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【事件名】HPの「偽造品」表示事件(生ゴミ処理機)
【年月日】平成19年12月26日
 東京地裁 平成18年(ワ)第18283号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年11月12日)

判決
原告 株式会社テクノウェーブ
同訴訟代理人弁護士 石田義俊
被告 エスキー工機株式会社
同訴訟代理人弁護士 長沢幸男
同補佐人弁理士 正林真之
同 小野寺隆
同 園部武雄
同 佐藤武史
同 佐藤玲太郎
同 八木沢史彦


主文
1 被告は、原告に対し、金100万円及びこれに対する平成18年9月12日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を、いずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを30分し、その29を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、トップページのURLを「http://www.eski.jp/」とするインターネットウェブサイトから、別紙ホームページ表示目録記載の各文言を削除せよ。
2 被告は、原告の製造販売する生ゴミ処理機(商品名「イーキューブ」)が、被告の製造販売する生ゴミ処理機(商品名「ゴミサー」)の偽造品、類似品である旨を、インターネット上で閲覧可能にし、又はその旨を記載した文言を頒布する等の方法により、告知し、流布してはならない。
3 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成18年9月12日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、生ゴミ処理機を製造、販売する原告が、同様に生ゴミ処理機を製造、販売する被告において、原告の製品に関する虚偽の事実を被告の管理するインターネットウェブサイト上で表示し、また、原告や原告の製品に関する虚偽の事実を記載した書面を原告の顧客に交付するなどしたところ、これは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知・流布であって、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項14号の不正競争行為に当たるとして、被告に対し、不競法3条に基づいて、上記各行為の差止め及び上記ウェブサイト上の表示の削除を求めるとともに、不競法4条に基づいて、原告の信用等を害されたことによる無形損害3000万円及びこれに対する同行為後である平成18年9月12日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1)  事者
 原告は、平成9年8月25日に、商号を「株式会社エスキーテクノ」として設立され、防音・防塵・断熱のためのビニール製間仕切り、扉等の製造・加工・販売並びに生ゴミ処理機の製造・販売等を目的としている。平成18年6月26日に、現在の商号に変更された。
 被告は、生ゴミ処理機、ミキサー等の製造・販売を目的とする株式会社である。
(2) 原告及び被告の製品
 原告は、平成14年9月ころから、商品名を「イーキューブ」とする生ゴミ処理機(以下「原告製品」という。)を製造、販売している(甲7、16)。
 被告は、平成5年8月ころから、商品名を「ゴミサー」とする生ゴミ処理機(以下「被告製品」という。)を製造、販売している(乙1の7)。
(3)  被告の行為
ア 被告のホームページ上の表示
 被告は、トップページのURLを「http://www.eski.jp/」とするインターネットウェブサイト(以下「被告ホームページ」という。)において、平成18年ころ、別紙ホームページ表示目録記載の文言(以下「本件ホームページ表示」という。)を掲載した(甲1、弁論の全趣旨)が、平成19年7月10日までに、同掲載を取りやめた(乙6)。
 本件ホームページ表示における「偽造」及び「偽造品」とは、「一般に、権限のない者が製造すること」及び「その製品」を意味する。
イ 被告作成の文書
 被告は、平成16年6月ころ、原告製品納入先において、原告製品を検分し、その結果をまとめた、「弊社類似品検分報告書」と題する文書(甲6、以下「本件検分報告書」という。)を作成した。
2 争点
(1) 被告は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布したか(争点1)
(2) 差止めの可否(争点2)
(3) 原告の損害の有無及び金額(争点3)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(被告は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布したか)について
