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【事件名】商標“DB9”審決取消事件(2) 【年月日】平成19年10月31日 知財高裁 平成19年(行ケ)第10050号 審決取消請求事件 (平成19年9月10日 口頭弁論終結) 判決 原告 アストンマーチン ラゴンダ リミテッド 訴訟代理人弁護士 五十嵐敦 訴訟代理人弁理士 稲葉良幸 同 石田昌彦 同 森本久実 被告 特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人 鈴木新五 同 田中敬規 同 大場義則 同 森山啓 主文 特許庁が不服2005−65022号事件について平成18年9月25日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 当事者間に争いがない事実 1 特許庁における手続の経緯 原告は、「DB9」の欧文字及び数字を横書きにしてなる商標について、第12類及び第37類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として、国際登録第815173号に係る国際商標登録出願(国際登録日又は事後指定日:平成15年5月23日、先願権発生日:平成14年12月16日)をし、平成16年10月1日付けの手続補正書により、指定商品及び指定役務を第12類「Automobiles,bicycles, motorcycles and parts and fittings therefor.」及び第37類「Repair, restoration,maintenance, reconditioning, diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor.」と補正したが(以下、同補正後の上記第12類の指定商品を「本件指定商品」と、上記第37類の指定役務を「本件指定役務」という。)、平成16年11月25日付け(発送日)で拒絶の査定を受けたので、平成17年2月22日、拒絶査定に対する不服の審判を請求した。 特許庁は、これを不服2005−65022号事件として審理した結果、平成18年9月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月10日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるとして、本件指定商品又は本件指定役務に使用しても、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を有しないものであり、需要者が何人の業務に係る役務であるかを認識することができず、商標法3条1項5号に該当するとした。 すなわち、審決は、以下のとおり、本願商標が商標法3条1項5号に該当するとした。 「(1)商標法第3条第1項第5号について 本願商標は、上記1のとおり、『DB』の欧文字と『9』の数字とを組み合わせて『DB9』と横書きしてなるところ、 本願商標の指定商品中に含まれる『Automobiles』等の分野をはじめとする様々な産業分野において、自己の製造、販売に係る各種製品や自己の提供に係る各種役務について、その製品等の管理又は取引の便宜性等の事情から、欧文字の1文字ないし2文字と数字とを組み合わせた文字は、商品の型式又は規格、あるいは、役務の等級等を表示するための記号、符号として、取引上普通に採択、使用されているのが実情である。 このことは、例えば、『めざせ150車種紹介1/1ページ』(請求人〔判決中:原告)の提出に係る参考資料2の8頁)に、『GRADE』として、『Z28』(18行目)、『Z06』(22行目)及び『X4』(29行目)の記載があり、『めざせ150車種紹介5/5ページ』(請求人の提出に係る参考資料2の12頁)に、『GRADE』として、『RS200』(4行目)、『AS200』(5行目)及び『RS 1.5』(19行目)の記載があることからも十分裏付けられるものである。 そうすると、本願商標をその指定商品又は指定役務について使用をするときは、これに接する取引者、需要者は、これを商品の型式や規格又は役務の等級等を表示するための記号、符号として看取、認識するにとどまり、自他商品又は自他役務の識別標識とは理解し得ないとみるのが相当であるから、結局、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものというべきである。」(2頁第3段落〜第5段落) 「(2)請求人の主張 請求人は、『「DB」にシリーズ番号ともいえる「9」が付された商標は、全体として、アストンマーチンの車名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを容易に想起せしめるものである。』旨主張し、参考資料1及び2(以下、「参考資料1及び2」を一括していうときは、単に「参考資料」という。)を提出している。 そこで、当該参考資料について検討するに、『DB9』の表示があるのは当該参考資料中の数カ所にすぎないこと、また、その『DB9』の表示も、多くは単独では表示されておらず『アストンマーチン』の語及び『ボランテ』の語と並べて『アストンマーチンDB9』及び『ボランテDB9』と表示されていること、さらに、当該参考資料に記載されている内容も、『アストンマーチン』、『アストンマーチンDB9』及び『ボランテDB9』についての単なる紹介記事や広告にすぎないものであることよりすれば、当該参考資料は、請求人の主張を採用するには不十分というべきである。 加えて、『「DB」とは、93年から01年までに生産されたホンダ・インテグラ(4ドア)の車両形式。』(http://homepage3.nifty.com/KMG/dic/db.html)との記述も存するから、これらを併せ考えれば、上記の請求人の主張は採用することができない。 また、請求人は、過去の登録例を挙げて、本願商標も登録されるべきである旨主張しているが、これらはいずれも本願商標とその構成、態様を異にするものであるから、同一に論ずることはできず、請求人のかかる主張は採用することができない。」(2頁最終段落〜3頁第4段落) 第3 原告主張の審決取消事由 審決は、本願商標が商標法3条1項5号に該当すると誤って判断し(取消事由1)、また、同条2項該当性についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、本願商標について、登録を受けられないとの誤った結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(商標法3条1項5号該当性判断の誤り) (1) 審決は、「本願商標をその指定商品又は指定役務について使用をするときは、これに接する取引者、需要者は、これを商品の型式や規格又は役務の等級等を表示するための記号、符号として看守、認識するにとどまり、自他商品又は自他役務の識別標識とは理解し得ないとみるのが相当であるから、結局、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものというべきである。」