判例全文 line
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【事件名】商標“ROYAL ARMANY”侵害事件(2)
【年月日】平成20年1月17日
 知財高裁 平成19年(行ケ)第10142号 審決取消請求事件
 (平成19年10月22日 口頭弁論終結)

判決
原告 X
訴訟代理人弁理士 三嶋景治
被告 ジェ ア モドゥフィヌ ソシエテ アノニム
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 宮川美津子
同弁理士 田中景子
同 廣中健


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2006−89091号事件について平成19年3月14日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかな事実
1 特許庁における手続の経緯
 本件は、商標権者である原告がその登録商標につき商標登録無効の審決を受けたので、その審決の取消しを求めている事案である。
 特許庁における手続の経緯は、次のとおりである。
 原告は、右に表示(商標イメージ略)の構成より成り、指定商品を第14類「時計」とする登録商標第4795941号(平成16年1月30日出願、同年8月20日設定登録)の商標の商標権者である(甲1)。
 被告は、平成18年7月10日、特許庁に対し、本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした(無効2006−89091号事件として係属)。これに対し、特許庁は、平成19年3月14日、「登録第4795941号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をし、その謄本は、同月28日に原告に送達された。
2 審決の理由の要旨
(1) 審決は、次のとおり、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものと認められるから、同法46条1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものであるとした。
(2) 本件商標
 上記1のとおりである。
(3) 引用商標
@ 登録第2024747号商標(甲2、3。以下「引用商標1」という。)
A 国際登録第695685号商標(甲4、5。以下「引用商標2」という。)
 右に表示(商標イメージ略)の構成よりなり、第9類、第14類、第16類、第18類及び第25類に属する国際登録において指定された商品を指定商品として、2001年(平成13年)11月6日に我が国を事後指定し、その後、指定商品については、2002年(平成14年)7月10日付けの手続補正書により、第9類に属する「sunglasses, corrective glasses and sports glasses; spectacle frames, spectacle glasses, spectacle cases, eyeglasses chains, pince-nez.」他、第14類に属する「horological and chronometric instruments.」他、第16類、第18類及び第25類に属する商品に補正され、同年9月6日に設定登録されたものである。
B 登録第2653840号商標(甲6、7。以下「引用商標3」という。)
C 登録第4076267号商標(甲8、9。以下「引用商標4」という。)
D 国際登録第782614号商標(甲10。以下「引用商標5」という。)
 右に表示(商標イメージ略)の構成よりなり、2002年3月26日にSwitzerlandにおいてした商標登録に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して同年6月6日に国際登録、その後、指定商品及び指定役務については、2003年(平成15年)3月17日付けの手続補正書により、第14類に属する「horologicaland chronometric instruments.」他、第9類、第18類に属する商品、第35類に属する「advertising services on behalf of third parties in connection with marketing and sale of timepieces; commercial management and administration, in particular of shops retailing timepieces.」他、第43類に属する役務に補正され、同年5月30日に設定登録されたものである。
E 登録第1636037号商標(甲12、13。以下「引用商標6」という。)
F 登録第1650964号商標(甲14、15。以下「引用商標7」という。)
G 登録第1670740号商標(甲16、17。以下「引用商標8」という。)
H 登録第2450396号商標(甲18、19。以下「引用商標9」という。)
I 国際登録第788498号商標(甲20、21。以下「引用商標10」という。)
(3) 審決の認定判断の要点
ア 引用商標(引用商標1〜10の総称)の著名性について
 請求人(判決注:被告)提出の証拠によれば・・・引用商標2及び5は、本件商標の登録出願(平成16年1月30日)前より、イタリアのデザイナー「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の「ARMANI」商標群の一つとして、時計(腕時計)に使用され、盛大かつ継続的に宣伝広告された結果、前記「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の取り扱いに係る商品を表示する商標として、わが国において、商品「時計」の需要者間において広く認識されていたことが認められ、その周知・著名性は、本件商標の出願時ないし登録査定時(平成16年7月15日)においても継続していたことを認めることができる。(審決21頁13行〜23頁14行)
イ 本件商標と引用商標との類似性について
(ア) 本件商標
 本件商標は、・・・等間隔の横線を有する翼を左右に広げ、右向きの頭部に冠を配した猛禽類の図形と、その下に「ROYAL ARMANY」の文字を配した構成よりなるものである。そして、当該構成中の「ROYAL ARMANY」の文字は、「ROYAL」と「ARMANY」との間に半文字分程の空白(スペース)があり、視覚上分離して認識されるだけでなく、これを常に一体不可分のものとして看取すべき格別の理由も見いだせないものである。しかして、そのうちの「ROYAL」の文字部分は、それに続く語を「極上(の)、高級(な)」等の意味合いで形容する語と看取される結果、自他商品識別標識としての機能を果たす主要部は、「ARMANY」の文字部分にあり、本件商標に接する取引者、需要者は、該「ROYALARMANY」中の「ARMANY」の文字部分に着目して取引に資する場合も決して少なくないというのが相当である。してみると、本件商標からは、該「ROYAL ARMANY」の全体文字に相応して生ずる「ロイヤルアルマニイ」の称呼とは別に、「ARMANY」の文字部分より「アルマニイ」の称呼をも生ずるというべきである。また、本件商標の構成からは、第一義的には特定の観念を生じないものである。(23頁17行〜下から6行)
