判例全文 | ||
【事件名】HPへの漫画本無断掲載事件 【年月日】平成19年9月13日 東京地裁 平成19年(ワ)第6415号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結の日 平成19年7月27日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告らは、原告AiことAに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告CiことCに対し、連帯して金32万2560円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告らは、原告DiことDに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告らは、原告EiことEに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告らは、原告FiことFに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被告らは、原告GiことGに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 8 被告らは、原告Hに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9 被告らは、原告Iに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 10 被告らは、原告JiことJに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 11 被告らは、原告KiことKに対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 12 原告CiことCのその余の請求を棄却する。 13 訴訟費用は、被告らの負担とする。 14 この判決は、第12項を除き、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項、第2項及び第4項から第11項までと同旨 2 被告らは、原告CiことCに対し、連帯して金50万円及びこれに対する平成18年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、漫画家である原告らが、その著作に係る漫画を被告らにより無断でインターネットのウェブサイトを通じて自動公衆送信されたとして、被告らに対し、著作権(公衆送信権)の侵害に基づく不法行為による損害賠償をそれぞれ求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか、又は後掲の証拠によって認められる)等。 (1) 当事者 ア 原告ら 原告らは、いずれも漫画家であり、それぞれ別紙対象作品一覧表記載の漫画(以下、総称して「本件著作物」という。)の著作者・著作権者である。 イ 被告ら a) 被告ネットカフェプランニング株式会社(以下「被告ネットカフェ」という。)は、旧商号を「10key.jp株式会社」といい、インターネットコンテンツの企画、制作及び販売等を目的とする株式会社である。 b) 被告株式会社SSKインダストリーカンパニー(以下「被告SSK」という。)は、インターネットカフェの経営をしている株式会社である(乙4)。 c) 被告Lは、被告ネットカフェのかつての代表取締役(現在は取締役)であり、また被告SSKの代表取締役であった者である。 d) 被告Mは、被告ネットカフェの代表取締役である。 (2) 被告らによる著作権(公衆送信権)侵害行為 ア 被告L及び被告Mは、共謀の上、平成17年9月17日から同18年1月25日までの間、東京都大田区<以下略>の<省略>において、多数の漫画単行本を裁断し、スキャナーを用いてその画像を読み取り、読み取った画像ファイル(各漫画単行本の全ページにわたるもの)を、同所に設置したサーバーを用いて、「464.jp」というウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を通じて、電気通信回線を使用してインターネットを利用する不特定多数の者に自動公衆送信が可能な状態にし、かつ実際に自動公衆送信を行った(以下「本件侵害行為」という。)。 なお、本件ウェブサイトへのアクセス件数は、本件侵害行為が開始された平成17年9月17日ころには1日当たり2万件程度であったが、その後増加していき、同18年1月ころには1日当たり10万件程度であった。 イ 本件侵害行為の対象となった漫画単行本には、本件著作物が含まれている。 ウ 以上のとおり、被告L及び被告Mは、本件侵害行為に関する共同不法行為者に該当するから、被告L及び被告Mは、本件侵害行為によって原告らに生じた損害を連帯して賠償する責任を負う。 2 争点 (1) 被告ネットカフェ及び被告SSKは本件侵害行為の幇助者に該当するか(争点1)。 (2) 原告らが被った損害の額(争点2)。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告ネットカフェ及び被告SSKは本件侵害行為の幇助者に該当するか)について (1) 原告らの主張 ア 本件侵害行為において、被告ネットカフェ及び被告SSKは、漫画単行本のスキャナーへの読み取り作業やサーバーの設置をするための場所を提供した。 