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【事件名】「極真会館」の商標事件B(2)
【年月日】平成19年9月27日
 知財高裁 平成18年(ネ)第10070号 商標権移転登録手続請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成16年(ワ)第23624号)
 (平成19年5月31日 口頭弁論終結)

判決
控訴人兼被控訴人(原審原告) 財団法人極真奨学会(以下単に「原審原告」という。)
訴訟代理人弁護士 鈴木宏
同 八藤後淳
控訴人兼被控訴人(原審被告) X(以下単に「原審被告」という。)
訴訟代理人弁護士 中村勝彦
同 奥山倫行
同 宮下央


主文
1 原判決中、原審被告の敗訴部分を取り消す。
2 前項の部分につき、原審原告の請求を棄却する。
3 原審原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第一、第二審とも原審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原審原告の控訴につき
(1) 原審原告
 「原判決中、原審原告の敗訴部分を取り消す。原審被告は原審原告に対し、別紙登録商標目録4ないし29記載の各商標について、商標権の移転登録手続をせよ。訴訟費用は、第一、第二審とも原審被告の負担とする。」との判決。
(2) 原審被告
 「原審原告の控訴を棄却する。控訴費用は原審原告の負担とする。」との判決。
2 原審被告の控訴につき
(1) 原審被告
主文第1、第2、第4項と同旨。
(2) 原審原告
 「原審被告の控訴を棄却する。控訴費用は原審被告の負担とする。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は、原審被告名義で登録されている別紙登録商標目録1〜29記載の各商標(以下、同目録記載の商標の全部を総称して「本件各商標」というほか、別紙略称指定目録記載の略称を使用する。)につき、原審原告が原審被告に対し、@原審原告が保有し、登録名義人であった商標(本件商標1)につき、原審被告が、原審原告に無断で、原審被告を譲受人とする商標権の移転登録手続を行い、原審被告名義の登録を得た、A原審原告が過去において保有し、その後失効した商標と、同一又は類似の商標(本件商標2)につき、原審被告は原審原告に対し、原審原告名義で商標登録出願すべき契約上の義務を負担していたにもかかわらず、それを履行することなく、原審被告名義の商標登録出願をして、その登録を得た、B原審被告が、原審原告名義で登録すべき、極真空手道に関係した商標(本件各商標)につき、原審被告名義の商標登録出願を行い、その登録を得た、と主張して、本件各商標につき、原審原告に対する商標権の移転登録手続を請求する事案である。
 原判決は、@本件商標1については、原審原告から原審被告に対してされた商標権移転登録につき、原審被告が主張する原因行為が認められず、原審原告が原審被告に本件商標1に係る商標権移転登録請求をすることが権利濫用に当たるものでもないとして、原審原告の請求を認容したが、A本件商標2について、原審被告が原審原告名義で商標登録出願を行うことを内容として含む、原審原告と原審被告との間の契約の存在は認められず、B本件各商標(本件商標1を除く。)について、原審原告が原審被告に商標権の移転登録手続を求め得るその余の根拠も不明である、等として、本件商標2〜4につき、原審原告の請求を棄却した。
 本件の前提となる事実、本件の争点及び争点についての当事者の主張は、以下のとおりである。
1 前提となる事実(証拠等を掲記した事実は当該証拠によって認められる。その余の事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者(乙第2、第3号証)
 原審原告は、育英及び学術研究の助成を目的とする財団法人である。
 原審被告は、国際空手道連盟極真会館(以下「極真会館」という。)の館長を務める者である。
(2) 本件旧商標(甲第3〜第5号証の各1、2、弁論の全趣旨)
 下記ア記載の商標(以下「本件旧商標1」という。)、イ記載の商標(以下「本件旧商標2」という。)及びウ記載の商標(以下「本件旧商標3」といい、本件旧商標1〜3を併せて「本件旧商標」という。)は、いずれも原審原告の商標登録出願に基づき設定登録され、原審原告が保有していたものであるが、存続期間の更新登録の申請がなく、存続期間満了により登録が抹消された。
ア 登録番号 第1421312号
 出願日 昭和51年3月4日
 登録日 昭和55年6月27日
 商標の構成 「極真会館」との文字を横書きして成るもの
 指定商品 平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下「旧別表」という。)第24類「空手道衣、及びその帯を含む運動用特殊衣服、その他本類に属する商品」
 登録抹消日 平成3年10月11日(平成2年6月27日存続期間満了)
イ 登録番号 第1443462号
 出願日 昭和51年3月4日
 登録日 昭和55年11月28日
 商標の構成 「極真会」との文字を縦書きして成るもの
 指定商品 旧別表第24類「空手道衣、その他の運動用特殊衣服、その他本類に属する商品」
 登録抹消日平成4年3月26日(平成2年11月28日存続期間満了)
ウ 登録番号 第1491281号
 出願日 昭和51年5月14日
 登録日 昭和56年12月25日
 商標の構成 別紙図形目録4表示のもの
 指定商品 旧別表第24類「空手道衣、空手道帯、その他の運動用特殊衣服、その他本類に属する商品」
 登録抹消日 平成5年4月22日(平成3年12月25日存続期間満了)
(3) 本件商標1(甲第6〜第8号証の各1、2、弁論の全趣旨)
 本件商標1は、いずれも、原審原告の登録出願に基づき設定登録され、原審原告が保有していたものであるが、その後、原審被告に対する商標権の移転登録がされた。
 本件商標1に係る権利の内容、登録等の経過及び商標権の移転登録の経過は、以下のとおりである。
ア 本件商標1−1
 登録番号 第1706007号
 出願日 昭和51年5月14日
 登録日 昭和59年8月28日
 商標の構成 別紙図形目録1表示のもの
 指定商品 旧別表第24類「空手道衣、空手道帯、その他の運動用特殊衣服、その他本類に属する商品(スキーのストツクリングを除く」)
 転登録日 平成6年10月24日
 同受付日 平成6年8月29日
 原因 平成6年6月1日譲渡
イ 本件商標1−2
 登録番号 第1706008号
 出願日 昭和51年5月14日
 登録日 昭和59年8月28日
 商標の構成 別紙図形目録2表示のもの
 指定商品 旧別表第24類「空手道衣、空手道帯、その他の運動用特殊衣服、その他本類に属する商品(スキーのストツクリングを除く」)
 移転登録日 平成6年10月24日
 同受付日 平成6年8月29日
 原因 平成6年6月1日譲渡
ウ 本件商標1−3
 登録番号 第1706009号
 出願日 昭和51年5月14日
 登録日 昭和59年8月28日
 商標の構成 別紙図形目録3表示のもの
 指定商品 旧別表第24類「空手道衣、空手道帯、その他の運動用特殊衣服、その他本類に属する商品(スキーのストツクリングを除く」)
 移転登録日 平成6年10月24日
 同受付日 平成6年8月29日
 原因 平成6年6月1日譲渡
(4) 本件商標2(甲第9、第12、第15、第19、第20、第22、第38、第41号証の各1、2、弁論の全趣旨)
 本件商標2は、原審被告の登録出願に基づき設定登録され、現に原審被告が保有するもの、又は他の者の登録出願に基づき設定登録され、その後、原審被告に対する商標権の移転登録がされたものであって、その商標の構成が、本件商標2−1は本件旧商標1と、本件商標2−2は本件旧商標2と、本件商標2−3は本件旧商標3と、それぞれ同一又は類似するものである。
 本件商標2に係る権利の内容及び登録等の経過は、以下のとおりである(出願人の記載がないものは、原審被告の登録出願に係るものである。)。
ア 本件商標2−1a
 登録番号 第3371034号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成11年1月8日
 商標の構成 「極真会館」との文字を横書きして成るもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
イ 本件商標2−1b
 登録番号 第4027346号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月11日
 商標の構成 「極真会館」との文字を横書きして成るもの 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
ウ 本件商標2−2a
 登録番号 第3370400号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成10年10月9日
 商標の構成 「極真会」との文字を縦書きして成るもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
エ 本件商標2−2b
 登録番号 第4027344号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月11日
 商標の構成 「極真会」との文字を縦書きして成るもの
 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
オ 本件商標2−2c
 登録番号 第4603801号
 出願人 特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館
 出願日 平成13年10月5日
 登録日 平成14年9月13日
 商標の構成 「極真会」との文字を縦書きして成るもの
