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【事件名】ケネス・ハワード著作物の譲渡事件 【年月日】平成19年10月26日 東京地裁 平成18年(ワ)第7424号 著作権譲渡登録抹消請求事件 (口頭弁論終結日 平成19年8月23日) 判決 原告 フォン・ダッチ・オリジナルズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー 同訴訟代理人弁護士 飯村北 同 折田忠仁 同 甲斐史朗 同訴訟復代理人弁護士 土屋俊介 同 新保勇一 同 福島栄一 同 勝部純 被告 A 同訴訟代理人弁護士 渡邊敏 同 森利明 同補佐人弁理士 齋藤悦子 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告が、別紙1著作権譲渡登録目録記載の登録がされた別紙2著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)を有することを確認する。 2(1) 主位的請求 被告は、原告に対し、本件著作物について、真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続をせよ。 (2) 予備的請求 被告は、別紙1著作権譲渡登録目録記載の著作権譲渡登録(以下「本件譲渡登録」という。)の抹消登録手続をせよ。 第2 事案の概要 本件は、原告が本件著作権を有するとして、本件譲渡登録の登録名義人である被告に対し、原告が本件著作権を有することの確認を求めると共に、本件著作権に基づく妨害排除請求として、主位的に、本件著作物について原告に対する真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続をすることを求め、予備的に、本件譲渡登録の抹消登録手続をすることを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 原告は、日本、アメリカ合衆国(以下「アメリカ」ということがある。)、その他の国において、「Von Dutch」の文字標章等を用いて、被服等を製造、販売するアメリカ法人である。 被告は、大韓民国(以下「韓国」という。)法人であるヴォンダッチオリジナル社の代表取締役を名乗り、「Von Dutch」の文字標章や「Flying Eyeball(フライングアイボール)」と称される図柄より成る標章等を使用した被服等の日本への輸入、販売等に関与している者である。 (2) ケネス・ハワードは、即興で様々なものにペインティングを施す「ピンストライピング」という技法を確立した者であり、本件著作物を創作し、これを自身の作品にサインとして用いるなどした。 また、ケネス・ハワードは、自身の活動において、「Von Dutch(ヴォンダッチ)」のニックネームを用いており、同人の作品は、本件著作物及び上記ニックネームと共に、広く知られるようになった。 (3) ケネス・ハワードは、平成4年(1992年)に死亡した。 B及びCは、ケネス・ハワードの子であり、その相続人として、「VON DUTCH」及び「FLYING EYEBALL」のデザイン商標、「Flying Eyeball」のデザイン著作権、ケネス・ハワードの作品に関するシンボル、ロゴ、ドメイン名、その他ケネス・ハワードのすべての知的財産権(以下「ケネス・ハワードの全知的財産権」という。)を共同相続した(甲2、34、35、乙1、乙2の1、乙7、弁論の全趣旨)。 (4) B及びCは、平成12年3月31日、株式会社上野商会(以下「上野商会」という。)との間で、次の内容の契約(以下「本件譲渡契約1」という。)を締結した(甲2、乙5の1・2)。 ア B及びCは、上野商会に対し、対価50万米ドルで、ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡する。 イ 上野商会は、B及びC、あるいは、その指定する者に対し、対価50万米ドルを、次のとおり、2回に分けて支払う。 (ア) 40万米ドルから合意済みの経費、料金及び本件譲渡契約1に関連して売主に既に支払った金員を差し引いた金額をクロージング日(平成12年3月31日、又はその他当事者らの間で合意する日)に支払う。 (イ) 10万米ドル(以下「本件留保金」という。)については、クロージング日から3年後に売主(B及びC)に対して支払う。 (5) 上野商会は、本件譲渡契約1に基づく対価の支払として、B及びCに対し、平成12年3月31日に各10万米ドルずつ、同年4月10日に各10万米ドルずつをそれぞれ支払った(なお、実際の送金額は各9万米ドルとなっているが、これは、送金額の10%に当たる金額の国税を納付するため、上野商会において源泉徴収をしたことによるものである。甲3の1ないし4、甲4、甲5、6の各1・2)。 (6) 上野商会と原告(当時の原告代表者は、Dである。)は、平成14年5月15日、上野商会が原告又はその指名人に対し、総額40万米ドルの対価(50万米ドルから本件留保金相当額である10万米ドルを控除した残額)で、ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡することなどを内容とする契約(以下「本件譲渡契約2」という。)を締結した(甲14)。 (7) 原告は、平成14年6月4日、上野商会に対し、本件譲渡契約2に基づく対価40万米ドルを支払った(甲15)。 (8) 本件著作権につき、被告名義の本件譲渡登録が存する。 (9) 被告は、原告が本件譲渡契約1及び本件譲渡契約2により本件著作権の譲渡を受けたこと自体を争い、さらに、被告が平成17年6月8日にB及びCから、ケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受け、同年11月25日には上記譲渡に基づき、本件譲渡登録を了したとして、原告が本件著作権を有することを争っている(弁論の全趣旨)。 2 争点 (1) 被告が、原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か(争点1) ア B及びCから被告への本件著作権の譲渡の有無 イ 上記譲渡契約が虚偽表示により無効であるか否か ウ 被告が背信的悪意者であるか否か (2) 本件譲渡契約1の解除の有無(争点2) (3) 本件譲渡契約2がB及びCの同意を欠き、無効であるか否か(争点3) 3 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(被告が、原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か)について 〔被告の主張〕 ア 被告は、平成17年6月8日、B及びCから、本件著作権を含むケネス・ハワードの全知的財産権を譲り受けた(乙2の1。以下「本件譲渡契約3」という。)。 原告は、本件著作権の移転につき、対抗要件である登録を了していないから、被告に対し、本件著作権の移転を対抗することはできない。 また、被告は、本件譲渡契約3に基づき、本件譲渡登録を了したから、これにより、被告に対する本件著作権の移転の効果が確定的に生じたことになる。 イ 原告の主張に対する反論 (ア) 本件譲渡契約3が虚偽表示であるとの主張について 被告がB及びCとの間で原告主張に係るライセンス契約を締結したことは認め、その余は否認ないし争う。 (イ) 被告が背信的悪意者であるとの主張について 次の事情に照らせば、被告が背信的悪意者と評価されるべき者であるとはいえない。 a B及びCは、ダークホースディストリビューション(以下「ダークホース社」という。)との間で、平成8年10月8日、B及びCがダークホース社に対して、ケネス・ハワードの全知的財産権に関するライセンスを与える旨の契約を締結した。 ダークホース社の代表者は、Eの兄弟であり、ダークホース社は、平成11年4月ころ、Eとの間で、ダークホース社がEに対し、ケネス・ハワードの全知的財産権に関するサブライセンスを与える旨の契約を締結した。 被告が設立したグローバル・マスター・ライセンスド・ライト・ジャパンは、平成12年1月14日、Eが設立したグローバル・マスター・ライセンスド・ライトとの間で、「Von Dutch」のライセンスについてのパートナーシップ契約(乙10の1。以下「本件パートナーシップ契約」という。)を締結した。本件パートナーシップ契約を締結した後、被告は、「Von Dutch」のライセンスを使用した事業を始めるようになった。本件パートナーシップ契約においては、被告がEに対し、合計60万米ドルのライセンス料を支払うこと、被告の利益の半分をEに支払うこと、契約期間が平成17年7月30日までの5年間であること、ライセンス対象国は日本であることなどが約定されていた。 被告は、平成17年7月30日をもって終了する本件パートナーシップ契約に代わるものとして、本件譲渡契約3を締結したものである。 b 被告は、B及びCとの間で後記ライセンス契約を締結した平成17年1月27日の直前まで、B及びCと上野商会との間の本件譲渡契約1の存在を知らなかった。 被告は、Eから、本件譲渡契約1の存在を聞いたものの、その際、本件譲渡契約1に基づく代金が支払われておらず、本件譲渡契約1は無効である旨の説明を受けた。 c 被告は、平成16年ころ、ケネス・ハワードの全知的財産権のうち、商標権の登録名義がDの妻が代表者であるルトン・インベストメンツ・インコーポレイテッド名義に移転されていることを知った。しかしながら、Eは、被告に対し、上記商標権の登録名義をB及びCに戻すことを約束した。 d 被告は、平成17年1月27日、B及びCとの間で、被告がケネス・ハワードの全知的財産権についてライセンスを受けること、同契約が同年10月8日に発効することなどを内容とする契約(甲19、乙1。以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。 被告は、本件ライセンス契約について、平成16年の中ころに業界紙で発表し、その後、平成17年3月ころにも、再度新聞発表をし、さらに、展示会も開催した。しかしながら、同年4月ころまでは、被告が、第三者から権利主張その他のクレームを受けることはなかった。 なお、その後、二幸株式会社(以下「二幸」という。)から被告関連の取引先であるラッキーコーポレーションに対し、侵害の通知がされた。被告は、平成17年10月ころ、二幸を訪ね、二幸の代表者らに対し、被告が本件著作権と本件ライセンス契約に基づくライセンスを有することなどを説明し、被告と二幸との間で、権利関係が確定するまでは、相互に権利行使をしない旨の協定を結んだ。 