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【事件名】挿絵カットの表紙転用事件
【年月日】平成19年11月16日
 東京地裁 平成19年(ワ)第4822号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年9月25日)

判決
原告A
同訴訟代理人弁護士 寺尾幸治
同 岩本昌子
被告 株式会社スタジオダンク
被告 株式会社泉書房


主文
1 被告株式会社泉書房は、別紙書籍目録記載の書籍を頒布してはならない。
2 被告らは、原告に対し、連帯して、33万円及びこれに対する平成18年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の10分の7及び被告株式会社泉書房に生じた費用の20分の17を被告株式会社泉書房の負担とし、原告に生じた費用の20分の3を被告らの負担とし、被告株式会社スタジオダンクに生じた費用の2分の1を被告スタジオダンクの負担とし、原告及び被告らに生じたその余の費用を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨。
2 被告らは、原告に対し、連帯して、67万円及びこれに対する平成18年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告らにおいて、その製作、販売に係る別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に、原告作成に係る別紙著作物目録記載のイラスト1ないし5のBの各イラストレーションの原画(以下「イラスト」といい、まとめて「本件各イラスト」という。個別に摘示する場合は「本件イラスト1」、「本件イラスト2」などという。)を複製して使用した際、(1)本件各イラストを本文中の挿絵としてのみ使用するという使用許諾の範囲を逸脱して、許諾がないのに本件書籍の表紙に使用したことにより著作権(複製権)を侵害し、(2)本件書籍に原告の氏名又はペンネームを表示しなかったこと、本件各イラストの複製を表紙に使用した際、原画の色と著しく異なる色を用いるとともに、イラストに描かれたキャラクターの大きさを変更したことにより著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害したとして、被告株式会社泉書房(以下「被告泉書房」という。)に対し、著作者人格権に基づき、本件書籍の頒布の差止めを求めるとともに、被告らに対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償として、連帯して合計67万円及びこれに対する不法行為日(本件書籍の出版日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する事案である。
2 争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、「B」というペンネームを用いて、雑誌及び書籍のイラストを作成するイラストレーターである。
イ 被告株式会社スタジオダンク(以下「被告スタジオダンク」という。)は、出版業等を目的とする株式会社である。
 被告泉書房は、書籍及び雑誌の編集、製作並びに販売等を目的とする株式会社である。
 被告らは、本店所在地が同一で、被告らの代表取締役はそれぞれ他の被告の取締役を兼ねており(弁論の全趣旨)、被告スタジオダンクの編集、製作した書籍を被告泉書房が出版、頒布するという関係にある。
(2) 契約の締結
 被告スタジオダンクは、平成18年7月5日、原告に対し、本件書籍に用いるイラストの作成を、1点につき1000円ないし2000円で注文し、原告は、これを受注した。(甲4)
(3) イラストの交付
 原告は、平成18年7月14日、上記契約に基づき、本件各イラストを含むイラスト合計57点(以下「本件全イラスト」という。)を、被告スタジオダンクに交付した。
 これに対し、被告スタジオダンクは、同年12月20日、イラストの原稿料として、合計8万6000円を原告に支払った。(甲4)
(4) 本件書籍の製作、出版被告スタジオダンクは、原告の作成した本件全イラストの複製を使用して本件書籍を作成した。(弁論の全趣旨)
 被告泉書房は、平成18年10月25日、本件書籍を出版、頒布した。
3 争点
(1) 本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての原告の許諾の有無
(2) 著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害の有無
(3) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての許諾の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 被告スタジオダンクは、本件各イラストを複製した別紙表紙イラスト目録記載の各イラスト(以下「本件各表紙イラスト」という。)を同目録記載のとおり本件書籍の表紙に使用した。
(2) 原告と被告スタジオダンクが締結した契約は、イラストの原画作成という仕事の請負契約及び原告の作成したイラストの使用許諾契約の複合契約である。
