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【事件名】ビジネス書の著作権侵害事件
【年月日】平成19年8月30日
 東京地裁 平成18年(ワ)第5752号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成19年6月26日)

判決
原告 A
原告 株式会社マネジメント社
上記両名訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同 森利明
被告 B
同訴訟代理人弁護士 深沢守
同 深沢隆之
同 高川佳子


主文
1 被告は、別紙著作権侵害箇所目録記載の文章又は図を掲載した別紙被告書籍目録記載の書籍を販売し、又は頒布してはならない。
2 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍における別紙著作権侵害箇所目録記載の文章又は図を掲載した部分を廃棄せよ。
3 被告は、原告株式会社マネジメント社に対し、3万8205円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Aに対し、21万6495円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用はこれを4分し、その3を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
7 この判決は、第1項、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍を販売及び頒布してはならない。
2 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
3 被告は、原告株式会社マネジメント社に対し、143万2357円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Aに対し、143万2357円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、謝罪広告を、別紙謝罪広告目録の要領にて、日経新聞全国版、朝日新聞全国版の各朝刊に掲載せよ。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、被告に対し、被告が執筆した別紙被告書籍目録記載の書籍が、別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料等を複製又は翻案しているとして、原告Aは別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料について有する著作権(複製権及び翻案権)に基づき、原告株式会社マネジメント社は別紙原告書籍等目録2、3記載の書籍について有する出版権に基づき、別紙被告書籍目録記載の書籍の販売等差止め及び廃棄、損害賠償並びに謝罪広告の掲載を求めたという事案である。被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍が、別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料等の複製又は翻案であることを否認してこれを争っている。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠によって認められる。)
(1) 当事者
 原告Aは、経営者らを対象とし、顧客を獲得して売上げや営業成績を増進すること等を目的としたセミナーを主催する株式会社Cの代表取締役として、平成2年ころから各地で上記目的の講演活動を行っている者である。
 原告株式会社マネジメント社(以下「原告会社」という。)は、出版物、印刷物の企画、編集及び販売事業等を業とする株式会社である。
 被告は、平成7年ころ、株式会社Cの従業員であったが、その後独立し、会社の経営者らを対象とし、営業成績を増進すること等を目的とする講演活動を自ら開催している者である。
(2) 原告Aの執筆した書籍等
 原告Aは、別紙原告書籍等目録1ないし3記載の各書籍(以下、それぞれを「原告書籍1」というようにいう。)及び配布資料等(以下「原告配布資料等」といい、原告書籍1ないし3と併せて「原告書籍等」という。)を執筆し、その著作権を有する。
 原告Aは、原告会社との間で、原告書籍2について、1997年(平成9年)7月25日、期間5年間の出版権を設定する契約を締結し、同契約は2002年(平成14年)及び2005年(平成17年)に自動更新されている。
 原告Aは、原告会社との間で、原告書籍3について、2004年(平成16年)2月20日、期間5年間の出版権を設定する契約を締結した。
(3) 被告の執筆した書籍
 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を執筆した。
(4) 有限会社Dと本件書籍の出版
 有限会社D(以下「訴外会社」という。)は、被告の依頼を受けて、2005年(平成17年)11月、被告書籍を4000部制作した(乙2)。被告書籍4000部中、2000部は、訴外会社が、株式会社トーハン等を通じて一般書店に対し委託販売し、851部を販売した。残り2000部が、被告の買い取りとなっている(乙1、6)。また、原告らと訴外会社は、平成18年10月25日に、本件訴訟において裁判上の和解を行い、訴外会社は、訴外会社が保管していた被告所有の被告書籍920部も含め、被告書籍2063部を廃棄することを合意し、同年11月28日の廃棄時までに返本があった6部を加えて、合計2069部を廃棄した(本件記録、弁論の全趣旨)。
(5) 原告書籍等と被告書籍の記載内容
 原告書籍等には、別紙原告著作物目録、別紙原告著作物追加目録、別紙原告著作物再追加目録、別紙原告新規著作物目録、別紙原告新規著作物追加目録記載の箇所がある(甲1ないし3)。
 被告書籍には、別紙被告著作物目録、別紙被告著作物追加目録、別紙被告新規著作物目録及び別紙被告新規著作物追加目録記載の箇所がある(乙7)(以下、上記別紙各著作物目録については、「別紙」との用語を省略する。)。
2 本件における争点
(1) 被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であるか(争点1)。
(2) 被告書籍全体の差止め及び廃棄が認められるか(争点2)。
(3) 損害の額(争点3)
(4) 謝罪広告の要否(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であるか)について
(1) 原告の主張
 別紙一覧表記載のとおり、被告書籍は、原告書籍等の複製又は翻案である。
ア 被告著作物目録1ないし7記載の箇所について
 被告著作物目録1ないし7記載の箇所は、原告書籍1(原告著作物目録1の1ないし4、原告著作物再追加目録1の1、3の2)、原告書籍2(原告著作物目録2の1ないし3、原告著作物再追加目録3の1)、原告書籍3(原告著作物目録3の1・2、原告著作物再追加目録1の3)、原告配布資料等(原告著作物目録4の1ないし4、原告著作物再追加目録1の2、3の3)の複製又は翻案である。
a) 被告著作物目録1と原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2について
 原告著作物目録1の1、2の1には、「必殺6連発の術」として、6回の訪問で新規顧客を攻略する方程式を説明した箇所があり、同目録3の1・2にも同趣旨の記載がある。被告著作物目録1は、同一ないし類似の表現を用いて、これを複製ないし改変したものである。
b) 被告著作物目録2と原告著作物目録1の2について
 原告著作物目録1の2には、「ライバルとの差別化は・・・知恵出しの差!」と題する図表がある。被告著作物目録2は、ほとんど同一の表現を用いて、これを複製ないし改変したものである。
c) 被告著作物目録3と原告著作物目録2の2、4の3・4について
 原告著作物目録2の2には、「人間サマを・・・見抜く」と題する図表がある。被告著作物目録3は、原告著作物目録2の2、4の3をほとんど同一の表現を用いて、複製ないし改変したものである。
 また、被告著作物目録3は、原告著作物目録4の4を複製したものである。
d) 被告著作物目録4と原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1の1ないし3)
 原告著作物目録2の3には、「必殺技のキーワードは3感!」で、「感謝とは・・・、感激とは・・・、感動とは・・・、」の三つのキーワードについて、それぞれ「アリガトウと言わずにはいられない」、「ナント素晴らしいことなのか・・・、涙が流れてくる、体が震える、人生観が変わる」という内容の解説がある。被告著作物目録4は、原告著作物目録2の3の必殺技の3感、すなわち、「感謝、感激、感動」をそのまま複製ないし改変したものである。
 この「感謝、感激、感動」をセットで使用する用法は、原告著作物再追加目録1の1ないし3においても用いられており、原告Aが創作したものである。
 また、「顧客→個客」の用語は、原告Aが以前から使用していた。
e) 被告著作物目録5と原告著作物目録4の1について
 原告著作物目録4の1には、「セールス革命・・・を見抜く」と題した箇所がある。被告著作物目録5の「営業の実態を・・・見抜く」との箇所は、若干の相違点があるものの、全体として、原告著作物目録4の1の上記箇所を複製ないし改変したものである。
f) 被告著作物目録6と原告著作物目録4の2について
 被告著作物目録6は、原告著作物目録4の2を土台として、これを複製ないし改変したものである。
g) 被告著作物目録7と原告著作物目録1の3・4、4の3、原告著作物再追加目録3の1ないし3について
 原告著作物目録1の4には、「お客様のキーマンをビジネスのパートナーから人生の親友にしてしまうこともある。」、「人生上での『親友から心友へ』」との記載があり、原告著作物目録1の3にも同様の記載がある。被告著作物目録7の「業者からビジネスパートナー、そして親友から心友の関係づくりをする」との記載は、上記部分を複製ないし改変したものである。
 原告著作物目録4の3には、「仕事上の表面的なつながりがベース」、「心のつながりがベースになっている!!」との記載がある。被告著作物目録7の「仕事上の表面的なつながりがベース」、「心のつながりがベース」との記載は、上記部分を複製ないし改変したものである。
 原告著作物再追加目録3の1ないし3においても、「『ビジネスのパートナー』から『人生における親友』あるいは『心友』という関係にすることができるのである。」、「キーマンとは、ビジネスのパートナーから人生における心友になる。」、「仕事上の表面的なつながりがベース」、「心のつながりがベース」といった、被告著作物目録7と類似の記載がある。被告著作物目録7は、これを複製ないし改変したものである。
イ 被告著作物追加目録1ないし5記載の箇所について
 被告著作物追加目録1ないし5記載の箇所は、原告書籍1(原告著作物追加目録1、4、5、原告著作物再追加目録4)、原告書籍2(原告著作物追加目録2)、原告書籍3(原告著作物追加目録3)、原告配布資料等(原告著作物追加目録1、原告著作物再追加目録2)の複製又は翻案である。
a) 被告著作物追加目録1と原告著作物追加目録1について
 原告著作物追加目録1には、必殺技について述べた記載がある。被告著作物追加目録1には、人を動かす感動ノウハウである得意技・必殺技について述べた記載があり、両者は類似する。
b) 被告著作物追加目録2と原告著作物追加目録2について
 原告著作物追加目録2には、「お金をかけずに心の琴線にふれるもの」との記載がある。被告著作物追加目録2には、「お客さまの心の琴線を揺るがすには・・・お金をかけずに心を込めた手作り作品で・・・」との記載があり、両者は類似する。
c) 被告著作物追加目録3と原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2について
 原告著作物追加目録3に記載された「売れるメカニズム」は、被告著作物追加目録3において同様の表現で記載され、各パーセンテージもほとんど相違しない。したがって、両者は類似する。
 また、原告著作物再追加目録2と同様の順序で、被告著作物追加目録3は記載され、両者は類似する。
d) 被告著作物追加目録4と原告著作物追加目録4について
 原告著作物追加目録4に記載された「たった一枚の名刺の活用法」についての記載は、被告著作物追加目録4において同様の表現で記載されている。したがって、両者は類似する。
e) 被告著作物追加目録5と原告著作物追加目録5、原告著作物再追加目録4について
 原告著作物追加目録5には、「必勝の方程式」あるいは「必勝の方程式の構築」という記載があり、被告著作物追加目録5には同様の記載がある。したがって、両者は類似する。
 原告著作物再追加目録4においても、「新規顧客攻略必勝の方程式」という被告著作物追加目録5と類似の表現がある。
ウ 被告新規著作物目録1ないし7記載の箇所について
 被告新規著作物目録1ないし7記載の箇所は、原告書籍1(原告新規著作物目録3の1、5の1、6の3)、原告書籍2(原告新規著作物目録5の2、6の1)、原告書籍3(原告新規著作物目録3の3、5の3)、原告配布資料(等原告新規著作物目録1の1・2、2の1・2、3の2、4、6の2、7)の複製又は翻案である。
a) 被告新規著作物目録1と原告新規著作物目録1の1・2について