e 平成18年1月ころ、被告は、二幸に対し、本件著作物に関する著作権を代金1億円で譲渡する旨を申し入れた。 これは、二幸から、被告の事業に関連する取引先に対して、商標権侵害である旨の通知がされたことに対抗する意味で行ったものである。 なお、上記代金額は、原告と二幸との間の従来の契約内容に比して、不当な金額ではない。 〔原告の主張〕 ア 本件譲渡契約3が締結されたとの事実及び被告が本件譲渡契約3に基づき本件譲渡登録を了したとの事実はいずれも否認する。 イ 本件譲渡契約3は虚偽表示により無効であることについて (ア) 被告は、平成17年1月27日、B及びCとの間で、本件ライセンス契約を締結した。 (イ) 次いで、被告は、平成18年1月10日、株式会社ウイング・ビート(以下「ウイング・ビート」という。)との間で、本件ライセンス契約の存在を前提として、ライセンシーである被告が、ウイング・ビートに対し、本件著作権を含めケネス・ハワードの全知的財産権についてサブライセンスを与える旨の契約(甲20、乙3。以下「本件サブライセンス契約」という。)を締結した。 (ウ) これらの事実に照らせば、本件譲渡契約3が締結された後においても、本件ライセンス契約は存続していたことになる。 そうすると、本件譲渡契約3は、被告がB及びCと通謀し、真実はB及びCが被告に対して本件著作権を含めケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡する意思がないのに、これがあるかのように仮装して締結されたものであるから、通謀虚偽表示によるものとして無効である。 ウ 被告が背信的悪意者であることについて 次の事情に照らせば、被告は、原告が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら、原告の努力によって培われた本件著作物の価値にただ乗りし、原告に本件著作権を高値で買い取らせるなどの意図をもって本件譲渡契約3を締結し、本件譲渡登録を経た、背信的悪意者と評価されるべき者であるから、原告は、被告に対し、対抗要件を具備するまでもなく、本件著作権の移転を対抗することができる。 (ア) 原告の努力により本件著作物が価値を有するに至ったこと原告は、平成12年に設立された当初から、「Von Dutch」ブランドを発展させることに力を注いできた。その結果、現在では、アメリカ国内に多数の旗艦店を構え、ヨーロッパの主要都市には店舗を置き、その他世界各国において、ライセンシーを通じて、「Von Dutch」ブランドの商品を販売するに至っている。 このように、「Von Dutch」標章と「Flying Eyeball」標章が大きな価値を有するに至ったのは、原告の努力によるものである。 (イ) 原告と被告の関係等 原告は、韓国において、F及びGに対し、「Von Dutch」標章と「Flying Eyeball」標章の使用を許諾していた。被告は、F及びGのライセンシーとして、「Von Dutch」ブランドの商品の製造、販売に携わっていた。 原告とF及びGとの間のライセンス契約は、平成16年2月27日をもって終了したものの、同人らは、ライセンス契約に反して、韓国において、「Von Dutch」標章の商標登録をし、原告と争っていた。 原告の元代表者であるEは、原告の代表者であったDと原告の支配権をめぐって争い、「Von Dutch」ブランドの帰属を争っていた。 平成16年8月5日、原告及びDとEとの間に、原告がEに対して和解金を支払うこと、Eは「Von Dutch」標章や「FlyingEyeball」標章等を使用しないことなどを内容とする和解が成立した。 しかしながら、Eは、その後も「Von Dutch」標章や「Flying Eyeball」標章等の使用を継続したので、原告は、アメリカの裁判所に対し、Eの上記使用行為の差止めを求め、平成17年2月7日、上記差止命令がされた。 被告は、Eから、原告とEとの間の紛争に関して、詳細な情報を得ており、遅くとも、韓国における原告とF及びGとの間の商標登録をめぐる紛争について、原告への協力を申し出た平成17年5月ころまでには、原告が、本件著作権を含めケネス・ハワードの全知的財産権の正当な承継者であることを認識していた。 (ウ) ライセンシーに対する不当な要求 原告は、日本において、二幸に対し、「Von Dutch」の文字商標(商標登録第4104248号及び第4549955号)の専用使用権を設定していた。 被告は、本件譲渡登録を了して間もなくである平成18年1月、二幸に対し、本件著作権を1億円で買い取ることを要求し、二幸が要求に応じない場合には、その取引先に対し、著作権侵害の事実を通知するなどと申し向けた。 (エ) 積極的加害意思 被告は、主体的にB及びCに近づいた上、自ら契約書を準備して本件ライセンス契約を締結しており、このような行動に照らし、被告には、積極的な加害意思があったといえる。 (オ) 上記事実に照らせば、被告は、本件譲渡契約3の締結当時、原告の努力によって培われた「Von Dutch」標章や「FlyingEyeball」標章の価値にただ乗りをし、あるいは、原告に本件譲渡登録に関する権利等を高額な値段で買い取らせるなどの意図を持っていたといえる。 (2) 争点2(本件譲渡契約1の解除の有無)について 〔被告の主張〕 平成15年3月31日(契約締結後3年)が経過したことにより、本件留保金の弁済期が経過した。 しかしながら、上野商会からB及びCに対して、本件留保金10万米ドルが支払われた形跡はないから、本件譲渡契約1は、平成15年3月31日の経過をもって、解除されたものとみるべきである。 〔原告の主張〕 ア 本件譲渡契約1において、本件留保金10万米ドルが契約締結後3年経過した後に支払われる旨約定されていたことは認め、その余は否認する。 本件譲渡契約1が、B及びCの解除の意思表示もないのに、平成15年3月31日の経過をもって、当然に解除されたとする被告の主張は、主張自体失当である。 イ B及びCは、平成12年6月、本件譲渡契約1に基づく本件留保金10万米ドルの請求権を、原告及びEに対して譲渡した。 原告と上野商会との間で、平成14年3月18日、上記10万米ドルの本件留保金請求権と上野商会の原告に対する債権とを相殺処理することが合意され、同年6月4日には、上記合意に基づく支払がされた。 (3) 争点3(本件譲渡契約2がB及びCの同意を欠き、無効であるか否か)について 〔被告の主張〕 B及びCと上野商会との間の本件譲渡契約1に係る契約書(甲2)においては、いずれの当事者も、他方当事者の書面による承諾がない限り、本件譲渡契約1、並びに本件譲渡契約1の当事者の権利及び義務を、第三者に対して譲渡してはならない旨約定されている(19条)。 上野商会と原告との間の本件譲渡契約2については、B及びCの承諾がないから、本件譲渡契約2は無効である。 〔原告の主張〕 本件譲渡契約1に係る契約書(甲2)中に、被告主張に係る約定があることは認め、その余は否認する。 上野商会及び原告が本件譲渡契約2を締結することについて、B及びCの承諾が要件となっていた事実は存しない。被告が指摘する約定は、本件譲渡契約1に基づく当事者の契約上の地位や、当事者の権利義務を、他方当事者の承諾なく譲渡することを禁止したものにすぎず、譲渡の対象であるケネス・ハワードの全知的財産権のさらなる譲渡について、B及びCの承諾を必要とするものではない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実、証拠(甲1、2、甲3の1ないし4、甲4、甲5、6の各1・2、甲7ないし10、甲11の1・2、甲12ないし15、甲16、17の各1・2、甲18ないし20、25、26、28ないし30、甲31の1ないし3、甲34、35、37、乙1、乙2の1・2、乙3、乙4の1ないし6、乙5の1・2、乙6ないし9、乙10の1・2、乙12、14、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作物に関する著作権の取引経過等について、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。 (1) B及びCの相続等 ア B及びCは、ケネス・ハワードの子であり、その相続人として、ケネス・ハワードの全知的財産権を共同相続した。 イ B及びCは、平成8年10月8日、ダークホース社との間で、B及びCが、ダークホース社に対し、アパレル製品等について、「Von Dutch」の商標と商号、「Flying Eyeball」のロゴ、ケネス・ハワードのイメージ、名称、アートワーク、肖像、サイン及び写真に対する権利(関連性のあるすべてのデザイン、ロゴ、商標、サービス・マーク、商号及び著作権を含むがこれらに限られない権利)の全世界における独占的実施権を付与すること、ライセンス期間は、平成8年10月8日から平成17年10月7日までの9年間とすることなどを内容とする契約(乙7)を締結した。 ウ ダークホース社は、Eの兄であるHの経営する会社であり、上記ライセンス契約後、「Von Dutch」ブランドの商品の販売等を行っていたものの、平成11年4月ころ、Eに対し、上記ライセンス契約に係る権利(実施権)を対価26万米ドルで譲渡した(乙8、9)。 Eは、ダークホース社から上記ライセンスに係る権利の譲渡を受けるに当たり、「Von Dutch」商品に関する事業を行うため、原告を設立した。 (2) B及びCから上野商会への譲渡等 ア 上野商会は、ダークホース社から、「Von Dutch」商品を輸入し、日本国内の取引先に卸売りするなどの事業を行っていた。 Eは、ダークホース社から独立し、原告を設立するに当たり上野商会に対し、資金の融資を依頼した。上野商会は、原告と協力して、「VonDutch」ブランドを展開していくことを考え、Eの上記申入れを受け入れ、原告に資金を融資した。 原告は、当時、B及びCからケネス・ハワードの全知的財産権を譲り受けるのに必要な資金を手当てすることができなかったので、上野商会が、原告に代わって、B及びCから、ケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受け、原告が資金を準備し、上野商会からの上記借入金を全額返済した際には、ケネス・ハワードの全知的財産権を、上野商会が負担した譲渡代金及び諸経費額をもって、上野商会から原告に再譲渡するという方法をとることになった。 イ 上野商会は、平成12年3月31日、B及びCとの間で、本件譲渡契約1(甲2、乙5の1・2)を締結した。 