判例全文 line
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【事件名】インターネットカフェ利用者情報開示請求事件
【年月日】平成19年11月29日
 東京地裁 平成19年(ワ)第4528号

判決


主文
1 被告は、原告らに対し、ヤフーファイナンス掲示板****(テレビ東京ブロードバンド)http://〈以下略〉に書き込まれた、別紙書込目録記載の各書込について、別紙発信者情報目録記載1及び2の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1、2項と同旨。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、インターネット上の掲示板に書き込まれた情報により名誉等の権利を侵害されたと主張する原告らが、端末機等を設置するインターネットカフェの運営者である被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、上記書込に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
1 前提事実(証拠、弁論の全趣旨により認定した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア 原告ら
(ア)原告テレビ東京ブロードバンド株式会社(以下「原告会社」という。)は、インターネット等の通信ネットワークを利用し、画像、映像、音楽、文字情報を加工・編集した制作物、音声、音楽、映像等のソフトウェアの企画、配信並びに販売等を目的とする株式会社であり、東京証券取引所マザーズ市場にその株式を上場する公開会社である(甲1、甲6、弁論の全趣旨)。
(イ)原告Y2(以下「原告Y2」という。)は、平成13年3月1日の原告会社の設立以降、原告会社の代表取締役社長の地位にある者である(甲1、6)。
イ 被告
 被告は、複合カフェ「スペースクリエイト自遊空間」(以下「本件複合カフェ」という。複合カフェとは、一般顧客を対象に、インターネットの利用や飲食のサービス等を提供するカフェをいう。)の経営等を目的とする株式会社であり、同カフェにおいて、会員登録した顧客に対して、インターネットに接続された端末機器を使用させるサービスを提供している(甲2の1、2、弁論の全趣旨)。
ウ ヤフー株式会社
 ヤフー株式会社は、ヤフーファイナンス掲示板という名称の電子掲示板を設置、管理、運営している株式会社である。ヤフーファイナス掲示板では、証券コード別に階層化され、分類された各掲示板の中にメッセージのタイトルの列が設けられ、メッセージのタイトルをクリックするとメッセージの内容を閲覧できる構造になっており、各掲示板は、不特定の利用者が書き込むことができる。
 ヤフーファイナンス掲示板上の****掲示板(以下「本件掲示板」という。)には、原告会社に関する掲示板が設置されている。
(2)事実経過等
ア 本件各書込
 氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)は平成18年11月16日午後5時4分ころ、本件掲示板上に、別紙書込目録の書込番号16640の「本件書込」欄に記載されたメッセージを、「テレビ東京ブロードバンド株主の皆様へ」というタイトルで書き込んだ(甲3、以下「本件第1書込」という。)。
 さらに、本件氏名不詳者は同月24日午前11時3分ころ、本件掲示板上に、別紙書込目録の書込番号16759の「本件書込」欄に記載されたメッセージを、「皆さん知っていますか?」というタイトルで書き込んだ(甲4、以下「本件第2書込」という。本件第1書込と本件第2書込を合わせて、以下、「本件各書込」という。)。
イ 本件訴訟に至る経緯
(ア)原告らは、平成18年12月28日、ヤフー株式会社を相手方として、法4条1項に基づき、本件各書込に係る各発信者情報の消去禁止並びにIPアドレス(インターネット上に接続された個々の電気通信設備を識別するために割り当てられた番号)及び書込日時の発信者情報の開示を求める仮処分を申し立てた(甲5の1、2)。
(イ)東京地方裁判所は、(ア)の申立を受け、平成19年1月22日、原告らの申立てを相当と認める旨の仮処分決定をした(甲8)。
 ヤフー株式会社は、同月30日、上記処分決定に基づき、原告らに対して、別紙書込目録中のIPアドレス欄及び同日時欄記載の情報を開示した(甲9)。
(ウ)その後、IPドメインの検索により、上記開示にかかるIPアドレスは同一であり、また、被告の管理するアドレスであることが判明した(甲10)。
ウ 被告のIPアドレスの特定
 上記IPアドレスが割り振られた端末機器は、被告が管理する本件複合カフェの店舗(以下「本件カフェ」という。)中に設置されたものであった(甲10、甲11、弁論の全趣旨)。
 被告は、具体的に誰がどの端末機器を用いたかまでは特定していないが、POSシステムにより、どの会員がどの端末機器の置かれたスペースを、何時の時点で利用していたかの記録を一定期間保存している(弁論の全趣旨)。
2 争点
 本件の争点は、原告らの発信者情報開示請求が法4条1項の発信者情報開示請求権の要件を充たすか否かであり、具体的には、次のとおりである。
(1)被告が保有、管理する端末機器、ルーター(異なる網間の中継・接続を行う通信機器)等の設備は、法2条2号にいう「特定電気通信設備」に当たるか。
(2)被告は、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に当たるか。
(3)被告が「発信者情報」を「保有」しているといえるか。
(4)本件各書込により原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」といえるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告が保有・管理する端末機器、ルーター等の設備は、法2条2号にいう「特定電気通信設備」に当たるか。)について
