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【事件名】商標“新しいタイプの居酒屋”審決取消事件(2) 【年月日】平成19年11月22日 知財高裁 平成19年(行ケ)第10127号 審決取消請求事件 (口頭弁論終結日 平成19年11月1日) 判決 原告 株式会社モンテローザ 訴訟代理人弁理士 中畑孝 被告 特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人 鈴木雅也 同 鈴木新五 同 内山進 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が不服2006−2338号事件について平成19年2月26日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、「白木屋」、「笑笑」、「魚民」等の名称で居酒屋チェーンを営む原告が、「新しいタイプの居酒屋」とする後記商標の出願をしたところ、特許庁から拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、同庁から請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた事案である。 争点は、原告が本件商標を永年使用した結果需要者が原告の業務に係る役務であることを認識するに至ったか(商標法3条2項、特別顕著性)である。 第3 当事者の主張 1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は、平成16年8月19日、下記内容の商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(商願2004−76598号)をしたが、特許庁から拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は、同請求を不服2006−2338号事件として審理した上、平成19年2月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成19年3月13日原告に送達された。 記 (商標) 新しいタイプの居酒屋 (指定役務) 第43類 「飲食物の提供」 (2) 審決の内容 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。その理由の要点は、@本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識できない商標であるから商標法(以下「法」という。)3条1項6号に該当する、A本願商標が、その指定役務に使用され請求人の業務に係るものとして取引者・需要者間に広く認識されるに至っているとは認められないから法3条2項には該当しない、等としたものである。 (3) 審決の取消事由 しかしながら、本願商標は、以下に述べるとおり、原告による使用の結果法3条2項に規定する「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」商標に至ったものであるから、審決は違法として取り消されるべきである。 ア 原告は、昭和58年5月23日に創業し、昭和58年6月1日に居酒屋「白木屋」中野南口駅前店を1号店としてオープン以来、居酒屋を中心としたチェーン店展開を進め、店舗数、売上高(1300億円以上)は、いずれも居酒屋業界のトップである。直営の居酒屋店舗は、平成19年6月30日現在、「白木屋」、「笑笑」、「魚民」、「月の宴」、「北海道魚萬」、「暖暖」、「鶏のGeorge」、「日本や」、「かみふうせん」、「うさぎの宴」、「月の花」、「くろ○」、「めちゃんこ」、「ゴルトンカフェ」、「和吉」、「千年の宴」、「焼蔵」、「黄金虫」、「福福屋」、「kocoroya」が全国展開しており、その数は1200以上(居酒屋以外の国内飲食店と国外飲食店を除く。)になる。 イ 本願商標は、前記のとおり方形に赤地に白抜きで「新しいタイプの居酒屋」と表示したもので、色彩図柄と文字との結合商標であるところ、本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との用語は、場末の酒飲みのための酒場、赤提灯と暖簾という旧来型の居酒屋が抱かれていたイメージを一新し、若者や家族が普通のレストランの感覚で利用できるような当世風居酒屋をイメージさせるキャッチコピー商標(キャッチフレーズ商標)として、原告が最初に用いたものである。 すなわち、原告がチェーン展開する居酒屋のうち、中枢店舗(中枢業態)は「白木屋」と「笑笑」である(平成19年6月30日現在、「白木屋」の店舗数は344店舗、「笑笑」の店舗数は398店舗)ところ、このうち73店舗の「白木屋」(甲27、28)、374店舗の「笑笑」(甲29、30)で本件商標を使用しており、その合計は447店舗である。なお、これ以外に「日本や」においても本願商標を使用している。ちなみに、本願商標の使用期間が長い店舗は、「白木屋」で約15年、「笑笑」で約7年であり、また、平成18年3月8日現在における本件商標の使用地域は、「白木屋」で30都道府県、「笑笑」で40都道府県にわたっている。 ウ 本願商標を使用する店舗では、例外なく、ビルフロアー案内板、袖看板、側面看板、置き看板の4種類の赤看板を設置している。総看板数は少なくとも1788枚(447×4)以上あり、一店舗で5枚以上の看板を設置している店舗があることを考慮すると、その総看板数は2000枚は下らない。この看板の種類は全店舗において共通し、いずれも表示態様は赤地に白抜きで「新しいタイプの居酒屋」と表示した赤看板である。また、上記4種類の看板中、袖看板と壁面看板の大きさは、全店舗例外なく3mないし5mの長さを有する大形看板であり、夜間は点灯表示している。