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【事件名】商標“ELLE”侵害事件(ロックバンド)(2)
【年月日】平成20年3月19日
 知財高裁 平成19年(ネ)第10057号 商標権侵害差止等請求控訴事件、同第10069号 附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成18年(ワ)第4029号)
 (口頭弁論終結日 平成20年1月30日)

判決
控訴人・附帯被控訴人(一審被告) 株式会社グローイングアップ
訴訟代理人弁護士 関根修一
同 山田徹
同 高橋史記
被控訴人・附帯控訴人(一審原告) アシェット フィリパキ プレス ソシエテ アノニム
訴訟代理人弁護士 関根秀太
同 橋口泰典
同 達野大輔


主文
1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は、別紙被告標章目録(10)記載の標章を音楽CDに付し、同標章を付した同商品を販売し、若しくは販売のために展示し、又は同標章を付した同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び2記載のウェブサイトに表示してはならない。
(2) 一審被告は、一審被告が所有する音楽CDから、被告標章(10)を抹消せよ。
(3) 一審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その9を一審原告の、その余を一審被告の負担とする。
3 一審原告につき、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨(一審被告)
1 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
2 一審原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、一審原告の負担とする。
第2 附帯控訴の趣旨(一審原告)(当審における拡張部分〔下線部〕を含む)
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は、別紙被告標章目録(1)(2)(3)(4)(5)、(7)(8)(9)、(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)記載の各標章をTシャツに付し、同標章を付したTシャツを販売し、若しくは販売のために展示し、又は同Tシャツの広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(2) 一審被告は、別紙被告標章目録(2)・(20)記載の標章をリストバンドに付し、同標章を付したリストバンドを販売し、若しくは販売のために展示し、又は同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(3) 一審被告は、別紙被告標章目録(2)記載の標章をタオル若しくはスコアブックに付し、同標章を付したタオル若しくはスコアブックを販売し、若しくは販売のために展示し、又は同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(4) 一審被告は、別紙被告標章目録(2)、(4)、(5)記載の標章をステッカーに付し、同標章を付したステッカーを販売し、若しくは販売のために展示し、又は同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(5) 一審被告は、別紙被告標章目録(2)、(6)、(21)記載の標章を帽子に付し、同標章を付した帽子を販売し、若しくは販売のために展示し、又は同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(6) 一審被告は、別紙被告標章目録(10)記載の標章を音楽CDに付し、同標章を付した音楽CDを販売し、若しくは販売のために展示し、又は同商品の広告を別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトに表示させてはならない。
(7) 一審被告は、第(1)項ないし第(6)項記載の一審被告が所有する各商品から、第(1)項ないし第(6)項記載の各標章を抹消せよ。
(8) 一審被告は、別紙被告ウェブサイト目録1及び記載のウェブサイトから、各標章を付した第(1)項ないし第(5)項記載の各商品の広告の表示を削除せよ。
2 訴訟費用は、第1、2審とも、一審被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第3 事案の概要
【以下、略称は原判決の例による。】
1 一審原告は、1945年(昭和20年)12月14日、フランス法に基づき設立された会社であり、女性向けファッション雑誌「ELLE」(原告雑誌)の発行を世界各国において行うほか、世界各国において商標「ELLE」(以下「原告商標」ともいう。)を管理し、商標登録を受け、当該商標を付した各種商品の製造、販売及び各種役務の提供を展開している会社である。
 一方、一審被告は、音楽録音物・映像物の原盤の企画制作等を目的とする株式会社で、ロックバンド「ELLEGARDEN」(本件ロックバンド)は同社に所属している。
2 本件は、別紙原告登録商標目録1〜5の商標についての商標権者でありこれを周知又は著名商標として使用する一審原告が、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブック・音楽CD(被告商品)を販売等する一審被告に対し、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックについては商標法36条、不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づき、音楽CDについては不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づき、被告商品への被告標章の使用差止等を求めた事案である。
3 これにつき原審の東京地裁は、平成19年5月16日、@被告標章は原告商標に類似する、Aしかし、一審被告による被告商品の使用態様の一部は商標として使用されているとはいえない等として、一審原告の請求の大部分につき差止請求等を認容した(詳細は原判決記載のとおり)。そこで、これを不服とする一審被告が控訴を提起した。
4 当審に至り、一審原告も、敗訴部分の取消しを求めるとともに、Tシャツに別紙被告標章目録(14)〜(19)記載の標章を付する態様・リストバンドに同標章(20)を付する態様・帽子に同標章(21)を付する態様について、かつ別紙ウェブサイト目録2記載のウェブサイトを含めた差止等を求める請求を追加する附帯控訴を提起した。
5 争点は原判決記載のとおりであるが、主要な争点は、原告商標と被告標章の類似性の有無である。
6 なお、一審原告の本訴請求の内容は概ね前記第2(附帯控訴の趣旨)、1のとおり(正確には、附帯控訴の趣旨1(8)の「…各標章を付した第(1)項ないし第(5)項記載の…」を「…各標章を付した第(1)項ないし第(6)項記載の…」と訂正したものが本訴請求の全部)であるが、これを略述すると、別紙本訴請求一覧表のとおりである。
第4 当事者の主張
1 当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決18頁9行に「(1) 商標権請求音楽CD」とあるのは、「(1) 商標権請求(被告標章(10)〔音楽CD〕を除く)」と改める。)。
2 控訴人・附帯被控訴人(一審被告)の主張
(1) 一審原告の敗訴部分のうち、音楽CDに同標章(10)を付する態様の標章使用について不正競争防止法3条(2条1項1号)に基づく差止め及び抹消を認容した部分(同部分は、一審原告から指摘を受けた時点から行うつもりはなく、増刷の際の手違いで市場に残ってしまったものであり、訴訟代理人にその事実が知らされていなかったことにより回収などの手続が遅れてしまったものであるから、同部分については商標的利用ではなく類似もしていないがその有無に関わりなく、今後も行うつもりはない。)を除き、すべて不当である。
(2) 最高裁判所平成9年3月11日第三小法廷判決(民集51巻3号1055頁)は、商標の類否に関し総合的判断をすべき旨判示するところ、原判決は上記最高裁判決の考え方に反している。
 すなわち、@被告使用標章は音楽CDおよび音楽DVDの分野でオリコンランキング第1位を獲得した著名なロックバンド名「ELLEGARDEN」(エルレガーデン、通称エルレ)であり、一連一体の10文字からなり、「ELLE」の4文字は要部ではない(この点は次のAとも関係する。)。A「ELLE」の4文字からなる原告登録商標はその性質上識別力が弱いため、「ELLE」の4文字を含む標章について同4文字のみを要部というためには、原告登録商標5のような極端な縦長の欧文字4つからなる特徴的な組合せを使用するなどしてその部分が特に強調されているとか、他の部分が特に識別力が弱いなどといった特段の事情がある場合に限られ、そうでない場合は、「ELLE」の4文字を含む文字からなる標章と原告登録商標との誤認混同のおそれは低い。B本件Tシャツは骸骨のイラストなどとともに使用され、外観及び観念において「ELLE」の有する外観・イメージから著しく逸脱するものであり、原告登録商標と類似しないし、本件リストバンド、本件帽子、本件ステッカーなどにおける使用に関しても、そのロゴや販売の仕方などにおいて誤認混同のおそれは全くない。C被告商品は本件ロックバンドのライブに来た観客に対してコンサート会場で販売したり、本件ロックバンドのファン用ウェブサイトにおいて、本件ロックバンドのファングッズであることが客観的に明らかとなる態様で展示販売されている。
 原判決は、上記のような事情があるにもかかわらず、「外観、観念、称呼」等を分析的に、しかも原告商標の著名性に偏る偏頗な判断をした結果、以下に述べるとおり、誤認混同の可能性について誤った判断をしたものである。
(3) 原判決の類似性に関する論理構造の不当性
ア 原判決は、「ELLE」がフランス語における「彼女」等を意味する代名詞でありドイツ語における単位を示す用語として一般的なものであり、また、他の著名商標の一部として多数使用されていることにより他の文字と合成した場合に誤認混同する可能性の低い商標であることを看過するものである。
イ すなわち、一審原告商標「ELLE」は、同じ著名商標であっても「CHANEL」(シャネル)、「LOUIS VUITTON」(ルイ・ヴィトン)、「PRADA」(プラダ)などのような本質的に固有名詞であり、自他識別力が極めて強い商標とは全く性質が異なる。
 例えば、「CHANEL」を含む商標を検索すると80件の国内登録商標が検出されるが(乙43)、「CHANELLIAN」を除いては著名商標である「CHANEL」と同じ「シャネル エス アー エール エル」が権利者である。また、「LOUIS VUITTON」を検索すると29件の国内登録商標が検出されるが(乙44)、そのすべてが著名商標である「LOUIS VUITTON」と同じ「ルイヴィトン マルチエ」が権利者である。さらに、「PRADA」を含む商標を検索すると32件の国内登録商標が検出されるが(乙42)、「AGASTARUIZDELAPRADA」と「Pradanon」(指定商品が薬剤、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カプセル、眼帯、生理帯、生理用タンポン、生理用ナプキン、生理用パンティ、脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、耳帯のアステラス製薬株式会社のもの)を除いては、著名商標である「PRADA」と同じ「プラダ・エス・アー」が権利者である。
 これらの商標は、他の語と結合しても元の商標の出所識別機能が減殺されないが、それは、これらの商標がその文字群そのものとして著名であるだけでなく、他の言葉との組合せが日本人にとってなじみがなく、そのため極めて自他識別力が高い、いわゆる「ストロングマーク」となっているからである。
ウ これに対し、「ELLE」4文字の識別力は、上記のような一般的な著名商標と比べて非常に低いものである。
(ア) 「ELLE」の4文字を特徴的に含む登録商標は、被服の分野のものに限っても、以下のように多数存在する。
・「ellesse」(商標登録番号第1412420号の1)(イタリアの一流スポーツブランドであり、日本において極めて著名である。)
・「Elle Roman」(同第1312208号)
・「ELLESAISON」(同第1386896号)
・「ELLEMARGUERITE」(同第1386897号)
・「ELLESHIMON」(同第1441437号)
・「ELLENOVA」(同第1812940号)
・「ELLE BRIAN」(同第1907613号)
・「ELLEKAMA」(同第1914604号)
・「ELLEME」(同第2011543号)
・「ELLE DE CHIC」(同第2171233号)
・「elleair」(同第2289525号)
・「ellelieben」(同第2374874号)
・「ELLECLIP」(同第2395505号)
・「ELLEBELLE」(同第2705545号)
・「elle et elles」(同第2724292号)
・「ELLEFLEUR」(同第3182805号)
・「elleallo」(同第3288328号)
・「ELLEBELLEN」(同第4656458号)
・「IL ELLE」(同第2081846号)
・「ELLEGOD」(同第1940332号)
(イ) また、その他の商標についてみても、例えば以下のような登録商標が存在する。
・「ELLEBON」
・「ELLE−MOI」
・「ELLEVOIE」
・「Ellenite」
・「ELLEBEAUTE’」
・「ELLE VERRE」
・「ELLESHADE」
・「ELLESTEP」
・「Ellelite」
・「ellesoie」
・「ELLESEINE」
・「ELLESPEN」
・「ELLEMOIPOLO」
・「ellefort」
・「ELLEROSE」
(ウ) そもそも、原告登録商標2はその商標公報(甲1の2)のとおり昭和36年5月24日に株式会社シエラにより出願されたものであり、原告登録商標4はその商標公報(甲2の2)のとおり昭和46年3月25日に株式会社西沢により出願された後に登録に至ったものであって、一審原告の出願に係るものとして登録されたものではない。「ELLE」はありふれた名称であり、決して一審原告特有のユニークな商標などではない。
 なお、「ELLEME」、「ELLEBELLE」、「elle et elles」、「ELLE VERRE」、「ELLESTEP」、「ELLESEINE」、「ELLEROSE」等の登録商標に対しては、一審原告から特許庁に異議ないし無効審判が申し立てられたところ一審原告の主張はことごとく認められなかった。このことは、我が国における「ELLE」の4文字の識別力の脆弱性を顕著に示している。