(原告らの主張)
 被告が保有及び管理する端末機器、交換機(ルーター等)及びケーブル等の設備は、発信者から不特定多数への情報の送信の用に供されるものであり、被告は、発信者に対し、それらの設備を用いてインターネットに接続するサービスを提供している。
 ルーターは、コンピュータ・ネットワークにおいて、異なる網間の中継・接続を行う通信機器であって、送信装置にあたり、発信者が端末機器に入力した情報はケーブル等を介してインターネットヘ接続されること等をあわせ考えると、端末機器、ルーター及びケーブルは法2条2号にいう「特定電気通信設備」に当たると解すべきである。
(被告の主張)
ア 法2条2号の「特定電気通信設備」については、逐条解説において、情報流通の起点となる情報媒体を含む設備であるサーバ(端末機器より送信された各情報を蓄積しておき、ウェブブラウザなどのクライアントソフトウェアの要求に応じて、インターネットなどのネットワークを通じて情報を送信する役割を果たす。)等が該当するとされている。
 被告が管理、保有するのはルーターやケーブルにすぎないところ、これらは中間接続機器にすぎず、入力された情報を記憶し、送信する設備ではないから、特定電気通信設備と解することはできない。
イ また、本件においてルーターは、経由プロバイダとの間での1対1の通信を媒介しているにすぎず、不特定の者によって受信されることを目的とする利用がされているとはいえないから、「特定電気通信設備」に該当しない。
 ルーター等が「特定電気通信設備」に該当するのであれば、家庭用ルーターを経由してインターネットに接続する一般のユーザーまで、「特定電気通信設備」の保有者になりかねない。
(2)争点(2)(被告は、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に当たるか。)について
(原告らの主張)
ア 法の適用対象
 法2条3号は「特定電気通信役務提供者」からインターネットカフェ運営者を除外するとは規定していないから、インターネットカフェ運営者であることのみをもって、「特定電気通信役務提供者」に該当しないと解する理由はない。
 本件発信者からヤフーファイナンス掲示板への情報送信は、被告のルーターを経由して送信されたこと、それが「特定電気通信」の一部であることは当事者間に争いがないのであって、かつ、被告が本件複合カフェの各顧客向けに端末機器、ルーター及びケーブルを保有、管理していることも当事者間に争いがないことからすれば、被告はその保有する特定電気通信設備を通信の用に供して、本件発信者(他人)のヤフーファイナンス掲示板への通信を媒介したということができ、「特定電気通信役務提供者」に該当するというべきである。
イ 電気通信事業法との関係
 総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課が平成17年8月18日に作成した「電気通信事業参入マニュアル[追補版]―届出等の要否に関する考え方及び事例―」(乙3。以下「電気通信事業参入マニュアル」という。)では、インターネットカフェの運営者は、「電気通信事業者」に該当せず、電気通信事業法の登録等は不要とされているが、上記マニュアルは、電気通信事業法上の登録及び届出の判断例を示したものであって、法の「特定電気通信役務提供者」に該当するか否かとは直接結びつくものではない。
ウ 特定電気通信役務提供者として被告のとりうる措置
 被告は、顧客である発信者に対し侵害情報を送信しないよう警告を発することができ、また、会員制のシステムを採用しているので、会員についての情報を開示することによって、発信者の特定に資する情報を開示することができる。
エ 法の立法趣旨
 仮にインターネットカフェ運営者を法の適用対象外とすれば、インターネットカフェを利用した権利侵害行為の事案について、発信者情報が一切開示されないことになり、発信者に対する責任の追及が著しく困難となり、発信者情報の開示を認めた法の立法趣旨に反する結果になる。
オ したがって、被告は、特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の用に供する法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当し、法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する。
(被告の主張)
ア 法の適用対象
 法2条3号が特定電気通信役務提供者として想定するのは、インターネットプロバイダやインターネットのウェブページ、電子掲示板を提供している者であり、インターネットカフェの運営者は含まれない。
 被告は、顧客に対し、経由プロバイダの提供するインターネット接続サービスを利用させているにすぎず、接続の有無、接続時間やアクセスログを管理していないから、特定電気通信役務提供者に該当しない。
イ 電気通信事業法との関係
 電気通信事業法では、インターネットカフェの通信システム全体において、他人の通信の媒介を行っているのは、端末機器を接続するネットワークを提供しているISP事業者(プロバイダ)等とされており、インターネットカフェの運営者は、「電気通信事業者」に該当せず、電気通信事業法の登録等は不要とされている。
 したがって、法2条3号の「特定電気通信役務提供者」の定義においてもインターネットカフェの運営者は除外するべきである。
ウ 特定電気通信役務提供者のとりうる措置
