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【事件名】商標“スーパーフコイダン”侵害事件(2) 【年月日】平成19年12月25日 知財高裁 平成19年(ネ)第10065号 損害賠償等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成18年(ワ)第28323号) (口頭弁論終結日 平成19年10月30日) 判決 控訴人 株式会社自然健康館 訴訟代理人弁護士 中山徹 同 大橋君平 同 柳楽晃秀 被控訴人 金秀バイオ株式会社 訴訟代理人弁護士 石原修 同 森崎博之 訴訟代理人弁理士 石田昌彦 訴訟代理人弁護士 当山尚幸 同 絹川恭久 同 保田盛清士 同 高良祐之 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴人の当審における請求をいずれも棄却する。 3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴人の求めた裁判 1 控訴の趣旨 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は、原判決別紙「被告標章目録」1記載の標章を、その製造し、販売するモズク加工食品の容器、包装並びに広告に付し、又は、同標章を付したモズク加工食品を譲渡し、若しくは譲渡のため展示してはならない。 (3) 被控訴人は、控訴人に対し、906万8544円及びこれに対する平成18年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 当審における請求 上記1(2)(3)と同じ 第2 事案の概要 1 一審原告である控訴人は、下記「原告商標」記載のとおりの内容を有する原判決別紙「登録商標目録」記載の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者であるところ、本件訴訟は、控訴人が一審被告である被控訴人に対し、その製造するモズク加工食品(被告商品)の容器・包装に下記「被告標章」記載のとおりの内容を有する原判決別紙「被告標章目録」2記載の標章を付して販売しその広告にも同標章を付しているとして、上記商標権の侵害を理由に原判決別紙「被告標章目録」1記載の標章(SUPER FUCOIDAN スーパーフコイダン)の使用の差止め及び平成18年5月から同年10月までの損害賠償金906万8544円とこれに対する平成18年12月30日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。 原審の東京地裁は平成19年7月26日、本件商標と被告標章とは非類似であるとして、原告の請求をいずれも棄却した。 そこで、上記判決に不服の控訴人が、本件控訴を提起した。 記 〔原告商標(本件商標)〕 ・商標 自然健康館 スーパーフコイダン(イメージ略) ・指定商品 第29類 「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」 第32類 「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」 ・出願 平成16年10月13日 ・登録 平成17年5月13日(登録第4862117号) 〔被告標章〕 SUPER FUCOIDAN スーパーフコイダン(イメージ略) 2 当審に至り控訴人は、被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するとして、上記1と同内容の差止め及び損害賠償請求を追加した。 3 争点は、原告商標(本件商標)と被告標章の類否及び不正競争防止法2条1項1号該当事由の有無等である。 第3 当事者双方の主張 1 当事者双方の主張は、次に付加するほか、略称も含め、原判決の「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。 2 控訴人 (1) 原判決の当否に関する主張 ア 原判決は、商標全体が1商標としての識別機能を果たしているので「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体を要部と解するのが相当であると認定したが、本件商標は、その構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」の二段併記になっており、一般需要者が取引に際して見たときは、外観的に両者を区分して認識し、前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウスマークとして出所識別機能を、後者の「スーパーフコイダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として、それぞれ自他商品識別機能を果たしていると認識する。そのため、本件商標の要部は、商標構成全体を要部とするだけではなく、「自然健康館」と「スーパーフコイダン」という各部分についても独立した自他商品識別力を発揮しているものとして、これらの部分も要部であると認定すべきである。 したがって、本件商標の要部観察の対象として観念される部分は3部分あるにもかかわらず、原判決が商標の構成全体だけを要部観察の対象として判断したのは、事実の認定に誤りがあり、また、他の要部の部分を考慮しない理由を示さなかったものであるから、理由に不備がある。 イ(ア) 上記アのとおり、本件商標からは3部分の要部が認定されるから、本件商標全体の構成「自然健康館スーパーフコイダン」からは「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」の称呼が、「自然健康館」の部分からは「しぜんけんこうかん」の称呼が、「スーパーフコイダン」の部分からは「すーぱーふこいだん」という称呼が生じる。 (イ) そして、本件商標では、全体構成から出る「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は、非常に長い称呼となるため、このような称呼の商品の場合、取引の際には、これらの一部分を省略した略称を使用する場合の多いことは、取引の経験則上公知の事実である。しかも、本件商標の構成が、二段併記になっていることと、「自然健康館」がハウスマークとして、「スーパーフコイダン」がグッズマーク(商品識別マーク)として、それぞれ認識されることから、その商品は、「スーパーフコイダン」と略称して商品取引されるものであり、それが常態的な取引形態である。このことは、特許庁の商標審査基準に、「長い称呼を有するために、商標の一部分によって簡略化される可能性のある商標は、原則として、その簡略化される可能性のある文字のみからなる商標と類似する」とされていることからも裏付けられる。 (ウ) しかも、原判決は、「自然健康館スーパーフコイダン」ではなく、本件商標の構成要素の一部である「スーパーフコイダン」を抽出し、更にこれを「スーパー」と「フコイダン」に分離して認識し、前者の「スーパー」からは「高品質な」という意味があるとし、後者の「フコイダン」からは「本件商標の出願時(平成16年10月)において、…海藻類に含有される硫酸化多糖類で、健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたことが認められる。」