判例全文 line
line
【事件名】類似大衆食堂チェーン事件(2)
【年月日】平成19年12月4日
 大阪高裁 平成19年(ネ)第2261号 不正競争行為差止等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成18年(ワ)第10470号)
 (当審口頭弁論終結日 平成19年10月2日)

判決
控訴人(1審原告) 株式会社フジオフードシステム
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 中世古裕之
同 三好吉安
被控訴人(1審被告) 株式会社ライフフーズ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 阪口祐康
同 西山宏昭


主文
1 本件控訴及び当審新請求を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1)(主位的請求)
 被控訴人は、飲食店営業上の施設並びに宣伝広告活動及びホームページについて、原判決別紙物件目録記載c−@A、d−@、e−@A、f−@〜S及びh−@の各物件中の「食堂」の表示、同目録記載d−@、e−@A及びf−@〜Sの看板並びにこれらと類似する「食堂」の表示及び看板を使用してはならない。
(2)(予備的請求)
 被控訴人は、飲食店営業上の施設並びに宣伝広告活動及びホームページについて、同目録記載の「食堂」の表示、看板、メニュー看板、蛍光灯、ポスター、及びこれらと類似する「食堂」との表示、看板、メニュー看板、蛍光灯、ポスターを使用してはならない。
3(1)(主位的請求)
 被控訴人は、店舗、宣伝広告物、ホームページその他の営業表示物件から、上記c−@A、d−@、e−@A、f−@〜S及びh−@の各物件中の「食堂」の表示並びにd−@、e−@A及びf−@〜Sの看板を廃棄又は抹消せよ。
(2)(予備的請求)
 被控訴人は、店舗、宣伝広告物、ホームページその他の営業表示物件から、同目録記載の「食堂」の表示、看板、メニュー看板、蛍光灯、ポスターを廃棄又は抹消せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、111万3000円及びこれに対する平成18年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人は、控訴人に対し、平成18年10月17日から、上記3項による廃棄又は抹消までの間、1か月111万3000円の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
7 4、5項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、(1)主位的に、控訴人の営業表示として著名であり又は周知性を取得している「ごはんやまいどおおきに○○食堂」の文字から成る表示(以下「控訴人表示」という。)と類似する「めしや食堂」の文字から成る表示(以下「被控訴人表示」という。)を使用する被控訴人の行為が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項2号又は1号の不正競争に当たると主張して、同法3条に基づき、被控訴人表示中の「食堂」の表示及び被控訴人表示が記載された看板並びにこれらと類似する表示及び看板の使用の差止め及び廃棄等を求め、(2)予備的に、控訴人表示を使用した控訴人が経営する店舗(以下「控訴人店舗」という。)の外観(以下「控訴人店舗外観」という。)は全体として控訴人の営業表示として著名であり又は周知性を取得しているところ、被控訴人表示を使用した被控訴人が経営する店舗(以下「被控訴人店舗」という。)の外観(以下「被控訴人店舗外観」という。)に控訴人店舗外観と類似する外観を使用する被控訴人の行為は、不競法2条1項2号又は1号の不正競争に当たり、仮にそうでないとしても、民法上の不法行為を構成すると主張して、主位的に不競法3条に基づき、予備的に民法709条による被害回復請求権に基づき、被控訴人表示中の「食堂」の表示並びに被控訴人表示が記載された看板、メニュー看板、蛍光灯及びポスターの使用の差止め及び廃棄等を求め、(3)併せて、不競法4条又は民法709条に基づき、被控訴人による被控訴人表示又は被控訴人店舗外観の使用により控訴人が被った損害として、各被控訴人店舗ごとに出店月の翌月1日から平成18年9月末日(訴状送達日の前月末)まで1か月111万3000円の割合による損害金及びこれに対する出店月の翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成18年10月17日(訴状送達日の翌日)から上記表示等の抹消又は廃棄までの間各被控訴人店舗ごとに上記同額の割合による損害金の支払を求めた事案である。