「白木屋」と「笑笑」の両店は広範な地域に展開しており、その年間総売上高は500億円以上、年間総来店客数は延べ8000万人余に達しているところ、これら来店客は、店舗外観を埋めるかのように設置された上記4種類の大形看板の展開に長期間継続して繰り返し接して視覚に訴えられ、体感している。 これに加えて、本願商標は、チラシ、各店舗においてサービス提供に用いる備品、著名な俳優であるAを起用したテレビコマーシャル(日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、読売テレビ、関西テレビ、中部テレビ、東海テレビ、メ〜テレ等)の大規模宣伝広告、原告のウェブサイトにおいて使用されている。 エ このように、本願商標は、入店者に必ず目に触れる居酒屋479店舗の置き看板や袖看板の表示を通じて、また、チラシ、各店舗においてサービス提供に用いる備品、著名な俳優であるAを起用した多数のテレビ局におけるテレビコマーシャル等を通じて、長年にわたり大規模に使用されており、その結果、称呼、外観、観念のいずれにおいても、既に高度な著名性を確保し、識別力を獲得しているものである。 さらにいうならば、「白木屋」・「笑笑」をハウスマークとし、これに本願商標を並列使用する使用態様が重なり、現在では「赤地に白抜き」表示の「新しいタイプの居酒屋」と言えば、事実上、先ず「白木屋」・「笑笑」を出所主体として想定し、ひいては事業母体である「モンテローザ」(原告)を一定の出所主体として直感する高度な著名性を確保している。 すなわち、「白木屋」・「笑笑」は原告の中核店、主力店を成しており、法律上の経営母体はモンテローザであるが、現在では「モンテローザ」を知らない者がいても、「白木屋」「笑笑」を知らない者はいないという程、「白木屋」「笑笑」に著名ブランドとしての名声を得ており、それが事実上の事業主体ではないかとの認識が定着している。 オ 以上に対し、被告は、本願商標が「白木屋」、「笑笑」の商標とは別個独立の商標を構成し、本願商標の使用形態が法2条3項の使用に当たることを争わないにもかかわらず、本願商標には識別性がないと主張する。しかし、本願商標は、「白木屋」、「笑笑」の商標とは文字の大きさ、画線の太さ、書体等が顕著に異なり、互いに別個独立のものとして弁別できる商標を構成しており、これらの商標は互いの一部を構成するものではなく、宣伝効果を上げる手法として2個の商標を並列表示する使用態様をもって独立使用しているものである。したがって、両商標は、このような独立使用の結果、それぞれ識別力が発生していると考えるべきである。 カ また被告は、本願商標がキャッチフレーズとして認識されるとか、「新しいタイプ」という文字を用いたキャッチフレーズの使用例が多数あるとして、本願商標の識別性を否定するが、キャッチフレーズないしキャッチフレーズ的商標であっても商標登録された例は多数存在するし、本願商標は、方形に赤地に白抜きで「新しいタイプの居酒屋」と表示した色彩図柄と文字の結合商標であり、単なるキャッチフレーズ自体に独占権を求めているものではない。 仮に、文字商標としての「新しいタイプの居酒屋」に自他役務の識別力がないとしても、色彩図柄との組合せから成る本願商標はこれと全く別異のものであり、前記のように長期間にわたり視覚に訴えられ、体感された結果、「赤地に白抜き」の「新しいタイプの居酒屋」といえば、「白木屋」、「笑笑」を含めた全体のものとして、原告を出所主体として直感する程度の高度な著名性が確保されており、独自の識別力が獲得されているのである。そうすると、キャッチフレーズであるという理由のみをもって、直ちに自他役務識別力を有しないとしたり、使用による識別力を得ることができない商標であると一義的かつ画一的に判断し、除外すべきでない。 キ なお、被告は、インターネット上の紹介記事、宣伝文句、感想文等の文章中に「新しいタイプの居酒屋」の文字を使用している例を証拠として多数挙げるが(乙1〜48)、これらは商標としての使用に当たらないばかりか、「赤地に白抜き」の色彩図柄と「新しいタイプの居酒屋」の文字からなる結合商標が一般的に使用されている事実を証明するものではない。 また、被告は、「赤地に白抜き」の表示態様を示す証拠を挙げるが(乙49〜57)、これらは単に当該表示態様が普遍的に用いられていることのみを証明するものであり、結合商標である本願商標が一般的に使用されている事実を証明するものではない。 しかも、これら周知用語ないし図柄であっても、そのことが拒絶理由となるものではない。過去の登録商標の多くは、下記に述べるとおり、出願前に周知の用語から選択されて登録に至っており、出願人はその宣伝効果を上げるため、出願前において公知ないし周知の用語を商標として採択するものである。そして、これら周知用語ないし図柄であっても使用による識別力を発生しているときは、取引秩序、ユーザー保護の見地から保護するとしているのが法3条2項の趣旨である。 記 1. 登録第1981015号 シーフードの新しい波 2. 登録第2230888号 新しい住まいの設計 3. 登録第4636850号 新しい家族の家 4. 登録第4865064号 新しい波 5. 登録第1933529号 美しい部屋 6. 登録第2618966号 自然が好きです 7. 登録第2636921号 自然が好きです 8. 登録第1563458号 お父さん頑張って! 9. 登録第2153858号 お父さん頑張って! 10. 登録第2166109号 お父さん頑張って! 11. 登録第2529838号 お父さん頑張って! 12. 登録第4152979号 がんばれ!!日本のモノづくり 13. 登録第4159269号 がんばれ!!日本のモノづくり 14. 登録第4159271号 がんばれ!!日本のモノづくり 15. 登録第2356270号 夢は実現します 16. 登録第2667890号 夢は実現します 17. 