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【事件名】商標“にわか”審決取消事件(2)
【年月日】平成19年8月28日
 知財高裁 平成19年(行ケ)第10039号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年7月20日)

判決
原告 株式会社俄
訴訟代理人弁護士 上甲悌二
同 藤川義人
同 末冨純子
同 井口敦
訴訟代理人弁理士 藤川忠司
訴訟復代理人弁護士 雨宮沙耶花
被告 特許庁長官肥塚雅博
指定代理人 佐藤淳
同 中村謙三
同 内山進


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2006−5671号事件について、平成18年12月19日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が後記内容の商標登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 原告は、平成17年5月25日、下記の構成から成る商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を下記のとおりとして、商標登録出願をした(以下「本願」という。)。
 記
 (商標) イメージ略
 (指定商品) 第14類 貴金属、身飾品、時計
イ 特許庁は平成18年1月31日に本願について拒絶査定をしたため、原告は、これを不服として審判請求をしたところ、特許庁は、これを不服2006−5671号事件として審理した上、平成18年12月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成19年1月10日原告に送達された。
(2) 審決の内容
 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。
 その理由の要点は、本願商標は、下記の商標(登録第4558076号。平成12年11月2日出願・平成14年4月5日登録。甲91。以下「引用商標」という。)と称呼上及び観念上類似の商標であり、かつ、本願商標の指定商品は引用商標の指定商品に含まれる(指定商品部分の下線は判決で付記)から、商標法4条1項11号に該当する、としたものである。
 記
 (商標) イメージ略
 (商標権者) A
 (指定商品)
 第14類
  貴金属、貴金属製食器類、貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ、貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て、貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布、貴金属製喫煙用具、身飾品、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、時計、記念カップ、記念たて、キーホルダー
 第21類
  ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)、なべ類、コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。)、鉄瓶、やかん、食器類(貴金属製のものを除く。)、アイスペール、泡立て器、魚ぐし、携帯用アイスボックス、こし器、こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。)、卵立て(貴金属製のものを除く。)、ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。)、盆(貴金属製のものを除く。)、ようじ入れ(貴金属製のものを除く。)、米びつ、ざる、シェーカー、しゃもじ、手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき、じょうご、食品保存用ガラス瓶、水筒、すりこぎ、すりばち、ぜん、栓抜、大根卸し、タルト取り分け用へら、なべ敷き、はし、はし箱、ひしゃく、ふるい、まな板、魔法瓶、麺棒、焼き網、ようじ、レモン絞り器、ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)、清掃用具及び洗濯用具、化粧用具、おけ用ブラシ、金ブラシ、管用ブラシ、工業用はけ、船舶ブラシ、ブラシ用豚毛、洋服ブラシ、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー、シューツリー、ガラス製又は陶磁製の包装用容器、アイロン台、愛玩動物用食器、愛玩動物用ブラシ、犬のおしゃぶり、植木鉢、家庭園芸用の水耕式植物栽培器、家庭用燃え殻ふるい、紙タオル取り出し用金属製箱、霧吹き、靴脱ぎ器、こて台、小鳥かご、小鳥用水盤、じょうろ、寝室用簡易便器、石炭入れ、せっけん用ディスペンサー、貯金箱(金属製のものを除く。)、トイレットペーパーホルダー、ねずみ取り器、はえたたき、へら台、湯かき棒、浴室用腰掛け、浴室用手おけ、ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。)、花瓶(貴金属製のものを除く。)、ガラス製又は磁器製の立て看板、香炉、コッフェル、水盤(貴金属製のものを除く。)、風鈴
 第29類
  食肉、食用魚介類(生きているものを除く。)、肉製品、加工水産物、豆、加工野菜及び加工果実、卵、加工卵、乳製品、食用油脂、カレー・シチュー又はスープのもと、なめ物、お茶漬けのり、ふりかけ、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、食用たんぱく
(3) 審決の取消事由
 しかしながら、本願商標と引用商標とは非類似の関係にあり、本願商標は商標法4条1項11号に該当しないから、これに該当するとした審決は、違法として取消しを免れない。
ア 称呼上の非類似
(ア) 審決は、「…引用商標は、…「ニワカ」の称呼を生ずるものであって、…本願商標と引用商標とは、…「ニワカ」の称呼…を共通にする…」(1頁下3行〜2頁3行)とするが、誤りである。
 引用商標は、確かにその構成中に平仮名文字で「にわか」と表記された部分を含んでいるが、他方、両目と眉毛から構成される人顔上部の独特な図形(以下「顔面図形」という。)が、引用商標全体の上半分の面積を占めており、その下部に「にわか」、さらにその下部に「二〇加」(〇は、線の左側が途切れている。以下同じ。)と記載されているものである。「にわか」の文字及び「二〇加」の記載は、それぞれ顔面図形の大きさの半分にも満たない。また、「二〇加」という記載からは、「〇」が何を指すのか判読困難であることとも相俟って、通常人の観察では、「にわか」の称呼は生じない。
 以上のように、顔面図形が特徴的な外観を呈していて重要な識別機能を担っていること、同図形が引用商標の面積の半分程度を占め、これと比較すると「にわか」の文字の大きさは半分以下であること、「二〇加」の文字が直ちには判読困難であることからすると、顔面図形、「にわか」の文字及び「二〇加」の記載全体が不可分一体のものとして観察する合理的理由があるというべきであるから、引用商標からは「ニワカ」の称呼は生じず、本願商標から生ずる称呼とは類似しないというべきである。
(イ) 被告は、引用商標が、顔面図形、「にわか」「二○加」の各構成部分を三段に表してなるものであって、視覚上、有機的に結びついているというよりは、むしろ図形部分とその下段に配してなる各構成部分とが分離して看取され得る構成といえると主張する。
 しかし、「にわか」「二○加」の字体はどちらも筆で書かれたような字体であること、顔面図形の眉部分も筆で描いたような太さであることなどから、各構成部分には統一感があり、デザインとして有機的関連性があるといえる。しかも、顔面図形が特徴的な外観を呈していて重要な識別機能を担う一方、「にわか」や「二○加」の大きさは顔面図形の半分以下であり、「二○加」に至っては表音すら判読困難であることからすれば、やはり、引用商標の各構成部分は、不可分一体として結合しているものといえる。
