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【事件名】書籍の増刷確認事件
【年月日】平成20年3月28日
 東京地裁 平成20年(ワ)第913号 著作権使用料請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年2月22日)

判決
原告 A
被告 株式会社文芸社
同訴訟代理人弁護士 田宮武文
同 依田修一
同 裄V泰
同 村上智裕
同 永滋康
同 内橋徹
同 小室大輔
同 山越真人


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、平成17年度ないし平成19年度における原告に対する著作権使用料支払に関する支払調書控えを閲覧させよ。
2 被告は、原告に対し、200万円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、自己の著作物につき被告と出版契約を締結した原告が、被告に対し、同出版契約に基づき、前訴(東京地方裁判所平成17年(ワ)第18674号著作権使用料請求事件)の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降の増刷に係る平成17年度ないし平成19年度における原告に対する著作権使用料支払に関する支払調書控えの閲覧及び著作権使用料の支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 本件出版契約
 原告は、その著作物「世界初、大発見地震予知確立」を書籍として出版することにつき、平成11年11月17日、被告と以下の内容を含む出版契約(以下「本件出版契約」といい、出版される書籍を「本件書籍」という。)を締結した。
 第9条(著作権使用料)
  被告は、原告に対して、次のとおり本件書籍の著作権使用料を支払う。
  部数1部ごとに本体価格の8%に相当する金額。(3刷以上10%)
  ただし、初版については2%とする。
 第11条(贈呈部数等)
  被告は、初版第1刷の際に100部まで、増刷に際してはそのつど1部を原告に贈呈する。ただし、初版出版2ヶ月前までに必要部数を決定するものとする。
 2.原告は、第9条の規定にかかわらず、納本・贈呈・批評・宣伝・業務などに使用する見本分として、初版に際し100部と前項の部数を加えた合計200部について著作権使用料を免除する。
 第12条(発行部数の報告)
  被告は、本件書籍の発行部数を証するため、原告に対し製本のつどその部数を報告する。原告の申し出があった場合には、被告は、その証拠となる書類の閲覧に応ずる。
(明らかに争わない事実)
(2) 本件書籍初版第1刷の発行
 被告は、本件出版契約に基づき、平成12年5月1日、本件書籍の初版第1刷1200部を本体価格1000円で発行した。
(争いのない事実)
(3) 被告による著作権使用料の支払
 被告は、同年9月8日、本件書籍初版第1刷として発行した1200部につき、原告に対し、著作権使用料として1万8000円を支払った。
 本件書籍の本体価格1000円×(1200部−200部)×初版分の著作権使用料率2%×(100%−源泉徴収分10%)=1万8000円
(争いのない事実)
(4) 別件訴訟1
 原告は、東京地方裁判所平成13年(ワ)第22669号著作権使用料請求事件(以下「別件訴訟1」という。)において、被告に対し、初版第1刷1200部を超える本件書籍の発行につき、本件出版契約に基づく著作権使用料の支払を求めた。
 別件訴訟1については、平成14年3月11日に口頭弁論終結の上、同年4月8日、被告が初版第1刷1200部を超えて本件書籍を発行したとは認められないとして、原告の請求を棄却する旨の判決がされ、同判決は同月22日の経過により確定した。
 (乙1の1及び2)
(5) 別件訴訟2
 原告は、東京地方裁判所平成17年(ワ)第18674号著作権使用料請求事件(以下「別件訴訟2」という。)において、被告に対し、初版第1刷1200部を超える本件書籍の発行につき、本件出版契約に基づき、平成12年度ないし平成17年度における著作権使用料支払に関する支払調書控えの閲覧及び平成14年3月12日以降の著作権使用料の支払を求めた。
 別件訴訟2については、平成17年10月12日に口頭弁論終結の上、同月28日、原告の訴えのうち、平成17年度分の支払調書控えの閲覧請求に係る訴えについては、将来の給付の訴えであり、あらかじめその請求をする必要性が認められないとして訴えを却下し、その余の請求については、平成14年3月12日以降に初版第1刷1200部を超えて被告が本件書籍を追加発行したことを認めるに足りる証拠がないなどとして、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決がされ、同判決は同年11月15日確定した。
 (乙2の1及び2)
2 争点
(1) 支払調書控えの閲覧請求権の存否
(2) 著作権使用料の支払義務の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 支払調書控えの閲覧請求権の存否について
ア 原告の主張
(ア) 被告は、別件訴訟2の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降に初版第1刷1200部を超えて本件書籍を追加発行した。
(イ) 被告は、所得税法225条1項に基づき、上記追加発行につき、平成17年度ないし平成19年度の原告に対する著作権使用料支払に関する支払調書(以下「平成17年度ないし平成19年度分の支払調書」といい、その他の年度分の支払調書についても同様に略称する。)を作成し、その控えを所持している。
(ウ) 平成17年度ないし平成19年度分の支払調書控えは、本件出版契約第12条にいう「その証拠となる書類」に該当する。
(エ) 原告は、本件訴訟において、被告に対し、平成17年度ないし平成19年度分の支払調書控えの閲覧を申し出た。
イ 被告の主張
(ア) 原告の主張(ア)ないし(ウ)は否認し、(エ)は認める。
(イ) 被告は、平成12年5月1日に初版第1刷1200部を発行して以降、本件書籍を発行していないから、平成12年度分の支払調書控え以外の支払調書控えは存在しない。
(2) 著作権使用料の支払義務の有無について
ア 原告の主張
(ア) 被告は、別件訴訟2の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降、本件書籍を少なくとも6万6667部発行した。
(イ) したがって、本件出版契約に基づき、被告が原告に支払うべき著作権使用料は、少なくとも200万円となる。
 1000円×6万6667部×3%(本件出版契約第9条所定の8%から原告以外の者に対する分配分5%を控除した。)=200万0010円
イ 被告の主張
(ア) 原告の主張(ア)は否認する。
 被告は、平成12年5月1日に初版第1刷1200部を発行して以降、本件書籍を発行していない。
(イ) 同(イ)は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 支払調書控えの閲覧請求権の存否について
(1) 本件で原告がその控えの閲覧を求める支払調書は、著作権使用料等の報酬又は料金(所得税法204条1項1号)につき支払をする者が税務署長に提出しなければならないものであるところ(同法225条1項3号)、この支払調書は、「その支払…の確定した日」の属する年の翌年1月31日までに提出しなければならないとされていることからも明らかなように、著作権使用料等の支払義務の成立を前提として、支払義務者にその作成が義務付けられるものである。
 したがって、当該年度に著作権使用料等の支払がなかった場合には、そもそも支払調書は作成されず、その控えが作成されることもない。
(2) 後記2(1)のとおり、別件訴訟2の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降に、被告が初版第1刷1200部を超えて本件書籍を発行したことを認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって、平成17年度ないし平成19年度分の支払調書及びその控えが作成されたことを認めることはできないから、これらの年度分の支払調書控えの閲覧を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 著作権使用料の支払義務の有無について
(1) 原告は、別件訴訟2の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降、被告が初版第1刷1200部を超えて本件書籍を発行した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件書籍を平成12年4月7日に1200部製作したこと及び上記部数以上の製作をしていないことを証明する旨の株式会社フクイン作成の平成20年2月21日付け製作証明書(乙5)によると、被告は、平成17年10月12日以降、初版第1刷1200部を超えて本件書籍を発行した事実はないことが認められる。
(2) よって、別件訴訟2の口頭弁論終結時(平成17年10月12日)以降に追加発行された6万6667部について、本件出版契約に基づき著作権使用料200万円の支払を求める請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
3 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 大竹優子
 裁判官 宮崎雅子
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