判例全文 | ||
【事件名】商標“オリックス”侵害事件(2) 【年月日】平成19年10月30日 知財高裁 平成19年(行ケ)第10150号 審決取消請求事件 (口頭弁論終結日 平成19年10月23日) 判決 原告 株式会社折原製作所 訴訟代理人弁護士 渡邉正昭 被告 オリックス株式会社 訴訟代理人弁理士 広瀬文彦 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が取消2006−30063号事件について平成19年3月20日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、原告が有する後記商標登録に対し、被告が不使用取消審判請求をしたところ、特許庁が同登録を取り消すとの審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案である。 争点は、原告が有する本件商標登録は「オリックス」であり原告使用商標は「Orihara &Orix」であるところ、@原告のウェブサイトによる上記使用商標の使用の有無、及び、A両商標は社会通念上同一といえるか、である。 第3 当事者の主張 1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 ア 原告は、昭和62年12月11日に下記内容の商標登録出願をし、平成3年8月30日、(旧)第19類「便器、和式便器用椅子、家庭用し尿処理そう、家庭用汚水浄化そう」を指定商品として、設定登録を受けた(登録第2330246号商標。以下「本件商標」という。)その後、原告は、平成16年1月21日、指定商品を下記のとおりとする書換登録を受けた。 記 ・商標 オリックス ・指定商品 第11類 便器、和式便器用いす、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽 イ ところで被告は、平成18年1月18日、特許庁に対し本件商標の指定商品全部につき、商標法(以下「法」という。)50条1項に基づき不使用取消審判を請求(以下「本件審判請求」という。)し、平成18年2月3日、商標登録原簿にその旨の予告登録がなされた。 特許庁は、同請求を取消2006−30063号事件として審理した上、平成19年3月20日「登録第2330246号商標の商標登録は取り消す。」旨の審決をし、その審決謄本は平成19年3月30日原告に送達された。 (2) 審決の内容 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は、@被請求人たる原告の提出する証拠によっては、被請求人により使用されたことを証明する証拠となり得ない、A原告が使用したとする商標は「Orihara &Orix」 (以下「原告使用商標」という。)というもので、これは本件商標と社会通念上同一とはいえない、としたものである。 (3) 審決の取消事由 しかしながら、審決の判断には、次のとおり誤りがあるから、審決は違法として取り消されるべきである。 ア 原告は本件審判請求の予告登録日以前からその指定商品全部について本件商標を使用している(取消事由1) (ア) 本件商標の商品識別標識である「Orix」は、遅くても2002年(平成14年)10月30日以後、又は、遅くても2004年(平成16年)12月24日以降、又は、本件審判請求の予告登録日である平成18年2月3日の時点において使用されていたものである。また、使用商品である「和風すみ付形」便器(簡易水洗便器)(甲1の1、甲9の3)、並びに「オリポンリフレッシュカー(オリクリーン搭載工事用トイレカー)」及び「エレクトラマジック-オリポッテ-(水洗式ポータブルトイレ)」(甲1の1、甲9の4)がいずれも第11類の指定商品である便器等に該当することは明らかである。 (イ) 審決は、原告のホームページ上に掲載されている使用商品の販売時期を見出すことができないとするが、本件ホームページ上の更新情報は、本件係争とは無関係に過去の更新時毎に書き加えられたものであり、以下のとおりのものである。 @ ホームページは、2002年(平成14年)10月30日、2003年(平成15年)4月10日にリニューアルされ、2004年(平成16年)3月2日にトップページのレイアウトが新しくされたが、その後は現在に至るまでリニューアルされていない。 A 指定商品に係る便器等(トイレサニタリー製品)の商品情報については、2002年(平成14年)10月30日のホームページのリニューアル時に商品情報をホームページ上に掲載し、次に、2004年(平成16年)12月24日にトイレサニタリー情報を一部追加した(甲9の1)のみで、その後は現在に至るまで何ら変更が加えられていない。 