(イ) 引用商標
 引用商標2は、頭部を右向きにし、等間隔の横線を有する翼を左右に広げた猛禽類の図形の下部に欧文字「GA」を白抜きで表示した構成よりなるものである。引用商標5は、「EMPORIO」と「ARMANI」との文字間に、前記引用商標2の図形を配した構成よりなるものである。そして、引用商標5からは、「EMPORIO ARMANI」の文字部分の全体に相応して「エンポリオアルマーニ」の称呼を生ずるほか、前記著名なデザイナー「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の略称であり、同人の取扱いに係る商品を表示する標章として知られ、強い印象力を有する「ARMANI」の文字部分に相応して「アルマーニ」の称呼をも生ずる。(23頁下から4行〜24頁7行)
(ウ) 商標の類似性
 本件商標中の文字部分「ROYAL ARMANY」の構成中にあって、取引上ひときわ強く着目される「ARMANY」の文字部分と著名なイタリアのデザイナー「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の略称であって、同人の取り扱いに係る商品を表示する標章として広く知られ、強い印象力を有する「ARMANI」の文字部分とを対比するに、両者は、冒頭からの「ARMAN」の5文字を共通にし、その異なるところは、末尾における「Y」と「I」の文字の差にすぎない。しかるに、「Y」と「I」は、ともに「イ」の音、母音(i)を共通にする近似した文字といえるだけでなく、その前段にあって圧倒的な比率を占める「ARMAN」の各文字にいずれも続くことから、双方を誤り又は綴り字を取り違えるおそれが十分にあるものとみるのが相当である。・・・また、本件商標中の「ROYAL ARMANY」の文字における「ARMANY」より生ずる称呼「アルマニイ」と、著名なデザイナー「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の略称であり、同人の取り扱いに係る商品を表示する標章として広く知られ、強い印象力を有する「ARMANI」より生ずる称呼「アルマーニ」とを対比すると、両者は、称呼の識別上重要な要素を占める語頭からの「ア」「ル」「マ」「ニ」の各音を同じくし、その異なるところは、後者の第3音目の「マ」に長音(「ー」)を伴うことと、前者の第4音「ニ」(ni)に同母音「イ」(i)を伴うことの微差にすぎない。しかるに、長音は、前音「マ」をやや伸ばすにすぎず、音調・音感を同じくするし、また、「ニ」に続く「イ」も前音「ニ」の母音(i)を若干伸ばす程のものであって、これまた「ニ」と音調・音感を同じくするものであるから、両者を全体として、それぞれ一連に称呼するときは、彼此聴き誤るおそれのある類似の商標と認め得る。さらに、本件商標中の図形部分と引用商標2及び5並びに10の図形部分とは、双方を仔細にみれば、王冠や目の有無及び首の部分に差異があるとしても、いずれも頭部を右向きにし、等間隔の横線を有する翼を左右に広げた基本構図を同じくしていること、また、種類は定かでないとしても、嘴の鋭利さから、いずれも猛禽類の図形を看者にイメージさせる点において、共通している。しかも、文字や図形の商標が時計(殊に、腕時計)に使用されるときには、当該商標は、文字盤内に小さく表示されるのが一般的であり、そうした取引の実情よりすると、本件商標中の図形部分と引用商標2及び5並びに10の図形部分の些細な異同は、需要者にとって、「頭部を右向きにし、等間隔の横線を有する翼を左右に広げた猛禽類の図形」という基本構図の共通性に比べ、さほど気にもされず、優に捨象して看取される場合が多いとみるのが相当であるから、両商標は、外観上及び第二義的には観念上も極めて近似したものとして看取し把握され、あるいは記憶して取引に資される場合が決して少なくないというべきである。以上のとおりであるから、上記称呼、外観及び観念上の近似性を含めて総合勘案すると、本件商標と引用商標とは、その類似性の程度が決して低いものということはできない。(24頁9行〜25頁16行)
ウ 商品の関連性
 本件商標の指定商品が「時計」であるのに対し、引用商標は、前記1のとおり、被服をはじめとして、時計を含む各種商品に使用されているものであり、特に、引用商標1、3及び4は、その指定商品中に「時計」を包含しており、また、引用商標2及び5は、その指定商品中に「時計」と類似する商品「計時用具」を含んでいるものである。してみると、本件商標の指定商品は、引用商標の使用に係る商品と同一又は類似するか、あるいは、ともにファッション関連商品同士であって、その関連性が相当に高いものというべきであり、しかも、その需要者層を共通にするものである。(25頁18行〜26行)
エ 出所混同のおそれについて
 引用商標の周知・著名性の程度、本件商標と引用商標との類似性の程度、使用に係る両商品間の密接な関連性、需要者層の共通性等を総合勘案すると、本件商標の登録出願時ないし査定時において、被請求人が本件商標をその指定商品「時計」に使用した場合、これに接する需要者等は、引用商標を想起し連想して、該商品を前記デザイナー「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)」の取り扱いに係る商品、あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者(例えば、請求人等)の業務に係る商品であるかの如く誤信し、その出所について混同を生ずるおそれが十分にあったものといわなければならない。・・・したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。(25頁28行〜26頁14行)
オ むすび
 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものと認められるから、請求人の主張するその余の無効理由について判断を示すまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。(26頁16行〜19行)
第3 原告主張の取消事由
 審決は、引用商標が著名であると誤認し(取消事由1)、本件商標が他人の業務に係る商品又は役務との混同のおそれがあると誤認し(取消事由2)、その結果、本件商標が商標法4条1項15号に違反して登録されたものとの誤った結論を導いたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用商標が著名であるとの誤認)