(エ) 「ELLE」の4文字は芸術作品の題号としても頻繁に用いられている。例えばフランスを代表する作家ジョルジュサンドの「Elle et Lui」(彼女と彼)、歌手クレモンティーヌの「ils et elle」(彼らと彼女)などである。
(オ) 特に音楽に関わる分野では「ELLE」の4文字の識別力が極めて弱いことが顕著に現れている。例えば、「ELLE」の4文字を作品の表面に目立つように含んだり、アーティスト名そのものに含むものは、我が国において容易に入手できる作品だけを見ても、以下のとおり多数存在する。
・「Kristal」のCD作品「ELLE」
・「クレモンティーヌ」のCD作品「ils et elle」
・「ELLEGUNS」のCD作品「KEEP OUT」
・「Tairo&FLYA」のCD作品「ELLEVEUT」
・「Elle Ments」のCD作品「No Angels」
・「小雪(Elle)」のCD作品「Listen」
・「Nor Elle」の作品「Phantom of Life」
・「JULIEN CLERC」の作品「St J’ETAIS ELLE」
・「NUTTEA」の作品「Elle te rend dingue」
・「CHEVELLE」の作品「Wonder What’s Next」
(カ) 人名その他の単語に「ELLE」の4文字を含むものは無数にある。
 例えば、英語において「ELLE」という人名は、著名人だけでも、イギリスの著名モデル・女優であり同国のユニセフ親善大使でもある「Elle Macpherson」、アメリカの女優であり「I am SAM」などに出演した「ELLE FANNING」、アメリカの俳優「ELLE PETERSON」(映画「スタンドアップ」などに出演)、映画「スターウォーズ エピソード3」のキャラクター「ELLE」(エレ)、映画「キル・ビル」のキャラクター「ELLE」など枚挙に暇がない上、人名「ELLEGARD」(エレゴール)、人名「ELLEGAARD」(エレガード)、人名「ELLERY」、人名「ELLEN」、地名「ELLENBOROUGH」(エジンバラ)、単語「SELLER」、「TELLER」、「EXCELLENT」など「ELLE」を含むものは無数に存在する。
 フランス語においても、例えば「ELLEBORE」(精神病の妙薬として知られる植物)、「ELLEEBORINE」(ヘレボリン〔薬の名前〕)、「ELLEMEM」(彼女ら自身)という言葉がある。
 ドイツ語にも、「ELLE」(尺骨に由来する長さの単位)、「ELLENBOGEN」(肘)、「ELLENHANDEL」(反物の小売)、「ELLENLANG」(1エルレの幅の)、「ELLENMAS」(エレ尺)、「ELLENREITER」(裁縫師)、「ELLENWAREN」(反物)、「ELLER」(はんのき)などという言葉が存在する。
(キ) フランス語は、日本においても一部の小学校や中学校のほか、高等学校、大学で第2外国語として教育されるものであるが、「ELLE」は英語における「she」や「it」と同じ「彼女」や「それ」等を意味する代名詞であり、平易なフランス語であるから、これらの教育を受けた者はもちろん、そうでなくとも多くの日本人は当然に「ELLE」の意味を一般常識としても知っている。
エ このように、「ELLE」の4文字そのものの識別力は一般に著名商標といわれる他の商標と比べて非常に弱いものといわざるを得ず、特に「ELLE」が同大・同字体で他の文字と組み合わされた場合の識別力は激減するといわざるを得ない。
 そうである以上、「ELLE」4文字からなる原告登録商標の保護範囲は必然的に狭く解されるべきであって、特にアーティスト名や作品名の表示が不可欠である音楽関係商品の世界においては、「ELLE」の4文字自体又はその4文字を含む文字の組合せによる表示は一審原告に独占させるべきではないし、少なくとも、このような原告登録商標と「ELLE」4文字を含む標章との類否に関しては、ロゴの形状や使われ方についての十分な配慮が必要である。
 そして、一審原告の使用する商標は、極端な縦長で間隔をおいた特徴的な字体を備えた4文字から成るもので、女性向け雑誌を基本にファッションとして発展してきたものであるから、ロゴが違い、骸骨と一緒にデザインされたTシャツ等の被告商品とはおよそ出所の誤認混同が生じるものではない。
オ なお、「ELLEGARDEN」というロックバンド名は、同メンバーの一人であるTHが、平成10年12月31日に開催されるライブチケットを印刷する際、どこにもない個性的な名称を付したいと考え、以前親戚にもらった昭文社発行の「漢字用語辞典・外来語辞典」(乙40)をめくり、バンドにふさわしい言葉を探したことに由来する。そして、そのとき目に止まったのが、既に明治時代に我が国に伝わっていた外来語「エルレ」であり、またその語の付近には、「エルピー」、「エルビスザペルビス」、「エレキギター」、「エレクトーン」など音楽に関わりの深い単語が並んでいる偶然もあり、THは、聞き慣れないその発音の響きを非常に心地よく個性的な言葉だと感じるとともに、長さの単位であり、固いイメージのドイツ語である「エルレ」(Elle)が、正確・緻密で知的な性格・外見を有するバンドメンバーのHTとNSのイメージに一致すると考え、他方、高田雄一とTHは、明るく自由な性格・外観を有しており、野外の自由なスペースを意味する英語の「garden」がそのイメージを表すと思いついた。その結果、これら2つの語を組み合わせてTHが命名したのがロックバンド「ELLEGARDEN」(エルレガーデン)なのである。
 この命名以来、本件ロックバンドは、「ELLEGARDEN」(エルレガーデン)と称し続け、その音楽CDや音楽DVDは日本を代表する音楽雑誌「オリジナル・コンフィデンス」(通称「オリコン」)の音楽チャートの売上ランキングにおいて1位にランクされるほどの人気を得ている。さらに、平成18年のオリコン年間インディーズシングルランキングでは、作品「Space Sonic」が1位、「Salamander」が2位を獲得するという、音楽史上まれに見る人気を博している。
 このようなバンドが、自らのロックバンド名であり、文字数も一審原告の商標と異なる「ELLEGARDEN」の名称を、一審原告の活動とは全く似つかわしくない方法で使用することが制限されるということは、いわば表現の自由の侵害である。
 また一審原告は、ブランドイメージを維持するため、原告登録商標5のように極端に縦長の「ELLE」の欧文字4つをかなりの間隔をおいて配置するという統一されたロゴを使用し、これに反する使用を行っていない。その結果、一審原告の商標はロゴタイプとの関連で強くイメージされるのが実態であり、そのようなロゴタイプによらない被告使用標章の使用が一審原告の活動と誤認されることはあり得ない。なお一審原告は、一般人が一審原告と一審被告とを誤認したとするいわゆる被害に関する具体的な立証を全くしていないが、このことは、客観的にも一審被告による被告使用標章の使用が一審原告の活動との誤認混同を生じさせるものでないことを示している。
 以上のとおり、一審被告標章の使用について商標権の侵害や不正競争防止法に違反することは全くないのである。
(4) 原判決の販売方法に関する論理構造の不当性
ア 原判決は、ウェブサイト上で原告の著名な商標である「ELLE」をキーワードとして検索した場合、一審被告のウェブサイトや原告の商品を扱うウェブサイトが表示されることをもって、誤認混同のおそれの根拠とするようである(原判決56頁下5行〜57頁6行)。しかし、このような判示はウェブの実際を正しく理解せず、誤認混同するはずのないものを強いて誤認混同するというものであり、経験則違反というべきである。
 そもそも、ウェブ検索は文字だけによるコンピューター検索機能であるから、いわば辞書と同じで、同じ文字が無作為に抽出されるものである。そのため、利用者はその中から自らに関係すると思われるサイトを探すのであり、そこに表示されることから直ちに誤認のおそれがあるというのは全くのナンセンスである。原判決は、「…被告ウェブサイトが、原告の正規のウェブサイトや原告の商品を扱うウェブサイトと並列的に表示される…」(57頁1行〜2行)と述べるが、検索サイトにおいて表示されるのはウェブサイト内の一部の文字列のみであって、実際に並列的にウェブサイトが表示されるものではないし、検索サイトでヒットした無数のウェブページを覗くと実は全く無関係のサイトであったという経験は、ウェブ検索を実際に行ったことがある者であれば必ずあるはずである。
 さらに原判決は、ウェブサイトには誰でもアクセスできるなどと判示するが、問題とされるべきは当該ウェブサイトの主体および当該ウェブサイトにおいて販売されている商品の出所をいかに理解するかということである。検索サイトで「ELLE」の商品を検索しようとしたときには、サイト一覧の一部に一審被告のサイトが引用されるかもしれないが、消費者は、それを根拠に、すべてが一審原告の「ELLE」と関わりがあると認識するものではないことは、上記のとおり常識の範疇に属する。
 そして、検索サイトの検索結果の一覧の中に一審被告のウェブサイトが表示されることがあるとしても、実際に当該サイトを選択すると「5th Album ELEVEN FIRE CRACKERS 2006/11/08RELEASE」という表示とともに、本件ロックバンドのCD作品のジャケットが表示される。このような表示を見れば、一審原告の商品を目的として検索した者は以後のページにアクセスすることはない。仮に当該ページの「Japanese」の部分をクリックし、トップページ以下のアドレスにアクセスしたとしても、本件ロックバンドのサイトであることは明確にされている(乙79、80)。すなわち、「new topics」の項には「Live情報更新」などの表示があり、「Media」の項には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL2007」などのテレビやラジオ、雑誌での活動、さらに「Live」の項では30以上のライブについて日時・会場・チケット代金・問合せ先などが表示されている。「PROFILE」の項には「’98結成」以下本件ロックバンドのプロフィールが記載され、「DISCOGRAPHY」の項では本件ロックバンドの各作品が掲載されている。「DIARY」の項には本件ロックバンドの活動についての日記が掲載されている。
 以上のように、一審被告の上記ウェブサイトは本件ロックバンドのサイトであることが明白で、いわば本件ロックバンドのファンが集うライブ会場と同じであり、こうした中、サイトの下方に「GOODS」のコーナーがあり、「グッズ販売ページへ」をクリックすることで初めて商品販売ページに移動することができるものであるし、本件ロックバンドのグッズであることを確認した者のみに対して販売されているものである。上記ウェブサイトにおいて一審原告との関連性は何ら示唆されておらず、本件ロックバンドに関心のない消費者がグッズ販売ページに迷い込む可能性は全くない。
 したがって、このような販売方法において被告商品を一審原告の商品と誤認混同することはあり得ない。
イ これに対し原判決は、「ポスト・セールス・コンフュージョン」として、「仮に購入者自身は、被告ウェブサイト中の説明内容により、被告商品を本件ロックバンドに関連するものであるということを認識できたとしても、当該商品を身に付けた者を更に他の第三者が見ることも当然あり得るところであり、そのような第三者は、当該商品が本件ロックバンドに関連するものであるとの認識を有することができず、当該商品の出所が原告であると誤認するおそれがあると認められる。」(57頁8行〜13行)と判示するが、この判示自体、一般的な事案とは異なり、ライブ会場やファン用のウェブサイトにおける需要者による混同誤認のおそれが認められないという本件の具体的事情を原審裁判所自身が認識していたことを如実に示すものである。
 そのことはひとまず措くとしても、商標法における類否判断は本来購入時についてなされるべきであり、「ポスト・セールス・コンフュージョン」なる概念を軽々しく利用すべきではない。最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決(判例時報1437号139頁〔いわゆる大林森事件〕)は、「被上告人商品が訪問販売によっているのかあるいは店頭販売によっているのか、後者であるとしてその展示態様はいかなるものであるのかなどの取引の状況」を具体的に判断する必要がある旨を明示しており、特に、具体的に問題のある態様で商品として展示・販売がされているのであれば、当該展示・販売行為自体が商標としての使用ないし類似品の販売行為に当たるとして規制すべきであり、それこそが上記最高裁判決の考え方に合致するものである。大きな網を広げて事前規制を認めるポストセールス・コンフュージョンの理論を、その根拠・要件の示唆もないままに本件に適用することは、我が国における商標法の考え方にそぐわないものである。
 また、「ポスト・セールス・コンフュージョン」の概念は、ロレックス(ROLEX)やフェラーリ(Ferrari)など著名でかつ希少性が高く、高級感を有する商標に関する場合や、米国におけるLevi’sなどのいわゆるトレード・ドレスについての模倣ないし購買者と使用者が分離している場合などについてアメリカ合衆国で発達した概念であり(井上由里子「『購買後の混同(post-purchase confusion)』と不正競争防止法上の混同概念−アメリカでの議論を手がかりに」知的財産法の理論と現代的課題〔弘文堂・平成17年12月15日初版第1刷発行〕417頁以下参照)、本件では購買者と使用者が分離していないので前者の場合を念頭に置いているものと思われるが、前者の理論は、偽物が市中に出回ると稀少性が失われ、ブランド品の有り難味が薄れることを保護の理由とするものと解されるから(前掲書431頁参照)、稀少性の高い高級ブランドに対するデッドコピーやトレード・ドレスの模倣事例のように、販売者も購入者もその双方が他者の人気に便乗することが目的であることが客観的に明らかである場合などの限られた場合にのみ、適用され得るものである。しかるに、一審原告のブランドである「ELLE」は、少なくとも衣料品や雑貨などにおいては量販店などで販売されているブランドであって、高級ブランドではないし、稀少性が高いブランドでもない。まして、本件の一審被告の使用は本件ロックバンドのファングッズとしての利用であり、デッドコピーや便乗商品などではない。
 そして、そもそも、被告商品、特にリストバンドなどには一審原告が使用したことがない特有のマークが付されており、当該商品の出所が一審原告であると誤認するおそれがあるとは到底いえない。しかも、前記のように、一審原告の商標4文字を含む他の商標が多数権利化されている上、「ELLE」は一般用語であるから、そのような意味での出所誤認が生じるという前提はない。「ポスト・セールス・コンフュージョン」については、前記のように、その概念を認める場合、何ゆえ認められる理論であるのか、その根拠とともに要件および保護範囲が厳密に議論されるべきであるが、本件においては、そもそも誤認の可能性の前提自体に誤りがある上、本件での商品の販売が一審原告にとって不利益をもたらす理由について全く説明がなく、明らかに不当である。
