判例全文 line
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【事件名】商標“LOVE”侵害事件(2)
【年月日】平成19年6月28日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10529号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年6月1日)

判決
原告 株式会社クラブコスメチックス
訴訟代理人弁護士 山本忠雄
訴訟復代理人弁護士 佐々木優雅
訴訟代理人弁理士 深見久郎
同 森田俊雄
同 竹内耕三
同 並川鉄也
被告 株式会社フィッツコーポレーション
訴訟代理人弁護士 服部秀一
同 大月将幸
訴訟代理人弁理士 田辺恵基
同 佐尾山和彦
訴訟復代理人弁護士 上岡秀行


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2006−89019号事件について平成18年10月27日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、被告が有する後記商標登録について、原告が無効審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたので、原告がその取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 被告は、平成17年5月12日、下記商標(以下「本件商標」という。)について商標登録出願(商願2005−46188号)をしたところ、平成17年12月12日に登録査定を受け、平成18年2月3日に設定登録がなされた(登録第4925546号。以下「本件商標登録」という。)。
 これに対し原告は、本件商標登録について無効審判請求をしたので、特許庁は、同請求を無効2006−89019号事件として審理した上、平成18年10月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決を行い、その謄本は平成18年11月9日原告に送達された。

ア 商標 略
イ 指定商品 第3類「化粧品」
(2) 審決の内容
 審決の内容は、別添審決写しのとおりである。その理由の要点は、@本件商標は、別紙引用商標目録記載の@からCの各商標(以下、番号順に「引用商標1」〜「引用商標4」という。)と類似しないから、商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当しない、A本件商標は、引用商標1〜4及び別紙引用商標目録記載のDからHの各商標(以下、番号順に「引用商標5」〜「引用商標9」という。また、引用商標1〜9を総称して、「引用商標」ということがある。)と類似しないから、法4条1項15号に該当しない、というものである。
(3) 審決の取消事由
 しかしながら、審決の判断には、次のとおり誤りがあるから、審決は違法として取り消されるべきである。
ア 商標の類似性についての判断(法4条1項11号)の誤り(取消事由1)
(ア) 「LOVE」が原告の商標として長年にわたり登録され維持されていること
a 原告(昭和46年1月の商号変更前の商号は、株式会社中山太陽堂)は、商標「LOVE」を香料・化粧品類についての自社ブランドとして創出した。
 原告は、別紙記載のとおり、引用商標1については昭和33年8月30日に商標登録出願をし昭和34年9月28日に商標登録を得た。その後、原告は、昭和46年8月5日に引用商標2について、続いて昭和48年5月10日に引用商標3について、商標登録出願をし、引用商標2は平成2年3月27日に、引用商標3は平成4年7月31日に、それぞれ登録された。原告は、これらの登録に加え、別紙のとおり引用商標4及び5についても商標登録を有している。
 このように「LOVE」は原告の商標として長年にわたり一貫して登録され維持されている(以下、引用商標1〜5を総称して「LOVE」商標という。)。
b 「LOVE」は、「愛」を意味する語として極めてよく知られていることから、後記(イ)で述べるように需要者に訴えかける高いアピール度があり、その意味で、美を追求する化粧品については皆が使用を希望する商標である。そのような高いアピール度の故に「LOVE」というブランドは第三者に侵害されやすく、あるいは希釈ないし汚染されやすいということができる。
 そして原告は、次のとおり、「LOVE」商標の管理防御を行ってきた。
(a) 昭和46年春に、アメリカの化粧品会社が我が国に子会社を設立し、「LOVE」を商標として使用した化粧品を大々的に日本の市場で販売しようと試みた。
 長い係争の末、昭和50年6月12日に、大阪高等裁判所において、係争の相手方であった米国法人スミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニーが、利害関係人として日本法人株式会社ラブジャパンを訴訟に参加させ、原告は株式会社ラブジャパンに対し、7年間の通常使用権を許諾する内容の和解が成立し、その際の対価は1200万円であった(甲59の1〜4)。
 ここにおいて原告は、従前使用していた「LOVE」商標の使用を一時中止した。そして原告は、道義上株式会社ラブジャパンの事業展開を支援し、原告の関係会社がその製造を担当しつつ、販売活動は株式会社ラブジャパンに委ね、それを見守ることになった。
 その後、株式会社ラブジャパンは、「LOVE」商標を使用した化粧品の事業を株式会社井田両国堂に譲渡し、同社がこれを継承した。原告は、上記の7年間の使用許諾契約の期間経過後は、実質上の契約相手方を株式会社井田両国堂とする商標権使用許諾契約を株式会社ラブジャパンとの間で締結し、この契約は、昭和57年4月23日から平成元年9月28日まで約7年間にわたって継続した(甲60の1〜8)。この間に、原告は、「LOVE」商標の権利保有者として最大限の商標管理防禦を行ってきた。昭和51年3月株式会社ミルボン、昭和53年4月株式会社コッセル特殊化粧料本舗及び日本ベレム株式会社、昭和57年8月アキホインターナショナル株式会社に対して、それぞれ警告を行い、紛議を解決した(甲61の1・2、62の1〜4、63の1・2)。原告は、昭和62年に、株式会社純ケミファ及び株式会社純薬との間で事前の示談交渉が不成功となったため、東京地方裁判所に使用差止めの訴訟を提起し、結果として商標権の侵害の事実を確認し商品を廃棄させる和解が成立した(甲64の1〜3)。
