判例全文 line
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【事件名】商標“Pinks”審決取消事件(2)
【年月日】平成19年7月19日
 知財高裁 平成19年(行ケ)第10051号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年6月26日)

判決
原告 株式会社本家かまどや
訴訟代理人弁理士 角田嘉宏
同 西谷俊男
同 古川安航
同 三上真毅
被告 特許庁長官肥塚雅博
指定代理人 森山啓
同 伊藤三男
同 内山進


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2006−12543号事件について平成18年12月26日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が後記商標登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成17年9月12日、後記商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが、特許庁から拒絶査定を受けたので、平成18年6月16日付けでこれに対する不服の審判請求をした。これを受けた特許庁は、同請求を不服2006−12543号事件として審理した上、平成18年12月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成19年1月12日原告に送達された。
(2) 本願の内容
ア 商標 PINK’S ピンクス
イ 指定商品・指定役務(下線は判決で付記)
 第29類
  食用油脂、乳製品、食肉、卵、食用魚介類(生きているものを除く。)、冷凍野菜、冷凍果実、肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、加工卵、カレー・シチュー又はスープのもと、お茶漬けのり、ふりかけ、なめ物、豆、食用たんぱく
 第30類
  アイスクリーム用凝固剤、家庭用食肉軟化剤、ホイップクリーム用安定剤、食品香料(精油のものを除く。)、茶、コーヒー及びココア、氷、菓子及びパン、調味料、香辛料、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、コーヒー豆、穀物の加工品、アーモンドペースト、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、イーストパウダー、こうじ、酵母、ベーキングパウダー、即席菓子のもと、酒かす、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン
 第43類
  宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、動物の宿泊施設の提供、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、会議室の貸与、展示施設の貸与、布団の貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用食器乾燥機の貸与、業務用食器洗浄機の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、タオルの貸与
 第45類
  ファッション情報の提供、新聞記事情報の提供、結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査、占い、身の上相談、家事の代行、衣服の貸与、祭壇の貸与、火災報知機の貸与、消火器の貸与、家庭用電熱用品類の貸与(他の類に属するものを除く。)、動力機械器具の貸与、風水力機械器具の貸与、装身具の貸与
(3) 審決の内容
 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。その理由の要点は、本願商標は、下記引用商標に、「ピンクス」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、指定役務も、本願の第43類「飲食物の提供」には、「食堂、レストラン、そば店、うどん店、すし店、喫茶店、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、酒場及びビヤホール等が、料理及び飲料を飲食させる」役務が含まれるから、同一又は類似であり、商標法(以下「法」という。)4条1項11号により商標登録を受けることができない、としたものである。
 記
 〔商標〕 Pinks(標準文字)
 〔登録番号〕 第4621523号
 〔出願日〕 平成12年9月8日
 〔登録査定〕 平成14年9月17日
 〔登録日〕 平成14年11月15日
 〔指定役務〕
 第41類
  客への遊興のための接待を行うための待合・カフェー等の娯楽施設の提供
 第42類
  キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供、個室マッサージ
 〔商標権者〕 神戸市兵庫区(以下省略) A
(4) 審決の取消事由
 しかしながら、審決は、以下に述べるとおり、原告が所有する後記原告商標1ないし3により登録することができず当然無効であるはずの上記引用商標をその根拠としているから、違法として取り消されるべきである。
 なお、本願商標と引用商標とは、「ピンクス」の称呼を共通にする類似の商標であって、かつ指定役務も同一又は類似するものであること、本願指定役務中、第43類の「飲食物の提供」には、「食堂、レストラン、そば店、うどん店、すし店、喫茶店、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、酒場及びビヤホール等が、料理及び飲料を飲食させる」役務が含まれることは、いずれも争わない。