(2頁下から第2段落)としたが、誤りである。 (2) 商標法3条1項5号における「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」とは、特許庁の商標審査基準(甲1)によっても、「数字」や「ローマ文字の1文字又は2文字」のものであるが、本願商標は、欧文字2文字と数字1文字の組合せからなるものであり、数字のみからなるものでも、欧文字1文字あるいは2文字のみからなるものではない。そして、本願商標の構成は、「D−B9」、「DB−9」とは異なって、「D」、「B」及び「9」を、この順に一連に書してなるものであり、この組合せは独自の構成と認められるべきものである。 また、「DB」は、「アストンマーチン」ブランドの1940年代のオーナーであったデヴィッド・ブラウンの頭文字をとったものであり、DB9に接頭する「DB」との文字が、欧文字の「D」と「B」との単なる結合文字ではないことは明らかである。「DB9」は、この有意な「DB」の後に数字の「9」が付加されたものであり、単に型式を示すものではなく、原告が製造した歴代の「DB」シリーズのうちの一車名を明確に誇示するものであって、他のDBシリーズの車名との識別標識としても機能している。後記の本願商標の周知・著名性と相まり、本願商標の組合せは独自の構成と認められるべきものであり、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標ではない。 特許庁においても、欧文字と数字の組合せからなる商標について多数の登録が認められている(甲2ないし10)。 (3) 「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当するか否かは、指定商品の取引者、需要者を基準として、公知の事実及び社会通念に基づいて判断すべきであって、商標の形式のみから判断すべきではない。 産業分野によっては、欧文字の1文字ないし2文字と数字の組合せが、商品の出所識別機能を有する商標として機能している。本件指定商品の「automobiles」等の産業分野として自動車産業があるところ、そこでは、しばしば、欧文字と数字の短い組合せによる商標が採択されている(甲11ないし27)。日本車であっても、トヨタの「MR2」(甲16)、マツダの「RX−7」や「RX−8」(甲18)などは、実際の取引界において、欧文字と数字の短い組合せで商標の機能を発揮しているほか、特に、原告の「DB9」に代表されるような欧州車においては、欧文字と数字の短い組合せによる商標が車名として使用されるという取引の実情が存在するから、欧州車については、「DB9」が特定の車種を表示する車名として認識される。したがって、本願商標を本件指定商品、役務について使用をするとき、これに接する取引者は、これを商品の型式や規格等を表示するための記号、符号として看取、認識するものではない。 この点について、被告は、製品等の型式又は規格等を表示するための記号、符号として、欧文字及び数字を結合した標章が、取引上、普通に採択、使用されている実情にある業界として「automobile」業界を挙げ、同業界において採択されている、欧文字及び数字を結合した標章は商品の出所識別機能を有さない旨主張するが、欧文字の1文字ないし2文字と数字の組合せが商品の出所識別機能を有する商標としてしばしば採択されている業界の最たるものとして「automobile」業界が挙げられるのであり、被告の主張は失当である。 また、本願商標は、米国のほか、カナダ、欧州共同体、香港、クウェート国、レバノン共和国、メキシコ合衆国、ニュージーランド国、オマーン国、サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、英国においても登録が認められている(甲28ないし40)。商標の登録の可否は、各国において独立に判断されるべきものであるが、国際的な流通が高度に進展し、国境を越えた国際間の商取引が頻繁に行われている現代においては、ある標章が商標として機能し得るか否かについての社会通念は、ある程度国際的に共通するというべきである。 (4) 被告は、欧文字と数字の短い組合せによる商標は、製品等の型式又は規格等を表示するための記号、符号として取引上、普通に採択、使用されているとするが、本件指定役務は、そもそも、商品ではなく、サービス(役務)であることから、本願商標との関係において、製品等の型式又は規格等を表示するための記号、符号として把握されることはあり得ないし、役務の等級等を表示するための記号、符号として把握されている取引の実情も存在しない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り) (1) 審決は、原告が、「DB」にシリーズ番号ともいえる「9」が付された商標は、全体として、アストンマーチンの社名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを容易に想起させるものである旨主張したのに対し、原告の主張は、採用することができないとしたが、誤りである。 (2) 本願商標は、原告であるアストンマーチン社の車名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを指し示すものとして広く認識されたものでり、その周知性のため、自他商品・自他役務の識別力は、顕著なものがある。 原告は、1914年以来の長い歴史を有して、数々の名車を輩出してきた自動車会社であり、同社の製品は、世界各国の需要者に広く知られている。また、原告は、「DB」の名の由来であるデヴィッド・ブラウンのグループ傘下に入った1940年代以来、その車名の一部に「DB」の頭文字を付しており、1940年代に英国で上市されたDB2に始まって、DB9に至るまで、DBの文字が一貫して用いられた結果、「DB」シリーズが、世界有数の車名ブランドの一つとなっていることは周知の事実である。そして、「DB」シリーズは、人気シリーズ映画「007」の主人公である、伝説のイギリス諜報部員ジェームス・ボンドが乗るボンドカーとしても古くから広く知られている。 本願商標を冠した「DB9」は、歴代の原告の製品の中でも大きな成功を収めた「DB7」の後継車として、最新の技術を駆使して開発された世界で最も洗練されたスポーツカーとして人気を博しているものであり、原告のスポーツカーを指し示すものとして、愛好家のみならず一般の自動車購買者の間でも広く認識された車名ブランドである。 