 さらに、この理論を突き詰めれば、需要者はその物を見てもそれが有償であるか無償であるかが分からないから、商標としての利用ではない無償での交付であっても商標権が侵害されることになるはずであるが、そうすると、そのような場合に商標権侵害を認めないこと(例えば、大阪地裁昭和62年8月26日判決・無体財産権関係民事・行政裁判例集19巻2号268頁〔いわゆるBOSS事件〕)との整合性が図れない。また前掲最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決の事例のように、具体的な販売態様から類似性が認められない場合があると解すべきであるのに、これを将来にわたって一切排除することとなり、商標法の守備範囲を不当に拡張するものである。さらに、「ポスト・セールス・コンフュージョン」の理論の適用が認められれば、いわゆる紛い物を販売しているのではない事案で、典型的な打消し表示がなされたことで類似性が否定される商品を販売する場合においても、当該表示が需要者によって加工又は外されれば、商標の類否判断において打消し表示が意味を有さなくなるということにもなりかねない。
 したがって、「ポスト・セールス・コンフュージョン」に関する原判決の判示は明らかに誤りである。
ウ さらに原判決は、「…被告商品が本件ロックバンドの人気上昇等に従い、デパートや衣料品の通販チャンネルで販売されることも十分あり得ると認められるから、ライブ会場や被告ウェブサイトを通じて販売されるとの現在の販売方法が今後とも永続する販売方法であるとまで認めることはできない。」(57頁15行〜18行)と判示するが、口頭弁論終結時における判断がなされるべき民事訴訟において、正に仮定以外の何ものでもない事情を持ち出すことは、事実に基づかないで判断するものであり、明らかに違法であるし、また仮に判示のような事後の事情が生じたなら、そのような販売に限定して差止めを求めることも可能であり、いずれにせよ不当である。
(5) 個別の商品についての主張
ア 被告標章(3)を付したTシャツ
 そもそも被告標章(3)自体、「ELLEGARDEN」とはにわかに判読できないし、一連一体に、もこもことした字体の10文字で表示されている標章のうち「ELLE」の4文字の部分のみを取り出して理解する需要者はいない。
 また、原判決被告標章使用態様目録の態様(3)では、被告標章(3)はガイコツがバイクに乗っている図柄及び「SKULLSHIT」の表示とともに付されており、需要者はこれらを一体として観察するのであって、ここでの「ELLEGARDEN」の表示は、外観及び観念において著しく「ELLE」の有する外観・イメージから逸脱するものであり、一審原告の商標と類似しない。
イ 被告標章(4)を付したTシャツ
 原判決被告標章使用態様目録の態様(4)では、被告標章(4)は大きなガイコツの図柄と一体として付されており、需要者はこれらを一体として観察するのであって、ここでの「ELLEGARDEN」の表示は、外観及び観念において、著しく「ELLE」の有する外観・イメージから逸脱するものであり、一審原告の商標と類似しない。
ウ 被告標章(7)及び(8)を付したTシャツ
 被告標章(7)は極度にデザイン化されており、文字は一連一体に表示されている。仮にこれを本件ロックバンドを知らない人が見たとしても、原判決被告標章使用態様目録の態様(7)からは「FILEGARDEN」としか判読できない。したがって、この要部が「ELLE」の4文字であるはずはないし、「ELLE」の表示と類似しているものでもない。
 加えて、同態様(7)における大きなガイコツの図柄や、「RocK or DiE!!!」、「DEAD!!!」などというロックバンド独特の表示を見た需要者は、「ELLEGARDEN」を一体のものとして認識することはあっても、少なくとも一審原告の商標に関わる標章であると誤認混同するおそれは皆無である。
 また背面(同態様(8))についても、需要者は背面の一部のみをフレームで切り取るように把握するのではなく、表示全体を把握するものであり、「DEVILISHLY DELIGHTFUL SABBAT THIRTEEN」などと、原告商標からかけ離れた表示と一体として把握するものであるから、具体的な商品を見た需要者は、「ELLEGARDEN」全体を要部と見ることはあっても、その一部を捨象して認識し、原告商標と関わりのある標章であると誤認混同するおそれは皆無である。
 さらに、取引の実情として述べたとおり、具体的な商品についての需要者は、本件ロックバンドのファングッズであることを認識して当該商品を見るとともに、本件ロックバンドのファングッズであるからこそこれを購入するものであり、その意味でも同態様(7)及び(8)に付された標章が原告商標と関わりのある標章であると誤認混同するおそれは皆無である。
 したがって、被告標章(7)及び(8)は一審原告の商標と類似しない。
エ 被告標章(14)を付したTシャツ
 被告標章(14)は、ガイコツの頭上部に、それと一体としてデザインされた文字が付された標章であり、既に述べたとおり、当該標章を見た需要者が原告商標と誤認混同することはおよそありえない。
 また、当該標章中の文字はガイコツと一体不可分のものであり、かつ一連一体で極度にデザイン化されたものであり、原告商標とは一見明白に異なるものである。仮に本件ロックバンドを知らないとすれば、それが、「E」「Z」(又は2)「Z」(又は2)「E」「G」「A」「R」「D」「E」「N」の各文字から構成されていると判読するのが通常である。
 したがって、被告標章(14)は原告商標と類似しない。
オ 被告標章(15)を付したTシャツ
 被告標章(15)は、2つのガイコツとともに極度にデザイン化された文字により構成されており、既に述べたとおり、当該標章を見た需要者が原告商標と混同誤認するおそれはおよそありえない。
 また、同標章の文字中、左端の「E」とその右側にある「E」との間のものは果たしてそれが文字であるのかさえ不明であり、仮に本件ロックバンドを知らないとすれば「ELLEGARDEN」の10文字からなる標章であるとさえ把握できない。ましてや、需要者がその左端の「E」とその右側にある「E」の間の部分のみを強く認識し、さらに、当該部分が「ELLE」の4文字であると認識することはありえないから、要部として「ELLE」の4文字を限定的に切り取り出すべきではない。
 したがって、被告標章(15)は原告商標と類似しない。
カ 被告標章(16)及び(17)を付したTシャツ
 被告標章(16)及び(17)は、「ELLEGARDEN」の10文字が一連一体となって表示されるとともに、その態様においてガイコツが大きく表示されているほか、Tシャツ自体の製造者がUnited Atleであることや、「E.F.C.T 06−07 ELLEGARDEN × SKULLSHIT COLLABORATE Tシャツ」として、商品名においても「ELLEGARDEN」の表示の一体性が一審被告のウェブサイト(甲123、124)において明示されている。
 以上のとおり、被告標章(16)ないし(17)と一審原告の商標(商品等表示)とは一見して明白に異なるから、両者は類似しない。
キ 被告標章(18)を付したTシャツ
 被告標章(18)は、一連一体の「ELLEGARDEN★」の表示とともに、「11 Fire Crackers Tour 06−07」として、それがツアー記念Tシャツであることが明確に表示されている。
 また、Tシャツの背面には、2006年から2007年にかけての「11 Fire Crackers Tour 06−07」のライブ日程及び会場が記載されていることが、一審被告のウェブサイト(甲125)において明示されており、これが本件ロックバンドのツアー記念Tシャツであることは明白である。
 このようにツアー記念Tシャツであることが明確に表示され、ガイコツが剣を持った姿を含む被告標章(18)を原告商標と誤認混同する需要者はおよそいるはずがないから、両者は類似しない。
ク 被告標章(19)を付したTシャツ
 被告標章(19)は、一連一体にまとまりよく「ELLEGARDEN」の文字が筆記体で表示されたものであり、10文字の間に何ら境はなく、1つの語であることが明確となっている。
 そして、一審被告のウェブサイト(甲126)のとおり、被告標章(19)の10文字の上には、ガイコツが剣を加えたデザインとともに、「LEGARDEN」とその左に2文字からなる表示が一体となった文字が表示されている。ここにおいて、「LEGARDEN」の左側の2文字は隠れているのであり、その部分を含む表示が10文字の表示の要部であるはずがない。その下の「ELLEGARDEN」の表示とすぐ上の「LEGARDEN」とその左側の2文字の組合せを見た需要者は、当該標章が一連一体の「ELLEGARDEN」の表示であると当然に理解するから、「ELLE」が要部であると解されるべきものではない。
 したがって、被告標章(19)と原告商標は類似しない。
ケ 被告標章(20)を付したリストバンド
 被告標章(20)は、極度にデザイン化された一連一体のまとまりのよい10文字からなる。この被告標章(20)は、原告商標とはほど遠い外観をしており、本件ロックバンドを知らない者がこの表示を見た場合には、「EIIEGARDEN」と判読する。このような表示の要部が「ELLE」であるということはできず、被告標章(20)と原告商標は類似しない。
コ 被告標章(21)を付した帽子
 被告標章(21)は、極度にデザイン化された一連一体のまとまりのよい10文字からなり、原告商標とはほど遠い外観を有しており、本件ロックバンドを知らない者がこの表示を見た場合には、「EZZEGARDEN」と判読する。このような表示の要部が「ELLE」であるということはできず、被告標章(21)と原告商標は類似しない。
サ 被告標章(10)を付した音楽CD
 被告標章(10)の付されたコンパクトディスクには、最も目を惹く位置に、片仮名で明確に「エルレガーデン」と表記され、「エルレガーデン」が作品の主体であることが明記されている。
 したがって、「ELLEGARDEN」をエルレガーデンとは別のものと理解する需要者はいないし、当該被告標章(10)は、商標又は商品等表示として使用されたものではない。
 この点一審原告は、音楽関連事業と密接に関連することの根拠として、原告商標が付されたCD(甲114、116)の存在を挙げる。しかし、これらは「from U.K」、「Import」と表示されているとおり外国からの輸入品であり、しかも著名サイト「アマゾン」における販売ランキングも46万3684位や25万6920位というものにすぎず、一審原告が音楽関連事業と密接に関連することを基礎付けるようなものではないし、一審原告の商品等表示が音楽関連事業において著名なわけではない。
 一方、一審被告に所属する本件ロックバンドは、CDアルバム作品や音楽DVD作品においてオリコンランキング第1位を獲得するほど著名なロックバンドであり、音楽エンターテインメントの世界における両者の知名度の差異はもはや比較の対象とならない。したがって、音楽に関連する分野において一審原告と一審原告の名称が誤認されるはずもなく、一審原告のごく一部の音楽関係の活動が一般人を誤認混同させることになることはあり得ないし、まして著名バンドである本件ロックバンドの音楽活動における非商標的利用が商標的利用になるわけでもない。
 また一審原告は、ブランドの広告に音楽アーティストを起用することがあるとも主張するが、そのような活動が当該ブランドの表示と他の音楽アーティストの表示の類似性に影響を与えことはあり得ない。また、ツアー名に「ELLE」というブランド名が付されることがあり得るとしても、本件で問題とされているのは「Space Sonic Tour」といったツアー名自体の表示であり、「ELLEGARDEN TOUR」といったブランド名とツアー名が結合したようなものではないから、誤認混同が起こることはあり得ないし、商標的使用ともならない。
 なお、一審被告はあらぬ誤解を避けるため、第1次卸業者及び第2次卸業者に対し一審原告の指摘する商品の回収を申し出、これらの在庫分すべてを回収した上で、販売店に対しても回収を依頼し、実際に回収を行った。さらに、本訴における一審原告の指摘を受け、販売店に対しても再度回収をするよう製造者兼第1次卸業者を通じて努力している。もちろん、一審原告が原審で訴えの変更をして以降、被告標章(10)を付した商品を増刷・販売した事実は全くない。
シ その他被告商品は、音楽CDを除き、本件ロックバンドのライブ会場又は本件ロックバンド専用の商品販売サイトにおいてのみ展示・販売しているものであり、その販売の態様から、需要者は当然に本件ロックバンドのファングッズである商品と認識するほかない。
 したがって、被告商品はすべて「ELLE」との関わりを認識されるおそれはないから、被告標章はすべて原告商標と類似しない。
(6) 商標的使用についての主張
 一審原告は、すべての被告商品につき、「ELLEGARDEN」の表示が独立して人目を惹くように付されていることなどを理由に、商標としての使用に該当すると述べているが、人目を惹く表示とそれが商標として使用されたものであるかは別問題である。
 そもそも、標章の付された具体的な商品を離れて、抽象的に商標として使用されたものであるのか否かを論じることは無意味なものであって、商品の全体的観察により、商標としての使用に該当するか否かを判断するという原判決の論理に誤りはない。本件ロックバンドはオリコンのCDアルバムランキング第1位、音楽DVDランキング第1位を獲得するほどの著名なロックバンドであり、CD及びスコアブックを除く各商品は本件ロックバンドが年に数十回を超えるコンサートの会場において販売されているものであって、各商品は応援グッズないしツアー記念グッズにすぎない。そのような被告商品において、特にツアー名の表示がなされているものについて、「ELLEGARDEN」(エルレガーデン)との標章はツアーの主体ということ以外に理解することはできず、それが商品の出所たる製造者や販売者を表示するものと理解する者はいない。
 したがって、各商品に付された「ELLEGARDEN」の表示は、商標として使用されたものではない。
3 被控訴人・附帯控訴人(一審原告)の主張
(1) 当審における追加請求
ア 一審被告は、当初、別紙被告ウェブサイト目録記載1のウェブサイトにおいて被告商品の販売を行っていたが、現在では、同記載2のウェブサイトにおいて被告商品の販売を行っている。
 したがって、一審原告は、別紙被告ウェブサイト目録記載2のURL下におけるウェブサイトについても差止め等を求める請求を追加する。
イ また一審被告は、上記ウェブサイトにおいて、新たに別紙被告標章目録(14)ないし(19)記載の標章を付したTシャツ、同標章(20)を付したリストバンド、同標章(21)を付した帽子を販売している。
 したがって、一審原告は、原審における請求に加え、別紙被告標章目録(14)ないし(19)記載の標章を付した上記被告商品の差止め等を求める請求を追加する。
(2) 原判決の誤り
ア 商標としての使用
 原判決は、被告商品の一部について、「TOUR2003」、「RIGHT ON THE GRILL TOUR」、「Bad For Education Tour」、「SPACE SONIC TOUR 2005−2006」といった表示があり、このためこれらは商標的使用に当たらないと判示する。