ア 原告の有する商標権
 原告は、引用商標の出願前に出願した下記3つの商標権を有している。
(ア) 原告商標1
 〔商標〕 Pinks(標準文字)
 〔登録番号〕 第4246502号
 〔出願日〕平成9年11月4日
 〔登録日〕 平成11年3月5日
 〔指定役務〕(下線は判決で付記)
 第42類
  宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、美容、理容、入浴施設の提供、写真の撮影、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、石版印刷、凸版印刷、気象情報の提供、求人情報の提供、結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、一般廃棄物の収集及び分別、産業廃棄物の収集及び分別、庭園又は花壇の手入れ、庭園樹の植樹、肥料の散布、雑草の防除、有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。)、建築物の設計、測量、地質の調査、機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計、デザインの考案、電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究、建築又は都市計画に関する研究、公害の防止に関する試験又は研究、電気に関する試験又は研究、土木に関する試験又は研究、農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究、機械器具に関する試験又は研究、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介、通訳、翻訳、施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査、あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、柔道整復、はり、医業、医療情報の提供、健康診断、歯科医業、調剤、栄養の指導、家畜の診療、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、編み機の貸与、ミシンの貸与、衣服の貸与、植木の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、会議室の貸与、展示施設の貸与、カメラの貸与、光学機械器具の貸与、漁業用機械器具の貸与、鉱山機械器具の貸与、計測器の貸与、コンバインの貸与、祭壇の貸与、自動販売機の貸与、芝刈機の貸与、火災報知機の貸与、消火器の貸与、タオルの貸与、暖冷房装置の貸与、超音波診断装置の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、凸版印刷機の貸与、電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与、美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与、布団の貸与、理化学機械器具の貸与、ルームクーラーの貸与
(イ) 原告商標2
 〔商標〕 pinx golf club
 〔登録番号〕 第4293338号
 〔出願日〕 平成10年5月20日
 〔登録日〕 平成11年7月9日
 〔指定役務〕(下線は判決で付記)
 第41類
  技芸・スポーツ又は知識の教授、動物の調教、植物の供覧、動物の供覧、図書及び記録の供覧、美術品の展示、庭園の供覧、洞窟の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、放送番組の制作、ゴルフの興行の企画・運営又は開催、相撲の興行の企画・運営又は開催、ボクシングの興行の企画・運営又は開催、野球の興行の企画・運営又は開催、サッカーの興行の企画・運営又は開催、競馬の企画・運営又は開催、競輪の企画・運営又は開催、競艇の企画・運営又は開催、小型自動車競走の企画・運営又は開催、当せん金付証票の発売、音響用又は映像用のスタジオの提供、運動施設の提供、娯楽施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与、楽器の貸与、スキー用具の貸与、スキンダイビング用具の貸与、テレビジョン受信機の貸与、ラジオ受信機の貸与、図書の貸与、レコード又は録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、おもちゃの貸与、遊園地用機械器具の貸与、遊戯用器具の貸与
 第42類
  宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、美容、理容、入浴施設の提供、写真の撮影、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、石版印刷、凸版印刷、気象情報の提供、求人情報の提供、結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、一般廃棄物の収集及び分別、産業廃棄物の収集及び分別、庭園又は花壇の手入れ、庭園樹の植樹、肥料の散布、雑草の防除、有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。)