仮に、「DB9」が一定の商品の型式を示すものであるとした場合であっても、それは「単なる型式」ではなく、それをはるかに超え、もはや「単なる型式」と乖離したブランドイメージと識別性をかもし出すものとなっている。そして、「DB9」は、全体として、アストンマーチン社の車名ブランドであるDBシリーズの歴 代車種の一つを容易に想起せしめるものであるととらえることができる。 (3) 被告は、本願商標につき、「automobiles」について、使用により自他商品識別力を獲得するに至っているとしても、その他の本件指定商品又は指定役務については、識別力を獲得するに至ったとはいえない旨主張する。 しかし、「automobiles」以外の本件指定商品である「bicycles、motorcycles and parts and fittings therefor.」は、いずれも、「automobiles」と非常に密接な関係を有しており、本願商標の周知・著名性は、これら商品についても及ぶ。 すなわち、「bicycles」や「motorcycles」は、自動車メーカーにより製造されているケースが多く、それらのメーカーの多くは、自動車メーカーとしての自社のブランドイメージを踏襲しているし、「parts and fittings therefor」についても、自動車を形作る重要な要素の一つであるとともに、メーカーの技術が結集されたものである。 本件指定役務である、第37類の「Repair, restoration, maintenance, reconditioning,diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor.」も、本願の指定商品である「automobiles」と非常に密接な関連性を有する。 すなわち、 本来的に「automobiles」は機械であることから、「Repair、restoration, maintenance, reconditioning, diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor.」といった作業が必要不可欠であることに加え、輸入車の業界においては、「automobile」が、日本に到着して通関作業後、輸入専門業者などの整備工場に運ばれ、保護用のコーティングを特殊スチーム洗浄機で落とし、ボディのキズや内外装の仕上げ、ドアやトランクの立て付け状態、ボンネットとフェンダー、フェンダーとドアの段差など、日本の品質基準表に従って細かくチェックされ、点検の結果、各種調整や補修、磨き作業に入ることを要するのであり、上記の役務は、「automobile」と極めて密接な関連性を有している。 したがって、「automobiles」以外の商品・役務も、「automobiles」と高い関連性を有しており、本願商標が「automobiles」について際立った周知・著名性を有し、自他商品・役務の出所標識として機能していることにかんがみれば、「Automobiles」以外の上記商品・役務についても、自他商品・自他役務の出所標識として機能している。 第4 被告の反論 審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(商標法3条1項5号該当性判断の誤り)に対して (1) 原告は、本願商標が、商標法3条1項5号の「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」ではない旨主張するが、失当である。 (2) 本願商標の構成は、特徴のない、一般に用いられる書体で、「DB」の欧文字と「9」の数字とを組み合わせて「DB9」と横書きしてなり、第12類「Automobiles, bicycles, motorcycles and parts and fittings therefor.」(仮訳:自動車・自転車・オートバイ並びにそれらの部品及び附属品)及び第3 7類「Repair,restoration, maintenance, reconditioning, diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor.」(仮訳:陸上の乗物並びにそれらの部品及び附属品の修理・回復・保守・再調節・調整診断・洗浄・塗装及び研磨)を指定商品及び指定役務とするものである。 機械器具等を取り扱う業界をはじめとする各種産業分野においては、自己の製造、販売に係る各種製品等について、その製品等の管理又は取引の便宜性等の事情から、当該製品等の型式又は規格等を表示するための記号、符号として、欧文字及び数字を結合した標章が、取引上、普通に採択、使用されている実情にあり、本願商標の指定商品中に含まれる「automobiles」を取り扱う業界においても、同様に、1文字ないし2文字の欧文字と数字を結合した標章が、当該製品の型式又は規格等を表示する記号、符号の一類型として普通に採択、使用されている。 そうすると、「DB9」の文字からなる本願商標を、本件指定商品又は指定役務について使用をするときは、これに接する取引者、需要者は、取引の実情により、これを商品の型式や規格又は役務の等級等を表示するための記号、符号として通常用いられる標章の一類型と理解するにとどまり、自他商品又は自他役務の識別標識としては認識し得ないものであり、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものであって、自他商品又は自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないというべきである。 (3) 原告は、「DB」の由来がデヴィッド・ブラウンの頭文字であることなどを述べるが、商標を使用する者が、特定の意図をもって商標を採択、使用したとしても、そのことをもって、直ちに当該商標に接する取引者、需要者がそのような意図に沿ってのみ理解、認識するとはいいがたい。 また、原告は、本願商標の周知・著名性と相まり、本願商標の組合せは独自の構成と認められるべきものである旨主張する。 しかし、原告の主張の根拠となる記載がある雑誌やインターネットの情報の数は 極めて少数に限られ、しかも、そのいずれも、「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称と関連付けられた形態で紹介されている内容であるから、「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称と関連付けられているのであれば格別、単に「DB9」の文字からなる本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「DB」の文字部分が同氏のイニシャルにちなむものであるとか、「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称と関連付けられて用いられることのある、「DBシリーズ」と称される一連の名称のうちの1つであると理解、認識するとは到底いい得ない。 (4) 原告は、自動車産業界においては、欧文字と数字の短い組合せからなる商標が、自他商品識別の機能を発揮している旨主張するが、原告が挙げる証拠によっても、それらの商標は、トヨタ、日産、マツダ等との自動車メーカー名と関連付けて記載されているものであるから、同業界において、欧文字と数字の組合せからなる標章が、それ自体単独で自他商品の識別標識として機能しているとはいいがたい。 また、原告は、特許庁による過去の登録例を挙げるが、登録出願に係る商標が登録され得るものであるか否かは、当該商標の全体の構成に基づいて、指定商品、役務に係る取引の実情を勘案して、個々の商標ごとに個別具体的に検討、判断されるべきものであるから、原告の挙げた登録例によって、本願商標についての判断が左右されるものではない。 さらに、原告は、本願商標が、米国等において登録が認められている旨主張するが、登録出願に係る商標が登録され得るものであるか否かは、我が国の商標法に基づき、当該商標の全体構成に基づいて、指定商品、役務に係る取引の実情を勘案して、個々の商標ごとに個別具体的に検討、判断されるべきものである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)に対して (1) 原告は、本願商標は、その周知性のため、自他商品・自他役務の識別力は、顕著なものがある旨主張するが、失当である。 (2) 原告が、自己の製造に係る自動車について、「V8 Vantage」(V8 ヴァンテージ)や「Vaquish S」(ヴァンキッシュS)等と並んで、「DB○」(「○」の部分は数字)の標章を用いる場合があり、その場合において、「DBシリーズ」の語が用いられるときがあることは認められるが、これらの記載のある雑誌やインターネットの情報の数は極めて少数に限られ、しかも、そのいずれもが、「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称と関連付けられた形態で紹介する内容であることからすれば、1940年代以降、原告の製造に係る自動車に「DB○」(「○」の部分は数字)の標章が用いられたとしても、それが「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称と関連付けて用いられているのであれば格別、そのような関連付けのない場合においてまで、「DBシリーズ」と称される名称が世界有数の車名ブランドの一つとなっているとは、到底認められない。 また、「DB9」と称される原告製造に係る自動車は、平成16年の春から日本向けの生産又は販売が始まったところ、その具体的な台数は明らかでないが、「アストン・マーティン」(Aston Martin)の名称に係る自動車の生産・販売台数自体、極めて少なく、かつ、「DB9」と称される原告製造に係る自動車の生産・販売台数も、同様に、極めて少ないものと推認されるから、本願商標を冠した「DB9」が、アストンマーチン社のスポーツカーを指し示すものとして、愛好家のみならず一般の自動車購買者の間でも広く認識された車名ブランドであるということはできない。 (3) 商標法3条1項5号に該当する商標であっても、同条2項の規定により、当該商標の登録が認められる場合があるが、出願商標の指定商品、役務の一部に登録を受けることができないものがあれば、出願の分割ないし手続補正により、登録を受けることができない指定商品、役務が削除されない限り、その出願は全体として登録を受けることができないものと解すべきである。 本件について、原告は、本願商標が自他商品識別力を有するものである旨主張するが、そもそも本願商標は自他商品等の識別標識としての機能を果たし得ないし、「automobiles」についても、自他商品の識別標識として機能していない。また、原告は、「automobiles」と「bicycles」が高い関連性を有すると主張するが、ごく一部の欧州メーカーが開発した非常に高額な自転車を紹介した特殊な事例を紹介するだけであり、特殊な事例をもって、原告主張のような一般化をすることはできないし、原告提出の証拠から、「motorcylces」が「automobiles」と高い関連性を有するとすることもできない。そして、原告が修理等の役務について、DB9が商標として使用されているとして主張する事実は、役務を提供する者を識別するためにDB9が使用されているものではないし、部品に関してDB9が使用されているとして主張する事実も、DB9が独立して自他商品の識別標識として機能しているものではない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項5号該当性判断の誤り)について (1) 審決は、「本願商標をその指定商品又は指定役務について使用をするときは、これに接する取引者、需要者は、これを商品の型式や規格又は役務の等級等を表示するための記号、符号として看守、認識するにとどまり、自他商品又は自他役務の識別標識とは理解し得ないとみるのが相当であるから、結局、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものというべきである。」(2頁下から第2段落)としたのに対し、原告は、審決の判断が誤りである旨主張する。 (2) 本願商標は、「DB」の欧文字と「9」の数字を、一般に用いられる書体により、「DB9」と横書きしてなるものである。 一般に、欧文字や数字は、製品や役務の管理のための符号として用いられることがあること、欧文字と数字の組合せも上記の符号として用いられることがあることは、公知の事実である。本件指定商品のような機械器具等や自動車に関わる商品分野においても、管理の便宜のため、型式、規格等を表すものとして、欧文字と数字の結合が用いられているといえるし(乙2ないし16)、また、本件指定役務のような機械器具等に対する作業についても、複数の種類の作業の管理のために、欧文字や数字の結合が用いられることがあるといえる。 ここで、本願商標は、欧文字2文字と数字1文字を、一般に用いられる書体で横書きしてなるものであり、用いられる文字の形や組合せ方法に特徴があるわけではなく、また、文字数も3文字と少ない。このような構成に照らせば、本件指定商品や本件指定役務の分野において、本願商標は、その構成において、管理のための符号として普通に用いられるものと比べて、特段の差異があるとは認められない。 