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【事件名】類似大衆食堂チェーン事件
【年月日】平成19年7月3日
 大阪地裁 平成18年(ワ)第10470号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年4月26日)

判決
原告 株式会社フジオフードシステム
訴訟代理人弁護士 平山芳明
同 平山忠
同 中世古裕之
同 二宮誠行
同 西村勇作
同 増田広充
同 安江由里
同 西原和彦
同 三好吉安
同 大森剛
同 河合順子
同 北川靖之
同 小津充人
被告 株式会社ライフフーズ
訴訟代理人弁護士 阪口春男
同 今川忠
同 岩井泉
同 原戸稲男
同 阪口祐康
同 豊浦伸隆
同 西山宏昭
同 山岸正和
同 嵩原安三郎
同 寺田明日香
同 木村智彦
同 白木裕一
同 中澤構
同 松井良憲
同 北見洋


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 (以下に示すa−@〜H、b−@〜B、c−@A、d−@、e−@A、f−@〜S、g−@A、h−@は、いずれも別紙物件目録記載の物件番号を指す。)
1(1)(主位的請求)
 被告は、飲食店営業上の施設並びに宣伝広告活動及びホームページについて、c−@A、d−@、e−@A、f−@〜S及びh−@の各物件中の「食堂」の表示、d−@、e−@A及びf−@〜Sの看板並びにこれらと類似する「食堂」の表示及び看板を使用してはならない。
(2)(予備的請求)
 被告は、飲食店営業上の施設並びに宣伝広告活動及びホームページについて、d−@、e−@A及びf−@〜Sの各物件中の「食堂」の表示、e−@A及びf−@〜Rの看板、a−@〜H及びg−@Aのメニュー看板、b−@〜Bの蛍光灯、c−@A及びh−@のポスター並びにこれらと類似する看板、メニュー看板、蛍光灯及びポスターを使用してはならない。
2(1)(主位的請求)
 被告は、店舗、宣伝広告物、ホームページその他の営業表示物件から、c−@A、d−@、e−@A、f−@〜S及びh−@の各物件中の「食堂」の表示並びにd−@、e−@A及びf−@〜Sの看板を廃棄又は抹消せよ。
(2)(予備的請求)
 被告は、店舗、宣伝広告物、ホームページその他の営業表示物件から、d−@、e−@A及びf−@〜Sの各物件中の「食堂」の表示、e−@A及びf−@〜Rの看板、a−@〜H及びg−@Aのメニュー看板、b−@〜Bの蛍光灯並びにc−@A及びh−@のポスターを廃棄又は抹消せよ。
3 被告は、原告に対し、1億1463万9000円及びうち1335万6000円について平成17年10月1日から、うち2003万4000円について平成18年1月1日から、うち6232万8000円につき平成18年3月1日から、うち1335万6000円について平成18年7月1日から、うち111万3000円について平成18年9月1日から、いずれも各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告に対し、平成18年10月17日(訴状送達の日の翌日)から、店舗、宣伝広告物、ホームぺージその他の営業表示物件からd−@、e−@A及びf−@〜Sの各物件中の「食堂」の表示、e−@A及びf−@〜Rの看板、a−@〜H及びg−@Aのメニュー看板、b−@〜Bの蛍光灯並びにc−@A及びh−@のポスターを廃棄又は抹消するまでの間、別紙店舗目録記載の各店舗1店舗につき1か月111万3000円の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、飲食店の経営等を業とする原告が、
@a 主位的に、
 原告の営業表示として著名であり又は周知性を取得している「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」(○○の部分には店舗の所在地名が入る。)の文字から成る表示(以下「原告表示」という。)と類似する「めしや食堂」の文字から成る表示(以下「被告表示」という。)を使用する被告の行為は、不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争に当たると主張して、同法3条に基づき、被告に対し、被告表示中の「食堂」の表示及び被告表示が記載された看板並びにこれらと類似する表示及び看板の使用の差止め及び廃棄等を求め、
b 予備的に、
 原告表示を使用した原告が経営する店舗(以下「原告店舗」という。)の外観(以下「原告店舗外観」という。)は全体として原告の営業表示として著名であり又は周知性を取得しているところ、被告表示を使用した被告が経営する店舗(以下「被告店舗」という。)の外観(以下「被告店舗外観」という。)に原告店舗外観と類似する外観を使用する被告の行為は、不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争に当たり、仮にそうでないとしても、民法上の不法行為を構成すると主張して、主位的に不正競争防止法3条に基づき、予備的に民法709条による被害回復請求権に基づき、被告に対し、被告表示中の「食堂」の表示並びに被告表示が記載された看板、メニュー看板、蛍光灯及びポスターの使用の差止め及び廃棄等を求め、
A 併せて、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、被告による被告表示又は被告店舗外観の使用により原告が被った損害として、各被告店舗ごとに出店月の翌月1日から平成18年9月末日(訴状送達の日の前)まで1か月111万3000円の割合による損害金及びこれに対する出店月の翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成18年10月17日(訴状送達の日の翌日)から上記表示等の抹消又は廃棄までの間各被告店舗ごとに上記同額の割合による損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
 原告及び被告は、いずれも飲食店の経営等を業とする株式会社である。
(2) 原告表示
 原告表示は、「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」(○○の部分には店舗の所在地名が入る。)の文字から成る。
(3) 被告表示
 被告表示は、「めしや食堂」の文字から成る。
2 争点
(1) 被告による被告表示の使用は不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争に当たるか。
 被告表示は原告表示に類似するか。(争点1)
(2) 被告による被告店舗外観の使用は不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争又は不法行為に当たるか。
ア 原告店舗外観は営業表示に当たるか。(争点2)
イ 被告店舗外観は原告店舗外観に類似するか。(争点3)
ウ 被告による被告店舗外観の使用は不法行為を構成するか。(争点4)
(3) 原告の損害(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告表示は原告表示に類似するか。)について
【原告の主張】
 原告表示(「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」)と被告表示(「めしや食堂」)とを対比すると、両者は、「食堂」部分の外観、称呼、観念が同一であり、また、「めしや」=「飯屋」は、「ごはんや」=「御飯屋」と観念が同一であって、大衆食堂店舗の営業表示として用いられているという実際の使用状況にも照らすと、原告表示と被告表示は、「食堂」あるいは「飯屋、御飯屋」を意味する営業表示として類似する。
【被告の主張】
(1) 外食産業においては、店舗名を統一ブランド名称として営業展開を行っており、需要者は、店舗名が記載された看板によって営業主体を識別する。したがって、外食産業においては、統一ブランド名称としての店舗名こそが営業表示性を有するから、統一ブランド名称としての店舗名が類似するか否かという観点から類否判断を行う必要がある。
 原告は、「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」を統一ブランド名称として多店舗展開をしている。したがって、原告店舗において自他識別力を有する営業表示は、「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」又は「まいどおおきに ○○食堂」のいずれかである。