、建築物の設計、測量、地質の調査、機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計、デザインの考案、電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究、建築又は都市計画に関する研究、公害の防止に関する試験又は研究、電気に関する試験又は研究、土木に関する試験又は研究、農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究、機械器具に関する試験又は研究、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介、通訳、翻訳、施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査、あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、柔道整復、はり、医業、医療情報の提供、健康診断、歯科医業、調剤、栄養の指導、家畜の診療、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、編み機の貸与、ミシンの貸与、衣服の貸与、植木の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、会議室の貸与、展示施設の貸与、カメラの貸与、光学機械器具の貸与、漁業用機械器具の貸与、鉱山機械器具の貸与、計測器の貸与、コンバインの貸与、祭壇の貸与、自動販売機の貸与、芝刈機の貸与、火災報知機の貸与、消火器の貸与、タオルの貸与、暖冷房装置の貸与、超音波診断装置の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、凸版印刷機の貸与、電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与、美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与、布団の貸与、理化学機械器具の貸与、ルームクーラーの貸与
(ウ) 原告商標3
 〔商標〕 イメージ略
 〔登録番号〕 第4287636号
 〔出願日〕 平成10年3月18日
 〔登録日〕 平成11年6月25日
 〔指定役務〕(下線は判決で付記)
 第41類
  技芸・スポーツ又は知識の教授、動物の調教、植物の供覧、動物の供覧、図書及び記録の供覧、美術品の展示、庭園の供覧、洞窟の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、放送番組の制作、ゴルフの興行の企画・運営又は開催、相撲の興行の企画・運営又は開催、ボクシングの興行の企画・運営又は開催、野球の興行の企画・運営又は開催、サッカーの興行の企画・運営又は開催、競馬の企画・運営又は開催、競輪の企画・運営又は開催、競艇の企画・運営又は開催、小型自動車競走の企画・運営又は開催、当せん金付証票の発売、音響用又は映像用のスタジオの提供、運動施設の提供、娯楽施設の提供、興行場の座席の手配、映写機及びその附属品の貸与、映写フィルムの貸与、楽器の貸与、スキー用具の貸与、スキンダイビング用具の貸与、テレビジョン受信機の貸与、ラジオ受信機の貸与、図書の貸与、レコード又は録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、おもちゃの貸与、遊園地用機械器具の貸与、遊戯用器具の貸与
 第42類
  宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、美容、理容、入浴施設の提供、写真の撮影、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、石版印刷、凸版印刷、気象情報の提供、求人情報の提供、結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、一般廃棄物の収集及び分別、産業廃棄物の収集及び分別、庭園又は花壇の手入れ、庭園樹の植樹、肥料の散布、雑草の防除、有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。)、建築物の設計、測量、地質の調査、機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計、デザインの考案、電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究、建築又は都市計画に関する研究、公害の防止に関する試験又は研究、電気に関する試験又は研究、土木に関する試験又は研究、農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究、機械器具に関する試験又は研究、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介、通訳、翻訳、施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査、あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、柔道整復、はり、医業、医療情報の提供、健康診断、歯科医業、調剤、栄養の指導、家畜の診療、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、編み機の貸与、ミシンの貸与、衣服の貸与、植木の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、会議室の貸与、展示施設の貸与、カメラの貸与、光学機械器具の貸与、漁業用機械器具の貸与、鉱山機械器具の貸与、計測器の貸与、コンバインの貸与、祭壇の貸与、自動販売機の貸与、芝刈機の貸与、火災報知機の貸与、消火器の貸与、タオルの貸与、暖冷房装置の貸与、超音波診断装置の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、凸版印刷機の貸与、電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与、美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与、布団の貸与、理化学機械器具の貸与、ルームクーラーの貸与
