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【事件名】商標“みずほねっと”侵害事件B(2)
【年月日】平成19年9月13日
 知財高裁 平成19年(行ケ)第10047号 審決取消請求事件
 (平成19年7月5日 口頭弁論終結)

判決
原告 X
被告 株式会社みずほフィナンシャルグループ
訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
訴訟代理人弁理士 廣中健
同 阪田至彦


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2006−89064号事件について平成19年1月9日にした審決を取り消す。」との判決
第2 事案の概要
 本件は、被告の商標登録につき原告が無効審判を請求したところ、特許庁が同請求を不成立とする審決をしたためその取消しを求める事案である。(なお、以下、商標法施行令別表記載の類については、単に「第42類」などと略記する。)
1 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は、別紙商標目録記載1の商標(以下「本件商標」といい、その登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。(乙5)
(2) 原告は、平成18年5月17日、本件商標登録について無効審判の請求をした(無効2006−89064号事件として係属)ところ、特許庁は、平成19年1月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決をし、同月19日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の要点
 原告は、審判請求手続において、自己が商標権者である別紙商標目録記載2の商標(以下「引用商標」といい、本件商標と併せて「本件両商標」ということがある。)を引用した上、本件商標は引用商標と同一又は類似のものであり、本件商標の指定役務も引用商標の指定役務と同一又は類似のものであることなどを根拠に、本件商標登録は商標法4条1項11号、同項15号、同法8条1項又は同法3条1項柱書の規定に違反してされたもので無効である旨主張したのに対し、審決は、本件両商標は非類似のものである旨判断するなどした上、本件商標登録は商標法の上記各規定に違反してされたものではないからこれを登録を無効とすることはできないとした。
 審決の理由中、本件商標登録が商標法4条1項11号、同項15号及び同法8条1項の規定に違反してされたものではないとの判断に係る部分は、以下のとおりである。(原告は、審決取消事由として、同法3条1項柱書違反の主張をしないため、この点に係る審決の引用は省略する。)
(1) 商標法4条1項11号該当性について
ア 指定役務の類否
 「本件商標は、・・・第42類に属する役務を指定役務とするものであり、引用商標は、・・・第35類及び第38類に属する役務を指定役務とするものである。
 もとより、商品及び役務の区分(ここでいう「類」)は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではなく、当然のことながら、異なる類に属する役務であっても互いに類似する役務も存在するし、同一の類に属する役務であっても非類似とされる役務も存在する。
 ところで、請求人は、引用商標の指定役務である「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」は、「プロバイダによるインターネットへの接続サービス」を意味し、プロバイダが提供する役務には、この他にも「電子メール」、「ホームページ開設場所の提供」があり、そして「電子メール」は「電子メールのサーバエリアの貸与」に、「ホームページ開設場所の提供」は「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」にそれぞれ該当するものであって、第42類の役務になるから、本件商標の指定役務と同一又は類似である旨主張している。
 しかしながら、仮に、「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」が「プロバイダによるインターネットへの接続サービス」を意味し、プロバイダが「電子メール」や「ホームページ開設場所の提供」の役務も行っているとしても、そのことから直ちに「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」の役務と「電子メール」や「ホームページ開設場所の提供」の役務とが類似するものとはいえない。
 そうすると、「電子メールのサーバエリアの貸与」及び「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」が第42類に属すべき役務であるか否かはさておき、本件商標の指定役務には、引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」と類似する役務が含まれているということはできない。」
イ 商標の類否
 「本件商標と引用商標との類否について検討するに、それぞれの構成文字に相応して、本件商標は「ミズホ」の称呼を生じ、引用商標は「ミズホネット」の称呼を生ずること明らかである。
 請求人は、引用商標から単に「ミズホ」の称呼が生ずる旨主張し、その理由として、インターネットは「ネット」とも称されること、引用商標はインターネットのドメイン名で表せば「MIZUHO.NET」になり、「NET」は「INTERNET」の略語であって平仮名では「ねっと」になること、引用商標は「みずほ」と「ねっと」の2語の結合商標であり、「ねっと」の文字は形容詞的文字であること、などから引用商標は「ねっと」の部分が自他役務の識別標識としての機能がないか薄いものであり、「みずほ」の部分が識別標識として強く認識される旨述べている。