また、本件侵害行為に関連して、被告ネットカフェは、インターネット・ブロードバンド・サービスを提供している株式会社USENとの契約を行い、被告SSKは、サーバーを提供した。 したがって、被告ネットカフェ及び被告SSKは、少なくとも本件侵害行為の幇助者に該当するから、本件侵害行為によって原告らに生じた損害を被告L及び被告Mと連帯して賠償する責任を負う。 イ 被告らは、被告ネットカフェが本件侵害行為に関与していないと主張するが、被告ネットカフェが株式会社USENとの間の回線契約の当事者となっていることを認めている。 被告らは、かかる契約を被告Lが独断で行ったとか、被告ネットカフェは回線料の支払を行っていない等とも述べるが、被告ネットカフェ(旧商号「10key.jp株式会社」)が振り込みでの料金支払を約し、その代表取締役である被告Mを通じて株式会社USENに回線契約の申込みをしている以上、被告ネットカフェが回線契約当事者であるという事実に何ら影響はない。同回線が本件侵害行為に用いられた以上、被告ネットカフェの幇助は明らかである。 ウ 被告らは、被告SSKが本件侵害行為に関与していないと主張するが、被告SSK名義でサーバーを購入したことを認めている。 そのための資金を被告L個人が出捐したのか否かは原告らは知らないが、仮にそうであったとしても、それは被告SSK内部における資金調達の問題にすぎない。被告Lがその購入代金80万円を被告SSKに入金したとのことであるから、被告SSKが、その名義のみならず、同社の計算においてサーバーを購入したことに疑いはない。被告SSK所有のサーバーを被告SSKが本件侵害行為のために提供している以上、被告SSKの幇助は明らかである。 (2) 被告らの主張 ア 本件侵害行為は、被告Lが、被告M及び訴外Nを使って行ったものであり、被告ネットカフェ及び被告SSKはこれに関与していない。 イ 被告ネットカフェは、確かに株式会社USENとの間のインターネット・ブロードバンド回線契約の当事者となっているが、それは株式会社USENが法人相手でなくては契約しないというので、被告ネットカフェの取締役であった被告Lが、やむを得ず独断で被告ネットカフェの名義を用いたにすぎず、被告ネットカフェは回線料の支払も行っていない。 ウ 本件侵害行為に使用したサーバーは、平成17年4月27日に被告Lがその購入代金80万円を被告SSKに入金し、被告SSKがその名義で購入したものである。本件ウェブサイトの名義も、本件ウェブサイトの会員の会費納入先口座の名義も、本件侵害行為のための作業をした部屋の賃借人の名義も、すべて被告Lの個人名義である。 2 争点2(原告らが被った損害の額)について (1) 原告らの主張 ア 使用料相当額について a) 被告らの本件侵害行為により本件著作物が公衆送信されたことによって、原告らは、使用料相当額の損害を被った(著作権法114条3項)。 上記使用料相当額は、同種のインターネットによる漫画配信サービス等において設定された著作権者の受けるべき許諾料額(使用料額)等を斟酌した上で、本件の事情を加味して算定するのが相当である。 b) 同種のインターネットによる漫画配信サービスにおいて、電子書籍・オンラインコミックの蔵書が日本において最大級のウェブサイトを運営している株式会社イーブックイニシアティブジャパン(以下「訴外イーブック」という。)に対して漫画配信サービス等を許諾する場合の利用許諾料は、原告AiことAの場合、同社による電子書籍の販売価格の24パーセント(税別)とされている。 上記利用許諾料は、許諾を受けた訴外イーブックが「コンテンツを電子書籍として頒布する際に、著作権の保護に必要な技術的施策を講ずる」ことや、「当該保護の瑕疵に起因して第三者から違法な複製、翻案、改竄等の不法侵害がなされた場合、〔訴外イーブック〕が〔許諾者〕の受けた不利益と損害を賠償する」こと等を条件にしたものである。 さらに、上記利用許諾料は、利用許諾料の最低保障に該当するアドバンス(前払)の支払をすることが条件になっており、その金額は500万円である。 c) これに対し、本件侵害行為においては、著作権の保護に必要な技術的施策は採られておらず、かつ本件ウェブサイトでは、4か月以上にわたって違法複製物を無償で公衆送信したものである。したがって、本件ウェブサイトを直接閲覧した者が、本件著作物を違法に利用した可能性があるほか、インターネット情報が一般に拡散しやすいことに照らすならば、それらの者が、さらに第三者に本件著作物の違法複製物を転送する等された可能性もある。これらのことを踏まえると、本件において原告らが被った損害の額としての使用料相当額は、電子書籍の販売価格の40パーセントとするのが相当である。 d) 訴外イーブックを通じて、本件著作物を電子書籍として販売する場合の価格は、一般に、漫画単行本1冊当たり315円又は420円である。 e) 前記第2の1(2)ア記載のとおり、本件ウェブサイトへのアクセス件数は、本件侵害行為が開始された平成17年9月17日ころには1日当たり2万件程度であったが、その後増加していき、同18年1月ころには1日当たり10万件程度であった。 f) 以上を参考にしつつ、原告ら各人について、別紙個別使用料相当額計算書(原告ら)に基づいて使用料相当額を算定した場合、原告らが被った損害の額は同計算書記載の金額を下回るものではないから、原告らは、被告らに対し、各自、その一部である200万円(ただし、原告CiことCは50万円)及びこれに対する(不法行為の後である)平成18年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ 被告らは、原告AiことAは人気作家であって、許諾料も高額であろうから、(同人の契約条件は)他の原告らの許諾料の参考とすることはできない、と主張する。 