(1) 審決は、「引用商標2及び5は、本件商標の登録出願(平成16年1月30日)前より、イタリアのデザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の『ARMANI』商標群の一つとして、時計(腕時計)に使用され、盛大かつ継続的に宣伝広告された結果、前記『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の取り扱いに係る商品を表示する商標として、わが国において、商品『時計』の需要者間において広く認識されていたことが認められ、その周知・著名性は、本件商標の出願時ないし登録査定時(平成16年7月15日)においても継続していたことを認めることができる。」(前記第2の2(3))と認定したが、誤りである。
 引用商標2及び5が、時計(腕時計)に使用されている事実は認めるが、デザイナーであるGIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)(以下「G.アルマーニ」という。)の取り扱いに係る商品を表示する商標として、我が国の需要者層において広く認識されていると認められる事実は認められない。そもそも、G.アルマーニ本人ではない被告が、過去3年以上にわたり、引用商標1ないし10を使用していた事実が認められないのであって、被告には、保護に値する業務上の信用の存在が認められない。
 また、引用商標2及び5が時計(腕時計)に使用されていたとしても、それがG.アルマーニの取り扱いに係る全商品を表示する商標として我が国で著名であるとされる理由にはならない。
(3) 被告は、「ARMANI」、「アルマーニ」の標章(以下「ARMANI標章」という。)は、デザイナーであるG.アルマーニの氏名又はそのデザインに係る商品群を表示するブランドとして著名な「GIORGIO ARMANI」「ジョルジオアルマーニ」の略称を表すものとして、我が国ファッション関連の商品の分野において広く認識されていた旨主張する。
 しかし、その欧文字の発音表記としての片仮名文字「アルマーニ」の表記は、被告以外の者によるものであるとは認められるが、被告が、アルマーニ標章を略称として使用している事実はないから、「ARMANI」、「アルマーニ」の表示に接する者が、デザイナーの氏名であるG.アルマーニを直ちに想起するほどに、その略称として広く認識されているとはいえない。
 被告は、「ARMANI」、「アルマーニ」が、これらの表示に接したものが「GIORGIO ARMANI」を想起するほどに「GIORGIO ARMANI」の略称として広く認識されていたものであり、「ARMANI」、「アルマーニ」の略称が商標として使用されていたか否かは問題ではない旨主張するが、そのような立論は失当である。
(4) G.アルマーニがファッション関連のデザイナーとして著名であるとしても、その事実は、G.アルマーニの人格権の一つであって、一身専属的なものと認められる。一方、被告は、引用商標の権利者であっても、G.アルマーニ自身ではないから、G.アルマーニの著名性ゆえの信用が被告に化体するとは認められない。
2 取消事由2(他人の業務に係る商品又は役務との混同のおそれについての判断の誤り)
(1) 本件商標について
 審決が、本件商標について、「本件商標は、・・・等間隔の横線を有する翼を左右に広げ、右向きの頭部に冠を配した猛禽類の図形と、その下に『ROYAL ARMANY』の文字を配した構成よりなるものである。」と認定した点は認める。
 しかし、「そして、当該構成中の『ROYAL ARMANY』の文字は、『ROYAL』と『ARMANY』との間に半文字分程の空白(スペース)があり、視覚上分離して認識されるだけでなく、これを常に一体不可分のものとして看取すべき格別の理由も見いだせないものである。・・・本件商標からは、該『ROYALARMANY』の全体文字に相応して生ずる『ロイヤルアルマニイ』の称呼とは別に、『ARMANY』の文字部分より『アルマニイ』の称呼をも生ずるというべきである。また、本件商標の構成からは、第一義的には特定の観念を生じないものである。」(前記第2の2(3)イ(ア))と認定したのは、誤りである。
 しかし、あえて本件商標の文字部分に注視したとしても、本件商標の文字部分は、特定の観念の生じない造語商標であるから、一連一体のひとまとまりの「ROYALARMANY」(ローヤルアルマニイ)として「創造語」的な商標と認めるべきものであって、しかも、「ROYALARMANY」と略一連一体に横書きにしてなる態様であるから、特に、冗長感はなく、通常の取引に当たり、一体不可分の商標と認めるのが合理的判断であって、需要者において、視覚上分離して「ROYAL」(ローヤル)あるいは「ARMANY」(アルマニイ)として認識、看取されるような特段の外観とはいえない。
 また、原告は、「ROYAL」(トップ、最高、最優秀)、「A」(Availability;適用性)、「R」(Reliability;信頼性)、「MANY」(多くの、多芸多才)を結合し、「多くの適用性・信頼性を得てトップになる。」との意味合いを含めて、「ROYALARMANY」(ローヤルアルマニイ)の語を選定したものであって、原告独自の創造語である。原告が本件商標を選定した当時、その指定商品である「時計」のインターネット取引業界では、前記デザイナーや同氏の使用に係る商標を知る機会になかったのが実情である。
(2) 引用商標について
 審決は、「引用商標2は、頭部を右向きにし、等間隔の横線を有する翼を左右に広げた猛禽類の図形の下部に欧文字『GA』を白抜きで表示した構成よりなるものである。引用商標5は、『EMPORIO』と『ARMANI』との文字間に、前記引用商標2の図形を配した構成よりなるものである。そして、引用商標5からは、『EMPORIO ARMANI』の文字部分の全体に相応して『エンポリオアルマーニ』の称呼を生ずるほか、前記著名なデザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の略称であり、同人の取扱いに係る商品を表示する標章として知られ、強い印象力を有する『ARMANI』の文字部分に相応して『アルマーニ』の称呼をも生ずる。」(前記第2の2(3)イ(イ))と認定したが、誤りである。
引用商標2の商標は、鳩又は鳥が羽ばたいた影絵に横線を等間隔に配し、足部にGAの文字を記載して成る外観を有する商標であり、引用商標5の商標は、「EMPORIO」の文字と「ARMANI」の文字間に引用商標2の図形を文字の大きさに配して成る構成態様の商標である。また、引用商標5がG.アルマーニの略称として、また、G.アルマーニの取り扱い商品全体を表示する標章として、さらに、その商標を単に「アルマーニ」として称呼取引に供されているとされるなどの取引事情は認められない。
(3) 商標の類似性について