 原告新規著作物目録1の1には、「新規大口顧客90%達成する経営者も」と題する箇所に、「凄腕の人なら90%以上の大口の顧客を開拓しています。」との記述がある。また、原告新規著作物目録1の2には、「帝王学を実践すれば新規顧客開拓もたやすい」と題する箇所に、「ここでは、狙ったお客を9割落とすというノウハウを教えています。」という記述がある。
 被告新規著作物目録1には、「私が主催の感動経営塾では、みごとに受注率90%を達成しています。」との記載がある。
 被告新規著作物目録1は特に新規顧客に焦点を当てていない点で異なるものの、その題号は、全体として原告新規著作物目録1の1・2と類似する印象を与える。
b) 被告新規著作物目録2と原告新規著作物目録2の1・2について
 原告新規著作物目録2の1・2の各図表と被告新規著作物目録2の図表とは、表現が一部異なるものの、類似性が認められる。
c) 被告新規著作物目録3と原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5について
 原告新規著作物目録3の1ないし3と被告新規著作物目録3とは、「感謝・感激・感動を提供する」という表現で一致しており、特に「感謝・感激・感動」を大きく記載しているところに特徴がある。また、原告新規著作物目録3の3に記載されているように、「感動されること、感激されること、感謝されること」と、「感動を形にして心の商品」とすることとは同義であり、したがって、感動商品を提供することで感動営業を行っているわけであり、被告新規著作物目録3に記載のある感動営業と、原告新規著作物目録3の1ないし3とは同趣旨の記載であることが明白である。したがって、両者の表現は、全体として類似する。
d) 被告新規著作物目録4と原告新規著作物目録4について
 被告新規著作物目録4の「1→2→3→4→5→6」は、原告新規著作物目録4の「1→2→3→4→5→6」の必殺6連発を似せた表現であり、図示の記載も類似している。
 また、被告新規著作物目録4で、「成功のカギ」として3種類記載されている表現も、細部に差異があるとはいえ、全体的な表現は原告新規著作物目録4と類似する。
e) 被告新規著作物目録5と原告新規著作物目録5の1ないし3について
 被告新規著作物目録5は原告著作物目録1の1、2の1、3の1、(原告新規著作物目録5の1ないし3と同じ。)と類似する被告著作物目録1に連続する記載である。
 被告新規著作物目録5の記載は、被告著作物目録1の記載と共通しており、掲載箇所も隣接しているから、全体として一体的な表現と見ることができる。そして配列等も共通しているのであるから、被告新規著作物目録5の記載は、被告著作物目録1の記載と同趣旨の表現と見ることができ、原告著作物目録1の1、2の1、3の1(原告新規著作物目録5の1ないし3と同じ。)と被告著作物目録1とが類似している以上、被告新規著作物目録5とも類似する。
f) 被告新規著作物目録6と原告新規著作物目録6の1ないし3について
 原告新規著作物目録6の2と被告新規著作物目録6では、「必勝」の部分が共通し、「6連続法」(被告)、「6連発」(原告)とそれぞれ記載する点で異なる。しかし、第1弾から第6弾の部分は表現が共通している。また、原告新規著作物目録6の2が「打ち手」と記載し、被告新規著作物目録6は「何をするか」と問いかけているものの、趣旨は共通している。
 したがって、原告新規著作物目録6の2及び同6の1・3と、被告新規著作物目録6は類似する。
g) 被告新規著作物目録7と原告新規著作物目録7について
 原告新規著作物目録7と被告新規著作物目録7とは、細部に差異があるものの、全体としては概ね類似した表現になっている。
エ 被告新規著作物追加目録記載の箇所について
 被告新規著作物追加目録記載の箇所は、原告書籍1(原告新規著作物追加目録1)、原告書籍3(原告新規著作物追加目録3)、原告配布資料等(原告新規著作物追加目録2、4ないし7)の複製又は翻案である。すなわち、原告新規著作物追加目録1ないし7と被告新規著作物追加目録とは、以下に述べるとおり、概ね類似した表現となっている。
a) 原告新規著作物追加目録1の263頁には、「キーマン攻略の必殺技とは・・・キーマンをマイッタ!と言わせる必殺技・連続技!にあり」との記載がある。被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)の「連続技によってお客さまを喜ばせ、楽しませ、感動させる営業活動を行なうことできる得意技・必勝技をつくる」との記載は上記部分と類似する。
b) 原告著作物再追加目録4の261頁には「キーマン攻略の必殺技を持つ」との記載がある。被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)の「キーマンを虜にする必勝技を活用する」との記載は、これと同義である。
c) 原告著作物追加目録5の250頁には「新規顧客攻略の必勝の方程式を構築する」との表題がある。被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」との表題は、これと同一である。
d) 被告新規著作物追加目録(被告書籍97頁)の「お客さまの心の琴線を揺るがすには→お金をかけずに、心を込めた手づくり作品で、キーマンにプレゼントして喜んでもらう。」との部分は、原告書籍等の基本となる部分を複製又は翻案したものである。
e) 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)は、原告新規著作物追加目録2ないし4、6、7を複製又は翻案したものである。
f) 原告新規著作物追加目録1の232頁と被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)は、配列の順序に相違があるものの、全体の要素は同一であり、細部の3箇所に相違があるものの大筋で同様の記載であり、原告新規著作物追加目録1と類似している。したがって、被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)は、原告新規著作物追加目録1を複製又は翻案したものである。
オ 原告書籍等と被告書籍全体の類似について
a) 原告書籍等の基本部分、基本部分の応用部分及び基本部分の前提部分について
 原告書籍等の根幹的な部分(以下「本件基本部分」という。)は、「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」、「必殺6連発の術(公式)キーマンの心理が変化」、「必殺技」の各部分である。
 原告書籍等において、本件基本部分を適用した応用例(以下「本件応用部分」という。)は、必殺6連発の術の具体例を記した部分である。
 原告書籍等において、本件基本部分の動機となる部分(本件基本部分の前提となる部分であり、以下「本件前提部分」という。)は、「ライバルとの差別化・・・知恵出しの差!」、「初回訪問の実態」、「キーマン」である。
 被告書籍は、本件基本部分の複製権又は翻案権を侵害するとともに、本件応用部分及び本件前提部分についても複製権又は翻案権を侵害している。
b) 本件基本部分について
@ 原告書籍1について
 第4章上級編の「1.必殺技を磨く戦略発想」、「2.新規顧客攻略の必勝の方程式を構築する」が本件基本部分である。
 「1.必殺技を磨く戦略発想」では、「営業力」は「新規開拓力」で決まり、この「新規開拓力」は、いくつの「必殺技」を持っているかが重要であることが説かれている(原告新規著作物追加目録1の213頁)。そして、「必殺技」とは「キーマンを一発で『ファンにして虜にしてしまう術』」であり(原告新規著作物追加目録1の213頁)、「得意技」と同種の言葉である(原告著作物追加目録1の228頁)。
 「2.新規顧客攻略の必勝の方程式を構築する」では、必殺技を構築できたら、それらをベースに「必勝の方程式」を作り上げること、必勝の方程式の奥義は、キーマンに「感激・感動されること」を「連続して」プレゼントすることが説かれている(原告著作物追加目録5の252頁、253頁)。ここで、「新規顧客攻略の必勝の方程式」とは、キーマン攻略の必殺技を持つことである(原告著作物再追加目録4の261頁)。必殺技とは、「キーマンを一発で『ファンにして虜にしてしまう術』」であり、「字の如く、キーマンを一発で『マイッタ!』と言わせる内容まで磨き上げた営業サービスのこと」である(原告著作物再追加目録4の260頁)。また、キーマンを虜にする必殺技を磨くことが「必勝の方程式」のカナメであり、「必勝の方程式」の極意は、「必殺技」を連続で提供することにある。あるいは、キーマン攻略の必殺技とは、キーマンをマイッタ!と言わせる必殺技・連続技にある(原告新規著作物追加目録1の262頁、263頁)。
 「必殺技」とは、前記のとおり、字の如く、「キーマンを、一発で『マイッタ!』と言わせる内容まで磨き上げた営業サービスのこと」であり(原告著作物再追加目録4の260頁)、必殺技のキーワードである3感、すなわち、この営業サービスの3感は、感謝、感激、感動である(原告新規著作物目録3の1の278頁)。したがって、必殺技とは営業サービスのことである。また、この必殺技の構築、すなわち営業サービスの構築は、必勝の方程式を仕組むものである(原告新規著作物追加目録1の281頁)。
 必勝の方程式を使った営業のやり方を「高品質の営業活動」といい、これを具体的に公式に確立したのが「必殺6連発の術」である(原告著作物追加目録5の253頁、原告著作物目録の1)。
A 原告のその余の著作物について
 原告新規著作物追加目録5にも、基本となる考え方が記載されている。
c) 本件応用部分について
 原告書籍3等には、「必殺6連発の術」の具体例が記載されている(原告新規著作物追加目録2、3)。
d) 本件前提部分について
 「新規顧客攻略の必勝の方程式」の構築のきっかけとなる考え方は、原告新規著作物追加目録5記載のとおりであり、原告著作物目録1の2にも反映されている。
 初回訪問の実態としてキーマンの対応を記載し(原告新規著作物追加目録1の232頁)、この点を突破できる営業技術の構築として、キーマンの名前活用術の例が多く記載されている(原告著作物追加目録4、原告新規著作物追加目録4)。
e) 被告書籍と本件基本部分
@ 被告書籍の第5章「新規顧客攻略法『感動の方程式」について』
 被告書籍の「連続技によってお客さまを喜ばせ、楽しませ、感動させる営業活動を行なうことができる得意技・必勝技をつくる」との記載(被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁))は、連続技による必殺技を作ることで感動の営業活動を行なうことと同義であり、したがって、必殺技は連続技によって行なう必要があるということである。一方、原告新規著作物追加目録1の「キーマン攻略の必殺技とは、キーマンをマイッタ!と言わせる必殺技・連続技!にあり」との部分は、被告書籍の上記部分と同趣旨である。
 被告著作物の必勝技は必殺技と同義であるので、被告書籍の「キーマンを虜にする必勝技を活用する」との記載(被告新規著作物追加目録1の113頁)は、原告著作物再追加目録4の「キーマン攻略の必殺技を持つ」の記載と同義である。
 被告書籍の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」の表題部分(被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁))は、原告著作物中の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」の表題部分(原告著作物追加目録5)と同一である。
 以上より、被告書籍の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」の部分は、本件基本部分の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」の部分を複製又は翻案したにすぎない。
A 被告書籍の第5章「感動営業の必勝6連続法」(被告著作物目録1)について
 既に述べたとおり、原告著作物目録1の1、2の1を複製又は翻案したものである。
B 被告新規著作物目録3(被告書籍108頁)の「感動営業の基本は」と題して、「お客さまに喜んでいただき、感動していただくこと」として、「感謝・感激・感動を提供する」との記載は、本件基本部分(原告新規著作物追加目録5)を複製又は翻案したものである。
C 被告新規著作物追加目録(被告書籍97頁)の「お客さまの心の琴線を揺るがすには→お金をかけずに心を込めた手づくり作品で、キーマンにプレゼントし喜んでもらう。」との部分は、本件基本部分を複製又は翻案したものである。
f) 被告書籍と本件応用部分
 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)は、原告新規著作物追加目録2ないし4、6、7を複製又は翻案したものである。
g) 被告書籍と本件前提部分
@ 被告著作物目録2は、原告著作物目録1の2を複製又は翻案したものである。
A 被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)は、原告新規著作物追加目録1の232頁と配列の順序に相違があるものの、全体の要素は同一であり、細部の3箇所に相違があるものの大筋で同様の記載であり、原告新規著作物追加目録1の232頁と類似している。したがって被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)は、原告新規著作物追加目録1を複製又は翻案したものである。