 法は、特定電気通信役務提供者について、自らが設置している特定電気通信設備から侵害情報を削除して流通を遮断する技術的な措置をとることができ(法3条1項参照)、かつ、同設備から発信者情報を入手することができること(法4条1項参照)を想定しているところ、被告は、インターネット接続サービス自体を行っておらず、自らの判断で、記録媒体から侵害情報を削除するなど情報送信を防止することはできないし、通信ログ、サーバーも管理していないから、発信者情報を人手することはできない。
 したがって、被告は特定電気通信役務提供者ということはできない。
エ 本法の立法経緯
 本法の成立過程では、画面上に連絡先等の表示がない場合、発信者情報が当該プロバイダ等に存在しない場合、プロバイダ等が日本国内に営業所を置いていない場合には、被害者救済が十分行われなくてもやむをえない旨の国会答弁がされたり、発信者情報の開示が濫用されることのないよう配慮し、発信者の表現の自由の確保並びに通信の秘密の保護に万全を期することとの附帯決議がされたりしたのであるから、法2条3号の拡張解釈には慎重であることが求められていたということができる。したがって、審議過程で対象となることが明確に議論されていなかったインターネットカフェの運営者にまで発信者情報の開示義務を負担させることは、相当ではない。
オ したがって、被告は、「他人の通信を媒介」しておらず、また、「その他被告管理・保有の機器を他人の通信の用にも供」していないから、被告は「特定電気通信役務提供者」及び「開示関係役務提供者」に該当せず、法4条1項に基づく発信者情報の開示義務を負わない。
(3)争点(3)(被告が「発信者情報」を「保有」しているといえるか。)について
(原告らの主張)
ア 「発信者情報」とは、氏名、住所等侵害情報の発信者の特定に資する情報であって(法4条1項かっこ書き)、情報の取得目的によって左右されるものではなく、発信者の特定の方法はアクセスログに限定されない。
 被告は、店舗を利用する顧客全員について身分を確認のうえ、会員登録を行い、会員のみがインターネットの利用ができるようにしており、端末機器、店舗、書込日時等から本件発信者を特定し、発信者情報を取得することが物理的に可能である。
イ 発信者情報の「保有」とは、法律上、事実上自己の支配下に入っている状態をいうのであり、保有の形は問わないのであるから、被告は発信者情報を保有しているというべきである。
(被告の主張)
ア 本件第1書込及び本件第2書込の書込日時において、重複して該当店舗ないし該当端末機器を利用していた顧客にかかわる情報は、あくまでも被告が独自に収集した顧客情報にすぎず、「発信者情報」に該当しない。
イ プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインによれば、発信者情報が体系的に保管されておらず、プロバイダ等がその存在を把握することができない場合には、発信者情報を保有するとはいえないとされている(乙5)。
 被告は単に顧客管理の目的で顧客の住所、氏名を取得しており、開示関係役務提供者に該当しないことを前提に事業を展開しているものであって、開示請求に備えて発信者情報を体系的に管理するものではないから、発信者情報を保有しているとはいえない。
(4)争点(4)(本件各書込について、原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」と認められるか。)について
(原告らの主張)
 本件各書込は、原告Y2に関して書かれたものであるが、原告Y2の名誉を毀損するとともに原告会社の名誉も毀損し、かつ、原告Y2を含め原告会社役員、従業員の職務遂行に障害が生じる結果、原告会社の業務に支障が生じるおそれが高い。
 また、本件各書込の内容には公益目的は存在せず、また、@原告Y2が、エフエムウェーブ社員のほとんどを不当に解雇したという事実はないこと、A原告らが人件費の付け替えを行ったという事実は存在しないこと、B原告Y2が、下請代金支払遅延防止法に抵触する外注費のカットを行っているという事実は存在しないこと、C原告Y2が女を囲う行為を行ったという事実は存在しないこと、D原告Y2が、原告会社の上場に際し、外部の人と組んでインサイダー取引を行ったという事実は存在しないことからすると、本件各書込の内容が真実でないことも明らかであるし、発信者が真実と信じたことに相当な理由もない。
(被告の主張)
 本件各書込は、社会的に大きな影響力を有する原告会社の代表取締役の活動を批判ないし評価する資料として、大規模な不当解雇、人件費付け替え等は当然のこと、女性問題についても事実の公共性が認められる可能性は否定できない。
 事実の真実性についても、被告において真実でないことの確信を抱くことができるものではなく、原告らの証明が十分であるとは言い難い。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告が保有、管理する端末機器、ルーター等の設備は「特定電気通信設備」に当たるか)について
(1)前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告店舗
 被告は、一般顧客を対象に、インターネットやソフトの利用をさせるサービス、漫画や雑誌を閲覧させたり、テレビ等を視聴させたりするサービス、飲食を提供するサービス等の各種サービスの全部ないし一部を提供する複合カフェの店舗展開を事業として行っている者である(甲2の2)。
 被告は、本件複合カフェの各店舗において、端末機器、ルーター、ケーブルを保有、管理し、顧客に対し、インターネットに接続された端末機器を使用させている(甲2の2)。
イ 発信情報の伝達経路
(ア)掲示板の情報は、発信者によって端末機器で入力、発信され、各端末機器に接続されたルーターを通じ、経由プロバイダを介して、インターネットに接続され、ウェブサーバ上の記録媒体に情報が入力されることによって、当該情報はインターネット上で閲覧可能になる(弁論の全趣旨)。
