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【事件名】商標“clear”侵害事件
【年月日】平成20年2月7日
 大阪地裁 平成19年(ワ)第3024号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年12月10日)

判決
原告 ヴイグ株式会社
訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 福田あや子
同 井崎康孝
同 辻村和彦
同 井口喜久治
同 川端さとみ
同 森本純
同 山下英久
訴訟代理人弁理士 田中秀佳
同 川本真由美
補佐人弁理士 江原省吾
被告 株式会社フランドル
訴訟代理人弁護士 大川宏
同 福山洋子
訴訟代理人弁理士 林信之
補佐人弁理士 安彦元


主文
1 被告は、洋服、コート、セーター類、服飾雑貨、帽子、身飾品、靴、ハンドバッグ、袋物の商品広告に別紙標章目録記載1の標章を付して展示若しくは頒布してはならない。
2 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成19年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを100分し、その98を原告の、その余を被告の各負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、洋服、コート、セーター類、服飾雑貨、帽子、身飾品、靴、ハンドバッグ、袋物に別紙標章目録記載の各標章を付し、又は同標章を付した商品を販売し、販売のために展示してはならない。
2 被告は、洋服、コート、セーター類、服飾雑貨、帽子、身飾品、靴、ハンドバッグ、袋物の包装、商品宣伝用のカタログ、商品パンフレット、雑誌に別紙標章目録記載の各標章を付して展示若しくは頒布し、又は上記商品に関する広告を電磁的方法によって行ってはならない。
3 被告は、その店舗及び被告の事務所、倉庫に存在する別紙標章目録記載の標章を付した商品及びこれに関する宣伝用のカタログ、パンフレット、ホームページ等から別紙標章目録記載の各標章を抹消するとともに、同商品を販売する店舗の看板その他営業表示物件から同標章を抹消せよ。
4 被告は、原告に対し、1億5000万円及びこれに対する平成19年3月27日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、後記商標権を有して、後記登録商標を自己の商品等表示として使用する原告が、@被告が使用する後記被告標章は原告の登録商標と類似する(商標権侵害)、A後記登録商標は原告の商品等表示として周知性を有するところ、被告が使用する後記被告標章は原告の登録商標と類似し、原告の商品と誤認混同を生じさせるおそれがある(不正競争防止法2条1項1号)と主張して、被告に対し、(1)商標法36条1項又は不正競争防止法3条1項に基づき後記被告標章を洋服等に付すること等の差止め(請求の趣旨1項及び2項)、A商標法36条2項又は不正競争防止法3条2項に基づき後記標章を付した商品等からの後記被告標章の抹消等(請求の趣旨3項)、B商標権侵害の不法行為又は不正競争防止法4条に基づく1億5000万円の損害賠償及びこれに対する平成19年3月27日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である(商標権侵害に基づく請求と不正競争防止法に基づく請求は、選択的併合の関係にある。)。
1 前提事実(争いがない。)
(1) 原告は、別紙原告商標権目録記載1及び2の各商標権を有している(以下これらの各商標権を併せて「本件原告商標権」という。また、これらの各商標権に係る各登録商標を併せて「本件原告商標」という。また、本件原告商標を付した商品を「原告ブランド」又は「原告ブランドの商品」という。)。
(2) 被告は、平成16年秋以降、洋服、コート、セーター類、服飾雑貨、身飾品、ハンドバッグ、袋物に別紙標章目録記載2及び3の各標章(以下、別紙標章目録1ないし5記載の各標章を「被告標章1」などといい、それらを総称して「被告標章」という。)を付して販売している(乙100の15など。被告標章を使用した被告の商品を「被告ブランド」又は「被告ブランドの商品」という。)。
2 争点
(1) 商標権侵害関係
ア 被告は被告標章1、4及び5を使用しているか。
イ 被告標章は本件原告商標と類似するか。
(2) 不正競争防止法関係
ア 本件原告商標は原告の周知な商品等表示か。
イ 被告は被告標章1、4及び5を使用しているか。
ウ 被告標章は本件原告商標と類似するか。
エ 被告標章の使用により混同のおそれがあるか。
(3) 両請求共通
 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(被告標章1、4及び5の使用)について
【原告の主張】
 被告は、 ファッション雑誌「J J 」( 光文社発行。以下「J J 誌」という。)上の被告ブランドの広告において、被告標章1、4及び5を使用した。この点について被告は、それらの被告標章はJJ誌側が被告の関与なく掲載したものであると主張する。しかし、これらはいずれも編集タイアップ広告であり、基本的に被告の関与のもとで作成されたものであることは明らかである。また、仮にこれらが編集ページであり基本的には雑誌社の編集権限に委ねられていたとしても、被告は、その内容を事前に確認し、ロゴの形状を指示し得る立場にあったのであるから、JJ誌にこれらの標章が掲載されたことは、被告自身が使用したものにほかならないか、少なくとも被告自身による使用と同視し得るものである。
 また被告は、被告標章1、4及び5は完全なロゴでないと主張する。しかし、被告標章1及び4のロゴと「Princess Goes To Office」のロゴは、外観上、文字の大きさや種類の差異、つる草模様状の線の存在によって明確に区別される上、被告標章1及び4は、「Princess Goes To Office」のロゴと異なり、被告ブランドの広告のために使用されている点で機能的にも異なる。仮に被告標章1及び4が「Princess Goes To Office」と一体の標章であると考えたとしても、後記争点(1)イのとおり本件原告商標が著名又は周知である以上、これらの要部が「CLEAR」の部分であることに変わりはない。また、被告標章5の左又は右上に付された「JJ×」のロゴは、JJが独自に使用しているものであり、JJの読者が見れば、被告標章5とは別個の表示であるとすぐに分かるものである。したがって、被告の上記主張は失当である。
【被告の主張】
 被告が被告標章1、4及び5を使用した事実はない。
 被告標章1、4及び5は、いずれもJJ誌において、被告ブランドの特集記事の体裁をとった有料タイアップ広告の中で掲載されたものである。このような特集記事の体裁のタイアップ広告においては、ブランドのロゴ態様を含め、内容をどのように構成するかの主導権は全面的に雑誌社にあり、アパレルメーカーは洋服等の提供ができるにすぎないのが慣例であり、上記タイアップ広告でも同様である。
 JJ誌は、上記タイアップ広告を、平成16年ころから若い女性のファッションの主流となったいわゆる「東京エレガンス系」のイメージに沿って、同誌が独自に企画した「プリ通(プリンセス通勤の略)」をコンセプトとして構成しており、そのため被告標章1及び4は、その下に中央飾りラインとこの特集標題の英訳たる「Princess Goes To Office」をその下側に付する形が完全なロゴであり、被告標章5は、その左側もしくは右端上に、「JJ×」を付する形が完全なロゴであって、いずれも正確な摘示の方法ではない。
2 争点(1)イ(類似性)について
【原告の主張】
(1) 本件原告商標の周知性について
 原告は、平成12年3月、大阪心斎橋に「clear」を商号とする店舗を開店して、原告ブランドの商品の販売を始めたが、神戸の上品なテイストのブランドを目指し、オリジナル性を追求するとともに、10代から30代の女性のニーズを徹底的に分析した上で良質な商品を提供してきた。そして、原告ブランドは、ほどなく各種の人気女性ファッション誌に毎号のように商品が掲載されるようになり、関西を代表する人気ブランドとして10代後半から30代前半の女性を中心に全国的に大人気となった。このように本件原告商標は、少なくとも被告が被告標章の使用を開始した平成16年ころには、全国の消費者の間で10代後半から30代前半の女性に絶大な人気を誇る原告ブランドを表示するものとして広く知られるようになった。
 原告ブランドの周知性を基礎付ける事情は、具体的には以下のとおりである。
ア 原告ブランドに関する宣伝・広告についての事情
(ア) 雑誌への掲載
 平成12年夏、原告ブランドが10代から30代の若い女性を読者層とするファッション雑誌であるJJ誌(光文社発行、発行部数約36万部、平成14年時70万部。)や「CanCam」(株式会社小学館発行、同年の発行部数71万部。以下「CanCam誌」という。)に取り上げられて大反響を呼び、問合せの電話が殺到するなどして大人気となった。その後は、上記ファッション誌のみならず、「Ray」(株式会社主婦の友社発行、現在発行部数24万部。以下「Ray誌」という。)、「ViVi」(株式会社講談社発行、現在発行部数45万部。以下「ViVi誌」という。)、「CLASSY」(光文社発行、現在発行部数21万部。以下「CLASSY誌」という。)等の女性ファッション雑誌に毎号のように商品が掲載されるようになり、時には1頁に大きく特集が掲載されるようになった。例えば、平成13年12月には別冊JJ誌の「可愛ゴーキーワード事典」に「clear(クリア)」が載り、「神戸ガールの好みのツボをしっかりおさえたオリジナルやセレクトものが確実に手に入る頼もしいショップです。オリジナルは安可愛なのもなお嬉しい。」と紹介されたり、JJ誌平成14年4月号では「JJ用語」大辞典の中で、「JJ読者なら常にチェックすべきショップ8店」に選ばれるなど、関西を代表するブランドとして、10代後半から30代前半の女性を中心に全国的なブームとなった。また、平成13年以降、光文社発行の雑誌「JJ Bis」(以下「JJbis誌」という。)に取材協力費を支払って毎号原告ブランドの商品を掲載した。
 ファッションに関心の強い10代から30代の女性の多くはこれらのファッション雑誌を購読し、気に入った商品やブランドを確認してから実際の購入のために店に足を運ぶというのが実情なのであり、いうまでもなくこれらのファッション雑誌は全国の読者に対し極めて強い影響力を有している。しかも、原告ブランドが掲載されている記事のほとんどは広告記事ではなく、雑誌社が自らの判断で読者の関心が高いと思われる商品・ブランドを取り上げて掲載する、いわゆる「編集ページ」に係るものであり、広告記事に比べ客観性が高く説得力があるため、読者の関心も広告記事よりも高く、継続的に掲載された場合には広告記事よりも宣伝効果が高い。
 なお、雑誌記事の中には、被告が主張するように原告が経営するセレクトショップに関するものもあるが、原告ブランドの商品の大部分は原告の店舗で販売されるのであり、セレクトショップとしての「clear」の名称がこれらの記事により読者に広く認識されることになることにより、ひいては原告ブランドが著名性・周知性を獲得することに大いに貢献しているのである。なお、原告における原告ブランドの商品とその他のセレクト商品との売上げの割合は各年度によってかなりばらつきがあるが、平成14年以降は概ね8:2〜6:4であり、常に原告ブランドの商品の方が他ブランドの商品よりも売上げが上回っている状況である。また、雑誌記事の中には、原告が原告ブランドの姉妹ブランドとして展開する「clear crea」等の商品が掲載されたものもあるが、これらの記事も読者の目に触れることにより少なからず原告ブランドの著名性・周知性獲得に貢献しているといえる。
 また、雑誌記事の中には、被告が主張するように原告ブランドの商品の写真の横の説明書部分に小さく原告ブランドの名前が記載されるにとどまるものもある。しかしながら、原告ブランドに関する記事745件のうち1頁中の面積にして10%を超えるものが約半数、25%を超えるものが約2割を占めている。また、これらのファッション雑誌の読者は気に入った商品やブランドを確認するために購読しているのであるから、文字自体が小さくともそのブランド名の注目度は決して低くはない。また、たとえ1つ1つの記事に掲載される本件原告商標の文字は小さくとも、そのような記事が複数の頁、号に繰り返し掲載され、繰り返し読者の目にとまることにより本件原告商標の認知度は自ずと高まるのである。しかも、そもそも原告ブランドが掲載された記事には本件原告商標のロゴが大きく掲載されたものが285件もあり、特集記事的に扱われるものも多い。これらは単体の記事だけでも十分に読者に原告ブランドを認識させるに足るものである。