(15頁下4行〜16頁1行)とする。 すなわち、原判決は、要部の認定に際しては、本件商標について、全体観察を強調して本件商標は全体として一体の商標として認識すべきであるとするのに対し、称呼の抽出に際しては、逆に必要以上に分離観察を繰り返し、「フコイダン」の用語だけを取り出し、その用語観念(意味合い)にこだわり、「スーパーフコイダン」はそれ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないと判断しているものであって、要部の認定に際しての認定方法と、称呼の認定に際しての認定方法とで、その認識の仕方が著しく相違しているものである。このように同じ商標の認識の仕方が、都合により相違する結果を招来してしまうのは、論理的に矛盾するものといわざるを得ない。 ウ(ア) 次に原判決は、「フコイダン」なる用語は、海藻類の成分を抽出して作られた健康食品の原材料を表示する用語であると認定し、更に「フコイダン」という用語は、「本件商標の出願時(平成16年10月)において、いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で、海藻類に含有される硫酸化多糖類で、健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたことが認められる。」(15頁下4行〜16頁1行)とするが、誤りである。 (イ) すなわち、「フコイダン」は、馴染みのない専門用語であり、化学的には厳格な物質として特定がなされていない概念の用語である。また分子量が小さいものから大きいものまで大きく異なる多様な物質の総称であり、その生理作用についても、全てにあるのか一部にあるのかも不明な極めて曖昧な概念の用語である。さらに、いわゆる健康食品には、生理作用やその効果について表示したり広告したりできないという制約があるため、原判決が指摘するような、がん細胞等に対し効果がある物質であるなどという生理作用や効果までが、取引者及び需要者に広く知られていたとすることは、その情報を得るための前提を欠くものである。 (ウ) しかも、本件商標の構成要素は、単なる「フコイダン」ではなく「スーパーフコイダン」であるところ、この「スーパーフコイダン」という用語が、当該商品の取引において原材料の表示として使用された事実はない。 (エ) 原判決が挙げる学術文献や学術的辞書の引用文からは、せいぜい「フコイダン」は「海藻類の硫酸化多糖類」を表す「学術用語」であるといえるに止まる。 そもそも、普通名称化したものであることが認定されるためには、同業者間の認識のみでは足らず、少なくとも一般消費者が普通名称化していることを認識することが必要であるが、更にそれのみならず、当該商品の取引者間において現実に普通名称として使用されていることを必要とする。したがって、辞書やその他の一般刊行物、当該取引に関係ない学問的・技術的文献、講演等において普通名称であるかのように使用されているのみでは足りない。 この点、原判決が挙げる業界誌及び雑誌のうち、健康産業新聞はそもそも学術文献に類するものであり(乙32の2〔2001年(平成13年)5月9日付け健康産業新聞〕、乙33〔2003年(平成15年)10月15日付け健康産業新聞〕等にも、「学術情報」、「学術報告」の欄がある)、「フコイダン」が学術用語として使用されていることを表すに止まるだけでなく、熟年生活応援マガジン「はいから」2003年(平成15年)春号〔甲6〕、平成15年7月3日発行の「女性セブン」〔甲7〕、ビジネス情報誌「エルネオス」2004年(平成16年)2月号〔甲8〕、「がんを治す完全ガイド」2004年(平成16年)2月号〔甲9〕、「週刊ポスト」2004年(平成16年)7月2日号〔甲10〕においては、控訴人が他社に先駆けて「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」を自己の標章として使用し、「フコイダン」の名が取引者、消費者に知られるようになった事実が示されている。 エ 仮に、原判決のいうように「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」が普通名称の部類に属するとしたとしても、「スーパーフコイダン」は、自他商品識別機能を有するものである。 すなわち、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁は、著名商標と結合した識別力の弱い構成部分も、具体的取引の実情において出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められる限り、商標法3条第2項の趣旨を類推して、識別力を取得することがある旨判示する。 しかるに、控訴人は遅くとも平成13年7月頃には、他に先駆けて「スーパーフコイダン」を控訴人が販売する商品の標章として使用し、以後、現在に至るまで、同商品の標章として、「スーパーフコイダン」を単独で使用し、或いは「スーパーフコイダン」を「F」と共に使用し、または「SUPER FUCOIDAN」と英記して使用し、販売実績を積んできている。 すなわち、控訴人は、平成17年5月から平成18年4月までの1年間において、少なくとも687万8600ミリリットルの「スーパーフコイダン」を販売し、年間1億8217万2000円の販売高を上げ、平成13年7月から本年までの6年の間には、少なくともその5ないし6倍の販売実績を上げてきている。 そして、マスメディアにおいても、著名雑誌である「女性セブン」において、発売元を控訴人と明示の上、「自然健康館スーパーフコイダン」の二段表記ではなく、「スーパーフコイダン」との標章で控訴人の商品が紹介され(甲7)、同じく著名雑誌である「週刊ポスト」においても、やはり発売元を控訴人と明示の上、「スーパーフコイダン」との標章で控訴人の商品が紹介され(甲10)、あるいは、癌患者の必備情報誌として多くの医療機関で半永久的に備え置かれている「がんを治す完全ガイド」においても、発売元を控訴人と明示の上、「スーパーフコイダン」及び「スーパーフコイダン」を「F」と共に使用する標章で控訴人の商品が紹介され(甲9)、その他、多くのマスメディアにおいても、控訴人の商品が同様の紹介のされ方をしてきており(甲6、8等)、その訴求効果は大きい(甲26、27、28の1〜3)。 さらに、顧客のみならず、販売代理店や医師の間においても「スーパーフコイダン」という単独の標章が、控訴人の商品に係る標章であると広く認知されている。 以上の事実からすれば、具体的取引の実情においては、本件商標たる「自然健康館スーパーフコイダン」の「スーパーフコイダン」の部分が出所の識別標識として使用されていることは明白であり、上記最高裁判決のいう「特段の事情」があるといえる。 オ そして、原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤りであり、両者は類似するというべきである。 (ア) 前記イのように、本件商標から抽出される称呼は、「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」だけではなく、本件商標の要部観察から「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」と「しぜんけんこうかん」と「すーぱーふこいだん」という3つの称呼が生じる。そして、「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は、長い称呼であるため、取引の際には一部省略されて称呼されるのが一般的であり、「自然健康館」は、いわゆるハウスマークとして機能しているため、結局、称呼としては「すーぱーふこいだん」と略称されて取引されるのが実情である。 (イ) さらに、原判決における観念類否の考察は、商標構成文字を単に比較しただけで、両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したものではない。 原判決は、観念類否を考察するときには「自然健康館スーパーフコイダン」全部が一体で要部であると認定しておきながら、要部認定に際しては、商標構成要素の中から「スーパーフコイダン」だけを分離抽出し、さらに、これを「スーパー」「フコイダン」に分離して、観念を論じ要部ではないとしている。 要部観察の際には、本件商標を必要以上に分離して認識し、その観念を論じておきながら、観念類否の考察では全体を一体不可分の商標として認識し、全体で一つの観念しかないとする判断は、論旨矛盾があるといわざるを得ない。そして、前記のように、商標の要部が3部分あれば、観念においても3つの観念が生じていると考えるべきであり、二段併記されていることが原因で分離して認識される「自然健康館」と「スーパーフコイダン」は、いずれも要部であり、それぞれについても観念が認定されるべきである。 (2) 不正競争防止法に基づく請求に関する主張 被控訴人の行為は、以下のア〜エに照らし、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するから、商標権侵害の場合と同様に、差止め及び損害賠償を請求することができる。 ア 「スーパーフコイダン」は控訴人の商品等表示である。 すなわち、控訴人は、平成13年7月頃から、控訴人の商品である海藻エキスを主原料とする液状又は粉状の加工食品をウェブサイトあるいは販売代理店を通じて顧客に販売し、控訴人の販売する商品を表示するものとして「スーパーフコイダン」との標章を用いている。 イ 控訴人の「スーパーフコイダン」は消費者の間で周知となっている。 すなわち、控訴人は、控訴人の上記の商品を、控訴人の所在地である東京都を中心としつつ、日本全国に向けて販売しており、その販売実績、宣伝広告の状況からみて、遅くとも平成16年3月頃までには、「スーパーフコイダン」の標章は、消費者の間で、控訴人の商品を表示するものとして周知となっていた。 すなわち、平成15年4月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された季刊誌「はいから」は12万部(甲28の3)、同年7月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された「女性セブン」誌は当時毎月平均40万部(甲26)、平成16年2月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された「エルネオス」誌は2万3000部(甲28の1)、「がんを治す完全ガイド」誌は5万部(甲28の2)がそれぞれ販売されている。そして、これに控訴人の商品の販売状況も併せてみれば、「スーパーフコイダン」が控訴人の商品等表示として周知であったことは明らかである。 ウ 被控訴人の行為は消費者に誤認混同を惹起せしめるものである。 すなわち、被控訴人は、平成16年3月頃から、「スーパーフコイダン」の標章を付したモズク加工食品を顧客に販売しているところ、被控訴人は、控訴人と同様に、被控訴人の商品をウェブサイトを通じて販売していたものであるが、同種商品が多くウェブサイトを通じて販売されているにもかかわらず、あえて「スーパーフコイダン」との標章を選択している。 そして、現に控訴人の顧客が、控訴人の商品と被控訴人の商品とを誤認し、控訴人の販売代理店に問い合わせが寄せられていたものであることからすると、被控訴人のもとにも同様の問い合わせが多数寄せられていたことは推認に難くない。 すなわち、被控訴人は、控訴人の商品の信用にただ乗りする意図で「スーパーフコイダン」との標章を用いて、商品の出所について消費者に誤認混同を惹起せしめたものである。 エ 控訴人の商品等表示と被控訴人の使用する標章は同一である。 すなわち、控訴人の商品等表示「スーパーフコイダン」と、被控訴人商品に付された標章「スーパーフコイダン」は、全く同一である。 オ 控訴人の被った損害額については、原判決の「事実及び理由」欄の第3の4(1)において商標権侵害の主張として摘示されたものと同様である。 3 被控訴人 (1) 控訴人の2(1)アの主張に対し 控訴人は、本件商標は、その構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」の二段併記になっており、一般需要者が取引に際して見たときは、外観的に両者を区別して認識し、前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウスマークとしての出所識別機能を、後者の「スーパーフコイダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として自他商品識別機能を果たしていると認識する、そのため、本件商標の要部は、商標構成全体を要部とするだけではなく、「自然健康館」と「スーパーフコイダン」という各部分についても独立した自他商品識別力を発揮しているものとして、これらの部分も要部であると認定すべきである、と主張する。 しかし、原判決は、「スーパーフコイダン」の部分が商標の要部として機能し得るものであるか否かを判断するために、まず、「フコイダン」なる語が取引者及び需要者においていかなる意味に解釈されているかを学術文献、業界誌及び雑誌並びに辞書の記載に基づいて詳細に検討した上で、「…「フコイダン」との用語は、本件商標の出願時(平成16年10月)において、いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で、海藻類に含有される硫酸化多糖類で、健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたことが認められる。」(15頁下4行〜16頁1行)と認定し、次いで、健康食品の分野において、原材料の名称に「スーパー」を付した商品が多数販売されている事実ならびに同様の商標の登録が特許庁に多数認められなかった事実などを検討し、健康食品の分野において、「スーパー」の文字は商品の誇示表示として一般的に使用されていると認定した上で、「…本件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」の分野では、「スーパーフコイダン」という用語は、高品質の「フコイダン」、すなわち、高品質な、海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ない…」(17頁14行〜19行)と結論づけている。 