 指定商品・指定役務 第9類「理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、回転変流機、調相機、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、眼鏡、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、電気通信機械器具、レコード、メトロノーム、電子応用機械器具及びその部品、オゾン発生器、電解槽、ロケット、遊園地用機械器具、スロットマシン、運動技能訓練用シミュレーター、乗物運転技能訓練用シミュレーター、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気ブザー、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、鉄道用信号機、火災報知機、ガス漏れ警報器、盗難警報器、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、スプリンクラー消火装置、消防艇、消防車、自動車用シガーライター、保安用ヘルメット、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、溶接マスク、磁心抵抗線、電極、、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、計算尺、潜水用機械器具、アーク溶接機、金属溶断機、電気溶接装置、家庭用テレビゲームおもちゃ、検卵器、電動式扉自動開閉装置、第14類「貴金属、貴金属」製食器類、貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ、貴金属製の花瓶及び水盤、貴金属製針箱、貴金属製宝石箱、貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て、貴金属製のがま口及び財布、貴金属製コンパクト、貴金属製喫煙用具、身飾品(「カフスボタン」を除く。)、カフスボタン、宝玉及びその模造品、宝玉の原石、時計、記念カップ、記念たて、キーホルダー」、第18類「原革、原皮、なめし皮、毛皮、革ひも、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口口金、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、愛玩動物用被服類」、第24類「織物(畳べり地を除く。)、畳べり地、メリヤス生地、フェルト及び不織布、オイルクロス、ゴム引防水布、ビニルクロス、ラバークロス、レザークロス、ろ過布、布製身の回り品、織物製テーブルナプキン、ふきん、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製いすカバー、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、テーブル掛け、どん帳、シャワーカーテン、織物製トイレットシートカバー、遺体覆い、経かたびら、黒白幕、紅白幕、布製ラベル、ビリヤードクロス、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」、第26類「編みレース生地、刺しゅうレース生地、組みひも、テープ、リボン、房類、ボタン類、針類、編み棒、裁縫箱、裁縫用へら、裁縫用指抜き、針刺し、針箱(貴金属製のものを除く。)、被服用はとめ、衣服用き章(貴金属製のものを除く。)、衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。)、衣服用バックル、衣服用ブローチ、帯留ボンネット、ピン(貴金属製のものを除く。)、ワッペン、腕章、頭飾品、つけあごひげ、つけ口ひげ、ヘアカーラー(電気式のものを除く。)、造花(「造花の花輪」を除く。)、造花の花輪、漁網製作用杼、メリヤス機械用編針」、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ、資金の貸付け及び手形の割引、内国為替取引、債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、両替、金融先物取引の受託、金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け、債券の募集の受託、外国為替取引、信用状に関する業務、割賦購入あっせん、前払式証票の発行、ガス料金又は電気料金の徴収の代行、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券の引受け、有価証券の売出し、有価証券の募集又は売出しの取扱い、株式市況に関する情報の提供、商品市場における先物取引の受託、生命保険契約の締結の媒介、生命保険の引受け、損害保険契約の締結の代理、損害保険に係る損害の査定、損害保険の引受け、保険料率の算出、建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の貸借の代理又は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評価、宝玉の評価、中古自動車の評価、企業の信用に関する調査、慈善のための募金、紙幣・硬貨計算機の貸与、現金支払機・現金自動預け払い機の貸与」
 移転登録日平成15年7月8日
カ 本件商標2−3a
 登録番号 第3370403号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成10年10月9日
 商標の構成 別紙図形目録4表示のもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
キ 本件商標2−3b
 登録番号 第4023886号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月4日
 商標の構成 別紙図形目録4表示のもの
 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
ク 本件商標2−3c
 登録番号 第4691755号
 出願日 平成13年9月14日
 登録日 平成15年7月18日
 商標の構成 別紙図形目録4表示のもの
 指定商品 第29類「アガリクス茸(生のものを除く)、アガリクス茸を主原料とする粉末状又は顆粒状の加工食品、加工野菜及び加工果実、食肉、食用魚介類(生きているものを除く。)、肉製品、加工水産物(かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。)、かつお節、寒天、削り節、食用魚粉、とろろ昆布、干しのり、干しひじき、干しわかめ、焼きのり、豆、冷凍果実、冷凍野菜、卵、加工卵、乳製品、食用油脂、カレー・シチュー又はスープのもと、なめ物、お茶漬けのり、ふりかけ、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、食用たんぱく」、第32類「清涼飲料、果実飲料、ビール、飲料用野菜ジュース、乳清飲料、ビール製造用ホップエキス」
(5) 本件商標3(甲第10、第11、第13、第24〜第26、第34、第40号証の各1、2、弁論の全趣旨)
 本件商標3は、原審被告の登録出願に基づき設定登録され、現に原審被告が保有するもの、又は他の者の登録出願に基づき設定登録され、その後、原審被告に対する商標権の移転登録がされたものであって、その商標の構成が、本件商標3−1は本件商標1−1と、本件商標3−2は本件商標1−2と、本件商標3−3は本件商標1−3と、それぞれ同一又は類似するものである。
 本件商標3に係る権利の内容及び登録等の経過は、以下のとおりである。(出願人の記載がないものは、原審被告の登録出願に係るものである。)
ア 本件商標3−1a
 登録番号 第3370402号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成10年10月9日
 商標の構成 別紙図形目録1表示のもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
イ 本件商標3−1b
 登録番号 第4027349号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月11日
 商標の構成 別紙図形目録1表示のもの
 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
ウ 本件商標3−2a
 登録番号 第3370404号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成10年10月9日
 商標の構成 別紙図形目録2表示のもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
エ 本件商標3−2b
 登録番号 第4027350号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月11日
 商標の構成 別紙図形目録2表示のもの
 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
オ 本件商標3−3a
 登録番号 第3370401号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成10年10月9日
 商標の構成 別紙図形目録3表示のもの
 指定商品 第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
カ 本件商標3−3b
 登録番号 第4027348号
 出願日 平成6年5月18日
 登録日 平成9年7月11日
 商標の構成 別紙図形目録3表示のもの
 指定役務 第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、空手の興行の企画・運営又は開催、運動施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与」
キ 本件商標3−3c
 登録番号 第4466904号
 出願日 平成11年12月21日
 登録日 平成13年4月13日
 商標の構成 別紙図形目録3表示のもの
 指定商品 第9類「コンピューター用ゲームプログラムを記憶させた記憶媒体、電子計算機端末を通じてダウンロード可能なコンピューター用又は家庭用テレビゲーム機用のゲームプログラム、その他の電子応用機械器具及びその部品、その他の家庭用テレビゲームおもちゃ、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、携帯電話機用ストラップ、その他の電気通信機械器具、眼鏡、録音済みのコンパクトディスク、その他のレコード、遊園地用機械器具」
ク 本件商標3−3d
 登録番号 第4618291号
 出願人 特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館
 出願日 平成13年10月15日
 登録日 平成14年11月1日
 商標の構成 別紙図形目録3B表示のもの
 指定商品・指定役務 第9類「理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、回転変流機、調相機、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、オゾン発生器、電解槽、ロケット、運動技能訓練用シミュレーター、乗物運転技能訓練用シミュレーター、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、鉄道用信号機、火災報知機、ガス漏れ警報器、盗難警報器、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、スプリンクラー消火装置、消防艇、消防車、自動車用シガーライター、保安用ヘルメット、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、溶接マスク、磁心、抵抗線、電極、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、計算尺、潜水用機械器具、アーク溶接機、金属溶断機、電気溶接装置、検卵器、電動式扉自動開閉装置」、第14類「貴金属、貴金属製食器類、貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ、貴金属製の花瓶及び水盤、貴金属製針箱、貴金属製宝石箱、貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て、貴金属製のがま口及び財布、貴金属製コンパクト、貴金属製喫煙用具、宝玉の原石、キーホルダー」、第18類「原革、原皮、なめし皮、毛皮、革ひも、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口口金、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、愛玩動物用被服類」、第24類「織物(畳べり地を除く。)、畳べり地、メリヤス生地、フェルト及び不織布、オイルクロス、ゴム引防水布、ビニルクロス、ラバークロス、レザークロス、ろ過布、布製身の回り品、織物製テーブルナプキン、ふきん、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製いすカバー、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、テーブル掛け、どん帳、シャワーカーテン、織物製トイレットシートカバー、遺体覆い、経かたびら、黒白幕、紅白幕、布製ラベル、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」、第26類「編みレース生地、刺しゅうレース生地、組みひも、テープ、リボン、房類、針類、編み棒、裁縫箱、裁縫用へら、裁縫用指抜き、針刺し、針箱(貴金属製のものを除く。)、被服用はとめ頭飾品、つけあごひげ、つけ口ひげ、ヘアカーラー(電気式のものを除く。)、造花(「造花の花輪」を除く。)、造花の花輪、漁網製作用杼、メリヤス機械用編針」、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ、資金の貸付け及び手形の割引、内国為替取引、債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、両替、金融先物取引の受託、金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け、債券の募集の受託、外国為替取引、信用状に関する業務、割賦購入あっせん、前払式証票の発行、ガス料金又は電気料金の徴収の代行、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券の引受け、有価証券の売出し、有価証券の募集又は売出しの取扱い、株式市況に関する情報の提供、商品市場における先物取引の受託、生命保険契約の締結の媒介、生命保険の引受け、損害保険契約の締結の代理、損害保険に係る損害の査定、損害保険の引受け、保険料率の算出、建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の貸借の代理又は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評価、宝玉の評価、中古自動車の評価、企業の信用に関する調査、慈善のための募金、紙幣・硬貨計算機の貸与、現金支払機・現金自動預け払い機の貸与」
 移転登録日 平成15年7月8日
(6) 本件商標4(甲第14、第16、第17、第21、第23、第27、第28、第31、第35、第37号証、弁論の全趣旨)
 本件商標4は、別紙登録商標目録(番号9、11、12、15、17、21〜23、25、26)記載の構成を有し、いずれも原審被告の登録出願に基づき設定登録され、現に原審被告が保有する商標である。
(7) 極真会館及び原審原告(原審原告につき、甲第54、第55、第72、第73号証、弁論の全趣旨)
 極真空手の創始者であるA(以下「A」という。)は、昭和39年に、極真空手の普及のための組織である権利能力なき社団「極真会館」を創設して、その館長に就任し、極真空手の発展に努めた。
 また、Aは、同様に極真空手の普及発展のため、昭和40年代に既存の財団法人を譲り受け、その名称を「財団法人極真奨学会」と変更した。この法人が原審原告である。なお、原審原告の寄附行為上、代表権は、理事の中から選任される理事長に属するものとされているところ(甲第73号証「旧」欄14〜16条、Aの後)援者であったB(以下「B」という。)が、名称変更後の原審原告の理事長に就任し(なお乙第1、第2号証によれば、原審原告の登記において、Bは、「理事」として登記されていることが認められるが、これは、民法上の財団法人につき「理事長」として登記する方法がなかったことによるものと認められるから、登記上、「理事」とされているからといって、Bが、寄附行為上、原審原告において代表権限を有するとされる理事長でなかったとすることはできない。)、また、昭和62年には、C(以下「C」という。)が理事に就任した。
(8) Aの死亡と本件遺言(本件遺言の内容につき甲第44号証の1〜4、東京家庭裁判所の審判の内容につき乙第120号証)
 Aは、平成6年4月26日に死亡した。
 Aの死亡前である同月19日付けで、危急時遺言の方式によるAの遺言(「以下本件遺言」という。)であるとして、Aと親交のあった弁護士D(以下「D弁護士」という。)、C、E、F及びD等の5名が証人となり、D弁護士により本件遺言の各条項が筆記された。
 本件遺言には、次の条項があった。
 「一遺言者死亡のときは、次のとおり処理すること。
1 極真会館、国際空手道連盟を一体として財団法人化を図ること。この法人化には日時を要するので、その間財団法人極真奨学会を拡充化すること。財団法人極真奨学会において極真会館、国際空手道連盟を吸収することが可能ならばそれでも可。
2 Cは、財団法人極真奨学会理事長と株式会社グレートマウンテンの社長を勤めて欲しい。
3 極真会館、国際空手道連盟のAの後継者をXと定める。世界各国、日本国内の本部直轄道場責任者、各支部長、各分支部長は、これに賛同し、協力すること。
4 Xは、極真会館新会館建設の第二次建設委員長(第一次委員長はCが勤めた。)として新会館を建設すること。・・・日本国内の本部直轄道場責任者、各支部長、各分支部長はこれに協力すること。
5 Cは、極真会館、国際空手道連盟、財団法人極真奨学会、株式会社グレートマウンテン、有限会社パワー空手等、極真空手道関連事業を監督し、Xの後見役として勤めて欲しい。・・・
 (以下省略」)
 なお、D弁護士は、本件遺言の確認を求める審判の申立てをしたところ、東京家庭裁判所は、平成7年3月31日、同確認審判の申立てを、要旨、Cは、本件遺言における受遺者に当たる原審原告の理事であると同時に株式会社グレートマウンテンの代表取締役であるから、証人欠格事由に該当すること、本件遺言がAの真意に出たものと確認することは困難であることなどを理由として却下した。その後、同審判は確定した。
2 争点
 本件の主たる争点は、次のとおりである。
(1) 原審原告が原審被告に対し、平成6年7月ころに、本件商標1に係る商標権(以下「本件商標権1」という。)を譲渡したか(争点1)。
(2) 原審原告と原審被告との間に、本件商標2につき、原審被告が原審原告名義で登録出願をする旨の契約が締結されたか(争点2)。
(3) 本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し移転登録を求め得る原因が存在するか(争点3)。
(4) 仮に、本件各商標について、原審原告から原審被告に対してされた商標権移転登録又は原審被告による登録出願及び設定登録につき、何らかの瑕疵があったとしても、原審原告が原審被告に対し、原審被告による登録につき黙示の承諾をし、又は、原審原告の原審被告に対する移転登録請求権が失効したか(争点4)。
(5) 仮に、本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し、何らかの移転登録請求権を有しているとしても、原審原告の原審被告に対する本件各商標の移転登録請求権の行使が、権利の濫用として許されないか(争点5)。
3 争点に関する当事者双方の主張
(1)争点1(原審原告が原審被告に対し、平成6年7月ころに、本件商標権1を譲渡したか)について
(原審被告の主張)
ア 原審原告は、平成6年7月ころ、原審被告に対し、本件商標権1を譲渡し、本件商標1につき、それぞれ、原審被告に対する移転登録手続をしたものである。
イ 本件商標1などの極真空手道関係商標は、Aの死亡日である平成6年4月26日当時、極真会館という空手の教授等を行う団体、あるいは、極真空手という空手の流派そのものを標章するものとして広く認識されていた。
 しかしながら、空手の教授等の活動を行っていたのは、上記のとおり、極真会館であり、Aの死亡当時、本件商標1を保有していた原審原告は、育英及び学術研究の助成を目的とする財団法人であって、空手の教授等は一切行っておらず、将来的にもそのような活動を行うことは考えられない状況であった。したがって、極真空手道関係商標の帰属権者としては、空手の教授等の活動を行っていない原審原告よりは、空手の教授等に関する組織及び活動の実態を有している極真会館、又はAの死後、その遺志に基づいて極真会館の館長に就任した原審被告の方が、適切であることが明白であった。
 加えて、原審原告は、何らの事業をも行っていないことを理由に、既に昭和60年に、主務官庁である文部省から解散の勧告を受けており、平成6年においてもいわゆる休眠団体であって、設立許可が取り消され、解散に至る可能性が十分にある状態であったところ、仮に、本件商標1を保有したまま原審原告が解散をした場合には、本件商標権1は、寄附行為に従って、他の類似の公益法人等に寄付されることとされていた。
 そこで、極真空手道関係商標の帰属者としては、原審原告より極真会館又は原審被告が適切であるという事情に基づき、また、原審原告の設立許可の取消しにより、本件商標1が極真会館の管理下に置かれなくなることを危惧して、原審原告は、原審被告に対して、本件商標権1を譲渡することにしたものである。
ウ 原審被告を後継者とする旨のAの遺志に基づき、原審被告は、極真会館の館長に就任したが、その当時、31歳にすぎず、極真会館のような巨大な組織の運営を単独で決定できるほどの知識や経験を有しているわけではなかった。したがって、原審被告は、Aから原審被告の後見人として指名されたCなど、自らの周りの年長者に対し、様々な事柄を相談しつつ、組織の運営を進めるほかはなかった。本件商標権1の譲渡は、そのような状況下で、原審原告の理事でもあったCが主導し、実務的にはD合同法律事務所のG弁護士(以下「G弁護士」という。)や特許事務所の弁理士などの専門家の指導の下に行われたものである。
 本件商標権1の譲渡に関し、「財団法人極真奨学会 代表者 B」作成名義の平成6年6月1日付け譲渡証書(本件商標1−1に係るものが乙第46号証、本件商標1−2に係るものが乙第47号証、本件商標1−3に係るものが乙第48号証。以下、これらを併せて「本件各譲渡証書」という。)が作成されたところ、原審被告は、同年7月ころ、Bをその自宅に訪ね、本件商標権1の譲渡について、Bの了解を得たものである。
 なお、原審原告は、本件遺言に記された「原審原告の拡充化」との文言を根拠として、原審原告から原審被告に対する本件商標権1の譲渡を否定する。しかしながら、本件遺言に記された「原審原告の拡充化」の要請は、直接の名宛人の記載がなく、強いて言えば、Aとの関係で、第一次的に拡充化の責務を負うのは、本件遺言において、原審原告の理事長に指名されたCであるが、同人でさえ、「原審原告の拡充化」などといえる行為を全く行っていないのであるから、Aの死亡当時、「原審原告の拡充化」という要請は現実的ではなかったというべきである。
(原審原告の主張)
ア 原審原告が、平成6年7月ころ、原審被告に対し、本件商標権1を譲渡したことは、否認する。
イ 平成6年4月当時、文部省が原審原告の設立許可を取り消し、解散させようとする動きは皆無であった。また、一般に、文部省が、所轄の公益法人について、設立許可の取消しを行うか否かの判断をする場合には、事前に、活動状況や将来の活動見通し等につき、聴取する手続が不可欠であり、そのような手続が開始されて、解散が不可避となった段階でも、当該法人は、所有財産(原審原告についていえば、本件商標権1)を、他に譲渡することが可能である。したがって、原審原告が解散し、本件商標権1が他の類似の公益法人等に寄付されるおそれなどは存在せず、原審原告から原審被告に本件商標権1を譲渡する理由にはなり得ない。
ウ 本件商標権1の譲渡が、Cが主導してされたこと、及び原審被告が、平成6年7月ころ、B方を訪れて、本件商標権1の譲渡につき、Bの了解を得たことは否認する。
 後記のとおり、Aは、「原審原告の拡充化」を望み、本件遺言においてそのことを要請しているところ、原審原告が保有していた本件商標権1を原審被告に譲渡することは、明らかに、「原審原告の拡充化」に反することであり、BやCが了解するはずがない事柄である。したがって、Cが本件商標権1の譲渡を主導したとか、Bがこれを了解したなどという事実は存在せず、原審被告は、本件商標1についての移転登録をCらに秘していたものであり、また、本件各譲渡証書は、原審被告が偽造したものである。
 なお、原審被告は、本件遺言による「原審原告の拡充化」の要請が、現実的ではないと主張するが、原審被告は、本件遺言に基づいて、「極真会館、国際空手道連盟のAの後継者」となることを受諾したのであるから、原審被告の上記主張は、身勝手というほかはない。
(2) 争点2(原審原告と原審被告との間に、本件商標2につき、原審被告が原審原告名義で登録出願をする旨の契約が締結されたか)について
(原審原告の主張)
ア Aは、極真会館を財団法人化することを望んでいたものの、当面は、財団法人である原審原告と権利能力なき社団である極真会館とを併存させ、両者を表裏一体の関係として運営することとした。そして、かねてから、極真空手道関係の商標権を法的に確立することを考えていたAは、自身の死後も弟子達が広く衆知を結集して極真空手を発展させるには、Aやその遺族などの特定個人に商標権を帰属させるのではなく、財団法人である原審原告に帰属させることが将来の極真空手の発展にとって最良の道であり、また、商標権の利用により原審原告の財政を豊かにし、その活動を活性化することにもなると考えた。昭和51年3月ないし5月に、原審原告が本件旧商標及び本件商標1の登録出願をしたのは、かかるAの方針によるものである。また、本件遺言の第一項1に、「極真会館、国際空手道連盟を一体として財団法人化を図ること。この法人化には日時を要するので、その間財団法人極真奨学会を拡充化すること。財団法人極真奨学会において極真会館、国際空手道連盟を吸収することが可能ならばそれでも可。」と記載されたのも、このようなAの希望に基づくものである。
イ Cは、Aの密葬に係る出棺の日である平成6年4月27日の夜に行われた全国の支部長の集まりにおいて、本件遺言の内容を説明し、原審被告をAの後継者とすることのほか、「原審原告の拡充化」やC自身が原審原告の理事長に就任することを含む本件遺言を実現する決意を述べた上で、原審被告に発言を促したところ、原審被告は、本件遺言を受諾する旨表明した。
 また、同年5月10日に開催された極真会館の全国支部長会議おいても、本件遺言が読み上げられ、その場で原審被告をAの後継者とすることが確認されるとともに、原審被告は、Aの後継者となることを正式に受諾し、かつ、本件遺言の趣旨を全うすることを各支部長等に約束した。
 さらに、Cは、同年7月14日、原審被告と面談し、原審被告に対し、原審原告の組織づくり(事務局の創設)をするよう助言し、原審被告は、これに同意した。
ウ しかるところ、本件遺言は、「原審原告の拡充化」を記載しており、それは、Aの後継者となる原審被告の義務又は負担となるものであるから、平成6年4月27日に原審被告が本件遺言を受諾したことにより、原審原告との間で、「原審原告の拡充化」義務を負う旨の委任契約又は委任契約類似の契約を締結したものというべきである(以下、原審原告主張のこの契約を「本件契約」という。)。
 その当時、原審原告が休眠状態であって、原審原告内部で本件契約締結の申込みをするか否かなどを承認する手続きが取られていなかったとしても、上記のとおり、Cは、同年7月14日に、原審被告に対し、原審原告の組織づくり(事務局の創設)をするよう申し向け、また、「原審原告の拡充化」は本件遺言の眼目であって、かつ、原審原告の利益となることであるから、理事であるCが原審原告を代表し、原審被告に対し本件契約締結の申込みをしたとしても、無権限又は権限踰越行為ということはできない。
エ 原審原告は、上記アのとおり、Aの意思に基づき、本件旧商標及び本件商標1の登録出願をし、これらの商標に係る商標権を取得したが、Aは、これら商標権の維持管理を専門家である弁理士や弁護士に依頼せず、また自らは商標権の存続期間についての知識を有していなかったため、その更新登録の申請手続を怠り、本件旧商標を存続期間満了によって失効させてしまった。しかしながら、本件旧商標等の極真空手道関係商標は、原審原告が保有すべきものであることは、原審原告、原審被告及びその他の極真会館関係者にとって自明のことであり、原審原告名義で登録された本件旧商標が存続期間満了により失効していたことを知っていた原審被告は、本件契約に基づき、原審原告名義により、本件旧商標と同様の商標を新たに登録出願すべき義務を負担した。また、原審被告は、本件遺言により原審原告の理事長としての立場に立ったCに対し、これらの商標の登録出願について協議し、同人の監督を受けるべき義務を負担したものである。
 そして、本件商標2は、本件旧商標と同一又は類似の構成から成る本件旧商標と同様の商標であるから、本件契約は、原審被告が、本件商標2につき、原審原告名義で登録出願することを、その内容として含むものということができる。
(原審被告の主張)
ア 本件遺言第一項1の文言は、原審原告主張のとおりであるところ、当該文言には、原審原告が原審被告に対し、「原審原告の拡充化」を要求することができるとか、原審被告が「原審原告の拡充化」をしなければならないなどとは記載されていない。原審原告の主張は、単に本件遺言を自己に都合良く解釈したものにすぎず、本件遺言の記載から、原審被告の原審原告に対する何らかの義務を導き出せるものではない。なお、Aの死亡当時、「原審原告の拡充化」という要請が現実的ではなかったことは、上記のとおりである。
イ 原審原告は、Cが原審原告を代表して、原審被告に本件契約の申込みをし、原審被告との間で同契約の締結をした旨主張するが、同主張事実は否認する。
 すなわち、まず、平成6年当時、原審原告において、代表権を有していたのは理事長であるBであり、Cは原審原告を代表する地位にはなかったものであり、このことは、原審における証人尋問において、C自身が自認するところである(速記録31頁)。したがって、そのように認識していたCが、原審原告を代表して、原審被告に契約締結の申込みをするようなことはあり得ない。
 また、Cは、本件遺言に係る確認審判申立事件において、平成7年3月20日の期日に、家事審判官の尋問に対し、原審原告の寄附行為は見たことがなく、総会の記憶もなく、活動については分からない旨供述している(乙第67号証)。仮に、Cが、平成6年4月に、原審原告を代表して、原審被告との間で本件契約の締結をしたのであれば、上記のような供述をするはずはないから、Cが、原審原告を代表して、原審被告との間で本件契約の締結をする意思を有していなかったことは明らかである。
 さらに、Cは、Aの死去の後も、原審原告の休眠状態を解消するための具体的作業は何ら行っておらず、そうであれば、平成6年4月に、Cが原審原告を代表して、原審被告との間で本件契約の締結をする意図を有していたとは考えられない。原審原告は、Cが、平成6年7月14日に原審被告と面談し、原審被告に対し、原審原告の組織づくり(事務局の創設)をするよう助言し、原審被告の同意を得た旨主張するところ、かかる主張はCの手帳(甲第84号証)の「財)極真奨学会の組織づくりをして下さい。」との記載に基づくものであるが、仮に、当日、Cが原審被告に、そのようなことを述べたとしても、上記のような発言をしたことのみによって、休眠状態解消のための具体的行為をしたということは、到底できない。
ウ 上記のとおり、原審原告は、昭和60年に、文部省から解散の勧告を受けており、平成6年においてもいわゆる休眠状態であって、設立許可が取り消され、解散に至る可能性が十分にある状態であったし、このことは、本件商標2の登録がされた各時点でも同様であった。したがって、原審原告の名義で本件商標2の登録を受けるようなことは、考えられない状況であった。
エ Aは、その生前に、極真会館の将来のあり方に関する考えを「国際空手道連盟規約(草案)」(乙第77号証)としてとりまとめたが、その28項において示されているとおり、極真空手道関係商標を「本部」、すなわち極真会館に帰属させ、その管理の下で使用していくとするのがAの意思であった。極真空手道関係商標を原審原告の名義で登録したままとすることが、Aの意思でなかったことは、Aの生前である平成2〜5年に、本件旧商標を、存続期間の満了により相次いで失効させていることからも、明らかである。この点につき、原審原告は、本件旧商標の失効は、Aに商標権に関する知識がなかったことによるものと主張するが、本件旧商標の失効直前である平成元年6月12日の全国支部長会議において、極真会館に関する標章の統一が最重要議題とされていたこと(乙第104号証)や、本件旧商標の存続期間満了について、Aと交際のあったD弁護士から注意があったと考えられることに照らして、Aが、商標権に関する知識がなかったために、本件旧商標を失効させてしまったなどということはあり得ない。そうすると、本件旧商標と同一構成の本件商標2を、Aの承継者である原審被告が、原審原告の名義によって改めて登録する義務を負うというようなこともあるものではない。
(3) 争点3(本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し移転登録を求め得る原因が存在するか)について
(原審原告の主張)
ア 本件各商標のうち、本件商標2−1b、本件商標2−2b、本件商標2−3b、本件商標3−1b、本件商標3−2b、本件商標3−3bは、商標の構成を「極真会館」若しくは「極真会」又は別紙図形目録表示の図形1〜4とし、いずれも指定商品を、第41類「空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授」等として登録されたものである。
 しかるところ、「極真空手」の教授を創始したのはAであり、かつ、Aは、極真空手に関する一切の商標につき、原審原告名義で登録すべきものとしていた。
 したがって、原審被告は、本件契約による「原審原告の拡充化」義務に基づき、商標の構成を「極真会館」若しくは「極真会」又は別紙図形目録表示の図形1〜4とし、指定商品の区分を第41類として、商標登録出願をする場合には、原審原告名義で出願すべき義務を負っていたというべきであり、この義務に違反して上記各商標に係る登録を得たものである。
イ 本件商標2及び本件商標3のうちのその余の商標並びに本件商標4は、極真空手道関係の周知商標ないし著名商標であり、原審被告個人に帰属させるべき理由はなく、原審原告に帰属させるべきである。したがって、原審被告は、これらの商標につき、登録出願をする場合には、原審原告名義で出願すべき義務を負っていたというべきであり、この義務に違反して上記各商標に係る登録を得たものである。
 そうすると、原審原告は、本件各商標につき、その商標権の帰属を実体に符合させるべく、移転登録を求める権利を有するものである。
ウ 本件遺言は、極真会館及び国際空手道連盟におけるAの後継者を原審被告とするとともに、Aの後継者としての原審被告に対し、「原審原告の拡充化」の負担を課した負担付き遺贈と解するべきであり、当該負担に係る受益者は原審原告である。
 原審被告は、上記(2)のイのとおり、本件遺言を受諾する旨を表明したところ、これは、上記負担を含む本件遺言全体を受諾したものであって、極真会館及び国際空手道連盟におけるAの後継者となることだけを受諾したものではない。
 そして、原審原告は、平成16年7月24日到達の書面により、原審被告に対し、「原審原告の拡充化」の負担につき受益の意思表示をした(甲第45号証の1、2)ところ、「原審原告の拡充化」の負担には、本件各商標に係る商標権(少なくとも本件商標権2)を原審原告に移転することが当然含まれるものである。
エ 原審被告による本件商標2−1bに係る登録出願に対し、特許庁が「A氏、(極真会館館長)が指導・普及させた、A空手の練習場を表す『極真会館』文字を書して成るところ、技芸・スポーツの教授等、とりわけ空手の教授において知られる団体の名称を、何等かの関係があるものとも認められない一個人である出願人が自己の商標として独占使用することは穏当ではなく、商標法第4条1項第7号に該当する」との拒絶理由通知を行ったところ、原審被告は、登録するについて正当な地位にあることを証明するため、「財団法人極真奨学会代表者C」名義の承諾書(乙第49号証)を偽造して特許庁に提出し(甲第61号証)、本件商標2−1bに係る登録を得た。
 ところで、存続期間が満了した商標につき、この商標に無関係であった者が新たに登録することは、当該存続期間満了商標が有していた商品識別機能を混乱させ、また、これに蓄積された信用を破壊し、あるいはその信用にただ乗りするものであって、当該登録出願は商標法4条1項7号に該当するものと判断される。このことは、見方を変えれば、存続期間満了商標については、原則として、その商標権を有していた者の登録出願を優先するということであり、存続期間満了商標の商標権者は、当該商標について再度の登録出願が優先して認められるという法的利益を有するものである。
 したがって、原審被告が、偽造の承諾書により本件商標2−1bに係る登録を得たことは、原審原告の上記法的利益を侵害する不法行為に当たり、本件商標2−1bに係る商標権を原審原告に移転して違法状態を解消すべき義務を負うものである。
(原審被告の主張)
ア 原審被告が、本件契約による「原審原告の拡充化」義務を負うことは否認する。
イ 原審原告は、本件遺言の内容が負担付き遺贈であると主張するが、負担付き遺贈は、受遺者に法的義務を課すものであるところ「拡充化」などという内容が、不特定の法的義務はおよそ成立し得ない。
 また、仮に、本件遺言の内容が一定の負担付き遺贈であり、かつ、原審原告がその受益者であるとしても、負担付き遺贈の受益者は、反射的な利益を有するにとどまり、受遺者に対し、負担履行の請求権を有するものではない。
ウ 原審原告は、商標権者が、存続期間満了後においても、新たな登録出願につき保護されるかのように主張するが、商標権が消滅した商標について、他の者が新たに登録をすることができないのは、消滅した日から1年間のみであり、しかも、従前の商標権者が消滅前1年以上その使用をしていなかったときには、かかる制限もないのであるから(商標法4条1項13号、休眠状態にあって、商標権を一切)使用していなかった原審原告に、存続期間が満了した商標につき保護されるべき利益はない。また、商標の使用を許諾された者のみが使用し、商標権者自身は使用していなかった商標の存続期間が満了した場合には、当該使用許諾を受けていた者の登録出願に対しては、直ちに登録を認めるべきものと解されるから、本件商標2を、、使用していた極真会館による登録出願が可能であれば原審原告の承諾を経ずとも本件商標2の登録がされたものというべきところ、極真会館は、法人格なき財団であって、商標の登録主体となり得なかったため、原審被告の名義により登録出願されたのであり、本来は、原審原告の承諾なくして登録が認められるものである。さらに、原審原告は、商品識別機能(出所識別機能)に言及するが、本件商標2、3に化体する出所識別機能は、極真会館による長年の活動の結果、極真会館の下のみに蓄積されてきたものであり、需要者が本件商標2、3に接した場合に、原審原告を想起することはあり得ない。
 なお、原審原告の主張は、不法行為を根拠として、何故に原審被告に対し、本件商標2、3に係る商標権の返還を求め得るのかが明らかではなく、この点においても失当である。
(4) 争点4(仮に、本件各商標について、原審原告から原審被告に対してされた商標権移転登録又は原審被告による登録出願及び設定登録につき、何らかの瑕疵があったとしても、原審原告が原審被告に対し、原審被告による登録につき黙示の承諾をし、又は、原審原告の原審被告に対する移転登録請求権が失効したか)について
(原審被告の主張)
 仮に、本件各商標について、原審原告から原審被告に対してされた商標権移転登録又は原審被告による登録出願及び設定登録につき、何らかの瑕疵があったとしても、原審原告は原審被告に対し、原審被告による登録につき黙示の承諾をした。
 すなわち、原審被告は、平成6年にAの遺志に基づいて極真会館の館長に就任して以降、本件各商標につき、商標権移転登録を受け、又は登録出願をしてその登録を得ている。原審被告は、平成15年に本件各商標権の登録移転請求を受けるまで、一度も原審原告から本件各商標の登録に対する異議を受けてはいない。
 本件において、原審原告が原審被告の義務違反であるとして主張する事実は、平成6年当時の事情が多いから、原審原告が原審被告の義務違反を根拠として本件各商標権の返還を求めるのであれば、平成6年以降、何時でも権利行使が可能であったにもかかわらず、平成15年に至るまで、原審原告は原審被告に対し、一切そのような請求は行ってこなかった。しかも、その間、CやH(以下「H」という。)など、原審原告ないし極真館の主立った人物は、いずれも原審被告と行動を共にし、原審被告を一貫して支持し続けてきたのであるから、原審原告は、原審被告による本件各商標の登録につき黙示の承諾をしたものというべきである。
 また、仮に、上記瑕疵により、原審原告が原審被告に対し、移転登録請求権を取得したとしても、上記事情の下で当該請求権は失効した。
(原審原告の主張)
 原審被告の主張は争う。
(5) 争点5(仮に、本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し、何らかの移転登録請求権を有しているとしても、原審原告の原審被告に対する本件各商標の移転登録請求権の行使が、権利の濫用として許されないか)について
(原審被告の主張)
 仮に、本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し、何らかの移転登録請求権を有しているとしても、以下の事情を考慮すれば、原審原告の原審被告に対する本件各商標の移転登録請求権の行使は、権利の濫用として許されない。
ア 原審原告は、昭和62年に15名の理事の選任(乙第1号証)が行われて以降、理事の選任、改選が行われないまま経過していたところ、原審原告の登記簿上、平成15年3月10日付けで従前の理事が退任し、15名の理事が就任した旨の登記が同年4月17日にされ、その後、上記退任及び就任に係る登記を抹消した上、退任登記の抹消により回復された従前の理事が同年8月21日に退任し(ただし、理事のうち、B、Aら5名は、同日以前に死亡した。)、同日、15名の理事が就任した旨の登記が同月26日にされている(乙第2号証)。そして、同月26日登記に係る理事は、同月21日の原審原告の理事会(以下「本件選任理事会」という。)において選任されたものとされている。
 しかるところ、原審原告の寄附行為によれば、原審原告の理事会は、理事現在数の3分の2以上が出席しなければ、議事を開き、議決をすることができない(ただし、当該議事につき、書面によりあらかじめ意思を表示した理事は出席者とみなされる)ものとされており(甲第73号証)、同年8月21日当時の理事(死亡者を除く昭和62年選任の理事)の現在数は10名であったから、本件選任理事会は、7名以上の理事が出席しなければ、議事、議決をすることができなかったはずである。しかるに、当時の10名の理事のうち、I、J、K、L、Nは出席しなかったから、本件選任理事会は、定足数を満たさず、本件選任理事会でされたものとされている理事の選任は無効である。
 加えて、同年4月17日にされた理事の改選登記は、議事録の偽造によってされた違法なものであり(原審における証人H尋問に係る速記録19〜20頁)、このことからすれば、原審原告の理事の登記は、CやHが恣になし得ることが明らかであり、そうであれば、同年8月26日の理事の選任登記も違法な手続によってされたものということができる。
 したがって、CやHは、原審原告を、違法な理事選任によって、いわば乗っ取った上で、原審原告の名により本件各商標の移転登録請求をしているのであり、かかる請求が権利の濫用であることは明らかである。
イ 原審原告は、現在に至るまで休眠状態が続き、その実体は存在せず、法人格は形骸化しているのみならず、Hが館長を務める極真館と一体化している。
 原審原告の休眠状態が現在まで解消されていないことは、寄附行為書面の原本が存在せず、新たな寄附行為書面の作成のための措置もしていないこと、平成12年12月以降の資産に全く変動がないこと、仮に平成15年8月21日に理事の選任がされたとしても、その任期は3年であるのに、現在に至るまで改選がされていないこと、法人都民税が未納であること、具体的な活動実績が存在しないこと、文部科学省に対する必要事項の届出を行っていないこと等により、明らかである。
 かかる原審原告が、本件各商標の移転登録請求をすることが権利の濫用に当たることは明らかである。
ウ 原審原告から原審被告への本件商標権1の譲渡に合理的な理由があることは、上記のとおりであり、他方、上記のとおり、原審原告は極真館と一体化しているから、仮に、原審原告の移転登録請求が認められれば、極真館が不当な利益を得ることも明白である。
(原審被告の主張)
ア 本件選任理事会に、I、J、K、L、Nが出席しなかったことは否認する。
イ 原審原告が現在に至るまで休眠状態が続き、極真館と一体化していることは、否認する。
ウ 原審原告から原審被告への本件商標権1の譲渡に合理的な理由があること、原審原告が極真館と一体化し、原審原告の移転登録請求が認められれば、極真館が不当な利益を得ることは、否認する。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原審原告が原審被告に対し、平成6年7月ころに、本件商標権1を譲渡したか)について
(1) 上記第2の1の前提となる事実に、甲第44号証の1〜4、第54、第55、第66、第69、第70、第72、第73、第79、第88号証、乙第1〜第4号証、第7、第8、第12、第70、第79号証、第87〜第89号証、第121、第127号証、いずれも原審における証人H初雄の証言、原審原告代表者及び原審被告本人の各尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、Aの死亡の前後にわたる極真会館、原審原告、原審被告その他関係者の動向等につき、以下の事実を認めることができる。
ア 昭和39年の極真会館の創設以降、Aの統率の下に、極真空手は順調に発展し、Aが死亡した平成6年ころには、日本国内はもとより、海外にも、多数の支部、道場を設置し、極めて多くの会員(国内会員数50万人、世界130か国の会員数1200万人と称していた。)を抱える規模となっていた。
 国内支部の各支部長は、極真会館(総本部)に対し、会費等の納入義務、その主催する大会への協力義務等を負担する一方で、担当地域内に道場等を設置して極真空手の教授を行うことができ、また、支部長会議を構成して、Aの広範かつ絶対的な権限の下であるにせよ、極真会館の運営に対する一定の関与を行う地位にあった。平成6年当時、国内支部の支部長の員数は50数名であった。
イ Bは、松竹映配株式会社の代表取締役を務めており、Aの後援者であったことから、昭和40年代に、現名称となった原審原告の初代理事長に就任したが、原審原告の運営については、A生存中は同人に、A亡き後はCに任せたとして、一切関与せず、極真会館の活動に関しても、資金援助をするほか、大会に役員として出席する程度のことを行うのみであり、平成3年ころからは、健康を害してこれも行わなくなっていた。同人は、平成11年6月6日に死亡した。
ウ Cは、医学生であった昭和32年ころに極真空手に接し、稽古のため訪れた極真会館本部道場でAの知己を得たものであり、医師となった後、自ら空手を行うことはなくなったものの、Aの依頼により、昭和44年から、極真会館が主催する大会ごとの「ドクター」を務め、また、昭和62年からは審議委員長になるとともに、原審原告の理事に就任するなど、Aないし極真会館と密接な関係を保っていた。Cは、本件遺言の際、証人の1人となり、また、後継者に指名された原審被告が若輩であるため(原審被告は、当時31歳で、支部長経験は2年余りであり、多くの先輩支部長がいた。)、本件遺言により、原審被告の後見人となって、同人を助け、また、極真会館等を監督するようAから依頼されたものと理解し、後記カのとおり、平成6年4月27日の極真会館の支部長らによる会合において、本件遺言の内容を発表するとともに、原審被告を促して、これを受諾する旨表明させたことを始めとして、その後、後記キ、クのとおり、極真会館が四分五裂していく経過においても、原審被告を支持する立場をとり続けて、そのため、原審被告がCの傀儡であるとまで噂されることもあったが、平成13年ころから、原審被告の行動ないし原審被告による極真会館(X派)の運営が、Aの遺志に沿わず、Cの助言や忠告もないがしろにするものと感じるようになり、平成14年10月16日、原審被告に対し、訣別する旨を宣言して、以後、原審被告から離れるに至った。
 Cは、Aが死亡した平成6年当時、原審原告において、理事長のBに次ぐ筆頭理事格であり、Bの死後、原審原告の理事長に就任したが、少なくとも、平成15年ころまでは、原審原告の具体的な運営を行ったり、会務に携わったりすることはなかった。また、Cは、原審被告と離反した後、これと前後して、同様に原審被告ないし極真会館(X派)と離反し、新たに「極真館」を名乗って空手教授をするようになったHやMと接近し、極真館会長の肩書で、極真館の主催する大会の会長を務めるなどしている。
 なお、Cは、平成6年以前から横浜市で病院勤務をしており、現在は、横浜東邦病院の院長を務めている。
エ 原審原告の理事長にはBが就任したが、実際には、原審原告は、Aの一存によって万事が決まる体制となっており、その運営は、極真会館と一体的に行われていて、独立した原審原告の事務体制などもなく、代表者印などが極真会館の総本部建物においてAによって保管されるなど、理事長を初め、各理事の存在は名目的であるにすぎなかった。しかも、原審原告は、寄附行為によって理事の任期が3年と定められていたにもかかわらず、昭和62年に理事の就任登記(乙第1号証)がされて以降、長期間、役員の就任登記その他何らの登記もされず、実際に理事の選任もされなかった上(昭和62年以降で理事の改選の登記がされたのは、平成15年になってからである。)、それ以前から、財団法人としての活動を何ら行わない、いわゆる休眠状態が続いていた。そのため、主務官庁である文部省より、すでに昭和60年ころ、存続の是非を問題とする指摘がされたが、その際には、Aの指示により、極真会館の内弟子に経済的援助を行った実績があるかのような形式を取り繕い、とりあえず解散を免れたことがあった。
オ 原審原告が昭和51年に登録出願をした本件旧商標及び本件商標1は、極真会館が使用してきたものであり、その登録後も、極真会館が使用を続け、Aが死亡した平成6年ころには、少なくとも空手や格闘技等に興味を持つ者の間では、極真会館という団体の出所を表示する標章として広く知られるに至っていた。
 ところが、本件旧商標は、これを管理していたAが、存続期間の更新登録の申請手続をしなかったため、存続期間の満了により消滅した。
カ Aは、平成6年4月26日に死亡し、翌27日に密葬が施行されたが、同日夜、極真会館の支部長らによる会合が催され、その場で、本件遺言に係る5名の証人のうちの1人であったCから、本件遺言の内容(少なくとも、上記第2の1の(8)記載の内容)が発表された上、原審被告はCに促され、本件遺言に従いAの後継者となることを受諾する旨表明した。
 また、同年5月10日、極真会館の支部長会議が開催され、その場で改めて本件遺言の内容の説明があり、それまでAの意思を絶対としてきた支部長らは、本件遺言に従って、原審被告がAの後継者として極真会館の館長に就任することを全会一致で承認し、原審被告は、これを受諾して、極真会館の館長に就任した。
キ Aの妻であったO(以下「O」という。)は、本件遺言がAの意思に基づかないものであるとし、今後は極真のマークの使用に関してはOが管理するとの記載もある、平成6年5月26日付け書面を各支部長に送付した上、平成7年2月15日には、Oが極真会館の館長に就任する旨、記者会見で発表し、当時、すでに原審被告と離反し、破門されていた支部長5名がこれを支持した。このOを館長とする1派は、「遺族派」と称された。、
ク 平成7年4月5日に開催された極真会館の支部長会議において、原審被告による極真会館の私物化、独断専行及び不透明な経理処理を理由として、賛成35名、反対3名により(なお、10名が欠席)、原審被告の館長解任が決議された。これに対し、原審被告は、同人がAの後継者たる地位に就いたのは、Aの遺志によるものであるとして、同決議の効力を否認し、これにより、極真会館は、さらに2派に分裂した。上記解任決議を支持する30名の支部長は、同人らを中心として極真会館を運営する旨宣言して、「支部長協議会派」と称され、また、原審被告及び同人を館長として支持する12名の支部長は「X派」と称された。
 これらの各派は、その後の離合集散を経て、現在では、それぞれ「極真会館」を名乗る複数の団体(宗家、X派、聯合派等)や、「極真館」、「新極真」を名乗る団体等、合計7〜8団体となるに至っている。
(2) 上記(1)の各事実及び第2の1の各事実に、乙第105〜第111号証、第119号証の1、2、当審証人Gの証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件商標1に係る移転登録の申請は、Cが、原審被告とともに、米津合同法律事務所に所属するG弁護士に依頼し、同弁護士が更に依頼した吉田金山石田国際特許事務所の所属弁理士によって行われたことが認められる。
 この点につき、Cは、陳述書(甲第108号証)及び当審における原審原告代表者尋問(以下、同陳述書の記載及び同尋問における供述を併せて「当審C供述」という。)において、同人が、本件商標1に係る移転登録の申請をG弁護士に依頼したことを否定するので、当審C供述の当該部分が採用できず、上記認定に至った理由につき、上記(1)の各事実及び第2の1の各事実を前提として、若干の補足を行うこととする。
ア 本件商標1に関するG弁護士から吉田金山石田国際特許事務所への依頼(したがって、G弁護士への依頼)は、当初は、本件商標1に係る更新登録申請を内容とするものであり、その依頼は、平成6年6月初めころされたものであるが(乙第107号証)、同月中ころには、依頼の内容が、原審原告から原審被告への移転登録の申請に変更されたものである(乙第108号証)。そして、この時期は、原審被告が、同年5月10日の支部長会議の決議により、極真会館の館長に就任してから間がなく、本件遺言により、Aから原審被告の後見人となることを依頼されたと考えていたCとしては、原審被告を極真会館の後継者にするとのAの遺志を一応実現したとはいえ、極真会館内の、とりわけ古参の支部長らに、若輩の原審被告が館長に就任したことに対する反感を抱く者が少なからずいるであろうこと(原審被告が館長に就任してから1年も経ない平成7年4月5日の支部長会議で、原審被告の解任決議に賛成した支部長が35名もおり、反対した支部長が3名にすぎなかった事実は、平成6年5月10日の支部長会議では、本件遺言がAの遺志を体現するものとして、心ならずも原審被告の館長就任に賛成したものの、その実、それを快く思っていなかった支部長が少なからざる数存在したことを優に推認させるものである。)、さらに、Aの妻であったOが、同年5月26日に、本件遺言がAの意思に基づくものであることを否定する旨の書面を、各支部長に宛てて送付していたことなどから、Aの後継者としての原審被告の立場が不安定であることを感じ取り、原審被告が極真会館の館長の地位を保つことに腐心すると同時に、支部長の多くが離反した場合や極真会館が分裂した場合等の対策も検討していたものと推認される。
イ 平成6年当時、本件商標1は、少なくとも空手や格闘技等に興味を持つ者の間では、極真会館という団体の出所を表示する標章として広く知られていたものであるから、本件商標1を確保することは、極真会館を運営する上で、とりわけ極真会館が分裂した場合には、Aとの関係における正統性を主張する上で、極めて重要かつ有利であることは、容易に理解し得るところである。
 しかしながら、本件商標1の商標権者であった原審原告は、Aの生前は、理事長以下、各理事の存在は名目的であるにすぎず、Aの一存で万事が決まり、極真会館と一体として運営されていて、実質上、独立性を有していなかったのみならず、過去において、主務官庁から存続の是非が問題とされたことがあり、しかも、その理由である休眠状態は、平成6年当時もそのままとなっていて、理事長を初めとする各理事の任期もとうに経過しているなど、存在基盤の極めて脆弱な財団であった。
 しかるところ、A亡き後、原審被告が極真会館を掌握し切れず、極真会館が分裂するような事態となった場合、とりわけ、原審被告が少数派となったような場合には、本件商標1を原審被告が確保するためには、商標権者である原審原告が、極真会館との一体性を脱し、独立性を回復した上、原審被告を支持する立場をとり続けることが必要となるが、上記のような原審原告の状況にかんがみれば、それまでは名目的な理事長、理事であり、かつ、病弱であるBや、本業が医師であるCにとって、このようなことは、相当に困難に感じられたと推認される。加えて、Oの同年5月26日付け各支部長宛ての書面に、本件遺言の効力を否定するだけでなく、「極真のマーク」(本件商標1を含むものと解される。)を今後はOが管理する旨の記載があったことは、極真会館の分裂及び本件商標1の喪失という事態の兆しとして、原審被告はもとより、その後見人として本件遺言の円滑な実現に尽力していたCにとって、危機感を覚える理由となったことは明らかである。
ウ そうすると、平成6年6月当時、本件商標1を原審被告が確保するためには、原審原告がこれを保有することは必ずしも万全ではなく、端的に原審被告の名義で保有した方がよいと、Cが考えるに至ったとすることは極めて自然である。仮に、これを考え付いたのがCではなく、原審被告であったとしても、その当時、Cが原審被告の後見人として、原審被告と一心同体のごとく行動していたことに照らすと、原審被告は、Cにその旨の申し出をし、Cもこれに同意したと考えることが自然であるのに対し、当時、若輩かつ館長経験に乏しい原審被告が、Cに秘して、勝手に独断専行して本件商標1の登録移転申請をしたと考えるのは不合理である。
 更に付言すると、当時、D弁護士の経営するD合同法律事務所に所属していたG弁護士は、同事務所において、極真会館関係の法律事務を専ら担当していた(乙第105号証、当審における証人Gの証言)のであり、また、D弁護士は本件遺言の証人であり、かつ、遺言内容の各条項の筆記者であり、Cはその証人の1人であったのだから、仮に、原審被告が、本件商標1の登録移転をCに秘しておきながら、G弁護士にその申請手続を依頼したとすると、原審被告の依頼がCに伝わるおそれが十分に考えられるのであり(なお、原審被告が、当該依頼をCに対し秘匿すべき旨を明示したとすれば、G弁護士ないしD弁護士が原審被告の依頼を受任したとは考え難いから、原審被告は、当該依頼が、少なくとも、Cの同意を得たものであるかのように装わざるを得なかったはずであり、そうだとすると、G弁護士らが守秘義務に則って、Cに伝えないということも期待し得なかったはずである。)、それにもかかわらず、原審被告が、本件商標1の登録移転申請を、あえてG弁護士に依頼しなければならない理由も見い出せないのである。
エ 以上の説示に、G弁護士の陳述書(乙第105号証)及び当審における証人尋問の結果を併せ考えれば、G弁護士に対する本件商標1の移転登録申請の依頼は、原審被告とともに、Cからもされたものと認めることができる。
オ 当審C供述中には、Cが、平成6〜7年当時、商標権について、明確な知識はなかったとか、極真会館に関する商標が原審原告名義で登録されていることを知らなかった等と述べる部分がある。しかしながら、Oの同年5月26日付け各支部長宛ての書面に、本件遺言の効力を否定し、「極真のマーク」を今後はOが管理する旨の記載があったことは、上記のとおりであり、このことは、原審被告又は同人を支持する支部長を通じて、Cも当然知ったと考えられるから、本件遺言をAの遺志であると考え、原審被告の後見人を自負するCが、少なくとも、その時点において、本件商標1に関する権利関係を調査しなかったとすることは不自然であり、当審C供述中の上記部分は信用することができない。
カ また、当審C供述中には、原審原告から原審被告への本件商標1の譲渡が、本件遺言における「原審原告の拡充化」に反するから、Cとしては、仮に提案されたとしても、反対した旨述べる部分がある。
 しかるところ、本件遺言に「財団法人極真奨学会を拡充化すること」との文言があることは、そのとおりであるが、その前後を含めた第一項1の文言全体は、「極真会館、国際空手道連盟を一体として財団法人化を図ること。この法人化には日時を要するので、その間財団法人極真奨学会を拡充化すること。財団法人極真奨学会において極真会館、国際空手道連盟を吸収することが可能ならばそれでも可。」というものであり、Cが考えているとおり、本件遺言がAの遺志を表すものとすれば、この文言によって、Aが最終的に意図するところは、「極真会館、国際空手道連盟」の法人化であって、「原審原告の拡充化」それ自体が目的でないことは明白である(極端な例を挙げれば、仮に、「極真会館、国際空手道連盟」の法人化が実現したとすれば、原審原告の財産を「極真会館、国際空手道連盟」に移転することは、「原審原告の拡充化」に反することではあっても、Aの遺志に沿うものである。)。このように、本件遺言において、「原審原告の拡充化」は、「極真会館、国際空手道連盟」の法人化が成るまでの暫定措置ないし法人化された「極真会館、国際空手道連盟」の充実化の手段として位置付けられているにすぎないのであり、それを、あたかもAの究極の目的であるかのように言い立てることに合理性がないことは明らかである。
 他方、本件遺言の第一項3には「極真会館、国際空手道連盟のAの後継者をXと定める。」との、同項5には「Cは、極真会館、国際空手道連盟、財団法人極真奨学会・・・等、極真空手道関連事業を監督し、Xの後見役として勤めて欲しい。」との文言があるから、原審被告を、極真会館の館長に就けてAの正統な後継者たる地位の安定化を図ることは、少なくとも、平成6年6月当時のCにとっては、Aの明確な遺志に基づく最重要の事柄であったはずであり、現に、Cは、その遺志に従って行動しているところであるが、この場合の「極真会館、国際空手道連盟」とは、いうまでもなく、同項1の財団法人化を目標とする「極真会館、国際空手道連盟」のことであり、したがって、原審被告を、最終的には法人化が図られるべき極真会館の館長とすることが、Aの遺志であったはずである。
 そうすると、等しく本件遺言に記載されているとはいえ、「極真会館、国際空手道連盟」の法人化のための手段ないし暫定措置にすぎない「原審原告の拡充化」の実現と、原審被告をその「極真会館、国際空手道連盟」におけるAの後継者とすることの実現とでは、自ずから、軽重があり、仮に「原審原告の拡充化」に拘泥して、原審被告を、「極真会館、国際空手道連盟」におけるAの後継者とすることを実現し得なかったとすれば、本末転倒というべきものであって、このことは、Cにおいて十分に認識し得るところと認められる。
 そして、上記のとおり、平成6年6月当時、Cは、原審被告のAの後継者としての立場が不安定であることを感じ取り、支部長の多くが離反した場合や極真会館が分裂した場合等の対策を検討せざるを得なかったのであるところ、本件商標1の登録移転は、極真会館の運営上、また、Aの後継者としての正統性の主張のために重要な本件商標1を、原審被告が確保するためにされたものと認められるのであるから、たとえ、それが、「原審原告の拡充化」と相容れないとしても、Cが反対を貫いたものとは認められず、当審C供述の上記部分を採用することはできない。
(3) ところで、原審被告は、平成6年7月ころ、Bをその自宅に訪ね、本件商標権1の譲渡について、Bの了解を得た旨主張し、原審被告の陳述書(乙第70号証)や、原審における本人尋問の結果中には、この主張に沿う記載部分及び供述部分が存在するが、これらの供述部分及び記載部分は、これを裏付けるに足りる的確な証拠がなく、直ちに信用することはできない。その理由は、原判決42頁25行〜43頁25行(43頁17〜21行の「かかる供述・・・失わせるものである。」との部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する。そうすると、本件各譲渡証書は、極真会館建物内にAによって保管されていた原審原告の代表者印を用いて作成されたものと認められる。
