セットし、再表示するという手法はコンピュータを扱う者にとってはごく当然の流れであり、このサブルーチンの指令の組合せは、ほとんど全体が文法として一般的に誰が作成しても同様の構造となる。
 仮に、指令の順序を変更してVisible=True(再表示)をVisible=False(非表示)の前に入れると、画面中に内容が表示されず、これではプログラム・エラーとなってしまう。
(c) 「Private Sub Add_cboKIHN_KB()」について(甲148)
 アプリケーションソフトを活用する上で必要となる基本料区分の項目に対して、標準、先取り、後取り、または、なしの項目をユーザが選択できるようにしたサブルーチンである。
 非表示にしておいて表示したい値を再セットし、再表示するという手法はコンピュータを扱う者にとってはごく当然の流れであり、このサブルーチンの指令の組合せは、ほとんど全体が文法として一般的に誰が作成しても同様の構造となる。
 仮に、指令の順序を変更してVisible=True(再表示)をVisible=False(非表示)の前に入れると、画面中に内容が表示されず、これではプログラム・エラーとなってしまう。
(d) 「Private Sub cboTANK_KB_click()」について(甲149)
 単価管理区分の領域にマウスでクリックされた時に実行されるサブルーチンである。
 データが変更された後に、登録しないで終了しようとすると『値が変更されていますが、終了して良いですか』とのメッセージを出力できるように目印(フラグ)を付けているのであり、この程度のサブルーチンは、商品販売上の処理としてごく当たり前のことである。
(e) 「Private Sub cboTANK_KB_GotFocus()」(甲149)について
 単価管理区分の領域にカーソルが位置付けられた時に実行されるサブルーチンである。
 この一連の動きも商品としてユーザの使用に供するにあたり、必要最小限の処理である。
 上記したサブルーチンは得意先マスタ登録のほんの一部であるが、レンタル業務処理上必要な各処理を、業界における通常の項目名称を使用しながら、ユーザの使い勝手や効率に配慮しつつ、できるだけ少ないステップで記述されるものである。そして、プログラム上表現する記号が限定され、文法も厳格であることから、同一又は類似する処理を企図すれば、指令の組合せが類似することが免れないことが少なくない。このようなことから、著作権法10条3項は、プログラムにおける解法は保護しないことを明記しているのであり、このことはまた、上記した東京地裁判決、あるいは東京高裁決定(特にその原決定)の説示するところとも一致する。
b KCSは、「パーソナルコンピュータやオフコンで実行されるアプリケーションプログラムにおいては、画面に表示される項目や、ユーザの操作方法、それに対応するコンピュータの処理内容には無限の組合せがあり、項目の選択、各処理を行うサブルーチンの並び順や個々のサブルーチンの記述内容は、開発者が自由に設定することができ、ハードウェアやプログラム言語上の制限、処理目的等によって一律に定まるわけではない。」という。
 しかしながら、同一業界のレンタル業務を行うためのプログラムの作成にあたり、サブルーチンの並び順は入力操作をするユーザにとって理解しやすく、効率的な順とするべきであり、かつ、各サブルーチンにおいても、厳格な文法のもとでできるだけステップ数を少なくし、プログラム・エラーがでないようにすべきことを考慮すると、甲第147ないし第149号証について上記したように、目的の処理を行うサブルーチンとして、誰が作成しても同一、又は類似のものとなるのであり、少なくともその可能性が大きいのである。
c KCSはまた、「サブルーチンが100個もあれば、その並び順(単純計算では100の階乗通りという無限の組み合わせが可能)や個々の記述内容において十分に開発者の個性が表れたものとなる」ともいう。
 しかしながら、RBCプログラムのサブルーチンの並び順が貸出君プログラムのサブルーチンの並び順と一致しているわけではないし、上記したように、サブルーチンの並び順は、無限にあるのではなく、入力操作するユーザが理解しやすいように、あるいは効率的な処理を行うことを考慮すれば、自ずと適正な処理順が定まるのである。
(イ) ビジネスサーバ版
 KCSは、乙第87号証の「日数セット」に係るサブルーチンにつき、同様の処理は乙第90号証の1、あるいは同号証の2のような記述内容とすることが可能であるから、創作性のある著作物性が認められると主張する。
 しかしながら、レンタル業務の処理を行うプログラムにおいて、日数計算サブルーチンは必須であり、また、@日数セットとして、物件を貸し出す場合に貸出日から返却日までの日数を計算する場合、A日数セット1として、貸出期間中に貸し出した物件を使用しない日数をその期間より自動的に差し引く場合(日曜、休日などが決められている)、B終了日セットとして、貸出日から物件の使用期日が決められている場合に返却日を逆計算する場合が必要とされているのであり、いわゆるカレンダーマスタを利用することを選択した場合、これらのサブルーチンはCOBOL言語による典型的な命令記述となるのである。そうして、乙第87号証のサブルーチンは、日数計算に係る典型的な解法を記述したものにすぎないともいうことができ、著作権法10条3項の規定により、保護され得ない。
 乙第90号証の1のプログラム記述は、実質的には乙第87号証の解法と同じく、カレンダーマスタを参照しつつ1日ずつ加算してゆくロジックである。なお、「>=」を『GREATER THAN OR EQUAL』に変更しているが、わざわざこのような記述に変更するプログラマーは少ないと思われる。また、できるだけ少ないステップ数で効率のよい処理をするべくプログラムを作成するのが通常であることにかんがみると、13行程度の記述で済むものをわざわざ21行も費やして記述することは、考えにくい。このように、乙第90号証の1は、プログラミングの常識からしてあり得ない例にすぎず、したがって、同号証のような記述内容とすることが可能であるが故に乙第87号証のプログラム記述に著作物性があるというKCSの主張は失当である。
 乙第90号証の2のプログラム記述は、カレンダーマスタを使用しない例であり、カレンダーマスタを利用したプログラム記述とは、全く別物である。RBCは、プログラム記述の簡略化、処理の効率化の観点から、カレンダーマスタを使用した日数計算ロジックを選択しているのであり、それは、KCSも同様であろう。同号証のプログラムによっても、たしかに日数計算が可能ではあろうが、このような煩雑かつ行数の多いプログラムを採用する者は、ほとんどないと思われる。このように、同号証のプログラム記述もまた、プログラミングの常識からしてあり得ない例にすぎず、したがって、そのような記述内容とすることが可能であるが故に乙第87号証のプログラム記述に著作物性があるというKCSの主張もまた、失当である。
(2) KCSの主張(2)に対する反論
ア Win版
 KCSは、乙第84号証について、前記【KCSの主張】(2)ア(イ)@〜Fの部分に分けて、それらの記述が著作物性を有すると主張するが、すべて失当である。
(ア) @の部分について
a @の部分は、得意先マスタ登録において、「請求繰越印字のセット」「回収月区分と区分名のセット」「回収方法と区分名のセット」「基本料区分と区分名のセット」「休日区分と区分名のセット」「月極自動日割区分と区分名のセット」等、得意先ごとに、料金回収に関する各種の属性をセットできるようにしたプログラムである。これらは、レンタル業務を行うにあたり、当然に必要な作業であり、それらの属性のセットが可能とすること自体に著作物性があるわけではない。また、コンボボックスを用いて属性をセットできる手法もまた、VBベーシックにおいて普通に行われることである。
b KCSはまた、「Add_」を付した名称を含むサブルーチンはいずれも「With[ComboBoxコントロールの名称]〜End With」の構文を使用することにより記述形式の統一がなされていること及びComboBoxコントロールに項目を追加する操作を行うサブルーチンを連続的に配置している点で表現上の特徴を有する、とも主張する。
 しかし、ComboBoxコントロールの名称については、当然に必要な作業項目をいわゆるハンガリアン記法で記述すれば、近似した表記になり得ることは、RBCらがこれまでに主張したとおりである。また、サブルーチンの順序に関しても、任意に設定できるとはいえ、料金回収に係る項目において、より重要なものからそうでないものの順に並べるのが通常である。したがって、KCSの上記主張は失当である。
 RBCプログラムと貸出君プログラムの該当部分の構文中において、たしかに「Add_」との記述が存在するが、そのことをもってして、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠し、それを翻案したものであるとの証拠とならないことは明白である。
(イ) Aの部分について
 KCSは、Aの部分について、‘出庫データをチェック’、‘入庫データをチェック’、‘売上データをチェック’、‘入金データをチェック’という項目について、データベースへの問合せとその後の処理に関し、統一した記述形式が繰り返されている点で表現上の特徴を有すると主張するが、失当である。
 同部分の処理は、データベース上に該当するコード(得意先コード)があるかどうかの存在チェックを行うものであり、レンタル業務において通常行う処理の流れにすぎない。そうして、データベース上の該当コードの存在チェックを行うに当り、データ量の発生頻度が多いデータベース(出庫・入庫・売上・入金)を順に処理することが望ましいと考えるのが通例である。すなわちレンタル業界においては、出庫、入庫に関しては、貸出(出庫データ)の発生及び継続(請求締切日までに返却されない物)がデータベース上存在する情報としては他のファイルから比べて必然と多くなる。また、売上、入金については、この順とするべきは自然なことというべきである。そうして、それぞれのチェック項目の処理において表現が統一されるのも、VBベーシックにおいて当然である。
(ウ) BないしFの各部分について
 同部分について、KCSは、統一した記述形式が繰り返されている点や、サブルーチンの順序等の配置の点で表現上の特徴を有すると主張する。
 銘記しておかねばならないことは、VB言語を使って作成されたプログラムはアルファベット順に自動配置され記述されるということである。たとえばBのような場合は、アルファベット順に配置すると「Click」・「GotFocus」の順番になる。また、Cのような場合では「Click」・「GotFocus」・「LostFocus」・「MouseDown」の順番に配置される。同じようにDでは「keyDown」・「keyPress」・「QueryUnload」・「UnLoad」の順番になる。
 このように、VB言語を用いたプログラムでは、プログラム開発者が任意の順序で記述した内容が構文の形式の統一性や機能ごとのまとまった構成(アルファベット順)に自動配置される。
 したがって、VB言語を用いたプログラムにおいて、サブルーチンの配列にKCSのいう独自性など全くない。
(エ) RBCは、独自に設計した仕様に基づき、RBCプログラムを開発したのであって、貸出君プログラムに依拠したのではない。仮に、RBCプログラムにおいて、任意に設定できる表現の一部に貸出君プログラムの表現と一致する部分があったとしても、プログラム全体としてはごくわずかである。
 そうして、RBCプログラムの中に、貸出君プログラム中の項目名等に表現の一致する部分があったとしても、それは、RBCプログラムの開発者のなかに、KCSの従業員として、同種のプログラム開発を経験した者が含まれているからである。すなわち、KCSの従業員であった者が、同一業界のためのレンタル業務プログラムを全く別の設計仕様に基づいて開発をするにあたり、蓄積された経験の発露として項目名や一部の命令語としてかつて使用したことのある用語を使用することは、むしろ普通のことであろう。
 しかし、そのようなわずかなことで、RBCプログラム全体を著作権侵害としてしまうことは、あまりに不合理であるというべきである。
イ ビジネスサーバ版
 KCSは、乙第87号証について、「日数セット」、「日数セット1」、「終了日セット」の3つの部分はそれぞれセクションの配置の点で表現上の特徴があると主張するが、以下のとおり、すべて失当である。
(ア) 乙第87号証は受注入力のCOBOLプログラムのソースリストの一部(サブルーチン)であり、このプログラムはカレンダーマスタ(ファイル)を利用して、日数計算を行うロジックである。
(イ) RBCは、日数計算を行うロジックを作成するに当たり、基本設計段階において、ステップの簡略化やロジック作成の効率を図ることからカレンダーマスタ(ファイル)を利用することを決定した(社内規約)。
 またRBCのコンピュータソフトはレンタル業界向けに作成されており、この業界の特徴として日数計算の方式には下記@〜Bのロジックを組み上げることが必然である。
@「日数セット」として、物件を貸出する場合に貸出日から返却日までの日数を計算する場合
A「日数セット1」として、貸出期間中に貸出した物件を使用しない日数をその期間より自動的に差し引く場合(日曜、休日などが決められている)
B「終了日セット」として、貸出日から物件の使用期日が決定されている場合に返却日を逆計算する場合
(ウ) 熟練したCOBOLプログラム作成者によれば、上記のロジックは、以下のとおり、自ずと近似したものとなるのである。
 たとえば、甲第160号証(らくらく突破COBOL)においては、ファイルを用いて単価と数量から金額を求めるロジックが例題プログラムとして紹介されている。この場合は単価と数量を乗じるという例であるが、RBCの日数を計算するという加算のロジックとは処理において共通したものである。
 通常、COBOLにてプログラムを作成するという手順は、まずデータフロー(処理フロー)の作成を行うことから始め、順次ロジック作成へと進んでゆく。そこでファイルを利用してロジックを作成するための伝統的なデータの流れが甲第160号証に紹介されている処理フロー(123頁、金額計算)である。
 RBCの処理フロー(日数計算)を記載すると別紙16のとおりとなるが、この処理フローは、甲第160号証に紹介された処理フローと全く同一となる。
 まず、甲第160号証(123頁・3例題の流れ図)のロジックの組立て方を説明すると、最初にファイル読込み(データファイルの読込み)を行い、次に条件判断(行カウンタ>24)を行った上で、加算処理(行カウンタ+1→行カウンタ)した後、最初のデータファイルの読込みに戻るロジックになっていることが理解できる。
 次に上記処理フロー(日数計算)を説明すると、同じく最初にファイル読込み(データファイルの読込み)を行い、次に条件判断(日数比較)を行った上で、加算処理(WDAY+1→WDAY)した後、最初のデータファイルの読込みに戻るロジックになっていることが理解できる。
 よって、上記処理フロー(日数計算)と甲第160号証(123頁・3例題の流れ図)の構造化されていない伝統的な流れ図は全く同じ処理の流れであり、ごく一般的に用いられている手法(ロジック)である。
(エ) ここで乙第87号証(日数セット)のサブルーチンであるプログラムソースリストに記載された命令と甲第160号証(125頁・例題プログラムサンプル)を比較して説明すると下記のようになる。
 前記処理フローのとおり、まず初めに甲第160号証(125頁・例題プログラムサンプル)の処理命令では、
 “MOVE 25 TO LINE-CTR” …[@‐1]はLINE-CTR項目に数字の25を初期値セットする命令であり、次に
 “READ CD-FILE AT END・・・”…[A‐1]ではデータファイルの読込み命令を行っている。続いて条件判断である、
 “IF LINE-CTR > 24・・・” …[B−1]命令後、加算処理である
 “ADD 1 TO LINE-CTR” …[C−1]の命令の最後に最初のデータファイルの読込みに戻る処理命令が
 “GO TO MAIN” …[D−1]と記述されていることが理解できる。
(オ) 次に乙第87号証(日数セット)のプログラムソースリストに記述した命令を説明すると、同じく最初に
 “MOVE ZERO TO WDAY” …[@−2]ではWDAY項目に数字の0を初期値セットする命令であり、次に
 “READ―NEXT RECORD AT END・・・”…[A−2]ではデータファイルの読込み命令を行っている。続いて条件判断である
 “IF―>ED‐YMD・・・” …[B−2]命令後、加算処理である
 “COMPUTE WDAY+1” …[C−2]の命令(ADD命令と同様の機能である)の最後に最初のデータファイルの読込みに戻る処理命令が
 “GO TO XNISU‐02” …[D−2]と記述されていることが理解できる。
(カ) このことから、上記@−1と@−2、A−1とA−2、B−1とB−2、C−1とC−2、D−1とD−2の各々は、互いにCOBOL文法上同様の命令なのであり、一般的に用いられる記述方法なのである。
(キ) 結局、レンタル業界において通常必要な「日数セット」「日数セット1」「終了日セット」のロジックを組めば、COBOLについての初歩的な参考書にも示されているのと同様の手法により、誰が作成しても同様のものとなるのであり、このことはまた、貸出君プログラムに独自性がないことにもつながるのである。
(ク) ところで、KCSの主張によれば、「日数セット1」のサブルーチンは、変数MO05‐Kは日数計算の対象の期間の属する年度がうるう年か否かを判断するためのものであり、その値が4である場合に「日数セット」の例外(うるう年)として処理を行うものであるとのことであるが、乙第58号証の14(KCSのカレンダーマスタのファイル仕様書)によれば、上記変数MO05‐Kは、天気情報であり、変数4の区分は暴風である。
 RBCシステムのサブルーチンはKCSとは全く異なった目的の処理であり、カレンダーマスタを用い、変数4は連休以外の日数を計算するものである。このことからも、RBCシステムは、独自の設計仕様に基づき作成されたものであることがわかる。
3 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)の(2)(貸出君プログラムに対する依拠性の有無)について
【KCSの主張】
 RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠している。
(1) ソースプログラム
 RBCプログラムのソースプログラムと貸出君のソースプログラムを比較すれば、デッドコピーされている部分が存在することが一目瞭然である(乙84〜88)。
(2) 開発用書類
 たとえば、貸出君のファイル仕様書(乙49)とミスターアドバンスの取引先マスタ(甲20の16・17)は、レイアウトがほとんど同一で行数やセルの幅は完全に一致しており、貸出君のファイル仕様書を複製・翻案したものであることは明らかである(乙55参照)。その他、ミスターアドバンスの仕様書が貸出君のファイル仕様書(乙58)を複製・翻案したものであることは、乙第57号証で明らかにしたとおりである。
(3) オペレーションマニュアル
 貸出君のオペレーションマニュアル(甲87)とミスターアドバンスのオペレーションマニュアル(甲96)とは酷似しており、たとえば、アスタリスク(*)の数が全く同一であることの一事をもってしても、RBCがKCSソフトのオペレーションマニュアルを複製・翻案して甲第96号証を作成したことは明らかである。
【RBCらの主張】
(1) ソースプログラムについて
ア 乙第84ないし第88号証について
(ア) 甲第123号証と乙第76号証の類似点に関する指摘に対して(乙84)
a 乙第84号証は、乙第76号証の37頁から74頁のKCSのソースコードと甲第123号証のRBCソースコード(Win版「得意先マスタメンテナンス」のソースコード)とを比較したものであるが、KCSらは両者の8割以上が同一と指摘している。
 しかしながら、プログラムにおいて著作物性が肯定されるためには創作性が必要であるところ、KCSが同一と指摘する部分のほとんどは、著作物性が否定されるべき単なる命令や関数に係るものである。
(a) RBC側、KCS側の得意先メンテナンスのソースコードの総行数を計算すると甲139の表@、Aのとおりとなる。ここで総行数の数値の差(KCS総行数4557−RBC総行数2163=2394)は前述の画面項目のソースリストや注釈がRBCらが提出したソースコードには存在しないためであるから、翻案となるか否かを検討するにあたっては何ら問題ない。
(b) そこでKCSが8割以上と指摘している赤字行部分を計算し全体行数と比較すると、赤字行の行数は649行であり、全体行数(甲123、2163行)の30%にすぎない。
(c) さらにKCSの指摘する赤字行部分(翻案と指摘する部分)の内容を子細に検討すると、VB(ビジュアルベーシックプログラム)の文法や命令、関数がその大半を占めている。このようなVBの文法や命令、関数が著作物性を有し得ないのはいうまでもない。
 仮に、VBの命令や関数を使用することが翻案であるとするならば、VBで記述する全てのコンピュータソフトが翻案となる結果となり、不合理である。
(d) 甲第140号証(表H)は、乙第84号証の赤字部分649行を抜き出し、表としたものであり、この649行中には同一命令(たとえばPrivate Sub、 End Sub等)が何度も使用される関係から、それぞれ使用された数(命令、関数が629行存在する)を各命令ごとに計算しているところ、そこに記載されているのは、すべてVBでプログラムを組むために使用しなければならない命令、関数や文法であり、甲第141号証(表I)はVBというソフトを購入すると、その命令についての説明として付属しているもののリストである。
 甲第141号証(表I)には、乙第84号証に赤字行となっている部分に含まれるすべての命令、関数が含まれているのがわかる。
(e) VBを利用して作成したコンピュータソフトが命令、関数、文法等において同一となるのは当然である。
 そして、甲第140号証(表H)より、乙第84号証中の赤字行数649行のうち、単に命令、関数が同一であるものが629行もあるということがわかる。
(f) このように、乙第84号証中の赤字行の行数は649行であり、全体(甲123、2163行)の30%にすぎないのであるから、その時点で、乙第76号証の37〜74頁と甲第123号証とが8割以上が同一であるとのKCSの指摘は失当であり、同一であるとする649行についてみても、そのうちの629行が単に命令、関数について同一であるにすぎず、著作物としての地位を有さず、翻案かどうかの比較の対象とはなり得ないものなのである。
b ところで、乙第84号証中の赤字行のうち、命令、関数、文法以外の行は、わずかに以下の表現を含む20行(1行のみ重複)にすぎない。以下においては、それぞれの意味(項目名称)を右辺に参考的に記載している。
@ SEIK_KR_PRT 請求繰越印字
A TO(MT)_PAYM_KB 回収月
B TO(MT)_PAY_KB 回収方法
C MARU_KB 丸め区分
D KIHN_KB 基本料区分
E KYUU_KB 休日区分
F TUKI_HIWA_KB 月極自動計算
G TUKI_NISU_KB 月極設定日数
H TUKI_CHOU_KB 月極調整区分
I GENB_KB 現場管理区分
J GENB_UZEI_KB 現場別消費税区分
K AUTO_CALC_KB 自動計算
L TANK_KB 単価管理区分
M TANP_LESS_KB レス対応区分
N HIGI_TUKI_KB 日極自動計算
O HSYO_KB 保証区分(重複)
P HIWA_KB 日割自動計算
Q TOMT_UZEI_KB 消費税区分
R DHSY_NM 代表者名
 乙第89号証の「陳述書(4)」では、上記@、Aの表現を含む次の2行を摘示している。
 Private Sub add−cbo(二重下線) SEIK−KR−PRT()・・・・@(波線)
 Private Sub add−cbo(二重下線) TOMT−PAYM−KB()・・・A(波線)
 KCSらは、(二重下線)と(波線)ラインの部分が類似していると主張するが、(二重下線)ライン部分のadd−cbo中、addは加えるという一般に用いる慣用語であり、cboはコントロールボックスの略語である。この表記方法は一般的にハンガリアン記法と呼ばれ、その後に続く項目名の前にコントロールのタイプを表わす表現で接頭辞として組み込まれる一般的なものである。
 その後の(二重下線)ライン部分はプログラム上の項目名称を略字で表現しているものである。
c 乙第84号証は「得意先マスタ登録」というプログラムの一部であり、甲第123号証のソースリスト、得意先マスタメンテ登録、修正、削除、というプログラムと対比されるものである。上記プログラムソース行@、Aは画面の各項目名称を表現しているもので、たとえば@のSEIKKR−PRT()はRBCソフトによる画面上の「請求繰越印字」と表現されている項目名称を表わしている。
 このような項目名称は、その業界や業種の種類により決定されている固定項目名(業界の共通の呼称)を使用する関係でプログラム表現もよく似た略語を用い、開発企業内では統一した表現を用いるのが常識とされている。
 RBCもまた、当業界の業務で必要な固定項目名称をプログラム上で表現する場合の取り決めを行ない、社内の誰が見ても関連が理解できるようにしている。
d すなわち、上記プログラムソース行@のSEIK−KR−PRT()は画面上の「請求繰越印字」という項目を示すソース記述であり、RBC内ではローマ字のseikyu・ikoshiの略語でSEIK−KRと記述方法を統一し、さらに印字については英単語のprintを略してprtと記述することとしている。
 また、上記プログラムソース行AのTOMT―PAYM―KB()はRBCソフトによる画面上の「回収月」という項目を示すソース記述であり、同様にローマ字表記のTokuisaki、英単語のaserをもって「得意先マスタ」をTOMTと表現し、英単語のPAYと、英単語の月を表わすonthlyのMを使ってPAYMと表現し、「区分」を意味するKBを付加することで上記ソース記述をすることとし、社内規約上の記述方法と決定したものである。
e このような項目名称のプログラムソース上での記述は、項目名称自体が同一業界で用いられるビジネスソフト上では必然的に近似すること、そして、ソース上の記述は、同一企業内である程度意味が判別できるように慣用的に略記されることから、近似してしまうことが多分にあり得る。
f RBCは、上記のようにして項目名称のソース上の記述を統一しているのであって、たまたま、項目名称に関するソース上の記述がKCSのものと近似したものが一部含まれているからといって、RBCプログラムが貸出君プログラムソース上の記述を翻案したものなどということは、到底できない。
g また、仮に、RBCのソース上の項目名称の記述にKCSのソース上の項目名称の記述と類似するものが存在したとしても、それは、甲第123号証の総行数2163行のうちの、わずか20行なのであり、しかも、それは業界での限定的記述方法が同一であるにすぎず、これをもって、RBCプログラムが貸出君プログラム全体を翻案したとすることなど、到底できない。
(イ) 共通関数が類似するとの指摘に対して(乙85)
a 共通関数(規約)は、アプリケーションプログラム上で使用するDLL(dynamic link library)の共通処理を予め命名し、データベースにアクセスする時に共通のモジュールを一定関数として表現方法を定義しておく規約であり、事後に誰がその表現を見ても何を意味しているものかを容易に連想できる文言(表現)を用いることが多い。
 RBCは市販されているビジュアルベーシックコントロール関数編(かんたんプログラムVisual・Basic6 甲142)を参考に表現を定義した。
 たとえば、RBCプログラムのDLL内に存在するIME_SWという関数についていえば、IMEとはwindowsの日本語切換を表現する共通の機能名(甲142の51頁、322参照)であって、一般的に使用されるものであり、この機能名にSW(スウィッチ)との表現を付加したものである。
 貸出君プログラムにおいてもIME_ON、IME_OFFと似かよった表現の共通関数が用いられているが、VBという同一プログラムを用いたコンピューターシステムの共通関数としては、上記のように意味を容易に連想できる表現を採用するのが通常である以上、似かよった表現が採択されることは当然にあり得るのである。
b さらには、RBCプログラムに含まれるccurd、cdated、cdbled、clntd、clngd、cstrd、などについても、甲第142号証の312頁、313頁に紹介された関数表現を応用しているにすぎず、貸出君プログラムの表現などを利用したものではない。
 また上記ccur、clng・・・・等はもともとVB上で用意されている関数であり、windowsを使用してプログラムを作成する時に一般的に用いられる表現である。さらにDSN(データソースネームの略)Retry(リトライ)YMD(イヤー、マンス、デイ)はすべて変数であり、国際的標準機能に準じた表現を用いたものであり、甲第142号証の245頁ではyyyy/mm/ddと表現されている。これは年を表わすyが4桁、西暦という意味であり、mは2桁で月を表わし、dの日付も2桁という意味である。
 その他の文字表現については、英単語をそのまま利用して共通の関数として用いているだけのものであり、表現はきわめて一般的なものと理解できるものである。
c このように、事後において誰が見ても判断が可能である表現を採用するのが、DLL仕様の共通関数表現の常識である。
d したがって、関数表現の一部に似かよった表現が採用されているからといって、それが直ちに貸出君プログラムに基づいたものであるということはできないし、RBCプログラムが貸出君プログラムを翻案したとの主張を基礎づけるものとはならない。
(ウ) 甲第125号証と乙第78号証の類似点に関する指摘に対して(乙86)
a 甲第143号証(表K)は、甲第140号証(表H)と同様にして乙第86号証の分析結果をまとめたものである。甲第139号証の表Cからわかるように、全807行中、84行が赤字行となっているが、そのすべてがVB上の命令、関数であることから、乙第86号証が、RBCプログラムが貸出君プログラムを翻案したものであることを証拠づけるものではないことは明白である。
b そもそもVB言語(ビジュアルベーシックはプログラムが実行した操作(イベント)に対応して処理を行うプログラムの実行形式である)を利用してプログラミングを行えば文法上誰が記述しても決まった記述となる。
 たとえば、Option Explicit(VB6という機能の初期値)あるいは、“Private Sub・・・・・End Sub”と記述した命令が頻繁に記述されているが、これはサブルーチンを記述すれば文法上決まった命令となる。
 そのサブルーチン内で”On Error Resume Next“との記述についてはエラーを無視して次の処理に進むという命令であり、これ以外の記述方法はない。
 キーボードのキーを押した時に発生するイベントは、PrivateSub Form_Keydown(keycode As Integer , Shift As Integer)と記述する方法以外にはない。
 文字キーを押した時に発生するイベントはPrivate SubForm_KeyPress(keyAscii As Integer)と記述する以外にない。
c VBプログラム記述は、それぞれの動作に応じた記述方法が文法として約束されていることが多い。
 たとえば、
・Private Sub Form_Queryunload(Cancel As Integer、Unloadmode As Integer)(フォームが破棄される直前に発生するイベント)、
・Private Sub Form_Unload(Cancel As Integer)(フォームが破棄された時に発生するイベント)、
・Private Sub Form_load)(フォームを読み込んだ時に発生するイベント)、
 といったもののほか、Int(整数型へ型変換)、date(日付型へ型変換)、YMD_Format、等の記述命令は一般に利用されている書籍及びインターネット上に公開されている記述であり、そもそも創作性のある著作物に該当しないのである。
d このように、甲第125号証と乙第78号証の類似点に関するKCSの指摘もまた、全く意味のない主張である。
(エ) 甲第128号証と乙第81号証の類似点に関する指摘に対して(乙87)
a KCSは要するに、ビジネスサーバ版について、貸出君プログラムの受注入力ソースコードの総ステップ数14、243のうち、42のステップがRBCプログラムと類似すると指摘している(甲139の表D及び表E参照)。しかしながら、かかる42のステップは、以下に説明するように、単なるCOBOL上の命令にすぎず、創作性のある著作物に該当するものではない。
b 甲第144号証(表L)は、乙第87号証の分析結果をまとめたものであり、表L中には、甲第145号証(表M)の「標準COBOLプログラミング」や甲第146号証の1ないし10(表N)のインターネット上のCOBOL命令語説明サイトが参照されている。
c 受注入力の日数計算に使用しているサブルーチンのソースコードのほとんど一字一句が同じであるとKCSは指摘するが、このソースコードは、COBOLにおける定型的な命令記述であり、単位行について、命令記述が同じとなる場合があるのは当然である。
d KCSは、RBCプログラムと貸出君プログラムとの同一命令行を探し出し、それをもってして、RBCプログラムが貸出君プログラムの翻案であると指摘しているように見受けられるが、上記のとおり、行単位で同じ命令を記述すれば、同一となる行が存在するのは当然である。
e 甲第144号証(表L)に示すように、たとえば、COBOLプログラミングで最も頻度の高い「転記命令」は、“MOVE (一意名1)○○ TO(一意名2)”と記述する。
 「START命令」は、ファイルのキーインデックスに位置付ける命令であり“START ()ファイル名1 KEY IS >= (データ名1) INVALID KEY (無条件文1)”と記述する。
 「READ命令」は、ファイルを読み込む処理であり“READ(ファイル名1) NEXT RECORD AT END (無条件文2)”と記述する。