 この点、原判決はコンサートの日時及び会場と理解される表示があることも商標的使用でないことの理由として挙げているが、究極的には「TOUR」という文字が表示されていれば商標的使用ではないという結論を導いている。このことは、@「RIGHT ON THE GRILL」との表示があるタオル(使用態様(2)−6)について商標的使用と認め、「RIGHT ON THE GRILL TOUR ’05」という表示がある帽子(使用態様(6))については商標的使用を否定していること、A「Bad For Education」という表示があるステッカー(使用態様(5)−3)について商標的使用を認め、「Bad For Education Tour」という表示があるTシャツ(使用態様(5)−1)について商標的使用を否定していることからも明らかである。
 しかし、このように「TOUR」という文字の有無によって商標の侵害であるか否かが判断されることは明らかに不当である。
 そもそも、商標としての使用に該当するかどうかの判断は、当該標章が独立して商品又は役務の出所識別標識としての機能を果たしているかどうかの判断である。したがって、このような判断は、当該標章が人目を惹く形で使用されているかといった標章自体の表示の態様に基づいてなされるべきであり、これを離れて、当該標識とは離れた位置にあり、かつ、より小さなサイズの表示の有無によって判断するのは不当である。一般的な需要者であれば、一目見て商標と認められる部分があればまずそれに着目し、これを商標として認識するのであって、その周辺にあるより目立たない部分については、出所識別機能を果たすものとして見ることはない。
 そもそも、一審被告がこれらのTシャツその他のグッズに「ELLEGARDEN」という文字を記載するのは、一審被告の意思としては、本件ロックバンドに関するTシャツその他のグッズであることを明示するためであることは明らかであり、これが単なる柄や背景として使用されているものとは考え難い。すなわち、一審被告も、一種の出所表示として、「ELLEGARDEN」という名前を表示しているのである。
 このように、一審被告が自ら出所表示として付している「ELLEGARDEN」という表示について出所表示機能を有していないと判断することは実態を無視するものであり、誤りである。
イ 誤認混同のおそれ
(ア) 原判決は、被告商品の一部について、「TOUR2003」、「RIGHT ON THE GRILL TOUR」、「Bad For Education Tour」、「SPACE SONIC TOUR 2005−2006」といった表示があるものについて、仮に商標的に使用されたとしても誤認混同のおそれはないと判示する。
 しかし、このような判断は、一審被告が本件ロックバンドを有する音楽事務所であることに引きずられ、そのような先入観の下で需要者の認識についての評価を誤ったものである。
 そもそも、本件で問題となった被告商品の需要者については、原判決が正しく認定したとおり、「広く一般消費者」(原判決57頁下6行)なのであって、本件ロックバンドが一定の範囲で知られるようになってきたとはいえ、これを知らない者は未だに非常に多くの割合で存在する。このような一般消費者が被告商品を見た場合、「ELLEGARDEN」がロックバンドであることを知らないのに、「TOUR」という文字を見ただけで何らかの音楽活動の主体を意味していることを需要者に想起させるということはできない。「TOUR」というのは第一には「小旅行、周遊」といった意味を有する単語であり、日帰りツアー、パッケージツアーなど旅行に関係する用語に多く使用されているのであるから、このような単語が一部に使われているからといって、直ちに当該商品が一般消費者に対して音楽活動を想起させるとはいえない。
 また、原判決がコンサートの日時及び会場と理解されるとした表示についても、これにより被告商品が一審原告と経済的・組織的になんらかの関係がある者の業務に係る商品であるものと誤認混同するおそれが否定されるものではなく、この点は原判決の事実誤認に基づくものである。原判決は「原告が音楽関連事業その他エンタテインメント関連事業を行い、又はこれに関与していることを認めるに足りる証拠はない。」(58頁3行〜4行)と判示するが、実際には一審原告のブランドの下に「ELLE music」、「ELLE Sensuelle」、「Elle Rebelle」というタイトルのCDも発売されており(甲114〜117)、かつ、原告は「レコード」及びこれに類似する商品をその指定商品とする商標登録を有している(商標登録第1978527号防護第6号、同第1978527号防護第7号、同第2059852号、甲118〜120)。このように、一審原告は音楽関連事業とも密接に関連している。
 しかも、近年のマーケティング手法として、ブランドの広告に音楽アーティストを起用し、また音楽イベントの名前にスポンサーとしての名前を冠するなどの方法によってブランド名を広めるという手法は非常に一般的なものとなっている。
 このような状況であれば、たとえTシャツに音楽関連の表示があったとしても、これは一審原告が支援しているか、スポンサーになっているなどの経済的な関連がある音楽組織又は音楽活動についてのTシャツであると一般消費者が誤認混同するおそれは非常に高い。
 したがって、ツアー名やコンサートの日時及び会場の記載があることから誤認混同のおそれが認められないとした原判決の判断は、明らかに誤っている。
(イ) 次に原判決は、被告標章(13)について、一定の意味を示す英文の一部として使用されているものと理解されるから出所識別標識として表示されているとは認められない旨判断したが、誤りである。
 すなわち、被告標章(13)が実際に使用されている態様は、「ENJOY」「ELLEGARDEN」「TIL’YOUR」をそれぞれ1行ごとに独立させて記載し、その下に字体及び色を変えた文字で「DEAD!!!」と記載しているものであって、これらは一体として一つの文章として理解されるものではなく、各行ごとの単語が独立して商標的に使用されているものである。そして、そのうちの「ELLEGARDEN」について、「ELLE」と類似するものであることは、原判決においても既に述べられているところである。
(ウ) また原判決は、被告標章(9)及び(12)について、二段の文字全体が本来のアルファベットの字から相当デザイン化されており、上段左側の部分を「ELLE」であると認識することは相当困難であるため、類似性がないとする。
 しかし、完全に判読不能であればともかく、デザイン化されているために判読が困難であったとしても、被告標章(9)及び(12)を少し観察すれば、その上段が「ELLEGARDEN」であることは通常人にも判読可能である。
 したがって、被告標章(9)及び(12)程度のデザイン化された標章について類似性がないとした原判決は不合理である。
(エ) さらに原判決は、スコアブックに表示された被告標章(2)について、音楽アルバム作品の作者の表示であるとともに、タイトルの一部であると理解される旨判示するが、誤りである。
 本件ロックバンドの音楽を扱うバンドスコアは複数の種類が存在し、その正面には、常に被告標章(2)の形態において「ELLEGARDEN」のロゴが使用されている。このような使用態様からすれば、当該バンドスコアにおいては、「ELLEGARDEN」の名称はシリーズ化された、いわば「叢書」のタイトルとして使用されていることが明らかである。このような「叢書」のタイトルについては、1回のみ出版される書物の題名とは異なり、商標的に使用されていることが明らかである。
 したがって、原判決の上記判断は不合理であり、かつ、被告標章(2)が「ELLE」の商標と類似することは明らかである。
(3) 一審被告の類否判断に関する主張に対し
ア 「ELLEGARDEN」は一連一体の文字からなるロックバンド名であり、「ELLE」の部分が要部とはならないとの主張につき
 そもそも一審被告は、「ELLEGARDEN」の名前は本件ロックバンドのメンバーが「ELLE」と「GARDEN」を組み合わせて命名したものであることを自ら認めている。このような命名の経緯を主張しながら、これが「ELLEGARDEN」という一連一体の名前であると主張することは、それ自体が矛盾である。
 また一審被告は、「ELLEGARDEN」というバンド名について、「エルレガーデン、通称としてはエルレと呼ばれることもある」と説明している。このことから明らかなように、通常人は、「ELLEGARDEN」という言葉を目にした場合、「GARDEN」が「庭」を表す英単語であることを即座に理解し、「ELLE」と「GARDEN」の2語からなるものと認識する。そして、そのうち語頭にあること、そして何よりも一審原告の著名商標に類似していることから、「ELLE」の部分をより強く認識するのである。
 したがって、「ELLEGARDEN」が一連一体の語などではなく、「ELLE」と「GARDEN」の2語からなる語であり、かつ「ELLE」の部分を要部とすることは明らかである。
 この点、一審被告のロックバンドの過去のウェブサイトにおいては、ロックバンド「ELLEGARDEN」のメンバーのことを指して「ELLEメンバー」と呼んでおり(甲94)、これは自分たちも「ELLE」を自己の名称の要部として自ら認めていたことの証である。
イ 「ELLE」は一般用語であり、識別力が低いとの主張につき
(ア) まず、一審被告は、「ELLE」がフランス語における「彼女」などの意味を有する代名詞であり、またドイツ語における単位を表す一般用語であるため、識別力が非常に脆弱であると主張する。
 しかし、商標において識別力が弱い商標というのは、あくまで指定商品又は役務との関係において普通名称であったり、慣用されたりする商標のことを指すものである。これに対し「ELLE」という単語は、Tシャツやリストバンドといった本件の商品との関係で普通名称であったり、慣用されていたりするものではない。
 そして、一審原告の商標「ELLE」及び「エル」は、一審原告による全世界的かつ非常に広範囲な分野における長年の使用により、確固たる顕著性を有するに至った商標である。一審原告は1945年からフランスにおいて「ELLE」をタイトルとするファッション雑誌を発行し、その後世界中において8000万人以上が購読するファッションリーダー的雑誌として著名となった。さらに「ELLE」の名前は単なる雑誌の名称だけにとどまらず、一つのファッションの潮流を示す言葉として認められ、そこから、「ELLE」の名称を様々な商品にライセンスを行うことにより、服飾品を筆頭に様々な商品をカバーする世界随一のブランドとしての地位を確立するに至ったのである。
 このような歴史と世界的な実績を有する「ELLE」の商標は、日本においても防護商標として認められていることからも明らかなとおり(商標第1978527号)、著名なものとなっていることが公的に認定されている商標である。一般に著名商標といわれる商標と比べて「ELLE」の4文字そのものの識別力は非常に低いという一審被告の主張は事実に全く反する。
(イ) この点一審被告は、「CHANEL」、「LOUIS VUITTON」、「PRADA」の商標について、本質的に固有名詞であって、自他識別力が極めて強いストロングマークであるとするが、このような認識は誤っている。
 「CHANEL」、「LOUIS VUITTON」、「PRADA」は、本来それぞれの創業者である「ガブリエル・シャネル」、「ルイ・ヴィトン」、「マリオ・プラダ」という「人名(姓)」の一部にすぎない。ところが、これらの創業者が自分の名前を商品に付して使用して高品質な商品を販売することにより次第にその名を世界中に広めていったために、これらの人名が商標としての性質を獲得し、さらには著名性を獲得するに至ったものである。もし仮にこれらの創業者がこのような商品を販売していなければ、あるいは自分の名前を商標として使用しなければ、「CHANEL」、「LOUIS VUITTON」、「PRADA」は、「単なる人名のひとつ」として、商標としては認められなかったはずである。これらの商標の識別力は、一重にこれらの人名が継続して商標として使用されることによってのみ得られたものなのである。かかる商標が「本質的に固有名詞」であったという事実はない。
 この意味で、「ELLE」の商標は「CHANEL」、「LOUIS VUITTON」、「PRADA」といった商標と何ら変わるところはない。これらの商標が著名性を獲得して強い識別力を有しているのと同様に、「ELLE」の商標も、使用により強い識別力を有する著名商標として認識されているのである。
(ウ) また一審被告は、「ELLE」を含む商標登録が、被服の分野において存在することを挙げ、「ELLE」の識別力が極めて弱いと主張する。
 しかし、これらの登録商標が「ELLE」商標の識別力を減殺するものではない。すなわち、特許庁の商標審査基準が改定される平成11年7月1日以前においては、残念ながら、特許庁の実務において、周知著名商標を一部として含む商標について必ずしも厳格な類似性の判断がなされておらず、周知著名商標の保護が十分ではなかったため、「ELLE」を一部として含む商標についても商標登録が許されてしまった場合が存在した。この時代に登録された商標に対しての異議又は無効審判のうち認められないものが存在したことも同様の理由に基づく。しかし平成11年7月1日から、他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上のつながりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うという基準が改正され周知著名商標の保護が図られるようになった後は、「ELLE」を一部として含む商標の登録は例外的な場合を除いて認められず、一審被告の「ELLEGARDEN」の使用についても、これらの商標登録を理由に侵害の事実を免れることはできなくなったのである。
(エ) なお、一審被告は、芸術作品の題号、曲名、人名、さらには一般名詞について「ELLE」を含んだものが存在することを挙げて、「ELLE」という言葉の識別力に限界があると主張するが、このように商標として使用されていない場合を持ち出して「ELLE」商標の識別力を論じることは全くの的外れである。
ウ 被告標章の具体的利用から誤認混同のおそれがないとの主張につき
(ア) まず、一審被告は、骸骨と一緒にデザインされた本件Tシャツは「ELLE」のイメージから逸脱するものであり、また「ELLE」商標と同じロゴが使用されていない場合に誤認混同のおそれが生じることはない旨主張する。
 しかし、骸骨と一緒にデザインされた場合に誤認混同のおそれがないというのは何ら理由がない。そもそも一審被告のいう「ELLE」のイメージというものが明確な限界を持って存在するということはあり得ないからである。「ELLE」商標は、現在は服飾品に限らず、時計、メガネ、傘、家具、テーブルウェアにまで広くライセンスされており、かかるライセンス商品の広範さからして、骸骨が描かれたようなロックバンド風の商品に対して「ELLE」という語が使用された場合でも、これを一審原告と何らかの関係があると需要者が判断するおそれは十分にある。
 この点については、不正競争防止法に基づく請求に関して判断した、いわゆる「スナックシャネル」事件に関する最高裁判所平成10年9月10日第一小法廷判決(判例時報1655号160頁)において明確に述べられているところである。
