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【事件名】強盗殺人未遂事件被告の名誉棄損事件
【年月日】平成19年7月27日
 大阪地裁 平成18年(ワ)第3663号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して80万円及びこれに対する平成15年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して1000万円及びこれに対する平成15年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、本判決確定直後に発行される雑誌「週刊新潮」に、別紙1記載の謝罪広告を別紙2記載の要領で掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告株式会社新潮社(以下「被告新潮社」という。)の発行した「週刊新潮」2003年(平成15年)10月23日号(以下「本件雑誌」という。) に掲載された原告についての記事( 以下「本件記事」という。)により、その名誉を毀損されたと主張して、被告新潮社及び被告新潮社における本件雑誌の編集長であった被告C(以下「被告C」という。)に対し、民法709条(被告Cにつき)、715条1項(被告新潮社につき)及び723条に基づき、慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為の日である平成15年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯による支払、並びに、名誉を回復するのに適当な処分として、「週刊新潮」誌上における謝罪広告の掲載を請求する事案である。
 本件記事は、平成7年3月30日に国松孝次警察庁長官(当時)が狙撃された事件(以下「国松長官狙撃事件」という。)及び同年7月30日に東京都八王子市のスーパー「E」で、アルバイトの女子高校生ら3人が強盗犯人に射殺された事件(以下「スーパーE強殺事件」という。)等について書かれたものであるところ、原告は、本件記事について、原告がスーパーE強殺事件その他の未解決事件(国松長官狙撃事件を除く。)の犯人であるとの事実を摘示した上で原告を殺人鬼と評しているものであり、そのことが原告に対する名誉毀損に当たると主張して、上記損害賠償等を請求する。
1 前提となる事実(末尾に証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、平成15年10月当時、平成14年11月22日に名古屋市内のF銀行押切支店駐車場で現金輸送車を襲撃し、警備員に銃を発砲して重傷を負わせた事件(以下「F銀行押切支店強殺未遂事件」という。)で、強盗殺人未遂等の罪により、名古屋地方裁判所から懲役15年に処するとの判決を言い渡され、同判決を不服として控訴中であった。なお、その後、上記事件の控訴審である名古屋高等裁判所は、原告について、懲役15年の刑を維持する旨の判決(ただし、原告の殺意については否定し、強盗致傷罪にとどまるとの認定をした。)をし、原告の上告を最高裁判所が棄却したことから、上記判決が確定した。(乙19、20、31、32の1・2、乙65、71、原告本人)
 また、原告は、平成15年10月当時、報道機関から、大阪で起きた数件の金融機関に対する強盗事件に関与したとの疑いをかけられていた(このうち、平成13年10月に大阪市でH銀行都島支店の警備員を狙撃して重傷を負わせ、500万円を奪った事件を、以下「H銀行都島支店強殺未遂事件」という。このほかに原告が関与したのではないかとの疑いがかけられていた事件は、I銀行今里支店における強盗殺人未遂事件、J信用金庫深江支店における強盗殺人未遂事件(以下「J信金深江支店強殺未遂事件」という、K銀行玉出支。) 店における強盗殺人未遂事件である(以下、これらの4つの事件を併せて、「大阪の各強殺未遂事件」という。)。(乙7、10、弁論の全趣旨)
 なお、原告は、昭和31年11月に警察官を射殺した事件(以下「昭和31年の殺人事件」という。)で、殺人罪により無期懲役の刑に処せられた前科があり、上記刑で服役した後、昭和51年に仮釈放されている。
イ 被告新潮社は、週刊新潮を始めとする書籍及び雑誌の出版等を業とする株式会社である。週刊新潮は、全国の書店等で販売されている週刊誌である。(弁論の全趣旨)
 被告Cは、平成15年10月当時、被告新潮社において週刊新潮の編集長を務めていた。
(2) G新聞の掲載記事
 G新聞は、平成15年10月7日付けで、「拘置の男再逮捕へ」、「八王子スーパー強盗3人射殺」、「大阪の銃撃と線条痕酷似」、「拳銃十数丁押収6件の強盗関与か」などの見出しが付けられ、スーパーE強殺事件とJ信金深江支店強殺未遂事件で使われた銃弾の線条痕が酷似しており、大阪の各強殺未遂事件の疑いがかけられている男は、F銀行押切支店強殺未遂事件について1審で有罪判決を受け拘置中の者である旨等を内容とする記事(以下「本件G新聞記事」という。)を掲載した。
(3) 本件記事の掲載及びその内容
 被告Cは、平成15年10月16日、本件記事を、本件雑誌に4頁にわたって掲載した。本件記事の内容は別紙3のとおりであり、見開きとなる1頁目と2頁目に、大見出しとして「[特集]『国松長官・狙撃犯』は東大中退の“殺人鬼”だった!『八王子スーパーで3人射殺』と報じられた強盗犯の恐るべき正体」と記載され、原告の実名が明らかにされているほか、その顔写真が掲載されている。(甲1、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 本件記事は、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものであるか。
(2) 本件記事における「殺人鬼」との論評について
ア 本件記事の掲載が専ら公益を図る目的によるものと認められるか。
イ 本件記事における「殺人鬼」との論評につき、その前提となる重要な事実が真実である、又は、被告らにおいて上記事実を真実と信じるについて相当な理由があったと認められるか。
(3) 本件記事は、人身攻撃に当たるなど公正な論評の域を逸脱したものであるか。
(4) 慰謝料額
(5) 謝罪広告請求の当否
3 争点(1)(本件記事は、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものであるか。)について
(原告の主張)
 本件雑誌の一般の読者は、本件記事の見出しやリードを読むことにより,原告が、国松長官狙撃事件の犯人であるのみならず、スーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を抱くものと認められ、その上で本件記事の本文を読んだ場合、原告をスーパーE強殺事件を含む複数の未解決事件の犯人であると信じるに至るものと認められる。
 よって、本件記事が、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものであることは明らかである。
(被告らの主張)
 本件記事の見出し全体を普通に読んだ場合、国松長官狙撃事件の犯人は、東京大学を中退しており、スーパーE強殺事件の犯人であると報道された者であったという趣旨の記事であると理解することができる。また、本件記事のリードでは、F銀行押切支店強殺未遂事件を犯した男が、スーパーE強殺事件にも関与しているのではないかという本件G新聞記事の報道内容を紹介しているにすぎない。そして、本件記事の本文を読めば、原告は、F銀行押切支店強殺未遂事件を犯し、また、スーパーE強殺事件に関与しているのではないかと報道されたとの内容が記載されているということが読み取れる。
 見出しやリードは、文字数が限られ、また、読者の関心を引くために誇張した表現などが用いられることが多く、見出しやリードだけでは一義的に記事の意味内容を理解することはできないため、記事の本文と併せて読む必要があることはいうまでもない。
 以上によれば、本件記事は、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの内容を報道したものではなく、スーパーE強殺事件や大阪の各強殺未遂事件について原告が関与している旨の報道がされた事実を紹介したものにすぎず、その上で、原告が国松長官狙撃事件の犯人ではないかということを報道したものである。
 その上で、本件記事は、原告が、スーパーE強殺事件の犯人として報道されたこと、F銀行押切支店強殺未遂事件で拘置されていること、警察組織のトップを殺傷能力の高い銃で狙撃したという国松長官狙撃事件の犯人として捜査線上に浮かんだこと、昭和31年の殺人事件において、警察官を至近距離からその頭部を打ち抜くという方法で殺害したこと、殺意の有無はともかくとして、F銀行押切支店強殺未遂事件で、無抵抗の人間に向けて銃を発砲し、重傷を負わせたこと、自宅や銀行の貸金庫に大量の銃器を隠匿していた上、山中で銃撃の訓練までしていたことといった事実を踏まえ、原告を「殺人鬼」と評しているのである。
 以上のとおり、本件記事は、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものではない。
4 争点(2)ア(本件記事の掲載が専ら公益を図る目的によるものと認められるか。)について
(被告らの主張)
 本件記事は、F銀行押切支店強殺未遂事件で勾留されている原告が、スーパーE強殺事件に関与しているのではないかという本件G新聞記事を紹介した上で、国松長官狙撃事件の犯人として捜査線上に浮上したことを報道したものであり、その掲載は専ら公益を図る目的に出たものというべきである。
(原告の主張)
 被告らは、既に誤報であることが判明していた本件G新聞記事や、原告の古い前科その他の経歴を取り上げ、原告を未解決の事件の犯人に仕立て上げて殺人鬼扱いするものであり、読者の好奇心をあおることで売上部数の増加につなげようとする営業利益追求の目的をもって、本件雑誌に本件記事を掲載したものである。したがって、本件記事の掲載が、専ら公益を図る目的に出たものであるということはできない。
5 争点(2)イ(本件記事における「殺人鬼」との論評につき、その前提となる重要な事実が真実である、又は、被告らにおいて上記事実を真実と信じるについて相当な理由があったと認められるか。)について
(被告らの主張)
 本件記事における「殺人鬼」との論評の前提となる重要な事実は、スーパーE強殺事件や大阪の各強殺未遂事件に関しては、本件G新聞記事の報道があったとの事実であるところ、上記記事が報道されたことは真実である。
 被告らは、原告に関する取材の過程で、警視庁の幹部から、原告がスーパーE強殺事件、国松長官狙撃事件や大阪の各強殺未遂事件等に関与した疑いがあるとして捜査が行われていること、三重県内にある原告のアジトや原告の協力者名義の貸金庫等から、大量の銃や弾丸、国松長官狙撃事件に原告が関与していることを疑わせる日記等が発見されたことなどの事実を知るに至った。その上で、被告新潮社の記者らにおいて、F銀行押切支店強殺未遂事件の裁判を傍聴し、原告の国選弁護人や原告の弟らにも取材を行うなど、被告らは必要な取材を継続したものである。なお、警視庁捜査一課長は、本件G新聞記事が報道された翌日、上記記事内容に係る事実を否定しているが、一般に警察当局は捜査情報が報道機関に漏洩することを嫌うことなどからすると、警視庁捜査一課長の上記対応をもって、本件G新聞記事の内容が誤りであったということはできない。このような事情によれば、被告らが本件記事を掲載した当時、原告がスーパーE強殺事件に関与していた事実を否定できる状況にはなかったというべきである。
 以上のとおり、被告らが本件記事において原告を「殺人鬼」と評したことについては、その前提となる重要な事実は真実であると認められ、仮にそうでないとしても、被告らにおいて上記事実を真実と信じるについては相当な理由があったと認められる。
(原告の主張)
 本件G新聞記事による報道の後、警視庁捜査一課長が明確に上記報道の内容を否定しており、本件G新聞記事の内容は誤報であったことが判明している。被告Cは、本件記事を掲載するに当たり、更に裏付けの取材をすべきであった。
 原告は、本件記事が掲載された当時、H銀行都島支店強殺未遂事件については刑事訴訟が係属中であって起訴事実を否認していたし、大阪の各強殺未遂事件についても、現在に至るまで、起訴されるどころか、警察による事情聴取すら受けていない。
 また、被告Cや被告新潮社の記者らは、本件記事を掲載する前に、原告及び刑事事件における原告の弁護人に対して何の取材もしなかった。
6 争点(3)(本件記事は、人身攻撃に当たるなど公正な論評の域を逸脱したものであるか。)について
(原告の主張)
 原告は、昭和31年の殺人事件以外には人を殺していないのであって、それにもかかわらず、本件記事が原告を殺人鬼と評したことは、原告に対する人身攻撃に当たり、公正な論評の域を逸脱したものである。
(被告らの主張)
 原告がF銀行押切支店強殺未遂事件を犯し、勾留されていること、国松長官狙撃事件の狙撃犯として原告が捜査線上に浮上したこと、本件G新聞記事の報道、原告による多数の拳銃所持や山中での銃撃練習等の事実を前提とすれば、原告を殺人鬼と評することには合理性があり、そのことをもって、本件記事が原告に対する人身攻撃に当たるなど、公正な論評の域を逸脱したものであるということはできない。
7 争点(4)(慰謝料額)について
(原告の主張)
 本件記事の掲載により名誉を毀損された原告の精神的損害に対する慰謝料としては、1000万円の支払を被告らに命じるのが相当である。
(被告らの主張)
 争う。
8 争点(5)(謝罪広告請求の当否)について
(原告の主張)
 原告は、本件記事によって名誉を毀損されたのであるから、原告の名誉を回復するためには、原告が請求する内容による謝罪広告の掲載を命ずる必要がある。
(被告らの主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件記事は、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものであるか。)について
(1) 本件記事の記載内容
 前記前提となる事実及び証拠(甲1)により本件記事の記載内容を検討すると、次のとおりである。
ア 本件記事は、4頁にわたって組まれた特集記事であるところ、1頁目から2頁目にかけて、大見出しとして「[特集]『国松長官・狙撃犯』は東大中退の“殺人鬼”だった!『八王子スーパーで3人射殺』と報じられた強盗犯の恐るべき正体」との記載がされており、上記記載が見開きとなる1頁目から2頁目にかけての中央部分を大きく占めている。また、「八王子で射殺された被害者」などとの説明文が付されたスーパーE強殺事件の被害者3人の顔写真、「“殺人鬼”A」との説明文が付された原告の顔写真、「狙撃された国松孝次長官(当時)」との説明文が付された国松孝次元警察庁長官の写真が、上記大見出しの記載を囲むように掲載されている。これらの大見出し及び写真は、1頁目と2頁目とを併せた全体の約2分の1を占めている。
イ 本件記事の1頁目の冒頭には、リードとして、「『スーパー3人射殺』『拘置の男再逮捕へ』―7日、G新聞が放ったスクープ報道。名古屋で銀行強盗を犯した男が、8年前、東京・八王子のスーパーで女子高生ら3人が射殺された凶悪事件にも関与しているのではないか、という内容だ。が、当局がこの稀代の“殺人鬼”をターゲットに据え、追っていた事件はもうひとつあった。95年3月、警察トップが狙われた『国松長官狙撃事件』である。」と記載されている。
ウ 本件記事の本文においては、国松長官狙撃事件の捜査の状況等が記載された後、上記大見出しとリードの間にほぼ挟まれるような位置に、「『スーパー強盗』『大阪の銃撃と線条痕酷似』。G新聞が1面トップでスクープを飛ばしたのは、 7 日のことだ。・・・内容は概ね次のようなものだ。」との記載のもとに、本件G新聞記事の報道内容を紹介する形式を採って、スーパーE強殺事件の概要、大阪の各強殺未遂事件のうち、J信金深江支店強殺未遂事件で使われた銃とI銀行今里支店における強盗殺人未遂事件で使われた銃の線条痕が酷似していたこと、また、J信金深江支店強殺未遂事件で使われた銃の線条痕が、スーパーE強殺事件の銃のものと一致したこと、これら大阪の各強殺未遂事件に関与した疑いが持たれている男が、名古屋の強盗殺人未遂事件(F銀行押切支店強殺未遂事件)で拘置中の身となっていること、警察当局は、この男がスーパーE強殺事件や大阪の各強殺未遂事件に関わったと見て、再逮捕し事情を聞く方針であることが記載され、これらの記載に引き続いて、F銀行押切支店強殺未遂事件で拘置されている男が原告であるとして、その実名を挙げ、次いで、原告による犯行であるとして、F銀行押切支店強殺未遂事件を紹介し、「F銀行押切支店強殺未遂事件と大阪の各強殺未遂事件とは手口が酷似している」旨の府警クラブ記者の発言を紹介している。さらに、本件記事の本文においては、原告の経歴、思想傾向及び行動等、原告の犯行である昭和31年の殺人事件の概要、原告のアジトから多数に上る銀行の貸金庫の鍵が発見され、それらの貸金庫の中から大量の銃や実弾が発見されたことなど、被告らが捜査機関や訴訟記録あるいは原告の実弟らから取材した結果が記載され、その上で、原告が国松長官狙撃事件を実行した犯人として捜査の対象とされている旨が記載されている。
(2) 検討
ア 本件におけるような雑誌に掲載された記事の内容が人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損すべきものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した意味内容に従って判断すべきものと解するのが相当である。そこで、以下、本件記事につき、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した場合、それがどのような意味内容を持つものと認められるかを検討する。
イ 本件記事の大見出し及びリードで使用されている「殺人鬼」という語は、社会一般においては「むや、 みに人を殺す鬼のような悪人」を意味する言葉として用いられているところ、本件記事の大見出しでは、原告のことを「“殺人鬼”」と表現した上で、「『八王子スーパーで3人射殺』と報じられた強盗犯の恐るべき正体」との記載がされていることからすると、本件記事の大見出しを読んだ一般の読者は、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を抱くものとみるのが相当である。
 また、本件記事のリードにおいては、「スーパー3人射殺」、「拘置の男再逮捕へ」、「名古屋で銀行強盗を犯した男」などの記載があり、名古屋の強盗殺人未遂事件(F銀行押切支店強殺未遂事件)の犯人である原告が、東京・八王子のスーパーで女子高生ら3人が射殺された凶悪事件にも関与しているとのスクープ報道をG新聞がした旨記載した上で、原告のことを「この稀代の“殺人鬼”」と表現しているのであり、これらのことからすると、本件記事のリードを読んだ一般の読者は、原告が、F銀行押切支店強殺未遂事件の犯人であるのに加えて、スーパーE強殺事件の犯人でもあるとの印象を更に強めることになるものと認められる。
 さらに、本件記事の中では、大見出しを囲むように「八王子で射殺された被害者」及び「“殺人鬼”A」との説明文が付された上で、スーパーE強殺事件の被害者3人及び原告の顔写真がそれぞれ掲載されており、先に述べた大見出し及びリードの各記載と相まって、一般の読者に対し、「殺人鬼A」の印象をより強いものにするとともに、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を一層強める結果となっているものということができる。
 そして、本件記事の本文においても、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を薄めるような記述はされておらず、かえって、銃弾の線条痕が酷似しており、あるいは一致したとの事情や、犯行の手口が酷似している旨を述べた府警クラブ記者の発言内容が記載されていることなどにより、一般の読者に対し、大見出し及びリードを読んだことにより既に植え付けられた、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を払拭するどころか、むしろ、上記印象を確固たるものにするとともに、大阪の各強殺未遂事件についても、原告が関与している疑いがあるとの印象を抱かせる効果をもたらしているものというべきである。なお、証拠(甲1)によれば、本件記事の本文には、原告の実弟の発言として、「新聞報道の後、いつも来る刑事さんは、“八王子の実行犯は兄さんじゃないと思う。ただ別の事件で捜査している”と言っていました。」などとの記載があり、また、警察庁幹部の話として、「一つハッキリ言えるのは、八王子事件より、国松事件の方が立件へのメドが立っているということです」との記載がされていることが認められる。しかし、これらの記載内容によっても、本件記事の大見出し及びリードの記載により一般の読者に対して既に植え付けられた、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象が薄められるとまで認めることはできない。
ウ 被告らは、上記の点に関し、本件記事は、その見出し全体やリード及び本文を通じて、本件G新聞記事等において原告がスーパーE強殺事件に関与しているとの報道がされたなどとの内容が記載されているにすぎないなどとして、本件記事は原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものではない旨主張する。
 確かに、本件記事が本件雑誌に掲載される直前の時期に、スーパーE強殺事件及び大阪の各強殺未遂事件に関与した疑いが原告にかけられている旨を記載した本件G新聞記事の報道がされていたことは、前記前提となる事実のとおりであるところ、本件記事の大見出しには「『八王子スーパーで3人射殺』と報じられた強盗犯」との記載が、リードには「G新聞が放ったスクープ報道」との記載がそれぞれされていること、原告がスーパーE強殺事件や大阪の各強殺未遂事件に関与した疑いを持たれているとの本件記事の本文における内容も、本件G新聞記事の報道内容を紹介するという形式を採って記載されたものであることは、上記(1)で述べたとおりである。これらの諸点からすれば、本件記事を慎重に、あるいは繰り返し読んだ場合には、それが被告ら自身の取材結果等によって、原告がスーパーE強殺事件等に関与した疑いがあると断定している記事でないことが判明し得ないわけではないと認められる。
 しかしながら、本件雑誌のような週刊誌についてみると、読者が記事を慎重に、あるいは繰り返し読むことによりその内容を誤って受け取らないように努めることは、通常期待し難いものといわざるを得ない。むしろ、本件記事の大見出し及びリードにおいて「殺人鬼」、「稀代の“殺人鬼”」、「『八王子スーパーで3人射殺』と報じられた強盗犯の恐るべき正体」といった過激な表現が用いられていることに照らせば、一般の読者が普通の読み方をした場合には、原告がスーパーE強殺事件等に関与しているからこそ、「殺人鬼」ないし「稀代の殺人鬼」であるとか、「強盗犯の恐るべき正体」といった評価がされているとの印象を強く抱くものと認めるのが相当であり、一般の読者が普通の読み方をする中で、本件記事が原告について、スーパーE強殺事件に関与した旨の報道がされたとの内容を記載したにすぎないものと受け取るとは容易に考え難いところである。
 そうすると、本件記事が本件G新聞記事等の報道内容を紹介する形式を採っていることなどを理由に、それが、原告をスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示したものではないということはできず、被告らの前記主張は失当といわざるを得ない。
エ また、被告らは、見出しやリードは文字数が限られ、読者の関心を引くために誇張した表現などが用いられることが多いなどとして、本件記事は、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの事実を摘示するものではない旨主張する。
 しかしながら、週刊誌の記事における見出しやリードの記載は、一般の読者にとって極めて強く印象に残る部分であると考えられるから、記事の本文を読むことによって見出し及びリードの記載から与えられた印象が薄められるような場合でない限り、週刊誌の記事の意味内容を解釈するに当たって見出し及びリードの記載内容を軽視することはできないというべきである。本件記事の本文において、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの印象を薄めるような記述がされていないことは、既に説示したとおりであるから、本件記事は、全体として、原告がスーパーE強殺事件の犯人であるとの事実を摘示するものであると認めることができる。
 被告らの上記主張は失当である。
オ さらに、被告らは、本件記事において原告を「殺人鬼」と評したのは、原告が、スーパーE強殺事件の犯人として報道されたこと、F銀行押切支店強殺未遂事件で拘置されていること、国松長官狙撃事件の犯人として捜査線上に浮かんだこと、昭和31年の殺人事件を犯したことなどの事実を踏まえたものであると主張する。
 しかしながら、本件記事において「殺人鬼」という過激と思われる表現が用いられていることに照らせば、原告がスーパーE強殺事件の犯人として報道されたというだけの事実をもって上記表現が用いられた根拠とするには、あまりに不釣り合いな面があることは否定できない。また、国松長官狙撃事件及びF銀行押切支店強殺未遂事件は、いずれも殺害行為が既遂に至っていない事件である上、国松長官狙撃事件は、原告の犯行であると断定されていたわけでもないこと、昭和31年の殺人事件は、冷酷な殺人既遂事件ではあるものの、本件記事が掲載された時期から50年近くも前の事件であること、大量の銃器の隠匿や銃撃の訓練等といった事実も、現実に殺人事件に至っていない以上、「殺人鬼」という表現とはそぐわない面があることからすると、本件記事が、これらの事件を根拠として原告のことを「殺人鬼」と評したとは考え難いというほかはない。そうすると、3人が射殺されたスーパーE強殺事件を原告が実行したということが、本件記事が原告を「殺人鬼」と評するに当たっての最も重要な事実であったと認められるのであり、また、一般の読者の普通の読み方においても、本件記事は上記のような内容のものであると理解されるものと認めるのが相当である。
 被告らの上記主張も失当といわざるを得ない。
カ 以上によれば、本件記事は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した場合、原告がスーパーE強殺事件等の犯人であるとの事実を摘示し、その事実を基礎事実の1つとして、原告のことを「殺人鬼」であると評したものであると認めるのが相当である。
(3) 小括
 上記のとおり、本件記事は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した意味内容に従えば、原告がスーパーE強殺事件等の犯人であるとの事実を摘示したものであると認められるから、その点において原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものであり、原告に対する不法行為を構成するものと認めることができる。なお、被告らは、上記事実の摘示に関する名誉毀損行為に関し、違法性あるいは故意・過失を阻却すべき事由があることを主張するものとは解されないが、仮にその点の主張があるものと解されるとしても、その主張に理由がないことは、後記2(2)ないし(4)で認定説示するとおりである。
2 争点(2)イ(本件記事における「殺人鬼」との論評につき、その前提となる重要な事実が真実である、又は、被告らにおいて上記事実を真実と信じるについて相当な理由があったと認められるか。)について
(1) 本件記事は、既に認定したとおり、原告が過去に犯した殺人事件や、原告が関与したものと疑われている殺人事件及び殺人未遂事件等を基礎として、原告のことを「殺人鬼」と論評したものであるところ、「殺人鬼」という語が、社会一般においては「むやみに人を殺す鬼のような悪人」を意味する言葉として用いられていることは既に述べたとおりであるから、本件記事の原告に対する上記論評は、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損すべきものであると認められる。もっとも、本件記事は、原告による重大な犯罪行為に関する事実を摘示して原告のことを「殺人鬼」と評したものであるから、公共の利害に関する事実に係るものと認めることができるところ、被告らは、上記「殺人鬼」との論評につき、その前提となる重要な事実が真実である、又は、被告らにおいて上記事実を真実と信じるについて相当な理由があったと認められる旨を主張するので、この点につき検討する。
 なお、被告らは、スーパーE強殺事件及び大阪の各強殺未遂事件に関しては、本件G新聞記事の報道があったとの事実が、本件記事における「殺人鬼」との論評の前提となる事実に当たる旨主張するけれども、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した場合に、本件記事が被告らの上記主張のような意味内容を持つものであるとは認められないことは、既に説示したとおりであるから、上記主張は失当である。また、仮に、被告らの上記主張を前提として、スーパーE強殺事件等に関してはその報道のあった事実が「殺人鬼」との論評の基礎となっているものと解した場合には、本件記事が「殺人鬼」との論評の前提とした原告の行為は、殺人既遂事件に限ってみると昭和31年の殺人事件における1人の殺害行為のみということになるのであり、原告がほかにも強盗殺人未遂事件等を犯しているからといって、50年近く前に1人を殺害した前科を有するにすぎない原告を「殺人鬼」とまで評することは、「殺人鬼」という語の社会一般における用例に照らし、明らかに公正な論評の域を逸脱したものといわざるを得ない。そこで、被告らの主張には、本件記事における「殺人鬼」との論評は、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である事実を基礎にするものである旨の主張が含まれるものと解した上で、以下の検討を行うこととする。
(2) 本件記事において摘示された原告の行為のうち、F銀行押切支店強殺未遂事件については、前記前提となる事実のとおり、殺意については否定されたものの、原告の犯行であることが確定判決をもって認定されたことが認められるから、本件記事の記載内容が真実であると認められ、また、昭和31年の殺人事件が原告の犯行であったことも、弁論の全趣旨により明らかである。さらに、証拠(乙65、66、原告本人)によれば、H銀行都島支店強殺未遂事件について、原告は平成19年3月12日、強盗殺人未遂等の罪で大阪地方裁判所から無期懲役に処するとの判決を受けたことが認められ、この事実によれば、同事件は原告の犯行であったと認めることができる。これらに対し、本件全証拠によっても、H銀行都島支店強殺未遂事件を除く大阪の各強殺未遂事件及びスーパーE強殺事件については、これらの事件が原告の犯行であったとは認められない。
(3) そこで、次に、本件記事が掲載された当時、被告Cにおいて上記各事件が原告の犯行であると信じるにつき相当な理由があったと認められるかどうかを検討すると、前記前提となる事実並びに証拠(乙7、33ないし36、59ないし62、72ないし75、証人L、同M、同N、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告新潮社の記者であるL(以下「L」という。)及びM(以下「M」という。)は、平成15年6月ころ以降、警視庁捜査一課の幹部等に対する取材をした結果、原告について、次のとおり、スーパーE強殺事件及び国松長官狙撃事件への関与が疑われている事情のあることが判明した。
@ 原告は、当時、F銀行押切支店強殺未遂事件で刑事裁判を受けていたところ、同事件と大阪の各強殺未遂事件とは、現金輸送車を待ち伏せし、CCDカメラ等で動向を監視した上、無言で警備員に発砲するという点で犯行の手口が酷似していることから、同じ犯人である可能性が高い。また、大阪の各強殺未遂事件のうち、J信金深江支店強殺未遂事件で使われた銃弾の線条痕とスーパーE強殺事件で発見された銃弾の線条痕が酷似していること、スーパーE強殺事件の発生当時、原告が同事件の現場から車で十数分の場所に住んでいたこと、スーパーE強殺事件では、犯人が金庫を開けようとした形跡があったところ、過去に原告が金庫荒らしを行ったことがあることなどから、原告は、スーパーE強殺事件の犯人ではないかと疑われている。
A 三重県にある原告のアジトや、原告の協力者とされる「O」のマンション「O」名義の貸金庫、 等を捜索したところ、大量の拳銃や実弾、国松長官狙撃事件に関する新聞の切り抜きに加え、14枚のフロッピーディスクが見つかったが、そのフロッピーディスクには原告が作ったと考えられる詩篇が入力されていた。その内容は、警察に対する積年の怨念、国松孝次元警察庁長官を狙撃した前後における心情及び行動、拳銃に対する関心と執着心、自己の射撃能力の高さの誇示等を記したものであった。
イ G新聞は、平成15年10月7日付けで本件G新聞記事を掲載し、これに続いてPテレビも、原告がスーパーE強殺事件に関与した疑いがある旨を報道した。しかし、本件G新聞記事が掲載された直後、警視庁捜査一課長が上記記事の内容について否定的な回答をした旨の情報が各報道機関に伝わっていた。
ウ 被告CとLは、原告と国松長官狙撃事件との関連性についてはいずれの報道機関も報じていなかったことから、原告と同事件との関連について報道することとし、Lが原告の実弟等から、N記者がF銀行押切支店強殺未遂事件における原告の弁護人等からそれぞれ取材するなどした。
エ その上で、被告Cは、スーパーE強殺事件については、本件G新聞記事の内容及びPテレビが報道を行ったことを紹介するにとどめ、原告が国松長官狙撃事件に関与している疑いがあることに主眼を置くこととして、Mに本件記事の執筆を指示し、平成15年10月16日、本件記事を本件雑誌に掲載した。
オ L及びMは、上記取材を行う中で、原告について、反国家的思想を持ち、自らの信念に従って行動を起こす人物であると捉えるようになり、本件記事を掲載する時点では、原告を女子高校生ら3人を銃で殺害したスーパーE強殺事件の犯人であるとみることに違和感を抱いていた。
(4) 前記認定事実によれば、L及びMらは、警察からの取材により、原告がスーパーE強殺事件に関与したとの疑いをかけられていることを把握するに至ったものの、それ以上に原告がスーパーE強殺事件に関与していたことを示す確実な情報を得ていたわけではなかったこと、むしろ、L及びMは、本件記事が掲載された時点では、原告の上記事件への関与については違和感を持つようになっていたこと、これらの点については、被告新潮社の編集長としてL及びMらから取材結果を受け取り、本件記事の内容について同人らに指示をする立場にあった被告Cにおいても同様の状況にあったこと、本件G新聞記事が掲載された後、警視庁捜査一課長がその内容について否定的な回答をした旨の情報が各報道機関に伝わっていたことが認められるのであって、これらに加えて、スーパーE強殺事件に関する本件記事の内容が、本件G新聞記事の報道内容の紹介、引用にとどまっていることにも照らすと、被告Cにおいて、本件記事を掲載するに当たり、原告がスーパーE強殺事件の犯人であると信じるにつき相当な理由を有していたと認めることはできないというべきである。
 また、H銀行都島支店強殺未遂事件を除く大阪の各強殺未遂事件については、被告Cらは、本件記事が掲載された当時原告が刑事裁判を受けていたF銀行押切支店強殺未遂事件と犯行の手口が酷似しているとの情報を警察当局から得ていたにとどまるから、これらの事件についても、被告Cにおいて、本件記事を掲載するに当たり、原告が犯人であると信じるにつき相当な理由を有していたと認めることはできない。
(5) 以上によれば、本件記事における「殺人鬼」との論評の基礎となった事実のうち、H銀行都島支店強殺未遂事件を除く大阪の各強殺未遂事件及びスーパーE強殺事件が原告の犯行であったことについては、真実であるとは認められず、また、本件記事が掲載された当時、被告Cにおいて真実であると信じるにつき相当の理由があったと認めることもできない。そして、これらの事件の存在が基礎とならない場合には、本件記事における「殺人鬼」との論評が明らかに公正な論評の域を逸脱したものであることは、既に説示したところから明らかというべきである。
 そうすると、争点(2)ア及び争点(3)について判断するまでもなく、本件記事における「殺人鬼」との論評は、原告に対する不法行為を構成するものと認められる。
3 被告らの責任について
 本件記事のうち、原告がスーパーE強殺事件等の犯人である旨の事実を摘示した部分及び原告のことを「殺人鬼」と評した部分は、原告の名誉を毀損するものと認められるから、本件記事の掲載は、原告に対する不法行為を構成するものというべきである。なお、スーパーE強殺事件が原告の犯行であることについては、本件記事が掲載される前に本件G新聞記事による報道がされていたものであるが、同記事においては、原告の実名や顔写真までは公表されておらず「殺人鬼」という読者に強烈、 な印象を与える言葉も使われていなかったことなどからすれば、本件G新聞記事による報道が先行していたからといって、本件記事の掲載による不法行為の成立が否定されることにはならないとみるのが相当である。
 よって、本件記事の掲載について、被告Cは民法709条に基づく損害賠償責任を負い、また、被告Cの使用者である被告新潮社は、同法715条1項に基づく使用者責任を負うものと認められる。
4 争点(4)(慰謝料額)について
 本件記事は、原告がスーパーE強殺事件及び大阪の各強殺未遂事件の犯人であるとの虚偽の事実を摘示し、また、これらの虚偽の事実を含む諸事実を前提として、原告のことを「殺人鬼」と評することにより、原告がむやみに人を殺害する冷酷な殺人者であるとの強烈な印象を読者に与えたものであり、先行する本件G新聞記事では公表されていなかった原告の実名と顔写真を公表し、大見出しで「殺人鬼」と表現し“ ” 、リードにおいても「稀代の“殺人鬼”」との表現を用いるなど、極めて印象の強い記事であると認められる。原告は、本件記事において、50年近く前の犯行である昭和31年の殺人事件をも改めて公表されたこと、本件雑誌は、著名な週刊誌であって、日本全国の書店等で相当部数販売されたと考えられることなどの事情も考慮すると、原告は、本件記事が掲載されたことにより、社会的評価を相当程度低下させられたものとみるべきである。もっとも、原告は、本件記事が掲載される前に、本件G新聞記事によって、スーパーE強殺事件や大阪の各強殺未遂事件に関与している旨を報道されており、本件記事掲載当時、F銀行押切支店強殺未遂事件により名古屋地方裁判所から有罪判決を受けていたことなどの事情からすると、本件記事掲載当時、原告の社会的評価は既に相当程度低下していたものというべきである。これに加えて、本件記事は、原告をスーパーE強殺事件等の犯人であると断定する内容のものではなく、また、本件記事の主な狙いは、原告が特に名誉毀損に当たるとして問題にしているわけではない国松長官狙撃事件と原告との関連性を報道することにあったものと認められる。これらの諸事情をも考慮すると、本件記事によって原告の社会的評価が大きく低下したとまで認めることはできない。その他本件に現れた一切の事情をも総合考慮すると、本件記事が掲載されたことにより名誉を毀損された原告の精神的苦痛に対する慰謝料の金額は、80万円が相当であると認められる。
5 争点(5)(謝罪広告請求の当否)について
 本件記事の掲載により低下させられた原告の社会的評価の程度がさほど大きいものではなかったこと、本件記事は、原告をスーパーE強殺事件等の犯人であると断定する内容のものではなく、また、本件記事の主な狙いは、国松長官狙撃事件と原告との関連性を報道することにあったこと、本件記事が掲載されてから既に3年以上が経過していること、本件判決により、原告の名誉はある程度回復されたと考えられること、その他本件に現れた一切の事情をも総合考慮すると、被告らに対し、慰謝料の支払を命じることに加えて、謝罪広告の掲載をも命じるまでの必要があるとは認められない。
6 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、80万円及びこれに対する不法行為の日である平成15年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第3民事部
 裁判長裁判官 石井寛明
 裁判官 飯淵健司
 裁判官 堀一策


別紙1 謝罪文
 株式会社新潮社及びCは、平成15年10月発行の週刊新潮10月23日号において、確固たる証拠がなかったにもかかわらず、A氏の顔写真とともに「国松長官・狙撃犯は東大中退の殺人鬼だった!」「八王子スーパーで3人射殺と報じられた強盗犯の恐るべき正体」などの見出しのもと、同氏が八王子のスーパーで3人を射殺した犯人とする内容の記事を掲載し、同氏の名誉を著しく毀損し多大なご迷惑をおかけしました。
 ここに上記記事が誤りであったことを認め、謹んでお詫びします。
 A殿

別紙2
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