 「IF命令」は、ある条件判断をする命令であり“IF (条件1)THEN NEXT SENTENNCE”と記述する。
 「COMPUTE命令」は、数値項目を計算する場合に利用し“COMPUTE (一意名1)”と記述する。
 「GOTO命令」は、次の見出し項目に移行するための命令であり“GO TO (手続き名1)”と記述する。
 そして、サブルーチンと呼ばれる副プログラムを終了するための命令としては、“EXIT”と記述する。
 このようにしてみると、KCSが同一と指摘する42行の約9割がCOBOL言語の命令なのである。
 また、日数等の表現はXNISU又はXNISUUと記載するのが一般的である(甲146の1ないし10(表N)の資料B参照)。
 エンド日付の表現はED−YMDと記載するのが一般である(甲146の7ないし10(表N)の資料A参照)。
 さらに、ワークエリアの日付などはWDAYと記載している書物が一般的である(甲146の1ないし10(表N)参照)。
 これらの文字表現についてもCOBOLにおける一般的な表現をそのまま利用しているものであり、KCSの表現を利用したものとはいえないし、このような表現が一致するからといって、プログラムの翻案に該当するはずがない。
f このようにRBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、COBOL言語を利用してレンタル業界の特徴である日数計算及びレンタルの期間等の情報を構築するために、年間のカレンダーを利用して貸出期間、すなわちレンタルの開始日より終了日までの日数を算出したり、逆に日数よりレンタルの終了日の値を求めたりしている。
 そして、このような仕様上の取り決めに従ってプログラムの命令等が文法上決まった形でソースコードとして記載される。これは、上記の仕様どおりCOBOL言語を利用してソースコードを記載すれば誰が行っても同じように記載することになるのである。
(オ) 甲第129号証と乙第82号証の類似点に関する指摘に対して(乙88)
 KCSは、要するに、ビジネスサーバ版について、貸出君プログラムの出庫入力ソースコードの総ステップ数16、085のうち、30のステップがRBCプログラムと類似すると指摘している(甲139の表Fおよび表G参照)。しかしながら、かかる30のステップは、単なるCOBOL上の命令にすぎず、創作性のある著作物に該当するものではない。この点は、甲第128号証と乙第81号証との類似点に関するKCSの指摘に対して反論したのと同様である(甲144(表L)参照)。
(カ) まとめ
 RBCプログラムが貸出君プログラムと同一であるとKCSが指摘する部分の割合は、乙第84号証に関して30%、乙第86号証に関して10%、乙第87号証に関しては0.23%、乙第88号証に至っては0.18%にすぎない(甲139の表A、C、E、G参照)。しかも、同一と指摘する部分のほとんどは、使用プログラム言語上の命令や規約に関するものであり、著作権法上、創作性のある著作物として保護され得ないものである。
 そうすると、Win版について、「項目名称」に関するVBプログラム上の記述のみが実質的な比較の対象となるが、この「項目名称」は、同一分野のレンタル業務上の必然により、同一の意味となるものが使用されるのは当然である。
 そして、「項目名称」の略示記述としてのVB上の記述方法は、その意味が容易に連想できるように、たとえばハンガリアン記法により記述するため表現が似かよることは当然ありうるのであり、使用する「項目名称」のすべてについて企業内で統一的に決定するのが通常である。また、その作業は、他のプログラムを参照するまでもなく、レンタル業務について通常の知識を有するプログラマーにとって容易になし得る程度のものというべきである。
 さらには、「項目名称」は、そのすべてがRBCプログラムと貸出君プログラム間で完全に一致しているわけではなく、RBCプログラムは、独自の基本設計部分やデータの流れをもって作成されているのである。
 したがって、Win版について、「項目名称」に関するVB上の記述に貸出君プログラムと似かよったものが部分的に存在するからといって、その似かよった「項目名称」に関するプログラム上の記述が貸出君プログラムに依拠したものということは到底できない。
 また、「項目名称」に関する記述の割合は、プログラム全体からみてわずかな部分を占めるにすぎないから、そのことをもって、RBCプログラム全体が貸出君プログラムに依拠したものであるとのKCSの主張は、失当である。
 ビジネスサーバ版については、そもそも一致すると指摘する部分の全体に対する割合が1%にも満たないのであり、しかも、その一致する部分はCOBOL言語における命令として一般的なものや、文字表現として一般的なものにすぎないから、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠したものであるとするKCSの主張は、全て根拠がない。
イ RBCプログラムは、貸出君プログラムとは全く異なる設計仕様によって組み立てられている。このことは、Win版についてはKCSの受注入力プログラム(乙77)とこれに対応するRBCの受注入力プログラム(甲124)の各照会画面を表示する部分の機能を比較し、ビジネスサーバ版についてはKCSの受注入力プログラムソースリスト(乙81の2)とこれに対応するRBCの随時入力プログラムソースリスト(甲128)とを対比すれば、以下のとおり明らかである。
(ア) Win版(甲124と乙77)
a まず、RBC受注入力プログラム(甲124)とKCS受注入力プログラム(乙77)の照会画面を表示する部分の機能を比較する。これらを簡単に図で表すとそれぞれ別紙17「甲124・乙77対比表@」の図A、Bとなる。
 RBCシステムでは、上記対比表の図A及びその説明に示すように、照会機能を使用するとメインプログラムはサブプログラムコントロールマスタのデータベースを検索して照会プログラムを起動し画面に表示している。
 他方、KCSシステムでは、上記対比表の図B及びその説明に示すように、照会機能を使用するとメインプログラムはDLL(共通プログラム)を検索して照会プログラムを起動し画面に表示している。
 このように、RBCシステムはコントロールマスタのデータベースを検索するため、顧客の要望に応じてプログラムの変更を行わずに、任意で起動する照会プログラムを変更することができるようになっているのに対し、KCSシステムはプログラム内のDLL(共通プログラム)に起動するプログラムが組み込まれているため、プログラムの変更を行わなければ起動するプログラムを変更することができない。
 RBCシステムとKCSシステムは、照会という同一機能ではあるが機能ロジックが全く異なった仕様により作成されていることが明白である。
b 次にRBC受注入力プログラム(甲124)とKCS受注入力プログラム(乙77)の画面構成及びその機能を比較する。これらを簡単に図で表すと別紙18「甲124・乙77対比表A」の図C、Dとなる。
 RBCシステムでは、図C及びその説明に示すように、画面構成はヘッダー部、明細部、フッダー部の3つに大きく分けることができ、上から順に入力することになる。当然どの項目においても該当フィールドにカーソルを位置づければ入力可能になる。
 他方、KCSシステムでは、図D及びその説明に示すように、画面構成はヘッダー部、入力域、明細部に分かれており、入力は、ヘッダー部と入力域でしか行うことができない。明細部は表示のみの領域としての機能であり、明細部の表示明細を修正する場合は毎回入力域にその明細を移行しなければならない。
 このように、画面構成とその機能においても、RBCプログラムは、貸出君プログラムとは全く異なった仕様により作成されている。
(イ) ビジネスサーバ版(甲128と乙81の2)
 RBC随時入力プログラムソースリスト(甲128)とKCS受注入力プログラムソースリスト(乙81の2)の構造を簡単に図で表すと、それぞれ別紙19「甲128・乙81の2対比表」の図E、Fとなる。
 RBCシステムは、図E及びその説明に示すように、プログラムが開始すると、条件判断によりサブルーチン@の処理を行い、その処理が終了すると再度、条件判断を行い、サブルーチンA、B・・・に流れるロジックになっており、プログラムの構造化が実現されている。
 他方、KCSシステムは、図F及びその説明に示すように、プログラムが開始すると、サブルーチン@の処理を行い、その処理が終了するとA、B・・・と単に上から下に流れるロジックになっている。
 このメインロジックの違いから理解できるように、RBCプログラムは貸出君プログラムとはプログラムの構造自体が全く異なったものになっている。
ウ また、KCS自身も、RBCプログラムが貸出君新版プログラムの持ち出しであるとの主張の際、次のように主張していることから明らかなように、RBCプログラムと貸出君プログラムが全く異なるものであることは自認している。すなわち、「原告(RBC)販売ソフトは被告(KCS)内で開発されていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり、被告(KCS)が従前から販売していた「貸出君」のプログラムに変更や修正を加えたものではないから、被告(KCS)の商品である貸出君と原告(RBC)販売ソフトのプログラムを比べても意味がない。原告(RBC)は、このことを知悉しつつ、敢えてこの両者を比較し、そのプログラムが異なるという当然の結果を得ることによって、あたかも自己に権利侵害の事実がないと周囲に誤解させようと企むものであり、その行為は極めて巧妙かつ悪質である」(被告第1準備書面4頁)と。
(2) 開発用書類について
ア 乙55について
 KCSは、両プログラムの共通点として、「『DB』欄等のある行に続く41行に記入された項目の内容の多くが取引先マスタRHMTOMTと一致している」と指摘する(乙55)が、これも似ざるを得ない部分である。この点を具体的に整理すると、次のとおりとなる。
No. 桁数 RBCレコードデザイン項目名 No. 桁数 KCSレコードデザイン項目名
担当者コード 担当者コード
取引先コード 得意先コード
現場コード     該当なし
20 取引先名 20 得意先名
10 10 略称名 10 得意先略名
16 締日コード 12 締日コード
19 集金方法 15 回収方法
22 地区コード 18 地区コード
23 ランク 21 得意先ランク
 KCSは、上記のとおり、RBCプログラムと貸出君プログラムのレコードデザイン項目が類似していることをもって、RBCプログラムが貸出君プログラムの翻案であると主張している。
 しかしながら、コンピュータソフトを作る場合には、同一業種や同一業務においては、それぞれ決められた範囲の処理や同一用語・類似用語が用いられているのが当然であり、さらに、ソフトを作る言語そのものが限られた指令の組合せが必然的に発生するものであり、当然、類似することを免れない部分が少なくない。
 そして、上記表に挙がっている項目は、全て必要不可欠な項目である。
 このことは、RBC及びKCSとは全く関係のない応研株式会社が販売している販売管理ソフト「販売大臣2003」の得意先マスタのレコードデザイン(甲227)と、同じくピーシーエー株式会社の販売管理ソフト「PCA商管7 V.2」の得意先マスタのレコードデザイン(甲228)においても、次のとおり、同様の項目があることから明白である。
No. 桁数 販売大臣2003項目名 No. 桁数 PCA商管V.2項目名
15 コード   13 得意先コード
50 名称1   40 得意先名1
31 名称2   20 得意先名2
15 請求先コード   13 請求先コード
請求管理   実績管理
担当者コード   主担当者コード
16 請求締日   請求締日
17 回収予定日   回収予定日
イ 乙57ないし59の19について
 KCSは、開発用書類についても、行数やセルの幅まで一致していることから、そのデータに上書きされていることが明らかであることを指摘する(乙57〜59の19)。
 確かに、ファイル仕様書のデザインは、KCSで使用していたものと同じであるが、これはKCS固有のデザインなどではなく、KCSに著作権もなければ秘密管理性もないものである。
 すなわち、このファイル仕様書は、内田洋行が考案し、グループ会社の教育用にグループ会社全てで使用されているものであり、当初は手書きで、途中からExcelで作成されたのである。
 したがって、ファイル仕様書のデザインが同一でも、KCSのデータを上書きしたという証明にはならない。
(3) オペレーションマニュアルについて
 KCSは、RBCとKCSのオペレーションマニュアル(甲87、甲96)がアスタリスクの数や具体的な一字一句の表現まで一致しているから、データ上書きは明らかであると主張する。
 しかし、オペレーションマニュアル作成に使用するWordというソフトは、「ページ設定」という機能によって、文字数と行数、余白の大きさを指定でき、「フォント」という機能によって文字のフォント、サイズを指定することができる。そして、アスタリスクは、左端の文字入力位置から入力した単語の右側から用紙右端の余白までの間に印字されているのであるから、左側の余白、右側の余白、1行の文字数、文字のサイズ、単語の文字数が同じであれば、アスタリスクの数も同じになる。
 そして、これらの文字数やサイズなどは個々人の好みによって決めるのであるが、設定は簡単であるから、自分で決めた書式を常に使用する人もいるし、その一手間が面倒だとしてあまりこだわりがなくWordの初期設定のままの人もいる。Wordの初期設定では文字数の指定はなく、行数は40行が指定されており、余白は上が35mm、左と下と右が30mm、文字はMS明朝、大きさは10.5ポイントとなっている。そして、自分で決めた書式を使いたい場合においては、過去に自分が作成した文書を利用する場合と、新たにWordの文書を新規作成し、書式を設定する場合とがある。
 そして、RBCとKCSのオペレーションマニュアルは同一人物がデザインしたものであるから、同じ書式が使用されていても何ら不思議ではない。しかも、同一業界のシステムであることから用いられる単語も同じである。したがって、余白、文字数、文字の大きさ、単語の文字数が同じとなり、アスタリスクの数が一致するという現象が生じるのも全く不思議ではない。
 以上より、同一の書式を使えば一致することはむしろ当然であり、同じ作成者が同一の書式を使うことは自然なことであるため、アスタリスクの数の一致は、RBCがオペレーションマニュアルのデータを上書きしたことの証明にはならない。
(4) 以上のとおり、RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠したものではない。
4 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するか)の(1)(表示画面の著作物性の有無)について
【KCSの主張】
 KCSのオペレーションマニュアル(乙9)に掲載された「貸出君for win 廉価版」の表示画面は、従来のこの種のプログラムにおいては別々の画面に分かれていた出庫の伝票入力を行う出庫画面と、入庫の伝票入力を行う入庫画面とを統一化した「入出庫入力画面」を備えたものである。
 この統一化した画面は、1つのディスプレイ上に出庫画面と入庫画面が単純に並列表示されるようにしたというものではなく、入庫画面、出庫画面、そして入庫と出庫の伝票入力をともに行える入出庫画面の3種類の画面が、左上部にある「出庫」・「入庫」・「入出庫」の選択ボタンの操作によって切り替わるようにした、全く新しい創作的表現となっている。
 また、前記入出庫画面は、それ自体従来にない全く新しいものであり、ワークシート状の入力欄への明細の入力の際に、「出庫数」「入庫数」の欄がともに入力可能な状態で表示されるという、従来のこの種のプログラムの画面からは全く予測できない表現上の特徴を有するものとなっている。
 したがって、「入出庫入力画面」に著作物性が認められることは明らかである。
 さらに、「入出庫入力画面」は、「得意先マスタ修正登録画面」、「現場マスタ修正登録画面」、「商品マスタ修正登録画面」、「機械マスタ修正登録画面」、「入出庫問合せ画面」、「械稼動問合せ画面」、「止日入力画面」等の各画面と牽連関係にあり、これらの集合体としての表示画面も一つの著作物として保護されるものである。
【RBCらの主張】
 争う。
 KCSにおいて「貸出君for win 廉価版」なるソフトが開発されたことがないことは、前記のとおりである。
5 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するか)の(2)(表示画面に対する依拠性の有無)について
【KCSの主張】
 RBCプログラムの商品説明用リーフレットには、前記各画面と同一の表示画面が掲載されており(乙11の1)、入出庫入力画面からの操作により他の画面が呼び出されるなど牽連関係があることも記載されている。
 したがって、RBCプログラムは、「貸出君for win 廉価版」の表示画面に依拠して作成されたものであることが明らかである。
【RBCらの主張】
 争う。
 KCSにおいて「貸出君for win 廉価版」なるソフトが開発されたことがないことは、前記のとおりである。
6 争点4(RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発用書類及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権を侵害するか)について
【KCSの主張】
(1) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、「貸出君ASP新版」のプログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(翻案権)を侵害するものである。
(2) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)を翻案して作成した二次的著作物ないしそれを利用した物であり、KCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著作者の権利)を侵害するものである。
(3) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類である甲第20号証(得意先マスタメンテナンス)について、同号証の16、17(取引先マスタ)が、乙第23号証の7枚目と8枚目(取引先マスタ)と全く同一内容であること、甲第20号証の17と乙第23号証の8枚目に共通した誤記(左上部の表示「1/2」は、本当は「2/2」)があること等からすると、甲第20号証が乙第23号証に依拠して作成されたものであることが明らかであり、RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類は「貸出君ASP新版」のプログラムの開発用書類(乙23)を複製ないし翻案したものというべきである。
(4) RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は、貸出君プログラムの開発用書類(乙49、58)を複製ないし翻案したものである。
【RBCらの主張】
 争う。
7 争点5(RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアル及び貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵害するか)について
【KCSの主張】
(1) RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は、「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)を複製ないし翻案したものである。
(2) RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は、貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)を複製ないし翻案したものである。
【RBCらの主張】
 争う。
8 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか)の(1)(本件開発方針の営業秘密該当性の有無)について
【KCSの主張】
(1) 乙第6号証(開発方針書)は、入庫画面と出庫画面とを統一化すること等が記載された事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものである。
 また、上記開発方針書は、平成13年8月に行った決算会議のために作成された書類であるが、新製品の開発方針など極めて重要な会社方針が記載されているため、社外秘扱いとされ、「秘」の印が押されている。また、KCSは、内田洋行との間で秘密保持契約を締結している(乙29)。そして、決算会議の参加者と同数しか作成されず、参加者に対しては、社外秘の機密書類であることを説明したうえ上で、コピー禁止と説明してあり、「秘」の押印もなされているため、参加者は上記開発方針書に記載された情報が営業秘密であることは当然認識していた。
 したがって、上記開発方針書に記載されている本件開発方針もまた、有用でありかつ非公知の情報であって、秘密管理性を有するものである。
(2) RBCらは、「貸出君for win 廉価版」の開発方針である「入庫画面と出庫画面の統一化」は一般通常に流布されている概念であると主張するが、そのような事実はない。
 仮に、RBCらが主張するように、レンタル業界からの開発の要望があったとしても、「入庫画面と出庫画面の統一化」を初めとする「貸出君 for win 廉価版」のKCSにおける具体的な開発計画が公然と知られていないことに変わりはない。
【RBCらの主張】
(1) 「入庫画面と出庫画面の統一化」は、レンタル業界から時折開発の要望もあり、何もKCS独自の情報などではなく、一般通常に流布されている概念(情報)である。
(2) 上記開発方針書のようなKCSの開発方針を記載した書面は、年2回の決算会議に合わせて従業員全員に配布するものであって、これに「秘」の印を押してあるのは、次のような事情による。
 上記決算会議は、毎回、内田洋行(KCSとの資本関係もあり、最大の仕入先でもある)の会議室を借りて行われていた(同社の複写機を使って、当該文書を50部位コピーもしていた)。その理由は、費用が不要であり、会議終了後に行う懇親会も、同社内の大きな社員食堂を利用できるからである。
 これらの際に、各従業員が、会議室内に書類を置き忘れたり、乱雑に取り扱ったりするのを防ぐため、会議を実質的に切りもりしていたX2の指示により、「秘」の印を押すことにしたものである。
 この文書内容については、内田洋行には説明していたぐらいで(内田洋行の従業員も会議に参加することがあり、懇親会にも参加していた。)、営業秘密どころか、積極的に、顧客や見込客に対し、このようなものを開発しているとか、開発したいと考えているとかを報告・説明し、営業用に利用していた。このように、各従業員は、計画発表を受ければ、即日でも顧客や見込客に話していくものであって、秘密として管理されていたものでは全くない。
9 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか)の(2)(本件プログラム作成情報の営業秘密該当性の有無)について
【KCSの主張】
 乙第23号証は、建機・仮設資材レンタル業向けパッケージソフトウェア「貸出君ASP新版」「貸出君 for win 廉価版」の設計書類であり、営業秘密であることは明らかである。
 ソフトウェアの開発・販売を業とするKCSにとって、本件プログラム作成情報が極めて重要な営業秘密であることは、従業員全員が当然に認識し、社外に流出しないように管理されていた。
【RBCらの主張】
 争う。
10 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか)の(3)(RBCらの不正競争行為の有無)について
【KCSの主張】
(1) X1ら8名は、KCSと競争関係にある事業を行って不当な利益を図る目的で、本件開発方針及び本件プログラム作成情報を持ち出してこれを使用、開示したものであるから、同人らの行為は、不正競争防止法2条1項7号に該当する。
(2) RBCは、上記の事実を全て知りながら、本件開発方針及び本件プログラム作成情報に基づき「ミスターアドバンス」等のソフトを完成させ、これをKCSの取引先に販売したのであり、KCSと競争関係にある事業を行って不当な利益を図る目的で営業秘密を使用したものであるから、RBCの行為は、不正競争防止法2条1項8号に該当する。
【RBCらの主張】
 争う。
11 争点7(貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不法行為の成否)について
【KCSの主張】
(1) 判例上の基準
 近時、著作権法等による保護対象となる利益であるか否かにかかわらず、自由競争を逸脱するような情報の不正利用行為につき、裁判例において不法行為責任(民法709条)が認められている。
 これらの裁判例においては、競業他社が多大な労力または資本を投下して完成させた物や情報に依拠した製品を創作し、当該競業他社と競合する地域で当該コピー製品を販売するような行為は、当該物や情報が著作権その他の知的財産権の保護対象に該当するか否かを問わず、当該競業他社の営業活動上の利益を不正に侵害するものとして、不法行為(民法709条)に該当すると判示されている。
(2) RBCらの不法行為の内容
ア 不法行為の概要
 「貸出君」は、KCSが多大な労力及び資本を投入して昭和63年ころから開発・改良を重ねてきたKCSの営業活動の根幹をなすソフトウエアであり、同ソフトウエアに関連して完成された物としては、Win版及びビジネスサーバ版の各プログラム(ソース・オブジェクトの両者を含む)、表示画面、オペレーションマニュアル、各種開発用書類(貸出君関連成果物)がある。
 しかるに、今般、RBCらは、RBCを設立するに際し、KCSが10年以上をかけて開発及び改良を重ねてきた貸出君関連成果物をデータその他の媒体で持ち出し、適宜、コピー及び上書きすることによって、「ミスターアドヴァンス」「ミスターレンタル」「Team S」等として完成させ、RBCのソフトとして、元来自らがKCSの従業員の立場として営業活動を行っていたKCSの顧客に対し、これらのソフトを販売し続けるに至っている。
イ データ等持ち出しについて
 RBCらが貸出君関連成果物をデータその他の媒体で持ち出していたことは、たとえば、ソースプログラムについては、RBCプログラムと貸出君プログラムを比較すればデッドコピーされている部分が存在することが一目瞭然であり(乙84ないし乙89、なお、乙65も参照)、オペレーションマニュアルについては、その内容に加え、アスタリスクの数や具体的な一字一句の表現まで一致している部分があることからして、そのデータに上書きが施されていることが明らかであり(甲87、甲96、X3調書41頁以下〔同証人でさえデータ上書きの事実を否定していない〕、X4調書18頁以下)、開発用書類についても、その内容に加え(乙57ないし59の19)、行数やセルの幅まで完全に一致していることからしても、そのデータに上書きが施されていることが明らかである(X3調書40頁以下〔同証人でさえデータ上書きの事実を否定していない〕)。さらに、RBCの元従業員らは、KCSが開発用に使用していた富士通製K6900というオフコンをRBCらが自らの事務所に搬入して使用していたことを認めている(乙62、乙63、乙65ないし乙67、X3調書42頁以下〔同証人でさえオフコン持ち出しの事実を否定していない〕)。
 そして何より、RBCらは、裁判所からの指示に反し、明らかに虚偽の弁解を繰り返しつつ、Win版及びビジネスサーバ版の双方につき、大半のプログラム及びその作成経過を提出しておらず、とりわけ、ビジネスサーバ版のプログラムについては、平成16年6月14日の段階で作成されているもののみで214本存在すると陳述した上に(甲13)、平成17年12月15日の時点でもその事実は正しい旨の証言をしているにもかかわらず(X3調書35頁)、改めて作成履歴等の提出を求められるやいなや一転して30数本しか存在しないなどと強弁し始めており(甲115)、もはや主張整理の結果として、RBCソフトのうち自らが作成したプログラムは僅かであり、残りの大半はKCSのプログラムを流用したことが明らかになっている。
ウ RBCらの悪質な営業方法について
 RBCらは、ミスターアドバンス開発の基本理念として「貸出君の持つ肥大化された非効率性を解決する」ことを挙げ、このことをKCSの顧客らに広報し(甲5の2頁)、しかも、KCSに在籍中にその顧客から「貸出君」を受注した事実を故意に隠匿していた(乙18ないし20)。さらに、RBCらは、KCSの顧客をしてRBCと混同させるような行為にも及んだ上(乙1、2、46、56)、挙句の果てには、KCSにおいて受注し作業した代金をRBCにて取得するなど(乙38ないし45)、悪質極まりない行動を繰り返していた。
 RBCは、かかる極めて悪質な営業活動により、その設立直後から(X3の退職から起算しても僅か2か月で)、ミスターアドバンスの注文を受けることに成功しているのである(甲70)。
エ X2ら7名の不法行為の内容
(ア) X2、X3、X4、X5について
 KCSの社内改善委員会(甲108)を設立し、Y2やY1に対して辞任を迫り、KCSに対する各種背任行為に及んだ中心人物であり、貸出君に関する各種関連成果物を持ち出してミスターアドバンスとして完成させ、RBCのソフトとして販売していき、KCSの取引先を不正に奪うことを中心になって共謀していた首謀者である(共謀の具体的様子などは乙34ないし乙36等からも明らかである。)。
 X3及びX4においては、KCS在籍中からミスターアドバンスの具体的な開発行為に及んだ人物でもある。
(イ) X6、X7、X8について
 ミスターアドバンスの開発行為に関わった者らである。
 X6は、詳細設計書(乙23等)の作成及びスルーチェックを行うとともに(甲15)、訴訟においては、RBCの違法行為の隠匿に協力するような証言に終始していた。また、X6は、K6900の運搬に関わったことを認めている(X6調書19頁)。
 X7及びX8は、ASP版のプログラム開発に従事した者であり(甲15、甲20の3等)、RBCのために使用されることを知悉しつつ貸出君ASP新版のプログラム開発に及んでいた。また、旧貸出君のプログラムを複製・翻案して、ミスターアドバンスのソースコードを作成していった。
(3) 小括
 以上のとおり、RBCは、KCSが10年以上かけて開発・改良してきたソフトに適宜修正を加えることで、極めて短期間に自らのソフトを完成させ、同ソフトを利用してKCSの顧客らに対して営業活動を行い、不当な利益を獲得し続けている。
 そして、RBCらの行為は明らかに故意に基づいている。
 RBCらの行為が上記各裁判例の基準に当てはまることは明白であり、RBCらはKCSに対し、各種著作権侵害の法的責任とは無関係に不法行為責任を負うものである。
【RBCらの主張】
 否認ないし争う。
 前記第7の1【RBCらの主張】のとおり、@RBCは不法な目的で設立されたものではなく、むしろ、KCSの不当な行為により緊急避難的に設立されたものである。また、ARBCシステムはKCSシステムとは全く異なる新たなシステムであり、RBCらは、RBCシステムを開発するに当たり、ビジネスサーバ版であれば約1年、Win版でも7か月から3年を費やしているものであって、RBCシステムの開発期間に相応の期間をかけているものである。要するに、KCSシステムを剽窃・流用してRBCシステムの開発期間を短縮したという事実はない。
12 争点8(KCSの被った損害の額)について
【KCSの主張】
 KCSは、RBCらの違法行為によって被った損害につき、著作権侵害の不法行為、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、次のとおり損害金の支払を求める。
(1) 著作権法114条1項又は不正競争防止法5条1項による損害額(以下「1項損害」という。)の算定
ア ソフト販売に関する逸失利益
(ア) RBCの譲渡等数量
 RBC設立後にRBCが販売したソフトは、RBCらの違法行為がなければ全てKCSが販売できたはずである。そして、RBCは、現在に至るまでの間、少なくとも73社にソフトを販売した(乙92、乙93)。
(イ) 単位数量当たりの利益の額
a KCSは、RBCが設立された平成15年3月より前3年分の決算期において、「貸出君」1つ販売するにあたり平均約550万円の利益を得ていた(乙91の1ないし3)。
b 変動費について
「貸出君」のソフトは、一度プログラムが完成してしまえば、1つ追加的に販売するために原材料の仕入れ等の追加的費用が必要となるわけではない(ハードとともに販売する場合はハードの代金が仕入原価に該当するが、この分については原価金額に含めて利益額から差し引いて計算している〔乙91の1ないし7、乙97の1ないし7〕。なお、顧客ごとにKCSのSEプログラマーがカスタマイズ作業を行うことがあるが、SEプログラマーの人件費はKCS内での開発作業等に関するものであり、「貸出君」1つ追加的に販売するために必要となる費用には該当しない。)。
c RBCらの主張について
(a) RBCらは、「貸出君」1つ当たり販売するにつきKCSが得ていた利益額につき、過去12年分の平均値を基準にするべきであると主張するが、主力商品化してから売上げが軌道に乗るまでの期間や10年以上の期間における業界内の相場の変動等を考慮すれば、主力商品化してからの全期間の平均値を基準にしてしまうと、問題となっている平成15年3月以降にKCSが被った損害額(逸失利益額)を著しく過小に評価してしまうことになる。KCSは、平成15年3月より前3年間、安定的に平均550万円以上の利益を得ていたのであるから(乙91の1ないし3)、RBCらの違法行為なしに営業活動を継続していれば、同月以降も同様のペースで利益を上げていたことは容易に予測される。したがって、KCSの損害額が1件当たり少なくとも550万円の利益を得たことを基準として算定されるべきは当然である。