イ 引用商標の過誤登録
 引用商標は、原告商標1ないし3との関係からみると、その登録出願の日より前の商標登録出願に係る他人の登録商標(原告商標1)と同一の商標であり、また引用商標の指定役務「キャバレー・カフェ・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供」は原告商標1に係る指定役務「飲食物の提供」と同一の役務について使用するものであるから、これは被告の審査における過誤により、法4条1項11号の適用を誤って登録されたものである。
 すなわち、引用商標は、前記のとおり「Pinks」の欧文字を標準文字で書してなり、平成12年9月8日出願、第41類「客への遊興のための接待を行うための待合・カフェー等の娯楽施設の提供」及び第42類「キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供、個室マッサージ」を指定役務として平成14年11月15日に設定登録されたものである。
 一方、法4条1項11号は、「・・・商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務・・・又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」については商標登録を受けることができない旨を規定している。原告商標1ないし3の商標権者である原告と引用商標の商標権者(A)とは「他人」であり、また、原告商標1ないし3のうち、原告商標1と引用商標とが同一の商標であることに関しては、本願商標の拒絶査定の理由おいて、「上記登録第4246502号商標「Pinks」と引用商標「Pinks」がともに標準文字書体よりなるところ、両商標が同一の商標であることは明らかである。」と被告が認定していることからも明らかといえる。
 また、審決の理由第3(当審の判断)において、「「飲食物の提供」には、食堂、レストラン、そば店、うどん店、すし店、喫茶店、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、酒場及びビヤホール等が、料理及び飲料を飲食させる役務が含まれるというのが相当である」(審決2頁下1行ないし3頁3行参照。)と判断しているとおり、引用商標の指定役務「キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供」は、原告商標1ないし3に係る指定役務「飲食物の提供」に含まれる同一又は類似の役務であることは明らかである。
 さらに、法4条1項11号の規定に該当するか否かの判断時期は査定時であるところ、引用商標の登録査定時(平成14年9月17日)において、先願に係る原告商標1ないし3は、いずれも登録商標として有効に存在しており、引用商標の設定登録の日(平成14年11月15日)から5年を経過していないことから、登録無効審判請求の除斥期間も経過していない(法47条1項)。
ウ 審判段階における原告の主張と審決の判断
 既に原告商標1ないし3が設定登録されているにもかかわらずこれと引用商標との併存登録を被告が認めたことからすると、本願役務と引用商標との役務とは非類似と判断されるべきであるとして、原告は、審判段階においてその旨主張した。ところが、審決において、被告は原告商標1ないし3と引用商標との併存登録の事実を認めつつも、本願商標と引用商標との役務は同一又は類似と判断したものである。
 原告は、本願商標と引用商標との役務の類否に関する審決の判断に一定の理解を示すものではあるが、そうすると、被告が、引用商標の登録時(平成14年11月15日)に下した原告商標1ないし3との役務の類否に関する自らの判断に誤りがあったことを認めたものといえる。
 このように、引用商標は、被告の審査における過誤により、法4条1項11号の適用を誤って登録されたものである。
エ 引用商標の当然無効
 このように、引用商標は法4条1項11号の適用を誤った過誤により登録されたことが客観的に明白であり、かつその瑕疵は重大であるから、その誤りが、審決の結論に影響を及ぼすべきことが明らかである。しかるに、審決は、被告が誤って登録した引用商標をその根拠とするものであり、引用商標に係る役務に無効理由が存在することが明らかであることを無視した誤った判断であるから、裁判所において当然無効と自判し、審決を取り消すべきである。
 被告は、商標権の付与・無効等の処分は特許庁の専権に属する旨を主張するが、法39条は平成17年4月1日から施行される特許法104条の3を準用しており、これによれば、商標法自体が、裁判所において商標法の定める無効審判手続における無効審決の確定を待たずして商標登録の無効性を判断できることを定めているから、被告の上記主張は失当である。
オ 原告による無効審判請求
 原告は、上記エを理由として、本件訴訟提起後の平成19年4月13日付けで、請求人を株式会社本家かまどや(原告)・被請求人をAとして、引用商標の指定役務中第42類「キャバレー・カフェ・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供」についての登録を無効とする、との法46条の無効審判請求をした。これにより、引用商標に係る原告商標1ないし3と同一ないし類似の役務に関し商標登録が無効と判断され、当該無効審決が確定することで審決時前に遡って引用商標に係る上記原告商標1ないし3と同一又は類似役務の商標登録が消滅する(法46条の2第1項本文)ことは、審決の結論に影響を及ぼすべきことが明らかであるため、この点からも審決は取り消されるべきである。