しかし、訴外イーブックと原告KiことKとの間の契約では、許諾料は原告AiことAの場合よりもむしろ高く、電子書籍の販売価格の35パーセントとされている(その代わり、原告AiことAの契約には存在した500万円の前払の支払がないといった条件の違いがある。)。このようなパーセンテージは一般的な書籍の印税より高いが、一般の書籍であれば、原材料(紙、各種カラーのインク)の購入、デジタル製版(印刷用の高解像度のスキャニング)、印刷、製本、流通、保管、返本等の様々な過程)で多大な費用がかかるのに対して、インターネットによる場合にはそのような費用がかからないのであるから、一般の書籍と比較して高いパーセンテージになることには合理性がある。 他の原告らも原告AiことAや原告KiことKと同様に人気有名漫画家であることに変わりはない。したがって、訴外イーブックと原告AiことAとの間の契約は、他の原告らの使用料相当額を算定するに当たっても等しく参考になるものであるし、また、被告らの場合には、事前の承諾なしに本件著作物を利用しており前払の支払はないから、同様の条件の原告KiことKの許諾料率35パーセントをベースに考えたとしても、著作権保護のための技術的措置が採られていないという本件の具体的事情を考慮するならば、本件において原告らが主張している使用料相当率40パーセントという数字は妥当である。 ウ 被告らは、通常の技術では、ダウンロードした画像を取り出したり他に転送したりできないようになっていたと主張するが、具体的な主張はなく、信用することができない。 また、漫画を閲覧した際に、プリントスクリーン機能を用いてペイントソフトなどにデータを保存すれば、転送やプリントアウトは容易に行うことができる。このプリントスクリーン機能は、ウィンドウズの基本的機能であって、通常のウィンドウズを利用したパソコンであればどの機種にでも付いているものである。 他方、訴外イーブックでは、被告らも認めるとおり暗号化措置が採られている上、プリントスクリーンができない仕組みが導入されている。また、YAHOO−BOOK(Yahoo!コミック)では、「コミックの画像をパソコンに保存できないので、インターネットとの接続が切れるとコミックを読めなくな〔る〕」といった措置が採られている上、やはりプリントスクリーン機能も利用できないようになっている。 このように、被告らの場合と、著作権者の正当な許諾を得て業務を行っている他の業者の場合では、著作権保護の技術的施策が質的に全く異なる。 エ 被告らは、途中で本件ウェブサイトに対するアクセスを止めた者なども甲第7号証のカウント数に含まれている旨主張するが、かかる主張は被告らの憶測にすぎない。また、被告らが証拠として提出したアクセス者からのメール(乙第9号証)によれば、むしろ多くのアクセス者が漫画の全ページを順番に読もうとしていたことがうかがわれる。 オ 被告らが本件著作物の適正な使用料相当額として挙げる他の事例は参考にならない。 a) YAHOO−BOOKの事例について 被告が挙げるYAHOO−BOOKの事例では、漫画本を1冊単位で購入する場合には、標準の閲覧可能期間が80日間とされており、1冊当たりの価格は294円から378円である。他方、訴外イーブックにおける1冊当たりの価格は、漫画家が誰であれ、いずれも315円か420円であり、原告らは、使用料相当額の計算に当たって、より低い金額の315円を用いている。したがって、YAHOO−BOOKの当該価格帯に照らすと、原告らの計算は、むしろ控え目な金額設定を前提にしたものである。 なお、YAHOO−BOOKでは、セットで申し込む場合には、1冊単位で購入するよりも安い価格で作品を閲覧することが可能であるが、その場合にも「作品は毎月1日更新、順次入れ替え」ることになっており、例えば、被告らが挙げる「Fiセレクション」の場合であれば、「サバイバル」全21巻をすべて読むためには、5月から7月までの3か月間にわたり継続して会員になり続ける必要がある仕組みになっている。しかも、例えば、6月から会員になった場合には、「サバイバル」1から6巻は読めないため、「読み逃してしまった作品」として「1冊ずつご購入」する需要を期待できる仕組みになっているなど、ビジネス全体として収入を上げる仕組みになっている。 以上のようなYAHOO−BOOKのビジネス全体の仕組みを無視し、1か月の月額会費部分のみを取り上げて計算の根拠にする被告らの主張には正当性が認められない。 b) 有限責任中間法人出版物貸与権管理センターの事例について 同センターが取り扱っているのは、まさに貸与のみであり、インターネットを通じた送信可能化ないし公衆送信とは性質が異なるものである。すなわち、同センターが取り扱う貸与の場合には、レンタルを行う業者が、レンタル用の有体物たる漫画本を購入する必要があり、かつ1冊購入した場合、一時期にレンタル対象にできるのはその1冊だけであって、レンタル店に在庫がなければその間は他者へのレンタルができない(人気漫画などを同時にレンタルしようとすれば、複数冊を購入する必要がある。)。したがって、貸与によって著作物の効用を利用できる範囲は、有体物の利用による制限を受けるため、時間的にも場所的にもさほど広いものではない。また、レンタルを受けた利用者は、その漫画本を利用して、その全部又は一部のページをコピー機で複写するような行動もとらないのが通例である。 