(イ)被告が保有、管理する各端末機器から発信された情報は、被告の保有、管理するルーターから光通信により経由プロバイダである株式会社アイ・ピー・レボリューション(以下「IPレボリューション」という。)のルーターに転送され、IPレボリューションのサーバを通じて、インターネットのネットワークに接続される(甲10、弁論の全趣旨)。そして、当該情報はウェブサーバ上の記録媒体に入力されることにより、インターネット上で、不特定多数の者から閲覧が可能になる。
ウ 本件各書込の伝達経路
 本件各書込も、被告が保有、管理する端末機器を用いて惰報が入力され、上記イ(イ)のような経路をたどって、本件掲示板への情報送信が行われた。
(2)そこで、被告が保有・管理する端末機器、ルーター等の設備が、法2条2号にいう「特定電気通信設備」に当たるかについて検討する。
 特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいうところ、本件各書込の送信は、発信者からウェブサーバに情報を送信し、ウェブサーバから不特定の者によって情報が受信されることを目的とする電気通信であるから、法2条1号の「特定電気通信」に該当する(被告も、本件掲示板への情報送信が、「特定電気通信」の一部であることは争うものではない。)。この場合、発信者からウェブサーバヘの情報の送信、ウェブサーバから不特定の者による情報の受信は、それぞれ独立の通信として意味を持つものではなく、発信から受信までの一連の通信過程があって始めて意味をもつものであるから、全体として一個の通信と見るのが相当である。
 そして、「特定電気通信設備」とは、特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法2条2号に規定する電気通信設備をいう。)とされるところ(法2条2号)、上記認定のとおり、端末機器、ルーター等が本件各書込にかかる電気通信において、不特定多数の者に対する情報の送信に不可欠の一部分として重要な機能を有していること、電気通信事業法に規定する電気通信設備には、電気通信を行うための機械のみでなく、器具、線路その他の電気的設備を含むとされていることからすると、本件発信者が本件各書込を行う際に用いた電気的設備である端末機器、ルーター等の通信装置も、「特定電気通信の用に供される電気通信設備」に該当するものと解するべきである。
 法を所管する総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課が、「特定電気通信設備」は、サーバのような情報の記録媒体を含む設備に限定されるわけではなく、例えば、端末機器、ルーター、ケーブルであっても、「電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備」として、「特定電気通信設備」に該当しうる旨の回答(甲22)をするのも上記解釈に沿うものと解される。
(3)ア この点につき、被告は、法2条2号の「特定電気通信設備」とは、ウェブサーバやストリームサーバ等、入力された情報を記憶し送信する設備を想定しており、被告が保有ないし管理しているルーター等は記録媒体ではないのだから、特定電気通信設備に当たらないと主張する。
 そして、平成14年5月に総務省の発行した法の逐条解説には、「特定電気通信の用に供される電気通信設備とは、具体的には、蓄積型の特定電気通信において用いられるウェブサーバや非蓄積型の特定電気通信において用いられるストリームサーバ等が該当する」旨の記載が存することが認められる(乙1)。
 しかしながら、上記逐条解説も、サーバを電気通信設備の具体例の一つとして挙げているに過ぎず、法2条2号には、特定電気通信設備を記録媒体を持つ設備に限るとの限定はされていないのであるから、ルーター等も情報の送信に不可欠な一連の設備の重要な一部分として、特定電気通信設備に該当すると解すべきである。
イ また、被告は、ルーター等は、発信者と経由プロバイダとの間での1対1の通信を媒介する手段として用いられているにすぎず、法2条2号が予定する「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)」の用に供されていると解することはできないと主張する。
 しかしながら、本件各書込は、経由プロバイダを通じて、最終的には不特定多数の者によって受信されることを目的としていることからすると、本件発信者からの発信は、本件掲示板を閲覧する不特定多数の者へ向けられた情報送信として、全体として一個の通信と評価するのが相当であり、被告の管理、保有するルーター等は、その送信に不可欠な設備であるから、特定電気通信設備に該当しないとする被告の主張は、採用することができない。
 さらに、被告は、ルーター等が「特定電気通信設備」に該当するのであれば、家庭用ルーターを経由してインターネットに接続する一般のユーザーまで、「特定電気通信設備」の保有者になりかねない旨主張する。
 しかしながら、一般のユーザーは、後記のとおり特定電気通信設備を他人の通信の用に定型的、継続的に運用している者とは言えず、「特定電気通信役務提供者」の要件を満たさないと解されるから、ルーター等を「特定電気通信設備」に含めると、法の趣旨を拡張し過ぎることになるとの被告の主張は直ちに採用することができない。
(4)以上より、被告が保有、管理する端末機器、ルーター等の設備は「特定電気通信設備」に当たると解するのが相当である。
2 争点(2)(被告は「特定電気通信役務提供者」に当たるか)について
(1)ア 「特定電気通信役務提供者」とは、特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう(法2条3号)。そして、被告が保有、管理する端末機器、ルーター等の設備が「特定電気通信設備」に該当すると解されることは前記1に説示のとおりであり、被告は一般顧客を対象にインターネット等を利用させるサービスを行って、この設備を、他人の通信の用に供する役務を提供している。したがって、被告は、特定電気通信役務提供者に該当すると認められる。