B 「たった1枚の名刺でキーマンを虜にする」(被告著作物追加目録4・被告書籍131頁)及び「感動令状でマイッタ!と言わせる術を身につける」(被告新規著作物目録7・被告書籍133頁)の部分は、原告著作物追加目録4、原告新規著作物追加目録1の232頁と酷似している。なお、感動礼状については、仕組みのフレームでは訪問礼状、毎月のお礼状、各種お礼状等が記載されている(原告新規著作物追加目録6)。
(2) 被告の主張
 被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であることは否認する。以下、詳論する。
ア 被告著作物目録1ないし7記載の箇所について
a) 被告著作物目録1と原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2について
 原告著作物目録1の1、2の1の一部と被告著作物目録1の一部において、原告ら主張の類似性があることは認める。しかし、両者には差異があるので、被告著作物目録1は上記原告著作物を複製したものではない。
 被告著作物目録1は、原告著作物目録3の1・2についても、これを複製又は翻案したものではない。
b) 被告著作物目録2と原告著作物目録1の2について
 原告著作物目録1の2と被告著作物目録2の一部において、原告ら主張の類似性があることは認める。しかし、両者には差異があるので、被告著作物目録2は、原告著作物目録1の2を複製したものではない。
c) 被告著作物目録3と原告著作物目録2の2、4の3・4について
 原告著作物目録2の2と被告著作物目録3とでは、共通する部分はごく一部しかなく、全体として表現に差異があり、被告著作物目録3は、原告著作物目録2の2を複製したものではない。
 原告著作物目録4の4と被告著作物目録3の一部とが類似していることは認める。
 被告著作物目録3は、原告著作物目録4の3を複製又は翻案したものではない。
d) 被告著作物目録4と原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1 の1ないし3について
 原告著作物目録2の3と被告著作物目録4とを比較しても、「感謝」、「感激」、「感動」の三つの単語が使用されていることが共通するだけであって、被告著作物目録4が原告著作物目録2の3の複製に該当しないことは明白である。原告著作物目録2の3のうち「感謝とは・・・、感激とは・・・、感動とは・・・」という箇所のみでは、創作的な表現でないので、著作物性がない。
 原告著作物再追加目録1の1ないし3と被告著作物目録4を比較しても、「感謝」、「感激」、「感動」の三つの単語が使用されていることが共通しているだけである。上記三つの単語の羅列は、何ら思想又は感情の表現ではなく、創作的表現でもないから、著作物性がない。
e) 被告著作物目録5と原告著作物目録4の1について
 原告著作物目録4の1の一部と被告著作物目録5の一部に原告主張の類似性があることは認める。しかし、両者には差異があるので、被告著作物目録5は、原告著作物目録4の1を複製したものではない。
f) 被告著作物目録6と原告著作物目録4の2について
 原告著作物目録4の2と被告著作物目録6の一部に原告主張の類似性があることは認める。しかし、両者には差異があるので、被告著作物目録6は、原告著作物目録4の2を複製したものではない。
g) 被告著作物目録7と原告著作物目録1の3・4、4の3、原告著作物再追加目録3の1ないし3について
 原告著作物目録1の4と被告著作物目録7とを比較しても、「ビジネスパートナー」、「親友から心友へ」との言葉が共通して使用されているだけであって、被告著作物目録7が上記原告著作物の複製に該当しないことは明白である。
 また、原告著作物目録4の3と被告著作物目録7とを比較しても、「仕事上の表面的なつながりがベース」、「心のつながりがベースになっている」との部分が共通するだけであり、被告著作物目録7が原告著作物目録4の3の複製に該当しないことは明らかである。
 原告著作物再追加目録3の1と被告著作物目録7で共通するのは、「キーマンとの関係」、「ビジネスパートナー」、「親友」、「心友」といった単語だけである。また、原告著作物再追加目録3の1では、「人生における親友」=「心友」という位置づけであるのに対し、被告著作物目録7では、親友を発展させたものが「心友」との位置づけで、内容も異なる。したがって、被告著作物目録7は、原告著作物再追加目録3の1の複製でも翻案でもない。
 原告著作物再追加目録3の2と被告著作物目録7とは、全体として全く異なる内容である。唯一、「ビジネスパートナーから心友」という表現が、被告著作物目録7の「業者からビジネスパートナー、そして親友から心友」という表現と一部共通しているものの、「ビジネスパートナーから心友」という言葉そのものは著作物とはいえないし、仮に、この部分だけで著作物と評価されたとしても、両者の内容は明らかに異なっており、被告著作物目録7は上記原告著作物の複製でも翻案でもない。
 原告著作物再追加目録3の3と被告著作物目録7とは、「セールス(営業)の極意は人間関係」、「キーマンとの関係を見抜く」、「ビジネスパートナー」、「親友」、「心友」、「仕事上の表面的なつながりがベース」、「心のつながりがベースになっている」といった言葉が共通しているものの、両者の間には明らかな相違点があり、被告著作物目録7は原告著作物再追加目録3の3を複製したものではない。
イ 被告著作物追加目録1ないし5記載の箇所について
a) 被告著作物追加目録1と原告著作物追加目録1について
 原告著作物追加目録1と被告著作物追加目録1で共通するのは、「得意技」、「必殺技」という単語だけであり、この単語自体は一般的なもので原告Aの創作した表現ではない。被告著作物追加目録1が原告著作物追加目録1の複製でないことは明白である。
b) 被告著作物追加目録2と原告著作物追加目録2について
 原告著作物追加目録2と被告著作物追加目録2で共通するのは、「お金をかけず」、「心の琴線」、「キーマン」、「プレゼント」という単語であり、これらの表現自体は一般的なもので原告Aの創作した表現ではない。両者の内容も異なっており、被告著作物追加目録2を原告著作物追加目録2の複製ということはできない。
c) 被告著作物追加目録3と原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2について
 原告著作物追加目録3と被告著作物追加目録3との間で、「営業力」、「商品力」、「価格力」といった単語が共通するほか、「売る決め手は営業力の差」(被告)と「営業力が決めて」(原告)といった表現に類似性が認められる。しかし、「営業力」、「商品力」、「価格力」といった単語は思想又は感情の表現ではない上、原告Aの創作的表現でもないから、著作物ではない。また、「営業力が決め手」という表現も統計に基づいた事実を指摘しているだけであり、思想又は感情の表現ではない。各要因の占める割合は、統計数値に基づくものであるから、原告Aの創作的な表現ではない。
d) 被告著作物追加目録4と原告著作物追加目録4について
 「たった一枚の名刺でキーマンを虜にする」といった表現が類似してることは認める。しかし、共通する部分はごく一部しかなく、全体として表現に差異があり、被告著作物追加目録4は原告著作物追加目録4の複製には当たらない。
e) 被告著作物追加目録5と原告著作物追加目録5、原告著作物再追加目録4について
 原告著作物追加目録5と被告著作物追加目録5で共通するのは「必勝の方程式の構築」という言葉のみであり、この単語自体は一般的なもので原告Aの創作的な表現ではない。両者の内容は明らかに異なり、被告著作物追加目録5は、上記原告著作物の複製でないことは明白である。
ウ 被告新規著作物目録1ないし7記載の箇所について
a) 被告新規著作物目録1と原告新規著作物目録1の1・2について
 被告新規著作物目録1と原告新規著作物目録1の1・2とは何ら類似点がなく、前者が後者の複製又は翻案に当たらないことは明らかである。原告らは、「90%(を達成する)」が共通し、被告書籍の題号が全体として原告Aの著作物と類似すると主張する。原告らの主張が、「90%を達成する」という表現そのものが著作物であるということを意味するのであれば、同表現は、思想・感情の創作的表現ではないから著作物でない。
b) 被告新規著作物目録2と原告新規著作物目録2の1・2について
 被告新規著作物目録2(被告書籍53頁)上部の図表と原告新規著作物目録2の1・2の各図表との共通部分は、営業の力というものが、個々の営業マンの力と、それをマネジメントする者(=営業幹部)の力と両方が必要であるというアイデアそのものを表現した部分であるところ、アイデアそのものは著作権の対象とはならないから、前者は後者の複製又は翻案には当たらない。
c) 被告新規著作物目録3と原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5について
 「感謝」、「感激」、「感動」の三つの単語が使用されていることが共通するだけであり、これら三つの単語は著作物ではない。
d) 被告新規著作物目録4と原告新規著作物目録4について
 原告自身も指摘するとおり、差異があるので、被告新規著作物目録4は、原告新規著作物目録4を複製したものではない。
e) 被告新規著作物目録5と原告新規著作物目録5の1ないし3について
 両者が類似する箇所は、感嘆詞が六つ使用されているという点のみであり、被告新規著作物目録5は上記原告著作物を何ら複製したものではない。
f) 被告新規著作物目録6と原告新規著作物目録6の1ないし3について
 原告新規著作物目録6の2と被告新規著作物目録6との間には、原告指摘の類似性があるものの、原告新規著作物目録6の2は著作物とはいえず、著作権侵害に当たらない。
 また、原告新規著作物目録6の1・3と被告新規著作物目録6との間では、「6連発」と「6連続」との言葉に類似性があるのみで、その余の部分は全く異なっており、被告新規著作物目録6は上記原告著作物の複製には該当しない。
g) 被告新規著作物目録7と原告新規著作物目録7について
 原告ら自身も指摘するとおり、差異があるので、被告新規著作物目録7は、上記原告著作物を複製したものではない。
エ 被告新規著作物追加目録
a) 原告は、被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)の「連続技によってお客さまを喜ばせ、楽しませ、感動させる営業活動を行なうことができる得意技・必勝技をつくる」という記載は、原告新規著作物追加目録1の263頁の「キーマン攻略の必殺技とは・・・キーマンをマイッタ!と言わせる必殺技・連続技!にあり」との記載と同趣旨であること、被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)の「キーマンを虜にする必勝技を活用する」との記載は、原告著作物再追加目録4の「キーマン攻略の必殺技を持つ」との記載と同義であること、被告新規著作物追加目録の113頁の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」との表題は、原告著作物追加目録5の「新規顧客攻略の『必勝の方程式』を構築」との表題と同一であることを主張する。
 しかし、上記各点は、いずれもそれぞれ表現方法が異なっている。原告がアイデアが共通であることを主張しているのであれば、アイデアそのものが著作権の保護の対象とならないことはいうまでもない。
b) 原告は、被告新規著作物追加目録(被告書籍97頁)の「お客さまの心の琴線を揺るがすには→お金をかけずに心を込めたてづくり作品でキーマンにプレゼントして喜んでもらう。」との部分は、原告新規著作物追加目録1の281頁の「必殺技の構築、連続でタイミングよく出す、金をかけずに心の琴線に触れる内容で!」を複製又は翻案したものであると主張する。
 しかし、両者の間では、「心の琴線」、「金をかけず」という用語が共通しているだけで、前者は後者の複製には当たらない。また、手作り作品で顧客の心をつかむというアイデアそのものが著作権の保護の対象となるものではない。
c) 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)と原告新規著作物追加
 目録2ないし4、6、7を対比しても、第1弾から第6弾までという構成が共通し、「6連続法」と「6連発」が類似するものの、個々の記載は異なるのであり、前者は後者を複製又は翻案したものではない。両者の間では、アイデアが共通しているにすぎない。
d) 原告新規著作物追加目録1の232頁と被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)とが一部類似する箇所があることは認める。しかし、被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)では、営業マンなら2度や3度は受けたことがある冷たい仕打ちの例として記載しているだけで、全体としては何ら原告新規著作物追加目録1の232頁を複製又は翻案したものではない。
オ 原告書籍等と被告書籍全体の類似について
 原告主張の本件基本部分、本件応用部分及び本件前提部分の分類については不知であり、あるいは、その分類方法に関して争う。被告書籍全体が原告書籍等の複製又は翻案であるとの主張は争う。
2 争点2(被告書籍全体の差止め及び廃棄が認められるか)について
(1) 原告らの主張
 被告書籍は、何らの権限もないのに、原告書籍等の基本部分及び応用部分を複製又は翻案しており、当該複製又は翻案された部分は被告書籍の基本部分及び応用部分を形成している。したがって、被告書籍の基本部分及び応用部分を削除した場合には、被告書籍自体の根幹が欠落することになり、被告書籍自体が意味のないものになるので、被告書籍は全体として差止め及び廃棄されるべきである。
(2) 被告の主張
 原告らは、被告書籍の根本をなす営業に対する考え方が原告書籍等のそれと共通しているから、被告書籍全体が差止め、廃棄されるべきと主張しているようである。しかし、表現の背景となっている思想やアイデアが著作権の保護の対象とならないことはいうまでもない。
 仮に、原告らの著作権又は出版権を侵害する部分が一部あったとしても、それは被告書籍全体からみれば極めてわずかな部分にすぎないのであり、当該部分の抹消ないし削除で十分である。
 よって、被告書籍全体の差止めや廃棄を認めるべきではない。
3 争点3(損害の額)について
(1) 原告らの主張
ア 著作権法114条1項に基づく算定
 現在販売中の原告書籍2及び同3の価格は、各1800円(消費税込1890円)である。被告による侵害行為がなければ原告らが販売できた書籍の単位数量当たりの利益の額は、少なくとも定価の50%である。このことは、被告書籍の単位数量当たりの利益の額が50%を越えていること、すなわち、被告書籍の印刷代は定価の13.2%であり、訴外会社はこれを、取次店に対し定価の67%で、被告に対し定価の80%で販売していることから、推認できる。そして、訴外会社は、被告に対し2000部、一般書店に対し851部の合計2851部を販売した。
 したがって、著作権法114条1項に基づく算定は、次のとおりである。
 1890円×2851部×50%=269万4195円
 なお、原告書籍1ないし3の発行部数は合計で約4万部を大きく越えるものであり、原告らが被告の侵害の行為がなければ販売することができた書籍の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額は、原告らの販売その他の行為を行う能力に応じた額を越えるものではない。
イ 著作権法114条2項に基づく算定
 訴外会社は、被告に対し2000部、一般書店に対し851部の合計2851部を販売した。
 訴外会社における被告書籍(定価1400円+消費税70円)1冊当たりの利益は、粗利ベースで少なくとも50%を越えている。
 したがって、著作権法114条2項に基づく算定は、次のとおりである。
 なお、被告は、訴外会社と共同不法行為責任を負う。
 1470円×2851部×50%=209万5485円
ウ 著作権法114条3項に基づく算定
 一般に印税は定価の10%を下らない。
 したがって、著作権法114条3項に基づく算定は、次のとおりである。
 1470円×2851部×10%=41万9097円
エ 被告の独自の販売利益について
 被告は、被告書籍580部を、自己の講座の受講生に販売している。被告は、無償で頒布したと述べるものの、受講料には当然書籍代が反映されているはずである。被告は、訴外会社から定価の80%で被告書籍を購入しているので、1冊当たりの被告の利益は定価の20%である。
 したがって、被告が無償頒布したと述べる分についての販売利益は、次のとおりである。
 1470円×580部×20%=17万0520円
オ 原告らの分担割合について
 原告らにおいて、損害賠償にかかる賠償金額の持分の割合は特に定めていないので、50対50で分配するのが相当である。
カ 結論
 よって、原告Aは著作権に基づき、原告会社は出版権に基づき、次のとおり、損害賠償を請求することができる。なお、原告らは、著作権法114条各項による算定を、選択的に主張するものである。
a) 著作権法114条1項による算定
 前記アの269万4195円に、前記エの17万0520円を合算すると、286万4715円である。よって、原告らは、被告に対し、それぞれ143万2357円の支払を求める。
b) 著作権法114条2項による算定
 前記イの209万5485円に、前記エの17万0520円を合算すると、226万6005円である。よって、原告らは、被告に対し、それぞれ113万3002円の支払を求める。
c) 著作権法114条3項による算定
 前記ウの41万9097円に、前記エの17万0520円を合算すると、58万9617円である。よって、原告らは、被告に対し、それぞれ29万4808円の支払を求める。
(2) 被告の主張
ア 著作権法114条1項に基づく算定
a) 訴外会社の譲渡数量に、被告への販売分として2000部を計上する原告らの主張は否認する。
 被告への2000部は被告の自費出版部数であり、その費用は被告が負担している。
 被告の自費出版分2000部のうち920部は、原告らと訴外会社との間の裁判上の和解に基づき廃棄済みである。残りの1080部のうち、前記和解に基づき平成18年11月に訴外会社から引渡しを受けた500部はそのまま被告が保管している。したがって、被告がこれまでに譲渡した数量は564部である。また、訴外会社が市場を通して譲渡した数量は、851部である。
b) 原告らと訴外会社との間では既に裁判上の和解が成立しているので、訴外会社の譲渡分851部を計上するのは相当でない。
c) 原告著作物の単位数量当たりの利益についての主張は否認する。被告書籍の定価をもとに原告著作物の単位数量当たりの利益を算出するのは失当である。
d) 著作権法114条1項は、権利者の著作物と侵害者の著作物との間に市場における代替関係が存在することを前提としている。
 被告が譲渡した564部は、知人や受講生らに無償配布したものであって、一般の市場を対象にしたものではないから、被告による譲渡行為によって原告書籍の売上げが減少するという関係にはない。
 訴外会社により一般市場で譲渡された851部についても、仮に、著作権侵害が成立するとしても、被告書籍の一部にすぎず、全体としては被告書籍は原告書籍と全く違う本であるから、被告書籍を購入しようとする者が原告書籍を購入することは考えられない。
イ 著作権法114条2項に基づく算定
a) 著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為により現実に利益を得ていることを前提としている。
 被告は、564部をすべて無償で譲渡しているので利益を得ていない。むしろ、被告は自費出版の費用として235万2000円を負担している。
b) 原告らと訴外会社は既に和解済みであることから、訴外会社の得た利益を基に著作権法114条2項により損害を算定するのは相当でない。仮に、訴外会社の利益を考慮するとしても、定価の50%を越えることは否認する。また、共同不法行為の成立を認めるのであれば、被告が自費出版費用として支出した235万2000円を費用として考慮しなければならない。
ウ 著作権法114条3項に基づく算定
 被告書籍は自費出版であることから、訴外会社と被告との間では、重版の場合に初めて印税が支払われることになっている。したがって、原告らの主張は理由がない。
エ 被告の独自の販売利益について
 被告は、564部を譲渡したもののすべて無償で配布した。したがって、原告らの主張は理由がない。
4 争点4(謝罪広告の要否)について
(1) 原告らの主張
 原告らは、被告の著作権侵害行為により、その名誉を毀損された。よって、別紙謝罪広告目録記載のとおり謝罪広告を掲載することを求める。
(2) 被告の主張
 原告らの主張を争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であるか)について
(1) 総説
 著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同法2条1項1号)と定めており、思想又は感情の創作的な表現を保護するものである。したがって、思想又は感情を創作的に表現した言語の著作物について、実質同一の表現を模倣した場合は複製権侵害として、表現上の本質的特徴を直接感得できる程に類似したものを依拠して作成した場合は翻案権侵害として、著作権侵害が認められるものであり、これに対し、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの、事実の伝達にすぎず表現上の創作性がないものは、著作権法によって保護されず、かかる部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製又は翻案には当たらないと解するのが相当である(最一小判平成13年6月28日民集55巻4号837頁参照)。
(2) 依拠について
 被告は、訴外E株式会社に勤務していたときに原告Aに研修の依頼をしたことから原告Aと知り合い、同社を退職後に、原告Aと販売代理店契約を締結し、原告Aの研修業務について代理店業務を遂行した後、独立し、原告Aと同じ内容の研修業務を開始したものである。また、原告Aは、被告が平成9年ころ研修用セミナーにおいて配布した文書が原告Aの著作権を侵害するとして、平成12年に東京地裁に被告を提訴し、平成13年7月30日に、著作権侵害を理由として、被告に対し損害賠償等を命じる判決を得ている。(甲12)
 上記の経緯及び別紙原告書籍等目録記載の原告書籍等の発行年月日並びに弁論の全趣旨に鑑みれば、被告が被告書籍執筆当時既に公刊ないし配布されていた原告書籍1ないし3及び原告配付資料等に接する機会があったことは明らかである。
(3) 被告著作物目録記載の箇所について
ア 被告著作物目録1(被告書籍121頁)と原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2について
a) 原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2と被告著作物目録1とを対比すると、セールスマンが初回の訪問のアポ取りから始めて、訪問先のキーマンから注文を受けるまでのキーマンの心理の変遷を6段階に分けて説明すること(原告著作物目録1の1、2の1における「必殺6連発の術」、原告著作物目録3の1・2における「受注の方程式」、被告著作物目録1における「感動営業の必勝6連続法」)において、共通する。
b) 原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2は、具体的には、最初に「オヤ」、「アラ」、「ウム」、「エ!」、「ムムム」、「ウソー」といった感嘆詞を記載した上で、次に客の心理を二つに分けて簡潔に描写し、(1)「この営業マンは「違う」」……「でも売り込みだから(な)」、(2)「彼は一味違うな」……「でも(ただし)買う意思はないよ」、(3)「そこまで気配りが」……「彼はなかなかいいセンスだ」、(4)「サスガだよ」……「彼に会うのが楽しみだ」、(5)「マイッタ!」……「何かお礼してあげないと…」、(6)「凄い」……「ともかくサンプル発注を」と記載したものである。
 被告著作物目録1も、具体的には、「アレ」、「オヤ」、「アラ」、「ウム」、「スゴイ」、「マイッタ」というように同一ないし類似した感嘆詞を使用した上で(ただし、使用順序が少しずつ異なる。)、次に客の心理を二つに分けて簡潔に描写する部分も、(1)「この営業マンは違う」・(でも売り込みだから)、(2)「彼は一味違うな」・(でも買う意思はない)、(3)「そこまで気配りを」・(なかなかセンスが鋭い)、(4)「おお、さすがだ」・「彼と会うのが楽しみだ」、(5)「もう、まいった!」・(何かお礼しないと)、(6)「ウワー、凄い」・「注文してあげよう」)と記載されており、上記(1)ないし(6)は、上記原告著作物と実質的に同一の表現を使用しているものである。したがって、被告著作物目録1の上記(1)ないし(6)の表現は、上記原告著作物の(1)ないし(6)の複製に当たるものと認められる(両者間には、わずかに表現上の差異があるものの、この差異が被告著作物目録1について、上記原告著作物に比べ、何らかの創作性を付与しているものと認めることはできないので、 翻案というより、複製と認めるのが相当である。また、六つの感嘆詞の使用も、その使用順序が異なり、この部分を複製ということはできないものの、このことは上記(1)ないし(6)の具体的表現の実質的同一性を否定し得るものではない。)。
c) したがって、被告著作物目録1の121頁は、原告著作物目録1の1、2の1、3の1・2の複製に当たるものである。
イ 被告著作物目録2(被告書籍49頁7行以下)と原告著作物目録1の2について
a) 原告著作物目録1の2と被告著作物目録2とを対比すると、セールスに際し、価格競争には限界があるのに対し、顧客を満足させるサービスを提供することは考えればいくらでもできることを、図解して説明する点において、共通する。
b) 原告著作物目録1の2は、具体的には、「ライバルとの差別化は…知恵出しの差!」「価格競争→限界がある!!」、「お客様が満足されるサービスの提供→考えれば考えるほど…幾らでもできる!」と記載されている。
 被告著作物目録2においても、具体的には「ライバルとの差別化は…知恵出しの差!!」「値引き競争→限界がある」、「お客様が満足される営業・サービスの提供→考えれば…考えるほど…幾らでもある!!」と記載されており、上記原告著作物と実質的に同一の表現を使用しているものである。したがって、被告著作物目録2の上記表現は、上記原告著作物の複製に当たるものと認められる(両者間には、上記のとおり、わずかに表現上の差異があるものの、この差異が被告著作物目録2について、上記原告著作物に比べ、何らかの創作性を付与しているものと認めることはできないので、翻案というより、複製と認めるのが相当である。)。