他方、被告らが行っていたインターネットを通じた送信可能化ないし公衆送信の場合には、同時に複数の読者に対してサービス提供をすることも可能であり、また、パソコンからインターネットへの接続環境さえ整っていれば、いかに遠距離に住んでいる者であっても利用可能である。さらに、コピー機による複写の場合と異なり、ディスプレイでの表示を利用して複製を作った場合に(その方法については前記ウのとおり。)、品質は劣化しないし、複製の作成が容易であるため、そのような利用をする者の出現も十分想定される。 このように、著作物の利用や派生的な著作権侵害のリスクといった条件面において顕著な違いがある以上、有体物たる漫画本の貸与に関する使用料規程は、インターネット上の利用に当たって参考になるものではない。 (2) 被告らの主張 ア 原告らの主張する許諾料(率)について a) 原告らは、訴外イーブックと原告AiことAとの間における許諾料を基準にすべての原告の利用許諾料を算出しているが、原告AiことAは人気作家であって、許諾料も高額であろうから、他の原告らの許諾料の参考とすることはできない。 b) 訴外イーブックは、甲第5号証の契約によって、原告AiことAの漫画本のすべて(89タイトル)をあらゆる流通方法を用いて流通させる権利を取得しているから、売れ筋の漫画を利用者のニーズに合わせた様々な方法で提供することができる。しかし、被告らは、例えば原告AiことAの漫画であれば、「凄ノ王」全6巻、「デビルマン」全5巻、「バイオレンスジャック」全31巻及び「ハレンチ学園」全7巻の4タイトルだけを、インターネットに通じた通信回線を介して閲覧させるという方法のみで配信したに過ぎず、訴外イーブックとは取得した権利の内容が異なるから、同社の支払う許諾料は参考にならない。 c) 甲第5号証では500万円のアドバンスの支払が条件となっているが、このアドバンスは許諾料を単に前払したものであって、許諾料と別に支払ったものではない。また、原告AiことA以外の原告らのアドバンスの有無、金額については不明である。 d) 甲第5号証では著作権保護に必要な技術的施策を施すことが契約内容となっているが、暗号が解かれて訴外イーブックの電子書籍が出回ることは多い。 他方、本件ウェブサイトでも、後記イのような技術的施策が施されていたから、通常技術では転送できなかったし、何より本件ウェブサイトは無料であって、誰でも何度でもアクセスして漫画の配信を受けることができるのであるから、漫画を読みたい者は直接本件ウェブサイトにアクセスして配信を受ければよいのであって、既に配信を受けた者からその配信を受けたデータの転送を受ける必要はない。したがって、配信を受けた漫画を転送する等違法に利用する必要がなく、違法利用された可能性は乏しい。 イ 著作権保護に必要な技術的施策について 本件侵害行為によって送信された原告らの漫画は、利用者のパソコンの特殊な場所に記憶されるようにしてあるので、通常の技術ではそれを取り出したり、他に転送したりすることはできない。訴外イーブックが配信する漫画のように暗号化は施されていないから、絶対に取り出したり転送したりできないという訳ではないが、通常の技術ではそれらの行為ができない場所に送信している。 さらに、ページ端に「464」(ヨムヨ)の透かしが付されているから、受信した読者がそれを転送すると、転送物に「464」の表示が付されて、それが本件ウェブサイトから送信された漫画の無断複製であることがわかってしまう。 以上の限度においてではあるが、「著作権の保護に必要な技術的施策」が採られている。 ウ 実際に読了された漫画本の数について a) 甲第7号証のカウント数は、本件ウェブサイトにアクセスした者が、「作者」、「タイトル」及び「巻数」を指定して漫画本を特定した数であって、その特定された漫画本を公衆送信した実数ではない。 b) 本件ウェブサイトは無料であったから、漫画に特別の関心のない者が興味本位に多数アクセスしてきたが、これらの者は、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした。甲第7号証のカウント数には、そうした者もすべて1件としてカウントされている。そして、本件ウェブサイトは、訴外イーブックの送信方法とは異なって、アクセス者が「ペイジ送り」をクリックするごとに1ページずつ公衆送信するシステムだったから、アクセスを止めた以降のページは公衆送信していない。 c) 甲第7号証は、本件侵害行為を開始した平成17年9月17日から1週間後の同月24日のカウント数を示したものであるが、平成17年9月17日から同18年1月23日までの間は、まだシステムが完成しておらず、アクセス者が特定した漫画本を実際には読むことができないケースが多発していた。 例えば、特定した漫画本のスキャンデータがまだ備蓄されておらず、「準備中」の表示が出たり、アクセス者が選択したファイル名とスキャンデータのファイル名が(例えば、前者が「<省略>OU」で後者が「<省略>OO」のように)異なっていて、漫画がアップしなかったりするというケースが多発していた。 実際にも、警察の家宅捜索によってサーバーが止められるまでの間に合計8955件の苦情が寄せられており、実際に漫画を読むことができなかったケースはその何十倍にも及ぶはずである(このようなシステムの欠陥を徐々に補修し、漫画本の備蓄を徐々に整えていって、システムとして機能するようになった平成18年1月24日から課金することとしたものである。)。 甲第7号証のカウント数は、このように実際には公衆送信していない分もすべてカウントされている。 d) 以上の理由から、実際に読了された漫画本の数は、甲第7号証のカウント数の100分の1程度であると推測される。 エ 本件著作物の適正な使用料相当額について a) YAHOO−BOOKの料金 YAHOO−BOOKによれば、原告FiことFの「バロム・1」と「サバイバル」1から12巻の計13巻が900円(税抜)で1か月間読み放題であり(1冊当たり約69円)、同様に原告KiことKの「硬派銀次郎」1から3巻と「夢幻の如く」3から7巻の計8巻が500円(税抜)で1か月間読み放題である(1冊当たり約62円)。そこで、原告らの漫画本の1か月間の読み放題料金が1冊につき平均65円、本件侵害行為による提供期間が4か月であるとして、適正な使用料相当額を計算すると、以下のようになる。