 なお、「特定電気通信設備を他人の通信の用に供する」とは、特定電気通信設備を他人の通信のために「運用」することを言うと解されていること(乙1)、特定電気通信役務提供者の例として、ウェブホスティングを行う者や電子掲示板の管理者などが挙げられていること(乙1)などに照らせば、その提供方法は、個人的、一時的なものではなく、ある程度定型的、継続的なものが想定されていると解することができる。この点につき、被告におけるルーター等の設備の他人の通信のためにする提供行為は、前記のとおり営業として行われていたものであり、個人的、一時的なものではなく、定型的、継続的なものであったことからすれば、少なくとも、被告は、「特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」として、「特定電気通信役務提供者」に該当すると解される。
イ また、法4条1項は、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し」て発信者情報の開示請求を認めている(法4条1項)。
 そして、この法4条1項の規定の趣旨は、@特定電気通信による情報発信は、社会的・財政的に制約が少ないために誰しもが反復継続して情報の発信を行うことが可能であり、また、不特定の者に対して情報発信が行われ、しかも高度の伝播性がある点で、他の情報流通手段と比較すると、他人の権利利益を侵害する情報の発信が容易であり、一旦被害が生じた場合には、被害が際限なく拡大していくという特質を有していること、A特定電気通信においては、匿名あるいは仮名による情報発信が可能であり、他人の権利利益を侵害するような情報発信が匿名あるいは仮名で行われた場合には、加害者を特定して責任追及をすることができないことから、被害の回復が極めて困難であること、B一方、特定電気通信においては、加害者と被害者の間に立って情報等の媒介を行っている特定電気通信役務提供者が存在しており、この特定電気通信役務提供者が発信者の特定に資する情報を保有している可能性が高く、加害者に関する情報を類型的に保有している者を通じれば、加害者に関する情報を取得できる場合があることから、一定の要件のもと、正当業務行為として、特定電気通信役務提供者に科せられた守秘義務を解除し、自己の権利を侵害されたとする者が発信者情報の開示を請求することができることを規定したものであるとされている(乙1)。
ウ 以上の文言及び制度趣旨に照らせば、@特定電気通信設備を他人の通信の利用に提供する目的で、定型的、継続的に運用している者であって、A発信者の特定に資する情報を類型的に保有している者は、少なくとも、法4条1項にいう「特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に当たると解するのが相当である(なお、被告は、ルーター等が「特定電気通信設備」に該当するのであれば、家庭用ルーターを経由してインターネットに接続する一般のユーザーまで、「特定電気通信役務提供者」になりかねず、法の趣旨を拡張し過ぎる旨指摘するが、被告は、単なる一般ユーザーではないのであるから、立場を異にし、被告の主張は採用することができない。)。
エ そして、前提事実、前記認定事実(1(2))、証拠(甲2の2、甲11)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、@店舗を利用する顧客全員につき身分を確認のうえ会員登録し、会員のみがインターネットを利用することができるようにしていること、A店舗を利用する顧客に対し、使用可能な端末機器を指定して、端末機器を使用させていること、B会員登録を通じて取得した会員の個人情報については、当該会員の個人情報と会員番号が連動したデータベースを作成し、被告本社のサーバーが管理していることが認められるから、被告は、@特定電気通信設備を他人の通信の利用に提供する目的で、定型的、継続的に運用している者であって、A発信者の特定に資する情報を類型的に保有している者ということができ、法4条1項にいう「特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)と解するのが相当である。
(2)被告の主張について
ア 法の適用対象について
 被告は、法2条3号が特定電気通信役務提供者として想定するのはインターネットプロバイダやインターネットのウェブページ、電子掲示板を提供している者であり、インターネットカフェを含まないものであって、被告は、顧客に対し、経由プロバイダの提供するインターネット接続サービスを利用させているにすぎず、接続の有無や接続時間を把握する必要もなく、アクセスログも管理していないと主張する。
 確かに、法2条3号が特定電気通信役務提供者として想定していた典型例は、被告の主張するインターネットプロバイダ等であったと思われる。しかしながら、法2条3号は、文言上、特定電気通信役務提供者の定義につき、被告主張のような限定を付していないこと、(1)に説示の法4条1項の趣旨等に照らせば、「特定電気通信役務提供者」の定義を、被告の主張のようにインターネットプロバイダに限ることは合理的理由がないと考えられることからすれば、被告の主張は採用することができない。
イ 電気通信事業法との関係について
 また、被告は、電気通信事業法では、インターネットカフェの運営者は、電気通信事業者に該当せず、電気通信事業法の登録等は不要とされているから、法2条3号の特定電気通信役務提供者の定義においてもインターネットカフェの運営者は除外するべきである旨主張する。