(b) RBCらは、KCSの粗利益率は4割9分にすぎないと主張するが、本件直近の第23期の粗利益率は66%であり(甲169)、平成に入ってからの第10期から第19期までの10期の平均粗利益率は5割を超えている(甲168の7)。
(ウ) 損害額
 したがって、RBCソフトの販売によりKCSがソフトにつき被った逸失利益分の損害額は、4億0150万円(550万円×73社)である。なお、RBCとKCSは完全に競業関係にあり、営業先も完全に一致することから、KCSの元ユーザであるか否かにかかわらず、現在のRBCのユーザに対するソフトの販売分は、全てKCSの損害額の算定の基礎に含まれる。
イ ソフトに付随する商品の販売等による逸失利益
(ア) リモート保守料収入
 KCSは、「貸出君」のソフトの販売に付随して、ユーザとの間で「貸出君」のソフトのリモート保守契約を締結し、同ユーザからリモート保守料を取得することもあったが、同ユーザの中には、RBCからソフトを購入したことを受けて、KCSとのリモート保守契約を終了させ、新たにRBCとの間でリモート保守契約を締結した企業も存在する。RBCは、「貸出君」につき著作権侵害・営業秘密侵害・不法行為に及んだ結果、「Mr.Advance」等のソフトを完成させ、同ソフトにつきKCSの元ユーザ等との間でリモート保守契約を締結の上リモート保守料収入を得るようになったところ、RBCらの違法行為がなければ、KCSがKCSのユーザとの間でリモート保守契約を締結の上KCSがリモート保守料収入を得ることができたはずである。そして、KCSが失ったリモート保守料は、少なくとも月額40万1000円(年額481万2000円)に達する(乙94)。
 したがって、RBCソフトの販売によりKCSがリモート保守につき被った逸失利益分の損害額は、平成15年3月以降少なくとも年額481万2000円(月額40万1000円)の割合で算定される金額である(ちなみに、平成19年2月を基準とすると1924万8000円〔481万2000円×4年〕となる)。
(イ) 印刷物の販売による収入
 KCSは、「貸出君」のソフトの販売に付随して、ユーザに対し、同ソフトの利用に必要な各種帳票類を販売し、同ユーザから同販売代金を取得することもあったが、同ユーザの中には、RBCからソフトを購入したことに伴い、KCSから各種帳票類を仕入れることを取りやめ、RBCから仕入れるようになった企業も存在する。RBCは、「貸出君」につき著作権侵害・営業秘密侵害・不法行為に及んだ結果、「Mr.Advance」等のソフトを完成させ、同ソフトの利用に必要な各種帳票類を販売して同販売代金を得るようになったところ、RBCらの違法行為がなければ、KCSがKCSのユーザに対して各種帳票類を販売してKCSが販売代金を得ることができたはずである。そして、KCSが失った各種帳票類の販売代金の粗利益は、「貸出君」の元ユーザに対する販売分のみに限定しても、少なくとも年額60万1400円に達する(乙95)。
 したがって、RBCソフトの販売によりKCSが印刷物の販売につき被った逸失利益分の損害額は、平成15年3月以降少なくとも年額60万1400円の割合で算定される金額である(ちなみに、平成19年2月を基準とすると240万5600円〔60万1400円×4年〕となる)。
ウ 結論
(ア) 上記ア及びイに記載の合計額(平成19年2月を基準とすると、4億2315万3600円)がRBCらの違法行為によりKCSが被った逸失利益分の損害額(1項損害)である。そして、同金額の1割に相当する弁護士費用が損害額として加算されるべきである。
(イ) 上記損害額は、RBCらの一般不法行為と相当因果関係のある損害額でもある。
(2) 著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項による損害額(以下「2項損害」という。)の算定
ア RBCの売上高
(ア) RBCから提出された総勘定元帳(甲205)を分析し、RBCの第1期の売上をRBCソフトに関連するものとそうでないものに分類した結果によれば、平成16年1月までの10か月間におけるRBCソフトに関連する売上は、3億1208万7302円である。これを年額(12か月)に換算すると、3億7450万4762円となる。
(イ) なお、RBCは、RBCソフトに関する売上げのうち相当部分を「売上取消」という形で取消処理しているが、その多くは実際に契約が取り消されたのではなく、「未成工事受入金」あるいは「預り金」(帳簿閲覧時のX2の説明による。)への振替処理をして翌期に繰り越されたにすぎないもの(すなわち、既に受注・入金済みであり、たまたま完成が翌期にずれ込んだだけのものを翌期に繰り越しているだけ)であるため、損害額から控除すべきものではない。したがって、実際に契約が取り消されたものと考えられる九州リース分と尼信リース分についてのみ売上げから控除した。
イ RBCの利益率
 RBCの上記売上高に対する利益率は6割を下らない。
ウ 損害額
 よって、RBCが得た利益は2億2470万2857円を下らない。これらは全てKCSに生じた損害と推定されるべきものである(2項損害)。
(3) 予備的主張
 KCSは、「貸出君for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」開発のため、平成13年9月(乙6)からRBC設立の平成15年3月までの間、少なくとも合計金9910万2156円の人件費を支出したが(乙96)、同支出の成果として作成された各種資料をRBCらに不正に持ち出され、RBCのソフトのために利用された結果、上記人件費については全く無駄な出費を強いられたこととなった。
 企業は、最低限度、投下した支出を上回る売上げを得る見込みがあるからこそ、多額の費用を投下して商品開発にあたるのであり、当然のことながら、KCSの場合も「貸出君for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」の営業活動により、少なくとも上記人件費の支出を上回る利益を得る見込みで、同支出に及んだものである。
 かかる観点からすれば、KCSに対しては最低限度上記人件費の合計金9910万2156円の損害が填補されるべきであり、万一、上記(1)に記載したKCSの逸失利益が同人件費合計額よりも少額であると算定される場合においては、同人件費合計額をもってKCSの損害額として認められるべきである。なお、この場合においても、同金額の1割に相当する弁護士費用が損害額として加算されるべきである。
(4) まとめ
 よって、KCSはRBCらに対し、著作権侵害の不法行為、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、連帯して、第2事件提訴前に発生していた損害額である2億1200万円のうち1億円及びこれに対する第2事件の訴状送達の日の翌日である平成16年11月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【RBCらの主張】
(1) KCSの主張
 KCSの損害額の主張は、@著作権法114条1項又は不正競争防止法5条1項に基づく損害(1項損害)、A民法709条に基づく損害、B著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項に基づく損害(2項損害)に分けられる。
(2) 1項損害について
ア 変動経費についての一般論
(ア) 著作権法114条1項や不正競争防止法5条1項においては、侵害者の販売数量に、著作権者の単位数量当たりの利益を乗じた額を損害と推定するとされているが、この利益は粗利益ではなく、@得べかりし純利益に、A真正品販売により回収することができたはずの固定経費を合算した金額になり、B販売していた場合の経費増加分である変動経費は含まれない。そして、この金額は、粗利益から仕入原価以外の変動経費を控除した金額と一致する。
(イ) KCSは、KCSの単位数量当たりの利益として粗利益を主張し、変動経費を控除することは不要であると主張する。
 しかし、RBCシステムもKCSシステムも、1度完成したら追加費用が不要というようなものではなく、営業活動が必要であり、そのための費用や、販売後のサポート費用や納入の際の交通費や搬送費等が必要となる。
 したがって、変動経費が一切発生しないということはおよそ考えられない。
イ 本件の特殊事情
(ア) ところで、一般的に、変動経費に人件費や販売管理費が含まれない理由としては、権利者は、侵害されている製品を販売するために既に人件費や販売管理費を支出しており、製造数が増加しても、人件費や販売管理費はほとんど増加しないことが多いからである。
 これに対し、権利者が追加製造するにあたっても追加の人件費や販売管理費が必要となる場合には、当然に変動経費となる。
(イ) そして、KCSの従業員らがKCSを退社してRBCが設立され、RBCにおいてRBCシステムの開発、営業活動、カスタマイズが行われたという事情のもとにおいては、KCSは人件費や販売管理費を全く負担していないのであるから、RBCシステムを販売するためには必ず追加の人件費や販売管理費が発生するものといえる。
 したがって、本件においては、変動経費はRBCが支出した金額全てであり、「利益」はむしろ営業利益と一致するのである。
ウ KCSの利益率について
(ア) KCSは、1つ当たりの利益が550万円だと主張するが、KCSの10期から23期までの売上高と営業利益を平均化すると、1年で6億4871万8000円の売上高に対し1098万円の営業利益にすぎない。また、会社推移一覧表(甲168の7)によれば、粗利益は4割9分にすぎず、営業利益に至っては0.126%にすぎない。
(イ) KCSは、1件あたりの利益額として、過去全てを基準にすべきではなく、平成に入ってからの粗利益率は5割を超えているし、直近である23期の粗利益率は66%であると主張するが、そもそも、粗利益を「利益率」とすることはできず、変動経費を控除しなければならないことや、変動経費控除後の利益率が営業利益と一致することは、前述のとおりである。
エ KCSの能力
 著作権法114条1項や不正競争防止法5条1項は、算定された逸失利益額は権利者の利用の能力の範囲内であることを要しているし、数量の全部又は一部を権利者が販売できない事情がある場合にはその額を控除すると規定している。
 そして、KCSは、平成15年3月に、従業員の大多数が退社したのであるから、RBCシステムをKCSが販売することなど到底できなかった。
 よって、KCSが主張する損害額は、KCSの能力の範囲を超えているし、RBCの販売数量全部をKCSが販売できない事情があったといえる。
オ まとめ
 以上のとおり、単位数量当たりのKCSの利益額を550万円とするKCSの主張は認められないし、KCSの利益額がいくらであれ、その額はKCSの能力を超えているし、KCSによる販売は不可能であったのだから、「1項損害」は成立しない。
(3) 2項損害について
ア 変動経費について
 著作権法114条2項や不正競争防止法5条2項は、侵害者の利益を損害と推定する規定であるが、この利益についても、「1項損害」の場合と同様に、粗利益ではなく、粗利益から仕入原価以外の変動経費を除外したものであって、売上高から仕入原価を含む変動経費を除外した金額と一致する。
 そして、RBCにおいては、RBCシステム販売以外の売上げは1割程度にすぎず、それ以外は全てRBCシステムのための経費であるから、固定経費である家賃以外の経費の9割がRBCシステムに係る変動経費である。
 したがって、第1期の変動経費は、仕入高1億1783万6552円と家賃を除いた販売費・一般管理費9086万7571円の合計である2億870万4123円の9割の1億8783万3710円である。
イ RBCの売上高について
(ア) KCSは、RBCのミスターレンタル(旧ミスターアドヴァンス)に関する第1期の売上高を3億1208万円と主張するが、事実に反する。第1期の売上高は、1億7904万5002円である。
 すなわち、総勘定元帳には売上計上されていても、@契約解除された3024万円(KCS主張の九州リース及び尼信リース分を含む。)、Aファイナンス会社を利用することになって売上先を変更したために二重計上されている売上3170万7900円、B未入金のまま売上計上したが、倒産した東興機械の売上げ294万円、C志摩機械への取消分34万6500円、DRBCシステムとは無関係の売上げである2189万2500円、E未成工事受入金のうち、RBCシステムの売上分である4591万5400円を控除すべきである。
(イ) 「未成工事受入金」をRBCの売上高から控除すべきこと
 第1期の未成工事受入金5999万8008円のうち、RBCシステム売上分である4591万5400円については、次のとおり、第1期のRBCのRBCシステムの販売による利益からは除外すべきものである。
a 「未成工事受入金」の意義
 未成工事受入金とは、売上げとして計上すべき金員は決算時点において完成した工事に相当する割合の金額である必要があることから、決算時点において未完成である部分に関しては、既に代金を受領していたとしても売上げから除外するために、未成工事受入金として翌期に繰り延べるものである(甲226)。
 RBCについても、RBCシステムを販売した場合のように、システム開発を請け負った場合には、契約時に契約代金全額を一括で全額受領するものの、システム開発は契約時から数年かけて完了することから、受領した契約代金を30%、30%、30%及び10%に4分割し、決算時におけるシステム開発の進捗状況に応じて、未完成の部分については未成工事受入金として売上げから除外しているのである。
 なお、KCSに在籍していた当時のRBC従業員の経験より、KCSにおいても、KCSシステムを販売した場合には、ソフト前受金勘定と名目こそ異なれ、全く同じ処理をしている事実が明らかである。
b 第1期の未成工事受入金
 第1期の未成工事受入金として決算報告書にあがっている金額は、7374万973円である(甲222、負債の部【流動負債】)。
 この内訳は、三洋電機クレジットからの売掛金回収1374万2965円及び未成工事受入金5999万8008円である(甲224)。
 そして、上記未成工事受入金のうち、RBCシステムの販売分についてのものの合計額が4591万5400円である(甲216[ 黒色部分が未成工事部分である。])。
 この未成工事受入金4591万5400円については、第2期(平成16年2月1日及至平成17年1月31日)の決算時点においては、システム開発を終了したために、同期に売上げとして計上した結果、第2期の未成工事受入金としては計上されていない(甲225)。
c 上記4591万5400円を除外すべき理由
(a) 上述のとおり、著作権法114条2項や不正競争防止法5条2項における「利益」は、粗利益から仕入原価以外の変動経費を除外したものであって、売上高から仕入原価を含む変動経費を除外した金額と一致するものに他ならない。
(b) そして、未成工事受入金は、第1期の決算期時点においては、システム開発が未完成の部分に相当する金員であるから、当然、第1期のRBCシステムの販売による利益からは差し引かれるべきものである。
 実際にも、未成工事受入金に相当する部分については、未だRBCシステムの開発は完了していないのであって、これにかかる経費等も未だ支出していないことから、未成工事受入金も第1期の売上げに計上されるとすれば、未成工事受入金相当額については販売金額そのものを「利益」とみなされるに等しい結果となり、妥当性を欠く。
(c) なお、RBCでは、平成19年6月に第1回税務調査を受けているが、無論、未成工事受入金を含む第1期ないし第4期の決算処理についても何ら指摘がなされていない。
(d) 以上より、未成工事受入金4591万5400円については、控除されるべきものである。
ウ まとめ
 よって、RBCの第1期のRBCシステムに関連する売上高は1億7904万5002円であり、RBCシステムに関連する経費は1億8783万3710円であるから、RBCには利益は存在しない。
(4) 民法709条に基づく損害について
 KCSは、1項損害は民法709条にも基づいていると主張し、また、ソフト販売以外の逸失利益や、ソフト開発にかかった人件費を民法709条に基づいて損害としている。
 しかし、従業員が大量に退職したKCSが、RBCシステムを販売することなど不可能だったのであるから、1項損害については、RBCらの行為との間に相当因果関係はない。
 同様に、保守料や印刷物販売もRBCらの行為との間に相当因果関係を欠くし、そもそも、保守料や印刷物販売は、ソフト販売をすれば必ず発生するなどとはいえないため、この点からも相当因果関係を欠く。
 そして、人件費については、開発業務をしていない人間についてのものも含まれているし、KCSが支出した人件費は、RBCシステムの開発に充てられたものではなく、KCSシステムのバグの修正やサポートのための費用であるから、損害とはいえない。
(5) 損害論のまとめ
 以上より、著作権法114条1項、2項、不正競争防止法5条1項、2項、民法709条に基づく損害は、全て認められない。
第8 争点に対する当裁判所の判断
1 判断の大要
 当裁判所は、RBCのKCSらに対する第1事件に係る請求及びKCSのRBCらに対する第2事件及び第3事件に係る請求について、大要、以下のとおり判断する。
 まず、RBCのKCSらに対する第1事件に係る請求については、KCSがした本件文書1、本件文書2の競合取引先に対する各送付、Y1がした本件文書3の競合取引先に対する送付、Y1のリコーリース(P2)に対する発言及びKCS従業員の中村建機P3に対する発言に限り、いずれもRBCの営業上の利益を侵害する虚偽の事実の告知又は流布及びRBCの信用を毀損する不法行為と認められる。したがって、KCSらの上記行為はいずれも不正競争防止法2条1項14号の不正競争及び民法709条の不法行為に当たり、同不正競争及び不法行為と相当因果関係にあるRBCの無形損害及び弁護士費用相当損害のうち、220万円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定利率による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。
 第2事件及び第3事件については、(1) 貸出君新版プログラム(「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)はX1ら8名(X2を除く。)がKCS在職中の平成15年1月ころの時点ではKCSにおいて開発されておらず、そもそも存在したとは認められないから、KCSが職務著作に係る著作物として貸出君新版プログラムの著作権を有することを前提とし、RBCプログラムが貸出君新版プログラムに依拠し、これを複製又は翻案したものであるとのKCSらの主張は理由がない(第2事件及び第3事件の争点1)。同様の理由により、RBCプログラム(Win版)は「貸出君for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するとのKCSらの主張は理由がなく(同争点3)、RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発用書類(乙23)及び貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権を侵害するとのKCSらの主張も理由がない(同争点4)。また、(2) RBCプログラムは当時KCSが販売していた貸出君プログラムに依拠し、これを複製又は翻案したものとは認められない(同争点2)。そして、RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)及び貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵害するとのKCSらの主張も理由がない(同争点5)。以上より、KCSがRBCらに対し、著作権法112条1項及び2項に基づきRBCソフトの複製・頒布・翻案の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求める請求は理由がない。さらに、(3) 本件開発方針に関する情報は、秘密管理性を欠くから不正競争防止法2条6項所定の営業秘密には当たらず、また、本件プログラム作成情報はそもそもKCSの営業秘密ではないから、不正競争防止法3条、4条に基づき、本件開発方針及び本件プログラム作成情報を、RBCソフトの作成・製造・販売に使用し又はこれを開示することの差止め、本件開発方針及び本件プログラム作成情報の記録された書類の廃棄・電子的記録の削除並びに損害賠償を求める請求は理由がない。(4) また、貸出君関連成果物の持出し等について民法709条の不法行為に基づく損害賠償を求める請求も理由がない。
 以下、その理由を詳述することとするが、第2事件及び第3事件が本件紛争の中核をなすものと認められることから、まず、第2事件及び第3事件について判断し、次いで、第1事件について判断することとする。
2 第2事件及び第3事件に対する判断
(1) X1らがKCSを退職するまでのプログラム開発経緯等
 以下においては、まず、争点に対する判断の前提となる事実、すなわち、KCSにおける貸出君新版プログラムの開発の有無、経緯、RBCソフトの開発の経緯及びRBCソフトの内容についての前提事実を概括的に認定しておくこととする。証拠(甲33〜70、101、103〜105、108、154〜156、220、221、乙5〜8、30、51〔一部〕、証人X3、同X4)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。証拠(乙51)中、以下の認定に反する部分は採用できない。
ア 貸出君新版プログラムの開発の経緯
(ア) KCSの販売する「貸出君」ASP版とWin版
 KCSは、内田洋行との合弁によるキング商事株式会社からの電算部門の独立という形で昭和54年9月に設立され、その後、酒販販売用システム、化粧品販売用システム等、種々のシステム開発・販売を主たる業務としてきたが、平成元年ころから、建機・仮設レンタル業用に特化したシステム開発・販売を行うようになり、平成2年ころから、独自に開発した建機・仮設レンタル業用システムに「貸出君」というブランド(その後商標登録)を付し、これを自社の主力商品として、営業活動を強化していった。
 KCSは、当初、「貸出君」をASP版(「ASP」とは、オフコンを稼動させるために必要な富士通社製OSの商品名であり、KCSでは、オフコン版のことをASP版と呼んでいた。)で開発したが、平成8、9年ころからWin版での開発にも着手した。
(イ) 平成13年から14年ころの状況
a Win版について
(a) 上記のとおり、KCSは、平成8、9年ころから「貸出君」Win版の開発に着手したが完成に至らず、ようやく1社に対して平成9年度末の完成を見越して契約締結にこぎつけ、一応納品したものの、結局稼動できないまま契約は終了した。その後、KCSは、Win版の手直しを行い、同年9月から11月ころにかけて別の1社との間で契約を締結し納品したが、これも稼動せず、また、平成10年2月から3月ころにかけてさらに別の1社との間で契約を締結して納品したものも、結局稼動しないまま契約終了に至った。その後、KCSは、Win版の修正に尽力し、平成10年夏ころ1社に納品し、不十分ながら稼動するソフトを開発するに至った。
 Win版については上記のとおり不具合が続発したことから、KCSでは、不具合に悩まされるWin版より、ASP版を販売した方がよいとの営業方針の下で、Win版の販売には積極的でない状況のまま推移した。とはいえ、顧客からWin版を求められることがあり、KCSとしても、Win版の販売を完全に止めてしまうわけにもいかず、Win版の販売実績は、平成11年ころ以降、年間3ないし4台という状況で推移していた。
 ところが、平成13年ころ、過去に納品したWin版について、顧客から、データが累積されるとスピードが遅い、更新時間がかかりすぎる等のクレームが多発するようになり、KCSでは、その対応に時間を取られるようになった。ちょうどそのころ、営業部門から開発部門に対して、もっと安価に販売できるWin版を、データベースをオラクルにして開発して欲しいとの依頼があった。
 そこで、当時、KCSの専務取締役であったX2は、平成13年9月ころ、Win版の廉価版の開発を企図して、これをKCSの第23期上期(平成13年9月1日から平成14年2月末日まで)の商品施策の1つとして掲げ、開発部門においてもその商品化を計画した。
 すなわち、X2が専務取締役として作成した社内向け資料である乙第5号証(平成13年9月1日付け「第23期(上)を迎えて」と題する書面)には、貸出君に関する商品施策として、以下の事項を掲げた。
@ 「Win版の早期完成→アプリケーション内容の整備、充実(23期上)」
A 「ASP版のWeb化→Webによるネットワーク完成」
B 「画像データ処理の開発→デジカメ、iモードで画像の提供」
C 「Win版廉価バージョン」
D 「単品管理システムの確立→タグとの連動システム」
E 「貸出君ナビゲーションの完成」
 そして、「Win版廉価バージョン(の開発販売)」を目標として掲げた。
 また、X4(当時KCSシステム開発部課長)が作成した社内向け資料である乙第6号証(平成13年9月8日付け「23期上期開発部方針」と題する書面)には、上記乙第5号証を受けて、「商品化計画」の1つとして「@For・Win廉価版」を挙げ、「現行のWin版の機能を継承するが出庫・入庫入力を一体化し、出入庫した伝票及び出庫のみ入庫のみの伝票入力が1画面で対応できるように変更。また、システム範囲としては、売掛管理までとし、カスタマイズ一切なし単品管理なしかつ、伝票及び請求書はKCS指定で運用を行う。伝票及び請求書のパターンとしては、建機バージョン・仮設バージョンと分けてプリンタはドットプリンタ、レーザープリンタ対応の計4パターンを用意する。」と説明している。
(b) X2は、第23期下期(平成14年3月1日から同年8月末日まで)の商品施策を発表するに当たり、平成14年3月2日作成日付けの「第23期(下)を迎えて」と題する社内向け資料(乙7)に次のとおり記載した。
 「ソリューションビジネスの世界においては、何もかもwindowsを利用するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見直しがかけられ、Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれのアプリケーションが考えられ、定着してゆこうとした動きになっている。windowsの限界と、利用目的を十分に調査することにより、windowsの利用の範囲が今後ますます限定的なものになってくるはずであり、当社もLinuxにおけるアプリケーション開発体制の整備を今後2年間程度の間で進めてゆく必要がある。」
 そして、貸出君について、第23期上期の開発計画にあった商品施策のうち、上期に完成に近いものは「ASP版のweb化」「画像データ処理の開発」「単品管理システムの確立」及び「貸出君ナビゲーションの完成」の4システムであり、「今後この商品を積極的に販売してゆきたいと考えている。」とした上、下期の開発計画においては「T(小文字)ASP版の入力画面の大幅変更」「U(小文字)ASP版の仕入管理システム改良版完成」「V(小文字)Linux版プロトタイプの完成」及び「W(小文字)ASP版と財務システムの連動(ERP化に向けて)」のみが挙げられ、「win版の早期完成」「win版廉価バージョン」には触れなかった。X4も、平成14年3月2日付けの「23期下期開発部方針」(乙8)において、Win版廉価バージョン等については何ら触れていない。
b ASP版について
(a) X2は、第23期上期(平成13年9月1日から平成14年2月末日まで)の商品施策を発表するに当たり、前記「第23期(上)を迎えて」(乙5)において、「当社も今後は…ネットワーク化(イントラネット、エクストラネット)の方向を目標をはっきり持ち、商品のバリエーションを広げ、向上させてゆかねばならない」として、上記aのとおり「ASP版のWeb化」を商品施策の1つとして掲げ、開発部門においても、X4が前記「23期上期開発部方針」(乙6)の「商品化計画」の中で「ASPシステムのWeb化」を挙げ、「ASPのV17よりWeb機能が強化されましたので、大規模システムでのWeb化されたVRシリーズの提供を行っていきます。特に、回線インフラがブロードバンドでかつ安価でできていますので、セキュリティ面及び画面の見映えを強化して行きます。」と説明している。
 上記説明のとおり、「ASP版のWeb化」とは、「貸出君」のASP版をインターネット網を使って動かすという意味であり、具体的には、従来ネットワーク上では高額の電話料金がかかっていたのが、インターネット(ブロードバンド)網を使うことによって、料金が数段安くなるというメリットがあるところ、ASPではバージョン17からWeb機能が強化され、かつ、通信についてインターネット網が使えるものになったことから、「貸出君」のASP版についても同バージョンを採用する、という意味である。
(b) ところが、KCSでは、ASPのバージョン17を使用してテストを行ったが、「貸出君」ASP版のプログラムは、同バージョン上で動くには動くもののスピードが追い付かなかった。第23期下期(平成14年3月1日から同年8月末日まで)の開始に際し、X2が作成した前記「第23期(下)を迎えて」と題する書面(乙7)には、「ASP版のweb化」が「上期の残し仕事」であると位置づけられるとともに、次の計画として「ASP版の入力画面の大幅変更」等が掲げられ、X4が作成した前記「23期下期開発部方針」(乙8)にも、「ASP貸出君の入力画面の変更」として、「入出庫の画面を伝票形式に対応し入力の簡素化及び画面イメージを良くする。またWeb化対応のビジュアルを進める。」と記載された。
イ X1ら8名の退職及びRBC設立の経緯
(ア) KCSの成り立ちとX2の出向・転籍
 前記のとおり、KCSは、昭和54年9月に設立された会社であるところ、X2は、昭和56年7月に内田洋行からKCSに出向し、KCSの業務運営の中核を担うようになり、平成元年にKCSに転籍した。X2は、平成13、14年当時はKCSの専務取締役の地位にあり、X1ら8名(X2を除く。)は、KCSの従業員であった。
(イ) Y1を巡る問題
 Y2の次男であるY1は、内田洋行で勤務した後、平成5年ころから、KCSの東京営業所で勤務するようになったが、Y1の態度が自己中心的であるとして東京営業所の社員の間で不満が表明されるようになった。Y1は、平成11年ころ、東京営業所の責任者に就任したが、その態度が改まらないまま平成14年6月20日に至り、同営業所社員との対立が深まり、同営業所社員全員から辞表が提出されるという事態に至った。
 X2は、同営業所社員一同の辞意を押しとどめる一方、Y2との間で、とりあえずY1をKCSの社外に出す方向で何度か話合いを持ったものの、あくまでY1をかばうY2との間で意見が対立し、同人及びY1とX2との間の溝は深まっていった。
(ウ) 不正経理問題
 上記社内紛争のさなかの平成14年7月、経理担当事務員が、Y2の不正経費使用につき、その証拠となる出金伝票のコピーを持参してこれをX2に訴え出た。それによると、Y2の不正経費の額は年間3000万円にも及び、同人の妻がデパートの食料品売場で購入した惣菜の代金など明らかにY2の個人的な経費までがKCSの会社経費として計上されていた。このように、Y1の問題に加え、Y2による不正経理問題が明るみに出たことにより、KCSの社内は著しい混乱に陥った。
(エ) 社内改善委員会の立ち上げ
 X2ら幹部社員は、上記不正経理問題やY1をめぐるKCS社内の著しい混乱を収束させ、主として上記不正経理問題についてのY2の責任を追及し、正常な企業環境を取り戻すことを目的として、X3が代表となって、「社内改善委員会」なる組織を立ち上げ、同年8月から隔週土曜日に会合を持ち、改善案を話し合うこととした。
 社内改善委員会の会合では、KCSに対して強い影響力を持つ内田洋行に社内改善のための助力を願おうということになり、同社代表取締役宛てに、平成14年8月23日付けで「株式会社ケイシィエス社内改善委員会」(代表のX3のほか、X5、X1、P10補佐、X4、P23、P15の連名)名義で文書(甲108)を作成した。同文書には、Y2が長年にわたり裏金として運用したノートA・Bのコピーや同人が私物化した経費使用の伝票類のコピーと称する資料を添えて、Y2の不正経理の実態に具体的に触れ、今後、Y2に対し、刑事告訴、民事上の責任追及、税務署への通報、代表取締役退任要求を行い、Y2が退任しない場合は、X2とともに新たな出発をする意向であり、内田洋行の支援を要請する旨が記載されていた。X2は、同文書を内田洋行に持参してその説明を行い、上記社内紛争が内田洋行の知るところともなった。他方、Y2は、X2らの上記行動をKCSの経営権を自分から奪おうとする策謀であるととらえ、その首謀者と目されたX2に対する反感を募らせた。
(オ) Y1の取締役就任
 Y2は、社内改善委員会の上記活動を嫌い、その首謀者と目されたX2の取締役解任を企て、平成14年8月30日に臨時取締役会を開き、同年9月20日にX2解任のための臨時株主総会を開催することを決めた。社内改善委員会のメンバーからこの報告を受けた内田洋行は、KCS社内の上記混乱を重く見て、Y2に対し、社内改善委員会との間で話合いを行うことを要請し、これを受けて、Y2と社内改善委員会との間で話合いが行われるようになった。社内改善委員会は、まず、平成14年9月20日のX2退任の臨時株主総会の開催中止を要請し、Y2は、これを受け入れる旨を伝えて社内改善委員会との間で上記話合いを進めていたが、その一方で、兄であるP1と両名で臨時株主総会を開催したことにし、X2退任こそ決議しなかったものの、Y1の取締役就任を決議するに至った。
 なお、そのころ、Y2及びX2は、KCS社内の混乱を収めるため、互いに「この度の企業が混乱に成ったことに深く反省し再びこの様な企業危機にならない様業務に専念し企業繁栄に努力する事を誓約いたします。」との記載のある平成14年9月20日付けの誓約書(甲103、104、乙30)を差し出した。
(カ) X2の取締役不再任
