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【事件名】健康食品の製造物責任と特集記事事件 【年月日】平成19年11月30日 名古屋地裁 平成16年(ワ)第3089号 損害賠償請求事件 判決 主文 1 被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cは、原告Aに対し、連帯して、2200万円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cは、原告Bに対し、連帯して、5421万2783円及びこれに対する平成14年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告Aの、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに対するその余の請求並びに被告主婦の友社に対する請求を棄却する。 4 原告Bの、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに対するその余の請求並びに被告主婦の友社に対する請求を棄却する。 5 訴訟費用は、原告Aに生じた費用の2分の1、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに生じた費用の5分の1、被告主婦の友社に生じた費用の5分の2を原告Aの負担とし、原告Bに生じた費用の5分の1、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに生じた費用の10分の1、被告主婦の友社に生じた費用の5分の3を原告Bの負担とし、原告Aに生じた費用の2分の1、原告Bに生じた費用の5分の4、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに生じた費用の10分の7を被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cの負担とする。 6 この判決は、1、2項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して、4013万0194円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して、6873万2194円及びこれに対する平成14年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は、被告主婦の友社が発行する雑誌上に、被告Cが、被告アダプトゲン製薬製造、被告ASTC販売にかかる加工食品「Dのあまめしば」(本件あまめしば)につき、その危険性を示さずに効用のみを示したため、原告らが本件あまめしばを購入、摂取し、閉塞性細気管支炎等の呼吸器機能障害を発症したとして、原告らが、被告アダプトゲン製薬に対し、製造物責任法3条により、被告ASTCに対し、同法3条又は不法行為により、被告主婦の友社及び被告Cに対し、不法行為により、それぞれ損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告Aは、昭和4年▲月▲日生まれ、原告Bは、昭和26年▲月▲日生まれで、両者は母と娘である。 イ 被告アダプトゲン製薬は、医薬部外品、医薬品歯科診療材料及び浴用剤の製造・販売・輸出入、特殊栄養食品等の製造・販売・輸出入等を目的とする株式会社である。 ウ 被告ASTC(旧商号は「クシ・インターナショナル株式会社」で、平成14年5月30日に現商号に変更した。)は、「Dのあまめしば」(本件あまめしば)を販売した株式会社である。 エ 被告主婦の友社は、雑誌・書籍の編集・発行・販売等を目的とする株式会社であり、本件あまめしばについて記載のある雑誌「健康」平成13(2001)年9月号(以下「本件雑誌」という。)を発行した者である。 オ 被告Cは、医学博士の学位を有し、本件雑誌上に、「【あまめしば】はどんな野菜か」という題の記事を公表した者である。 (2) 本件あまめしばについて ア 本件あまめしばの原材料となったあまめしば(以下「野菜あまめしば」という。)は、学名を「サウロパス・アンドロジナス」、科名を「トウダイグサ科」とする植物であり、マレーシア、ボルネオ等の東南アジアを原産地とし、日本では沖縄で生産されている。 イ 本件あまめしばは、野菜あまめしばを加熱・殺菌して粉末状に加工した製品(以下、本件あまめしばを含むあまめしばの加工製品を総称して「加工あまめしば」という。)である。 (3) 閉塞性細気管支炎について 閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis obliterans:BO)は、肺胞に近い終末細気管支と呼ばれる部分が閉塞し、咳、喘鳴、呼吸困難等の症状が出る呼吸器疾患で、肺移植等の臓器移植の主要な予後増悪因子であり、各種自己免疫疾患でも合併が見られる疾患である。その原因としては、感染、薬物、喫煙、有毒・刺激性ガスの吸入、膠原病、臓器移植などがあげられている(甲36、41)。 (4) 原告らの本件あまめしばの摂取 ア 原告Aは、平成13年8月、新聞記事の広告を見て本件雑誌を購入し、その記事を読んで、被告ASTCに本件あまめしばを注文し、平成13年8月から同年12月まで、本件あまめしばを摂取した。 イ 原告Aは、娘である原告Bに本件雑誌を見せ「本件あまめしば」の記事を紹介し、原告Bは、同記事を読んで、ビタミン・ミネラルなどの栄養補給のために、平成13年9月から同年12月まで、本件あまめしばを摂取した。 (5) 原告らの疾病の発生 ア(ア) 原告Aは、平成14年7月労作時息切れのため、名古屋大学医学部付属病院(以下「名大病院」という。)で診察を受けたところ、肺機能検査の結果、強い閉塞性障害が認められ、同年11月ころに閉塞性細気管支炎と診断され、その後、通院・入院加療を続けている(甲2、16)。 (イ) 原告Aは、身体障害者等級による種別3級の認定を受けている(甲3)。 イ(ア) 原告Bは、平成14年3月2日、呼吸困難が出現し、同年4月10日には呼吸困難のため名大病院に緊急外来受診し、呼吸不全の診断にて入院した。平成15年9月ころ閉塞性細気管支炎と診断され、その後、通院加療を続けている(甲4、17)。 (イ) 原告Bは、身体障害者等級による種別3級の認定を受けている(甲5)。 (6) 法令等 ア 健康増進法(平成14年法律103号)32条の2は、「何人も、食品として販売に供するものに関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。」旨規定する。 イ 厚生労働省は、平成15年8月29日、「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)」を定めたが、同指針は、「新聞、雑誌等の記事、医師、学者等の談話、学説、体験談などを引用又は掲載することにより表示するもの」も、健康増進法32条の2が定める健康保持増進効果等の「広告その他の表示」に該当するとしている(甲18)。 ウ 厚生労働省は、平成16年3月25日、「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項」について改正を行ったが、同改正後の留意事項は、書籍、冊子、ホームページに特定の食品又は成分に係る学術的解説を掲載する場合であっても、その解説の付近から特定食品の販売ページに容易にアクセスが可能である場合や、販売業者の連絡先が掲載されている等の場合には、実質的に営利的言論としての広告等に該当するものとして健康増進法32条の2の規制対象となる場合があり得るとしている(甲19)。 3 原告らの主張 (1) 加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連性 加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との間には、次のとおり関連がある。 ア 海外における症例 (ア) 台湾における症例 a 野菜あまめしばは、1982年(昭和57年)ころ「守宮木」という野菜として台湾に輸入され、減肥効果があるとして「減肥菜」として爆発的に栽培され摂取されるようになった。 b 1994年(平成6年)ころから、主に肥満の若い女性で呼吸困難を訴えて受診するケースが多数報告され(患者数は合計278名であり、うち9名が死亡、8名が肺移植手術を受けた。)、詳細を聞いたところ全ての患者が野菜あまめしばを摂取していたことが判明し、疾患と野菜あまめしばとの関連性が疑われた。 c 1995年(平成7年)8月25日以前に台湾行政院衛生署に通報された44名の患者のうち、41名について調査した結果、野菜あまめしばの産地、食べ方、食べる部位、保存方法、調味料の添加などの違いがあるにもかかわらず、中毒症状を発症していること、呼吸困難が主要な症候で摂取期間中あるいは摂取中止後一定期間経過した後に発現したこと、うち12名の患者の肺機能測定において全てが閉塞性肺疾患の所見を示したこと、呼吸困難以外の症状としては、睡眠障害、食欲不振、皮疹、不整脈等が見られたが、呼吸困難以外は野菜あまめしば摂取の中止にかかわらず、次第に消失したことが判明した。 d 台湾では野菜あまめしばに対する積極的な施策として、@地方衛生部門により、野菜あまめしばの違法な広告内容について法律に基づいて処罰を行い、同時にマスコミを介して当該商品を食用しないように市民に呼びかけること、A海外からの輸入禁止を税関に要請すること、B農業行政部門に対し、生産者への野菜あまめしばの生産の停止及び他の植物の生産への変更を促す行政指導を要請すること等の措置がとられた。 (イ) 医学雑誌「CHEST」の1998年(平成10年)1月号には、「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆的閉塞性換気障害について」という題で、次の内容の論文が報告された。 「野菜あまめしばの摂取経験を有する194名を対象にアンケートと肺機能テストを実施した結果(データ分析対象は178名)、@閉塞性換気障害は野菜あまめしばを少量よりも大量に消費したグループに多く見られること、A178名中49名の患者に気管支拡張薬が反応しない中等度から高度の閉塞性換気障害を認めたこと、B上記49名の65%は植物摂取の3から5か月後に呼吸困難を起こしたが、7か月以降から呼吸困難が生じることはなかったことが判明し、結論として、野菜あまめしばの消費は7か月以内に中等度から高度の閉塞性換気障害を引き起こし、22か月間の観察研究期間では不可逆性であった。」 (ウ)a 1996年(平成8年)7月に、医学雑誌「LANCET」には、「1995年(平成7年)8月に台湾で流行した野菜あまめしばの消費に関連した急性進行性の呼吸障害に関し、23人の患者について、閉塞性細気管支炎の既知の原因は見つからず、唯一の共通点は未調理の野菜あまめしばの摂取だけであった。」旨の論文が報告された。 b 1998年(平成10年)7月には、「LANCET」に、「食物摂取と関連する閉塞性細気管支炎における肺移植」という題で次の内容の論文が報告された。 「1996年(平成8年)に野菜あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が激増した。上記閉塞性細気管支炎患者の病歴は、野菜あまめしばの摂取、慢性呼吸器疾患の不在、気管支拡張薬に反応しない閉塞性換気等であった。台湾ではメディアが1995年(平成7年)8月に呼吸器系窮迫症と野菜あまめしばの関連を報道した後、野菜あまめしばは入手不可能となり、新しい症例も出なくなった。平均43歳の閉塞性細気管支炎の詳細な症例を115例集めた結果、最初の肺機能テストで、一秒量(FEV1)の平均は0.82(0.33)L/min(range)で、中等度から高度の気流の閉塞障害が判明した。コルチコステロイド、気管支拡張薬、エシスロマイシン、免疫抑制薬等の効果は限られていた。2年間の追跡調査で、閉塞性細気管支炎は重度の肺の悪化や115名中7名の死亡へと経過した。ほとんどの患者は安定しているが、執拗な咳や呼吸困難が生じた。肺機能の追跡調査では、0.85(0.3)L/minの平均FEV1であり、何も改良されなかった。患者の約5分の1は肺機能の悪化が続き、何人かはベンチレーター(人工呼吸器)の助けを必要とする呼吸不全を繰り返し引き起こした。」 (エ) 1997年(平成9年)には、「American Journal of Epidemiology」に、野菜あまめしばと閉塞性細気管支炎症候群との関連を評価するための病院の症例対照研究の結果について、「明らかに野菜あまめしば摂取と閉塞性細気管支炎症候群との関連は確立している。台湾以外の東南アジア諸国において閉塞性細気管支炎が報告されていないこととのギャップについては台湾の症例が野菜あまめしばを頻繁に、大量に摂取していることから説明できる。」旨の論文が報告された。 イ 日本における症例 (ア) 日本において、野菜あまめしばは平成8年に沖縄で栽培されるようになり、沖縄で年間約300トン生産され、大部分が県外向けに出荷されてきた。その後、本件も含め、加工あまめしばを摂取した後に息切れや呼吸困難などの症状が出現し、閉塞性細気管支炎と診断された症例が厚生省(現厚生労働省)により報告された。 (イ) 上記症例が、呼吸困難などを引き起こす他の原因が見当たらないこと、過去に台湾で多数の患者が出た野菜あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎と症状、所見及び経過が酷似していることから、加工あまめしばの摂取により発症した閉塞性細気管支炎の可能性が高いとして、厚生省(現厚生労働省)は、平成15年9月5日、加工あまめしばを販売禁止とした。 (ウ)a 上記症例のうち、 本件とは別の患者( 以下「別件患者」という。)が、平成16年7月21日、鹿児島地方裁判所川内支部において加工あまめしばの製造会社と販売会社に対し、損害賠償請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起したが、それによれば、上記患者は、野菜あまめしばを加熱・殺菌して粉末状にした製品を服用していた。 b 別件患者が受診していた鹿児島大学医学部第3内科の医師らは、別件患者の病気の原因について、「退院後も引き続き検討を重ねた結果、最終的に同人が摂取した加工あまめしばが原因で閉塞性細気管支炎が起こった疑いがある。」と判断した。 c また、上記医師らは、日本醫事新報に緊急報告として、別件患者について「別件患者は40、 歳代の女性で、加工あまめしばを平成14年12月から平成15年4月まで服用したところ、平成15年2月ころより階段昇降時に呼吸困難が出現し、その後増悪し、最終的に閉塞性細気管支炎と診断された。別件患者の閉塞性細気管支炎の原因が他に見当たらないこと及び過去に台湾で多数の患者が出た野菜あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎と症状、所見及び経過が酷似していることから、加工あまめしばの摂取により発症した閉塞性細気管支炎の可能性が高い。」と報告した。 (エ) 本件を含む上記各症例について、厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班(以下「びまん性肺疾患調査研究班」という。)において調査検討がなされ、それについての調査結果が平成17年3月末に「「あまめしば」摂取と関連したと思われる閉塞性細気管支炎の本邦での発生−緊急報告−」として公表された。 同報告は、本件を含め、日本での加工あまめしば摂取に関連した閉塞性細気管支炎5例を報告したものであるが、同報告は、「原告らの症例を含め全症例について閉塞性呼吸機能障害を認め、ステロイド治療に抵抗性(これは、1995年(平成7年)に台湾において健康食品として販売されていた野菜あまめしばを食した者に生じた症状と同じである。)であった。原告らを含めた5名はいずれも、生来健康であったにもかかわらず加工あまめしば摂取後呼吸器疾患が出現し、また他に原因が見当たらず、ステロイド治療に反応しないことにより、加工あまめしば摂取に関連した肺疾患である。」と結論付けた。 (オ) 原告らの主治医である名古屋大学のE教授は、呼吸器内科を専門とし、日本における閉塞性細気管支炎の権威であり、特に加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連性等について調査・研究している。同教授は、両者の関連性を肯定した。 (2) 本件あまめしばと原告らの疾病との間の因果関係 本件あまめしばの摂取と原告らの疾病との間には、次のとおり因果関係がある。 ア 原告Aは平成13年8月より同年12月まで、原告Bは同年9月から同年12月まで本件あまめしばを服用したところ、いずれも閉塞性細気管支炎を発症した。 独立行政法人国立健康・栄養研究所は、「あまめしばの安全性問題」という文書で、原告らの症状について、「呼吸困難などを引き起こす他の原因が見当たらないこと、過去に台湾で多数の患者が出た野菜あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎と症状、所見及び経過が酷似していることから、加工あまめしばの摂取により発症した閉塞性細気管支炎である可能性が極めて高い。」と報告した。 イ 原告らの主治医である名古屋大学のE教授は、呼吸器内科を専門とし、日本における閉塞性細気管支炎の権威であり、特に加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連性等について調査・研究しているところ、同教授は、両者の関連性を肯定した上で、本件あまめしばの摂取と原告らの疾病との間の因果関係を肯定した。 ウ 被告らの4(2)ア(ア)aの主張に対する反論 日本においては、シェーグレン症候群(涙腺・唾液腺を始めとする全身の外分泌腺に系統的な慢性炎症をきたし、外分泌腺の機能低下に基づく乾燥症状を特徴とするもの)の患者自体は多いものの、シェーグレン症候群による閉塞性細気管支炎発症のケースはまだ一例も報告されていない。これに対し、加工あまめしばによる閉塞性細気管支炎罹患率は高く、シェーグレン症候群によるものとは雲泥の差がある。 (3) 被告アダプトゲン製薬の製造物責任 ア 製造物該当性 本件あまめしばは野菜あまめしばを加工製造したものであり、製造物に該当する。 イ 製造物の欠陥 (ア) 安全性の欠如 本件あまめしばは、説明書に記載された使用方法によっても閉塞性細気管支炎に罹患したのであるから、食品として通常有すべき安全性を欠いており、欠陥を有することは明らかである。 (イ) 適切な表示の欠陥 本件あまめしばの摂取によって閉塞性肺疾患に罹患するおそれがあった以上、本件あまめしばには、その旨表示し、その徴候が生じたときには直ちに摂取を中止し、医師にかかることなどを具体的に表示しなければならないところ、本件あまめしばにはかかる表示は全くなされていないから、適切な表示の欠陥が存する。 ウ 製造業者該当性 (ア) 被告アダプトゲン製薬は、本件あまめしばを業として製造、加工した者であり、製造業者等に該当する。 (イ) 被告アダプトゲン製薬が、被告ASTCの指示により同社の供給した本件あまめしばの乾燥粉末を袋詰めにしたにすぎないとしても、被告アダプトゲン製薬は、本件あまめしばの包装表示において「製造者」となっており、自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者として、製造業者等に該当することに変わりはない。 (4) 被告ASTCの不法行為責任ないし製造物責任 ア 本件あまめしばの包装の説明書には、被告ASTCが販売業者と表示されており、仮に、被告アダプトゲン製薬が被告ASTCの指示により同社の供給した本件あまめしばの乾燥粉末を袋詰めにしたという事実があるとすれば、同社は「実質的な、 製造者」として、製造物責任法3条に基づく損害賠償責任を負う。 イ 仮に、被告ASTCが「実質的な製造者」とはいえないとしても、被告ASTCは、製品の安全性について高度の注意義務を負担すべきところ、海外における野菜あまめしばの問題に関する情報を容易に入手することができ、本件あまめしばについてもそれを摂取した者に重篤な被害が発生する危険性があることを予見できたにもかかわらず、危険性を表示せずに安全であるのみならず効能の高い商品として、漫然と本件あまめしばを原告らに対し販売したものであり、故意又は過失による不法行為責任を負う。 (5) 被告主婦の友社の不法行為責任 被告主婦の友社の本件雑誌の発行は、次のとおり故意又は過失による不法行為を構成する。 ア 被告主婦の友社は、健康雑誌を発行する者として、読者に対し正しい情報を提供する義務を負うところ、薬剤師などの専門家に尋ねたりインターネットにより検索するなどして、台湾における野菜あまめしばの摂取による重篤な肺換気障害の発生や加工あまめしばの問題性を容易に知ることができたにもかかわらず、その努力を怠り(あるいはその問題性を知りながら敢えてそれを表示せずに)、上記義務に違反し、本件雑誌において、「新・特効野菜【あまめしば】の大評判効果」という特集(以下「本件特集」という。)を組み、タレントや加工あまめしばの使用者と称する者さらには医学博士と称する者などを登場させて、漫然と野菜あまめしば又は加工あまめしばの効用のみを誇張して読者である原告らを誤信させた。 イ 本件特集の奇数各頁の左端に「【あまめしば】のプレゼントは173ページ」と表示し、本件雑誌173頁には、本件あまめしばの写真入りで被告ASTCの連絡先を掲載し、全体の流れにより、被告ASTC及び本件あまめしばの実質的な広告を行い、本件あまめしばの原告らへの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させた。 ウ 上記被告主婦の友社の行為は、あまめしば取材班のレポート記事としての形態をとりつつ、薬効のないものをあたかも薬効があるかのごとく記述し、実質的に根拠のない広告に違法(薬事法68条違反、食品衛生法20条違反、不当景品類及び不当表示防止法4条1項違反)に加担するものである。 (6) 被告Cの不法行為責任 被告Cの本件特集への記事の発表は、次のとおり故意又は過失による不法行為を構成する。 ア 被告Cは、医学博士の肩書を有する専門家として健康食品等が人の生命身体に影響を及ぼす可能性を調査する義務を負うところ、インターネット等により確認すれば容易に加工あまめしばの問題性を知ることができたにもかかわらず、それを怠り、上記義務に違反し、本件特集において、「C和漢薬研究所所長」、「医学博士」との肩書で専門家の立場から、本件特集の解説記事において、野菜あまめしば又は加工あまめしばの効用を強調して、同特集の内容をより信頼性のあるもののように読者である原告らに誤信させた。 イ また、被告Cは、次のとおり、本件特集のコラムにおいて、野菜あまめしば又は加工あまめしばについて虚偽又は不正確な説明をした。 (ア) 本件雑誌167頁で、末期癌の患者について、「末期ガンから元気に回復されたのは【あまめしば】に豊富なβ−カロチンの抗酸化作用やビタミンやミネラル類の肝臓機能を高める作用によるものと考えられます。」と虚偽のコメントをした。 (イ) 本件雑誌168頁で、「便秘が解消。自然にやせて17sのダイエットにも成功した」との体験談に関し、「【あまめしば】によって便秘が解消したため、体力・気力ともに充実してきたのでしょう。17sもやせたのは【あまめしば】に含まれる各種の栄養素が新陳代謝を高め、食物繊維が余分な脂肪の排出を促した結果と思われます」とコメントしているが、短期間に17sもの減量をすることは考えられず、この体験談自体作り話であり、それに対する上記コメントも出鱈目である。 (ウ) 本件雑誌169頁で、慢性的な高血圧の状況にある患者が野菜あまめしばを1週間摂取することにより130ミリ台になったとの体験談に関し「あまめしば】に豊、 【富な食物繊維が余分なコレステロールの排出を促し、血液をきれいにして、動脈硬化を改善した結果、血圧も下がったものと考えられます。」と虚偽のコメントをした。 (エ) 本件雑誌170頁で、「【あまめしば】で十二指腸潰瘍が改善。寝たきりの状態だった友人もすっかり元気になった」との体験談について、「排便によって身体から毒素が排出され、元気になったのだろうと考えます」とコメントしているが、この体験談自体作り話であり、それに対する上記コメントも出鱈目である。 ウ そして、上記(5)イの被告主婦の友社の本件あまめしばの実質的広告行為の違法性を認識しながらこれに加担し、本件あまめしばの原告らへの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させた。 (7) 原告Aの損害 ア(ア) 原告Aは、本件あまめしばの摂取により、閉塞性細気管支炎という重篤な障害を負った。閉塞性細気管支炎は、肺胞に近い膜様細気管支と呼ばれる部分が不可逆的に閉塞する呼吸器疾患であり、呼吸機能が発症以前に回復することは期待できない。 (イ) 原告Aは、閉塞性細気管支炎との診断後、名古屋大学病院に通院し、何度か入退院を繰り返している。 原告Aは、5m歩行するだけでも酸素飽和量が88〜89%に低下し、呼吸困難も増悪するため、現在ほとんど寝たきりに近い状態である。加齢も加わり、介護下での在宅治療も困難な状態である。トイレなどに行くだけでも苦しくなり日常生活が大変制限されている。少し距離があるときには車いすに乗らなければならない状態である。 以上の状況からすれば、原告Aは日常生活上の動作さえ極めて困難を強いられている状態であり、とても労働など行える状況にはなく、労働能力は完全に喪失されている。 イ 原告Aの損害額は、次の合計4013万0194円となる。 (ア) 治療費 51万2390円 (イ) 介護保険一部負担金 6万9652円 (ウ) 装具費 5万8750円 (エ) 後遺障害逸失利益 原告Aは、昭和4年▲月▲日生まれの女子であるが、閉塞性細気管支炎により、平成14年7月4日の疾病発生時から6年間を通じ、その労働能力の100%を喪失した。 原告Aは、平成14年7月4日疾病発生時、専業主婦として家事に従事していたから、本件あまめしばを摂取しなければ、平成14年7月4日から6年間、少なくとも平成14年賃金センサスの女性労働者65歳以上全学歴平均の年収額313万0300円を基礎とした年収額を基礎に計算した額の収入を得ることができた。その額を基礎として、ライプニッツ方式により中間利息を控除して6年間の逸失利益を求めると1588万9402円となる。 313万0300円×5.076=1588万9402円 (オ) 後遺症慰謝料 2000万円 (カ) 弁護士費用 360万円 (8) 原告Bの損害 ア(ア) 原告Bは、本件あまめしばの摂取により、閉塞性細気管支炎という重篤な障害を負った。閉塞性細気管支炎は、肺胞に近い膜様細気管支と呼ばれる部分が不可逆的に閉塞する呼吸器疾患であり、呼吸機能が発症以前に回復することは期待できない。 (イ) 原告Bは、閉塞性細気管支炎発症後、名古屋大学病院への通院を継続し、何度か入退院を繰り返している。現在は在宅酸素療法によっており、約6週間に1度の割合で名古屋大学病院に通院することになっているが、咳がひどくてほとんど通院できず、息子に頼んで薬をとりに行ってもらっているという状況である。 原告Bは、少し体を動かすだけで呼吸困難の症状が出る。少し手を伸ばすだけで水の中でおぼれたように息が苦しくなってしまい、目の前にある物でも自分で取ることができず、家族を呼んで取ってもらわなければならない。移動時には車いすを使用し、トイレの移動にも介護を要し、1人で着替えることもできない。1日中ほぼ寝たきりの生活で、体調次第では起き上がることもできず、寝たままで食事を取らなければならない。在宅で酸素療法を受けているものの、常時鼻にチューブを付けて酸素を吸入していなければ、すぐに血液中の酸素が急激に減り、話すこともできず、生きていけない状況である。 以上のとおり、原告Bは、日常生活上の動作を行うこと自体困難を強いられている状況であり、とても労働できる状況ではない。 イ 原告Bの損害額は、次の合計6873万2194円となる。 (ア) 治療費 43万2310円 (イ) 装具費 25万3051円 (ウ) 後遺障害逸失利益 原告Bは、昭和26年▲月▲日生まれの女子であるが、閉塞性細気管支炎により、平成14年3月2日の疾病発生時から17年間を通じ、その労働能力の100%を喪失した。 原告Bは、平成14年3月2日疾病発生時、専業主婦として家事に従事していたから、本件あまめしばを摂取しなければ、平成14年3月2日から17年間、少なくとも平成14年賃金センサスの女性労働者50歳以上55歳未満、全学歴平均の年収額371万1800円を基礎とした年収額を基礎に計算した額の収入を得ることができた。その額を基礎として、ライプニッツ方式により中間利息を控除して17年間の逸失利益を求めると4184万6833円となる。 371万1800円×11.274=4184万6833円 (エ) 後遺症慰謝料 2000万円 (オ) 弁護士費用 620万円 (9) よって、原告Aは、被告アダプトゲン製薬に対し、製造物責任法3条による損害賠償請求権に基づき、被告ASTCに対し、同法3条又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告主婦の友社及び被告Cに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、4013万0194円及びこれに対する疾病発生の日の翌日である平成14年7月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告Bは、被告アダプトゲン製薬に対し、製造物責任法3条による損害賠償請求権に基づき、被告ASTCに対し、同法3条又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告主婦の友社及び被告Cに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、6873万2194円及びこれに対する疾病発生の日の翌日である平成14年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。 4 被告アダプトゲン製薬の主張 (1) 加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との間に関連性がないことについて ア 動物実験による安全性の確認 (ア) 秋田大学教育文化学部のF助教授は、BALBマウスとC57BLマウスの2種類を用い、検体に沖縄産の野菜あまめしばの粉末を、1日につき体重1sあたり1283r、一定期間投与することによって検体の体重変化と死亡例の有無を調査した(ただし、同実験では検体に上記粉末を強制投与(口をこじ開けて直接一定量を投与する方法)するのではなく飼料に混合することにより摂取させた。)。 その結果は、実験開始後32週が経過した段階でも死亡例は1例もなく、体重変化についても、上記粉末を全く投与していない対照群と上記粉末を投与した群との間で全く差は認められなかった。検体の肺を摘出し、病理組織学的検査を行ったところ、閉塞性細気管支炎の所見も認められなかった。 (イ) 食品安全委員会が、三菱化学安全性研究所に委託した「あまめしば粉末のラットを用いた経口投与による52週間反復投与毒性試験」では、ラット520匹を使用し、加工あまめしばを52週間強制的に経口投与し続ける試験を行ったが、本件あまめしばと同種の加工あまめしばを投与した群で投与による死亡例はなかった。 また、同研究所は、加工あまめしば投与群と対照群に対し、それぞれ血液検査、尿量、解剖所見、眼科検査などの検査を行ったが、血液中のトリアシルグリセロール量が加工あまめしば投与群で高かった他は、全ての試験項目において両者の間に差はなかった。 イ 野菜あまめしばから閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質が検出されなかったこと 食品安全委員会は、国立医薬品食品衛生研究所に委託し、成分検索に関する分析調査を行ったが、加工あまめしばから閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質は検出されなかった。 ウ 沖縄産の野菜あまめしばと台湾の野菜あまめしばとは異なる種類のもので摂取方法も異なること (ア) 台湾と同様に野菜あまめしばを摂取しているマレーシアその他の東南アジアの国では健康被害発生の報告例がない。 (イ) 沖縄産の野菜あまめしばはマレーシアから苗を輸入して栽培されたものであり、無農薬で栽培されている。したがって、沖縄産の野菜あまめしばは台湾産のものとは別物である。 (ウ) 台湾では野菜あまめしばの生ジュースを飲んでいたのに対し、日本では野菜あまめしばを高温で乾燥させ粉末にしたものを摂取しており、摂取方法も異なっている。 エ 疫学的因果関係の不存在 加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との間には、次のとおり、疫学的因果関係も存在しない。 (ア) 加工あまめしばからは閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質は何ら検出されておらず、動物実験でも閉塞性細気管支炎との関連は全く確認されていない。閉塞性細気管支炎とを結びつける因子が全く確認されていないことや発症のメカニズムが説明できないことは、疫学的因果関係を認定するための基本的な条件を欠いていることを意味する。 (イ) 野菜あまめしばを含有する健康食品は、日本全国で多くの種類が販売されており、販売量だけで平成14年から平成16年にかけて全国で3000個近くも販売されているにもかかわらず、日本全国の1823施設に照会しても、野菜あまめしばを含有する健康食品を摂取して肺障害を訴えている患者は、本件あまめしばの購入者と他社商品の購入者を合わせても日本全国でわずか8例に過ぎない。 (ウ) 加工あまめしばの摂取量と閉塞性細気管支炎の発症との間の相関関係もはっきりしない。 (2) 本件あまめしばと原告らの疾病との間に因果関係がないことについて ア 他の原因要素の存在 (ア) 原告Aについて a シェーグレン症候群 原告Aの呼吸障害は、次のように、一旦はシェーグレン症候群によるものと診断されたものであり、これを覆して本件あまめしばによるものとする根拠は不明である。 @ 原告Aは、名大病院呼吸器内科に入院して精密検査を受けた結果、平成14年11月20日に閉塞性細気管支炎、同年12月5日には膠原病の一種であるシェーグレン症候群と診断され、同人の呼吸障害はシェーグレン症候群によるものと診断された。 A このような診断は同内科の2回目の入院でも維持され、同人の呼吸障害に対する治療として、シェーグレン症候群に対する対症療法としての抗炎症薬のステロイド剤が投与され、呼吸障害の自覚症状は改善した。 b その他の疾病 閉塞性細気管支炎発症後ではあるが、原告Aは、名大病院だけでも、別紙病名一覧表のとおり、様々な症状を訴え、多くの病名が付けられており、呼吸不全の原因を本件あまめしばに特定することには大きな疑問がある。 (イ) 原告Bについて 原告Bは、平成14年5月24日の名大病院呼吸器内科における精密検査結果が整合せず、細気管支炎以外の病気が疑われたにもかかわらず、原告Bが肺部の病理組織を検査する精密検査を拒否したため、呼吸不全の原因が確定されなかったものであり、その原因を本件あまめしばと特定するには疑問がある。 (ウ) 原告らは親子であり、ほぼ同様な症状を呈していることからすれば、何らかの遺伝的要因やアレルギー体質の影響が考えられる。 イ 原告らの症状と本件あまめしば摂取との関連性の薄さ びまん性肺疾患調査研究班の平成16年度研究報告書によると、原告Aは本件あまめしばを合計300g、原告Bは合計360g摂取したとされ、日本国内で加工あまめしばを摂取して閉塞性細気管支炎に罹患したとされる他の患者6名に比べ数分の1の摂取量でしかない。加工あまめしばの総摂取量が多いほど発症頻度が高いとされているにもかかわらず、他の患者の数分の1の摂取量で閉塞性細気管支炎を発症したといえるのか疑問がある。 原告Aについては本件あまめしばの摂取後10か月たってから、原告Bについては7か月たってから閉塞性細気管支炎の症状が発生しており、他の患者6名が加工あまめしば摂取後3、4か月で発症しているのと比べ発症があまりにも遅すぎる。上記の摂取量や発症時期の関係からも、原告らの症状と本件あまめしば摂取との関連性は薄いといわざるを得ない。 (3) 被告アダプトゲン製薬の製造物責任がないことについて ア 被告アダプトゲン製薬は、被告ASTCの指示により、同社の供給した本件あまめしばの乾燥粉末を袋詰めにしたにすぎず、本件あまめしばを製造したものではなく、製造業者にあたらない。 