 一方、被告は、和食のイメージを強調するために、「ザ めしや」「ザ めしや24」「めしやっこ」「めしや食堂」等、「めしや」を統一ブランド名称として多店舗展開をしている。
 そして、原告店舗の「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」又は「まいどおおきに ○○食堂」と被告店舗の「めしや食堂」を対比すると、外観、称呼、観念とも相違しているから、被告表示は原告表示に類似しないことが明らかである。
(2) 営業表示の類否判断は、全体を対比して行うのが原則である。原告が主張するように、「めしや」や「食堂」の部分を対比するのは、当該部分に強い識別力があって要部であると評価できる場合に限られる。外食産業においては、原則として店舗名全体が統一ブランド名称であるから、その一部が統一ブランド名称であるというためには、需要者がその一部に引き付けられて営業主体を識別するという特段の事情が存在することが必要である。
 これを本件についてみると「ごはんや」や「食堂」なる名称は普通名称で、あって、それのみでは強い識別力はなく、これをもって要部であるということはできない。したがって、被告表示の一部分のみを取り上げて原告表示と対比するのは誤りである。
 また、被告表示のうち「めしや」の部分に強い識別力があるからといって、原告表示の「ごはんや」の部分に強い識別力があることにはならず、「ごはんや」と「めしや」の観念が同一であるとしても、被告表示中の「めしや」の文字の大きさや宣伝広告活動によるブランドイメージと、原告表示中の「ごはんや」の文字の小ささや目立たなさを対比すれば、需要者が両者を類似のものと受け取るおそれは全くない。
2 争点2(原告店舗外観は営業表示に当たるか。)について
【原告の主張】
(1) 原告店舗外観の構成要素
 原告店舗は、その外観及び内装上、次のような要素から構成されている。
A 原告店舗の入口付近上部に設置された、白地に黒の墨文字(毛筆体)で原告表示(「ごはんや まいどおおきに ○○食堂)」が記載された店舗看板(文字)
B@ 「みそ汁」「玉子焼」「煮鯖」等の大衆食堂のメニューとして一般的によく提供される物品名が数品目程度、木目調の看板に墨文字(毛筆体)で記載された店舗外部メニュー看板
BA 食堂のメニューが数十品目程度、黒のボードに白字の毛筆体で記載された店舗外部に設置されたメニュー看板
BB 駐車場敷地に設置され、上部が円形であって白地に黒の墨文字で店舗名称が記載されたポール看板
BC 原告店舗(主として郊外に立地された独立した建物による店舗であるフリースタンディングタイプ)の外装の配色は、主として、木の色(壁面、メニュー看板)、黒色(壁面、庇)、白色(看板)から構成され、看板上には赤色も用いられていること
C@ 商品を提供する陳列場所上部に設置された、「みそ汁」「玉子焼き」「煮鯖」等の大衆食堂のメニューとして一般的によく提供される物品名が数品目程度、木目調の看板に墨文字(毛筆体)で記載された店舗内部のメニュー看板
CA 特に玉子焼きについてのみ、オーダーが来てから焼くコーナーを設け、それを名物あるいはお奨めと表記していること
CB 内装は大部分が木の色で統一され、暖色系の照明が使われ、テーブルや陳列台の高さも、顧客が居心地よく利用できるよう、心理工学的に配慮がされていて、全体的に「人の温もりを感じさせる、下町の大衆食堂」としてのコンセプトが貫かれた印象を抱かせること
(2) 原告店舗外観の営業表示性
ア 原告店舗の一次的、主位的な営業表示は、上記(1)のAの要素(以下「要素A」という。B@ないしC、C@ないしBの各要素についても同様に「要素B@」などという。)である。
 しかし、要素B@ないしC、要素C@ないしBにも識別力があり、出所表示として顧客誘因力があるから、これらの要素も二次的、副次的な営業表示となっている。
 そして、要素A、要素B@ないしC、要素C@ないしBが全体として原告店舗の印象を形成しており、顧客は、これらの各要素による全体としての印象を持って原告店舗に足を運び、店内に入り、サービスを受けるから、最終的には、上記各要素が全体として一つの営業表示として機能している。
イ 被告は、外食産業においては統一ブランド名称としての店舗名こそが営業表示性を有し、店舗の外観は営業表示たり得ないと主張する。
 しかし、需要者は、店舗の外観を、看板、色分けされた庇といった一つ一つの要素で対比するのではなく、複数の要素が一体となって一つの営業表示として機能していると考え、全体と全体とを比較する。また、需要者が店舗の外観について持つ印象は人によって異なり、需要者は、遠くから店舗の外観をしみじみ眺めるものではなく、印象を持った標識を頼りに店舗を選択する。場合によっては、需要者は、正確な店名を記憶していないこともあり、店舗全体の印象から、以前入ったのと同じ店あるいは同様の店と考えて入店する。店舗全体の印象を形成するものは、看板や店舗前面のデザインに限られるものではない。店舗の内装、店員のユニフォーム、商品のディスプレイ、メニューの名称及び内容等々、店舗の外観を構成するあらゆる要素が店舗全体の印象を形成する。したがって、外食産業において自他識別力を有するのは、店舗名称を記載した看板等の表示のみではなく、店舗の外観を構成するあらゆる要素の全体であって、これにも営業表示性が認められる。
 また、事業者側にとっても、内装、外装、テーブルや椅子の配置など、自己の思い描いたコンセプトに従った全体の統一性、雰囲気を重要と考えており、それが他とは区別された独自のものとなり、評判と一体化したブランドイメージとして確立されたとき、保護すべき無形の財産となる。
 このような全体としての店舗の外観については、不正競争防止法による保護の必要性が高い。同法2条1項1、2号の「商品等表示」には、「商品表示」と「営業表示」の両方が含まれるところ、商品表示について、商品の形態等を含むと解する以上、営業表示についても、看板などの標章以外の要素を含むと解すべきである。
ウ 原告店舗外観についてみると、確かに、原告店舗外観を構成する要素の中には識別力がないか弱いものもあるが、全体としてみると、強い自他識別力を有する。特に、フリースタンディングタイプの店舗は、前記(1)記載の各構成要素を共通して備えており、需要者は、原告店舗を一目見たり、原告店舗に足を踏み入れたりすると、その全体的な共通性から、「人の温もりを感じさせる、下町の大衆食堂」のコンセプトで貫かれた原告店舗であることを容易に認識する。したがって、原告店舗外観は識別性を有するというべきである。
 なお、米国では、トレードドレス(Trade Dress)〔ビジネスの「全体的なイメージ(total image)」あるいは「総合的な外観(overall appearance)」〕が判例上保護されている。トレードドレスが保護されるための要件は、@トレードドレスが機能的でないこと(非機能性)、Aトレードドレスが識別力を有すること(識別性)、B被告の商品や役務等によって、原告のトレードドレスとの間で消費者に混乱を生じさせる可能性を有すること(混同の可能性)であるところ、原告店舗外観は上記3要件を充たしている。
【被告の主張】
(1) 店舗の外観の構成要素の一部をもって営業表示性が認められるための要件について
ア 店舗の外観は、「店舗の大きさ、形状、配色」「店舗看板の位置、形状、大きさ、配色」「店舗看板に使用している文字の字体、大きさ、色」「店舗看板に使用している言葉のうち、どの言葉を目立つように強調するか」「ポール看板の大きさ、形状、配色、使用している文字の字体、大きさ、色」「ポール看板に使用している言葉のうち、どの言葉を目立つように強調するか」「屋根の大きさ、形状、配色」「窓の大きさ、形状」「イラストの有無、イラストの大きさ、イラストの量、配色」「壁、屋根等の材質(木を使っているのか、コンクリートなのか、それともそれ以外の材質のものを使用しているのか等」)「その他の意匠の大きさ、形状、配色、意匠の内容」「その他店舗外観を構成するあらゆる要素」の組合せによって成り立っているものであり、その組合せの数は無数に存在する。そして、その組合せが異なれば、需要者が受けるイメージも当然異なる。
