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【事件名】間取図作製ソフトの編集著作権事件
【年月日】平成19年6月28日
 名古屋地裁 平成18年(ワ)第3944号 編集著作権侵害差止等請求事件

判決


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、いずれも「間取図作成ソフトver1.2」を頒布及びインターネットを通じて第三者に送信してはならない。
2 被告らは、原告に対し、各自金300万円及びこれに対する平成18年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、被告らによる「間取図作成ソフトver1.2」の頒布及び送信行為が、原告の間取図作成ソフト「間取るっくver1」における間取りパーツの選択に係る編集著作権を侵害するものであるとして、被告らの上記ソフトの頒布及び送信の差止めと損害賠償(遅延損害金を含む。)を請求した事案である。
1 前提事実(争いがない事実ないし弁論の全趣旨により明らな事実)
(1) 原告は、ソフト開発等を目的とする小規模ベンチャー企業である。
 被告株式会社石田技術コンサルタンツ(「被告石田技術」という。)は、建築関係の技術コンサルタント等を目的とする会社であり、被告社団法人中部圏不動産流通機構(「被告流通機構」という。)は、不動産取引業者の同業組合である
(2) 原告は、有限会社ネスコから、「間取るっくver1」(原告ソフト)の著作権及びこれに基づく損害賠償請求権を譲り受け、原告ソフトを販売していた
(弁論の全趣旨)。
 被告石田技術は、平成16年ころ「間取図作成ソフトver1.2」(「被告ソフト」という。)を作成し、これを有償で被告流通機構に提供し、被告流通機構は、同ソフトをその会員である不動産業者に無償で主にインターネットを通じて提供した。
 なお、被告ソフトは、平成17年5月16日に「ver1.3」、同年8月26日に「ver1.4」、平成18年9月11日に「ver1.4a」に、それぞれバージョンアップされた(弁論の全趣旨)。
(3) 原告ソフト及び被告ソフトは、いずれも、間取図を簡便に作図することを目的とした間取図作成ソフトで、居室、柱、トイレ等の各種類に応じ、サイズ・形状の異なる複数の間取りパーツ(単に「パーツ」という。)が準備されており、ユーザーは、このパーツの中から必要なものを選び出し、これを図面に組み合わせることによって、間取図を作成するものである(弁論の全趣旨)。
(4) こうした間取図作成ソフトは、原告ソフト及び被告ソフトのほか、日本スキルズ株式会社の「Super Links」、日本情報クリエイト株式会社の「らくらく間取ろう!」、株式会社ハウテックの「せっけい倶楽部」、有限会社ピー・エス・アイランドの「間取りPlanner3D」、有限会社ライラックシステムの「間取りっど3」及び「らくCAD」、有限会社シスコネットの「図面くん」、有限会社エムアールエスの「間取りーだー」、株式会社ロジックの「イエスマイハウス」等が販売ないし頒布されている(弁論の全趣旨、原告ソフト及び被告ソフトを除くこれらの間取図作成ソフトを「他社ソフト」という。)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 原告ソフトはパーツの選択に創作性を有する編集著作物といえるか
(原告の主張)
ア 間取図作成ソフトにおいて、選択されるパーツの種類・サイズ・形状には多くのバリエーションがある。しかも和室については畳の並び方も様々であり、こうした要素を含めればそのバリエーションはさらに多くなる。
 したがって、間取図作成ソフトにおいて、選ばれるかもしれない多くのパーツを全部準備しておくと、表示された数多くのパーツの中から必要なものを選択する作業が大変になる。逆に、必須と思われるパーツに限定して準備すると、その中から選択することは容易になるものの、都合のよいサイズ・形状のものがないと、自ら作図するか、既存のパーツを拡大縮小する等の煩わしさが生ずることになる。