 また、商標の一部分から称呼が生じるのは、当該部分が商標の要部であるからであり、要部以外の部分からは称呼は生じないことは経験則上明らかである。そして、引用商標の顔面図形は極めて特徴的であり、他の図形と文字の結合商標に比し、商標から受ける印象における図形の占める割合は非常に大きいものといえる。そして、分離観察の論拠となる簡易迅速を尊ぶ取引の実際という趣旨からしても、簡易迅速を尊んだ場合、文字を読むよりも図形を認識する方が重要であることは明らかである。したがって、引用商標の文字部分は要部ではなく、文字部分からの称呼は生じないものといえる。
イ 観念上の非類似
(ア) 審決は、商標は、…「…、俄狂言」の観念を生ずるものである。これに対し、引用商標は、…「俄狂言」の観念を生ずるものである。してみれば、本願商標と引用商標とは、…「俄狂言」の観念を共通にする…」(1頁下6行〜2頁3行)とするが、誤りである。
 すなわち、本願商標は、「俄」の一文字を図形化したものであるところ、「俄」の文字からは、本願商標の指定商品である貴金属・身飾品・時計の取引者及び需要者の通常の注意力を基準とすれば、「だしぬけ、突然」という観念が生じるとしても、「俄狂言」という観念は生じないというべきである。「俄狂言」は、審決に「…江戸時代中期から明治にかけて京都・大阪・江戸吉原・博多で流行した大衆演劇の一つ…」(2頁14行〜15行)とされているとおり、現代において日常的に使用される言葉ではない。現代において、「俄」という文字が使用される場面は、「だしぬけ、突然」というような意味合いにおいてでしかない。
 しかるに、審決では、引用商標の顔面図形からは「俄狂言」の観念を生じさせるとの根拠は何ら示されていない。また、「にわか」という文字からは、通常人の注意力からすれば「だしぬけ、突然」という観念は生じ得ても「俄狂言」の観念は生じないというべきである。さらに「二〇加」という記載は、通常人の注意力からすれば判読困難であるうえ、審決にもあるように、たとえ「俄狂言」と結びつけるとしても、様々な種類の当て字の1つに過ぎないのであるから、やはり現代における通常人の注意力からすれば「俄狂言」の観念は生じないというべきである。
 また、前記アで述べたとおり、引用商標は全体が不可分一体のものとして識別機能を果たすというべきであり、このことからしても、「俄狂言」の観念は生じないというべきである。
(イ) 被告は、「俄」から「俄狂言」の観念が生じると主張し、現在でも使用されているとして新聞記事情報及びインターネット情報を提出する(乙1〜12)。しかし、通常人が「俄」を「俄狂言」であると観念できるのであれば、「俄」についての説明は不要であるところ、「にわか…にわか狂言を略した言葉」(乙1、乙3)、「にわかとはにわか狂言を略した言葉です。」(乙2)、「ダジャレを主とした即興的寸劇、俄」(乙4)、「方言を使った当意即妙のしゃれとユーモアで世相を風刺する「にわか」」(乙7)、「にわかは…一回三分程度の笑劇」(乙8)、「にわかは、…庶民芸能です」。(乙11)など、「俄」についての説明が記載されている。なお、乙5、6、9、10、12は地方紙または地方版の記事であり、文字数も少ないため説明が省かれているものと思われる。
 このように、文字数の少ない地方紙以外では、わざわざ説明を要する言葉であるということは、通常人が観念しえない言葉であるからに他ならない。したがって、本願商標から「俄狂言」の観念が生じるとはいえず、せいぜい「だしぬけ。突然」等の観念が生じるのみである。なお、本願商標の由来(原告の社名の由来)は、「人」と「我」を合わせるというものである(甲98の3)。
 なお、被告は、本願商標や引用商標から俄狂言の観念が生じないとしても、本願商標や引用商標からは「だしぬけ。突然」という観念が生じるため観念が類似すると主張する。しかし、前記アに記載したとおり、引用商標の文字部分は要部ではなく、ここから生じる観念と比較すべきではないから、引用商標から「だしぬけ。突然」の観念も生じない。引用商標からは、仮面・お面といった観念が生じるといえる。
ウ 取引の実情等から出所混同のおそれがないこと
(ア) 引用商標に関する取引の実情
 引用商標の商標権者であるAは、「にわかせんぺい」の製造販売を業とする株式会社東雲堂(以下「東雲堂」という。)の取締役である(ホームページ〔甲1、95〕、商業登記簿謄本〔甲94〕)。しかるに、東雲堂は、菓子の製造並びに販売を業とする株式会社であり(甲94)、「貴金属、身飾品、時計」の製造販売は、会社目的に含まれず、その目的に付随するともいえない。にわかせんぺいとは、同社を紹介したホームページ(甲1)に、「博多のお土産」との表題のもと「古くから博多の郷土芸能として、庶民の間で親しまれている博多仁和加。この反面を形どったユーモアあふれるせんぺいが『にわかせんぺい』です。…」と記載しているとおり、博多地方の郷土土産品として知られているものである。
 すなわち、引用商標は「にわかせんぺい」として有名な商標であり(甲1、152〜15)、「顔面図形」がそのまま煎餅の形として販売されていることからすれば(甲152、153)、引用商標からは「にわかせんぺいブランド」の観念が生じるともいえる。「にわかせんぺい」は博多の郷土品であるが、博多土産の定番であるため、その知名度は全国的である(甲153、154)。
(イ) 本願商標に関する取引の実情
 他方、本願商標を出願した原告は、宝石・貴金属製品の製造卸及び小売を事業内容としている株式会社である(原告のホームページ〔甲96の1、2〕)。そして原告は、1979年(昭和54年)創業、19 83年(昭和58年)設立、年商23億円(2006年〔平成18年〕3月期)、直営店を全国に14店舗、特約店を80店舗有する株式会社であり(なお、東雲堂の年商は2億数千万円でここ数年間推移している(東京商工リサーチによる東雲堂の調査結果〔甲97〕)、宝石のデザイン等に関して、これまでに数多くの賞に入賞し、全国的にも著名な企業である(甲96の4)。
 すなわち、原告の売上高は、2006年度(平成18年度・平成18年4月1日から平成19年3月31日)は約32億円(甲101)と高額であり、直営店を京都、銀座、南青山、名古屋、神戸、札幌、横浜、なんば、恵比寿、小倉と全国展開し、(甲96の5、98の9,10)、特約店、取り扱い店や取引先も全国にわたっている(甲96の11、102、155〜164)。しかも、原告は昭和54年にプラチナデザインコンテストでプラチナギルド賞(甲103)を、昭和58年に京都クラフト展で奨励賞(甲104)を、平成3年に京都ベストデザイン賞で奨励賞(甲105)を受賞し、平成7年にプラチナデザインオブザイヤー95で部門賞2点と入選4点を果たし(甲106〜111)、平成9年と平成13年に京都デザイン優品の認定を受ける(甲112、113)など、そのデザイン性が評価されて知名度が高まった。このような原告の知名度の高まりは、第8回業界人によるジュエリーブランドイメージ調査で、2006年総合ランキング第8位に輝いたことによっても裏付けられる(甲114)。
 また原告は、審決以前からの時期も含め、数多くの一般紙等に紹介されており(甲115〜140、166〜173)、一般人による知名度も高いものといえる。単なる雑誌広告ではなく、雑誌や新聞等に原告の紹介が掲載されているという事実からは、原告の存在が十分に周知されているためであるといえる。
 そして、原告の社名と本願商標の称呼が同一であることからすれば、原告の知名度はそのまま本願商標の知名度につながるが、さらに、原告は、審決以前からの時期も含め、本願商標を各直営店の店舗内(甲141〜143、174、175)や商品のパッケージ(甲144、145)、紙袋(甲146)、ショップ案内カード(甲147)、ノベルティ(甲148)、封筒(甲149)、カタログ(甲150)、雑誌広告(甲151)などにも使用しており、本願商標も周知といえる。
 以上によれば、原告及び本願商標は全国的に周知であるといえ、本願商標からは「俄ブランド」の観念が生じるものといえる。
(ウ) 以上(ア)、(イ)のとおり、本願商標と引用商標とでは、それに関する営業内容、金額、需要者・取引者層等の取引の実情において、全く相違している。そして、本願商標の指定商品である貴金属、身飾品及び時計、とりわけ原告の営業の中心となる宝石は、いずれも高級品であり、これらの需要者、取引者は、たとえば電話のみで注文をして購入することはあり得ず、店舗に足を運び、何度も検討を重ねて購入するのがむしろ経験則に沿うといえる。これらの取引者、需要者が、仮に貴金属、身飾品及び時計に引用商標が付されていたとしても、本願商標と出所混同を生じさせることはあり得ない。そして、本願商標と引用商標の外観が著しく相違することと合わせて考えれば、出所混同のおそれは全くない。
(エ) なお、被告は、取引の実情は指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって、特殊的・限定的なそれを指すものではない、原告は、時計に関する証拠を一切出しておらず、原告の主張は一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情に止まると主張する。
 しかし、被告の主張する立場に立って取引の実情を考慮しても、本願商標と引用商標の出所混同を生じさせることはない。すなわち、本願商標の指定商品である「貴金属・身飾品・時計」はいずれも身に付けるものであるから、たとえ安価なものであったとしても、その外観が極めて重要であるといえる。そうであれば、一般消費者は外観を確認せずに口頭のみで取引をすることはなく、外観の全く異なる本願商標と引用商標の出所を混同することはない。また、宝飾品と時計は同じブランドで製造されることが多く、その商圏及び対象とする一般消費者は同一であるといえるから、ある商標が宝飾品について周知であれば、時計に付されていても誤認混同のおそれはないのであり、原告の主張は、時計も含めた指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情の主張である。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、同(3)は争う。
3 被告の反論
 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 本願商標は商標法4条1項11号に該当する
 商標が類似するかどうかは、最終的には、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきものであり、具体的にその類否判断をするに当たっては、両商標の外観、観念、称呼を観察し、それらが取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであって、決して上記3要素の一つの対比のみによってなされるべきではない。そして少なくともその一つが類似している場合には、当該具体的な取引の実情の下では商品の出所の混同を生ずるおそれはないと考えさせる特別の事情が認められる場合を除いて、出所の混同を生ずるおそれがあるというべきである(最判昭和43年2月27日・民集22巻2号399頁)。
 そして本件においては、後述のとおり、本願商標と引用商標とは、外観及び称呼において類似しており、かつ、取引の実情において商品の出所の混同をきたすおそれはないと考えさせる特別の事情が存するとも認められないから、両商標は類似するというべきである。
(2) 称呼上の非類似の主張に対し
 原告は、引用商標からは「ニワカ」の称呼は生じず、本願商標から生ずる称呼とは類似しないというべきであると主張するが、失当である。
 すなわち、引用商標は、「にわか」及び「二○加」の各構成部分もそれぞれ自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。そうすると、引用商標は、「にわか」の文字部分から「ニワカ」の称呼を生ずるというべきであり、また、下段の「二〇加」の部分も、「にわか」又は「俄」の当て字として知られ、普通に使用されているばかりでなく、両端に「二」(に)及び「加」(か)の漢字を配し、その間に「輪」(わ)を連想させる「○」を配してなる構成であって、その上段に「にわか」の文字が併記されていることから、同様に「ニワカ」の称呼を生ずるというべきである。
 そうすると、本願商標と引用商標は、「ニワカ」の称呼を共通にする類似の商標といわなければならない。
(3) 観念上の非類似の主張に対し
ア 本願商標の観念
(ア) 原告は、本願商標は、「俄」の文字からは、本願商標の指定商品である貴金属・身飾品・時計の取引者及び需要者の通常の注意力を基準とすれば、「だしぬけ、突然」という観念が生じるとしても、「俄狂言」という観念は生じない、「俄狂言」は、現代において日常的に使用される言葉ではなく、現代において「俄」という文字が使用される場面は、「だしぬけ、突然」というような意味合いにおいてでしかないと主張する。
 しかし、「俄(にわか)」は、「@急に変化が現れるさま。(ア)だしぬけ。突然。(イ)すぐさま。即座。A俄狂言の略」(広辞苑第五版〔甲2〕)を意味する漢字であり、「俄狂言」の意味合いをもって現在も広く使用されていることは、以下の(イ)@〜N記載の新聞記事情報及びインターネット情報からも明らかであるから、本願商標は、「だしぬけ、突然」等の観念とともに、「俄狂言」の観念をも生ずるものといわざるを得ない。
(イ)@「2.流し俄」の見出しのもと、「…俄は仁輪加とも二〇加とも表記され、江戸時代中期から明治にかけて京都・大坂・江戸吉原・博多で流行した大衆演劇の一つである。…」との記載(株式会社朝日ネット株式会社が運営するASAHINET掲載記事「部落史研究の現在と学校教科書」〔甲86〕の7頁下2行〜8頁1行)。
A「ニワカ【俄】」の見出しのもと、「即興喜劇。仁輪加・二〇加などとも書くが、いずれも当て字である。」との記載(ホームページ〔甲87〕の1頁7行〜8行)。
B「名流 にわか 俄 仁和賀 二輪嘉 二〇加 仁輪加“道化モンたい”どっこい生きてる(上)博多弁の芝居」の見出しのもと、「「にわか」は俄、仁和賀、仁輪加、二輪嘉、二〇加などとも書かれ、江戸、大阪などの大都市を中心とした民間芸能。…」との記載(中日新聞記事(平成12年3月4日付け夕刊8頁)〔甲88〕の30行〜31行)。
C「連載 キュッと九州 玉名」の見出しのもと、「◆にわか「俄」「仁○加」「仁輪加」「二○加」などとも書かれる、にわか狂言を略した言葉。…現在、全国の31地域で伝承されている。…」との記載(日刊スポーツ記事(2004年(平成16年)11月30日付け)〔乙1〕)。
D「平成13年度指定無形民俗文化財博多仁和加」の見出しのもと、「「にわか」(俄、仁和加、仁輪加、二○加、庭神楽などとも書かれる)とは「にわか狂言」を略した言葉です。祭礼において種々趣向をこらした素人の出し物が演劇化した即興の笑劇であり、18世紀半ばの江戸時代中期から大阪・京都・江戸で流行し、全国各地に伝播したと考えられています。…即興笑劇であることを基準にすると、現在全国20ヶ所で「にわか」が継承されています。このうち文化財に指定されたものに、「佐喜浜にわか」(高知県室戸市佐喜浜町、H6、国指定、無形民俗文化財)、「美濃流しにわか」(岐阜県美濃市、H8.7.9、県指定、無形民俗、H8.11.28、国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択)、「名振のおめつき」(宮城県雄勝町、町指定、無形民俗)、「だんじり仁輪加狂言」(広島県世羅郡甲山町、町指定、無形)の4件があります。…」との記載(福岡市教育委員会のホームページ(http://www.asahi-net.or.jp/.RI5T-MK/13nendo/niwaka.html)〔乙2〕)。