 また、被告は、原告ブランドの商品の雑誌への掲載点数が平成13年以降減少傾向にあることを指摘する。しかし、平成13年は原告ブランドが立ち上がって間もなく大ブレイクした時期なのであり、その時期に編集ページの記事が集中し、その後徐々に掲載ペースが落ち着いてくるのは当然である。むしろ、あくまで雑誌社側にイニシアチブのある編集ページにおいて1年間に600点以上の商品が掲載されることの方が極めて異常なのである。
(イ) ファッションショーの開催、出展
 平成14年1月18日、原告は、JJ誌と共同企画し、他のブランドにも声をかけて、スプリングファッションショー「JJナイト イン 大阪」を開催した。このショーが大好評だったため、同様のファッションショー「JJナイト イン 神戸」を神戸で開催した。同年8月31日、上記企画に興味を持っていた毎日放送が主催者となり、「神戸コレクション(2002秋冬)」が神戸にて開催され、原告ブランドも出展した。その後、「神戸コレクション」は毎年春夏コレクションと秋冬コレクションの2回開催されており、原告は原告ブランドの商品を毎回出展している。
 なお、「神戸コレクション」は、一般の消費者向けのファッションショーの先駆けであり、毎回有名芸能人や有名モデルをゲストに呼ぶなど華々しく行われ、特番が組まれたり、ニュースなどの様々な情報媒体で大きく扱われるなどして大人気となり、平成16年以降は東京、名古屋、横浜などでも開催されるようになった。
 原告は、上記以外にも人気ヘアアーティストとのコラボレーションで原告ブランド独自のミニファッションショーを人気クラブで開催したり、平成17年からは年2回名古屋で行われる「スパイガールファッションショー」に出展するなど、様々な企画を継続的に行っている。
(ウ) TV出演
 原告の店舗や原告ブランドがテレビ番組に取材されることも度々あり、「MBSジャスト」や「おはよう朝日」、毎日放送の「ベリータテレビ」などで放映された。年5〜6回はテレビ局から取材を受けることがある。
(エ) 学園祭への協力
 原告は、早稲田大学、帝塚山大学、神戸女学院大学等での学園祭その他の学生のイベントに協賛して、原告ブランドの商品を貸し出したり、提供したりしてきた。
(オ) 広告宣伝費
 以上を含め、原告ブランドの商品の広告宣伝活動のため、原告は、平成12年2月以降平成18年12月までの間に約1億円の広告宣伝費用を投じている。
 被告は、原告の広告宣伝費が少額であると主張するが、原告ブランドの著名性・周知性に比し広告宣伝費を比較的抑えることができているのは、原告が、基本的にファッション雑誌の編集ページへの掲載等、費用がかさまない方法で効率的に広告宣伝活動を行っているためである。
イ 市場における原告商品の評価・需要者の認識に関する事情
(ア) 他の有名ブランドからも原告ブランドが高く評価されていること原告は、世界的な著名ブランドである「リーバイス」との共同企画で原告が独自のデザインのジーンズを別注して独占販売した。リーバイスは、自社のブランドイメージを保持するため、滅多にコラボレーションやダブルネームでの企画を受けないことで有名であり、リーバイスと原告とのコラボレーションは業界で有名になった。
 また、リーバイス以外にも、原告は、デニムで有名なアメリカのブランド「フランキーb」やダッフルコートで世界的に有名な英国ブランド「グローバーオール」、「ミスクロエ」、「ジューシークチュール社」、デニムで有名なアメリカブランド「SEVEN」、ニューヨークブランド「noir(ノワール)」,「FILA(フィラ)」、水着で有名な「BILLABONG」などともコラボレーションやダブルネーム企画を行っている。
 このように原告と海外有名ブランドとの数多くの共同企画が行われていることからも原告ブランドが高く評価されていることが明らかであり、本件商標を付した原告ブランドが少なくとも周知であった事実が十分に認められる。
(イ) 需要者に人気を博していたこと
 前記の雑誌への掲載のほか、JJ誌のモデルであるAやBが私物として原告ブランドの商品を誌上で紹介したり、Cをはじめとする人気読者モデルが自分の御用達ブランドとして誌上で私物である原告ブランドの商品を紹介することが度々あり、JJbis誌では大好きショップに何度も掲載され、好きなブランド2位に選ばれるなどしている。
 他ブランド商品を含めた原告全体の平成12年度の売上は約3億円、平成13年度は約11億円、平成14年度は約12億5000万円、平成15年は約20億5000万円、平成16年度は約19億円と急激に伸びていることからも、需要者に人気を博していたことがうかがえる。この中には他ブランドの商品も含まれているが、原告ブランドの売上げだけを見ても少額とはいえない。もっとも、平成16年度以降は売上げが減少しているが、この要因の一つは被告ブランドの出現にあると思われる。
 被告は、このような原告ブランドの売上高が小さいことを理由にその周知性を否定する。しかし、とりわけ女性向けファッションブランドにおいては、必ずしも売上高が極端に多くなくとも、雑誌等への掲載が頻繁になされることにより著名・周知となるブランドは多く存在する。そのような方法により著名・周知性が獲得された以上は、売上高が極端に少ないのであれば格別、そうでない限り著名性・周知性を否定する理由にはなり得ないはずである。
(ウ) 第6回ディベロッパーが選んだテナント大賞で敢闘賞受賞
 原告は、平成16年3月、「ディベロッパーが選んだテナント大賞」で敢闘賞を受賞した。この賞は、全国の有力商業施設を運営しているディベロッパー、コンサルティング会社に繊研新聞が取材又はアンケート調査を行って、テナントを評価してもらうもので、第6回の調査対象期間は平成15年1月から12月まで、対象業種は衣料品、ファッション雑貨であった。原告は、売上げが好調なこと、注目度、集客力などを高く評価され、敢闘賞を受賞した。
(エ) 偽造商品が出回ったこと
 平成16年末ころから平成17年にかけて爆発的に売れたスパンコールパーカー、ファー付きパーカーなどの原告ブランド商品の偽造商品がヤフーオークションに出品されているのを原告従業員が見つけ、出品者に直ちに警告し、和解したことがあった。このように、偽造商品が出回るほど原告商品の認知度が高かったことが明らかである。
(オ) 花王の制汗剤「8×4(エイトフォー)」とのコラボレーション企画
 平成18年夏、花王株式会社が「8×4(エイトフォー)」商品をリニューアルした際のキャンペーンとして、原告にも8つの人気ファッションブランドの一つとして、限定グッズを製造する依頼があり、原告において原告ブランドの限定グッズを製造して提供した。
(カ) ワコールの広告に原告がアウタースタイリング協力したこと
 ワコールのローライズ用下着カタログに洋服イメージとして原告ブランドの商品が使用されるとともに、上記商品を買い上げた客に原告ブランドの商品をプレゼントするというキャンペーンが行われた。
ウ 被告主張の各種ランキングについて
 被告は、各種のランキングにおいて原告及び原告ブランドが挙げられていない点を指摘する。
 しかし、まず「全国SC・テナント調査」については、繊研新聞社が70のセレクトショップ及び30の百貨店の中からショップでの坪効率と売上げの伸び率に着目して作成したものにすぎず、周知性の目安となるものではない。また、「百貨店バイヤーズ賞」については、原告は、調査対象となっていない丸栄百貨店を除いては百貨店には出展・出品していないので、ここに原告ブランドが挙げられないのは当然である。また、その他の被告が指摘するランキングは、すべて会社名を対象としているものであり、原告ブランドの周知性とは無関係である。大企業の有するブランドの中にも無名なものがある一方、必ずしも大企業でなくともその有するブランドが前記のように地道に雑誌への掲載等を行うことにより著名性・周知性を獲得することもあるのである。
(2) 被告標章との類似性について
ア 本件原告商標の構成は、標準文字の欧文字「clear」を横書してなるのに対し、被告標章1及び2は別紙標章目録のとおり、欧文字「CLEAR」と欧文字「IMPRESSION」を、それぞれ異なる大きさによって二段に横書きしてなるものであり、被告標章3は、別紙標章目録記載のとおり、欧文字「CLEAR」と欧文字「IMPRESSION」を、その間に間隔を空けて、一行に横書きしたものである。
 このように、被告標章1及び2は、「CLEAR」と「IMPRESSION」の欧文字を二段に分け、さらに「CLEAR」の部分と「IMPRESSION」部分の文字の大小を区別していること(特に被告標章1においては、「CLEAR」の各文字が「IMPRESSION」の縦横約3倍の大きさである。)、被告標章3は、「CLEAR」と「IMPRESSION」との間に間隔を設けていることから、被告標章は、これらに接する需要者に「CLEAR」と「IMPRESSION」の2個の部分よりなるものと視覚的に分離して看取させるものである。また、「CLEAR」は「澄んだ、透明な」の意味を有する単語として、「IMPRESSION」は「印象」の意味を有する単語として一般的に親しまれているものであるから、需要者は、被告標章を「CLEAR」と「IMPRESSION」とに分けて理解するものであって、被告標章を全体として一個不可分の概念を示すものとしてのみとらえるとは考えられない。被告標章から生じると被告が主張する「明るい印象」等の観念は、かろうじてそのように和訳することができるという程度のものにすぎない。さらに、被告標章は、外観が15のアルファベットからなり、かつ、称呼も9音で構成される長いものであるから、簡易・迅速性が求められる現代の取引において、とりわけ本件原告商標の対象商品の需要者である10代後半から30代前半の女性の間においては、語頭部分の「CLEAR」なる部分に着目して取引が行われる場合が少なくない。
 以上から、被告標章1ないし3は、「CLEAR(クリア)」と簡略に表記ないし称呼され、また、「クリア」の観念を生ずるものであり、このことは被告標章4及び5についても同様である。
 以上のとおり、 被告標章は本件原告商標と同一の部分(「c l e ar」)をその構成の一部に含む結合商標であって、その外観、称呼及び観念上、この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものである。このことに加え、本件原告商標の周知性の程度が高く、しかも、被告ブランドの商品と本件原告商標の指定商品とが重複し、両者の取引者及び需要者も共通していること、ファッション業界においては複数のファッションラインを展開していることが少なくないことという取引の実情を全体的に考察した場合、被告標章は、これに接した取引者及び需要者に対し、本件原告商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるおそれがあり、両者が類似する関係にあることは明らかである。
 そして現に、被告の関連会社である株式会社イネドは、平成18年及び平成19年に被告標章2と同様の商標を出願したが、前者については先般、特許庁より「著名」な本件、 原告商標と混同のおそれがあり、かつ、本件商標と同一又は類似であることを理由とした拒絶理由通知が発せられた。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) 被告標章の要部について
a 被告は、「CLEAR」が形容詞であることを根拠にその要部性が否定されると主張している。
 しかし、原告ブランドが既に少なくとも周知であり、独立して自他識別機能を果たしている以上、「clear」は既に原告ブランドを示す名称として固有名詞化しているのであり、もはや元々の語源が形容詞であるか否かは重要ではない。とりわけ、本件原告商標の指定商品である洋服、かばん類の性質としては「clear」すなわち「澄んだ」「透明な」「明るい」等の意味は通常ではないのであるから、元々の語源である形容詞的側面は本件原告商標では大きく後退しているといえる。
b また、被告は、「CLEAR」、「clear」又は「クリア」を語頭部に有する商標が全区分において多数登録されていることを根拠に、これらの識別力が弱く、したがって本件原告商標の識別力も弱いかのように主張する。
 しかし、本件商標が登録される第18類、第25類以外の区分において「CLEAR」等を語頭部に有する商標がいくら登録されようとも、それは本件原告商標の識別力とは全く無関係である。
c 被告は、ファッションに敏感な10代後半から30代前半の女性であれば語頭のみに着目することはないであろうと主張する。