 審決は、「本件商標中の文字部分『ROYAL ARMANY』の構成中にあって、取引上ひときわ強く着目される『ARMANY』の文字部分と著名なイタリアのデザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の略称であって、同人の取り扱いに係る商品を表示する標章として広く知られ、強い印象力を有する『ARMANI』の文字部分とを対比すると・・・双方を誤り又は綴り字を取り違えるおそれが十分にあるものとみるのが相当である。」、「本件商標中の『ROYAL ARMANY』の文字における『ARMANY』より生ずる称呼『アルマニイ』と、著名なデザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の略称であり、同人の取り扱いに係る商品を表示する標章として広く知られ、強い印象力を有する『ARMANI』より生ずる称呼『アルマーニ』とを対比すると・・・両者を全体として、それぞれ一連に称呼するときは、彼此聴き誤るおそれのある類似の商標と認め得る。」(前記第2の2(3)イ(ウ))と認定したが、誤りである。
 本件商標の文字部分は、上記のとおり、一連一体の商標であり、しかも、本件商標の一連一体の文字全体からは、特定の意味合いが直感的に認識、看取されない創造語とみられるから、本件商標の文字部分を意図的に分離分断してする類否判断は、そもそも失当である。
 また、審決は、「本件商標中の図形部分と引用商標2及び5並びに10の図形部分とは、双方を仔細にみれば、王冠や目の有無及び首の部分に差異があるとしても、いずれも頭部を右向きにし、等間隔の横線を有する翼を左右に広げた基本構図を同じくしていること、また、種類は定かでないとしても、嘴の鋭利さから、いずれも猛禽類の図形を看者にイメージさせる点において、共通している。」(前記第2の2(3)イ(ウ))と認定したが、誤りである。
 引用商標2は、鳩又は鳥が飛び立つ図であるから、本件商標が「頭部、嘴、目」等全体から容易に「猛禽(タカ或いはワシ)類」と認識される図形とでは、容易に区別することができる。また王冠の有無及びタカ又はワシの頭部を翼の中に置き、鋭い「目」を表現して成る本件商標との違いは歴然としている。
 したがって、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼、観念のいずれから総合勘案しても判然と区別することができ、取引上も容易に区別し得るものである。
(4) 商品の関連性について
 審決は、「本件商標の指定商品が『時計』であるのに対し、引用商標は、・・・被服をはじめとして、時計を含む各種商品に使用されているものであり、特に、引用商標1、3及び4は、その指定商品中に『時計』を包含しており、また、引用商標2及び5は、その指定商品中に『時計』と類似する商品『計時用具』を含んでいるものである。」(前記第2の2(3)ウ)と認定するが、誤りである。
 引用商標1ないし10のうち、引用商標2、5、6、8、10は、使用されていることは認めるが、その余の引用商標、特に、引用商標1、3、4は、指定商品として「時計」の記載があるが、これらが使用されている事実は認められない。また、引用商標2、5の指定商品は「時計」ではなく、「計時用具」であるが、その指定商品が具体的に何を表示しているのか不明であって、我が国の時計取引業界にてそれが一般時計販売店にて販売されている商品とはいい難く、ファッション関連商品であるともいえない。
(5) 出所混同のおそれについて
 審決は、「本件商標の登録出願時ないし査定時において、被請求人が本件商標をその指定商品『時計』に使用した場合、これに接する需要者等は、引用商標を想起し連想して、該商品を前記デザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の取り扱いに係る商品、あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者(例えば、請求人等)の業務に係る商品であるかの如く誤信し、その出所について混同を生ずるおそれが十分にあった」(前記第2の2(3)エ)と判断したが、誤りである。
 前記のとおり、引用商標が周知・著名であるとは認められず、しかも、本件商標と引用商標とは類似していないから、出所について混同を生ずるおそれはないものである。
 上記のとおり、被告は、引用商標の権利者であっても、G.アルマーニ自身ではないから、G.アルマーニの著名性ゆえの信用が被告に化体するとは認められない。G.アルマーニの名前が周知・著名であって、同人とは異なる者が引用商標を使用すれば、消費者が出所混同することが明らかである。
 原告は、株式会社三島商事の代表者であるが、本件商標の設定登録を受けた後、平成17年3月ころより、当該会社において、主にインターネットにおける卸販売を行っているものであって、いわゆる対面販売である一般消費者との直接の卸販売を行っているものではないから、被告の販売形態とは異なっており、その意味でも、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれはない。
第4 被告の反論
 審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用商標が著名であるとの誤認)に対して
(1) 原告は、引用商標2及び5が、G.アルマーニの取り扱いに係る商品を表示する商標として、我が国の時計の需要者層において広く認識されているとは認められない旨主張する。
 しかし、引用商標1ないし10の総体ともいうべきARMANI標章は、服飾デザイナーであるG.アルマーニの氏名又はそのデザインに係る商品群を表示するブランドとして著名な「GIORGIO ARMANI」、「EMPORIO ARMANI」の略称を表すものとして、我が国のファッション関連の商品の分野において広く認識されていたものである。
 ARMANI標章に接した取引者、需要者は、世界的に著名なG.アルマーニとともに、「EMPORIO ARMANI」をはじめとするブランドを想起するのであって、仮に、略称たる「ARMANI」や「アルマーニ」が「商標」として「EMPORIO ARMANI」(エンポリオ・アルマーニ)ブランドの商品に付されて使用されていないとしても、そのことは「ARMANI」「アルマーニ」が「EMPORIO ARMANI」(エンポリオ・アルマーニ)の略称として広く認識されているという事実を何ら左右するものではない。
 なお、引用商標1ないし10についても、いずれもG.アルマーニの取り扱いにかかるファッション関連商品の出所表示として著名であり、とりわけ引用商標2及び5は、商品「時計(腕時計)」について使用され、平成11年より継続的に広告宣伝を行ってきたものであり、本件出願時である平成16年1月30日には、既に引用商標2及び5を付した時計(腕時計)が取引者、需要者の間で大きな人気を博していたものである。しかも、引用商標2及び5は、時計(腕時計)のみならず、婦人服・紳士服、かばん、靴、サングラス、ベルト等多彩なファッション関連商品に使用されていたものである。
(2) 原告は、G.アルマーニがファッション関連のデザイナーとして著名であるとしても、その事実は、G.アルマーニの人格権の一つであって、一身専属的なものであり、一方、被告は、引用商標の権利者であっても、G.アルマーニ自身ではないから、G.アルマーニの著名性ゆえの信用が被告に化体するとは認められない旨主張する。