 しかしながら、引用商標は、ドメイン名を表したものとはいえないし(請求人も認めている。)、同書同大の平仮名を等間隔でまとまりよく一体に表してなるものであり、たとえ、インターネットが「ネット」とも称されるとしても、かかる構成においては、「ねっと」の文字がインターネットの略語として直ちに認識し、理解されるようなことはなく、また、「ねっと」の文字が他の語を修飾する形容詞として認識し、理解されることもないというべきであって、殊更、「みずほ」の文字部分と「ねっと」の文字部分とに分離して観察すべき理由はない。
 そうすると、引用商標は、特定の親しまれた既成の観念を想起させるものではなく、むしろ全体として一種の造語を表したものとして認識し、把握されるというべきであり、かつ、「ミズホネット」の一連の称呼のみを生ずるものというべきである。
 しかして、本件商標から生ずる「ミズホ」の称呼と引用商標から生ずる「ミズホネット」の称呼とは、構成音数が異なるばかりでなく、「ネット」の音の有無という顕著な差異により、それぞれを一連に称呼するときは、全体の音感・音調が明らかに異なり明瞭に区別することができるものである。
 そして、本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものであり、また、引用商標が特定の既成観念を有するものでない以上、両商標を観念上比較することもできない。
 してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。」
ウ 商標法4条1項11号該当性についての結論
 「したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものではない。」
(2) 商標法4条1項15号該当性について
 「請求人は、本件商標と引用商標とが類似するものであるから、混同を生ずるおそれがあるとして、本件商標が商標法4条1項15号に該当する旨主張するが、本件商標と引用商標とが類似するものでないことは上記(1)のとおりである。
 そもそも、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」であるか否かの判断に当たっては、1)その他人の商標の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)、2)その他人の商標が創造商標であるかどうか、3)その他人の商標がハウスマークであるかどうか、4)企業における多角経営の可能性、5)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性等、を総合的に考慮すべきところ、請求人は自己の業務に係る商品又は役務をはじめ、引用商標がいかなる商品又は役務についてどのように使用されているのか具体的に主張立証するところがなく、これらが一切明らかでないから、判断材料が乏しいものである。まして、引用商標が需要者間に周知になっているなどとは、到底いえない。
 そうすると、被請求人が、本件商標をその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標ないしは請求人を連想、想起するようなことはなく、該役務が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
 したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものではない。」
(3) 商標法8条1項該当性について
 「請求人は、本件商標と引用商標とが類似するものであるから、混同を生ずるおそれがあるとして、本件商標が商標法8条1項に該当する旨主張するが、上記(1)のとおり、本件商標と引用商標とが類似するものではなく、両者の指定役務も同一又は類似のものではないから、引用商標が本件商標よりも先願のものであったとしても、本件商標が同条項に該当するものとはいえない。」
(4) 審決の「まとめ」
 「以上のとおり、本件商標は、商標法4条1項11号及び同項15号、同法8条1項・・・のいずれにも違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすべき限りでない。」
第3 審決取消事由の要点
 審決は、本件両商標の類否判断及び本件両商標に係る役務の類否判断を誤った結果、本件商標登録が商標法4条1項11号、同項15号又は同法8条1項の規定に違反してされたものでないとの誤った判断をしたほか、原告が引用商標を使用していないこと及び引用商標が周知でないことを理由に本件商標登録が同法4条1項15号の規定に違反してされたものでないとの誤った判断をしたものであるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件両商標の類否判断の誤り)
(1) 本件両商標の類否判断に当たっては、以下の点を考慮すべきであり、本件両商標の外観上異なる文字種(ローマ字と平仮名)を固定化すべきではないし、また、引用商標を常に構成全体のみから捉えることにより、特定の観念を生じさせない一体不可分の語として認識し、把握すべきではない。
ア 本件両商標の類否判断に当たっては、取引の実情(「インターネット」の略語として「ネット」の語が使用されていること、インターネットにおいては、識別標識として、ドメイン名が用いられていること)を、当該役務の供給者の視点や、当該役務の取引者・需要者の視点において判断すべきである。