(イ) 次に、「ELLE」商標に使用されているロゴと一審被告が使用しているロゴが異なるという点についても、誤認混同のおそれを否定する理由にはならない。通常人は、文字を見た場合には、その字体あるいはロゴにかかわらず、そこに一定の文字が書かれていると共通して認識するのであって、字体が異なっているために違った単語として認識するという事態は生じないからである。「ELLE」という文字が書かれている以上、たとえそのロゴが異なっている場合であっても、誤認混同のおそれは認められる。
エ 被告商品は本件ロックバンドのファングッズであることが明らかなので、誤認混同のおそれがないとの主張につき
(ア) 一審被告は、被告商品は本件ロックバンドのライブ会場又は本件ロックバンドのファン向けサイトである被告ウェブサイトにおいて販売されているため、一審原告の商品と誤認することは100パーセントあり得ないとか、ウェブサイトの利用者は、表示されたウェブサイトについて、それが何に関連するかについて中を見て確認するのが常識であって、被告ウェブサイトにおいては明確に本件ロックバンドのファン用ウェブサイトであることが明示されているから、一審原告の商品と誤認することはない等と主張する。
 確かに、被告商品が本件ロックバンドの演奏会場において販売されていた場合には、購入者はそこを本件ロックバンドの演奏会場であると認識しているであろうし、そこで演奏をしている本件ロックバンドに対しても一定の知識を有しているかもしれない。他方、本件ロックバンドに興味を持たない者は、そもそも本件ロックバンドの演奏会場に足を運ぼうとは思わないであろう。
 しかし、インターネット、そしてウェブ検索というものは、かかる実生活の制限を完全に取り払う技術である。一定のキーワードを入力すれば、それに関係するウェブサイトが、検索者の趣味嗜好には関係なく表示でき、また、クリックすれば簡単に当該ページに移動することができる。「ELLEGARDEN」の場合、服飾品等のブランドとして検索する意図で「ELLE」と入力した場合であっても、ロックバンド「ELLEGARDEN」のウェブサイトが検索結果として表れるのであり、そこへのリンクをクリックすれば、ロックバンドに興味があろうとなかろうと、「ELLEGARDEN」のウェブサイトが表示されるのである。
 そういったユーザーにとっては、そもそも「ELLEGARDEN」が本件ロックバンドの名称であることすら自明のものではない。インターネットのユーザー全体を母体としてみた場合には、「ELLEGARDEN」をロックバンドの名称として認識している人口は、「ELLE」を服飾品のブランドとして認識している人口に比べればはるかに少ない。
(イ) この点、一審被告は、トップページにおいてCD作品のジャケットが表示され、メンバーの写真とともにライブ情報、メディア出演情報が表示される旨主張するが、そもそもトップページに表示されるのが「CD作品のジャケット」であることを認識できる者は本件ロックバンドのファンに限定され、実際には、そこに何らの説明文も表示されないのであるから、これを見て「CD作品のジャケット」と認識する需要者(すなわち、アパレル製品の一般消費者としての需要者)は皆無であろう。しかも、メンバーの写真が表示されるといっても、最近のマーケティング手法においては商品販売のキャラクターにミュージシャンを起用することはごく普通に行なわれていることであるので、このような事情により誤認混同のおそれがなくなるものではない。
 また、上記トップページから「Japanese」のボタンを押して移動すると、画面の最下部には、「Top | New Topics | Media | Live Tour| Live&Event | Profile | Discgraphy | Diary | Goods | Link | Mail」という、それぞれの項目が表示される場所へのリンクボタンが最初から表示されている。そして、このうち「Goods」のボタンを押すと、画面はすぐに、「グッズ販売ページへ」というリンクが表示される場所へ切り替わるのである。このように、インターネットで一審被告のウェブサイトにたどり着いた者は、わずか3クリック(「Japanese」をクリックし、「Goods」をクリックし、「グッズ販売ページへ」をクリックする)だけで「ELLEGARDEN」のグッズ販売ページへと移動することができ、その間、本件ロックバンドについての説明を読まなくてはならない必然性はない。そして、グッズ販売ページに移動した後は、本件ロックバンドについての説明等はない。
 したがって、一審被告のウェブサイトの記載内容によっても、誤認混同のおそれを否定することはできない。
(ウ) さらに、一審被告の商品は、インターネットオークションなどにおいて頻繁に売りに出されており、転売されている。このようなインターネットオークションにおける転売の際は、当然のことながら「ELLEGARDEN」の公式ウェブサイトあるいはグッズ販売サイトを経由して行われているものではないので、サイトの所在から当該商品が本件ロックバンドに関連することを読み取ることは不可能である。
 なお、これらのオークションサイトにおいては商品の検索機能を有しているのが一般であり、ここで「ELLE」という語を入力して検索すれば「ELLEGARDEN」のグッズが登場する。すなわち、インターネット検索の際と同様、「ELLEGARDEN」ではなく「ELLE」の商品を探している者が被告商品にたどり着く可能性は相当程度あるのであり、かつ商品の説明においてロックバンドのことについて何ら触れられていない場合も多いため、この場合は当該商品がファングッズであることを知るすべもないのであるから、さらに出所についての誤認混同が生じるおそれがあることが明らかである。
 これに対し一審被告は、ポスト・セールス・コンフュージョンの理論は明確な偽造品である場合にのみ適用される旨主張するが、このような場合に限る合理的な理由はない。また、一審被告は、上記理論は「取引の実情」を考慮すべきとする最高裁判例に反するとするが、既に述べたとおり、本件の需要者はアパレル製品一般についての消費者である。その意味において、街を歩くほとんどの人が潜在的な「需要者」といえる。そして、購入後は家の中に置いておくような種類の商品と異なり、アパレル製品は、まさにそれを身に付けて外出することが本来的に予定されている。さらにいえば、街中で見かけた服装がその後の服飾品購入に当たっての参考となることも多々あるのである。このことに鑑みれば、本件商品においては、単に商品が販売されることで取引が終了するのではなく、購入者が街中で「ELLEGARDEN」の文字が表示されたTシャツ等を着て歩くこと、そして潜在的な需要者へ当該商品の展示が行なわれ、これにより新たな購入行為の連鎖が生じるものであり、かかる購入後の事情も含めた総合的な背景が本件における「取引の実情」であるといえる。そうすると、やはり本件における誤認混同のおそれは明確に肯定されるものである。
(4) 個別商品についての主張に対し
ア 被告標章(14)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(14)について、標章中の文字は骸骨と一体不可分のものであり、かつ一連一体で極度にデザイン化されたものであって、通常は「E」「Z」「Z」「E」「G」「A」「R」「D」「E」「N」の各文字から構成されるものと認識される旨主張する。
 しかし、被告標章(14)に表示される文字は、その背景にある骸骨の図形から浮き上って描かれているテープ状の白い部分に黒字をもって表示されているものであり、文字部分が顕著である。また、はじめの「E」の文字のあとには「L」が二つ並んでいると認識されると考えるのが自然である。なぜならば、文字そのものが「L」に一見似ているうえ、かかる文字の途中に「Z」が並ぶとか、算用数字の「2」が並ぶのは不自然であるから、通常そのようなものと認識されることはありえないからである。通常の需要者であれば、衣服を製造及び販売する企業が骸骨を出所表示に使用するとは考えないから、被告標章(14)の骸骨の図形は商品に付されたデザインと認識されると考えるのが妥当である。
 したがって、被告標章(14)を目にする者は、骸骨図形のデザインを背景に、商品の出所を指し示す「ELLEGARDEN」が表示されたものと認識するのが普通である。したがって、「ELLEGARDEN」が出所を表示する商標として理解されることとなる。
 また、一審被告はこの文字が極度にデザイン化されたものであると主張するが、被告標章(14)の上部に書かれた文字を「ELLEGARDEN」と読むことについて、通常人にとって特段の障害はない。また、一審被告は被告標章(14)と原告商標が明白に異なるとするが、既に述べたとおり、標章(14)からは、「ELLEGARDEN」という文字が容易に読めるのである。「ELLEGARDEN」については、それが「ELLE」と「GARDEN」で構成されると理解され、したがって原告商標との類似性が認められるという点は既に述べたとおりである。
イ 被告標章(15)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(15)につき、骸骨とともに、極度にデザイン化された文字により構成されていると主張するが、骸骨の図形が商標としての使用に影響を与えないのは上述のとおりであるし、「極度にデザイン化された」という主張についても、被告標章(15)を通常一般人が見た場合に「ELLEGARDEN」と表記されていることを理解するのに特段の障害はない。
 また、一審被告は当該部分が「ELLE」の4文字を限定的に切り取ることはないと主張するが、「ELLEGARDEN」と理解された場合、これが「ELLE」と「GARDEN」から構成されるものと読め、したがって原告商標を想定することは自然な流れであることは既に述べたとおりである。
ウ 被告標章(16)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(16)につき、骸骨が表示されていること、Tシャツの製造者がUnited Atleであることを主張する。
 しかし、上述の通り、骸骨は単なるTシャツのデザインであって被告標章(16)に含まれるものではないし、需要者が「ELLEGARDEN」の文字部分を出所表示として認識するという点に何らの影響も与えるものでもない。
 また、Tシャツの製造者の表示が、被告標章(16)と「ELLE」との類似性について何らかの影響を与えるものでもない。第三者の製造したTシャツに、販売者が自社の商標をプリントをして販売するという形態は通常一般に行われているのであるから、Tシャツ自体の製造者の表示がある場合でも、Tシャツのプリント中の「ELLEGARDEN」の商標としての機能を左右するものではない。
 なお、一審被告は、「E.F.C.T 06−07 ELLEGARDEN × SKULLSHIT COLLABORATE Tシャツ」という商品名が表示されていることが表示の一体性を明示するものであると主張するが、この主張の根拠は不明である。「ELLEGARDEN」について「ELLE」と「GARDEN」の間に間隔等がないので一体であるという主張であるとすれば、かかる事情が「ELLE」との類似性の判断に影響を与えないことは既に述べたとおりである。
エ 被告標章(17)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(17)についても、骸骨が表示されていること、Tシャツの製造者がUnited Atleであることを主張するが、被告標章(16)について述べたところと同様、このような事情は類似性の判断に影響を与えるものではない。
オ 被告標章(18)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(18)について、ツアー記念Tシャツであることが明確に表示されていること、骸骨が剣を持った姿が含まれていることから、需要者に誤認混同は生じず、また一審原告商標との類似性はないと主張する。
 しかし、当該Tシャツが「ツアー記念Tシャツである」という主張は、本件における誤認混同の判断において誤った前提を設定するものであり、妥当ではない。本件における商品の「需要者」は「広く一般消費者」なのであって、かかる需要者の間で「ELLEGARDEN」がロックバンドであるという認識を有している者は限定的である。残りの大多数にとっては「ELLEGARDEN」という表示がロックバンドであるかどうか、また表示されている日時と会場名が音楽に関連しているものであるか否かという点さえ判断はできないのである。商品の出所表示については、通常の需要者は、商品を一見して商標と思われるものを見定め、これから間髪をいれずに商品の出所を悟るものである。したがって、商標らしい表示の周辺に複雑な文字群があっても、一度出所を悟った後は、それを出所に関係するものという意識をもって見ることはない。仮に例外的にこれを見て考える需要者がいても、そのような需要者は、日時、会場名はスポーツイベントに関連するものであると認識するかもしれないし、このような場合は、スポーツ用品ブランドとして「ELLE SPORTS」を有する一審原告の商品との混同はかえって大きくなるのである。
 したがって、「ELLEGARDEN」の周辺にあるこれらの表示は、被告標章(18)について一審原告商標との類似性又は誤認混同のおそれを否定するものではない。
カ 被告標章(19)を付したTシャツ
 一審被告は、被告標章(19)について、一連一体にまとまりよく筆記体で表示されたものであり、1つの語であることが明確となっていると主張するが、単に横一列に表記した場合に「ELLEGARDEN」が「ELLE」と「GARDEN」からなると容易に理解されるという点は既に主張したとおりであり、一審原告商標との類似性が認定されるものである。
キ 被告標章(20)を付したリストバンド
 一審被告は、被告標章(20)について、極度にデザイン化された一連一体のまとまりの良い文字であって要部が「ELLE」ではないと主張するがこのような主張は、被告標章(14)ないし(19)について述べたとおり、何ら根拠を有しないものである。
 また、一審被告は、被告標章(20)が「ELLE」と程遠い概観をしていると主張するが、通常人がこれを見た場合に、これを「ELLEGARDEN」と認識することは明らかであり、さらに、被告標章(20)は一審原告の商標「ELLE」の「ひげ」部分(文字の端が伸びていたり、反っていたりする飾りのこと)までも模倣しているという点において、一審被告の主張とは全く逆に、より原告商標に類似するとの印象を与えるものである。
ク 被告標章(21)を付した帽子
 被告標章(21)については、標章(14)に関する議論がそのまま妥当する。
ケ 被告標章(10)を付した音楽CD
 一審被告は、「ELLE」の商標が付されたCD(甲114〜117)について、音楽エンターテインメントの世界における両者の知名度の差異からして、上記活動が一般人を誤認混同させることにはならず、当該ブランドの表示と音楽アーティストの表示の類似性に影響を与えることはないとか、「Space Sonic Tour」等はツアー名表示であるから誤認混同は起こらないとする。
 しかし、上記の主張は、本件の需要者に「ELLEGARDEN」が「ロックバンド名」として認識されており、また「Space Sonic Tour」といった表示が「ツアー名表示」として認識されているという誤った前提に基づくものである。