 また昭和50年から平成元年までの間において、原告自身は「LOVE」商標を使用した化粧品は販売していなかったが、原告は、「LOVE」商標の使用を許諾し、許諾先の化粧品の製造のほとんどは原告の関係会社が行っていたから、許諾先の事業活動は原告自身の事業活動と同視し得るものである。また、「LOVE」商標に伴う名声等いわゆるグッドウィルは、使用許諾を行った商標権者もこれを享有することができることは、我が国商標法が採用し、世界的にも採用されている商標使用許諾制度の本質に照らし当然である。
(b) 原告の「LOVE」商標は、平成16年の日本有名商標集(甲13)にも登載され、原告の保有周知商標として、化粧品業界において認識されて、今日に至っている。
(c) 上記(a)の「LOVE」商標を使用した商品の販売が中止された後、原告は、「LOVE」商標の使用を含めた事業計画、商品企画について検討を重ねてきた。
 この間、原告の関係会社であるマリークワント社は、原告が製造した、「LOVE STRUCK」(引用商標8)、「LOVETOKEN」(引用商標9)の商標を使用した商品群を販売していた。また、原告自身による使用については、平成17年2月ころにその決定をし、それ以降に商品展開がされている(甲22〜56)。
 そして原告は、「LOVE」商標の稀釈化が生ずるような市場での侵害事例については、商標管理担当者を置いて常時監視を行い、機会をとらえて情報を入手し、その都度、担当者が警告、中止の交渉を行い、それでも解決し得ないときは、弁護士に依頼し、使用中止等を求めて交渉し、時には法的手続を採るなどしてきた。その中でも、平成10年2月に株式会社コーセーと交渉した事案(甲65の1・2)、同年4月及び平成16年にイヴ・サンローラン・パルファン株式会社(以下「イヴ・サンローラン社」という。)と交渉した事案(甲66の1・2、68)、平成13年12月のニベア花王株式会社と交渉した事案(甲67の1・2)は、結合表示中に「LOVE」の文字が、本件商標ほどではないが、特に太かったり、大きかったり、あるいは色彩を他の文字と変えている事案で、「LOVE」をことさらに強調している場合に係るものであった。
 また、平成16年8月には、ブルーベル・ジャパン株式会社が販売していたカルバン・クラインの香水「エタニティーラブ」について、「LOVE」標章の使用態様に問題があったため、原告がこれを指摘したところ、ブルーベル・ジャパン株式会社は、直ちにその取扱いを中止する旨回答した(甲69の1・2)。
(イ) 「LOVE」の特殊性
 「LOVE」は、「愛」を意味する言葉として大変よく知られており、化粧品の分野ではそれ自体で独立した独特のイメージを有しているので、「LOVE」は、その言葉だけで化粧品等について需要者に特有のメッセージを発信する高いアピール度を有しているという特殊性がある。したがって、本件商標のような「LOVE+○○」といった類の結合商標は、上記のような「LOVE」の高いアピール度、存在感により「LOVE」のシリーズ商標といった認識を持たせると考えられる。
(ウ) 本件商標と引用商標の類似性
a 上記(イ)のとおり、「LOVE」は、それ単独で需要者に特有のメッセージを発信する高いアピール度を有している。そして、本件商標は「Love」を顕著に有し、本件商標に接した需要者、取引者は、「LOVE」の高いアピール度によりまず「Love」の文字に惹き付けられる。その結果、本件商標は、引用商標と混同を生じるおそれが高い。
 また、本件商標の構成要素中「Love」は「passport」と比べて際立って大きく、2倍以上の大きさおよび太さの文字で表されているから、このことが混同のおそれを助長する。
 したがって、本件商標は引用商標と混同を生じるおそれが十分に高い類似商標と判断されるべきである。
b 「LOVE」「ラブ」を含む商標が引用商標と併存して多数登録されていることは認める。しかし、そうであるからといって本件商標が同様に併存してよいというわけではない。その理由は以下のとおりである。
(a) 「LOVE」の文字を前後に含み、「化粧品」を指定商品に含む商標を特許電子図書館で検索すれば、392件の出願・登録商標がヒットする(うち登録商標は328件)(甲21)。これら併存例のほぼすべてに共通する点は、「LOVE」と他の要素の文字の大きさはほぼ同じであって「LOVE」をことさら大きく目立つ態様で書したものではないということであり、そうであるからこそ、引用商標の存在にかかわらず、併存が認められているのである。
(b) これに対し、本件商標は、上記併存例とは異なり、「Love」の文字をことさら大きく書している。
(c) したがって、上記のように300件を超す併存例があるとはいっても、本件商標はこれらと同視できず、引用商標と類似すると判断されるべきである。
c 本件商標は、ハート図形を含むが、ハート図形は「愛」「ラブ」を表象する図形としてよく知られていることからすると、本件商標中の文字「Love」の意味に通じる図形として「Love」の文字をより一層際立たせる効果を持つということができる。そうすると、ハート図形は本件商標の構成要素中「Love」をより看者に印象付け、「ラブ」の称呼を生じやすくしている要素であるというべきである。
d 原告は、「LOVE」商標については、原告の著名商標である「クラブ」と語感に近似性があり、過去「クラブラブ」シリーズとして使用したこともあり、引用商標1を登録出願して以来、原告にとって極めて重要な商標と位置付けて、上記(ア)bのとおり、維持管理してきたのであり、このような「取引の実情」を考慮する必要がある。