 Y2らは、平成14年12月6日開催の株主総会において、X2の取締役任期満了に伴う取締役就任(再任)を否決した。X2は、福岡営業所や東京営業所への出張のため、上記株主総会には出席していなかったところ、取締役再任否決の連絡を出張先の東京営業所で受けた。X2は、同月7日に帰阪し、Y2及びY1との間で取締役不再任によるX2のKCS退職に伴う処理事項について協議し、同月18日、Y2及びY1に対し「1 連帯保証免除の件(X2氏の)」「2 X2氏保有の潟Pイシィエスの株の件の買取について」「3 X2の退職慰労金の額について」「4 X2氏の私物及び公物の双方確認の件」について申し入れ、同人らから、同月25日までに回答する旨の返答を得た(甲105)。また、X2は、同日、KCS宛てに「X2は今後潟Pイシィエスのビジネスに対し足を引っぱるような行為はいたしません。」と記載した書面(乙33)を提出した。
(キ) X3に対する退職勧告
 Y2は、平成15年1月6日、システム開発の責任者(システム部次長)であるX3に対し、年明けの出社早々任意退職を強く勧奨し、X3に任意退職を余儀なくさせた。
(ク) RBCの設立
 KCSを退職したX3は、X2と話し合い、新会社を立ち上げることとした。その後、X6(開発課所属)が平成15年1月15日にKCSを退職し、次いでX7(開発課所属)が同月20日にKCSを退職して、新会社に移ることになった。また、X5(営業部課長)、X1(業務課課長)、X4(開発部課長)らも、同年3月5日又は6日に退職届を提出し、新会社に移ることになった。
 こうして、平成15年3月6日、X1を代表取締役として、RBCが設立された。
ウ RBCプログラムの開発経緯及び販売・サポート状況
(ア) ビジネスサーバ版について
a RBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発状況(甲220)
 RBCプログラムの主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)は、平成15年1月10日から同年2月20日ころの期間に完成した。
 次に、稼動業務、販売業務は、同月25日ころから同年4月1日ころの期間に完成した。
 請求業務は、RBCにおいて、同年3月10日から開発に着手し、同年5月上旬ころに一応完了させた。
 その他の業務ソフトについては、これ以降、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正を行いながら、少しずつ開発していった。
b 顧客への販売・サポート状況
 RBC設立後、RBCプログラムのビジネスサーバ版において最初に契約に至った4社は、日成工業所、南海建設興業、長浜産業及びベストレンタルである。
(a) 日成工業所について
T 販売状況
 RBCは、日成工業所との間において、平成15年3月13日に契約を締結し、同月31日、契約代金全額を受領した。
 平成15年3月13日時点では、RBCプログラムは、マスタ業務しか完成しておらず、その他の基本的な事項すら完成していなかったので、RBCプログラムは使用できるものではなかった。また、デモ画面も完成していなかった。
 しかし、RBCにおいては、主要マスタの開発を一応完了させており、日成工業所がマスタの登録業務を行う間に順次早急に他のプログラムを完成させていく方針を立てて、日成工業所の了承を得た。なお、日成工業所としても、新たなプログラムが完全に立ち上がるまでは、従前の方法で請求業務等を行うことができたため、業務に支障が生じるものでもなかった。
U サポート状況
 RBCは、日成工業所について、平成15年3月13日にシステム分析を開始し、マスタ業務ソフトは同年4月10日に納品し、それ以降のソフトについては、開発でき次第納品していった。すなわち、稼動業務ソフトについては同年5月8日に納品し、請求業務については同月21日に基本ソフトを納品し、カスタマイズをして、同年11月末日に日成工業所の要望に沿ったソフトを再納品した。
 以上の経過で、平成15年12月1日にRBCプログラムを本格稼動させて請求業務を開始することができ、平成16年5月17日に顧客の要望に沿ったカスタマイズが全て終了したことを双方で確認し、RBCは日成工業所から稼動確認書を受領した。
(b) 南海建設興業について
T 販売状況
 RBCは、南海建設興業との間において、平成15年4月23日に契約を締結し、同月30日、同年5月30日契約代金を受領した。
 この時点では、未だ、マスタ業務、稼動業務、販売業務までしかできておらず、請求業務はできていない状態であり、ソフトとしては基本的動作ができず、全く使い物にならない状態であった。また、デモ画面も完成していなかった。
U サポート状況
 RBCは、南海建設興業について、契約締結に先立ち、平成15年4月2日にシステム分析を開始し、既に完成していたマスタ業務、稼動業務につき、同年7月22日、同月23日に納品した。そして、請求業務については、基本ソフトを同年8月22日に納品し、カスタマイズをして、平成16年4月10日に再納品をした。
 以上の経過で、平成16年4月13日にRBCプログラムを稼動させて請求業務を開始することができ、RBCは南海建設興業から同年7月14日に稼動確認書を受領した。
(c) 長浜産業について
T 販売状況
 RBCは、長浜産業との間において、平成15年4月9日に契約を締結し、同年6月20日に契約代金を受領した。
 この時点では、未だソフトとして基本的な動作ができていない状態であったことは、南海建設興業との契約の場合と同様である。デモ画面も存在しなかった。
U サポート状況
 RBCは、長浜産業について、契約締結に先立ち、平成15年4月3日にシステム分析を開始し、同年4月17日にマスタ業務を納品し、同年7月8日に稼動業務を納品した。請求業務については、基本ソフトを同年10月24日に納品し、同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。
 また、長浜産業については、ネットワークを構築する必要があり、同年9月12日にネットワーク業務を納品した。
 そして、長浜産業では、平成15年12月1日と平成16年1月1日の2段階に分けてRBCプログラムを稼動させ請求業務を開始した。
 RBCは、平成16年1月28日に売掛業務を納品し、平成16年4月15日に稼動確認をしたが、稼動確認書は受領していない。
(d) ベストレンタルについて
T 販売状況
 RBCは、ベストレンタルとの間において、平成15年5月28日に契約を締結し、同年6月30日に契約代金を受領した。
 ベストレンタルとの契約時点では、請求業務までが一応完成しつつあり、ソフトとして最低限基本的な事項が完成しつつあり、ようやく不完全なものではあるがデモ画面が完成し、同画面を示して説明が可能となっていた。
U サポート状況
 RBCは、ベストレンタルについて、平成15年5月26日にシステム分析を開始し、同年7月10日にマスタ業務を、同年9月24日に稼動業務を納品した。請求業務については、同年9月末日に基本ソフトを納品し、同年10月14日、カスタマイズをしたソフトを納品した。
 また、ネットワークを構築する必要があったため、平成15年9月6日にネットワーク業務を納品し、同年10月12日から、本格稼動し、請求業務が開始した。
 RBCはベストレンタルから平成16年1月30日に稼動確認書を受領した。
(イ) Win版について
a RBCプログラム(Win版)の開発状況
 主要なマスタ業務(得意先・商品・機械マスタ)は、平成15年1月21日から同年2月10日ころの期間に完成した。
 次に、稼動業務、販売業務は、同月12日から同年3月26日までの間で完成した。
 請求業務については、RBCにおいて、同月11日から同年5月ころまでの間に完成させた。
 そのほかの業務ソフトは、ビジネスサーバ版の開発同様に、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務において多数発生したバグへの対応や不具合の修正を行いながら、少しずつ開発していった。
b 顧客への販売・サポート状況
 RBC設立後、RBCプログラムのWin版において最初に契約に至った4社は、鈴建輸送、名晶興産、興南機械及び中村建機である。
(a) 鈴建輸送について
T 販売状況
 RBCは、鈴建輸送との間において、平成15年4月18日に契約を締結し、同年3月28日、同年4月25日に契約代金を受領した。
 契約時点では、請求業務が完成しておらず、RBCプログラムは基本的動作すらできない状態であり、デモ画面も完成していなかった。
U サポート状況
 RBCは、鈴建輸送について、契約締結に先立ち、平成15年3月14日にシステム分析を開始し、同日マスタ業務を納品した。そして、稼動業務については、基本ソフトを同年4月18日納品し、カスタマイズしたものを同年5月13日に納品した。請求業務についても、同年5月30日に基本ソフトを納品し、同年9月18日にカスタマイズ品を納品した。
 以上の経過で、同年11月20日にRBCプログラムの本格稼動ができ、請求業務を開始し、RBCは鈴建輸送から平成16年9月9日に稼動確認書を受領した。
(b) 名晶興産について
T 販売状況
 RBCは、名晶興産との間で、平成15年6月19日に契約を締結し、同年7月25日に契約代金を受領した。
 平成15年6月時点では、RBCプログラムは、基本的動作は可能な程度に完成はしており、一応のデモ画面も完成していたため、それを見せて契約を締結した。
U サポート状況
 RBCは、名晶興産について、平成15年6月13日にシステム分析を開始し、同年7月1日に、マスタ業務、稼動業務、販売業務、請求業務、売掛業務を納品した。そして、平成16年11月2日に、カスタマイズ後の請求業務を納品した。同年2月1日には、RBCプログラムを本格稼動させ、請求業務を開始した。RBCは名晶興産から、平成18年1月16日になってようやく稼動確認書を受領した。
(c) 興南機械について
T 販売状況
 RBCは、興南機械との間で、平成15年6月23日に契約を締結し、同年7月16日に契約代金を受領した。
 同時点において、既にRBCプログラムは一応基本的動作はできる状態であったため、不完全ながら一応のデモ画面を見せて、契約を締結した。
U サポート状況
 RBCは、興南機械について、平成15年6月25日にシステム分析を開始し、同年7月30日にマスタ業務を納品した。稼動業務については同年8月1日に基本ソフトを納品し、カスタマイズ品を同年11月5日に納品した。請求業務についても、同年8月1日に基本ソフトを納品し、同年11月末日にカスタマイズ品を納品した。平成16年1月1日、RBCプログラムを本格稼動させ、請求業務を開始し、RBCは興南機械から同年11月16日稼動確認書を受領した。
(d) 中村建機について
T 販売状況
 RBCは、中村建機との間において、平成15年8月2日に契約を締結し、同年10月1日に契約代金を受領した。
 契約時においては、RBCプログラムは基本的動作ができる程度には一応完成しており、不完全ながらも一応のデモ画面を見せて契約した。
U サポート状況
 RBCは、中村建機について、平成15年8月28日にシステム分析を開始し、同年9月4日にマスタ業務を納品した。稼動業務については同月6日に基本ソフトを納品し、カスタマイズ品を同年10月27日に納品した。請求業務については、同年9月18日に納品した。
 そして、平成16年1月1日からRBCプログラムは本格稼動を開始し、請求業務を開始した。なお、RBCは、中村建機について、平成16年後半に稼動確認を行ったが、稼動確認書は受領していない。
(2) 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)について
ア はじめに
 KCSらは、RBCプログラムはKCSが開発した貸出君新版プログラム(「貸出君for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」)をRBCの関係者が持ち出し、これを複製ないし翻案して作成したものであるから、貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害すると主張する。
 KCSらの上記主張が認められるためには、@KCSの主張する貸出君新版プログラムなるものがKCSの社内でX1ら8名を含むKCS元従業員によって開発され、X1ら8名(X2を除く。)がKCSに在職中の平成15年1月ころまでにほぼ開発行為が完了して、貸出君新版プログラム(「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」)の開発に係る成果物(貸出君関連成果物)がKCS社内に存在していたこと、AX1ら8名が退職に際して上記成果物を社外に持ち出し、これを利用して、貸出君新版プログラムを複製ないし翻案したRBCプログラムを作成し、これを使用したRBCソフトを販売したものであること、以上の事実が立証される必要があるところ、その立証責任はこれを主張するKCSにある。そこで、以下、上記事実の立証ができているか否かという観点から検討する。
イ 貸出君新版プログラムはKCS社内において開発されていたか
(ア) 証拠関係
 上記のとおり、KCSらは、RBCプログラムはKCS社内で開発されていたという貸出君新版プログラムを複製又は翻案したものであると主張する。これに対し、RBCらは、貸出君新版プログラムなるものは開発されておらず、KCS内には存在しなかったのであって、RBCらがこれを複製又は翻案等することはあり得ない旨主張する。
 ところで、KCSらの主張によれば、RBCらが複製又は翻案の対象にしたという貸出君新版プログラムの開発に係る成果物(貸出君関連成果物)はすべてX2ほかKCSの元従業員が持ち出してしまったもので、その現物はKCSには存在しないというのであり、上記成果物の存在及び内容を直接立証する証拠は提出されていない。KCSらは、上記主張を裏付ける証拠ないし根拠として、以下の@ないしEの各点を挙げる。
@ 平成13年9月1日付けでX2が作成した「第23期(上)を迎えて」と題する文書(乙5)、同月8日付けでX4が作成した「第23期上期開発部方針」(乙6)、平成14年3月2日付けでX2が作成した「第23期(下)を迎えて」と題する文書(乙7)、同日付けでX4が作成した「第23期下期開発部方針」(乙8)の各記載によれば、KCSが第23期(平成13年9月1日から平成14年8月末日まで)において貸出君新版プログラムの開発に着手していたことが明らかであること。
A KCSは、遅くとも平成15年1月10日までには、そのソフトの名称を「ミスターアドバンス」とすることを決定していたこと(甲20の5、乙63)。
B X4は、インストラクター職の地位にあったP11に対して「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルを2週間程度で作成するよう指示し、これを受けてP11は、平成15年1月22日から同年2月7日にかけて「貸出君for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながら、X4の指示どおりに「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアルの一部(乙9)を作成したこと(証人P11)。
C しかるに、KCSの元従業員が、平成15年3月までに貸出君新版プログラム、表示画面、開発用書類、オペレーションマニュアル等の成果物(貸出君関連成果物)を持ち出したこと(乙37の1)。
D 上記貸出君関連成果物の持出し後に、KCSの福岡営業所のパソコンに残存していた「貸出君ASP新版」の仕様書(乙23)は、福岡営業所に勤務していたP19が平成15年1月以前に発見し、Y1にその旨報告をしていたものであること(乙48)。
E RBCらの主張に係るRBCプログラムの開発期間等からして、RBCらが貸出君新版プログラムに依拠し、これを複製・翻案しないでRBCプログラムを独自に開発することは不可能であること。
 そこで、以下、上記各点について順次判断し、これらの証拠等から、貸出君新版プログラムなるものが平成15年1月ころまでにKCS社内で開発されていたことが認定し得るか否かについて検討することとする。
(イ) 第23期上期・下期の開発方針等について
a KCSらは、KCSが第23期(平成13年9月1日から平成14年8月末日まで)において貸出君新版プログラムの開発に着手していたことは、平成13年9月1日にX2が作成した「第23期(上)を迎えて」と題する文書(乙5)、同月8日にX4が作成した「第23期上期開発部方針」(乙6)、平成14年3月2日にX2が作成した「第23期(下)を迎えて」と題する文書(乙7)、同日X4が作成した「第23期下期開発部方針」(乙8)の記載から明らかであると主張する。
b 証拠(甲101、乙5〜8、証人X4)及び弁論の全趣旨によれば、乙第5号証ないし乙第8号証は、当時KCSで半年に1度の割合で行われていた「決算会議」と呼ばれる会議において、社長以下5名の幹部社員が発表するための資料として作成されたものの一部であること、この会議には、本社(大阪)の従業員は全員出席することとされていたことが認められる。そして、乙第5号証ないし乙第8号証には、前記(1)ア(イ)に認定したとおりのことが記載されている。これを再掲すれば、以下のとおりである。
(a) 乙第5号証(「第23期(上)を迎えて」)は、専務取締役のX2が作成したもので、第23期上期(平成13年9月1日から平成14年2月末日まで)における商品施策、組織体制及び営業本部の基本方針について記載されているものである。そして、貸出君に関する商品施策として、以下の事項を掲げた。
@ 「Win版の早期完成→アプリケーション内容の整備、充実(23期上)」
A 「ASP版のWeb化→Webによるネットワーク完成」
B 「画像データ処理の開発→デジカメ、iモードで画像の提供」
C 「Win版廉価バージョン」
D 「単品管理システムの確立→タグとの連動システム」
E 「貸出君ナビゲーションの完成」そして、「Win版廉価バージョン(の開発販売)」を目標として掲げた。
(b) 乙第6号証(「23期上期開発部方針」)は、上記(a)でX2が示した商品施策を受けて、開発部課長のX4が作成したもので、上記商品施策を実行するための具体的な活動方針が記載されている。
 すなわち、乙第6号証には、乙第5号証を受けて、「商品化計画」の1つとして「@For・Win廉価版」が挙げられ、「現行のWin版の機能を継承するが出庫・入庫入力を一体化し、出入庫した伝票及び出庫のみ入庫のみの伝票入力が1画面で対応できるように変更。また、システム範囲としては、売掛管理までとし、カスタマイズ一切なし単品管理なしかつ、伝票及び請求書はKCS指定で運用を行う。伝票及び請求書のパターンとしては、建機バージョン・仮設バージョンと分けてプリンタはドットプリンタ、レーザープリンタ対応の計4パターンを用意する。」との説明がされている。
(c) 乙第7号証(「第23期(下)を迎えて」)は、X2が作成したもので、第23期下期(平成14年3月1日から同年8月末日まで)における商品施策及び組織体制について、次のとおり記載されている。
 「ソリューションビジネスの世界においては、何もかもwindowsを利用するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見直しがかけられ、Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれのアプリケーションが考えられ、定着してゆこうとした動きになっている。windowsの限界と、利用目的を十分に調査することにより、windowsの利用の範囲が今後ますます限定的なものになってくるはずであり、当社もLinuxにおけるアプリケーション開発体制の整備を今後2年間程度の間で進めてゆく必要がある。
・OS Windows、ASP→Linux
・データベース SQL、DB6000→オラクル
・プログラム言語 VB、コボル→JAVA」
 そして、貸出君について、第23期上期の開発計画にあった商品施策のうち、上期に完成に近いものは「ASP版のweb化」「画像データ処理の開発」「単品管理システムの確立」及び「貸出君ナビゲーションの完成」の4システムであり、「今後この商品を積極的に販売してゆきたいと考えている。」とされており、下期の開発計画においては「T(小文字)ASP版の入力画面の大幅変更」「U(小文字)ASP版の仕入管理システム改良版完成」「V(小文字)Linux版プロトタイプの完成」及び「W(小文字)ASP版と財務システムの連動(ERP化に向けて)」のみが挙げられ、「win版の早期完成」「win版廉価バージョン」には触れられていない。
(d) 乙第8号証(「23期下期開発部方針」)は、乙第7号証でX2が示した商品施策を受けてX4が作成したもので、上記商品施策を実行するための具体的な活動方針が記載されているが、乙第8号証には、Win版廉価バージョン等については何ら触れられていない。
c KCSらは、第23期上期・下期の開発方針を定めた(a)ないし(d)の記載のうち、ASP版については、@乙第5号証の「2.商品施策」の「貸出君」の欄に「ASP版のWeb化」との記載があること、乙第6号証の「2.商品化計画」のEに「ASPシステムのWeb化」として「画面の見映えを強化して行きます。」との記載があるが、これが貸出君ASP新版のことであり、また、乙第7号証の「2.商品施策」の「貸出君」の欄に「ASP版の入力画面の大幅変更」との記載があること、乙第8号証の「1.商品化計画」のEに「ASP貸出君の入力画面の変更」として「入出庫の画面を伝票形式に対応し入力の簡素化及び画面イメージを良くする。」との記載があることからして、ASP版を入力簡素化して商品化していく計画が立てられていたことは明らかであると主張する。また、Win版についても、@乙第5号証の「2.商品施策」の「貸出君」の欄に「Win版廉価バージョン」との記載があること、A乙第6号証の「2.商品化計画」の@に「For・Win 廉価版」との記載があり、また、同号証の3頁に「For Win 廉価版」の開発スケジュールが記載されていることを挙げ、KCSではそのころ(平成13年9月ころ)貸出君新版プログラムの開発が着手された旨主張する。
d しかし、上記cで挙げた第23期開発方針(乙5ないし8)の記載からは、ASP版についてWeb化が計画されたこと、Win版について廉価バージョンの開発が計画されたことが読み取れるものの、これらの計画が実際に実行に移され、貸出君新版プログラムが実際にKCSにおいて開発に着手され、完成に近いことについての記載はなく、このことを推認するに足りる記載もない。
 そもそも、「ASP版のWeb化」とは、前記(1)ア(イ)bのとおり、「貸出君」のASP版をインターネット網を使って動かすという意味であり、具体的には、従来ネットワーク上では高額の電話料金がかかっていたのが、インターネット(ブロードバンド)網を使うことによって、料金が数段安くなるというメリットがあるところ、ASPではバージョン17からWeb機能が強化され、かつ、通信についてインターネット網が使えるものになったことから、「貸出君」のASP版についても同バージョンを採用する、という意味にすぎず、これをもって新たなプログラムとしての「貸出君ASP新版」プログラムといえるかどうかは甚だ疑問である。この点はさておくとしても、第23期下期開発方針(乙7、8)には、上記bのとおり、「完成に近いものは『ASP版のweb化』」としながら、下期の開発計画として「ASP版の入力画面の大幅変更」を挙げており、このことからは「ASP版のWeb化」といっても、第23期下期開始の段階においても、開発着手に至っていたかどうか甚だ疑わしい段階にとどまっていたことがうかがえる。また、第23期下期の開発方針として「ソリューションビジネスの世界においては、何もかもwindowsを利用するという前提条件がエンタープライズ市場では大幅に見直しがかけられ、Linuxを中心としたOSをベースにそれぞれのアプリケーションが考えられ、定着してゆこうとした動きになっている。windowsの限界と、利用目的を十分に調査することにより、windowsの利用の範囲が今後ますます限定的なものになってくるはずであり、当社もLinuxにおけるアプリケーション開発体制の整備を今後2年間程度の間で進めてゆく必要がある」などとして、Windows、ASPからの脱却とLinuxへの移行の必要性が強調されているところである上、「win版の早期完成」「win版廉価バージョン」には触れられていないことなどを考慮すると、そのころ「貸出君 for win 廉価版」の開発に着手していたか甚だ疑問があり、まして相当程度開発が進んでいた状態であったとは到底認められないものというべきである。
e この点について、X4は、Win版に関する第23期当時の開発計画の立案及び開発状況について、その陳述書(甲101)及び証人尋問において、要旨次のとおり供述している。
 貸出君Win版は、平成8年ころから開発を始めたが、平成9年になっても完成しなかった。平成9年度末に漸く1社に納品するに至ったものの、稼動できずに契約が終了してしまった。その後、Win版の手直しを行い、平成9年9月から11月ころ1社に納品したが、これも稼動せず、更に平成10年2月から3月ころ1社に納品したが、これも稼動しなかった。その後更に修正を加えて、平成10年夏ころ1社に納入したものは何とか稼動できる状況になったが、Win版については上記のような不始末が続発したことから、KCSとしては、ASP版を販売した方が顧客に迷惑をかけないで済むため、KCSとしては、Win版の販売には積極的ではなかった。それでも、顧客からWin版を求められることがあり、平成11年ころ以降、Win版の販売は継続したが、販売実績は、年間3ないし4台程度で推移した。ところが、平成13年ころ、過去にWin版を納入した顧客から、データが累積されるとスピードが遅い、更新時間がかかりすぎる等のクレームが多発し始め、その対応に時間を取られるようになった。ちょうどそのころ、営業部門から、もっと安く販売できるWin版を、データベースをオラクルにして開発して欲しいとの依頼があり、Win版の廉価版の開発を計画した。これが、KCSらが主張する「貸出君 for win 廉価版」であり、乙第6号証の「2.商品化計画」の@の欄に記載のある「For・Win廉価版」のことである。しかし、Win版に対するクレームが続発したため、その対応を急がなければならず、廉価版の開発に着手できるような状況にはなく、第23期上期においては、廉価版は、開発に着手すらできなかった。また、Win版の廉価版については、第23期下期における継続案件にはならなかった。このことは、乙第7号証に明示し、乙第8号証にも記載してあるとおりである。Win版の廉価版が継続案件とならなかったのは、第23期下期の開発方針として、Win版やASP版よりも、Linux版を開発した方が企業としてのイメージアップを図ることができ、システム開発のオピニオン的存在ともなることができるとの考えによるものである。また、貸出君Win版の修正も完了し、顧客からのクレームも終息したことから、今更同じWin版を作る必要もないとの判断が働いたこともある、と。
 X4の上記証言は、乙第5号証ないし第8号証の記載にも符合するものであり、その内容も合理的で不自然なところが見当たらないから、信用性が高いものというべきである。そうすると、乙第5号証ないし第8号証に、X4の上記証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、貸出君Win版については、平成13年ころから顧客からのクレームが多発し、KCSではその対応に時間を取られるなどして、結局、第23期上期においては、Win版廉価版の開発に着手することができなかったこと、また、第23期下期の開発方針としても、Win版やASP版からLinux版に開発の重点を移すことを決めたことや、貸出君Win版の修正が完了して顧客からのクレームが終息したことなどから、Win版廉価版については継続開発案件とはならなかったことが認められ、結局、KCSは、「貸出君 for win 廉価版」なる名称のプログラムについては、開発に着手したとは認められず、まして開発が相当程度進んで平成15年1月ころには完成に近かったなどということは認められない。
 なお、KCSらは、乙第7号証及び乙第8号証には「貸出君 for win廉価版」の開発を引き続き進めていることが記載されていると主張する。KCSらの上記主張は、乙第7号証については「2.商品施策」の「貸出君」の欄に、「上期に開発計画の予定が次のアプリケーションであった。」として「W(小文字)win版廉価バージョン」の記載があり、これに続けて「上期に完成に近いものは(U(小文字))、(V(小文字))、(X(小文字))、(Y(小文字))の4システムであり、今後この商品を積極的に販売してゆきたいと考えている。…次に下期の開発計画であるが、上期の残し仕事を完成さす事と同時に次の計画を実現する。」との記載があり、「下期の開発計画」として、「上期の残し仕事」の1つである「W(小文字)win版廉価バージョン」を「完成」させる旨が記載されており、乙第8号証については、「I.活動方針」の冒頭に「商品化計画に基づく商品の完成。上期に計画した商品化計画8つに対し、実績としましては、4つに終わってしまいました。下期も引継ぎ行っていくと同時に新たな商品化計画も行って参ります。」として、上期に計画しながら実績のなかった商品化計画について、下期も引き続き行っていく旨が記載されている、との主張と解される。
 しかし、Win版廉価版の開発については、乙第7号証及び乙第8号証のいずれにも具体的な計画は一切記載されておらず、上記のような記載をもって、Win版廉価版の開発計画が具体化していたということはできないし、まして、Win版廉価版の開発に着手していたことを認めることはできない。
f また、X4は、ASP版に関する第23期当時の開発計画の立案及び開発状況について、証人尋問において要旨次のとおり証言している。
 「ASP新版」というのは、この訴訟になって初めて聞いた名前である。「ASPのWeb化」とは、貸出君ASP版をインターネット網を使って動かすという意味であり、具体的には、ASP(富士通が出しているOS)がバージョン17から通信についてインターネット網が使えるものになったことから、ASP版について、ASPのバージョン17を使用することを計画したことを指す。従来ネットワーク上では高額の電話料金がかかっていたのが、インターネット網を使うことによって料金が数段安くなるというメリットがあるためである。そして、KCSでは、ASPのバージョン17を使用して実際にテストを行ったが、動くには動いたものの、スピードが全く追い付かず使用に耐えないことから、その時点でASP版のWeb化は断念した、と。
 X4の上記証言は、乙第5号証ないし第8号証の記載に符合するものであり、信用性が高いと認められ、X4の上記証言に、乙第8号証の「1.商品化計画」のEの欄に「Web化対応のビジュアルを進める。」との記載があることからすれば、乙第8号証が作成された平成14年3月時点においても未だ「Web化対応のビジュアル」化さえ完成していなかったこと、すなわち、Webを介しての操作性が確保された状態にさえ至っていなかったことが認められる。その他弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、貸出君ASP版については、第23期において「ASP版のWeb化」、すなわち、ASP(富士通が出しているOS)のバージョン17の採用を計画し、実際にバージョン17を使用してテストも行ったが、その結果、使用に耐えないことが判明し、平成14年3月時点においても未だ、「Web対応のビジュアル」というWeb化のためのごく初期の開発さえ完成していなかったことが認められる。そして、その後KCSが「Web対応のビジュアル」化に着手したことを認めるに足りる証拠はなく、他に、KCSが平成15年1月ころまでに「貸出君ASP新版」プログラムをほぼ完成させていたことを認めるに足りる証拠はない。
g 以上のとおり、平成15年1月当時、KCS元従業員らにより貸出君新版プログラムがほぼ完成していたことはおろか、その開発に着手していたとも認めることはできない。
(ウ) 「ミスターアドバンス」の名称が定められた時期
a KCSらは、遅くとも平成15年1月10日までには、KCSにおいて新たに開発した貸出君新版の名称を「ミスターアドバンス」とすることが決まっていたとして、この名称に対応する貸出君新版プログラムが開発されていたと主張し、その根拠として、@平成14年11月23日に行われたミーティングの席上、当時システム部課長補佐であったP10補佐が、X2から、新しいソフトの名称は「ミスターアドバンス」であるとの説明を受けたとのP10補佐の陳述書(乙63)の記載、A「ミスターアドバンス」のプログラム定義書(RBCらによれば作成日付平成15年1月10日。甲20の5)のユーザー名欄に「Mr.Advance」と明記されていること、以上の2点を挙げる。仮に、KCSらの上記主張どおりであるとすれば、RBCプログラム発売前の遅くとも平成15年1月10日の段階で、KCS社内において新しいソフトが開発されており、しかもその名称がRBCプログラムの初期の名称と同じ名称が考えられていたことになり、貸出君新版プログラムが既に開発されていたばかりでなく、X1ら8名が貸出君関連成果物を持ち出したことを示す有力な間接事実になり得る。
 そこで、上記@及びAの根拠について順次検討する。
b @について
 乙第63号証(P10作成の陳述書)には、「平成14年11月23日に有限会社エムエスシィの事務所で行われたミーティングにおいて、X2から、KCSで開発しているパッケージソフトウェアが『ミスターアドバンス』という名前で開発が進んでいると聞いた。」旨の記載がある。また、同号証には、「貸出君の新しいソフトウェアの開発に関しては、開発課方針で概要は把握していたが、具体的な開発状況は、X2を中心とする十数回行われたミーティングで説明を受けていた。」旨の記載もある。