 しかし、むしろ若い女性であればこそ冗長なブランド名を省略して呼称する傾向にある。現に、ミクシィ(mixi)という若者を中心に人気のあるソーシャルネットワーキングシステム(SNS)上の被告商品のファンサイト(コミュニティ)では、「クリアインプレッション」を省略して「クリア」と書き込んでいる人が相当数存在する。また、インターネット上のヤフーオークションにおいても、出品されている被告商品の紹介文に「クリアCLEAR IMPRESSION」と記載している出品者や、見出しに「CLEAR」とのみ記載して被告商品を出品している出品者、あるいは「CLEAR(フランドル)」と記載している出品者などもいる。さらに、「CLEAR IMPRESSION」と紹介した後は、同じ商品を「クリア」と省略して記載しているブログも存した。
(イ) 取引の実情に基づく混同のおそれについて
a 被告は、原告ブランドの需要者が10代後半から20代前半の主に学生であり、被告ブランドの需要者が20代後半から30代前半の主にOLであり、需要者層が異なるかのように主張している。
 しかし、両ブランドはいずれも10代後半から30代前半の女性を主たる需要者としており、被告の主張は根拠がない。また、仮にそうだとしても、両者の需要者が画然と分けられる訳がなく、需要者層は相当範囲で重なっているといえる。
b 被告は、被告ブランドの商品は被告の専門店内でしか販売されていないため原告ブランドと誤認混同されることはないと主張する。
 しかし、原告ブランドも被告ブランドも、その広告の多くはファッション雑誌を通じて全国的に行われており、販売方法も主にファッションビル内等の若い女性が集まる衣料・雑貨専門店において販売されている点で共通しているのであって、販売方法は完全に重なり合っている。そのため、例えば雑誌で原告ブランドを見た読者が被告の店舗を訪れ、被告標章を見て誤認して購入することも十分にあり得る。
 また、被告は「エ・ピウス・プレイス」ブランドを完全に被告ブランドに切り替えたかのような主張しているが、真実は「エ・ピウス・プレイス」の一部の店舗をそのままの形で存続させつつ、そこで被告ブランドの商品を販売しているのであり、しかもその店舗には「PRODUCED BY FLANDRE」の文字は一切確認されなかったし、被告ブランドの店舗においても同表示は小さく表示されているにすぎない。
c 被告は、原告ブランドがローカルブランドにすぎない旨主張する。
 しかし、今日ではファッション雑誌により全国に商品が広告され、通信販売により全国の消費者へ販売ができる状況が整っているのであり、かかる通信販売における誤認混同のおそれも無視できない。現に、原告の元へは雑誌で被告ブランドの商品を見た客から注文の電子メールが届くこともある。また、雑誌記事を見て遠方からでも購入に訪れる客も少なくない。そもそも、原告は、大阪をはじめ名古屋、広島にも店舗を有しており、最近まで東京にも店舗を有していたのであるから、通常の店舗販売でも十分に被告標章と競合しているといえる。
d 被告は、被告ブランドの目指すイメージが原告ブランドのイメージと相違すると主張する。
 しかし、原告ブランドの、神戸の上品なテイストの女性をターゲットとする敏感なブランドである「神戸エレガンス」のイメージと、被告が主張する「OL御用達ブランド」のイメージとが相当に競合していることは明らかであり、その区別は微妙かつ曖昧なものである上、購買層が相当範囲において重なっていることに変わりはない。
e 被告は、被告ブランドが周知であると主張する。
 しかし、被告ブランドは販売開始からわずかな期間しか経過しておらず、被告ブランドの専門店舗でのみ販売されているわけでもなく、雑誌での掲載件数は少なく、宣伝広告も当然すぎる内容のものばかりであり、その売上高についても疑わしい。
(ウ) その他について
a かつて「神戸コレクション」の制作プロデューサーであるE氏に対し、JJ誌の編集部から被告ブランドを出展することにつき打診がなされたことがあったが、上記E氏は、原告ブランドと被告ブランドとが類似しており来場者に混同を生じさせるおそれがあると判断して、被告のブランドのうち被告標章については出展を断った。このことは、両者が類似であることを端的に表しているものとえる。
b 被告は、被告ブランドを立ち上げたときには原告ブランドの存在を知らなかったと主張する。
 しかし、原告ブランドの周知・著名性からすると、同業者である被告が本件商標の存在を知らないなどということはあり得るはずがない。そして、このように被告が原告ブランドの存在を知りつつ、そのブランドイメージにフリーライドする意図で敢えて被告標章を使用している以上、自ずと被告標章の使用方法も本件原告商標と誤認混同を生じさせる態様とならざるを得ない。かかる事情を考慮すれば、本件では類似性がより強く肯定されなければならない。
【被告の主張】
(1) 被告標章との類似性の点について
 原告は、被告標章の要部は「CLEAR」の部分であると主張するが、否認する。
ア 本件原告商標である「clear」は、明るい、澄み渡った、澄みきったなどの意味を有しており、わが国においても外来語として広く普及しており、被服、鞄類、アクセサリー、靴といったファッションに関する商品に対しても使用されている、きわめて一般的な形容詞であり、そもそも識別力が弱い。また、形容詞は、他の名詞に結びついて、その名詞を修飾する役割を果たす単語であり、後に続く名詞の状態を示す付加的な言葉であるから、単独では意味をなさない。したがって、わが国の英語の普及水準からすると、被告標章の「CLEAR」に接した一般消費者は、そのまま、後に続く語に視線を移すのが自然である。このように「CLEAR」が一般的な形容詞であるという観点からすると、被告標章においては、むしろ「IMPRESSION」の部分から強く支配的な印象を受けるものであって、その要部は「IMPRESSION」である。
 また、本件原告商標の「clear」のような形容詞は、普通名詞に比べて使用頻度が遥かに高く、使用する必要性が高く、誰もが使用することを欲するという性質を持つ言葉である。形容詞「CLEAR」または「clear」を語頭部に有する商標は全区分で811件、形容詞「クリア」を語頭部に有する商標は全区分で936件、合計して1747件に達する。「CLEAR」または「clear」単独の商標は10件、「クリア」単独の商標は4件であり、これらの商標の登録は、ほとんどが20年も以前のものである。また、「クリア\CLEAR」の2段商標は10件であった。これらの商標は、「CLEAR」または「clear」と他の文字とが結合した商標は、他の文字部分と結合されて識別力があると認定され、登録されてきたものと解され、このことは被告標章についても同様である。
 アパレル業界では多数のブランドが存在し(繊研新聞社が発行する「ファッションブランドガイドSENKEN FB」には約9000のアパレルブランドが掲載されており、掲載されていないブランドも多数存在する。)、その中には洋服のイメージとして考えられるコンセプトから同一又は類似の言葉を採用し、ブランド名にするケースが少なくない。しかし、たとえ語頭部に同一の言葉を含んでいても、商標(ブランド)全体として一体性があり商標(ブランド)全体として識別力があれば別のブランドとして認められ、同一の業界の中で存在し、商品の誤認混同等のトラブルは生じていない。
イ 各被告標章について具体的に検討すると、まず被告標章1については、争点(1)アにおける被告の主張のとおり、被告は使用していない。
 次に被告標章2は、上下2段からなるが、「CLEAR」のロゴが「IMPRESSION」のロゴよりやや小さく、「CLEAR」が「IMPRESSION」の上部左半分に位置し、字体(フォント)も色も同一で形態に差異はない。また、被告標章3も、両単語の間に間隔があるとしても、大きさ・字体・色は同一で形態に全く差異がない。したがって、被告標章2及び3について、需要者が視覚的に分離して看取するという条件は全くなく、むしろ一体として捉えることの方が自然である。
 また、被告標章のうち、「CLEAR(クリア)」は「明るい」「はっきりとした」という意味の、日本語としても極めてありふれた日常的な一般的な形容詞であり、他方「IMPRESSION」は「印象」「感じ」「感銘」「影響」等の意味を持つ名詞であり、形容詞+名詞という一体的な構造で把握されるのが通常であろう。日本語としても「はっきりとした印象」「明るい印象」「澄んだ印象」と一体として理解され、これをわざわざ取引者、需要者が、個別に分離して捉えるとするのは不自然である。
 さらに、被告標章の「クリアインプレッション」という語は、取引の迅速さに支障を来すほどことさら冗長でもなく、むしろ語感も良く、一連に称呼されること当然であり、とくにファッションに敏感で差別化に鋭敏な10代後半から30代前半の女性であれば、なおさら語頭のみに着目するといういい加減な把握の仕方はしない。被告ブランドを「クリア」と呼んでいるとして原告が指摘する例は、いずれも信用性に欠ける上、インターネットのブログを検索してみると、「クリアインプレッション」の記事として25件ヒットし、いずれも明確に「クリアインプレッション」と表記していた。
ウ 以上のとおり、被告標章の構成からして、これを「クリア」と簡略に表記し称呼し、また観念されることはあり得ない。
 原告は、ファッション業界においては複数のファッションラインを展開することが少なくない点を指摘するが、本件原告商標はありふれた単語でしかないから、被告ブランドを原告ブランドの系列と判断する可能性はほとんどないといえる。
(2) 本件原告商標が周知であるとの点について
 原告は、被告標章の要部が「CLEAR」であることの根拠として、本件原告商標が周知であることを挙げる。しかし、そもそも本件原告商標である「clear」は、大阪心斎橋のセレクトショップの店名として出発し、現在なお関西の一部地域に店舗が数店しかないというローカルブランドであって、周知性が認められるほどの実績も事実もなく、また本件原告商標は「日本有名商標集」にも特許庁の日本国周知・著名商標集(検索)にも掲載はされていないのであり、周知性・著名性のないことは明らかである。被告も、被告ブランドを立ち上げたときには、原告ブランドの存在を知らなかった。具体的には以下のとおりである。
ア 雑誌の掲載について 原告が指摘する雑誌での掲載商品は、原告ブランドのオリジナル商品だ
けではない。「clear」は、原告の店舗名でもあり、もともとは、大阪地域限定のいわゆるセレクトショップ(服飾小売店の形態の一種で、ひとつのブランドやひとりのデザイナーの商品だけを置くのではなく、その店のオーナーやバイヤーのセンスで仕入れた多種多様なブランド商品を陳列・販売している店舗のこと)として誕生して現在に至るのであり、後者の方が取扱いのメインではないかともいえる。実際、原告が雑誌で紹介されたとして提出する書証中の掲載商品の中には、原告ブランドの商品以外の商品が多数(約半分弱)含まれており、原告がセレクトショップとして紹介される例も多い。このように「clear」は、主に他ブランドを販売する地域限定のセレクトショップの店舗名でしかなく、そのような掲載のされ方が大半を占める雑誌記事によって、本件原告商標の商標的使用として、著名性・周知性に貢献しているとは到底いえない。
 また、平均して約350頁前後のファッション誌において、掲載される商品は数知れない。その中で、原告ブランドが掲載されるほとんどの場合が、掲載頁中の極めて多数の商品が混在する中のほんの一部分(米粒大程度)である。通常の読者は、そのようなほんの一部分での扱いや、ましてや米粒大の文字や写真など目に触れることは考えられず、これらによって、原告ブランドをことさらに判別し認識することはほとんどないであろう。このような記事が、原告が主張するように宣伝効果が高いことはあり得ず、このような記事がいくら繰り返し掲載されようと、広告宣伝効果には自ずと限界があるのは常識である。また、原告提出の雑誌中のいくつかには、確かに原告商品を1〜2頁にわたり特集しているものもあるが、いずれも本職のモデルではない、原告に広報担当として働く読者モデルが原告商品を紹介するという形式のものであり、「いかにも広告」といった体裁の洗練されていないものが多く、読者に敬遠される傾向のものばかりであるし、単発で数も少ないから、このような記事によって、一気に本件原告商標の知名度が上がることはまずあり得ない。
 消費者・需要者は、とりわけ洋服を購入する場合には、実際に当該店舗で品物を直接手にとって気に入り、これを試着して決めるのが通常であり、多くは百貨店やファッションビルに買い物に行き、当該ブランドの商品に接することが発端となる。とすれば、あるブランドを認識することも、雑誌の掲載によるよりも、実際に買い物に行って商品に接することが発端となることが通例であることは明らかであり、ブランド(商標)の周知性を問題にする場合には、実際に消費者が購入する店舗がどこにどれだけあるかが重要となるのである。
