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【事件名】商標“スマイルマーク”審決取消事件F(2) 【年月日】平成19年9月27日 知財高裁 平成19年(行ケ)第10162号 審決取消請求事件 (平成19年8月23日 口頭弁論終結) 判決 原告 有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド 被告 特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人 田代茂夫 同 森山啓 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた裁判 「特許庁が不服2005−16965号事件について平成19年3月26日にした審決を取り消す。」との判決 第2 事案の概要 本件は、原告が、下記1(1)の商標登録出願(以下「本件商標登録出願」といい、この出願に係る商標を「本願商標」という。)をしたところ、下記1(2)のとおり、商標法4条1項11号に該当するとして拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされたため、その取消しを求める事案である。 1 特許庁等における手続の経緯 (1) 本件商標登録出願 出願人:原告 本願商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品(平成17年8月9日付け手続補正書により補正されたもの):第21類「デンタルフロス、ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)、かいばおけ、家禽用リング、魚ぐし、おけ用ブラシ、金ブラシ、管用ブラシ、工業用はけ、船舶ブラシ、家事用手袋、ガラス製又は陶磁製の包装用容器、なべ類、コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。)、鉄瓶、やかん、食器類(貴金属製のものを除く。)、携帯用アイスボックス、米びつ、食品保存用ガラス瓶、水筒、魔法瓶、アイスペール、泡立て器、こし器、こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。)、卵立て(貴金属製のものを除く。)、ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。)、盆(貴金属製のものを除く。)、ようじ入れ(貴金属製のものを除く。)、ざる、シェーカー、しゃもじ、手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき、じょうご、すりこぎ、すりばち、ぜん、栓抜、大根卸し、タルト取り分け用へら、なべ敷き、はし、はし箱、ひしゃく、ふるい、まな板、麺棒、焼き網、ようじ、レモン絞り器、ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)、清掃用具及び洗濯用具、アイロン台、霧吹き、こて台、へら台、湯かき棒、浴室用腰掛け、浴室用手おけ、ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。)、家庭用燃え殻ふるい、石炭入れ、はえたたき、ねずみ取り器、植木鉢、家庭園芸用の水耕式植物栽培器、じょうろ、愛玩動物用食器、愛玩動物用ブラシ、犬のおしゃぶり、小鳥かご、小鳥用水盤、洋服ブラシ、寝室用簡易便器、トイレットペーパーホルダー、貯金箱(金属製のものを除く。)、お守り、おみくじ、紙タオル取り出し用金属製箱、靴脱ぎ器、せっけん用ディスペンサー、花瓶及び水盤(貴金属製のものを除く。)、風鈴、ガラス製又は磁器製の立て看板、香炉、化粧用具、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー、シューツリー、コッフェル、ブラシ用豚毛」 出願日:平成16年8月10日(商願2004−77239号) (2) 本件手続の経緯 拒絶査定日:平成17年7月22日 審判請求日:平成17年8月9日(不服2005−16965号) 審決日:平成19年3月26日 審決の結論:「本件審判の請求は、成り立たない。」 審決謄本送達日:平成19年4月17日 2 審決の理由の要旨 審決は、下記(1)ないし(12)の各商標(以下、それぞれの商標を「引用商標1」ないし「引用商標12」といい、全体を指して「各引用商標」という。)を引用し、本願商標は各引用商標とそれぞれ外観上類似する商標であって、各引用商標の指定商品は、本願商標の指定商品と同一又は類似の商品をそれぞれ含むものと認められるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当すると判断した。審決の理由は各引用商標の後に示すとおりである。 (1) 引用商標1 登録出願日:平成元年1月24日 設定登録日:平成3年11月29日 登録番号:第2353908号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品(平成16年1月21日付け指定商品の書換により書き換えられたもの):第5類「失禁用おしめ」、第9類「事故防護用手袋、防じんマスク、防毒マスク、溶接マスク、防火被服」、第10類「医療用手袋」、第16類「紙製幼児用おしめ」、第17類「絶縁手袋」、第20類「クッション、座布団、まくら、マットレス」、第21類「家事用手袋」、第22類「衣服綿、ハンモック、布団袋、布団綿」、第24類「布製身の回り品、かや、敷き布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」及び第25類「被服」 (2) 引用商標2 登録出願日:平成8年5月16日 設定登録日:平成10年1月23日 登録番号:第4105304号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品:第28類「遊戯用器具、囲碁用具、将棋用具、さいころ、すごろく、ダイスカップ、ダイヤモンドゲーム、チェス用具、チェッカー用具、手品用具、ドミノ用具、マージャン用具、ビリヤード用具、おもちゃ、人形、愛玩動物用おもちゃ、運動用具、釣り具」 (3) 引用商標3 登録出願日:平成8年5月16日 設定登録日:平成10年3月13日 登録番号:第4123998号 商標の構成:引用商標2と同じ 指定商品:第18類「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、乗馬用具」 (4) 引用商標4 登録出願日:平成8年5月31日 設定登録日:平成10年4月17日 登録番号:第4135567号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品:第28類「遊戯用器具、囲碁用具、将棋用具、さいころ、すごろく、ダイスカップ、ダイヤモンドゲーム、チェス用具、チェッカー用具、手品用具、ドミノ用具、マージャン用具、ビリヤード用具、おもちゃ、人形、愛玩動物用おもちゃ、運動用具、スキーワックス、釣り具」 (5) 引用商標5 登録出願日:平成8年5月31日 設定登録日:平成10年5月15日 登録番号:第4144129号 商標の構成:引用商標4と同じ 指定商品:第14類「貴金属、貴金属製の花瓶及び水盤、貴金属製宝石箱、貴金属製喫煙用具、身飾品、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、記念カップ、記念たて」 (6) 引用商標6 登録出願日:平成8年5月31日 設定登録日:平成10年5月15日 登録番号:第4144135号 商標の構成:引用商標4と同じ 指定商品:第24類「ふきん、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、シャワーカーテン、テーブルカバー、テーブル掛け、どん帳、遺体覆い、経かたびら、黒白幕、紅白幕、ビリヤードクロス、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」 (7) 引用商標7 登録出願日:平成8年7月24日 設定登録日:平成11年12月24日 登録番号:第4347375号 商標の構成:引用商標4と同じ 指定商品:第20類「家具、貯蔵槽類(金属製又は石製のものを除く。)、プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。)、カーテン金具、金属代用のプラスチック製締め金具、くぎ・くさび・ナット・ねじくぎ・びょう・ボルト・リベット及びキャスター(金属製のものを除く。)、座金及びワッシャー(金属製・ゴム製又はバルカンファイバー製のものを除く。)、錠(電気式又は金属製のものを除く。)、木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器、葬祭用具、荷役用パレット(金属製のものを除く。)、養蜂用巣箱、うちわ、買物かご、家庭用水槽(金属製又は石製のものを除く。)、きゃたつ及びはしご(金属製のものを除く。)、工具箱(金属製のものを除く。)、植物の茎支持具、食品見本模型、人工池、すだれ、ストロー、せんす、洗濯挟み、タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。)、つい立て、ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。)、ハンガーボード、びょうぶ、ベンチ、帽子掛けかぎ(金属製のものを除く。)、盆(金属製のものを除く。)、マネキン人形、麦わらさなだ、木製又はプラスチック製の立て看板、郵便受け(金属製又は石製のものを除く。)