 原審は控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。但し、上記(3)の金銭請求については前記第1・4、5のとおりの請求とし、これを超える部分については不服申立をしなかった。なお、控訴人は、当審において、被控訴人表示の使用が不法行為を構成するとして、使用差止め等を求める請求を追加した。
2 争いのない事実、争点、争点に関する当事者の主張は、以下のとおり当審での補充主張を付加する他は、原判決「事実及び理由」第2、第3のとおりであるからこれを引用する。
〔控訴人〕
(1) 被控訴人表示は控訴人表示に類似するか(争点1)
 控訴人・被控訴人表示は、その半分を「食堂」という文字が占め、表示が白地の上に表記されている点で共通し、類似する。「食堂」との文字が識別標識はならないにしても、営業表示の類似性を判断するに当たっての一要素となり、類似性の検討にあたって「食堂」との文字を除外する必要はない。また、控訴人表示の「ごはんや」の文字と、被控訴人表示の「めしや」の文字は同じ意味であり、両表示は類似し、双方の表示とも「ご飯等の飲食物を提供する食堂・飲食店」という同一の観念を生じさせるものであり、類似の営業表示と認めることは十分可能である。
 被控訴人が「ザ・めしや」とのブランドで営業を続けたため「ザ」と一体になった形に識別力が認められるにしても、「めしや」単体では識別力はない。控訴人は、被控訴人表示の控訴人表示との類似性を減じるべく、その表示の一部をなす「食堂」との表示の抹消を求めている。
(2) 被控訴人店舗外観は控訴人店舗外観に類似するか(争点3)
ア 正面上部看板、ポール看板について
 営業表示の類似性の判断において、称呼の類似性は一要素にすぎず、需要者は営業表示を一次的には視覚で捉えることが多いから、外観の類似性を全体として比較検討すべきところ、看板に記載された控訴人表示と被控訴人表示は、丸のデザインが用いられている点や赤色が丸と関連づけられている点が共通し、被控訴人表示の字体は大きく分けて毛筆体とポップ体の2種類あるが、ポップ体は明確に字体が定義づけられたものではなく(甲51、52)、被控訴人がポップ体と称するもの(乙8)は毛筆体に近くポップ体の範疇に入るか疑問があり、控訴人表示の中でも字が細いものは毛筆体とはいえ被控訴人の称するポップ体に近く(乙14の5、6)、類似する。被控訴人がポップ体の被控訴人表示を導入したのは、毛筆体の被控訴人店舗の看板類を不競法違反とする控訴人の指摘を契機とするから、被控訴人表示のうち少なくとも毛筆体のものについては被控訴人も控訴人表示と類似していると認識していた(甲28〜32)。
 表示の類似性の判断にあたっては隔離的に観察しなければならず、控訴人・被控訴人店舗のように客単価の低い飲食業態においては需要者が看板の字を詳細に見ることなく誘引されることが多いから、全体的な印象を重視すべきであって、太黒字体であれば類似性を認めるべきであり、字体、筆致、文字の太さを微細に検討すべきでない。
 被控訴人表示は、看板の他にも、ホームページやチラシに掲載され、看板と切り離された存在であるし、看板の形状は店舗の場所等により制約を受ける場合もあるから、形状が異なるからといって被控訴人表示が控訴人表示に類似しないものではない。
イ その他の構成要素について
(ア) 郊外に立地する独立した建物で営業する店舗形態(日本家屋風平屋建店舗)に限って、控訴人店舗(竜王・甲41の1、さがみはら陽光台・甲41の2、飯田座光寺・甲41の9、国分・甲41の11、佐世保矢峰・甲41の13、神戸有瀬・甲41の14、等)と、被控訴人店舗(西宮北・乙18の8、枚方北・乙18の11〜13、堺出島・乙18の14〜16、和泉・乙18の17、豊中名神口・乙18の25、26、橿原・乙18の29、30、等)の外観全体を比較検討する。