したがって、原判決は、「スーパーフコイダン」の部分が要部となり得るか否かを詳細に検討したうえで、本件商標の要部は「自然健康館スーパーフコイダン」であると認定するものであり、妥当であるから、控訴人の主張は失当である。 (2) 控訴人の2(1)イの主張に対し ア 控訴人は、本件商標では、全体構成から出る「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は、非常に長い称呼となるため、このような称呼の商品の場合、取引の際には、これらの一部分を省略した略称を使用する場合が多いことは、取引の経験則上公知の事実であり、しかも、本件商標の構成が、二段併記になっており、また、特許庁の審査基準においても、長い称呼を有するために商標の一部分によって簡略化される可能性のある商標は、原則として、その簡略化される可能性のある文字のみからなる商標と類似するとされていることが参酌されるべきであるから、本件商標からは、「自然健康館スーパーフコイダン」ではなく、「スーパーフコイダン」なる称呼が生ずると認定すべきと主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、本件商標の構成要素中の「スーパーフコイダン」が商標の要部、すなわち、当該文字部分が自他商品識別機能、出所表示機能等を発揮する部分であるとの前提に立つものであるところ、上記(1)のとおり、この「スーパーフコイダン」の文字は単に当該商品が高品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類を含有する商品であることを記述するにすぎないものであり、商標としての諸機能を発揮し得ないものである。 イ また控訴人は、原判決は、要部の認定に際しての認定方法と、称呼の認定に際しての認定方法とでは、その認識の仕方が著しく相違しているのであって、このように同じ商標の認識の仕方が、都合により相違する結果を招来してしまうのは、論理的に矛盾すると主張する。 しかし、原判決は、「スーパーフコイダン」の部分が本件商標の要部となり得るか否かを判断するために、「スーパー」が商品の誇示表示であり、「フコイダン」が海藻類に含有される硫酸化多糖類を意味するものであると認定したうえで、これらを結合した「スーパーフコイダン」の文字は、高品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されている商品であることを説示したにすぎず、その結果として、「スーパーフコイダン」が商標の要部とはならないと認定し、本件商標の要部は「自然健康館スーパーフコイダン」であると結論付けることは、極めて論理的な判断手法であり、何ら矛盾するところはない。 (3) 控訴人の2(1)ウの主張に対し 控訴人は、「フコイダン」は取引者及び需要者において海藻類の成分を抽出して作られた健康食品の原材料を表示する用語として捉えられていることを前提とする原判決の判断は誤りであるとし、その理由として、「フコイダン」が、一般需要者には馴染みのない専門用語であって、その意味を正確に知るものは少ないこと、「スーパーフコイダン」という用語が商品の取引において原材料表示として使用された事実がないことを指摘する。 しかし、仮に、「フコイダン」の正確な意味が知られていないとしても、少なくとも、「フコイダン」は「モズク等の海藻類から抽出された物質」である程度の意味合いは本件商品に接する取引者又は需要者に把握されるものであり、その程度の認識があれば、「フコイダン」の文字が使用された商品が当該物質を原材料とするものと認識されることは明白である。さらに、仮に「フコイダン」が専門用語であるとしても、これが本件商品の原材料に関連する特定の物質を意味する語として一般的に用いられている以上、これが専門用語であるか否かを論ずる意味はない。 また、「スーパーフコイダン」という文字についても、仮に、これが原材料表示として使用されている実例が存在しないとしても、「フコイダン」が原材料として使用される物質を表示するものである以上、これに商品の誇称表示にすぎない「スーパー」を付加した「スーパーフコイダン」が自他商品識別機能を発揮しないことは明らかである。 (4) 控訴人の2(1)エの主張に対し ア 控訴人は「フコイダン」、 ないし「スーパーフコイダン」が普通名称の部類に属するとしても、本件商標の要部は「スーパーフコイダン」であって、「自然健康館スーパーフコイダン」ではないと主張し、その根拠として、控訴人は、遅くとも平成13年7月頃には、他に先駆けて「スーパーフコイダン」を控訴人の販売する商品の標章として使用し、販売実績を積んできている旨を主張する。 しかし、控訴人は、僅かに4本分の売り上げの「受注及び売上表」を提出するのみで(甲2〔平成13年8月17日付け「受注及び売上表」〕及び甲3〔平成13年8月31日付け「受注及び売上表」〕)、その実績については何ら立証するところがない。 イ また控訴人は、遅くとも平成13年7月頃には、他に先駆けて「スーパーフコイダン」を控訴人の販売する商品の標章として使用し、「スーパーフコイダン」の文字を付した控訴人の商品が雑誌等で紹介されている旨を主張する。 しかし、「スーパーフコイダン」の文字を付した控訴人の商品の掲載例は極く僅かであり、この程度の広告宣伝によって、「スーパーフコイダン」の文字が控訴人の商品の出所を表示する標識として機能するとは到底考えることができない。そして、「フコイダン」の文字を使用する商品は、控訴人が商品に「スーパーフコイダン」の使用を開始したと主張する平成13年7月以前から多数存在していた(乙32の1〜3〔2001年(平成13年)5月9日付け健康産業新聞15頁〜17頁〕、乙33〔2003年(平成15年)10月15日付け健康産業新聞16頁〜20頁〕)から、控訴人が他に先駆けて使用していたとの主張は失当である上、現在では、さらに多くの者がフコイダンを原料とする加工食品について「フコイダン」の文字を付した商品の販売を行っており(乙34の1〜3〔ケンコーコム株式会社のウェブサイト〕)、さらに「スーパーフコイダン」の文字を付した商品についても控訴人及び被控訴人以外の者によって使用されている(乙35〔株式会社GOLD Communicationsのウェブサイト〕)状況下においては、よほど膨大な使用実績を積み、かつ、莫大な量の広告宣伝活動でも行わない限り、「スーパーフコイダン」の文字が商標としての識別性を獲得することはあり得ない。したがって、「スーパーフコイダン」の部分は、本件商標の要部とはなり得ない。 (5) 控訴人の2(1)オの主張に対し 控訴人は、原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤りであり、両者は類似の商標というべきであると主張する。しかし、かかる控訴人の主張は、「スーパーフコイダン」の部分が本件商標の要部となり得ることを前提とするものであるところ、前記のとおり、かかる文字部分が本件商標の要部とはなり得ないから、控訴人の主張は失当である。 (6) 控訴人の(2)の主張(不正競争防止法2条1項1号該当)に対し ア 時機に後れた攻撃方法であること 控訴人は、被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張するが、かかる控訴人の主張は、第一審係属中に主張可能であったはずの事実であったにもかかわらず、全く主張されていなかった新たな主張であるから、被控訴人は、時機に後れた攻撃方法として却下を求める。 