、洋服飾り型類、理髪用いす、石こう製彫刻、プラスチック製彫刻、木製彫刻、あし、い、おにがや、きょう木、しだ、すげ、すさ、竹、竹皮、つる、とう、麦わら、木皮、わら、きば、鯨のひげ、甲殻、さんご、人工角、ぞうげ、角、歯、べっこう、骨、海泡石、こはく」 (8) 引用商標8 登録出願日:平成8年12月17日 設定登録日:平成12年4月28日 登録番号:第4379715号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品:第9類「理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、眼鏡、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、電気通信機械器具、レコード、電子応用機械器具及びその部品、オゾン発生器、電解槽、遊園地用機械器具、回転変流機、調相機、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気式ワックス磨き機、電気掃除機、電気ブザー、鉄道用信号機、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、火災報知機、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、盗難警報器、保安用ヘルメット、磁心、抵抗線、電極、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、ウエイトベルト、ウエットスーツ、浮き袋、エアタンク、水泳用浮き板、潜水用機械器具、レギュレーター、アーク溶接機、犬笛、家庭用テレビゲームおもちゃ、金属溶断機、検卵器、電気溶接装置、電動式扉自動開閉装置、メトロノーム、動力付床洗浄機、乗物運転技能訓練用シミュレーター、運動技能訓練用シミュレーター」 (9) 引用商標9 登録出願日:平成11年12月3日 設定登録日:平成12年10月27日 登録番号:第4427475号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品:第26類「編みレース生地、刺しゅうレース生地、組みひも、テープ、リボン、房類、ボタン類、針類、編み棒、裁縫箱、裁縫用へら、裁縫用指抜き、針刺し、針箱(貴金属製のものを除く。)、被服用はとめ、衣服用き章(貴金属製のものを除く。)、衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。)、衣服用バックル、衣服用ブローチ、帯留、ボンネットピン(貴金属製のものを除く。)、ワッペン、腕章、腕止め、頭飾品、つけあごひげ、つけ口ひげ、ヘアカーラー(電気式のものを除く。)、靴飾り(貴金属製のものを除く。)、靴はとめ、靴ひも、靴ひも代用金具、造花、漁網製作用杼、メリヤス機械用編針」 (10) 引用商標10 登録出願日:平成8年12月17日 設定登録日:平成14年11月29日 登録番号:第4625159号 商標の構成:引用商標8と同じ 指定商品:第20類「家具、貯蔵槽類(金属製又は石製のものを除く。)、プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。)、カーテン金具、金属代用のプラスチック製締め金具、くぎ・くさび・ナット・ねじくぎ・びょう・ボルト・リベット及びキャスター(金属製のものを除く。)、座金及びワッシャー(金属製・ゴム製又はバルカンファイバー製のものを除く。)、錠(電気式又は金属製のものを除く。)、木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器、葬祭用具、荷役用パレット(金属製のものを除く。)、養蜂用巣箱、うちわ、買物かご、家庭用水槽(金属製又は石製のものを除く。)、きゃたつ及びはしご(金属製のものを除く。)、工具箱(金属製のものを除く。)、ししゅう用枠、植物の茎支持具、食品見本模型、人工池、ストロー、せんす、タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。)、つい立て、ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。)、旗ざお、ハンガーボード、びょうぶ、ベンチ、帽子掛けかぎ(金属製のものを除く。)、盆(金属製のものを除く。)、マネキン人形、麦わらさなだ、木製又はプラスチック製の立て看板、郵便受け(金属製又は石製のものを除く。)、洋服飾り型類、理髪用いす、石こう製彫刻、プラスチック製彫刻、木製彫刻、あし、い、おにがや、きょう木、しだ、すげ、すさ、竹、竹皮、つる、とう、麦わら、木皮、わら、きば、鯨のひげ、甲殻、さんご、人工角、ぞうげ、角、歯、べっこう、骨、海泡石、こはく」 (11) 引用商標11 登録出願日:平成8年12月17日 設定登録日:平成14年11月29日 登録番号:第4625160号 商標の構成:引用商標8と同じ 指定商品:第21類「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)、なべ類、コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。)、鉄瓶、やかん、食器類(貴金属製のものを除く。)、アイスペール、泡立て器、魚ぐし、携帯用アイスボックス、こし器、こしょう入れ、砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。)、卵立て(貴金属製のものを除く。)、ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。)、盆(貴金属製のものを除く。)、ようじ入れ(貴金属製のものを除く。)