登録第4237136号 ずーつと好きでいてください 18. 登録第4296971号 ずーっと好きでいてください 19. 登録第4820219号 おまかせください 20. 登録第4318923号 撮るのはまかせて 21. 登録第4347684号 撮るのはまかせて 22. 登録第2069174号 大切なお客様です 23. 登録第2200374号 いつも素適ですね 24. 登録第2253535号 おいしいですよ! 25. 登録第2411191号 ごきげんいかがですか 26. 登録第3015917号 朝ですよ 27. 登録第3129525号 ささやかな気持ちです 28. 登録第4882858号 リフォームはアートだ! 29. 登録第3276182号 はみがきしましょう 30. 登録第2501642号 お返事下さい 31. 登録第2414963号 お元気ですか 32. 登録第2454831号 お元気ですか 33. 登録第2636369号 お元気ですか 34. 登録第3211814号 お元気ですか 35. 登録第3340099号 お元気ですか 36. 登録第3340100号 お元気ですか 37. 登録第3340101号 お元気ですか 38. 登録第4056628号 お元気ですか 39. 登録第4056629号 お元気ですか 40. 登録第4056630号 お元気ですか 41. 登録第4056631号 お元気ですか 42. 登録第4056632号 お元気ですか 43. 登録第4057049号 お元気ですか 44. 登録第4064781号 お元気ですか 45. 登録第4089538号 お元気ですか 46. 登録第4092590号 お元気ですか 47. 登録第4095930号 お元気ですか 48. 登録第4104218号 お元気ですか 49. 登録第4104219号 お元気ですか 50. 登録第4109210号 お元気ですか 51. 登録第4109211号 お元気ですか 52. 登録第4114505号 お元気ですか 53. 登録第4114506号 お元気ですか 54. 登録第4114507号 お元気ですか 55. 登録第4117448号 お元気ですか 56. 登録第4122217号 お元気ですか 57. 登録第4137490号 お元気ですか 58. 登録第4139962号 お元気ですか 59. 登録第4712039号 とべるってステキだね 60. 登録第4786776号 子供に学ぶ家庭教育\親が変われば子供が変わる 61. 登録第4540563号 お友達にはナイショ 62. 登録第2374408号 子供の心を拝む 63. 登録第2381007号 子供の心を拝む 64. 登録第2419058号 子供の心を拝む 65. 登録第2435231号 子供の心を拝む 66. 登録第2461354号 子供の心を拝む 67. 登録第3322728号 豊かな心を創る 68. 登録第4037214号 あたたかい心を育てる 69. 登録第4083417号 あたたかい心を育てる 70. 登録第1218958号 赤ちやん\そのしあわせのために 71. 登録第4324393号 眠れぬ夜のために 72. 登録第4777510号 明日のためにあなたと挑む 73. 登録第4777511号 明日のためにあなたと挑む 74. 登録第4777512号 明日のためにあなたと挑む 75. 登録第4777513号 明日のためにあなたと挑む 76. 登録第4883686号 明日のためにあなたと挑む 77. 登録第4794797号 からだのためにできること 78. 登録第4794798号 からだのためにできること 79. 登録第4809304号 からだのためにできること 80. 登録第4888631号 夢のリストの実現のために。 81. 登録第4851684号 困った時に! 82. 登録第4379806号 気になる時に 83. 登録第3319734号 いい子!産もうよ!! 84. 登録第3332425号 いい子!産もうよ!! 85. 登録第4012100号 めざせ!南のアイランド!! 86. 登録第4640921号 夢中になれる!! 87. 登録第4473514号 めざせ合格\がんばれ受験生 88. 登録第4473516号 がんばれ受験生 89. 登録第4794404号 どーなってるの?みんなのからだ 90. 登録第4902426号 気分転換する? 91. 登録第4902424号 忙しくても元気? 92. 登録第3332619号 子供達に日々希望と感謝の祈りを 93. 登録第4377953号 健康な朝をお届けします 94. 登録第3342047号 私が冷やします\ワタシガヒヤシマス 95. 登録第4080947号 私が冷やします 96. 登録第4636176号 恋するように暮らしたい 97. 登録第3038897号 私はあなたのそばがいい 98. 登録第4663023号 あなたのまちの台所 99. 登録第4532388号 きれいなおねえさんは、好きですか。 100. 登録第4597462号 きれいなおねえさんは、好きですか。 101. 登録第5054106号 きれいなおねえさんは、好きですか。 102. 登録第4463685号 InspireTheNext 103. 登録第4574995号 InspireTheNext 104. 登録第5009459号 InspireTheNext 105. 登録第2146891号 いのち、ふくらまそう。 106. 登録第3255307号 守りたいものがあります 107. 登録第3300571号 守りたいものがあります 108. 登録第2702873号 自然と健康を科学する 109. 登録第2710674号 自然と健康を科学する 110. 登録第2710675号 自然と健康を科学する 111. 登録第3200455号 おいしさはやさしさ 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、(3)は争う。 