 このように、間取図作成ソフトにおいては、用意されるパーツをどの程度の数にするのか、またどのサイズ・形状のものを選択するのかという点で、ソフト作成者の個性が表れる。
イ 原告ソフトを他社ソフトと比較して見ると、次の点が指摘できる。
 下駄箱については、「せっけい倶楽部」は玄関にあらかじめ組み合わせているので、下駄箱独自のパーツを準備していない。
 キッチンについては、「Super Links」や「せっけい倶楽部」は多数のパーツを用意しており、そのほとんどが原告ソフトよりも大型のものである。つまり、昔の家のキッチンはどちらかといえば片隅に置かれる小型のものであったが、妻の地位の向上、家族団らんの重要性、グルメブームという時代の変化に応じて、キッチンは大型化、豊富化の傾向にあり、「Super Links」や「せっけい倶楽部」のパーツは、時代傾向をやや先取りし、他方原告ソフトのそれは昔の常識に相応しているといえる。
 さらに、原告ソフトは、キッチンとカウンターを別パーツにして、組合せのバリエーションを作っているが、他社ソフトのものはカウンター一体型のキッチンを準備している例が多い。
ウ なお、間取図作成ソフトのパーツの選択は、そのソフトの実用目的による制約により対象が限られてくるとか、誰が選択してもある程度は共通になるという要素があることは否定できないが、実用目的による制約がある場合でも、その素材の選択の幅がある程度広がりをもってくる場合には、もはや実用品であることや表現形式の限定を理由に著作物性を否定することは許されなくなる。間取図作成ソフトは、対象としている種類・形状・サイズのパーツは何千何万通りもあり、それらから200ないし500種程度のパーツを選択するのであるから、実用目的であることを理由に著作物性を否定することはできない。
エ また、本件で編集著作物性が問題となっている各パーツのバリエーションは、単に事実・データを集めただけのデータ集にとどまるものではなく、ユーザーである不動産業者等が、その取扱不動産の広告用マップ等において、当該パーツの組合せにより、顧客に対し物件の情報・魅力を視覚的に訴えかけるための重要な構成要素となっており、当該パーツが選択された表現物がそのまま最終ユーザーの視覚・美感に対する表現物となることになる。
オ 以上のように、原告ソフトにおけるパーツの選択は、用意されるパーツをどの程度の数にするのか、またどのサイズ・形状のものを選択するのかという点で、ソフト設計者の個性が表れており、しかも、同ソフトによって作成される表現物(間取図)の重要な構成要素となっているから、素材の選択によって創作性を有するもの(著作権法12条1項)であり、設計者の思想又は感情が創作的に表現された著作物(同法2条1項1号)である。
(被告らの主張)
ア 原告ソフトのような間取図作成ソフトは、設計について知識のない者が、プラモデルのように既成の部品を組み合わせる要領で、CADソフトのような設計ソフトを用いるよりも簡便に、一般的な住宅の間取図を作成することを目的としたものである。
 こうした目的からすれば、間取図作成ソフトにおいて選択されるパーツは、一般的な住宅において通常用いられる種類(和室、洋室、リビングダイニングキッチン(LDK)、キッチン、廊下、玄関、バス、トイレなど)について、通常使用されるサイズが基本となり、一般住宅には通常見られないものはその対象には含まれず、必然的にある程度限定されたものとなるから、これらのパーツを選択することは、間取図作成ソフトの性質上当然であって、その選択には、何らの工夫も必要とされるものではない。
イ 原告ソフトのパーツの選択について、他社ソフトと比較してみると、原告ソフトが現に選択しかつ他社ソフトが現に選択していないパーツは55点(パーツ全体の19.6%)にすぎない。これを逆にいえば、上記以外のパーツ(合計226点)は、他社ソフトにおいても現に選択されており、それを選択することに原告独自の工夫はなく、その選択はありふれたものというべきである。
