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【事件名】チャップリン映画の格安DVD事件(2)
【年月日】平成20年2月28日
 知財高裁 平成19年(ネ)第10073号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成18年(ワ)第15552号)
 (平成19年12月12日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 有限会社アートステーション
控訴人 株式会社コスモ・コーディネート
両名訴訟代理人弁護士 角田雅彦
被控訴人 ロイ・エクスポート・カンパニー・エスタブリッシュメント
訴訟代理人弁護士 齋藤浩貴
同 池村聡
同 藤本知哉


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
 原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙映画目録記載1ないし9の各映画(以下、これらの各映画は、その題名(日本名)で示し、総称するときは「本件9作品」という。)の著作権者である被控訴人が、別紙商品目録( )1 記載1ないし9の各DVD商品(以下「本件DVD商品」という。)を複製、販売している控訴人らの行為、及び、同目録(2)記載1ないし4の各DVD商品(以下「本件レンタルDVD商品」という。)を複製、頒布している控訴人有限会社アートステーションの行為が被控訴人の複製権及び頒布権を侵害していると主張して、本件DVD商品及び本件レンタルDVD商品の複製及び頒布の差止めと本件DVD商品及び本件レンタルDVD商品の在庫品等の廃棄、本件DVD商品の頒布等に係る損害賠償金9417万1000円及び遅延損害金の支払を求め、一方、控訴人らが、本件9作品の著作権の存続期間の満了、損害の不発生及び損害額の些少であることを主張している事案である。
 原判決は、本件9作品の著作権の存続期間は満了していないから、控訴人らの行為は被控訴人が有する複製権及び頒布権を侵害するとして、本件DVD商品及び本件レンタルDVD商品の複製及び頒布の差止め、商品等の廃棄、並びに、損害金1053万8000円及び遅延損害金の支払を認容したため、控訴人らは、これを不服として控訴しているものである。
 以下、「控訴人有限会社アートステーション」を「控訴人アートステーション」と、「控訴人株式会社コスモ・コーディネート」を「控訴人コスモ・コーディネート」という。
2 前提となる事実等及び争点
 前提となる事実等及び争点は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)」及び「2 争点」のうち、原判決の7頁16行ないし18行を削除したところに「コまとめ」で始まる6行を加えたものに同一であるから、これを引用し、前提となる事実等については、以下に、加削後のものを摘記する。なお、引用中の「原告」を「被控訴人」と、「被告」を「控訴人」と言い換えることとする。
「(1) 当事者等
ア 被控訴人
 被控訴人は、チャップリンにより、リヒテンシュタイン公国において設立された、チャップリン作品の著作権を保有し、管理している法人である(弁論の全趣旨)。
イ チャップリン
 チャップリンは、英国国民であり、本件9作品の監督等を務めたが、1977年(昭和52年)12月25日に死亡した。
ウ 控訴人ら
 控訴人アートステーションは、映像ソフト、音楽ソフト、ゲームソフト、コンピュータソフト等の企画・製作・販売及び輸出入等を業とする会社であり、控訴人コスモ・コーディネートは、映画、テレビ・ラジオ番組、コンパクト・ディスクの企画・製作・販売・賃借業務及び輸出入業務並びにそれらに対する製作・投資管理等を業とする会社である。
(2) 本件9作品の著作権登録及び著作権の譲渡
ア 「サニーサイド」
 「サニーサイド」は、1919年(大正8年)6月に公開された映画であるが、1946年(昭和21年)7月に、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)において、チャップリンの更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲6)。
 そして、1950年(昭和25年)3月24日付けの、チャップリンとセレブレイテッド・フィルムス・コーポレーション(以下「セレブレイテッド」という。)との間の契約(以下「本件1950年契約」という。)により、「サニーサイド」を含む映画14作品についてチャップリンの有する著作権等の権利がセレブレイテッドに譲渡され(甲1)、さらに、同作品等の著作権は、1954年(昭和29年)1月2日付けのセレブレイテッドによる譲渡証書(甲2、以下「本件1954年契約」という。)によって、再び、チャップリンに譲渡された。
 その後、「サニーサイド」の著作権は、1955年(昭和30年)12月8日付けのチャップリンとロイ・エクスポート・カンパニーS.A.(以下「ロイ・エクスポートSA社」という。)との間の契約(以下「本件1955年契約」という。)により、チャップリンからロイ・エクスポートSA社に譲渡され(甲3)、さらに、1956年(昭和31年)12月13日付けのロイ・エクスポートSA社と被控訴人との間の契約(以下「本件1956年契約」という。)により、ロイ・エクスポートSA社から被控訴人に譲渡された(甲4)。
イ 「偽牧師」
 「偽牧師」は、1923年(大正12年)1月に公開された映画であるが、1950年(昭和25年)2月に、米国においてチャップリンの更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲7)。
 そして、「偽牧師」の著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
ウ 「巴里の女性」
 「巴里の女性」は、1923年(大正12年)10月に公開された映画であり(甲8)、その著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
 「巴里の女性」については、1951年(昭和26年)3月に、米国においてチャップリンの譲受人としてのセレブレイテッドの更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲8)。
エ 「黄金狂時代」
 「黄金狂時代」は、1925年(大正14年)8月に公開された映画であるが、同年10月に、米国においてチャップリンの請求により著作権の登録手続がとられた(甲9)。
 そして、「黄金狂時代」の著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
オ 「街の灯」
 「街の灯」は、1931年(昭和6年)2月に公開された映画であるが、同年3月に、米国においてチャップリンの請求により著作権の登録手続がとられた(甲10)。
 そして、「街の灯」の著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
カ 「モダン・タイムス」
 「モダン・タイムス」は、1936年(昭和11年)2月に公開された映画であるが、同月に、米国においてチャップリンの請求により著作権の登録手続がとられた(甲11)。
 そして、「モダン・タイムス」の著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
キ 「独裁者」
 「独裁者」は、1940年(昭和15年)10月に公開された映画であり(甲12)、その著作権は、「サニーサイド」と同様に、本件1950年契約、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲1〜4)。
 「独裁者」については、上記のように被控訴人に著作権が譲渡された後である1968年(昭和43年)に、米国において被控訴人の更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲12)。
ク 「殺人狂時代」
 「殺人狂時代」は、1947年(昭和22年)10月に公開された映画であり(甲13)、その著作権は、1953年(昭和28年)12月4日付けの、ザ・チャップリン・スタジオ・インクとチャップリンとの間の契約(以下「本件1953年契約」という。)により、チャップリンに譲渡され、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲3〜5)。