 被告は、裁判所が無効審決の確定を待たずに引用商標を当然無効と自判することが権利の絶対的失効を結果させると主張するようであるが、本件訴訟における裁判所による当然無効とする自判の効果は、引用商標権の対世的無効を意味するものでなく、引用商標が後願である本願商標との関係において法4条1項11号の引用適格を有さないことを確認するにすぎず、被告の主張はこの点において失当である。
カ 結論
 以上のとおり、審決は、役務の類否に関する判断を被告が誤って登録した引用商標に基づくものであり、引用商標に係る役務に無効理由が存在することが明らかなことを無視し、本願商標は法4条1項11号に該当するとした原査定は妥当であり取り消すことができないと誤って判断したものであるから、裁判所において引用商標を当然無効と自判し、審決を取り消すべきである。また、原告が請求する引用商標に係る無効審判において無効審決が確定し、引用商標に係る本願商標と同一又は類似の役務に関しての商標登録が遡及消滅することになるので、審決は取り消されるべきである。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)、(2)、(3)の各事実は認めるが、(4)は争う。
3 被告の反論
 審決の認定判断は正当であり、以下に述べるとおり原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 引用商標が過誤登録であり、これを当然無効として自判すべきとの主張に対し商標権の付与・無効等の処分は特許庁の専権に属するところであって、いったん特許庁がその専権に基づき商標に商標権を付与した以上、それが商標法所定の無効審判手続等で無効にすべき旨の審決等がなされ、それが確定しない限り、裁判所はこれを無効とすることはできず、したがってまた、主張される無効原因の存在を前提とし、無効審決の確定を待たずして権利の絶対的失効を結果させ、審決を取り消すべきではないから、原告の主張は失当である。
(2) 無効審判請求により、引用商標に係る役務が無効となるとする主張に対して
ア 法4条1項11号の適用につき
 法4条1項11号は、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務・・・・・・又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない旨規定している。
 そして、その適用時期については、法4条3項で「第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。」と規定して、その判断時期の例外を設けているところからすると、上記以外の法4条1項の各号(本件の11号はこれに含まれる)の規定を適用する場合の判断時は、査定時又は審決時と解すべきである。
 これを、本件についてみると、本願商標は、平成17年9月12日に登録出願されたものである。一方、引用商標は、平成12年9月8日に出願され、平成14年11月15日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。したがって、本願商標が法4条1項11号に該当するか否かの判断時である審決時(平成18年12月26日)において、引用商標は存続していたということができる。
 そして、法4条1項11号の適用に当たって、他人の先願登録商標に係る商標権は、査定時又は審決時に存続するものでなければならないものであり、商標権の存続の有無は、商標登録原簿に基づいて認定されるものであるところ、審決は、上記審決時に商標登録原簿に基づいて引用商標の存在を確認した上で行ったものであるから、何ら違法な点はない。
 なお、仮に、引用商標が無効事由を有している可能性があるとしても、審決時において、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務・・・又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」として引用商標が有効に存在している以上、法4条1項11号に該当すると解すべきである。
 したがって、原告は、商標登録無効審判の請求により、引用商標に係る原告商標1ないし3と同一又は類似の役務は無効となるので本件審決が取り消されるべきであると主張するが、このような審決後に生じ得るかもしれない不確定な事情は、判断に何ら影響を及ぼすものではない。
イ 引用商標に対する商標登録の無効審判につき
 原告は、引用商標は、そもそも法4条1項11号に違反して登録された無効な商標であることが明らかであって、登録無効審判の請求によって、いずれ無効とされるのであり、そうなれば、引用商標に係る商標権は審決時前に遡って消滅するから、審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであり、審決は取り消されるべきである旨主張する。
 しかし、審決時において、引用商標が有効に存在していたことは、特許庁において顕著であって、引用商標が無効になるとするのは、原告の希望的観測にすぎないから、引用商標を無効にすべき旨の審決が確定することを前提とした原告の主張は、その前提を欠き、失当である。
 原告は、特許庁における審査、審判段階において、一貫して、本願商標の指定役務中「飲食物の提供」と引用商標の指定役務中「キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供」とは非類似の役務である旨の主張を繰り返すのみで、引用商標に対して商標登録の無効の審判を請求する旨の主張及びその手続を行わなかったのであって、審判段階で何らの審理も経ていない上記主張が審決取消訴訟に持ち込まれ、それを理由に審決が取り消されるとしたら、今後の審判や訴訟の円滑な処理に重大な支障を来すおそれがあるものといわざるを得ない。
ウ 結論
 以上のとおり、本願商標は、法4条1項11号に該当するものであるとした審決の認定, 判断に誤りはなく, これが取り消されるべき理由はない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(本願の内容)、(3)(審決の内容)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