、米びつ、ざる、シェーカー、しゃもじ、手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき、じょうご、食品保存用ガラス瓶、水筒、すりこぎ、すりばち、ぜん、栓抜き、大根卸し、タルト取り分け用へら、なべ敷き、はし、はし箱、ひしゃく、ふるい、まな板、魔法瓶、麺棒、焼き網、ようじ、レモン絞り器、ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)、清掃用具及び洗濯用具、おけ用ブラシ、金ブラシ、管用ブラシ、工業用はけ、船舶ブラシ、ブラシ用豚毛、洋服ブラシ、ガラス製又は陶磁製の包装用容器、かいばおけ、家禽用リング、アイロン台、植木鉢、家庭園芸用の水耕式植物栽培器、家庭用燃え殻ふるい、紙タオル取り出し用金属製箱、霧吹き、靴脱ぎ器、こて台、じょうろ、寝室用簡易便器、石炭入れ、せっけん用ディスペンサー、貯金箱(金属製のものを除く。)、トイレットペーパーホルダー、ねずみ取り器、はえたたき、へら台、湯かき棒、浴室用腰掛け、浴室用手おけ、ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。)、花瓶(貴金属製のものを除く。)、ガラス製又は陶磁製の立て看板、香炉、水盤(貴金属製のものを除く。)、風鈴」 (12) 引用商標12 登録出願日:平成12年9月29日 設定登録日:平成16年9月24日 登録番号:第4805259号 商標の構成:[商標イメージ略] 指定商品:第25類「被服」 「3当審の判断 本願商標は、・・・、円輪郭内に、目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形を上部に2つ並べ、該2つの黒塗り縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形(以下「本願図形」という。)と、上記円輪郭上の右下部分に「HarveyBall」の文字を筆記体で右上がりに横書きしてなるものである。そして、本願図形部分は、・・・、円輪郭、2つの黒点及び弧線をもって人の笑顔を簡潔に表現したと認識されるものであって、本願商標中看者の注意を強く引き、印象に残る部分であるといえるから、「HarveyBall」の文字部分と切り離して、自他商品の識別標識としての機能を発揮するものというべきである。 一方、引用商標1ないし12は、・・・・、円輪郭内に、目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形を上部に2つ並べ、該2つの黒塗り縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形(以下「引用図形」という。)、若しくは引用図形と「SMILE&SMILEY」(引用商標2及び3)、「SMILEY」(引用商標8、10及び11)、「LOVE EARTH」(引用商標12)の文字とを組み合わせた構成よりなるものであるところ、引用図形は、円輪郭、2つの黒点及び弧線をもって人の笑顔を簡潔に表現したと認識されるものであって、引用図形と文字とを組み合わせた構成よりなる引用商標2、3、8、10ないし12にあっては、本願商標と同様に、その構成中の引用図形が看者の注意を強く引き、印象に残る部分であるといえるから、文字部分とは切り離して、独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮するものというべきである。 してみると、本願図形と引用図形は、目と思しき2つの小さい黒塗り縦長楕円形の位置、口と思しき両端上がりの弧線の太さ・曲がり具合等細部において若干の差異を有するものであるとしても、いずれも円輪郭、2つの黒点及び弧線をもって人の笑顔を簡潔に表現したと認識される点において構成の軌を一にするものであって、この点において看者に共通の印象を与えるものであるから、これらを時と所を異にして、離隔的に観察した場合は、外観上互いに紛れるおそれのある類似のものといわなければならない。 したがって、本願商標と引用商標1ないし12は、外観上類似する商標であって、また、引用商標1ないし12の指定商品は、本願商標の指定商品と同一又は類似の商品をそれぞれ含むものと認められる。 以上のとおりであるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当なものであって、取り消すべき限りでない。 なお、出願人(請求人)は、大阪地裁の判決(平成12年(ワ)第5986号)を引用し、本願商標と引用商標は区別されるべきである旨主張するが、出願人が引用する大阪地裁の判示部分は、登録商標に係る商標権に基づく禁止権の効力が及ぶ範囲について判示したものであって、商標の登録要件についての判断に関する本件とは、事案を異にするものというべきであるから、出願人の上記主張は理由がない。」 第3 審決取消事由の要点 1 取消事由1(本願商標と各引用商標との類否の判断の誤り) 審決は、主に外観において本願商標と各引用商標を対比しており、「円輪郭内に、目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形を上部に2つ並べ、該2つの黒塗り縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いている図形」が看者の注意を強く引き、印象に残る部分であるとするが、「スマイル」は日本の「へのへのもへじ」と同じく目と口と輪郭の単純な図形であり、昔から世界中に同様の図形が存在しているから、印象が無いというべきである。 