 したがって、店舗の外観が営業表示であるというためには、原則として、無数に存在する店舗の外観を構成する要素の組合せの中から原告が選択した組合せを特定し、当該組合せが原告店舗全部に使用されていること(表示の統一性)を主張立証することが必要である。ただ、例外的に、店舗の外観を構成する要素のうち、主要な要素の組合せをもって営業表示と認められることもあり得るが、そのためには、当該主要な要素の組合せさえ共通していれば、それ以外の要素についてどのような形状、大きさ、色彩、意匠等が採用されていても、需要者が同一の営業主体と認識するという特段の事情が認められることが必要である(要件1)。
イ 大阪高等裁判所平成12年3月24日判決は、「ある商品がいくつかの基本的な構成要素からなるものである場合には一定の組合せを商品表示として保護することは業者間の自由かつ公正な競争を阻害する」と判示している。この判示からすると、店舗の外観においても、それが基本的な構成要素からなるものである場合は営業表示としての保護を受けられないものというべきであり、営業表示性が認められるのは、相当特殊で独自性のある外観に限定されるというべきである。
 また、外食産業の各事業主体は、通常、店舗の名称によってブランドイメージを作っており、その反映として、需要者も店舗の名称をもって営業主体を識別している。
 したがって、店舗の外観の構成要素の一部のみをもって営業表示性が認められるためには、前記要件1に加えて、「店舗の名称が異なっていてもそれ以外の外観の要素が強烈であり、需要者からすると店舗の名称よりも外観をもって特定の営業主体を認識できる」といった特段の事情が認められることが必要である(要件2)。
(2) 原告店舗外観について
ア 要素C@ないしBは、店舗外観の問題ではないから、そもそも「営業表示」とはなり得ない。
イ 要素B@ないしBは、原告店舗すべてに共通する要素ではないから、原告の「営業表示性を基礎づける主要な要素」とはなり得ない。
ウ 要素Aは、そのままでは原告の請求を基礎づける「営業表示」の要素と評価することはできない。なぜなら、原告が被告に抹消を求めているのは、被告の「食堂」なる表示であるから、この請求が認められるためには、「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」の自他識別力を主張立証したとしても何の意味も持たないのであって、あくまでも「原告店舗の入口付近上部に掲示された白地に黒の墨文字(毛筆体)で記載された『食堂』なる文字」の自他識別力を主張・立証しなければならないからである。したがって、原告の主張は、「原告店舗の入口付近上部に掲示された白地に黒の墨文字(毛筆体)の『食堂』なる文字」(以下、この要素を「a」と表示する。)をもって営業表示性を基礎づける主要な要素として主張しているものと解するほかない。
エ 要素BCについては、どの場所であっても外観に「黒」「木の色」「白」が使われていることが主要な要素であるとか、看板のどこかにどんな大きさであっても赤が使われていることが主要な要素であるとかいう主張はあり得ないから、原告の主張は、「壁面、メニュー看板は木の色、壁面、庇が黒色、看板が(黒枠の)白色、看板に(小さく書かれている『まいどおおきに』を囲むように)小さな赤丸を打っていること」(以下( )内を除く要素を「bC」と表示する。)をもって営業表示性を基礎づける主要な要素として主張しているものと解するほかない。
オ このように検討していくと、原告は、
a : 「店舗入口付近の上部に掲示された白地に黒の墨文字(毛筆体)の『食堂』なる文字」
bC: 「壁面、メニュー看板は木の色、壁面、庇が黒色、看板が(黒枠の)白色、看板に(小さく書かれている『まいどおおきに』を囲むように)小さな赤丸を打っていること」
 という2つの要素の組合せをもって「原告の営業表示」であると主張していることになる。
 しかし、外食産業において「食堂なる文字」や「店舗名称に毛筆体」を用いることなどが特段の独自性ある表現といえないことは明らかであるし、bCの要素も上記要件2を満たすほど強烈なものではない。
 したがって、原告店舗外観は、営業表示たり得ない。
3 争点3(被告店舗外観は原告店舗外観に類似するか。)について
【原告の主張】
(1) 類否判断の方法
 営業表示としての店舗の外観(外装及び内装)の類否判断に当たっては、店舗の外観をいちいち看板、ひさし、屋根、壁、ショウ・ウィンドウ等々と個々の構成要素ごとに対比するのみではなく、複数の物が一体として一つの営業表示として機能していると捉えて、全体的に比較するという観点も必要である。
(2) 構成要素ごとの対比
ア 店舗看板(要素A)
 被告店舗には、白地に黒の墨文字(毛筆体)で書した「めしや食堂」なる店舗看板があるが、これを原告店舗の店舗看板と対比すると、両者は、「食堂」の部分の外観、称呼、観念が同一であり、また、「めしや」=「飯屋」は、「ごはんや」=「御飯屋」と観念が同一であって、大衆食堂店舗の営業表示として用いられているという実際の使用状況にも照らすと、原告店舗の店舗看板と被告店舗の店舗看板は、「食堂」あるいは「飯屋、御飯屋」を意味する営業表示として類似している。
 なお、被告店舗には、ポップ字体で被告表示が記載された看板があるが、毛筆体であれポップ字体であれ、墨文字であるという点は共通し、かつ、「食堂」の文字を含んでいることから、需要者にとっては、一瞬見た際のイメージに類似性があるというべきである。
イ 木目調メニュー看板(要素B@)
 被告店舗の「玉子焼き」「さば煮」などの木目調メニュー看板には、原告店舗の木目調メニュー看板と外観、称呼、観念において同一ないし類似している記載が存在している。
 また、両者は、縦長の板に、少し崩した大きな墨書体の品目表記がある点で全く同じである。
ウ ボード状メニュー看板(要素BA)
 被告店舗の庇型メニュー看板は、木の板に墨文字で記載したもので、それ自体を抽出すると、黒地に白の字で記載した原告のメニュー看板とは配色が異なる。しかし、外看板に、価格も含めてメニューを並べて記載する発想自体が独特かつ奇抜なものであり、被告はこれを模倣した上、木の色や少し崩した毛筆字体を利用しており、これらは原告店舗で特徴的に用いられている(甲41、乙14、15)以上、原告店舗との関連性を印象付けるものであり、原告店舗外観との類似性を増大させるものである。
エ ポール看板(要素BB)
 「めしや食堂」とのポール看板も店舗看板同様に、「食堂」あるいは「飯屋、御飯屋」を意味する営業表示としては、原告店舗のポール看板の表示と同一ないし類似である。
 被告店舗には、上部が円形のポール看板は存在しないが、半円状のものは存在する。また、被告店舗のポール看板は、それ自体円形でなくても、赤の縁取りの中に白い円が描かれていて、その中に墨書体で「めしや食堂」と記載されている。原告店舗のポール看板の基本形は、白い円で、その中に墨書体で「ごはんや ○○食堂」と記載されているのであるから、文字部分の構成や、「めしや」と「ごはんや」の概念が近似していることに鑑みると、需要者に与える印象は非常に近似しているというべきである。さらに、夜間は視覚上、赤の縁取りが周囲の闇と一体化するので、一層、白い円とその中の墨書体が際だち、原告店舗のポール看板が与える印象と近似する。
オ 外装の配色(要素BC)
 外装の配色は、全体の類似性を判断するに当たり重要な要素となるが、各店舗を一目見たときに残る印象は、原告店舗のフリースタンディングタイプにおいて、主として、木の色(壁面、メニュー看板)、黒色(壁面)、白色(看板)から構成され、看板上には赤色も使っているというもので(甲41の1〜15)、被告店舗のフリースタンディングタイプで切妻型の屋根を採用した店舗において、白色(壁面)、黒色(屋根)、木の色(壁面、横型メニュー看板)から構成され、看板上には赤色も使っているというものであるから(乙18の1、2、8〜18)、その順序はともかく、「組合せ」として視覚に訴えるものは非常に近似している。
カ 店舗内部のメニュー看板(要素C@)
 被告店舗には、商品を陳列し提供する場所の上部に木目調の「玉子焼き」「さば煮」等の記載のあるメニュー看板が存在するが、これには、原告店舗に存在するメニュー看板と外観、称呼、観念上同一ないし類似している記載が存在している。
 原告店舗が陳列台の上部に墨書体のメニュー看板を掲げていること自体、独特の外観であり、被告店舗のメニュー看板もこの点で共通している。また、メニュー看板の下地の色は、原告店舗が白で、被告店舗が木の色であり、それ自体を抽出すると異なるが、木の色は、原告店舗の特徴の一つであり、需要者が原告店舗外観について類似的な印象を抱く重要な要素である。