 確かに、前記電気通信事業参入マニュアルによれば、インターネットカフェにおいて他人の通信の媒介を行っているのは、端末機器を接続するネットワークシステムを提供しているISP事業者(プロバイダ)等であり、端末機器を他人の通信の用に供していることのみをもって他人の通信を媒介しているとは判断されないから、インターネットカフェの運営者は、「他人の通信を媒介せず、かつ、電気通信回線設備を設置しない」場合に該当するとして、登録及び届出が不要な電気通信事業に該当するとの見解が示されている(乙3)。
 しかしながら、電気通信事業法2条5号の定義する電気通信事業者と法の規定する特定電気通信役務提供者とは、それぞれの規定の目的に照らして、同一の意味であると解さなければならない必然性があるとまではいえない。現に法2条3号においては、企業、大学等は、特定電気通信設備を設置して、企業の従業員、大学の職員、学生に外部の者との通信のために当該設備を使用させている場合、特定電気通信役務提供者になりうると解されているが(乙1)、電気通信事業法上の登録及び届出義務は課せられていないと解されるし、法が当然適用を予定しているウェブホスティング等を行っている者や自由に第三者が書込のできる電子掲示板を運用している者(乙1)についても、電気通信事業法上、登録及び届出義務は課されないと解される(乙3参照)。
 したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。
ウ 特定電気通信役務提供者のとりうる措置について
(ア)被告は、法は、特定電気通信役務提供者につき、自らが設置する特定電気通信設備から侵害情報を削除して流通を遮断する技術的な措置をとることができ、かつ同設備から発信者情報を入手することができることを想定しているところ、被告は、インターネット接続サービス自体を行っておらず、自らの判断で、記録媒体から侵害情報を削除するなど情報送信を防止することはできないし、通信ログ、サーバを管理していないから、発信者情報を入手することはできないと主張する。
(イ)なるほど、特定電気通信役務提供者の損害賠償義務の制限を規定した法3条には、損害賠償義務を負うための要件の一つとして、開示関係役務提供者が権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能であることを掲げており、サーバを保有、管理するプロバイダが典型的にこの要件に該当するということができる。
 しかしながら、法2条3号で定義される特定電気通信役務提供者にこのような限定が付されていないことは文言上明らかであって、法3条が適用の要件として掲げる事柄を法2条3号の「特定電気通信役務提供者」の定義の要件とすることはできない。
(ウ)また、法2条3号の特定電気通信役務提供者の定義においては、発信者情報の取得の方法について、何らの制限が付されていないから、通信ログ、サーバを管理するなどして特定電気通信設備それ自体によって発信者情報を取得できることが「特定電気通信役務提供者」の要件ということもできない。
(エ)したがって、この点に関する被告の主張も採用することができない。
エ 本法の立法経緯について
 被告は、法の成立過程における国会答弁や附帯決議の趣旨に照らし、法の審議過程で対象となることが明確に議論されていなかったインターネットカフェの運営者にまで発信者情報の開示義務を負担させるのは、相当ではないと主張する。
 しかしながら、被告は、正に「特定電気通信の用に供される電気通信設備を他人の通信の用に供している者」であって、法律の文言上、不当な拡張解釈に当たるとは考えられない。
 また、特定電気通信による情報の流通によって権利侵害を受けた者に対し、当該情報の発信者の特定に資する情報の開示を受ける権利を規定した法の趣旨((1)イ)に鑑みると、インターネットカフェが法の審議過程で明確に議論されていなかったとしても、インターネットカフェの運営者に対し、発信者情報の開示義務を認める旨解釈することは何ら不合理ではないと解されるし、かえって、インターネットカフェを利用して情報を発信すれば、発信者情報の開示を免れると解することは、特定電気通信を利用した匿名あるいは仮名による明らかな権利侵害に対し、被害者の救済の道を開こうとした法の趣旨に反することになり、相当ではない。
 もとより、発信者の表現の自由や通信の秘密には十分な配慮が必要である。しかしながら、このような配慮は、基本的には後記の権利侵害要件(「権利が侵害されたことが明らかである」との要件)と、開示を受けるべき正当な理由の要件の検討においてすることが想定されているというべきであって、このような要件に該当する発信者は、発信者情報の開示を受けてもやむを得ない立場にあるとするのが法の趣旨と解される。したがって、被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(被告が「発信者情報」を「保有」しているといえるか。)について
(1)ア 法4条1項の「発信者情報」とは、氏名、住所その他侵害情報の発信者の特定に資する情報であって、総務省令で定めるものとされているところ、法は、情報の取得の目的や取得の方法、保有の形態によって、発信者情報に当たるか否かを区別してない。したがって、法律上、事実上、情報が自己の支配下に入っていれば、発信者情報を保有していると解するのが相当である。この点については、総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課も同旨の回答を示しているところである(甲22)。
イ そして、前提事実、前記認定事実(1(1)、2(1)エ)、証拠(甲2の2、3、4 、9、10、11)及び弁論の全趣旨によれば、@本件各書込の投稿者のIDはいずれも「media_ombudsman」として同一であり、また、本件各書込の書込内容には、いずれも「メディア業界オンブズマン」との記載があること、A本件発信者は、被告の管理する同一のIPアドレスを使用してインターネットに接続して本件各書込を行っていることが認められる。これらの事実に加え、本件各書込の各書込日時において、重複して被告の該当店舗を利用していた顧客が1名であること(弁論の全趣旨)をあわせ考えれば、本件各書込日時に重複して被告の該当店舗を利用していた顧客が、本件各書込を行ったと推認することができる。