 しかるところ、Bは、上記のとおり、原審原告の名目的な理事長であったものであり、従前から、原審原告の運営については、Cに任せたとして、一切関与しておらず、さらに、平成6年6月当時は、病弱であったのだから、本件遺言により次期理事長に指名されたCから、原審被告を極真会館の後継者とするとのAの遺志を実現するためとして、本件商標1の登録移転についての了解を求められれば、これに何ら異議を唱えることなく応じるであろうことは、十分予測可能なところであり、そうであれば、格別、Bに秘匿する必要のない本件商標1の登録移転について、CからBに対し、事前に、又は少なくとも事後的に、了解が求められ、Bがこれに応じたものと推認するのが相当である。したがって、本件各譲渡証書(乙第46〜48号証)は、結局、真正に成立したものと認められる。
(4) 以上のとおりであるから、本件商標権1は、平成6年6〜7月ころ、原審原告から原審被告に対し譲渡されたものと認めることができる。
2 争点2(原審原告と原審被告との間に、本件商標2につき、原審被告が原審原告名義で登録出願をする旨の契約が締結されたか)について
 原審原告は、本件遺言が、「原審原告の拡充化」を記載しており、それは、Aの後継者となる原審被告の義務又は負担となるものであるから、平成6年4月27日に原審被告が本件遺言を受諾したことにより、原審被告は、原審原告との間で、「原審原告の拡充化」義務を負う旨の委任契約又は委任契約類似の契約(本件契約)を締結したと主張した上、さらに、原審被告は、本件契約に基づき、原審原告名義により、本件旧商標と同様の商標を新たに登録出願すべき義務及び原審原告の理事長としての立場に立ったCに対し、これらの商標の登録出願について協議し、同人の監督を受けるべき義務を負担したところ、本件商標2は、本件旧商標と同一又は類似の構成から成る本件旧商標と同様の商標であるから、本件契約は、原審被告が、本件商標2につき、原審原告名義で登録出願することを、その内容として含むものであると主張する。
 しかしながら、本件遺言の関係部分の記載内容は、上記第2の1の(8)のとおりであって、「原審原告の拡充化」は、第一項1に記載されているものである(なお、本件遺言において、「原審原告の拡充化」が、「極真会館、国際空手道連盟」の法人化のための手段ないしはそれに至るまでの暫定措置にすぎない程度のものとして位置付けられていることは、上記1のとおりである。)が、同項1には、「原審原告の拡充化」を含め、そこに記載された処理を行うべき者の記載がなく、そうであれば、本件遺言に従った場合に、「原審原告の拡充化」の義務を負う者は、第一次的には、原審原告自身ないし本件遺言の同項2で原審原告の理事長に就任するよう要請されたCと考えるべきであって、原審被告を含む他の者は、精々、原審原告又はCが、「原審原告の拡充化」を行うことに協力ないしは妨害しないといった程度の抽象的、一般的な義務を負うにとどまるものと解さざるを得ない。
 原審原告は、平成6年4月27日に原審被告が本件遺言を受諾したことにより、原審原告との間で、本件契約を締結したと主張するが、本件遺言第一項において、原審被告に直接関連するのは、極真会館におけるAの後継者に指名されたこと(同項3)、新会館建設の第二次建設委員長として、新会館を建設することとされたこと(同項4)、Cを後見人にすること(同項5)等であって、上記のとおり、「原審原告の拡充化」は、原審被告を義務者として指定するものではなく、かつ、上記1の(1)の事実関係の下では、平成6年4月27日夜の支部長らによる会合において、出席者の最大の関心事は、極真会館におけるAの後継者は誰か(具体的には、極真会館の館長となるのは誰か)という1点に集中していたことは明らかであるから、その場で、原審被告が支部長らに対し、本件遺言を受諾する旨述べたことは、極真会館におけるAの後継者となることを受諾し、これに付随して、新会館建設の第二次建設委員長に就任すること、及びCを後見人にすることを承諾するという趣旨にとどまるものというべきであり、たとえ、その場に、原審原告の理事であるCがいたとしても、何ら具体的内容を伴わない「原審原告の拡充化」を法的な債務として負担することを内容とする本件契約締結の意思表示を、原審原告に対してしたものとは、到底解し得ない。
 なお、仮に、原審被告が極真会館の館長に就任した場合に、Aの生前と同様、原審原告を極真会館と一体として運営する状態となり、かかる意味で、極真会館におけるAの後継者となること(極真会館の館長に就任すること)を受諾したことにより、自らの運営する「原審原告の拡充化」をすべきことが義務付けられたと解することが可能であるとしても、当該場合における義務は、原審被告が、原審原告と一体的な立場となることにより、自ずから生ずるものであって、少なくとも、原審原告を対立当事者として、契約といった意思表示により生ずる義務といえないことは明らかであるから、本件契約に基づくものということはできない。
3 争点3(本件各商標につき、原審原告が原審被告に対し移転登録を求め得る原因が存在するか)について
(1) 原審原告は、本件商標2−1b、本件商標2−2b、本件商標2−3b、本件商標3−1b、本件商標3−2b、本件商標3−3bにつき、原審被告は、本件契約による「原審原告の拡充化」義務に基づき、原審原告名義で出願すべき義務を負っていたというべきであり、この義務に違反して上記各商標に係る登録を得たものであると主張するが、原審原告と原審被告との間に本件契約が締結された事実を認め得ないことは上記2のとおりであるから、原審原告の上記主張は失当である。
(2) 原審原告は、本件商標2及び本件商標3のうちのその余の商標並びに本件商標4は、極真空手道関係の周知商標ないし著名商標であり、原審被告個人に帰属させるべき理由はなく、原審原告に帰属させるべきであって、原審被告は、これらの商標につき、登録出願をする場合には、原審原告名義で出願すべき義務を負っていたのに、この義務に違反して上記各商標に係る登録を得たものであるから、原審原告は、本件各商標につき、その商標権の帰属を実体に符合させるべく、移転登録を求める権利を有するものであると主張する。
 しかしながら、上記主張によっても、原審被告が、上記各商標につき、登録出願をする場合には、原審原告名義で出願すべき義務を負っていたとする法的根拠が明らかではないから、原審原告の上記主張は、それ自体失当といわざるを得ない。
(3) 原審原告は、本件遺言につき、極真会館及び国際空手道連盟におけるAの後継者を原審被告とするとともに、Aの後継者としての原審被告に対し、「原審原告の拡充化」の負担を課した負担付き遺贈であり、その受益者は原審原告と解すべきところ、原審被告は、本件遺言を受諾する旨を表明したものであって、これは、上記負担付き遺贈を受諾したものであると主張する。
 しかしながら、本件遺言第一項の文言上、同項1記載の「財団法人極真奨学会を拡充化すること」が、同項3の「極真会館、国際空手道連盟のAの後継者をXと定める。」との文言と関連して、原審被告の負担とされているものとは到底解し得ない。上記2のとおり、本件遺言に基づいて、「原審原告の拡充化」の義務を負う者は、第一次的には、原審原告自身ないし本件遺言の同項2で原審原告の理事長に就任するよう要請されたCと考えるべきであって、原審被告を含む他の者は、精々、原審原告又はCが、「原審原告の拡充化」を行うことに協力ないしは妨害しないことといった抽象的、一般的な義務を負うにとどまるものというべきである。したがって、原審原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原審原告は、存続期間満了商標については、原則として、その商標権を有していた者の登録出願が優先されるから、存続期間満了商標の商標権者は、当該商標について再度の登録出願が優先して認められるという法的利益を有するものであるところ、原審被告は、本件商標2−1bに係る登録出願に際し、「財団法人極真奨学会代表者C」名義の承諾書(乙第49号証)を偽造して特許庁に提出し(甲第61号証)、本件商標2−1bに係る登録を得たのであるから、原審原告の上記法的利益を侵害する不法行為に当たり、本件商標2−1bに係る商標権を原審原告に移転して違法状態を解消すべき義務を負うものであると主張する。
 しかしながら、存続期間満了商標について、その商標権を有していた者の登録出願が優先されるとする法的根拠は見当たらない(商標法4条1項13号は、商標権の消滅等の日から1年を経過しない他人の商標と同一又は類似し、かつ、指定商品・指定役務が同一又は類似の商標の登録を、原則として制限しているが、これは、登録出願について、消滅した商標権に係る権利者の優先を認めたものではない。)。
 甲第22、第61号証によれば、本件商標2−1bに係る登録出願を受けた特許庁審査官は、出願人である原審被告に対し、「A氏(極真会館館長)が指導・普及させた、A空手の練習場を表す『極真会館』文字を書して成るところ、技芸・スポーツの教授等、とりわけ空手の教授において知られる団体の名称を、何等かの関係があるものとも認められない一個人である出願人が自己の商標として独占使用することは穏当ではなく、商標法第4条1項第7号に該当する」との拒絶理由通知を行ったことが認められるが、この拒絶理由は、Aが指導・普及させた空手の教授において知られる団体(すなわち、極真会館)の名称を、極真会館との関係が認められない者が自己の商標として独占使用することが、公序良俗に反するとするものであって、本件旧商標1やその権利者について言及しているものではなく、まして、本件旧商標1に係る商標権者の法的利益に配慮したものでもないことは明白である。上掲甲第61号証によれば、この拒絶理由通知に対し、原審被告は、意見書を提出し、かつ、それに「財団法人極真奨学会代表者C」名義の承諾書を添付したことが認められるが、当該意見書には、上記出願につき、原審原告の承認を得たことのほか、原審被告が、Aの死後、極真会館の館長を承継したこと、極真会館が商標登録の主体となり得ないため、館長である原審被告が登録出願をした旨が記載されており、原審被告が、Aの死後、極真会館の館長を承継したことを示す資料も添付されている。そして、上記拒絶理由の内容にかんがみると、特許庁審査官は、原審被告が、Aの死後、極真会館の館長を承継したことを認めて、本件商標2−1bに係る登録の査定をしたものと推認される。
 そして、上記1の(2)に認定、判断したところからすれば、上記承諾書は、真正に成立したものと推認するのが相当であるから、原審原告の上記主張は失当である。
4 以上によれば、原審原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、全部理由がないから、これを棄却すべきである。
 よって、本件商標1につき、原審原告の請求を認容した原判決は失当であって、原審被告の控訴は理由があり、他方、原審原告の控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 田中信義
 裁判官 石原直樹
 裁判官 杜下弘記


別紙 略
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