イ 外観上異なる文字種により構成される2つの商標の類否判断に当たっては、両者を同一の文字種で表示した場合についても考察されるべきである。
ウ 商標の使用に係る商標法50条1項の括弧書きに従えば、平仮名で表示された引用商標については、片仮名及びローマ字による表示についても考慮されるべきである。
エ 本件両商標は、ともに標準文字により構成されるところ、標準文字の場合には、すべての構成文字を同書体、同大、同色で統一して表示する必要はない。
オ 引用商標は、自他役務識別機能を有する「みずほ」の語の後ろに、識別標識としての機能がないか、あったとしても希薄である「ねっと」の語を結合させたものである。
カ なお、本件商標がその指定役務について著名であるとの被告の主張は、否認する。
(2) 本件両商標の外観について
 上記(1)によれば、本件商標の外観は「MIZUHO(Mizuho)」、「みずほ」又は「ミズホ」となるのに対し、引用商標の外観は「MIZUHONET(Mizuho Net)」、「mizuho.net」、「みずほねっと」又は「ミズホネット」となり、上記(1)エ及びオにも照らせば、本件両商標は、外観上類似するといえる。
 ただし、引用商標が、外観(視覚)上、まとまりがよいことは認める。
(3) 本件両商標から生じる観念について
 上記(1)によれば、本件商標からは「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生じるのに対し、引用商標の「みずほ」の部分からは「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が、「ねっと」の部分からは「ネットワーク」、「インターネット」等の観念がそれぞれ生じ、上記(1)エ及びオにも照らせば、両商標は、観念上類似するといえる。
 ただし、「みずほねっと」の語が造語であることは認める。
(4) 本件両商標から生じる称呼について
 上記(1)によれば、本件商標からは「ミズホ」の称呼が生じるのに対し、引用商標からは「ミズホネット」、「ミズホドットネット」等の称呼が生じるのであるから、上記(1)エ及びオにも照らせば、本件両商標は、称呼上類似するといえる。
 ただし、引用商標を「ミズホネット」と、短く、よどみなく一連に称呼し得ることは認める。
(5) 以上によれば、本件両商標は、その外観、観念及び称呼のいずれの点からも類似するといえるから、これを非類似とした審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本件両商標に係る役務の類否判断の誤り)
(1) 引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」については、プロバイダと呼ばれる電気通信事業者と契約することで、同役務のほか、「電子メールのサーバエリアの提供」及び「ホームページのサーバエリアの提供」という3種類の役務の提供を一括して受けることができるという取引の実情があるのであるから、これら3種類の役務は、引用商標の指定役務又はこれに類似する役務ということができる。
 そして、本件商標の指定役務には、上記3種類の役務に類似する役務が含まれている。
 そうすると、「・・・本件商標の指定役務には、引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」と類似する役務が含まれているということはできない。」との審決の判断は誤りである。
(2) なお、引用商標の指定役務中の「広告、商品の販売に関する情報の提供」についても、これをインターネット上で行えば、電子メールやホームページを用いることになるのであるから、この点からも、「電子メールのサーバエリアの提供」及び「ホームページのサーバエリアの提供」は、引用商標の指定役務又はこれと類似する役務であるといえる。
3 取消事由3(商標法4条1項15号違反についての判断の誤り)
(1) 本件両商標を非類似とした審決の判断に誤りがあることは、上記1において主張したとおりである。
(2) 加えて、審決は、原告が引用商標を使用していないこと及び引用商標が周知でないことを根拠に、本件商標をその指定役務に使用しても、その出所について混同を生ずるおそれはない旨判断するところ、確かに、原告は、引用商標を使用していないし、また、引用商標は、著名・周知ではない。
 しかしながら、商標法4条1項15号の規定に該当するための要件として、引用商標が何らかの業務について使用されている必要はない。また、取引者・需要者が本件商標に接した後、引用商標に接した場合、引用商標は著名・周知でないから、取引者・需要者は、引用商標に係る役務の出所について、被告又はこれと経済的・組織的に何らかの関係を有する者であると誤認するおそれがあるといえる。
(3) 以上からすると、本件商標登録が商標法4条1項15号の規定に違反してされたものではないとの審決の判断は誤りである。
第4 被告の反論の骨子
1 取消事由1(本件両商標の類否判断の誤り)に対して
(1)ア 引用商標は、「みずほねっと」の文字を平仮名で同書、同大、同間隔にまとまりよく一体に書して成るものであり、称呼上も、短く一連によどみなく称呼し得るものであり、また、ドメイン名でもないから、引用商標は、全体として一体不可分の造語を表したものとして感得されるのであり、外観、称呼及び観念のいずれの点においても、これを「みずほ」と「ねっと」の2つの部分に分断して観察しなければならない理由はない。
 平仮名で記載された「ねっと」の文字に接した者は、これを、外来語である「インターネット」の「ネット」や、「ネットワーク」の「ネット」の意味を有するものとして認識することはなく、これらとは異なる何かであろうという認識を抱くものであるから、引用商標においては、外観及び称呼上の強い一体性とも相まって、「みずほねっと」の6文字が一体不離に結合し、全体として一つの造語を構成すると認識されるものである。