B 上記更新情報中、2004年(平成16年)12月24日の指定商品に係る便器等(トイレサニタリー情報)(甲9の1)の下線が引かれた「トイレサニタリー製品」の文字列をマウスでクリックすると、トイレサニタリー製品の一覧サイト(甲9の2)が表示されるが、同サイトの「簡易水洗便器」(下線が引かれている)の文字列をマウスでクリックすると、「和風すみ付形」便器の製品説明サイト(甲9の3)が表示され、この商品が、第11類の指定商品である「便器」に該当する。 C 上記更新情報中、2004年(平成16年)12月24日の指定商品に係る便器等(トイレサニタリー情報)(甲9の1)の下線が引かれた「トイレサニタリー製品」の文字列をマウスでクリックすると、トイレサニタリー製品の一覧サイト(甲9の2)が表示される。そして、同サイトの「工事用トイレカー」(下線が引かれている)の文字列をマウスでクリックすると、「オリポンリフレッシュカー(オリクリーン搭載工事用トイレカー)」及び「エレクトラマジック-オリポッテ-(水洗式ポータブルトイレ)」のそれぞれの説明サイト(甲1の1、甲9の4)が表示されるが、さらに下線が引かれた「トイレタンク」の文字列をマウスでクリックすると、「トイレタンク・平付ロータンク」の製品説明サイト(甲9の4)が表示され、これらの商品が、第11類の指定商品である「便器、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽」に該当する。 D 本件審判請求の予告登録日である平成18年2月3日よりも後の更新情報によると、実際になされた更新は「施工現場HOTレポート」、「トピックス」、「サイトマップ」、及び、「環境方針書」「トイレタンクの価格改定」のみであり、製品やホームページのフォームに関する更新は一切なされていない。 (ウ) 以上によれば、本件ホームページの製作変更過程をみると、遅くても平成16年3月2日には、現在使用されている原告ホームページと同一フォーム及びレイアウトのホームページが完成したこと、本件ホームページは、2002年(平成14年)10月30日、2004年(平成16年)12月24日のそれぞれの更新時に、それぞれの製品内容の追加変更がなされ、遅くても、平成16年12月24日に現在のホームページ上の使用製品情報サイトと同一内容のサイトが完成していたこと、及び、本件審判請求の予告登録日である平成18年2月3日の時点では、既に現在のホームページと同一のフォーム及びレイアウトの上に本件指定商品に該当する原告商品に関する情報が掲載されていたことが容易に認定できる。 したがって、「被請求人が提出した証拠によっては、被請求人により使用されていたことを証明する証拠とはなり得ない」(7頁下9行〜下8行)とした審決の判断は誤りである。 イ 本件商標「オリックス」と原告使用商標「Orihara &Orix」とは社会通念上同一である(取消事由2) (ア) 審決は、商標の類似性の判断と商標の使用の判断を混同するものであって是認できない。使用標章と登録商標との同一性の判断は、社会通念上の価値判断であるが、審決の価値判断の手法には誤りがある。すなわち、原告使用商標である「Orihara &Orix」中には、本件商標である「Orix」が使用されているが、問題は、本件商標である「Orix」の独立性が構成上認められるか否かである。この場合における独立性の判断は、指定商品の取引者・需要者に同一標章と認識できるか否かという基準の中で検討されるべきである。 (イ) そうすると、原告は、株式会社折原製作所として昭和13年に創業以来「一、創意工夫の心 一、技術の心 一、感謝の心 一、和の心、 一、垂範実践の心」の五心を社是社訓として、トイレサニタリー製品の開発・製造・販売業務を営んできたのであり、トイレサニタリー製品の分野では、「折原製作所」、「オリハラ製品」はリーディングカンパニーとしての商品の優秀さを示す標章として知れ渡ってきた(甲9の5〜8)。 原告の「Orix」 (=オリックス)の商標は、原告の株式会社折原製作所=「Orihara」の響きを残しつつ、その一層の発展可能性を標榜して、未知数を意味する「X」を語尾に付加して案出されたものであるが、原告は、この商標を商品識別標章として、長年にわたって使用を継続してきたのであり、それゆえに、この商標には原告商品の優秀さを示す標章として永年に亘る信用が蓄積されてきた。 (ウ) 「Orix」及び「Orihara &Orix」は、いずれも、株式会社折原製作所を根源的にイメージするものであるが、商標である「Orix(=オリックス)」に、原告会社名を表す「Orihara」の文字列を付加したことによっても、この根源的なイメージは変わらないし、指定商品の取引者及び需要者に対しても混乱が生じることはない。また、「Orix」に「Orihara」が付加されるに至った経緯についても、両者は、原告が開発・製造・販売する「オリハラ製品」(甲9の5〜7)を表象する独立性をもった標章として使用されてきたのであり(甲2〜5)、外観・称呼の点においても両者は独立のものである。 (エ) したがって、商標である「Orix」と識別標章である「Orihara &Orix」は、いずれも、原告の商品を表すものとして、本件商標の指定商品の取引者・需要者が容易に同一標章と認識することができるものであり、両者は、社会通念上の同一性が認められる。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、同(3)は争う。 3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 (1) 取消事由1に対し ア 原告が使用する商標「Orihara &Orix」は、原告の特定の商品に付された商標ではなく、単に原告のウェブサイトの名称あるいは商号の一種として使用されているに過ぎないものであり、指定商品の識別標識として機能する使用には該当しないと評価せざるを得ない。 すなわち、本件で問題となるのは、第11類の商品について商標の使用と認められるかであるところ、甲9の3を精査すると、本件商標の指定商品「便器」がウェブサイト上に掲載されていることは認められるが、当該商品を識別しているものは、ウェブサイトの中央部に品番・型番として記載されている「OH−100」や「OHE−1001」であり、当該商品はこれらの品番・型番によって取引されている。また、甲9の4には、本件商標の指定商品「便器、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽」がウェブサイト上に表示されていることは認められるが、これらの商品を取引するための識別標識は「洗浄水循環式トイレ」あるいは「0730−12、V」であり、または「オリポッテ」あるいは「0720−CO」である。 したがって、甲9の3、4に記載された商品は、品番としての商標、あるいは商標「洗浄水循環式トイレ」及び商標「オリポッテ」を付して取引に資されているものであり、商標「Orihara &Orix」はウェブサイトの名称あるいは業者としての原告の商号の一種として使用されているに過ぎない。 イ 原告は、指定商品である「便器、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽」が掲載されている原告のウェブサイト(甲9の3、4)上で、平成14年10月30日から現在まで、指定商品について商標「Orihara &Orix」を使用していた旨主張する。しかし、商品が掲載されているウェブサイトの写しである甲9の3、4には、肝心の日付が記載されておらず、これらのページが原告ウェブサイトのリニューアルされた平成14年10月30日に掲載されたものであるかどうかは判然としない。この点、更新情報のページに、指定商品が記載されたページの更新情報が記載されていないことは、あくまでもこれらのページが更新されていないことを推測させるものに過ぎず、当該ページが本件審判請求の登録前3年以内に掲載されたことの証明になるものではない。また、更新情報には主に商標「マホータイ」が表示されているだけであり、「オリックス」の使用に関する記載は一切ない。 また、いかにホームページが更新されたとしても商標の付された商品が現実にいつ製造されたかを証明するものではないし、また、販売された事実の証明にもならない。 (2) 取消事由2に対し ア 法50条1項かっこ書の「社会通念上同一と認められる商標」とは、パリ条約5条C(2)にいう「登録された際の形態における商標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加えて使用する商標」と同義と考えられ、その判断主体は取引者・需要者であるから、需要者等からみて原告の使用する商標が登録商標の構成の識別性に影響を与えるかどうかという点から判断すべきである。 イ そして、本件商標は「オリックス」の片仮名から構成されているものである一方、原告使用商標は、原告会社名の略称をアルファベットで表記した「Orihara」と、本件商標の音読みをアルファベットで表記した「Orix」の文字を、記号「&」を介して結合したものである。そして、「&」は、英単語の「and」を意味する記号であることは広く知られており、また「and」の語は、並列的に前後の言葉を結合する役割を持っており、「〜と〜」のような意味を有する等位接続詞として広く知られ、かつ、多用されている。したがって、「&」「and」は前後の言葉を結合させる役割を有するから、その前後の語は、その一方が指定商品・役務との関係で識別力がなく商標の要部となりえないというような特段の事情がない限り、分離して使用しないことが前提と考えられる。 ウ これを本件について見ると、「Orihara」の文字は原告名称の略称をローマ字で表記したものであり、識別力が全くないという性質の部分とも考えられない。また「Orix」の文字は造語と考えられる。したがって、いずれの語も指定商品との関係で識別力を有する語であると考えられるため、商標の要部となりうるものである。