ウ 上野商会は、本件譲渡契約1に基づく売買代金として、B及びCに対し、平成12年3月31日に各10万米ドルずつ、同年4月10日に各10万米ドルずつをそれぞれ支払った。 エ 上野商会は、平成13年4月2日、B及びCから、「Von Dutch」の文字商標(商標登録第4104248号、指定商品第25類(被服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴))の移転登録を受けた(甲16の1・2)。 また、上野商会は、平成14年3月8日、「Von Dutch」の文字標章(商標登録第4549955号、指定商品第14類(身飾品、キーホルダー)、第18類(かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ))につき、商標登録を受けた(甲17の1・2)。 (3) 本件留保金の支払請求権の譲渡等 Eは、B及びCと上野商会との間で本件譲渡契約1が締結されると、B及びCに対し、上記売買に関し、仲介手数料の支払を請求するようになった。 B及びCは弁護士に委任し、Eと交渉した結果、B及びCとE及び原告との間において、平成12年6月ころ、B及びCが、上野商会から本件留保金10万米ドルを受領する権利(支払期日平成15年3月31日)をEに対して譲渡することなどを内容とする和解契約(甲10)が締結された。 (4) 上野商会から原告への譲渡等 ア 上野商会と原告は、平成14年3月18日ころ、上野商会が原告に対し、ケネス・ハワードの全知的財産権を対価50万米ドルで譲渡し、原告は上記対価50万米ドルから本件留保金10万米ドルを控除した残額である40万米ドルを支払うこと、原告は、上野商会に対し、25万米ドルの借入金残債務及び利息金債務を支払うこと、原告は上野商会に対し、「VonDutch」ブランド商品についてライセンスを与えることなどの方針を決定した。 イ 上野商会と原告(当時の代表者は、Dである。)は、平成14年5月15日、原告又はその指名人が、上野商会から、総額40万米ドルの対価(50万米ドルから本件留保金10万米ドルを控除した残額)で、ケネス・ハワードの全知的財産権を購入すること、上野商会は、上記対価を受領次第、原告又はその指名人に対して、上記知的財産権の譲渡に伴い必要な行為等を行うこと、原告が、上野商会に対し、借入金47万5000米ドルから既払金合計22万5000米ドルを控除した残額の25万米ドル及び利息金1万6643米ドル83セントを支払うこと、原告及び上野商会は、日本における「Von Dutch」ブランド商品の独占的販売契約の締結の可能性について協議することなどを内容とする契約(甲14。本件譲渡契約2)を締結した。 ウ なお、上野商会は、Eから、同人がB及びCから本件留保金請求権を譲り受けたので、10万米ドルを支払えという要求を再三受けていたものの、原告がEの上記要求について責任をもって処理すると約束したので、上記契約を締結したものである。 エ 原告は、本件譲渡契約2に基づき、平成14年6月4日、上野商会に対し、合計66万6643米ドル83セントを支払った(甲15)。 オ 上野商会は、平成14年11月14日、原告の指名人であるルトン・インベストメンツ・インコーポレイテッドに対し、「Von Dutch」の文字商標(商標登録第4104248号、同第4549955号)の移転登録をした。 原告は、平成16年5月14日、ルトン・インベストメンツ・インコーポレイテッドから、上記各商標権につき、移転登録を受けた。(甲16、17の各1) (5) B及びCと被告との間のライセンス契約等 ア 被告は、平成8年ころから、Eと知人関係にあった。 被告(契約書上の名称は、グローバルマスターライセンスドライトジャパン)は、平成12年1月14日、E(契約書上の名称は、グローバルマスターライセンスドライト)との間で、Eが「Von Dutch」について全世界を対象とするライセンスを有することを前提に、被告がEから日本国内において「Von Dutch」ブランド商品を販売する独占的権利の付与を受け、被告がEに対し、ライセンスの対価や事業利益の配分を行うことなどを内容とする本件パートナーシップ契約(乙10の1)を締結した。 被告は、Eと本件パートナーシップ契約を締結した後、平成16年ころから、日本国内において、「Von Dutch」ブランド商品に関する事業を行うようになった。 イ B及びCは、平成17年1月27日、被告との間で、B及びCが、被告に対し、アパレル製品等について、ケネス・ハワードの全知的財産権の全世界における独占的実施権を付与すること、ライセンス期間は、平成17年10月8日から平成26年10月7日までの9年間とすること、契約の発効日を平成17年10月8日とすることなどを内容とする契約(甲19、乙1。本件ライセンス契約)を締結した。 ウ 被告は、本件ライセンス契約の締結に先立って、平成17年1月ころ、Eから、B及びCの紹介を受けた。この際、被告は、Eから、本件譲渡契約1の存在を知らされたものの、同人からは、本件譲渡契約1に基づく代金が支払われておらず、本件譲渡契約1は無効である旨の説明を受けた。 (6) Eと原告との間の紛争等 ア EとDとの間では、原告の支配権や「Von Dutch」ブランドに関する権利の帰属をめぐって紛争が生じ、アメリカにおいて、訴訟も提起された。 イ Eと原告及びDとの間で、平成16年8月5日、原告がEに対し一定の金銭を支払うこと、Eは、「Von Dutch」及び「FlyingEyeball」の商標を含めケネス・ハワードに関するすべての商標の原告への譲渡を承諾すること、原告が、「Von Dutch」の標章に係るあらゆる権利を保有していることを確認することなどを内容とする和解が成立した。 なお、平成17年2月17日には、アメリカの裁判所において、上記和解に係る契約書(甲25)に基づき、原告の申し立てにより、Eらに対し、「Von Dutch」又は「Von Dutch」ロゴの商標、商号等の使用を禁止することなどを内容とする差止命令(甲26)がされた。 (7) B及びCから被告への譲渡等 ア 被告は、平成17年6月8日、B及びCから、本件著作権を含めケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受けた(乙2の1。本件譲渡契約3)。 イ 被告は、平成17年11月25日、本件譲渡契約3に基づき、本件譲渡登録を経由した。 (8) 本件譲渡契約3の締結後の被告の行動等 ア 被告は、平成18年1月10日、ウイング・ビートとの間で、被告が、ウイング・ビートに対し、日本国内を対象地域として、本件ライセンス契約に基づく実施権をサブライセンスする旨の契約(甲20、乙3。本件サブライセンス契約)を締結した。 イ 被告は、平成18年1月、原告のライセンシーであった二幸に対し、本件著作権を1億円の対価で譲渡する旨を申し入れた(甲31の1ないし3)。 ウ 被告は、平成17年7月ころ、B及びCから、本件譲渡契約1を巡る上野商会との間の紛争に関する権利の譲渡を受け(甲29、30、乙14)、同月7日、上野商会に対し、本件留保金の不払を理由に本件譲渡契約1を解除する旨を通知した(乙6)。 被告は、平成18年2月ころ、上野商会がB及びCに対して本件留保金を支払わなかったため、本件譲渡契約1を解除したとして、上野商会に対し、「Von Dutch」に関する権利の被告への返還を求め、さらに、上野商会及び原告に対し、本件留保金を支払わないまま、「Von Dutch」等の標章を使用したとして、不当利得の返還を求めることなどを内容とする訴訟を、アメリカの裁判所に提起した(乙4の1ないし6)。 2 準拠法について (1) 相続人が、その相続に係る不動産持分について、第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は、平成18年法律第78号による改正前の法例(以下「法例」という。)10条2項により、その原因である事実の完成した当時における目的物の所在地法であって、相続の準拠法ではない(最高裁平成6年3月8日第3小法廷判決・民集48巻3号835頁)。上記判例の趣旨に照らせば、本件著作権の譲渡は、アメリカ合衆国カリフォルニア州で出生した同国国民であった亡ケネス・ハワードの相続財産の処分であるものの(甲34、35)、本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は、相続の準拠法ではない。 そして、著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。 (2) 著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法は、法律行為の準拠法一般について規定する、法例7条1項により、第1次的には当事者の意思に従うべきところ、著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、契約の内容、当事者、目的物その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである(東京高等裁判所平成13年5月30日判決・判例時報1797号111頁参照)。 本件についてみると、B及びCと上野商会との間の本件譲渡契約1については、同契約に係る契約書(甲2)において、日本法を準拠法とする旨の合意(10条)が存するから、本件譲渡契約1については、日本法が準拠法となる。他方、B及びCと被告との間の本件譲渡契約3については、著作権登録申請書に添付された譲渡証明書(乙2の1。同書面には準拠法の記載がない。)が提出されているだけで、これに関する契約書の存在が明らかではなく、同契約中で準拠法についての明示の合意がされていると認めることはできない。しかしながら、本件譲渡契約3が、アメリカ合衆国国民であるB及びCが、韓国国民である被告に対し、我が国国内において効力を有する本件著作権を含むケネス・ハワードから承継した知的財産権を譲渡することを内容とするものであること、被告は、Eとの本件パートナーシップ契約に基づき、当時、日本国内において、「Von Dutch」ブランドに関する事業を行っていたこと、被告は、日本国内(大阪市内)に事務所を有していたこと(甲31の1、弁論の全趣旨)などに照らすと、日本法を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。 (3) 著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。すなわち、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされる(法例10条)。