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【事件名】ゲーム機“虹彩占い”侵害事件
【年月日】平成20年2月27日
 東京地裁 平成18年(ワ)第29359号 著作権確認等請求事件
 (平成19年12月26日 口頭弁論終結)

判決
原告 エンドレス株式会社
同訴訟代理人弁護士 大鐘孝
同 田中康友
被告 株式会社テレマン・コミュニケーションズ
同訴訟代理人弁護士 森内憲隆
同 阿久津正志


主文
1 別紙プログラム目録記載のプログラム及び別紙画面等目録記載のイラスト等につき、原告が著作権を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告は、原告に対し、6000万円及びこれに対する平成15年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 訴訟の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が原告に無断で、原告が開発したプログラムを組み込んだ娯楽機器を第三者に利用許諾して対価を得たとして、同プログラム及びこれにより画面表示されるイラストや文章等の著作権が原告に帰属することの確認を求めるとともに、不当利得返還請求権に基づいて、悪意の不当利得金6000万円の返還及びこれに対する受益の日の翌日である平成15年5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息金の支払を求めた事案である。
2 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、音楽著作権の管理、音楽著作物の利用の開発、映像ソフトの開発等を業とする会社である。
イ 被告は、衛星及び電気通信事業、衛星放送システムの開発等を業とする会社である。
 (以上、争いのない事実)
(2) 虹彩識別技術
 眼球の角膜と水晶体の間にある輪状の膜である虹彩の形状には、先天的に個人差があるから、その形状によって、高い精度で個人を識別することができる。
 また、虹彩の状態は、後天的な年齢や疲労度などで日々変化するから、その状態によって、健康状態、ストレスレベル等を知ることができる。
 (甲1〜3)
(3) 本件提訴に至る経過
ア 米アイリテック社等
(ア) 米アイリテック社
 米国デラウェア州法人アイリテック・インコーポレーション(以下「米アイリテック社」という。)は、虹彩識別技術に関して米国特許権を有していた。
 被告代表取締役であるAらは、米アイリテック社に出資していた。
 (争いのない事実、甲1の1)
(イ) アイリテック社
 米アイリテック社は、平成13年4月ころ、被告の関連会社である株式会社アイリテック(以下「アイリテック社」という。)に対し、虹彩識別技術(API等のソフトウェアを含む。)につき実施許諾をし、さらに、アイリテック社は、被告に対し、同技術につき再実施許諾をした。
 (争いのない事実、乙4、8、弁論の全趣旨)
イ 本件協定事業
(ア) 被告は、当初、虹彩識別技術を健康分析などの医療関連分野に応用しようとしたが、医師法等の法令上の問題から医療関連分野に応用することを断念し、平成14年11月、原告らと共に、虹彩識別技術を利用した虹彩占い機器を共同開発してこれを事業化することにした。
(争いのない事実、甲1の1・2、21、乙4、8、弁論の全趣旨)
(イ) そして、被告は、平成15年2月25日、投資顧問会社である株式会社ジーアンドダブリュグループ(以下「GW社」という。)、米アイリテック社、アイリテック社及び原告との間で、次の内容の「共同事業開発協定書」(乙1)を取り交わした(以下、この協定書に基づく合意を「本件協定」といい、本件協定に基づく事業を「本件協定事業」という。以下の記述では、分かりやすさのために、原文中の当事者等の表示を本訴における表示と置き換える。)。
 「第1条(目的)
 本協定書は、GW社、アイリテック社、被告、原告(以下4社という)が、虹彩をスキャニングし、その分析をもとに占いの結果を出力する機械である虹彩占いBOX(以下アイスキャナーという)を、開発・製造・普及させる事業・・・を共同で展開し、成功させることを目的とする。」
 「第3条(ビジネスの役割分担)
 ・・・
 GW社
 アイスキャナー事業の独占的実施
 マーケッティング
 アイスキャナー管理
 アイリテック社
 米アイリテック社の虹彩基本技術及びEFソフトの被告への提供
 アイスキャナー用カメラシステムの改良