周知のとおり、平成15年1月1日から、書籍・雑誌にも貸与権が及ぶこととなった。そして、出版物の貸与権の集中管理を目的として、著作権等管理事業法に基づく管理事業者として、有限責任中間法人出版物貸与権管理センターが設立され、登録されたが、同センターが文化庁に提出した使用料規程によれば、出版物の定価が550円未満の著作物は、貸与の回数にかかわらず使用料が265円とされている。これに基づいて、本件侵害行為について適正な使用料相当額を算出すると、以下のようになる。
1 争点1(被告ネットカフェ及び被告SSKは本件侵害行為の幇助者に該当するか)について (1) 被告L及び被告Mが、共謀の上、平成17年9月17日から同18年1月25日までの間、東京都大田区<以下略>の<省略>において、原告らの本 件著作物を含む多数の漫画単行本を裁断し、スキャナーを用いて画像を読み取り、読み取った画像ファイル(各漫画単行本の全ページにわたるもの)を、同所に設置したサーバーを用いて、本件ウェブサイトを通じて、電気通信回線を使用してインターネットを利用する不特定多数の者に自動公衆送信が可能な状態にし、かつ実際に自動公衆送信を行ったこと(すなわち、本件侵害行為をしたこと)は、当事者間に争いがない。 (2) 被告らは、被告ネットカフェは本件侵害行為に関与していない、と主張する。 確かに、被告ら主張のとおり、本件ウェブサイトの登録者の名義は被告L個人であり(乙5)、本件ウェブサイトの会員から会費の納入を受ける銀行口座も被告L個人名義であって(乙2、乙6)、本件侵害行為をした場所である「<省略>」についても、本件侵害行為の開始前である平成17年9月1日付けで賃借人を被告SSKから被告L個人に変更済みである(乙7)ことがそれぞれ認められる。 しかしながら、被告ネットカフェが本件侵害行為に使用されたインターネット・ブロードバンド回線契約を株式会社USENとの間で締結したことは、当事者間に争いがない。 この点について、被告らは、被告Lが独断で被告ネットカフェの名義を用いたにすぎず、被告ネットカフェは回線料の支払も行っていない、と主張する。しかし、甲第8号証(弁論の全趣旨により原本の存在及びその真正な成立が認められる。)によれば、被告ネットカフェが、旧商号である「10key.jp株式会社」(代表取締役は被告M)の名前で、平成17年8月10日付けで、株式会社USENに対して、料金は会社名義で振り込むことを前提にして、インターネット・ブロードバンド回線サービスの加入契約の申込みをしていることが認められるから、被告らの上記主張は採用することができない。 そして、本件ウェブサイトは、当初は被告Lが漫画の古本をインターネットを通じて販売する目的で立ち上げられたものであったものの、被告Lのアイデアで漫画の単行本を画像ファイル化してインターネット上で閲覧可能にするためのものに性格を変えていったものである(乙3)。また、本件侵害行為である自動公衆送信が開始される平成17年9月17日までの間には相当の準備期間が必要であったことは容易に推認することができるから、被告ネットカフェが上記契約の申込みをした同年8月10日当時には、既に被告ネットカフェの代表者である被告Mも被告Lと本件侵害行為の開始に向けて共謀関係にあったと認めるのが相当である。 したがって、被告ネットカフェは、本件侵害行為に使用されるインターネット・ブロードバンド回線を被告L及び被告Mに提供することによって本件侵害行為を幇助したというべきであり、かつ、その代表者であった被告Mについて故意が認められるから、被告ネットカフェは、本件侵害行為について幇助者としての共同不法行為責任を免れない。 (3) 被告らは、被告SSKも本件侵害行為に関与していない、と主張する。 しかし、本件侵害行為に使用されたサーバーは、被告SSK名義で購入されたことは、当事者間に争いがない。 この点について、被告らは、平成17年4月27日に被告Lがその購入代金80万円を被告SSKに入金したものである、と主張する。しかし、被告SSKが、サーバーの購入資金をどのようにして調達したとしても、上記サーバーの購入主体が被告SSKであり、その所有権が同社にあったこと自体は、上記事実から見て明らかである。 被告Lは、上記サーバーの購入当時、被告SSKの代表取締役であった者であり(弁論の全趣旨)、平成17年11月16日付けで同人が作成した「464.jp概要説明書」と題する書面(乙3)において、「約3年間をかけて、試行錯誤を続けながら、画像配信ソフト、漫画の本のデータ蓄積、作品別の著作権料支払いデータ収集、著作権料徴収プログラム、配信サーバ確立などを多大な費用をかけて構築してきたのが、現在の464.jpです」と自認するところであるから、被告SSKは、上記サーバーを本件侵害行為のために必要なシステムとして構成し、被告L及び被告Mに提供するために購入したものということができ、この点において本件侵害行為を幇助したというべきであり、かつ、その代表者であった被告Lについて故意が認められるから、被告SSKは、本件侵害行為について幇助者としての共同不法行為責任を免れない。 