イ 仮に、被告アダプトゲン製薬が製造業者と認められ、かつ、本件あまめしばと原告らの疾病との間に因果関係が認められたとしても、被告アダプトゲン製薬は、本件あまめしばを出荷した平成12年10月から平成13年3月にかけて、本件あまめしばは健康食品の一種であると理解しており、本件あまめしばが人体に悪影響を及ぼす危険なものであるとの認識は全くなく、ましてや本件あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎を発症する可能性があるとは考えてもいなかったし、また、その可能性を予見することもできなかったから製造業者としての責任はない(開発危険の抗弁)。 (4) 損害について 原告Bは、有限会社アゲインコーポレーションを経営しており、一定の収入があった。原告Bは、若年の労働者ではないので、原告Bの休業損害や逸失利益を算定するに際しては、実収入を基礎収入とすることが相当である。また、原告Bは、会社の役員である以上、労働との対価性ある収入を基礎収入とすべきである。 5 被告ASTCの主張 本件あまめしばを摂取した他の顧客には被害は発生しておらず、本件あまめしばと原告らの疾病との間に因果関係はない。 6 被告主婦の友社の主張 (1) 本件あまめしばと原告らの疾病との因果関係がないことについて 被告主婦の友社は、この点に関する被告アダプトゲン製薬の主張を援用する。 (2) 被告主婦の友社に不法行為責任がないことについて ア 本件特集における本件あまめしばの紹介は、野菜あまめしばが全国で容易に入手できるものでないことから、入手方法の一つとして本件あまめしばを紹介し、合わせて20名にプレゼントするとしたものにすぎず、これをもって被告主婦の友社が本件あまめしばの販売を促進したとはいえない。 イ 本件雑誌が健康雑誌であるとはいえ、現在でもまだ危険性があるか不明の野菜あまめしばについて、原告らが主張するような調査義務を負うものではない。 ウ 仮に、本件あまめしばと原告らの疾病との間に因果関係があるとしても、野菜あまめしばは、現在においても危険性が存するか否か不明であり、また、次の事情から、被告主婦の友社は、本件特集掲載当時、その危険性を予見できなかったから、過失がない。 (ア) 本件特集掲載当時、加工あまめしばの危険性については、日本国内において医師の間にも知られておらず、専門家に対して問い合わせを行っていたとしても、当時その危険性を知り得なかった。 (イ) 原告らが主張の根拠とする雑誌記事等は、医学的で専門的な英文の論文であり、大学病院の専門医であっても常時閲読する種類の雑誌ではなかった。 (ウ) 台湾における健康被害の報告については、日本において紹介されたり着目されたりしていた事実は存在しなかった。 (エ) 日本において加工あまめしばによる健康被害が問題となったのは、原告ら及び鹿児島の症例に端を発するものであり、それ以外に加工あまめしばによる健康被害が問題となったことはなかった。 (オ) 野菜あまめしばについては、一般に食用にされ、特に健康被害などの問題は一切発生していなかった。 (カ) 医学博士の肩書きを有する被告Cでさえ野菜あまめしばについてその危険性を認識していなかった。 エ 原告らの、薬事法違反、食品衛生法違反、不当景品類及び不当表示防止法違反にかかる主張は、その前提として本件特集が本件あまめしばの宣伝・広告物であることを前提としているものであり、その前提において誤っている。 7 被告Cの主張 (1) 本件あまめしばと原告らの疾病との因果関係がないことについて 被告Cは、この点に関する被告アダプトゲン製薬の主張を援用する。 (2) 被告Cに不法行為責任がないことについて ア 本件特集は、野菜あまめしばが食物繊維やβ−カロチン、ミネラル類を豊富に含む野菜であることに着目して紹介した記事である。その中で被告Cが公表したコメントは、主婦の友社の取材に応じて、野菜あまめしば又は加工あまめしばをとった体験談についてそのような体験が生じる理由を医学的見地から説明したものである。本件解説記事も野菜あまめしばが有している栄養価値の人に対する働きを解説したものにすぎず、しかもその内容に誤りはない。したがって、被告Cは、本件あまめしばの広告に加担するものではない。 イ 上記のように食品の栄養価値の解説をするにすぎない被告Cが、原告らが主張するような調査義務まで負うものではない。 ウ 仮に、本件あまめしばと原告らの疾病との間に因果関係があるとしても、野菜あまめしばは、古くから広く食用に供されてきたものであり、なお現在においても危険性が存するか否か不明である上、次の事情から、被告Cは、本件特集掲載当時、その危険性を予見できなかったから、過失がない。 (ア) 本件特集掲載当時、加工あまめしばの危険性については、日本国内において医師の間にも知られておらず、専門家に対して問い合わせを行っていたとしても、当時その危険性を知り得なかった。 (イ) 原告らが主張の根拠とする雑誌記事等は、医学的で専門的な英文の論文であり、大学病院の専門医であっても常時閲読する種類の雑誌ではなかった。 (ウ) 台湾における健康被害の報告については、日本において紹介されたり着目されたりしていた事実は存在しなかった。 (エ) 日本において加工あまめしばによる健康被害が問題となったのは、原告ら及び鹿児島の症例に端を発するものであり、それ以外に加工あまめしばによる健康被害が問題となったことはなかった。 (オ) 野菜あまめしばについては、一般に食用にされ、特に健康被害などの問題は一切発生していなかった。 第3 当裁判所の判断 1 争いのない事実等に証拠(甲1ないし7、8の1・2、9の1〜3、10、11の1・3、15ないし19、27、28、35、36、37の1・2、38の1・2、39の1・2、40の1・2、41、43の1・2、乙イ1ないし5、6の1・2、8の1〜3、10の1、10の4、13、証人E)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。 (1) 本件あまめしばの生産、流通の過程は、次のとおりである(乙イ1)。 ア 沖縄県天芽生産組合が野菜あまめしばを生産した上、加熱して乾燥・粉末化する。 イ 沖縄県天芽生産組合が有限会社明八物産に乾燥・粉末化した野菜あまめしば(加工あまめしば)を売り渡す。 ウ 有限会社明八物産が被告ASTCに加工あまめしばを売り渡す。 エ 被告ASTCが被告アダプトゲン製薬に対し、加工あまめしばを支給し、被告アダプトゲン製薬がこれを滅菌処理し、アルミ製のチャック付きの袋に100gずつ分包し、ラベルを貼付した上で、被告ASTCに送付する。 オ 被告ASTCが一般消費者に袋詰めされた加工あまめしばを「Dのあまめしば」(本件あまめしば)として販売する。ちなみに、Dとは、日本の伝統食を基本にした健康食養法・マクロビオティック長寿食の世界的権威で、平成10年にその功績により日本人で初めて米国スミソニアン歴史博物館に殿堂入りを果たした者である。 (2) 原告Aが平成13年8月に購入した本件雑誌の161頁から173頁には、次の掲載があった(本件特集)が、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性について全く触れられていなかった(甲7)。 ア 「新・特効野菜あまめしばの大評判効果」との題の下に、「17sやせた!」、「血圧・血糖値が下がった」、「便秘が解消した、カイヨウが治った、神経痛が改善したと喜びの体験も続々」等と記載されている(161頁)。 イ ボードビリアン・俳優であるGの、加工あまめしばにより快便になった等の体験談が掲載され、同体験談について被告Cが、「快便になったのは【あまめしば】に豊富な食物繊維の効果。肺炎の回復が早かったのも【あまめしば】のさまざまな栄養素によって基礎体力が高まっていたからでしょう。」等とコメントしている(162・163頁)。 ウ C和漢薬研究所所長、医学博士の肩書きで、被告Cが、「食物繊維やβ−カロチン、ミネラル類を豊富に含む【あまめしば】はまさに「生活習慣病を防ぐ新野菜」」と題して、野菜あまめしばの説明を行っている(166頁)。 エ 「体重が11sも減り、高かった血糖値も正常に。末期ガンだった義母も驚くほど元気になった」と題する体験談について、被告Cが「血糖値が大幅に下がったのは【あまめしば】に多く含まれる食物繊維やビタミン、ミネラルなどが総合的に働いて、体の機能を調整した結果でしょう。」、「末期ガンから元気に回復されたのは【あまめしば】に豊富なβ−カロチンの抗酸化作用や、ビタミンやミネラル類の肝臓機能を高める作用によるものと考えられます。」とコメントしている(167頁)。 オ 「【あまめしば】を毎日とっていたら便秘が解消。自然にやせて17sのダイエットにも成功した」と題する体験談について、被告Cが、「【あまめしば】によって便秘が解消したため、体力・気力ともに充実してきたのでしょう。17sもやせたのは【あまめしば】に含まれる各種の栄養素が新陳代謝を高め、食物繊維が余分な脂肪の排出を促した結果と思われます」等とコメントしている(168頁)。 カ 「【あまめしば】をとり始めて、すぐに便秘が改善。血圧も200ミリから130ミリに下がった」と題する体験談について、被告Cが、「【あまめしば】に豊富な食物繊維が余分なコレステロールの排出を促し、血液をきれいにして、動脈硬化が改善した結果、血圧も下がったものと考えられます」等とコメントしている(169頁)。 キ 「【あまめしば】で十二指腸カイヨウが改善。寝たきりの状態だった友人もすっかり元気になった」と題する体験談について、被告Cが、「【あまめしば】に豊富に含まれる栄養成分の相乗効果で腸の吸収力が回復し、体力もついてきたのでしょう」等とコメントしている(170頁)。 ク 「【あまめしば】をとり始めたら毎日、快便で5sのダイエットにも成功。血圧も正常値に」と題する体験談について、被告Cが、「宿便が出たのは【あまめしば】の食物繊維が腸に働きかけて、排便力が高まり、腸の大掃除ができた証拠です。こうして体調がととのえられ、健康体になってくると、自然に血圧も安定してくるものです」等とコメントをしている(171頁)。 ケ 「子供時代からのガンコな便秘がすっきり解消。肌もツルツルの美肌になり、花粉症も軽快した」と題する体験談について、被告Cが、「(便秘には)できれば【あまめしば】のように食物繊維のたっぷり入った自然のものをとるのが安全かつ賢明な方法です。【あまめしば】はビタミン、ミネラル類も豊富ですから、肌にもよい効果が期待できます」等とコメントしている(172頁)。 コ 「痛みで動けないほどだった妻の肋間神経痛が【あまめしば】で改善し、元気に歩けるように」と題する体験談について、被告Cが、「(血流の悪さが原因の痛みやしびれには)食物繊維やビタミン、ミネラル類などを多く含む【あまめしば】をとることにより、全身の健康状態が改善され、血行もよくなって、神経痛の痛みがやわらいできたと考えられます」等とコメントしている(173頁)。 サ 161頁の右下及び163頁から173頁までの奇数頁の左端に「【あまめしば】のプレゼントは173ページ」との記載がある。 シ 「取り寄せ案内」として、本件あまめしばの写真を掲載した上、問い合わせ先として被告ASTCの電話番号が記載されている(173頁)。 (3)ア 原告Aは、本件雑誌の161頁ないし173頁を読んで、被告ASTCに対し、本件あまめしばを注文し、平成13年8月から同年12月まで、本件あまめしばスプーン小さじ1杯を、1日3回程度、主にオブラートに包んで摂取し、総摂取量は約300gであった。 イ 原告Aは、娘である原告Bに本件雑誌を見せて、本件特集記事を紹介し、原告Bは、同記事を読んで、ビタミン・ミネラルなどの栄養補給のために、平成13年9月から同年12月まで、本件あまめしばスプーン小さじ1杯を、1日3回程度、主に豆乳に混ぜて摂取し、総摂取量は約360gであった(甲35、41の52頁)。 (4)ア 原告Aが被告ASTCから購入した本件あまめしばには、製造者として被告アダプトゲン製薬が、発売者として被告ASTCの旧商号であるクシ・インターナショナル株式会社が表示されている(甲1)。 イ 本件あまめしばには、「使い方」として、「180tにスプーン1杯を目安として、水や牛乳・ジュースなどに溶かしてお飲み下さい。」と記載されていた(甲1)。 (5) 原告らの疾病の発生及び診療の経過 ア 原告Aについて(甲2、16、証人E、弁論の全趣旨) (ア) 原告Aは、平成14年7月4日、口腔内異常、体重減少、歩行時の呼吸困難を理由に名大病院を受診した。 (イ) 原告Aは、平成14年7月18日から同年11月5日まで、喘鳴、労作時呼吸困難で喘息の鑑別のために通院治療にて経過観察中であったが、次第に呼吸困難が増強し、同月5日から同年12月10日まで名大病院に入院した。同入院期間中の同年11月25日付けの身体障害者診断書・意見書により、閉塞性細気管支炎、慢性呼吸不全と診断された。 (ウ) その後、原告Aは、名大病院にて入院治療、通院治療を続け、平成16年12月14日以降は、外来による経過観察が行われているが、介護下での在宅治療も困難な状況にあり、呼吸機能は発病以前に回復することは期待できない状況である。加齢による影響も加わり、呼吸困難感が強い。 (エ) 原告Aは、少しでも動くとすぐ息が切れてしまい、移動には車いすを用い、酸素を常時吸入していなければならず、風邪等に感染すると命にも関わる状況である。 イ 原告Bについて(甲4、17、35、証人E、弁論の全趣旨) (ア) 原告Bは、平成14年4月4日、呼吸困難と口腔内の異常感覚を理由に名大病院を受診し、気管支喘息、膠原病、化学物質アレルギーが疑われ、経過観察となった。 (イ) 原告Bは、平成14年4月10日、呼吸困難を理由に救急外来受診し、呼吸不全と診断され、救急入院となり、同年6月4日にI型呼吸不全(原因不明)の診断で在宅酸素を導入され、退院となった。 原告Bは、平成14年7月8日付け診断書で原因不明の細気管支炎と診断され、酸素投与によっても呼吸困難について改善がみられないと認められた。 (ウ) その後、原告Bは、呼吸器内科の通院治療を続けていたが、呼吸困難が強くなったこともあり、平成15年9月8日の外来受診にて閉塞性細気管支炎と診断された。 (エ) 原告Bは、その後も外来受診を続け、平成15年10月20日以降は、外来による経過観察が行われている。在宅の酸素療法を行っているが、病態発生時以前への呼吸機能の回復は見込めない状況である。 (オ) 原告Bは、少しでも動くとすぐ息が切れてしまい、移動には車いすを用い、酸素を常時吸入していなければならず、風邪等に感染すると命にも関わる状況である。自宅でのトイレや着替え等の身の回りの世話も1人ですることができず介護を要する状況であり、自宅でもほぼ寝たきりの生活を送っている。 (6)ア 原告Aは、平成14年11月29日、名古屋市より、「疾病により家庭内での日常生活活動が著しく制限される呼吸器機能障害」という障害名で、身体障害者等級表による3級の認定を受けた(甲3)。 イ(ア) 原告Bは、平成14年7月15日、名古屋市より、「疾病により家庭内での日常生活活動が著しく制限される呼吸器機能障害」という障害名で、身体障害者等級表による3級の認定を受けた(甲5)。 (イ) 原告Bは、平成17年8月26日、名古屋市昭和区長より要介護4(重度の介護を要する状態)であるとの要介護認定・要支援認定等認定通知を受けたが、要介護4の平均的な状態は次のとおりである(甲27、28)。 a みだしなみや薬の内服などの身の回りの世話がほとんどできない。 b 立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作がほとんどできない。 c 歩行や両足での立位保持などの移動の動作が自分ひとりではできない。 d 食事に何らかの介助を必要とする。 e 排泄がほとんどできない。 f 問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。 (ウ) 原告Bは、平成18年8月11日、名古屋市昭和区長より要介護5(最重度の介護を要する状態)であるとの要介護認定・要支援認定等認定通知を受けたが、要介護5の平均的な状態は次のとおりである(甲43の1・2)。 a みだしなみや薬の内服などの身の回りの世話がほとんどできない。 b 立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作がほとんどできない。 c 歩行や両足での立位保持などの移動の動作がほとんどできない。 d 食事や排泄がほとんどできない。 e 問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。 (7)ア 日本においては、野菜あまめしばは平成8年に沖縄で栽培されるようになり、沖縄で年間約300トン生産され、大部分が県外向けに出荷されてきた。平成15年8月以降、加工あまめしばを摂取した後に息切れや呼吸困難などの症状が出現し、閉塞性細気管支炎と診断された症例が厚生省(現厚生労働省)により報告された(甲10)。 イ 厚生労働省は、平成15年9月12日、加工あまめしばの長期摂取と閉塞性細気管支炎との因果関係は否定できないとする食品安全委員会の通知を受けて、食品衛生法4条の2第2項に基づき、加工あまめしばの販売を禁止した(甲6、10)。 ウ 厚生労働省による上記販売禁止措置の後、独立行政法人国立健康・栄養研究所は、「アマメシバの安全性問題」と題する報告書(甲10)において、「加工あまめしばによる健康被害について、呼吸困難などを引き起こす他の原因が見当たらないこと、過去に台湾で多数の患者が出た野菜あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎と症状、所見及び経過が酷似していることから、加工あまめしばの摂取により発症した閉塞性細気管支炎である可能性が極めて高い。」と報告した。 エ(ア) 別件患者は、平成16年7月21日付けで、鹿児島地方裁判所川内支部に、加工あまめしばの製造会社及び販売会社を被告とし、加工あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎を発症したとして、製造物責任法3条ないし不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した(別件訴訟。甲11の1)。 (イ) 鹿児島大学第三内科のH教授らは、日本醫事新報平成15年9月6日号に緊急報告として、40歳代の女性で、加工あまめしばを平成14年12月から平成15年4月まで服用し、平成15年2月ころより階段昇降時に呼吸困難が出現し、その後増悪し最終的に閉塞性細気管支炎と診断された症例について、「閉塞性細気管支炎の原因が他に見当たらないこと及び過去に台湾で多数の患者が出た野菜あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎と症状、所見及び経過が酷似していることから加工あまめしばの摂取により発症した閉塞性細気管支炎の可能性が高い。」旨報告した(甲11の3)。 (ウ) H教授らは、「Internal Medicine」44巻10号(平成17年10月)で、「台湾において、野菜あまめしばは疫学調査で閉塞性細気管支炎の原因であると証明された。日本において130日間にわたり計約1000gの加工あまめしばを摂取した47歳女性の症例について、部分生体肺移植により切除された肺の外観は、台湾で発生した野菜あまめしば関連の閉塞性細気管支炎の患者と同様の病理学的変化であった。」旨報告した(甲39の1・2)。 (エ) H教授らは、平成17年に、呼吸器科専門雑誌「Respiration」で、「野菜あまめしばは台湾で統計学的分析により閉塞性細気管支炎を起こすと証明された。日本での加工あまめしば関連閉塞性細気管支炎の初発5例について、患者全員が症状出現の前に十分量の加工あまめしばを摂取し、他に閉塞性細気管支炎を起こす原因がないので、加工あまめしば関連閉塞性細気管支炎と診断したが、 このうち4 症例は親子であった。」旨報告した(甲40の1・2)。 オ(ア) びまん性肺疾患調査研究班は、平成15年度研究報告書で、「「あまめしば」摂取と関連したと思われる閉塞性細気管支炎の本邦での発生−緊急報告−」との題のもと「原告らの症例を含め、全症例について閉塞性呼吸機能障害を認め、ステロイド治療に抵抗性であった。原告らを含めた5名はいずれも、生来健康であったにもかかわらず、加工あまめしば摂取後、呼吸器疾患が出現し、また他に原因が見当たらず、ステロイド治療に反応しないことにより、加工あまめしば摂取に関与した肺疾患である。」と報告した(甲15)。 (イ) びまん性肺疾患調査研究班は、平成16年度研究報告書で、「「アマメシバ」に関連した肺傷害の全国疫学調査研究」の題のもと「平成16年4月から同年10月までの間に国内の医療機関で認知された加工あまめしば摂取に関連した肺傷害の症例数は8施設9例であり、そのうち肺傷害の臨床診断名が閉塞性細気管支炎であるのが8例であり、同時点での加工あまめしば関連閉塞性細気管支炎は台湾での報告例と臨床的特徴がよく一致していた。」旨報告した(甲41)。 (8)ア 台湾においては、野菜あまめしばは、1982(昭和57年)ころ「守宮木」という野菜として輸入され、減肥効果があるとして「減肥菜」として爆発的に栽培され摂取されるようになったが、平成6年から平成7年にかけて野菜あまめしばの摂取との関係が疑われる肺機能障害の症例が台湾行政院衛生署に多数報告された。 台湾行政院衛生署は、1995(平成7)年8月25日以前に通報された、野菜あまめしばを摂取しかつ呼吸困難を訴えて受診した44例の患者のうち41例について調査し、「野菜あまめしばの産地、食べ方、食べる部位、保存方法、調味料の添加などの違いがあるにもかかわらず、中毒症状を発症している。呼吸困難が主要な症候で、摂取期間中あるいは摂取中止後一定期間経過した後に発現した。うち12名の患者の肺機能測定では全て閉塞性肺疾患の所見を示した。」との調査結果を報告した(甲10)。 イ 医学雑誌「LANCET」の1996(平成8)年7月号は、「台湾でのあまめしば消費に関連した閉塞性細気管支炎の流行」という題のもと「1995年8月に台湾で流行した野菜あまめしばの消費に関連した急性進行性の呼吸障害に関し、23人の患者について、閉塞性細気管支炎の既知の原因は見付からず、唯一の共通点は未調理の野菜あまめしばの摂取だけであった。」旨の論文を報告した(甲37の1・2)。 ウ 医学雑誌「American Journal of Epidemiology」の145巻9号は、1997(平成9)年に、野菜あまめしばと閉塞性細気管支炎症候群との関連を評価するための病院の症例対照研究の結果について、「野菜あまめしば摂取と閉塞性細気管支炎症候群との関連は確立している。台湾以外の東南アジア諸国において閉塞性細気管支炎が報告されていないこととのギャップについては台湾の症例が野菜あまめしばを頻繁に、大量に摂取していることから説明できる。」旨の論文を報告した(甲38の1・2)。 エ 医学雑誌「CHEST」の1998(平成10)年1月号は、「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆性閉塞性換気障害」という題のもと「台湾において野菜あまめしばの摂取経験を有する194名を対象にアンケートと肺機能テストを実施した結果(データ分析対象は178名)、@閉塞性換気障害は野菜あまめしばを少量よりも大量に消費したグループに多く見られること、A178名中49名の患者に気管支拡張薬が反応しない中等度から高度の閉塞性換気障害を認めたこと、B上記49名の65%は植物摂取の3ないし5か月後に呼吸困難を起こしたが、7か月以降から呼吸困難が生じることはなかったことが判明し、結論として、野菜あまめしばの消費は7か月以内に中等度から高度の閉塞性換気障害を引き起こし、22か月間の観察研究期間では不可逆性であった。」旨の論文を報告した(甲8の1・2)。 オ 医学雑誌「LANCET」の1998(平成10)年7月号は、「植物摂取と関連する閉塞性細気管支炎における肺移植」という題のもと「1996年に野菜あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が激増した。上記閉塞性細気管支炎患者の病歴は、野菜あまめしばの摂取、慢性呼吸器疾患の不在、気管支拡張薬に反応しない閉塞性換気等であった。台湾では、メディアが1995年8月に呼吸器系窮迫症と野菜あまめしばの関連を報道した後、野菜あまめしばは入手不可能となり、新しい症例も出なくなった。平均43歳の閉塞性細気管支炎の詳細な症例を115例集めた。最初の肺機能テストで、一秒量(FEV1)の平均は0.82(0.33)L/min(range)で、中等度から高度の気流の閉塞障害があった。コルチコステロイド、気管支拡張薬、エリスロマイシン、免疫抑制薬等の効果は限られていた。2年間の追跡調査で、閉塞性細気管支炎は重度の肺の悪化や115名中7名の死亡へと経過した。