 被告の発注に基づくハードウェアの製造委託及び被告への販売
 GW社の要請に基づくハードウェアのメンテナンス
 被告
 システムインテグレーション
 GW社の発注に基づくアイスキャナーの販売
 原告
 アイスキャナー向け占いソフトウェアの開発及び被告への提供
 GW社の要請に基づく普及プロモーション
 GW社の要請に基づくウェブの構築及び維持」
 「第4条(米アイリテック社の役割)
 米アイリテック社はアイリテック社に米アイリテック社アイリテック社間で締結するライセンス契約に基づきアイスキャナーの技術ならびに診断ソフトをアイリテック社に提供し、アイリテック社を支援するものとする。」
 「第5条(知的財産権)
 (1) 各当事者が本協定遂行の過程で取得したノウハウ及び著作権等の知的財産権は5社の共有とする。
 ・・・
 (3) 各当事者は、本条の規定に基づき共有となった知的財産権を、アイスキャナー以外の自己の用途には他の共有者への支払を要することなく自由に使用できる。
 (4) 米アイリテック社が保有するすべての特許権、実用新案権、著作権等の知的財産権ならびに営業機密は米アイリテック社のみに帰属することを承認し、本契約の締結により影響されることはないものとする。」
 「第6条(対価)
 GW社は、GW社の顧客から徴する利用料の12%を知的財産権を共有する他の4社に分配するものとし、被告に米アイリテック社及びアイリテック社の分を含め10%を、原告に2%を支払う。」
 (争いのない事実)
(4) 本件機器
ア 構造
(ア) 機械部
 本件協定事業により開発された虹彩占い機器(以下「本件機器」という。)は、
@虹彩走査(スキャニング)機、
A虹彩識別機、
Bプリント用機器、
Cコイン検出器その他の周辺機械部
 から成るプリクラ類似の業務用娯楽機器である。
(イ) プログラム
 本件機器には、
@虹彩識別に係るプログラム、
A入力されてくる情報を基に必要な分析をした上で所要の情報を出力するAPI(Application Programming Interface)、
BAPIからの出力を利用するアプリケーションである別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」といい、本件プログラムと同種のプログラムを「応用プログラム」ということがある。)、
Cその他の周辺プログラム
 から構成されるプログラムが組み込まれている。
 (以上、争いのない事実)
イ 機能
(ア) 本件機器は、次のように機能する。
@本件機器中のデジタルカメラがゲーム利用者の虹彩を撮影する。
A虹彩識別に係るプログラム及びAPIは、その画像データを分析し、入力された誕生日、性別や、虹彩の形状、状況に基づいて定められている身体の状態、先天的な健康状態、後天的な健康状態、食物の適否、ストレスの度合いなどに従って分類判別を行い、その判別結果を出力する。
B本件プログラムは、APIから送信される分析結果を各種天体や魚になぞらえた分類にあてはめるともに、あらかじめ定められている各判別結果に該当する文章やイラストを画面表示するものであり、そのほか、待受画面を表示したり、説明音声等を流したり、判別結果をプリンターで印刷させたりする。
 (争いのない事実、甲4〜7、弁論の全趣旨)
(イ) 本件プログラムにより画面等に表示されるイラスト及び文章、並びに音声説明は、別紙プログラム目録記載のとおりである。
 (争いのない事実、甲1〜4、10、弁論の全趣旨)
ウ 本件プログラム等の著作者
(ア) 原告代表取締役であるBは、平成15年1月6日ころから同年3月28日ころまでの間に、原告の発意に基づき、職務上、本件機器の分析検討、キャラクター等の制作、プログラムの仕様検討を行い、また、プログラムのフローチャートを作成し、C言語でコーディングをしてソースプログラムを作成し、これをコンパイルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバックを行う等して、本件プログラムを完成させ、別紙画面等目録記載のイラスト等(以下「本件イラスト等」という。)を著作した。
 (甲6、7、13、弁論の全趣旨)
(イ) よって、原告が、職務著作により、本件プログラム及び本件イラスト等の著作者となる。
(5) 本件協定の破棄等
ア 本件機器の展示
(ア) 平成15年3月30日ころまでに、本件協定に基づき、本件プログラムを組み込んだ本件機器6台程度が製作され、被告に納品された。
 (争いのない事実、甲20〜22、乙8)