E「にわかに活気づいてきた〜熊本県玉名市」の見出しのもと、「熊本・玉名市では「市民主役」の街づくりが実践されている。…伊倉校区では笑いを交えた即興劇「仁○加(にわか)」が伝承されている特徴を生かし「笑い」をテーマに活動するなど、校区単位で特色ある地域づくりが進んでいる。…◆にわか「俄」「仁○加」「仁輪加」「二○加」などとも書かれる、にわか狂言を略した言葉。…」との記載(日刊スポーツ九州のホームページ(http://www4.nikkan-kyusyu.com/le/kyu/part2/067/top.html)〔乙3〕)。
F「[笑うのもほどほどに]特集ワイド/40 そんなアホな=近藤勝重」の見出しのもと、「…喜劇もまた、ダジャレを主とした即興的寸劇、俄(にわか)の流れをくんで、多くの三枚目、アホ役をつぎつぎ生んでいった。…」との記載(2003年(平成15年)10月22日毎日新聞東京夕刊3頁〔乙4〕)。
G「『文化消息』「にわか学会」を開催 24日 高知市」の見出しのもと、「「第10回にわか学会」が24日午後1時から、高知市永国寺町の高知女子大で開かれる。全国で俄(にわか)を継承している人々のパネル討議などを予定し、一般聴講も歓迎している。パネリストは、佐喜浜俄(室戸市)▽美濃流し俄(岐阜県)▽甲山だんじり俄(広島県)▽博多俄(福岡県)▽高森俄(熊本県)の各保存会メンバー。…」との記載(2007年(平成19年)3月21日付け高知新聞記事〔乙5〕)。
H「とぴっくす:見事な佐賀弁「にわか」披露−−佐賀/佐賀」の見出しのもと、「ユーモラスな佐賀弁のせりふを使った喜劇「佐賀にわか」が3日、佐賀市白山の龍造寺八幡宮の秋祭りで披露された。」との記載(2006年(平成18年)11月4日付け毎日新聞記事〔乙6〕)。
I「第19回国民文化祭・ふくおか2004=過去最多115イベント 多彩に(下)飛梅の里から発信 ジャズ神楽 アジアファッション にわか 日韓交流 ほか」「■第19回国民文化祭・ふくおか2004 10月30日〜11月14日■」 「●にわか 地域の笑い佐賀、熊本も」の見出しのもと、「方言を使った当意即妙のしゃれとユーモアで世相を風刺する「にわか」。11月3日に福岡市で開かれる「にわかの祭典」では、福岡、佐賀、熊本、広島、愛媛5県の代表団体が地域性豊かな「笑い」を発信する。」、「中でも、異色なのが小、中、高校生でつくる「WARAWANBA隊」(佐賀県牛津町)だ。2000年の結成以来、にわかを取り入れたミュージカルを毎年10回以上、上演してきた。」との記載(2004年(平成16年)10月28日付け西日本新聞記事〔乙7〕)。
J「伝統にわか 笑いに新風 甲山小児童 19・20日の「廿日胡」で上演 物語や衣装自作 9演目 けいこに汗」、「伝統にわか笑いに新風」の見出しのもと、「江戸時代から続く甲山町の伝統芸能「甲山にわか」に甲山小の六年生児童三十五人が取り組んでいる。…にわかは、三〜五人が演じ、風刺の笑いで落とす一回三分程度の笑劇。甲山は、福岡県の博多や大阪府の河内と並ぶ伝承地区で、だんじりを引いて市街地を練り歩きながら上演するのが特徴。…祭りの本番では、だんじりを止め、地面に降ろした引き綱の中を舞台に見立てて、にわかを演じる。…」との記載(2004年(平成16年)8月4日付け中国新聞記事〔乙8〕)。
K「「にわか」で大笑い、全国各地から参加 玉名で交流大会/熊本」の見出しのもと、「玉名市伊倉の商店街で17日、全国のにわか劇団を一堂に集めた笑いの祭典「にわか交流大会おもしろかバイ伊倉」があった。九州各地から多くのにわかファンが押し掛け、通りは終日笑いの渦に包まれた。「伊倉仁○加保存会」の創立10周年を記念して、同保存会と伊倉まちづくり委員会が初めて開いた。」、「伊倉は古くから商業の町として栄えた。「伊倉仁○加」は庶民芸能として江戸末期に始まり、地区の行事に合わせて演じられてきた。…」、「参加したのは、国指定無形民俗文化財に指定されている岐阜県美濃市の「美濃流し仁輪加」、高知県室戸市の「佐喜浜にわか」、芸どころ博多の「博多仁和加」と八女市の「本田仁○加」、県内の「伊倉仁○加」「高森にわか」「富合にわか」のほか、伊倉小と玉南中のにわか劇団の9団体。」との記載(2004年(平成16年)10月18日付け朝日新聞記事〔乙9〕)。
L「あす岐阜で全国フェスタ出演 甲山にわか 心意気示すぞ 6人の素人役者 黄門さまと時事ネタ絡める(広島県)」の見出しのもと、「世羅郡甲山町に伝わる伝統の路上こっけい寸劇「甲山にわか」が三十一日、岐阜県美濃市で開かれる国民文化祭の一環「全国にわかフェスタ’99」に出演する。…六月、出演の要請があり、博多にわか(福岡県)河内にわか(大阪府)など六つのにわかとともに、ステージに立つ。」との記載(1999年(平成11年)10月30日付け中国新聞記事〔乙10〕)。
M「矢矧神社にわか保存会(今治市)(旧朝倉町)」の見出しのもと、「「にわか」は、もともと江戸時代の中期に大阪で発生し、現在の喜劇や漫才に発展した庶民芸能です。…矢矧神社のにわかは獅子と一体化している点が特徴です。…」との記載(伊予銀行の「地域貢献への取組み」と題するホームページ(http://www.iyobank.co.jp/chiiki/t026.htm)〔乙11〕)。
N「諏訪神社:豊作願い、天衝の舞−−富士町/佐賀」の見出しのもと、「県重要無形民俗文化財として佐賀市富士町に500年以上続く伝統行事「市川の天衝舞(てんつくみゃあ)浮立」が15日、市川地区の諏訪神社で奉納された。…年寄り衆の「二○加(にわか)」と呼ばれる寸劇で境内が笑いに包まれたところに、高さ2メートル、重さ8キロのテンツキをかぶった舞人(まいびと)が登場。」との記載(2005年(平成17年)10月16日付け毎日新聞地方版/佐賀25頁〔乙12〕)。
イ 引用商標の観念
 原告は、「にわか」という文字からは、通常人の注意力からすれば「だしぬけ、突然」という観念は生じえても「俄狂言」の観念は生じない、「二○加」という記載自体、通常人の注意力からすれば判読困難であるうえ、たとえ「俄狂言」と結びつけるとしても、様々な種類の当て字の1つに過ぎないから、やはり現代における通常人の注意力からすれば「俄狂言」の観念は生じないと主張する。
 しかし、引用商標は、その構成中の「にわか」の文字部分も自他商品の識別力を有するものであるところ、上記アのとおり、「俄狂言」は「にわか」とも略称され、知られているものである。加えて、引用商標の「二○加」の構成部分は、「にわか」又は「俄」の当て字として「ニワカ」と読まれ、普通に使用されている事実が、上記ア(イ)@〜E、Nのインターネット情報及び新聞記事情報からも、十分に窺えるものである。そうすると、引用商標は、構成中の「にわか」の部分及び「二○加」の部分より「俄狂言」の観念をも生ずるというべきである。
ウ したがって、本願商標と引用商標とは、「俄狂言」の観念を共通にする類似の商標というべきである。
エ 仮に、本願商標及び引用商標のいずれよりも「俄狂言」の観念が生じないとしても、「にわか」に相応する漢字は、通常は「俄」であることから、本願商標「俄」の文字と引用商標構成中の「にわか」の文字からは、同一の観念を生ずると考えられ、本願商標「俄」及び引用商標の「にわか」の文字部分より、「俄」(にわか)の語の有する「だしぬけ。突然」の意味(広辞苑〔乙2〕)の観念を生ずるものであり、本願商標と引用商標は、観念において類似するものというべきである。
(4) 取引の実情等から出所混同のおそれがないとの主張に対し
ア 原告は、引用商標を有する東雲堂は、菓子の製造並びに販売を業とする株式会社であり(甲94)、「貴金属、身飾品、時計」の製造販売は、会社目的に含まれずその目的に付随するともいえないと主張する。しかし、商標法4条1項11号は、既登録商標の権利を保護するとともに、取引における競業秩序が重複登録により乱されないようにするという公益保護の見地からも定められたものであるから、引用商標が登録されているものである以上、その登録商標の使用の有無とは関係なく、出所の混同のおそれがあり、かつ、同号の要件を満たすときは、同号が適用されるべきである。