キ 玉子焼き(要素CA)
 被告店舗にも、原告店舗と同様、特に玉子焼きについてのみ、オーダーと共に焼くコーナーが設けられている。
ク 照明等(要素CB)
 被告店舗の内装は、原告店舗と同様、木の色で統一され、暖色の照明が用いられている。
(3) 外観全体の対比
 被告店舗外観が有する上記構成要素は、全体として一つの店舗としての印象を形成しており、その状況は原告店舗外観の全体的な印象と極めて酷似していることが明らかであって、このことが、需要者をして、当初行く予定であった原告店舗と被告店舗を誤認混同させて被告店舗に足を運ばせ、被告店舗に誘引する要因となっている。
 需要者としては、個々の構成要素が類似していなくても混同が生じる場合は十分にあることであるし、また、日用品、日常食等の大衆分野においては、提供者側のブランド力維持のための不断の努力とは関係なく、営業表示に対して無関心ないし注意を欠く需要者層というのも少なからず存在する。そのような需要者は、個々の構成要素が類似していなくても、店舗の外観全体の印象が似ているから誤認混同して被告店舗に足を運び、被告店舗に誘引されるということが日常的に起こっている。このような場合において、他人の店舗の外観を模倣する行為を適切に排除するためには、個々の構成要素については厳密には類似していないとしても、外観全体として類似していれば、なお不正競争防止法2条1項2号又は1号にいう「類似」に該当するものというべきである。
【被告の主張】
 原告店舗外観と被告店舗外観とが全く異なる印象を需要者に与えるものであることは、両店舗を撮影した写真を一目見れば分かることであり、被告店舗外観が原告店舗外観に類似しないことは明らかである。
(1) 店舗看板(要素A)
 被告は、毛筆体で書した「めしや食堂」の看板を全店舗において使用しているものではない。
 平成18年6月以降に開店し又は「めしや食堂」に業態変更した6店舗(豊中名神口店、天白植田店、豊明三崎店、尾頭橋店、神戸多聞店及び橿原店)では、被告店舗の大看板の「めしや食堂」の文字は毛筆体ではなく、ポップ字体(ゴシック体・明朝体等の正式な書体をアレンジしたもの)である。上記6店舗の店舗看板については、毛筆体によって記載された原告表示には類似しない。原告は、毛筆体とポップ字体は類似すると主張するが、万人共有の財産である文字の書体を特定人に独占させるという不当な結果を招来させないためには、デッドコピーと評価されるものでなければ「類似性」が認められないというべきであり、原告の主張は誤りである。
 被告店舗の店舗看板のうち、毛筆体を使用しているものについては、営業表示性が肯定される字体(特別顕著性の認められる特徴的な字体)のデッドコピーと評価されるものでなければ類似性は認められないというべきである。なぜなら、類否判断を緩やかにすれば、営業表示性の判断を厳格にしたとしても、万人の共通財産である文字の書体が特定人に独占されるという不当な結果となるからである。このような観点から原告表示の毛筆体と被告表示の毛筆体とを対比すると、筆の運び、字の太さ、ハネの角度等、筆致が全く異なっており、両者は類似しない。
(2) 木目調メニュー看板(要素B@)
 被告店舗において、原告が主張するような木目調メニュー看板を使用している店舗は、岸里店と和泉店に限られている。両店舗で使用しているメニュー看板にしてみても、原告店舗のメニュー看板とは、寸法や質感、メニュー文字の筆致等、具体的な相違点が存在する(乙15の1ないし13、乙19の3・4・7・8・11・12・15・16・19・20・23・24)。原告は、縦長の板に、少し崩した大きな墨書体の品目表記がある点で全く同じであると主張するが、原告が指摘する点は、他社の店舗においても採用されている点であり、これをもって類似するということはできないというべきである。
(3) ボード状メニュー看板(要素BA)
 被告店舗において、原告が主張するようなボード状メニュー看板を使用している店舗は存在しない。原告は、被告店舗が庇型のメニュー看板を採用している以上、配色や筆致など類似性判断に影響を与えないかのような主張をするが、原告のメニュー看板の黒地と、被告メニュー看板の木の色とは、全く異なる色であるし、筆致も相違しており、メニュー間の間隔や食品イラストの有無の点でも大きな違いがあり、需要者の観点から考察するならば、両者の外観は全く異なった印象を与えるものとなっている。
(4) ポール看板(要素BB)
 被告店舗において、原告店舗で使用されている上部が円形のポール看板を使用している店舗は存在しない。被告店舗のポール看板は、白地の外側に円形の赤地を配色している点や、文字の筆致において、原告店舗のポール看板と相違している。
 原告は、「めしや」と「ごはんや」の概念が近似しているなどと主張するが、店舗の外観の類似性を主張する以上は、店舗名の対比を行うのではなくポール看板の形状等を対比するのが筋であるし、「めしや」であるとか「ごはんや」であるといった普通名称の概念が近似しているからといって類似性が肯定されることはない。また、原告は、夜間は視覚上、赤の縁取りが周囲の闇と一体化するなどとも主張するが、夜間ポール看板には遠方からでもポール看板に記載された店舗名が良く見えるように、ライトが当てられているのであるから、原告の上記主張は根拠のないものである。
(5) 外装の配色(要素BC)
 被告店舗においては、必ずしも、白、黒、木の色及び赤が使用されているわけではないし、そのような配色を持つ店舗においても、原告店舗とその組み合わせ方が異なる。
 原告は、使用している色が共通していれば、その配色が少々異なっても構わないかのように主張するが、極めて乱暴な議論である。木の色や黒、白、赤は多くの飲食店で用いられている色であり、実際、この4色を同時に用いている店舗が存在する(乙9の4・5・9・10)。配色を無視して近似性を肯定するのであれば、飲食店で多く用いられるはずの木の色、黒、白、赤のいずれについても、原告の独占を認めることになり、到底許されるものではない。
(6) 店舗内部のメニュー看板(要素C@)
 被告のメニュー看板は、原告のメニュー看板と比べて、各メニュー間の間隔がはるかに大きく、原告のメニュー看板にない食品のイラストも表示され、「煮」の字の筆致も異なっている。
 原告は、メニュー看板の位置が陳列台の上部であること、メニュー看板に墨書体を使用していること、被告メニュー看板の下地の木の色は原告店舗の特徴の一つであるなどと主張するが、いずれも証拠に基づかない主張である。原告の主張が認められるのであれば、店舗内においてメニュー看板を掲げる位置や、メニュー看板の書体、下地の色について原告の独占を認めることになりかねず、極めて不当な結果になることは明らかである。
(7) その他店舗の内装(要素CAB)
 原告は、店舗の内装も似通っていると主張するが、食堂店舗の内装が似通ったものになることは機能面からの当然の帰結である。したがって、内装が似通っていたとしても、それをもって被告店舗外観が原告店舗外観に類似するということはできない。
4 争点4(不法行為の成否)について
【原告の主張】
 原告店舗外観は法的保護に値する利益である。被告店舗外観は原告店舗外観に類似し、原告の法的保護に値する利益を不法に侵害しているので、被告による被告店舗外観の使用は、不法行為を構成する。
【被告の主張】
 争う。
5 争点5(原告の損害)について
【原告の主張】
(1) 本訴提起前の損害
 被告の営業利益の額は、1店舗当たり1か月平均で111万3000円であると推認される。
 被告は、次のとおり、本件訴え提起時(平成18年10月)までに別紙店舗目録記載の17店舗をオープンさせた。
出店月 出店数  本件訴え提起時までの期間
平成17年9月  12か月
12月   9か月
平成18年2月   8か月
6月 2+2   3か月(※2店舗は推測)
7月   2か月
8月   1か月
 したがって、被告が得た利益の額は以下のとおりとなり、これが原告の被った損害額と推定される(不正競争防止法5条2項)。また、同金額は、被告の違法な侵害行為と相当因果関係の範囲内にある損害でもある。
111万3000円×12か月 = 1335万6000円  
111万3000円×(9か月×2) = 2003万4000円  
111万3000円×(8か月×7) = 6232万8000円  
111万3000円×(3か月×2) =  667万8000円  