 原告は、上記契約において、本件各イラストをあくまで本件書籍の本文中の挿絵としてのみ使用することを許諾したにすぎず、表紙に使用することを許諾していない。
 このことは、次の点からも明らかである。
ア 被告スタジオダンクは、発注書(甲4)において、原告に対し、プロセスカット及び遊び方のイラストを注文している。
 プロセスカットとは、折り紙の折り方についての説明部分に付されるイラストのことであり、本件書籍の本文中に使用されるものである。また、遊び方のイラストとは、折り紙の完成図に付して読者に遊び方を説明するイラストであり、これも本件書籍の本文中に使用されるものである。
 したがって、いずれのイラストも、その客観的用途からして、表紙に使用されることが予定されたものではない。
イ 表紙は、書籍の第一印象を決めるものであるから、表紙のイラストの存在は非常に重要である。表紙用のイラストは、別途、表紙用のイラストであることを意識して、イラストレーターに才能を発揮してもらうよう、本文中のイラストと区別して扱われ、発注されるのが通常である。
 このように、表紙のイラストは特別扱いされるものであるから、金額の点も出版社が配慮して高額であるのが一般である。1点1000円ないし2000円という低額で表紙への使用許諾がされるということはありえない。
(3) したがって、被告スタジオダンクが、本件各イラストを複製した本件各表紙イラストを本件書籍の表紙に使用して、本件書籍を製作した行為は、本件各イラストについての原告の著作権(複製権)を侵害する。
 被告泉書房は、被告スタジオダンクと本店所在地が同一であり、取締役も共通であって、本件書籍の製作、出版に深く関与しているということができるから、上記の著作権侵害行為は、被告らの共同不法行為に当たる。
〔被告らの主張〕
 本件各表紙イラストを本件書籍の表紙に使用したことは認める。
 原告の許諾が本文中の挿絵としての使用に限られていたという点は、否認する。被告スタジオダンクが、挿絵としての使用に限定してイラストの発注を行ったことはなく、原告も、表紙への使用を規制することはなかったから、表紙への使用についても許諾があったと解すべきである。
2 争点(2)(著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害の有無)について
(1) 氏名表示権侵害の有無
〔原告の主張〕
ア 本件書籍には、本件全イラストの作成者として原告の氏名が表示されていないばかりか、奥書にカバーデザイン及びデザインを行った者として他者の氏名が表示されている。
イ 本件書籍を製作した被告スタジオダンクは、原告の氏名表示権を侵害したものであり、被告泉書房は、前記のとおり、本件書籍の製作、出版に深く関与しているということができるから、上記の著作者人格権侵害行為は、被告らの共同不法行為に当たる。
〔被告らの主張〕
 原告の主張アは認め、イは争う。
(2) 同一性保持権侵害の有無
〔原告の主張〕
ア イラストの色について
 イラストは、単なる線描ではなく、その用いる色も、イラストレーターの作風、芸術性を表現するものである。本件各イラストは、2色を用いるという指定の下に依頼され、原告は、自己の作風に合う好みの2色を選んで表現した。
 ところが、被告スタジオダンクは、本件書籍の表紙に使用した本件各表紙イラストにつき、原告が表現したイラストの原画の色と著しく異なる色を用いて、本件各イラストの同一性を害した。
イ イラストの大きさについて
 原告は、本件各イラストにおいて、ウサギ、リス、ネコ、クマ及びパンダ等、動物を擬人化したキャラクターを表現した。その中でも、リスのキャラクターは、可愛さ、幼さという性格を持たせるという意図から、他のキャラクターよりも、とりわけ体を小さく表現した(本件イラスト5の@ないしB)。リスのキャラクターのイラストは、その大きさも意味を持ったものである。
 しかし、被告スタジオダンクは、本件書籍の表表紙の左下部分に、別紙表紙イラスト目録記載のとおり、他のキャラクターと並べて、これらと同じ大きさに拡大したリスのキャラクターを掲載した。これは、原告が作成したリスのキャラクターのイラスト(本件イラスト5のAの右端)の同一性を害するものである。
ウ 本件書籍を製作した被告スタジオダンクは、本件各イラストについての原告の同一性保持権を侵害したものであり、被告泉書房は、前記のとおり、本件書籍の製作、出版に深く関与しているということができるから、前記ア、イの著作者人格権侵害行為は、被告らの共同不法行為に当たる。
〔被告らの主張〕
ア イラストの色について
 本件書籍の表紙に使用した本件各表紙イラストの色が、原画の色と異なっていることは認める。
 表紙のイラストは、編集権の行使として、それぞれの動物の色に基づいて着色したものであり、イラストの芸術性を著しく阻害するものではない。表紙は4色刷りであり、色は十分に吟味して決定している。逆に、2色のままで掲載する方が芸術性を阻害することになっていたと推測される。色を変えたことは、精神的苦痛を伴うようなものではない。
 また、書籍で使用されるイラストの色は、原画の色と異なるのが通常である。色を変えることについては、当然の前提として黙示の合意があったというべきである。
イ イラストの大きさについて