e 原告が調査会社に委託して、15歳(高校生)以上の男女814人を対象に、東京都において、本件商標が付された包装箱を示して、包装箱のブランド名を何と読むか尋ねる調査をした(甲70)ところ、3人に1人が「ラブ」を挙げた。本件商標が付された化粧品を含む原告及び被告の取扱化粧品のメインターゲットはいわゆるティーンエイジャー(十代半ばから後半)であるところ、上記調査において、15歳から19歳の女性で「ラブ」を挙げた者は51.1%あり、半数を超えている。このことは、現実の取引現場において本件商標と引用商標とが類似と認識され、その結果誤認混同が生じることを示すものである。
f インターネット通販等において販売される商品が写真で紹介される際、実際の商品そのものよりも小さく表示されることはごく一般的である。そのような場合、本件商標の「Love」は大きく表れていることから読み取ることができる一方、もう一つの構成要素である「passport」は、小さすぎるがゆえにほぼ不可視状態となっている(乙6の「1−029」「1−033」「1−040」「1−053」「1−060」「1−068」参照)。このような場合において、通常の注意力をもって本件商標に接する需要者は、上記のとおり「passport」の文字が小さすぎるが故にこの文字を認識できず、したがって本件商標を「ラブパスポート」と認識、称呼することはなく、可視的な「Love」にのみ注目し、その文字に相応して「ラブ」とのみ認識、称呼するというべきである。
g 以上のとおり、本件商標は引用商標と類似するから、本件商標登録は、法4条1項11号に違反し、無効とされるべきである。
イ 出所混同についての判断(法4条1項15号)の誤り(取消事由2)
 上記アで述べた事情からすると、本件商標登録は法4条1項15号にも違反し、無効とされるべきである。
ウ 適正手続違反を見過ごした誤り(取消事由3)
 被告が本件商標登録を取得するまでには、次のような経緯があったから、被告は、違法に本件商標登録を取得したものであり、このような行政手続における適正手続の違反を意図的に見過ごした点において審決は違法である。
(ア) 原告は、平成15年11月20日、被告に対し、原告の「LOVE」商標権侵害の警告書を送付し、交渉を開始した。被告に誠意のある交渉態度が認められなかったので、原告は、平成16年7月6日、大阪地方裁判所に、本件商標の使用差止め及び損害賠償を求めて訴訟(以下「別件訴訟」という)を提起した(甲20)。別件訴訟の審理が進められ、裁判所より中間的心証が開示され損害額の立証段階に進行した直後の平成17年5月12日に、被告は、本件商標の登録出願をし、別件訴使用において、口頭弁論終結と判決言渡期日(平成18年1月16日午後1時15分)の指定がなされた平成17年12月2日の後である平成17年12月12日に本件商標の登録査定がなされたが、判決言渡日の直前に至るまで、被告は、本件商標の登録出願の事実及び登録査定の事実を、原告にも大阪地方裁判所にも伏せていた。
(イ) 以上のように本件商標の登録出願は、裁判所において本件商標の使用は原告「LOVE」商標の侵害となると判断される蓋然性が高い状態になった後に、行政庁たる特許庁にこの事実を伏せて出願されたもので、原告の上記行為は公序良俗に違反する違法な商標登録取得行為である。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、(3)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
 本件商標は、次のとおり、「類似性」及び「出所の混同」において、引用商標1〜4とは抵触せず、それどころか、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、すでに周知性のある商標として保護されるべき存在になっていたから、法4条1項11号違反の無効理由はない。
ア 類似性につき
(ア) 本件商標は、前記のとおり「Love」と「passport」とを二段に表記しているが、両者は同一書体で書かれておりかつ表示位置もさほど離れていないから一連に読めるし、「ハート図形」と共に全体としてまとまった印象を与えている。したがって、本件商標は引用商標1〜4とは非類似である。
(イ) 「LOVE」は、それ自体単独では「愛の内容を表す個性」をもっていないから、「LOVE」や「愛」の言葉を使う際には、「自分の愛は何に関する愛であるか」等を表現する言葉を付加することにより個性を付けて使うことが普通に行われているのであり、これにより「自分が表現しようとする愛」を「他の愛」から区別する使い方がされている。したがって、特別な事情がない限り、「LOVE」に「何の愛か」等を表わす言葉を付加した場合は、単なる「LOVE」とも、これに「他の愛」を付加した言葉とも区別がつくことになる。
 「LOVE」を含む多数の言葉が互いに非類似であるとして登録されているのは(乙4)、この理由によるものと考えられる。
 引用商標1〜4は、その言葉の意義からみて「愛の個性」を持たない言葉であるから類似範囲は狭く、「LOVE」に他の言葉を付加すること、すなわち、「愛の個性」を付けることにより、非類似の標章になると考えるのが自然である。
 実際にも、商品流通経路において、被告が本件商標を使用し続けた結果、被告商品に対して一般需要者は、当該被告商品を「ラブパスポート」又は「ラブパス」と呼んで「口コミ」サイトに書き込むような反応を示しており(乙12)、このような取引の実情からみても、「LOVE」を含んでいればすべて類似するということはない。
(ウ) 被告は、本件商標に係る商標登録出願に先立って、「LOVE PASSPORT/ラブパスポート」を2段に表記した商標の商標登録(登録第4662728号、平成14年4月2日出願、乙13)及び「LOVE PASSPORT」を1段で表記した商標の登録商標(登録第4756915号、平成15年7月17日出願、乙14)を得ており、本件商標と共に使用することにより、全体として「Love passport・ラブパスポート」のブランドを構築している。