 したがって、本件第1及び第2の各書込の各書込日時において重複して該当店舗を利用した顧客がとりも直さず本件第1及び第2の各書込をした発信者であり、その顧客について被告の保有する住所、氏名の情報は、侵害情報の発信者の特定に資する情報として、発信者情報に当たると解するのが相当である。
(2)被告の主張について
ア 被告は、通信ログ(アクセスログ)を管理しておらず、本件各書込の書込日時において重複して本件カフェを利用していた顧客に関わる情報は、発信者の書込とは無関係に被告が独自に収集した顧客情報であり、発信者情報ではないと主張する。
 しかしながら、前示のとおり、発信者情報について、侵害情報の伝達システムと直接関連し、送信自体の記録に相当するような情報に限定して解しなければならない根拠はないのであって、通信ログ(アクセスログ)を管理していないからといって、発信者情報にあたらないということはできない。
イ また、被告は、開示請求に備えて発信者情報を体系的に管理するものではないと主張する。
 しかしながら、開示請求に備えていたか否か、体系的に管理されていたかで、開示義務の存否が左右されるものではない。そして、前記2(1)エに認定のとおり、被告は、@店舗を利用する顧客全員につき身分を確認のうえ会員登録し、会員のみがインターネットを利用することができるようにしていること、A店舗を利用する顧客に対し、使用可能な端末機器を指定して、端末機器を使用させていること、B会員登録を通じて取得した会員の個人情報については、当該会員の個人情報と会員番号が運動したデータベースを作成し、被告本社のサーバーが管理していることに照らせば、被告は、発信者に関する情報を保有して、管理しているものと認められる。
ウ したがって、被告の主張は採用することができない。
4 争点(4)(本件各書込について、原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」と認められるか。)について
(1)法4条1項1号は「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に開示請求を認めている(以下、この要件を「権利侵害要件」という。)。
 権利侵害要件は、発信者の有するプライバシー及び表現の自由と被害者の権利回復の必要性との調和を図るために、権利の侵害が「明らか」であることを要求したことに意味があるものと解されるから、請求者は、当該侵害情報により、その社会的評価が低下した等の権利侵害に係る客観的事実はもとより、その侵害行為の違法性を阻却する事由が存在しないことについても主張、立証する必要があると解するのが相当である。
(2)本件第1書込について
ア 名誉毀損について
 名誉毀損行為による権利侵害については、その行為が、@公共の利害に関する事実に係り、Aその目的が専ら公益を図ることにあった場合に、B事実を摘示しての名誉毀損においては、摘示された事実の重要な部分について真実であることの証明があったときには違法性がなく、仮に摘示された事実が真実でなくとも、行為者において真実と信ずるについて相当の理由がある場合には故意・過失がなく、不法行為は成立しないとされ、また、意見ないし論評の表明による名誉毀損においては、意見ないし論評の基礎となった事実の重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、その行為の違法性が阻却され、相当の理由がある場合には故意・過失がなく、不法行為は成立しないものと解される。
 そして、発信者情報の開示を請求する者は、権利が侵害されたことが明らかであることを主張、立証する必要があるから、情報の流通により請求者の社会的評価が低下したことに加え、違法行為の成立を阻却する事由の存在しないことを主張、立証する必要があると解するのが相当である。
 そして、その主張、立証責任の分担にあたっては、原告が事実の反真実性を主張、立証することはさほど困難ではないと考えられるのに対し、氏名等も分からない発信者に事実を真実と信じたことに相当の理由がなかったことを主張、立証するのは、困難と考えられること、一方、被告は、法4条2項により、発信者情報を開示するか否かについて、発信者の意見を聞くことができる立場にあることを考えると、相当の理由の存在についての主張、立証責任を負わせても酷とは言えないことに照らせば、違法性阻却事由の不存在は原告が、責任阻却事由の存在は被告が負うと解するのが相当である。
(ア)原告らの社会的評価の低下の有無
 本件第1書込は、別紙書込目録の書込番号16640のとおりであり、@原告Y2が、重大な背任行為を犯していること、A同人が、FM放送局エフエムインターウェーブ株式会社(以下「エフエムインターウェーブ」という。)の株式を不相当な価額で購入し、原告会社に無駄な支出をさせ、原告会社の株価を下落させたこと、Bエフエムインターウェーブを黒字化に見せかけるため、同社と原告会社の間で人件費の付け替えを行い、原告会社に不正な損失を与えていること、Cエフエムインターウェーブの放送原価を一律にカットし、違法に外注のカットを行っていること、D外部の人間と組んでインサイダー取引を行い、私腹を肥やしている等の事実を摘示するものと認められる(甲3、弁論の全趣旨)。
 これらは、上記書込を閲覧する一般人に対し、原告Y2が、不正行為によって原告会社に損失を与え、自己の利益を図っているとの印象を与えるから、本件第1書込をインターネットの掲示板に書き込むことは、原告Y2の社会的評価を低下させるものと認めることができる。