 したがって、原告が主張するような細かな雑誌掲載によって、本件原告商標が周知性を獲得することはあり得ない。実際、原告ブランド商品の雑誌への掲載点数は、平成13年の601点をピークに下降線を辿り続けて現在に至っている。平成18年度の134商品という掲載数は、他の多くのブランド商品の位置にも達していない。この掲載商品数からは、この減少は、原告ブランドが早くも平成14年頃から既に雑誌社に掲載価値を認められにくくなっていたということを示しており、本件原告商標が周知著名性を獲得しているということはできない。
イ ファッションショーの開催、出展、TV出演、学園祭への協力について原告主張のような年1、2回の単発のショーやTV番組への1回の出演が、広く需要者の記憶に残ることは考えられないから、これらは周知性の根拠とはならない。
ウ 広告宣伝費について
 原告の広告宣伝費は、平成16年になってようやく年間1000万円を超えた程度であり、それ以前は、平成12年が年間139万円、同13年が年間141万円、同14年が年間644万円、同15年が年間789万円にすぎない。例えば雑誌JJ誌の1回の広告掲載料金は、見開き2頁でも400万円を優に超えることからすると、原告の投じた金額は、ほとんど広告宣伝費用を掛けていないに等しいといえる。平成17年は2600万円超、同18年は4000万円超ではあるが、この金額にしても、前記雑誌の広告掲載料金からすると、広告宣伝に特に力を入れているという金額とはいえない。
エ 市場における評価と需要者の認識について
 他の有名ブランドとのコラボレーションの点で原告が挙げるリーバイスについては、他のブランドとのコラボレーション商品も多い上、業績の低迷によって経営再建を余儀なくされる状況であったのであるから、むしろローカルブランドの原告が苦境のリーバイスの名声を運良く利用できたというのが現実であり、原告ブランドの周知性を基礎づけるものではない。他の著名な人気ブランドとのコラボレーションやダブルネーム企画を頻繁に行うのは、むしろ自社ブランドの競争力が弱いためであるからこそであり、原告商品が高く評価されていたとか周知であったなどを示すものではない。
 また、雑誌のモデルらが原告商品を私物として紹介したという記事は、当然に雑誌の企画記事であって今どき真に受ける読者がいるわけもなく、人気読者モデルとされるCは、後に原告に就職してプレス担当社員という肩書きで雑誌に登場するのであり、雑誌の企画として原告商品を紹介するのは立場上当然であり、需要者の人気を示すという純粋な根拠ではない。
 さらに、「第6回ディベロッパーの選んだテナント大賞での敢闘賞受賞」なども、新興ブランドゆえの受賞であり、周知性の根拠ではない。なお、この賞の受賞理由を見ると、インポートと複数のオリジナルをミックスし、エレガンスをベースに時流に応じて進化させているとされており、本件原告商標の周知性とはまったく無関係である。
 また偽物が出回ったとする主張も、そもそも周知性を示す直接の根拠とはならず、さらに花王やワコールといった企業の広告への協力は、むしろ周知でも著名でもない2番手3番手ブランドの役割であって、本件原告商標の周知性の根拠とならないものである。
オ 売上高について
 原告の開店年度および閉店年度を除いた一店舗の売上げの平均を算定すると、店舗数の増加にもかかわらず、平成13年度以降、各店舗で売上げが減少している。平成16年以降には新規開店で店舗は増加しているにもかかわらず、やはり既存店の売上は減少を続けている。その結果、平成19年度までに、心斎橋(アメリカ村)店、クリスタ長堀店、ディアモール大阪店、プランタン銀座店、名鉄メルサ店という、創業以来の有力店舗を含む5店舗が閉店に追い込まれ、最盛期の13店舗が8店舗になっている。これは、原告ブランドの顧客吸引力が衰退している結果であるとしか考えられない。
 被告の算定によれば、平成16年度の原告ブランドの売上高は9億4000万円程度であり、アパレル業界では到底周知になったといえる金額ではない。また、原告全体の売上げが急上昇して、ピークに達した平成15年度の約20億円も、原告ブランドの売上高はその6割の約12億3000万円であった。結局、平成14年から平成18年までの5年間の原告ブランドの売上げは、年間売上げ11億円を中心に上下約1億円の間を上昇したり下落したりしていたといえる。年間12億円程度の売上高のブランドは、前記「SENKEN FB」のレディスウエア業績ランキングで180〜200位に位置するにすぎず、周知・著名には程遠いブランド群である。
 原告の店舗はいわゆるセレクトショップであるが、セレクトショップ内のオリジナルブランドが顧客吸引力を発揮するようになるまでには、自社ブランド専門店舗に比べて、困難性ははるかに大きい。原告の店舗における原告ブランドの商品と他ブランドの商品の比率は、店舗の規模で異なるものの、2割から4割強が他ブランドの商品による品揃えであり、他ブランドの商品の価格(上代)が原告ブランドの価格よりも倍以上になっていることを考慮すると、売上高ベースでは両者が5割ずつくらいになっている。このような事情からすると、原告の店舗は実質的にはインポート商品が主力であり、このような事情の下では、本件原告商標が周知性を獲得することなど考えられない。
カ アパレル業界における客観的周知性について
 アパレル商品は、消費者に好まれて売上げが伸びるものであるから、売上高の伸張は、その商品の評判が良く、消費者に好まれ、愛されていることの証左である。商品の周知度と売上高は密接な相関関係がある。さらに、テレビが行き渡り、アパレル雑誌が毎月1500万部も全国に流通し、主要デパート、主要スーパー、主要ショッピングセンターが国内の隅々まで網の目のように広がり、ネットによる通販も浸透しているアパレル業界の現状では、ブランドの地域性は薄れ、全国に良く知れわたることが、売上げの増加をもたらす条件となっている。
 しかし、原告が受賞した「ディベロッパーの選んだテナント大賞」と同時期に、売上高を中心とした専門店、セレクトショップ、ショッピングセンター等を対象とした「全国有力SC・テナント調査」の結果が繊研新聞2004年7月6日号に掲載されているが、この中には原告ブランドはない。
 また、繊研新聞が設けている「百貨店バイヤーズ賞」は、各部門別に細かく分かれて選ばれているので、アパレル界における各企業の売上げが極めて忠実に反映されており信頼度が高いものであるが、この中に原告ブランドはない。
 また、ブランド別ではなく、企業としての売上高のランキングは「レディスアパレル業績ランキング」として繊研新聞に掲載されているが、ここに原告は含まれていない。なお、繊研新聞では、「レディースボトムランキング」や「来春卒業予定者の就職意識・注目企業」も毎年掲載されているが、ここにも原告や原告ブランドは登場しない。
 また、繊研新聞では、毎年「ファッションブランドガイドSENKEN(FB)」を発行し、2004(平成16)年版では総収録企業数とブランド数は2100社、9000ブランドを超えているが、その中に原告及び原告ブランドはない。
 以上のとおりの各種ランキングが、アパレルブランドの周知性の一応の客観的な根拠と考えられるところ、原告も原告ブランドもまったく登場しておらず、このような分析からしても、本件原告商標の周知性などはあり得ないといえる。
(3) 被告ブランドの取引の実情に基づく混同のおそれの有無
 被告は、昭和55年1月に設立された日本有数の老舗アパレルメーカーである。今日まで、主に若い女性向けの人気服飾ブランドを発信し続け、10代後半から、20代、30代の若い女性の支持を得てきた。平成18年度の総売上高は600億円であり、名実共に日本の女性向けアパレルメーカーのトップブランドの一つである。現在、被告が展開するブランドには、「CLEAR IMPRESSION」のほか、「INED(イネド)」「Le souk(ルスーク)」「ef−de (エフデ)」「chereaux(シュロー)」「en quete(アンケート)」など多数あり、いずれも主要女性誌や各種媒体での広告宣伝により高い知名度を有するものばかりである。被告の平成18年度の広告宣伝費は、全体で約6億4400万円であり、その中で本件「CLEAR IMPRESSION」についての広告宣伝費は約8800万円に上る。
 被告ブランドは、平成16年9月に発表されたもので、被告のブランドの中でも後発に属するが、もとは、被告の展開していた「エ・ピウス・プレイス」というブランドをリニューアルした際に、「洗練された印象」「透明な印象」「澄んだ印象」というコンセプトを打ち出し、ブランド名を「クリアインプレッション/CLEAR IMPRESSION」に変更したものである。原告ブランドは、雑誌等の掲載事実はあるが、関西の一部地域限定、かつ、10代後半から20代前半の主に学生を購買層とするブランドにすぎないのに対し、被告ブランドは、主に20代前半から30代前半の社会人(OL)の女性を購買層のターゲットにしており、通勤着として十分対応できるような落ち着いたコンセプトを提供している。
 被告ブランドは、平成16年10月から、JJ誌、CanCam誌、with誌、Ray誌、「ef」、「MORE」、「Style」、「Luci」等の女性向けファッション雑誌に、毎号のように掲載されている。そして、被告商品の年間掲載商品数は、平成16年が184点、平成17年が537点、平成18年が798点、平成19年中頃までが622商品であり、原告ブランドの掲載点数を平成17年度から上回っており、また年々右肩上がりに伸びていることから、被告標章は、少なくとも本件原告商標よりは、消費者の間によく知られており、今後も、高い周知性の獲得に向かって順調に伸びていくと思われる。また、被告はブランドの知名度を上げるため、JJ誌に「タイアップ広告」としての特集記事を3年間で合計84頁にわたり掲載し続けている。この「特集記事」の消費者へのアピールの度合いは、通常の掲載記事に比べて格段に強いものがある。
 また、被告ブランドは、平成16年9月に発表されたが、その売上げは、平成16年度(平成16年9月〜同17年2月)が約22億7000万円、平成17年度(平成17年3月〜同18年2月)が約51億円、平成18年度が約65億5000万円と伸びている
 被告の商品は、そのすべてが一流百貨店、主要駅ビル及びファッションビル内に設けられた被告の自社ブランド専門店内で販売されている。これら店舗は、すべて被告のブランド毎に設けられており、被告の製品であってもブランドが異なれば別の店舗とされている。ましてや、他社の商品が混在することはない。被告ブランドの商品も、当然、百貨店や駅ビル内の専門店で販売されている。被告店舗は、発表以降、35店舗、36店舗(平成17年2月)、44店舗(平成18年2月)、59店舗(平成19年2月)、64店舗(現在)と原告店舗数を大きく上回る伸びを示している。
 また、被告ブランドの店舗においては、被告ブランド名に続けて「PRODUCED BY FLANDRE」との看板が掛けられており、著名なアパレルメーカーである被告の発信するブランドであることが示されており、需要者もまた、被告の製品であるとの安心感を持って、そのような認識で購入しているのである。
 その他、被告ブランドは、その発表前から、繊研新聞・日本繊維新聞の取材を受け、掲載されたほか、被告は繊研新聞紙上や折込み広告、店舗配布ちらし、ポスター、ダイレクトメール等に被告ブランドを記載して広告する、有名デパート、百貨店、ショッピングセンター、駅ビルの店舗の案内に被告ブランドが掲載される、百貨店、駅ビル等小売企業による販促媒体に参加する、小売企業開催の各種ファッションショーに参加する、テレビコマーシャルやテレビ番組、ドラマの中で、芸能人が着用する衣服に被告ブランドの商品が数多く採用される、商品カタログを毎年2回発行して配布する、被告のホームページで各種情報を発信する、各百貨店や駅ビルのホームページで被告ブランドについて紹介される等の広告宣伝をしてきた。
 以上の取引の実情からすれば、原告ブランドよりも被告ブランドの方が需要者に広く知られているということができ、ファッションに強い関心を持ち、注意力の相当高い若い女性の需要者が、被告ブランドを原告ブランドと誤認混同することはあり得ない。
 なお「神戸コレクション」、 への被告ブランドの出展が見送られたとの原告の主張は、事実に反するものであり、否認する。
3 争点(2)ア(周知商品等表示性)について
 この点に関する当事者の主張は、争点(1)イ(類似性)の主張中の本件原告商標の周知性に関する主張と同様である。
4 争点(2)イ(被告標章1、4及び5の使用)について
 この点に関する当事者の主張は、争点(1)ア(被告標章1、4及び5の使用)における主張と同様である。
5 争点(2)ウ(類似性)について
 この点に関する当事者の主張は、争点(1)イ(類似性)の主張中の本件原告商標と被告標章の類似性に関する主張と同様である。