 引用商標は、まとまりよく一体に構成されているものであるから、引用商標に接した取引者・需要者が、「ねっと」の文字に識別力がないものとみなし、「みずほ」の部分を切除抽出することはないし、「みずほ」の部分のみに着目するという理由もない。
イ 引用商標の外観について
 上記アにおいて主張したとおり、引用商標の外観上、取引者・需要者が、「みずほ」の部分にのみ着目することはない。
ウ 引用商標から生じる観念について
 上記アにおいて主張したところからすると、引用商標からは、「瑞々しい稲の穂」と「インターネット」又は「ネットワーク」といった2つの独立した観念が生じることはなく、むしろ、「みずほねっと」全体として、特定することのできない漠然とした観念が生じるものである。
エ 引用商標から生じる称呼について
 上記アにおいて主張したところからすると、引用商標からは、「みずほ」の部分が切除抽出されて「ミズホ」の称呼が生じることはない。
オ 本件商標の著名性等について
 本件商標が、株式会社みずほホールディングスを中核会社とする企業グループが使用する商標及び当該企業グループの略称として周知・著名であったのに対し、引用商標は、いかなる商品又は役務についても使用されたことがないというのであるから、このような取引の実情を考慮すれば、本件両商標の間で出所の誤認混同が生じる余地は全くない。
カ 以上からすると、本件両商標が非類似であるとした審決の判断に誤りはない。
(2)ア 原告は、外観上異なる文字種により構成される2つの商標の類否判断に当たっては、両者を同一の文字種で表示した場合についても考察されるべきであると主張するが、2つの商標の類否判断に当たって対比の対象とされるのは、「願書に記載した商標」(商標法27条1項)であるから、本件両商標がともに標準文字により構成されることを理由とする部分も含め、原告の上記主張は、失当である。
イ また、原告は、上記主張の根拠として、商標法50条1項の括弧書きをも根拠とするが、同項の括弧書きは、同条についての解釈規定であり、他の規定における登録商標についてまで一律に拡大させる旨の一般規定ではないから、同項の括弧書きを根拠とする原告の上記主張も、失当である。
2 取消事由2(本件両商標に係る役務の類否判断の誤り)に対して
(1) 原告の主張によっても、具体的に、本件商標の指定役務のうちのどの役務が引用商標の指定役務に類似するのか不明である。
(2) なお、仮に、原告が主張する「電子メールのサーバエリアの提供」及び
 「ホームページのサーバエリアの提供」がそれぞれ「電子メール通信におけるインターネットサーバーの記憶領域の貸与」及び「ホームページ開設用のサーバーの記憶領域の貸与」をいうとしても、これらの役務は、ホスティングサービス事業者が、その所有するサーバーの全部又は一部の領域を貸し出すというものであり、当該事業者所有のデーターセンターと呼ばれる施設その他の当該サーバーの所在地において提供されるものであるのに対し、引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」は、インターネットプロバイダ事業者が、データーセンターやサーバーを用いることなく、電気通信回線を通じて、顧客のコンピュータをインターネットに接続可能とすることを目的とするものであり、顧客の事務所や家庭で提供されるものである。さらに、ホスティングサービスは、インターネットプロバイダ事業者が接続サービスの付随的サービスとして提供する電子メールやホームページ開設用のサーバーの記憶領域では需要を充足することのできない企業や個人が、インターネット接続サービスとは別に利用するものである。
 このように、「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」と、「電子メール通信におけるインターネットサーバーの記憶領域の貸与」及び「ホームページ開設用のサーバーの記憶領域の貸与」とは、役務の提供の手段、目的及び場所並びに需要者の範囲を異にするものであるから、「電子メール通信におけるインターネットサーバーの記憶領域の貸与」及び「ホームページ開設用のサーバーの記憶領域の貸与」が「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」に類似する役務であるということはできない。
(3) 以上によれば、「・・・本件商標の指定役務には、引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」と類似する役務が含まれているということはできない。」との審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(商標法4条1項15号違反についての判断の誤り)に対して
(1) 本件両商標が非類似のものであることは、上記1において主張したとおりである。
(2) さらに、商標法4条1項15号の規定の適用に当たっては、具体的出所の混同、すなわち、現実に出所の混同が生じるか否かが問われるのであるから、同号にいう「他人の業務」とは、文理上、出願商標について登録の可否を判断する際に現に存在するものか、少なくとも過去に存在したものでなければならない。
 本件においては、「他人」である原告の業務が存在せず、しかも、原告が現実に引用商標をその業務について使用していないというのであるから、出所混同の対象は存在せず、被告が本件商標を使用することによって現実に出所の混同が生じることはあり得ない。