c) したがって、被告著作物目録2(被告書籍49頁7行目以下)は、原告著作物目録1の2の複製に当たるものである。
d) 一方、被告著作物目録2のその余の部分は、原告著作物目録1の2とは表現が相当程度異なり、上記原告著作物の複製とは到底いえず、また、上記原告著作物の表現上の本質的特徴を感得することもできないので、翻案ということもできない。
ウ 被告著作物目録3(被告書籍137頁、136頁)と原告著作物目録2の2、4の3・4について
a)@ 原告著作物目録4の4と被告著作物目録3とを対比すると、顧客がセールスマンに対して抱く心理を四つに分けて説明した上で、人間が一番愛着を持っているのは「自分の名前」であることを強調して説明する点において、共通する。
A 原告著作物目録4の4は、具体的には、「人間とは…『自分に対し』…」→「@関心を持たないセールスマンには……冷淡!Aチョット関心を示してくれると…少し気になる!B特別な関心を示されると………好意を持つ!C連続されると………お礼をしたくなる!」→「人が一番愛着を持っているのは……『自分の名前!』」と記載されている。
 一方、被告著作物目録3(被告書籍137頁)においても、具体的には、「人間とは…自分に対して…」→「@関心を持たない営業マンには……冷淡 Aちょっと関心を示してくれると…少し気になる B特別な関心を示されると………好意をもつ Cそれを連続されると………お礼をしたくなる」→「人が一番関心と愛着を持っているのは……『自分の名前』」と記載されており、上記原告著作物と実質的に同一の表現を使用しているものである。また、被告著作物目録3(被告書籍136頁)にも、137頁とほぼ同旨の記載がある。したがって、被告著作物目録3の上記各記載は、上記原告著作物の複製に当たるものと認められる(両者間には、わずかに表現上の差異があるものの、この差異が被告著作物目録3について、上記原告著作物に比べ、何らかの創作性を付与しているものと認めることはできないので、翻案というより、複製と認めるのが相当である。)。
b)@ 原告著作物目録2の2と被告著作物目録3とを対比すると、顧客がセールスマンに抱く心理の説明のうち四つの部分について、同様の説明がなされている点において、共通する。一方、前者は、顧客がセールスマンに抱く心理の説明を五つに分けて説明し、後記のとおり特徴的な図示を行っていること、及び、名前の重要さを説明しない点において、被告著作物目録3と相違する。
A 原告著作物目録2の2の表現上の本質的特徴は、顧客がセールスマンに抱く心理を五つに分けて縦軸に記載し、各場合のセールスマンへの反応をそれぞれ横軸に記載して図示することにあるものと認められる。
 被告著作物目録3は、顧客がセールスマンに抱く心理を四つに分け、図示の仕方も大幅に異なっており、人間が一番愛着を持っている名前の重要性を強調している点で、原告著作物目録2の2の表現上の本質的特徴を感得することはできない。
c) また、原告著作物目録4の3の表現上の本質的特徴は、顧客とセールスマンとの間に「仕事上の表面的なつながりがベース」の関係があるにとどまる場合と、「心のつながりがベースになっている!!」場合とを対比して図示している点にある。一方、被告著作物目録3からは、上記表現上の本質的特徴を感得することはできない。
d) したがって、被告著作物目録3(被告書籍137、136頁)は、原告著作物目録4の4の複製に当たるものである。
 一方、被告著作物目録3は、原告著作物目録2の2、4の3の複製又は翻案には当たらない。
エ 被告著作物目録4(被告書籍45頁)と原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1の1ないし3について
a) 原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1の1ないし3と被告著作物目録4とを対比すると、営業において「感謝」、「感激」、「感動」を提供することが重要であることを説明する点において、共通する。
b) しかし、「感謝」、「感激」、「感動」という言葉は、いずれもありふれた表現であり、このように韻を踏んで単語を並べることも特別に個性的な表現方法であるということはできず、これのみによって表現上の創作性を認めることはできず、これを著作物ということはできない。したがって、単に、「感謝」、「感激」、「感動」という言葉を並べて表現する点が共通しているからといって、複製又は翻案には当たるということはできない。そして、被告著作物目録4からは、上記三つの単語を並べて表現していることのほかに、原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1の1ないし3との表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。
c) したがって、被告著作物目録4は、原告著作物目録2の3、原告著作物再追加目録1の1ないし3の複製又は翻案には当たらない。
オ 被告著作物目録5(被告書籍99頁、98頁)と原告著作物目録4の1について
a) 原告著作物目録4の1と被告著作物目録5とを対比すると、商品説明を重視した営業と感動の提供を重視した営業とを区分し、各営業形態の特徴を簡潔に説明する点において、共通する。
b) 原告著作物目録4の1の表現上の本質的特徴は、現状の営業が商品説明を重視するものであるのに対し、セールス革命においては感動のプレゼントを重視するものであるとし、具体的には、「@現状の営業のやり方」→「商品説明80%」「・一生懸命“商品説明”する・売ろうと…“目がギラギラ”・たった“1回のみ”(数回)・最後は“価格で勝負”・あとは“神ダノミ”・数回行って…お終い!」VS「Aセールス革命」→「感動のプレゼント90%」「・商品・価格は前面に出さない・売る意識はなくし・感動のプレゼントをする・6回連続する・喜んでもらうことがセールス」と図枠入りで記載され、各営業形態の特徴を簡潔に説明し、両者を対比的に説明している。
 一方、被告著作物目録5(被告書籍99頁)は、商品説明を重視した現状の営業と感動プレゼントを重視した感動営業とを区分し、具体的には、「現状の営業」→「売込営業商品説明のみ」「・一生懸命“商品説明のみ”・売ろう…“目がギラギラ”・たった“1回の訪問”・最後は“価格で勝負”・お客様無視の“見積り営業”」⇔「感動営業」→「感動プレゼントのみ」「・商品・価格は前面に出さない・売る意識はなくす・感動のプレゼントをする・喜んでもらうことが仕事・注文は後からついて来る」と図枠入りで記載されており、原告著作物目録4の1の上記表現の本質的特徴を直接感得させるものである。
 また、被告著作物目録5(被告書籍98頁)も、「商品説明のみでと、にかく売ろうと、目がギラギラと血走っていませんか。たった一回の訪問で、最後は値引きで勝負です。・・・商品・価格は前面に出さない。感動のプレゼントをする、喜んでもらうのが仕事です。」と記載されており、これも原告著作物目録4の1の上記表現の本質的特徴を直接感得させるものである。
c) したがって、被告著作物目録5(被告書籍99頁、98頁)の上記記載部分は、いずれも原告著作物目録4の1の翻案に当たるものである。
カ 被告著作物目録6(被告書籍111頁下段)と原告著作物目録4の2について
a) 原告著作物目録4の2と被告著作物目録6とを対比すると、ライバルを圧倒する営業活動を四つのキーワードを用いて説明する点において、共通する。また、それぞれの標題・見出しを対比すると、前者が「セールス革命・・・4つのキーワード」、「ライバルを圧倒するセールス革命」であるのに対し、後者は、「ライバルを圧倒する・・・4つのキーワード」であって、共通する部分が多い。
b) 原告著作物目録4の2の表現上の本質的特徴は、ライバルを圧倒する営業活動はいかなるものであるかを四つのキーワードを用いて簡潔に説明することにあり、具体的には、「高効率高品質の営業」→「新規大口顧客受注成功率」→「必勝の方程式」→「必殺技」と記載されている。
 一方、被告著作物目録6は、「ライバルを圧倒する・・・4つのキーワード」という表題のもとに、原告著作物目録4の2と同様に4つの段階に分けて、それぞれの段階に1つのキーワードを用いて説明するものであり、具体的には、「1高品質・高効率の営業を目指す→狙い」「2新規顧客の受注率アップをはかる→目標値」「3必勝の方程式を構築する→何回で落とすか」「得意技・必勝技を研究する→何をするか」と記載されている。
 被告著作物目録6は、原告著作物目録4の2とは一部表現が相違するものの、ほぼ同一内容の類似の表現手法であるということができ、このような四つのキーワードによる一連の説明はかなりの部分で共通した表現を用いているのであるから、被告著作物目録6からは、上記表現上の本質的特徴を感得することができる。
c) したがって、被告著作物目録6(被告書籍111頁下段)は、原告著作物目録4の2の翻案に当たるものである。
キ 被告著作物目録7(被告書籍92頁、93頁)と原告著作物目録1の3・4、4の3、原告著作物再追加目録3の1ないし3について
a) 原告著作物目録1の3・4(原告書籍1・296、302頁)には、「キーマンとの関係を単なる『ビジネスのパートナー』から『人生における親友』という関係にしてしまうことだ!」、「キーマンを人生の心友にする」、「人生上での『親友から心友へ』と。」との記載が、原告著作物再追加目録3の1(狙ったお客の80%145頁)には「キーマンとの関係を単なる『ビジネスのパートナー』から『人生における親友』あるいは『心友』という関係にすることができるのである」、同目録3の2(原告書籍1・316、317頁)には「キーマンとビジネスのパートナーから人生における心友になる」との記載がある。
 これに対し、被告著作物目録7(被告書籍92頁)には、「業者からビジネスパートナー、そして親友から心友の関係づくりをする」等の記載があり、同93頁には、「業者」−「ビジネスパートナー」−「親友」−「心友」との図枠表示、及び、「業者→親友→心友」等の記載がある。
 両者を対比すると、キーマンとの関係を「ビジネスのパートナー」から「人生における親友」に(原告著作物目録1の3、原告著作物再追加目録3の1)、さらに「親友から心友へ」とする(原告著作物目録1の4、原告著作物再追加目録3の1・2)ことを説明する点において、共通する。原告著作物の上記各表現は、営業の極意がキーマンとの人間関係の形成にあるとする原告のアイデアを創作的に表現したものであり、被告著作物目録7の上記表現は、原告の上記各表現を短く要約したものであって、原告の上記各表現の本質的特徴を直接感得することができるものであるから、翻案に当たる。
b) 原告著作物目録4の3には、「仕事上の表面的なつながりがベース→心のつながりがベース」との記載が、原告著作物再追加目録3の3には「仕事上の表面的なつながりがベース→心のつながりがベース」との記載がある。一方、被告著作物目録7(被告書籍93頁)には、「仕事上の表面的なつながりがベース」「心のつながりがベースになっている」との記載がある。しかし、原告著作物目録4の3と被告著作物目録7とは、その余の記載事項が異なっていることからすれば、全体として、両者を複製又は翻案の関係になるとみることはできない(換言すれば、上記原告著作物の記載部分のみで表現上の創作性すなわち著作物性を認めることはできない。)。したがって、被告著作物目録7(被告書籍93頁)の上記表現部分については、上記原告著作物の複製又は翻案に当たるということはできない。
(4) 被告著作物追加目録記載の箇所について
ア 被告著作物追加目録1(被告書籍105頁)と原告著作物追加目録1について
 原告著作物追加目録1と被告著作物追加目録1とを対比すると、営業において得意技ないし必殺技を有していることが重要であることを説明する点において、共通する。
 しかし、上記共通点は、「得意技」ないし「必殺技」というありふれた表現の共通性にとどまるのであって、かかる表現上の創作性がない部分が共通しているからといって被告著作物追加目録1が原告著作物追加目録1の翻案に当たるということはできない。そして、被告著作物追加目録1からは、上記二つの単語の共通性のほかに、原告著作物追加目録1との表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。
 したがって、被告著作物追加目録1(被告書籍105頁)は、原告著作物追加目録1の複製又は翻案には当たらない。
イ 被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)と原告著作物追加目録2について
 原告著作物追加目録2と被告著作物追加目録2とを対比すると、顧客の心の琴線に触れることの重要性を説明する点において、共通する。
 しかし、「心の琴線に触れる」という表現は、それ自体で創作的な表現であるということはできず、原告著作物追加目録2と被告著作物追加目録2とを対比すると、それぞれの具体的表現が相違しているのであって、両者の間に表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。
 したがって、被告著作物追加目録2は、原告著作物追加目録2の複製又は翻案には当たらない。
ウ 被告著作物追加目録3(被告書籍51頁)と原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2について
a) 原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2と被告著作物追加目録3とを対比すると、商品が売れるメカニズムとして、営業力、商品力、価格力の中で重要なものが営業力であることを説明する点において、共通する。
 しかし、商品が売れるメカニズムとして、「営業力」、「商品力」、「価格力」等といった項目をあげ(原告著作物再追加目録2では、さらに「宣伝広告力」、「代理店力」を挙げている。)、かつ各項目の割合として示された数値が互いに近似しているといっても、これらの要因や数値自体の類似性は単なるアイデアの類似性にすぎず、これらの要因や数値自体は創作性のない表現にほかならないのであるから、被告著作物追加目録3(51頁)が、原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2の複製又は翻案に当たるということはできない。そして、被告著作物追加目録3からは、そのほかに、原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2との表現上の共通点ないし類似点を見出すこともできない。
b) したがって、被告著作物追加目録3(被告書籍51頁)は、原告著作物追加目録3、原告著作物再追加目録2の複製又は翻案には当たらない。
エ 被告著作物追加目録4(被告書籍131頁、134頁、135頁)と原告著作物追加目録4について
 原告著作物追加目録4と被告著作物追加目録4とを対比すると、「たった1枚の名刺でキーマンを虜にする」、「まいった」との表現において共通点がある。
 しかし、原告著作物追加目録4は、「たった1枚の名刺でキーマンを虜にする。」ための方法として、キーマンの名前を活用する方法を具体的に説明するものである。
 一方、被告著作物追加目録4は、「たった一枚の名刺でキーマンを虜にする」ための方法として、感動をもたらす礼状を書くことを説くものである。したがって、被告著作物追加目録4は、原告著作物追加目録4と上記部分が共通するといっても、上記部分は短文で、それ自体創作性のない表現にとどまっているものであるから、上記原告著作物の複製又は翻案に当たるものということはできない。
オ 被告著作物追加目録5(被告書籍94頁、95頁、112頁、113頁)と原告著作物追加目録5、原告著作物再追加目録4について
 原告著作物追加目録5、原告著作物再追加目録4と被告著作物追加目録5とを対比すると、商品や価格以外の営業のやり方で顧客を獲得するための「必勝の方程式」の構築の必要性を説明する点において共通する。
 しかし、上記共通点は、「必勝の方程式」というありふれた表現方法の共通性にとどまるのであって、その余の表現部分が類似しているわけではないのであるから、上記用語が共通しているからといって、被告著作物追加目録5が上記原告著作物の複製又は翻案に該当しないことは明らかである。
(5) 被告新規著作物目録1ないし7記載の箇所について
ア 被告新規著作物目録1(被告書籍表紙裏頁9行目)と原告新規著作物目録1の1・2について
a) 原告新規著作物目録1の1・2と被告新規著作物目録1とを対比すると、原告新規著作物目録1の1には「新規大口顧客90%達成する経営者も」、「凄腕の人なら90%以上、大口の顧客を開拓してしまいます。」との、原告新規著作物目録1の2には、「狙ったお客を9割落とす」との、被告新規著作物目録1には「受注率90%を達成」との記載がある。
b) 上記各記載を検討すると、「契約の成立に至る割合が90%であること」をありふれた表現で説明したにとどまり、かかる創作性のない表現が共通しているからといって、上記被告著作物が上記原告著作物の翻案に当たるということはできない。そして、被告新規著作物目録1からは、上記共通点のほかに、原告新規著作物目録1の1・2との表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。
c) したがって、被告新規著作物目録1からは原告新規著作物目録1の1・2の表現上の本質的特徴を感得することはできず、被告新規著作物目録1は、原告新規著作物目録1の1・2の翻案には当たらない。
イ 被告新規著作物目録2(被告書籍53頁)と原告新規著作物目録2の1・2について
 原告新規著作物目録2の1・2と被告新規著作物目録2とを対比すると、営業力の重要要素を営業マンの力と営業幹部の力とに分けて、それぞれの寄与率がどのようなウェイトであるかを問いかける図である点において、共通する。
 しかし、営業力の重要要素として営業マンの力と営業幹部の力を挙げた上で、それぞれの寄与率を分析すること自体は、著作権法の保護の及ばないアイデア自体にほかならず、上記二つの要素の寄与率を問いかける図を作る際に、原告新規著作物目録2の1・2のような図を用いることはありふれた表現である。また、被告新規著作物目録2からは、上記共通点の他に、原告新規著作物目録2の1・2との表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。したがって、かかる創作性のない表現が共通しているからといって、被告新規著作物目録2(53頁)が原告新規著作物目録2の1・2の複製又は翻案に当たるということはできない。
ウ 被告新規著作物目録3(被告書籍109頁)と原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5について
 原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5と被告新規著作物目録3とを対比すると、営業において「感謝」、「感激」、「感動」を提供することが重要であることを説明する点において、共通する。また、原告新規著作物追加目録5には、「喜びの大研究」、「感動経営」という用語が用いられている。
 しかし、「感謝」、「感激」、「感動」という言葉は、いずれもありふれた表現であり、このように韻を踏んで単語を並べることも特別に個性的な表現方法であるということはできず、これによって表現上の創作性を認めることはできず、これを著作物ということはできない。また、被告新規著作物目録3からは、上記三つの単語を並べて表現していることのほかに、原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5との表現上の共通点ないし類似点を見出すことができない。したがって、単に、「感謝」、「感激」、「感動」という言葉を並べて表現する点が共通しているからといって、被告新規著作物目録3が原告新規著作物目録3の1ないし3、原告新規著作物追加目録5の複製又は翻案に当たるものということはできない。
エ 被告新規著作物目録4(被告書籍115頁、114頁)と原告新規著作物目録4について
a) 原告新規著作物目録4(被告書籍115頁)と被告新規著作物目録4とを対比すると、1から6まで右肩上がりに上がっていく矢印が記載された図と、「成功の鍵(カギ)」と縦書きし、その右側に、具体的な説明を横書きで三つ記載している点において、共通する。
 具体的には、原告新規著作物目録4では、「1.人間の心理のメカニズムを読む。」、「2.与えて与えて尽くすと……必ずお返しがくる。(どんな人間でも……)」、「3.Give & Giveはタイミングよく連続して出す。」と記載され、被告新規著作物目録4(被告書籍115頁)では、「1.人間の心理のメカニズムを理解する。」、「2.尽くして・尽くして・尽くしきると必ずお返しがくる。」、「3.GIVE & GIVE&GIVEはタイミングよく、連続して出す。」と記載されている。
b) 原告新規著作物目録4の表現上の特徴は、顧客の評価が徐々に上昇していくことを示唆する図を記載し、その下部に、成功の鍵として上記三つの点を説明することにあるものと認められる。
 一方、被告新規著作物目録4は、段階的に顧客の評価が上昇していくことを示唆する図を設けている上に、「成功のカギ」の箇所は、一連の三つの点の説明における表現が原告新規著作物目録4とほとんど同一なのであるから、上記原告著作物の表現上の本質的特徴を感得することができる。
c) したがって、被告新規著作物目録4(被告書籍115頁の上から1、2行及び下から1、2行を除いた部分)は、原告新規著作物目録4の翻案に当たるものである。
d) また、被告新規著作物目録4(被告書籍114頁)にも、「その結果、『君から買ってあげるよ』と言わせる成功のカギは、つきつめていくと次のようになるとの結論を導き出したのです。1.人間の心理のメカニズムをよく理解すること。2.相手に尽くして、尽くして、尽くしきること(ギブ&ギブ&ギブで、ギブ&テイクではない。)3.ギブ&ギブはタイミングよく、連続してやること。」と記載されている。この記載も、原告新規著作物目録4の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものであり、原告新規著作物目録4の翻案に当たるものと認められる。
オ 被告新規著作物目録5(被告書籍118、119頁)と原告新規著作物目録5の1ないし3について
a) 原告新規著作物目録5の1ないし3(原告新規著作物目録5の1・2における「必殺6連発の術」、原告新規著作物目録5の3における「受注の方程式の確立」)は、セールスマンが初回の訪問のアポ取りから始めて、訪問先のキーマンから注文を受けるまでのキーマンの心理の変遷を6段階に分けて説明するものであり、具体的には、「(1)オヤ、この営業マンは「違う」……「でも売り込みだから」、(2)アラ、「彼は一味違うな」……「でも買う意思はないよ」、(3)ウム、「そこまで気配りが」……「彼はなかなかいいセンスだ」、(4)エー、「サスガだよ」……「彼に会うのが楽しみだ」、(5)ムムム……「まいった!」……「何かお礼してあげないと…」、(6)ウソー……「凄い」……「ともかくサンプル発注を」などと記載したものである。
 これに対し、被告新規著作物目録5(被告書籍118頁)における「感動営業アプローチ」も、営業による顧客の心理の変化を6段階で示すものであるものの、「ステップ1、A(=注意を引く)…「アレ?」、ステップ2、I(=興味をもつ)…「オヤー」、ステップ3、D(=欲しい)……「アラ」、ステップ4、M(=記憶する)……「ウムー」、ステップ5、A(=行動する)……「スゴイ!」、ステップ6、S(=満足する)……「マイッタ!!」と記載するものであり、その具体的な表現は相当に異なる。
b) 原告新規著作物目録5の1ないし3の表現上の本質的特徴は、セールスマンの訪問を受けた客が注文を出すに至るまでの心理の変遷を6段階に分け、最初に「オヤ」、「アラ」・・・といった感嘆詞を記載し、次に客の心理を上記のように簡潔に描写することにあるものと認められる。
 これに対し、被告新規著作物目録5(被告書籍119頁)は、「アレ?」、「オヤー」、「アラ」、「ウムー」、「スゴイ!」、「マイッタ!!」というように同一ないし類似した感嘆詞を使用している点で共通するものの、顧客の心理の変化を6段階で示す描写はなく、その具体的な表現は相当に異なるものである。また、上記被告著作物においては、客の心理の説明部分において、前半の3段階が「態度が変わらない」、後半の3段階が「態度が変わる」というように簡略にされているという点でも相違する。
c) したがって、被告新規著作物目録5(被告書籍118頁、119頁)は、いずれも原告新規著作物目録5の1ないし3の複製又は翻案には当たらない。
カ 被告新規著作物目録6(被告書籍122、123頁)と原告新規著作物目録6の1ないし3について
a) 原告新規著作物目録6の1ないし3と被告新規著作物目録6とを対比すると、原告新規著作物目録6の1には「喜びの必殺6連発の術」、「必殺6連発の術」との、原告新規著作物目録6の2には「『必勝の方程式』基本の6連発の構築」との、原告新規著作物目録6の3には「必殺6連発の術」、「必殺60連発の術」、「ライバルに圧勝する60連発プログラム」、「必殺6連発プログラム」との記載があり、一方、被告新規著作物目録6には「感動営業の必勝6連続法」との記載がある。
 また、原告新規著作物目録6の2は、「新規大口顧客攻略法・『必勝の方程式』基本の6連発の構築」という表題のもと、左方に第1弾から第6弾まで記載し、各右横に空欄を設けた図表の記載があり、被告新規著作物目録6には「感動営業の必勝6連続法」という表題のもとに、上記図表と同様の図表が記載されている。
b) 原告新規著作物目録6の1ないし3において用いられている「必殺6連発の術」ないしこれに準じた表現は、ごく簡潔な表現であり、これ自体を思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。したがって、被告新規著作物目録6における「必勝6連続法」との記載が、上記原告著作物の複製又は翻案に当たるということはできない。
 また、原告新規著作物目録6の2と被告新規著作物目録6における上記図表は、「第1弾」ないし「第6弾」と右横の各空欄が一致するものの、これ自体、ごくありふれた表現方法であって、この共通点だけをとらえて、思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。したがって、被告新規著作物目録6における上記図表が、上記原告著作物の図表の複製又は翻案に当たるということはできない。
キ 被告新規著作物目録7(被告書籍133頁)と原告新規著作物目録7、原告新規著作物追加目録4について
a) 原告新規著作物目録7と被告新規著作物目録7とを対比すると、顧客から冷たい対応をされても、名刺があるか、名前が分かるかすれば、礼状で「マイッタ!」と言わせる術を身に付けることを述べる点において、共通する。
b) 原告新規著作物目録7は、具体的には、「どんなに冷たい応対をされても」→「キーマンの@名刺さえあれば…A名前さえ分かれば…」→ 「名前の由来のお礼状でマイッタ!と言わせる術を身に付ける!」と記載されている。