6 争点(2)エ(混同のおそれ)について
 この点に関する当事者の主張は、争点(1)イ(類似性)の主張中の混同のおそれに関する主張のほか、次のとおりである。
【原告の主張】
 原告の店舗には、雑誌等に掲載された被告ブランドの商品を原告ブランドの商品と間違って買い求めようとする客の来店や、同様に被告製品を原告商品と間違った客からの問合せがかなり頻繁にある。また、問合せの中には、原告と被告は同じ会社ではないのかと確認する客も多数いる。
 したがって、原告ブランドの商品と被告ブランドの商品との間に誤認混同が生じていること、少なくとも誤認混同のおそれがあることは明らかである。
【被告の主張】
 原告が挙げる混同事例自体が信用性のないものである上、かかる例があったとしても、それは20件にも満たず、勘違いという程度のものである。また、被告ブランドを取り扱うすべての店舗に対して調査したところ、原告ブランドの商品を購入したいという消費者からの連絡は皆無であった。原告の店舗はセレクトショップであり、さまざまなブランドを扱っているから、雑誌を見た消費者が、被告ブランドの商品も売っているかと思い、問合せをすることは極めて自然である。
 被告ブランドの需要層は、主に20代から30代前半の女性であり、ファッションブランドに対する認識は最も鋭い層である上、被告ブランドは、被告専用の店舗でしか販売されていないという取引の実情からすれば、出所の混同はおよそあり得ない。
7 争点(3)(損害額)について
【原告の主張】
(1) 被告標章1ないし5の使用による損害額について
 平成16年以降製造販売された被告ブランドの商品の売上げは、少なくとも30億円(年間約10億円)を下らず、利益率は少なくとも15%を下らないと考えられるので、被告が本件訴訟の提起日である平成19年3月16日までに得た利益は4億5000万円を下らないから、これが原告の損害の額と推定される(商標法38条2項、不正競争防止法5条2項)。本件では、その一部である1億5000万円を請求する。
(2) 被告標章1の使用による損害額について
ア 被告標章1の使用状況
 平成16年9月から平成19年6月までの期間において、被告がJJ誌上で被告標章1及びそれと同一といえるロゴ(以下「被告標章1ロゴ」という。)を使用した回数は合計24回であった。これらのロゴはすべて被告ブランドを立ち上げた初期である平成18年発行のJJ誌に掲載されたものであるところ、同年における被告ブランドのロゴの掲載回数は合計30回であり、実にその80%が上記ロゴであるという状況であった。なおこのほかに実質的に被告標章1と同一といえるロゴ(甲第90号証の被告雑誌掲載ロゴ一覧表3番ないし5番のロゴ)も3回掲載された。
イ 商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づく主張
 被告の主張によれば、平成18年度(平成18年3月〜平成19年2月)の被告ブランドの売上高は約65億5000万円であり、この期間は被告が被告標章1ロゴを使用した期間(平成18年2月〜平成18年10月)とほぼ重なる。
 そして、被告の売上高に占める利益率は15%を下らないものと思われ、かつ、本件では雑誌広告による被告標章1ロゴの使用であるため、直接商品に標章が付されている場合に比し寄与率を乗ずるのが相当であるが、被告による被告標章1ロゴの使用状況に鑑みれば、その利益への寄与率は30%を下らない。
 したがって、被告標章1ロゴの使用により被告が受けた利益の額は2億9475万円であり(65億5000万円×15%×30%)、これが原告の損害の額と推定される。
ウ 商標法38条3項、不正競争防止法5条3項1号に基づく主張
 下記のとおりの事情からすれば、被告による被告標章1ロゴの使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額(使用料相当額)は、売上高の7%である。よって、同条項による原告の損害は、下記のとおり4億5850万円である(65億5000万円×7%)。
(ア) 本件原告商標が著名・周知商標であり、高い自他識別力・顧客吸引力を有すること。
(イ) 被告が原告の競業会社であり、被告標章1ロゴを原告商品と完全に一致する市場において使用していること。
(ウ) 本件原告商標が原告の主力ブランドであり、市場が競合する被告に対しその使用を許諾することはあり得ないこと。
(エ) 被告が被告標章1ロゴを使用した態様は、JJ誌という発行部数40万部前後のファッション誌上で、24回という高い使用回数・頻度で、宣伝効果の高い「タイアップ広告」の形で使用するというもので、それらロゴと同時に常に被告のショップリスト等も掲載されており、また被告はそれらタイアップ広告記事を店頭での販売活動にも利用していること。
(オ) 被告による被告標章1ロゴの使用の結果、現に被告の売上高は、平成17年度が約51億円、平成18年度が約65億5000万円と増加していること。
エ 無形損害について(予備的主張)
 以上のイ又はウの損害のほか、原告は被告による被告標章1ロゴの使用行為により、以下のとおり少なくとも3500万円の無形損害を被っており、原告は上記イ及びウの損害の一部が認められなかった場合に備え、予備的にかかる無形損害3500万円の支払を求める。
 すなわち、本件原告商標には原告の高度の営業上の信用が化体されているところ、上記のような態様で被告標章1ロゴがJJ誌に掲載されたことにより、原告の信用が毀損されていることは明らかである。また、被告は、原告が店舗を構える「なんばシティ」の同一フロアーにおいて店舗を構え、被告標章1ロゴが使用されたJJのタイアップ広告記事を用いて販売を行っており、かかる行為も原告の信用を毀損するものである。
 そして、その損害額は、本件商標が著名・周知であり、かつ原告が本件商標を主力ブランドとして展開していることに鑑みれば、タイアップ広告掲載1回につき500万円を下らず(6回で3000万円)、また、なんばシティの被告店舗における被告標章1の利用行為についても500万円を下らない。
【被告の主張】
(1) 被告標章1ないし5の使用による損害額に関する原告の主張は否認する。
(2) 被告標章1の使用による損害額に関する原告の主張について
ア 被告標章1の掲載数等について
 平成16年10月号から平成19年9月号までの満3年間における全ファッション雑誌への被告ブランド名の全掲載数は1641回であり、この中で被告標章1ロゴの掲載数は、特集記事体裁のタイアップ広告が掲載されたJJ誌の6冊・60頁中、24回・24頁にすぎない。しかも、それらロゴは、各頁の片隅に掲載されているにすぎず、それぞれの頁で平均して14の「クリアインプレッション」との文字と、23着の被告ブランド商品とに取り囲まれているのである。したがって、消費者・読者は、被告標章1ロゴが掲載されていたとしても、当該特集は「クリアインプレッション」商品のページであると理解し、「クリア」または「clear」の商品と誤認し、混同することはあり得ない。
イ 商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づく主張について
 原告は被告ブランドの平成18年度の売上高を基準に損害額を主張する。
 しかし、被告ブランドの売上高は、ある雑誌の広告で被告標章1ロゴが使用されたかどうかとは直接の因果関係がなく、数回の雑誌掲載のみで被告ブランドの売上高が左右・影響されるものではない。また、被告ブランドの売上高は、前年の平成17年の時点で既に約50億円を超えており、被告ブランドはそれ自体で十分に周知性を獲得していたといえ、雑誌広告によって、本件原告商標との誤認・混同は生じることはない。したがって、被告標章1ロゴが雑誌広告に掲載されたからといって、「CLEAR」部分のみが着目されて、被告商品の売上げに大きく貢献するなどはあり得ない。
 したがって、原告の主張は不合理である。
ウ 商標法38条3項、不正競争防止法5条3項1号に基づく主張について 原告は、種々の理由を挙げて、被告の平成18年度の売上高に7%の使用料率を乗じた額の使用料相当額を主張する。
 しかしまず、本件原告商標は著名でも周知でもないから、高い自他識別力・顧客吸引力を有することはない上、原告ブランドと被告ブランドとは需要層が一致することもない。また、原告が本件原告商標の使用を許諾することがあり得ない以上に、被告が本件原告商標の使用許諾を求めることには何のメリットもなく、あり得ないことである。さらに、被告標章1ロゴの雑誌への掲載数は前記のとおりわずかなものにすぎない上、被告が被告標章1ロゴが掲載されたタイアップ広告記事を店頭での販売活動にも利用しているという事実もない。被告標章1ロゴの雑誌での掲載と被告の売上げの増加に因果関係がないことは前記のとおりである。
 したがって、原告の主張は不合理である。
エ 無形損害(予備的主張)
 原告はその信用が毀損されていると主張するが、その根拠は不明であり、具体的な損害も挙げられていないから、同主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(被告標章1、4及び5の使用の有無)について
(1) 証拠(乙134及び後掲書証)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告標章1ロゴは、JJ誌の平成18年4月号(甲4の2、乙100の15 、同年6月号(乙100) の17)、同年7月号(乙100の18)、同年10月号(乙100の21)、同年11月号(甲53、乙100の22)及び同年12月号(甲59、乙100の23)に掲載された。
 被告標章4は、JJ誌の平成19年5月号(甲58、乙100の28)に掲載され、被告標章5は、JJ誌の上記平成18年12月号に掲載された。
 これらのうち、被告標章1及び4については、その下に小文字で「Princess Goes to Office」と並記されており、被告標章5については、その上に「JJ×」、その下に「コラボワンピ」と並記されている。
イ JJ誌では、「お嬢さまの通勤着」という意味合いの「プリンセス通勤(略して「プリ通」)」という企画を立ち上げ、同誌の人気企画となったが、同誌は、同企画の当初から、そのイメージブランドとして被告ブランドを選定した。上記のようにJJ誌において被告標章1、4及び5が掲載されたのは、「お嬢さまOL『プリ通』の極意」、「OLの王道プリ通スタイルBOOK」等のタイトルの下に組まれた、数頁にわたる被告ブランドのタイアップ広告(その中でも特集記事の体裁のもの)である。
 特集記事の体裁のタイアップ広告とは、有料広告ではあるが、広告するブランドの商品だけを、雑誌中の冒頭ページや中心ページ部分に数頁の特集記事の体裁で掲載するものである。ここでは、雑誌の雰囲気やコンセプトを壊さないように、当該広告の企画立案から、コンセプト、紙面構成、レイアウト、商品のコーディネイト、ブランド名の決定に至るまで、すべて雑誌側が主導権を持って行う。そして、被告標章1、4及び5が掲載された上記JJ誌のタイアップ広告においても、その誌面構成やレイアウト、上記被告標章1、4及び5のロゴの決定は、すべてJJ誌において行った。
(2) これによれば、上記各タイアップ広告は、その内容はJJ誌が決定したものではあるが、いずれも被告が被告ブランドの広告を掲載することを決め、そのための広告料を支払って初めて掲載されるに至ったものであるから、被告自身が行った広告であると認められる。そして、そのような被告自身が行った広告に被告ブランドのロゴとして被告標章1、4及び5が掲載されている以上、それらの各標章は被告が使用したもの(商標法2条3項8号)というべきである。
 これに対し被告は、上記各タイアップ広告において被告ブランドのロゴとして被告標章1、4及び5を使用することを決定したのはJJ誌であり、被告はそれに関与していないと主張し、上記乙第134号証にも同趣旨の記述がある。しかしまず、同じくタイアップ広告であると考えられるJJ誌平成16年11月号の特集記事(乙100の2)では、被告の使用する標章であることに争いのない被告標章2が誌面で使用されているのであって、このことは被告の関与を推認させるものであるし、そもそも誌面構成について広告主である被告の了解すら得ずに被告ブランドのロゴが掲載されるに至るとは通常考え難いところである。また仮に被告が主張するとおり、上記各タイアップ広告において被告標章1、4及び5を使用することにつき、被告が具体的、明示的に了承を与えるなどこれに具体的に関与したことがなかったとしても、この点は、被告が被告ブランドの広告を行うに当たり、タイアップ広告に関する慣行に従って、広告内容の決定をJJ誌に委ねただけのことであり、上記タイアップ広告が被告自身の行った広告であると認められる以上、被告標章1、4及び5を被告が使用したと評価することの妨げとなるものではない。