(3) 以上によれば、本件商標登録が商標法4条1項15号の規定に違反してされたものでないとの審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件両商標の類否判断の誤り)について
(1)ア 引用商標は、前記のとおり、「みずほねっと」の平仮名6文字を標準文字で、同書、同大、同間隔に一連にまとまりよく書して成るものであり、また、決して冗長ではなく、一息によどみなく称呼し得るものであるから、引用商標から「ミズホネット」の称呼が生ずることは明らかである。更に検討するに、引用商標は、「みずほ」と「ねっと」から成る一種の造語であると認めることができるところ、「みずほ」は、「みずみずしい稲の穂」(株式会社岩波書店平成10年11月11日発行の「広辞苑第五版」。甲15)を意味する普通名詞であり、「ねっと」の語はそれ自体国語辞典には掲載されていないのであるから、引用商標は原告による造語であり、直ちに、一般人がその観念を了解することは困難であるといわざるを得ない。もっとも、「ねっと」と称呼を同じくする「ネット」は、「網」、「ネットワーク」、「インターネット」等の意味を有する普通名詞(前掲広辞苑等)であるところ、引用商標の外観から直ちに「ネット」を想起することができるか否かは平仮名と片仮名の相違があることから疑問といわざるを得ないが、称呼だけからは両者は区別できないため、「みずほねっと」を「みずほネット」と理解することも十分考えられるところである。そして、この場合の称呼及び観念についてみると、前述のとおり「みずほ」も「ネット」も共に普通名詞であり、それ自体は自他役務識別機能を有しないことを考慮すると、これら普通名詞同士の組合せから成る一種の造語として理解されるものというべきであるから、その称呼は「ミズホネット」であり、「ミズホ」のみの称呼は生じないものというべきである。次に観念についてみると、「ネット」の前記のような意味を踏まえ、「みずほネットワーク」ないしは「みずほインターネット」との観念が生ずる余地があるところである。しかし、これらは、いずれも普通名詞2語の組合せから成る一種の造語であり、2語が相まって初めて一つの観念を形成するものというべきであるから、これらから単に「瑞穂」なる観念が生ずる余地はないものというべきである。
イ 原告は、引用商標において自他役務識別機能を有するのは「みずほ」の部分であり、引用商標は、この語の後ろに、同機能を有しないか、有するとしても希薄である「ねっと」の語(「インターネット」の略語)を結合させたものであるから、引用商標を一体不可分の語と認識すべきではない旨主張する。
 しかしながら、上記主張は、前項に説示したところに照らして失当であり、採用することはできない。
(2)ア そして、前記のとおりの本件商標の構成(「MIZUHO」の文字を標準文字で書して成るもの)に、上記(1)において説示したところを併せ考慮すると、@本件両商標の外観が類似するということはおよそできず、A本件商標からは「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生じるのに対し、引用商標からは、「みずほネットワーク」ないしは「みずほインターネット」の観念が生じ得る余地があり、B本件商標からは「ミズホ」の称呼が生じるのに対し、引用商標からは「ミズホネット」の称呼が生じることになるのであるから、本件両商標は、外観、観念及び称呼のいずれの点からも、類似しないものであるといわざるを得ない。
イ(ア) 原告は、本件両商標の類否判断に当たっては、本件両商標の文字種を固定化すべきではなく、本件両商標を同一の文字種(平仮名、片仮名及びローマ字)においても対比すべきである旨主張するが、商標法27条1項は、「登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」と規定し、また、同法12条の2第2項3号は、出願公開に際して商標公報に掲載すべき事項として、「願書に記載した商標(第五条第三項に規定する場合にあつては標準文字により現したもの。・・・)」と規定しているのであるから、原告の上記主張は失当である。
(イ) 原告は、上記主張の根拠として、商標法50条1項の括弧書きを挙げるが、同括弧書きは、登録商標の不使用を理由とする商標登録の取消審判において、使用していると認められる当該登録商標の範囲(構成)について定めたものであるから、これを、商標の類否判断における当該商標の範囲(構成)を規律するものと解するのは相当でない。
ウ 原告は、標準文字により構成される商標の場合には、すべての構成文字を同書体、同大、同色で統一して表示する必要はない旨主張するが、本件両商標は、いずれも色彩を付した商標ではないし、また、標準文字とは、特許庁長官の指定する文字であって(商標法5条3項)、登録商標の範囲を定めるに当たり、構成文字の書体を変更したり、その大きさを不統一なものにしたりすることが許されないものであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
エ 原告は、インターネットにおいては、識別標識として、ドメイン名が用いられているとの取引の実情にかんがみ、本件商標を、引用商標をドメイン名化した「mizuho.net」と対比すべきであるとも主張するが、独自の見解であって、到底採用することができない。
(3) 以上によれば、本件両商標の類否判断の誤りをいう取消事由1は、理由がない。(したがって、取消事由2について判断するまでもなく、本件商標登録が商標法4条1項11号、同項15号又は同法8条1項の規定に違反してされたものではないとの審決の判断に誤りはないことになる。)
2 取消事由3(商標法4条1項15号違反についての判断の誤り)について