その理由は、物権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請にも最も適合することにあると解される。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作権の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に考えるべきである(前記東京高等裁判所判決参照)。 そして、本件著作物の著作者であるケネス・ハワードはアメリカ合衆国国民であったので、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約3条(1)(a)及び著作権法6条3項により、本件著作物は、我が国の著作権法の保護を受ける。 そうすると、本件著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となる。 3 争点1(被告が、原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か)について (1) B及びCから上野商会への本件譲渡契約1について ア 前記1で認定した事実によれば、B及びCと上野商会とは、本件著作権について、その譲渡契約である本件譲渡契約1を有効に締結したものといえる。 そして、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生じるものとされている我が国の法令の下においては、本件譲渡契約1が締結されたことにより、本件著作権は、B及びCから上野商会に移転したものというべきである。 イ 被告は、本件譲渡契約1が売買契約ではなく、債権担保を目的とする譲渡担保契約であり、本件著作権は上野商会に移転していない旨主張する。 しかしながら、同主張は、前記1認定の事実経過に照らし、採用することができない。 (2) B及びCから被告への本件譲渡契約3について ア 前記1で認定した事実によれば、B及びCと被告とは、本件著作権について、その譲渡契約である本件譲渡契約3を有効に締結したものといえる。 そして、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生じるものとされている我が国の法令の下においては、本件譲渡契約3が締結されたことにより、本件著作権は、B及びCから被告に移転したものというべきである。 イ 原告は、本件譲渡契約3が虚偽表示によるものである旨主張し、その根拠として、B及びCと被告とが、本件譲渡契約3の締結前に、本件ライセンス契約を締結したこと及び被告とウイング・ビートとが、本件譲渡契約3の締結後に、本件サブライセンス契約を締結したこと、本件譲渡契約3について著作権登録申請書に添付された譲渡証明書(乙2の1)は、譲渡代金額についての記載もない簡略なものであること、を挙げる。 なるほど、前記1で認定したところによれば、本件ライセンス契約及び本件サブライセンス契約の締結の事実が認められ、また、乙第2号証の1によれば、本件譲渡契約3について作成された譲渡証明書は譲渡代金額の記載のない簡略なものであることも認められる。 しかしながら、上記の事実があるからといって、直ちに、本件譲渡契約3が虚偽表示によるものであるとまで認めることはできない。本件サブライセンス契約上の被告の債務は、本件ライセンス契約におけるライセンシーの立場であろうと、本件譲渡契約3に基づき、ケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受けた者の立場であろうと、履行が可能なものであるといえる上、被告において、本件譲渡契約3の締結による本件ライセンス契約への影響の有無等について十分な法的検討を経ないまま本件サブライセンス契約を締結した可能性も否定できないところである。譲渡証明書の形式も、虚偽表示の事実を裏付けるに足るものとはいえない。他に本件譲渡契約3が虚偽表示によるものであることを認めるに足りる証拠は存しない。 (3) 以上によれば、B及びCから上野商会に対する本件著作権の譲渡とB及びCから被告に対する本件著作権の譲渡とは二重譲渡の関係にあり、上野商会又はその転得者と被告とは対抗関係に立つものと認められる。 よって、原告が上野商会から本件著作権を承継していたとしても、我が国著作権法上、被告は、原告への本件著作権の移転につき、対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)に該当するから、原告は、被告に対し、本件著作権の移転について登録(対抗要件)を了しない限り、本件著作権の移転を対抗することはできない。本件において、原告は、本件著作権の移転について登録を了していないから、被告に対する本訴請求はいずれも理由がない。 加えて、被告は、本件著作権の移転について、本件譲渡登録を了したから、我が国の著作権法上、被告に対する本件著作権の移転が確定的に有効となり、他方、原告は本件著作権を喪失することになるから、この点においても、被告に対する本訴請求はいずれも理由がない。 (4) 被告が背信的悪意者であるとの主張について ア 原告は、@本件著作物が大きな価値を有するに至ったのは原告の努力によるものであること、A被告が原告とEとの間の紛争に関して詳細な情報を得ており、本件譲渡契約3の締結当時、原告が本件著作権の正当な承継者であることを認識していたこと、B被告が原告の日本におけるライセンシーである二幸に対し、本件著作権を1億円という高額で買い取るように要求したこと、C被告が主体的にB及びCに近づき、被告の側で本件ライセンス契約の契約書を準備したことなどを主張し、これらの事情に照らせば、被告は、原告が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら、原告の努力によって培われた本件著作物の価値にただ乗りし、原告に本件著作権を高値で買い取らせるなどの意図をもって本件譲渡契約3を締結し、本件譲渡登録を経た、いわゆる背信的悪意者と評価されるべき者であり、本件著作権の移転登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者に当たらない旨主張する。 しかしながら、前記1で認定したとおり、被告は、本件譲渡契約3の締結より前の平成17年1月ころ、Eから、本件譲渡契約1の存在を聞き、これを認識していたものと認められるものの、単に、本件譲渡契約1の存在につき悪意であるというだけでは、直ちに背信的悪意者であるということはできない。前記1で認定したところによれば、@ケネス・ハワードの知的財産権をめぐって、B及びC、ダークホース社、E、原告、D、上野商会などの間で、複雑な契約関係が存在していたこと、A被告は、本件譲渡契約3の締結以前から、Eと本件パートナーシップ契約を締結し、日本国内において、「Von Dutch」ブランド商品に関する事業を行っていたこと(しかも、本件パートナーシップ契約の締結は、本件譲渡契約1の締結より前である。)、B原告は、Eがダークホース社からライセンス契約に係る権利の譲渡を受けて、「Von Dutch」商品に関する事業を行うために設立した会社であること、C原告の代表者であったEと同じく原告の代表者であったDとの間で、原告の支配権や「Von Dutch」ブランドに関する権利の帰属をめぐって紛争が生じたこと、D本件譲渡契約1に基づく本件留保金の処理をめぐって紛争が生じたこと(和解契約書(甲10)中に、B及びCがEに対し本件留保金請求権を譲渡する旨の記載は存在するものの(1条)、原告に上記請求権を譲渡する旨の記載は見当たらない。Eが、上野商会に対し、本件留保金の支払を求めていたにもかかわらず、上野商会と原告との間で、本件留保金請求権が原告に帰属することを前提に相殺処理がされた。これら本件留保金の処理を巡って、被告は、本件譲渡契約1の債務不履行解除を主張している。)、E被告は、本件ライセンス契約を締結する前である平成17年1月ころ、Eから、本件譲渡契約1の存在を知らされたものの、その際、本件譲渡契約1に基づく代金(本件留保金を指すものと解される。)が支払われていないので、同契約の効力には問題がある旨の説明を受けていたことなどの事実が認められるのであり、これらの事情も併せ考慮すれば、本件譲渡契約3の締結当時、被告が、原告が本件著作権の正当な承継者であるとの認識を有していたと認めることはできない。原告は、自己の主張を裏付ける証拠として甲23(韓国における原告とF等との間の商標登録をめぐる紛争について、平成17年5月ころ、被告の代理人と称する弁護士から原告代理人弁護士に対して原告への協力を申し出た旨を記載したメール)を提出するものの、同証拠は上記の判断を左右するに足るものではない。 さらに、前記1で認定したとおり、被告が、二幸に対し、本件著作権を1億円で譲渡する旨申し入れたとの事実は認められるものの、上に説示したところに加え、上記申入れは、本件譲渡契約3の締結から6か月余りが経過した平成18年1月ころになってからのことであること等前記1認定の事実経過を考慮すれば、上記事実をもって、直ちに、被告が背信的悪意者であると断ずることはできない。また、原告主張のとおり、被告が主体的にB及びCと接触し、本件ライセンス契約の契約書を準備したとの事実が認められるとしても、既に説示したところに照らせば、上記事実をもって、被告の背信性を基礎付けるに足るものであるということもできない。 イ アで述べたところによれば、本件証拠のみでは、被告が背信的悪意者であると断ずるには足りないものと言わざるを得ない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 4 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 平田直人 裁判官 柵木澄子 (別紙1)著作権譲渡登録目録 表示番号 第31016号 著作物の題号 フライング アイ ボール アンド ヴォン ダッチ ロゴ 著作者の氏名又は名称及びその国籍 ケネス ハワード 米国 著作物の最初の公表の際に表示された著作者名 ケネス ハワード 著作物が最初に公表された年月日 平成17年6月30日 著作物が最初に発行された国の国名 米国 著作物の種類 美術の著作物 著作物の内容又は体様 別紙2のとおり 順位番号 1番 登録年月日 平成17年11月25日 権利の表示 著作権 登録の目的 著作権譲渡の登録 受付年月日 平成17年11月11日 受付番号 第769号 (別紙2)著作物目録 略 |
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