 なお、上記タイアップ広告においては、被告標章1、4及び5に他の記載が並記されていることは前記認定のとおりであるが、上記被告標章は、いずれもそれら並記された記載と独立して認識し得るものであるから、それら並記のあることが前記認定の妨げとなるものではない。
2 争点(1)イ(本件原告商標と被告標章の類否)について
(1)ア 本件原告商標は、 「clear」の標準文字を横書してなるものであり、「クリア」との称呼を生じ、その語義からして「明るい」「澄み渡った」「透き通った」「はっきりした」との観念を生じるものと認められる(乙5)。また、証拠(乙125)によれば、「クリア」の語は、辞書的には後順位ではあるが、「目標をクリアする」など、「難しい目標をこえること、基準を満たすこと」(乙6)の意味で用いられることも多いので、そのような観念をも生じるものと認められる。
イ 被告標章1は、上段に大きく細く「CLEAR」、下段で小さく太く「IMPRESSION」と横書してなるものであり、「クリアインプレッション」との称呼を生じ、「CLEAR」と「IMPRESSION」の語義から、「明るい印象」、「澄み渡った印象」、「透き通った印象」、「はっきりとした印象」との観念を生じるものと認められる(なお、「クリア」の語は、名詞と結びつくときには、先に述べた「難しい目標をこえること、基準を満たすこと」の意味では用いられないと認められる[乙6記載の例文参照])。また、被告標章1は、上段の「CLEAR」が下段の「IMPRESSION」に比べて顕著に大きく表示されていることから、上段の「CLEAR」の部分が需要者の注意を惹く要部と認められる。したがって、被告標章1は、この要部から、「クリア」との称呼と「明るい」「澄み渡った」「透き通った」「はっきりした」「難しい目標をこえること、基準を満たすこと」との観念をも生じるものと認められる。
 被告標章2は、上段に「CLEAR」、下段にやや大きく「IMPRESSION」のゴシック文字を横書してなるものであり、上段と下段の文字に顕著な差が認められないことから、「クリアインプレッション」との称呼を生じ、「CLEAR」と「IMPRESSION」の語義から、「明るい印象」、「澄み渡った印象」、「透き通った印象」、「はっきりとした印象」との観念を生じるものと認められる。
 被告標章3は、筆記体文字で「Clear Impression」と横書してなるもの、被告標章4は、上段に「CLEAR」、下段に「IMPRESSION」のゴシック文字を同じ大きさで横書してなるもの、被告標章5は、「CLEAR IMPRESSION」のゴシック文字を横書してなるものであり、いずれも「クリアインプレッション」との称呼を生じ、「CLEAR」と「IMPRESSION」の語義から、「明るい印象」、「澄み渡った印象」、「透き通った印象」、「はっきりとした印象」との観念を生じるものと認められる。
 以上に対し原告は、被告標章の称呼について、「クリアインプレッション」との称呼は冗長であるから、最初の語である「クリア」のみの称呼も生じると主張するが、「クリアインプレッション」との称呼が特に冗長であるとはいえないから、被告標章1を除く被告標章について「クリア」のみの称呼も生じるとはいえない。
ウ 本件原告商標と被告標章1とを比較すると、被告標章1の要部である「CLEAR」と本件原告商標とは称呼及び観念を共通にしている。そうすると、被告標章1は、その要部以外の部分において「IMPRESSION」の文字が存するものの、その部分の相違による印象が、上記共通部分によって生じる類似の印象を超えることはないものと認められるから、被告標章1は本件原告商標と類似するというべきである。
 他方、本件原告商標と被告標章2ないし5とを比較すると、いずれも外観、称呼及び観念において相違するから、両者は類似するとはいえない。
(2) 原告は、本件原告商標は原告の出所を表示するものとして需要者の間に広く知られているから、被告標章に接した需要者は、そのうちの周知性を有する「CLEAR 「Clear 」」(以下では単に「CLEAR」のみで記載する。)の部分に注意が惹かれ、それによって出所を識別するから、被告標章においてはいずれも「CLEAR」の部分が要部となると主張する。被告標章1の要部が「CLEAR」であると認められることは先に認定したとおりであるので、以下、被告標章2ないし5の要部が「CLEAR」であるか否かについて検討する。
ア 後掲証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告と原告ブランドについて
a 原告は、平成12年3月に「clear」を店舗名として心斎橋本店を開店し、若い女性向けの被服、服飾雑貨、かばん等の販売を開始し、以後、同年4月にクリスタ長堀店を、平成13年3月に京都河原町OPA店を、同年9月に神戸三宮OPA店を、平成14年3月にはディアモール大阪店を開店して、京阪神地区に出店を行っていた。その後、原告は、平成15年3月に名古屋丸栄百貨店を、同年9月には名鉄メルサ店を出店して名古屋地区に出店し、さらに平成17年8月には東京プランタン銀座店を、平成18年4月には広島パルコ店を出店した(なおこの間に大阪地区に更に3店、名古屋地区に1店を出店した。)。また、平成15年5月からは通信販売も開始した。他方、平成18年8月には名鉄メルサ店を閉店し、更に平成19年8月までには、心斎橋店、クリスタ長堀店、ディアモール大阪店、名鉄メルサ店、プランタン銀座店を閉店した。(以上、甲21、乙90)。
 原告の店舗は、原告ブランドのオリジナル商品と共に他社ブランドの商品も取り扱うセレクトショップ(乙22)であり、両者の売上高の比率は、平成14年が8対2、平成15年及び平成17年が6対4、平成18年は7対3であった(甲60)。もっとも、平成12年秋ころの心斎橋店の状況では、原告ブランドの商品と他ブランドの商品とが半分ずつとされている(甲5の1[221頁])。また、平成19年8月末ころの状況では、その割合は店舗によって異なるが、被服、服飾小物、鞄などにおいて複数ブランドの商品が扱われていた(乙133)。
 原告の売上高(他ブランドの商品を含む。)は、開店した平成12年度(年度は2月1日から翌年1月31日)が約3億円、平成13年度が約11億円、平成14年度が約12億5000万円、平成15年度が約20億5000万円と急増したが、平成16年度は約19億4000万円、平成17年度は約17億円、平成18年度は約16億円と漸減傾向にある(甲21)。
 この間、原告の支出した広告宣伝費用は、平成12年度及び平成13年度がそれぞれ約140万円、平成14年度が約645万円、平成15年度が約790万円、平成16年度が約1400万円、平成17年度が約2700万円、平成18年度が約4000万円であった(甲21)。
 原告は、当初は本件原告商標のみをオリジナル商品に使用していたが、平成14年ころから「clear crea」、「clearjean」の商標登録出願をしてこれらを使用し、その後「clear premium」の商標登録出願もしてこれを使用した(甲46ないし50、乙21の33頁以下)。また、平成15年4月頃から、原告ブランドよりも少し大人のイメージのブランドとして、「clair de masculo」の使用も始めた(甲5の30)。
b 原告の店舗及び原告ブランドの商品は、遅くとも平成12年11月以降、女性向けのファッション雑誌であるJJ誌(甲5の1ないし47、甲82の1ないし12)、CanCam誌(甲6の1ないし36)、ViVi誌(甲7の1ないし40)、JJBis誌(甲8の1ないし25)、「bis」(甲9の1ないし5)、Ray誌(甲10の1ないし34)、CLASSY誌(甲11の1ないし4)、「BLENDA」(甲12の1及び2)、「RyuRyu」(甲13の1ないし4)、「KOBE GIRL’S2005」(甲14)、「PINKY」(甲15の2ないし4)、「HONEY girl」(甲16の1ないし3)、「東海スパイガール」(甲17の1ないし10)といったファッション誌において、次のように掲載され、紹介された。
(a) モデルが掲載写真中で着用する被服等に使用されるとともに、当該商品の提供元として表示されたもの
 上記証拠中で原告が商品の提供先として表示された総頁数は、原告ブランドの商品が721頁、原告ブランドと他ブランドのダブルネーム商品が30頁、「clear crea」等の原告が有する関連ブランドの商品が129頁、原告が取り扱うインポート商品が314頁であった(乙21)。このうち、原告ブランドの商品についての掲載紙、掲載号、掲載商品数は、別紙1のとおりである(なお、同別紙の年月欄の記載は掲載誌の各号の発売時期を示すため、各掲載誌の号数とは2か月の差がある。)。
 ファッション誌においては、大部な誌上(例えば乙第135号証では450頁にもわたる。)に掲載される多数の商品のほぼすべてについて、商品の提供元が表示されており、1頁中に数十にもわたる商品が掲載されることも多く、上記のように原告が商品の提供元として表示される場合には、それらの中の一部の商品について、他の商品の提供元と共に小さな文字で表示されている。
(b) 原告の店舗や商品が特に取り上げられて紹介されたもの
 これらの数も多いが(甲90)、例えば、社団法人日本雑誌協会が「女性ヤング誌(ファッション・総合)」として分類するファッション誌の中で発行部数が多いCanCam誌、JJ誌及びViVi誌(甲92、乙94)における掲載記事の例として、次のようなものがある。
 なお、これらの記事は、原告が掲載料を支払う広告ではなく、各誌の独自企画記事に対して原告が商品を提供するというものであった(甲21中の原告の広告費明細、甲60)
@ JJ誌平成12年11月号(甲5の1)
 「早いコはもう常連! このごろお気に入りのNEW SHOP+何げに意外とOLなSHOP」という見出しの下、神戸、名古屋及び東京の各ショップが紹介された2頁の記事の中で、原告の店舗が、3つの神戸のショップの一つとして、「この店のイチオシはもちろんイプダ」として紹介された。
A JJ誌平成13年3月号(甲5の5)
 「キレイなシルエットと女のコらしいデザインが欲しいなら−可愛ゴーブランドへ急げ!」という見出しの下、4つのブランドが紹介された2頁の記事の中で、原告ブランドが「関西で大ブレイクのクリアは通販もあり」として紹介された。
B JJ誌平成13年6月号(甲5の8)
 「ワンピース夏の大決戦」という見出しの下、「お嬢さんワンピ東西対決」とした2頁の記事の中で、原告ブランドのワンピースが、他の3ブランドとともに紹介された。
 また、「…白シャツこれから買うなら襟がキレイに立つこの10枚!」という2頁の記事の中で、原告ブランドの白シャツが「関西発クリア」として紹介された。
C CanCam誌平成13年10月号(甲6の3)
 「今一番『それどこの?』って聞かれる関西ブランド!! clearの新作誌上通販しちゃいます!」とのタイトルの下、2頁にわたり、原告ブランドの商品が特集された。この記事の中では、 原告について、「C a n C a m に出るたび問い合わせ殺到!」、「去年からジワジワきていたclearブームがついに爆発」などと記載されている。
D JJ誌の別冊「可愛ゴーブック」平成13年12月発行(甲5の15)
 「可愛ゴーがよくわかるキーワード事典」という記事の中で、「神戸ならではの品揃えが魅力のショップ」の一つとして、原告の店舗が、他の店舗とともに、「神戸ガールのツボをしっかりおさえたオリジナルやセレクトものが確実に手に入る頼もしいショップです。」として紹介された。
 また別の記事中では、他の店舗と並んで、「関西一のカリスマショップ」として原告の店舗が紹介された。
E JJ誌平成14年4月号(甲5の19)
 「2002年改訂版 JJ用語大辞典」という記事の中で、「JJ読者の(C)を掴んで離さないショップ&ブランドを厳選」として、「関西発SHOP」の中で、原告が「安可愛なオリジナルからインポートまで、お嬢さんぽいアイテムがいっぱいのセレクトショップ」として紹介された。
F JJ誌平成14年10月号(甲5の25)
 「あのスタイル美人ブランドのプレスが自ら着て証明 これが『Sのコにこそ着てほしい』ウチのジャケット」の見出しの2頁の記事の中で、7ブランドの一つとして、原告ブランドのジャケットが紹介された。
G ViVi誌平成15年3月号(甲7の9)
 「有名読者モデルがバイトでショップスタッフをしている絶対行くべきOSAKA KOBEカリスマ8SHOP」という2頁の記事の中で、原告が8店舗の1つとして紹介された(なおここで紹介される原告のスタッフであるCは、「D」と呼ばれてファッション誌に頻繁に登場する読者モデルでもある。)。
H ViVi誌平成15年8月号(甲7の12)