 すなわち、商標法は、先願登録主義を採用し、先願に係る他人の登録商標と抵触する同一又は類似の商標の登録を認めないものとし、そのことによって、登録商標につき商標権者の専用権、禁止権を保障しているものであり、それにもかかわらず、先願に係る他人の登録商標と抵触する同一又は類似の商標の登録を認めることは、登録商標の権利性を希釈化ないし弱体化することになり、上記商標法の趣旨に反するものである。
 また、仮に、原告主張のとおり、引用商標がその商標権者により、「貴金属、身飾品、時計」に使用されていないとしても、「他人の登録商標」が現実に使用されているかどうかということは、類否判断に際し考慮すべき取引の実情には当たらない。
 なお、原告は、引用商標について、博多地方の郷土土産品として知られているものであると主張するが、引用商標が需要者に広く知られているとすることの裏付けがなく、仮に博多地方の郷土土産品として知られているとしても、全国的に知られているということはできないから、この点から見ても、引用商標を「貴金属、身飾品、時計」に使用された場合に引用商標がその構成全体をもって不可分一体に認識されるということはできない。
イ 原告は、本願商標の指定商品である貴金属、身飾品及び時計、とりわけ原告の営業の中心となる宝石は、いずれも高級品であり、これらの需要者、取引者は、たとえば電話のみで注文をして購入することはあり得ず、店舗に足を運び、何度も検討を重ねて購入するのがむしろ経験則に沿う、これらの取引者、需要者が、仮に貴金属、身飾品及び時計に、引用商標が付されていたとしても、本願商標と出所混同を生じさせることはあり得ない、と主張する。
 しかし、商標法4条1項11号の適用の際に考慮される取引の実情とは、指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって、特殊的・限定的なそれを指すものではないところ、原告の主張する事情は、まさに、本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって、本願商標の指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。
 すなわち、仮に、原告の業務に係る宝石(甲96の1〜11)を購入する需要者、取引者が、電話のみで注文をして購入することはあり得ず、店舗に足を運び何度も検討を重ねて購入しているとしても、それが直ちに一般的な購入方法であるとはいえないし、本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「貴金属、身飾品、時計」についてみると、商標法施行規則6条別表によれば、第14類「貴金属、身飾品、時計」には、「貴金属」として、「金合金地金、金粗製品、金地金、金又は金合金の鋳物、はく、粉及び展伸材」等が含まれ、「身飾品」として「カフスボタン、貴金属製き章、貴金属製バッジ、貴金属製ボンネットピン、ネクタイ止め、ネクタイピン、ブレスレット、ペンダント、宝石ブローチ、メダルロケット」等が含まれ、「時計」として「腕時計、置き時計、懐中時計、自動車用時計、ストップウォッチ、柱時計、目覚まし時計、時計鎖、時計バンド」等が含まれており、それらには、高級品以外の安価な商品も含まれているから、「宝石」の需要者、取引者以外のそれらの安価な商品を求める需要者、取引者においては、店舗に足を運び何度も検討を重ねて購入するのが寧ろ経験則であるとは到底いえないし、その裏付けもない。また原告は、時計に関する証拠も一切出していない。
 そうすると、原告が自己の取り扱う「身飾品」について、仮に原告主張の取引の実情があったとしても、原告の主張は、本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的、限定的な取引の実情に止まるものであって、本願商標の指定商品全般について、一般的、恒常的な取引の実情といい得るものでないから、原告の主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 本願商標と引用商標の類否
(1) 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 そこで、以上の見地に立って、本願商標と引用商標の類否について判断する。
(2) 称呼上の類否について
ア 本願商標は、前記第3、1、(1)ア記載のとおり、「俄」の文字を黒地の略正方形で白抜きした構成から成る商標であり、「ニワカ」の称呼が生じると認められる。
 他方、引用商標は、前記第3、1、(2)記載のとおり、目と眉から成る顔面図形、「にわか」、「二○加」の3段の構成から成る商標であって、図形部分と文字部分とを別々に上下に配した構成となっているものである。そして商標は、その作成者の意図如何にかかわらず、常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二つ以上の称呼、観念の生ずることがあり、また一個の称呼、観念のみが許されるのは、各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している場合に限られると解される(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)ところ、上記のような内容を有する引用商標は、その外観上、図形部分と文字部分とが分離されないような態様で構成されているものではなく、また、図形部分と文字部分とが不可分のものとして一つの観念を形成しているものとも言えないから、両部分は、これを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできない。そうすると、引用商標の文字部分から「ニワカ」の称呼が生じると認められる。
 以上によれば、本願商標からは「ニワカ」の称呼が生じると認められ、引用商標からも、「ニワカ」の称呼が生じると認められるから、両商標は称呼において同一というべきである。
イ 原告の主張に対する補足的説明
(ア) 原告は、引用商標において顔面図形が特徴的な外観を呈しており重要な識別機能を担っていること、同図形が引用商標の面積の半分程度を占め、これと比較すると「にわか」の文字の大きさは半分以下であること、「二〇加」の文字が直ちには判読困難であることからすると、顔面図形、「にわか」の文字及び「二〇加」の記載全体が不可分一体のものとして観察する合理的理由があるというべきであるから、引用商標からは「ニワカ」の称呼は生じない、と主張する。
 しかし、上記アに記載した引用商標の構成から見て、引用商標全体から特定の観念を生じるものとは認められず、また、その構成中の図形部分からは、仮面・お面といった観念が生じるかはともかく、何らかの具体的な特定の観念を想起させるとまでは認められない。そうすると、引用商標において、その構成中、面積的にも全体の約半分程度を占める「にわか」等の文字部分が取引者・需要者に対して商品の出所の識別標識として支配的な印象を与えることは否定することができない。また、引用商標の文字部分は、上段においては平仮名で「にわか」と明記されており、下段の「二○加」も、両端に「二」(に)及び「加」(か)の漢字を配し、その間に「輪」(わ)を連想させる「○」を配した構成であって、これに上段の平仮名の「にわか」を併せ見ると、容易に「にわか」の当て字であると認識できるものである。
 以上によれば、顔面図形、「にわか」の文字及び「二〇加」の記載全体が不可分一体のものとして観察する合理的理由があるとはいえず、引用商標からは「ニワカ」の称呼が生じるというべきであるから、原告の上記主張は採用できない。
(イ) また原告は、「にわか」「二○加」の字体はどちらも筆で書かれたような字体であること、顔面図形の眉部分も筆で描いたような太さであることなどから、各構成部分には統一感があり、デザインとして有機的関連性があるといえる、と主張する。