 しかし、P10補佐は、当時KCSのシステム部課長補佐であったところ、十数回行われたミーティングで貸出君新版プログラムの具体的な開発状況について説明を受けていたと言いながら、上記乙第63号証には説明を受けていたという具体的な開発状況の内容に関する記載はなく、甚だ漠然としている。また、具体的な開発状況について説明を受けたのなら配布されていてしかるべき具体的な開発状況を記載したミーティング資料等の裏付け証拠も提出されていない。そして、平成14年11月23日(この日は祝日〔勤労感謝の日〕であるが)に有限会社エムエスシィの事務所内で何らかのミーティングが行われたことは認め得るとしても、その際に開発中のパッケージソフトウェアの名称が「ミスターアドバンス」であると聞かされたという点は、これも甚だ漠然とした内容にとどまり、その際に上記ソフトウェアがどのような開発段階にあったのか、「ミスターアドバンス」なる名称がいかなる経緯でいかなる理由により採用されることになったのか、そのような話がどのような文脈で出たのかなど、当時の具体的な状況に関する陳述は一切ない。また、その状況を記載したミーティング資料等の裏付け証拠も提出されていないことは上記同様である。したがって、RBCらがこれらの事実を否認している以上、上記陳述記載を裏付ける証拠もない状況の下で、上記陳述書の漠然とした記載のみをもって平成14年11月23日にX1ら8名を含むKCSの元従業員らが「ミスターアドバンス」の名前で貸出君新版プログラムの開発を進めていたとの事実が認定できるものではない。
c Aについて
 甲第20号証の5は、RBCらが開発したプログラムのプログラム定義書としてRBCらが証拠として提出したものであり、「作成日」欄に「平成15年1月10日」、「ユーザー名」欄に「Mr.Advance」との各記載がある。
 上記プログラム定義書の記載は、同プログラム定義書が平成15年1月10日に作成され、その時点で既に同プログラム定義書に係るプログラムに「Mr.Advance」の名称が付されていたを示すものである。
 この点に関し、RBCらは、上記プログラム定義書に係るプログラムの作成を開始したのは、「作成日」欄の記載どおり平成15年1月10日であること、しかし、上記プログラム定義書自体が作成されたのは、それよりもずっと後の時点であること、すなわち、RBCプログラムの開発については、開発当初は、X3ら数名で開発を行っており、きちんとしたプログラム定義書を作成する余裕がなく、メモ書き程度のものを残して次々とプログラムを開発していたこと、その後、順次KCSを退職した従業員がプログラム開発を手伝うようになり、RBCを設立して開発担当者が増えてくるとX3にも余裕ができ、過去に作成したプログラムについて、残しておいたメモを見ながらプログラム定義書を作成する作業ができるようになったこと、そして、甲第20号証の5のプログラム定義書を実際に作成したのは、平成15年1月10日よりもずっと後の時点であり、その時には既にソフトの名称が「Mr.Advance」と決まっていたため、「ユーザー名」欄にこの名称を入力したと主張する。
 この主張内容は、プログラム定義書の実際の作成手順としてあり得ないものではない。上記プログラム定義書の「作成日」の記載は、プログラム自体の作成日かそのプログラム定義書の作成日かの2通りの読み方が可能であるが、前者の読み方が可能であり、プログラム定義書の作成日を指すものではないとすれば、上記プログラム定義書記載の「作成日」の記載のみから、同プログラム定義書自体が平成15年1月10日に作成されたと認めることはできない。そして、上記プログラム定義書が綴られている「得意先マスタメンテナンス(MAMAA1A)」と題する書面(甲20の1〜23)の2枚目(甲20の2)及び3枚目(甲20の3)はソースリストであるところ、これら両ページには、同プログラム定義書に係るプログラムの作成日を示す「新規作成」の日付欄に「030121」の記載があるところ、この記載から読みとることのできる日付は平成15年1月21日であって、同プログラムの作成開始日が平成15年1月10日であるとのRBCの上記主張に沿うものである。
 したがって、甲第20号証の5にKCSら主張の記載があることをもって、遅くとも平成15年1月10日までにKCSにおいて新たに開発した貸出君新版ソフトの名称を「ミスターアドバンス」とすることが決まっていたものとはいえない。
d 以上によれば、遅くとも平成15年1月10日までには、KCSにおいて新たに開発した貸出君新版の名称を「ミスターアドバンス」とすることが決まっていたとのKCSらの上記主張事実は認められない。
(エ) 「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)について
a KCSらの主張及び証拠関係
 KCSらは、乙第9号証は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルであると主張し、これについて、要旨、次のとおり主張する。すなわち、X4らは、平成15年1月ころまでに「貸出君 for win 廉価版」の開発をほぼ完成させ、X4はKCSのインストラクターの地位にあったP11に指示して、そのオペレーションマニュアルを作成させた。P11は、同月22日から同年2月7日にかけて、「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながらそのマニュアルを作成した。このマニュアルが乙第9号証である、と。P11は、当審における証人尋問で同旨の証言をするところ、仮にP11の証言どおり、P11が同月22日から同年2月7日にかけて「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながら乙第9号証を作成したのだとすれば、「貸出君 for win廉価版」に関する限り、遅くとも平成15年1月22日までにはシステムとして完成していたことになり、これは、RBCプログラムが、RBCの関係者が持ち出した「貸出君for win 廉価版」を複製ないし翻案して作成したものであるとのKCSらの主張を裏付ける有力な間接事実になり得るものである。そこで、P11の上記証言の信用性を中心に検討する。
b 乙第9号証のオペレーションマニュアルに「貸出君 for win 廉価版」として記載されたプログラムは正常に稼動するものか
 上記のとおり、P11は、「貸出君 for win 廉価版」のシステムを実際に稼動させながらその乙第9号証を作成したと証言する。しかし、そうであるとすれば、当然、「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムが乙第9号証に記載されたとおりのプログラムとして、正常に稼動したはずである。それが正常に稼動しないプログラムであれば、それを稼動させながらオペレーションマニュアルを作成することなどできるはずがないからである。ところが、以下のとおり、「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムとして乙第9号証に記載されたプログラムは、正常に稼動することがあり得ないものと認められ、「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムを「実際に稼動させながら」乙第9号証を作成したとのP11の証言部分は真実に反することになり、信用性を欠くことになるというべきである。その理由は次のとおりである。
(a) 異なるコード表示
T 証拠(甲13、33、150、証人X3)及び弁論の全趣旨によれば、コンピュータシステムの開発手順としては、まずマスター系を開発し、その後、処理が必要とされる業務について順次プログラムを構築していくものであり、マスターの内容は業種や業界によって特徴があるが、いずれにしろ一旦マスターにおいて決定された各項目の条件(たとえば、得意先コード及び仕入先コードの桁数、区分コードaA項目の名称等)は、同じコンピュータシステム内のプログラムでは同一のものが使用される必要があり、たとえば、給与計算のコンピュータシステムの例において、給与受給者(従業員)「山田太郎」のコードb一旦「2222」と4桁で決定すれば、この「山田太郎」の毎月の給与明細書には常に「2222」というコードbェ表示され、ある月の給与明細書には「2222」という4桁のコードbェ表示されたが、別の月の給与明細書にはたとえば「66」のような2桁のコードbェ表示されるということは起こり得ないことが認められる。
U ところで、乙第9号証の1の1は、その表紙に記載のあるとおり「マスタ登録業務」についてのオペレーションマニュアルとされるものであるから、各プログラムは、このマスタ上で規定された桁数、区分を表す記号、項目の名称などの条件によって作成されているはずであり、同一のコンピューターシステム内において、マスタ上で規定された桁数がページによって異なったり、同じ区分を示す記号がページによって異なったり、同じ項目を示す名称がページによって異なったりすることはないはずである。
 しかるに、乙第9号証の1の1を見ると、同じであるべき桁数、同じであるべき区分aA同じであるべき名称が異なる例が散見される。すなわち、@「得意先コード」の桁数についてみると、「得意先マスタ登録・修正・削除」のプログラムでは7桁となっている(「2−1」ページ)のに対し、「得意先別単価マスタ一覧表」のプログラムでは同じ得意先コードの桁数が6桁になっており(「2−46」ページ)、「掛率マスタ一覧表」のプログラムでも得意先コードの桁数が6桁になっている(「2−53」ページ)。また、A「仮設」という商品区分を示す記号についてみると、「商品マスタ登録・修正・削除」のプログラムでは「B」となっている(「2−16」ページ)のに対し、「修理マスタ登録・修正・削除」のプログラムでは「K」となっている(「2−54」ページ)。さらに、B項目の名称についてみると、「機械マスタ登録・修正・削除」のプログラム(「2−21」ページ)において「機械マスタ」、「商品コード」、「レンタルNo」という名称が付されている各項目について、「単品マスタ一覧表」のプログラム(「2−24」ページ)では「単品マスタ」、「型式コード」、「リースNo」という名称が付されており、統一がとれていない。
(b) 存在しないプログラム
T 乙第9号証の1の1は、「マスタ登録業務」についてのオペレーションマニュアルとされるものであり、その構成は、たとえば、「2−1」ページの最上段に記載された「得意先マスタ登録・修正・削除」というマスタプログラムが存在することを前提として、「2−1」ページから「2−4」ページにおいてプログラムの内容が説明されている。したがって、乙第9号証の1の1中にプログラム名の記載があれば、同じ乙第9号証の1の1中にその名称のプログラムの内容が説明されたページが存在するはずである。
U しかるに、乙第9号証の1の1を見ると、存在するはずのプログラムについて、その内容が説明されたページが存在しないものがある。
 すなわち、乙第9号証の1の1には、「型式マスタ登録・修正・削除」という記載がある(「2−4」ページ上から17行目、「2−26」ページ下から4行目、「2−27」ページ下から3行目、「2−28」ページ最下行、「2−45」ページ最下行、「2−49」ページ最下行、「2−54」ページ下から8行目、「2−55」ページ下から3行目)から、乙第9号証の1の1中に「型式マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムの内容が説明されたページが存在するはずであるが、乙第9号証の1の1中にはそのようなページは存在しない。
(c) 上記(a)(b)のとおり、乙第9号証の1の1について見ただけでも、桁数が同じでなければならない部分が違う桁数になっていたり、存在しない「型式マスタ登録・修正・削除」という項目が何度も出てくるなど、乙第9号証のマニュアルどおりのプログラムが存在するとしても、そのようなプログラムは稼動するものではないことが明らかである。
 P11の証言によれば、平成15年1月22日から同年2月7日にかけて、「貸出君for win 廉価版」プログラムを実際に稼動させながらそのオペレーションマニュアル(乙9)を作成したというのであるところ、乙第9号証のマニュアルどおりのプログラムでは実際に稼動しないことが明らかであるから、P11の証言はこの点において不自然、不合理といわざるを得ない。もっとも、P11が稼動し得る正常なプログラムを稼動させながら、マニュアルに誤った記載をしたにすぎない可能性も考えられないではない。しかし、P11は証言中でそのような可能性に何ら触れていないし、上記食い違いは単なる転記ミスではあり得ない致命的なものであり、単純な転記ミス等の可能性は低く、依然としてP11の上記証言には重大な疑問を差し挟まざるを得ない。
(d) なお、KCSらは、乙第9号証のオペレーションマニュアルが平成15年1月22日から同年2月7日にかけて作成されたことは、同マニュアルが保存されているファイルの更新日(乙10)によって明らかであると主張する。なるほど、乙第10号証の画面の「更新日時」欄を見ると、乙第9号証に係るファイルの更新日として、2003年(平成15年)1月30日から同年2月7日までの日が表示されている。
 しかし、証拠(甲29、証人X4)及び弁論の全趣旨によれば、乙第10号証のような画面、すなわち「更新日時」欄のみならず、「サイズ」欄についても、作成者の意図した表示がなされるような画面を作成することは困難なことではないことが認められる。現にRBCらは、乙第10号証に対する反証とするために、「更新日時」欄及び「サイズ」欄の表示が乙第10号証と同一の画面(甲29)を作成してみせている。KCSらは、RBCらが乙第9号証をデータの形で持っていてそれをコピーしたからこそ、甲第29号証の作成が可能であった旨主張するが、甲第29号証に表示されているファイルが乙第9号証と同一内容のものであるとする証拠はなく、採用することができない。したがって、乙第10号証も、甲第29号証と同様、KCSが本件訴訟で使用するために意図的に作成されたものである疑いを払拭できない。
(e) なおまた、KCSらは、P11の作業日報(乙54の1〜12)も同人が乙第9号証のオペレーションマニュアルの作成に携わっていたことを示していると主張する。
 P11の作業日報(乙53の1〜3、乙54の1〜12)の「作業内容」欄を見ると、乙第9号証のオペレーションマニュアルの作成と関連があると思われる記載は「オペマニ修正」(乙53の3、乙54の1〜9)のみであるところ、「オペマニ修正」との記載だけでは、何のオペレーションマニュアルの修正作業を行っていたのか明らかではなく、この記載が乙第9号証の作成(修正)のことを指しているかどうかが明らかでない。また、KCSらの主張によっても、RBCソフトは、KCS内で開発されていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり、KCSが従前から販売していた「貸出君」のプログラムに変更や修正を加えたものではないというのであるから(第1事件のKCSの平成16年3月18日付け準備書面(1)4ページ)、「作成」ではなく「修正」(「修正」とは取りも直さずKCSが当時販売していた「貸出君」のプログラムを修正したという意味であると解される。)と記載していることも不自然である。したがって、乙第53、第54号証(枝番を含む。)の記載から、P11が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)の作成作業に従事していたことを認定することはできない。
(f) KCSらは、P11にはオペレーションマニュアルの作成能力がなかった等のRBCらの主張に対し、マニュアルの改訂作業は、旧マニュアルを参照しながら、新しい画面の内容や動きをチェックしながら適宜項目を追加したり、入力内容の説明を行ったりという修正を加えていくものであり、P11でも十分可能な作業であるなどと主張する。しかし、「貸出君for win 廉価版」プログラムがKCS内で開発されていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり、RBCプログラムはこれを複製・翻案したものであって、KCSが従前から販売していた「貸出君」のプログラムに変更や修正を加えたものでないことは、KCSらの自認するところであるから、乙第9号証は、当時KCSが販売していた「貸出君」に単純な変更や修正を加えたにすぎないものではなく、プログラム構造の異なる新たなプログラムとして構成された「貸出君for win 廉価版」プログラムのオペレーションマニュアルとして作成されたものということになる。そうだとすれば、RBCらの指摘するとおり、その開発者から具体的な説明を受けることなく、また、開発に関するドキュメント等をみせられることのないまま、単にプログラムを稼動させた画面を見ただけで、かかる短期間のうちに乙第9号証を完成させたというのは、P11の経験年数を考慮すると、やはり不自然であるとの疑問を払拭し得るものではない。
c 小括
 以上によれば、乙第9号証は、実在するプログラムないしソフトとしての「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルであると認めることはできず、この認定に反する証人P11の証言は上記のとおり不自然で信用できないから、乙第9号証の存在及びP11の証言をもってしても、P11がX4からオペレーションマニュアル(乙9)の作成を命じられたという平成15年1月下旬ころに「貸出君 for win 廉価版」が開発され、その成果物がKCS社内に存在していたことを推認することはできない。
d 乙第9号証は何に基づいて作成されたものであるか
 上記のとおり、乙第9号証のオペレーションマニュアルは、実在するソフトウエアである「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルとして作成されたものとは認められない。そうであれば、乙第9号証は果たして何に基づいて作成されたものであるかが疑問として残る。この点については、本件においては傍論になるものの、若干の検討をしておくこととする。
 前記bの(a)及び(b)で認定した事実に、次の(a)ないし(c)で認定する事実を併せ考慮すると、以下のとおり、乙第9号証は、KCSが当時販売していた「貸出君for Windows ver3.0」のオペレーションマニュアル(甲87。以下、単に「甲第87号証」又は「甲87」ともいう。)を基本にしつつ、甲第87号証に記載のない点については、RBC販売のソフト「Team S」のオペレーションマニュアル(甲96。以下、単に「甲第96号証」又は「甲96」ともいう。)の該当する部分を合体して作成したものである疑いがあるものというべきである。
(a) 乙第9号証の表紙のデザインが甲第87号証と同じであること
 証拠(甲87、乙9の1の1、乙9の2の1、乙9の3の1)及び弁論の全趣旨によれば、乙第9号証の1の2の「Aマスタ登録業務」と記載された表紙には、小さな葉のようなロゴが記されていること、このロゴは、KCSが、平成14年から15年当時顧客に配布していたオペレーションマニュアル(甲87)の表紙に使われていたものと全く同じものであること、このロゴは、RBCが使用しているワープロソフトWordの「クリップアート」で標準装備されておらず、KCS独自のものであること、その他、乙第9号証の各章ごとの表紙(乙第9号証の1の1、2の1、3の1の各1枚目)のデザインが、甲第87号証の各章ごとの表紙のデザインと全く同じであること、以上の事実が認められる。RBCらは、乙第9号証は、X4がKCSを退職する1か月程前に現在のRBCのために部下を使って作成させたというのであるとすれば、既に、KCSが表紙に使っていたものと同一のロゴを使用することなどおよそあり得ない旨主張する。しかし、X4から作成の指示を受けたP11が、X4の意図を察知せずにKCSのソフトのオペレーションマニュアルとして乙第9号証を作成したものであるとすれば、ロゴが同じであっても不自然ではない。したがって、この点は、P11の証言を減殺する事情ということはできず、RBCらの上記主張は理由がない。
(b) マスタ登録関係のプログラムについて
 マスタ登録関係のプログラムについて、乙第9号証に記載のあるプログラムを見ると、甲第87号証に乙第9号証と同一の記載があるプログラムが多数記載されており、甲第87号証に記載されていないプログラムは、これに該当するプログラムが甲第96号証に記載されていることが認められる。具体的には次のとおりである。
T 「?単品マスタ一覧表」と「機械マスタリスト」
 乙第9号証の1の1の「2−24」ページには「?単品マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「?単品マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、甲第96号証においてこれに該当するのは、「機械マスタリスト」という名称のプログラムである(「2−25」ページ)。
 これに対して、甲第87号証には、「単品マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載がある(「2−24」ページ)。
U 「?セット物マスタ 登録・修正・削除」と「?セット商品マスタメンテナンス 登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−27」、「2−28」ページには「?セット物マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「?セット物マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、甲第96号証においてこれに該当するのは、「セット商品マスタメンテナンス 登録・修正・削除」という名称のプログラムである(「2−28」、「2−29」ページ)。両プログラムは、画面の項目名及びデザインが異なり、その他説明内容も異なる。
 これに対して、甲第87号証には、「セット物マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−27」、「2−28」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面の項目名及びデザインが同一であり、また、説明内容も同一である。
V 「?締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」と「締日マスターメンテナンス登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−29」、「2−30」ページには「?締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「?締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、甲第96号証においてこれに該当するのは、「締日マスタメンテナンス 登録・修正・削除」という名称のプログラムである(「2−39」ページ)。両プログラムは、画面の項目名が異なり、その他説明内容も異なる。
 これに対して、甲第87号証には、「締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−29」、「2−30」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面の項目名が同一であり、説明内容も同一である。
W 「?仕入締日コントロールマスタ登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−31」、「2−32」ページには「?仕入締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「?仕入締日コントロールマスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「仕入締日コントロールマスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−31」、「2−32」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面の項目名その他説明内容が同一である。
X 「名称マスタ一覧表」
 乙第9号証の1の1の「2−35」ページには「名称マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「名称マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「名称マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があり(「2−35」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面の項目名その他説明内容が同一である。
Y 「担当者マスタ一覧表」
 乙第9号証の1の1の「2−38」ページには「担当者マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「担当者マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「担当者マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があり(「2−38」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面の項目名その他説明内容が同一である。
Z 「得意先別単価マスタ登録・修正・削除」と「得意先別単価マスタメンテナンス 登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−42」〜「2−45」ページには「得意先別単価マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「得意先別単価マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、甲第96号証においてこれに該当するのは、「得意先別単価マスタメンテナンス登録・修正・削除」という名称のプログラムである(「2−42」、「2−43」ページ)。両プログラムは、画面が異なり、その他説明内容も異なる。
 これに対して、甲第87号証には、「得意先別単価マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−42」〜「2−45」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
[ 「得意先別単価マスタ一覧表」
 乙第9号証の1の1の「2−46」ページには「得意先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「得意先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「得意先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があり(「2−46」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
\ 「仕入先別単価マスタ登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−47」〜「2−49」ページには「仕入先別単価マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「仕入先別単価マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「仕入先別単価マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−47」〜「2−49」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
] 「仕入先別単価マスタ一覧表」
 乙第9号証の1の1の「2−50」ページには「仕入先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「仕入先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「仕入先別単価マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があり(「2−50」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
XT 「得意先別現場別単価掛率マスタ 登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−51」、「2−52」ページには「得意先別現場別単価掛率マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「得意先別現場別単価掛率マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「得意先別現場別単価掛率マスタ登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−51」、「2−52」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
XU 「掛率マスタ一覧表」
 乙第9号証の1の1の「2−53」ページには「掛率マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「掛率マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載はなく、これに該当するプログラムに関する記載も存在しない。
 これに対して、甲第87号証には、「掛率マスタ一覧表」という名称のプログラムについての記載があり(「2−53」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
XV 「修理マスタ登録・修正・削除」と「修理マスタメンテナンス 登録・修正・削除」
 乙第9号証の1の1の「2−54」、「2−55」ページには「修理マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があるが、甲第96号証には「修理マスタ 登録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載はなく、甲第96号証においてこれに該当するのは、「修理マスタメンテナンス登録・修正・削除」という名称のプログラムである(「2−30」」ページ)。両プログラムは、画面の項目名が異なり、説明内容も異なる。
 これに対して、甲第87号証には、「修理マスタ録・修正・削除」という名称のプログラムについての記載があり(「2−54」、「2−55」ページ)、乙第9号証の1の1と、画面その他説明内容が同一である。
(c) 業務関係のプログラムについて
 業務関係のプログラムについては、マスタ登録のプログラムとは逆に、乙第9号証に記載のあるプログラムについて甲第87号証に記載のないものが多く、このようなプログラムについては、甲第96号証に乙第9号証とほぼ同一の記載があるプログラムが多数記載されている。具体的には次のとおりである。
T 「入金入力」
 乙第9号証の3の1の「2−6」、「2−7」ページには、「入金入力」という名称のプログラムについての記載があり、甲第96号証にも「入金入力」という名称のプログラムについての記載がある(「4−8」、「4−9」ページ)。両者は、画面の項目の配置及び説明内容に若干異なる部分があるが、大半の部分は共通している。
 これに対して、甲第87号証にも、「入金入力」という名称のプログラムについての記載があるが(「4−9」ページ)、乙第9号証の1の1とでは、画面及び説明内容とも、かなりの部分が相違する。
U 「レンタルNo.問合せ」と「レンタルNO貸出照会」
 乙第9号証の4の1の「2−4」ページには、「レンタルNo.問合せ」という名称のプログラムについての記載があり、甲第96号証には「レンタルNO貸出照会」という名称のプログラムについての記載がある(「3−18」ページ)。両者は、入力項目一覧表の記載が一部異なるが、大半の部分は共通している。
 これに対して、甲第87号証には、「レンタルNo.問合せ」に該当するプログラムについての記載はない。
V 「未:入出庫問合せ」と「入出庫参照」
 乙第9号証の4の1の「2−5」ページには、「未:入出庫問合せ」という名称のプログラムについての記載があり、甲第96号証には「入出庫参照」という名称のプログラムについての記載がある(「3−11」ページ)。両者は、入力項目一覧表の記載が一部異なるが、大半の部分は共通している。
 これに対して、甲第87号証には、「未:入出庫問合せ」に該当するプログラムについての記載はない。
W 「販売明細問合せ」と「販売明細照会」
 乙第9号証の4の1の「2−6」ページには、「販売明細問合せ」という名称のプログラムについての記載があり、甲第96号証には「販売明細照会」という名称のプログラムについての記載がある(「4−6」、「4−7」ページ)。両者は、入力項目一覧表の記載等が一部異なるが、大半の部分は共通している。
 これに対して、甲第87号証には、「販売明細問合せ」に該当するプログラムについての記載はない。
X 「入金明細問合せ」と「入金明細照会」
 乙第9号証の4の1の「2−7」ページには、「入金明細問合せ」という名称のプログラムについての記載があり、甲第96号証には「入金明細照会」という名称のプログラムについての記載がある(「4−12」ページ)。両者は、大半の部分が共通している。
 これに対して、甲第87号証には、「入金明細問合せ」に該当するプログラムについての記載はない。
(d) まとめ
 以上によれば、乙第9号証のオペレーションマニュアルは、マスタ登録関係プログラムにおいては、甲第87号証に乙第9号証と同一の記載があるプログラムが多数記載されており、甲第87号証に記載されていないプログラムはこれに該当するプログラムが甲第96号証に記載されている一方、業務関係プログラムにおいては、これとは逆に、乙第9号証に記載のあるプログラムについて甲第87号証に記載のないものが多く、このようなプログラムについては、甲第96号証に乙第9号証とほぼ同一の記載があるプログラムが多数記載されているという特徴がある。そうすると、その体裁からは、乙第9号証は、まず、KCSが当時販売していた「貸出君 for Windows ver3.0」のオペレーションマニュアル(甲87)に依拠しつつ(このこと自体はKCSらも同旨の主張をしている。)、マスタ登録関係プログラムについては、甲第87号証に記載のないプログラムについてRBCの販売するソフトウエアである「Team S」のオペレーションマニュアル(甲96)のうちから該当するプログラムの部分を取り出してこれを合体して作成したものであり、他方、業務関係プログラムについては、従来の貸出君プログラムにはなかったプログラムが多かったことから、甲第96号証に記載のものを借用して作成したものと推認するのがより合理的であると認められる。そして、RBCの販売するソフトウエアである「Team S」のオペレーションマニュアルである甲第96号証が作成されたのは、平成15年8月ないし9月ころのことであるから、乙第9号証は、本件訴訟が提起された後に、同年1月ころに「貸出君 for Windows 廉価版」がKCS社内で既に開発されていたことを証明するために、ことさら作成されたものである疑いがあるものというべきである。