2 争点2(原告らが被った損害の額)について (1) 原則的な考え方について 原告らは、著作権法114条3項に基づき、本件著作物の使用料相当額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求している。 上記使用料相当額を算定するに当たって、一つの合理的な算定方法としては、当該事件の具体的な事情を考慮して、原告らの著作に係る各漫画単行本を本件侵害行為のような形で電子書籍化した場合の想定販売価格に対して相当な使用料率を乗じたものに、さらに本件侵害行為が行われた期間中の本件ウェブサイトの利用者による閲覧総数を乗じて得た金額を原告らそれぞれについて集計することが考えられる(なお、原告らも、基本的に同様の考え方に立って、使用料相当額を算定しているということができる。)。 (2) 本件著作物の漫画単行本を電子書籍化した場合の想定販売価格について 甲第6号証の1から7によれば、訴外イーブックが電子書籍として漫画単行本(本件著作物に該当する漫画を一部含む。)を販売する場合の価格は、1冊につき315円(税込)又は420円(税込)である。 他方、甲第11号証によれば、Yahoo!コミックがオンラインコミックを販売する場合の価格は、漫画単行本1冊につき294円(税込)から378円(税込)であり、訴外イーブックよりもやや安い価格帯で提供されている。ただし、標準の閲覧可能期間は80日間であり、これを経過すると漫画を読むことができなくなるという制約がある。 本件侵害行為による漫画本の自動公衆送信については、上記のような閲覧可能期間の制限があったと認めるに足りる証拠はないから、以上の事情を総合考慮すると、本件著作物の漫画単行本を電子書籍化した場合の想定販売価格は、控え目に見ても、1冊につき少なくとも300円(税別)を下らないものと認めるのが相当である。 (3) 相当な使用料率について ア 原告AiことAの著作物のライセンス契約 甲第4号証及び甲第5号証によれば、訴外イーブックが、訴外株式会社ダイナミックプロダクション(以下「訴外ダイナミックプロ」という。)との間で、同社が著作権を管理する原告AiことAの著作物を電子書籍として頒布することに関して締結したライセンス契約においては、利用許諾料は電子書籍の販売価格の24パーセント(税別)とされている。 ただし、上記契約においては、@利用許諾料の前払として、契約締結時から1か月以内に500万円(税別)のアドバンスが支払われることとなっており、A訴外イーブックが電子書籍として頒布する際に、著作権の保護に必要な技術的施策を講ずるとした上、B当該保護の瑕疵に起因して第三者から違法な複製、翻案、改ざん等の不法侵害がなされた場合、訴外イーブックが訴外ダイナミックプロの受けた不利益と損害を賠償するといった約定があるから、これらの事情は、利用許諾料率を通常の場合よりも引き下げる要因となっていると解される。 イ 原告KiことKの著作物のライセンス契約 他方、甲第9号証の1・2及び甲第10号証によれば、訴外イーブックが、訴外株式会社サード・ラインとの間で、同社が著作権を管理する原告KiことKの著作物を一般に電子書籍として提供することに関して締結したライセンス契約においては、利用許諾料は電子書籍の販売価格の35パーセント(税別)とされている。 上記契約においては、@前記アの契約のようなアドバンスの支払に関する条項はなく、A訴外イーブックが電子書籍として提供するに際し、著作権を保護するために必要な通常の技術的施策を講じるとされているものの、B前記アの契約のような当該保護の瑕疵に起因した著作権の不法侵害に対する補償条項は設けられていない。 ウ 本件侵害行為の場合との比較 本件侵害行為に際しては、前記アの契約のようなアドバンスの支払は、当然のことながら存在しない。 また、著作権の保護に必要な技術的施策について、被告らは、本件侵害行為によって送信された原告らの漫画は、利用者のパソコンの特殊な場所に記憶されるようにしてあるので、通常の技術ではそれを取り出したり、他に転送したりすることはできない、などと主張するが、それを裏付ける具体的な証拠はないのに対して、訴外イーブックやYahoo!コミックでは、例えば、ウィンドウズの基本機能であるプリントスクリーン機能(甲12)を用いては画面に表示されている漫画の画像データをパソコンに保存することができないような技術的措置が採られていることが認められ(甲13、14)、これらと比較すると、本件ウェブサイトは、第三者による著作物の違法な複製等の著作権侵害行為に対して相対的に脆弱であるということができる。 もっとも、本件ウェブサイトは、当初無料で閲覧可能だったのであり、利用者から会費の徴収を始めたのは平成18年1月23日からであった(乙6、弁論の全趣旨)ことからすると、本件侵害行為が行われていた期間のうちほとんどの期間については、本件著作物を閲覧したいと考える者は誰でも本件ウェブサイトにアクセスして漫画の配信を受けることができる状態にあったのであって、本件ウェブサイトを通じて配信を受けた漫画の画像データをわざわざ複製する等の二次的な著作権侵害行為が頻繁に行われたとも想定し難い。 また、本件ウェブサイトによる漫画の配信は、平成18年1月25日に中止されている(乙1)が、本件ウェブサイトを通じて配信を受けた漫画の画像データがその後に無断複製されて流通しているといった事情を示すような具体的な証拠はない。 