 被告スタジオダンクは、リスのイラストの大きさを小さくすることを原告に要求したことはなく、また、原告から意図的に小さくしたとの説明も受けていない。編集段階で表紙全体のバランスを考え、リスのみを小さくするのはおかしいと判断して、リスを大きくした。
 このようなことは通常行われていることであり、黙示の合意があったというべきである。
3 争点(3)(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 著作権侵害(表紙へのイラスト使用)について
 原告が書籍の表紙にイラストの使用許諾をする場合の使用料は、7万円である(甲7)。したがって、原告が被告らの前記1の著作権侵害行為により被った損害額は、7万円が相当である。
(2) 著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害について
 原告は、被告らの前記2の著作者人格権侵害行為により、精神的苦痛を被った。原告の精神的苦痛を慰謝する金額としては、60万円が相当である。
〔被告らの主張〕
(1) 原告主張の損害額は、争う。
(2) 表紙のイラストについては、@最初から本文とは別のイラストを作成する場合と、A本文の編集が終わってから表紙を最後にデザインし、本文中のイラストを使用する場合がある。本件書籍では、Aの方法で表紙にイラストを載せており、本文中のイラストを使用していることを考えると、出版業界一般の状況からみて、7万円という金額は高すぎる。
 また、Aの方法をとった場合も、出版物の種類又は刷り部数によって価格が異なる。被告らは、書籍の場合に7万円ものイラスト料を支払っているという出版社を聞いたことがない。
第4 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等並びに証拠(甲4ないし6、乙1)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 被告スタジオダンクは、平成18年7月5日、原告に対し、以下の文面の電子メールにより、本件書籍に用いるイラストの作成を注文し、原告は、これを受注した。(争いのない事実等、甲4)
 「折り紙と紙遊びに関するムックのプロセスカット、遊び方のイラストをお願いしたいと思っております。イラストはすべて2色で、イラスト点数はアイコン的なものから大きめのカットまで、併せて120点ほどを予定しております。値段についてですが、大きさによって1点1000円〜2000円でお願いしたいと思っております。期限ですが、来週末7/14までにすべての完成イラストを頂きたいと思っております。急なお話で申し訳ないのですが、ご検討のほどよろしくお願い致します。」
(2) 原告は、本件各イラストを含む本件全イラスト合計57点を作成し、平成18年7月14日、これらを被告スタジオダンクに交付した。(争いのない事実等、甲4)
 本件各イラストの内容は、以下のとおりである。
ア 本件各イラストのうち、本件イラスト1ないし4は、被告スタジオダンクが発注した「遊び方のイラスト」に当たる。遊び方のイラストとは、完成した折り紙の遊び方を読者に説明するため、折り紙の完成図に付されるイラストである。
 また、本件イラスト5の@ないしBは、同じく被告スタジオダンクが発注した「折り紙に関するプロセスカット」に当たる。プロセスカットとは、折り紙の折り方についての説明部分に付されるイラストである。
イ 本件各イラストは、別紙著作物目録記載のとおり、ウサギ、リス、ネコ、クマ及びパンダを擬人化したキャラクターから構成されている。原告は、これらのうち、本件イラスト5の@ないしBにおいて、リスのキャラクターを、可愛さ、幼さという性格を持たせるため、意図的に他のキャラクターより小さく描いている。
ウ 本件各イラストに使用された色は、別紙著作物目録記載のとおり、赤と黒を基本とし、この2色に濃淡がつけられてそれぞれに着色されている。
(3) 被告スタジオダンクは、原告から受け取ったイラストを複製して使用した本件書籍を製作し、被告泉書房は、平成18年10月25日、本件書籍を出版した。
 本件書籍におけるイラストの使用状況は、以下のとおりである。
ア 本件全イラストの複製は、本件書籍の本文中の挿絵として使用されているほか、本件各イラストの複製が、別紙表紙イラスト目録記載のとおり、表紙にも使用されている。
イ 本件書籍の表紙の左下の「泉書房」の文字の左の位置には、別紙表紙イラスト目録記載のとおり、折り紙を作成しているウサギ、リス、ネコ、クマ及びパンダの各キャラクターのイラスト(本件イラスト5の@ないしBから適宜キャラクターを選択して複製したもの)が掲載されており、そのうち、リスのキャラクター(本件イラスト5のAの右端に記載されたものを複製したもの)は、他のキャラクターと同じ大きさで描かれている。
ウ 表紙に用いられた本件各表紙イラストには、原画で用いられていた赤と黒の他、青、緑、茶、黄等、複数の色が付けられている。
(4) 本件書籍の奥書には、「カバーデザイン」を行った者及び「デザイン」を行った者として、原告以外の者の氏名が記載されている。
 本件書籍中には、原告の氏名又はペンネームは記載されていない。
2 争点(1)(本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての許諾の有無)について