また、審決は、本願図形について、「HarveyBall」の文字部分と切り離して、自他商品の識別標識としての機能を発揮する」とするが、本願図形部分と「HarveyBall」は重なり合い、一体化しているから、切り離すことはできない。 以上を前提とすると、本願商標において識別性を有するのは、本願図形に付随した文字部分であることになり、本願商標については「HarveyBall」であるところ、引用商標は「SMILE&SMILEY」、「SMILEY」、「LOVE EARTH」とそれぞれ大きなアルファベットで表示されているものであるから、充分識別性があるというべきである。 また、称呼について対比すると、本願商標は「ハーベイボール」であり、引用商標1、4〜7、9は無音、同2、3は「スマイルアンドスマイリー」、同8、10、11は「スマイリー」、同12は「ラブアース」であることから、互いに大きく異なる。 さらに、観念を対比すると、本願商標は1963年末に「スマイリー・フェイス」を創作・著作した「A」の名前であるのに対し、各引用商標については特段の観念を示すものではなく、ただ親しみ易い文字を並べたに過ぎないから、互いに異なる。 したがって、本願商標と各引用商標は類似していないから、これと異なる審決の判断は誤りである。 2 取消事由2(Aによるスマイリー・フェイスの創作等) Aはスマイリー・フェイスの創作者であり、その関係会社である原告は日本国内で10年前より本願商標等を付した各種商品を国内100社と提携して市場で販売し、定着させており、日本の多くの消費者に支持されているほか、「スマイリー・フェイス」は「世界平和のシンボル」として日米で各種ボランティア活動に使用されており、その活動を確実にするためにも商標登録が必要であることから、引用商標があったとしても、本願商標の登録が認められるべきである。 3 取消事由3(引用商標権者の反社会性) 引用商標の大部分を所有するB(以下「B」という。)は、全世界で商標登録を行い、多額な利益を上げているいわゆる商標ブローカーであり、引用商標の存在を理由に本件商標登録出願を拒絶するのは、日本の商標登録制度における先願主義の弊害を示すものである。 4 原告のその他の主張 審決は「なお、出願人(請求人)は、大阪地裁の判決(平成12年(ワ)第5986号)を引用し、本願商標と引用商標は区別されるべきである旨主張するが、出願人が引用する大阪地裁の判示部分は、登録商標に係る商標権に基づく禁止権の効力が及ぶ範囲について判示したものであって、商標の登録要件についての判断に関する本件とは、事案を異にするものというべきであるから、出願人の上記主張は理由がない。」とするが、それでは特許庁と裁判所が、「商標登録しても禁止権がない程類似性が少ない商標である」との判断と「それぞれが類似し過ぎて登録できない商標である」との判断の互いに矛盾する判断を国民に与えることになり、妥当でない。 第4 被告の反論の要点 1 取消事由1(本願商標と各引用商標との類否の判断の誤り)に対して 本願商標と引用商標との類否について検討すると、本願図形と各引用商標に係る図形は、いずれも視覚的に看者の注意を惹き、強く印象に残るように表され、それ自体、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るというべきであるところ、両図形は、いずれも、円輪郭内に、目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形を上部に2つ並べ、該図形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形よりなり、その構成全体から人の笑顔を簡潔に表現したものとして認識されるものである。本願図形と引用商標に係る図形を子細に見れば、目と思しき2つの小さい黒塗り縦長楕円形の位置、口と思しき両端上がりの弧線の太さ・曲がり具合等、細部においては若干異なるところがあるとしても、両図形は、いずれも円輪郭、2つの黒点及び弧線をもって人の笑顔を簡潔に表現したものと認識される点において構成の軌を一にするものであって、この点において看者に共通の印象を与えるものである。 そして、本願商標及び引用商標に係る指定商品(日用品や台所用品等)の需要者が通常有する注意力は、さほど高いものとは言い難いことを考慮すると、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合には、需要者にとって、その差異は気づくことがかなり困難な微差にとどまるものであるから、両図形は、外観上、互いに見誤るおそれのある相紛らわしい類似のものといわざるを得ない。 そうすると、本願商標と引用商標とは、その構成中、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであって、かつ、看者の注意を惹き、強く印象に残る図形部分において、その基本的構成や表現態様に共通性があり、需要者に与える印象が互いに相紛らわしいことから、外観上、類似する商標というべきである。 