したがって、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものと認められる。 (3) 原告は、本願商標が、数字のみからなるものでも、欧文字1文字あるいは2文字のみからなるものではないこと、「D−B9」、「DB−9」とは異なることを挙げて、本願商標が、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものではない旨主張する。 しかし、本願商標は、全体の文字数が3文字であるところ、管理のための符号等として、自動車の型式等に欧文字と数字を組み合わせた3文字が使用されることがあることも認められる(乙16)し、本願商標における組合せ方法も、簡単、単純といえるものであって、原告が主張する事実は、上記(2)の判断を左右するものとは認められない。 また、原告は、「DB」が、デヴィッド・ブラウンの頭文字であること、「DB9」は、有為な「DB」の後に数字の「9」が付加されたもので、原告が製造した歴代の「DB」シリーズのうちの一車名を明確に示すものであることや、本願商標の周知・著名性とあいまり、本願商標の組合せは独自の構成と認められるべきものである旨主張する。 しかし、本願商標は、欧文字2文字と数字1文字を、一般に用いられる書体で横書きしてなるというもので、そのような構成のみによって、それに接した取引者、需要者が原告主張の上記事実を認識すると考えがたく、商標法3条1項5号に該当するか否かを判断する限りにおいては、原告の上記主張は採用できない。原告の上記主張は、本願商標に特別の識別力があることをいうものであり、この点については、後記2において検討するとおりである。 さらに、原告は、特許庁において、過去に欧文字と数字の組合せからなる商標について多数の登録が認められていること、他国においても登録が認められていることを挙げる。 しかし、特許庁において欧文字と数字の組合せからなる商標の登録が認められているとしても、登録出願に係る商標が登録され得るものかは、その商標の構成、指定商品、指定役務の分野における取引の実情等を勘案して、商標ごとに個別にされるというほかないものであるし、我が国においては我が国の商標法に基づきその登録の可否が決せされるのであるから、原告主張の事実によって、本願商標の登録が直ちに認められるものではない。 (4) 原告は、取引の実情を考慮すると、本件指定商品に係る「Automobiles」等の産業分野である自動車産業においては、欧文字と数字の短い組合せによる商標が採択されて、商標の機能を果たし、特に、欧州車については、欧文字と数字の短い組合せが商標として機能する旨主張する。 確かに、自動車産業においては、商品名として、欧文字と数字の短い組合せが採用されることがあることは認められる(甲11ないし26)が、他方、本件指定商品、役務の分野において、欧文字と数字の短い組合せが、管理のための符号として用いられることは上記(2)のとおりであり、本件指定商品、役務の分野において、欧文字と数字の短い組合せに接した取引者、需要者が、一般的に、その組合せを特定の出所を表示する標章であると理解するとは到底認められず、原告の主張は採用できない。なお、原告の上記主張は、本件指定商品、役務の分野において、欧文字と数字の短い組合せが、識別力を獲得する特別の場合があることをいうものであり、この点については、後記2において検討するとおりである。 その他、原告は、本件指定役務との関係で、本願商標が製品等の型式又は規格等を表示するための記号等として把握されることはあり得ない旨等主張するが、上記説示に照らし、採用できない。 (5) したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について (1) 審決は、「DB」にシリーズ番号ともいえる「9」が付された商標は、全体として、アストンマーチンの社名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを容易に想起させるものである旨の原告の主張を排斥したのに対し、原告は、審決の判断が誤りであり、本願商標は、使用の結果、識別力を取得している旨主張する。 (2) 商標法3条2項は、同条1項5号に該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」は、商標登録を受けることができるとする。この趣旨は、当該商標が、本来であれば、自他商品識別力を持たないとされる標章であっても、特定人が当該商標をその業務に係る商品、役務に使用した結果、当該商品等から、商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に、広く知られるに至った場合には、登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること、当該商標の使用によって、商品等の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上、他の事業者等に、当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。 商標が商標法3条2項の規定により商標登録を受けることができるものであるかを判断するに当たっては、上記の観点を勘案して、当該商標及び商品、役務の性質・態様、取引の実情等を総合考慮すべきである。 (3)ア DB9との名称の車について、以下の記事等がある。 2003年(平成15年)9月9日との記載があり、「Vivid News」との標題があるウェブサイトには、「『DB9』アストンマーチンの新時代の幕開けを告げる革新的モデル」、「新型『DB9』にはアストンマーチンの未来が凝縮されています」、「DB9は歴代アストンマーチンの中で最も大きな成功を収めたDB7の後継車として2004年の春から販売が開始されます。」(甲56)などの記載があった。 autobytel−japan.comとの記載があり、「【特別企画】東京モーターショーの前哨戦! 第60回フランクフルトモーターショー」との標題があるウェブサイトには、「英−アストンマーチン【新型】DB9 フランクフルトショーでベールを脱いだ新型モデルDB9。旗艦モデルのバンキッシュ用をベースにしたV12エンジンは450馬力を発生し、0−100kmは4.9妙、最高速度は295キロに達するという。」(甲58)などの記載があった。 JP.AOL.COMとの記載があり、「News&Impressions」との標題があるウェブサイトには、「アストンマーチン『DB9』をフランクフルトショーで発表」、「アストンマーチンは、2003年9月に開催される『フランクフルトモーターショー』で、DBシリーズの最新モデル『DB9』を発表する。」、「DB9は、2004年の春から生産が始まる予定。