 しかし、仮にある商標がある特定の人物の「氏名」に由来するとしても、当該氏名又はその略称が商品の出所識別標識として使用された場合には、それは「商標」として機能するのであって、「氏名」であるから「商標」とはなりえないとか、「商標」であるから「氏名」ではないというように、両者が相互排他的な関係にあるものではない。ある商標が「人名」に由来するものであっても、それが「商標」として使用され、いったん登録商標として設定登録されると、商標権が発生し、これが他の財産権と同様に自由に譲渡し得るもので、また更新登録を繰り返すことによって、由来する氏名の主の消長にかかわらず、半永久的に存続し得る財産権となることは、商標法上明白である。
2 取消事由2(他人の業務に係る商品又は役務との混同のおそれについての判断の誤り)に対して
(1) 本件商標
ア 本件商標は、左右に翼を広げた猛禽類を図案化した図形の下に、特段特徴のない英文字ブロック体で書した「ROYAL ARMANY」の文字を結合してなるものであるところ、図形部分と文字部分に外観上の関連性は認められないから、図形部分と文字部分がそれぞれ分離して観察され、また、本件商標が使用された「腕時計」には、文字盤に本件商標の文字部分と同一の文字のみが、ベルトの留め金の部分や時計本体の裏蓋に本件商標の図形部分が、それぞれ分離して付されたものが存在するので、このような取引の実情に照らせば、本件商標は、その図形部分と文字部分を分離して個別に引用商標等と対比されるべきである。また、本件商標の文字部分を構成する「ROYAL ARMANY」の文字部分は、「ROYAL」と「ARMANY」の間に半文字程度の空隙を有することから、これらの2語を結合したものと容易に看取される。
イ 原告は、本件商標の文字部分は、特定の観念の生じない造語商標であるから、一連一体のひとまとまりの「ROYALARMANY」(ローヤルアルマニイ)として「創造語」的な商標と認めるべきものであって、しかも、「ROYALARMANY」と略一連一体に横書きにしてなる態様であるから、特に、冗長感はなく、通常の取引に当たり、一体不可分の商標と認めるのが合理的判断である旨主張する。
 しかし、「ROYAL」の語は、時計については品質表示語として使用されているから、本件商標の文字部分のうち「ROYAL」には、自他商品識別力がないか、あっても極めて微弱なものであって、原告の上記主張は、そもそも失当である。
ウ 原告は、「ROYALARMANY」(ローヤルアルマニイ)の語が原告独自の創造語である旨主張する。
 しかし、G.アルマーニの世界的著名性を考慮すると、原告が本件商標の選定当時においてその氏名や商標を認識していなかったなどということはあり得ず、本件商標の「ARMANY」の文字部分が、原告がその取引先に対して再三注意を喚起しなければならないほどにARMANI標章と相紛らわしいものであることを併せ考えると、原告は、本件商標の採択当時、G.アルマーニの氏名、略称及びその使用にかかる商標を認識し、その著名性や顧客吸引力に便乗する目的をもって、それに接近すべく本件商標を採択した可能性が極めて高い。
(2) 引用商標について
 審決が認定するとおり、引用商標2、5及び10の図形部分は、頭部を右向きにした等間隔の横線を有する翼を左右に広げた猛禽類の図形の下部に欧文字「GA」を白抜きで表示した構成よりなるものである。引用商標5の文字部分からは、G.アルマーニの略称として、かつ、同人の取扱いに係る商品に使用される「ARMANI」の文字を顕著に含む商標の略称として、広く認識されて強い自他商品識別力と顧客吸引力を有する「ARMANI」の文字部分が需要者、取引者の注意を引き、強い印象を与える結果、当該文字に応じて「アルマーニ」の称呼を生じる。
(3) 商標の類似性について
 本件商標の文字部分及び図形部分は、それぞれG.アルマーニの略称であるアルマーニ標章及び引用商標と高い類似性を有するものであるから、このような文字と図形を結合した本件商標は、全体として、G.アルマーニの著名な略称、アルマーニ標章及び引用商標と、外観、称呼及び観念の上で極めて相紛らわしいものである。
(4) 商品の関連性について
 引用商標2及び5は、まさに、時計(腕時計)に付されて使用されているものであって、本件商標の指定商品と全く同一であるから、本件商標の指定商品と引用商標2及び5が使用される商品との間に密接な関連性があることは明白である。
 原告は、引用商標2、5の指定商品は「時計」ではなく、「計時用具」であるが、その指定商品が具体的に何を表示しているのか不明であって、我が国の時計取引業界にてそれが一般時計販売店にて販売されている商品とはいい難く、ファッション関連商品であるともいえない旨主張する。
 しかし、引用商標2及び5は、いずれも、我が国を指定する国際登録であり、商標登録原簿上、英語で記載されたその指定商品は、「horological and chronometric」であるところinstruments(甲5、11)、「horological」には「時計の」の意義があるから、「horological instruments」は「時計器具」であって、「時計」及び「腕時計」を含むものであることは明白である。「計時用具」は、特許庁が商標公報に掲載した参考訳にすぎないものであるにすぎない。そもそも、商標法4条1項15号は、具体的出所の混同を生じさせる商標の登録を排除するものであるから、同号の適用において問題とされるべきは、出所混同が生じる対象とされる他人の商標が、現実にいかなる商品について使用されているかであって、当該他人の商標がいかなる指定役務について登録されているかではない。
 本件において、引用商標2及び5は、実際に時計(腕時計)について使用されて、我が国における時計及びその他のファッション関連商品の需要者の間に広く知られているのであるから、引用商標2及び5の指定商品の英訳として記載されている「計時用具」なる語がいかなる商品を意味するものであるかという問題は、商標法4条1項15号該当性と関連性がなく、本件商標が商品「時計」について使用された場合に、引用商標を付された被告の業務にかかる商品との間で混同を生じるおそれがある事実を何ら左右するものでない。
(5) 出所混同のおそれについて
ア G.アルマーニの略称の著名性、アルマーニ標章の著名性及び引用商標の著名性、本件商標と、上記G.アルマーニの略称、アルマーニ標章及び引用商標との間の高い類似性、本件商標の指定商品と、上記G.アルマーニの略称、アルマーニ標章及び引用商標が使用されている時計(腕時計)を含むファッション関連商品との間の密接な関連性、並びに、現実に本件商標が使用されている態様に照らすと、本件商標がその指定商品である「時計」に使用された場合に、取引者、需要者において、それがG.アルマーニ又は同人と経済的若しくは組織的な関連を有する者(例えば被告)の業務に係る商品であるかのように誤信し、その出所について混同を生ずるおそれがあることが明白である。
イ 現に、被告の関連会社であるジョルジオ・アルマーニ・ジャパン株式会社の本社及び直営店に対して、本件商標の付された時計が、被告の取り扱いにかかる商品であると誤認した消費者から、「取り扱い商品なのか?」、「修理してほしい」、「定価30万円が安くなっていたのを買ったが大丈夫なのか?」などの問合せが頻繁にあり、同社は、これらの問合せに対して、被告の取扱いにかかる商品ではないことを説明しているが、消費者の納得を得るまで説明するのに非常に時間を要したケースもある。これらの事実に徴しても、まさに本件商標を付した商品の出所について現実に混同が生じていることが明白である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標が著名であるとの誤認)について
(1) アルマーニ標章(引用商標ではない)の著名性について
ア 証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。なお、枝番のあるものは、特に断らない限り、枝番を含む。以下同じ。)によれば、次の事実が認められる。
(ア) G.アルマーニは、ミラノのデパートにおける紳士服の仕入部門の勤務、服飾を取り扱うヒットマン社でのデザイナーとしての勤務を経て、1975年7月24日に、友人セルジオ・ガレオッティと共同で「ジョルジオアルマーニ社」を設立するとともに、そのころ、ミラノに男性用衣服専門の高級ブティックを開店した。 G.アルマーニの男性用衣服は、斬新なデザインと機能性が注目を浴びるようになり、やがて女性用衣服の分野にも進出していった。G.アルマーニは、1978年には、「ニーマン・マーカス賞」を受賞し、また、1991年には、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートから名誉博士の称号を送られた。
 (甲29、30、乙2、15、23、24、82、93、94、119)
(イ) G.アルマーニは、上記のとおり、友人セルジオ・ガレオッティと共同で「ジョルジオアルマーニ社」を設立し、セルジオ・ガレオッティが経営を、G.アルマーニがデザインを担当していたが、セルジオ・ガレオッティの死亡後、経営を引き継ぎ、好景気に支えられて事業の拡張を続けた。
 G.アルマーニの率いるジョルジオアルマーニ社は、その取り扱う商品を、男性用衣服、婦人用衣服のほか、化粧品、眼鏡、バッグ、時計等に拡大し、「エンポリオアルマーニ」、「アルマーニ・エクスチェンジ」、「アルマーニ・ジーンズ」などのブランドの商品の開発にも努めた。ジョルジオアルマーニ社は、欧州、米国における成功の後、我が国を含む多数の国にも進出し、世界各国に関連会社及び店舗を設けて、「ジョルジオアルマーニ社」を中心とする「アルマーニグループ」を形成し、G.アルマーニは、その最高経営責任者として、アルマーニグループの取り扱う商品の販売拡張に努め、大きな成功をおさめた。ちなみに、被告は、G.アルマーニがchairmanを務め、同人の取り扱いにかかる商品に使用される商標を一元管理する法人であり、引用商標1ないし10に係る商標権を有するものである。
 平成13年10月22日現在のアルマーニ・グループとライバル会社の売上高の状況は、ルイヴィトンの1兆3080億円、グッチの2760億円、ポロ・ラルフ・ローレンの2400億円、アルマーニ・グループの1200億円であった。そして、例えば、平成13年9月5日発売「ニューズウィーク日本版」では、G.アルマーニについての記事が掲載され、「1970年代には、メンズとレディースの着こなしに革命を起こし、80年代には、セクシーな魅力をさりげなく表現してハリウッドファッションを一変させた。90年代にはジーンズの売り上げも伸ばし、年商10億ドルのファッション帝国を築き上げた。」などと記載されたり、平成12年(2000年)には、G.アルマーニのファッションデザイナー、事業家としての生き方を題材にした「GIORGIO ARMANI:A MAN FOR ALL SEASONS」(我が国での題名は「アルマーニ」である。)との題名の映画が制作され、平成15年4月には我が国にも公開されたこと、G.アルマーニは、世界的なデザイナーであり事業者となるとともに、「GIORGIO ARMANI」、「ジョルジオアルマーニ」は、世界のいわゆるメガブランドの1つと称されるに至った。
 (甲32、33、47、乙2ないし30、82、83、93、94、弁論の全趣旨)
(ウ) G.アルマーニの取り扱う商品は、我が国において、昭和56年ころ高級ブランド品として紹介され、講談社発行の「世界の一流品大図鑑」に毎年のように掲載されたほか、後記(エ)のとおり、多数の雑誌にも上記商品に係る記事が掲載された。平成13年4月には、1週間にわたって、東京駅ほかJRの5駅、銀座ほか営団地下鉄の34駅、JRの大阪駅や地下鉄の8駅、阪急の1駅に、「EMPORIO ARMANI(エンポリオアルマーニ)」ブランドの時計を掲載した宣伝用構内ポスターが掲示された。
 また、ジョルジオアルマーニ社は、昭和62年、伊藤忠株式会社、西武百貨店との合弁で、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社を設立し、G.アルマーニの取り扱う商品の販売に当たり、平成7年の時点で、札幌、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡といった大都市に直営店を置くほか、全国に約150社の卸売先を有していたこと、平成7年度の同社の売上高は約120億円に上り、「EMPORIO ARMANI」ブランドの商品の我が国における平成15年度の売上高は約1640万ユーロ(約22億円)に上り、ちなみに、ヨーロッパでの売上高は、我が国の約10倍に上った。
 (甲42〜44、乙2〜14、乙82)
(エ) 昭和54年3月5日文化出版局発行「服飾辞典」は、「アルマーニ」の項目では、「イタリアのデザイナー、ジョルジョ・アルマーニ」と記載され、「ジョルジオ・アルマーニ」の項目で詳細な解説をしており、平成2年株式会社研究社発行「英和商品名辞典」の「Armani アルマーニ」の項目には、「⇒Giorgio Armani」の記載があって、「Giorgio Armani」の項目を参照することを促す表示があり、平成5年7月25日文化出版局発行「ファッション・キーワード」の「アルマーニ現象」の項目には、「日本では、ブランド志向が高まった1980年代に、アルマーニ・ブランドが男女共に人気となり、アルマーニ風のスーツは広くコピーされた。若者向けの買いやすいセカンドブランド“エンポリオ・アルマーニ”もヒットして、80年代後半にはアルマーニ中毒の人といった意味の造語“アル中”なども飛び出した。」などと記載されたりした。
 平成13年1月1日エイチビー・ジャパン株式会社発行「ハーパース・バザー日本版」には、「ジェンダーを超えたアルマーニの25年」等の見出しの下に、「私はゆとりと洗練さを極めたアルマーニのスーツに恋をしていたのだ。アルマーニのスーツは着る人を変えてしまう。」などの記載があり、さらに、上記のとおり、G.アルマーニを題材にした映画「GIORGIO ARMANI:A MAN FOR ALL SEASONS」の我が国での題名が「アルマーニ」であった。その他、我が国で、本件出願までに、多数の雑誌にG.アルマーニに関する記事が掲載された。
 (甲29、31、乙1、80、95、96、116、117、乙123〜131)
イ 上記(ア)及び(イ)の事実によれば、G.アルマーニは、本件出願時において、世界的に著名なデザイナーとして評価され、事業家としても、世界的な名声を博し、このようなデザイナーであり事業家でもあるG.アルマーニの略称であり、また、同人の率いるジョルジオアルマーニ社の略称でもあるARMANI標章は、G.アルマーニのデザイナー及び事業家としての著名性の獲得、ジョルジオアルマーニ社及びその関連会社によるブランドを重視した世界的な事業拡大により、ジョルジオアルマーニ社及びそのグループの営業表示及び商品表示としての著名性を獲得したこと、そして、上記(ウ)及び(エ)の事実も併せ考慮すると、G.アルマーニは、我が国においても、本件出願時において、デザイナーとしても事業家としても名声を博し、「GIORGIO ARMANI」、「ジョルジオアルマーニ」の名前あるいはハウスマークとともに、これらの略称である「ARMANI」、「アルマーニ」の標章、すなわち、ARMANI標章は、本件商標の登録査定時はもとより、本件出願時においても、一般の取引者、需要者の間に、アルマーニ・グループ及びこれらと経済的・組織的に関係を有する者の営業表示及び商品表示として著名となっていたものと認められる。
(2) 原告は、引用商標2及び5が、時計に使用されている事実は認めるが、アルマーニ商品を表示する商標として、我が国の需要者間において広く認識されていると認められる事実はない旨、あるいは、引用商標2及び5が商品「時計」に使用されていたとしても、それがG.アルマーニの取り扱いに係る全商品を表示する商標として我が国で著名であるとされる理由にはならない旨主張する。
 しかし、本件において問題とされているのは、引用商標1ないし10の総体としての「引用商標」の著名性、より正確にいうとARMANI標章の著名性であり、引用商標2及び5に限定して著名性を議論するのは、当を得ないものである。
 確かに、審決は、引用商標2及び5を中心に著名性を論じているために、やや紛らわしいが、請求人(被告)の商標法4条1項15号に係る無効事由は、引用商標1ないし10の総体としての「引用商標」の著名性であり、それは、とりもなおさず、ARMANI標章を意味するものというべきであり、審決も、「引用商標」という表現をしつつ、実質的にARMANI標章の著名性を検討していることは、審決全体の文脈から明らかである。
 また、引用商標2及び5についても、上記のとおり、著名なARMANI標章のサブブランドとして、アルマーニ商品のうち腕時計等に付されて、その著名性は、本件商標の出願時ないし登録査定時(平成16年7月15日)においても継続していたものと認められる。
(3) 原告は、G.アルマーニ本人でない被告が、アルマーニ標章を略称として使用している事実は認められないから、「ARMANI」、「アルマーニ」の表示に接する者が、デザイナーの氏名であるG.アルマーニを直ちに想起するほどに、その略称として広く認識されているとはいえない旨主張する。
 しかし、商標法4条1項15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するかということであって、同項10号ないし14号とは異なり、混同のおそれのある商標の登録を一般的に排除しようとするものであり、出願商標と他人の使用する商標との関係での混同のみに限定しておらず、他人の商号や商品表示、営業表示との関係での混同も包含するものと解すべきである。
 本件についてみると、本件商標は、ARMANI標章を使用するアルマーニ・グループ及びその関連会社との出所混同の有無が問われているのであり、被告は、G.アルマーニの経営するアルマーニ・グループと経済的・組織的に関係を有する者であって、被告自身がARMANI標章を使用しているか否かとは関係がない。
 したがって、原告の上記主張は、その前提において既に失当である。
(4) 原告は、G.アルマーニがファッション関連のデザイナーとして著名であるとしても、その事実は、G.アルマーニの人格権の1つであって、一身専属的なものと認められ、一方、被告は、引用商標の権利者であっても、G.アルマーニ自身ではないから、G.アルマーニの著名性ゆえの信用が被告に化体するとは認められない旨主張する。
 しかし、上記(1)のとおり、ARMANI標章は、デザイナーであるG.アルマーニの略称、並びに、同人の率いるアルマーニ・グループ及びその関連会社のハウスマークの略称として著名となったのみならず、同人の事業の世界的規模での拡大とともに、G.アルマーニないしは同人の営業表示及び商品表示として著名となったと認められるのであって、ARMANI標章がG.アルマーニの人格権にすぎないものと不合理な限定をしようとする原告の主張は、独自の見解であって、採用の限りでない。
2 取消事由2(他人の業務に係る商品又は役務との混同のおそれについての判断の誤り)について
(1) 本件商標について
ア 本件商標は、等間隔の横線を有する翼を左右に広げ、右向きの頭部に冠を配した猛禽類の図形と、その下に「ROYAL ARMANY」の文字を配した構成よりなるものである。図形部分と文字部分には、外観上の関連性が認められないから、図形部分と文字部分がそれぞれ分離して観察され、また、「ROYAL ARMANY」の文字は、「ROYAL」と「ARMANY」との間に半文字分ほどの空白(スペース)があるから、「ROYAL」と「ARMANY」とが分離して観察される。「ARMANY」は、格別の意味を有しない造語であるのに対し、その前の「ROYAL」(ロイヤル)は、一般に、「『王の』、『王室の』の意。他の語と複合して用いる。」(大辞林第3版)、「(多く接頭語的に用いる)『王の』、『王室の』の意。」(広辞苑第5版)などといった意味を有する語とされており、本件においては、「ARMANY」の語の前にあって、これ修飾しているものと理解するのが通常であるから、「ROYAL」の語には自他識別力がないか、たとえあるとしても著しく微弱なものというべきであって、もっぱら「ARMANY」に自他識別力があるものというべきである。
イ 原告は、本件商標は、特定の観念の生じない造語商標であるから、その文字部分において、一連一体のひとまとまりの「ROYALARMANY」(ローヤルアルマニイ)として「創造語」的な商標と認められるべきである旨主張する。
 しかし、上記のとおり、外観上、明らかに「ROYAL」と「ARMANY」とが分離されており、観念上も、上記のとおり「ROYAL」の語が明確な意味を有するものであるから、「ARMANY」が造語であるとしても、「ROYALARMANY」全体をもって造語であるとも一連一体のひとまとまりの語であるともいえない。
(2) ARMANI標章について
 上記のとおり、ARMANI標章は、デザイナーであるG.アルマーニの略称として著名となったのみならず、同人の事業の世界的規模での拡大とともに、G.アルマーニないしは同人の事業に係る営業表示及び商品表示として著名となったと認められるのであって、商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かを検討するに当たっては、本件商標と、「他人の業務に係る商品又は役務」、すなわち、G.アルマーニないしは同人の事業に係る営業表示及び商品表示であるARMANI標章との類否を検討すれば足りる。