(1) 前記1で認定した事実によれば、原告は、被告スタジオダンクとの間で、原告が本件書籍のイラストの原画を作成する請負契約及び原告の作成したイラストの原画の使用を被告スタジオダンクに許諾する使用許諾契約を締結したものということができる。
 被告らは、上記使用許諾契約においては、イラストの使用範囲についての限定はなく、表紙への使用も許諾されていたと解すべきである旨主張する。
 上記契約については、契約書が作成されておらず、原告が被告スタジオダンクからの発注を受注するに当たり、当事者間で、イラストの使用範囲について話合いが行われた形跡もない。しかしながら、前記1で認定した事実によれば、被告スタジオダンクの発注書には、依頼内容として「折り紙と紙遊びに関するムックのプロセスカット、遊び方のイラスト」の作成との記載がある。弁論の全趣旨によれば、プロセスカットとは、折り紙の作成過程を示すため、折り方についての説明部分に付されるイラストであり、遊び方のイラストとは、完成した折り紙の遊び方を読者に説明するため、折り紙の完成図に付されるイラストであって、いずれのイラストも、書籍の本文中に用いられることが予定されているものであって、当然に表紙にも用いられることが予定されているものとはいえないことが認められ、これに反する証拠はない。実際に原告が作成したイラストの点数は合計57点であり、この点数は、本文中での使用を前提とするものであるということができる。そして、一般に書籍の表紙部分は書籍の第一印象を決める本の顔ともいえる重要な部分であるといえるから、表紙に用いられるイラストについては、作者において表紙にふさわしいものとするよう配慮するのが一般的であると考えられることに鑑みると、原告において、その作成に係る57点の本件全イラストの中から、被告スタジオダンクが任意のものを選んで表紙に使用することを許諾していたとはにわかに考え難い。また、本件全証拠によっても、出版業界において使用を規制する明確な合意のない限り、本文中のイラストを表紙に使用することが許容されるとの慣行等があると認めることはできない。これらの事情に照らすと、本件使用許諾契約において、本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについて原告の許諾があったと認めるには足りないというべきである。
(2) 以上によれば、本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての原告の許諾を得ていたということはできないから、被告スタジオダンクは、使用許諾の範囲を超えて、本件各イラストの複製を本件書籍の表紙に用いて本件書籍を製作し、本件各イラストについての原告の著作権(複製権)を侵害したものというべきであり、そのことについて少なくとも過失がある。そして、被告泉書房は、被告スタジオダンクと本店所在地が同一で、被告らの代表取締役がそれぞれ他の被告の取締役を兼ね、被告スタジオダンクの製作した書籍を出版するという業務を行っており、本件書籍の製作過程についても良く知り得る立場にあったと認められるから、原告の使用許諾を得ないで製作した部分を含む本件書籍を出版したことについて少なくとも過失が認められる。したがって、被告らの行為は、原告の著作権(複製権)を侵害する共同不法行為(民法719条)に当たる。
3 争点(2)(著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害の有無)について
(1) 氏名表示権侵害の有無について
 本件書籍に、本件全イラストの作成者として原告の氏名が表示されておらず、かえって本件書籍の奥書にはカバーデザイン及びデザインを行った者として他者の氏名が表示されていることは、当事者間に争いがない。
 上記の事実によれば、被告スタジオダンクは、本件書籍の製作に当たり、本件全イラストの作成者としての原告の氏名表示権を侵害したというべきであり、このことについて少なくとも過失がある。
 前記2(2)で説示したところによれば、被告泉書房は、原告の氏名表示権を侵害する本件書籍を出版したことについて少なくとも過失が認められ、被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うと解すべきである。
(2) 同一性保持権侵害について
ア イラストの色について
(ア) 前記1で認定した事実によれば、原告は、被告スタジオダンクから、すべてのイラストにつき、1点のイラストに用いる色を2色とするとの指示の下に発注を受け、同指示に従い、別紙著作物目録に記載のとおり、本件各イラストのそれぞれにつき、2色を用いて着色をした上、これを被告スタジオダンクに交付したところ、同被告は、本件各イラストの複製に、原画には用いられていなかった青、緑、茶、黄等、複数の色を着色した上、本件書籍に掲載したものであり、これにより、本件各表紙イラストが与える印象は原画とは異なるものとなっていることは明らかである。
 一般に、イラストは、線描のみならず、その色調の違いのみによっても見る者に異なる印象を与えるから、色の選択は、基本的には、イラストレーターが自己の作風を表現するものとして、イラストレーターの人格的な利益に関わるというべきであり、本件各イラストの色を変更した被告スタジオダンクの行為は、著作者である原告の意に反する改変に当たり、本件各イラストについての原告の同一性保持権を侵害したというべきである。本件全証拠によっても、上記の改変につき、原告の明示ないし黙示の同意があったとも、やむを得ない改変に当たる事情があったとも認めることはできない。