3 被告の反論 (1) 本願の指定役務である「飲食物の提供」に係る業界においては、多様でかつ流動的な消費者のニーズを的確に捉え、消費者を取り込むために、従来型のものと差別化し、そのニーズに合った魅力ある店作り等が行われ、従来のものと異なる、新タイプの店舗であることを需要者(顧客等)にアピールし、顧客を誘引するため、その点を強調した宣伝広告がされている。 その際、ある店舗が、同業他社の業態や自己店舗のそれまでの業態とは異なるコンセプトによるものであり、従来にない、新しいタイプのものであることを表示、呼称するために、「新しいタイプの居酒屋」、「新しいタイプのレストラン」などのように「新しいタイプの○○」が、キャッチフレーズないし宣伝文句として多数、使用されており、本願商標の構成文字である「新しいタイプの居酒屋」も、原告ばかりでなく、他の同業者によって、広く一般に使用されている。 そして、本願商標は、前記のとおり格別特異とはいえない横長長方形を赤く塗りつぶした図形内に、「新しいタイプの居酒屋」の文字を白抜きという普通に用いられる方法で表わして成るものであり、その文字のとおり、「新しいタイプの居酒屋」の意味合いを認識させるものといえるから、これに接する需要者は、文字どおり「新しいタイプの居酒屋」を表わすキャッチフレーズないし宣伝文句として認識するにすぎず、原告の業務に係る役務を他人の業務に係る役務と識別するための標識であるとは到底認識することができないといわなければならない。 そうすると、本願商標は、自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないから、「需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標」(法3条1項6号)に該当するものである。 (2) これに対し、原告は、本願商標は長年大規模に使用されることで自他役務の識別力を獲得している旨主張する。 しかし、原告が本願商標の使用実績を証明するために提出した甲各号証の看板、チラシ、備品、テレビコマーシャル、原告ホームページにおける使用例は、いずれも、本願商標「新しいタイプの居酒屋」と原告の店舗名の「白木屋」又は「笑笑」の商標と関連付ける態様で使用されているから、これに接する需要者は、「新しいタイプの居酒屋」の文字(商標)から、当該「白木屋」や「笑笑」が「新タイプの居酒屋」であると認識するにすぎない。このように、本願商標において、自他役務の識別標識としての機能を発揮する部分として認識されるのは、「白木屋」や「笑笑」の文字(商標)部分であり、「新しいタイプの居酒屋」の文字(商標)部分自体ではないといわなければならない。 そうとすると、原告の主張するような宣伝、広告活動をもって、本願商標が自他役務の識別機能を取得したものということはできない。 (3) 以上のとおり、本願商標「新しいタイプの居酒屋」は、需要者に文字どおり「新しいタイプの居酒屋」の意味合いを看取させるにすぎないものであり、本願の指定役務の業界において、「新しいタイプの居酒屋」の文字が、その種の店舗の特徴を表すキャッチフレーズないし宣伝文句として広く一般に使用されている事実からすれば、これが自他役務の識別力を有しているものということはできないから、たとえ原告が永年にわたり本願商標を使用していたとしても、これにより何人かの業務に係る役務であることを認識することはできないというべきであり、法3条2項の要件を満たすことはない。 第4 当裁判所の判断 1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、当事者間に争いがない。 2 本件における事実関係 (1) 本願商標は、前記のとおり、次のようなものである(争いがない)。 (商標) 新しいタイプの居酒屋 (指定役務) 第43類 「飲食物の提供」 (出願日) 平成16年8月19日 (2) また証拠(甲1〜10、21〜31。孫番号を含む。以下同じ)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実関係を認めることができる。 ア 原告は、昭和58年5月23日に創業し、昭和58年6月1日に居酒屋「白木屋」中野南口駅前店を1号店としてオープン以来、居酒屋を中心としたチェーン店展開を進めており、平成19年6月30日現在、直営の居酒屋店舗として、「白木屋」、「笑笑」、「魚民」、「月の宴」、「北海道魚萬」、「暖暖」、「鶏のGeorge」、「日本や」、「かみふうせん」、「うさぎの宴」、「月の花」、「くろ○」、「めちゃんこ」、「ゴルトンカフェ」、「和吉」、「千年の宴」、「焼蔵」、「黄金虫」、「福福屋」、「kocoroya」を営業している。その他のフランチャイズ事業を含む平成14年の総店舗数は1008店、売上高は約1379億8000万円であり、その中枢店舗は「白木屋」と「笑笑」である。 イ 「白木屋」は、昭和58年6月1日、東京の中野駅南口に1号店がオープンし、その後、平成3年4月に中部地方1号店として浜松南口店が、平成4年9月に関西地区1号店として心斎橋アメリカ村店が、平成5年3月に東北地方1号店として仙台北口店が、同年5月に中国地方1号店として広島北口店が、同年6月に九州地方1号店として福岡天神店が、平成6年3月に北海道地区1号店として釧路店がそれぞれオープンするなど、日本全国の各地域に出店されており、平成16年6月30日現在の「白木屋」店舗数は418店、平成17年12月31日現在の店舗数は439店、平成19年6月30日現在の店舗数は344店である。 「笑笑」は、平成11年1月、1号店が東京の新橋レンガ通り店にオープンした後、「白木屋」同様に全国各地域に出店され、平成16年6月30日現在の店舗数は324店、平成17年12月31日現在の店舗数は400店、平成19年6月30日現在の店舗数は398店である。 