(イ) 被告は、平成15年4月、本件機器の展示及び実演を開始し、後記メディア社に対しても本件機器の展示及び実演を行い、他社に対する展示及び実演を平成16年1月ころまで継続した。
 (争いのない事実、甲20、22、23、弁論の全趣旨)
イ 本件協定の合意解約
 GW社は、業績悪化から、本件機器の独占的販売権の代価の支払をすることができなくなった。
 そのため、平成15年5月21日、GW社、米アイリテック社、アイリテック社、被告及び原告は、本件協定を合意解約する旨の同年4月23日付け覚書を取り交わした。
 (争いのない事実、甲21、乙2)
(6) メディア社との契約
ア 本件基本合意
 平成15年4月30日、被告と株式会社メディア・リンクス(以下「メディア社」という。)との間で、次の内容の「販売権に関する基本合意書」(乙3)が取り交わされた(以下、この合意書を「本件基本合意書」といい、これに基づく合意を「本件基本合意」という。)。
 「第1条
 本契約においてアイフォーチュンとは人の虹彩をスキャニングし、その分析を基に Application Programming Interface で提供される情報をベースに占う目的の結果をプリントアウトする機器である占い製品(以下本商品という)とする。」
 「第2条
 本商品の独占的販売権を有する被告はメディア社に対し日本において本商品を販売する権利を与える。」
 「第3条
 メディア社は前条の対価として被告に対し1億2千万円を平成15年5月8日までに被告の指定する銀行口座に振込み支払うものとする。」
 「第4条
 メディア社及び被告は本商品の価格、ロイヤルティおよび支払条件等について別途協議の上販売代理店契約を締結する。」
 「第8条
 被告は本商品の提供にあたり本商品の Application Programming Interface(以下APIという)の使用権を許諾し、メディア社はAPIに基づき本商品の占い用ソフトウェアを改変または開発することができる。改変または開発された成果物およびその知的財産権はメディア社、被告両社の共有物とするものとする。」
 「第9条(製造権)
 本商品に係わる機器の製造権は被告に帰属するものとする。」
 「第10条
 第2条の定めにかかわらず、メディア社は本商品の独占的販売権を取得することを希望しており、被告はその優先的交渉をする権利をメディア社に与える。本商品の独占的販売権の対価は3億6千万円とする。
 2.前項により被告がメディア社に対し優先的交渉権を付与する期間は本契約締結日より平成15年5月31日までとする。なお、メディア社被告協議の上優先交渉期間を延長することができる。
 ・・・
 4.メディア社は被告に対し、優先交渉権の付与に関する保証金として、金5千万円を預託するものとし、平成15年5月8日までに、被告の指定する口座に振込み支払うものとする。
 5.前項の金員はメディア社被告間における本商品の独占的販売権の契約締結時において、メディア社が被告に支払うべき同契約に基づく対価に充当されるものとし、メディア社は独占販売権の対価の残金1億9千万円を被告に支払うものとする。
 6.メディア社被告間において本商品に関する独占的販売契約が締結されないことが確定した場合には、メディア社は保証金より1千万円を優先交渉権の対価として被告に支払い、被告はメディア社に対し残りの保証金4千万円を一括して返還するものとする。」
 (争いのない事実)
イ メディア社の支払 平成15年5月2日、メディア社は、被告に対し、本件基本合意書第3条の国内販売権1億2000万円及び同第10条4項の独占的販売権の優先交渉権に係る保証金5000万円の合計1億7000万円を支払った。
 (争いのない事実、甲11、乙8)
ウ 本件機器の貸与
(ア) 同年5月ころ、被告は、メディア社に対し、メディア社内での展示用サンプルとして、本件プログラムが組み込まれた本件機器1台を貸与した。
(イ) 同年6月、メディア社は、被告に対し、上記本件機器1台を返還した。
 (以上、甲20、21、乙8)
エ 本件独占的販売代理店契約
 同年7月10日、被告とメディア社は、次の内容の「販売代理店契約」と題する契約書(乙4)を取り交わした(以下、この契約書を「本件独占的販売代理店契約書」といい、これに基づく合意を「本件独占的販売代理店契約」という。)。
 「第1条(販売権)
 ・・・
 2.被告は、メディア社を日本におけるアイフォーチュン(以下本製品という)の独占的販売業者に指定する。本製品は別紙記載のとおりのものとする(引用者注・別紙の添付は、実際はされなかった。)。
 ・・・」
 「第4条(注文)