価格などの詳細は、まだ発表されていない。」(甲65)などの記載があった。 2004年(平成16年)1月16日との記載があり、「Response.」との記載があるウェブサイトには、「【デトロイトショー’04速報】アストンマーチン期待の『DB9ボランテ』」との標題のもと、「03年は、映画『007』シリーズによるイメージアップ作戦を展開したアストンマーチン。今回は、同社にとっても13台目のカブリオレモデルとなる『DB9ボランテ』が登場した。昨秋、独フランクフルトショーでデビューさせたDB9シリーズに、アストンマーチンは並々ならぬ期待をかけている。・・・ちなみに米現地価格は16万8000ドル(約1850万円)也」(甲59)などの記載があった。 新潮社のウェブサイトには、平成17年8月26日同社発行「ENGINE」2005年10月号を紹介する記事があり、そこには、同雑誌の紹介として、「巻頭特集のカリズマ車を見よ!」「“カリズマ”は原義においては、他者の自発的献身を引き出さざるを得ない、あらがいがたい魅力や魔力を備えた人のことである。それがどんな利益をもたらすのか、というようなことにはまったく顧慮しない献身に値するだれか、なにかがカリズマなのだ。クルマにもそんな魅力や魔力をもつものが多くはないが存在する。」、「第4部日本に上陸した最新カリズマ車に乗るその(2) 6リッターV12搭載イギリス随一の高級スポーツカーブランドのオープンに乗る。」、「喋りすぎないカリズマ」、「“円盤”を意味するイタリア語=ヴォランテの名を持つDB9のオープン・モデルがこの8月、日本に導入された。箱根でいち早くステアリングを握った、吉田匠の報告。」(甲51)などの記載があった。 Car@niftyとの記載があり、「試乗レポート」、「アストンマーチンDB9」との標題あるウェブサイトには、2005年(平成17年)9月6日の日付があり、「乗れば気分は『007』ボンドカーは正統派スポーツカー」、「正統派スポーツカーの雄。V12の雄叫びはフェラーリのライバル。乗れば気分は007 アストンマーチン。その名は聞いたことがあっても実際にどんなクルマなのか。そしてどんな走りを持っているのかなど、アストンマーチンの実態を知る人は少ない。その理由は生産台数があまりにも少なく、実体験を持つユーザーも少ないからだ。」、「アストンマーチンといえばやはりすぐに思い浮かべるのは007、ジェームズ・ボンドだ。古くは007シリーズのゴールドフィンガーで、ボンドカーとして活躍したのがDB5と呼ばれるクルマ。」、「ここに紹介するDB9は、アストンマーチンの屋台骨を支える中核機種なのである。」(甲54)などの記載があった。 平成18年8月4日及び同年9月30日の日本経済新聞には、「英国が誇るスポーツカーの頂点アストンマーティン」との広告が掲載され、そこには、車の写真が掲載されるほか、アストンマーティン・ジャパンの問い合わせ先や、その正規ディーラーの連絡先が記載され、「DB9 Coupe V12 5935cc 336kW(450bhp)/5750rpm 570Nm/5000rpm □6MT 18,630,000円□タッチトロニック2 6AT 19,180,000円」、「DB9 Volante V12 5935cc 336kW(450bhp)/5750rpm 570Nm/5000rpm □6MT 20,230,000円□タッチトロニック2 6AT 20,780,000円」等の記載(甲46、47)がある。 平成18年10月1日二玄社発行「CAR GRAPHIC」2006年10月号には、「一歩もゆずらぬ誇り」としてポルシェ911ターボとアストン・マーティンDB9クーペを対比させる記事があり、「ボディに鋭い視線を向け、うがつようにネットリと這わす。ためつすがめつ、そんな気にさせられのもスポーツカーなればこそで、”涙目・大口”を改めるなどデザインが整理されて端正なイメージが出てきた911ターボと、マス感を大切にしつつ入り組んだ曲面をエッジと絞りで巧みに扱ったDB9、どちらも見飽きることがない。・・・997世代に進化した911ターボの上陸をきっかけに、性能と価格の両面でライバルと目されるDB9を連れ立って、盛夏の東北地方を目指すことにした。」(甲44)との記載がある。 イ 原告及びその製造する車について、以下の記事等がある。 平成18年4月学習研究社発行「LE LOVANT」2006年4月号には、「新世代アストン第3のモデルは、4.3gV8搭載のスプリンター。飛躍への夏。V12ヴァンキッシュ、DB9というアストン・マーティン伝統の12気筒モデルに対し、4.3gV8ユニットをフロントミッドシップに搭載するV8ヴァンテージを、ようやく日本の路上で走らせる日がやって来た。」、「そのスポーツクーペのリアのナンバープレートには『AM V8VANTAGE』の文字が。アストン・マーティンV8ヴァンテージのプロトタイプが、初めて公衆の面前に姿を現した瞬間だった。ところがアストンは、同じ年のフランクフルト・ショーにV12エンジンを積んだDB9を送り出し、翌’04年にはそれを発売する。・・・1922年に最初のスポーツカーを生み出して以来、度重なる危機を経験しながらも、英国の名門として自他共に認める存在であり続けてきたアストン・マーティンの、完全復活である。」(甲41)との記載がある。 平成18年6月二玄社発行「クルマの神様」季刊第1号には、「アストンマーティン・V8ヴァンテージ」の試乗記事があり、「V12搭載フラッグシップが『ヴァンキッシュS』、同デチューン版V12を搭載する4座が『DB9』、DB9のオープンボディ車が『ヴォランテ』。本稿『V8ヴァンテージ』とはDB9の短縮・廉価版の2シーターV8搭載車で、本来なら『DB8』と呼ばれるはずだったモデルである。」(甲42)との記載がある。 平成18年7月幻冬社発行「GOETHE」2006年7月号には、アストンマーティン・V8ヴァンテージの紹介記事があり、そこには、「第二次世界大戦後、アストンマーティンはトラクターメーカーを経営するイギリス人事業家デビッド・ブラウンに買い取られる。・・・デビッド・ブラウン傘下のアストンマーティンは潤沢な資金力によってスポーツカー/レーシングカーの両分野で戦前を凌ぐ成果をあげた。車名にはアストンマーティン名に加え、デビット・ブラウンのイニシャルである『DB』が冠された。DBシリーズ第一作のDB1は縦長のラジエーターグリルの下端左右に機能的理由からたままた横長のエアインテークを配しており、そのせいで独特の雰囲気と個性を持っていた。そこで第二作DB2では縦長のグリルと横長インテークを一体化した凸形のフロントインテークをデザインした。これがDBシリーズの外観上のシンボルとなり、ブランドイメージを増強する。映画『ゴールドフィンガー』でジェームズ・ボンドが乗った凸形グリルのアストンマーティンはその第五作『DB5』である。」