 しかし、たとえ原告の上記指摘を前提にしたとしても、上記アに説示したとおり、引用商標が、図形部分と文字部分とを別々に上下に配した構成となっていることに変わりはなく、その外観上、図形部分と文字部分とが分離されないような態様で構成されているものとはいえないし、また、図形部分と文字部分とが不可分のものとして一つの観念を形成しているものとも言えないものである。そうすると、両部分は、これを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできないことに変わりはないから、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は、商標の一部分から称呼が生じるのは、当該部分が商標の要部であるからであり、要部以外の部分からは称呼は生じないことは経験則上明らかであるところ、引用商標の顔面図形は極めて特徴的であり、他の図形と文字の結合商標に比し、商標から受ける印象における図形の占める割合は非常に大きく、引用商標の文字部分は要部ではない、分離観察の論拠となる簡易迅速を尊ぶ取引の実際という趣旨からしても、簡易迅速を尊んだ場合、文字を読むよりも図形を認識する方が重要である、と主張する。
 しかし、上記アに説示したとおり、引用商標の図形部分から何らかの具体的な特定の観念を想起させるとまでは認められないものであり、また上記(ア)に説示したとおり、引用商標において、その構成中、面積的にも全体の約半分程度を占める「にわか」等の文字部分が取引者・需要者に対して商品の出所の識別標識として支配的な印象を与えることは否定できないものであるから、原告の上記主張は採用できない。
(3) 観念上の類否について
ア(ア) 前記のとおり、本願商標は、「俄」の文字を黒地の略正方形で白抜きした商標であり、他方、引用商標は、目と眉から成る顔面図形、「にわか」、「二○加」の3段から成る商標であるが、両者ともに、「ニワカ」の称呼が生じると認められるものである。
(イ) しかるに、広辞苑第五版(甲2)によれば、「にわか」の語義は、「急に変化が現れるさま。」「だしぬけ。突然。」「すぐさま。即座。」という語義のほか、「俄狂言の略。素人が座敷・街頭で行なった即興の滑稽寸劇で、のちに寄席などで興行されたもの。」という語義があると認められる。
(ウ) さらに、後掲各証拠によれば、新聞及びホームページにおいて、以下の@〜Nの記載があることが認められる。
@「2.流し俄」の見出しのもと、「…俄は仁輪加とも二〇加とも表記され、江戸時代中期から明治にかけて京都・大坂・江戸吉原・博多で流行した大衆演劇の一つである。…」との記載(株式会社朝日ネット株式会社が運営するASAHINET掲載記事「部落史研究の現在と学校教科書」〔甲86〕の7頁下2行〜8頁1行)。
A「ニワカ【俄】」の見出しのもと、「即興喜劇。仁輪加・二〇加などとも書くが、いずれも当て字である。」との記載(ホームページ〔甲87〕の1頁7行〜8行)。
B「名流 にわか 俄 仁和賀 二輪嘉 二〇加 仁輪加“道化モンたい”どっこい生きてる(上)博多弁の芝居」の見出しのもと、「「にわか」は俄、仁和賀、仁輪加、二輪嘉、二〇加などとも書かれ、江戸、大阪などの大都市を中心とした民間芸能。…」との記載(中日新聞記事(平成12年3月4日付け夕刊8頁)〔甲88〕の30行〜31行)。
C「連載 キュッと九州 玉名」の見出しのもと、「◆にわか「俄」「仁○加」「仁輪加」「二○加」などとも書かれる、にわか狂言を略した言葉。…現在、全国の31地域で伝承されている。…」との記載(日刊スポーツ記事(2004年(平成16年)11月30日付け)〔乙1〕)。
D「平成13年度指定 無形民俗文化財 博多仁和加」の見出しのもと、「「にわか」(俄、仁和加、仁輪加、二○加、庭神楽などとも書かれる)とは「にわか狂言」を略した言葉です。祭礼において種々趣向をこらした素人の出し物が演劇化した即興の笑劇であり、18世紀半ばの江戸時代中期から大阪・京都・江戸で流行し、全国各地に伝播したと考えられています。…即興笑劇であることを基準にすると、現在全国20ヶ所で「にわか」が継承されています。このうち文化財に指定されたものに、「佐喜浜にわか」(高知県室戸市佐喜浜町、H6、国指定、無形民俗文化財)、「美濃流しにわか」(岐阜県美濃市、H8.7.9、県指定、無形民俗、H8.11.28、国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択)、「名振のおめつき」(宮城県雄勝町、町指定、無形民俗)、「だんじり仁輪加狂言」(広島県世羅郡甲山町、町指定、無形)の4件があります。…」との記載(福岡市教育委員会のホームページ(http://www.asahi-net.or.jp/.RI5T-MK/13nendo/niwaka.html)〔乙2〕)。
E「にわかに活気づいてきた〜熊本県玉名市」の見出しのもと、「熊本・玉名市では「市民主役」の街づくりが実践されている。…伊倉校区では笑いを交えた即興劇「仁○加(にわか)」が伝承されている特徴を生かし「笑い」をテーマに活動するなど、校区単位で特色ある地域づくりが進んでいる。…◆にわか「俄」「仁○加」「仁輪加」「二○加」などとも書かれる、にわか狂言を略した言葉。…」との記載(日刊スポーツ九州のホームページ(http://www4.nikkan-kyusyu.com/le/kyu/part2/067/top.html)〔乙3〕)。
F「[笑うのもほどほどに]特集ワイド/40 そんなアホな=近藤勝重」の見出しのもと、「…喜劇もまた、ダジャレを主とした即興的寸劇、俄(にわか)の流れをくんで、多くの三枚目、アホ役をつぎつぎ生んでいった。…」との記載(2003年(平成15年)10月22日毎日新聞東京夕刊3頁〔乙4〕)。
G「『文化消息』「にわか学会」を開催 24日 高知市」の見出しのもと、「「第10回にわか学会」が24日午後1時から、高知市永国寺町の高知女子大で開かれる。全国で俄(にわか)を継承している人々のパネル討議などを予定し、一般聴講も歓迎している。パネリストは、佐喜浜俄(室戸市)▽美濃流し俄(岐阜県)▽甲山だんじり俄(広島県)▽博多俄(福岡県)▽高森俄(熊本県)の各保存会メンバー。…」との記載(2007年(平成19年)3月21日付け高知新聞記事〔乙5〕)。
H「とぴっくす:見事な佐賀弁「にわか」披露−−佐賀/佐賀」の見出しのもと、「ユーモラスな佐賀弁のせりふを使った喜劇「佐賀にわか」が3日、佐賀市白山の龍造寺八幡宮の秋祭りで披露された。」との記載(2006年11月4日付け毎日新聞記事〔乙6〕)。
I「第19回国民文化祭・ふくおか2004=過去最多115イベント 多彩に(下)飛梅の里から発信 ジャズ神楽 アジアファッション にわか 日韓交流 ほか」「■第19回国民文化祭・ふくおか2004 10月30日〜11月14日■」「●にわか 地域の笑い 佐賀、熊本も」の見出しのもと、「方言を使った当意即妙のしゃれとユーモアで世相を風刺する「にわか」。11月3日に福岡市で開かれる「にわかの祭典」では、福岡、佐賀、熊本、広島、愛媛5県の代表団体が地域性豊かな「笑い」を発信する。」、「中でも、異色なのが小、中、高校生でつくる「WARAWANBA隊」(佐賀県牛津町)だ。2000年の結成以来、にわかを取り入れたミュージカルを毎年10回以上、上演してきた。」との記載(2004年(平成16年)10月28日付け西日本新聞記事〔乙7〕)。
J「伝統にわか 笑いに新風 甲山小児童 19・20日の「廿日胡」で上演 物語や衣装自作 9演目 けいこに汗」、「伝統にわか 笑いに新風」の見出しのもと、「江戸時代から続く甲山町の伝統芸能「甲山にわか」に甲山小の六年生児童三十五人が取り組んでいる。…にわかは、三〜五人が演じ、風刺の笑いで落とす一回三分程度の笑劇。甲山は、福岡県の博多や大阪府の河内と並ぶ伝承地区で、だんじりを引いて市街地を練り歩きながら上演するのが特徴。…祭りの本番では、だんじりを止め、地面に降ろした引き綱の中を舞台に見立てて、にわかを演じる。…」との記載(2004年(平成16年)8月4日付け中国新聞記事〔乙8〕)。
K「「にわか」で大笑い、全国各地から参加 玉名で交流大会/熊本」の見出しのもと、「玉名市伊倉の商店街で17日、全国のにわか劇団を一堂に集めた笑いの祭典「にわか交流大会おもしろかバイ伊倉」があった。九州各地から多くのにわかファンが押し掛け、通りは終日笑いの渦に包まれた。「伊倉仁○加保存会」の創立10周年を記念して、同保存会と伊倉まちづくり委員会が初めて開いた。」、「伊倉は古くから商業の町として栄えた。「伊倉仁○加」は庶民芸能として江戸末期に始まり、地区の行事に合わせて演じられてきた。…」、「参加したのは、国指定無形民俗文化財に指定されている岐阜県美濃市の「美濃流し仁輪加」、高知県室戸市の「佐喜浜にわか」、芸どころ博多の「博多仁和加」と八女市の「本田仁○加」、県内の「伊倉仁○加」「高森にわか」「富合にわか」のほか、伊倉小と玉南中のにわか劇団の9団体。」との記載(2004年(平成16年)10月18日付け朝日新聞記事〔乙9〕)。
L「あす岐阜で全国フェスタ出演 甲山にわか 心意気示すぞ 6人の素人役者 黄門さまと時事ネタ絡める(広島県)」の見出しのもと、「世羅郡甲山町に伝わる伝統の路上こっけい寸劇「甲山にわか」が三十一日、岐阜県美濃市で開かれる国民文化祭の一環「全国にわかフェスタ’99」に出演する。…六月、出演の要請があり、博多にわか(福岡県)河内にわか(大阪府)など六つのにわかとともに、ステージに立つ。」との記載(1999年(平成11年)10月30日付け中国新聞記事〔乙10〕)。
M「矢矧神社にわか保存会(今治市)(旧朝倉町)」の見出しのもと、「「にわか」は、もともと江戸時代の中期に大阪で発生し、現在の喜劇や漫才に発展した庶民芸能です。…矢矧神社のにわかは獅子と一体化している点が特徴です。…」との記載(伊予銀行の「地域貢献への取組み」と題するホームページ(http://www.iyobank.co.jp/chiiki/t026.htm)〔乙11〕)。
N「諏訪神社:豊作願い、天衝の舞−−富士町/佐賀」の見出しのもと、「県重要無形民俗文化財として佐賀市富士町に500年以上続く伝統行事「市川の天衝舞(てんつくみゃあ)浮立」が15日、市川地区の諏訪神社で奉納された。…年寄り衆の「二○加(にわか)」と呼ばれる寸劇で境内が笑いに包まれたところに、高さ2メートル、重さ8キロのテンツキをかぶった舞人(まいびと)が登場。」との記載(2005年(平成17年)10月16日付け毎日新聞地方版/佐賀25頁〔乙12〕)。
(エ) 以上の(ア)〜(ウ)によれば、一般の取引者・需要者の見地から見て、「俄」が伝統芸能である「俄狂言」をも想起させることが認められるから、両商標は、観念においても同一と認められる。
 もっとも、本願商標は「俄」・引用商標は「にわか」又は「二○加」であって、いずれも伝統芸能である「俄狂言」との結び付きを明示するものではなく、かつ、「俄狂言」の観念は一般の取引者・需要者にとって必ずしもなじみの深いものではないと見る余地もあるが、「俄」・「にわか」のもう一つの意味である「急に変化が現れるさま」「だしぬけ、突然」等においては、価値中立的で性質・状態を示す一般的な形容動詞と理解できるため、本願商標及び引用商標に共通する各指定商品におけるような高級な商品の取引者・需要者に良いイメージを与え、販売促進の効果を目ざすような場合にあっては、「俄」又は「にわか」の観念は、むしろ同様に高級なイメージを有する「俄狂言」に結び付き易いと認められるから、結局両商標は、観念においても同一であるということになる。
イ 原告の主張に対する補足的説明
(ア) 原告は、本願商標の「俄」の文字からは、本願商標の指定商品である貴金属・身飾品・時計の取引者及び需要者の通常の注意力を基準とすれば、「だしぬけ、突然」という観念が生じるとしても、「俄狂言」という観念は生じない、「俄狂言」は、審決に「…江戸時代中期から明治にかけて京都・大阪・江戸吉原・博多で流行した大衆演劇の一つ…」(2頁14行〜15行)とされているとおり、現代において日常的に使用される言葉ではなく、現代において、「俄」という文字が使用される場面は、「だしぬけ、突然」というような意味合いにおいてでしかない、と主張する。
 しかし、上記ア(エ)に説示したとおり、一般の取引者・需要者の見地から見て「俄」が伝統芸能である「俄狂言」を想起させることは、広辞苑第五版(甲2)の記載や新聞及びホームページにおける多数の記事等によって認められるから、伝統芸能である「俄狂言」が現代において日常的に使用される言葉ではないとしても、一般の取引者・需要者の見地から見て「俄」が伝統芸能である「俄狂言」を想起させること自体が左右されるものではない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また原告は、審決では、引用商標の顔面図形からは「俄狂言」の観念を生じさせるとの根拠は何ら示されていないと主張する。しかし、前記(2)アに説示したとおり、引用商標の図形部分と文字部分とは、これを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできないのであって、そうである以上、原告が指摘する上記事情にかかわらず、上記ア(エ)に説示したとおり、「ニワカ」との称呼が生じる引用商標から、「俄狂言」との観念が生じると認められるものである。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) また原告は、「二〇加」という記載は、通常人の注意力からすれば判読困難であるうえ、審決にもあるように、たとえ「俄狂言」と結びつけるとしても、様々な種類の当て字の一つに過ぎないのであるから、やはり現代における通常人の注意力からすれば「俄狂言」の観念は生じないというべきであると主張する。
 しかし、仮に「二〇加」が一見それ自体では判読困難な、様々な種類の当て字の一つであるとしても、前記(2)イ(ア)に説示したとおり、引用商標の文字部分において、上段においては平仮名で「にわか」と明記され、下段の「二○加」も、両端に「二」(に)及び「加」(か)の漢字を配し、その間に「輪」(わ)を連想させる「○」を配した構成であるから、これに上段の平仮名の「にわか」を併せて見ると容易に「にわか」の当て字であると認識できるものであり、「二〇加」が「にわか」と認識できる以上、さらに「俄狂言」の観念が生じることは上記アに説示したとおりである。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) さらに原告は、通常人が「俄」を「俄狂言」であると観念できるのであれば、「俄」についての説明は不要であるところ、被告が提出する新聞記事情報及びインターネット情報(乙1〜12)においても、文字数の少ない地方紙以外では「俄」についての説明が記載されており、わざわざ説明を要する言葉であるということは、通常人が観念しえない言葉であるからに他ならないと主張する。
 しかし、たとえ新聞記事情報やインターネット情報(乙1〜12)に「俄」についての説明が記載されたものが存在したとしても、他方、上記ア(ウ)G、H、K、L、Nに記載したように、「俄」についての説明が特に記載されているとはいえない新聞記事も存在するのであり、これを文字数の少ない地方紙であるから本来必要な説明を省いたものと断定することには無理がある。そして、上記(ウ)@〜Nに記載した各記事の内容を精査しても、「にわか…にわか狂言を略した言葉」(乙1、乙3)、「にわかとはにわか狂言を略した言葉です。」(乙2)、「ダジャレを主とした即興的寸劇、俄」(乙4)、「方言を使った当意即妙のしゃれとユーモアで世相を風刺するにわか」(乙7)、「にわかは…一回三分程度の寸劇」(乙8)、「にわかは、…庶民芸能です。」(乙11)などの記載は、その他の記載と併せて見れば、伝統芸能である「俄狂言」を現代において地域社会等の中で上演し好評を博したことの紹介をするため、その前提として記事を分かりやすくする見地から記載されていると見ることができるものであって、一般の取引者・需要者が「俄」「にわか」から伝統芸能である「俄狂言」を想起できないために説明を記載したものと直ちには認められない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