(イ) 控訴人店舗外観を構成する、正面上部看板、ポール看板の他の構成要素は以下のとおりである(@〜Bは外装、C〜Fは内装。なお、B、E、Fは当審で特定して主張を追加した構成要素である。)。
@ 「みそ汁」「玉子焼」「煮鯖」等の大衆食堂で一般的によく提供される物品名が数品目程度、木目調の看板に毛筆体で記載された木目調メニュー看板
A メニューが数十品目程度、入口や窓の上部の黒色ボードに白字の毛筆体で記載されたボード状メニュー看板
B 店舗脇に設置された、「釜焚ごはん」との品目が毛筆体で記載され、赤色があしらわれた白地縦長の幟(のぼり)、及びときにそれと一緒に並べられた別色の同型幟
C 商品を提供する陳列場所上部に設置された、「みそ汁」「玉子焼」「煮鯖」等の大衆食堂で一般的によく提供される物品名が数品目程度、木目調の看板に毛筆体で記載された店舗内部のメニュー看板
D 玉子焼き専用の注文を受けてから焼くコーナーであることを示す表示
E カウンターの上に置かれたカフェテリア方式の3列の陳列台
F 目隠しバーの設置された横長の大テーブル及び吊り下げ式の長い蛍光灯
 上記構成要素は、個別に抽出すると識別力が弱いか、必ずしも識別力はないが、これらを組み合わせた店舗外観を全体としてみると強い識別力を有する。需要者は、控訴人店舗の外装・内装を見ると、その全体的な統一性から「人の温もりを感じさせる下町の大衆食堂」のコンセプトで貫かれた控訴人経営の店舗であることを容易に認識するから、控訴人店舗外観に識別力が認められ、かかる店舗外観を営業表示として保護すべきである。
 この点、米国では、トレードドレス(Trade Dress、ビジネスの全体的なイメージ[total image]あるいは総合的な外観[overall appearance])が商標として登録されていなくとも、@トレードドレスが機能的でないこと(非機能性)、Aトレードドレスが識別力を有すること(識別性)、B被告の商品や役務等によって原告のトレードドレスとの間で消費者に混乱を生じさせる可能性を有すること(混同の可能性)の3要件を満たす限り保護されることを参考に検討すると、控訴人店舗外観は、正面・ポール看板、外装、内装が非機能的かつ識別力を有しているから、営業表示にあたるし、控訴人店舗外観は、控訴人が長年にわたって全国的に用いてきたもので、フリースタンディングタイプ(郊外立地型)店舗だけで現在全国約500店舗、被控訴人店舗が開店された直後の平成17年末時点でも約110店舗存在するから、著名性や周知性のある営業表示である。
(ウ) 被控訴人店舗外観を構成する、正面上部看板、ポール看板の他の構成要素は以下のとおりである(@〜Bは外装、C〜Fは内装)。
@ 「豚汁」「玉子焼き」「さば煮」等の大衆食堂で一般的によく提供される物品名が数品目程度、木目調の看板に毛筆体で記載された木目調メニュー看板
A 食堂のメニューが数十品目程度、入口や窓の上部の木の色ボードに太黒字で記載されたボード状メニュー看板
B 店舗脇に設置された、「さば煮」「具だくさん豚汁」等の品目が太黒字で記載され、赤色があしらわれた白地縦長の幟、及びときにそれと一緒に並べられた別色の同型幟
C 商品を提供する陳列場所上部に設置された、「手作り玉子焼き」「さば煮」等の大衆食堂で一般的によく提供される物品名が数品目程度、木の色看板に太黒字で記載された店舗内部のメニュー看板
D 玉子焼き専用の注文を受けてから焼くコーナーであることを示す表示
E カウンターの上に置かれたカフェテリア方式の3列の陳列台
F 目隠しバーの設置された横長の大テーブル及び吊り下げ式の長い蛍光灯
(エ) 被控訴人店舗外観は、以下のとおり、控訴人店舗外観と個々の構成要素が共通し、全体的な組み合わせが需要者に与える印象が共通し、出所の認識に混乱を生じさせる程度の類似性がある。
@ 木目調メニュー看板は、これを採用した店舗数は少ないが、木目調の縦長の板に少し崩した大きな毛筆体による品目表示がある点、品目が大衆食堂のメニューとして一般的によく提供される物品名である点、記載された品目が共通し、類似する。
A ボード状メニュー看板は、下地と字の色が相違するが、控訴人店舗同様に独特な形態でメニュー看板を掲示することが需要者に双方の店舗に何らかの関連性があると想起させるものであるし、品目表示に少し崩した文字を使用した点も類似する。
B 店舗脇の幟は、配列方法、白地に赤色をあしらった点、表記された内容が大衆食堂で提供される品目である点が共通し、類似する。