 被告はメディア社に本製品を売渡すものとする。メディア社は被告に対し所定の注文書により随時発注するものとする。
 ・・・」
 「第5条(価格)
 本製品の価格は、随時被告が発行する価格表に記載されたところによる。・・・」
 「第6条(最低購入量)
 ・・・
 4.メディア社がいずれかの年度において、本条に規定する最低保障額を達成しなかった場合、被告はメディア社に通知することにより、本契約により付与された独占的販売権を非独占的なものに変更することができる。なお、被告が非独占の販売権に変更した場合にもメディア社が被告に支払った独占権の対価についてはメディア社はその返還を被告に請求しないものとする。」
 「第11条(所有権の移転)
 本製品の所有権はメディア社がその売買代金の支払を完了したときに移転する。」
 「第15条(ロイヤルティ)
 メディア社は本製品を一般ユーザーが使用することにより販売先より使用料を取得するときはその取得額の25%のロイヤルティを被告に支払うものとする。
 ・・・」
 「第22条(知的財産権)
 ・・・
 2.メディア社は本製品に使用されているすべての知的財産権はもっぱら被告又は被告が実施許諾を受けているライセンサーに属することを確認し、これらをいかなる方法によるとを問わず争わないものとする。
 ・・・」
 「第24条(API)
 メディア社は被告から開示されたアプリケーション・プログラミング・インターフェイスに基づき本製品のソフトウェアーを改変することができる。
 2.メディア社は前項に基づき改変されたソフトウェアーにつき知的財産権を取得しようとするときは予め被告と協議するものとし、知的財産権を取得するときはメディア社被告共有とし、取得に係る費用はメディア社被告折半とする。但し、APIの変更を伴った改良はアイリテック社のライセンサーである米アイリテック社に帰属する。」
 (争いのない事実、乙4、弁論の全趣旨)
オ メディア社の撤退
 メディア社が独占的販売権の残金1億9000万円を支払うことが困難となったため、被告とメディア社は、平成15年8月、本件基本合意及び本件独占的販売代理店契約を合意解約した。
 (甲20、乙8、弁論の全趣旨)
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件プログラム等の著作物性)
ア 原告
(ア) 本件プログラム
 本件プログラムは、思想又は感情を創作的に表現したプログラムの著作物として保護される(著作権法2条1項1号、2条1項10号の2、10条1項9号)。
(イ) 本件イラスト等
 本件イラスト等は、思想又は感情を創作的に表現した絵画又は言語の著作物として保護される(著作権法2条1項1号、10条1項1号、4号)。
イ 被告
 原告の主張は否認する。
(2) 争点(2)(受益及び損失の有無)
ア 原告
(ア) 受益
a(a) 被告がメディア社から受領した1億7000万円は、本件プログラム及び本件イラスト等を含む本件機器全体について独占的販売権を設定したことによって得られたものである。
(b) したがって、本件機器における本件プログラム及び本件イラスト等の寄与割合について、被告に受益がある。
b(a) 後記被告の主張(ア)bないしdは否認する。
(b)@ 虹彩に関する技術の我が国における特許出願件数が、平成19年6月11日現在1443件にも達しているとおり(甲19)、虹彩の撮像は他のデジタルカメラでも可能である上、虹彩識別技術については、既に沖電気工業や松下電器が商品化している(甲1の1・2)。
A ゲーム等の娯楽機器においては、娯楽性、独創性、斬新さ等のゲームソフトの内容が重要である。
B したがって、メディア社が本件機器の独占的販売権を取得するに当たって注目したのは、本件プログラム及び本件イラスト等である。
(c) 本件基本合意書にも本件独占的販売代理店契約書にも、本件プログラム及び本件イラスト等を独占的販売権の対象から除外する旨の記載はない。
(イ) 損失
 被告は、本件プログラム及び本件イラスト等の利用を無権限で許諾することによって受益をしたものであるから、損失の要件は不要と解するか、又は原告に同額の損失があると擬制すべきである。
イ 被告
(ア) 受益
a 原告の主張(ア)aは否認する。
 被告は、本件基本合意及び本件独占的販売代理店契約において、本件プログラム及び本件イラスト等を独占的販売権の対象としたことはない。
b 本件プログラムは、専門知識を有する業者であれば、さほど労力や費用をかけずに製作することができ、本件イラスト等も、専門知識を有する業者であれば、どこでも製作可能である。本件機器を商品化する上で、本件プログラム及び本件イラスト等が不可欠であるという事情は、全くなかった。