111万3000円×(3か月×2) =  667万8000円  
111万3000円×(2か月×2) =  445万2000円  
111万3000円×1か月 =  111万3000円 (+
  1億1463万9000円  
 なお、遅延損害金については、各店舗の開店時から損害賠償債務は遅滞に陥っている。
(2) 本訴提起後の損害
 少なくとも上記17店舗については、被告が「食堂」との表示等を廃棄又は抹消するまでの間、原告は、少なくとも1店舗あたり1か月111万3000円の損害を被る。
(3) よって、原告は、被告に対し、上記(1)の損害金合計1億1463万9000円及び出店月ごとの損害金に対する出店月の翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに上記(2)の訴状送達の日の翌日である平成18年10月17日から被告による「食堂」との表示等を廃棄又は抹消するまでの間1店舗につき1か月111万3000円の割合による損害金の支払を求める。
【被告の主張】
 争う。
第4 争点に対する判断
1 争点1(被告表示は原告表示に類似するか。)について
(1) 原告表示は「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」(○○には店舗の所在地名が入る)の文字から成るものであるが、実際に原告が使用している表示には、後記認定のとおり、「ごはんや まいどおおきに食堂 ○○食堂」というものがある(以下、この表示を含めて「原告表示」という。)。
 原告表示は、「ごはんやまいどおおきに(しょくどう)○○しょくどう」との称呼を生じ、「ご飯等の庶民的な食事を提供する食堂」というような観念を生じさせるものである。しかし、原告表示中「ごはんや」「○○食堂」の部分は、原告店舗の役務の提供の場所、提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものにすぎず、それ自体は格別の識別力を有するものではなく、それのみで独自の称呼、観念を生ずるものではないというべきである。これに対し、「まいどおおきに(食堂)」の部分は、後記認定のとおり、原告の展開する食堂チェーンのメインブランドの一つとして位置づけられており、これを構成する文字が「まいど」「おおきに」「食堂」の3行に分けて縦書きされ、この3行の文字の回り(一部は文字の上)を赤の墨文字様の円状の図形で囲むように描かれて全体として一つの図形(ロゴ)を構成するように表示されたものが、原告のホームページにおいて「まいどおおきに食堂」のブランドのロゴとして表示されており、そのロゴが全ての原告店舗の入口付近上部に設置された店舗看板(以下「原告店舗看板」という。)に同じ表示態様で表示されていることが認められ、「まいどおおきに食堂」は原告の営業表示としての高い識別性を有するものというべきである。また、「ごはんやまいどおおきに(食堂) ○○食堂」は一連に称呼するにしては冗長であり、食堂の利用者である需要者は原告表示のうち「まいどおおきに(食堂)」を分離して、同部分のみを称呼することが多いと考えられる。そうすると、原告表示は、その全体としてのみならず、「まいどおおきに(しょくどう)」との称呼も生じさせるものというべきである。
(2) 被告表示は、「めしや食堂」であり、「めしやしょくどう」との称呼を生じさせ、「ご飯等の飲食物を提供する食堂・飲食店」の観念を生じさせるものである。しかし、「食堂」は、役務提供の場所、役務提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものにすぎないから、上記「食堂」のみから営業主体の識別標識としての称呼、観念を生ずるとはいえない。これに対し、「めしや」の部分については、後記認定のとおり、被告が設立後14年以上の間、一貫して「ザめしや」等のブランドのみで店舗経営を行っており、現在でも「ザめしや」「めしやっこ」等「めしや」のブランドによる店舗が相当数存在すること等の事情にかんがみると、被告表示は、「めしや食堂」のみならず「めしや」との称呼も生じさせるものというべきである。
(3) 以上を前提に原告表示と被告表示の類否を検討するに、上記のとおり、原告表示は「ごはんやまいどおおきに(しょくどう)○○しょくどう」又は「まいどおおきに(しょくどう)」との称呼を生じさせるのに対し、被告表示は「めしやしょくどう」又は「めしや」の称呼を生じさせるものであって、両者が類似しないことは明らかである。なお、両者は「食堂」の部分で共通するが、同部分のみから営業主体の識別標識としての称呼、観念を生じさせるものとはいえないから、同部分が共通するからといって、両表示が類似するということはできない。
(4) 以上によれば、被告による被告表示の使用は、不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争には当たらない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の主位的請求は理由がない。
2 争点3(被告店舗外観は原告店舗外観に類似するか。)について
(1) 原告店舗看板に記載された原告表示について
 証拠(甲3ないし5、6の1・2、8ないし10、12ないし23)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告は、「まいどおおきに食堂」ほか複数のブランド(名称)を用いて多数の飲食店、飲食に関するフランチャイズチェーンを運営する、いわゆる多店舗経営を行っている。
イ 原告は、自社のホームページにおいて、「ブランドインフォメーション」として、「まいどおおきに食堂」のほか、「かっぽうぎ」「串家物語」という2つのメインブランドと、「つるまる」「丸天家」「麦かつ食堂かつ満」など20以上のサブブランドを有して店舗運営を行っている。このうち「まいどおおきに食堂」をブランドとする店舗には、ビルインタイプ(「街角のあったか食堂」と称し、主として市街地に立地する雑居ビル等の一画で営業する店舗形態)とフリースタンディングタイプ(「郊外のあったか食堂」と称し、主として郊外に立地する独立した建物で営業する店舗形態)の2種類があることを紹介している。「まいどおおきに食堂」をブランドとする店舗の一覧のページには、個々の食堂名〔「○○食堂」(○○の部分には店舗の所在地名が入り、例えば「新大阪食堂」「安倉南食堂」などと称している。)〕とその連絡先が記載されている。なお、原告のホームページにおいて、「まいどおおきに食堂」との関連で「ごはんや」という名称について触れた箇所はない。
ウ 原告店舗看板には、白地に黒で記された独特の書体による墨文字(毛筆体)で原告表示(「ごはんや まいどおおきに食堂 ○○食堂」なる表示)が記載されているところ、その態様は次のとおりである。
 すなわち、原告店舗看板の最上部に、「ごはんや」の4文字が横書きされ、その右横に「まいどおおきに食堂」の文字が「まいど」「おおきに」「食堂」の3行に分けて縦書きされ、この3行の文字の回り(一部は文字の上)を赤の墨文字様の円状の図形で囲むように描かれており、同部分が全体として一つの図形(ロゴ)を構成するように表示されている。「ごはんや」及び「まいどおおきに食堂」の部分の下に、店舗の所在地名とこれに続けて「食堂」の2文字が一連の文字列として「○○食堂」(○○の部分に店舗の所在地名が入る。)の文字が横書きされ、更にその下に、「○○食堂」に対応するローマ字表記が横書きされている。なお、「○○食堂」の部分の左横(原告店舗看板の左下隅)に、水墨画風の筆致で大根とじゃがいものように見える野菜の絵が描かれている。
 原告店舗看板において、「○○食堂」の部分の文字の大きさ(文字の縦横の長さ。以下同じ。)は、他の部分と比べて格段に大きく、「○○食堂」の部分の文字は、「ごはんや」の部分の文字の5倍程度の大きさであり、「まいどおおきに食堂」の部分の赤い円状の図形全体と比べてもその5倍程度の大きさである。そのため、「○○食堂」の部分は、原告店舗看板全体に占める割合が「ごはんや」の部分や「まいどおおきに食堂」の部分と比べて圧倒的に大きく、需要者の目を惹くものと認められる。これに対し、「まいどおおきに食堂」の部分は、文字自体はかなり小さく、注意をして見なければ文字の判別自体容易ではないが、上記のとおり全体として一つの図形(ロゴ)を構成しており、原告のホームページにおいても「まいどおおきに食堂」のブランドのロゴとして表示されており、全ての原告店舗看板に同じ表示態様で表示されている。