C 店舗内部のメニュー看板は、需要者がそれを見て注文を決めるとは考えにくい位置に掲げられている奇抜なデザインである点、掲示位置が商品の陳列台上部である点、少し崩した太黒文字で記載された点が共通し、類似する。
D 玉子焼きに限り注文を受けてから焼くコーナーを設けて表示している点、このような独特なシステムを取った点が共通しており、被控訴人が控訴人店舗外観を模倣したことを推認させる。
E 陳列台の配置が類似している
F テーブル、蛍光灯等の配置が類似している。
 外装は他に、全体的な配色が、木の色(壁面、メニュー看板)、黒色(壁面)、白色(看板)が効果的に組み合わされ、看板や幟に赤色があしらわれている点で共通し、全体的な色の構成が似ていて、需要者に同じイメージを抱かせるもので類似する。なお、前記アのとおり、被控訴人店舗外観を日本家屋風平屋建店舗に限って特定したものであるから、外観がより近代的で華やかな印象を与えるから控訴人店舗外観と類似しないということにはならない。
 内装は他に、全体的に木の色で統一され、暖色の照明が用いられるなど、全体的な印象が酷似している。
〔被控訴人〕
(1) 被控訴人表示は控訴人表示に類似するか(争点1)
 需要者が特定の者の営業を識別するのは店舗名称によるから、これが第一次的な営業表示であり、とりわけ多店舗展開をする飲食業者は顧客への訴求力を高めるために統一ブランド名称を付して事業展開を行うものであるから、控訴人・被控訴人表示(店舗名称)を対比して不正競争行為の成否を決すべきである。対比にあたっては、互いに高い識別性を有する「まいどおおきに」と「めしや」の部分を対比すべきであり、その称呼、外観、観念とも異なるから、被控訴人表示は控訴人表示に類似しない。
 控訴人は被控訴人表示のうち「食堂」の部分についてのみ差止を求めるところ、かかる請求は「めしや食堂」を「めしや」にすれば控訴人表示と類似しないことを前提としており、「めしや」と「ごはんやまいどおおきに」の部分は類似性がないことを自認するものであるし、普通名称である「食堂」を「めしや」に結合させるだけで需要者が異なる営業主体を認識するともいえない。
(2) 被控訴人店舗外観は控訴人店舗外観に類似するか(争点3)
 店舗外観を構成する諸要素が共通するとしても、控訴人・被控訴人表示(店舗名称)が類似しない以上は、原則として店舗外観も類似しない。例外的に、店舗名称以外の要素に店舗名称を上回る高い識別性があり、かつ、その高い識別性を有する要素が同一か著しく類似している場合は、店舗外観の類似性が肯定される余地があるが、控訴人は控訴人・被控訴人店舗外観の共通点を並べるだけで、外観のどの部分が需要者の目を惹く特徴的な部分かを特定していないし、共通するという要素は同一であるとも著しく類似するともいえない。
幟は、店舗とは独立して設置されるものであり、そもそも店舗外観の構成要素といえるか疑問であるし、識別力も弱い。飲食店においては常に同じ幟を設置しているとは限らず、季節等その時々において異なることは珍しくないから、営業主体を識別する根拠とならない。店舗の敷地内への幟の設置や、幟の地色を白色にして赤色を使用することはありふれているから(乙39)、かかる要素は特徴的部分ではない。また、控訴人店舗の幟は、白地に毛筆体で「釜焚ごはん」と記載され上部に赤色があしらわれているが、被控訴人店舗の幟は、時期によっては白地に赤色があしらわれた幟を使用していないし、使用する時期であっても赤色部分は幟の下部にも存する点で相違するし、記載内容も相違するものであって、著しく類似するとは到底いえない。
 陳列台やテーブル等の配置は内装としてありふれたものであるから、いずれも外観の類似性を基礎づけるものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人表示は控訴人表示に類似するか)について
 当裁判所も被控訴人表示が控訴人表示に類似するとは認められず、被控訴人による被控訴人表示の使用が不競法2条1項2号又は1号の不正競争に当たらないと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」第4・1記載のとおりであるからこれを引用する。
 控訴人は、控訴人・被控訴人表示は「食堂」の文字を共に有し、表示が白地の上に表記されている点で共通するし、また、控訴人表示の「ごはんや」の文字と被控訴人表示の「めしや」の文字は同じ意味であり、両表示は類似すると主張する。