c 本件イラスト等は、取引先から酷評された。そのため、被告は、新たなイラスト等を備えたプログラムを作成する予定であり、メディア社も、その事業の展開に当たり、本件プログラム及び本件イラスト等を使用するつもりはなかった。
d そのため、本件基本合意書においても、第1条において、「本商品」を「人の虹彩をスキャニングし、その分析を基に Application Programming Interface で提供される情報をベースに占う目的の結果をプリントアウトする機器である占い製品」と定義せざるを得なかった。
(イ) 損失
 同(イ)は否認する。
(3) 因果関係、法律上の原因がないこと及び悪意
ア 原告
(ア) 因果関係
 原告の損失と被告の利得との間には、因果関係がある。
(イ) 法律上の原因がないこと
 被告は、本件プログラム及び本件イラスト等につき何らの権利を有していなかったから、被告の利得は、法律上の原因に基づかないものである。
(ウ) 悪意
 被告は、本件プログラム及び本件イラスト等について自らが権限を有していないことを知っていた。
イ 被告
 原告の主張は、いずれも否認する。
(4) 受益及び損失の額
ア 原告
(ア) 本件機器が所定の機能を発現するためには、本件プログラム及び本件イラスト等、虹彩識別技術並びにハードウェアの3つが必要である。この3つのうち、本件プログラム及び本件イラスト等が、娯楽機器である本件機器のエンターテイメント性を決定付ける最も重要な構成要素である。
(イ) そうすると、本件機器における本件プログラム及び本件イラスト等の寄与度を50%と認めるのが相当である。
(ウ) したがって、受益及び損失の額は、8500万円を下回るものではない。
 1億7000万円×0.5=8500万円
イ 被告
 原告の主張は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件プログラム等の著作物性)について
(1) 著作物性
 前提事実(4)によれば、原告の主張(ア)及び(イ)の事実が認められ、本件プログラム及び本件イラスト等は、著作物として保護される。
(2) まとめ
 よって、著作権確認請求(主文第1項)は、理由がある。
2 争点(2)(受益及び損失の有無)について
(1) 独占的販売権の対象
ア まとめ
 被告とメディア社との間においては、本件基本合意を経て、本件独占的販売代理店契約が締結されたものであるが(前提事実(6)ア及びエ)、被告がメディア社に供給することを約束した製品(本件独占的販売代理店契約書第1条2項)が本件プログラムを組み込んだものであったことを認めるに足りる証拠はない。
イ 本件独占的販売代理店契約等
(ア) 本件独占的販売代理店契約
a 被告がメディア社に供給することを約束した製品は、本件独占的販売代理店契約書第1条2項において、「・・・本製品は別紙記載のとおりのものとする。」と特定されているが、別紙の添付は、実際はされなかったものである(前提事実(6)エ)。
b したがって、本件独占的販売代理店契約の定めから、被告がメディア社に供給することを約束した製品は本件プログラムが組み込まれたものであると認めることはできない。
(イ) 本件基本合意
a 被告がメディア社に供給することを約束した製品は、本件基本合意書第1条において、「本契約においてアイフォーチュンとは人の虹彩をスキャニングし、その分析を基に Application Programming Interface で提供される情報をベースに占う目的の結果をプリントアウトする機器である占い製品(以下本商品という)とする。」と特定されている(前提事実(6)ア)。
b したがって、本件基本合意の定めからも、被告がメディア社に供給することを約束した製品は本件プログラムが組み込まれたものであると認めることはできない。
(ウ) メディア社による改変の許諾
a 本件基本合意書第8 条は、「被告は本商品の提供にあたり本商品の Application Programming Interface・・・の使用権を許諾し、メディア社はAPIに基づき本商品の占い用ソフトウェアを改変または開発することができる。改変または開発された成果物およびその知的財産権はメディア社、被告両社の共有物とするものとする。」と定めている(前提事実(6)ア)。