(2) 被告店舗の店舗看板に記載された被告表示について
 証拠(甲24、35、36、乙1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告は、「めしや食堂」ほか、「ザめしや」「めしやっこ」等の複数のブランド(名称)を用いて多数の飲食店を運営する、いわゆる多店舗経営を行っている。
イ 被告は、昭和61年3月に設立され(当時の商号はエル・フーズ株式会社)、それ以来、長らく「ザめしや」のブランドで店舗運営を行っていたが、平成12年12月に「ザめしや24」のブランドによる店舗を開店し、その後、「めしやっこ」「めんむす」「街かど屋」等のブランドによる店舗を相次いで開店した後、平成17年9月に「めしや食堂」のブランドによる店舗を開店し、現在に至っている。ブランドごとの店舗数は、平成18年9月18日現在、近畿・東海を中心として、「ザめしや」74店舗、「ザめしや24」17店舗、「めしやっこ」2店舗、「めしや食堂」17店舗、その他9店舗である。
ウ 被告店舗には、店舗によって設置位置や設置態様が若干異なるものの、その入口付近上部や店舗壁面等に店舗看板(以下「被告店舗看板」という。)が設置されており、被告店舗看板には、白地に黒の独特の書体による墨文字(毛筆体)又はいわゆるポップ字体で被告表示(「めしや食堂」)が記載されているところ、その態様は、概ね次の2種類のものがある。
(ア) 墨文字(毛筆体)のもの
 被告店舗看板の上部に「めしや」の3文字が横書きされ、「めしや」の「しや」の文字の下に「食堂」の2文字が横書きされている。「めしや」の「め」の文字の下に、「○○食堂」(○○の部分には店舗の所在地名が入る。)の文字が赤地に白抜きで小さく印影状に記載されており、「めしや」の部分の文字の大きさは、「食堂」の部分の文字の大きさと比べてかなり大きく(「めしや」の部分の文字は、「食堂」の部分の文字の1.5倍から2倍程度の大きさである。)、そのため、「めしや」の部分の被告店舗看板全体に占める割合がかなり大きいことから(「めしや」の部分は、「食堂」の部分が占める割合の4、5倍程度の割合を占めている。)、同部分が需要者の目を惹くものと認められる。
(イ) ポップ字体のもの
 被告店舗看板の上部に「めしや」の3文字及び「食堂」の2文字が2行にわたりいずれも横書きされており、「食堂」の「堂」の文字の右側に、赤地に白抜きで、茶碗に飯が盛られた様子を描いた図柄が小さく印影状に表示されており、「めしや」の部分の文字の大きさは、「食堂」の部分の文字の大きさと比べてやや大きいため、「めしや」の部分の被告店舗看板全体に占める割合がやや大きく、同部分が需要者の目を惹くものと認められる。
(3) 原告店舗看板に記載された原告表示と被告店舗看板に記載された被告表示の対比
ア 上記(1)認定の事実をもとに、原告店舗看板に記載された原告表示について見ると、原告表示は「ごはんや まいどおおきに(食堂) ○○食堂」というものであって、前示の外観を有し、「ごはんやまいどおおきに(しょくどう)○○しょくどう」との称呼を生じさせ、「ご飯等の飲食物を提供する食堂・飲食店」の観念を生じさせるものである。しかし「○○食堂」、の部分については、原告店舗看板全体に占める割合が圧倒的に大きく需要者の目を惹くものの、このうち「○○」は当該店舗の所在地名であり、「食堂」は普通名称であるから、「○○食堂」のみから特定の営業主体の識別標識としての称呼、観念を生ずるとはいえない。また、「ごはんや」の部分についても、それ自体が「ご飯を提供する」という原告の役務の提供の態様を普通に用いられる方法で表示したものにすぎず、原告のホームページにおいて、「まいどおおきに食堂」との関連において「ごはんや」の名称について触れた箇所はない上、「○○食堂」の部分と比べて原告店舗看板全体に占める割合が相当小さいことからすると、「ごはんや」の名称のみから営業主体の識別標識としての称呼、観念を生ずるということもできない。「まいどおおきに食堂」の部分については、全体として一つの図形(ロゴ)として構成されており、同図形の表示態様は全ての原告店舗に共通するものである。また、「ごはんやまいどおおきに(しょくどう)○○しょくどう」という称呼は冗長であり、需要者により「まいどおおきに(しょくどう)」と称呼されることもあると考えられるから、そのうちの文字部分自体の大きさが原告表示中の他の部分と比べてかなり小さく、注意をして見なければ文字の判別自体が容易ではないとしても、それ自体が営業主体の識別標識としての称呼、観念を生ずるものというべきである。
 したがって、原告表示は、原告表示全体(「ごはんや まいどおおきに(食堂) ○○食堂」の全体)又は「まいどおおきに(食堂)」の外観、称呼、観念を生じるものと認めるのが相当である。
イ 他方、上記(2)認定事実をもとに、被告店舗看板に記載された被告表示について見ると、前示の外観を有し、「めしやしょくどう」の称呼を生じさせ、「ご飯等の飲食物を提供する食堂・飲食店」の観念を生じさせるものである。しかし、「食堂」は上記のとおり普通名称であるから、上記「食堂」のみから営業主体の識別標識としての称呼、観念を生ずるとはいえない。これに対し、「めしや」の部分については、被告が設立後14年以上の間、一貫して「めしや」のブランドのみで店舗経営を行っており、現在でも「めしや」のブランドによる店舗が相当数存在すること、被告店舗看板全体に占める「めしや」の部分の割合は極めて大きく、需要者の目を惹くものと認められる。そうすると、被告表示は、「めしや食堂」のみならず「めしや」の部分からも営業主体の識別標識としての称呼、観念が生じるものといえる。
ウ 原告表示と被告表示の対比
 上記ア、イをもとに、原告表示と被告表示を対比すると、「ごはんや まいどおおきに(食堂) ○○食堂」ないし「まいどおおきに(食堂)」と「めしや食堂」ないし「めしや」とは、外観、称呼が相違することが明らかであり、被告表示は原告表示に類似しないというべきである。なお、原告表示・被告表示とも、「ご飯等を提供する食堂・飲食店」との観念を生じさせるものであるが、原告表示中の「食堂」は原告の業種・業態を端的に表す普通名称であって、特定の営業主体を表示する識別標識とは認められないから、上記のとおり観念が類似することをもって、被告表示が原告表示に類似するということはできない。
(4) 原告店舗外観と被告店舗外観の構成要素の対比
 以上を前提に原告店舗外観と被告店舗外観の構成要素を対比すると、次のとおりである。
ア 店舗看板(要素A)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗看板は、横長の長方形の看板で、白地に前記(1)ウ認定の態様で「ごはんや まいどおおきに食堂 ○○食堂」の文字、野菜の絵等が描かれている。
(イ) 被告店舗
a 被告店舗には、その入口付近上部に店舗看板が設置された店舗があるところ、その店舗看板の形状、表示内容は必ずしも一様ではなく、後掲証拠によれば、少なくとも次のようなものがあることが認められる。
@ 横長の長方形の看板で、白地に前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙18の6・7、乙19の5の1・2)
A 正方形の看板で、白地に前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙18の24)
B 横長の長方形の看板で、その両端部が赤、中央部分が白地の円の上下の弧が一部欠けた形状の部分に、前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙17の9、乙18の1・9・10・19・20・29、乙19の9、19の14の1、19の17の2、19の22の1)
C 横長の長方形の木目調の看板で、ポップ字体で「めしや食堂」の文字が横書きされたもの(乙18の26・27・30ないし34、乙19の22の2、19の25・26、19の27の1・2、19の28、19の29の1・2、19の30・31)
b 被告店舗には、店舗壁面又は屋根上に店舗看板が設置された店舗があるところ、その店舗看板の形状、表示内容も一様ではなく、後掲証拠によれば、少なくとも次のようなものがあることが認められる。
@ 正方形の看板で、周囲が赤、中が白地の円の中に前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙18の1ないし8・12・13・17・18、乙19の2、19の5の1・2、19の6・10、19の13の1・2、19の17の1・2、19の18、19の21の1)
A 正方形の看板で、周囲が赤、中が白地の円の中にポップ字体で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙16の5・6、乙18の25ないし28・31・33ないし35、乙19の25・26、19の27の1・2、19の28、19の29の1・2、30、31)
B 縦長の長方形の看板で、周囲が赤、中が白地の円の中に前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙18の9、乙19の14の1)
C 横長の長方形の看板で、その両端部が赤、中央部分が白地の円の上下の弧が一部欠けた形状の部分に、前記(2)ウ認定の態様で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙18の12、乙19の6)
D 横長の長方形の看板で、その両端部が赤、中央部分が白地の円の上下の弧が一部欠けた形状の部分に、ポップ字体で「めしや食堂」の文字等が描かれたもの(乙19の22の1)
(ウ) 対比
 原告店舗看板と被告店舗看板について、まず、そこに記載されている内容としての原告表示と被告表示が類似しないことは前示のとおりである。
 被告店舗看板のうち、上記(イ)aCは、看板の地色が木目調で、字体はポップ字体である点で、原告店舗看板(白地に墨文字(毛筆体)が用いられている。)と相違する。
 被告店舗看板のうち、上記(イ)bの各看板は、設置位置が原告店舗看板と異なる上、このうち@ないしBは、看板の形状も異なり、さらにAは字体も異なる。また、Dは字体が異なる。
 被告店舗看板のうち、被告表示が毛筆体で記載された看板は、抽象的に毛筆体で書されたという点においては原告店舗看板と共通するが、被告表示の毛筆体は、原告表示の毛筆体と比べて、字の太さが太く、筆の運びが力強いなど、両者は筆致が異なっている。
イ 木目調メニュー看板(要素B@)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗の店舗外部の木目調のメニュー看板は、縦長の板に、少し崩した墨書体の文字で「ごはん」、「玉子焼」、「煮鯖」等のメニューを縦書きにしたものであり、やや下方に向けて傾けて設置されている。なお、各看板には各メニューの値段の記載はない(甲20ないし23、41の1ないし18)。
(イ) 被告店舗
 被告店舗において、店舗外部に木目調のメニュー看板を掲示している店舗は、2店舗(岸里店、和泉店)のみである。これら店舗における上記メニュー看板は、縦長の板に、少し崩した墨書体の文字で「肉じゃが煮」、「さば煮」、「豚汁」、「玉子焼き」のメニューを縦書きし、その下に赤地で値段を記載したものであり、壁面又は屋根上に、地面に垂直に設置されている(乙18の1・2・17、乙19の17の1・2、乙19の21の1・2)
(ウ) 対比
 両者は、縦長の板に、少し崩した墨書体の文字でメニューを縦書きしている点において一致するが、看板の設置方法、メニューの字体が若干異なるほか、値段の記載の有無において相違する。
ウ ボード状メニュー看板(要素BA)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗の店舗外部の黒のボードのメニュー看板は、横長の黒のボードに白字で、メニューと値段を横書きにして、縦に4品目程度、横に数品目ないし7、8程度の品目を並べて記載したものである(甲20、21、41の1ないし15)。
(イ) 被告店舗
 被告店舗において、原告店舗のボード状メニュー看板に相当するものとしては、横長の黄色のボードのメニュー看板が設置されている店舗がある。このメニュー看板には、墨書体でメニューを縦書きにし、その横に赤地で当該メニューの値段とイラストを描いたものを1組として、これを各メニューごとに横に並べて記載したもの(乙18の5・9ないし16・21、乙19の1・2・6、乙19の14の1、19の18)と、ポップ字体でメニューを縦書きしたもの(乙18の26・27・30・32・34、乙19の22の2、19の25・26、19の27の1、19の28・30・31)とがある。
(ウ) 対比
 原告店舗と被告店舗のボード状のメニュー看板は、横長のボード状の看板であるという点において一致するが、看板の地色、メニューの記載態様(横書きか縦書きか、イラストの有無等において相違する)。
エ ポール看板(要素BB)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗のポール看板は、主に円形であるが(乙14の7、乙15の4・8・10・11、乙19の3の1、19の4の1、19の12、19の16の1、19の19の2、19の20、19の24の1)、その他に横長の八角形のもの(乙14の8、乙15の13、乙19の7の1・2)、横長の長方形のもの(乙15の6、乙19の15の2)又は正方形のもの(乙15の7、乙19の23の2)がある。原告店舗のポール看板には、白地に黒の墨書体(毛筆体)で、前記(1)ウ認定の態様で原告表示が記載されている。
(イ) 被告店舗
 被告店舗のポール看板は、四角形又は上部が円形の半円状の看板で、四角形のものは、周囲が赤、中が白地の円(又は上下の弧の一部が欠けた形状)の中に黒の墨書体(毛筆体)又はポップ字体で被告表示が記載されており(乙16の1ないし4・6、乙17の1・2・4ないし8・10、乙18の2・4・8・12・15・18・22・25・26・28・29・31・35、乙19の2・6・10、19の13の1、19の17の1、19の18、19の21の1、19の22の1、19の25ないし27、19の29の1、19の30・31)、半円状のものは、白地に黒の墨書体(毛筆体)で被告表示が記載されている(乙17の11、乙18の23、乙19の1)。被告店舗のポール看板には、円形のものは存在しない。
(ウ) 対比
 原告店舗と被告店舗のポール看板は、被告店舗に円形のものが存在しないなど形状が異なるほか、配色、字体が異なる。
オ 外装の配色(要素BC)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗のフリースタンディングタイプの店舗には、その色として、木の色(壁面、木目調のメニュー看板)、黒色(壁面)、白色(店舗看板、ポール看板の地色)が使用されており、店舗看板及びポール看板には、「まいどおおきに食堂」のロゴ表示の部分に比較的小さく赤色も使用されている。
(イ) 被告店舗
 被告店舗のフリースタンディングタイプの店舗のうち、切妻型の屋根を持つ店舗において、白色(壁面)、黒色(屋根)、木の色(壁面、ボード型のメニュー看板)が使用されているものがある(乙18の8ないし18)が、外装に上記店舗看板(要素A)が設置されていることが多いことから、そこで使用されている赤色がかなり目立つようになっている。
(ウ) 対比
 上記の原告店舗と被告店舗とを対比すると、外装に使用されている色の全体としての種類は共通するが、それぞれの色が用いられている箇所は全く異なっている。
カ 店舗内部のメニュー看板(要素C@)について
(ア) 原告店舗
 原告店舗の店舗内部の商品陳列棚の上部には、黒の墨書体(毛筆体)でメニューが縦書きにされ、地色が白のメニュー看板が設置されている(弁論の全趣旨)。
(イ) 被告店舗
 被告店舗の店舗内部の商品陳列棚の上部には、黒の墨書体(毛筆体)でメニューが縦書きされ、その横にそのイラストが描かれ、地色が木の色のメニュー看板が設置されている(弁論の全趣旨)。
(ウ) 対比
 両メニュー看板は、黒の墨書体でメニューが縦書きされている点は一致するが、看板の地色、イラストの有無において相違する。
キ その他店舗の内装(要素CAB)について
 被告店舗においても、原告店舗と同様、玉子焼きについてのみオーダーを受けてから焼くコーナーが設けられており、また、暖色系の照明が用いられている点で両者は共通する。
(5) 原告店舗外観全体と被告店舗外観全体の対比
 原告は、被告店舗外観全体が原告の営業表示として著名であり又は周知性を取得している原告店舗外観全体に類似し、被告店舗を原告店舗と誤認混同を生じさせるおそれがあると主張する。しかし、原告は、原告店舗外観及び被告店舗外観の個々の構成要素を取り出してその共通点を挙げるのみで、その全体としての店舗外観について十分特定しているとはいい難い。特に、原告は、当裁判所の再三にわたる釈明にもかかわらず原告店舗外観に対応する全体としての被告店舗外観を適確に特定しているとはいい難い。この点はしばらく措くとしても、店舗外観は、それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが、特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではないとも解され、原告店舗外観全体もかかる営業表示性を取得し得る余地があること自体は否定することができない。しかし、仮に店舗外観全体について周知営業表示性が認められたとしても、これを前提に店舗外観全体の類否を検討するに当たっては、単に、店舗外観を全体として見た場合の漠然とした印象、雰囲気や、当該店舗外観に関するコンセプトに似ている点があるというだけでは足りず、少なくとも需要者の目を惹く特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである。
 そこで、検討するに、原告店舗外観と被告店舗外観において最も特徴があり、かつ主要な構成要素として需要者の目を惹くのは、まず、店舗看板(要素A)とポール看板(要素BB)というべきである。
 このうち店舗看板についてみると、そこに記載されている内容(原告表示か被告表示か)が類似しないことなどにより、原告店舗看板と被告店舗看板は類似しない。また、被告店舗の中には、店舗入口付近上部のみならず、店舗壁面や屋根上にも店舗看板が設置されている店舗があり、これら店舗では、どこから見ても被告表示が記載された店舗看板が目立つように設置されている。また、ポール看板についても同様に、そこに記載されている内容(原告表示か被告表示か)が類似しないことなどにより、原告店舗のポール看板と被告店舗のポール看板は類似しない。ポール看板によって、原告表示又は被告表示は遠目にも目に付くように設置されている。これらの店舗看板(要素A)とポール看板(要素BB)の相違点が、原告店舗外観及び被告店舗外観の全体の印象、雰囲気等に及ぼす影響は大きいものというべきである。
 また、その他、木目調メニュー看板(要素B@)、ボード状メニュー看板(要素BA)、外装の配色(要素BC)にも軽視し得ない相違点があり、とりわけ、外装の配色については、使用されている色の種類が全体として共通しているものの、使用されている色は黒色、白色や木の色というありふれたものであり、しかも、原告店舗外装で使用されている赤色は、「まいどおおきに食堂」のロゴ部分に比較的小さく表示して使用されているだけであるのに対し、被告店舗外装では被告店舗看板が壁面等に設置されていることから、同看板で使用されている赤色がかなり目立つ態様となっており、原告店舗が黒、白を基調とした古くからある町の食堂を彷彿とさせる素朴な印象を与えるのに対し、被告店舗がより近代的で華やかな印象を与える点で相当の相違が認められ、全体としての印象、雰囲気がかなり異なったものとなっていると認められる。
 原告は、その他店舗の内装の共通点として、@被告店舗においても、原告店舗と同様、玉子焼きについてのみオーダーを受けてから焼くコーナーが設けられており、また、A暖色系の照明が用いられている点を挙げる。しかし、被告の@のような営業形態は、役務提供の方法そのものであって、かかる営業形態について原告に独占権を認めることはできず、しかも、そのような営業形態自体とくに目新しいものということはできない。また、Aの点についても、飲食店において暖色系の照明を用いることは、店構えとしてきわめてありふれたことである。したがって、上記各点を捉えて原告店舗外観と被告店舗外観との類似性を基礎づける事情とすることはできない。
 以上によれば、原告店舗外観と被告店舗外観のその他の個々の構成要素に前記認定の共通点があることを考慮しても、被告店舗外観が原告店舗外観に全体として類似するとは到底認められないというべきであり、したがって、需要者が被告店舗と原告店舗の営業主体を誤認混同する恐れがあるとは認められないというべきである。
 この点について原告は、営業表示に対して無関心ないし注意を欠く需要者層は、個々の構成要素が類似していなくても、店舗の外観全体の印象が似ているから原告店舗と誤認混同して被告店舗に足を運び、被告店舗に誘因されるということが日常的に起こっているとして、個々の構成要素については厳密に類似していないとしても、外観全体として類似していれば、なお不正競争防止法2条1項2号又は1号にいう「類似」に当たると解すべきである旨主張する。
 しかし、被告店舗外観が外観全体としても原告店舗外観に類似していないことは前示のとおりである。また、著名であり又は周知性を取得している商品等表示に類似する商品等表示の使用が不正競争とされるのは、著名であり又は周知性を取得している商品等表示に化体された商品の出所ないし営業主体の信用にフリーライドすることを抑止するためであるところ、原告が主張する「営業表示に対して無関心ないし注意を欠く需要者層」は、当該商品等表示の出所ないし営業主体に対して信用を置いているために類似の商品等表示に接した場合に出所ないし営業主体について誤認混同を生じるのではなく、まさに「営業表示に対して無関心ないし注意を欠」いているがために他の商品等表示に接した場合に彼我の相違に気が付かないだけである。本件のように価格の低廉な大衆食堂については、「ご飯」「玉子焼」「煮鯖」というような定番品目を低廉な価格で提供するような形態の店舗であれば、営業主体にかかわらず、ともかく目に付いた手近な食堂を選択する需要者も少なくないと考えられる。そのような需要者で、かつて原告店舗を利用した者が、被告店舗のように比較的有名であって、同種の定番品目を同様の営業形態で提供する店舗をたまたま目にして選択したとしても、それを営業主体を誤認混同した結果と断定することはできない。したがって、そのような需要者層を想定して類否判断の基準を緩やかに解することは相当でない。
 ちなみに、誤認混同の例として挙げるインターネットの書き込み(甲26)は作成者が不明であるという点はさておき、「めしや食堂とは別モン?」と記載されているにすぎず、「別モン」である店舗の具体的記載がないので、これをもって具体的な原告店舗との誤認混同の例と認めることはできない。また、「お客様のご意見をお聞かせ下さい。」とのメモ(甲27)は、原告店舗が顧客に利用後の感想を求めたのに応じて顧客が作成したメモと認められるところ、そこには「始めて来ました大阪の高槻で営業している(ザ・飯屋)みたいだなあと思いました。」との記載があるところ、同記載によれば、同顧客は原告店舗と被告経営の店舗(ザ・飯屋)を明確に識別した上で回答していることが明らかである。また、インターネットのブログ(甲33、34)には、それぞれ「この店(判決注・被告店舗西宮北インター店)は出来た当初は『ザめしや』で、お次は讃岐うどんの『めんむす』に改装、お次は『めしや食堂』ときた。この新業態、大阪中心に急拡大を続ける某チェーンのパクリと思えなくはない。…というか、完全パクリやん。」(甲33)、「『めしや食堂』も『ザめしや』の系列ですが、システムは『いも膳』や『まいどおおきに食堂』に近く、その分リーズナブルになっています。」(甲34)との記載がある。これらの記載は、いずれも原告店舗と被告店舗の営業主体が異なることを前提として、その業態等が類似していることを言うものにすぎないことが明らかである。したがって、原告の挙げる上記証拠は、いずれも被告店舗を原告店舗と誤認混同した具体的事例と評価することはできない。
(6) まとめ
 以上によれば、被告による被告店舗外観の使用は、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争には当たらない。
 また、被告店舗外観が原告店舗外観に類似していない以上、被告による被告店舗外観の使用は、原告の法律上の保護に値する利益を侵害するものとはいえないから、民法上の不法行為を構成するものでもない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の予備的請求も理由がない。
3 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 西理香
 裁判官 西森みゆき
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