(オ) 貸出君関連成果物の持出し等
a 貸出君関連成果物の持ち出し
 KCSらは、KCSの元従業員が、平成15年3月までに貸出君新版プログラム(「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラム)及び貸出君プログラム並びにこれらプログラムに係る開発用書類等(貸出君関連成果物)を持ち出したと主張し、証拠(乙52、Y1本人)はこれに沿う。
 しかし、証拠(乙52、Y1本人)中、KCSらの上記主張に沿う部分は信用できない。その理由は以下のとおりである。
(a) KCSらは、KCSが貸出君関連成果物等の盗難被害の事実を知ったのは、Y1が平成15年3月6日にKCSの営業所が存在するビルの管理人から、KCS従業員がKCSの書類等を大量に持ち出しており、とりわけ、X4においては、休日に届出もせずに出社して大量の資料を持ち出していたとの報告を受けたことによる旨主張し、Y1は同趣旨の供述をする。
(b) 盗難届について
 証拠(乙37の1)及び弁論の全趣旨によれば、Y1は、平成15年3月7日、大阪府東警察署長に盗難届を提出したこと、同届出に係る「盗難届受理証明書」(乙37の1)には、「被害状況」として「申請者は、平成15年2月から同年3月7日の間、申請者が取締役社長をつとめる株式会社ケイシイエス事務所内より同会社営業月報綴り等会社資料を窃取されるという被害に遭い、被害届を提出したものである。」との記載があり、「被害金品」としては、「営業月報綴り」、「週間訪問活動予定表綴り」、「注文書綴り」、「ソフト開発資料綴り」がこの順に記載されていることが認められる。
(c) 被害品返還要求書について
 また、証拠(甲217)及び弁論の全趣旨によれば、KCSは、平成15年3月12日付けで、KCSの元従業員らに対し、同人らが持ち出した物を返還するよう要求する旨を記載した文書(甲217はその一例である。以下「被害品返還要求書」という。)を送付したこと、返還を要求するものとして被害品返還要求書に記載されているものは、平成14年9月1日から平成15年2月20日までの営業部員の引継書であり、具体的には、「1.業務日報の月別に綴ったものの6ヶ月分」、「2.週間行動計画月別の6ヶ月分」、「3.月別デモのユーザ及び見込み客リスト」、「4.顧客管理訪問先及び顧客の状況の月別リスト」、「5.見積り提出のつずり」、「6.受注内訳及び約定書6ヶ月分」、「7.売掛残明細及び入金予定」、「8.クレイム明細とその推移並びに結果明細」、「9.3から8までの内容が月次報告にあれば省略していいです」、「10.9月〜2月の6ヶ月の月次報告書」、「11.その他の報告事項」であって、貸出君関連成果物に関すると思われる記載はない。
 さらに、証拠(乙37の2)によれば、Y1は、平成16年2月10日、KCS代表者として、X5を被告訴人として告訴したが、その告訴受理証明書には、被害状況として、「被告訴人X5は、平成14年12月24日から平成15年3月31日までの間、コンピュータソフト開発等を業務とする上記申請人の実父が経営する株式会社ケイシィエスの営業部長であったものであるが、取引先である志摩機械株式会社がケイシィエスに発注したパソコン端末及び補償料対応プログラム一式につき、会社の販売実績を促進・向上させるという自己の任務に背き、自己が設立した株式会社アールビィシィの利益を図る目的で、発注先をアールビィシィに変更させ、平成15年4月2日ころ、アールビィシィの預金口座にその代金として86万9160円を振り込ませたことにより、告訴人会社のケイシィエスに同額の損害を加えたものである。」旨を記載し、同額を被害金品としていることが認められる。
(d) ところで、KCSらの主張によれば、「貸出君 for win 廉価版」及び「貸出君ASP新版」のプログラムは、いずれも平成15年1月までにはほぼ完成していたというのであるから、その開発用書類を含む貸出君関連成果物なるものは、KCSにとって極めて貴重な会社財産というべきであったから、真に貸出君関連成果物が盗難被害に遭ったのであれば、被害日時及び行為者を具体的に特定すべく、まず、Y1において、自己に報告をしたというビルの管理人から詳しい事情を聴取をした上で届出をするのが通常とるべき対応であると考えられる。
 しかるに、盗難届受理証明書には、「被害日時」として「平成15年2月ごろから同年3月7日午前8時30分ごろまでの間」という、相当幅のある記載しかなく、このことからすると、Y1において、ビルの管理人から、具体的な被害日時について事情を聴取したのか疑問である。
 あるいは、Y1においてビルの管理人から事情聴取をした結果、同管理人から、被害日時は「平成15年2月ごろから同年3月7日午前8時30分ごろまでの間」であった旨の回答があったものと見る余地もないではないが、そうだとすると、平成15年2月ころから同年3月6日ころまでの間、ビルの管理人は、KCSの従業員による大量の書類等の持ち出しの事実を知りながらY1その他KCSの関係者に報告しなかったということになるのであって、このようなこともまたいささか不自然であり疑問である。
 また、Y1は、ビルの管理人から、X4が大量の書類を持ち出していたとの報告を受けたと供述しているが、盗難届受理証明書には、行為者として特定の従業員の氏名は記載されておらず、このことから見ても、Y1においてビルの管理人から、具体的な行為者が誰であるかについて事情を聴取したのか疑問である。このような事実からは、KCSらが主張するように、Y1が果たして真実、ビルの管理人からX4を始めKCSの元従業員がKCSの資料を大量に持ち出していた旨を聞いたのかどうかにも少なからず疑問があるものというべきである。
 また、真にKCSが貸出君関連成果物の盗難被害に遭ったのであれば、被害品返還要求書にも、貸出君関連成果物の記載があってしかるべきであるが、上記のとおり、そのような記載はない。
(e) 認定事実に基づく判断
 上記(d)の事実からすると、Y1は、盗難届を提出した平成15年3月7日当時、ビルの管理人から事情を聞いて、KCSが貸出君関連成果物について盗難被害に遭ったとの認識を有していたとはにわかに認め難い。もっとも、前記盗難届受理証明書(乙37の1)の「被害金品」欄には「ソフト開発資料綴り」が掲記されており、これに貸出君関連成果物が含まれると解する余地もある。しかし、貸出君新版プログラムに関する成果物が存在していたとすれば、その財産的価値は極めて高いものと認められるのに、盗難届受理証明書の「被害金品」欄には最も下位に記されていることや、被害品返還要求書には貸出君関連成果物に関する記載はなく、X5を被告訴人とする告訴受理証明書にも、KCSが発注を受けたパソコン端末等をRBCが発注を受けたことにして、その代金86万9160円をRBCの預金口座に振り込ませたという背任の事実のみが告訴事実とされており、より犯情の重い貸出君関連成果物の窃取の事実が告訴事実に挙げられていないこと、さらに、X2を原告とし、KCSを被告とする別件訴訟(大阪地裁平成17年(ワ)第195号事件)の平成17年9月27日付け被告(KCS)準備書面(甲106)には、「被告(KCS)において平成15年2月頃から同3月7日頃までの間、約定書原本を綴じていた注文書綴りを含め、顧客情報に関する書類一切を窃取されるという盗難事件が発生した(乙13)。それ自体に財産価値の乏しいこうした書類一式のみ(下線は判決注)が盗難に遭うなどということは、一般的な盗難事件とは考えられず、こうした書類について利用価値があるのは原告(X2)らそして訴外株式会社アールビィシィだけであり、被告(KCS)から取引先を簒奪するために窃取したとしか考えられない」との記載がある。同記載によれば盗難に遭ったのは上記顧客情報関係書類一式のみであり、そのほかに貸出君関連成果物が持ち出されたとの主張は一切していない。以上によれば、上記告訴当時、Y1が貸出君関連成果物が持ち出されたとの認識を有していたとは考え難く、これに反するY1の供述は信用できない。したがって、平成15年3月当時、KCSの従業員によって持ち出されたとY1が認識していたのは、被害品返還要求書に記載された物のみであったと認められる。
(f) 小括
 以上によれば、貸出君新版プログラムはもとより、貸出君プログラム等の貸出君関連成果物なるものをKCSの元従業員が持ち出した事実は、これを認めるに足りない。
 なお、証拠(証人X4)によれば、X4が休日に届出もせず出社していたのは、平成15年当時は通常のことであったことが認められ、このことをもって、貸出君関連成果物を持ち出したことを認定する根拠とすることはできない。
b ドキュメントのコピー
(a) KCSらは、平成15年1月にX1がP11にKCSの取引先に関するプログラム仕様書等のドキュメントのコピーを指示して持ち出し、業務課のフォルダ内のマニュアル全部等のコピーを指示していたと主張する。この主張に沿う証拠として、P11証人は、X1から指示されて1社当たりパイプファイルで3、4冊程度のドキュメントをファイルした旨証言し(同証人尋問調書3〜4頁)、実際、P11の作業日報(乙53の1〜3)には、P11が、平成15年1月8日、同月10日及び同月14日の3日間、ドキュメントのコピー作業に従事した旨の記載がある。また、KCSの従業員P10作成の陳述書(乙34)には、P10補佐は、平成14年9月ころから、X2の指示もあり自分の取引先のドキュメントファイルをコピーしたとの記載がある。
(b) しかし、上記証拠からは、P11がX1から指示されて数社分の何らかのドキュメントのコピーを指示され、そのコピー作業に従事したこと、P10補佐もX2から指示を受けて自分の取引先のドキュメントファイルをコピーしたことが認められるにとどまり、そのドキュメントないしドキュメントファイルの内容は明らかではないから、上記証拠のみによっては、X1がP11に対して貸出君関連成果物のコピーを指示したということも、P11がX1の指示を受けて貸出君関連成果物をコピーしたということも認めるに足りず、まして、X1が貸出君関連成果物をコピーしたものを持ち出したとの事実を認めることはできない。また、P10補佐がX2の指示を受けて貸出君関連成果物をコピーした事実も認めることはできない。
(c) その他、X1ら8名を含むKCSの元従業員が貸出君関連成果物をコピーして持ち出したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
c K6900のRBCへの持込み
(a) KCSらは、KCSで「貸出君」の開発に使用していたK6900(富士通製オフコン「K6900」)をX4が持ち出し、RBCに持ち込んだと主張する。そして、KCSの従業員P15作成の陳述書(乙62)には、「平成15年2月ころX4がK6900をRBCに持ち込むためにKCSに偽り、持ち出して、その後RBCの事務所に持ち込んだと思う。」旨の記載があり、P10作成の陳述書(乙63)には、要旨、「平成15年2月22日に、もともとKCSにあったコンピュータをX2の自宅車庫からRBCの本社事務所に持ち込む作業に従事した。その中にK6900があった。K6900は、X4がRBCで使用するためKCSから持ち出し、大阪府羽曳野市にあるX2の自宅車庫に保管していた。X4は、K6900に入っているソフトウェア、データを消去せずRBCに持ち込んだと思う。平成15年2月22日の作業は、午前10時にX2の自宅車庫前に、P24、X6、P16、P14、X5、X1、P25、P5、P26、P27、P28、私(P10)が集合して積み込み作業を行い、午前11時半にRBC事務所にX3、P15、P29、P9、X7、X8が集合し、先のメンバーと一緒に12時半ころからRBC事務所への搬入作業を行った。」との記載がある。
 しかし、そもそもK6900にKCSらのいう貸出君新版プログラムその他これに関連する成果物が入っていたと認めるに足りる証拠はないから、仮にKCSらが主張するように、K6900をX4が持ち出し、これをRBCに持ち込んだとしても、これをもって、X1ら8名が上記成果物を持ち出し、これをRBCに開示したと認定することはできない。
(b) ちなみに、X4は、当審における証人尋問で、要旨次のとおり証言する。すなわち、K6900は、KITシステムズ(川商インフォメーション)がファイナンス会社からリースを受けていたもので、平成13年9月ころ、リース期間終了に伴い、KITシステムズにおいて廃棄することになっていたものである。当時、KCSではシステムチェックのためにオフコンが必要であり、X4が、KITシステムズの担当者から、できるだけ早い時期に返還又は廃棄することを前提として貸与を受け、これをKCSにおいて使用していた。X4は、KCSを退職することを決めたことから、KITシステムズにK6900を返還することとし、平成15年2月6日、KITシステムズの指示により、その関連会社である三菱物流センター(尼崎と伊丹の間辺りにある。)にK6900を持ち込み返還した、と。そして、乙第61号証の1(株式会社トヨタレンタリース大阪作成の「請求明細書兼領収書」と題する書面)には、K6900をKITに返還するためにKCS名義で借りたレンタカーの貸渡日が平成15年2月6日であるとの記載があり、また、同号証の2(KCS作成の出金伝票)には、上記レンタカーの借受けに関し、「2/6 川商貸出マシーン返却の為」との記載があり、これらはいずれもX4の上記証言に符合するものである。
(c) KCSらは、X4がK6900の持ち込みのためにKCS名義で借りたレンタカーの走行距離が52kmに上っており(乙61の1)、KITシステムズ(大阪市北区(省略))とKCS(当時大阪市中央区(省略))との往復距離と符合しないとして、X4の供述は信用できない旨主張する。なるほど、KCSら主張のレンタカーの請求明細書兼領収書(乙61の1)には、「メーター」欄に「20、488〜20、540」との記載があり、走行距離が52kmであったことが認められる。
 しかし、上記走行距離は、X4の証言するように、尼崎と伊丹の間辺りに所在するという三菱物流センターに返却したとしても矛盾はなく、X4の他の証言部分にも特段不自然不合理な点はない。
 他方、P10作成の上記陳述書(乙63)中の、X4がX2の自宅にK6900を運び込んだとの記載、及び平成15年2月22日にX2の自宅から運び出したパソコンの中にK6900が含まれていた旨の記載については、これを裏付ける的確な証拠はなく、直ちに採用することはできない。
 その他、X4が、K6900をX2の自宅に運び込んだことを認めるに足りる証拠はない。
(カ) 「貸出君ASP新版」の仕様書(乙23)について
a KCSらは、乙第23号証について、要旨次のとおり主張する。すなわち、乙第23号証は、「貸出君ASP新版」プログラムの仕様書(現場マスタメンテナンス)であって、「貸出君ASP新版」の成果物の大半がKCSの元従業員によって持ち出される中で、わずかにKCSの福岡営業所のパソコンに残っていたものである。乙第23号証は、平成15年当時KCS福岡営業所に勤務していたP19が平成15年1月以前に発見し、Y1にその旨報告したものである、と。KCSらは、上記事実から、「貸出君ASP新版」プログラム仕様書(現場マスタメンテナンス)が平成15年1月以前に作成されており、同プログラムもそのころ完成していたと主張するものと解される。そして、証拠(乙52、Y1本人)はこれに沿う。
b しかし、証拠(甲102、証人X6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(a) X3とX6は、KCSにおいてプログラム定義書を作成する作業に従事していたが、両名とも平成15年1月中にKCSを退職し、その後は、RBCに移籍し、RBCプログラムの仕様書等の作成に従事していた。
(b) P20は、かねてKCSの福岡営業所に勤務し、プログラム定義書に基づいてプログラムを作成する作業に従事していたが、平成15年2月中旬ごろ、Y1から、同月20日に福岡営業所を閉鎖するため同年3月20日付で解雇する旨の通告を受けるとともに、同日までの間、同営業所で残務整理をするよう命じられた。そして、福岡営業所は予定どおり同年2月20日に閉鎖された。
(c) 平成15年1月にKCSを退社していたX3とX6は、同年2月末日ごろ、閉鎖後の福岡営業所で残務整理に従事していたP20に対し、P20が母子家庭であったことから生活費の足しにするためのアルバイトとして、夜間や土曜日曜の時間帯を利用して、X3やX6がRBCのために作成したプログラム仕様書に基づいてプログラムを作成するよう依頼することとし、作成作業のために必要なオフコンをP20の自宅に送った。
(d) そして、X3らは、P20に対し、現場マスタメンテナンスのプログラムの作成を依頼し、そのための仕様書をMOに保存し、P20に宛てて送付した。その後、現場マスタメンテナンスの機能を追加するためにプログラムの修正が必要となり、X6は、そのために必要なプログラム仕様書をP20に送るため、平成15年3月ころ、エクセルで作成した仕様書をメールに添付して、KCSの福岡営業所に設置されていたパソコンに宛ててメール送信した。X6が上記仕様書をKCSの福岡営業所に設置されていたパソコンにメール送信したのは、P20に送ったプログラムの作成作業に必要なオフコンにはメールを受信する機能がなかったため、残務処理中のKCS福岡営業所に設置されたメール受信機能を有するパソコンを借用したものである。KCS福岡営業所に設置されたパソコンにメール送信されたエクセルで作成した仕様書が乙第23号証の2枚目以降である。
 なお、乙第23号証の1枚目の送信書に当たる部分もX6が作成したものであるが、同号証の1枚目には、送信書に本来あるはずの送信日の表示部分がない。
c 上記のとおり、KCSらは、乙第23号証は平成15年1月以前に発見されたと主張する。
 しかし、乙第23号証は、上記認定のとおりメール送信されたものであり、送信書には送信日の表示があるから、送信日が平成15年1月以前であることを立証するためには、送信日の表示部分を含めて証拠提出すれば足りることである。しかるに、KCSらは敢えて送信日の表示部分を提出せず、送信日の表示部分がないもの(乙23の1枚目)を証拠提出している。このような訴訟態度からは、KCSらが発見したという乙第23号証のメールの送信文には、KCSらの主張と異なる日付が送信日として印字されていた疑いが強く(なお、乙第23号証に押捺された公証人による確定日付は、平成16年6月23日である。)、証拠(乙52、Y1本人)中、KCSらの上記主張に沿う部分は裏付けを欠くものというほかなく、直ちに採用できない。
d KCSらは、乙第23号証は新規開発を指示する仕様書ではなく、開発済みのプログラムに対する修正を指示する仕様書であるから、乙第23号証の作成以前にその元となった新規開発を指示する仕様書が作成されプログラムが開発されていたはずであると主張する。
 なるほど、乙第23号証の作成以前にその元となった新規開発を指示する仕様書が作成されていたことは、前記b認定のとおりである。しかし、そのことから直ちに、新規開発を指示する仕様書に基づくプログラムが、乙第23号証の作成以前に開発済みであったということはできない。
e 以上のとおりで、KCSらの上記aの主張は採用できない。
 なお、乙第23号証は、現場マスタメンテナンスの新規開発を指示する仕様書ではなく、新規開発を指示する仕様書の修正を指示する仕様書であるところ、上記b認定事実及び弁論の全趣旨によれば、乙第23号証が送付された平成15年3月時点では未だ現場マスタメンテナンスのプログラムは完成していなかったこと、甲第116号証の22(プログラム履歴リスト)には、現場マスタメンテナンスの「新規作成」として「担当者」欄に「P20」、「着手日」欄に「20030411」との記載があるが、これによれば、P20のKCS在職中にはプログラムが完成していなかったことから、RBCにおいて、「平成15年4月11日」を開発着手日として入力したものであることが認められる。
(キ) RBCプログラムの開発期間その他KCSらがRBCの主張の矛盾点として指摘する点について
a 開発期間について
(a) KCSらは、要旨、次のとおり主張する。すなわち、RBCらは、RBCプログラムの開発のためには、業界状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要と主張している(平成16年5月11日付け準備書面第1の5(4))。ところが、甲第15号証によれば、RBCソフトについては、Win版システム及びASP版システムのいずれも、RBCらが開発・発売を開始したと主張する平成15年3月の時点から1年が経過した平成16年3月20日の時点に至ってもなおRBCらが投入したシステムエンジニアーの延べ工数は、Win版で25人/月、ASP版で47人/月にすぎない。これは、RBCらがプログラム開発に必要と主張する120人/月のわずか5分の1から3分の1にしか達していない数字である。すなわち、甲第15号証は、真にRBCらが平成15年1月10日からシステム開発に着手したのであれば平成16年3月20日の時点においてですらシステム完成にはおよそほど遠い状況にしかなり得ないことを示している、と。
(b) KCSらの上記主張は、「RBCらが、RBCプログラムの開発のために120人/月の人力が必要であることを認めている」ことを前提とするものであるが、RBCらが平成16年5月11日付け準備書面第1の5(4)で主張しているのは、RBCプログラムの開発のために120人/月の人力が必要である、という趣旨ではなく、KCSのした以下の主張、すなわち、RBCの従業員らがKCSに在籍していた平成13年ころから『貸出君』の新バージョンの開発に従事し始め、平成15年1月ころにはこれを完成させた、RBCの従業員らはこのプログラム及びドキュメントを社外に持ち出してRBCソフトを完成させた、との主張(平成16年3月18日付けKCSら準備書面(1))に対し、これを否認する理由として、そもそも一企業の存続を決定するほどの規模のパッケージシステムを作成するとすれば、業界状況を熟知したシステムエンジニアーが120人/月の人力が必要であり、KCS在籍中に誰も知られずに大きなシステムを作成することなどできるはずがない、と主張したものというべきである。
 したがって、KCSらの上記主張は、RBCらが「RBCプログラムを開発するために必要な人力は120人/月である」との主張をしていることを前提とし、これを基にRBCプログラムの開発状況に関するRBCの主張を非難する点で誤りがある。
(c) また、KCSらは、甲第15号証の記載から、平成15年1月から平成16年3月までにRBCプログラムの開発に要した人力について、@Win版で25人/月、AASP版で47人/月と主張する。
 しかし、弁論の全趣旨によれば、KCSらは、システムエンジニアーの担当部分だけを取り上げ主張していることが認められるところ、プログラマーの担当部分も含めると、平成15年1月から平成16年3月までにRBCプログラムの開発に要した人力は、@Win版で58人/月、AASP版で83人/月となることが認められる。
 したがって、この点においても、KCSらの主張はその前提を欠くというべきである。いずれにしてもKCSらの上記主張は理由がない。
(d) なお、RBCプログラムの完成時期について、最初の販売先の稼動確認ができた時点で一応の完成と定義するとすれば、前記認定のとおり、Win版では平成16年9月に鈴建輸送の稼動確認を取得し、ASP版では同年1月にベストレンタルの稼動確認を取得していることから、Win版では平成16年9月をもって一応の完成時期と見ることができ、ASP版では同年1月をもって一応の完成時期と見ることができる。
 そして、RBCらは、RBCプログラムの完成(完成時期の定義は上記のとおり)までに必要な人力は、@Win版で103人/月、AASP版で89人/月であると主張するところ、これは、上記認定の、@平成15年1月から平成16年3月までにRBCプログラムの開発に要した人力と、ARBCプログラムの完成時期の関係から見て、合理的に説明できる数字であるというべきである。
b 開発スケジュールについて
(a) KCSらは、要旨、次のとおり主張する。すなわち、KCSの元従業員は、遅くともRBC設立時である平成15年3月には、少なくともデモンストレーションができる状態にまでRBCソフトを完成させていたはずである。なぜなら、現在のように各種ソフトが氾濫し、競合ソフトが販売されていて購入先が競合ソフトを体感することができる状況においては、最低限デモンストレーションを行うことができなければソフトを販売することができないからである。しかるところ、RBCは、平成15年3月13日には日成工業所との間で契約を締結し、それ以降、日成工業所から毎月リース料を取得している。機能しないソフトのために毎月リース料を支払し続ける顧客が存在するはずはないから、平成15年3月時点でこのような契約を締結できたのは、その時点までに、デモンストレーションができる状態にまでRBCソフトが完成していたからである。また、RBCらは、RBCソフトは請負型であるからソフトの構築前でもソフトを販売することが可能である旨、また、KCSソフトも請負型である旨主張するが、両ソフトとも請負型ではなく、パッケージ型である、と。
(b) しかし、証拠(甲33、150、230の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、コンピューターソフト開発業者によるソフトの販売方式等について、次の事実が認められる。
T ソフトの販売方式は、大まかに次の2種類に分類することができる。
 1つは、一般に「ソフト請負方式」と呼ばれるものである。これは、コンピューターソフトの開発業者が、まず、顧客との間で顧客の要求を分析するという作業から始め、その顧客の要求に応じたシステムの基本設計を行い、合意に達した内容を基に具体的なプログラミング作業を行い、検収の上納入するというものである(洋服や住宅の例でいえば、完全なオーダーメイドの服や完全な注文住宅がこれに当たる。)。
 「ソフト請負方式」の対極にあるのが、「完全パッケージ方式」と呼ばれるものである(洋服や住宅の例でいえば、既製服や建売住宅がこれに当たる。)。
U 「ソフト請負方式」の場合、顧客の要求に沿ったソフトを構築するため、顧客の満足度が高いという長所があるが、反面、開発までの期間が長く、開発費用が高額になってしまうという欠点がある。一般に、大企業は、ソフト開発に高額を投じることができるため、ソフト請負方式による開発を依頼することが多いが、中小企業は、ソフト開発に高額を投じることが難しいのが現状である。
 これに対し、「完全パッケージ方式」のソフトは、顧客の側から見れば、安価であるという長所がある反面、顧客の個別の具体的要求に応じた自由度がないという欠点がある。また、「完全パッケージ方式」のソフトは、開発業者の側から見れば、全く同じ内容のソフトを相当数販売するから、安価で販売しても開発コストを回収できる反面、それだけ需要が多くなければならないし、また、販売に先行して開発コストをコンピュータ開発業者が負担しなければならないため、資金面で力のあるコンピュータ開発業者でなければ採用が不可能な販売方式でもある。
V そこで、大手のコンピュータメーカーは、中小企業向けに、価格が安く、かつ、顧客の個別の具体的要求もある程度取り入れ得るソフトを開発・販売するため、昭和50年ころから、「ソフトの基本パッケージ化」という考え方を取り入れた。この考え方は、顧客の要求のうち共通化できる部分は、一度開発したものを他の顧客にも用いることによりコストを下げ、比較的低価格でコンピュータソフトを販売することができるというものである。この共通化した部分を「基本パッケージ」と呼び、顧客に対して「基本パッケージ」を「販売」するというような表現が用いられるが、「基本パッケージ」以外の、顧客のその他の要求については個別に開発を進めるものであり、このような実態をとらえれば、前記の分類上では、「請負型」に属するといえるものである。
 「基本パッケージ方式」は、開発の工数が軽減されるため、「ソフト請負方式」に比べて早く完成し、安価である上、顧客の要望も取り入れることができるという長所を持っていて、「ソフト請負方式」と「完全パッケージ方式」の長所を併せ持つ上、ソフト開発業者にとっては、「販売」という表現を用いることによって、契約時に代金を回収してから個別開発を進めるという代金回収方式を採用することについて、顧客の理解が得やすいというメリットがあり、大手コンピュータメーカーから何種類かの「基本パッケージ方式」のソフトが発売されている。
W しかし、大手コンピュータメーカーが販売を開始した「基本パッケージ」でカバーできる業務は、物販業者(商事会社)やアセンブル業者(製造業)など、事業形態として比較的多数存在する業務に限られ、その他多くの業種の事業形態には「基本パッケージ方式」は取り込めない状態が続いた。
 そこで、KCSでは、平成元年ころ、X2らが中心となり、当時全くの手付かずであった市場規模の小さな建設機械のレンタル業者向けのコンピュータソフトを開発するに当たり、同業界独自の基本パッケージ化を着想して「貸出君」を開発し、販売し始めた。「貸出君」の販売に当たっては、「貸出君」が「可変システム」であること、すなわち、「基本パッケージ方式」によるソフトであることを強調した。なお、KCSは、そのウェブサイト(平成20年2月12日時点)において、「現状調査分析」、「基本設計」、「詳細設計」が必要であること、また、「貸出君」が「可変システム」を用いたものであることを明記している(甲230の1・2)。
 RBCプログラムも、これに倣って開発された各顧客の個別的要求に応じ得るカスタマイズ部分を含む商品であり、その性質上、商品の販売時点において、既にプログラムが完成しているということはない。RBCは、その設立当初は資金繰りも覚束ない状況であり、早急に売上げを上げる必要があったことから、プログラムを開発すると同時に、顧客に対しても同時進行でプログラムを販売し、完成している部分から順次導入していった。したがって、RBCプログラムは、各顧客との契約時点、代金受領時点において全て完成していたというものではない。
(c) 上記認定のとおり、RBCソフトは「基本パッケージ方式」によるソフトであり、上記の分類に従えば、「ソフト請負型」を基本としたものということができる。
 したがって、KCSらの上記主張、すなわち、RBCソフトがパッケージ型であることを前提として、平成15年3月までにはデモンストレーションができる状態にまでRBCソフトが完成していたはずである旨の主張は理由がない。
 また、KCSらは、機能しないソフトのために毎月リース料を支払い続ける顧客が存在するはずはないとも主張するが、それは、ソフト開発業者と顧客との信頼関係の有無・程度、及びそれに基づく契約内容次第であるというべきであって、現に、RBCにおいて、ソフトが機能するより前の段階で顧客から代金を回収していたことは、前記認定のとおりである(X3は、証人尋問において、未だソフトとしての基本的な動作ができない状態のまま納品したことがあるが、これはRBCの営業担当者と取引先の営業担当者との人的信頼関係によるものである趣旨の証言をするが、それは上記趣旨において理解し得るところであり、それ自体が不自然不合理とはいえない。)。また、証拠(甲232)及び弁論の全趣旨によれば、KCSにおいても、同様の方式を採用していたことが認められる。したがって、KCSらの上記主張もまた採用できない。
c プログラム数について
(a) KCSらは、要旨、次のとおり主張する。すなわち、RBCらは、RBCプログラムのうちビジネスサーバ版のプログラムについて、平成16年6月14日の段階で作成されているもののみで214本存在すると陳述し(甲13)、X3は、平成17年12月15日時点でもその事実は正しい旨の証言をしている。それにもかかわらず、甲第115号証では一転して30数本しか存在しないと主張しており、その主張に矛盾がある、と。
 しかし、RBCらの主張によれば、甲第115号証は、RBCらが、専門委員からプログラムの創作性・類似性の判断資料としてRBCプログラムの提出を求められたが、RBCらにおいて、RBCプログラムが営業秘密に該当すると考え、専門委員の判断に必要と思われるものに絞って提出したというのである。RBCの上記主張は、直ちに首肯し得るものでないことは否定できないが、逆に、同主張が虚偽であると認めるに足りる証拠はなく、同主張自体に矛盾その他不自然なところはない。したがって、甲第115号証で挙げられているプログラム数が少ないことをもって、RBCが独自に開発したプログラム数が少ないということはできない。
(b) KCSらは、要旨、次のとおり主張する。すなわち、甲第13号証のプログラム一覧と甲第115号証のプログラム一覧(ASP版プログラム)を見れば、甲第115号証に記載されているプログラムはごく一部にすぎない。同様に、甲第13号証のプログラム一覧と甲第117号証のプログラム一覧(Win版プログラム)を見れば、甲第117号証に記載されているプログラムもごく一部にすぎない、と。
 しかし、甲第117号証の1ないし3も甲第115号証の1・2と同様に、RBCらが専門委員の創作性・類似性の判断に必要と思われるものに絞って提出したものであるとのRBCらの主張を排斥できないとすれば、甲第115号証の1・2及び甲第117号証の1ないし3に記載されたプログラムが、甲第13号証に記載されたプログラムのうちの一部であることは当然であり、これをもってRBCらの主張の矛盾点と断定することはできない。
(c) KCSらは、要旨、次のとおり主張する。すなわち、甲第115号証の1・2(ビジネスサーバ版プログラム一覧表)を前提とすると、たとえば出庫入力だけで5つの作成修正履歴が記載されるはずなのに、実際には、MA0102A(甲116の1〜4)とMA01020(甲116の25)の2つの修正履歴しか記載されておらず、齟齬を来している、と。