(4) 取引の実情等から出所混同のおそれがないといえるか
ア 上記(2)、(3)で認定判断したとおり、本願商標と引用商標は、称呼及び観念において同一のものであるから、それぞれの外観に差異があることを考慮しても、両商標は称呼及び観念を共通にする類似商標というべきである。
イ 原告は、その売上高が2006年度(平成18年度・平成18年4月1日から平成19年3月31日)は約32億円(甲101)と高額であり、直営店を京都(本店)、銀座、南青山、名古屋、神戸、札幌、横浜、なんば、恵比寿、小倉等と全国展開しており(甲96の5、98の9,10)、特約店、取り扱い店や取引先も全国にわたっている(甲96の11、102、155〜164)、しかも、原告は、デザインについて多数の賞を受ける(甲103〜113)など、そのデザイン性が評価され、第8回業界人によるジュエリーブランドイメージ調査でも、2006年総合ランキング第8位であった(甲114)ほか、審決以前からの時期も含め、数多くの一般紙等に紹介されており(甲115〜140、166〜173)、本願商標を各直営店の店舗内などで様々な態様で使用していること(甲141〜151、174、175)等に照らせば、本願商標は全国的に周知であり、本願商標からは「俄ブランド」の観念が生じる旨主張する。
 しかし、前記2(1)に記載したとおり、商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断すべきであり、上記具体的な取引状況とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものと解すべきであるところ、原告が指摘するような売上高の規模、直営店等の展開、デザイン等の受賞、一般紙への紹介等によっても、本願商標の指定商品である第14類「貴金属、身飾品、時計」全般についての一般的、恒常的な事情といえるほどの周知著名性が具備されたとまで認めることはできない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、引用商標の商標権者であるAは、「にわかせんぺい」の製造販売を業とする東雲堂(福岡市が本店所在地)の取締役である(甲1、94、95)ところ、東雲堂は、菓子の製造並びに販売を業とする会社であり(甲94)、「貴金属、身飾品、時計」の製造販売は、会社目的に含まれず、その目的に付随するともいえない、と主張する。
 しかし、たとえ東雲堂の会社目的に「貴金属、身飾品、時計」の製造販売が含まれず、その目的に付随するともいえないとしても、本願商標と引用商標との類似性を判断する上で斟酌すべき取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものと解すべきであるところ、本願商標の指定商品である第14類「貴金属、身飾品、時計」は、前記第3、1、(2)に記載したとおり、引用商標の指定商品にも含まれている。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
エ また原告は、にわかせんぺいとは、東雲堂を紹介したホームページ(甲1)に「博多のお土産」との表題のもと「古くから博多の郷土芸能、として、庶民の間で親しまれている博多仁和加。この反面を形どったユーモアあふれるせんぺいが『にわかせんぺい』です。…」と記載しているとおり、博多地方の郷土土産品として知られているものである、すなわち、引用商標は「にわかせんぺい」として有名な商標であり(甲1、152〜154)、「顔面図形」がそのまま煎餅の形として販売されていることからすれば(甲152、153)、引用商標からは「にわかせんぺいブランド」の観念が生じる、「にわかせんぺい」は博多の郷土品であるが、博多土産の定番であるため、その知名度は全国的である(甲153、154)と主張する。
 しかし、原告指摘の上記事情によっても、これは両商標の共通する指定商品たる「貴金属、身飾品、時計」にかかる事情ではなく、また上記事情をもって引用商標の指定商品全般についての一般的、恒常的な事情といえるほどの周知著名性が具備されたと認めることはできない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
オ また原告は、本願商標の指定商品である貴金属、身飾品及び時計、とりわけ原告の営業の中心となる宝石は、いずれも高級品であり、これらの需要者、取引者は、たとえば電話のみで注文をして購入することはあり得ず、店舗に足を運び、何度も検討を重ねて購入するのがむしろ経験則に沿うから、これらの取引者、需要者が、仮に貴金属、身飾品及び時計に引用商標が付されていたとしても、本願商標と出所混同を生じさせることは全くあり得ず、本願商標と引用商標の外観が著しく相違することと合わせて考えれば、出所混同のおそれは全くないと主張する。
 しかし、貴金属はともかく、様々な種類、価格帯があり得る身飾品、時計全般について当然に原告指摘の上記事情が当てはまるとはいえないから、同事情が本願商標の指定商品たる「貴金属、身飾品、時計」全般についての一般的、恒常的な事情に当たるということはできず、本願商標と引用商標の外観の相違を考慮に入れても、上記判断を左右するものではない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
カ また原告は、本願商標の指定商品である「貴金属・身飾品・時計」はいずれも身に付けるものであるから、たとえ安価なものであったとしても、その外観が極めて重要である、そうであれば、一般消費者は外観を確認せずに口頭のみで取引をすることはなく、外観の全く異なる本願商標と引用商標の出所を混同することはない、と主張する。
 しかし、一般消費者について原告が指摘する上記事情があるとしても、取引者についても当然に同様であるとはいえない以上、本願商標の指定商品である「貴金属・身飾品・時計」の取引者・需要者が、同指定商品全般において、商標を称呼、観念によって識別することがほとんどないという一般的、恒常的な取引の実情が存在するということはできないから、原告の上記主張は採用できない。
キ さらに原告は、宝飾品と時計は同じブランドで製造されることが多く、その商圏及び対象とする一般消費者は同一であるといえるから、ある商標が宝飾品について周知されていれば、時計に付されていても誤認混同のおそれはないといえるのであり、原告の主張は、時計も含めた指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情の主張である、と主張する。
 しかし、宝飾品と時計の製造者や消費者にある程度の重なりがあるとしても、ある商標がある指定商品(例えば「貴金属」等の宝飾品)において周知であれば、当然に、これが別の指定商品(例えば「時計」)においても周知であるということはできないから、原告の上記主張は前提を欠き採用できない。
(5) 小括
 以上に説示したところによれば、本願商標と引用商標は、その称呼、観念において同一のものであり、全体的に考察してみて、本願商標は、引用商標の類似商標と認めるのが相当である。したがって、本願商標の指定商品が引用商標の指定商品に含まれる以上、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
3 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 田中孝一
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