 上記の「LOVE PASSPORT/ラブパスポート」を2段に表記した商標の商標登録(登録第4662728号)及び「LOVE PASSPORT」を1段で表記した商標の登録商標(登録第4756915号)については、登録取消審判事件(取消2005−30305号事件及び取消2005−30306号事件)が係属していたが、これらの事件については、請求不成立の審決(乙7は、取消2005−30305号事件の審決)がされた。その中で、本件商標と同一の使用態様につき、引用商標2、3との類似性が否定されている。
イ 出所の混同につき
 本件商標は、本件商標に係る商標登録出願以前の平成15年から現在まで被告が「香水」に使用し続けている(乙5、6、乙15〜22)から、少なくとも登録時(平成18年2月3日)には、一定の周知性を獲得していた。
 本件商標は、「Love」及び「passport」を一連のものとして構成することにより、「愛への旅」のイメージを形成することをテーマとして、被告が造語し、使用し続けているもので、実際の使用上デザイン化のために二段に表示しているとしても、「幸せへのパスポート」を意識できるようなキャッチコピーを機会あるごとに提示するなどにより、「Love」と「passport」を分離せずに一連に読むように一般需要者に訴え続けており、「Love」の部分だけを強調することは全く行っていない。したがって、本件商標の使用によって、引用商標との間に混同が生じたことは、これまで全くなかった。このブランド戦略が一般需要者に受け入れられていることは、被告商品の日本国内の売上げランキングは、販売を開始したばかりの平成15年においてすでに2千数百の香水中43位になっていたこと(乙3)やインターネット上の第三者の「口コミ」サイトへの書込み(乙12)から確認することができる。
ウ 原告が主張する取引の実情につき
 原告が主張する取引の実情は、そのすべてが原告が訴外の商標使用者に対して行った商標使用制限行為が存在する事情を説明しているにすぎないものであって、本件商標に係る商標登録出願時及び設定登録時に商品流通経路において原告が「LOVE」商標を商品に使用した事実が全く存在しないから、被告が本件商標を使用した結果、原告の「LOVE」商標に対してどの程度類似する状態になっていたかはもちろんのこと、その結果、原告の「LOVE」商標を使用した商品との間でどの程度の出所の混同が生じた状態になったかといった事情を説明するものではない。
(2) 取消事由2に対し
ア 本件商標は、「Love」と「passport」とを2段に表記してはいるが、両者は同一書体で表記されており、かつ、さほど離れていないから一連に読めるもので、「ハート図形」と共に全体としてまとまった印象を与えている。したがって、本件商標と引用商標1〜5とは前記のとおり非類似である。
 そのうえ、本件商標は、商標登録出願時及び登録時に、すでに、ある程度の周知性をもっていたから、本件商標は、引用商標1〜5を使用する原告の業務に係る商品と混同を生じさせていない。被告が現実に本件商標を使用した結果、引用商標1〜5を使用する原告の業務に係る商品との混同が生じたとする主張立証はない。それどころか、原告が、これらの商品を発売したのは、平成18年4月1日からであり(乙10)、また「口コミ」サイト(乙11)の口コミ総数も6件にすぎないから、引用商標1〜5が有名であるとか著名であるということはできない。
 したがって、本件商標に係る商標登録は、引用商標1〜5との関係において、法4条1項15号に違反したものではない。
イ 引用商標6〜9については、本件商標との共通点は、「LOVE」を含んでいるというだけであって、これらの引用商標と本件商標とは、外観、称呼及び観念のすべてにおいて相違するから、両者は非類似である。
 そのうえ、被告が本件商標を使用し続けたことにより、本件商標に一定の周知性が生じているから、本件商標は、引用商標6〜9の使用者の業務に係る商品と混同を生じさせていない。被告が現実に本件商標を使用した結果、引用商標6〜9を使用する他人の業務に係る商品との混同を生じさせたとする主張立証もない。
 したがって、本件商標に係る商標登録は、引用商標6〜9との関係においても、法4条1項15号に違反したものではない。
(3) 取消事由3に対し
 法は、商標の登録と商標無効審判を特許庁の権限、商標権侵害事件を地方裁判所の権限と定めているのであり、現行法秩序は、特許庁、裁判所での2個の手続の存在を是認しているから、本件商標権取得行為が公序良俗に反する違法なものであるということはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 本件における事実関係
 証拠(甲2〜5、8〜19、22〜58、59の1〜4、60の1〜8、61の1・2、62の1〜4、63の1・2、64の1〜3、65〜67の各1・2、68、69の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(1) 原告(昭和46年1月8日の商号変更前の商号は、株式会社中山太陽堂)は、引用商標1について昭和33年8月30日に商標登録出願をし、昭和34年9月28日に登録された。
 また原告は、昭和46年3月12日に引用商標5について、昭和46年8月5日に引用商標2について、昭和48年5月10日に引用商標3についてそれぞれ商標登録出願をし、引用商標5は昭和48年7月2日に、引用商標2は平成2年3月27日に、引用商標3は平成4年7月31日に、それぞれ登録された。
 そして原告は、平成13年1月9日に引用商標4について商標登録出願をし、平成13年11月16日に登録された。
(2) 原告は、昭和45年11月20日、株式会社マリークワントコスメチックスジャパンに対し、同社が輸入又は製造販売する香水「ラブポーション」について、引用商標1に係る商標権の通常使用権を許諾した。
 また原告は、昭和48年9月1日、鐘紡株式会社に対し、引用商標1に係る商標権等の通常使用権を許諾した。