 これに対して、RBCらによれば、メインプログラムのみを修正し、それ以外の部分は一度作ったら修正不要であると弁解する。この弁解は一応合理的であり、これを一概に虚偽として排斥し得るだけの証拠はない。そうであるとすれば、メインプログラムのみに修正履歴があることとなり、甲第115号証と甲第116号証が矛盾しているということはできないことになるから、KCSらの上記主張は理由がない。
d 小括
 以上によれば、開発期間、開発スケジュール及びプログラム数に関するRBCらの主張には矛盾があるとして、RBCプログラムはKCSの元従業員がKCSを退職後に新たに開発に着手したものであるとのRBCらの主張は不合理であるとするKCSらの主張は、すべて理由がない。
(ク) 争点1(RBCプログラムは貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)に対する結論
 以上のとおり、@乙第5号証ないし乙第8号証(第23期の開発計画・開発状況を記載した文書)によっては、平成15年1月ころまでに貸出君新版プログラムの開発がほぼ完成していたとのKCSらの主張事実を認めるには足りず、A遅くとも平成15年1月10日までには、KCSで開発中のソフトの名称が「ミスターアドバンス」と決定していたとの事実を認めるにも足りず、BKCSらが「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアルであると主張する乙第9号証は、実際に稼動し得るプログラムのオペレーションマニュアルではあり得ず、KCSらにおいて、KCSが従来販売していた「貸出君」のオペレーションマニュアルである甲第87号証とRBCソフトのうち「Team S」のオペレーションマニュアルである甲第96号証とを合体させて作成した疑いがあり、CKCSらが「貸出君ASP新版」のプログラムの仕様書であると主張する乙第23号証は、X6がKCSを退職後に開発作業に着手したRBCプログラムの仕様書であることが認められ、DKCSの元従業員が貸出君関連成果物等を持ち出したとの事実もこれを認めるに足りない。また、KCSらがRBCらの主張の矛盾点として指摘する諸点も、上記@ないしDの認定判断を覆すに足りない。
 結局、KCSらの主張、すなわち、KCSの元従業員がKCS在職中の第23期(平成13年9月1日から平成14年8月末日までの期間)に貸出君新版プログラムの開発に着手し、かつその在職中である平成15年1月ころまでに開発をほぼ完成させていたとの事実は認めるに足りないというべきである。また、KCSらの元従業員が、貸出君新版プログラム及び貸出君プログラム並びにこれらプログラムに係る表示画面、開発用書類、オペレーションマニュアル等の資料(貸出君関連成果物)を持ち出したとの事実も、また認めるに足りないというべきである。
 したがって、RBCプログラムは、貸出君新版プログラムに対するKCSの著作権を侵害するものではなく、これをいうKCSらの主張は理由がない。
(3) 争点2(RBCプログラムは貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するか)について
ア はじめに
 KCSらは、RBCプログラムと貸出君プログラムの@ソースコード、A開発用書類、Bオペレーションマニュアルを比較し、RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠し、これを複製又は翻案したものであると主張する。
 ところで、これまでにも度々引用してきたように、KCSらは、平成16年3月18日付けのKCSらの準備書面(1)において、KCSの元従業員が貸出君新版プログラムやそのドキュメントを持ち出してRBCソフトを完成させた旨を主張し、RBCらが、この主張を引用しつつ、RBCプログラムはRBCらが独自に開発したものであって、KCSが著作権を有する貸出君プログラムに依拠し、これを複製ないし翻案したものではないから、同著作権を侵害するものではないと主張したのに対し、「RBC販売ソフトはKCS内で開発されていたプログラム及びドキュメントから構成されたものであり、KCSが従前から販売していた『貸出君』のプログラムに変更や修正を加えたものではないから、KCSの商品である貸出君とRBC販売ソフトのプログラムを比べても意味がない。RBCは、このことを知悉しつつ、敢えてこの両者を比較し、そのプログラムが異なるという当然の結果を得ることによって、あたかも自己に権利侵害の事実がないと周囲に誤解させようと企むものであり、その行為は極めて巧妙かつ悪質である」(同準備書面4頁)と主張し、RBCプログラムは貸出君プログラムに依拠して、これに修正・変更を加えたものではなく、KCSの元従業員が開発していたという、貸出君プログラムとはプログラムの異なる貸出君新版プログラムに依拠して、これを複製又は翻案したものであって、RBCプログラムと貸出君プログラムは異なるものであることを自認していたものである。KCSらの上記準備書面(1)における主張と争点2におけるKCSらの主張がどのような関係に立つのか必ずしも明らかではないが、その点はしばらく措き、KCSらの主張する上記@ないしBの点について順次検討することとする。
イ ソースコードについて
(ア) KCSらは、RBCプログラムのソースコードと貸出君プログラムのソースコードを比較すれば、デッドコピーされている部分が存在することが一目瞭然であり、特に、Win版については、調査した箇所において8割以上が同一であったと指摘している。
(イ) しかし、証拠(甲123、125、128、139、140、142〜145、146の1〜10、乙76)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 同一部分の割合
 RBCプログラムが貸出君プログラムと同一であるとKCSらが指摘する部分の割合(RBCプログラムの全行数に対する、RBCプログラム内において貸出君プログラムと同一であるとKCSらが指摘する部分が存在する行の数の割合)は、次のとおりである。
(a) 乙第84号証(Win版の対比)
 乙第84号証(乙76[貸出君Win版の得意先マスタ登録のソースコード]の37頁から74頁について、甲123[RBCプログラムWin版の得意先マスタメンテナンスのソースコード]の同一箇所を調査したとしてKCSらが提出した資料)に関して、同一であるとKCSらが指摘する部分は、約30%である。
(b) 乙第86号証(Win版の対比)
 乙第86号証(乙78[貸出君Win版の請求データ作成のソースコード]の10頁から22頁について、甲125[RBCプログラムWin版の請求金額計算処理のソースコード]の同一箇所を調査したとしてKCSらが提出した資料)に関して、同一であるとKCSらが指摘する部分は、約10%である。
(c) 乙第87号証(ビジネスサーバ版の対比)
 乙第87号証(乙81の2[貸出君ビジネスサーバ版の受注入力]の102頁について、甲128[RBCプログラムビジネスサーバ版の随時入力のソースコード]の同一箇所を調査したとしてKCSらが提出した資料)に関して、同一であるとKCSらが指摘する部分は、約0.23%である。
(d) 乙第88号証(ビジネスサーバ版の対比)
 乙第88号証(乙82の1[貸出君ビジネスサーバ版の出庫入力]の119頁から120頁について、甲129[RBCプログラムビジネスサーバ版の出庫入力のソースコード]の同一箇所を調査したとしてKCSらが提出した資料)に関して、同一であるとKCSらが指摘する部分は、約0.18%である。
b 同一部分の記載事項
 RBCプログラムと貸出君プログラムが同一であるとKCSらが指摘する部分の記載事項は、具体的には次のとおりである。
(a) 乙第84号証(Win版の対比)
 KCSらが同一であると指摘する部分を含む行の数は649行あるが、このうち629行は、VBでプログラムを組むために使用しなければならない命令、関数又は文法のいずれかであって、創作性が認められない。
 KCSらは、貸出君Win版で使用している共通関数(乙85)と類似すると指摘するが、共通関数は、事後に誰がその表現を見ても何を意味しているのかを容易に連想できる表現を採用するのが通常であり、似通った表現が用いられることはままあるものというべきである。
 次に、命令、関数又は文法以外の行は20行(1行重複)あるが、いずれも画面の各項目名称を表現するものである。このような項目名称には、そのプログラムが対象とする業界ないし業種の種類によって決定されている固定項目名(業界の共通の呼称)が使用されるため、同一業界ないし同一業種で用いられるビジネスソフトでは、項目名称自体が近似する。また、プログラムを開発した企業では、項目名称のプログラム表現にもよく似た略語を用いるのが一般であり、かつ、開発企業内では統一した表現が用いられるのが通常である。
(b) 乙第86号証(Win版の対比)
 KCSらが同一であると指摘する部分はすべて、VB上の命令、関数である。
(c) 乙第87号証(ビジネスサーバ版の対比)
 KCSらが同一であると指摘する部分は、単なるCOBOL言語の命令にすぎず、創作性が認められない。
(d) 乙第88号証(ビジネスサーバ版の対比)
 KCSらが同一であると指摘する部分は、単なるCOBOL言語の命令にすぎず、創作性が認められない。
(ウ) 以上のとおり、Win版について、KCSらが同一であると指摘する部分の割合はRBCプログラム全体の30%ないし10%であるところ、その大半が創作性のない命令、関数又は文法であり、それ以外の部分は、項目名称であって、同一業界ないし同一業種で用いられるビジネスソフトでは、項目名称自体が近似する上、プログラムを開発した企業では、項目名称のプログラム表現にもよく似た略語を統一的に用いるのが一般であることに照らせば、乙第84号証及び乙第86号証における対比対象プログラムにおいて、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものとは到底認められず、他にRBCプログラムが貸出君プログラムに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はない。
 また、ビジネスサーバ版については、そもそもKCSらが同一であると指摘する部分の割合がRBCプログラム全体の1%にも満たず、同一であると指摘する部分の記載内容もCOBOL言語における命令にすぎず創作性が認められないものであるから、乙第87号証及び乙第88号証における対比対象プログラムにおいて、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものとは到底認められず、他にRBCプログラムが貸出君プログラムに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はない。
ウ RBCプログラムの開発経緯及びその内容について
 前記のとおり、KCSらの指摘する貸出君新版プログラムなるプログラムは存在せず、RBCプログラムがこれに依拠したものとは認められないところ、証拠(甲220)及び弁論の全趣旨によれば、RBCプログラムの開発経緯及びその内容に関し、以下の事実が認められる。
(ア) X3は、KCSを退職後、KCSにおいて長年「貸出君」のプログラム開発、バージョンアップ等に携わってきた経験を生かし、建設機械等のリース・レンタル業界向けのソフトを開発し販売することを決意した。
 すなわち、「貸出君」プログラムには、ASP版とWin版の双方とも、その原因はそれぞれ異なるものの、@処理スピードが遅い、A操作性が悪い、Bネットワークに弱いという欠陥があり、平成14年ころ、KCSの開発部門の従業員は、日常業務の大半がそのトラブル解決に費やされているような状態であった。これらのトラブルを抜本的に解決するためには、従来のプログラムのバージョンアップ等、既存のプログラムを修正することによっては不可能であり、全く新しいプログラムを開発する必要があったが、既存のプログラムのファイル構造を作り替え、全く新たなプログラムを開発することになれば、従前KCSにおいて開発して蓄積してきた多くのプログラム資産が全て使用できなくなる上、開発部門においては、トラブル処理に追われてプログラム開発の十分な時間がとれない状況にあり、KCSにおいて、そのような全く新しいプログラムを一から作ることは不可能な状況であった。
 そこで、X3は、RBCに移籍するに際し、KCSにおいて「貸出君」プログラムのメンテナンス等をする中で最も痛感していた欠点を克服する全く新たなシステム、すなわち、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化を基本的な考え方とする全く新たなシステムを開発することを決意した。
(イ) ビジネスサーバ版について
a RBCプログラムのビジネスサーバ版は、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化したものである。その詳細は、次のとおりである。
b 各論
(a) 処理スピードの向上
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
@ 貸出君プログラムでは、ファイルを構成している項目を増加することができないために、別ファイルを追加しなければならないという欠点があり、ファイル構造が肥大化して処理スピードが遅くなっていた(甲220別紙1・第1)。
A 貸出君プログラムでは、各ファイルにおける各レコードレングスが長く設計されているために、処理スピードが極めて低下していた(「レコード」とは、データベースにおいて、1件分のデータを表す単位であり、各項目で定義されたデータを集めたものをいい、「レコードレングス」とは、レコードの長さを意味し、各項目のサイズの合計を指す。甲220別紙2)。これは、各レコードレングスが長いとファイルの中のデータが増える結果処理スピードが遅くなるからである。
U RBCプログラムにおける「処理スピードの向上」の具体化
@ 上記Tの@の欠点に対し、RBCプログラムにおいては、たとえば、初期設計段階において、商品マスタ(商品名などの固定情報)と商品ランク単価マスタ(単価項目毎のランク情報)とを分けて設計するということを随所で行い、ファイル上不要な項目が出ない設計とし、処理スピードの向上を実現している。
 この結果、ファイルが短くかつ不要な項目もないため、処理スピードが向上し、ファイルを追加することもなく、同一ファイルの項目の使い回しもなくなったために、 バグの大幅な減少が実現されている。
A 上記TのAの欠点に対しては、各々のファイルのレコードレングスを短く設計したことによっても、処理スピードの向上を実現している(甲220別紙3)。これは、各レコードレングスを短く設計すれば、各ファイルの中のデータが減少し処理スピードが向上するからである。
(b) 操作性の向上
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
 貸出君プログラムには、次のような欠点があった(甲220別紙1・第2)。
@ 画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず使用上不便であり、更に、1行毎に入力を行った後に明細表示部へ移行させるという手間がかかり画面構造上不便である。
A 入力する際に、入力に必要の無い画面項目にカーソルが移動し、キーボード入力のタッチ回数が多く操作性が悪い。
B オフコン端末使用になっており、オフコン用キーボード配列のキー操作が必要で操作性が悪い。
U RBCプログラムにおける「操作性の向上」の具体化
 RBCプログラムでは、貸出君プログラムの上記各欠点の解決が図られている。
@ 画面上に伝票形式の明細行数が10行表示されており、しかも、各行へ直接入力する方式を採用した。
A 不要な動作なしに、任意に入力したい欄に入力することを可能とした。
B パソコン用キーボード仕様とした。
(c) ネットワークの強化
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
 貸出君プログラムでは、ファイルのレコードレングスが長く、かつファイルが重複していたので重く、本店・営業所間等のネットワークに弱かった。
U RBCプログラムにおける「ネットワークの強化」の具体化RBCプログラムでは、@ファイルのレコードレングスを短くし、しかも、Aファイルを分けて作成してファイル構造を分割するという方式をとって、ネットワーク上のデータ量を軽くする設計を行うことにより、ネットワーク上のスピードの向上を実現した。
(d) プログラムの組み方
 加えて、プログラムの組み方においても、RBCプログラムは、「構造化プログラム」といわれる方法でプログラムが組まれているのに対し、貸出君プログラムは、「非構造化プログラム」といわれる方法でプログラムが組まれている点で相違している(甲220別紙5)。
(e) まとめ
 以上のとおり、RBCプログラムのビジネスサーバ版は、貸出君プログラムのASP版に存在した欠点を克服するため、@処理スピードの向上、A操作性の向上、及びBネットワークの強化という基本的な考え方を具体化したプログラムである。
 画面設計においても、RBCプログラムの「得意先マスタメンテナンス」の画面(甲134の1〜3)と、貸出君プログラムの「得意先マスタ登録・修正・削除」の画面(甲134の4)を比較し、また、RBCプログラムの「出庫入力画面」(甲135の1、上段)と、貸出君プログラムの「出庫入力画面」(甲135の1、下段)を比較すれば、両者の画面設計は全く異なっている。
 また、プログラムの組み方に関しても、貸出君プログラムが「非構造化プログラム」という方法でプログラムが組まれているのに対し、RBCプログラムは「構造化プログラム」という方法でプログラムが組まれている。
 このように、RBCプログラムのビジネスサーバ版は、上記の3つの基本的な考え方を具体化した結果、貸出君プログラムのASP版とは異なる新たなプログラムとなっているものといえる。
(ウ) Win版について
a RBCプログラムのWin版は、ビジネスサーバ版と同様、@処理スピードの向上、A操作性の向上、Bネットワークの強化という3つの基本的な考え方を具体化したものである。
 また、貸出君プログラムのWin版は、貸出君プログラムのASP版をもとに作られたプログラムであるため、前記のような、構造上の欠点や操作上の問題を抱えていた。
b 各論
(a) 処理スピードの向上
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
 貸出君プログラムには、入力データを同じファイル内で保存していくというファイル構造に、大きな欠点があった。
 すなわち、貸出君プログラムの場合は、入力データファイルが、1月度・2月度・3月度と入力すればするほどデータが溜まっていくところ、通常、この入力データファイルに保存されたデータを呼び出してきて請求書を発行する仕様となっているため、処理スピードが遅くなる(甲220別紙8)。
U RBCプログラムにおける「処理スピードの向上」の具体化RBCプログラムでは、入力データファイルは1か月間分だけにして、過去のデータは必要に応じて取り出しできるように別ファイル(累積データファイル)として切り分けるという全く新たな構造とし、処理スピードの向上を実現した。
 すなわち、このように別ファイルとすれば、入力データとして呼び出されるのは、常に1か月分だけであるため、請求書発行等の処理スピードは格段に速くなる。
(b) 操作性の向上
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
@ 貸出君プログラムのWin版は、貸出君プログラムのASP版をもとにしたプログラムであるので、貸出君プログラムのASP版における欠点を併せ有している。すなわち、画面構造上1伝票の入力明細行数が6行しか表示されず、使用上不便であり、更に1行毎に入力を行った後に、明細表示部へ移行させるという手間がかかる画面構造上の不便さという欠点が同様に存在していた。
A 貸出君プログラムにおいては、リース単価変更時の仕様に欠陥があり操作性が悪いこと、期間貸し(シーズン貸し)の時リース期間の自動延長ができず操作性が悪いことという欠陥も存在していた(甲220別紙8A)。
U RBCプログラムにおける「操作性の向上」の具体化
@ RBCプログラムのビジネスサーバ版と同様、画面上に伝票形式の明細行数が10行表示されており、しかも、各行へ直接入力する方式を採用し、操作性の向上を実現した。
A 上記TAのような、貸出君プログラムにおける操作性が悪いという欠点は、RBCプログラムには存在しない。
(c) ネットワークの強化
T 貸出君プログラムの有していた欠点について
 貸出君プログラムでは、営業所コードが存在しないことにより、支店・営業所単位での処理ができず、営業所間のネットワークに対する対応が弱いという欠点があった。
U RBCプログラムにおける「ネットワークの強化」の具体化RBCプログラムでは、取引先マスタ(得意先マスタ)上に、営業所コード(5桁)を採用し、営業所を複数管理している顧客が営業所単位で業務処理を行うことが可能であり、ネットワークが強化されている。
(d) まとめ
 以上のとおり、RBCプログラムのWin版は、貸出君プログラムのWin版に存在した欠点を克服するため、@処理スピードの向上、A操作性の向上、及び、Bネットワークの強化という基本的な考え方を具体化したプログラムである。
 画面設計においても、RBCプログラムの「得意先マスタメンテナンス」の画面(甲135の2、上段)と、貸出君プログラムの「得意先マスタ登録」の画面(甲135の2、下段)を比較し、また、RBCプログラムの「入出庫入力画面」(甲135の3、上段)と、貸出君プログラムの「出庫入力画面」(甲135の3、下段)を比較すれば、両者の画面設計は異なっている。そして、その結果、RBCプログラムと貸出君プログラムには多数の相違点が存在している(甲220別紙9)。
 以上のとおり、RBCプログラムのWin版は、上記の3つの基本的な考え方を具体化した結果、貸出君プログラムのWin版とは異なる新たなプログラムとなっているものというべきである。
エ 開発用書類及びオペレーションマニュアルについて
 KCSらは、RBCプログラムと貸出君プログラムの開発用書類が、その内容に加え、行数やセルの幅まで完全に一致していること、オペレーションマニュアルについても、その内容に加え、アスタリスク(*)の数や具体的な一字一句の表現まで一致している部分があることからして、データの上書きがなされていることが明らかであるとして、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものである旨主張する。
 しかし、RBCプログラムが貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって作成されたものであることは、上記説示のとおりであって、両プログラムの開発用書類及びオペレーションマニュアルにおける記載に上記の程度の共通点があるからといって、RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して、これを複製又は翻案されたものということはできない。
オ 争点2に対する結論
 上記のとおり、ビジネスサーバ版、Win版ともに、RBCプログラムは、貸出君プログラムとは異なる新しいプログラムであり、両者に同一性は認められない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、RBCプログラムは、貸出君プログラムに対するKCSの著作権を侵害するものではなく、これをいうKCSらの主張は理由がない。
(4) 争点3(RBCプログラム(Win版)は「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するか)
 前記(2)イで判示したとおり、「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムがKCS社内で開発されたことはなく、そのようなプログラムはそもそも存在しないから、その表示画面なるものもまた存在しないことになる。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、RBCプログラムが「貸出君 for win 廉価版」の表示画面に対するKCSの著作権を侵害するものではなく、これをいうKCSらの主張は理由がない。
(5) 争点4(RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発用書類(乙23)及び貸出君プログラムビジネスサーバ版の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権を侵害するか
ア KCSらは、次のとおり主張する。すなわち、@RBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、「貸出君ASP新版」プログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(翻案権)を侵害する。ARBCプログラム(ビジネスサーバ版)は、貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権(翻案権及び二次的著作物の原著作物の著作者の権利)を侵害する。BRBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」プログラムの開発用書類(乙23)に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する。CRBCプログラム(ビジネスサーバ版)の開発用書類(甲20)は貸出君プログラム(ASP版)の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権(複製権及び翻案権)を侵害する、と。
イ しかし、上記@及びBの主張については、前記(2)イで判示したとおり、KCSにおいて貸出君新版プログラムなるものは開発されておらず存在しないものであるから、理由がないことが明らかである。
ウ また、上記A及びCの主張については、前記(3)で認定説示したとおり、RBCプログラムは貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって作成されたものであるから、貸出君プログラムの開発用書類に依拠して作成したものとは認められず、かえって、これとは別のRBCプログラム独自の開発用書類に基づいて作成されたものであると認められる。
 したがって、RBCプログラム及びその開発用書類(甲20)が貸出君プログラムの開発用書類(乙49、58)に依拠して作成されたものでないことは明らかである。
エ よって、その余の点について判断するまでもなく、RBCプログラム(ビジネスサーバ版)及びその開発用書類(甲20)は「貸出君ASP新版」の開発用書類(乙23)及び貸出君プログラムビジネスサーバ版の開発用書類(乙49、58)に対するKCSの著作権を侵害するものではなく、これをいうKCSらの上記主張はいずれも理由がない。
(6) 争点5(RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出君for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)及び貸出君プログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲87)に対するKCSの著作権を侵害するか)について
ア KCSらは、@RBCプログラムのオペレーションマニュアル(甲96)は「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)を複製ないし翻案したものである、ARBCプログラムのオペレーションマニュアル(甲96)は貸出君プログラムWin版のオペレーションマニュアル(甲87)を複製ないし翻案したものであると主張する。
イ かし、上記@の主張については、前記(2)イで判示したとおり、「貸出君 for win 廉価版」なるプログラムはKCS社内で開発されたとは認められず、そもそも存在しないものであるから、そのオペレーションマニュアルも存在しないものというほかない(そもそもプログラム自体が存在しないオペレーションマニュアルなど観念することもできない。)。乙第9号証が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアルとはいえないことも、前記(2)イ(エ)で認定説示したとおりである。したがって、RBCプログラムのオペレーションマニュアル(甲96)が「貸出君 for win 廉価版」のオペレーションマニュアル(乙9)に依拠してこれを複製又は翻案して作成したものであると認められないことは明らかであって、これをいうKCSらの上記主張には理由がない。
ウ また、上記Aの主張については、前記(3)で判示したとおり、RBCプログラムは貸出君プログラムとは異なる設計仕様によって作成されたものと認められる。オペレーションマニュアルは、プログラムの操作方法について記載したものであるから、異なる設計仕様に基づいて作成されたプログラムのオペレーションマニュアルは、その性質上、他方のオペレーションマニュアルに依拠して作成され得るものではない。したがって、RBCプログラム(Win版)のオペレーションマニュアル(甲96)が貸出君プログラムWin版のオペレーションマニュアル(甲87)に依拠して作成されたものとは認められず、かえってこれとは別のRBCプログラム独自の開発用書類に基づいて作成されたものであると認められる。したがって、KCSらの上記主張もまた理由がない。
(7) 争点6(本件開発方針について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか)について
ア KCSらは、「23期上期開発部方針」(乙6)の「2.商品化計画」の@項に記載された「貸出君for win 廉価版」の開発方針(本件開発方針)が不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に当たると主張し、「営業秘密」であることが認められるための要件の1つである秘密管理性について、要旨次のとおり主張する。すなわち、乙第6号証は、平成13年9月に行った決算会議のために作成された書類であり、新製品の開発方針など極めて重要な会社方針が記載されているため、社外秘扱いとされ、「秘」の印が押捺されているほか、KCSは、内田洋行との間で秘密保持契約を締結している(乙29)。乙第6号証については、決算会議の参加者と同数しか作成されず、参加者に対しては、社外秘の機密書類であることを説明した上で、コピー禁止と説明してあり、「秘」の押印もなされているため、参加者は乙第6号証に記載された情報が営業秘密であることは当然認識していたはずである、と。
イ しかし、証拠(乙6、証人X4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 乙第6号証には、冒頭に「秘」の印が押捺されており、「貸出君 for win 廉価版」の開発方針(本件開発方針)として、次のとおり記載されている。
「For・Win廉価版
 現行のWin版の機能を承継するが出庫・入庫入力を一体化し、出入庫した伝票及び出庫のみ入庫のみの伝票入力が1画面で対応出来るように変更。また、システム範囲としては、売掛管理までとし、カスタマイズ一切なし単品管理なしかつ、伝票及び請求書はKCS指定で運用を行う。伝票及び請求書のパターンとしては、建機バージョン・仮設バージョンと分けてプリンタはドットプリンタ、レーザープリンタ対応の計4パターンを用意する。」
(イ) 上記決算会議は、毎回、内田洋行の会議室を借りて行われており、大阪本社の従業員は全員これに出席することとされていた。
(ウ) 乙第6号証は、X4が第23期上期の開始に当たり、同会議で発表するために作成したもので、出席者全員に配布された。X4は、同会議の席上において、乙第6号証に基づいて説明を行い、また、X2は、内田洋行に対しその内容を説明していた。乙第6号証には、上記のとおり冒頭に「秘」の印が押捺されていたが、これとともに配布された乙第5号証には「秘」の印が押捺されておらず、第23期下期に配布された同趣旨の資料(乙第7、第8号証)にも「秘」の印が押捺されていなかった。また、各用紙にナンバリングを付したり、配付枚数を記録するなどの部数管理までは行われておらず、散会後は内田洋行のビルにある社員食堂でパーティを行った後、各自持ち帰ることを許していた。
(エ) 上記決算会議に出席した従業員は、本件開発方針を含め乙第6号証に記載された内容を踏まえて営業活動を展開しており、KCSが今後開発し発売する予定のソフトについても顧客や見込み客に積極的に説明していた。
ウ 上記イ認定の事実によれば、乙第6号証にはその冒頭に「秘」の印が押捺されているものの、同時に配布された乙第5号証や、第23期下期の開始にあたり開催された決算会議で配布された資料(乙7、8)には「秘」の印が押捺されていなかったのであり、KCSの上記資料に関する秘密管理体制は一貫したものではなかったことがうかがえる上、会議終了後はパーティの後各自持ち帰っていて、その際にKCSにおいて機密資料として取扱いに注意するよう求めるなどの措置を執っていた形跡はない。また、本件開発方針を含め乙第6号証に記載された内容を踏まえて出席従業員による営業活動が展開されていて、KCSが今後開発し発売する予定のソフトについても顧客や見込み客に積極的に説明していたというのであるから、KCSの従業員をして、乙第6号証その他の開発方針に関する資料の記載内容がKCSの営業秘密であることを認識させるような措置が執られていたとは認められない。
エ 以上によれば、本件開発方針は秘密管理性を欠き、不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」には当たらない。したがって、本件開発方針に係る不正競争防止法に基づくKCSらの請求(差止め・廃棄、損害賠償)はいずれも理由がない。
(8) 争点6(本件開発方針及び本件プログラム作成情報について、RBCらは不正競争防止法2条1項7号、8号所定の不正競争をしたか)について