エ 本件侵害行為における相当な使用料率 以上アからウまでの事情を総合考慮すると、本件侵害行為における相当な使用料率は、本件著作物の漫画単行本を電子書籍化した場合の想定販売価格(税別)の35パーセントを下らないものと認めるのが相当である。 なお、漫画作品ごとに相当な使用料率を認定することも考えられないではないが、前記ア及びイのように、契約実務においても、同一の著作者による漫画について、作品ごとに使用料率を違えるようなことはしないのが通例であると想定される。また、原告ごとに相当な使用料率を認定することも考えられないではないが、あえて原告ごとにそのような差異を設けなければならないと認定するに足りる証拠はない。 オ 被告らの反論について a) 被告らは、原告AiことAは人気作家であって、許諾料も高額であろうから、他の原告らの許諾料の参考とすることはできない、と主張する。しかし、前記イのように、原告KiことKの場合は、原告AiことAの場合より許諾料率がむしろさらに高いことが認められる。また、電子書籍の場合は、一般的な書籍の場合とは異なり、出版・流通に関する経費がほとんどかからないという特徴を有する(弁論の全趣旨)ことから、一般的な書籍の場合よりはるかに高い許諾料率とすることが可能である。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。 b) 被告らは、前記アのライセンス契約では、訴外イーブックは、原告AiことAの漫画本のすべて(89タイトル)をあらゆる流通方法を用いて流通させる権利を取得しているから、売れ筋の漫画を利用者のニーズに合わせた様々な方法で提供することができるが、被告らは、原告AiことAの漫画であれば、「凄ノ王」全6巻、「デビルマン」全5巻、「バイオレンスジャック」全31巻及び「ハレンチ学園」全7巻の4タイトルだけを、インターネットに通じた通信回線を介して閲覧させるという方法のみで配信したにすぎず、訴外イーブックとは取得した権利の内容が異なるから、同社の支払う許諾料は参考にならない、と主張する。 しかし、甲第4号証及び甲第5号証によれば、訴外イーブックに認められた電子書籍の販売方法は、@電子的媒体に固定してこれを複製する方法、Aインターネット通信による方法、B店頭、街角などに設置されたハードディスクを伴う情報機器により電子書籍を磁気ディスク、光ディスク、フラッシュメモリーの媒体に複製する方法だけであって、これらを比較すれば上記Aが最も低コストであって主たる流通方法であると考えられること、また、訴外イーブックがライセンスを受けた漫画作品89タイトルには「凄ノ王」及び「バイオレンスジャック」は含まれておらず(ただし、「バイオレンスジャック」については、別途ライセンスを受けたと認められる(甲6の1)。)、むしろ被告らの方が読者に人気のある漫画作品だけを任意にピックアップして自動公衆送信することができたというべきであることを考慮すれば、被告らの主張は失当である。 (4) 本件著作物に対する閲覧総数について ア 平成17年9月24日までの閲覧総数 甲第7号証によれば、本件侵害行為が開始された平成17年9月17日から起算して8日目である同月24日時点での、著作者別のカウント数(本件ウェブサイトにアクセスした者が、「作者名」、「タイトル」及び「巻数」を指定して漫画本を特定した数)は、下記の表のとおりであると認められる(ただし、原告Bについては、別紙個別使用料相当額計算書(原告ら)においては単独1万0705件とされているが、甲第3号証の資料3のDでは「SLAM DUNK」の作者が「Bi」名で整理され、甲第7号証の2ページでは、作者「Bi」計として764件が作者「B」計の1万0705件とは別途にカウントされているので、これを加算することとする。)。
イ 本件ウェブサイトへのアクセス件数の増加を勘案した閲覧総数の推計 a) 本件侵害行為は、平成17年9月17日から同18年1月25日までの合計131日間継続したが、その間、本件ウェブサイトへのアクセス件数は、当初の1日当たり2万件程度から1日当たり10万件程度に増加している。 アクセス件数の増加傾向がどのようなものであったかは明らかではないが、平成17年9月17日のアクセス件数を2万件、同18年1月25日のアクセス件数を10万件として、アクセス件数の増加が直線的(一次関数的)なものであったと仮定すると、本件侵害行為期間中の総アクセス件数は786万件となり、当初1日当たりのアクセス件数2万件の393倍に相当する。 〔計算式:(2万件+10万件)×131日÷2=786万件〕 そうすると、前記アに示したカウント数を期間中の日数分である8で除して当初の1日当たりのカウント数とし、これに393を乗じたものが、本件ウェブサイトへのアクセス件数の増加を勘案した計算上の閲覧総数であるということができる。 b) ただし、被告らが主張するように、前記アに示したカウント数は、本件ウェブサイトにアクセスした者が、「作者名」、「タイトル」及び「巻数」を指定して漫画本を特定した数を示すものであるが(甲3)、本件侵害行為がなされていた期間中、システムの不備により、アクセス者が特定した漫画本を実際には読むことができないケースもあったことが認められる(乙9)。 この点について、被告らは、合計8955件の苦情が寄せられており、実際に漫画を読むことができなかったケースはその何十倍にも及ぶはずである、と主張する。