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【事件名】工業製品設計図の“毀棄”事件B
【年月日】平成19年12月12日
 東京地裁 平成19年(ワ)第22834号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年10月24日)

判決
原告 株式会社イー・ピー・ルーム
被告 住友石炭鉱業株式会社
同訴訟代理人弁護士 冨永敏文
同 尾原央典


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、金10万円及び平成19年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告と被告間における訴訟である知財高裁平成19年(ネ)第10015号事件の訴訟(原審・東京地裁平成18年(ワ)第22355号〔本訴〕、同第26612号〔反訴〕事件。以下「知財高裁10015号事件訴訟」といい、 同事件の判決を「知財高裁1 0 0 1 5 号事件判決」という。)において、同事件の被控訴人(被告)である本件訴訟の被告が、虚偽の主張又は錯誤により誤った主張をしたため、裁判所を錯誤に陥らせ、知財高裁10015号事件訴訟の控訴人(原告)である本件訴訟の原告の請求を棄却する旨の判決をさせたとして、被告の知財高裁10015号事件訴訟における上記行為は不法行為を構成すると主張して、不法行為に基づき、10万円の損害金(及びこれに対する訴状送達の日の翌日から民法所定年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めている事案である。
1 原告の主張
 知財高裁10015号事件訴訟において、被告は、虚偽の主張又は錯誤により誤った主張をしたため、裁判所は、知財高裁10015号事件判決において、次のとおり、誤った判断をした。
 被告の上記行為は不法行為を構成し、原告は、これにより10万円の損害を被った。
 したがって、原告は、被告に対して、不法行為に基づき、10万円の損害賠償の請求をする。
(1) 知財高裁10015号事件判決は、第4の1(1)において、「被告は原告に対し放電プラズマ燒結機の発注を行ったことを認めることはできず、原告と被告は、原告作成の設計図による製品を、原告が有限会社北栄興業において製造して被告に納入する旨の合意(以下「本件製造納入合意」という。)をしたと認めることはできない。」旨の判断をした。
(2) 知財高裁10015号事件判決は、第4の1(2)において、原告が作成した、知財高裁10015号事件訴訟における甲8の1の図面(以下「本件原告設計図」という。)は、表現上の創作性が認められないとして、本件原告設計図の著作物性を否定する旨の判断をした。
(3) 知財高裁10015号事件判決は、第4の1(3)において、被告は、本件原告設計図等の原本を騙取したものではない旨の判断をした。
(4) 知財高裁10015号事件判決は、第4の1(4)において、原告のした、被告の横領による不法行為の主張を採用しない旨の判断をした。
(5) 知財高裁10015号事件判決は、第4の1(5)において、「原告の署名を切り取り、本件原告設計図に貼り付けたことを認めるに足りる証拠はない。」旨の判断をした。
2 被告の主張
 知財高裁10015号事件判決が原告の主張のとおりの判断をしたことは認めるが、同判決に誤りはない。また、同判決は、被告の行為ではないから、原告の主張は主張自体失当である。
第3 当裁判所の判断
1 知財高裁10015号事件訴訟における原告の請求及びそれに対する裁判所の判断の内容は、 概略、 以下のとおりである( 甲8 、 裁判所に顕著な事実)。
(1) 知財高裁10015号事件訴訟において、原告は次のとおりの主張をし(なお、以下の請求は、同訴訟における原告の請求の一部である。)、被告は、原告の同主張をいずれも否認した。
ア 原告請求@
 原告と被告は、本件製造納入合意をしたにもかかわらず、被告は、原告作成の図面一式を株式会社X(以下「X」という。)に交付して、同社に、放電燒結装置を製造させ、本件原告設計図を含む図面一式を被告から詐欺に当たる手段で取得した。
 被告の上記行為は本件製造納入合意の債務不履行に当たり、原告は、これにより少なくとも1億円の損害を被ったが、そのうちの一部請求として、5万円の請求をする。
イ 原告請求A