 しかるに、ある営業表示が不正競争防止法1条1項1、2号にいう他人の営業表示と類似のものか否かを判断するに当たっては、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とするところ(最高裁昭和58年10月7日第2小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)、上記引用に係る原判決の認定・説示のとおり、控訴人表示は「ごはんやまいどおおきに(しょくどう)○○しょくどう」との称呼を生じ、そのうち控訴人店舗のロゴとして使用・表示されている「まいどおおきに食堂」の部分が控訴人の営業表示としての高い識別性を有し、控訴人表示は一連に称呼するにしては冗長であり前半の「まいどおおきに(しょくどう)」との称呼も生じさせるものであること、被控訴人表示は「めしやしょくどう」との称呼を生じさせるところ、被控訴人の複数の「めしや」ブランドの店舗が相当数存在することから「めしや」との称呼も生じさせるものであること、双方の表示に共通する「食堂」は、役務提供の場所、役務提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものにすぎず、特定の営業主体を表示する識別標識とはいえないこと等からすれば、控訴人表示については「まいどおおきに」、被控訴人表示については「めしや」の部分に営業主体の識別力が存在すると認められ、その相違の程度からすると、「ごはんやまいどおおきに(食堂)○○食堂」ないし「まいどおおきに(食堂)」と、「めしや食堂」ないし「めしや」とは、外観、称呼及び観念が類似するとは認められず、その相違の程度は、双方の表示が「食堂」との文字を有する点、白地の上に表記されている点、「ごはんや」と「めしや」の表記の意味するところが同じである点などが共通することをもっても、とりわけ外観、称呼においてなお大きく、被控訴人表示は控訴人表示に類似するとは認められない。
 また、控訴人は、「ザ」と一体になった「めしや」に被控訴人の営業の識別力が認められるにしても、「めしや」単体では識別力はないと主張するが、前記引用にかかる原判決の認定・説示のとおり、被控訴人は「ザめしや」の店舗の他に、「ザめしや24」、「めしやっこ」、「めしや食堂」の店舗を相当数経営しているものであり、「めしや」との表示に被控訴人の営業の識別力がないといえるものではないし、被控訴人表示(めしや食堂)が控訴人表示に類似すると認められないことは上記のとおりであって、かかる主張は同認定を左右しない。
2 争点3(被控訴人店舗外観は控訴人店舗外観に類似するか)について
 当裁判所も被控訴人店舗外観が控訴人店舗外観に類似するとは認められないなど、被控訴人による被控訴人店舗外観の使用が不競法2条1項2号又は1号の不正競争に当たらないと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」第4・2記載のとおりであるからこれを引用する。但し、31頁25行目「19の4の1」と「19の12」の間に「19の8」を加える。
 控訴人の当審での主張は、以下のとおりいずれも採用できない。
(1) 正面上部看板及びポール看板について
 控訴人は、称呼の類似性は営業表示の類似性の判断の一要素にすぎず、需要者は表示をまず視覚で捉えるから、外観の類似性を全体として比較検討すべきところ、看板に記載された控訴人表示と被控訴人表示は、丸のデザインが用いられている点や赤色が丸と関連づけられている点が共通し、被控訴人表示の字体のうちポップ体と称するものは控訴人表示と同じく毛筆体に近く、また、類似性の判断は隔離的に観察しなければならず、控訴人・被控訴人店舗のように客単価の低い飲食業態においては全体的な印象を重視すべきであり、表示の字体、筆致、文字の太さを微細に検討すべきでないと主張するが、前記1及び上記引用にかかる原判決の認定・説示のとおり(原判決第4・2(1)〜(3)、(4)ア、エ)、控訴人・被控訴人表示の外観、称呼の相違が大きいことからすれば、かかる点をもって両表示及びこれを記載した看板の外観が類似するということはできない。