ウ 原告は、「白木屋」、「笑笑」の店舗において、主として、@ビルフロアー案内板、A袖看板、B壁面看板、C置き看板を使用している。@ビルフロアー案内板は、来店客全員が必ず通る店舗入居ビル入口のテナント名掲示板にプレートを設置したものである。A袖看板は、店舗入口上方や店舗入居ビル壁面から張り出して設置する大形看板であり、例えば、小さいもので縦300cm×横90cm程度、大きなもので縦400cm×横90cm程度の表示部があり、内部に照明を有し、看板周囲を赤色のネオンが点滅することにより、遠くからでも認識できる仕組みを施したものである。B壁面看板は、店舗入居ビルの壁面に設置する大形看板であり、例えば縦480cm×横290cm程度の表示部があり、内部に照明を有する箱形のものである。C置き看板は、店舗入口付近や店舗入居ビル前に設置する移動看板であり、例えば縦130cm×横90cm程度の表示部があり、内部に照明を有する箱形の看板で、周りの電球群が点滅するものである。(甲1、5、8、21、22、31) エ 上記「白木屋」の各看板の多くに表示されている内容は、概ね次のとおりである(甲5の1〜34、21の1〜5)。 (1) 看板写真 略 (2) 看板写真 略 (3) 看板写真 略 オ また上記「笑笑」の各看板の多くに表示されている内容は、概ね次のとおりである(甲8の1〜36、22の1〜19)。 (1) 看板写真 略 (2) 看板写真 略 (3) 看板写真 略 カ 上記看板を使用している店舗数は、平成16年7月28日現在で、34都府県の「白木屋」103店(甲3、4)、36都道府県の「笑笑」330店(甲6、7)、平成18年3月8日現在で、29都道府県の「白木屋」91店(甲10)、41都道府県の「笑笑」388店(甲10)、平成19年6月30日現在で、24都道府県の「白木屋」73店(甲27、28)、41都道府県の「笑笑」374店(甲29、30)であり、その合計は447店舗である。上記各店舗ではオープン以来現在まで(営業を止めた店舗はそのときまで)上記表示を使用しており、使用期間が長いものでは「白木屋」で約13年(沼津南口駅前店・平成3年10月22日オープン。なお、平成16年7月28日以降平成17年12月31日までに営業をやめている。甲4、9)、「笑笑」で約8年(新橋レンガ通り店・平成11年1月25日オープン)である。(甲3〜8、10、21、22、27〜31) キ 「新しいタイプの居酒屋」との言葉は、「白木屋」ないし「笑笑」の店舗ちらし、店舗備品、タレントであるAが出演するテレビCM、原告のウェブサイトにおいて使用されている。これらはいずれも店舗名をあしらったデザインに、それよりも小さな文字で「新しいタイプの居酒屋」と併記される形が採られている。なお、これらのキャッチフレーズにおいて、「新しいタイプの居酒屋」との文字の地の部分はいずれも赤色以外の色である。(甲1、2、9、23〜26) ク 一方、本願の指定役務に係る飲食店業界において、「新しいタイプの居酒屋」の語をキャッチフレーズないし宣伝文句、紹介文などとして使用した例として、次のものがある。 (ア) 「鉄板貴族」のホームページに、「豊富に取り揃えた焼酎や梅酒、泡盛などをお楽しみ頂ける新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙1) (イ) 「和民」のホームページに、「『時間、空間を楽しむ』新しいタイプの居酒屋として『豊かで楽しいもうひとつの家庭の食卓』を基本コンセプトに、『あなたのリビング&ダイニング』として展開しています。」との記載がある。(乙2) (ウ) YAHOO!グルメの「炉ぶた屋」のページに、「『炉ぶた屋』は、炉端焼と豚肉料理の新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙3) (エ) ホットペッパーグルメサイトの「縁側屋」のページに、「…『縁側屋』はナチュラル料理&爽やかな雰囲気の新しいタイプの居酒屋です!」との記載がある。(乙4) (オ) 「暖家」のホームページに、「和・中・仏・伊、各国の様々な食材を少しおしゃれに料理した新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙5) (カ) 「串ぐるり」のホームページに、「『和』と『伊』をミックスした新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙6) (キ) 横浜みなとみらい21のウェブサイトの「大皿総菜 遊」のページに、「ノンジャンルのメニューが並ぶ新しいタイプの居酒屋。」との記載がある。(乙7) (ク) ついてるグルメの「酒家上海台所」のページに、「山口県徳山市にある本格中華と洋食の食べられる新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙8) (ケ) 日経レストランONLINEのウェブサイトの「手代木麻生の最新ニューヨーク・リポート」(2006年3月14日)に、「…ニューヨークにはこれまでも居酒屋メニューをそろえた和食レストランはあったが、その多くはミッドタウンに位置し、場所がら、客層は日本人駐在員やアメリカ人ビジネスマンなどだった。ところが、最近は若者の街イーストヴィレッジに新しいタイプの居酒屋がオープンして、ニューヨークの若者の人気を集めている。」との記載がある。(乙9) (コ) 「御歌囃子」のホームページに、「お父さん世代なら、誰もが知っているフォークの神様、Bさんとのコラボレートにより実現した新しいタイプの居酒屋。」及び「2005年8月8日新しいタイプの居酒屋が、東海道スタートの地日本橋にオープンいたしました。」との記載がある。(乙10) (サ) るるぶ.comの「釣船茶屋ざうお」の紹介に、「…お子さまも大興奮間違いなしで、"楽しさ"と"おいしさ"が揃った新しいタイプの居酒屋だ。」との記載がある。(乙11) (シ) 「鶏肴菜すだちや」のホームページの「『すだちや』とは?」