 被告は、本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り、被告の名称欄を貼り付けて、 設計図を作成し( 以下「本件被告設計図」という。)、その上で、本件被告設計図を複写して、Xに交付した。
 被告の上記行為は、本件原告設計図について原告が有する複製権及び同一性保持権の侵害に当たり、原告は、同不法行為により15億円の損害を被ったが、そのうちの一部請求として、5万円の請求をする。
ウ 原告請求B
 被告は、被告の方式で図面番号を付したいから、本件原告設計図、部品図を貸してくれと言って占有し、これを原告に返さずに騙し取り、原告に損害を被らせた。被告のこの行為は、詐欺による不法行為となり、原告は、同不法行為により15億円の損害を被ったが、そのうちの一部請求として、5万円の請求をする。
エ 原告請求C
 被告は、上記ウのとおり、各図面の原紙を原告から騙し取って占有しており、また、被告が占有する本件原告設計図により放電燒結装置を製造販売したのであるから、被告には横領による不法行為が成立する。原告は、同不法行為により15億円の損害を被ったが、そのうちの一部請求として、5万円の請求をする。
オ 原告請求D
 被告は、本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り、被告の名称欄を切り貼りして、本件被告設計図を作成したが、被告の同行為は、私文書偽造に該当する。また、被告は、原告が被告から強いて使うようにと言って渡された用紙に、原告が鉛筆で作図した50枚の部品図の中から、例えば一枚の図面を選んで、原告の署名を切り取り、本件原告設計図に貼り付けて、原告の署名があるとするが、かかる行為は私文書偽造に当たり不法行為が成立する。
 原告は、被告の上記行為により15億円の損害を被ったが、そのうちの一部請求として、5万円の請求をする。
(2) 知財高裁10015号事件判決の判断
ア 原告請求@に対して
 被告が原告に対して、具体的な発注を行ったものと認めるに足りる証拠はないから、本件製造納入合意があったとは認められない。
 したがって、原告請求@は理由がない。
イ 原告請求Aに対して
 本件原告設計図には表現上の創作性が認められないから、原告の著作権(複製権、同一性保持権)侵害の主張は、その前提を欠き失当である。
 したがって、原告請求Aは理由がない。
ウ 原告請求Bに対して
 被告が本件製造納入合意をしたと認めることはできず、また、原告も記名押印した本件取引基本契約(知財高裁10015号事件訴訟における甲6)の第19条には、原告が作成した図面等の所有権は被告に帰属する旨の規定が存在するから、各図面の原紙の所有権は被告に帰属することを原告も同意していたのであり、原告が平成6年10月14日に被告から図面コピー1式の送付を受けた際やその後においても、上記原紙を返してもらっていない旨直ちに異議を申し出た形跡もないことから、被告の詐欺行為を認めることはできない。
 したがって、原告請求Bは理由がない。
エ 原告請求Cに対して
 前記ウの説示に照らして、原告請求Cに係る原告の主張は採用できず、原告請求Cは理由がない。
オ 原告請求Dに対して
 本件全証拠によっても、原告が被告から強いて使うようにと言って渡された用紙に、原告が鉛筆で作図した50枚の部品図の中から、例えば一枚の図面を選んで、原告の署名を切り取り、本件原告設計図に貼り付けたことを認めるに足りる証拠はないから、原告請求Dは理由がない。
2 原告は、知財高裁10015号事件訴訟において、被告が、虚偽又は錯誤により誤った主張をしたため、知財高裁10015号事件判決において誤った判断がなされた旨主張する。
 そこで、検討するに、原告が上記判決において誤った判断をしたと主張する部分に係る原告の主張は、前記1( 1)のとおりであり、これに対し、被告は、同主張をすべて否認し、また、知財高裁10015号事件判決は、前記1(2)のとおりの判断をしたものと認められるところ、本件において、被告の上記主張が虚偽又は錯誤により誤ったものであること、及び知財高裁10015号事件判決の上記判断が、被告が同主張の立証として提出した証拠を誤って採用したためになされたものであることを窺わせる証拠は一切ない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 佐野信
 裁判官 國分隆文
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