また、本願商標の指定商品には、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品が含まれているから、結局、本願商標と引用商標は、これを同一又は類似の商品に使用した場合には、その取引者、需要者において商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。 2 取消事由2(Aによるスマイリー・フェイスの創作等)、同3(引用商標権者の反社会性)に対して 商標法4条1項11号は、商品又は役務の出所につき誤認混同を防止するため、登録出願された商標が先願に係る他人の登録商標と同一又は類似するものであるときは商標登録を受けることができない旨規定しているところ、「他人の登録商標」に該当する要件としては、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る」ものであること以外には何も定めていない。 また、商標法46条1項は、商標登録が同法3条、4条等の規定に違反して登録されたときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる旨規定している。 そうすると、仮に、引用商標の図形がAの創作・著作した本願図形を剽窃したものであったとしても、引用商標について、将来においてその登録を無効とする審決がされ、その審決が確定した場合は別として、それまでは、引用商標が商標法4条1項11号にいう「他人の登録商標」に該当することは明らかというべきである。 なお、引用商標に係る商標権は、すべて有効に存続しているものである。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(本願商標と各引用商標との類否の判断の誤り)について (1) 本願商標は、円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を2つ並べ、この2つの黒塗りの縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いたもの(本願図形)と円輪郭の右下部分にわずかに重なるように、「HerveyBall」の文字を筆記体で右上がりに横書きした文字部分から成るものである。 本願図形は、一見して人の笑顔を簡潔、かつ、象徴的に表現したものと認識されるものであり、上記のとおり、本願商標の主要部を占めているのに対し、「HerveyBall」の文字部分は、本願図形の右下に若干重なるように右上がりに横書きされているものであり、その大きさも円輪郭に比して小さなものである上、その書体も、ごくありふれた筆記体であって格別個性的というほどのものではない。そして、本願図形は、一見して、人の笑顔を描写したものと認識可能であるから、それ自体で完結した表現ということができ、文字部分がなければその意味を理解することができないといったものではない。そうすると、本願商標の主要部分を占める本願図形部分は、人の笑顔を象徴的に描写したものとして、見る者の注意を惹き、強い印象を与えるものということができる。また、Aが本願図形の創作者として世界的に著名であるとしても、本願図形に関する上記認定判断を左右するものではない。 以上によれば、本願図形と「HerveyBall」の文字部分は、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分一体的に結合しているとすることは困難であり、本願商標において、本願図形は、独立して自他商品の識別機能を発揮するものと認めるのが相当である。 (2) 引用商標中、引用商標1、4〜7及び9は、いずれも円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を2つ並べ、この2つの黒塗りの縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を描いたものであり、一見して、人の笑顔を簡潔、かつ、象徴的に表現したものと認識され得る。 また、その他の引用商標は、上記各引用商標と同様の構成の図形部分とその外部下に活字体で「SMILE&SMILEY」と横書きした文字部分から成るもの(引用商標2及び3)、同様の構成の図形部分とその外部下に活字体で「SMILEY」と横書きした文字部分から成るもの(引用商標8、10及び11)及び同様の構成の図形部分とその外部上に活字体で「LOVEEARTH」とアーチ状に横書きした文字部分から成るもの(引用商標12)である。 各引用商標中、図形部分と文字部分を組み合わせた引用商標(引用商標2、3、8及び10〜12)は、いずれも円輪郭の外縁近くの外部下又は上に文字部分を配置したものであり、その構成中、人の笑顔を簡潔、かつ、象徴的に描写した図形部分が見る者の注意を惹き、見る者に強い印象を与えるものであるということができるから、各図形部分は、文字部分とは切り離して、独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮するものと認めるのが相当である。 (3) 本願図形と各引用商標の図形部分を対比すると、これらはいずれも、互いに、円輪郭、円輪郭内部に配された2つの小さい黒塗りの縦長楕円形及びその下方に配した両端上がりの弧線を構成要素とし、これらが円形の顔に目と口で人の笑顔を簡潔、かつ、象徴的に描写したものと看取される点において共通するものであるから、各構成要素の長さ、太さ及び曲率等においてぞれぞれ微妙に相違するものの、上記の構成要素のすべてを共通にするものであるため、見る者に共通の印象を与えるものというべきである。 他方、本願商標及び各引用商標の指定商品には、いずれも多数の日用品が含まれているところ、これらの商品が日常的に使用、消費されるものであることから、その需用者が微細、かつ、厳密な注意力をもって商品に付された商標を観察することは期待できないものといって差し支えない。そうすると、本願商標と引用商標を時と場所を異にして離隔的に観察したとき、本願商標と引用商標1、4〜7及び9並びに引用商標2、3、8及び10〜12の図形部分の微妙な相違によって、本願商標と引用商標を区別することは困難であると言わざるを得ないから、本願商標と引用商標1、4〜7及び9並びに引用商標2、3、8及び10〜12の各図形部分は、外観において類似するものといわざるを得ない。 (4) 原告は、本願図形は日本の「へのへのもへじ」と同じく目と口と輪郭からなる単純な図形であり、昔から世界中に同様の図形が存在しているから、印象が無く、本願商標の主体部分を形成していないと主張する。 しかしながら、すでに説示したとおり、本願図形及び各引用商標の図形部分は、人の笑顔を簡潔、かつ、象徴的に描写したものとして需用者の注意を惹き、強い印象を与えるものであり、本願図形や各引用商標の図形部分が単純な図形であるからといって、このことから直ちに需用者の注意を惹かないということはできない。 これに比し、上記(1)及び(2)で説示したとおり、本願商標及び引用商標の文字部分は、いずれも大きさにおいて図形部分よりかなり小さく、配置において、図形部分を中心として、その外部又は外縁近くに配した構成から、主要部分を占める図形部分が見る者の注意を惹き、見る者に強い印象を与えるものであるというべきであるから、原告の主張を採用することはできない。 また、原告は、本願商標において、本願図形と「HarveyBall」は重なり合い、一体化しているから、切り離すことはできないと主張する。 しかしながら、本願図形がそれ自体独立して見る者に認識され得るものであることは上記(1)に説示したとおりであるが、更に付言すると、本願図形と「HarveyBall」の文字は本願図形の円輪郭右下にわずかに重なるように配置されたものであり、「rveyB」の文字部分によって隠された本願図形の円輪郭線は全体の4分の1にも満たない上、「Harvey」と「Ball」の間に外縁部の円弧の一部が見えていることとも相まって、本願商標を見る者は本願図形の円輪郭線を明確に認識することができるといえる。 そうすると、本願商標を見る者は、本願商標について、本願図形にわずかに重なるように「HarveyBall」という文字を配置して成るものと認識するというべきであり、本願図形と「HarveyBall」の文字が不可分一体となったものと認識するということはできないから、この観点からみても、原告の主張を採用することはできない。 (5) 以上によると、本願商標と各引用商標が類似しないとする取消事由1は理由がないというべきである。 2 取消事由2(Aによるスマイリー・フェイスの創作等)について 原告は、本願図形のデザインがAによって創作されたものであり、その関係会社である原告が本願商標等を付した商品の販売に関与してきたこと、本願図形が「世界平和のシンボル」として各種ボランティア活動に使用されていることなどを主張し、本願商標の登録が認められるべきであると主張する。 しかしながら、商品等の出所の混同を防止して、商品等の取引秩序の維持を図るために先願主義を採用する我が国の商標法においては、先願に係る類似の登録商標が存在するにもかかわらず、原告が主張するような理由によって、商標登録を認める規定はないから、原告の主張は失当であるというほかない。 3 取消事由3(引用商標権者の反社会性)について 原告は、引用商標の大部分の出願人となっているBが商標ブローカーであるとして、引用商標の存在を理由に本件商標登録出願を拒絶するのは先願主義の弊害であると主張する。 しかしながら、原告の主張は商標法についての立法論に属する議論であり、その主張するところによって、審決が違法となる性質のものではないから、原告の主張は失当である。 4 原告のその他の主張について 原告は、大阪地裁(平成12年(ワ)第5986号事件)判決に言及して審決の判断の誤りを主張する。 しかしながら、乙第3号証によると、同判決は、商標権侵害の成否を争点とする訴訟の判決であり、同判決の判示が、本訴において問題となる審決の適否の判断に影響を与えるものでないことは明らかであるから、原告の主張は失当である。 第6 結論 以上のとおり、審決取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求を棄却すべきである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 田中信義 裁判官 石原直樹 裁判官 杜下弘記 |
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