 なお、一審被告は、前記のとおり、「ELLE」を強調した「ELLEGARDEN」のロゴが表示された音楽CDに関して、一審原告から指摘を受けた時点で使用するつもりはなく、増刷の際の手違いで市場に残ってしまったとし、今後も使用するつもりはないと述べるが、一審原告が平成19年9月2日に当該CDを探したところ、簡単にこのCDが今も販売されていることを発見することができた(甲112、113参照)。したがって、一審被告がこれを今後も使用するつもりはないと述べる点は疑問である。
第5 当裁判所の判断
1 一審原告の当審における拡張後の本訴請求の内容は前記のとおりであり、これを簡略に記載すると別紙「本訴請求一覧表」記載のとおりとなるが、その請求の法的根拠は、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックについては、@一審原告の有する原告商標権(別紙「原告登録商標目録」1ないし5記載のもの)に基づく商標法36条、A不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)であり、音楽CDについては不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)である。
 当裁判所は、一審原告のTシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関する請求(上記@及びA)はすべて理由がなく、一方、音楽CDに関する請求で附帯控訴がなされている部分は理由があると判断する。その理由は、以下に述べるとおりである。
2 Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関する請求について
(1) 原告商標権に基づく差止請求の可否
ア 商標権者は自己の商標権を侵害し、又はそのおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができるところ(商標法36条)、一審原告は、一審被告によるTシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックによる被告標章(1)ないし(9)、(11)ないし(21)の使用は、原告商標に類似する標章を商標として使用している(商標法37条1号、2条3項参照)と主張するので、以下検討する。
イ 原告商標と被告標章の類似の有無
(ア) 商標と標章の類否は、対比される標章が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された標章がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして、商標と標章の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、これら3点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、これを類似の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 そこで、上記の観点から以下検討を加える。
(イ) 一審原告が商標権を有する「ELLE」の文字に関しては、次の事実が認められる。
a 本件ELLE商標(原告登録商標5と同様のもの)は、1945年にフランスにおける原告雑誌の創刊に当たって原告雑誌の表題用に創作されたものであり、同商標は以後同名雑誌に継続的に使用されている(甲6〜8、弁論の全趣旨)。
b 我が国においては、昭和45年3月、平凡出版が、一審原告の許諾の下に、雑誌「アンアン(an an)」を日本版原告雑誌と位置づけて創刊し(当初の雑誌名称は「アンアン・エル・ジャポン(an an ELLE JAPON)」であった。)、以来昭和57年に至るまで、雑誌「アンアン」にフランス語版原告雑誌の記事を多数掲載するなど、「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には必ず本件ELLE商標を付してきた。
 また、平凡出版は、雑誌「アンアン」だけでなく、同社の発行に係る雑誌「クロワッサン」等他の出版物にも、原告雑誌の記事を本件ELLE商標の下に多数掲載した。
 昭和57年4月、株式会社マガジンハウスが、一審原告の許諾の下に、日本版女性雑誌「ELLE」を創刊した。当該雑誌は、月2回刊行された時期を経て、現在月1回刊行されているところ、その発行部数は毎号約23万部に達する。現在は一審原告の子会社である株式会社アシェット婦人画報社がその出版業務を引き継いでいる。
 これらの雑誌に掲載される内容は、被服、布製身の回り品、化粧品、バッグ類、履き物、装身具、時計、眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブルウェア、食品その他のファッションの紹介記事又はこれに関連する広告の掲載である(争いがない)。
c 一審原告は、我が国においては、本件ELLE商標及びその称呼をカタカナで表記した本件エル商標(原告登録商標1)を商標登録したのに続き、「ELLE Petite」や「ELLE PARIS」のような、本件ELLE商標に他の文字を付したいくつかのバリエーションの結合商標を始めとする多数の関連商標を登録した。
 また、一審原告は、昭和39年以来、帝人に対し、本件ELLE商標等の独占的使用を許諾するとともに、「ELLE」ファッションの販売・普及活動を推進した。
 帝人は、自ら「ELLE」ファッションに係る洋服を製造・販売する一方、その再許諾権限に基づき、婦人服につき株式会社イトキン、スカーフ・ハンカチ類につき川辺株式会社、水着につき株式会社岸田、エプロンにつき中西縫製株式会社、寝装寝具類につき西川産業株式会社、手袋につき株式会社三大の各社に対し、その再使用権を許諾した。
 帝人及びこれらサブライセンシーは、共同して「ELLE」ファッションの宣伝・販売・普及に努め、その製造・販売に係る商品に本件ELLE商標等を使用した。
 昭和59年7月に至り、一審原告は、帝人との独占的使用許諾関係を解消し、自ら東洋ファッション株式会社(現在は「株式会社エルパリス」に商号変更。)を設立し、「ELLE」ファッションの市場開発、市場調査、企画、利用を図り、帝人のサブライセンシーを引き続き使用権者として本件ELLE商標の普及に努めた。また、その間、新たなサブライセンシーも加わった。
 その結果、我が国における一審原告のライセンシーの数は、平成17年11月現在で33社に上り、その業種も、被服、布製身の回り品、バッグ類、履き物、装身具、眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブルウェア、食器等に及んでいる(甲21〜62〔枝番を含む〕)。
d 一審原告は、その運営するウェブサイト「ELLE Online」(http://www.elle.co.jp)において、原告雑誌の広告宣伝、ファッション情報及び化粧品情報の発信、並びに「ELLE」ブランド全体についての広告宣伝及び情報の発信を行っている(争いがない)。また、石山彰編「服飾辞典」(甲10。昭和47年2月1日初版、株式会社ダヴィッド社発行)には、「エル」の語が登載され、「フランスのファッション・ブックを兼ねた大型女性週刊誌の名。…」との解説が、文化出版局編「服飾辞典」(甲11。昭和54年3月5日第1刷、文化出版局発行)には「エル・ファッション」の語が登載され「フランスの女性雑誌『ELLE』によって生み出されたファッションということ。」との解説が、被服文化協会編「服装大百科事典下巻」(甲12。昭和44年3月20日初版、文化服装学院出版局発行)には「エル ELLE」の語が登載され「フランスの若い女性向き週刊誌。…最近では『エル・ファッション』といわれて、全世界の若い女性たちの間に支持者を持つようになっている。…」との解説が、それぞれなされている。なお、本件ELLE商標は、防護標章として登録され、特許庁の日本国周知・著名商標リストにも掲載されている(争いがない)。
e 雑誌「ELLE」や「エル」商品のカタログ等には本件ELLE商標が記載され、衣服、布製身の回り品、バッグ類、履き物、装身具、眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブルウェア、食器等の各商品においても、ほぼ統一的に本件ELLE商標がロゴとして付されている。
 なお、「ELLE」ブランドの派生ブランドとして、家具に関して「エル・デコ」(甲18、19など)、料理に関して「エル・ア・ターブル」(甲20など)、宝飾品に関して「エル・パリ」「エル・ジュエリー」「エル・ルミエール」(甲26〜29〔枝番を含む〕など)、雑貨に関して「エル・パリ」「エル・プチ」(甲28、31〔枝番を含む〕など)、スポーツ用品に関して「エル・スポーツ」(甲31の3など)等があるが、これらにおいては、本件ELLE商標を大書した上で、これに近接した位置又はその直下に派生ブランドに関する表示を付加するという体裁をとっており、派生ブランド部分は著しく小さな文字であるか、本件ELLE商標とはフォント、色、大きさ等を変えて、これらが一連一体のものとして読まれないよう、意匠上の工夫がなされている(甲7〜9、14〜62〔枝番を含む〕)。
f 「ELLE」の文字を含む被服分野における登録商標には次のものがある(乙20〜38、45〔枝番を含む〕)。
・「ellesse」(商標登録番号第1412420号の1)
・「Elle Roman」(同第1312208号)
・「ELLESAISON」(同第1386896号)
・「ELLEMARGUERITE」(同第1386897号)
・「ELLESHIMON」(同第1441437号)
・「ELLENOVA」(同第1812940号)
・「ELLE BRIAN」(同第1907613号)
・「ELLEKAMA」(同第1914604号)
・「ELLEME」(同第2011543号)
・「ELLE DE CHIC」(同第2171233号)
・「elleair」(同第2289525号)
・「ellelieben」(同第2374874号)
・「ELLECLIP」(同第2395505号)
・「ELLEBELLE」(同第2705545号)
・「elle et elles」(同第2724292号)
・「ELLEFLEUR」(同第3182805号)
・「elleallo」(同第3288328号)
・「ELLEBELLEN」(同第4656458号)
・「IL ELLE」(同第2081846号)
・「ELLEGOD」(同第1940332号)
g その他の分野における登録商標としては次のものがある(乙46〜60)。
・「ELLEBON」(商標登録番号第1043590号)
・「ELLE−MOI」(同第1244568号)
・「ELLEVOIE」(同第1287606号)
・「Ellenite」(同第1882639号)
・「ELLEBEAUTE’」(同第1978274号)
・「ELLE VERRE」(同第2234127号)
・「ELLESHADE」(同第2597519号)
・「ELLESTEP」(同第2717302号)
・「Ellelite」(同第3283188号)
・「ellesoie」(同第3294649号)
・「ELLESEINE」(同第3331476号)
・「ELLESPEN」(同第4011234号)
・「ELLEMOIPOLO」(同第4034921号)
・「ellefort」(同第4829747号)
・「ELLEROSE」(同第4209416号)
h 「ELLE」という語の原義はフランス語で「彼女」や「それ」を意味する代名詞であり、フランス語としては極めて初歩的かつ普遍的な言葉である。
 なお、「GARDEN」は英語で「庭」等を意味する語であり、「ガーデン」、「ガーデニング」などとして日本語においても同旨で用いられている言葉である。
(ウ) 他方、一審被告が使用する標章である「ELLEGARDEN」に関しては次の事実が認められる。
a 本件ロックバンドは平成10年2月に千葉県で結成されたインディーズを中心に活動するロックバンドである。
 平成13年1月に最初のCD「ELLEGARDEN」をリリースし、以後、平成14年4月にファーストアルバム「DON’T TRUST ANYONE BUT US」(本件音楽CD)を、平成15年7月にセカンドアルバム「BRING YOUR BOARD!!」を、平成16年5月にサードアルバム「Pepperoni Quattro」を、平成17年4月に4枚目のアルバム「RIOT ON THE GRILL」を、平成18年11月に5枚目のアルバム「ELEVEN FIRE CRACKERS」をそれぞれリリースするとともに、それらと並行して全国的なライブツアーを行っている。
 音楽チャート雑誌であるオリジナル・コンフィデンス(いわゆるオリコン)の平成18年8月21日号(乙67)では、シングルCD「Salamander」がシングルランキングで3位に、DVD「DOGGY BAGS」がミュージックDVDランキングで1位となった。オリコンの同年11月20日号(乙68)ではその5枚目のアルバムがアルバムチャートで1位を獲得し、平成19年11月5日号(乙81)ではDVD「ELEVE FIRE CRACKERS TOUR 06-07〜AFTER PARTY〜」がDVD総合及びミュージックDVDの双方のランキングで1位を獲得した。
 本件ロックバンドは、結成以来「エルレガーデン」との称呼を使用している(乙67、68、80、81、弁論の全趣旨)。
b 本件Tシャツに付された被告標章(1)〜(5)、(7)〜(9)、(11)〜(19)の使用態様は、次のとおりである(以下、原判決別紙「被告標章使用態様目録」を参照)。
(a) Tシャツ(品番E−020)の前面(使用態様(1))は、被告標章(1)が表示され、「G」の文字の上にはコック帽を被った頭骸骨が、「EL」の文字の辺りには骸骨の持つ包丁が描かれるとともに、被告標章(1)の下には、「RIOT ON THE GRILL TOUR」と表示されている。
 同Tシャツの背面(使用態様(2)−13)には、被告標章(2)とともに、「RIOT ON THE GRILL TOUR」と表示され、さらに、「7.18(mon) TOKYO SHIBUYA−AX」など39の日時、曜日及び地名等が表示されている。
 E−021は、E−020の色違いである(争いがない)。
(b) Tシャツ(品番E−002)の前面(使用態様(2)−11)には、欧文字「E」をモチーフとした1点から右斜め上・真横及び右斜め下に向かう3本線からなるマーク(本件マーク)を左に表示した被告標章(2)が白地に青字で表示され、その下に、「BRING YOUR  OARD!!」と青地に白抜き文字で表示されている。
 同Tシャツの背面(使用態様(2)−12)には、白地に青字で「BRING YOUR BOARD!! Tour 2003」との表示とともに、「7.31 渋谷CLUB QUATTRO」など25の日時及び地名等が表示され、右下には、本件マークを左に表示した被告標章(2)が白地に青字で表示されている(争いがない)。
 同Tシャツの襟ネームには、「United Athle」というTシャツ自体の製造・販売者の商標が表示されている。その余のTシャツについても、同様である(乙65の写真D及び<22>、弁論の全趣旨)。