 さらに、上記の原告ソフトが現に選択しかつ他社ソフトが現に選択していないパーツ55点は、@「洋室9畳」「洋室12畳(縦長タイプ)」「フローリング2畳」「フローリング9畳」「フローリング12畳」「フローリング12畳(縦長タイプ)」等のように、他社ソフトにおいても数種類選択されているサイズのうちの一部のもの(28点)と、A他社ソフトにおいて選択されていない「フリースペース」「三角柱」「踊り場」「矢印」「コーナー」等(27点)とに区別することができるが、@は、単にサイズのバリエーションにすぎず、その選択に「特別の工夫」を要するものとはいえないし、A は、他社ソフトの「和室(半畳、 1畳、 2畳)」「洋室(半畳、1畳、2畳)」「四角柱」「円柱」「階段」「廊下」に相当するものか、またはそのバリエーションにすぎないものであり、また、これらパーツはいずれも一般住宅においては見受けられない特殊なものとはいえないから、これらパーツを選択することも独創的なものとはいえない。
ウ したがって、原告ソフトのパーツの選択には、独自の工夫があり個性が発揮されているものではないし、また、既存のありふれたものではないともいえないから、編集著作物としての創作性があるとはいえない。
(2) 被告ソフトにおけるパーツの選択は、原告ソフトのそれを複製したものといえるか
(原告の主張)
ア 原告ソフトと他社ソフトを比較すると、そのパーツの共通率は全体で5割前後にすぎないが、原告ソフトと被告ソフトでは、その共通率が90%を優に超える。
 例えば、フロアーのサイズ・形状については、原告ソフト及び被告ソフトでは合計41点について100%共通しているが、他社ソフトでは、15ないし20点前後が共通するにすぎず、かつ原告ソフトに収録していないものも10ないし20点ほど収録されている。
 押入については、原告ソフト及び被告ソフトでは8点のパーツがあってそれらがすべて同じであるが、他社のソフトでは、原告ソフトにもっとも近い「Super Links」でもその共通率は75%にすぎない。
 原告ソフトに存在する45p角の三角柱は、他社ソフトにはない原告ソフト特有のものであるが、被告ソフトには寸法も同じ三角柱が選択されている。
 そして、原告ソフトにはないが、被告ソフトにはあるというパーツは1点もなく、このことは、被告ソフトにおいて独自に選択されたパーツが1点もないことを示している。
イ また、原告ソフトのパーツについて、被告ソフト及び他社ソフトとの同一率(同種類、同サイズのパーツについて、形状がほぼ同一なものを1とし、類似しているが反転ないし回転しているものを0.5として評価したもの)を算出すると、他社ソフトでは原告ソフトとの同一率はいずれも20%以下であるのに対し、被告ソフトのそれは92%となるから、被告ソフトは、原告ソフトのパーツを、一部割愛したとしても、ほぼそのまま利用したと解される。
ウ 間取図作成ソフトの性質上、用いられるパーツのサイズ・形状にある程度の限定があることや、偶然の一致により何割かは同一のサイズ・形状のものが出現することは避けられないものの、上記のとおり、被告ソフトは、原告ソフトのパーツとの共通率が異常に高いことから、パーツの取捨選択の点で原告ソフトに依拠してこれを複製したものであるといわざるを得ない。
(被告らの主張)
ア 被告ソフトで用意されているパーツは、ユーザーにおいて、縦横方向に自在にサイズ及び形状を変更できるものであり、原告ソフトのサイズ及び形状が固定されたパーツとは異なるから、そもそも両者は選択された素材が異なる。
イ また、表現の自由度が低く(編集著作物においては素材の選択又は配列の幅が狭く)、したがって創作性のレベルが低い著作物については、その保護範囲を狭く解し、当該模倣行為が明らかに違法であると認められる場合に限って著作権侵害を認めるべきであるところ、間取図作成ソフトは、その性質上、一般住宅において通常使用される種類とサイズの居室・建具・設備などのパーツが選択され、その選択の自由度は小さいから、原告ソフトの保護範囲は狭いと解される。編集著作物としての創作性がない部分が共通しているとしても、かかる部分は類似性判断の上では何ら考慮されるべきではない。
 原告ソフトと被告ソフトを比較してみると、@原告ソフトのみ又は原告ソフトと他社ソフトに存するが、被告ソフトには存しないパーツや、A被告ソフトのみ又は被告ソフトと他社ソフトに存するが、原告ソフトには存しないパーツが、多数存在し、両ソフトにおける各パーツの選択が類似しないことは明らかである。