 控訴人は、被控訴人表示が記載される看板の形状が異なるからといって控訴人表示に類似しないものではないとも主張するが、上記と同様、控訴人・被控訴人表示の外観、称呼の相違が大きいことからすれば、かかる主張は採用できない。
(2) その他の構成要素について
ア 控訴人は、控訴人店舗外観及び被控訴人店舗外観の個々の構成要素の共通点を挙げるのみで、控訴人店舗外観に対応する全体としての被控訴人店舗外観を適確に特定しているとはいい難いとの原判決の指摘を踏まえて、郊外に立地する独立した建物で営業する店舗形態(日本家屋風平屋建店舗)に限って、控訴人店舗と被控訴人店舗の外観全体を比較検討するとして、正面上部看板、ポール看板の他の外装・内装の構成要素を個別的に特定して比較しているので、検討する。
イ 日本家屋風平屋建店舗につき、正面上部看板、ポール看板を除く、控訴人・被控訴人店舗外観を構成する各構成要素の認定及び対比
(ア) 木目調外部メニュー看板
 原判決第4・2(4)イ記載のとおりである。
(イ) ボード状メニュー看板
 原判決第4・2(4)ウ記載のとおりである。
(ウ) 店舗脇に設置された幟
 控訴人店舗の店舗脇に設置された幟は、@縦長で白地、黒字毛筆体で「釜焚ごはん」と記載され、上部に控訴人店舗のロゴ(「まいどおおきに食堂」の字を赤色の丸で囲んだ表示)が記載されたもの、A縦長で赤地、白字毛筆体で「北九州の味」と記載されたもの、B縦長で緑地、白字毛筆体で「甲信越静の味」と記載されたもの、C縦長で緑地、白字毛筆体で「産地直送フェア関西」と記載されたもの等がある(甲41の5、甲41の18、乙14の1、5、6、乙15の2、7〜10、乙19の3の1、4の1・2、7の1・2、8、11、12、16の1、19の1、24の1)。
 被控訴人店舗脇に設置された幟は、@縦長で白地、上下端が赤地で、白地部分に黒字毛筆体ないしゴシック体で「さば煮」「具だくさん豚汁」「肉じゃが」「手作り玉子焼き」と記載され、下端赤地部分に白字ゴシック体で価格が記載されたもの、A縦長で黄土色地、下端が白地で、黄土色部分に焦げ茶色字毛筆体で「秋刀魚」「旨い鍋」、下端白地部分に焦げ茶色字ゴシック体で価格ないし提供開始時間が記載されたもの、B縦長で焦げ茶色地、下端が白地で、焦げ茶色地部分に黄色字毛筆体で「松茸」、下端白地部分に焦げ茶色字ゴシック体で価格が記載されたもの、C縦長で白地、赤字毛筆体で「とりめし」と、下部に価格が記載されたもの等がある(乙18の9・10・12・14〜16・18・21〜24・30・33・34、乙19の1、2、6、10、13の1、14の1、18、21の1、22の2、26、27の1・2、28、31、乙38)。
 控訴人・被控訴人店舗の幟は、縦長との形状と、品目を表記した字体が一部共通するが、配色、一部の字体、記載内容が異なる。
(エ) 店舗内部のメニュー看板
 原判決第4・2(4)カ記載のとおりである。
(オ) 玉子焼き専用の注文を受けてから焼くコーナーであることを示す表示
 原判決第4・2(4)キ記載のとおりである。
(カ) カウンターの上に置かれたカフェテリア方式の3列の陳列台 控訴人・被控訴人店舗とも、カウンター上の3列の棚に提供品目を並べる商品陳列台を設置している(甲15、25、弁論の全趣旨)
(キ) 目隠しバーの設置された横長の大テーブル及び吊り下げ式の長い蛍光灯
 控訴人・被控訴人店舗とも、店内に食事用の横長の大テーブルを設置し、目隠しバーを設け、天井から吊り下げ式の横長蛍光灯を設置している(甲25、弁論の全趣旨)。
ウ 控訴人は、上記の控訴人店舗外観を全体としてみると強い識別力を有するところ、被控訴人店舗外観はこれと個々の構成要素が共通して全体的な組み合わせが需要者に与える印象が共通し、出所の認識に混乱を生じさせる程度の類似性があると主張する。
 前記引用にかかる原判決の認定・説示のとおり(原判決第4・2(5))、控訴人店舗外観全体について周知性・著名性が認められるか否かはともかくとして、店舗外観全体の類否を検討するに、両者が類似するというためには少なくとも、特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきであるところ、双方の店舗外観において最も特徴がありかつ主要な構成要素として需要者の目を惹くのは、店舗看板とポール看板というべきであるが、いずれも目立つように設置された両看板に記載された内容(控訴人表示又は被控訴人表示)が類似しないことなどにより類似せず(前記(1)参照)、かかる相違点が、控訴人店舗外観及び被控訴人店舗外観の全体の印象、雰囲気等に及ぼす影響はそもそも大きいというべきである。