イ 被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項1号に該当しないこと以下の(ア)〜(エ)のとおり、いかなる点を見ても、被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為にはなり得ない。 (ア) 「スーパーフコイダン」の商品等表示性につき 前記のとおり、「スーパーフコイダン」は、高品質の「フコイダン」、すなわち、高品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所表示機能を有しないものであるから、控訴人の商品等表示ではない。 (イ) 「スーパーフコイダン」の周知性につき 前記(4)のとおり、控訴人は、「スーパーフコイダン」の標章を付した商品の販売実績については主張するのみで、何ら立証するところがないし、「スーパーフコイダン」の標章を付した控訴人の商品が雑誌等で紹介されている掲載例は極僅かであり、この程度の広告宣伝によって、「スーパーフコイダン」の文字が控訴人の商品の出所を表示する標識として機能するとは到底考えることができない。したがって、「スーパーフコイダン」が控訴人の商品等表示として周知性を獲得しているとはいえない。 (ウ) 誤認混同を生ずるおそれにつき 被控訴人は、控訴人が「スーパーフコイダン」の表示を使用する以前から、アガリクスを原材料とする商品について「SUPER AGARICUS(スーパーアガリクス)」の標章を付して製造販売を行っていたことから、その姉妹品として販売される被告商品について「スーパーフコイダン」の標章を使用したものである。また、健康食品の分野においては、原材料に「スーパー」の文字を付加することは頻繁に行われている。したがって、被控訴人は、控訴人の商品の信用にただ乗りする意図で「スーパーフコイダン」の標章を使用したものではない。 (エ) 標章の同一性につき 被控訴人の被告標章は、前記のとおり、「SUPER」・「FUCOIDAN」及び「スーパーフコイダン」の文字と6本の横線を菱形状に表した二つの図形とを組み合わせたものであるから、控訴人が使用する「スーパーフコイダン」の表示とは同一ではない。 第4 当裁判所の判断 1 商標権侵害に係る請求(控訴に係る請求)について 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決説示のとおりである。 (1) 控訴人の(1)アの主張について 控訴人は、本件商標は、その構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」の二段併記になっており、一般需要者が取引に際して見たときは、外観的に両者を区分して認識し、前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウスマークとして出所識別機能を、後者の「スーパーフコイダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として自他商品識別機能を果たしていると認識する、そのため、本件商標の要部は、商標構成全体を要部とするだけではなく、「自然健康館」と「スーパーフコイダン」という各部分についても独立した自他商品識別力を発揮しているものとして、これらの部分も要部であると認定すべきである、したがって、本件商標の要部観察の対象として観念される部分は3部分あるにもかかわらず、原判決が商標の構成全体だけを要部観察の対象として判断したのは、事実の認定に誤りがあり、また、他の要部の部分を考慮しない理由を示さなかったものであるから、理由に不備がある、と主張する。 しかし、本件商標の構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」の二段併記になっているとしても、そもそも「スーパーフコイダン」の部分に出所識別力が認められないのであれば、当然には、一般需要者が、前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウスマークとして出所識別機能を、後者の「スーパーフコイダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として、それぞれ自他商品識別機能を果たしていると認識するとはいえず、本件商標の要部観察の対象として観念される部分が3部分あるともいえない。しかるに、本件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」の分野では、「スーパーフコイダン」という用語は、高品質の「フコイダン」、すなわち、高品質な、海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所識別力を有しないことは、原判決の説示するとおりである。したがって、これを踏まえて、「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らし、本件商標は、「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであり「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解するのが相当であるとした原判決に、控訴人が指摘するような事実誤認や理由不備はないというべきである。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 (2) 控訴人の(1)イの主張について ア 控訴人は、本件商標からは3部分の要部が認定されるから、本件商標全体の構成「自然健康館スーパーフコイダン」からは「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」の称呼が、「自然健康館」の部分からは「しぜんけんこうかん」の称呼が、「スーパーフコイダン」の部分からは「すーぱーふこいだん」という称呼が生じると主張するが、上記(1)に説示したとおり、「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であるというべきであって、本件商標からは3部分の要部が認定できるとはいえないから、控訴人の主張はその前提を欠くものであり失当である。 イ また控訴人は、本件商標では、全体構成から出る「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は、非常に長い称呼となるため、このような称呼の商品の場合、取引の際には、これらの一部分を省略した略称を使用する場合の多いことは、取引の経験則上公知の事実である、しかも、本件商標の構成が、二段併記になっていることと、「自然健康館」がハウスマークとして、「スーパーフコイダン」がグッズマーク(商品識別マーク)として、それぞれ認識されることから、その商品は、「スーパーフコイダン」と略称して商品取引されるものであり、それが常態的な取引形態である、このことは、特許庁の商標審査基準に、「長い称呼を有するために、商標の一部分によって簡略化される可能性のある商標は、原則として、その簡略化される可能性のある文字のみからなる商標と類似する」とされていることからも裏付けられる、と主張する。 