 「殺人狂時代」については、上記のように被控訴人に著作権が譲渡された後である1975年(昭和50年)に、米国において被控訴人の更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲13)。
ケ 「ライムライト」
 「ライムライト」は、1952年(昭和27年)10月に公開された映画であり(甲14)、その著作権は、本件1954年契約、本件1955年契約及び本件1956年契約を経て、最終的に、被控訴人に帰属することになった(甲2〜4)。
 「ライムライト」については、上記のように被控訴人に著作権が譲渡された後である1980年(昭和55年)に、米国において被控訴人の更新請求により著作権の更新登録手続がとられた(甲14)。
コ まとめ
 証拠(甲1〜14、甲17の1〜3、甲18、甲19の1〜3、甲20の1、2、甲21)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、1956年(昭和31年)に、本件9作品の全著作権を取得したものであり、被控訴人は、控訴人アートステーションに警告書等を送付した際、証拠資料をもって、被控訴人が本件9作品の全著作権を有することを説明し、控訴人ら代表者の一応の了解を得ていた。
(3) 控訴人らの行為
ア 控訴人らは、被控訴人の許諾を得ずに、本件9作品の原版映像をデジタルリニアテープ(DLT)に複製し、字幕を挿入するなどしてマスターテープを作成し、それを複製して、本件DVD商品を作成し、発売元を控訴人アートステーション、販売元を控訴人コスモ・コーディネートとして、「The Chaplin Collection」というシリーズ名の下に、全国各地の書店等に頒布している(争いがない。なお、甲35〜45、検甲1〜9)。
 なお、本件9作品のうち、「サニーサイド」は、他の2作品とともに、別紙商品目録(1)記載2の「チャップリン短編集Vol.2」に収録され、「偽牧師」は、他の2作品とともに、同目録記載1の「チャップリン短編集Vol.1」に収録されている(甲37、38、検甲1、2)。
イ 控訴人アートステーションは、被控訴人の許諾を得ずに、本件9作品のうち、「巴里の女性」、「街の灯」、「モダン・タイムス」及び「ライムライト」を、本件DVD商品と同様の方法で複製して、本件レンタルDVD商品を作成し、頒布している(甲35写真25〜28)。」
第3 当事者の主張
 次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点についての当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人らの主張
(1) 本件9作品に対する昭和45年法律第48号による改正前の著作権法(以下「旧法」という。)6条の適用
ア 旧法における映画の著作権者の解釈
(ア) 映画は、原作者、脚本家、プロデューサー、監督、カメラマン、俳優、作曲家等の多くの人々が関与し、これらの人々の協力によって作られる総合芸術である。
 映画の著作権者については、従来から、映画の著作物の利用に関しては、映画製作者、すなわち、映画会社、プロダクション等と著作者との契約によって、映画製作者の権利行使に委ねられている実態にあったこと、映画製作者が巨額の製作費を投入し、企業活動として製作・公表する特殊な著作物であること、映画には、著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し、それらすべてに著作権行使を認めるとすると映画の円滑な市場流通を阻害することになるなどの理由から、映画製作者がその著作権を行使し得る地位に立つことがおおむね首肯されていた。
(イ) 映画著作物は、一種の総合著作物であって、団体著作物として、その著作権は団体的に発生する。そしてその具体的帰属を何人にするかは、ある意味で政策問題であり、映画著作権は、著作権法の立法趣旨、並びに、職務上の著作権の理論及び慣習上の取扱いを総合考究して慎重に定められるべきである。
 映画製作に関与する者としては、原作者、脚本家、プロデューサー、監督、カメラマン、俳優、作曲家等の多数の者が各々の担当部分について、それぞれ脚本、写真、美術、音楽などの著作権を有するが、映画それ自体として完成された映画フィルムは総合著作物で、その著作権の帰属は、製作に関与した多数の者の重要な関心事となる。映画著作権は、これら著作権の集合の上に第二次的に存する編集著作権類似のものと解することができるが、たとえそのように解し得るとしても、一般には、映画フィルムそのものは、映画会社、プロダクション等によって製作されるものであり、その経済的基礎も映画会社、プロダクション等にあり、また、その公表も映画会社、プロダクション等の名で行われることから、映画会社、プロダクション等、すなわち、映画製作者が映画著作権者であるという結果になることが多い。
イ 旧法における映画の著作者の解釈
(ア) 旧法下において、映画の著作者はだれであるかに関して、大きく分けて、映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と、映画は映画製作者、すなわち、映画会社、プロダクション等の単独の著作物であるとする考え方に分かれていた。
(イ) 映画が映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方にあっても、映画監督等を法人の機関や雇用契約等の労働契約に基づくものとして、著作権の譲渡推定によらなくても映画製作者に映画著作権が当然帰属とするとする考え方があった。こうした譲渡推定を認めた場合、範囲の不確定な多数の著作者がさまざまな態様で権利を留保する可能性があり、第三者が映画を利用する場合、いかなる者の同意を得れば足りるかを見極めることは困難となって、映画利用の円満化を図る目的を達することができなくなるとの理由で、昭和45年法律第48号により改正された著作権法(以下「昭和45年改正法」という。)29条1項も、映画著作権が映画製作者に当然に帰属するものとしている。
ウ 映画は映画製作者の単独の著作物であるとする考え方を採用すれば、ここにいう映画製作者とは、通常、映画会社又はプロダクション等のことを指すのであるから、映画著作権は団体的に発生するとともに、当該映画が団体の著作物であり、旧法6条の適用を受けると解することが可能であり、かつ、理論的、法技術的な障害もない。
 仮に、原判決のとおり映画が共同著作物であるという考え方を採用したとしても、流通性のある共同著作物であるから、その利用が円満に行われるためには、多数の著作者の権利主張によってその利用が阻害されないことが必須であり、旧法の適用又は法解釈としては、団体著作権に係る旧法6条によって、一律に公表から30年ないし33年間を保護期間とすべきである。
 東京地裁平成18年10月6日判決は、1953年(昭和28年)に公表された映画「シェーン」に関し、同映画の著作権存続期間を「団体の著作名義で発行又は興行した著作物の著作権」として公表後30年(ただし、昭和42年、44年の延長措置により33年間)としているのであって、旧法の適用が問題となった同事件において、「シェーン」の映画監督の死亡による旧法3条の保護期間の規定を適用していない。
エ 加えて、本件においては、団体を著作権者とする表示があり、映画著作者が団体の映画製作者である場合であるから、団体著作物として保護期間を決定すべきである。
オ 原判決は、「発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス」とする旧法3条を原則規定とし、これに対して「官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と規定する旧法6条を例外規定として限定的に解釈しているが、このような解釈は、旧法及び昭和45年改正法の法解釈、旧法以来の映画著作権の考え方の背景等を無視した独断的、特異な解釈であって、失当である。
 本件において、チャップリンは、本件9作品の少なくとも著作者の1人であるが、必ずしも映画製作者ということはできない。ところが、原判決は、チャップリンが本件9作品の少なくとも著作者の1人であるという事実から、直ちに映画製作者であり、著作権を有するとしているのであって、とうてい納得できるものではない。
(2) 被控訴人の損害の不存在等
 本件は、著作権の存続期間満了後のパブリックドメインとなった映画の販売等であるから、損害は発生していないが、仮に原判決の判示するように損害の発生を前提とするとしても、次のとおり、控訴人らには過失がない。
 すなわち、旧法下で、だれが映画の著作権者であるかは、著作権法上最大の難問の一つであるとされており、その考え方をめぐって多数の学説に別れていることは周知のとおりである。原判決は、本件9作品の著作権の帰属や存続期間について、「控訴人らは自ら取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるかについて十分調査する義務を負っていると解するのが相当である」と判示するが、上記のような実情において、十分調査をしたところで、映画著作権者はだれか、団体著作権と考えられるかなどという点について専門家でさえも意見が分かれているのであるから、その中で、控訴人らにとって理論的に首肯でき、妥当な解釈だと考えられる説に依拠して社会生活上の判断をすることは当然である。その判断が原判決の解釈と異なるからといって、直ちに控訴人らに映画の著作権の所在を判断する点に注意義務違反(予見可能性、回避可能性はない)があるとするのは余りにも不可能を強いることになり、不合理かつ酷である(期待可能性も存しない)。
2 被控訴人の主張
(1) 本件9作品は旧法6条の適用を受けることに対して
ア 控訴人らは、旧法下において、映画著作者はだれであるかに関して、大きく分けて、映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と、映画は映画製作者の単独の著作物であるとする考え方に分かれていたとし、後者の考え方に基づき、映画著作権は団体的に発生するとともに、本件9作品が団体の著作物であり、旧法6条の適用を受けると解することが可能であり、かつ、理論的、法技術的な障害もない旨主張する。
 しかし、旧法下においては、映画監督が映画著作物の著作者であったのであり、このことは旧法立法担当者の立法意思や、東京地裁昭和52年2月28日判決(甲47参照)から明らかである。
 また、映画著作物の著作権帰属の問題は、そもそも著作権存続期間の問題とは直接関係しない、全く別個の問題であって、控訴人らは、「著作者」と「著作権者」とを混同している。
イ 控訴人らは、原判決のとおり映画が共同著作物であるとしても、流通性のある共同著作物であるから、その利用が円満に行われるためには、多数の著作者の権利主張によってその利用が阻害されないことが必須であり、旧法の適用又は法解釈としては、団体著作権に係る旧法6条によって、一律に公表から30年ないし33年間を存続期間とすべきである旨主張する。
 しかし、本件9作品には、「著作者」として団体名が表示されている作品はないから、本件9作品の著作権存続期間につき、旧法6条が適用される余地はない。そもそも、控訴人らは、共同著作物の著作権存続期間は著作者のうち最後に死亡した者の死亡時を起算点とする旨定めた旧法3条2項の存在を全く理解しないものである。
ウ 控訴人らは、本件においては、著作権者として団体を示している表示があり、映画著作者が団体の映画製作者である場合であるから、団体著作権に係る旧法6条により存続期間が決定されるべきである旨主張する。
 しかし、本件9作品には、チャップリンが著作者であることを示すクレジット(著作者表示)が存在するから、旧法下における著作権存続期間としては旧法3条が適用されるのであって、旧法6条が適用される余地はない。控訴人らは、著作の名義(著作者の表示)と著作権者の表示を混同しており、失当である。
(2) 被控訴人の損害の不存在等に対して
 被控訴人は、控訴人ら及びその関係会社に対し、再三再四、具体的根拠をもって著作権侵害を警告しており、控訴人らは、自身の行為が著作権侵害行為であることを十分認識した上で、DVD商品を製造販売しているのであるから、控訴人らが無過失であるとはいえない。
 この点、控訴人らは、旧法において学説が対立していた事実等を根拠に無過失を主張するようであるが、旧法下において創作された映画著作物の著作権存続期間につき、昭和45年改正法附則7条の適用によって監督の死亡時を起算点として決定される場合があることは、広く文献等において解説されているものであって、このような事実に照らしても、控訴人らの主張は失当である。
 さらに、控訴人らが主張する学説の対立は、あくまで旧法下に創作された映画著作物の「著作権者」はだれかという問題に関する対立であって、著作権存続期間についての問題に対するそれではない。旧法22条の3は、映画著作物の著作権存続期間につき、旧法3条ないし6条及び9条の規定が適用される旨を明確に規定しているのであって、映画著作物の著作権存続期間につき旧法3条が適用され、著作者の死亡時を起算点として算定されることは、そもそも旧法が予定しているのである。
第4 当裁判所の判断
1 本件の国際裁判管轄及び準拠法に関する当裁判所の認定判断は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「1 本件の国際裁判管轄及び準拠法」のとおりであるから、これを引用する。
2 本件9作品の著作権の存続期間について
(1) 証拠(各作品ごとに摘示する。)によれば、本件9作品について、次の事実が認められる。
ア 「サニーサイド」
 証拠(甲6、15、33、38、乙3、検甲2)によれば、「サニーサイド」は、1919年(大正8年)6月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭、山高帽等の特異なスタイルで自ら主役を演じたものであること、同作品は、同月4日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者を「ファースト・ナショナル・エキシビターズ・サーキット」として登録されたこと、映像の冒頭には、映画の題名として「'SUNNYSIDE' Written and Produced by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作でチャップリンが制作したことが示されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動のほとんどすべてをチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
イ 「偽牧師」
 証拠(甲7、15、33、37、乙3、検甲1)によれば、「偽牧師」は、1923年(大正12年)1月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭、山高帽等の特異なスタイルで自ら主役を演じたものであること、同作品は、同月24日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者も「チャールズ・チャップリン」として登録されたこと、映像の冒頭には、映画の題名として「THE PILGLIM Written and Produced by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作でチャップリンが制作したことが示されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動のほとんどすべてをチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
ウ 「巴里の女性」
 証拠(甲8、15、33、39、乙3、検甲3)によれば、「巴里の女性」は、1923年(大正12年)10月に公開された映画であるが、チャップリンが初めて手掛けた喜劇でない作品であったこと、同作品は、同月17日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者は「リージェント・フィルム・カンパニー」として登録されたこと、映像の冒頭には、映画の題名として「A WOMAN of PARIS A Drama of Fate Written and Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作でチャップリンが監督をしたことが示されており、また、「TO THE PUBLIC」との見出しで、「In order to avoid any misunderstanding、I wish to announce that I do not appear in this picture. It is the first serious drama written and directed by myself. 」とのチャップリンの前口上の表示からすると、チャップリンは出演しないで監督等に専念したことが示されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリンの演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
エ 「黄金狂時代」
 証拠(甲9、15、33、40、乙3、検甲4)によれば、「黄金狂時代」は、1925年(大正14年)8月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭、山高帽等の特異なスタイルで自ら主役を演じたこと、同作品は、同月16日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者も「チャールズ・チャップリン」として登録されたこと、映像の冒頭には、主演者として「CHARLES CHAPLIN GEORGIA HALE・・・」の表示があり、その後に「THE GOLD RUSH」の題名が続き、クレジットには「Written and Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作、主演でチャップリンが監督をしたことが示されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
オ 「街の灯」
 証拠(甲10、15、33、35、41、乙3、検甲5)によれば、「街の灯」は、1931年(昭和6年)2月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭、山高帽等の特異なスタイルで自ら主役を演じ、かつ、セリフを用いず、擬音と音楽のみですべてを表現したものであること、同作品は、同年3月9日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者も「チャールズ・チャップリン」として登録されたこと、映像の冒頭には、映画の題名として「CHARLES CHAPLIN IN CITY LIGHTS」と、クレジットには「A COMEDY ROMANCE IN PANTOMIME WRITTEN AND DIRECTED BY CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作、主演でチャップリンが監督をしており、チャップリンによる映画であることが強調されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの創作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
カ 「モダン・タイムス」
 証拠(甲11、15、33、42、乙3、検甲6)によれば、「モダン・タイムス」は、1936年(昭和11年)2月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭、山高帽等の特異なスタイルで自ら主役を演じたこと、同作品は、同月11日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン」、原著作権請求者も「チャールズ・チャップリン」として登録されたこと、映像の冒頭には、映画の題名として「CHARLES CHAPLIN IN MODERN TIMES」と、クレジットには「Written and Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作、主演でチャップリンが監督をしており、チャップリンによる映画であることが強調されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
キ 「独裁者」
 証拠(甲12、15、33、35、43、乙3、検甲7)によれば、「独裁者」は、1940年(昭和15年)10月に公開されたチャップリン独特の社会風刺の喜劇映画であり、チャップリンは、つけ髭等の特異なスタイルで自ら1人2役の主役を演じたものであること、同作品は、同月31日、米国著作権局において、著作者を「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」、原著作権請求者も「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」として登録されたこと、 映像の冒頭には、 映画の題名として「CHARLES CHAPLIN with PAULETTE GODDARD in THE GREAT DICTATOR」と、 クレジットには「WRITTEN and DIRECTED by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作、主演でチャップリンが監督をしており、チャップリンによる映画であることが強調されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
ク 「殺人狂時代」
 証拠(甲13、15、33、35、44、乙3、検甲8)によれば、「殺人狂時代」は、1947年(昭和22年)10月に公開されたチャップリン独特の社会風刺をこめた殺人の喜劇映画であり、チャップリンが喜劇的な殺人者として主役を演じていること、同作品は、同月24日、米国著作権局において、著作者を「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」、原著作権請求者も「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」として登録されたこと、 映像の冒頭には、 映画の題名として「CHARLES CHAPLIN IN MONSIEUR VERDOUX A Comedy of Murders」と、クレジットには「An Original Story written by CHARLES CHAPLIN Based on an idea by Orson Welles」、「Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、オーソン・ウェルズのアイデア、チャップリンの原作、主演でチャップリンがいわゆる総監督をしており、チャップリンによる映画であることが強調されていること、上記作品は、その原作から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
ケ 「ライムライト」
 証拠(甲13、15、33、35、45、乙3、検甲9)によれば、「ライムライト」は、1952年(昭和27年)10月に公開され、老道化師と若いバレリーナとの交流を描いたチャップリンの哀愁に満ちた喜劇映画であり、老道化師を演じるチャップリンは、劇中劇において、つけ髭に山高帽等の特異なスタイルで老道化師を演じるなどしていること、同作品は、英国で発表されたが、同月23日、米国著作権局において、著作者を「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」、原著作権請求者も「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」として登録されたこと、映像の冒頭には、主演者として「CHARLES CHAPLIN」、映画の題名として「Limelight」との表示があり、クレジットには「ORIGINAL STORY and SCREENPLAY by CHARLES CHAPLIN」、「Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があって、チャップリンの原作、主演でチャップリンがいわゆる総監督をしており、チャップリンによる映画であることが強調されていること、上記作品は、その発案から完成に至るまでの制作活動の大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れていることが認められる。
(2) 本件9作品は、いずれも、昭和45年改正法施行(昭和46年1月1日)の前に公表された著作物であるところ、その後、同法が施行されたが、同法附則7条において、「この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第二章第四節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。」と規定されているので、まず、旧法による著作権の存続期間について検討し、次に、昭和45年改正法第二章第四節の規定による存続期間についての検討をする。
 旧法22条の3は、「活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸、学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス其ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リテハ第三条乃至第六条及第九条ノ規定ヲ適用シ之ヲ欠クモノニ在リテハ第二十三条ノ規定ヲ適用ス」と規定している。同規定によれば、映画著作物についても、文芸、学術又は美術の範囲に属する一般的な著作物と同様に、実際に著作活動をした者を著作者としているものと解される。
 ここに「独創性ヲ有スルモノ」とは、精神面又は技術面で創作性のある映画をいい、「独創性ヲ欠クモノ」とは、わずかな創作性が認められるにすぎないものをいうと解されるところ、上記( )によれ1 ば、本件9作品は、いずれも独創的な作品であって、精神面又は技術面で高い創作性があると認められるから、「独創性ヲ有スルモノ」に該当し、保護期間は、旧法3条ないし6条(9条は期間の計算に関する規定である。)の適用を受けることとなる。
(3) 旧法3条ないし6条の適用について
ア 保護期間に関する旧法3条ないし6条をみると、旧法3条1項は「発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス」と、旧法4条は「作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と、旧法5条本文は「無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」、同条ただし書は「其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ」と、旧法6条は「官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ノ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と規定している。ここに「発行又ハ興行」とは、著作物の公表を意味するものと解される。
 旧法3条の上記規定によれば、著作者の生死により保護期間を定めているから、旧法3条にいう「著作者」は、自然人を意味することが明らかである。また、旧法5条ただし書が「著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキ」は旧法3条の規定に従うとしていることからすると、旧法3条は、自然人である著作者が実名で公表される場合の保護期間を規定したものと解される。
 一方、旧法6条は、上記のとおり、「官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物」と規定しているが、旧法3条が実名義の著作者の公表であること、旧法5条が「無名又ハ変名著作物」、すなわち、無名又は変名で著作者が何者かを識別できない形態での著作物の公表であることに照らせば、旧法6条は、団体の著作名義での著作物の公表の場合の保護期間を規定したものと解するのが相当である。
イ なお、旧法6条の解釈として、同条が法人著作を認めた規定であるとする考え方がある。
 しかし、上記のとおり、旧法6条は、保護期間に関する旧法3条ないし6条のうちの1つであって、旧法があえてこのような位置に法人著作の規定を置いたとは考えにくい。しかも、旧法において、旧法6条のほかに「団体」について触れた規定はない。
 なお、昭和45年改正法15条は、「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物・・・で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」との職務著作に関する規定を置いているところ、同法附則4条は、「新法第十五条及び第十六条の規定は、この法律の施行前に創作された著作物については、適用しない。」と規定している。
 以上によれば、旧法においては、原則に戻って、自然人が著作者となると解するほかなく、旧法6条が法人著作を認めた規定とはいいがたい。
ウ なお、旧法1条は、「文書演述図画建築彫刻模型写真演奏歌唱其ノ他文芸学術若ハ美術(音楽ヲ含ム以下之ニ同ジ)ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス」と規定し、旧法13条1項は、「数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ各著作者ノ共有ニ属ス」と規定しているが、「著作物ノ著作者」としているのみである。元来、著作物とは、自然人である著作者が実際にした著作活動によって創作された文芸、学術、美術等の作品をいい、著作者とは、実際に著作活動をした者をいい、著作とは著作物を創作することをいうのであって、この点は旧法、昭和45年改正法を通じて変わりがないものというべきである。
(4) 本件9作品の著作者について
ア 昭和45年改正法16条は、映画著作物につき、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定しているが、同法附則4条は、「新法第十五条及び第十六条の規定は、この法律の施行前に創作された著作物については、適用しない。」と規定している。
 ところで、一般に、映画の著作物の場合、その製作において、脚本、制作、監督、演出、俳優、撮影、美術、音楽、録音、編集の担当者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であり、その中に、関与した多数の者の個別的な著作物をも包含するものであるが、映画として一つのまとまった作品を創り出しているのであるから、旧法においても、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が映画著作物の著作者であるというべきであり、この者が旧法3条の「著作者」に当たるものと解すべきである。
イ これを本件9作品についてみると、前記(1)認定のとおり、いずれも、チャップリンが原作、脚本、制作ないし監督、演出、主役(「巴里の女性」を除く。)等を1人数役で行っており、上記作品は、その発案(「殺人狂時代」を除く。)から完成に至るまでの制作活動のほとんど又は大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技(「巴里の女性」を除く。)、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れているものであるから、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者はチャップリンであり、チャップリンが旧法3条の「著作者」に当たるものというべきである。
(5) 旧法3条の実名による著作者の公表について
ア 上記( )アないしカのとおり、1 「サニーサイド」、「偽牧師」、「巴里の女性」、「黄金狂時代」、「街の灯」及び「モダン・タイムス」は、米国著作権局の登録においてチャップリンが著作者とされているところ、公表された画像においても、チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されているから、旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認められる。
イ 上記(1)キないしケのとおり、「独裁者」、「殺人狂時代」及び「ライムライト」は、米国著作権局の登録において、それぞれ「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」、「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」、「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」が著作者とされており、法人名義の著作者登録となっているので、旧法6条の適用があるか否かが一応問題となる。
 しかし、上記のとおり、保護期間に関する旧法3条ないし6条において、旧法3条は、自然人である著作者が実名で公表される場合の規定であり、旧法5条が無名又は変名で著作者が何者かを識別できない形態での著作物の公表される場合の規定であることに照らせば、これらと併置された旧法6条の団体の著作名義での著作物の公表は、自然人の実名義での公表、無名又は変名での著作物の公表に当たらない場合をいうものと解するのが相当である。
 そうすると、「独裁者」、「殺人狂時代」及び「ライムライト」は、公表された画像において、チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されている以上、旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認めるのが相当である。
(6) 控訴人らの主張について
ア 控訴人らは、旧法下において、映画の著作者はだれであるかに関して、映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と、映画は映画製作者、すなわち、映画会社、プロダクション等の単独の著作物であるとする考え方に分かれていたことを指摘した上で、映画は映画製作者の単独の著作物であるとする考え方に立てば、映画製作者である団体の著作物であるから旧法6条の適用を受ける旨主張するので、検討する。
(ア) 証拠(乙17、19、21)によれば、次の事実が認められる。
a 昭和37年に文部大臣の諮問機関として設置された著作権制度審議会第4小委員会が昭和40年5月21日に提出した審議結果報告には、映画の著作物の著作者がだれかという問題について、@シナリオの著作者、音楽の著作者、監督、プロデューサー(映画製作の全体を企画・指揮する者)の映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と、A映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方が併記された。
b その後、主査会議の意向を受け、関係者の意見をも参考にして、上記審議結果報告を再検討した結果、昭和41年3月9日の第4小委員会再審議結果報告では、2つの考え方を併記するという従来の結論を改め、@の考え方を採用し、Aの考え方は少数意見として付記するにとどめられた。ただし、シナリオと音楽の著作者については、映画の著作者から除外して原作者として扱うことにし、また、映画著作物の著作者の範囲を特定することをやめて、「映画の全体的形成に創作的に関与した者」とし、だれが著作者になるかは個々の映画ごとの判断に委ねることとした。
c 著作権制度審議会は、上記小委員会の審議結果報告やこれに対して関係団体から提出された意見、専門委員会審議結果報告などを総合的に検討した結果、昭和41年4月20日の文部大臣への答申では、「映画の著作者は、『映画の全体的形成に創作的に関与した者』とする。著作者には、監督、プロデューサー、カメラマン、美術監督などが該当し、俳優も映画の全体的形成に創作的に関与したと認められるものである限り、映画の著作者たり得ると考えるが、著作者を法文上例示することはしないものとする。」(乙21の8頁)と述べ、答申説明書では、「ある著作物については法人等を著作者とすることが合理的である場合もあるが、映画のように関与者個々人の創作的寄与が明白であり、また、製作者と関与者との契約が個々にさまざまの形態をとるものに、画一的に法人著作、職務著作の考え方をとり入れて製作者を映画の著作者そのものであるとすることは、無理であると考えられる。」(乙19の180頁)と説明している。
d 同答申を受けて著作権法案が作成され、第63回国会に提出されて、昭和45年4月28日、昭和45年改正法が成立した。
(イ) 上記認定の事実によれば、昭和45年改正法の施行前、映画の著作物の著作者がだれかという問題について、@シナリオの著作者、音楽の著作者、監督、プロデューサーの映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と、A映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方があったが、昭和40年5月21日に提出された審議結果報告ではAの考え方を少数意見とし、昭和41年3月9日の再審議結果報告ではAが削除され、昭和41年4月20日の文部大臣への答申でも再審議結果報告を踏襲するとともに、答申説明でAを採用することは無理であるとされている。
 したがって、旧法下において、映画の著作者はだれであるかに関して、映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と、映画は原始的に映画製作者の単独の著作物であるとする考え方に分かれていたことは、控訴人らの指摘するとおりであるといえる。
(ウ) しかし、前記( )イのとおり、3 旧法において、「団体」の著作物に関する規定を置いていない以上、原則に戻って、自然人が映画著作物の著作者となるものと解すべきである。
 また、昭和45年改正法29条1項は、「映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」と規定しているが、同法附則5条1項は、「この法律の施行前に創作された新法第二十九条に規定する映画の著作物の著作権の帰属については、なお従前の例による。」としているところである。
(エ) したがって、旧法の解釈として、映画が映画会社、プロダクション等の映画製作者の単独の著作物であるとする考え方を採用することはできないから、控訴人らの上記主張は、採用の限りでない。
イ 控訴人らは、映画がその製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方を採用したとしても、流通性のある共同著作物であるから、その利用が円満に行われるためには、多数の著作者の権利主張によってその利用が阻害されないことが必須であり、旧法の適用又は法解釈としては、団体著作権に係る旧法6条によって、一律に公表から30年ないし33年間を存続期間とすべきである旨主張する。
 しかし、前記( )イのとおり、旧法3 6条は、団体著作を認めた規定といえない上、共同著作物である映画の利用が円満に行われる必要性があるという政策的な問題があるからといって、このような政策論から、直ちに、旧法6条の適用に結び付けるのは、論理の飛躍であり、失当である。
 また、控訴人らは、映画「シェーン」についての東京地裁判決を挙げて、昭和28年(1953年)に公表された同映画について旧法6条を適用し、同映画の映画監督の死亡による保護期間を適用していない旨主張する。
 上記判決において、映画「シェーン」が、米国法人の著作名義をもって公表された著作物であるとして旧法6条を適用されていることは、当裁判所に顕著である。
 しかし、前記(4)イ認定のとおり、本件9作品は、いずれも、チャップリンが映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であって、チャップリンが旧法3条の「著作者」に当たるものというべきであり、しかも、団体の著作名義をもって公表された著作物であるともいえないから、映画「シェーン」の場合とは事案を異にするものであって、これと同列に論ずることはできない。
ウ 控訴人らは、本件においては、著作権者として団体を示している表示があり、映画著作者が団体の映画製作者である場合であるから、団体著作権として存続期間を決定すべきである旨主張する。
 前記(1)によると、「独裁者」、「殺人狂時代」、「ライムライト」は、米国著作権局において、原著作権請求者を、それぞれ、「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」、「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」、「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」として登録されており、また、証拠(乙3、検甲7〜9)によれば、上記各作品の映像においても、それぞれ同様の名義の著作権表示があるが、前記( )5 イのとおり、法人の著作者名義で公表されたといえないから、控訴人らの上記主張は、採用することができない。
エ 控訴人らは、原判決は、チャップリンが本件9作品の少なくとも著作者の1人であるという事実から、直ちに映画製作者であり、著作権を有するとしているのであって、とうてい納得できない旨主張する。
 しかし、前記(4)イのとおり、本件9作品は、いずれも、チャップリンが原作、脚本、制作ないし監督、演出、主役(「巴里の女性」を除く。)等を1人数役で行っており、同作品は、その発案(「殺人狂時代」を除く。)から完成に至るまでの制作活動のほとんど又は大半をチャップリンが行っているところ、その内容においても、チャップリン自身の演技(「巴里の女性」を除く。)、演出等を通じて、チャップリンの思想・感情が顕著に表れているものであり、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者はチャップリンである。
 前記のとおり、一般に、映画の著作物は、その製作に脚本、制作、監督、演出、俳優、撮影、美術、音楽、録音、編集の担当者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であり、本件9作品についても、映画製作の技術的な側面からみると、チャップリン以外にも出演している複数の俳優がおり、また、チャップリン以外の者が撮影、録音等を行っていることが証拠上明らかである(検甲1〜9)。しかし、著作物の本質である思想・感情の表現という側面からみると、本件9作品は、正にチャップリンによる映画というほかなく、この側面においてチャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者がいるとの証拠を見いだすことができない。したがって、チャップリンが、単に本件9作品の著作者の1人にすぎないとはいえない。
 また、仮に、チャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的になにがしかの寄与をした者がいるとしても、前記第2の「2 前提となる事実等」の「(2) 本件9作品の著作権登録及び著作権の譲渡」に摘示のとおり、被控訴人が唯一の著作権者である。
 いずれにせよ、控訴人らの上記主張は、失当である。
(7) 旧法による保護期間
 旧法3条は、著作物の保護期間について、著作者の生存間及びその死後30年間と定めているところ、旧法52条1項は、附則として、「第三条乃至第五条中三十年トアルハ演奏歌唱ノ著作権及第二十二条ノ七ニ規定スル著作権ヲ除ク外当分ノ間三十八年トス」と規定している。また、旧法9条は、期間の計算について、「前六条ノ場合ニ於テ著作権ノ期間ヲ計算スルニハ著作者死亡ノ年又ハ著作物ヲ発行又ハ興行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス」と規定している。
 ところで、チャップリンが1977年(昭和52年)12月25日に死亡したことは前記前提となる事実等の「当事者等」に摘示のとおりであるから、旧法の規定による本件9作品の著作権の存続期間は、昭和53年(1978年)1月1日から起算して38年間、すなわち、平成27年(2015年)12月31日までとなる。
(8) 昭和45年改正法54条1項による存続期間
ア 昭和45年改正法54条1項は、「映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後50年(その著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは、その創作後50年)を経過するまでの間、存続する。」と規定しているところ、本件9作品の公表時期は、前記第2の「2 前提となる事実等」の「(2) 本件9作品の著作権登録及び著作権の譲渡」に摘示のとおりであるから、本件9作品について、同条により算定される存続期間をみると、次のとおりとなる。
 @ 「サニーサイド」 昭和44年(1969年)12月31日
 A 「偽牧師」 昭和48年(1973年)12月31日
 B 「巴里の女性」 昭和48年(1973年)12月31日
 C 「黄金狂時代」 昭和50年(1975年)12月31日
 D 「街の灯」 昭和56年(1981年)12月31日
 E 「モダン・タイムス」 昭和61年(1986年)12月31日
 F 「独裁者」 平成 2年(1990年)12月31日
 G 「殺人狂時代」 平成 9年(1997年)12月31日
 H 「ライムライト」 平成14年(2002年)12月31日
イ 旧法による存続期間と昭和45年改正法54条1項による存続期間とを比較すると、前者の方が長いので、同法附則7条により、本件9作品の著作権の存続期間については、平成27年(2015年)12月31日までとなる。
(9) 平成15年法律第85号による改正後の著作権法(以下「平成15年改正法」という。)54条1項の適用
ア 本件9作品は、平成15年改正法が施行された平成16年1月1日において著作権が存するものであるところ、同法附則2条は、「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定するから、本件9作品については、同法附則2条により、同法54条1項が適用される。
イ 平成15年改正法54条は、「映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかったときは、その創作後七十年)を経過するまでの間、存続する。」と規定するから、本件9作品の著作権の存続期間は次のとおりとなる。
 @ 「サニーサイド」 平成 元年(1989年)12月31日
 A 「偽牧師」 平成 5年(1993年)12月31日
 B 「巴里の女性」 平成 5年(1993年)12月31日
 C 「黄金狂時代」 平成 7年(1995年)12月31日
 D 「街の灯」 平成13年(2001年)12月31日
 E 「モダン・タイムス」 平成18年(2006年)12月31日
 F 「独裁者」 平成22年(2010年)12月31日
 G 「殺人狂時代」 平成29年(2017年)12月31日
 H 「ライムライト」 平成34年(2022年)12月31日
ウ 本件9作品は、上記( )イのと8 おり、昭和45年改正法附則7条の規定により旧法上の存続期間の規定が適用されるところ、平成15年改正法附則3条の「著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって、同法附則第七条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は、旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)による著作権の存続期間の満了する日が新法第五十四条第一項の規定による期間の満了する日後の日であるときは、同項の規定にかかわらず、旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。」の規定によれば、旧法による著作権の存続期間の満了する日が平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日後の日であるものについては、同項の規定にかかわらず、旧法による著作権の存続期間の満了する日までが存続期間となる。
 そこで、本件9作品についてみる。
(ア) 「サニーサイド」、「偽牧師」、「巴里の女性」、「黄金狂時代」、「街の灯」、「モダン・タイムス」及び「独裁者」については、旧法による著作権の存続期間の満了する日(平成27年〔2015年〕12月31日)が、平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日(上記@ないしFのとおり)後の日であるから、同法附則3条により、旧法による著作権の存続期間の満了する日までが存続期間となる。
(イ) 「殺人狂時代」及び「ライムライト」については、旧法による著作権の存続期間の満了する日(平成27年〔2015年〕12月31日)が、平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日(「殺人狂時代」について平成29年〔2017年〕12月31日、「ライムライト」について平成34年〔2022年〕12月31日)よりも前の日となるので、同法附則3条は適用されず、上記イG及びHのとおり、同法54条1項の規定による存続期間の満了する日までが存続期間となる。
(10) そうすると、日本国との平和条約15条(c)及びそれに基づく連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律による戦時加算日数を考慮するまでもなく、本件9作品は、いずれも、その著作権の存続期間が満了していない。
3 被控訴人の損害の不存在等について
(1) 被控訴人の被った損害及び損害額に関する当裁判所の認定判断は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「3 争点2(原告の損害の有無及びその額)について」のとおりであるから、これを引用する。
(2) 控訴人らは、本件では著作権の存続期間満了後のパブリックドメインとなった映画の販売等であるから、損害賠償は発生しない旨主張する。
 しかし、上記のとおり、本件9作品の存続期間はいまだ満了していないから、控訴人らの上記主張は、その前提を欠くものである。