(原告の主張)
ア 本件ホームページ表示による虚偽事実の流布
(ア) 本件ホームページ表示について
 被告は、本件ホームページ表示を被告ホームページに掲載することによって、原告製品が偽造品、すなわち、権限のない者が製造した製品である旨を表示していた。
(イ) 原告製品は、被告の知的財産権を侵害するものではないこと
 原告製品は、以下のとおり、被告の有する知的財産権を侵害するものではない。
a 原告製品は「生ゴミ液状化装置」であり、被告製品は「生ゴミを水に変える装置」であって、基本的なコンセプトが相違している。
b 原告製品及び被告製品は、いずれも、槽の底が網になっており、撹拌羽により菌床と生ごみと酸素を混ぜ合わせるという処理方法を採用しているが、この方法は、従来から広く知られた技術であるから、この方法を共通にすることによって、原告製品が被告の知的財産権を侵害することにはならない。
c 原告製品及び被告製品は、おおむね箱形の形状であるが、他社が製造する生ゴミ処理機も同様に箱形形状を有しているのであり、この類似のみで、原告製品が被告製品の偽造であるとはいえない。
d 原告製品の生ゴミ投入口は、平面構造であるところ、被告製品の投入口は、小型機種において傾斜を設けている。原告製品の大型機種においても、投入口を斜めにしているものがあるが、これは屋外における雨排水勾配のためであり、また、大型機種の場合、顧客の設置場所等に応じて、随時設計変更を行っている。
e 外装色は、原告製品が、全機種、薄いグリーンであるところ、被告製品は、小型機種がステンレス・ヘアライン仕上げ、大型機種はベージュである。
f 原告製品では、処理工程、各モード、撹拌時間、待機発酵時間、発酵温度設定等を制御するために開発した制御盤、新しいソフトウェアを用いている。処理能力の調整も、ユーザーにおいて簡便に可変できるものとし、独自の制御を行っている。
g 原告製品の大型機種は、被告製品にはない、排水のpH調整装置を標準内蔵している。
h 原告製品の加温装置は、シリコンゴムヒーターを槽に取り付けて使用しているが、被告製品の加温装置は、ヒーター管照射を使用している。
i 原告製品は、籾殻菌床にゼオライトを混入していないが、被告製品では、ゼオライトを混入している。
j 処理機の構造上の中核をなす撹拌アームについて、原告製品のアームの意匠は、被告製品のアームの意匠とは明らかに異なる。
(ウ) 原告による原告製品の製造・販売は、被告に対する契約上の義務に違反するものではないこと
 原告設立後に原告代表者となるA(以下、原告設立前においても「原告代表者」という。)は、原告設立前である平成9年2月ころ、原告の取締役となる他の2名と共に、被告との間で、被告製品の販売代理店となることの契約(以下「本件代理店契約」という。)を締結したが、その際、被告あての、被告製品と同じような製品を製造しないこと等を誓約する内容の誓約書( 乙2 の1 〜2 の3、 以下「本件誓約書」という。)に署名押印して、被告に提出した。その後、同年8月25日に原告が設立された。
 本件誓約書は、表現があいまいである上、被告がペナルティーの金額を決め、制約を受ける範囲や期間に限定がないなどの内容面での問題もあり、法的な拘束力を持ち得ない文書である。
 仮に、本件誓約書が何らかの法的意義を有しており、その後に設立された原告が、本件代理店契約の地位を承継し、本件誓約書の内容の遵守義務を負うことになっていたとしても、平成14年4月ころ、本件代理店契約は終了したから、本件誓約書による合意も解消されている。
 また、原告は、本件誓約書で示されている「同じような製品」を製造していない。この点について、被告は、原告が作成したパンフレット(乙4、以下「本件パンフレット」という。)を根拠に、原告が被告製品と全く同じ構造の原告製品を製造し、被告製品のパンフレットと酷似した本件パンフレットを用いて販売している旨主張するが、本件パンフレットは、平成13年6月に、被告製品の販売代理店として被告製品の販売用に作成したものであり、これをもって、被告製品と同じ構造の製品を製造し、被告製品のパンフレットと酷似したパンフレットを用いて販売していたということはできない。
 原告は、被告との本件代理店契約終了後、被告製品の販売のための営業活動はしていない。原告製品の販売を開始するまでの間は、原告製品の製造、販売の準備をしていたので、生ゴミ処理機についての営業はしていなかった。
(エ) 小括
 以上から、原告製品の製造・販売は、被告の知的財産権を侵害するものではなく、また、原告及び被告間の合意に反してなされたものでもないから、原告製品は被告製品の偽造品ではない。したがって、本件ホームページ表示は、虚偽の事実を内容とするものであり、それを被告ホームページに掲載することは、虚偽事実の流布に当たる。
イ 本件検分報告書による虚偽事実の告知
 本件検分報告書には、原告又は原告製品について、「不適格」、「最悪」、「責任を取らない」、「顧客が悪いと言う」等の記述があるが、原告又は原告製品について、これらに該当する事情はなく、これらは、虚偽の事実である。
 被告は、本件検分報告書を原告の顧客に交付して、虚偽事実を告知している。
(被告の反論)
ア 本件ホームページ表示について
(ア) 本件ホームページ表示が、虚偽事実の流布に当たらないこと
 被告は、一時期、本件ホームページ表示を被告ホームページに掲載していたが、以下のとおり、この表示は虚偽の事実の流布に当たらない。
(イ) 原告が、被告製品と同じような製品を製造する権限を有しない者であること
 原告代表者及び原告の取締役となる者2名(以下、「原告代表者ら」と総称する。)は、原告設立前の平成9年2月に、被告製品の販売代理店となる契約を締結するに際し、被告の提示した本件誓約書に署名・捺印し、被告製品と同じような製品を製造しない旨を誓約した。すなわち、被告は、被告製品と同じような製品を製造しないことを条件として、原告代表者らが販売代理店となることを認めたのであり、その後設立されて、同義務を承継した原告は、「被告製品と同じような製品を製造する権限を有しない者」である。
(ウ) 原告製品が「被告製品と同じような製品」であること
 被告製品のパンフレット(乙3)に記載された被告製品と、本件パンフレット(乙4)に記載された原告製品は、全く同じ外観及び構造である。したがって、原告製品が「被告製品と同じような製品」であることは明らかである。
 被告製品は、平成12年当時には、全国的に周知になっていたところ、原告は、平成9年2月から被告製品の販売代理店であった(当初、原告代表者らが個人で契約をしていたが、原告が、設立後に地位を承継した。)が、平成14年7月ころに、被告との取引を勝手に停止したのを契機に、被告製品と全く同じ構造の原告製品を製造し、被告製品のパンフレットに酷似した本件パンフレットを作成して、原告製品を販売した。
(エ) 小括
 以上からすれば、原告は、権限がないのに、被告製品と同じような製品を製造、販売したのであり、偽造品を製造、販売したのであって、その旨を表示した、本件ホームページ表示の事実は虚偽ではない。
イ 本件検分報告書について
 本件検分報告書に関する原告の主張は否認する。
 本件検分報告書は、被告が、原告製品を購入した顧客からの依頼を受け、依頼者立会いのもとに製品の検分を行って、その記録をまとめた、被告の社内用の文書である。また、この報告書に記載されている内容は、被告が実際に検分したこと、検分を行った際に依頼者が発言した内容等をまとめたものであり、虚偽の事実ではない。
(2) 争点2(差止めの可否)について
(原告の主張)
 被告は、本件ホームページ表示は抹消されたので、同表示の差止請求は理由がない旨主張するが、ホームページ上の表示は、被告において、いつでも、自由に再現できるものであり、差止請求の利益は現存している。
(被告の反論)
 被告は、本件ホームページ表示が、いささか品位を欠くと評されるおそれがあることに気付き、自主的に被告ホームページから抹消しており、本件訴訟手続において和解勧試がされた際も、将来、このような記載はしないことを提案している。
 したがって、本件差止めの対象となる行為が既に行われておらず、また、将来行われる可能性もないものとして、予防請求としての差止めの利益もない。
(3) 争点3(原告の損害の有無及び金額)について
(原告の主張)
 原告製品の販売により、年間7000万円を超える売上げが予定されており、また、原告製品のブランド価値は1億円を下らないものであることに照らせば、上記(1)(原告の主張)の被告の不正競争行為により、原告は、社会的信用を毀損され、3000万円を下らない無形損害を被ったものである。とりわけ、「偽造品」という記載は、当該製品並びにその製作者及び販売者の信用を根底から毀損するものであり、無形損害の発生は自ずから明らかである。
(被告の反論)
被告の行為が不正競争行為に当たらないことに加え、原告が3000万円もの無形損害を被ったこと、原告の主張する損害と被告の行為とが因果関係を有することは、いずれも立証されていない。したがって、原告の損害賠償請求も棄却されるべきである。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(被告は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布したか)について
(1) 事実認定
 上記前提となる事実等、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 当事者
 原告は、平成9年8月25日に、防音・防塵・断熱のためのビニール製間仕切り、扉等の製造・加工・販売並びに生ゴミ処理機の販売等を目的として設立され、主たる業務は、ビニール建具製造販売及び被告製品の販売であり、当初の商号である「株式会社エスキーテクノ」は、被告代表者の了解のもとに命名された(甲16、乙8)。その後、平成15年5月26日に、目的として生ゴミ処理機の製造が追加変更され、平成18年6月26日に、現在の商号に変更された(弁論の全趣旨)。
 被告は、昭和60年5月27日に設立され、生ゴミ処理機、ミキサー等の製造販売を目的とする株式会社である。
イ 本件代理店契約及び本件誓約書
 被告は、平成5年8月ころから、被告製品を製造、販売していたが、平成9年2月、原告代表者らとの間で、原告代表者らを被告製品の販売代理店とする旨の本件代理店契約を締結した。その際、原告代表者らは、被告代表者の求めに応じ、本件誓約書に署名捺印して被告に交付した(乙2の1〜2の3)。
 本件誓約書の文面は、被告代表者が作成したものであるが、次のとおりである(乙2の1〜2の3)。
 「商品名『ゴミサー』
 (生ゴミが水/液状化に変化する装置)に関連しての技術資料/見学/販売/等の各種依頼について
 標記の件下記に誓約します。
 弊社は、貴社製品の生ゴミ消滅装置『ゴミサー』の販売又は様々な技術資料/見学などの提供を受けてからも決して同じような製品を製造したり/他者にさせたりする事なく、あくまでも代理販売又は貴社に損害を与えるような行為は一切致しません、ここに誓い約束します。
 なを、上記内容に違約した場合は、ペナルテイーとして貴社の申し出金額を支払うものとします。」
 その後、上記アのとおり、原告が、同年8月25日に、被告製品の販売等を主たる業務として設立され、原告代表者らから被告製品の販売代理店の地位を承継するとともに、本件誓約書上の義務を負うこととなった(甲16、弁論の全趣旨)。
ウ 本件パンフレットの作成・使用
 原告は、被告製品の販売代理店として、被告製品の販売促進活動を行うなどして営業していたが、平成13年6月ころ、被告が、原告の取引先と、原告を介さずに契約したのではないかと推測し、販売代理店としての利益を守るためには、被告製品のパンフレットから、被告名や被告製品名を除いたものを使用する必要があると考え、従前用いていた被告製品のパンフレットとほぼ同じ内容で、被告製品の商品名及び被告の名称を削除した本件パンフレットを作成し、本件パンフレットを用いて被告製品の販売を行った(甲16、18、乙3、4)。
エ 本件代理店契約終了及びその後の原告の行為
 平成14年4月ころ、本件代理店契約は終了した(甲16、弁論の全趣旨)。
 原告は、そのころから、原告独自の生ゴミ処理機の開発に着手し、原告製品の製造を進め、同年9月ころから、原告製品の販売を開始した(甲16)。
 また、原告は、原告製品を紹介するパンフレット(以下「原告パンフレット」という。)を作成し、原告製品の営業活動に使用している。原告パンフレットには、原告製品の写真が掲載され、機能等の説明が記載されているところ、被告製品のパンフレット(乙3)とは、製品の特徴についての説明部分がほぼ同じであるほかは、体裁、記載内容において、異なるものである(甲7、乙3)。
 本件代理店契約終了後、原告は、被告製品についての営業活動を行っておらず、本件パンフレットも使用していない(甲16、18、弁論の全趣旨)。本件代理店契約終了後に、被告が、原告を介して被告製品を受注したこともない(争いがない。)。
オ 被告ホームページ
 被告は、被告ホームページにおいて、平成18年ころ、本件ホームページ表示を掲載した(甲1、弁論の全趣旨)が、平成19年7月10日までに、同掲載を取りやめた(乙6)。
カ 本件検分報告書
 被告は、平成16年6月ころ、原告製品納入先において、原告製品を検分し、その結果をまとめた本件検分報告書(甲6)を作成した。
 本件検分報告書には、その表題として「弊社類似品検分報告書」と記載され、表題の次の行の右端に、「エスキー工機渇涛。」と表示され、その他、以下のような記載がされている。
 「設置場所 東京駅地下1階に設置異物分別装置も有り。」
 「導入年月 2003年3月26日稼働日2003年4月1日」
 「製造者 エスキーテクノ社 所在地 東京都豊島区駒込総人数 4人 主事業 ビニールシート/食品工場等の垂れ幕等」
 「検分依頼目的=1悪臭 2異物が排水に流れ、水中ポンプ(浄化槽)故障 3製造者が対応無し 4顧客が導入と同時に」
 「装置全体=不適格」
 「槽内の加工=不適格」
 「発酵/分解=ほど遠い」
 「排水濃度=最悪」
 「総論 製品加工技術が不適格生ゴミ発酵/分解の技術に不適格 排水状態対応にも不適格。顧客様との対応は異物混入した方(顧客)が悪い、と言うだけで責任を取らない。」
 「顧客様意見 装置稼働でトラブルが度重なっても、責任/メンテナンスせず/顧客が悪いと言う。」
 「現在顧客様にて法的手段の作業中です。」
キ 原告製品と被告の知的財産権との関係
 原告は、原告製品で採用する生ゴミ液状化方法について、その方法を採用する装置とともに特許出願し(甲5、16、17の1)、また、装置内部の撹拌部分の撹拌アームについて3件の意匠登録を得た(甲3の1〜3の3、16、17の3〜17の5)上で、B弁理士に対し、上記出願中の発明の実施形態が被告の有する生ゴミ処理装置に関する特許権(特許第3244712号、甲17の2)に係る発明の技術的範囲に属するか否か、また、上記各登録意匠が被告の有する意匠権(意匠登録第1135872号、甲17の6)に係る登録意匠に類似するか否かについての意見を求め、同弁理士から、上記の事項についていずれも否定する旨の見解を得た(甲4)。
 原告製品が被告の何らかの知的財産権を侵害するか否かについて、被告は、具体的・積極的な主張をしていない。
(2) 検討
 以上の事実認定を踏まえて、被告において、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布をする行為を行ったか否かについて検討する。
ア 本件ホームページ表示について
(ア) 本件ホームページ表示は、原告製品が偽造品であること、すなわち、権限のない者が製造した製品であることを表示するものであり、原告が権限のない者であるとの事実が虚偽であるか否かが問題となる。
(イ) そこで、まず、原告による原告製品の製造・販売が、被告に対する契約上の義務に違反するか否かについて検討する。
a 原告は、上記(1)イのとおり、その設立により、原告設立前に原告代表者らが被告との間で締結した本件代理店契約の契約上の地位を承継し、本件誓約書上の義務を負うことになったものであり、本件誓約書上の義務として、被告製品と「同じような製品を製造したり」するような行為はしない旨の義務を負ったものと認められる。そして、ここでいう「同じような製品」とは、具体的な内容や構成についての限定はないことからすれば、生ゴミ処理装置一般を含むものであり、原告製品も含まれるものと認められる。
 しかしながら、本件誓約書上の上記義務は、本件代理店契約が終了した後も継続するとは解されず、同契約終了後は、本件誓約書による合意も終了し、上記義務は効力を失うと解するのが相当である。すなわち、このような不作為義務を代理店に負わせることは、代理店契約の当事者間では、有効であると解されるものの、代理店契約を締結している代理店が、競合する商品によって利益を得ることを制限し、それにより契約の他方当事者である本人の利益を確保する意味を有するものであり、また、代理店となる者による競業を禁止し、職業選択を制限するものであるから、その効力は、代理店契約終了後も存続することが明確に示されていない以上、同契約終了後は認められないというべきである。
 そして、本件誓約書の文面では、上記義務が、契約終了後も存続することは明記されていない上、上記義務が契約終了後も存続する旨の合意やそれをうかがわせる事情も認められないから、原告は、本件代理店契約の終了後、本件誓約書上の義務を負わないと解される。
 原告が、生ゴミ処理装置の開発に着手し、原告製品の製造を開始したのは、上記(1)エのとおり、平成14年4月の本件代理店契約終了後であり、原告製品の販売開始は同年9月ころなのであるから、原告のこれらの行為は、被告製品と同じような製品である生ゴミ処理装置を製造しないとの本件誓約書上の義務を負わないこととなった時期になされたものであって、同義務に違反するものではないと認められる。
b 被告は、本件パンフレット(乙4)を、本件代理店契約終了後に入手したとして、原告において、本件代理店契約終了後に、被告製品のパンフレットに酷似した本件パンフレットを用いて、原告製品を販売して、本件誓約書上の義務に違反した旨主張する。
 しかしながら、本件代理店契約終了によって、上記aのとおり、本件誓約書上の義務も効力を失うから、被告の主張する上記事実は本件誓約書上の義務違反とはならないのであるし、また、原告が本件パンフレットを用いて営業活動をしたのは、本件代理店契約終了前のことであり(上記(1)ウ)、本件代理店契約終了後、原告が本件パンフレットを用いて原告製品を販売したことを認めるに足りる証拠は全くないのであるから、被告の上記主張を採用することはできない。
c その他、原告による原告製品の製造・販売が、被告に対する契約上の義務に違反することをうかがわせる事情は認められず、原告の上記行為は、被告に対する契約上の義務に違反するものではないと認められる。
(ウ) 次に、原告製品が被告の知的財産権を侵害するか否かについて検討すると、原告は、原告製品が被告の知的財産権(特許権及び意匠権)を侵害しない旨を主張し、それに沿う証拠(甲3の1〜3の3、4、5、17の1〜17の6)を提出するところ、被告は、原告の上記主張・立証に対して、積極的な反論・立証をしないのであるから、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、被告の知的財産権を侵害しないものであると認められる。
(エ) したがって、原告製品の製造及び販売について原告が権限のない者であるとの事実は虚偽であり、本件ホームページ表示は虚偽の事実を表示するものであって、本件ホームページ表示を被告ホームページに掲載したことは、虚偽の事実の流布に該当すると認められる。
イ 本件検分報告書
本件検分報告書には、上記(1)カのとおり、原告製品について、装置全体、槽内の加工が不適格である、排水濃度が最悪である、原告の製品加工技術や生ゴミ発酵・分解技術が不適格である、原告の顧客対応が不適格である等の記載がされており、これらの事実は、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する事実であると認められる。
 しかしながら、本件検分報告書は、同書面上の「検分依頼目的」の記載から、当該製品の検分自体は顧客からの依頼を受けて行ったものであることが認められるものの、書面の作成については、その文面や体裁を検討しても、いかなる目的で作成された書面であるかは明らかではない。被告は、これを社内文書として作成したにすぎない旨主張するものであるところ、検分の依頼を受けたことと、本件検分報告書の表題の「弊社」との表現などからすると、依頼を受けた者にあてた報告書として作成されたとも考え得るのであるが、同書面末尾の、「顧客様意見」や「現在顧客様にて法的手段の作業中です。」との記載からすると、当該顧客に交付したとは考え難く、結局、同書面の記載のみからは、作成目的は判然としないと言わざるを得ない。
 そして、本件検分報告書の作成目的が不明であれば、同書面のその使用態様もまた不明であって、同書面が他者に交付又は流布されたことを推認することはできず、その他、この書面が他者に交付され、又は、流布されたことを示す証拠もないから、本件検分報告書による虚偽事実の告知又は流布の事実を認めることはできない。
ウ まとめ
 以上から、被告による、本件検分報告書による虚偽事実の交付又は流布の事実は認められないが、本件ホームページ表示による虚偽事実の流布が行われたことが認められる。
2 争点2(差止めの可否)について
(1) 上記1(1)オのとおり、本件ホームページ表示は、現在、被告ホームページに掲載されておらず、また、上記1(2)イのとおり、本件検分報告書による虚偽事実の告知又は流布の事実は認められない。
(2) 原告は、本件ホームページ表示は、被告において、被告ホームページ上に自由に再現できるものであり、差止請求の利益は現存している、すなわち、本件ホームページ表示が掲載されるおそれがある旨主張する。
 しかしながら、本件訴訟において、和解勧試がされ、その過程において、被告が、本件ホームページ表示を削除し、今後掲載しない旨の提案をしたことは当裁判所に顕著であり、その後、裁判上の和解が成立しなかったにもかかわらず、実際に、本件ホームページ表示が削除されて、その後掲載されていないことからすれば、本件ホームページ表示が再び掲載されるおそれがあるということはできない。その他、上記のおそれを具体的に示す主張、立証もない。
 したがって、原告の主張には理由がなく、本件ホームページ表示を被告ホームページ上に掲載すること及び本件検分報告書等によりその記載内容を告知・流布することの差止めを求める請求は、認めることができない。
 なお、原告は、被告ホームページから、本件ホームページ表示を削除することを請求しているが、上記のとおり、現在、同表示はなされていないことから、同請求も認めることができない。
3 争点3(原告の損害の有無及び金額)について
 上記1(2)アのとおり、被告により、本件ホームページ表示による虚偽事実の流布が行われたことが認められるのであり、これにより、原告の信用が毀損されたものと認められる(甲15)。
 そして、本件ホームページ表示の記載内容及び掲載期間(上記1(1)オのとおり1年余であると認められる。)等の事情及び弁論の全趣旨によれば、原告の受けた損害は、100万円であると解するのが相当である。
第4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、被告に対する金100万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年9月12日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないので、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 國分隆文


(別紙)ホームページ表示目録
「この会社は弊社製品、生ゴミ処理装置、ゴミサーの偽造品を製造販売しています、ご注意をして頂きたい事を通知致します。」
「この会社は弊社製品、生ゴミ処理機ゴミサーを偽造し販売しています」
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/