 「名古屋出身2人の大好きSHOPツアー」の見出しの2頁の記事の中で、名古屋地区の他の10店と並んで、原告が、「関西カリスマショップが名古屋に!」として紹介された。
I ViVi誌平成16年4月号(甲7の18)
 「神戸ガールズのミニスタイル速報」の見出しの下、関西2大カリスマショップの一つとして、原告が、「関西読者の人気No.1ショップ」と紹介された。
c その他、原告は、平成14年以降の「JJナイト イン 大阪」、「JJナイト イン 神戸」、「神戸コレクション」(毎年2回開催される)、「スパイガールファッションショー」といったファッションショーに出展する(甲22ないし32、41、42[いずれも枝番含む])、 平成14年及び18年に関西のテレビ番組中で紹介される(甲33、37)、平成14年以降の各地の大学の学園祭に協賛する(甲44の各号)、平成15年秋ころの「リーバイス」や平成18年の花王の制汗剤「8×4」との共同企画(甲7の14、甲36)など他のブランドとの共同企画商品を開発する、平成16年3月に「ディベロッパーが選んだテナント大賞」の敢闘賞を受賞する(甲34の各号)などの活動を展開した。
 また、平成15年3月に原告が初めて名古屋に出店した(名古屋丸栄百貨店)際には、開店初日は雨の中開店前から2000人が並び、入店制限が続く状態であり、売上げは開店から2日間で3000万円に達したと報じられた(甲18、19)。
d 原告ブランドのデザイン上の特徴は、「神戸エレガンス」、「神戸系」などと称されている。「神戸エレガンス」とは「上品で綺麗に着こなすファッション」とされ、「神戸系」とは、「華やかな巻き髪に赤い花柄ワンピースといった、仕事にはやや派手なスタイルが中心」のファッションであるとされ、平成12年ころからJJ誌が提案して流行したファッションであった。原告ブランドも、JJ誌上で、「可愛ゴー」を代表する店舗ないしブランドとして取り上げられている(前記bA D など。なお、「可愛ゴー」とは、「可愛くてゴージャス」の略称であり、「女らしくて上品かつ華やかなスタイル」とされる[甲5の15]。)(甲60、76の各号、87、乙40)。
(イ) 被告及び被告ブランドについて
a 被告は、昭和55年に設立された会社であり、被告ブランドのほか、「INED」、「Le souk」、「ef−de」、「chereaux」、「en quete」等の合計17ブランドを展開している。平成16年度の被告全体の売上高は約574億円で、うちレディス関係の売上高が約548億円である。業界紙である繊研新聞社が発行するファッションブランドガイド「SENKEN FB2004」によれば、被告のレディス関係の売上高は、日本で第8位とされている(乙1、乙82)。
 被告ブランドは、平成16年9月から、従来存したブランドの「エ・ピウス・プレイス」をリニューアルする形で展開された(乙52)。展開当初の店舗は、北海道から沖縄まで35店舗であったが、平成18年2月には44店舗、平成19年2月には59店舗となった(乙88の1 。被告ブランド) は、都市型のターミナルビル、ファッションビル等に設けられた専門店で販売されているが、残っているエ・ピウス・プレイスの専門店でも販売されている(甲78の各号、乙88の2)。
 被告ブランドの売上げは、平成17年2月期が約23億円、平成18年2月期が約51億円、平成19年2月期が約66億円であった(乙86)。
 平成19年2月期に被告が被告ブランドのために支出した広告宣伝費は、8826万円であった(乙2)。
b 被告ブランドは、平成16年10月以降、JJ誌(乙100の1にし32)、CanCam誌(乙101の1ないし22)、「LUCI」(乙102の1ないし8)、Ray誌(乙103の1ないし19)、「With」(乙103の1ないし19)、「MORE」(乙105の1ないし16)、「Oggi」(乙106の1ないし10)、「Domani」(乙107の1ないし3、乙114)、「style」(乙108の1〜13)、「ef」(乙109の1ないし17)、「Vingtaine」(乙110の1ないし5)、CLASSY誌(乙111の1ないし8)、ViVi誌(乙112の1ないし8)、「BOAO」(乙113の1ないし3)といったファッション誌において、次のように掲載され、紹介された。
(a) モデルが掲載写真中で着用する被服等に使用されるとともに、当該商品の提供元として表示されたもの
 この形態での掲載紙、掲載号、掲載商品数は、別紙2のとおりである(乙72)。
(b) 被告ブランドについての特集記事が掲載されたもの
 この形態での掲載紙、掲載号は別紙2のとおりである(乙72)。
 これらはいずれも先に述べたタイアップ広告であり、JJ誌平成18年4月号から同年12月号については、プリンセス通勤のコンセプトの下、被告標章1ロゴが使用されている。
(c) 被告ブランドの商品が編集記事の中で掲載されたもの
 これには次のものがある。
@ Domani誌平成17年6月号(乙107の1)
 「Hさんrecommends! 『感動価格』アイテムに必ず出会えるDomani的新顔4ブランド」という1頁の記事中で、他の3ブランドとともに被告ブランドが紹介された。
A CanCam誌平成18年8月号(乙101の18)
 「小悪魔かわいいマッキーOL プリプラアイテム厳選10」として、被告ブランドのリボン付きカゴBAGが紹介された。
B Ray誌平成18年10月号(乙103の16)
 「人気8ブランド発OL style」の見出しの2頁の記事で、被告ブランドが紹介された。
(d) 被告ブランドの1頁広告が掲載されたもの
 JJ誌平成17年5月号(乙100の6)、同平成18年11月号(乙100の22)などがある。
c これ以外にも、被告ブランドは、被告のホームページやリーフレットに掲載されたほか(乙122、123)、その出店するビルの広報リーフレット・パンフレット・ホームページに掲載され(乙117、119、123、124)、それらビルが主催するファッションショーに出展するなどした(乙118)。
 また、被告ブランドは、平成16年9月以降、ドラマ「ホットマン2」等の数多くのテレビ番組において女優が着用する衣装として使用された(乙120、121)。
d 被告ブランドは、ファッション誌におけるタイアップ広告のタイトルが「今の時代OLは『ソフトコンサバ』服」(JJ誌平成16年11月号・乙100の2)、「通勤フェミニン派のきれい色プラン」(JJ誌平成17年4月号・乙100の5)、「お嬢さまOL『プリ通』の極意」(JJ誌平成18年4月号・乙100の15)等とあるように、「基本的にはコンサバティブでシック、洗練された上品さのテイスト」(乙53)を主眼としている。この点では、CanCam誌が「神戸系」に対抗して平成14年10月号から打ち出した「東京エレガンス系」という「会社に着ていけるモテ服」に近い(乙40)。
(ウ) 原告ブランドと被告ブランドとの混同、被告ブランドの略称表記の事例について
a 原告の調査によれば、平成19年3月までの間に原告の店舗に被告ブランドの問合せがされた件数は、少なくとも18件であった(甲49)。
 また、平成18年11月9日には、原告の通信販売部門に対して被告の商品の問合せをしてきた客があった(甲68)。
 さらに、「F」と題する個人ブログの平成18年10月24日の欄には、被告ブランドについて、「初めてこのお店見た時クリアの系列店かと思ってた。フランドルなのね汗」との記載があった(甲69)。
b ソーシャルネットワーキングシステム「mixi」の「CLEAR IMPRESSIPON」のトピックの中で、平成18年8月11日から平成19年5月24日にかけて、被告ブランドのことを「クリア」と呼んでいる書き込みが多数見られた(甲63の各号)。
 また、ヤフーオークションで被告ブランドの商品を出品する表示において、「クリアCLEAR IMPRESSION」と表記するものが2例(甲64の各号)、タイトルで「CLEAR」と表記し、紹介文で「CLEAR IMPRESSION」と表記するものが2例(甲65の各号)、「CLEAR(フランドル)」と表記するものが1例(甲66)あった。
 また、「G」と題する個人ブログの平成19年6月20日の欄には、被告ブランドについて、「Clear Impression」と「クリア」をとも共に表記する例があった(甲67)。
 また、平成19年10月19日に原告従業員が被告が経営する「エ・ピウス・プレイス」明石ビブレ店を訪れたところ、同店舗でも被告ブランドの商品を取り扱っており、同店舗の店員が被告ブランドのことを「クリア」と呼んでいた(甲78の1)。
c 他方、ヤフーブログで「クリアインプレッション」の語を検索したところ、25件の記事があった。また、Googleブログ検索で「クリアインプレッション」の語を検索したところ、約365件のブログ(ただし相当数は事業者によるものと思われる。)があった(乙125)。
(エ) 原告ブランド及び被告ブランド以外における「clear」ないし「クリア」の使用例について
a 平成19年5月29日時点で、「clear」「CLEAR」を語頭に有する登録商標及び商標登録出願は全区分で合計811件(乙8)、「クリア」を語頭に有する登録商標及び商標登録出願は、全区分で合計936件(乙9)存在する。
 また、被服や服飾品を指定商品に含む商標では、「clear−fort」(平成19年3月30日登録。乙67の各号。その実際の使用状況として乙68。)、「クリアスカイ」(昭和61年6月27日登録。乙69の1。その実際の使用状況として乙69の2)があり、このほかに、被告の関連会社である株式会社イネドが有する「CLEARIMPRESSION 」(登録日平成16年8月20日。甲81の各号)がある。
 なお、株式会社イネドは、平成18年11月7日及び平成19年4月1日に被告標章2を商標登録出願したが、前者の出願に対して特許庁は、平成19年8月30日、被告標章は原告との間で出所について誤認混合を生じさせるおそれがあること(商標法4条1項15号)及び本件原告商標等と類似すること(同4条1項11号)を理由として拒絶理由通知が発した(甲88の各号)。
b 一般のブログにおいて、「クリア」の語は、「2つの目標をクリア」、「ここまでの条件をクリアしたら」というように、目標を達成することの意味で用いられることが多い(乙125)。
 また、ファッション誌において「クリア」の語は、「クリアアクセ」、「クリアな石」、「クリアーなイメージのあるニット」などのように、「透明な」、「透明感のある」という意味で用いられている(乙55の各号)。
イ 上記ア(ア)で認定した事実によれば、原告ブランド及びその店舗は、平成12年3月に登場した後、折からの「神戸エレガンス」「神戸系」ファッションの流行に乗る形で、同年12月以降、大手のファッション誌で頻繁に紹介されるようになり、それらファッション誌の独自記事の中で、「関西で大ブレイク」とか「関西カリスマショップ」などとして紹介されるに至り、原告店舗での売上高も、他ブランドを含め平成12年度(初年度)の3億円が翌平成13年度には3倍以上の11億円、さらに平成15年度には更に約2倍の20億5000万円と急激に増加したことが認められ、これらの事実によれば、遅くとも被告ブランドの商品の販売が開始された平成16年秋の時点では、上記ファッション誌の主たる読者層である10代後半から20代前半の女性の間において、「Clear」との原告店舗の名称は、関西地方にある「神戸エレガンス」「神戸系」のセレクトショップとして、また原告ブランドは、その原告が提供する服飾のブランドとして、広く知られるに至っていたと認められる。
 これに対し被告は、原告は原告ブランドの専門店ではなく他ブランドの商品も取り扱うセレクトショップであること、本件原告商標が日本国周知著名商標集に登載されていないこと(乙19)、原告や原告ブランドが繊研新聞社が発表する各年のレディスアパレル業績ランキングやブランド年鑑に掲載されておらず、アパレル業界の売上高ランキングでは180〜200位程度に対応する売上高にすぎないこと(乙29ないし39、70)、広告費も少額であること、雑誌で取り上げられたといっても多数掲載される商品の一提供元として小さく表示される例が多いこと、原告の店舗展開は関西を中心にしているにすぎないこと等を指摘して、原告ブランドの周知性を否認する。
 しかし、被告が指摘する売上高や広告費の多寡は、ブランドの周知性を検討する一資料にすぎず、絶対的なものではない。日本国周知著名商標への登載の有無も同様である。前記のように原告ブランドは、JJ誌、CanCam誌、ViVi誌等の最大手のファッション誌の独自記事で広く取り上げられており、その取り上げ方も、単に掲載商品の提供元というだけでなく、原告の店舗と原告ブランドの双方に注目し、積極的に読者に紹介する形で大きく取り上げられることも多い。このように一つならぬ大手ファッション誌が、原告ブランド及びその店舗のことを独自に取り上げ、しかも「関西で大ブレイク」とか「関西カリスマショップ」といった読者の目を惹く紹介の仕方をしており、それに対応して売上高も急速に伸びたことからすると、原告ブランド及びその店舗の双方は、それらファッション誌での紹介を通じて、急速に需要者の間に知られるようになったものと認めるのが相当である。
 もっとも、それら雑誌での原告ブランドの紹介のされ方は、ほとんどの場合「関西のブランド」と、 しての紹介をされており、店舗展開も主として京阪神地区(一部名古屋地区も)にとどまっており、そのファッションも「神戸エレガンス」、「神戸系」に分類されている。また、原告ブランド自身が紹介されることも多いが、他ブランドの商品も扱うセレクトショップとして紹介されることも多い。このことからすると、原告ブランドは、前記認定のとおり、関西地方にある「神戸エレガンス」、「神戸系」のセレクトショップ及びそこが提供する服飾のブランドという個性をもって、広く知られるに至っていたものと認めるのが相当である。
ウ そこで次に、上記のように原告ブランドが広く知られていることから、被告標章2ないし5の要部が「CLEAR」であると認められるかを検討する。
(ア) 「IMPRESSION」の語は、「印象」の意味を有しており、服飾関係において商品の内容や品質を表すものでもなく、一般的に識別力が低いというわけではない。他方、「CLEAR」の語は、それ単独で使用されるときには「目標を達成すること」の意で用いられることも多いが、後に名詞が続く場合には、その名詞を修飾して「明るい」「澄み渡った」「透き通った」という性質・内容を表す言葉であり、それゆえに「クリア○○」とか「クリアな○○」という使い方も日常的にされ、「clear」を語頭部に有する商標も多数存在している。このことからすると、「clear」は、名詞と結びついた場合の識別力はさして高くないということができる。そして「CLEAR IMPRESSION」の場合も、「明るい印象」「澄み渡った印象」「透き通った印象」というまとまった観念を生じさせるものである。これらからすると、「IMPRESSION」の語が、「CLEAR」の付加語であるとの印象を生じさせるものとはいえず、「IMPRESSION」の識別力が低いとはいえない。
 原告ブランドが需要者の間に広く知られていると認められることは前記認定のとおりであるが、原告ブランドが周知性を有するのは単一の「clear」としてなのであって、「clear」の語が上記のように様々な名詞と結びついてその性質・内容を表す意味を有するものであることからすると、「clear」が広く知られているからといって、それが意味上の関連性を持って名詞と結びつき、しかもその結びつく名詞がそれ自体として識別力を有する場合にまで、その結合商標が「clear」のみによって識別されるということはできない。
(イ) また、原告ブランドも被告ブランドも、その需要層は20代の女性を含む点で共通しているが、原告ブランドは、前記のとおり、関西地方にある「神戸エレガンス」、「神戸系」のセレクトショップ及びそこが提供する服飾のブランドという個性をもって、広く知られるに至っていたものと認められる。これに対し、被告ブランドは、多数の服飾ブランドを擁し、レディスアパレル業界の売上高が8位である被告が、従来から存した「エ・ピウス・プレイス」をリニューアルする形で、当初から全国的に展開したもので、そのデザイン上の特徴も、「神戸系」に対抗して打ち出された「東京エレガンス系」に近いものである。原告ブランドと被告ブランドに共通する需要者である20代の女性は、特にファッションやブランドに敏感であることからすると、両者のブランドにこのような性質上の差異が存するにもかかわらず、単に「clear(CLEAR)」の語が共通することから、被告ブランドを原告ブランドのサブブランドであると一般に認識するとは認め難い。
(ウ) もっとも、インターネット上では、被告のことを単に「クリア」と呼んでいる例もあり、実際にも原告の店舗等に被告ブランドの商品の問合せがされた例があることは先に認定したとおりである。しかし、それらの個別事例があるからといって、被告標章が一般的に「クリア」と称呼されると認めることはできない。
 また、被告の関連会社である株式会社イネドが商標登録出願した被告標章2について、特許庁が本件原告商標と類似し、混同のおそれがあることを理由に拒絶理由通知をしたことは前記のとおりであるが、この出願に対する拒絶査定が確定したわけではない上、他方で被告標章2よりも本件原告商標との類似度が高いと考えられる「clear−fort」商標については、原告ブランドが周知となった後にも登録が認められているから、上記のような拒絶理由通知が発せられたことを重視することはできない。
(エ) したがって、被告が被告標章の使用を開始した平成16年秋の時点において、被告標章2ないし5の要部が「CLEAR」であると認めることはできない。
 また、その後について検討してみても、被告は、被告標章の使用を開始した後、全国の被告ブランドの取扱店舗を増加させ、それに伴い被告ブランドの売上げも急増しており、宣伝広告も行っているのであって、被告ブランドの認知度は急速に高まっていると認められるから、現時点においては、なおさら被告標章2ないし5の要部が「CLEAR」であると認めることはできない。
エ 以上より、被告標章1は本件原告商標に類似するが、被告標章2ないし5は本件原告商標に類似しない。したがって、原告の本件原告商標権に基づく被告標章2ないし5に関する請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
 また、原告の本件原告商標権に基づく被告標章1に関する請求については、被告は被告標章1を前記JJ誌上でのタイアップ広告でのみ使用したのであるから、その広告等への使用差止請求は理由がある(なお、被告が洋服、コート、セーター類、服飾雑貨、身飾品、ハンドバッグ、袋物以外の、靴や帽子に被告標章を使用していることを認める的確な証拠がないが、被告がそれらにも使用するおそれは十分に認められる。)が、被告標章1を被服等に付することや同標章を付した被服等を販売すること等の差止請求及び同標章を付した商品等からの同標章の抹消等の請求は理由がない。
3 争点(2)ア(本件原告商標の周知商品等表示性)、同イ(被告標章1、4及び5の使用の有無)及び同ウ(本件原告商標と被告標章の類否)について先に1及び2で述べたところからすると、被告は、本件原告商標は原告の周知商品等表示であると認められるところ、被告標章1は本件原告商標と類似すると認められるが、被告標章2ないし5は本件原告商標と類似するとは認められない。
 したがって、原告の不正競争防止法に基づく被告標章2ないし5に関する請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
4 争点(3)(損害額)について
(1) 被告標章1ロゴの使用状況について
 被告が被告標章1ロゴを使用したのは、次のJJ誌における特集記事の体裁のタイアップ広告であり、それぞれの頁数及び使用箇所数は、次のとおりである。
 平成18年4月号(甲4の2、乙100の15) 6頁、3箇所
 同年6月号(乙100の17) 9頁、6箇所
 同年7月号(乙100の18) 6頁、4箇所
 同年10月号(乙100の21) 4頁、2箇所
 同年11月号(甲53、乙100の22) 8頁、5箇所
 同年12月号(甲59、乙100の23) 8頁、4箇所
 なお原告は、甲第90号証に記載された上記以外の標章も被告標章1と実質的に同一であると主張するが、それらはいずれも「CLEAR」の文字と「IMPRESSION」の文字の大きさに顕著な相違がないから、それらを被告標章1と実質的に同一であると認めることはできない。
(2) 商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づく主張について
 原告は、被告標章1ロゴの使用による損害額について、被告ブランドの平成18年度の売上利益の額を基礎とする算定を主張する。
 しかし、前記のとおり被告標章1ロゴはJJ誌上のタイアップ広告において使用されたのみであり、被告ブランドの商品に付されたわけでもなく、また他の広告においては使用されていないのであるから、そのようなタイアップ広告における被告標章1ロゴの使用という侵害行為により被告が受けた利益の額については、これを認定し得る証拠はない。
(3) 商標法38条3項、不正競争防止法5条3項1号に基づく主張について
ア 原告は、上記のようなタイアップ広告における被告標章1の使用に対して「受けるべき金銭の額」として、平成19年2月期の被告ブランドの売上高(65億5000万円)に7%を乗じた額とすべきであると主張する。
 しかし、前記のとおり被告は被告標章1を上記のタイアップ広告のみに使用したのであり、その広告による被告ブランドの売上全般に対する影響は測定し難いから、商標を商品に付して販売した場合のように、被告ブランドの売上高を直ちに原告が「受けるべき金銭の額」を算定する基礎とするのは相当でないというべきである。
イ そこで、あらためて原告が「受けるべき金銭の額」を検討すると、次の点を考慮要素として指摘することができる。
@ 特集記事体裁のタイアップ広告は、広告色が薄く、誌面の中心ページ部分に掲載されることから、雑誌広告の形態の中で最も広告効果が高い(乙134 )。また、上記タイアップ広告の場合、平成18年の間に高い密度でなされている。
A JJ誌の広告料金は、表紙や裏表紙とは関係のない通常の「グラビア」の場合、1頁当たり230万円、タイアップ広告の場合このほか制作実費として1頁当たり35万円とされている(乙24)。もっとも特集記事の体裁のタイアップ広告においては、正規の広告掲載料金と比べて割安になっている(乙53)が、その程度は明らかでない。
B 先に認定したとおり、被告の店舗数・売上高は、上記タイアップ広告がされる前の平成18年2月期に44店舗・約51億円であったのが、上記タイアップ広告がされた平成19年2月期には59店舗・約65億円となった。この店舗数及び売上高の増加には、上記タイアップ広告の影響もあると考えられる。しかし、被告ブランドの売上げは、最初の平成17年2月期(平成16年秋から平成17年2月末まで)でさえ約28億円(1年ベースに換算すると約50億円)であったのであるから、被告ブランドが従来展開されていたエ・ピウス・プレイスをリニューアルする形で展開されたことも踏まえると、エ・ピウス・プレイスのリニューアルを進めること自体によって店舗数や売上げが増大する面もあり、また他の広告活動の影響も当然に存する。そうすると、上記売上高の増大にとって、上記タイアップ広告の影響が大きなものであったのかについては疑問が残るところである。
C 先に認定したとおり、原告ブランドは、関西地方にある「神戸エレガンス」、「神戸系」のセレクトショップ及びそこが提供する服飾のブランドという個性をもって、広く知られるに至っていたものと認められるが、他方、被告ブランドは、当初から全国的に展開したもので、そのデザイン上の特徴も、「神戸系」に対抗して打ち出された「東京エレガンス系」に近いものであり、しかもその展開開始時点から、年間ベースで約50億円の売上規模を有していたのであるから、被告標章1ロゴを使用したからといって、被告ブランドが原告ブランドのブランドイメージに便乗したとは必ずしもいえない。
 以上の諸点に加え、先に認定した被告標章1ロゴの使用回数、使用態様等を考慮すると、商標法39条・特許法105条の3又は不正競争防止法9条により、被告標章1ロゴの使用により原告が「受けるべき金銭の額」は、商標権侵害、不正競争防止法違反のいずれによっても300万円とするのが相当である。
(4) 無形損害について
 原告は、被告標章1の使用による信用毀損に基づく無形損害として合計3500万円の損害も主張するが、被告標章1の使用により原告の信用が毀損されたことを認めるに足りる証拠はない。
5 まとめ
 以上によれば、原告の本件請求は、被告に対して、商標権侵害に基づき、@被告標章1の使用の差止め、A300万円の損害賠償及びこれに対する平成19年3月27日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお商標権に基づく請求と選択的併合の関係にある不正競争防止法に基づく請求は、商標権侵害に基づく請求が認容され、不正競争防止法に基づく請求も同じ限度で認容されるにとどまることから、取り下げられたものとして扱う。)が、その余については理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 高松宏之
 裁判官 西理香
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