(3) 原告は、昭和46年9月に、米国法人スミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニーが、我が国において「LOVE」又は「LOVE IS HERE」を商標として使用した化粧品を販売しようとしているとして、同社に対して、引用商標1に係る商標権の侵害等を理由として、「LOVE」及び「LOVE IS HERE」の標章の使用差止め等を求める訴えを大阪地方裁判所に提起した(甲59の1)。
 大阪地方裁判所は、昭和48年12月21日、原告の請求を棄却する判決を言い渡した(甲59の2)ので、原告は、大阪高等裁判所に控訴した(甲59の3)。そして、その経過中の昭和50年6月12日、原告とスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及び利害関係人株式会社ラブジャパンとの間において、原告は株式会社ラブジャパンに対し、引用商標1に係る商標権等について、7年間の通常使用権を、対価1200万円で許諾すること等を内容とする和解(甲59の4)が成立した。
 また原告は、昭和57年4月23日、株式会社ラブジャパンとの間において、@原告は、株式会社ラブジャパンに対して、引用商標1に係る商標権等について、昭和64年9月28日までの通常使用権を許諾すること、A株式会社ラブジャパンは、原告に対し、使用料として、小売販売価格総額の2%を支払うこと等を内容とする契約を締結した(甲60の1)。以後、株式会社ラブジャパンは、原告に対し、平成元年9月28日までの間、上記契約に基づいて使用料を支払った。
 原告は、上記の昭和50年6月12日の和解成立後は、「LOVE」を含む商標を使用していないが、原告の関係会社が、株式会社ラブジャパンが販売する製品の一部を製造していた。
(4) また原告は、昭和51年3月1日付けで、株式会社ミルボンに対し、同社が化粧品に「ラブ」の標章を使用することは、引用商標1に係る商標権を侵害する旨の警告を行い(甲61の1)、同社は、「ラブ」のみの標章を使用しない旨の回答を行った(甲61の2)。
 また原告は、昭和53年4月14日付けで、株式会社コッセル特殊化粧料本舗(甲62の1)及び日本ベレム株式会社(甲62の3)に対し、これらの会社が洗顔料に「ラブ」及び「LOVE」の標章を使用することは、引用商標1に係る商標権を侵害する旨の警告を行い、これらの会社は、これらの標章を使用しない旨の回答を行った(甲62の2、62の4)。
 また原告は、昭和57年8月24日付けで、アキホインターナショナル株式会社及び日本メールサービス株式会社に対し、これらの会社が脱毛美容剤に「ラブ・ハニー」等の標章を使用することは、引用商標1に係る商標権等を侵害する旨の警告を行い(甲63の1)、昭和57年10月19日、上記標章の使用を中止する旨の和解契約を締結した(甲63の2)。
 また原告は、昭和62年12月22日付けで、株式会社純薬、株式会社純ケミファ及び東亜薬品株式会社に対し、これらの会社が「ベーシックプロテイン」に「ジュンラブ」の標章を使用することは、引用商標1に係る商標権等を侵害する旨の警告を行った(甲64の1)。そして、原告は、昭和63年1月25日、東京地方裁判所に、株式会社純薬及び株式会社純ケミファを被告として、引用商標1に係る商標権に基づき、香料及び化粧品に「JUNE」と「LOVE」を2段に表記した標章等を使用することの差止めを求める訴訟を提起し(甲64の2)、昭和63年7月18日、商標権の侵害の事実を確認し、上記標章を使用せず、上記標章を使用した商品を廃棄する旨の訴訟上の和解が成立した(甲64の3)。
(5) 原告は、平成10年2月、株式会社コーセーに対し、同社が「リップスティック」に、「Love」を赤字で表示した「RougeLovelass」の標章を使用することは、引用商標2に係る商標権等を侵害する旨の警告をし(甲65の1)、同社は、上記標章の使用を中止する旨の回答を行った(甲65の2)。
 また原告は、平成10年4月30日付けで、イヴ・サンローラン社に対し、同社が「オーデトワレ」に「IN LOVE AGAIN」の「LOVE」を他より大きく表示した標章を使用することは、引用商標2に係る商標権等を侵害する旨の警告をし(甲66の1)、原告とイヴ・サンローラン社は、平成10年11月13日、@イヴ・サンローラン社は、原告に対し、金員を支払う、A原告は、イヴ・サンローラン社に対し、平成11年2月末日まで、上記標章の使用を許諾する旨の契約を締結した(甲66の2)。また原告は、平成16年3月10日付けで、イヴ・サンローラン社に対し、同社が「オーデトワレ」に「IN LOVE AGAIN」の「LOVE」を他より大きく表示した標章を使用することは、引用商標2に係る商標権等を侵害する旨の警告をし(甲68)、原告とイヴ・サンローラン社は、平成16年6月30日、@原告は、イヴ・サンローラン社に対し、平成18年12月31日まで、上記標章の使用を許諾する、Aイヴ・サンローラン社は、原告に対し、その対価を支払う旨の契約を締結した(甲15)。イヴ・サンローラン社は、「IN LOVE AGAIN」の標章又は「IN L●(ハートマーク)VE AGAIN」の標章を付した商品(香水)を販売していた。
 また原告は、平成13年12月10日付けで、ニベア花王株式会社に対し、同社が「LOVE & CARE」の「LOVE」をゴシック体で表記した標章を使用していることにつき、標章の変更を検討することを求める文書(甲67の1)を送付し、平成14年3月7日、原告とニベア花王株式会社は、ニベア花王株式会社が表示態様を変更しない限り、原告は引用商標2に係る商標権を行使せず、対価は無償とする旨の契約を締結した(甲67の2)。
 また原告は、平成16年8月2日付けで、ブルーベル・ジャパン株式会社に対し、同社が販売しているカルバン・クラインの香水「エタニティーラブ」について、「LOVE」を中央に表示することは、引用商標2に係る商標権等を侵害するおそれがある旨警告し(甲69の1)、ブルーベル・ジャパン株式会社は、その販売を中止する旨回答した(甲69の2)。