ウ 原告は、原告ソフトと被告ソフトのパーツの一致率が90%以上である旨主張するが、この主張は、他社ソフトにおいても採用されている一般的な住宅に高頻度で使用されるパーツ(例えば、「和室2畳、3畳、4.5畳、6畳、8畳、10畳、12畳」、「洋室2畳、3畳、4.5畳、6畳、7.5畳、8畳、10畳、12畳」、「フローリング3畳、6畳、8畳、10畳」、「DK・LDK2畳、3畳、4.5畳、6畳、7.5畳、8畳、10畳」等)を含めたパーツの一致率をもって論じるものであるところ、上記の一般的な住宅に高頻度で使用されるパーツの選択部分は、そもそも創作性がなく類似性判断の資料とはならないものであるから、原告の類似性判断の方法は極めて不合理である。
 さらに、間取図作成ソフトの目的・機能を考えれば、予め用意されたパーツは多ければ多いほどユーザーにとって便利であるから、そのパーツ数を増やせば増やすほど、各間取図作成ソフトが同じパーツを選択する割合は高くなるのが当然の帰結であり、したがって、間取図作成ソフトのような実用品については、原告が主張するように、共通するパーツ数が多いことをもって侵害の有無を判断することは不適当であるといわざるを得ない。
(3) 損害の発生及びその額
(原告の主張)
ア 被告石田技術は、原告ソフトの編集著作権を侵害する被告ソフトを、被告流通機構に提供し、被告流通機構は、そのネット会員(総数4272名)のうち少なくとも2136名に被告ソフトを無料で提供した。
 原告は、原告ソフトを1個当たり平均3000円以上で販売しており、その原価はCDのダビング代等わずかであるから、1個当たり2700円以上の利益を上げることができた。
 したがって、被告らが被告ソフトをそのネット会員に無償で提供したことにより、原告は少なくとも576万円(2700円×2136個。1万円未満切捨て)の損害を受けたといえる(著作権法114条1項)。
イ よって、原告は、被告ら各自に対し、原告ソフトのパーツに係る編集著作権侵害に基づき、上記損害額のうち金300万円及びこれに対する訴状送達の日である平成18年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
 原告の主張のうち、被告石田技術が、被告流通機構に被告ソフトを提供し、被告流通機構がそれをネット会員に無償で提供したことは認めるが、その余は争う。
(4) 差止めの必要性
(原告の主張)
ア 被告らが、被告ソフトをバージョンアップし、現在「ver1.4a」を頒布・送信しているとしても、被告ソフトを完全に消去してどこからも再入手不可能な状態になっていない以上、その再販売は極めて容易であると解される。
 しかも、ソフトをバージョンアップすると、それに伴ってバグが増加する可能性があり、新バージョンを嫌うユーザーがいたり、また新バージョンでは現実に不都合が生じるユーザーがいるため、こうしたユーザーのために旧バージョンを提供することは被告らの義務と考えられる。
 本件において、被告らは被告ソフトの提供・頒布行為が著作権侵害に当たることを争っている上、被告ソフトを完全に消去してどこからも再入手不可能な状態になっていないことが立証されない以上、被告らが被告ソフトを提供・頒布するおそれがないとはいえない。
イ よって、原告は、被告らに対し、原告ソフトのパーツに係る編集著作権侵害に基づき、被告ソフトの頒布及びインターネットを通じた送信の差止めを求める。
(被告らの主張)
ア 被告らは、被告ソフト(間取図作成ソフトver1.2)を3度バージョンアップして、現在は「ver1.4a」のみを頒布・送信しており、被告ソフトを含む旧バージョンをサーバーから削除したため、現に被告ソフトの頒布・送信を行っていないばかりか、今後も行う予定はない。
 被告ソフトは、ダウンロードによって供給されるものであり、バージョンアップがなされるとサーバー内に格納されているソフトが新バージョンのものに置き換えるのであって、旧バージョンの「在庫」が残るものではない。また、被告ソフトは、バージョンアップに伴ってパソコンのOSやハードウエアとの相性が悪くなることは考えられないから、そのために旧バージョンを残しておく必要はない。
イ したがって、被告ソフトは、バージョンアップにより、その差止請求の必要性は消滅した。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告ソフトはパーツの選択に創作性を有する編集著作物といえるか)について
(1) 著作権法12条1項は、データベースに該当するものを除き、編集物であってその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する旨を規定しているところ、編集著作物における創作性とは、それが著作物(同法2条1項1号)として保護される趣旨及び効果等にかんがみると、当該編集物に従来見られないような高度の創作性が認められることまでを意味するものではないが、当該選択又は配列に編集者の創作活動とその成果が表れており、かつ、それが同種の編集物の分野においてありふれたものではないと認められる程度に当該編集物に特有の個性を帯有するものであることを要するものと解するのが相当である。
(2) 原告ソフトを含む間取図作成ソフトは、住宅の間取図を簡便に作成することを目的とし、あらかじめ、和室、洋室、フローリング、キッチン、水回り等の種類ごとに、数種類のパーツを用意し、ユーザーは、この中からマウスの操作等で希望するものを選択し、これを図面中に配置することによって間取図を作成するものであるところ、原告ソフトにおいて用意されているパーツの主なものは次のとおりである(甲4号証、5号証)。
ア フロアスペース
 和室が8点、洋室が10点、フローリングが10点、ダイニングキッチン(DK)・リビングダイニングキッチン(LDK)が13点、水回りが4点、フリースペース(和室)が3点、フリースペース(洋室)が3点、フリースペース(フローリング)が3点、フリースペース(DK・LDK)が3点、フリースペース(水回り)が3点
イ 押入・玄関・廊下
 押入・収納が8点、玄関が5点、廊下が3点、下駄箱が5点、階段(直進)が10点、階段(L字型)が4点、階段(U字型)が2点、階段(部品)が2点、矢印(階段の昇降方向を示すもの)が2点
ウ 設備
 浴槽が3点、洗面が4点、トイレが3点、洗濯盤が2点、キッチンが4点、キッチン(L字型)が2点、キッチン(台)が2点、キッチンカウンターが4点
エ 戸・窓・壁
 窓(壁あり)が5点、窓(壁なし)が5点、出窓(三角)が2点、出窓(四角)が3点、出窓(台形)が3点、出窓(台形ドア付)が3点、ドア(壁付)が3点、ドア(両開き壁付)が3点、ドア(親子壁付)が2点、引戸が2点、片折戸が5点、両折戸が3点、アコーディオンドアが1点、壁が4 点、壁( 白抜) が5 点、柱が2点、三角柱が1点、バルコニー(壁)が4点、バルコニー(コーナー)が4点
オ 方位
 方位記号が4点
(3) 原告は、原告ソフトのパーツの選択について編集著作権が存する旨主張しているが(パーツの配列については、和室、洋室、DK・LDKなどの各種類ごとに、そのサイズの順に並べられているにすぎないから、少なくともその配列に創作性を認めることはできない。)、住宅の間取図を簡便に作成するためのものという間取図作成ソフトの性質上、そのパーツは、一般的な住宅において通常用いられる種類、サイズ、形状のものに自ずと限られることになり、例えば和室、洋室、DK・LDKを例にとってみると、その形状には縦横の長短はあるが、四角形を基本とするものに限られている上、畳の数によって3畳、4畳半、6畳、7畳半などと選択できるサイズは限定され、しかも、通常の住宅を想定していることから18畳程度を上限とするものであって、その選択の幅はかなり限定されたものとなっている。原告ソフトにおいて選択されたパーツの個数についてみても、その総数は150点を超える程度であるが、和室、洋室などの種類ごとに見れば、それぞれ3点ないし13点程度であってその数は決して多いものではない。
 また、各パーツは、間取りの種類、サイズ、形状の3つの要素を持つものにすぎず、それぞれのパーツ自体は個性・特徴のないものである。原告は、和室の場合には畳の並び方もパーツの要素である旨主張するが、間取図作成ソフトのパーツを選択する際には、畳の具体的な並び方までを意識することなく一般的な畳の並び方のものを選択しているにすぎないと解されるから、原告ソフトにおいて10畳間について畳の並び方が異なる2種類のものが用意されていることや(甲5号証)、各社の間取図作成ソフトで選択されているパーツの畳の並び方に種々のものがあることを考慮しても、その点は各パーツの要素として重視すべきものとは認められない。
 そうすると、選択の対象となるパーツは、種類、サイズ、形状の3つの要素しか持たず、それぞれが個性・特徴のないものであって、しかもその数はかなり限られている上、そうしたパーツの候補の中から間取図作成ソフトにあらかじめ用意しておくべきものを選択するについては、間取図を作成する際の便宜という甚だ実用的な観点からなされるのが通常であることを考えると、そうしたパーツの選択行為とその成果は、編集者の創作的活動という要素が希薄であり、その成果についても個別の個性を有するものとしての評価になじみにくい性質のものというべきである。
(4) その上、間取図作成ソフトは、前記「前提事実」欄(4)記載のとおり複数の他社ソフトが存在しており、他社ソフトが採用しておらず原告ソフトのみが採用しているパーツは、原告ソフトのパーツ全体の約20%にとどまっている(被告ら準備書面(1)添付の一覧表参照)。
 そのうち、他社ソフトにも同種類のパーツが用意されているが、該当サイズが原告ソフトにしか存しないものとして、洋室(9畳、12畳(縦長タイプ))、フローリング(2畳、9畳、12畳、12畳(縦長タイプ)、DK・LDK(9畳、12畳(縦長タイプ)、14畳、16畳、18畳)などがあるが、これらのサイズのパーツが、他社ソフトとの違いを印象付けるような特殊な間取りということもできない。しかも、他社ソフトの中には、作成した図形をパーツとして登録することによりユーザー独自のパーツリストを作ることができる機能や、配置したパーツや図形の形状を自由に編集できる機能、パーツのほかに様々な図形を自由に作図できる機能等を備えたものも存するが、原告ソフトはこれらの機能を備えていない(弁論の全趣旨)。したがって、原告ソフトにおいては、あらかじめ多くのパーツを用意しておく必要性が他社ソフトよりも高いといえるから、原告ソフトのみに用意され、他社ソフトにはないパーツがあったとしても、それは、主にそうしたソフト本体の機能の違いに起因するものにすぎないと解される。
 また、原告ソフトには、他社ソフトが同種類のパーツを用意していないフリースペース、三角柱、階段(部品)、矢印(階段の昇降方向を示すもの)が用意されているが、これらについても、一般住宅の間取図のパーツとして特殊なものとはいえないし、他社ソフトにおいても類似するパーツが散見されるから、そうしたパーツを選択すること自体が原告ソフトに特有の個性が表れていると評価することもできない。
 そうすると、原告ソフトや他社ソフトにおいて用意されているパーツは、いずれも一般的な住宅において通常用いられる種類、サイズ、形状のものが選択されており、その選択状況に違いがあっても、それは、当該ソフト自体の機能の違いから生じているにすぎず、また、その選択の仕方自体が原告ソフトに特有の個性を表現するまでに至っているとは認められない。
(5) したがって、原告ソフトにおけるパーツの選択は、ごく実用的な観点からなされるものであって、編集者の思想又感情に基づく創作的行為としては評価し難い性質のものである上、間取図作成ソフトの分野においてありふれたものではないと認められる程度の、原告ソフトに特有の個性を帯有するものとは認められないから、原告ソフトは創作性を有する編集著作物に当たるとはいえない。
2 以上のとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官 中村直文
 裁判官 前田郁勝
 裁判官 片山博仁
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日本ユニ著作権センター
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