ア KCSらは、貸出君プログラムの仕様書(乙23、49、58)に記載されたプログラム作成に関する情報(本件プログラム作成情報)は不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に当たるところ、X1ら8名がこれを持ち出してRBCに開示し、RBCはこれを利用してRBCプログラムを作成しRBCソフトを販売したと主張する。
イ しかし、まず、乙第23号証は、前記(2)イ(カ)で判示したとおり、KCSの元従業員がKCSを退職後にRBCのために作成したものと認められ、そもそもKCSの保有に係る情報ではないから、KCSが秘密として管理している営業秘密に当たらない。
ウ 次に、乙第49号証及び第58号証は、貸出君プログラムの開発用書類であるが、前記(2)イ(オ)で判示したとおり、KCSの元従業員が貸出君プログラムの開発用書類を持ち出した事実は認められない。
エ したがって、本件プログラム作成情報に係る不正競争防止法3条、4条に基づくKCSらの請求(差止め・廃棄、損害賠償)はいずれも理由がない。
(9) 争点7(貸出君関連成果物を持ち出したことを理由とする民法709条の不法行為の成否)について
ア KCSらは、RBCらはKCSが長年かけて開発・改良してきた貸出君関連成果物を持ち出し、適宜修正を加えることで、極めて短時間にRBCソフトを完成させ、これをKCSの顧客に販売して不当な利益を上げており、このようなRBCらの行為はKCSに対する不法行為を構成する旨主張する。
イ しかし、RBCらにおいて貸出君関連成果物を持ち出したと認められないこと、また、RBCらにおいて貸出君プログラムに依拠してRBCプログラムを作成したことがないことは、既に認定説示したとおりである。RBCらにおいては、前記(3)ウ認定のとおり、独自にプログラムを開発しRBCソフトを作成したものであって、RBCらにおいて、KCSに対する不法行為を構成すると目すべき行為を行ったとは認められない。
ウ よって、KCSのRBCらに対する不法行為に基づく請求はいずれも理由がない。
3 第1事件に対する判断
(1) 争点1(本件文書1の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
ア 記載(1)(「弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し」)の虚偽性(ア) 本件文書1(別紙4記載の「御取引先各位」と題する文書)は、KCSが平成15年3月29日にRBCとの競合取引先約350社に対して送付したものであるところ、本件文書1の記載(1)は、その後に続く「…この度、弊社が懲戒解雇した社員が独自に会社を設立し弊社御客様に案内しているようですが、弊社とは一切無関係です。…日頃からご愛顧頂いています建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフト『貸出君』は、弊社にて開発、販売を行っており弊社が著作権を所有し、商標登録しております。弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性がありますので御注意お願いします。…」という文脈の中で記載されているから、本件文書1を受け取った者(RBCとKCSの競合取引先)は、上記部分が「KCSが懲戒解雇をした社員がRBCを設立し、RBCはKCSの著作権及び商標権を侵害している」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) KCSらは、RBCはKCSが平成15年3月31日付けで懲戒解雇したX5、X1及びX43名らが首謀者となって設立したものであるから、本件文書1の記載(1)は虚偽ではないと主張する。
 しかし、KCSが本件文書1を送付したのは平成15年3月29日であり、その時点では、KCSは未だ上記懲戒解雇の意思表示をしていなかったのであるから、本件文書1の記載(1)は同時点において虚偽であることは明らかである。
 また、証拠(甲101)及び弁論の全趣旨によれば、X5、X1及びX4は、いずれも平成15年3月5日にKCSに退職届を提出したことが認められるから、それから2週間を経過した同月20日は既に任意退職の効果が発生している(民法627条1項)以上、その後にした懲戒解雇の意思表示は無効である。
 したがって、いずれにしても本件文書1の記載(1)は虚偽であり、また、その内容自体、KCSを懲戒解雇されるほどの非行を行ったKCS元従業員によりRBCが設立されたものである旨のRBCの社会的信用を失墜させるような内容を含み、かつ、同記載がなされている文脈に照らせば、同記載はRBCの営業上の信用を害するものであると認められる。
(ウ) よって、上記記載(1)を含む本件文書1を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(1)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
 なお、RBCは、KCSの上記行為は民法709条の不法行為をも構成するかのような主張をするが、その主張内容は、結局、KCSの上記行為がRBCの信用を毀損するものであるとの主張に尽きるものであり、不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当するとの主張に含まれるものと認められるので、KCSの上記行為が不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当するか否かの判断とは別に、それがRBCに対する信用毀損行為であるとして、民法709条の不法行為に該当するか否かについて(争点7)は判断しない。この点は、下記イ、(2)ないし(7)においても同様である。
イ 記載(2)(「弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性があります」)の虚偽性
(ア) 本件文書1の記載(2)は、「…日頃からご愛顧頂いています建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフト『貸出君』は、弊社にて開発、販売を行っており弊社が著作権を所有し、商標登録しております。弊社権利を侵害している会社と取引されますと法的な差止請求される可能性がありますので御注意お願いします。…」という文脈の中で記載されているから、本件文書1を受け取った者(RBCとKCSの競合取引先)は、上記部分が「RBCは、『貸出君』についてKCSが有する著作権及び商標権を侵害しているので、RBCと取引をすると差止請求権を行使される可能性がある」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) しかし、RBCプログラムが、貸出君プログラム等についてKCSが有する著作権を侵害するものでないことは、既に認定説示したとおりである。
 したがって、本件文書1の記載(2)中、「RBCが、『貸出君』についてKCSが有する著作権を侵害している」旨の部分は、RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実に当たるものと認められる。
(ウ) また、KCSが「ミスターアドヴァンス/MISTER ADVANCE」の文字から成る商標(本件登録商標)について商標出願をしたのは平成15年4月23日であり、その商標登録がされたのは同年11月21日である。これに対し、KCSが本件文書1を送付したのは同年3月29日であり、その時点では、KCSは未だ本件登録商標について商標権を有していなかったのであるから、本件文書1の記載(2)は同時点において虚偽であることは明らかである。
 なお、KCSは「貸出君」の標準文字から成る商標の商標権者であるが、RBCが同商標の指定商品に同商標と同一又は類似の標章を使用したなど、同商標権を侵害した事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件文書1の記載(2)中、「RBCが、KCSが有する商標権を侵害している」旨の部分は、RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実に当たるものと認められる。
(エ) さらに、本件文書1の記載(2)中、「RBCと取引をすると差止請求権を行使される可能性がある」旨の部分については、そもそもRBCが仮にKCSの有する著作権又は商標権を侵害していたとしても、差止請求権を行使される可能性のある製品があるのはRBCであって、その取引先である本件文書1の受取人ではないから、上記部分もまた、取引先とRBCとの取引を不当に委縮させるものとして、RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実に当たるものと認められる。
(オ) 以上によれば、上記記載(2)を含む本件文書1を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(2)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
(2) 争点2(本件文書2の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
ア 記載(1)(「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」)の虚偽性
(ア) 本件文書2(別紙5記載のパンフレット)は、KCSが平成15年10月にRBCとの競合取引先多数に対して送付したパンフレットであるところ、本件文書2を受け取った者は、本件文書2の記載(1)が「KCSにおいて従前『ミスターアドヴァンス』を販売していたが、これが既に古いものとなってしまったので、これをバージョンアップし、『貸出君Personal』として販売することになった」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) しかし、KCSが平成15年10月以前に「ミスターアドヴァンス」を販売した事実を認めるに足りる証拠はなく、また、「貸出君Personal」が「ミスターアドヴァンス」をバージョンアップしたものであることを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、いずれにしても本件文書2の記載(1)は虚偽であり、また、本件文書2の送付当時RBCは「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していたから(当事者間に争いがない。)、これが既に古いものになってしまったことをも意味する上記記載は、RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。
(ウ) よって、上記記載(1)を含む本件文書2を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(1)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
イ 記載(2)(「貸出君・ミスターアドヴァンスは、潟Pイシィエスの登録商標または商標です。」)の虚偽性
(ア) 本件文書2を受け取った者は、本件文書2の記載(2)が、同記載(1)(「ミスターアドヴァンスがさらにバージョンUPして《貸出君Personal》遂にデビュー!!」)と相まって、「『貸出君』及び『ミスターアドヴァンス』のいずれもKCSの登録商標又は商標である」ことを意味していると認識するものと認められる。
 KCSらは、本件文書2の記載(2)においては、「貸出君」「ミスターアドヴァンス」の順に対応する形で、それらがKCSの「登録商標」「商標」であるというように、言葉が使い分けられているから、同記載(2)は、KCSは「貸出君」の商標を登録済みであり、「ミスターアドヴァンス」については登録に至っていないことを意味する旨主張する。しかし、上記記載(2)から直ちにKCSら主張の対応関係を直ちに読み取ることはできない。したがって、KCSらの上記主張は採用できない。
(イ) そうすると、本件文書2の記載(2)は、「『ミスターアドヴァンス』はKCSの登録商標である」ことをも意味することになる。
 しかし、「ミスターアドヴァンス/MISTER ADVANCE」の文字から成る商標(本件登録商標)について商標登録がされたのは平成15年11月21日であるのに対し、KCSが本件文書2を送付したのは同年10月ころであり、その時点では、KCSは未だ本件登録商標について商標権を有していなかった。また、KCSが平成15年10月以前に「ミスターアドヴァンス」をKCSの商標として使用した事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件文書2の記載(2)は虚偽であり、また、本件文書2の送付当時RBCは「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していたから(当事者間に争いがない。)、これがKCSの登録商標であることをも意味する上記記載は、RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。
(ウ) よって、上記記載(2)を含む本件文書2を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(2)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
(3) 争点3(本件文書3の送付は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
ア 記載(1)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いている」)の虚偽性
(ア) 本件文書3(別紙6記載の「商標権侵害会社のお知らせ」と題する文書)は、Y1が平成15年12月4日にRBCとの競合取引先多数及びファイナンス会社多数に対して送付したものであるところ、本件文書3を受け取った者は、本件文書3の記載(1)は「KCSが『ミスターアドヴァンス』という名称のソフトウェアを販売しており、その販売先は500社に上る」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) しかし、KCSが平成15年12月4日以前に「ミスターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売した事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件文書3の記載(1)は虚偽であり、また、RBCは平成15年11月ころまで「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していたから(当事者間に争いがない。なお、KCSの商標登録時までのRBCの上記販売行為自体はKCSの商標権を何ら侵害するものではなく、かつ、前記のとおり著作権を侵害するものでもない。)、同記載(1)は、RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。
(ウ) よって、上記記載(1)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(1)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
イ 記載(2)(「(『貸出君』、)『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発、販売を行っており著作権を有し」)の虚偽性
(ア) 本件文書3を受け取った者は、本件文書3の記載(2)は「KCSが『ミスターアドヴァンス』を開発し販売しており、その著作権を有している」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) しかし、KCSが平成15年12月4日以前に「ミスターアドヴァンス」を開発し販売した事実を認めるに足りる証拠はない。また、「ミスターアドバンス」を含むRBCプログラムが、KCSの元従業員がKCSを退職後にRBCのために開発し作成したものであることは、既に認定説示したとおりであり、KCSは、「ミスターアドバンス」について著作権を有していたことはない。
(ウ) したがって、本件文書3の記載(2)は虚偽であり、また、RBCは平成15年11月ころまで「ミスターアドバンス」の名称のソフトを販売していたから(当事者間に争いがない。)、同記載(2)は、RBCの営業上の信用を害するものであると認められる。
(エ) よって、上記記載(2)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(2)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
ウ 記載(3)(「この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。」)の虚偽性
(ア) 本件文書3の記載(3)は、「…弊社の建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェア『貸出君』、『ミスターアドヴァンス』は、全国で500社近くのユーザ様でお使い頂いているコンピューターソフトウェアです。『貸出君』、『ミスターアドヴァンス』は弊社にて開発、販売を行っており著作権を有し、商標登録しております。この建機・仮設資材レンタル業向けアプリケーションソフトウェアの商標が下記会社に侵害されております。…商標権侵害会社株式会社アールビィシィ…」という文脈の中で記載されているから、本件文書3を受け取った者は、本件文書3の記載(3)は、少なくとも「RBCが、本件登録商標に対してKCSが有する商標権を侵害している」ことを意味していると認識するものと認められる。
(イ) 確かに、KCSは、本件登録商標(「ミスターアドヴァンス/MISTER ADVANCE」の文字から成る商標)について、平成15年4月23日に商標出願を行い、本件登録商標は同年11月21日に商標登録されたものであるところ、証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば、RBCは、同月26日ころ、朝日リース株式会社に対し、「Mr.Advance」の標章を付したシステム提案書を提示したことが認められるから、RBCは本件登録商標に対してKCSの有する商標権を侵害したもののようにも見える。
(ウ) しかし、(甲24〜28)及び弁論の全趣旨によれば、RBCは、本件文書2が出回っていることを知り、平成15年10月20日ころインターネットで商標登録の出願・登録状況等について調査したところ、KCSが本件登録商標について商標出願中であることを知り、弁理士の指導を受け、同年11月1日以降「ミスターアドバンス」の標章の使用を中止する方針をとり、「建機・仮設レンタルシステム」(甲24、26)、「建機レンタル業向け販売管理システム」(甲25)、「リース・レンタルシステム」(甲27、28)の標章を使用するようになったこと、しかし、「ミスターアドバンス」標章の使用中止の方針が充分に徹底されていなかったため、上記システム提案書を提示してしまったことが認められ、これにより、RBCは、過失によりKCSの上記商標権を侵害したものであることは否定できない。
 他方、KCSは、本件登録商標について商標出願を行った平成15年4月23日以前に「ミスターアドヴァンス」ないし「ミスターアドバンス」の名称の商品を販売したことはなかったし、そのような名称の商品の販売計画もなかったこと、RBCは同年3月に「ミスターアドバンス」の名称でRBCソフトの販売を開始したこと、KCSは、同月29日付けで、RBCとの競合取引先多数に対して、「KCSが懲戒解雇をした社員がRBCを設立し、RBCはKCSの著作権及び商標権を侵害している」ことを意味する記載を含む本件文書1を送付したこと、以上の事実に照らせば、KCSが本件登録商標について商標出願をしたのは、もっぱら、RBCによるRBCソフトの販売活動の妨害を目的としたものと推認することができ、この推認を左右するに足りる証拠はない。
 以上の事実を併せ考慮すれば、KCSがRBCに対し、本件登録商標に係る商標権に基づく権利主張をすることは、権利の濫用に当たり、許されないものというべきである。
 しかして、本件文書3の記載(3)は、KCSがRBCに対して本件登録商標に係る商標権に基づく権利主張をすることが許されないにもかかわらず、これが許されることを前提としてされたものであるから、同記載は虚偽の事実を記載したものというべきであり、同記載がRBCの営業上の信用を害するものであることは明らかである。
(エ) よって、上記記載(3)を含む本件文書3を送付したKCSの行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記記載(3)の内容、告知流布の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
(4) 争点4(Y1のリコーリースP2に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)
ア 発言内容
 証拠(甲6の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、Y1は、平成15年12月12日、リコーリース名古屋支社を「商標権侵害会社のお知らせ」(甲3の1)及び「警告書」(甲3の2)の写しを持参して同社のP2を訪問したが、同人が不在であったため、後刻電話で同人に対し、「@日成工業所は、RBCのソフトが稼動できず機械が使用できる状態でないにもかかわらず、リース料金を支払っている。A日成工業所は、RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないため、非常に立腹していた。Bそのようなことは至るところで発生しており、ある客先では、リース会社と同行の上契約検収を行い、リース会社が帰った後に機器を持ち帰りその後納品を行わないという詐欺のような販売を行っている。」旨告げたことが認められる。
イ 発言内容の虚偽性
(ア) 上記@については、前記2(1)ウ認定のとおり、日成工業所においては、平成15年12月1日からRBCのシステムを本格稼動している。したがって、上記@は事実と異なる。
(イ) 上記Aについては、証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば、日成工業所は、平成15年12月15日付けで、リコーリースに対し、「同年3月にRBCのシステムを導入し、10月に最後のテストを完了、11月から本稼動を始めた。今後も十分に活用することはもちろん、RBCとも長いお付き合いをするつもり」旨の手紙を出していることが認められる。したがって、上記Aは事実と異なる。
(ウ) 上記Bについては、平成15年12月12日当時、RBCのソフトが稼動できず機械が使用できる状態ではなかったということ、RBCがソフトウェア稼動に係るフォローを全く行っていないということ、このような事態が至るところで発生していたことを認めるに足りる証拠はない。このことに弁論の全趣旨を併せると、上記Bも事実と異なるものと認められる。
(エ) 上記@ないしBの発言は、いずれRBCの営業上の信用を害するものであることが明らかである。
ウ 小括
 したがって、Y1の上記アの発言は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記発言の内容、告知の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
(5) 争点5(KCS従業員の中村建機P3に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
ア 発言内容
 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、KCSの営業担当社員P6は、平成16年1月6日、中村建機代表取締役のP3を訪問し、同人に対し、「@RBCのユーザーではトラブルばかりで、稼動しているところはまだない。特に広島の顧客は未だに稼動していない。ARBCが納入しているソフトは、KCSにあった「貸出君」を持ち出し、修正を加えて販売している。著作権はKCSにあるので、今後使えなくなる。BRBCへ行った元社員は、退職時に書類などを持ち出していった。CRBCのX2らが、在職中に中古機等のアルバイト的なことを行っていた。」旨告げたことが認められる。
イ 発言内容の虚偽性
(ア) 上記@については、前記2(1)ウ認定のとおり、平成16年1月6日当時は既に、ベストレンタル、鈴建輸送、日成工業所、長浜産業、興南機械及び中村建機においてRBCのシステムは稼動中であった。また、証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年1月現在、広島におけるRBCの顧客は、長浜産業1社のみであったこと、長浜産業はRBCの対応に満足していることが認められる。したがって、上記@は事実と異なる。
(イ) 上記Aについては、RBCプログラムが「貸出君」プログラムの著作権を侵害するものではないこと、また、RBCプログラムはKCSの元従業員がKCS在職中に作ったものではなく、KCSがその著作権を有するものでないことは、前記認定のとおりである。したがって、上記Aは事実と異なる。
(ウ) そして、上記@及びAは、いずれもRBCの営業上の信用を害するものであることが認められる。他方、上記B及びCは、いずれも発言内容に具体性を欠き、RBCの営業上の信用を害する事実の告知とまでは認められない。
ウ 小括
 以上によれば、KCS従業員P6の上記ア@及びAの発言は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たる。そして、上記発言の内容、告知の態様等を考慮すれば、上記不正競争が少なくとも過失に基づくものであることが優に認められる。
(6) 争点6(KCS従業員の川嶋機械工業所P4に対する発言は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)について
ア 発言内容
 証拠(甲11の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、KCSの従業員であるP7及びP6は、平成16年3月31日ころ、川嶋機械工業所を訪問し、同社のP4に対し、「RBCについては社員がどんどん退職しており、人手不足の状態である。あの会社はいつまで続くかわからないのでメンテに問題がある。RBCとは(取引を)止めておいた方がよい。」旨告げたことが認められる。
イ 発言内容の虚偽性
 上記発言は、退職者の数や割合、人手不足により現実にメンテナンスにおいて生じた支障等、具体的な事実の告知を伴うものでないから、RBCの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知とまでは認められない。
ウ 小括
 よって、KCS従業員P7及びP6の上記アの発言は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たるとはいえず、かつ、民法709条の不法行為を構成するともいえない。
(7) 争点8(RBCの被った損害の額)について
ア 営業上の損害
(ア) 証拠(甲93〜95、98)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a RBCは、センターリースとの間で、平成15年12月8日、RBCソフト等の売買契約を代金302万円(内訳ハード92万円、ソフト210万円)で締結した。また、同契約においては、リース会社を尼信リースとすることが合意され、尼信リースは、RBCに対し、同月15日、上記物件を同額で買い受ける旨の注文書を発行した。
 ところが、RBCは、第1事件の訴え提起後、センターリースから、上記契約を解消された。
b RBCは、友清商店との間で、平成15年12月中旬ころ、RBCソフト等の売買契約を代金290万円(ハード50万円、ソフト240万円)で締結した。また、同契約については、九州リースに対し、ファイナンスの申込みをした。
 RBCは、第1事件の訴え提起後、友清商店から、上記契約を解消された。
(イ) 上記認定事実によれば、RBCは、センターリース及び友清商店との間の上記各契約を第1事件の訴え提起後に解消されたものであるが、それがKCSらによる本件文書1ないし3の送付等、前記認定の不正競争ないし不法行為によるものであるとの点は、本件全証拠をもってしても認めるに足りない。すなわち、本件においては、上記各契約が解消されたことやその理由に関する証拠(例えばセンターリースや友清商店が上記各契約が解消した理由を記載した解除通知書や陳述書等)が提出されていないところ、上記契約が解消される理由としてはRBCの債務不履行、信用不安その他種々の理由が考えられるところであり、上記証拠が提出されていない状況の下においては、契約解消の理由がこれらの理由ではなく、KCSらによる前記不正競争に起因するものとは断定できない。
 そうすると、RBCが被ったと主張する上記各契約の解消に伴う営業上の損害は、KCSらによる前記不正競争と相当因果関係のあるものとの立証がされていないことになるから、同損害の賠償を求めるRBCの請求は理由がない。
 なお、RBCは、KCSらの上記不正競争により、上記2社とは別に、別紙7「損害一覧表」記載のとおり、A社ないしC社から合計2693万円の商談を解消され、2541万7000円の営業上の損害を被った旨主張する。しかし、A社ないしC社が具体的にどこを指すのかが明らかでないことはさておくとしても、RBCらは、A社ないしC社との各契約内容のほか、同各契約がKCSらの上記不正競争によって解消されたものであることについて、何ら証拠を提出せず、上記事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、A社ないしC社に係る上記損害の賠償を求めるRBCの請求も理由がない。
イ 無形損害
 本件文書1ないし3の送付先及びその数、記載内容、Y1等の前記発言の内容に加え、弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、RBCは、KCSらによる前記不正競争により、営業上の信用を害されたことが優に認められ、かつ、多数の取引先及び多数のファイナンス会社に釈明、善処を求めることに忙殺されたこと、その他上記行為により、業務遂行上多大な支障が生じたものと認められる。
 上記事実その他本件に顕れた事情を総合考慮し、なお、後記(8)のとおり、本件では不正競争防止法14条所定の信用回復措置が執られることをも併せ考慮して、RBCがKCSらの不正競争等により被った無形損害は200万円を下らないものと認められる。
ウ 弁護士費用
 KCSらの不正競争等により、RBCは本件訴訟を提起せざるを得なかったこと、その他本件訴訟の経緯等に照らすと、弁護士費用相当損害金として20万円を認めるのが相当である。
エ RBCの損害
 KCSらの不正競争等によってRBCが被った損害の額は、上記イ及びウの合計220万円となる。そして、前記不正競争等のうちY1が直接の行為主体となっていないもの(本件文書1及び2の送付、KCS従業員による虚偽の事実の告知)についても、KCSの取締役社長であるY1が関与していたものと推認されるから、KCSらによる前記不正競争については、KCS及びY1が連帯して上記220万円の損害賠償義務を負うものというべきである。
(8) 争点9(不正競争防止法14条所定の信用回復措置の要否)について
 KCSらの上記一連の不正競争は、虚偽の事実を告知ないし流布することにより、競争関係にあるRBCの営業上の信用を害するものである。ただし、RBCが謝罪文の送付を請求しているのは、本件文書3のみについてであるところ、その内容は、受け手をして、@KCSが「ミスターアドヴァンス」という名称のソフトウェアを販売しており、その販売先は500社に上ること、AKCSが「ミスターアドヴァンス」を開発し販売しており、その著作権を有していること、BRBCが、本件登録商標に対してKCSが有する商標権を侵害していることをそれぞれ意味していると認識させるものである。しかし、上記事実はいずれも虚偽であり、とりわけ「ミスターアドヴァンス」なる商品名はRBCが創案し、そのプログラムはRBCが作成したものであるにもかかわらず、KCSにおいてその販売実績もないのに販売先が500社にも上るとか、「ミスターアドヴァンス」の著作権を有するとか、RBCに対し商標権の行使が権利濫用となり認められないのにRBCが「ミスターアドヴァンス」なる登録商標の商標権を侵害するなどと事実無根の内容を告知又は流布したものであり、その内容及び告知流布の態様等に照らせば、RBCがKCSらに対し無形損害に基づき上記金額の損害賠償請求権が認められるとしてもそれによる信用回復の程度は十分とはいい難いから、RBCの信用を回復するため、KCSらに対し別紙2記載の謝罪文の送付を命じる必要があると認められる。
(9) 結論
 以上によれば、RBCの第1事件に係る請求は、KCSらに対し、不正競争防止法4条及び民法709条に基づく損害賠償(無形損害及び弁護士費用相当損害)として220万円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日である、KCSは平成16年2月6日から、Y1は同月7日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払及び不正競争防止法14条に基づく信用回復措置を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。また、KCSの第2事件及び第3事件に係る請求は、いずれも理由がないから棄却する。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 西理香
 裁判官 高松宏之は、転任のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 田中俊次
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