 原告は、本願商標と引用商標とは「ピンクス」の称呼を共通にする類似の商標であって、かつ指定役務も同一又は類似するものであることは争わないので、以下、原告主張の取消事由の当否について判断する。
2 原告の主張に対する判断
(1) 本件における事実関係
ア 証拠(甲1の1ないし3、2ないし4、5の1、2、6ないし10)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件における事実関係は以下のとおりであったことが認められる。
(ア) 前記のとおりの内容を有する本願は、原告により平成17年9月12日に出願され、平成18年4月14日(起案日)に拒絶査定を受け、平成18年6月16日付けで不服の審判請求を行うも、平成18年12月26日付けで特許庁から前記のような理由で請求不成立の審決がなされた。
(イ) また、前記のとおりの内容を有する引用商標は、Aから平成12年9月8日に出願され、複数回の補正手続を経て、平成14年9月17日に登録査定がされ、平成14年11月15日に登録されたものである。
(ウ) 一方、原告が所有し、前記のとおりの内容を有する原告商標1・2・3は、出願日は順に平成9年11月4日・同10年5月20日・同10年3月18日であり、登録日は順に平成11年3月5日・同11年7月9日・同11年6月25日である。
(エ) 原告が本願に関する前記(ア)の不服審判請求において理由としたことは、別添審決写し記載のとおり、本願商標の指定役務中第43類の「飲食物の提供」と引用商標の指定役務中第42類の「キャバレー・カフェ・ナイトクラブ・ダンスホール・喫茶店及びバーにおける飲食物の提供」は非類似の役務である等とするものであり、本訴においてなす原告の取消事由の主張は、本訴に至って初めてなされる主張である。
(オ) その後原告は、本訴提起後の平成19年4月13日付けで、Aを被請求人として引用商標につき特許庁に商標登録無効審判請求を行い、現在、その審理中である。
イ 以上の認定事実に基づき、以下、原告主張の当否について判断する。
(2) 原告は、引用商標は、引用商標よりも先に出願され、登録された原告商標1ないし3との類否判断を誤った過誤登録に係る商標であるから、原告請求の引用商標に係る無効審判の結論を待つことなく、本件訴訟において当然無効と判断すべきであると主張する。
 しかし、引用商標が無効であるかどうかは、引用商標権者を被請求人とする特許庁の商標登録無効審判手続において対比される商標(本件では原告商標1ないし3)との関係を中心に判断されるものであり、かつその類否判断の基準も、「対比される両商標が同一または類似の商品ないし役務に使用された場合に、その出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品または役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品または役務の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断」される(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)のであるから、引用商標が原告商標1ないし3との関係で無効と判断される可能性が高いとしても、上記のような手続上及び実体上の不確定要素がある以上、平成14年9月17日になされた引用商標の査定処分に明白かつ重大な瑕疵があったということはできない。
 そもそも、法4条1項11号の規定は、商品の出所の混同防止のためのものであるから、その類否の判断は当該出願に係る商標と特定の他人の登録商標(本件においては前記引用商標)との対比においてのみ決定されるべきものであり、たとえ上記他人の登録商標(引用商標)が、第三の登録商標たる原告商標1ないし3との関係において登録を無効とされるべき瑕疵を有していたとしても、そのことによって類否の判断を異にするにいたるものではない。
 原告は、法39条が特許法104条の3を準用していることを理由に、裁判所は商標法の定める無効審判手続における無効審決の確定を待たずして商標登録の無効性を判断できる旨主張するが、同条が適用されるのは、「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」(商標法に則していえば「商標権又は専用使用権の侵害に係る訴訟」)についてであるから、前提において失当であり、本件のような拒絶査定不成立審決の取消訴訟に適用されるものではない。
 原告の上記主張は理由がない。
(3) 次に原告は、平成19年4月13日付けで引用商標の無効審判請求をしており、その手続の中で無効審決がなされることが確実である等と主張するが、上記(2)で説示したように、無効審決がなされるかどうか確実でなく、かつ未だ無効審決はなされていないのであるから(なお原告は、前記のとおり本件訴訟提起後、初めて引用商標の無効審判請求を行ったところ、それまでも原告において無効審判請求を行うについては何らの障害もなかったものであり、本件訴訟において引用商標の無効を前提問題として判断することを相当とする事情は全く存しない。)、その余について判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。
3 結語
 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、本願商標が法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 田中孝一
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