 審決は、「引用商標5からは、『EMPORIO ARMANI』の文字部分の全体に相応して『エンポリオアルマーニ』の称呼を生ずるほか、前記著名なデザイナー『GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)』の略称であり、同人の取扱いに係る商品を表示する標章として知られ、強い印象力を有する『ARMANI』の文字部分に相応して『アルマーニ』の称呼をも生ずる。」(前記第2の2(3)イ(イ))と認定するところ、商品が時計の分野にも、ARMANI標章の著名性が及んでいることを述べているものであって、本件商標との類否判断をするに当たって、ARMANI標章ではなく引用商標5を掲げているものでないことが、審決の文脈に照らして明らかである。
 したがって、本件商標と引用商標2及び5に限定して類否判断をしようとする原告の主張は、失当である。
(3) 本件商標とARMANI標章との対比について
ア 本件商標において、もっぱら自他商品識別力を有する「ARMANY」を、ARMANI標章と対比すると、両者は、全6文字のうち冒頭からの「ARMAN」の5文字までを共通にし、末尾の「Y」と「I」の文字において異なるにすぎない。しかも、「Y」と「I」は母音を共通にする近似した文字であるとともに、いずれも、末尾の1字であって、その前に「ARMAN」の5文字が存在するから、両者を誤認混同するおそれがあるというべきである。また、称呼の点からみると、本件商標からは「アルマニイ」の称呼が生じ、ARMANI標章からは、「アルマーニ」の称呼が生じ、全5音のうち「ア」「ル」「マ」「ニ」の4音を共通にし、後者の第3音目の「マ」に長音(「ー」)を伴うことと、前者の第4音「ニ」(ni)に同母音「イ」(i)を伴う点で異なるにすぎない。長音は、前音「マ」をやや伸ばすにすぎず、音調・音感を同じくするし、また、「ニ」に続く「イ」も前音「ニ」の母音(i)を若干伸ばす程のものであって、これまた「ニ」と音調・音感を同じくするものであるから、両者を全体として、それぞれ一連に称呼するときは、両者を誤認混同するおそれがあるものである。
 そうすると、本件商標とARMANI標章とは、外観、称呼において類似するものというべきである。
イ 原告は、本件商標と引用商標2、5とが、その外観、称呼、観念のいずれから総合勘案しても、判然、区別可能であり、取引上も容易に区別し得るものである旨主張する。
 しかし、前記のとおり、本件において問題となっているのは、引用商標1ないし10の総体としての「引用商標」の著名性、より正確にいうとアルマーニ標章の著名性であり、引用商標2及び5に限定して著名性を議論するのは、相当ではない。したがって、引用商標2、5に限定して、本件商標と対比させる原告の主張は、失当である。
(4) 商品の関連性について
 本件商標の指定商品が「時計」であるのに対し、アルマーニ・グループの取り扱う商品は、上記のとおり、男性用衣服、婦人用衣服のほか、広く、化粧品、眼鏡、バッグ、時計等のファッション関連商品に及んでいるから、本件商標の指定商品は、引用商標の使用に係る商品と同一又は類似するか、あるいは、共にファッション関連商品同士であって、その関連性は、相当に高いものというべきである。
 原告は、引用商標1ないし10のうち、引用商標2、5、6、8、10は、使用されていることを認めるが、その余の引用商標、特に、引用商標1、3、4は、指定商品として「時計」の記載があるも、使用している事実は認められず、それを証する資料も認められず、また、引用商標2、5の指定商品は「時計」ではなく、それに類似すると認められる「計時用具」であるが、その商品が具体的に何を表示されるのか不明であり、我が国の時計取引業界にてそれが一般時計販売店にて販売されている商品とはいい難く、ファッション関連商品であるとはいえないなどと主張する。
 しかし、審決は、引用商標1ないし10の総体としてのARMANI標章に係る商品の関連性の検討をし、「引用商標は、・・・被服をはじめとして、時計を含む各種商品に使用されているもの」であると認定しているのであって、引用商標1ないし10のそれぞれの商品との関連性を検討しているのではないから、原告の上記主張は、そもそも意味のないものである。
(5) 混同のおそれについて
ア 上記のとおり、本件商標とARMANI標章とは類似しており、しかも、商品において関連性があるから、本件商標がその指定商品である「時計」に使用された場合、取引者、需要者において、それがG.アルマーニ又は同人の経営する企業と経済的若しくは組織的な関連を有する者の業務に係る商品であるかのように誤信し、その出所について混同を生ずるおそれがあることが明白である。
イ 原告は、被告は、引用商標の権利者であっても、G.アルマーニ自身ではないから、G.アルマーニの著名性ゆえの信用が被告に化体するとは認められず、G.アルマーニの名前が周知・著名であって、同人とは異なる者が引用商標を使用すれば、消費者が出所混同する旨主張する。
 しかし、前記のとおり判示してきたところに照らせば、ARMANI標章は、G.アルマーニの著名性ゆえの信用のみを表示するものではないし、ARMANI標章は、G.アルマーニ及び同人の事業の営業表示及び商品表示なのであって、被告に化体しているか否かの問題ではないし、被告のARMANI標章の使用が出所混同となる余地もないものであって、原告の上記主張は、失当である。
ウ 原告は、その経営する株式会社三島商事において、本件商標の設定商標を得た後、平成17年3月ころより、主にインターネットにおける卸・販売を当該会社を通して継続して行っているものであって、いわゆる対面販売と認められる一般消費者と直接卸・販売を行っているものではないから、被告の販売形態とは異なっており、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれはない旨主張する。
 しかし、本件商標がその指定商品である「時計」に使用された場合、取引者、需要者において、それがG.アルマーニ又は同人の経営する企業と経済的若しくは組織的な関連を有する者の業務に係る商品であるかのように誤信し、その出所について混同を生ずるおそれがあることは、前記のとおり、明白であり、現に、証拠(乙29)によれば、ジョルジオ・アルマーニ・ジャパン株式会社に対して、本件商標が付された時計が、アルマーニ・グループの取扱いに係る商品であると誤認した消費者から、修理を求める問い合わせや本物かどうかの問い合わせが多数回あったことが認められ、本件商標を付した商品の出所について現実に混同が生じているのであるから、原告の主張は、失当である。
3 以上によれば、審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却を免れない。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官宍戸充
 裁判官柴田義明
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