のページに、「『すだちや』は、お酒を楽しく呑みたいというみなさまはもちろんのこと、女性やお子様にも十分楽しんでいただける新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙12) (ス) レインズインターナショナルのホームページの「かまどか」の紹介ページに、「お客様に『落ち着きのある温かな空間で、食する醍醐味を楽しむ居食酒家をご提供したい』、と言う想いから創り出した新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙13) (セ) 2002年〔平成14年〕4月15日付け日食外食レストラン新聞に、「名古屋版・繁盛店ルポ:おりじん高山駅前店」の見出しの下、「(有)食道楽が昨年3月、高山駅のすぐ近くにオープンさせたのが、居酒屋『おりじん』。駅周辺にはあまり新しいタイプの居酒屋がないため、古材を利用してつくった癒し系の民家風の外観は魅力の要素となっている。」との記載がある。(乙14) (ソ) 1999年〔平成11年〕12月20日付け日食外食レストラン新聞に、「外食産業1999年の総括:OGMコンサルティング・榊芳生社長に聞く」の見出しの下、「米国ではいま、『リムパック料理』という環太平洋中の食材を集めて、米国風にアレンジした料理が西海岸を中心にはやっている。日本でもこれから間違いなく、和食、中華、韓国など専門店が伸びていく一方、その垣根を越えた新しいタイプの居酒屋や食事処が生まれてくるのではないか。」との記載がある。(乙15) (タ) 1999年〔平成11年〕10月18日付け日食外食レストラン新聞に、「中部版:繁盛店ルポ『ゼットンズナゴヤ』多目的タイプの居酒屋」の見出しの下、「…日中はランチ、カフェタイムとして利用でき、夜は『新しいタイプの居酒屋』(C店長)として、レストラン、CAFE、バーとしても利用できる。ターゲットにしている客層のし好を完璧に押さえた多目的スペースなのだ。」との記載がある。(乙16) (チ) 1999年〔平成11年〕10月18日付け日食外食レストラン新聞に、「ここだけの業界ネタ:接客・雰囲気に見どころ『TGIフライデーズ』」の見出しの下、「また朝11時から深夜まで営業していて、昼間からお酒が飲める。ゼストやラボエムもそうだが、新しいタイプの居酒屋といえるだろう。三食を決まった時間にみなが食事をとる時代は終わったが、それに対応できる店がなかった。」との記載がある。(乙17) (ツ) 1999年〔平成11年〕5月31日付け日本食糧新聞に、「中部外食産業特集:外食市場にかく対応する=味の素名古屋支店・D冷凍食品課長」の見出しの下、「○…居酒屋業態が流行している背景には、殺伐とした世相を反映しながらも『ちょっとお茶でも…』といった気楽に寄れる空間が、旧来のガード下の赤提灯の延長線として、新しいタイプの居酒屋に流れており、そこには習慣性があるために、プライス設定は小遣いの範囲である二〇〇〇円内外でないと難しい面をもっている。」との記載がある。(乙18) (テ) 1995年〔平成7年〕5月1日付け日食外食レストラン新聞に、「飲食企業研究居酒屋チェーン『天狗』急ピッチ年20店」の見出しの下、「…八六年秋に出店したパスタ料理の店や新しいタイプの居酒屋『天狗』は、その具体的なものだが、天狗チェーンは外食企業として、将来的にはレストランビジネスの総合化を目指すことになるということだろうか。」との記載がある。(乙19) (ト) 1995年〔平成7年〕4月17日付け日食外食レストラン新聞に、「淘汰進む居酒屋チェーン 女性受けする最新メニュー12選」の見出しの下、「昨年11月、居酒屋『おらんだ屋敷』チェーンから『海鮮山鮮』チェーン第二号店としてオープン。女性をターゲットに、酒を飲めない人にも気軽に食事が楽しめる新しいタイプの居酒屋とした。」との記載がある。(乙20) (ナ) Yahoo!ジオシティーズのウェブサイトの「ハルヤパンチ!!」のページに、「木更津清見台ちばぎん前ETが目印の新しいタイプの居酒屋です。」との記載がある。(乙21) (ニ) ぐるなび東京版の「香港居酒屋茶異菜」のページに、「まったく新しいタイプの創作中華居酒屋です。」との記載がある。(乙22) (ヌ) 「手作り居酒屋かっぽうぎ」のホームページに、「アットホームな雰囲気の中でお母さんの手作り料理と豊富なおいしい飲み物がポケットマネーで楽しめる全く新しいタイプの和み系居酒屋です。」との記載がある。(乙23) (ネ) 「バルデルマー」のホームページに、「バルデルマーは日本の居酒屋とスペインバルの良さをかけ合わせた新しいタイプの洋風居酒屋です。」との記載がある。(乙24) (ノ) チムニー株式会社のホームページに、「居食工房こだわりやま」の紹介として、「『こだわり』を持った新しいタイプのやきとり居酒屋です。」との記載がある。(乙25) ケ また本願の指定役務に係る飲食店業界において、「新しいタイプの店(ないし業態を表す語)」の語をキャッチフレーズないし宣伝文句、紹介文などとして使用した例として、次のものがある。 (ア) 「…楽食ダイニングつぼ八 鹿島スタジアム前店」のホームページに、「楽食ダイニングつぼ八・鹿島スタジアム店は、いろんなシーンにご利用いただける居酒屋とファミリーレストランの良いところをすべて併せ持った新しいタイプのお店です。」との記載がある。(乙26) (イ) 「月の坊」のホームページに、「無国籍料理のダイニングバー炭火で炙った惣菜や季節の酒肴、ワイン、カクテル、地酒など豊富なお酒と共に楽しむ、新しいタイプの店。」との記載がある。(乙27) (ウ) ホットペッパーグルメサイトの「総本家橋本そば蔵」のページに、「創業100 年以上の総本家橋本が贈る、全く新しいタイプのお店。重厚な蔵創りの外観。明るくて、清潔感溢れる店内。そば屋だからできる旨みダシが決めての料理の数々」との記載がある。(乙28) (エ) 「炭火焼ダイニング焼もの市場」のホームページに、「炭火焼ダイニング焼もの市場は新しいタイプのお店です。」との記載がある。(乙29) (オ) 1988年(昭和63年)7月10日付け朝日新聞に、「夏物商戦は絶好調衣料は高級志向、海外旅行も空前」の見出しの下、「ビアホールも人気を集める。激戦地の東京・銀座では、サッポロが『ライオン』、キリンが『キリンシティ』、アサヒが宣伝効果を狙ったビアホール『スーパードライ』、サントリーがビールも飲める新しいタイプの飲食店『プロント』を出し、しのぎを削っている。」との記載がある。(乙30) (カ) 「そば処鐘庵」のホームページに、「鐘庵豊橋>食べる>うどん・そば」のタイトルの下、「早くて、安くて、うまい!新しいタイプのおそば屋さん。それが鐘庵です。」との記載がある。(乙31) (キ) (財)相模原市産業振興財団の産業あるある情報のホームページに、「手打ちSOBA四季膳」の紹介として、「当店は今までになかった新しいタイプのおそば屋さんです。」との記載がある。(乙32) (ク) 2006年(平成18年)2月24日付け読売新聞に、「注文、会計、パネルでどうぞ日本クレセント、新型すしカウンターを開発=石川◆初年度売り上げ3億円見込む」の見出しの下、「回転すしのベルトコンベヤーメーカー『日本クレセント』(白山市)は、・・・同社では『回転すしの手軽さを残しつつ、板前との会話や握りたてのすしを楽しめる新しいタイプのすし屋を提案していく』とし、『ぱねるカウンター』は発売初年度3億円の売り上げを見込んでいる。」との記載がある。(乙33)。 (ケ) ぐるなびの「渋谷アンバーギャレット」のページに、「大人の本格和食ダイニングラウンジ『amber garret』本屋+銀座料亭が手がける新しいタイプのレストランです。」との記載がある。(乙34) (コ) 栃ナビ!の「十八番」のページに、「平成16年10月に店内をリニューアルしました!新しいタイプのラーメン店を目指し営業しております!! 」との記載がある。(乙35) (サ) 「ビストログー」のホームページに「…新しいタイプの韓国料理店。韓式ダイニング『ビストログー』。宜しくお願いします。」との記載がある。(乙36) (シ) News2unetのウェブサイトの2001年(平成13年)6月5日付けのハンドドリップカフェ「EXQ.(エクスキ)」の記事に、「キーコーヒー株式会社(本社:東京都港区、社長:E、資本金:44億6500万円)は、新しいタイプのカフェ『ハンドドリップカフェ〜 EXQ.(エクスキ)』を6月11日(月)日本橋本町にオープンいたします。」との記載がある。(乙37) (ス) gooグルメ&料理の「ミンミン木場店」の紹介ページに、「本格中華と中国茶が楽しめる、新しいタイプの中華料理店」との記載がある。(乙38) (セ) 「新和食旬」のホームページに、「家族連れから若いお客様のくつろぎの空間として、またビジネスマンの方々の接待の場として…。幅広い常連客様の訪れる新しいタイプの割烹ふぐ料理店です。」との記載がある。(乙39) (ソ) グルメWalkerの「焼肉居酒屋 韓の台所 渋谷公園通り店」のページに、「店内はモダンでスタイリッシュな空間に統一された、まったく新しいタイプの焼肉店。」との記載がある。(乙40) (タ) 株式会社ケイコーポレーションのホームページの「カルビ市場倉敷西岡店」及び「岡山西川原店」並びに「焼肉や幸兵衛」の紹介欄の業態に、「新しいタイプの焼肉店」との記載がある。(乙41) (チ) ぐるなびの「焼肉工房 やきや 名駅西店」のページの業態欄に、「新しいタイプの焼肉屋」との記載がある。(乙42) (ツ) ぐるなびの「渋谷新和食カフェダイニングamber」のページに、「…本格和食が楽しめる新しいタイプのダイニング。」との記載がある。(乙43) (テ) YAHOO!グルメの「Le Grandbleu」のページに、「『第二のリビング』をコンセプトにした新しいタイプのダイニングバーです。」との記載がある。(乙44) (ト) ぐるなびの「BRILLIANT KITCHEN」のページに、「全く新しいタイプのダイニングバーがオープンしました。」との記載がある。(乙45) (ナ) ぐるなび東京版の「村さ来 用賀店」のページに、「店内は『露地のある店』をコンセプトにした落ち着いた雰囲気。新しいタイプの村さ来にぜひお来し下さい。」との記載がある。(乙46) (ニ) 原告会社概要のパンフレット(甲9)16頁右上「笑笑」の欄に、「…“居楽屋”という名称で、お客様に喜んでいただくことをテーマとした、新しいタイプのお店です。」との記載がある。(甲9) (ヌ) 原告ホームページの「海鮮寿司 めちゃんこ」のページに、「…寿司をメインに豊富な居酒屋メニューもとりそろえた新しいタイプのお寿司屋さんです。」との記載がある。(乙47) (ネ) 原告ホームページの「カラオケ歌之助」のページに、「『飲んで!食べて!歌える!!』をコンセプトに店内全て広めの個室を完備した、新しいタイプのカラオケ店です。」との記載がある。(乙48) コ さらに、本願商標と同様に、看板等において赤地に白抜きの文字で店舗名等を表示した例としては、以下のものがある。(乙49〜57) 「つぼ八」(乙49)、「海鮮居酒屋 築地 はなの舞」(乙49、53)、「和民」(乙49、50)、「素材屋」、「魚民」(以上乙49)、「KFC」、「ロッテリアハンバーガー」、「WEnDy's」、「アイフル」、「さくらや」、「OlClTY マルイシティ池袋」、「JTB」、「三菱東京UFJ銀行」、「カラオケBIG ECHO」、「MUJI 無印良品」、「ニッポンレンタカー」(以上乙50)、「丸正餃子店」(乙51)、「酒食屋 鬼熊」(乙52)、「四季の心づくし 花の舞」(乙54)、「中国料理 芳蘭」(乙55)、「ちどりや」(乙56)、「うまい酒 鈴傳」(乙57) 3 法3条2項該当性の有無 (1) 法3条は、商標登録の要件を定めたものであって、同条1項は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」とした上で、同項1号から5号まで自己の業務に係る商品又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙し、同項6号では、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と総括的な規定を置いている。そして同条2項では、「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」として、同条1項3号から5号までに該当する商標についても、使用により識別力を取得したものにつき登録を受けることができるとされている。 上記の規定振りからすると、法3条2項にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは、法3条1項3号ないし5号に該当する出所表示機能を欠く商標であっても、永年使用されることにより、特定の者の出所表示としてその商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されるに至っている(特別顕著性がある)をいうと解される。 そこで、以上の見地に立って本件について検討する。 (2) 前記2の認定事実によれば、本願商標は、原告が営業する全国各地における多数の「白木屋」、「笑笑」の各店舗の看板に表示して使用されており、そのため、本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との表示は、同店舗のある地域を往来する人や同店舗の利用者にとって目立つものということができる。しかし、本願商標の内容は、赤地に白抜きの文字で「新しいタイプの居酒屋」と記載してなるものであり、それ自体からは、当該商標が付された飲食店である居酒屋が既存の居酒屋とは異なる新手のものであることを需要者に説明ないしアピールするという観念を想起するにとどまり、これが直ちに特定の出所を表示したものとは通常観念され難いものといわざるを得ない。のみならず、上記看板における本願商標の使用態様は、いずれも「白木屋」、「笑笑」の店舗名に併記されたものであり、それ自体が店舗名から切り離された単独のものとして使用された例は見当たらない(上記2(2)エ)のであって、本願商標の指定役務である飲食物の提供を行う店舗等において、他店と差別化するため、「新しいタイプの○○」という文句が宣伝等に用いられることは多く見られるところであること(上記2(2)ク)をも併せ考慮すると、本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との語は、一般に居酒屋である「白木屋」や「笑笑」が、メニューやサービスの内容、店舗の内装等において、既存の居酒屋と異なる新しいタイプを採用しているという役務の特徴を表した宣伝文句と理解され、本願商標はいわばキャッチフレーズとしてのみ機能するといわざるを得ないのであるから、それ自体に独立して自他識別力があるということはできない。 したがって、本願商標は法3条1項6号に該当し、商標登録を受けることができないというべきである。 (3)ア これに対し原告は、本願商標は、「白木屋」、「笑笑」の商標とは文字の大きさ、画線の太さ、書体等が顕著に異なり、互いに別個独立のものとして弁別できる商標を構成しており、宣伝効果を上げる手法として2個の商標を並列表示する使用態様をもって独立使用しているものであるから、両商標はそれぞれ識別力が発生していると考えるべきであると主張する。 しかし、前記のとおり、「新しいタイプの居酒屋」なる表示は、主たる表示たる「白木屋」又は「笑笑」を説明ないし修飾する意味合いで使用されているのであって(甲5の1ないし12、甲8の1ないし36参照)、それ自体が独立性のある表示と認めることは困難であるから、原告の上記主張は採用することができない。 イ また原告は、本願商標が原告が営業する全国各地における多数の店舗の看板に大規模かつ長期間使用されている上、「白木屋」ないし「笑笑」の店舗ちらし、店舗備品、タレントであるAが出演するテレビCM、原告のウェブサイト等において「新しいタイプの居酒屋」との文句を使用し、それにより本願商標が多数の者の目に触れ、周知のものとになっているとも主張する。 しかし、前記のとおり、本願商標自体は、いかに大規模かつ長期間使用したとしても、その内容及び使用態様等に照らして「白木屋」又は「笑笑」についての宣伝文句ないしキャッチフレーズとしてしか機能し得ないものというほかなく、需要者は本願商標をもってそれが何人かの役務を表示したものと認識することはできないというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウ さらに原告は、本願商標がキャッチコピー商標ないしキャッチフレーズ商標であるとしても、本願商標は赤地に白抜きで文字を配した結合商標であるから、単なるキャッチフレーズとは異なる旨を主張するが、赤地はその色彩が明るく看者の注意を惹く点で、キャッチフレーズのような宣伝文句を表示する方法としてありふれたものである上(上記2(2)コ)、赤という色彩自体に原告自身を識別する効果があるとも認め難いことからすれば、本願商標が赤地に白抜きの字で構成された標章であることは、前記判断を左右するものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。 4 結論 以上によれば、審決は違法とする原告の主張はすべて理由がない。 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 森義之 裁判官 澁谷勝海 |
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