 一方、被告新規著作物目録7(被告書籍133頁)の下から7行以下の部分は、具体的には、「どんなに冷たく応対をされても」、「キーマンの・名刺さえ入手できれば・名前さえ分かれば…」、「感動礼状でマイッタ!と言わせる術を身に付けることができる。」と記載されている。
 両者の表現は、「名前の由来のお礼状」を「感動礼状」とするほかはほぼ同一である。そして、被告書籍においては、「感動礼状」とは、「キーマンの名前の活用法の一つ」(乙7・136頁)であるから、「名前の由来のお礼状」も「感動礼状」の中の一つであり、両者の表現は実質的に同一であるということができる。
 したがって、被告新規著作物目録7の上記部分は、原告新規著作物目録7、原告新規著作物追加目録4の複製に当たるものというべきである。
(6) 被告新規著作物追加目録記載の箇所について
ア 被告新規著作物追加目録(被告書籍97頁、120頁6、7行)と原告新規著作物追加目録1について
a) 原告新規著作物追加目録1の213頁には、「必殺技」、「ファンにして虜にしてしまう術」との記載、同232頁には、「名刺一枚でファンにして虜にする」、「キーマンをマイッタ!と唸らせる術」との記載、及び、同281頁には「キーマンの心理を読む」、「金かけずに…心の琴線に触れる…内容で」との記載がある。
 一方、被告新規著作物追加目録の97頁には、「喜ばす・感動させるための感動ノウハウを考える→お金をかけずに、心を込めた手づくり作品で、キーマンにプレゼントし喜んでもらう。」との記載がある。
 原告新規著作物追加目録1における「ファン」、「キーマン」といった用語は、それ自体で創作性のある表現ということはできず、原告新規著作物追加目録1の上記各記載と被告新規著作物追加目録とを対比すると、その余の表現も相当程度異なり、創作性のある表現部分の共通点を見出すことができない。
 したがって、被告新規著作物追加目録(被告書籍97頁、120頁6、7行)は、原告新規著作物追加目録1の213頁、232頁及び281頁の複製又は翻案には当たらない。
b) 原告新規著作物追加目録1の262頁には、「キーマンを虜にする必殺技を磨く」、同263頁には、「キーマン攻略の必殺技とは・・・キーマンをマイッタ!と言わせる必殺技・連続技!にあり」との記載がある。
 一方、被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)には、「連続技によってお客さまを喜ばせ、楽しませ、感動させる営業活動を行うことできる得意技・必勝技をつくる」との記載がある。
 原告新規著作物追加目録1の262頁、263頁における「必殺技」とか「連続技」との記載は、単語を組み合わせたものにすぎず、それ自体で創作性のある表現ということはできない。そして、原告新規著作物追加目録1の262頁及び263頁と被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)とを対比すると、両者のその余の表現は明らかに異なっており、被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)から原告新規著作物追加目録1の262頁及び263頁の表現上の本質的特徴を感得することもできない。
 したがって、被告新規著作物追加目録(被告書籍120頁)は、原告新規著作物追加目録1の263頁の複製又は翻案には当たらない。
イ 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)と原告新規著作物追加目録2、3、6について
a) 原告新規著作物追加目録2には、「喜びの6連発」との標題のもと「@名前の由来」、「A本人ポエム」、「B夫婦ポエム」、「C家族ポエム」、「D文字絵」、「E短編小説」と列挙した図表がある。
 原告新規著作物追加目録3には、「6連発の技」として、「お礼状をおくったあと、1週間後に名前の由来、または名前ポエム、そして小説、文字絵などを1週間ごとに贈っていきます。」との記載がある。
 原告新規著作物追加目録6には、4頁に、「6連発プログラム」との標題のもと、「@名前の由来」、「A本人ポエム」、「B夫婦・家族ポエム」、「C文字絵」、「D小説」、「Eエッセイ」と列挙した図表があり、5頁に、「基本必殺技」、「1 名前の由来」「2 本人ポエム」「3 文字絵」「4 短編小説」「5 夫婦・家族の名前ポエム」と題する図表の記載がある。
b) 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)には「感動営業の基本6連続法」との標題のもと、「第1弾・FAX礼状」、「第2弾・歳時記礼状」、「第3弾・感動礼状/巻き物」、「第4弾・本人/夫婦ポエム」、「第5弾・文字絵(名前の活用)」、「第6弾・本人主人公短編小説」と列挙した図表がある。
c) 上記の原告新規著作物追加目録の各図表又は記述を、被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)の図表と対比すると、両者の表現は相当に異なるものである。両者は、顧客に喜んでもらうための有効な方策を順序立てて説明する点において共通するものの、そのこと自体は、アイデアないし思考の結果を表現するありふれた手法にすぎず、上記原告著作物における個々の文言もそれ自体は著作物性を有しないものである。したがって、両者間に、創作性のある表現部分での共通性を見出すことはできず、被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)の図表は、原告新規著作物追加目録2、3、6の複製又は翻案に当たらないというべきである。
ウ 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)と原告新規著作物追加目録4について
 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)の上記イ(b)の図表が、原告新規著作物追加目録4の複製又は翻案に当たらないことは明らかである。
エ 被告新規著作物目録3(被告書籍109頁)と原告新規著作物追加目録5について
 被告新規著作物目録3の「感謝・感激・感動」との表現が、原告新規著作物追加目録5の複製又は翻案には当たらないことは明らかである。
オ 被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)と原告新規著作物追加目録7について
 原告新規著作物追加目録7には、「必殺6連発プログラム」、「営業マンの礼状が、ものの見事に平安朝の巻物になって出来上がってくるんです。・・・追い返した営業マンから、3日後に巻物が届くんです。・・・ところがまた2週間後に、今度は家族が宙に舞い上がるようなものがくる。必殺6連発というものです。だいたい4段階でほとんどの人が落ちる。」との記載がある。 
 上記記載を、被告新規著作物追加目録の139頁の図表(「第1弾・FAX礼状」、「第2弾・歳時記礼状」、「第3弾・感動礼状/巻き物」、「第4弾・本人/夫婦ポエム」、「第5弾・文字絵(名前の活用)」、「第6弾・本人主人公短編小説」)と対比しても、創作性のある表現部分での共通性を見出すことはできない。被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)の図表が、原告新規著作物追加目録7の複製又は翻案に当たらないことは明らかである。
カ その他被告新規著作物追加目録記載の箇所について
a) 原告著作物再追加目録4には「キーマン攻略の必殺技を持つ」との記載がある。一方、被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)には、「キーマンを虜にする→“必勝技を活用する”」との記載がある。
 両者を対比すると、その表現が明らかに異なっており、被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)から原告著作物再追加目録4の表現上の本質的特徴を感得することはできない。
b) 原告著作物追加目録5には「新規顧客攻略の必勝の方程式を構築する」との表題がある。一方、被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)には「新規顧客攻略法『必勝の方程式』の構築」との表題がある。しかし、原告著作物追加目録5の表題は、新規顧客を必ず獲得できるような行動様式を確立することを意味するものであって、かかる意味内容を表現する際に上記表題が創作的な表現であるとまでいうことはできず、これを思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。したがって、被告新規著作物追加目録(被告書籍113頁)にほとんど同一の表現があるからといって、複製又は翻案に当たるものということはできない。
c) 原告新規著作物追加目録1の232頁と被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)の各説明文の中には、概ね同じ表現のものもある。しかし、前者は、「キーマンをマイッタ!と唸らせる術」との記載の周囲に各説明文を配置したにとどまるのに対し、後者は、顧客の対応と営業マンの心境を左右に対比して説明した点に特徴があり、両者は、全体として表現上の類似性がなく、表現上の本質的特徴を異にするものであるから、複製又は翻案には当たらない。
d) その他、被告新規著作物追加目録中、原告指摘の箇所について、原告書籍等の複製又は翻案であるものと認められる箇所はない。
(7) 別紙一覧表記載のその余の原告指摘の箇所について、被告書籍を原告書籍等と比較しても、原告書籍等の複製又は翻案であるものと認められる箇所はない。
(8) 原告書籍等と被告書籍全体の対比について
 原告らは、原告書籍1をはじめとする原告書籍等は基本部分、応用部分、前提部分の三つに分けることができ、一方、被告書籍も同様の構成をとり、各部分が原告書籍等の複製又は翻案であると主張する。
 しかし、有効な営業活動はいかにあるべきかを提示するために、現状を分析する前提部分、著者の提唱する方法を説明する基本部分、著者の提唱する方法の実践例を説明する応用部分とに分けて論じることは、一般的な手法であって、かかる構成が共通するからといって、具体的な創作的な表現の保護を旨とする著作権を侵害しているものということはできない。
 したがって、著作権侵害が成立するのは、既に指摘した点にとどまり、被告書籍の全部あるいは一部の章が、全体として原告ら書籍等の著作権を侵害するということはできない。
(9) 結論
 以上によれば、被告書籍のうち、別紙著作権侵害箇所目録1及び6記載の箇所(合計1.5頁)は、原告Aの著作権(複製権ないし翻案権)及び原告会社の出版権を、別紙著作権侵害箇所目録2ないし5、7及び8記載の箇所(合計6.5頁)は、原告Aの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害するものである。
2 争点2(被告書籍全体の差止め及び廃棄が認められるか)について
 証拠(乙7)によれば、被告書籍の総頁数は238頁であり、その本文は、第1章「強い営業軍団をもたない企業は滅ぶ」(19頁から45頁)、第2章「営業幹部は『知恵出し』が仕事」(47頁から61頁)、第3章「お客さまが求める営業とは」(63頁から79頁)、第4章「悩む営業を救う感動経営の実践」(81頁から105頁)、第5章「新規顧客攻略法『感動の方程式』」(107頁から123頁)、第6章「新規顧客攻略法『感動技の研究』」(125頁から139頁)、第7章「感動の実践事例」(141頁から183頁)、第8章「我社の感動実践〈17の事例紹介)」(185頁から235頁)からなること、前記1において著作権侵害が認められた箇所は、第2章のうち0.5頁(著作権侵害箇所目録2)、第4章のうち2頁(同目録4及び6)、第5章のうち3頁(同目録1、5、7)、第6章のうち2.5頁(同目録3、8)の合計8頁であることが認められる。
 以上のとおり、原告書籍等の著作権を侵害している箇所は、被告書籍の一部分である。しかし、被告書籍が著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載して、全体として一冊の本として出版発行されている限りは、被告書籍の出版により、原告らの意思に反して原告書籍等の無断複製物ないし翻案物を頒布又は販売することになるのであるから、著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載した被告書籍の印刷・出版発行の差止めを認めざるを得ない。ただし、著作権侵害箇所目録記載の箇所とその余の箇所は可分であり、被告書籍の大半を占める部分は、原告らの著作権を侵害しない部分であることからすれば、原告らの著作権を侵害している箇所に限って、その廃棄が認められるというべきである。
 原告らは、著作権侵害部分を削除した場合には、被告書籍自体の根幹が欠落することになり、被告書籍自体が意味のないものになるので、被告書籍は全体として差止め及び廃棄されるべきであると主張する。しかし、著作権侵害箇所目録記載の箇所を削除しても、被告書籍が意味のないものになるとは認められず、侵害箇所と可分な箇所は、それ自体で意味を有するのであるから、原告らの主張は採用することができない。
3 争点3(損害の額)について
(1) 被告書籍の頒布・販売部数について
ア 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