(c) Tシャツ(品番E−010)の背面(使用態様(3))には、被告標章(3)が白地に白抜き文字で表示され、その下に骸骨がバイクに乗っている姿が描かれるとともに、最下段に白抜きの文字で「SKULLSHIT」と表示されている(甲70の2、弁論の全趣旨)。
(d) Tシャツ(品番E−007)の前面(使用態様(4))には、被告標章(4)が白地に黒字で表示され、その下に頭部が誇張された骸骨が描かれるとともに、その下に骸骨から滴る雫と血溜まりのようなものが描かれている(甲70の2、弁論の全趣旨)。
(e) Tシャツ(品番E−015)の前面(使用態様(5)−1)には、「Bad For Education Tour」と大きく表示され、炎を背景とした頭骸骨の図柄の下に、「Bad For Education Tour」の4分の1ほどの大きさの字で、本件マークとともに被告標章(5)が表示されている。
 同Tシャツの背面(使用態様(5)−2)には、「Bad For Education Tour 2004」との表示とともに、「11/2(Tue)−Osaka Big Cat」など15の日時、曜日及び地名等が表示され、その下に、本件マークと共に被告標章(5)が表示され、さらに「SKULLSHIT」の表示がされている(争いがない)。
(f) Tシャツ(品番E−032)の前面(使用態様(7)、(13))には、最上段に被告標章(7)が大きく表示され、その下には帽子を被った2つの頭骸骨が会話をしている姿が大きく描かれるとともに、「OH??NOT POPCORN...WHERE’S BODY?」、「YEAAAAH!!!」、「MOSH!MOSH!!MOSH!!!」、「RocK or DiE!!!」という文字や、4段に分けて「ENJOY」「ELLEGARDEN」(被告標章(13))「TIL’ YOUR...」「DEAD!!!」という文字が表示され、最下段には被告標章(7)とほぼ同大、同字体で「SABBAT13」の表示がされている。
 同Tシャツの背面(使用態様(8))には、下段に被告標章(8)が大きく表示され、その上にその4分の1ほどの大きさの字で「THE MOST FUN YOU’LL EVER HAVE BEING SCARED!!!」と、最下段には更に小さな字で「DEVILISHLY DELIGHTFUL SABBAT THIRTEEN」と表示され、これらの文字の右側に「13」の文字と交差した骨が描かれている(甲84の1、88、乙65の写真H〜M、弁論の全趣旨)。
(g) Tシャツ(品番E−029)の前面(使用態様(9))には、胸の位置に被告標章(9)が大きく表示されている。
 同Tシャツの背面(使用態様(12))には、中央に被告標章(12)が大きく表示されている(甲84の1、乙65の写真S〜<22>、弁論の全趣旨)。
(h) Tシャツ(品番E−027)の前面(使用態様(11)−1)には、縦書きで「ROCK」と表示された上で、その横上部に「DEVILISHLY DELIGHTFUL TALES OF」の文字があり、その下部に被告標章(11)が表示され、被告標章(11)のすぐ下部に「SPACE SONIC TOUR 2005−2006」と表示されている。
 同Tシャツの背面(使用態様(11)−2)には、本件マークとともに、被告標章(11)が表示され、そのすぐ下に「SPACE SONIC TOUR 2005−2006」が表示され、さらにその下に、日時及び地名等が数多く表示されている(争いがない)。
(i) Tシャツの前面(使用態様(14))には、胸の位置に被告標章(14)が大きく表示されている。被告標章(14)は、大きく描かれた頭骸骨の額部に炎のようなデザインで「ELLEGARDEN」と表示され、頭骸骨の口部に同様のデザインで「SKULLSHIT」等の文字が表示されたものである(甲121)。
(j) Tシャツの前面(使用態様(15))には、胸の位置に被告標章(15)が大きく表示され、その下にやや小さく「SKULLSHIT」の文字が表示されている。被告標章(15)は、最上段に「ELLEGARDEN」と大きく表示され、その下に骨の突き刺さった頭骸骨が2つ向かい合っている様子が描かれたものである(甲122)。
(k) Tシャツの背面(使用態様(16))には、最上段に被告標章(16)が赤地に黒抜きの文字で大きく弧を描いて表示され、最下段にはそれと同大、同色、同字体で「SKULLSHIT」と表示され、その間の中央部に交差した骨と頭骸骨の図が、その左右には炎の図がそれぞれ全面に描かれている。
 同Tシャツの前面(使用態様(17))には、左胸部に拳大の大きさで交差した骨と頭骸骨の図が描かれ、その下に小さな文字で2段にして「ELLEGARDEN」(被告標章(17))×「SKULLSHIT」との文字が黒字に白く表示されている(甲123、124)。
(l) Tシャツの前面(使用態様(18))には、その全体に被告標章(18)が表示されている。被告標章(18)は、最上段には赤地の横断幕様のものに黒字で「ELLEGARDEN★」と表示され、最下段には同様の布状の図に黒字で「11 Fire Crackers Tour 06−07」と表示され、その間の中央部に炎を背にした海賊風の骸骨が剣を持っている図などが描かれたものである。
 同Tシャツの背面には、2006年から2007年にかけての「11 Fire Crackers Tour 06−07」というライブツアーの日程及び会場等が表示されている(甲125、弁論の全趣旨)。
(m) Tシャツの前面(使用態様(19))には、左胸部に掌大の大きさで骸骨が小刀をくわえて横断幕様のものを掴んでいる図が描かれ、その横断幕様の部分には白抜きの文字で「ELLEGARDEN」と表示され(ただし、最初の「EL」最後の「EN」は骸骨の手で一部が隠れている。)、その図柄の下に上記「ELLEGARDEN」と同じ字体で小さく被告標章(19)が表示されている。
c 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているリストバンドの使用態様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(甲127、弁論の全趣旨)。
・使用態様(2)−2 被告標章(2)、品番E−004、017
・使用態様(2)−3 被告標章(2)、品番E−022
・使用態様(2)−4 被告標章(2)、品番E−033
・使用態様(20) 被告標章(20)
d 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているステッカーの使用態様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。
・使用態様(2)−1 被告標章(2)、品番E−005
・使用態様(4) 被告標章(4)、品番E−009
・使用態様(5) 被告標章(5)、品番E−026
e 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているタオルの使用態様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。
・使用態様(2)−1と同様 被告標章(2)、E−006、014
・使用態様(2)−1に類似(甲70の5の上段右から2つ目。「ELLEGARDEN」の下に「Bad For Education」と表示されたもの) 被告標章(2)、E−018
・使用態様(2)−6 被告標章(2)、E−023、025
・使用態様(2)−7 被告標章(2)、E−034
f 一審被告が被告ウェブサイト上で販売している帽子の使用態様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。
・使用態様(2)−5 被告標章(2)、品番E−019
・使用態様(6) 被告標章(6)、品番E−024
g 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているスコアブックは、使用態様(2)−10のとおりである。すなわち、本件スコアブックは、最上部左側に小さく「BAND SCORE」との表記があり、その下の赤帯部分に黄色の文字で被告標章(2)と表示され、その下の写真が表示されている部分に「Pepperoni Quattro」の文字及び被告標章(2)が記載されている。また、表紙左下には、「SHINKO MUSIC PUB.CO.、LTD」と表示されている(争いがない)。
(エ) 被告標章の具体的な使用形態は前記(ウ)のとおりであるが、被告標章の個別の特徴を分析すると、次のとおりである。
a 被告標章(1)、(2)、(5)
 「L」の右側が高く跳ね上がったやや図形的な同大の太い字で「ELLEGARDEN」の文字を横一列に同大で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにされていない。しかも、前記のとおり、被告標章1はコック帽を被った骸骨の両手により両脇から抱えられており、その全体を一連一体のものとして理解することができる。
b 被告標章(3)
 白地に黒枠で白抜きした図形的(全体に丸まっている)な同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
c 被告標章(4)
 白地に黒枠で白抜きしたやや図形的(最初の「E」から血のようなものが滴っている)な同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
d 被告標章(6)
 黒字に白い同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
e 被告標章(7)、(8)、(11)、(13)
 アメリカンコミックに見られるような図形化された太く同大の文字で「ELLEGARDEN」と緩やかな円弧状(被告標章7、13)ないしやや不揃いな横一列(被告標章8、11)に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
f 被告標章(9)、(12)
 図形化された文字で「E」を大文字、その余を小文字で「Ellegarden」とやや上下に不揃いになるように横一列に密着する形態で表記したものであり、「Elle」と「garden」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。なお、「Ellegarden」の直下にほぼ同大で同様に図形化された文字で「SkullShit」と横一列で表記してあるが、こちらはそれぞれの「S」がいずれも大文字で表記されている。なお、「skull」は英語で頭蓋骨を意味し、「shit」は英俗語で罵りの言葉として慣用される言葉である。
g 被告標章(14)、(21)
 流れるように図形化された太い文字で「ELLEGARDEN」と横一列に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
h 被告標章(15)
 不揃いに図形化された文字で左右両端は小さく、中央部がふくらむ形態で「ELLEGARDEN」と横一列に表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
i 被告標章(16)
 赤字に黒い同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
j 被告標章(17)
 黒字に白くやや図形的な同大の文字で「ELLEGARDEN」と横一列に表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
k 被告標章(18)
赤字に黒いやや図形的な文字で左端から右端にかけて若干文字が小さくなる形態で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着して表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
l 被告標章(19)
 黒字に白く図形的な同大の文字で「ELLEGARDEN」と上下に波打つ形態で一列に密着して表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
m 被告標章(20)
 黒字に赤く特に「E」と「L」の右側が高く跳ね上がっている図形的な文字で左右が大きく中央部が凹んでいる形態で「ELLEGARDEN」と横一列に密着して表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。
(オ) 被告商品は、音楽CDを除き、ライブツアーの際にファングッズとして販売されるほか、被告ウェブサイトにおいて通信販売されている。
 被告ウェブサイトの冒頭ページには「5th Album ELEVEN FIRE CRACKERS 2006/11/08RELEASE」という表示とともに、本件ロックバンドのメンバー4人の写真が表示されている。同ページの最下段には、「Top | New Topics | Media | Live Tour| Live&Event | Profile | Discgraphy | Diary | Goods | Link | Mail」というリンク先が表示され、トップページから順に新着情報、テレビやラジオ、雑誌等のメディアでの活動情報、本件ロックバンドのライブツアー情報、本件ロックバンドのプロフィール、CD情報(ディスコグラフィー)、日記、ファングッズ販売情報、関連サイトへのリンク、メール送信先の情報が表示されるようになっている。このうちファングッズ販売情報のサイトでは、被告商品が写真とともに表示され、注文できるようになっている(甲70、84、121〜129、乙79、80〔枝番を含む〕、弁論の全趣旨)。
(カ)a 上記(イ)ないし(エ)に認定した事実によれば、本件ELLE商標は、1945年のフランスにおける同名雑誌の発刊当時から使用されてきたという歴史を有し、我が国においても同名雑誌の刊行や多くのライセンスを通じてそのブランドが広く浸透しているということができ、少なくとも本件ロックバンドが結成された平成10年当時には著名であったと認めることができる。そして、一審原告は、「ELLE」ブランドを護持するため、一審原告がライセンスをする各種の商品に本件ELLE商標を付して販売し、また本件ELLE商標を中軸とした統一的な広告宣伝活動を展開していることからすれば、上記のような「ELLE」ブランドの著名性は、縦に細長くそれぞれの文字の右端が上下に長く伸びた特徴的な字体を持つ本件ELLE商標自体の著名性と密接不可分なものとして展開してきたと認めることができる。
 もっとも、「ELLE」との語はアルファベット4文字、称呼でみれば「エル」の2文字という、極めて簡単な構成からなっており、しかも、その原義はフランス語としては極めて普遍的な代名詞(「彼女」の意)であることから、我が国において「ELLE」を含む商標が被服その他を指定商品として多数登録されているのが実情である。その意味では、上記のような「ELLE」の歴史的経緯ないし特徴ある本件ELLE商標を離れてその構成自体をみた場合、識別力が顕著に高いものとは必ずしもいい難い側面がある。
b そこで本件における被告標章についてみると、本件音楽CDを除く被告商品における被告標章は、いずれもほぼ同大・同色・同フォントで一連一体にまとまりよく表記してなるものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見当たらず、これらを殊更に分断して把握すべき外形的な事情も見当たらない。
 また、前記のとおり、これら被告標章の現実的な使用態様は、骸骨が刃物を振りかざしていたり、骸骨から血のようなものが滴り、その下に血溜まりができているなどといったデザインと一体として用いられ、あるいは頭蓋骨を意味する「SKULL」や罵る言葉である「SHIT」といった一般に嫌悪感を催させるような言葉とともに並記されていることが認められる。このようなデザインや言葉のイメージは、女性向け、家庭向けの清潔なイメージを販売広告戦略とする「ELLE」ブランドのイメージとはおよそ重なる余地がないものといわざるを得ない(なお、「ELLE」のカタログや雑誌において、骸骨の姿を主要なモチーフとして用いているロゴは見当たらない。)。その意味で、被告標章ないしその現実的な使用態様から喚起される被告商品の製造販売主体のイメージと、前記のような歴史的な経緯に立脚し、本件ELLE商標とともに形成されてきた一審原告のブランドイメージとは到底合致しないものというほかない。
 そして、被告商品の販売方法についてみても、本件ロックバンドの行うライブツアーの際に販売される場合は当該商品の出所の混同を考慮する必要はないということができるし、被告ウェブサイトにおける販売についてみても、購入に至るまでには複数のステップがあり、その中には同サイトが一般の被服等を販売するサイト、とりわけ一審原告のようなファッションブランドの商品を販売するサイトではなく、ロックバンドのファンサイトであると容易に気付かせるような表示が随所に見られるのであるから、このような販売方法による場合であっても、これを購入しようとする者が当該商品の出所の混同を来す場合があるとは容易に想定し難いというべきである。
 これらに加え、本件ロックバンドそれ自体が我が国においてオリコンチャートで1位を獲得する程度に著名なグループであり、「ELLEGARDEN」という名称はそのような本件ロックバンドを表す固有名称として平成10年当時から継続的に使用されていたという事情も、出所の混同の有無を検討する際、無視することができない要素ということができる。
c 以上述べたところを総合的に考慮すると、被告標章は、それ自体の体裁、その現実の使用態様におけるイメージ、実際の販売方法、著名なロックバンドの名称として相当程度の期間使用されてきたという事情等からして、原告登録商標ないし本件ELLE商標が著名であることを考慮したとしてもなお、「ELLEGARDEN」という被告標章を「ELLE」部分と「GARDEN」部分とに分断すべきものと解することはできない。
d 以上を踏まえて、原告商標と被告標章の類否を検討する。
 原告登録商標である「ELLE」のアルファベット4文字と、一連一体として10文字のアルファベットからなる「ELLEGARDEN」との被告標章は、その文字数が明らかに異なるから外観が類似するということはできない。
 また、観念についても、前者はフランス語の代名詞、服飾等の著名ブランドとしての「ELLE」ブランド等の観念が生じるのに対し、後者は造語であり、本件ロックバンドを知る者にとってその旨の観念を生じさせるほかは、特定の観念が生じることはない。
 称呼については、原告登録商標である「ELLE」は、ローマ字読みで「エレ」、「エッレ」、「エルレ」といった称呼が生じ得るほか、著名な商標としての「エル」の称呼を生じるということができる。これに対し、被告標章である「ELLEGARDEN」は造語であることから、本件ロックバンドを知る者にとっては直ちに「エルレガーデン」の称呼が生じることになるほかは、一般的な称呼は生じず、せいぜい、上記「ELLE」の称呼(「エレ」、「エッレ」、「エルレ」)と、これを除いた部分である「GARDEN」の部分に「ガーデン」との称呼を生じ、両者を併せた称呼として、「エレガーデン」、「エッレガーデン」、「エルレガーデン」、「エルガーデン」といった称呼を生じることになる。
 以上によれば、両者は外観、観念、称呼のいずれにおいても類似するということはできず、これに前記のような取引の実情を併せ考慮すると、原告商標と被告標章とが類似するということはできない。
e これに対し一審原告は、ウェブ検索の特性や被告ウェブサイトの体裁を挙げつつ、これらを経由した場合、被告商品と本件ロックバンドとの関連性に気付かないで被告商品の販売されたサイトに到達する旨主張する。
 しかし、ウェブ検索はキーワードの設定いかんにより必要な情報以外の種々雑多の情報がヒットされることになるというのは、ウェブ検索を行う上での常識的事項に属するものというべきであって、仮に「ELLE」を検索した結果「ELLEGARDEN」のウェブサイトが表示されたとしても、そのことから直ちに両者に何らかの関係があると考えることは相当でない。また、仮に「ELLE」の需要者が本件ロックバンドを知らずに被告ウェブサイトを見た場合、当該サイトと「ELLE」とのイメージの違いは容易に感じることができるし、またそうでなくとも、ネット上で商品売買を行う場合、対面販売の場合とは異なり一定程度のリスクを伴うこともまた、ネット上の常識ということができるから、ウェブ検索の結果偶然被告ウェブサイトを訪れた需要者は、商品購入に至る前に商品の出所を確認するのが通常である。そのような観点から見ると、上記のとおり、被告ウェブサイトが本件ロックバンドのファンサイトであることは1、2箇所クリックすれば容易に理解に達するのであって、この点においても一審原告の主張するような懸念は観念し難い。したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
 なお、一審原告は、本件に「ポスト・セールス・コンフュージョン」の理論を適用すべき旨を主張するが、前記のような被告標章の実際の使用態様等に照らすと、採用することができない。
ウ 以上によれば、原告商標と被告標章とは非類似ということになるから、一審被告による被告標章の使用が商標法2条3項にいう使用(商標的使用)に該当するかどうかについて論ずるまでもなく、一審原告の商標権に基づく差止請求はいずれも理由がないことになる。
(2) 不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく差止請求の可否不正競争防止法3条は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又はそのおそれがある者は、その差止等を求めることができる旨を定め、同法2条1項は上記にいう「不正競争」の定義を定めているところ、同項1号は「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し」等と定め、同項2号は「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し」等としている。
 一審原告の一審被告に対する不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく本件差止請求は、被告標章が原告商標と類似することを理由とするものであるが、前記(1)のとおり、両者が類似するということはできないのであるから、その余について判断するまでもなく、一審原告の上記差止請求は理由がない。
3 音楽CDに関する請求について
(1) 上記請求は、前記のとおり、不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく差止請求であって、商標権侵害を理由とするものではない。
 ところで、不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく差止請求が認められるためには、上記各法条によれば、一審被告による音楽CDに対する被告標章(10)の使用が「商品等表示としての使用」(同法2条1項1号及び2号)に当たるほか、被告標章(10)と原告商標が「同一若しくは類似」であり、かつ一審被告による被告標章(10)の使用により一審原告の「営業上の利益が侵害」(同法3条)されることが必要である。
 そこで、以下、上記要件の有無について検討する。
(2)ア 本件音楽CDについての被告標章(10)については、商品等表示としての使用を認めるのが相当である。その理由は、原判決65頁11行〜66頁2行のとおりであるから、これを引用する。
イ また被告標章(10)は、別紙「被告標章目録」記載のように、「ELLEGARDEN」の表示を敢えて2段にし、かつ、そのうち「ELLE」の部分を大きく、「GARDEN」の部分を小さく表示しており、しかも、当該「ELLE」の部分は、両端の「E」の部分が上下に長くなっているものの、全体の印象としては本件ELLE商標に極めて類似したデザインを採用しているものであるから、被告標章(10)の要部は、その余の被告標章と異なり、「ELLE」の部分にあると認められる。
 そうすると、本件ELLE商標と被告標章(10)とは、外観、称呼及び観念において類似するといわざるを得ない。
 そして、このように「ELLE」の部分が突出して目立つような体裁の商品等表示が音楽CDに付されて使用されていた場合、たとえ本件音楽CDのミュージシャンの名称が「ELLEGARDEN/エルレガーデン」であるとか、本件音楽CDを制作した者の名称が別途表示されていたとしても、被告標章(10)に接した需要者は上記ミュージシャンらとの関連性を直ちに理解するものとはいい難く、むしろ当該音楽CDが一審原告又はこれと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤認混同するおそれがあると認められる。
ウ 上記イに述べたところからすれば、一審被告による被告標章(10)の使用により、本件ELLE商標についての権利者である一審原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認めるのが相当である。
エ 以上によれば、音楽CDに関する一審原告の差止請求は、不正競争防止法3条、2条1項1号又は2号のいずれについても、被告標章(10)を付した音楽CDの使用等の差止め及び抹消と、被告ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおける広告表示につき予防請求としての差止めを求める限度で理由がある。
4 結論
 以上によれば、当審における拡張後における一審原告の本訴請求のうち、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関する請求(商標権侵害、不正競争防止法3条〔2条1項1号又は2号〕)についての差止請求部分はすべて理由がなく、音楽CDに関する不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に関する部分は、被告標章(10)を付した音楽CDの使用等の差止め及び抹消と被告ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおける広告表示につき予防請求としての差止めを求める限度で理由がある。
 よって、これと異なる原判決は上記のように変更することとし、仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 森義之
 裁判官 澁谷勝海


(別紙)原告登録商標目録
1(商標) イメージ略
 (指定商品) 第26類(旧々々類)「雑誌、その他本類に属する商品」
 (登録日) 昭和62年8月19日
 (商標登録) 第1978528号
2(商標) イメージ略
(指定商品) 第16類、第20類、第21類、第22類、第24類及び第25類「紙製幼児用おしめ、クッション、座布団、まくら、マットレス、家事用手袋、衣服綿、ハンモック、布団袋、布団綿、布製身の回り品、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、被服」
 (登録日) 昭和39年1月10日
 (商標登録) 第633578号
3(商標) イメージ略
 (指定商品) 第17類(旧々々類)「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」
 (登録日) 平成元年4月28日
 (商標登録) 第2131069号
4(商標) イメージ略
 (指定商品) 第9類、第25類及び第28類「ウエイトベルト、ウエットスーツ、浮袋、運動用保護ヘルメット、エアタンク、水泳用浮き板、レギュレーター、運動用特殊衣服、運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)、乗馬靴、運動用具、釣り具」
 (登録日) 昭和48年4月9日
 (商標登録) 第1008267号
5(商標) イメージ略
 (指定商品) 第24類「織物、メリヤス生地、フェルト及び不織布、オイルクロス、ゴム引防水布、ビニルクロス、ラバークロス、レザークロス、ろ過布、布製身の回り品、ふきん、かや、敷き布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、テーブル掛け、どん帳、シャワーカーテン、遺体覆い、経かたびら、黒白幕、紅白幕、布製ラベル、ビリヤードクロス、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」
 (登録日) 平成9年9月5日
 (商標登録) 第4053601号

(別紙)被告標章目録
 標章(1)〜標章(21) イメージ略

(別紙)被告ウェブサイト目録
1「http://www.ellegarden.jp/」のURLにより特定されるインターネットのウェブページ及び同ドメイン名下において存在するすべてのインターネットウェブページ
2「http://www.official-store.jp/ellegarden」のURLにより特定されるインターネットのウェブページ及び同ドメイン名下において存在するすべてのインターネットウェブページ

本訴請求一覧表
  Tシャツ リストバンド ステッカー タオル 帽子 スコアブック 音楽CD
被告標章(1) ○×            
同 (2) ○× ○○ ○○ ○△ ○○ ○×  
同 (3) ○○            
同 (4) ○○   ○○        
同 (5) ○×   ○○        
同 (6)         ○×    
同 (7) ○○            
同 (8) ○○            
同 (9) ○×            
同 (10)             ○△
同 (11) ○×            
同 (12) ○×            
同 (13) ○×            
同 (14)            
同 (15)            
同 (16)            
同 (17)            
同 (18)            
同 (19)            
同 (20)            
同 (21)            
○:一審当時の請求(○:認容、×:棄却、△:限定認容)
◎:当審における追加請求
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