(甲43)との記載がある。 また、平成16年4月25日の毎日新聞の記事には、「世界各国の往年の名車が市内を走る『マロニエラン・イン日光』が24日、所野の霧降スポーツバレイなどを会場に始まった。・・・第2次大戦前の1928年に生産された『ブガッティT37A』や世界で1台しかないという『アストンマーチンDB3』など、県内を含む1都6県から往年の世界の名車40台が集結した。」(甲68)と記載があり、平成13年3月4日の産経新聞の記事には、「大宮ハタ・クラシックカー博物館70年代までの名車102台を展示」、「スロットカーのサーキットを探していて博物館の存在を知ったという自動車修理業の木下聡さん(36)は、『全国の自動車の博物館を訪れているが、私の好きな英アストンマーチン社のDBシリーズが4台もそろっていたのはここだけ。昔の自動車には今の自動車にはない個性があって見飽きることがない。』」(甲68)との記載がある。 ウ 日本自動車輸入組合作成の輸入車新規登録台数速報(乙31)によれば、原告が製造した自動車の、平成16(2004)年の輸入台数は69台、平成17年の輸入台数は110台、平成18年の輸入台数は229台である。 (4) 上記(3)によれば、原告は、平成15年に新型高級自動車を発表し、これにDB9との名称を付し、その後、日本においても、DB9との名称が付された自動車を宣伝、販売していて、本願商標を本件指定商品に含まれる「automobiles」に使用した。 原告は、高級スポーツカーのメーカーとして知られていて、その製造する高級スポーツカーに対し、オーナーであったデビッド・ブラウンの頭文字であるDBに数字を続けた名称を付しており、そのような名称の車は、映画において重要な役割を果たしたり、名車として扱われていて、原告が製造した歴代のスポーツカーについては、DBシリーズとも呼ばれ、少なくとも、自動車に相当程度の関心がある者の間では、一定の評価を得ていた。上記のDB9との名称の自動車も、それらのDBシリーズの最新版として位置付けられている。原告が高級スポーツカーの製造者として知られていること、DBシリーズについても相当の評価を得ていたことなどから、原告が製造するDB9との名称の自動車は、日本においても、原告自らの直接的な宣伝をまたずに、ニュースという形で海外の自動車ショーでの発表が紹介されたりした。また、自動車を扱う雑誌やウェブサイトにおいても、高級スポーツカーとして紹介されたり、記事として取り上げられるなど、DB9との名称の自動車が注目されていた。 (5) 本願商標が、本願商標から商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に広く知られるに至ったかについて以下、検討する。 ア 原告が本願商標の使用を開始したのは、比較的近年であり、本願商標を付した商品の広告を全国紙の新聞に掲載したことは認められるが、そのような広告が何回掲載されたかは不明である。また、原告が製造する自動車の日本における販売台数は、日本の自動車販売数全体に比し、非常に小さいものである。そして、本件において、証拠として提出された、DB9との名称の車について扱われた記事の数は必ずしも多いものではない。 しかし、「」(自automobiles 動車)をめぐる取引の実情等をみると、有名な自動車メーカーの数自体がさほど多くないこと、新車等の発表は、極めて頻繁に行われるとまではいえないこと、性能やスタイルへの魅力等から、特に、高級とか有名とされる自動車に注目する取引者、需要者は数多くいることなどから、有名な自動車メーカーが新たに発表する自動車や、名車とされるもののシリーズとして新たに発売される自動車について、その名称も含め積極的に注目する取引者、需要者が、類型的に相当程度いることは明らかである。したがって、この分野においては、広告や記事の数、販売数量が必ずしも多いとはいえない場合であっても、ある商標が取引者、需要者に広く知られることがあると認められる。 本件について、原告は、高級スポーツカーのメーカーとして知られていて、原告の製造した自動車もDBシリーズとして自動車に相当程度の関心がある者の間で知られていたことに、「atutomobiles」の分野の上記の取引の実情を考慮すると、同分野の取引者、需要者において、原告が新たに発表するDB9との名称の車に、発表時や日本での発売時に積極的に注目する者が、類型的に相当程度いると認められのであり、現に、DB9との自動車がニュースという形や雑誌の記事等で注目されたりしていること、そこにおいて、DB9は、「アストンマーチンDB9」というように社名であるアストンマーチンと一体としてのみ使用されるものではなく、独立して、DB9が車名を表すものとして使用されていること、広告もされていることなどから、 本願商標は、 審決時( 平成18年9月25日) には、「atutomobiles」の分野の取引者、需要者に、本願商標から原告との関連を認識することができる程度に広く知られていたと認めることが相当である。 イ 被告は、出願商標の指定商品、役務の一部に登録を受けることができないものがあるときは、その出願は全体として登録を受けることができない旨主張する。 ここで、 「automobiles」以外の本件指定商品についてみると、 「bicycles,motorcycles」は、「automobiles」と同じく移動用車両であり、自動車メーカーがそれらの商品を製造することがあること(甲82ないし84)からもうかがえるように、取引者、需要者が類型的に重なる部分があり、このことからすると、上記アにあげたような諸事情に照らせば、本願商標は、同分野の取引者、需要者にも、本願商標は、本願商標から原告との関連を認識することができる程度に広く知られていたと認められるし、「parts and fittings therefor」も、その取引者、需要者が、上記指定商品と重なるといえることからすれば、同様である。本件指定役務である「Repair, restoration, maintenance, reconditioning, diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor」についてみても、これらの役務の取引者、需要者は、本件指定商品の取引者、需要者と重なるといえるし、製品の製造とその修理等は密接に関連するので、本件指定役務に本願商標が付されていれば、取引者、需要者は、それが原告の業務に係る役務を示すものであると理解することがあると認められるものと認められる。 ウ したがって、本願商標は、本件指定商品、役務の取引者、需要者に、本願商標から原告の業務との関連を認識できる程度に、広く知られていた。 (6) 以上のとおり、本願商標に係る商品、役務の性質・態様、取引の実情等に照らすと、本願商標は、原告の使用の結果、取引者、需要者に、本願商標から原告の業務との関連を認識することができる程度に、広く知られるに至っていて、これに登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しい。また、本件指定商品、役務の分野において、原告を出所として表すと広く認識されるDB9との標章について、これを原告以外の者が、自己の業務に係る商品、役務を表す標章として使用している事実を認めるような証拠は本件において提出されていないのであり、本件指定商品、役務の分野において、本件においては、本願商標の原告による独占使用が事実上容認されているものと認められる。審決中には、DBとの標章がホンダインテグラの型式名として使用されている事実が指摘されているが、そこでは、DB9は、型式名として使用され、自己の業務に係る商品、役務を表す標章として使用されていない。なお、本願商標は、例えば、数字だけからなるとか、欧文字1文字又は2文字だけからなる商標に比し、自他識別機能を獲得しやすい面があるし、公益的な見地から商標登録を認めないとする要請が後退しやすい面がある。 したがって、本願商標は、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)であると認めることが相当である。 (7) 被告は、「DB○」(「○」の部分は数字)の標章を用いる場合や、「DBシリーズ」の語が記載された雑誌やインターネットの情報は極めて少数に限られ、そのいずれもが、「アストンマーティン」、「Aston Martin」等の名称と関連付けられているとして、「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称との関連付けのない場合においてまで、「DBシリーズ」と称される名称が世界有数の著名ブランドの一つとなっているとは、到底認められない旨主張する。 しかし、前記のとおり、本件指定商品等の分野においては、取引の実情等を考慮すると、広告や記事の数、販売数量が必ずしも多くない場合であっても、ある商標が取引者、需要者に広く知られることがあり、本件は、個別の広告等によって本願商標が広く知られるようになったというものではないから、証拠として提出された情報の数が直ちに広く知られているか否かを決定するものではない。 また、確かに、DBシリーズやDB9の語が記載された雑誌やインターネットの情報において、それらは、「アストンマーティン」、「Aston Martin」社のものとして、説明されている。しかし、それらの記事においても、原告が製造した自動車を表す場合、必ず、「アストンマーティンDB9」として使用されているものではなく、本件指定商品等の取引者、需要者に、DB9との名称の車に積極的に注目する者が類型的に相当程度いるといえるなどの前記の事情を考慮すると、被告指摘の事実は、直ちに上記の判断を左右するものではない。 (8) 被告は、「DB9」と称される原告製造に係る自動車の生産、販売台数が極めて少ないものと推認されることから、「DB9」が、アストンマーチン社のスポーツカーを指し示すものとして、愛好家のみならず一般の自動車購買者の間でも広く認識された社名ブランドであるということはできない旨主張する。 確かに、本願商標が付された自動車の日本における販売台数は、少ないものであるが、販売数量と関係なく、商標が取引者、需要者に広く知られるといえる場合はあり、本願商標は、前記(5)のとおり、このような場合に当たるから、被告主張の原告の自動車の販売数量は、上記(5)の判断を左右するものではない。 また、商標法3条2項に該当する商標と認められるためには、当該商標から、商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に広く知られるに至ったといえる必要があり、取引者、需要者に、偶然、広告を見たとか、個人的な関係があるとか、一般的とはいえない特別な関心を持っていたため、知られていたと評価されるような場合に当該商標の保護を認めることは相当でないし、また、商標権が全国的に及ぶことからも、地域的に限られた範囲においてのみ、知られているといえるような場合においても、その商標が広く知られているとして保護するのは相当ではない。しかし、商標の保護が認められるためには、取引者、需要者のすべてが知っているといえるまでの必要はなく、個別的な事情に基づかず、その商標が特定の者の出所を表すものであることを知っている取引者、需要者が類型的に相当程度いるということが一般的にいえるような場合には、その商標は、一般的に、商標としての機能を果たしている場合があるのであるから、保護を認めることが相当である。そして、本件については、取引の実情等も含めた前記各事情に照らすと、本件指定商品、役務の分野の取引者、需要者においては、本願商標を原告の業務の係る標章であると認識する者が、類型的に相当程度存在するといえるものであり、本願商標について、広く知られるに至ったと認めることが相当である。 (9) 被告は、出願商標の指定商品、役務の一部に登録を受けることができることができないものがあれば、出願は全体として登録を受けることができないとした上で、 原告が提出する証拠に基づいては、 「automobiles」が、 「bicycles」や「motorcyles」と高い関連性を有するとすることはできない旨主張する。 出願商標の指定商品、役務の一部に登録を受けることができることができないものがあれば、出願は全体として登録を受けることができないものであるとしても、前記のとおり、商標の保護が認められるためには、取引者、需要者のすべてが知っているといえるまでの必要はなく、個別的な事情に基づかず、その商標が特定の者の出所を表すものであることを知っている取引者、需要者が類型的に相当程度いるということが一般的にいえるような場合には、その商標について広く知られているといえる。そして、「bicycles」や「motorcyles」に属する商品を自動車メーカーが製造することがあり、それらの取引者、需要者と、「automobiles」の取引者、需要者についても、 類型的に重なる部分があることが認められることなどから「automobiles」以外の本件指定商品、役務についても、本願商標が、本願商標から原告との関連を認識できる程度に広く知られるに至っているといえることは、前記(5)イのとおりであり、被告の主張は採用することができない。 (10) したがって、原告主張の取消事由2は理由がある。 3 よって、原告主張の取消事由2は理由があるから、原告の請求は理由があり、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 宍戸充 裁判官 柴田義明 |
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