 上記1において説示したところによれば、本件商標登録が商標法4条1項15号の規定に違反してされたものではないとの審決の判断に誤りはないことになるが、念のため、以下、取消事由3に対する当裁判所の判断を示すこととする。
(1) 本件両商標が類似しないものであることは、上記1において説示したとおりである。
(2) そして、原告は、引用商標を使用していないこと及び引用商標が著名・周知でないことを自認しているのであるから、本件商標が、「他人」である原告の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であると認めることは到底できず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば、商標法4条1項15号違反についての判断の誤りをいう取消事由3は、理由がない。
3 結論
 よって、取消事由2について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 田中信義
 裁判官 古閑裕二
 裁判官 浅井憲


商標目録
1 登録番号 第4474912号
 商標の構成 「MIZUHO」の文字を標準文字で書して成るもの
 指定役務 第42類「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、美容、理容、入浴施設の提供、写真の撮影、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、石版印刷、凸版印刷、気象情報の提供、求人情報の提供、結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、一般廃棄物の収集及び分別、産業廃棄物の収集及び分別、庭園又は花壇の手入れ、庭園樹の植樹、肥料の散布、雑草の防除、有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る)、建築物の設計、測量、地質の調査、機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む)又はこれらにより構成される設備の設計、デザインの考案、電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究、建築又は都市開発に関する研究、公害の防止に関する試験又は研究、電気に関する試験又は研究、土木に関する試験又は研究、農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究、機械器具に関する試験又は研究、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介、通訳、翻訳、施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査、あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、柔道整復、はり、医業、医療情報の提供、健康診断、歯科医業、調剤、栄養の指導、家畜の診療、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、編み機の貸与、ミシンの貸与、衣服の貸与、植木の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、会議室の貸与、展示施設の貸与、カメラの貸与、光学機械器具の貸与、漁業用機械器具の貸与、鉱山機械器具の貸与、計測器の貸与、コンバインの貸与、祭壇の貸与、自動販売機の貸与、芝刈機の貸与、火災報知器の貸与、消火器の貸与、タオルの貸与、暖冷房装置の貸与、超音波診断装置の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、凸版印刷機の貸与、電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む)の貸与、美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与、布団の貸与、理化学機械器具の貸与、ルームクーラーの貸与、電子計算機へのデータ入力、雑誌の編集、受託による社史の編集、電子計算機を用いて行う情報処理、電子計算機システムに関する助言、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守の助言、国民の社会生活における精神的あるいは物理的問題に関する調査又は研究、産業技術・科学技術に関する試験・調査又は研究、社会科学に関する調査又は研究、自然科学に関する調査又は研究、人文科学に関する調査又は研究、動力機械器具の貸与、風水力機械器具の貸与、搾乳機の貸与、孵卵器の貸与、電気磁気測定器の貸与、ガソリンステーション用装置の貸与(自動車の修理又は整備業のものは除く)、冷凍機械器具の貸与、印刷用機械器具の貸与、ボイラーの貸与、医療用機械器具の貸与」
 登録出願日 平成11年12月16日
 設定登録日 平成13年5月18日

2 登録番号 第4246220号
 商標権者 原告
 商標の構成 「みずほねっと」の文字を標準文字で書して成るもの
 指定役務 第35類「広告、商品の販売に関する情報の提供」及び第38類「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」
 登録出願日 平成9年5月26日
 設定登録日 平成11年3月5日
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日本ユニ著作権センター
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