かかる要部が、外観上同一の書体、同一の大きさで軽重の差なく「&」で結合された場合「&」の、記号が持つ上記の機能により、商標全体として識別力を発揮する不可分一体の商標になると考えられる。また〔オリハラアンドオリックス〕とい、う一連の称呼も全体として12音からなる称呼であり、当然に分離されなければならないほどに格別に冗長な称呼ともいえないものである。 このように、本件商標「オリックス」に、指定商品との関係で識別力のない語を結合するのであれば別論、識別力があると考えられる「Orihara」の語を付加した原告の使用する商標は、商標の識別性に影響を与えることとなり、観念も同一とはいえないから、法50条1項かっこ書における「社会通念上同一の商標」とはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。 2 原告による本件商標の使用の有無(取消事由1)について (1) 法50条1項は、「継続して三年以上日本国内において商標権者…が各指定商品…についての登録商標…の使用をしていないとき」と定め、また「使用」の意味につき法2条3項が、「この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう」として1号から8号まで掲げているので、以下、本件において上記各号に掲げる「使用」がなされたのか否かについて判断する。 (2) 証拠(甲1の1〜2、9の1〜8、10、11、12の1〜3、13の1〜3、14、15の1〜3、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社のウェブサイトについて、以下の事実を認めることができる。 ア(ア) 原告は、昭和13年に創業された株式会社であり、シスタンク及びその他の衛生設備器具の製造販売等を業とする会社であるところ、昭和62年12月11日、本件商標「オリックス」を指定商品旧第19類「便器、和式便器用椅子、家庭用し尿処理そう、家庭用汚水浄化そう」として出願し、平成3年8月30日に登録第2330246号として商標登録を受けたが、その後はその指定商品につき同商標を使用することなく経過した。 (イ) 原告は、平成13年(2001年)冬頃、便器等のインターネット通販による販売を始めることとした際、インターネット通販における原告製品のラインナップを統括する標識として 、「Orihara &ORIX」を各ウェブサイト共通のヘッダー部分で用いることとし(甲12の1)、そのころ、これらのウェブサイトを作成して、インターネット広告として閲覧可能な状態に置いた。 (ウ) しかし、原告のウェブサイトのヘッダー部分は、平成14年(2002年)6月7日現在で「Orihara &OLIX」と表示されていたため(甲12の2 )、そのころ、原告代表者は、これを「Orihara &Orix」と修正するよう指示した(甲12の3) 。 (エ) その後、原告のウェブサイトは、平成14年(2002年)10月30日、平成15年(2003年)4月10日のリニューアルを経て、遅くとも平成16年(2004年)3月2日にトップページのレイアウトを新しくした後は、リニューアルはなされていない(甲9の1) 。 (オ) 原告の平成19年9月18日現在(原告代表者尋問の実施期日)のウェブサイトの内容は、以下のとおりである。 @ 「更新情報」のページ(甲9の1)には、先頭部分の左上欄(ヘッダー部分)に「Orihara &Orix」と表示された上、以下の記載がある。 a 2004/03/02トップページのレイアウトを新しくしました。 b 2004/12/24トイレサニタリー製品の情報を一部追加しました。レイアウトも変更しました。 c 2005/01/17トイレサニタリー製品「トイレタンク」情報のレイアウトを変更しました。 d 2007/01/22トイレタンクの価格を改定しました。(トイレサニタリー製品) A 同「更新情報」のページには、本件審判請求の予告登録日である平成18年(2006年)2月3日よりも後に更新された情報は、「施工現場HOTレポート」、「トピックス」、「サイトマップ」、「環境方針書」及び「トイレタンクの価格改定」が記載されているが、製品やホームページのフォームに関する更新がなされた旨の記載はない。 (カ) 上記(オ)@の「更新情報」のページのうち、bの下線部(トイレサニタリー製品)の文字列をマウスでクリックすると、トイレサニタリー製品の一覧サイト(甲9の2)が表示される。同一覧サイトは、先頭部分の左上欄(ヘッダー部分)に「Orihara &Orix」と表示された上、「トイレサニタリー製品」「折原製作所では、住環境に適応した、人に優しいトイレサニタリー製品を提供しています。」との記載の下に、「トイレタンク」、「女性トイレ用節水器具」、「ペーパーマホールダー」、「ポンプ」、「フランジ」、「簡易水洗便器」、「工事用トイレカー」の文字列及び口絵が記載され、いずれの文字列にも下線が付されている。 (キ)@ 上記(カ)記載の文字列のうち「簡易水洗便器」の文字列をマウスでクリックすると、和風便器の製品説明サイト(甲1の1、9の3)が表示される。同製品説明サイトも、その先頭部分の左上欄に「Orihara &Orix」と表示された上、「トイレサニタリー製品」、「和風すみ付形−アクアサイクル和風−」との記載の下に、同製品の写真、寸法が記載された見取り図、品番、価格、商品コード等が記載されている。 A 上記(カ)記載の文字列のうち「工事用トイレカー」の文字列をマウスでクリックすると、工事用トイレカー、水洗式ポータブルトイレの製品説明サイト(甲1の1、9の4)が表示される。同製品説明サイトも、その先頭部分の左上欄に「Orihara &Orix」と表示された上、「トイレサニタリー製品」の下に、「オリポンリフレッシュカー(オリクリーン搭載工事用トイレカー)」、「オリポンリフレッシュカーは、微生物処理型便槽「オリクリーン」を搭載した、工事用トイレカーです。…」等の商品説明や、同製品の外部及び内部の写真、見取り図等が記載されているほか、「エレクトラマジック−オリポッテ−(水洗式ポータブルトイレ)」との記載の下に、製品の写真や商品コード等が記載されている。 B 上記(カ)記載の文字列のうち「トイレタンク」の文字列をマウスでクリックすると、トイレタンクの製品説明サイト(甲1の1)が表示される。同製品説明サイトも、その先頭部分の左上欄に「Orihara &Orix」と表示された上、「トイレサニタリー製品」の下に、「トイレタンク/平付ロータンク」、「平付ロータンク+平付内部金具」との記載の下に、同製品の仕様、価格、商品コード等が記載されている。 (2) 上記(1)の認定事実によれば、原告が、そのウェブサイト上の、インターネット通販における原告製品のラインナップを統括する標識として、遅くとも平成16年(2004年)12月24日(トイレサニタリー製品の情報掲載日、甲9の2以下)以降、ウェブサイトの先頭部分の左上欄(ヘッダー部分)に「Orihara &Orix」と表示した上、トイレ・トイレカー・トイレタンクの写真、見取り図、品番、価格等を記載していることが認められる。そうすると、これを取引者・需要者が見れば、同ウェブサイトの記載の態様自体からして、原告使用商標(Orihara &Orix)は、当該トイレ・トイレカー・トイレタンクについて自他商品識別標識として付されている旨理解すると解される。そうすると原告は上記標章につき、法2条3項8号にいう「商品…に関する広告、価格表若しくは取引書類…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」により使用しているということになる。 したがって、原告使用商標である「Orihara &Orix」について見る限りは、本件商標の指定商品「便器、家庭用浄化水槽、家庭用し尿処理槽」について、本件審判請求の予告登録(平成18 年2 月3 日)前3 年以内に日本国内において商標権者である原告によって使用されていると認めることができる。 (3) 以上によれば、原告が原告使用商標を使用したことを証拠上認めることができないとした審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由1は理由がある。 そこで、進んで、取消事由2 について判断することとする。 3 本件商標「オリックス」と原告使用商標「Orihara &Orix」との社会通念上の同一性の有無(取消事由2)について (1) 法50条1項は、登録商標と使用商標の同一性の有無に関し特別の規定を設け、@書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、A平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、B外観において同視される図形からなる商標、Cその他当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標、であれば両商標は同一としている。 ところで本件においては、前記のとおり登録商標たる本件商標は「オリックス」であり使用商標は「Orihara &Orix」であるから、上記@(書体の変更)及びB(外観同視図形)に該当しないことは明らかであり、またA(片仮名とローマ字等)については、本件商標が片仮名で原告使用商標がローマ字であるものの、後者が「Orihara&Orix」であって両者が同一の称呼及び観念を生ずるものではないから、本件においては、Cの「社会通念上同一」と認められるかどうかのみが問題となり得る。 (2) ところで原告使用商標は、「Orihara &Orix」というように、「Orihara」と「Orix」を、「Orihara」の直後と「Orix 」の直前とを少し空けた上で「&」で結んだものであるが、ここで「&」は「and」と同義であって語を対等に結ぶ働きを有する記号であり、しかも、「Orihara」の部分は、固有名詞を連想させるため、「Orix」の部分と比べてもその識別力に特段の強弱の差はない(むしろ、原告の商号が株式会社折原製作所であることを考慮すると、特定の観念を生じさせることのない後段の「Orix」よりも前段の「Orihara」の方が識別力が強いということも可能である)というべきである。 また、原告使用商標を構成する「Orihara &Orix」の文字全体をみると、「Orihara」の直後と「Orix」の直前との間隔の存在にかかわらず、同一の書体をもって外観上まとまりよく一体的に表されているということができ、「オリハラアンドオリックス」の称呼も格別冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。 そうすると、「Orix」を単独で使用するということをせずに、「Orihara &Orix」として使用した以上、原告使用商標から「Orihara &」の部分を分離して観察することはできないというほかないから、「オリックス」の称呼を生ずる本件商標と「オリハラアンドオリックス」の称呼を生ずる原告使用商標とは、称呼が同一のものとは認められず、その外観及び観念においても同一のものとは認められない。したがって、原告使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標ということはできないというべきである。 (3) 原告の主張に対する補足的判断 ア 原告は、株式会社折原製作所として、昭和13年に創業以来、「一、創意工夫の心 一、技術の心 一、感謝の心 一、和の心 一、垂範実践の心」の五心を社是社訓として、トイレサニタリー製品の開発・製造・販売業務を営んできたのであり、トイレサニタリー製品の分野では、「折原製作所」、「オリハラ製品」はリーディングカンパニーとしての商品の優秀さを示す標章として知れ渡ってきた(甲9の5〜8)、そして、原告の「Orix」 (=オリックス)の商標は、原告の株式会社折原製作所=「Orihara」の響きを残しつつ、その一層の発展可能性を標榜して、未知数を意味する「X」を語尾に付加して案出されたものであるが、原告は、この商標を商品識別標章として、長年にわたって使用を継続してきたのであり、それゆえに、この商標には原告商品の優秀さを示す標章として永年にわたる信用が蓄積されてきた、と主張する。 しかし、原告は昭和62年12月の本件商標の登録出願後現在に至るまで「オリックス」との標章は一度も使用をしていない。また原告使用商標については、上記(2)に説示したとおり、固有名詞を連想させる「Orihara」の部分が、「Orix」の部分と比べてその識別力に特段の強弱の差はないというべきことなどからすると、原告が本件商標の指定商品に「Orix」を単独で使用するということをせずに、「Orihara &Orix」として使用してきた以上、原告使用商標から「Orihara &」の部分を分離して観察しその部分が使用されてきたとはいえないことに変わりはないというべきである。 イ また原告は、「Orix」及び「Orihara &Orix」は、いずれも株式会社折原製作所を根源的にイメージするものであるが、登録商標である「オリックス」(そのローマ字表記は「Orix」)に原告会社名を表す「Orihara」の文字列を付加したことによってもこの根源的なイメージは変わらないし、指定商品の取引者及び需要者に対しても混乱が生じることはない、また、「Orix」に「Orihara」が付加されるに至った経緯についても、両者は、原告が開発・製造・販売する「オリハラ製品(甲9の5〜7)」を表象する、独立性をもった標章として使用されてきたのであり(甲2〜5)、外観、称呼の点においても両者は独立のものである、と主張する。 しかし、上記甲2〜5は、給水管パイプ漏水補修剤である止水ゴムテープ(マホータイ)に関するもので、本件商標の指定商品について使用されたものでないことが明らかである。また上記(2)に説示したとおり、固有名詞を連想させる「Orihara」の部分が、「Orix」の部分と比べてその識別力に特段の強弱の差はないというべきことなどからすると、「Orihara」に「Orix」の文字列を付加した原告使用商標についてまで単独で「Orix」を使用した場合と全く同様と考えることはできず、原告使用商標から「Orihara &」の部分を分離して観察することはできないというべきである。 3 結論 以上によれば、原告主張の取消事由1は理由があるが取消事由2は理由がないことになるから、本件商標登録は不使用を理由に取り消すべきであるとした審決の判断は、結論において相当である。 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 今井弘晃 裁判官 田中孝一 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |