判例全文 line
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【事件名】商標“スーパーフコイダン”侵害事件
【年月日】平成19年7月26日
 東京地裁 平成18年(ワ)第28323号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成19年6月8日)

判決
原告 株式会社自然健康館
同訴訟代理人弁護士 中山徹
被告 金秀バイオ株式会社
同訴訟代理人弁護士 石原修
同 森崎博之
同訴訟代理人弁理士 石田昌彦
同訴訟代理人弁護士 当山尚幸
同 絹川恭久
同 保田盛清士
同 高良祐之


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告標章目録記載1の標章を、その製造し、販売するモズク加工食品の容器、包装並びに広告に付し、又は、同標章を付したモズク加工食品を譲渡し、若しくは譲渡のため展示してはならない。
2 被告は、原告に対し、金906万8544円及びこれに対する平成18年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告がモズク加工食品に付している標章が原告の商標権を侵害しているとして、原告が被告に対し、被告の標章の使用差止め及び損害賠償を求めた事案である。被告は、(1)原告の商標と被告の標章が類似しないこと、(2)被告の標章につき先使用権が成立することを主張して、原告の請求を争っている。
1 判断の前提となる事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠によって認められる。)
(1) 当事者
 原告は、健康食品の製造、販売を主たる業務とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
 被告(旧商号・株式会社沖縄発酵化学)は、昭和63年9月に設立された、食品の販売及び清涼飲料水等の製造及び販売を主たる業務とする株式会社である(乙2)。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権を有している(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)。
 登録番号 第4862117号
 出願年月日 平成16年10月13日
 登録年月日 平成17年5月13日
 登録商標 「自然健康館」と「スーパーフコイダン」からなり、両者を2段併記したもの(別紙登録商標目録記載のとおり)
 指定商品並びに商品の区分
  第29類 海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品
  第32類 清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース
(3) 被告の使用する標章3
 被告は、遅くとも平成18年5月ころから、その製造するモズク加工食品(以下「被告商品」という。)の容器、包装に別紙被告標章目録記載2の標章(以下「被告標章」という。)を付して販売し、被告商品の広告にも被告標章を付している。
 被告標章は、「SUPER」、「FUCOIDAN」及び「スーパーフコイダン」の文字と6本の横線を菱形状に表した二つの図形とを組み合わせたものである(別紙被告標章目録記載2参照)。
 なお、被告は、平成18年8月29日、被告標章を商標登録出願した。
(4) 本件商標権の指定商品と被告食品との同一性
 被告商品は、本件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」に含まれる。
2 争点
(1) 本件商標と被告標章とが類似するか(争点1)。
(2) 被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示(商標法26条1項2号)に該当するか(争点2)。
(3) 被告は、被告標章について先使用権(商標法32条1項)を有するか(争点3)。
(4) 損害の額(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商標と被告標章とが類似するか)について
(1) 原告の主張
ア 本件商標は、「自然健康館」と「スーパーフコイダン」から成り、両者を2段併記した構成から成るものである。「自然健康館」よりも「スーパーフコイダン」の部分がはるかに目立つため、取引者や需要者の注意を惹くのは「スーパーフコイダン」の部分であり、また、「自然健康館」は、総販売元(製造元)を示す付記的部分であるから、この付記的部分を除いた残りの「スーパーフコイダン」の部分が要部である。この部分は、「すーぱーふこいだん」の称呼を生じさせるとともに、「高品質の海藻多糖抽出成分」の観念ないし「高品質の海藻多糖抽出成分を主原料とする加工食品」の観念を生じさせる。
 一方、被告標章の要部は、英文字の「SUPER FUCOIDAN」である。被告標章の中で、6本の横線を菱形状に表した二つの図形というのは輪郭ないし付飾的部分であって、識別機能に影響のない部分であるから、要部とはならない。被告標章の要部は、「すーぱーふこいだん」の称呼を生じさせるとともに、「高品質の海藻多糖抽出成分」の観念ないし「高品質の海藻多糖抽出成分を主原料とする加工食品」の観念を生じさせる。
 以上のとおり、被告標章は、観念及び称呼において本件商標と同一若しくは類似するので、被告標章を本件商標権の指定商品に該当する被告商品に使用する行為は、本件商標権を侵害するものである。
イ 被告は、「フコイダン」は「海藻多糖抽出成分」の一般名称であると主張する。
 しかし、「フコイダン」は、海藻多糖抽出成分を原材料の一つとし他の成分をも含む原告の加工食品について、原告がその商品名として命名し、使用を開始したものにほかならない。原告は、海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品の商品表示として、平成13年8月ころから「フコイダン」を、同年7月ころから「スーパーフコイダン」を、他に先駆けて使用し始め、原告の標章として、取引者及び需要者に知られるようになったものである。
 また、ある言葉が普通名称化したものであると認定されるためには、取引者間の認識のみでは足らず、少なくとも一般消費者が普通名称化していることを認識することが必要である。さらに、それのみならず、当該商品の取引者間において現実に普通名称として使用されていることを必要とする。したがって、辞書やその他の一般刊行物、当該取引に関係ない学問的、技術的文献、講演等において普通名称であるかのように使用されているのみでは足りないのである。本件でこれをみると、「フコイダン」は一般的な名称ではなく、学術用語として使用されているに止まっている。「フコイダン」は、取引者間においても、一般消費者間においても、「海藻多糖抽出成分」及び「海藻類の硫酸化多糖類」の一般的な名称とはなっていない。
ウ 被告は、本件商標の要部は、「自然健康館」あるいは「自然健康館スーパーフコイダン」であると主張する。しかし、取引者は、原告の食品を「スーパーフコイダン」という商品表示をもって、他の食品と識別して特定するものであり、「自然健康館」という商品表示をもって、他の食品と識別して特定することはあり得ず、したがって、「自然健康館」が要部として機能することはあり得ない。
(2) 被告の主張
ア 「フコイダン」は、90年以上前から、「海藻多糖抽出成分」及び「海藻類の硫酸化多糖類」の一般的な名称として用いられている。そして、本件商標権に係る指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」との関係でいえば、「主材料」である「海藻エキス」は、「フコイダン」を学術的な用語ではなく、平易な表現により表したものである。そうである以上、「フコイダン」は、「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」との関係においても、単に商品の主原料名(成分名)を表示するものにすぎないものである。
イ 単に「スーパーフコイダン」の文字が「自然健康館」の文字よりも大きく表されているということのみから、本件商標の要部が「スーパーフコイダン」の部分であるということはできない。すなわち、商標の要部とは、その商標が付された商品を他人の商品と区別するための標識として機能し、商品の出所表示機能を果たし得る部分であり、これがいかなる部分であるかは、商標の構成要素中に含まれる各構成要素が備える自他商品識別力の有無若しくは強弱によって決すべきものであり、単なる文字の大小によって決すべきものではない。
 このような観点から本件商標の要部を検討する。まず、本件商標の構成要素中の「フコイダン」は、「海藻多糖抽出成分」の一般名称である。また、「スーパー」は、「高品質」等の意味合いを有するものであり、取引界においてその商品が高品質であることを誇示する記述的な語として一般的に用いられているものである。そのため、「スーパー」及び「フコイダン」の各語は、何人も自由に使用し得るものであり、自他商品識別機能及び商品の出所表示機能を果たし得ないものである。そして、これらの2語を結合させた「スーパーフコイダン」についても、全体として「高品質の海藻多糖抽出成分」の観念を生じさせるものにすぎない。この「高品質の海藻多糖抽出成分」という観念は、その商品の品質、原材料を直接的に表示するものにほかならないから、当該観念を生じさせる「スーパーフコイダン」の文字部分は、単なる商品の成分、原材料を表示するにすぎないものとして把握、認識される。特に、被告商品のようないわゆる健康食品の分野においては、その加工食品の成分、原材料の有する効能が優れていることが商品価値に直接的に影響することもあり、「スーパー」等の商品の品質等を誇示する語が好んで使用される傾向が強く、「スーパー」を付した商品が多数販売されている。
 そして、「SUPER FUCOIDAN」又は「スーパーフコイダン」の文字が商標としての自他商品識別機能及び出所表示機能を有しないものであることは、被告商品と同一の商品分野であるいわゆる健康食品の分野において、商品の品質を誇示する「スーパー」の文字と商品の原材料の一般名称の文字とを結合させたものや、原材料を表示する「フコイダン」の文字と商品の品質などを直接的に表示する「ピュア」、「ナノ」、「ダブル」、「トリプル」若しくは「プラチナ」の文字とを結合させたものが、いずれも自他商品識別力を有しないことを理由として審査・審判で拒絶されていることから明らかである。
 以上のとおり、本件商標の構成要素中の「スーパーフコイダン」は、「海藻多糖抽出成分」を意味する「フコイダン」に「高品質」等の意味合いを有し、商品の品質を誇示する「スーパー」の語を付加するものであり、その商品が「高品質のフコイダン」という商品の品質・内容等を表示するにすぎないものである。一方、本件商標の構成要素中の「自然健康館」の文字部分については、原告の社名であり、商標としての識別力が格別弱いとはいえず、少なくとも、自他商品識別力が欠如している「スーパーフコイダン」の文字部分との比較において自他商品識別力の強い部分である。
 したがって、本件商標の要部は、その全体が不可分一体の「自然健康館スーパーフコイダン」又はその構成全体から識別力を有しない部分が捨象された「自然健康館」である。
 本件商標の要部が「スーパーフコイダン」の文字部分ではない以上、本件商標と被告標章とが類似しないことは明白である。
ウ 原告は、「フコイダン」は、海藻多糖抽出成分を原材料の一つとし他の成分をも含む原告の加工食品について、原告がその商品名として命名し、使用を開始したものにほかならない、と主張する。
 しかし、原告が他に先駆けて使用を開始したと主張する平成13年8月以前から、被告を含む複数の者が、「海藻多糖抽出成分を原料とする加工食品」に「フコイダン」という名称を付している。さらに、本件商標権の出願日の約1年前である平成15年10月15日ころには、「フコイダン」の表示を使用する「海藻多糖抽出成分を原料とする加工食品」が多数製造販売され、「フコイダン」は、それら商品の原材料を表示するものとして、取引者及び需要者において十分に認知されたものとなっており、今日においても同様である。
エ 被告は、平成18年8月29日、被告標章について商標出願した。これに対し、特許庁は、「商品の品質の誤認を生ずるおそれ」と「指定商品の内容・範囲の不明確性」を理由とする拒絶理由通知を行い、登録商標との類似については何ら言及していない。このことは、本件商標と被告標章とが類似していないことの証左である。また、上記拒絶理由通知は、「フコイダン」が、「海藻に含まれる硫酸基と結合した粘質多糖類」という成分、原材料を表示する一般的な名称であることを前提としている。
2 争点2(被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示(商標法26条1項2号)に該当するか)について
(1) 被告の主張
 被告標章の構成要素中の「SUPER」と「FUCOIDAN」とを2段書きした部分、並びに「スーパーフコイダン」の文字部分は、単に商品の、品質、原材料を普通に用いられる方法により表示するものにすぎないから、商標法26条1項2号により、商標権の効力は及ばない。
(2) 原告の主張
 既に述べたとおり、「フコイダン」は商品の品質、原材料についての一般名称ではないので、被告の主張は失当である。
3 争点3(被告は、被告標章について先使用権(商標法32条1項)を有するか)について
(1) 被告の主張
ア 本件商標の出願日前から日本国内において被告標章を使用していることについて
 被告は、本件商標の出願日前である平成16年3月9日から同月12日に幕張メッセで開催されたアジア環太平洋地域最大の食品・飲料の展示会である「FOODEX JAPAN 2004」に、被告商品を出展している。そして、被告は、平成16年3月17日、被告商品の総販売代理店であるメイワ薬粧株式会社へ被告商品を販売・納品しており、メイワ薬粧株式会社は、同月23日、被告商品を株式会社高田薬局本部へ販売・納品している。
 したがって、被告は、遅くとも平成16年3月ころに、日本国内において被告商品について被告標章を使用していた。
イ 被告標章が被告の商品表示として周知性を有していることについて
 被告は、被告標章の使用を開始して以来、継続的に被告標章を使用しており、また、被告商品について、ポスター・パンフレットの頒布、新聞や雑誌への広告など、積極的に広告宣伝活動を行っている。
 以上の結果、被告標章は、遅くとも平成16年9月ころには、被告商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されたものとなっている。
ウ 不正競争の目的がないことについて
 被告は、本件商標の存在を知らないで、本件商標の出願日前に被告標章の使用を開始したものである。また、被告は、遅くとも平成11年8月ころから「SUPER AGARICUS(スーパーアガリクス)G」という標章を使用する「アガリクス茸を主原料とする加工食品」の製造販売を行っているところ、被告商品は、その姉妹品として開発されたものであることから、これにちなんで「SUPER FUCOIDAN(スーパーフコイダン)」と命名された。そして、前記「SUPER AGARICUS(スーパーアガリクス)G」と被告商品の標章及び包装箱は、共通のイメージを持たれるように作成されている。
 したがって、被告標章の使用について不正競争の意図は存在しない。
(2) 原告の主張
ア 被告標章が、遅くとも平成16年9月ころには、被告商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとの主張は否認する。
イ 原告は、本件商標に係る標章を、平成13年ころから使用していたのであって、出願時には原告の商標として周知になっていたものであり、このことは、被告も十分承知していた。
 被告は、原告の取引を妨害する意図の下に、本件商標をあえて使用し始めたものであることは明白であって、不正競争の目的で使用したものにほかならない。
4 争点4(損害の額)について
(1) 原告の主張
 被告は、平成18年5月ころから同年10月に至るまでの間、数量にして月平均36万ml、金額にして月平均販売高192万円相当の被告商品を製造して販売した。上記期間につきこれを合計すると、被告は、少なくとも、数量にして216万ml、金額にして販売高1152万円相当の被告商品を製造して販売した。
 被告は、少なくとも販売高合計の78.72%にあたる906万8544円の利益を上げているので、原告は少なくとも同金額と同額の損害を被ったものと推定される。
(2) 被告の主張
 否認する。
第4 争点に対する判断
1 争点1(本件商標と被告標章とが類似するか)について
(1) 「フコイダン」という用語の意味について
 本件商標の要部を判断するにあたって、まず「フコイダン」なる用語が、取引者及び需要者においていかなる意味に解釈されているかを判断する。
ア 学術文献
a) 昭和54年(1979年)発行の「藻類研究法」(西澤一俊、千原光雄編集、共立出版株式会社発行)には,「フコイダン:たとえば、乾コンブなどの藻体の断片を水に浸しておくと粘重な物質として抽出されてくる。・・・フコイダンはフコースのほかに中性糖としてはガラクトース、キシロースなど含み、そのほか比較的少量のグルクロン酸も含む。その上に、フコースの量、もしくはそれ以上にエステル型硫酸を含むのが特徴である。・・・これらの硫酸多糖には、ヘパリン(動物の硫酸多糖)の生理作用と同じ作用、つまり血液凝固を阻げる作用とか、血液中のリパーゼの活性を高める作用などがあり、・・・」との記載がある(乙30)。
b) 平成18年発行の「海藻フコイダンの科学」(山田信夫著、株式会社成山堂書店発行)には、「フコイダンは、今から約90年前の1913年にスウェーデンのウプサラ大学のキリン教授によって初めて見出され報告されたもので、当初フコイジンと名付けられたが、その後、国際糖質命名規約によってフコイダンと呼ばれるようになったものである。」、「フコイダンの理化学的な性状については多くの報告があり、硫酸を含む多糖類であることとフコースが主成分であること、などについてはかなり以前から分かっていたが、・・・」との記載がある。(乙31)
イ 業界誌及び雑誌
a) 平成13年(2001年)5月9日発行の健康産業新聞には、次の記事及び広告が掲載されている(乙32の1ないし3)。
@ 「ZOOM UP フコイダン」、「抗がん作用、抗アレルギー作用、免疫力強化など」、「海が育てた多機能素材」、「参入企業相次ぎ市場は活性化」との見出しの下に、フコイダンが、健康食品としてだけではなく、代替医療の切り札として注目されていること、及び「フコイダン」は、1913年、褐藻類のコンブやヒバマタから硫酸のついた粘質物が単離され、フコイジンと名付けられたのが始まりであり、その後、多糖類の語尾に「アン」をつけるという国際糖質命名規約によって、フコイダンという名称となったことを報じた記事。
A 被告が、フコイダン含有量が約90%と高い沖縄産モズクから、塩分、低分子成分を除去し、高分子量であるフコイダンを精製し、平成12年から「フコイダン粒」を通販やTVショッピングで展開していること、宝酒造株式会社バイオ事業部門が、ガゴメコンブ由来の「TaKaRaコンブフコイダン」を提案したこと、協同乳業株式会社が、南太平洋産モズク由来の「メイトーフコイダン」の提案を開始したこと、タングルウッド株式会社が、トンガ王国産モズク由来の「AHフコイダン」を上市したこと、株式会社森下仁丹ファインケミカルが、「仁丹のフコイダン+3」を発売して2年が経つこと、株式会社グランヒル大阪が、2年前から「フコイダンプラス」を販売していることをそれぞれ報じた記事。
B 被告(当時の商号・株式会社沖縄発酵化学)の販売する「フコイダン粒」の広告、株式会社ギデオンの販売する「玉藻フコイダン海藻いいとこどり」の広告、及び、宝酒造株式会社の販売する昆布フコイダン「アポイダン−U」の広告。
b) 平成15年(2003年)10月15日発行の健康産業新聞には、次の記事及び広告が掲載されている(乙33)。
@ 「特集フコイダン」、「広がる製品形態、市場規模は40億円に」、「大手参入、研究所設立など活況を呈する成長市場」との見出しの下に、フコイダンの市場が急激に伸びており、末端ベースで40億円に到達していること、及び、タングルウッド株式会社のトンガ産モズク由来の「フコイダン85」、化粧品原料「フコイダンHV」、顆粒タイプの「AHフコイダンF」、焼津水産化学工業株式会社の「フコイダンYSK」、「フコイダンYSK(NB)」 、理研ビタミン株式会社の「理研メカブフコイダン」、株式会社カイゲンの「ガニアシフコイダン」、協同乳業株式会社の「メイトーフコイダン」、明治製菓株式会社の「明治フコイダン」、被告の「フコイダンエキス原末カプセル」、「フコイダンエキス原末顆粒」、「フコイダンS」、有限会社クレセールの「シー・フコイダン」、株式会社ギデオンの「玉藻フコイダン海藻いいとこどり」をそれぞれ紹介する記事。
A 被告(当時の商号・株式会社沖縄発酵化学)の販売する「フコイダンS」、理研ビタミン株式会社の販売する「理研メカブフコイダン」、焼津水産化学工業株式会社の販売する「フコイダンYSK」、株式会社ギデオンの販売する「玉藻フコイダン海藻いいとこどり」、有限会社クレセールの販売する「シー・フコイダン」、株式会社カイゲンの販売する「ガニアシフコイダン」、タングルウッド株式会社の販売する「AHフコイダン」の各広告。
c) 熟年生活応援マガジン「はいから」2003年(平成15年)春号に、「フコイダンでガンを克服する!治療最前線からの報告」、「フコイダンとガン細胞の研究と作用」との見出しの下に、「フコイダンとはモズクやワカメ、昆布などの海藻類に含まれる成分、硫酸アミノ多糖類の総称で、フコース、ガラクトース、マンノースなどを含む食物繊維の一種です。近年、フコイダンについての基礎研究も進み、なぜガンに有効なのかがわかってきました。・・・フコイダンにはアポトーシス現象といい、そうしたガン細胞に直接働きかけガン細胞自身を自滅に導く作用があると言われています。・・・またフコイダンには免疫作用も確認されています。」との記事が掲載されており、併せて原告の商品「スーパーフコイダン」の広告も掲載されている(甲6)。
d) 平成15年7月3日発行の「女性セブン」には、「海藻成分驚異のパワー・フコイダンの実力」との見出しの下に、「フコイダンとは、昆布やワカメ、モズクなどの海藻類に含まれるヌルヌル状の成分のこと。正体は粘質アミノ多糖類という物質だ。これに注目したのが農水省と宝酒造の研究グループ。96年の日本癌学会で「制がん作用がある」と発表して注目を集めた。研究は多くの専門家に引き継がれた。」との記事が掲載されており、原告の商品「スーパーフコイダン」が紹介されている(甲7)。
e) ビジネス情報誌「エルネオス」2004年(平成16年)2月号には、「がん治療の効果に話題が集まる『フコイダン』のがん自滅促進作用」との見出しの下に、「マスコミでも、『フコイダン』が話題になった。例えば、02年9月1日のフジテレビ系『あるある大事典』でも詳細に取り上げられ、・・・その道の権威が、『フコイダン』の効果について具体的資料を示しながら説明した。」などの記事が掲載され、フコイダンの販売を手がけている会社の一つとして原告とその商品「スーパーフコイダン」が紹介されている(甲8)。
f) 「がんを治す完全ガイド」2004年(平成16年)2月号に、「抗がん海藻エキス驚異のパワー・低分子フコイダンの実力」、「がん細胞に働きかけアポトーシスを誘導」、「異常細胞を正常細胞に変える働きも」等の見出しの下に、フコイダンのがん細胞に対する効果を記載した記事が掲載され、同記事では原告の商品「スーパーフコイダン」が紹介されている(甲9)。
g) 週刊ポスト2004年(平成16年)7月2日号に、「フコイダン・海藻のヌルヌルでがん細胞が自殺する」との見出しの下に、「フコイダンとは・・・昆布やワカメ、モズクなど海藻類のヌルヌルした部分。・・・『海草の中に含まれているフコイダンは、がん細胞が自殺するように死滅するアポトーシスという現象を誘導する働きがあるとみられています。』・・・がんへの効果は今後の研究に待たれるが、フコイダンは胃潰瘍の治癒促進でも知られており、健康食品や一般の食品としても続々と商品化されている。その一つが『スーパーフコイダン』(自然健康館)。・・・。この他、ヤクルトも沖縄産モズクからフコイダンを抽出した健康茶『いたわり茶』を発売、協同乳業もフコイダンを100ミリグラム配合した『海のヨーグルト』を6月28日から発売する。」との記事が掲載されている(甲10)。
ウ 辞書
 三省堂コンサイスカタカナ語辞典第2版(平成12年9月10日発行)には、「フコイダン」が「海藻のうち、特に褐藻(モズク・コンブ・ワカメなど)に含まれる硫酸基と結合した粘質多糖類」で「健康食品として注目されている」と説明されている(乙38、39)。
エ 「フコイダン」という用語の意義について
 前記認定事実によれば、「フコイダン」とは、90年以上前に発見された海藻に含有される硫酸化多糖類のことであり、学術用語として使用されていた。そして、本件商標の出願時(平成16年10月)の数年前から、業界誌や雑誌における紹介記事において、「フコイダン」が海藻類に含有される物質のことであり、これを抽出した健康食品ががん細胞に対し効果があるものとして、注目されていることが記載され、商品名に「フコイダン」を含む健康食品が多数の企業から販売されていることも記載されている。
 したがって、「フコイダン」との用語は、本件商標の出願時(平成16年10月)において、いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で、海草類に含有される硫酸化多糖類で、健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたことが認められる。
オ なお、平成19年4月現在では、健康食品を販売するインターネットショップの「フコイダン」をタイトルとするウェブページにおいて、「フコイダンエキス原末カプセル」、「フコイダン・エクセル」、「フコイダンエキス原末顆粒」、「フコイダンドリンク・アポイダン−U」、「メカブフコイダン」、「フコイダン顆粒・アポイダン−U」、「沖縄フコイダン」、「ナチュラルフコイダン」、「海藻パワーズフコイダン強化」、「ファイン液体サメ軟骨フコイダン」、「フコイダン茶」、「A(エース)フコイダン」、「フコイダンエキス粒」、「沖縄モズクフコイダン」、「シーフコイダン海藻エキス」、「リアルフコイダンS」、「リアルフコイダンR」、「リアルフコイダンD」、「プラチナフコイダン」、「フコイダンプレミアムゴールド」、「オリヒロ海からの恵みフコイダン」、「フコイダン・グリーン」、「プラチナ・フコイダン」、「A(エー)フコイダン」、「メカブフコイダンドリンク」、「シーフコイダン」、「タカラバイオフコイダンドリンク・アポイダン−U」、「スーパーフコイダン」(被告商品)、「フコイダンドリンク海の詩」、「フコイダンZ」、「究極メシマコブ&フコイダン」、「フコイダンプレミアム」というように、「フコイダン」の文字を含む多数の製品が販売されている(乙34の1ないし3)。
(2) 本件商標の要部について
ア 証拠(乙4ないし9)によれば、いわゆる健康食品の分野では、「スーパー・ルテイン」、「スーパー・イソフラボン」、「スーパーDHA」、「スーパーコエンザイムQ10」、「スーパープロポリス粒」、「スーパーレシチン」のように、原材料の名称に「スーパー」を付した商品が多数販売されていることが認められる。
イ 証拠(乙10ないし19(各枝番を含む。))によれば、いわゆる健康食品を指定商品とした商標登録出願において、原材料の名称に「スーパー」の文字を付した商標は、「スーパー」の文字が商品の誇称表示として一般的に使用されていることから、商標法3条1項3号に該当するとして登録に至らなかった例が、多数あることが認められる(具体例として、「スーパーアガリスク」、「スーパー・ルテイン」、「スーパーイソフラボン」、「スーパーダイズ」、「SUPER/COLLAGEN/スーパーコラーゲン」)。
 また、「ピュアフコイダン/PUREFUCOIDAN」、「ナノフコイダン」、「ダブルフコイダン」、「トリプルフコイダン」、「プラチナフコイダン」が商品の品質、原材料を表示するものにすぎず、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けていることが認められる。
ウ 既に述べたとおり「フコイダン」は、海藻類の成分を抽出して作られた健康食品の原材料を表示する用語である。そして、いわゆる健康食品において、「スーパー」は、商品の誇称表示として一般的に使用されている用語である。したがって、本件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」の分野では、「スーパーフコイダン」という用語は、高品質の「フコイダン」、すなわち、高品質な、海草類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないというべきである。そして、「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らせば、本件商標は、「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであり、「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解するのが相当である。
エ 原告は、自然健康館は小さめに記載され、また、製造元を示すにすぎないので、要部となり得ないと主張する。しかし、既に述べたとおり「スーパーフコイダン」単独では要部となり得ないのであるから、製造元を示す「自然健康館」と「スーパーフコイダン」との表示が相まって出所識別力を発揮するものと認めるのが相当である。原告の上記主張は採用することができない。
 また、原告は、原告が、フコイダンという用語を初めて使用したと主張する。しかし、前記認定事実によれば、原告が初めて「フコイダン」の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年夏には、既に複数のフコイダンとの表示を冠する商品が存在していたのであるから、原告の主張は採用することができない。そして、前記認定事実によれば、原告の商品「スーパーフコイダン」は「フコイダン」を含有する商品の一つとして紹介されているにとどまり、数多くある「フコイダン」関連商品の中で「スーパーフコイダン」という名称が特別に出所識別力を有するに至っていると認めることもできない。
(3) 本件商標と被告標章との類否について
 本件商標の要部は、「自然健康館スーパーフコイダン」であるから、その称呼は、「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」である。これに対し、被告標章の要部は、「SUPER FUCOIDAN」であるから、その称呼は、単なる「すーぱーふこいだん」であり、両者は類似しない。
 また、本件商標の観念は、「自然健康館のスーパーフコイダン」であるのに対し、被告標章の観念は、単なる「スーパーフコイダン」であるから、両者は類似しない。
 さらに、本件商標の外観は、「自然健康館」と「スパーフコイダン」を2段に記したものであるのに対し、被告標章は、「SUPER」と「FUCOIDAN」と「スーパーフコイダン」を3段に記し、これらの文字と6本の横線を菱形状に表した二つの図形とを組み合わせたものであるから、両者は類似しない。
 このように、本件商標と被告標章とを対比すると、被告標章からは、本件商標において出所表示機能を有している「自然健康館」を含む称呼・観念・外観を全く生じないのであって、両者は出所の誤認混同を生じ得るものではなく、類似しないものと認められる。
 したがって、被告による被告標章の使用は本件商標権を侵害するものではない。また、原告が差止めを求めている別紙被告標章目録記載1の標章は、「SUPER」と「FUCOIDAN」と「スーパーフコイダン」を3段に記したもの(前記横線模様がないもの)であるから、これも本件商標とは非類似であることは明らかである。
2 結論
 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 杉浦正典
 裁判官 古河謙一は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 設樂隆一
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