(3) 控訴人らは、同人らの判断が原判決の解釈と異なるからといって、直ちに控訴人らに映画の著作権の所在を判断する点に注意義務違反(予見可能性、回避可能性はない)があるとするのは余りにも不可能を強いることになり、不合理かつ酷である旨主張する。
ア 証拠(甲17の1、2、甲18、甲19の1〜3、甲20の1、2、甲21、甲22の1、2、甲32の1、2)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被控訴人代理人らは、平成16年8月31日、控訴人アートステーション他1名あてに、同人らが発売しようとしているDVDに収録された本件9作品を含む19の映画について、被控訴人が著作権を保有しており、控訴人アートステーション他1名の行為は違法であるとし、併せて、当該映画の著作権の存続期間がいまだ満了していない理由も付け加えて、上記映画の利用行為を中止するように求める警告書を発送し、これが同年9月1日控訴人アートステーションに配達された。
(イ) これに対して、控訴人アートステーションは、被控訴人が著作権を保有していることを明らかにする資料の提出を求めるとともに、控訴人アートステーションとしては、当該映画の著作権はその存続期間を満了していると解釈している旨の通知書を送付した。
(ウ) その後、上記被控訴人代理人らは、控訴人アートステーションあてに、同年9月14日配達の内容証明郵便で再警告書を送付するとともに、これに前後して、被控訴人が本件9作品を含む映画の著作権を保有していることを証明する譲渡証書の写しを送付したところ、控訴人アートステーションは、当該映画の著作権については、「一応、当社としては、Roy Export Company Establishment が、現時点におけるチャップリン映画の著作権保有者ということで、対応させていただきます。」と述べつつ、当該映画の著作権はその存続期間を満了していると解釈している旨の再通知書を送付した。
(エ) さらに、上記被控訴人代理人らは、同月25日配達の控訴人アートステーションあての書留・配達記録郵便でも警告書を送付し、また、平成17年8月29日配達の内容証明郵便で、控訴人コスモ・コーディネートあてにも警告書を送付した。
イ 控訴人アートステーションの上記通知書、再通知書によると、控訴人ら代表者は、当該映画の著作権の存続期間が満了していることを述べているのみで、その根拠が必ずしも明らかではないが、平成19年1月23日付け控訴人ら代表者の陳述書(乙1)に照らすと、旧法が制定された当時に本件9作品のような映画は存在していなかったなどの理由で、旧法の適用があるのはニュース映画、記録映画、カメラマンと演出家兼任でも制作可能な映画に限るとし、本件9作品については昭和45年改正法54条1項が適用され、映画著作物の著作権存続期間について公表後50年と規定されていることを根拠にして、当該映画の著作権存続期間が満了しているものと主張していたものと推認される。
ウ そうすると、控訴人らは、旧法及び昭和45年改正法を独自に解釈し、しかも、被控訴人の警告書における説明に対して、専門家の意見を聞くなどといった格別の調査をした形跡もないのであるから、控訴人らには少なくとも注意義務違反の過失があるものと認められる。
エ 控訴人らは、旧法下で、だれが映画の著作権者であるかは、著作権法上最大の難問の1つであるとされており、その考え方をめぐって多数の学説に別れているところ、このような実情において、十分調査をしたところで原判決のような解釈になるとは限らない旨主張する。
 しかし、上記のとおり、控訴人ら代表者は、被控訴人からの警告書に対して、格別の調査をした形跡がなく、昭和45年改正法附則7条の経過規定を看過して、本件9作品に旧法の適用がなく、直ちに昭和45年改正法54条1項の適用があると誤信し、本件9作品の著作権の存続期間が満了していると主張していたのであって、法解釈の基本において既に誤っていたというほかはない。要するに、控訴人らは、旧法の適用を考慮に入れていないため、だれが映画の著作者であるかという問題意識を持つこともなく、短絡的に本件9作品の著作権の存続期間が満了していると主張していたのである。
 本件9作品が旧法の適用を受けることは昭和45年改正法附則7条から明らかであり、その際、だれを映画の著作権者とするのが適当かという点については考え方が分かれるが、旧法の解釈としては、文芸、学術又は美術の範囲に属する一般的な著作物と同様、実際に著作活動をした者を映画著作物の著作者としているものである。
 したがって、被控訴人の警告を受けた控訴人らが調査を尽くせば、本件9作品の著作権の存続期間が満了しているといえないことを十分に理解し得たということができる。
 そうすると、控訴人らが調査義務を怠ったことは明らかであって、少なくとも過失が成立するものということができ、控訴人らの上記主張は、採用することができない。
4 以上によると、控訴人らの主張はすべて理由がなく、本件9作品の著作権に基づき本件DVD商品及び本件レンタルDVD商品の複製及び頒布の差止め、商品等の廃棄、並びに、損害賠償の一部を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は棄却を免れない。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 宍戸充
 裁判官 柴田義明
 裁判官 澁谷勝海


(別紙)映画目録
1 題名 サニーサイド(原題「SUNNYSIDE」)
 公開 1919年
 監督 チャールズ・チャップリン
2 題名 偽牧師(原題「THE PILGRIM])
 公開 1923年
 監督 チャールズ・チャップリン
3 題名 巴里の女性(原題「A WOMAN OF PARIS」)
 公開 1923年
 監督 チャールズ・チャップリン
4 題名 黄金狂時代(原題「THE GOLD RUSH」)
 公開 1925年
 監督 チャールズ・チャップリン
5 題名 街の灯(原題「CITY LIGHTS」)
 公開 1931年
 監督 チャールズ・チャップリン
6 題名 モダン・タイムス(原題「MODERN TIMES」)
 公開 1936年
 監督 チャールズ・チャップリン
7 題名 独裁者(原題「THE GREAT DICTATOR」)
 公開 1940年
 監督 チャールズ・チャップリン
8 題名 殺人狂時代(原題「MONSIEUR VERDOUX」)
 公開 1947年
 監督 チャールズ・チャップリン
9 題名 ライムライト(原題「LIMELIGHT」)
 公開 1952年
 監督 チャールズ・チャップリン

(別紙)商品目録(1)
1 題名 チャップリン短編集Vol.1
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−008
2 題名 チャップリン短編集Vol.2
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−009
3 題名 巴里の女性
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−001
4 題名 チャップリンの黄金狂時代
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−002
5 題名 街の灯
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−003
6 題名 モダン・タイムス
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−004
7 題名 独裁者
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−005
8 題名 チャップリンの殺人狂時代
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−006
9 題名 ライムライト
 盤種 DVD
 商品番号 CCP−007

(別紙)商品目録(2)
1 題名 A WOMAN of PARIS(巴里の女性)
 盤種 DVD
 商品番号 ART−0013
2 題名 MODERN TIMES(モダン・タイムス)
 盤種 DVD
 商品番号 ART−0015
3 題名 CITY LIGHTS(街の灯)
 盤種 DVD
 商品番号 ART−0014
4 題名 Limelight(ライムライト)
 盤種 DVD
 商品番号 ART−0066
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/