 そして、前記第2の1(1)ウのとおり、本件掲示板は専ら原告会社に関する情報が書き込まれる掲示板であることをあわせ考えれば、本件第1書込は、上記書込を閲覧する一般人に対し、原告会社自体が、不正行為により経営に問題がある会社であるとの印象を与えるものであり、原告会社の社会的評価をも低下させるものと認めることができる。
(イ)公共性、公益目的の不存在について
 上記のとおり、原告会社は、インターネット等の通信ネットワークを利用したソフトウェアの企画、配信、販売等を行う会社であるところ、そのような会社において、重大な背任行為が行われているとの情報は、公共の利害に関する事実とも考えられ、公共性がないと認めることはできない。
 また、「メディア業界オンブズマン」(甲3)として、原告会社の株主に対する告発を標榜していること、本件掲示板の性質上、原告会社の経営者である原告Y2の資質等に関することも投資判断の材料になりうることからすれば、本件第1書込が専ら公益を図る目的であったとの可能性も否定することはできず、公益目的がないと認めることもできない。
(ウ)真実でないこと等について
 証拠(甲6、7)によれば、(ア)に記載した事実が、いずれも真実でないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 そして、本件第1書込には特段の証拠が示されているわけではないことに鑑みれば、本件氏名不詳者において、本件第1書込の内容を真実と信じたことについて、相当の理由が存したと認めることもできない。
(エ)したがって、本件第1書込により、原告らの権利が侵害されたことが明らかというべきである。
イ 業務妨害について
 前記のように、原告らの社会的評価を低下させる事実が、原告会社の株主を名宛人として、インターネットの掲示板に発信されていることに照らせば、本件第1書込は、原告会社に対する業務妨害にあたるということができる。
(3)本件第2書込について
ア 名誉毀損について
(ア)原告らの社会的評価の低下の有無
 本件第2書込は、別紙書込目録の書込番号16759のとおりであり、@原告Y2がエフエムインターウェーブの社長も兼任しており、原告会社の資金から数億の無駄な費用を出そうとしていること、Aエフエムインターウェーブでは、原告Y2の指示で、人件費の付け替えが行われていること、B原告Y2に騙されて、原告会社の社内が殺伐としていること、C原告Y2が女を囲い、外部の人間と組んでインサイダー取引を行っている等の事実を摘示するものと認められる(甲4、弁論の全趣旨)。
 これらは、上記書込を閲覧する一般人に対し、原告Y2が、不正行為によって、原告会社に損失を与え、自己の利益を図っており、加えて、代表取締役にふさわしくないとの印象を与えるものであり、原告Y2の社会的評価を低下させるものと認めることができる。
 また、原告会社が上記のような原告Y2を代表取締役としており、上記の不正行為に利用されている事実を摘示することによって、原告会社自体の社会的評価をも低下させるものと認めることができる。
(イ)公共性、公益目的の不存在について
 本件第2書込中、原告Y2の違法行為を指摘した部分については、本件第1書込と同様、公共性、公益目的がないと認めることはできない。
 しかしながら、原告Y2が女を囲っているとの事実については、原告Y2の私的生活に関わる内容であって、公共性、公益目的がないと認めるのが相当である。
(ウ)真実でないこと等について
 証拠(甲6、7)によれば、(ア)に記載した事実が、いずれも真実でないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 そして、本件第2書込にも特段の証拠が示されているわけではないことに鑑みれば、本件氏名不詳者において、本件第2書込の内容を真実と信じたことについて、相当の理由が存したと認めることもできない。
(エ)したがって、本件第2書込により、原告らの権利が侵害されたことが明らかというべきである。
イ 業務妨害について
 本件第2書込についても、原告らの社会的評価を低下させる事実が、不特定多数の者に宛てて発信され、掲示板に掲示されているのであり、第2書込も、第1書込と同様、原告会社に対する業務妨害にあたると解すべきである。
(4)以上より、本件各書込は、いずれも原告らの名誉を毀損し、業務を妨害することが明らかであって、法4条1項1号所定の権利侵害要件を満たすというべきである。
5 情報開示の必要性(法4条1項2号)について
 原告らは、本件氏名不詳者に対し不法行為に基づく損害賠償等を求めるため、本件発信者情報の開示を求めているものと認めることができる(甲6)。
 したがって、原告らには、発信者情報の開示を求める正当な理由があると認められる。
6 以上によれば、法4条1項に基づく開示請求権の要件はいずれも充足しているものと認められるから、被告は、原告らに対し、主文第1項掲記の発信者情報の開示義務を負うと解すべきである。
第4 結論
 よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、仮執行宣言については、財産権上の請求とは言えないから、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所


別紙 書込目録〈省略〉

別紙 発信者情報目録
1 発信者その他侵害情報の送信に係る者(別紙書込目録記載の書込番号16640及び書込番号16759の各書込日時において、IPアドレス〔〈省略〉〕が割り振られた端末機器を管理する被告店舗を重複して利用していた者)の氏名又は名称
2 発信者その他侵害情報の送信に係る者(別紙書込目録記載の書込番号16640及び書込番号16759の各書込日時において、IPアドレス〔〈省略〉〕が割り振られた端末機器を管理する被告店舗を重複して利用していた者)の住所
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