ほとんどの患者は安定しているが、執拗な咳や呼吸困難が生じた。肺機能の追跡調査では、0.85(0.3)L/minの平均FEV1であり何も改良されなかった。患者の約5分の1は肺機能の悪化が続き、何人かはベンチレーター(人工呼吸器)の助けを必要とする呼吸不全を繰り返し引き起こした。」旨の論文を報告した(甲9の1〜3)。 (9) E教授の所見(甲8の1〜3、36、41、42、証人E) ア 閉塞性細気管支炎は非常に珍しい疾患であり、日本国内で平成15年9月から12月にかけて施設ベッド数が300床以上の医療機関1118施設を対象としてなされた調査において、閉塞性細気管支炎と病理学的に診断された症例は105例にすぎない。 閉塞性細気管支炎の原因は、はっきり特定されていないが、骨髄や肺の移植に伴う症例やリューマチなどの免疫疾患に伴う症例が多数報告されていることから、何らかの免疫学的な異常がその原因となっていることが推測される。しかし、どのような物質が関与しているのか、どうしてこのような病態が生ずるかについては、いまだ解明されていない。 上記の105例のうち、骨髄及び肺の移植並びにリューマチなどの免疫疾患などの基礎疾患のない症例数は2例と極めて少ない。 イ 日本国内で平成16年7月から12月にかけて施設ベッド数が200床以上で呼吸器内科及び呼吸器外科を標榜する医療機関1823施設を対象としてなされた調査において、加工あまめしばを摂取した者で閉塞性細気管支炎に罹患したとされる症例が日本国内で8例報告されたが、これらの症例について閉塞性細気管支炎につながる基礎疾患は見つかっていない。 ウ 日本国内で平成15年9月から12月にかけてなされた調査では、親子で閉塞性細気管支炎に罹患した症例はなかったが、日本国内で平成16年7月から12月にかけてなされた調査では、加工あまめしばを摂取していた親子で閉塞性細気管支炎に罹患したと報告された症例が4例(2家系)あった。 エ 日本国内で、平成15年9月に加工あまめしばの販売が禁止された後は、親子で閉塞性細気管支炎に罹患したとの症例はない。 オ アレルギー等を原因として閉塞性細気管支炎に罹患したという報告はない。 カ シェーグレン症候群を直接の原因として閉塞性細気管支炎に罹患したとの報告は、海外ではあるが、日本国内ではない。 キ 上記アないしエの事実や、野菜あまめしばを大量に摂取して閉塞性細気管支炎に罹患したとする症例が台湾で多数報告されていることから、野菜又は加工あまめしばは、疫学的に閉塞性細気管支炎の原因の一つであるとみられる。 野菜又は加工あまめしばを摂取した人の血液に腫瘍壊死因子(TNFα)が多くなっているとの報告があり、サイトカイン(多数の異なる細胞から産生され、多数の異なる細胞に働きかけるタンパク質物質)を刺激・活性化させる原因物質があることが推定されるが、その原因物質は特定されていない。 ク 原告Aについては、当初、口が渇くなどといったシェーグレン症候群の症状がみられたため、閉塞性細気管支炎の原因として、シェーグレン症候群を疑ったが、その後、原告Aと原告Bの親子が共に加工あまめしばを摂取して閉塞性細気管支炎に罹患したことを知り、加工あまめしばが閉塞性細気管支炎の原因であると推定した。 原告Aのカルテには、プレドニン(ステロイド)を投与して自覚症状の改善が見られたとの記載はあるが、実際に肺機能が改善されたか否かは不明である。そもそも、閉塞性細気管支炎にステロイドが効果があるか否かも不明である。 原告Aの加工あまめしばの摂取量は300g(野菜あまめしばに換算すると3000g)で「CHEST、 」の1998(平成10)年1月号の「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆性閉塞性換気障害」(甲8の1〜3)で報告されたデータからすると、比較的少ない摂取量で閉塞性細気管支炎を発症したことになるが、個体差を考慮すると、加工あまめしばを閉塞性細気管支炎の原因とすることに支障はない。 「CHEST」の1998(平成10)年1月号の「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆性閉塞性換気障害」では、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎が発症するまでの期間は、12日から150日で平均が60日であると報告されている一方、原告Aは加工あまめしばの摂取後10か月で発症したとされているが、原告Aの自覚症状が生じた時期が10か月後であり、実際にはそれより早く発症していたということもあるから、その発症までの期間も、加工あまめしばを閉塞性細気管支炎の原因とすることの支障にならない。 ケ 原告Bについては、免疫不全など閉塞性細気管支炎につながる基礎疾患が全くなかった。 原告Bの加工あまめしばの摂取量は360g(野菜あまめしばに換算すると3600g)で「CHEST、 」の1998(平成10)年1月号の「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆性閉塞性換気障害」(甲8の1〜3)で報告されたデータからすると、比較的少ない摂取量で閉塞性細気管支炎を発症したことになるが、個体差を考慮すると、加工あまめしばを閉塞性細気管支炎の原因とすることに支障はない。 上記クのとおり、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎が発症するまでの期間は、12日から150日で平均が60日であると報告されている一方、原告Bは加工あまめしばの摂取後7か月で発症したとされているが、原告Bの自覚症状が生じた時期が7か月後であり、実際にはそれより早く発症していたということもあるから、その発症までの期間も、加工あまめしばを閉塞性細気管支炎の原因とすることの支障にならない。 (10) 動物実験の結果 ア H教授が、平成16年の7月までに加工あまめしばのマウスへの投与実験を実施した結果、加工あまめしばの投与群では、細気管支に細胞浸潤及び線維化が見られ、大食細胞の活性化と線維芽細胞の増殖が見られた(乙イ2)。 イ F助教授が、加工あまめしばを混合した飼料を与えたマウスと加工あまめしばの混合されていない飼料を与えたマウスとの比較実験を行ったところ、飼料の平均摂取量は両群に大きな差はなく、両群ともに84日経過までに死亡例はなかった(乙イ3)。 ウ F助教授が、1日あたり1000r/s以上の加工あまめしばを摂取したマウスとこれを全く摂取しないマウスの比較実験を行ったところ、32週経過時点で、後者で1匹死亡例が見られた他は死亡例はなかった(乙イ4)。 エ 厚生労働省は、平成17年8月に食品安全委員会において、「マウスへの加工あまめしばの投与試験においては、32週で5例の死亡例が認められたものの、明らかに閉塞性細気管支炎の像を呈する組織所見は得られなかった。」と報告した(乙イ6の1・2)。 オ 筑波大学のI名誉教授らは、平成17年の国際食品機能学会アマメシバ研究部会において、「アマメシバの安全性に関する実験的研究」と題して、「マウスを用いた継続的な加工あまめしばの経口投与実験において、加工あまめしばの単回投与による急性毒性、中期の連続投与による気管や肺などへの影響は認められなかった。」旨報告した(乙イ8の1〜3)。 カ 株式会社三菱化学安全科学研究所は、平成18年3月、「アマメシバ粉末のラットを用いた経口投与による52週間反復投与毒性試験」の最終報告書で、「肺については病理解剖検査及び病理組織学的検査の結果、加工あまめしば投与に起因した変化は雌雄ともに認められず、肺の器官重量並びに血液中の酸素分圧及びメトヘモグロビン濃度においても加工あまめしば投与との関連性を示唆する変化は認められなかった。」旨報告した(乙イ13)。 (11) 国立医薬品食品衛生研究所食品部のJは、平成16年7月15日の食品安全委員会において「野菜あ、 まめしばの属するトウダイグサ科の従来有害物質として報告されたものを中心に成分分析を行ったところ、野菜あまめしばから検出された成分のうち、ヒスタミン及び新規アスコルビン酸誘導体については閉塞性細気管支炎を起こすことは考えにくく、シアン配糖体のリナマリンについては毒性自体は毒性試験から認められているものの、閉塞性細気管支炎に関連するような毒性情報は報告されていない。」旨報告した(乙イ10の1・4) (12) 常磐薬品は、平成14年から平成16年まで、沖縄県産の野菜あまめしばを原料とする健康食品を2800個以上製造していたが、同社が出荷した野菜あまめしばを原料とする健康食品について健康被害等のクレームが発生したことはなかった(乙イ5)。 2 加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性について (1) @台湾において、野菜あまめしばを摂取した者で閉塞性肺疾患に罹患しているとされる症例が多数報告されたこと、A台湾において閉塞性細気管支炎の既知の原因を発見できない患者について調査した結果、共通点は野菜あまめしばの摂取のみであったとの報告があること、B台湾ではメディアの報道により野菜あまめしばの入手が不可能となってからは新しい症例も出なくなったとの報告があること、C日本国内においても加工あまめしばを摂取した後に息切れや呼吸困難等の症状を訴え、閉塞性細気管支炎と診断された症例が報告されていること、D閉塞性細気管支炎については、骨髄や肺の移植、リューマチなどの免疫疾患などの基礎疾患のない症例数は極めて少ないにもかかわらず、Cの症例については、閉塞性細気管支炎につながる基礎疾患が見つかっていないこと、E日本国内で、親子で閉塞性細気管支炎に罹患した症例については、いずれも親子とも加工あまめしばを摂取していたこと、F日本国内で、平成15年9月に加工あまめしばの販売が禁止された後は、親子で閉塞性細気管支炎に罹患したとの症例は報告されていないこと、G部分生体肺移植により切除したCの症例の患者の肺の外観は台湾の野菜あまめしば関連の閉塞性細気管支炎患者の肺と同様の病理学的変化である旨の報告があること、HCの症例の閉塞性細気管支炎は台湾での報告例と臨床的特徴がよく一致していた旨の報告があること(上記1の認定事実)を総合すれば、加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症とは高度の関連性があると認められる。 (2) この点、被告らは、動物実験による安全性の確認(第2、4(1)ア)、野菜あまめしばから閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質が検出されなかったこと(第2、4(1)イ)、沖縄産の野菜あまめしばと台湾の野菜あまめしばとは異なる種類のもので摂取方法も異なること(第2、4(1)ウ)、疫学的因果関係の不存在(第2、4(1)エ)を主張するので検討する。 ア 被告らの動物実験による安全性の確認の主張(第2、4(1)ア)について 確かに、マウス及びラットを用いた動物実験においては加工あまめしばを投与した群に閉塞性細気管支炎と関連する組織所見は得られず、死亡例もなかった(上記1(10)の認定事実)。 しかし、動物実験で全く毒性がなくとも人間に対し高度の毒性を示すことがあること、人間に起きたことを動物実験で再現できないことも多いこと、閉塞性細気管支炎は肺胞に近い細気管支が閉塞するものであるところ、人間とラット等では肺の構造が異なること(甲36、証人E)から、上記のように動物実験で加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連が確認できなかったからといって両者の関連性を否定できない。 イ 被告らの野菜あまめしばから閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質が検出されなかったことの主張(第2、4(1)イ)について 確かに、従来トウダイグサ科に含まれる有害物質として報告されてきた成分で、野菜あまめしばから検出された成分であるヒスタミン、新規アスコルビン酸誘導体及びシアン配糖体のリナマリンについては閉塞性細気管支炎に関連する毒性物質とはいえない旨の報告がある(上記1(11)の認定事実)。 しかし、野菜又は加工あまめしばを摂取した人の血液の腫瘍壊死因子(TNFα)が多くなっているとの報告があり、サイトカイン(多数の異なる細胞から産生され、多数の異なる細胞に働きかけるタンパク質物質)を刺激・活性化させる原因物質があることが推定されるが、その原因物質は特定されていないこと(上記1(9)キの認定事実)からすると、従来から報告されてきたトウダイグサ科の有害物質以外の有害物質が閉塞性細気管支炎の原因物質である可能性を否定できない。 