 そして、前記イのとおり、外装については、木目調メニュー看板、ボード状メニュー看板、店舗脇に設置された幟、店舗内部のメニュー看板に、いずれも軽視し得ない相違点がある。
内装については、@玉子焼き専用の注文を受けてから焼くコーナーであることを示す表示があること、Aカウンターの上にカフェテリア方式の3列の陳列台が設置されていること、B目隠しバーの設置された横長の大テーブル及び吊り下げ式の長い蛍光灯が設置されていることが共通するものの、@については、このような営業形態は役務提供の方法そのものであり、かかる形態で注文を受ける旨の表示が共通することをもって営業表示が類似しているとして表示の差止めを認めうるとすると、上記の営業形態そのものについて控訴人に独占権を認める結果を招きかねず妥当でないし、ABについては、セルフサービスを用いるなどした多集客型の飲食店の店構えとしてきわめてありふれたものであるから、上記各点を捉えて控訴人店舗外観と被控訴人店舗外観との類似性を基礎づける事情とすることはできない。
 なお、控訴人は、外装の全体的な配色は、木の色、黒色、白色が効果的に組み合わされ、看板や幟に赤色があしらわれている点で共通し、需要者に同じイメージを抱かせるもので類似するとも主張するが、前記引用にかかる原判決の認定・説示のとおり(原判決第4・2(4)オ、(5))、外装に使用されている色の種類は共通するが、それぞれの色が用いられている箇所は全く異なり、使用されている色やその組み合わせもごくありふれたものであり、しかも、控訴人店舗外装で使用されている赤色は、「まいどおおきに食堂」のロゴ部分に比較的小さく表示して使用されているだけであるのに対し、被控訴人店舗外装では被控訴人店舗看板が壁面等に設置されていることから、同看板で使用されている赤色がかなり目立つ態様となっており、控訴人店舗が黒、白を基調とした古くからある町の食堂を彷彿とさせる素朴な印象を与えるのに対し、被控訴人店舗がより近代的で華やかな印象を与える点で相当の相違が認められ、全体としての印象、雰囲気がかなり異なったものとなっていると認められる。これは、控訴人が主張するところの日本家屋風平屋建の被控訴人店舗に関しても、異なるところではない。
 控訴人は、内装は全体的に木の色で統一され、暖色の照明が用いられるなど、全体的な印象が酷似しているとも主張するが、そのような内装は飲食店の店構えとしてきわめてありふれたことであるから、これをもって控訴人店舗外観と被控訴人店舗外観との類似性を基礎づける事情とすることはできない。
 控訴人は、店舗デザインについての米国法下でのトレードドレスの保護法理を参考にすれば、控訴人店舗外観が営業表示にあたるなどとも主張するところ、同法理を日本法下において直ちに採用ないし斟酌することの適否はともかくとして、本件における店舗外観において最も特徴がありかつ主要な構成要素というべき部分とその相違の程度からすれば、被控訴人店舗外観が控訴人店舗外観全体に類似するとすることはできない。
(3) 以上によれば、控訴人店舗外観と被控訴人店舗外観のその他の個々の構成要素に前記認定の共通点があることを考慮しても、被控訴人店舗外観が控訴人店舗外観に全体として類似するとは到底認められないというべきであり、したがって、需要者が被控訴人店舗と控訴人店舗の営業主体を誤認混同するおそれがあるとも認められない。
3 不法行為の成否(争点(4)及び当審新請求)
 被控訴人表示が控訴人表示に類似せず、被控訴人店舗外観が控訴人店舗外観に類似していない以上、被控訴人表示、被控訴人店舗外観の使用に違法性はなく、不法行為を構成しない。
4 まとめ
 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、以上の認定、判断を覆すほどのものはない。
 以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がなく、本件控訴及び当審新請求は棄却を免れない。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 若林諒
 裁判官 小野洋一
 裁判官 菊地浩明
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/