b さらに、本件独占的販売代理店契約書第24条は、「(1項)メディア社は被告から開示されたアプリケーション・プログラミング・インターフェイスに基づき本製品のソフトウェアーを改変することができる。」「(2項)メディア社は前項に基づき改変されたソフトウェアーにつき知的財産権を取得しようとするときは予め被告と協議するものとし、知的財産権を取得するときはメディア社被告共有とし、取得に係る費用はメディア社被告折半とする。但し、APIの変更を伴った改良はアイリテック社のライセンサーである米アイリテック社に帰属する。」と定めている(前提事実(6)エ)。
c これらの定めによれば、被告がメディア社に供給する製品には、@APIとA本件プログラムと同様の機能を有する応用プログラムが組み入れられ、被告は、メディア社に対し、@APIとA応用プログラムのいずれか又は双方の改変を許諾したことが認められる。しかしながら、これらの契約文言から、被告がメディア社に供給する製品に組み込まれたA応用プログラムが本件プログラムであったと認めることはできない。
(エ) 除外の定めの不存在
 原告は、本件基本合意書にも本件独占的販売代理店契約書にも、本件プログラム及び本件イラスト等を独占的販売権の対象から除外する旨の記載はないから、本件独占的販売代理店契約上、本件プログラム等が独占的販売権の対象に含まれていたと解すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件基本合意及び本件独占的販売代理店契約における契約文言から、被告がメディア社に供給することを約束した製品は本件プログラムが組み込まれたものであると認めることはできないことは、上記(ア)及び(イ)のとおりである。
 さらに、その他の事情(後記ウ)を考慮しても、本件プログラム等を独占的販売権の対象から除外する旨の明確な記載はないことから、原告主張のように解することはできない。
 よって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ その他の事情
(ア) 本件プログラムの存在
a 平成15年2月にGW社を中心として本件機器を使用したゲーム事業の実施を目指した本件協定が締結され、同年3月には、原告が本件プログラムを完成させていたものである(前提事実(3)イ、(5)ア)。そして、被告は、平成15年4月、本件機器の展示及び実演を開始し、メディア社に対しても本件機器の展示及び実演を行ったものである(同(5)ア)。
b これらの事実は、本件協定事業の解約後に新たな提携先との契約に当たり、既に完成したプログラムが存在するのであれば、それを使用するのが合理的であるとの意味で、一応原告に有利な事情であると認められる。
(イ) 本件協定の合意解約
a 本件協定は、平成15年5月21日までに合意解約されている(前提事実(5)イ)。
 この事実は、本件協定が合意解約された以上、被告がその後に本件プログラムを利用するか、他のプログラムを開発するか自由であるという意味で、被告に有利な事情である。
b なお、被告はメディア社との本件独占的販売代理店契約の締結前に、本件協定の合意解約を急いでいたことがうかがわれないではないが(甲21「5社協定破棄について」参照)、この事実は、被告が原告に隠れて本件プログラムを利用しようとしていたことを一義的にうかがわせるものではなく、被告が原告との関係を解消して、新たな応用プログラムを製作することを目指していたことをうかがわせるものでもあるから、上記解約を急いだ事実は、原告に有利な事情であるとはいえない。
(ウ) 本件プログラムの評価
 原告は、虹彩識別技術は既に他社で商品化されているし、娯楽機器においては娯楽性、斬新さ等が重要であるから、メディア社が注目したのは本件プログラム及び本件イラスト等である旨主張する。
 しかしながら、@前記イ(ウ)のとおり、メディア社による改変が許諾されていること、Aその難易度については、原告、被告の立場の相違による違いがあるとしても、本件プログラムに相当する応用プログラムを別途製作することは可能であること、B被告は、取引先から酷評されていたため、新たなイラスト等を備えたプログラムを作成する予定であった旨主張しているところ、本件イラスト等(前提事実(4)ウ)については、そのような評価も十分可能であると認められることからすると、原告の上記主張は、採用することができない。
(エ) 実際に供給された製品
 被告が本件独占的販売代理店契約に基づき実際にメディア社に供給した製品があれば、本件プログラムが独占的販売権の対象に含まれていたかは、容易に判断することができるところ、平成15年8月の本件独占的販売代理店契約の合意解約(前提事実(6)オ)により、同契約に基づく製品の供給がされることはなかったものである。