ウ 被告らの沖縄産の野菜あまめしばと台湾の野菜あまめしばとは異なる種類のもので摂取方法も異なることの主張(第2、4(1)ウ)について 確かに、証拠(甲10)によれば、野菜あまめしばが食されてきたマレーシアでは台湾と類似する中毒に関する報告はなかったこと、台湾で問題となった野菜あまめしばは台湾国内で栽培されたものであること、台湾の症例では粉末等の加工品ではなく、野菜あまめしばそのものを調理して摂取していたことが認められる。 しかし、証拠(甲8の1〜3、10、証人E)によれば、マレーシアでは1週間に約116〜200gを摂取するのに対し、台湾では毎日150gが摂取されていたとの量的な違いがあること、野菜あまめしばを乾燥粉末にして濃縮された本件あまめしばは、同じ重量の野菜あまめしばの10倍に相当すること、マレーシア人と台湾人とで民族差があることが認められ、量的に摂取量が少ないマレーシアで中毒に関する報告がないことをもって加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連性を否定できない。 また、野菜あまめしばの原産地の違いが閉塞性細気管支炎の発症の有無を左右するとは考えにくい。 さらに、野菜あまめしばの成分が粉末等に加熱・加工されることによりどのように変化するかも明らかでなく、加熱・加工の有無の違いによっても加工あまめしばと閉塞性細気管支炎との関連性を否定できない。 エ 被告らの疫学的因果関係の不存在の主張(第2、4(1)エ)について 確かに、動物実験で閉塞性細気管支炎との関連は確認されていない(上記(2)アの認定事実)、加工あまめしばからは閉塞性細気管支炎を引き起こす毒性物質は特定されていない(上記(2)イの認定事実)、閉塞性細気管支炎とを結びつける因子が確認されておらず、発症のメカニズムが解明できていない(上記1(9)の認定事実)、野菜あまめしばを含有する健康食品は、日本全国で多くの種類が販売されており、販売量だけで平成14年から平成16年にかけて全国で3000個近くも販売されているにもかかわらず、野菜あまめしばを含有する健康食品を摂取して肺障害を訴えている患者は、本件あまめしばの購入者と他社商品の購入者を合わせても日本全国でわずか8例に過ぎない(弁論の全趣旨)などの事情は存するが、上記(1)で説示した事情がある以上、加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との間に疫学的因果関係(高度の関連性)があるというべきである。 オ したがって、被告らの同主張は採用できない。 3 原告らの本件あまめしばの摂取と原告らの疾病との因果関係について (1) 原告らが加工あまめしばである本件あまめしばを摂取していたこと、原告らが閉塞性細気管支炎に罹患したことは上記1のとおりであり、加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎に高度の関連性があることは上記2のとおりである。 (2) 上記事実に加え、上記1のとおり、@原告らが親子であり、同じく本件あまめしばを摂取してほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したこと、A免疫不全も閉塞性細気管支炎の原因となることはあるが、原告Aが罹患の疑いがあるとされたシェーグレン症候群については、これが原因となって閉塞性細気管支炎に罹患したとの報告は日本国内でなされていないこと、B原告Bには免疫不全に関する所見が全くなかったことを総合すると、原告らは本件あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎に罹患した蓋然性が高いというべきであり、本件あまめしばの摂取と原告らの疾病との間に因果関係があると認めるのが相当である。 (3) この点、被告らは「原告A、 については原因として考えられる疾患としてシェーグレン症候群その他の疾病がある。」旨主張する(第2、4( 2 )ア(ア))。 確かに、原告Aには、シェーグレン症候群その他の疾病があり、抗炎症薬のステロイド剤が投与され、呼吸障害の自覚症状は改善している。しかし、実際にステロイド剤投与により肺機能が改善されたか否かは不明である上、閉塞性細気管支炎にステロイドが効果があるか否かも不明であること(上記1(9)の認定事実)や、上記(1)、(2)の説示にかかる事情が存することからすると、シェーグレン症候群その他の疾病があることによっても本件あまめしばの摂取と原告らの疾病との間の因果関係を否定できないというべきである。 また、被告らは、「原告Bは検査を拒否したため原因は確定されていない。」旨主張する(第2、4(2)ア(イ))。 しかし、原告Bは、閉塞性細気管支炎の診断を確定するための胸腔鏡検査や肺血管造影といった精密検査を拒否したというにすぎない。原告Bが閉塞性細気管支炎であることは、肺換気シンチグラフィー検査や血流シンチグラフィー検査によって裏付けられる上、血液検査等によって、免疫疾患などがないことが確認されている(証人E)から、被告らの同主張は採用できない。 さらに、被告らは、「原告らについて遺伝的要因やアレルギー体質も原因として考えられる。」旨主張する(第2、4(2)ア(ウ))。 確かに、原告らが親子であることから遺伝的要因は考えられるものの、そうであるとすれば親である原告Aが先行して発症し、その後原告Bが発症するのが自然である。しかし、本件では両者がほぼ同時期に発症しており、原告らの疾病を遺伝的な要因によるものと考え難い。また、上記1のとおりアレルギーを原因とする閉塞性細気管支炎の罹患の症例が報告されていないから、これによっても両者の因果関係を否定できない。 (4) また、被告らは「原告Aは、 本件あまめしばを合計300g、原告Bは合計360g摂取したとされ、日本国内で加工あまめしばを摂取して閉塞性細気管支炎を発症したとされる他の患者6名に比べ数分の1の摂取量でしかない。原告Aについては本件あまめしばの摂取後10か月たってから、原告Bについては7か月たってから閉塞性細気管支炎の症状が発生しており、他の患者が加工あまめしば摂取後3、4か月で発症しているのと比べ、発症があまりにも遅すぎる。上記の摂取量や発症時期の関係からも、原告らの症状と本件あまめしば摂取との関連性は薄い。」旨主張する(第2、4(2)イ)。 確かに、びまん性肺疾患調査研究班の平成16年度研究報告書(甲41)によると、原告Aの加工あまめしばの摂取量は300g(野菜あまめしばに換算すると3000g)で、摂取後10か月で発症したとされ、原告Bの加工あまめしばの摂取量は360g(野菜あまめしばに換算すると3600g)で、摂取後7か月で発症したとされている一方、日本国内で加工あまめしばを摂取して閉塞性細気管支炎に罹患したとされる他の患者6名の加工あまめしばの摂取量、摂取開始から発症までの期間は、@1000g、3月、A1440g、4月、B1200g、6月、C4380g、3月、D摂取量不明、期間不明、E900g、4月とされている。 しかし、「CHEST」の1998(平成10)年1月号の「サウロパス・アンドロジナス摂取患者における量反応関係と不可逆性閉塞性換気障害」(甲8の1〜3)では、原告らより少ない野菜あまめしばの摂取量で不可逆性閉塞性換気障害を発症したと報告された症例があること、原告らの自覚症状が生じた時期が実際の発症時期よりも遅くなった可能性もあること、各患者毎に個体差があることからすると、上記の事情も、加工あまめしばを閉塞性細気管支炎の原因とすることの支障とはならないというべきである。 4 被告アダプトゲン製薬の製造物責任について (1) 製造物該当性及び製造業者等該当性について ア 本件あまめしばは、野菜あまめしばを加熱して乾燥・粉末化した後に滅菌処理した製品であり(上記1(1)の認定事実)、製造又は加工された動産(製造物責任法2条1項)である製造物であると認められる。 イ 被告アダプトゲン製薬は、被告ASTCの提供した乾燥・粉末化された野菜あまめしば(加工あまめしば)を滅菌処理している(上記1(1)の認定事実)から、本件あまめしばを業として加工した者すなわち製造物責任法2条3項1号による製造業者等であると認められる。 また、被告アダプトゲン製薬は、本件あまめしばの製造者として本件あまめしばにその商号を表示している(上記1(1)、(4)の認定事実)から、同法2条3項2号による製造業者等であるとも認められる。 (2) 製造物の欠陥について ア 製造物責任法にいう欠陥とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう(同法2条2項)。 イ 本件あまめしばには、1回につきスプーン1杯を目安として摂取する使用方法が記載されており、原告らは毎回スプーン小さじ1杯分ずつ摂取していた(上記1(3)、(4)の認定事実)から、原告らは、本件あまめしばを、通常予見される使用形態に従って使用していたものといえる。 また、上記2及び3の説示からすると、本件あまめしばを1回につきスプーン1杯を目安として摂取するという通常予見される使用方法に従って使用した場合にも閉塞性細気管支炎が生じうることが認められる。 ウ 原告らが本件あまめしばを最初に購入した平成13年8月以前に、各種の医学雑誌において台湾の症例が紹介され、野菜あまめしばの問題が検討されていたこと(上記1(8)の認定事実)からすると、平成13年8月の段階で野菜あまめしばにより閉塞性細気管支炎を来した症例を知ることは可能であったと認められる。 エ そうとすれば、本件あまめしばは、通常有すべき安全性を欠いており、製造物責任法上の欠陥を有するというべきである。 (3) 開発危険の抗弁について ア 製造物責任法4条1号は、製造業者等が「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」を証明したときは、損害賠償の責めに任じない旨規定するところ、同号にいう「科学又は技術に関する知見」とは、当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において、科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて、当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識の全てをいうものと解するのが相当である。 イ 原告らが本件あまめしばを最初に購入した平成13年8月以前に、各種の医学雑誌において野菜あまめしばの摂取を原因とする台湾の症例が紹介されていたこと(上記1(8)の認定事実)からすると、平成13年8月の段階で野菜あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎を来した症例を知ることは可能であった。また、同知見は、医学の臨床雑誌として米国ハーバード大学が出版する「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に次いで権威が高いとされる「LANCET」にも掲載されたことからすると(証人E 、同知見) は、本件あまめしばの欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識であったということができる。 ウ したがって、被告アダプトゲン製薬は、本件あまめしばを引き渡した当時、本件あまめしばに欠陥があることを認識できなかったとは認められず、被告アダプトゲン製薬の同主張は採用できない。 (4) 以上によれば、被告アダプトゲン製薬は、原告らに対し、本件あまめしばの欠陥と相当因果関係にある原告らの損害につき賠償すべき義務を負うというべきである。 5 被告ASTCの不法行為責任ないし製造物責任について (1) 原告らは、被告ASTCに対して、不法行為責任による損害賠償及び製造物責任による損害賠償を選択的に請求しているものと解される。 (2) 製造業者等該当性について 被告ASTCは、本件あまめしばに発売者として表示されていること(上記1(4)の認定事実、被告ASTC) は、有限会社明八物産から乾燥・粉末化した加工あまめしばを購入し、被告アダプトゲン製薬に滅菌・袋詰めを依頼していたこと(上記1(1)の認定事実)、被告ASTCは、本件あまめしばを、日本の伝統食を基本にした健康食養法・マクロビオティック長寿食の世界的権威で、平成10年にその功績により日本人で初めて米国スミソニアン歴史博物館に殿堂入りを果たしたDの氏名を利用した「Dのあまめしば」との商品名で販売していたこと(上記1(1)の認定事実)からすると、被告ASTCは、本件あまめしばの製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、本件あまめしばにその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者に該当し、製造物責任法2条3項3号による製造業者等であると認められる。 (3) 本件あまめしばが通常有すべき安全性を欠いており、製造物責任法上の欠陥を有することは、上記4(2)に説示のとおりである。 (4) 以上によれば、被告ASTCは、原告らに対し、本件あまめしばの欠陥と相当因果関係にある原告らの損害につき賠償すべき義務を負うというべきである。 6 被告主婦の友社の不法行為責任について (1) 本件特集が読者である原告らを誤信させ、本件あまめしばの実質的な広告にあたり原告らへの本件あまめしばの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させたといえるか(違法行為の有無)について ア 本件特集には、野菜あまめしばないし加工あまめしばの効用のみを強調する内容の記事が掲載され、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性は触れられていなかったこと(上記1(2)の認定事実)からすれば、本件特集は本件あまめしばにより健康になることはあっても病気になることはないと原告らに誤信させるに足りる記事であったと認められる。 イ 健康増進法上、特定の食品又は成分に係る学術的解説を掲載する場合であっても、その解説の付近から特定食品の販売ページに容易にアクセスが可能である場合や、販売業者の連絡先が掲載されている等の場合には、実質的に広告等に該当するとの扱いがなされているところ、本件特集には、合計7か所に「あまめしば【】のプレゼントは173ページ」との記載があり、173頁には「取り寄せ案内」として、本件あまめしばの写真が掲載され、問い合わせ先として被告ASTCの電話番号が記載されている(上記1(2)の認定事実)から、本件特集は実質的には本件あまめしばの広告にあたり、原告らへの本件あまめしばの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させたと認められる。 (2) 過失について 日本国内で加工あまめしば摂取者の閉塞性細気管支炎が報告されたのが平成15年8月以降であること、厚生労働省による加工あまめしばの販売禁止措置がとられたのが同年9月になってからであること、本件特集掲載以前の台湾での症例に関する報告が英文の医学雑誌によるものであったこと、山ノ内和漢薬研究所所長・医学博士の肩書きを有する被告Cが野菜あまめしばについて「生活習慣病を防ぐ新野菜」であるとして、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性を指摘することなく、効用を説明していたこと(上記1の認定事実)からすれば、出版社である被告主婦の友社において、加工あまめしば摂取による重篤な肺疾患発症の予見可能性はなかったというべきである。 そうとすると、被告主婦の友社が本件特集により本件あまめしばの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させたことにつき過失はない。 7 被告Cの不法行為責任について (1) 本件特集のうち、被告Cの執筆にかかる部分が、読者である原告らを誤信させ、原告らへの本件あまめしばの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させたといえるか(違法行為の有無)について 本件特集には、野菜あまめしばないし加工あまめしばの効用を強調する体験談に被告Cが具体的な成分名を挙げて解説するコメント部分や、被告C自身が野菜あまめしばを「生活習慣病を防ぐ新野菜」として説明した部分があるが、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性について触れた部分がないこと(上記1(2)の認定事実)からすれば、本件特集のうち被告Cの執筆にかかる部分は、本件あまめしばにより健康になることはあっても病気になることはないと原告らに誤信させ、原告らへの本件あまめしばの販売を促進し、原告らに本件あまめしば摂取による閉塞性細気管支炎を発症させたと認められる。 (2) 過失について ア 注意義務について 健康食品として販売に供されるものについて、その摂取により生命・健康を害する危険性があるにもかかわらず、それに触れられることがないまま、医師等によりその効用が説明されると、かかる危険性を判定する能力に欠ける消費者は、自らその危険性について検証することなく上記医師等による説明をそのまま受け入れがちであり、そのため食品が安全性を欠いていた場合、広範囲の消費者がその生命・健康に重大な被害を受けるおそれがある一方、医学・薬学等の専門的知識を有する医師等にとって、当該食品に関する内外の情報を収集することは可能であり、かつ、それを求めても酷とはいえない。 したがって、医師等は、食品の効用を解説する場合には、同食品が生命・健康を害する危険性の有無についても、その時点の最高の知識と技術をもって確認し、危険性が存する場合にはこれを指摘し、消費者に警告するなど適宜な措置を講ずべき義務が課されているものと解される。 イ 予見可能性について 被告Cは、本件特集において、C和漢薬研究所所長、医学博士の肩書きを示した上で、専門家の立場から野菜あまめしばないし加工あまめしばの効用を解説していた者であるところ、体験談に対するコメントないし野菜あまめしばの解説記事を執筆した当時、台湾での野菜あまめしば摂取者の閉塞性細気管支炎症例に関する報告が英文の医学雑誌等に掲載され、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性が指摘されていたのであるから、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎が発症する危険性を十分に予見することができたというべきである。 ウ 結果回避可能性について 被告Cが上記のとおり野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎が発症する危険性を予見できた以上、体験談に対するコメントないし野菜あまめしばの解説記事を執筆するにあたり、その危険性を警告することが可能であり、原告らの閉塞性細気管支炎の罹患を避けることができたものと推測される。 エ 注意義務違反について 被告Cは、野菜あまめしばないし加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性につき有効な調査をせず、また、上記ウに述べた警告をしなかったこと(弁論の全趣旨)からすると、被告は、上記アの予見義務及び結果回避義務を尽くしていなかったといえるから、過失(注意義務違反)がある。 (3) したがって、被告Cは、原告らに対し、上記過失行為と相当因果関係にある原告らの損害につき賠償すべき義務を負うというべきである。 8 原告らの損害について (1) 治療費 証拠(甲2、4、16、17、36、証人E)によれば、原告らが本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の治療を受けたことは認められるが、その治療費としていくら要したかを認めるに足りる証拠はない。 (2) 介護保険一部負担金、装具費について 原告Aが、介護保険一部負担金、装具費(原告らの主張(7)イ(イ)、(ウ)記載の費用)を支出したことを認めるに足りる証拠はない。 また、原告Bが、装具費(原告らの主張(8)イ(イ)記載の費用)を支出したことを認めるに足りる証拠はない。 (3) 後遺障害による逸失利益 ア 原告Aについて (ア) 上記1(5)、(6)の各事実から、原告Aは、本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎により、労働能力の100%を喪失したものとみるのが相当である。 原告Aの呼吸困難は平成14年7月から次第に増強し、平成14年11月25日には閉塞性細気管支炎と診断され、呼吸機能が発病以前に回復することが期待できない状況となった(上記1(5)アの認定事実)から、同日をもって症状が固定したものと認めるのが相当である。 (イ) 原告Aは、上記症状固定日である平成14年11月25日当時72歳と高齢で、無職であり、就業の蓋然性はなかった(弁論の全趣旨)から、原告Aの後遺障害による逸失利益は認められない。 この点、原告Aは、家事労働に従事していた旨を主張するが、原告Aが、夫や家族のために家事に従事していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告Aの同主張は採用できない。 イ 原告Bについて (ア) 上記1(5)、(6)の各事実から、原告Bは、本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎により、労働能力の100%を喪失したものとみるのが相当である。そして、上記1(5)イの事実によれば、原告Bの呼吸困難は、平成14年4月から次第に増強し、同年7月8日には酸素投与によっても呼吸機能が改善されない状況と認められたのであるから、閉塞性細気管支炎との診断前ではあるものの同日をもって症状が固定したものと認めるのが相当である。 (イ) 原告Bは、上記症状固定日である平成14年7月8日当時50歳で、家事に従事していた(甲35、弁論の全趣旨)から、平成14年賃金センサスの女性労働者50歳全学歴平均である371万1800円の7割に相当する259万8260円を基礎に、就労可能年数を17年とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除し(ライプニッツ係数11.274 、これに上記労働能) 力喪失率を考慮して後遺障害逸失利益を算定すると、原告Bの後遺障害による逸失利益は2929万2783円となる。 371万1800円×0.7×11.274=2929万2783円 ウ 被告アダプトゲン製薬は、原告Bの逸失利益の算定には経営者としての実収入があり、また若年労働者ではないので実収入を基礎とすべきである旨主張するが、原告Bが経営者として現実に収入を得ていたとしても、上記の基礎収入でもって逸失利益を算出すること自体不合理ではないから、被告アダプトゲン製薬の同主張は採用できない。 (4) 後遺症慰謝料 原告らの上記後遺症の内容、程度に加え、常時酸素吸入を継続していなければ生命を維持できないこと、その他本件記録に顕れた一切の事情を考慮すると、後遺障害による慰謝料は、原告らそれぞれについて2000万円とするのが相当である。 (5) 弁護士費用 本件事案の性質、認容額等からすると、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cにおいて負担すべき弁護士費用は、原告Aについて200万円、原告Bについて492万円をもって相当と認める。 9 結論 以上の次第で、原告Aの請求は、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに対し、連帯して2200万円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却すべきである。 原告Bの請求は、被告アダプトゲン製薬、被告ASTC及び被告Cに対し、連帯して、5421万2783円及びこれに対する平成14年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却すべきである。 よって、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部 裁判長裁判官 内田計一 裁判官 安田大二郎 裁判官 高橋正典 (別紙)病名一覧表
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