 被告と訴外会社は、平成17年(2005年)8月30日、被告書籍の出版について出版契約を締結した。この契約においては、被告への著作権使用料の支払の定め(16条の定型文言)が抹消されており、代わりに、被告が訴外会社に対し、出版制作料として合計235万2000円を支払うこと、訴外会社が自主決定による重版を行った場合は7%の印税を支払うことが定められている。また、被告による買上げ価格が定価の8割と定められている(15条)。
 原告らと訴外会社との間で、平成18年11月10日、裁判上の和解が成立した。この和解において、訴外会社は、保管中の2563部のうち、訴外会社所有の1143部と被告所有の920部の合計2063部を廃棄する義務を負い、その後、返品分の6部を加えた合計2069部を廃棄した。また、被告所有の500部は被告に引き渡され、被告が保管している。
イ 上記認定事実によれば、被告書籍の印税は初版時にはなく重版時から支払われるものである一方、被告は定価の8割の価格で被告書籍を買い取っている。したがって、被告書籍の発行はいわゆる自費出版であったものと認められる。そして、被告が買い取った2000部のうち、920部は前記裁判上の和解により既に廃棄済みであり(被告は、この和解に参加していないものの、訴外会社がこれを廃棄することを承諾したものと考えられる。)、500部は被告が保管中であり、564部は頒布された。また、一般書店に流通した2000部のうち、851部は販売済みで、1149部は回収の上廃棄されたものである。
(2) 著作権法114条1項による算定
ア 原告は、被告書籍における単位数量当たりの利益の額は、少なくとも定価の50%を越えているとして、原告書籍における単位数量当たりの利益の額も定価の50%を越えると主張する。
 原告は、原告書籍2及び3の定価を明らかにするだけで、費用の明細を明らかにしないものの、前記認定事実によれば、被告書籍は、851部が一般書店を通じて販売されており、証拠(乙2、3の1・2、5の1・2、6)によれば、訴外会社が、定価の67%の938円で被告書籍を取次店に委託販売したこと(したがって、返品の場合は、卸価格を清算する必要がある。)、及び、4000部の印刷製本代金が78万1200円(税込)であったことが認められる。そこで、被告書籍の販売利益を算定すると、被告は、851部を卸価格938円で販売し、印刷製本代は1冊当たり195円であること、及び、書籍を増刷する場合、その作成に要する費用は、著者に支払う印税のほかは、主に印刷製本費用であることからすると、その余の細かな経費を差し引いても、訴外会社は被告書籍1冊あたり少なくとも700円の利益を挙げたことになる(938円−195円=743円)。
 そして、被告書籍と原告書籍2及び3とでは、印刷製本費用の定価に定める割合において特段の差異があることを認めるに足りる証拠はないから、訴外会社が被告書籍1冊当たりで得た利益の700円が定価1400円の50%であることからすれば、原告らが原告書籍2及び3を増刷して得ることができる利益(限界利益ないし貢献利益)も、印税のほかは、定価の50%を下らないものと認めるのが相当である(本件の原告らは、著者と出版権者であるから、原告らの譲渡利益には、印税も含めて算定するのが相当である。)。
イ 前記認定事実によれば、被告書籍は、851部が一般書店を通じて販売され(なお、訴外会社は、委託販売を行い、各書店から返品された分は卸価格の清算を行う必要があるので、返品分を譲渡数量に含めるべきではない。)、564部が被告によって頒布されている。そして、原告らが、被告と訴外会社による侵害行為がなければ得たであろう利益は、上記限界利益(貢献利益)をもって算定するのが相当であるから、原告書籍2及び3の定価1800円の50%の900円に1415部を乗じ、これに侵害部分の被告書籍における寄与度を乗じた金額となる。
ウ 前記認定の侵害部分は、合計8頁であり、被告書籍全体の238頁に比べると多くはない。しかし、前記認定の侵害部分は、原告書籍等及び被告書籍に共通して、いずれの書籍においてもその考え方の中核をなす部分の一部であり、書籍を特徴づける内容となっている部分の一部を構成するものであるから、書籍全体に占める当該頁の寄与度は、頁数を大きく上回るものであり、全体の2割と認めるのが相当である。
 被告は、著作権法114条1項は、権利者の著作物と侵害者の著作物との間に市場における代替関係が存在することを前提としており、@被告が譲渡した564部は、知人や受講生らに無償配布したものであって、一般の市場を対象にしたものではないから、被告による譲渡行為によって原告書籍の売上げが減少するという関係にはない、A訴外会社により一般市場で譲渡された851部についても、仮に、著作権侵害が成立するとしても、被告書籍の一部にすぎず、全体としては被告書籍は原告書籍と全く違う本であるから、被告書籍を購入しようとする者が原告書籍を購入することは考えられない、と主張する。
 しかし、被告書籍が被告の研修の受講生らに無償譲渡されたものであるとしても、研修費用を含めれば有償であると解されること、及び、被告の知人への無償譲渡については、その数量等が全く不明であること、並びに、前記認定の侵害部分は、原告書籍等及び被告書籍に共通して、いずれの書籍においてもその考え方の中核をなす部分の一部であり、書籍を特徴づける内容となっている部分の一部を構成するものであるから、当該侵害部分が被告書籍の販売ないし譲渡に寄与しているものというべきである。
 また、被告は、原告らと訴外会社との間では既に裁判上の和解が成立しているので、訴外会社の譲渡分851部を計上するのは相当でない、と主張する。しかし、被告と訴外会社間で共同不法行為が成立するものである以上、被告が訴外会社の譲渡分についても損害賠償義務を負うことは当然である。また、原告らと訴外会社との間で裁判上の和解が成立しているとしても、不真正連帯債務については債権を満足させるもの(弁済・相殺)以外の事由は相対的効力を生じるにとどまると解すべきであるから、訴外会社に対する請求放棄等の条項は、被告に対し、何らの影響も与えないものと解すべきである(最一小判平成6年11月24日判時1514号82頁参照)。
エ 以上によれば、被告と訴外会社による侵害行為がなければ原告らが得たであろう利益は、次のとおりである(著作権法114条1項)。
 700円×1415部×0.2=25万4700円
 このうち、原告らが権利を有する部分(別紙著作権侵害箇所目録1及び6)の損害額は、25万4700円×(3/10)=7万6410円であり、原告らは、このうち各2分の1ずつ、3万8205円を請求できる。 また、原告Aが権利を有する部分(別紙著作権侵害箇所目録2ないし5、7及び8)の損害額は、25万4700円×(7/10)=17万8290円である。
(3) 著作権法114条2項による算定額及び著作権法114条3項による算定額は、次に述べるとおり、いずれも上記認定額よりも低額であるから、上記認定額をもって、原告らが被った損害額と認める。
ア 著作権法114条2項を適用した場合
 原告らは、被告と訴外会社の共同不法行為責任が成立するとして、訴外会社の得た利益を基礎に、著作権法114条2項を適用すべきであると主張する。しかし、このような算定を行う場合には、公平の見地から、訴外会社の得た利益と被告の得た利益ないし損失を合算した金額を利益の額として算定すべきである。
 前記認定事実によれば、被告書籍は、851部が一般書店を通じて販売され、564部が被告によって頒布されている。また、訴外会社が、定価の67%の938円で取次店に委託販売したこと(したがって、返品の場合は、卸価格を清算する必要がある。)、4000部の印刷製本代金が78万1200円(税込)であったことも前記認定のとおりである。さらに、被告は、自費出版費用として、235万2000円を支出している。
 そこで、各利益を算定すると、被告は、851部を卸価格938円で販売し、印刷代は1冊当たり195円であることから、主たる費用が印刷製本代金のみであるとすると、1冊あたり743円の利益を挙げたことになる。したがって、訴外会社の得た利益は63万2293円である(=743円×851部)。なお、被告は委託販売を行い、各書店から返品された分は卸価格の清算を行う必要があるので、返品分を譲渡数量に含めるべきではない。
 また、被告は、564部を頒布しており、これは無償譲渡であると主張するものの、仮に、定価の1400円で譲り渡したとすると、仕入価格が定価の8割であることから、被告の得た利益は、15万7920円(=1400円×0.2×564部)である。
 以上のとおり、訴外会社の得た利益(控除すべき費用を含む暫定値)と被告の得た利益を合算しても、被告の支出した自費出版費用を下回っていることが明らかである。よって、被告利益はないものと認められる。
イ 著作権法114条3項を適用した場合
 著作権法114条3項による算定額も、被告書籍全体の使用料相当額が、次の式のとおり、19万8100円となるので、その侵害部分の割合を2割としても、上記認定額を下回ることは明らかである。
 (851+564)部×1400円×10%=19万8100円
4 争点4(謝罪広告の要否)について
 既に認定したとおり、発行された被告書籍4000部のうち頒布ないし販売されたのは1415部にとどまること、被告書籍の多くは回収されて既に廃棄処分にされたこと、被告書籍のうち原告らの著作権を侵害する箇所が被告書籍全体の頁数と比較すれば多くはないことに照らせば、謝罪広告を命じる必要性は認められない。
5 結論
 よって、原告らの請求は、著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載した被告書籍を頒布、販売することの差止め、前記目録記載の箇所を掲載した部分の廃棄、原告Aは21万6495円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は3万8205円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので、棄却することとし、仮執行宣言については、本件事案の内容にかんがみれば、主文第1、第3及び第4項に限り認めるのが相当であり、その余は相当でないからこれを却下し、訴訟費用の負担について民訴法61条、64項本文及び65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 間史恵
 裁判官 古河謙一は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 設樂隆一


別紙著作権侵害箇所目録(被告書籍の該当頁)
1 121頁 1頁
2 49頁7行目以下 0.5頁
3 137、136頁 2頁
4 99頁98頁 1.5頁
5 111頁下段(*「ライバルを圧倒する」以下の部分) 0.5頁
6 92頁(末尾から3行目ないし2行目)、93頁下段(「これらの営業マンは」以下の部分) 0.5頁
7 115頁(上から1、2行、下から2行を除いた部分)、114頁(3行ないし8行) 1.5頁
8 133頁下から7行以下の部分 0.5頁

別紙被告書籍目録
題名 受注率が90%に跳ねあがる経営法
著者 B
発行所 有限会社D

別紙謝罪広告目録
 私Bは、著作権者A氏の許諾を得ず、違法にA氏の著作物を使用して、2005年11月7日に「受注率が90%に跳ねあがる経営法」を発行所有限会社Dにより発表しました。
 著作権者及び出版権者株式会社マネジメント社他関係者に多大のご迷惑をお掛けしましたことについて深く陳謝いたします。
 著作権を侵害致しました事を、反省致しますと共に深く心に受け止め、今後この様な事の無き様慎重に行動致します。
〔掲載条件〕
 掲載新聞 日経新聞全国版、朝日新聞全国版の各朝刊
 掲載場所 第三面に縦四段抜き、横10センチ
 字格 見出し部分及び被告氏名、社名、代表者名は三号活字、本文は六号偏平活字

別紙原告書籍等目録
1 題名 最強営業軍団
 著者 A
 発行所 プレジデント社
 発行年月日 平成5年5月28日初版第1刷発行
2 題名 狙ったお客の80%は落とせる
 著者 A
 発行所 株式会社マネジメント社
 発行年月日 平成5年5月28日初版第1刷発行(一覧表中、「狙ったお客80%」と表示)
3 題名 お客様が絶句する究極の経営5つの超戦略
 著者 A
 発行所 株式会社マネジメント社
 発行年月日 2004年(平成16年)2月27日初版発行(一覧表中、「5つの超戦略」と表示)
4 配布資料等
(1) 社長のためのセールス革命研修資料
 (原告著作物目録4の1〜3、原告著作物追加目録1講義録、原告著作物再追加目録3の3、原告新規著作物目録2の2、同6の2)
(2) 第1回最強営業軍団実現研究会(平成3年10月24日健保会館)研修資料
 (原告著作物再追加目録2、原告新規著作物目録2の1)
(3) 第3回最強営業軍団実現研究会(平成3年12月19日健保会館)研修資料
 (原告著作物再追加目録1の2、原告新規諸作物目録3の2、同4)
(4) 第2回社長による販売学12ケ月道場(平成5年4月20日トヨタ東京教育センター)研修資料(原告著作物目録4の4)
(5) 第1回最強営業軍団実現研究会(平成5年6月23日八重洲龍名館)研修資料(原告新規著作物目録7)
(6) 第1回最強営業軍団実現研究会(平成6年6月6日私学会館)研修資料(原告新規著作物追加目録4)
(7) 1995年11月号「黙」
(8) 1996年3月号「黙」
(9) 1998年12月号「スクエア21」
(10) QMニュースVol.4(1998年12月)
(11) QMニュースVol.8(1999年12月)
 以上
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