(オ) まとめ
 したがって、メディア社との契約に至る経緯等のその他の事情にも、本件プログラム等が独占的販売権の対象に含まれていたことをうかがわせる事情はない。
(2) 受益の有無
 上記(1)に説示のとおり、本件プログラム等が独占的販売権の対象に含まれていたことを認めるに足りる証拠はないから、被告の受益の点の立証はないといわなければならない。
 よって、不当利得に基づく返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
3 結論
 よって、原告の著作権確認請求は理由があるから認容するが、不当利得返還請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を適用し、確認請求について仮執行宣言を付すのは相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 中村恭
 裁判官 宮崎雅子


(別紙)プログラム目録
 株式会社ジーアンドダブリュグループ、米国デラウェア州法人アイリテック・インコーポレーション、株式会社アイリテック、被告及び原告間の平成15年2月25日付け「共同事業開発協定書」に基づき、原告が作成した、下記イラスト、文章及び音声をアウトプットするコンピュータプログラム。
 記
1 添付図面1の待ち受け画面のとおり連続する影像を構成するイラスト
2 添付図面2のクレジット画面のとおりのイラストとこれに係る音声説明
3 添付図面3の操作画面のとおりのイラスト並びに枠内に表示されている文字による説明文及びこれに係る音声説明
4 添付図面4の「ベースシート」(男女)、「先天天体キャラクター(I−1〜I−19)」(男女)、「後天魚キャラクター(A−1〜A−36)」(男女)、「後天魚キャラクター追加分(A−37〜A−43)」(男女)、「ストレスレベル(S)(S−1〜S−11)」(男女)、「臓器(0)テキスト画像(0−1〜0−26)」、「臓器(0)画像(0−27〜0−32)」及び「フード画像(F−1〜F−12)」(男女)、「フード画像(F−13〜F−22)」(男女)を組み合わせて表現する判定結果画面を構成する出力ブロックシートのイラスト、文章
 以上

(別紙)画面等目録
1 添付図面1の待ち受け画面のとおり連続する影像を構成するイラスト
2 添付図面2のクレジット画面のとおりのイラスト
3 添付図面3の操作画面のとおりのイラスト並びに枠内に表示されている文字による説明文(同一の音声による説明を含む。)
4 添付図面4の次のとおりのイラスト及び文章
(1) 「ベースシート男性」のイラスト及び文章
(2) 「ベースシート女性」のイラスト及び文章
(3) 「先天天体キャラクター(I−1〜I−19)女性」のI−1からI−19までの各イラスト及び各文章
(4) 「先天天体キャラクター(I−1〜I−19)男性」のI−1からI−19までの各イラスト及び各文章
(5) 「後天魚キャラクター(A−1〜A−36)女性」のA−1からA−36までの各イラスト及び各文章
(6) 「後天魚キャラクター(A−1〜A−36)男性」のA−1からA−36までの各イラスト及び各文章
(7) 「後天魚キャラクター追加分(A−37〜A−43 男女)」の男性A−37から同A−43までの各イラスト及び各文章
(8) 「後天魚キャラクター追加分(A−37〜A−43 男女)」の女性A−37から同A−43までの各イラスト及び各文章
(9) 「ストレスレベル(S)(S−1〜S−11)男性女性」の男性S−1から同S−11までの各イラスト及び各文章
(10) 「ストレスレベル(S)(S−1〜S−11)男性女性」の女性S−1から同S−11までの各イラスト及び各文章
(11) 「臓器(0)テキスト画像(0−1〜0−26)」の0−1から0−26までの各文章
(12) 「臓器(0)画像(0−27〜0−32)」の0−27から0−32までの各イラスト及び各文章
(13) 「フード画像(F−1〜F−12)」のF(女性)F−1から同F−12までの各イラスト及び各文章
(14) 「フード画像(F−1〜F−12)」のM(男性)F−1から同F−12までの各イラスト及び各文章
(15) 「フード画像(F−13〜F−22)」のF(女性)F−13から同F−22までの各イラスト及び各文章
(16) 「フード画像(F−13〜F−22)」のM(男性)F−13から同F−22までの各イラスト及び各文章
 以上
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