しかし、本件商標が二段併記になっており、その全体構成から出る「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼が非常に長く、控訴人の商品が「自然健康館スーパーフコイダン」でなく「スーパーフコイダン」と略称して実際に商品取引されていることが仮にあったとしても、前記(1)に説示したとおり、本件商標は「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じ、「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解するのが相当であることを当然に左右するものではないし、「スーパーフコイダン」が具体的取引の実情において出所の識別標識として使用されているということができないことは、後記(4)に説示するとおりである。また、本件商標において、「自然健康館」がハウスマークとして、「スーパーフコイダン」がグッズマーク(商品識別マーク)として、それぞれ認識されると当然にはいえないことは、前記(1)に説示したとおりである。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ 控訴人は、原判決は、要部の認定に際しては、本件商標について全体観察を強調して、本件商標は全体として一体の商標として認識すべきであるとするのに対し、称呼の抽出に際しては、逆に必要以上に分離観察を繰り返し、「フコイダン」の用語だけを取り出し、その用語観念(意味合い)にこだわり、「スーパーフコイダン」はそれ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないと判断しているものであって、要部の認定に際しての認定方法と、称呼の認定に際しての認定方法とで、その認識の仕方が著しく相違している、と主張する。 しかし、原判決は、前記(1)に説示したとおり、「スーパーフコイダン」それ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないとした上で、「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らし、本件商標は、「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであるとした上、「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解し、かかる解釈を踏まえて「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」という称呼を認定しているのであるから、要部の認定と称呼の認定とでその認定の仕方が相違しているものではなく、称呼の抽出に際し、「フコイダン」の用語だけを取り出し、その用語観念(意味合い)にこだわったものともいえない。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 控訴人の(1)ウの主張について ア 控訴人は、「フコイダン」は馴染みのない専門用語であり、化学的には厳格な物質として特定がなされていない概念の用語であるほか、分子量が小さいものから大きいものまで大きく異なる多様な物質の総称であり、その生理作用についても全てにあるのか一部にあるのか不明な極めて曖昧な概念の用語である(甲21の1〜3、22、23)、さらに、いわゆる健康食品には、生理作用やその効果については表示したり広告したりできないという制約があるため、原判決が指摘するような、がん細胞等に対し効果がある物質である、などという生理作用や効果までが取引者及び需要者に広く知られていたとすることは、その情報を得るための前提を欠くと主張する。 しかし、「フコイダン」が専門用語であり、化学的には厳格な物質として特定がなされていない概念の用語であるほか、分子量が小さいものから大きいものまで大きく異なる多様な物質の総称であり、その生理作用についても全てにあるのか一部にあるのかも不明であるからと言って、当然に「フコイダン」が本件商標の指定商品の取引者・需要者において認識の対象となり得ないと考えることはできず、原判決が詳細に認定した学術文献、業界誌及び雑誌、辞書の各記載に照らせば、「フコイダン」なる用語が、本件商標の出願時(平成16年10月13日)において、いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間では、少なくとも海藻類に含有され、かつ健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたと認められることに変わりはない。 また、いわゆる健康食品において、その生理作用や効果について表示したり広告したりできないという制約があったとしても、こうした行政上の制約は、取引者及び需要者の認識とは別の事項であるから、がん細胞等に対し効果がある物質であるといわれているものとして広く知られていたとの認定を左右できるものではない。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 イ また控訴人は、本件商標の構成要素は、単なる「フコイダン」ではなく「スーパーフコイダン」であるところ、この「スーパーフコイダン」という用語が、当該商品の取引において原材料の表示として使用された事実はないと主張する。 しかし、仮に「スーパーフコイダン」という用語が、当該商品の取引において原材料の表示として使用された事実がなかったとしても、「スーパーフコイダン」の「スーパー」は、原判決が説示するとおり、商品の誇称表示として一般的に使用されている用語にすぎず、こうした「スーパー」を冠さない「フコイダン」については、上記のとおりこれを名称に含む様々な健康食品が販売されている状況が存在するのであるから、控訴人が指摘する上記事実のみをもって当然に「スーパーフコイダン」それ自体について出所識別力を有することを導くことができるということにはならない。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ また控訴人は、普通名称化したものであることが認定されるためには、同業者間の認識のみでは足らず、少なくとも一般消費者が普通名称化していることを認識することが必要であるが、更にそれのみならず、当該商品の取引者間において現実に普通名称として使用されていることを必要とする、したがって、辞書やその他の一般刊行物、当該取引に関係ない学問的、技術的文献、講演等において普通名称であるかのように使用されているのみでは足りない、また、熟年生活応援マガジン「はいから」2003年(平成15年)春号〔甲6 〕、平成15年7月3日発行の「女性セブン」〔甲7〕、ビジネス情報誌「エルネオス」2004年(平成16年)2月号〔甲8〕、「がんを治す完全ガイド」2004年(平成16年)2月号〔甲9〕、「週刊ポスト」2004年(平成16年)7月2日号〔甲10〕においては、控訴人が他社に先駆けて「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」を自己の標章として使用し、「フコイダン」の名が取引者、消費者に知られるようになった事実が示されている、と主張する。 しかし、原判決は、もともと出所識別力を有していた「スーパーフコイダン」が普通名称化したとしたものではなく、前記(1)に説示したとおり、そもそも「スーパーフコイダン」それ自体では出所識別力を有せず、本件標の要部とはなり得ないとしたものであるから、控訴人の上記主張はその前提を欠くものである。また、2001年(平成13年)5月9日付け健康産業新聞(乙32の1〜3)によれば、控訴人が初めて「フコイダン」の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年7月頃には、既に複数のフコイダンとの表示を冠する商品が存在していたのであるから、控訴人が他社に先駆けて「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」を自己の標章として使用したといえないことは、原判決説示のとおりである。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 (4) 控訴人の(1)エの主張について 控訴人は、仮に、原判決のいうように「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」が普通名称の部類に属するとしたとしても、以下の事情に照らせば、「スーパーフコイダン」は、具体的取引の実情において出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められるから、商標法3条2項の趣旨を類推して、識別力を取得すると主張し、控訴人が、遅くとも平成13年7月頃から現在に至るまで、控訴人の商品の標章として「スーパーフコイダン」を単独で使用し、あるいは「スーパーフコイダン」を「F」と共に使用し、または、「SUPER FUCOIDAN」と英記して使用していること、平成17年5月から平成18年4月までの1年間において、少なくとも687万8600ミリリットルの「スーパーフコイダン」を販売し、年間1億8217万2000円の販売高を上げ、平成13年7月から本年までの6年の間には、少なくともその5ないし6倍の販売実績を上げていること、マスメディアにおいても、「女性セブン」、「週刊ポスト」、「がんを治す完全ガイド」等において発売元を控訴人と明示の上「スーパーフコイダン」等の標章が付されて控訴人の商品が紹介されており(甲6〜10)、その訴求効果は大きいこと(甲26、27、28の1〜3)、顧客のみならず、販売代理店や医師の間においても「スーパーフコイダン」という単独の標章が、控訴人の商品に係る商標、標章であると広く認知されていること(「スーパーフコイダンについて」と題する各文書〔甲24の1〜21〕、「『スーパーフコイダン』の商品名について」と題する各文書〔甲25の1〜22〕)を指摘する。 しかし、控訴人が指摘する商標法3条2項は、商標法3条1項3号等のように本来は自他商品の識別性を有しない商標であっても、特定の商品表示が長期間継続的かつ独占的に使用され、宣伝もされてきたような場合には、結果としてその商品表示が商品の出所表示機能を有し周知性を獲得することになるので、例外的にその登録を認めようとしたものと解される。 しかるに、本件事案においては、原判決が認定したように、控訴人が初めて「フコイダン」の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年7月頃に、既に複数のフコイダンとの表示を冠する商品が存在し、現在は、「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況が存在するのであり、そのほか、「スーパー」は商品の誇称表示として一般的に使用されている用語にすぎないことを併せ考慮すると、「スーパーフコイダン」という名称は健康食品としてありふれたものと評価せざるを得ない。また、「スーパーフコイダンについて」と題する各文書〔甲24の1〜21〕及び「『スーパーフコイダン』の商品名について」と題する各文書〔甲25の1〜22〕を見ても、これらは概ね作成者に応じて文章表現が異なっていることは認められるものの、題目やワープロ文字においてほぼ共通するものや、文章表現が似通ったものを相当数含んでいることから、控訴人が予め用意したものに日付を記入して記名押印したと認められるものも相当数に上るといえるほか、これらは、あくまでも、それぞれの各文書に記名又は署名押印した具体的な顧客・販売代理店・医師等の認識を表すものにすぎない。これらの事情に照らせば、控訴人の商品「スーパーフコイダン」の販売高(なお、控訴人の売上高が年間1億8217万2000円であるとしても、2003年(平成15年)10月15日付け健康産業新聞〔乙33〕に「市場規模は40億円に」との記載があることからすると、売上高は市場全体の約4.5%にすぎず、特定の商品表示が独占的に使用されてきた場合には当たらない可能性を否定できない。)、雑誌等における広告宣伝状況や訴求効果(原判決が説示するとおり、控訴人が指摘する雑誌等を見ても、控訴人の商品「スーパーフコイダン」は「フコイダン」を含有する商品の一つとして紹介されているに止まり、数多くある「フコイダン」関連商品の中で「スーパーフコイダン」という名称が特別に出所識別力を有するに至っていると認めることはできない。)等を精査しても、控訴人の「スーパーフコイダン」という商品表示については、いまだその使用の結果、商品の出所識別機能を有し周知性を獲得するに至っているとまで認めることはできない。したがって、「スーパーフコイダン」において、具体的取引の実情において出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められるということはできず、商標法3条2項の趣旨を類推して識別力を取得したとすることはできない。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 (5) 控訴人の(1)オの主張について 控訴人は、原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤りであり、両者は類似の商標というべきである、と主張するが、下記ア、イのとおり、採用することができない。 ア 控訴人は、本件商標から抽出される称呼は、「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」だけではなく、本件商標の要部観察から「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」と「しぜんけんこうかん」と「すーぱーふこいだん」という3つの称呼が生じる、そして、「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は、長い称呼であるため、取引の際には一部省略されて称呼されるのが一般的であり、「自然健康館」は、いわゆるハウスマークとして機能しているため、結局、称呼としては「すーぱーふこいだん」と略称されて取引されるのが実情である、と主張する。 しかし、控訴人の上記主張のうち、前段部分は、本件商標の要部として「自然健康館スーパーフコイダン」「自然健康館」「スーパーフコイダン」の3つが認定できることを前提とする主張であるところ、前記(1)の説示に照らし本件商標の要部が3部分あると認めることはできないし、また、後段部分は、前記(2)の説示に照らし、採用することができない。 イ また控訴人は、原判決における観念類否の考察は、商標構成文字を単に比較しただけで、両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したものではない、原判決は、観念類否を考察するときには「自然健康館スーパーフコイダン」全部が一体で要部であると認定しておきながら、要部認定に際しては、商標構成要素の中から「スーパーフコイダン」だけを分離抽出し、さらに、これを「スーパー」「フコイダン」に分離して、観念を論じ要部ではないとしている、しかるに、商標の要部が3部分あれば、観念においても3つの観念が生じていると考えるべきであり、二段併記されていることが原因で分離して認識される「自然健康館」と「スーパーフコイダン」は、いずれも要部であり、それぞれについても観念が認定されるべきであると主張する。 しかし、控訴人の上記主張のうち、前段部分については、原判決は、前記(1)に説示したとおり、「スーパーフコイダン」それ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないとした上で、「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らし、本件商標は、「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであり「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解し、かかる解釈を踏まえて、本件商標の観念と被告標章の観念が類似しないと説示したものであるから、原判決における観念類否の考察が、両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したものでないということはできないし、観念類否の考察をする前提として、本件商標の要部認定の際にその各部分の出所識別力を検討するのは当然であるから、観念類否の考察をするときは全部が一体で要部と認定しながら要部認定に際しては分離抽出をした齟齬があるとの旨の控訴人の上記主張は失当である。また、後段部分については、商標の要部が3部分あることを前提とするものであるところ、前記(1)の説示に照らし商標の要部が3部分あると認めることはできないから、控訴人の上記主張はその前提を欠くものである。 2 控訴人の当審における請求(不正競争防止法に基づく請求)について (1) 控訴人は、当審における新たな請求として、不正競争防止法2条1項1号に基づく差止め及び損害賠償として商標権侵害を理由とする差止め及び損害賠償と同内容の請求をし、その理由付けとして、控訴人の主張(2)アないしエの主張をしている。これに対し被控訴人は、かかる主張は第一審係属中に主張可能であった事実であったのに全く主張されなかった新たな主張であるから、時機に後れた攻撃方法として却下されるべきであるとする。 そこで検討するに、時機に後れた攻撃方法として却下することができるのは、民訴法157条1項によれば「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」場合であるところ、本件においてはこれに関する特段の立証がなされることなく弁論終結に至っているのであるから、民訴法157条1項によりこれを却下するのは相当でない。 そこで、進んで、控訴人の新たな主張について以下判断する。 (2) 控訴人は、平成13年7月頃から、控訴人の商品である海藻エキスを主原料とする液状又は粉状の加工食品をウェブサイトあるいは販売代理店を通じて顧客に販売し、控訴人の販売する商品を表示するものとして「スーパーフコイダン」との標章を用いている、控訴人は、上記の商品を、控訴人の所在地である東京都を中心としつつ、日本全国に向けて販売しており、その販売実績、宣伝広告の状況からみて、遅くとも平成16年3月頃までには、「スーパーフコイダン」の標章は、消費者の間で、控訴人の商品を表示するものとして周知となっていた、すなわち、平成15年4月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された季刊誌「はいから」は12万部、同年7月に控訴人商品の紹介記事が掲載された「女性セブン」誌は当時毎月平均40万部、平成16年2月に控訴人商品の紹介記事が掲載された「エルネオス」誌は2万3000部、「がんを治す完全ガイド」誌は5万部がそれぞれ販売されている、そして、これに控訴人の商品の販売状況も併せてみれば、「スーパーフコイダン」が控訴人の商品等表示として周知であったことは明らかである、そうすると、控訴人の周知な商品等表示である「スーパーフコイダン」が被告標章と同一であり、かかる被告標章を付して商品販売等を行うことにより消費者に誤認混同を惹起せしめているとして、被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張する。 しかし、前記1(1)に説示したのと同様に、控訴人及び被控訴人が販売する商品が含まれる「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」の分野では、「スーパーフコイダン」という用語は、高品質の「フコイダン」、すなわち、高品質な、海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所識別力を有しないというべきであるから、前記1(4)に説示したのと同様に、控訴人が主張する商品「スーパーフコイダン」の販売高、雑誌等における広告宣伝状況等をもってしても、控訴人の「スーパーフコイダン」が控訴人の商品を表示するものとして周知となったということはできず、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当しないというべきである。したがって、控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当しないというべきである。 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 上記(1)、(2)によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の当審における新たな請求(不正競争防止法に基づく差止請求・損害賠償請求)はいずれも理由がない。 3 結語 以上のとおりであるから、商標権侵害を理由とする本訴請求は理由がないからこれと結論を同じくする原判決は相当であり、また不正競争防止法違反を理由とする当審における請求も理由がない。 よって、控訴人の本件控訴及び当審における請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 今井弘晃 裁判官 田中孝一 |
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