(イ) そうすると、本件各イラストの色を変更して本件書籍に用いた被告スタジオダンクの行為は、原告の著作者人格権を侵害するものであり、被告泉書房がこのような本件書籍を出版したことについて被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うべきことは既に説示したところと同じである。
イ イラストの大きさについて
(ア) イラストの大きさ、特に、他のイラストとの関係で認識される相対的な大きさについても、色調と同様、その違いによって見る者に異なる印象を与えるから、その選択は、イラストレーターが自己の作風を表現するものとして、イラストレーターの人格的な利益に関わるものであるということができる。
 前記1で認定した事実によれば、原告は、本件イラスト5の@ないしBにおいて、リスのキャラクターを、可愛さ、幼さという性格を持たせることを意図して、他のキャラクターより小さく描いたところ、被告スタジオダンクは、本件イラスト5のAのリスのキャラクターにつき、本件書籍の表紙に他のキャラクターと同じ大きさで描いたものであり、このような改変は、著作者である原告の意に反するものであるということができるから、原告の本件イラスト5のAの同一性保持権を侵害したというべきである。本件全証拠によっても、上記の改変につき、原告の明示ないし黙示の同意があったとも、やむを得ない改変に当たる事情があったとも認めることはできない。
(イ) そうすると、本件イラスト5のAのリスのキャラクターの大きさを他のキャラクターと同じ大きさにして本件書籍に用いた被告スタジオダンクの行為は、原告の著作者人格権を侵害するものであり、このような本件書籍を出版した被告泉書房が被告スタジオダンクと共同不法行為責任を負うべきことは既に説示したところと同じである。
4 争点(3)(原告の損害)について
(1) 前記2、3で説示したところによれば、@被告らが原告の許諾を得ずに本件各イラストの複製を本件書籍の表紙に使用した行為は、原告の有する著作権(複製権)を侵害するものであり、A被告らが本件書籍に原告の氏名又はペンネームを記載しなかった行為は、原告の本件全イラストについての氏名表示権を侵害するものであり、B被告らが本件各イラストの色を改変した行為及び本件イラスト5のAのリスのキャラクターの大きさを改変した行為は、原告の同一性保持権を侵害するものであり、原告は、被告泉書房に対し、本件書籍の頒布の差止請求権を有するとともに、被告らに対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
(2) 著作権(複製権)侵害についての損害額
 前記2で説示したところによれば、原告は、被告らの著作権(複製権)侵害行為により、本件各イラストを表紙に用いた場合の許諾料相当額の損害を被ったというべきである。原告は、前記許諾料相当額について、原告が他で表紙のイラストを作成した際に、原稿料として7万円が支払われたことを示す証拠として甲第7号証を提出し、この金額が許諾料相当額であると主張する。しかしながら、同号証は、原稿料の支払の対象とされたイラストの内容や点数、掲載の対象とされた物が不明であることから、同号証記載の金額を直ちに本件の損害額とすることはできず、他に使用許諾料相当額について的確な証拠のない本件においては、控え目な損害額の算定の観点から、許諾料相当額は3万円であると認めるのが相当である。
(3) 著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)についての損害額
 前記3で説示したところによれば、原告は、被告らの著作者人格権侵害行為によって精神的苦痛を被ったものと認められ、前記認定に係る侵害の態様等を勘案すると、原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料額は30万円が相当である。
5 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、被告泉書房に対し本件書籍の頒布の差止め並びに被告らに対し連帯して33万円及びこれに対する不法行為の日(本件書籍の出版日)である平成18年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから、これをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法64条1項本文、61条、65条1項本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 平田直人
 裁判官 瀬田浩久


(別紙)書籍目録
書籍名 「頭がよくなるおりがみあそび」
監修者 C
発行者 D
発行所 株式会社泉書房
印刷・製本 新日本印刷株式会社

(別紙)著作物目録
イラスト1 略
イラスト2 略
イラスト3 略
イラスト4 略

(別紙)表紙イラスト目録
表表紙 略
裏表紙 略
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/