(6) 原告は、平成14年8月1日、株式会社マリークワントコスメチックスジャパンに対し、引用商標2に係る商標権等につき通常使用権を許諾して、「ラブ」、「LOVE」、「ラブストラック」、「LOVE STRUCK」、「ラブトークン」及び「LOVE TOKEN」の各標章の使用を認め、同社は、「LOVE STRUCK」、「LOVE TOKEN」の各標章を付した商品(香水)を販売していた。平成12年から平成17年までの売上本数は、「LOVE STRUCK」が1万0045本、「LOVE TOKEN」が2万5999本であり、売上金額は、「LOVE STRUCK」が4520万2500円、「LOVE TOKEN」が1億2999万5000円である。
(7) 原告は、平成18年4月以降、「LOVE」を含む商標を使用した化粧品を製造販売し、宣伝広告をしている。
(8) AIPPI・JAPANが発行している「日本有名商標集」(甲13)には、原告の商標として「LOVE」(引用商標1〜5)が掲載されている。
3 商標の類似性についての判断(法4条1項11号)の誤り(取消事由1)の有無について
(1) 本件商標は、前記のとおり、「Love」の文字を筆記体で大きく横書きし、その下部に「passport」の文字を筆記体で上部の文字よりやや小さく表し、さらにこれらの右上方に、やや大きさの異なる黄色又は赤色で彩色された二つのハート状図形を配した構成から成るものである。「Love」と「passport」の両文字は、二段に表され、大きさも異なるが、「passport」の文字が無視されるほど大きさが異なるわけではなく、「Love」と「passport」は同一の書体から成るから、本件商標は、一見してこれらの両文字より成ると把握することができる。
 したがって、本件商標の外観は、「Love」と「passport」の両文字と二つのハート状図形から成るものである。また、本件商標からは、「ラブパスポート」の称呼を生ずる。さらに、「Love」は「愛」、「passport」は「旅券」を意味することは、我が国においても広く知られているから、本件商標から、「愛」、「旅券」の観念が生ずるということができる。
(2) 引用商標1は、別紙のとおり「LOVE」を筆記体で記載し、「V」の文字の右上部に点を付けたもの、引用商標2は、ゴシック体で「LOVE」と記載したもの、引用商標3は、上段に「LOVE」を筆記体で記載し、下段に「ラブ」と記載したもの、引用商標4は、活字体で上段に「ラブ」下段に「LOVE」と記載したものである。その外観は、それぞれ上記のとおりであり、いずれも「ラブ」の称呼と「愛」の観念を生ずるものである。
(3) 本件商標と引用商標1〜4を対比すると、外観において「LOVE」が含まれている点や「ラブ」の称呼と「愛」の観念を生ずる点は共通する。
 しかし、本件商標は、上記(1)のとおり、一見して「Love」と「passport」の両文字より成ると把握することができるのであって、本件商標の「Love」の書体は引用商標2・4の「Love」の書体と明らかに異なることや本件商標には二つのハート状図形が存することをも併せ考えると、本件商標と引用商標1〜4は、外観において類似するということはできない。
 また、称呼において、本件商標と引用商標1〜4は、「ラブパスポート」と「ラブ」という違いがあるし、観念においても、本件商標には、引用商標1〜4にはない「旅券」という観念が生ずるから、本件商標と引用商標1〜4は、称呼及び観念において類似するということもできない。
(4) 前記1のとおり、原告は、昭和33年8月30日に引用商標1について商標登録出願をして以来、引用商標1〜5(「LOVE」商標)に係る商標権を取得し、それらの権利の侵害があると認めた場合には、警告をし、さらに訴訟をするなどして、それらの権利が侵害されないよう、商標管理をしてきたものと認められる。
 しかし、前記1(3)のとおり、原告は、昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及び株式会社ラブジャパンとの和解成立後は、「LOVE」を含む商標を使用していなかったものであり、通常実施権者である株式会社ラブジャパンによる使用も平成元年9月28日までであった。
 原告は、前記1(6)のとおり、平成14年8月1日、株式会社マリークワントコスメチックスジャパンに対し、引用商標2に係る商標権等につき通常使用権を許諾し、同社は、「LOVE STRUCK」、「LOVE TOKEN」の各標章を付した商品を販売していたが、これらは、「LOVESTRUCK」、「LOVE TOKEN」であって、「LOVE」とは異なるものである。 前記1(7)のとおり、原告は、平成18年4月以降、「LOVE」を含む商標を使用した化粧品を製造販売し、宣伝広告をしているが、これは、本件商標の登録査定(平成17年12月12日)後の事実であるから、本件において考慮することはできない。
 したがって、原告が「LOVE」商標を使用していたのは、昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及び株式会社ラブジャパンとの和解成立までであり、通常実施権者の使用も平成元年9月28日までであるから、本件商標の登録査定時(平成17年12月12日)まで長期間にわたって「LOVE」商標は使用されていなかったものである。
 そうすると、本件商標の登録査定時に、原告の「LOVE」商標が周知であったと認めることはできないから、そのような事実を取引の実情として考慮することはできない。
 なお、前記1(8)のとおり、「日本有名商標集」(甲13)には、原告の商標として「LOVE」(引用商標1〜5)が掲載されているが、この事実は、それのみでは、本件商標の登録査定時に原告の「LOVE」商標が周知であったと認めることはできないとの上記認定を左右するものではない。また、上記認定のとおり、原告は、引用商標1〜5に係る商標権の商標管理をしてきたものと認められるが、これらの管理の事実があったからといって、上記のとおり長期間にわたって使用されていない以上、「LOVE」商標が周知であったと認めることはできない。
(5) 原告は、「LOVE」は、その言葉だけで化粧品等について需要者に特有のメッセージを発信する高いアピール度を有しているという特殊性があるから、本件商標のような「LOVE+○○」といった類の結合商標は、「LOVE」のシリーズ商標といった認識を持たせると主張する。
 しかし、上記(1)認定のとおり、本件商標は、ひとまとまりの「Lovepassport」として認識されるのであって、「LOVE」のシリーズ商標といった認識を持たせるというものではない。
 また、原告は、「LOVE」の文字を前後に含み、「化粧品」を指定商品に含む商標の出願登録例は392件あるが、これらのほぼすべてに共通する点は、「LOVE」と他の要素の文字の大きさはほぼ同じであって「LOVE」をことさら大きく目立つ態様で書したものではないということであると主張する。
 しかし、本件商標と引用商標1〜4を対比した判断は、上記(3)のとおりであって、その判断が他の出願登録例によって左右されるものではないし、そもそも、上記(1)のとおり、本件商標は、「LOVE」をことさら大きく目立つ態様で書したものということはできない。
 さらに、原告は、ハート図形は「愛」「ラブ」を表象する図形としてよく知られていることからすると、本件商標中の本件商標のハート図形は、「Love」の文字をより一層際立たせる効果を持つと主張する。ハート図形は「愛」「ラブ」を表象する図形として用いられることがあるとしても、引用商標1〜4には、ハート図形はないから、この点は、本件商標と引用商標1〜4の類似性を判断するに当たって、上記(3)のとおり考慮することができるというべきである。
(6) 証拠(甲70、71の1・2、72)によると、原告が株式会社ケーアンドリサーチデータに委託して、15歳(高校生)以上の男女814人を対象に、東京都の街頭において、本件商標が付された包装箱を示して、包装箱のブランド名を何と読むか尋ねる調査をしたところ、@最初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねた結果は、「ラブパスポート」が49.6%、「ラブ」が33.3%、「その他」6.9%、「わからない」10.2%であった、Aそこで、他に読めるブランド名があるか重ねて尋ねた結果は、「ある」が12%、「ない」が88%であった、B「ある」と答えた者に何と読むか尋ねた結果は、「パスポート」が38.8%、「ラブパスポート」が13.3%、「ラブ」が2%、「その他」45.9%であった、と認められる。
 上記調査結果によると、本件商標が付された包装箱について、最初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときには、「ラブパスポート」と答えた者が約半数存し、他に読めるブランド名があるか重ねて尋ねたときにブランド名を答えた者では、「パスポート」と「ラブパスポート」の合計が約半数存したのに対し、最初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときには、「ラブ」と答えた者は約3分の1であり、他に読めるブランド名があるか重ねて尋ねたときにブランド名を答えた者では、「ラブ」と答えた者は2%にすぎなかったのであるから、これらの調査結果から、本件商標は通常「ラブ」と読まれるということはできない。なお、上記調査において、最初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときに、15歳から19歳の女性の51.1%が「ラブ」と答えたことが認められる(甲70)が、15歳から19歳の女性は、女性全体の5.5%にすぎず(甲70)、これから直ちに本件商標は通常「ラブ」と読まれるということはできない。
 むしろ、上記調査結果からすると、本件商標は「ラブ」ではない読まれ方をするというべきである。
 また、上記調査は、本件商標の称呼について尋ねたものであるが、商標の類否は、称呼のみならず、外観や観念も総合して判断されるべきである。
(7) 原告は、インターネット通販等において販売される商品が写真で紹介される際、実際の商品そのものよりも小さく表示されることはごく一般的であり、そのような場合、本件商標の「Love」は大きく表れていることから読み取ることができる一方、もう一つの構成要素である「passport」は、小さすぎるがゆえにほぼ不可視状態となっている、と主張する。
 本件商標は、「Love」と「passport」から成り、「Love」が「passport」より大きいものの、それらの大きさが著しく異なるということはないから、「Love」は読み取ることはできるが、「passport」は読み取ることはできないという事態が生ずるとは考えられない。原告が主張の根拠とする乙6の「1−029」「1−033」「1−040」「1−053」「1−060」「1−068」についても、「Love」は読み取ることはできるが、「passport」は読み取ることはできないというものではない。
(8) 以上を総合すると、本件商標と引用商標1〜4は類似しないということができるから、本件商標登録は、法4条1項11号に違反してされたものではない。
4 出所混同についての判断(法4条1項15号)の誤り(取消事由2)の有無について
(1) 上記3のとおり、本件商標と引用商標1〜4は類似しない。また、引用商標5は、別紙のとおり、ゴシック体で「LOVE」と記載したものであるから、上記3で引用商標2について述べたのと同じ理由により、本件商標と類似しない。
 また上記3(4)で認定した事実からすると、本件商標の登録出願及び査定時に、原告の「LOVE」商標が周知であったと認めることはできない。
 したがって、本件商標が、引用商標1〜5を使用する他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標ということはできない。
(2) 引用商標6は、別紙のとおり、「IN」と「LOVE」と「AGAIN」の各文字を3段に書してなる商標であり、引用商標7は、「IN」と「LOVE」と「AGAIN」の各文字を3段に書して成る商標(「LOVE」の第2文字「O」は、ハート形の図形で表されている。)であるから、外観において、本件商標とは大きく異なっており、類似するということはできない。また、引用商標6、7から「インラブアゲイン」の称呼を生ずるところ、本件商標から「ラブパスポート」の称呼を生ずるから、称呼においても類似するということはできない。さらに、引用商標6、7は、「LOVE」から「愛」という観念が、「AGAIN」から「再び」という観念がそれぞれ生ずるものと認められるところ、本件商標からは、「愛」のほかに「旅券」という観念を生ずるから、観念においても類似するということはできない。したがって、引用商標6、7は、本件商標と類似しない。
 引用商標8は、「LOVE STRUCK」の文字を書して成る商標、引用商標9は、「LOVE TOKEN」の文字を書して成る商標であるから、外観において、本件商標とは大きく異なっており、類似するということはできない。また、引用商標8から「ラブストラック」の称呼を、引用商標9から「ラブトークン」の称呼を生ずるところ、本件商標から「ラブパスポート」の称呼を生ずるから、称呼においても類似するということはできない。さらに、本件商標からは、「愛」のほかに「旅券」という観念を生ずるから、「旅券」という観念の生じない引用商標8、9は、観念においても、本件商標と類似するということはできない。したがって、引用商標8、9は、本件商標と類似しない。
 以上のとおり、引用商標6〜9は、いずれも本件商標と類似しないから、本件商標が、引用商標6〜9を使用する他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標ということはできない。
 なお、前記2(5)のとおり、イヴ・サンローラン社は、「IN LOVEAGAIN」の標章又は「IN L●(ハートマーク)VE AGAIN」の標章を付した商品(香水)を販売していたこと、前記2(6)のとおり、株式会社マリークワントコスメチックスジャパンは、「LOVE STRUCK」、「LOVE TOKEN」の各標章を付した商品(香水)を販売していたことが認められるが、これらの事実があるとしても、上記のとおりこれらの商標が本件商標と類似しないことからすると、本件商標が、引用商標6〜9を使用する他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標ということはできない。
(3) したがって、本件商標登録は、法4条1項15号に違反してされたものではない。
5 適正手続違反を見過ごした誤り(取消事由3)の有無について
 原告は、本件商標の登録出願は、裁判所において本件商標の使用は原告「LOVE」商標の侵害となると判断される蓋然性が高い状態になった後に、行政庁たる特許庁にこの事実を伏せて出願されたもので、公序良俗に違反する違法な商標取得行為であると主張する。
 しかし、本件商標の使用が原告の商標権を侵害するとして、原告から訴訟を提起された被告が、その対抗手段として、本件商標の登録出願を行い、登録を受けることは、公序良俗に違反する違法な商標登録取得行為であると解することはできないから、本件商標の登録出願が、上記侵害訴訟の損害の立証段階においてされたとしても、その結論が左右されるものではない。その他、被告による本件商標登録取得行為に違法な点があるとは認められない。
6 結語
 以上のとおり、原告主張に係る取消事由はいずれも理由がない。
 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 森義之
 裁判官 澁谷勝海


別紙
 引用商標
 [判決注@〜Dは、図を甲2〜5、8により、補充した。また、指定商品は、書換登録がなされたものも含め、現に有効なもののみを記載した。]
@ 登録第542450号(引用商標1)
 (商標) 略
 (指定商品) 第3類「香料及び他類に属しない化粧品」
 出願日 昭和33年8月30日
 登録日 昭和34年9月28日
 権利者 株式会社クラブコスメチックス
A 登録第2219231号(引用商標2)
 (商標) 略
 (指定商品) 第4類「歯みがき、化粧品、香料類」
 出願日 昭和46年8月5日
 登録日 平成2年3月27日
 権利者 株式会社クラブコスメチックス
B 登録第2431617号(引用商標3)
 (商標) 略
 (指定商品) 第3類「歯みがき、化粧品、香料類、薫料」
  第30類「食品香料(精油のものを除く。)」
 出願日 昭和48年5月10日
 登録日 平成4年7月31日
 権利者 株式会社クラブコスメチックス
C 登録第4522976号(引用商標4)
 (商標) 略
 (指定商品) 第3類「歯みがき、化粧品、香料類」
 出願日 平成13年1月9日
 登録日 平成13年11月16日
 権利者 株式会社クラブコスメチックス
D 登録第1021489号(引用商標5)
 (商標) 略
 (指定商品) 第1類「陶磁器用釉薬」
  第2類「染料、顔料、塗料、印刷用インキ(「謄写版用インキ」を除く。)」
  第3類「塗料用剥離剤、靴墨、靴クリーム、つや出し剤」
  第4類「靴油、保革油」
 出願日 昭和46年3月12日
 登録日 昭和48年7月2日
 権利者 株式会社クラブコスメチックス
E 「IN」と「LOVE」と「AGAIN」の各文字を3段に書してなる商標(引用商標6)
F 「IN」と「LOVE」と「AGAIN」の各文字を3段に書してなる商標(「LOVE」の第2文字「O」は、ハート形の図形で表されている。)(引用商標7)
G 「LOVE STRUCK」の文字を書してなる商標(引用商標8)
H 「LOVE TOKEN」の文字を書してなる商標(引用商標9)
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