しかし、被告らが苦情件数の根拠とする乙第8号証は、単に被告Mのパソコンにインストールされた電子メールソフトの「464関連」と題するローカルフォルダに8955件のメールが寄せられていたことを示すにすぎず、これらすべてが「実際に漫画を読むことができない」という内容の苦情のメールであったと認めるに足りる証拠はない(かえって、乙第3号証によると、そうした苦情以外の内容のメールも多数送られてきたことがうかがわれるが、これらのメールも上記ローカルフォルダに保存されていた可能性すらある。)。また、実際に漫画を読むことができなかったケースは苦情件数の何十倍にも及ぶという点についても、特段の根拠はなく、単なる被告らの憶測にすぎない。 また、被告らは、本件ウェブサイトのアクセス者が、実際に漫画が配信されることを確認しただけでアクセスを止めたり、漫画が面白くなくて最初から10ページ程度でアクセスを止めたり、都合により後日読むこととしてアクセスを止めたりした場合もすべて1件としてカウントされている、と主張する。しかし、仮に途中でアクセスを止めたとしても、アクセス者が漫画本の一部だけでも閲覧した以上は、これを閲覧件数に加えるのが相当である。 以上を勘案すると、被告らの反論を最大限度踏まえたとしても、前記a)の方法により計算した閲覧総数から10パーセントを減じたものが、本件ウェブサイトへのアクセス件数の増加を勘案した閲覧総数の実数であると認定することができる(著作権法114条の5)。 c) 前記a)及びb)の結果、各原告についての本件著作物の閲覧総数は、下記の表のとおりである(小数点以下切り捨て)。
前記(2)から(4)までに基づき、各原告についての本件著作物の使用料相当額を計算すると、下記の表のとおりである(小数点以下切り捨て)。
ア 被告らは、YAHOO−BOOK(Yahoo!コミック)の事例(乙10、11)を挙げて、これに基づいて「適正な使用料相当額」なるものを算定して主張する。しかし、同事例は、利用者が特定の作者の漫画を複数冊まとめて購入し、1か月間のみ読み放題とするという条件で特に割安な料金設定がされているものである点で本件ウェブサイトとは前提条件を異にする上、被告らの計算は、本件ウェブサイトの閲覧者が複数おり、したがって同一作品が複数回自動公衆送信されているという当然の事実を無視しているから、到底採用の限りではない。 イ 被告らは、有限責任中間法人出版物貸与権管理センターの使用料規程(乙13)を挙げて、これに基づいて「適正な使用料相当額」なるものを算定して主張する。しかし、同センターの使用料規程は、貸本業者が有体物たる出版物の貸与をする場合の使用料について規定するものであるから、被告らの主張は、貸与権と公衆送信権の法的な性格の違いを無視するものであり、やはり採用することができない。 3 結論 よって、原告ら(原告CiことCを除く)の各請求は、それぞれ理由があるからこれを認容し、原告CiことCの請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 間史恵 裁判官 杉浦正典 当事者目録 原告 AiことA 原告 B 原告 CiことC 原告 DiことD 原告 EiことE 原告 FiことF 原告 GiことG 原告 H 原告 I 原告 JiことJ 原告 KiことK 上記11名訴訟代理人弁護士 福井健策 同 桑野雄一郎 同 二関辰郎 同 唐津真美 被告 ネットカフェプランニング株式会社 被告 株式会社SSKインダストリーカンパニー 被告 L 被告 M 上記4名訴訟代理人弁護士 平尾正樹 対象作品一覧表
個別使用料相当額計算書(原告ら) 1 平成17年9月24日時点のカウント数 甲第7号証は、平成17年9月24日時点における原告らそれぞれの本件著作物に対する閲覧数(カウント数)を示す一覧表である。これは、本件侵害行為が開始された平成17年9月17日から1週間程度しか経過していない時点のものであって、本件ウェブサイトにおける本件著作物の公衆送信開始直後の数字であるため、あくまでも参考にとどまるものであるが、これによれば、原告らそれぞれについてのカウント数は、それぞれ以下のとおりである。
2 計算式の説明 後記3の個別計算では、前記1で得られたカウント数をベースに、@期間・逓増分、A電子書籍の販売価格、B使用料相当率をそれぞれ乗じた。 (1) 期間・逓増分 前記1のカウント数は、本件ウェブサイトにおいて本件侵害行為が開始されてから1週間程度の期間の数値である。本件侵害行為は、平成18年1月25日に捜査機関によってサーバーが押収されるまで、したがって約4か月間強(約18週間)継続された。その間、カウント数は次第に増加していったので、その逓増分を加味して、期間・逓増分として、上記カウント数に58を乗じた。 具体的には、平成17年9月の約2週間のカウント数をそれぞれ1として(2×1)、10月の約4週間はそれぞれ2倍のカウント数(4×2)、11月の約4週間はそれぞれ3倍のカウント数(4×3)、12月の4週間はそれぞれ4倍のカウント数(4×4)、平成18年1月の約4週間はそれぞれ5倍のカウント数(4×5)と想定し、これらの合計が58となる。 (2) 電子書籍の販売価格 判決本文の第3の2(1)アd)記載のとおり、訴外イーブックを通じて漫画単行本を電子書籍として販売する場合の価格は、作品によって1冊当たり315円の場合と420円の場合があるが、便宜上、低い方の315円にそろえた。 (3) 使用料相当率 判決本文の第3の2(1)アc)記載のとおり、40パーセントとした。 3 個別計算式
|
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |