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【事件名】商標“PORT”審決取消事件(2)
【年月日】平成19年6月27日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10543号 審決取消請求事件
 (平成19年5月14日 口頭弁論終結)

判決
原告 パウトリミテッド(審決上の表示)P o u t L i m i t e d
訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
訴訟代理人弁理士 稲葉良幸
同 石田昌彦
同 森本久実
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 岩崎良子
同 大場義則


主文
1 特許庁が不服2004−65044号事件について平成18年8月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、「POUT」の欧文字を書してなる国際登録第791489号の商標(優先権主張2002年8月2日〔英国〕、国際登録日2002年(平成14年)11月1日、指定商品は第3類「Perfumery; cosmetics; skin care products; eye care lotions and products; toiletries, shampoos,conditioners, hair care products, hair spray, hair dyes and colorants;dentifrices; nail care preparations;essential oils; depilatories; sun tanning preparations; cotton wool and cotton sticks for cosmetic purposes;non-medicated toilet preparations.」(以下「本願商標」という。)について、平成16年3月18日発送の拒絶査定を受け、同年6月16日、同査定に対する不服の審判(不服2004−65044号事件)を請求した。
 特許庁は、平成18年8月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし、同年8月21日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
 別紙審決書写しのとおりである。要するに、本願商標と、下記(1)ないし(3)の商標(以下、これらを一括して「引用商標」という。)とは、外観及び観念における相違点を考慮してもなお、称呼において類似するから、本願商標は商標法4条1項11号に該当する、というものである。
(1) 登録第1811235号商標(以下「引用商標1」という。)
 別紙審決書写しの別掲のとおりの構成よりなり、昭和56年1月28日に登録出願され、第4類の原簿に記載の商品を指定商品として、昭和60年9月27日に設定登録され、平成7年10月30日、平成17年6月28日に存続期間の更新登録がされ、その後、同年7月13日に指定商品について第3類「せっけん類、歯磨き」に書換登録されたもの。
(2) 登録第1987345号商標(以下「引用商標2」という。)
 「PORT」及び「ポート」の文字を二段に書してなり、昭和60年1月10日に登録出願され、第4類の原簿に記載の商品を指定商品として昭和62年9月21日に設定登録され、平成9年9月2日に存続期間の更新登録がされたもの。
(3) 登録第3360774号商標(以下「引用商標3」という。)
 「PORT」及び「ポート」の文字を二段に書してなり、平成7年4月4日に登録出願され、第3類の原簿に記載の商品を指定商品として平成9年11月21日に設定登録されたもの。
第3 取消事由に係る原告の主張
 審決は、以下のとおり、本願商標と引用商標の類否判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。
1 本願商標の称呼の認定の誤り
 審決は、「本願商標は『パウト』の外『ポウト』の称呼をも生ずる」(審決書2頁29行)との認定を前提として、「本願商標と引用商標とは、外観及び観念における相違点を考慮してもなお、称呼において類似するものというべきである。」(審決書3頁5行〜6行)と判断した。
 しかし、本願商標からは、次のとおり、「パウト」の称呼が生じるのみで、「ポウト」の称呼は生じないから、本願商標と引用商標が類似するとした審決の判断は、その前提において誤りである。
(1)ア 本願商標に係る「POUT」の欧文字は、「ふくれっ面をする、口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有する英単語を表し(甲5の1、2)、造語ではないから、我が国で最も親しまれている外国語である英語風に「パウト」と発音するのが自然である。
 「OUT」の欧文字は、「外へ、出して、除外して」という意味内容を有する親しまれた英語であり(甲6、7)、「オウト」ではなく、「アウト」と容易に発音される。また、「OUT」の綴りを含み、日本人に親しまれた英単語には、「SHOUT」(シャウト)(甲8の1、2)、「TROUT」(トラウト)(甲9の1、2)、「SPROUT」(スプラウト)(甲10の1、2)、「STOUT」(スタウト)(甲11の1、2)、「SCOUT」(スカウト)(甲12の1、2)、「GROUT」(グラウト)(甲13の1、2)、「BOUT」(バウト)(甲14)、「CLOUT」(クラウト)(甲15)、「FLOUT」(フラウト)(甲16)、「GOUT」(ガウト)(甲17)、「LOUT」(ラウト)(甲18)、「ROUT」(ラウト)(甲19)、「SNOUT」(スナウト)(甲20)、「SPOUT」(スパウト)(甲21)など、「OUT」の部分を「アウト」と発音するものが多数存在する。したがって、「OUT」の綴りを伴う語は、その単語自体が特に親しまれたものでなくても、「アウト」と発音するものと容易に類推されるというべきである。
 そして、「POUT」という語は、特に親しまれているものではないとしても、中学程度の英語学習に使われる「初級クラウン英和・和英辞典」に、その意味内容とともに、カタカナで発音が掲載されている(甲5の2)ように、平易な語であり、また、平均的な日本の取引者・需要者は、その綴りから最も自然と考えられる音で発音しようとするのが一般的である。
イ 本願商標は、原告の製造に係る化粧品等の商品(以下「原告商品」という。)につき使用している商標であり、我が国においては販売準備中ではあるが、既に化粧品のブランドとしてインターネット等で我が国の消費者に紹介されており、ネット通販業者のホームページを利用して、我が国の消費者は原告商品を購入することができる(甲25〜39)。
 また、一般需要者に人気があり、使用頻度の高いインターネットの検索サイト「Google」(http://www.google.co.jp/)及び「Yahoo!JAPAN(http://www.yahoo.co.jp/)において、「パウト」を検索すると、ヒット数は相当程度あり、ほとんどすべてが原告商品に関するものである(甲23、24)。
 このように、本願商標に係る「POUT」は、我が国において、「パウト」の称呼をもって、広く紹介されている。
ウ 特許電子図書館の商標出願・登録情報検索における書誌情報では、本願商標の称呼は、「パウト、ポート」とされている(甲1)が、本願商標と同一の構成からなり、指定商品を第25類「ティーシャツ、ワイシャツ類及びシャツ、上半身用衣類・・・ベルト」とする国際登録第791489号の商標(原告は、この商標について、平成17年7月1日、商標権設定登録を受けた。)の称呼は、「パウト、プート」とされており、「ポート」の称呼は付されていない(甲44)。上記書誌情報における称呼は、特許庁が参考称呼として付加したものではあるが、「POUT」の欧文字から生じる称呼として統一的に付加されているのは、「パウト」のみであり、「ポート」との称呼は、参考称呼として付加されたり、付加されなかったりする程度のものにすぎない。したがって、「ポート」との称呼は、本願商標から生じ得る自然な称呼ということはできない。
(2)ア 被告は「POU」の欧文字を「ポー」とカタカナ表記する場合がある、として、和製英語である「POUCH」(ポーチ)の例を挙げるが、英語として、「POU」の欧文字を「ポー」と読むものではないから、原告の前記(1)アの主張の当否に影響するものではない。
イ 被告は、本願指定商品中「化粧品」について、「POUT」が「ポート」とカタカナ表記されている例として、「LIP POUT」の表記のある容器の写真とともに、「リストレーション リップポート(5ml)」と表記したホームページ(乙3の6)を挙げる。しかし、上記ホームページに掲載された「LIP POUT」なる商品は、外国製であり、「リップ パウト」と発音・表示されるべきものであり、現に別のインターネット通販サイトでは、「LIP POUT」を「リップパウト」と表記され、「リップポート」とは表記していない(甲40、41)。このように、カタカナ表記を誤った態様で記載した一例をもって、本願指定商品中「化粧品」について「POUT」が「ポート」とカタカナ表記されている例があるとする被告の主張は、妥当でないというべきである。
(3) 以上のとおりであるから、本願商標は、「パウト」の称呼のみを生ずるというべきであり、「ポウト」と称呼されることも少なくないとした審決の認定は、誤りである。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤り
(1) 本願商標からは、上記1のとおり、「パウト」の称呼のみを生ずるというべきであるところ、これと引用商標から生ずる「ポート」の称呼とは、ともに全体で3音の音構成をとり、かかる少ない音数の中で、識別上重要な要素を占める第1音の母音に加え、第2音が「ウ」であるか、長母音であるかという点で相違するから、両者は語音感覚が異なり、取引者・需要者が明確に聴別し得るものであって、誤認混同を来すおそれはなく、類似しないというべきである。
(2) 仮に、本願商標から「ポウト」の称呼が生じるとしても、次のとおり、本願商標と引用商標とは類似しないから、審決の上記判断は誤りである。
ア 本願商標と引用商標は、ともに全体で3音の音構成からなるところ、このような短い音構成においては、通常、各音ははっきり明瞭に発音されるから本願商標は、「ポ」、「ウ」、「ト」と明瞭に聴取できる一方、引用商標は、第2音が長音であり、「ポー」と「ト」の2音として聴取できるから、両者は、その称呼において、明確に聴別し得る。
イ 本願商標は、前記1(1)アのとおり、その構成文字から、「ふくれっ面をする、口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有する英単語である「POUT」を表す。一方、引用商標を構成する「PORT」の欧文字は、「港」や「(パソコンなどの)入出力ターミナル」を意味する英単語として、我が国において、広く知られ、親しまれている(甲22の1〜3)。したがって、本願商標と引用商標は、その観念において大きく異なる。
ウ 本願商標に係る「POUT」と引用商標を構成する「PORT」は、ともに4文字の欧文字からなるが、3番目の文字が「U」と「R」である点で相違する。かかる相違は、全体で4文字という短い綴りの中で際立っており、視覚的に看者に異なった印象を与えるものである。特に、引用商標を構成する「PORT」の語は、上記イのとおり、我が国においてその綴りと共に広く知られた英単語であるから、本願商標と引用商標との綴りの相違は、明白に識別できるものである。したがって、本願商標と引用商標とは、その外観において大きく異なる。
エ 以上のとおり、仮に本願商標から「ポウト」の称呼が生じるとしても、本願商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれにおいても、類似しないし、仮に本願商標と引用商標の称呼が近似するとしても、本願商標と引用商標とは、上記イ、ウのとおり、観念及び外観において大きく相違する。そして、前記1(1)イのような取引の実情に鑑みると、本願商標は、引用商標とは、何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれはなく、非類似というべきである。
第4 取消事由に係る被告の反論
 以下のとおり、本願商標と引用商標は類似し、その指定商品も同一又は類似するから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
1 本願商標の称呼の認定の誤りについて
(1) 我が国において、英語が最も親しまれて使用されている外国語であるとしても、一般に、すべての英単語が正しく発音され、その意味が正しく理解されるとはいえない。一方、ローマ字は、我が国において英語と同様に一般に親しまれている。それゆえ、造語と理解される欧文字に接する取引者・需要者は、英語風及びローマ字風の読みで称呼することが一般的である。しかるところ、本願商標に係る「POUT」は、大学教養程度又はそれ以降に学習される英単語であって(乙2の1、2)、一般に親しまれた語ではないから、取引者・需要者は、これを造語と理解して、ローマ字風に「ポウト」と称呼することも少なくないというべきである。
 また、商標は、その作成者の意図如何にかかわらず、しばしば、1個の商標から2個以上の称呼の生ずることがあることは、経験則の教えるところである。
 さらに、本願商標の指定商品の取引者・需要者は、老人から子供をも含み、老若男女を問わず一般大衆がその消費者の対象といえるところ、これらの者のすべてが大学教養程度の英語を習得しているわけではないから、本願商標の指定商品の取引者・需要者が、本願商標に係る「POUT」の欧文字を常に英語読みで「パウト」とのみ称呼するということはできない。
(2) 原告は、本願商標に係る「POUT」は、インターネット等で、「パウト」の称呼をもって、我が国の消費者に広く紹介されている旨主張するが、@インターネット上のホームページには、「POUT」の欧文字のみでなく、「パウト」のカタカナ文字が併記されていること、A本願商標の指定商品は、「化粧品」以外の商品を含むから、化粧品に興味を有する一部の若い女性等はともかく、「化粧品」以外の指定商品に係る取引者・需要者までが、「POUT」を「パウト」とのみ称呼し、かつ、その意味を熟知しているとは考えがたい。
(3) 以上のとおり、本願商標に係る「POUT」の欧文字に接した取引者・需要者は、「ポウト」の称呼をもって取引に当たる場合が多いとみるのが自然であり、審決が「本願商標は『パウト』の外『ポウト』の称呼をも生ずる」(審決書2頁29行)と認定したことに、誤りはない。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤りについて
 本件商標と引用商標は、以下のとおり、称呼、外観及び観念において顕著な差異を有せず、類似するというべきである。
(1) 本願商標からは、前記1のとおり、「ポウト」の称呼が生じるところ、@音声学上、二重母音「オウ」は長母音化されて「オー」となることがあること(乙3の1、2)、A外来語の表記に関する内閣告示第2号では、長音は原則として長音記号「ー」を用いて書くが、「オー」と書かず、「オウ」と書くような慣用がある場合は、それによるとされていること(乙3の3)、B「POU」の欧文字を「ポー」とカタカナ表記する例として、「POUCH」(ポーチ)が知られていること(乙3の4、5)、C「LIP POUT」の表記のある容器の写真とともに、「リストレーション リップポート(5ml)」と表記したホームページ(乙3の6)があり、本願指定商品中「化粧品」について、「POUT」が「ポート」とカタカナ表記されていることがうかがわれることなどの事情に照らせば、「POUT」は「ポート」とカタカナ表記されることがあり、「POUT」の語に接する取引者・需要者は、これを「ポウト」又は「ポート」と称呼する場合も少なくないというべきである。
 したがって、本願商標は、その構成文字「POUT」より「パウト」のほか、「ポウト」又は「ポート」の称呼をも生ずるというべきであり、他方、各引用商標からは「ポート」の称呼が生ずること明らかであるから、本願商標と引用商標とは、称呼上類似するというべきである。
(2) 本願商標に係る「POUT」の欧文字は、「口をとがらす」又は「うなぎの一種」等の意味を有する英単語であるとしても、大学教養課程又はそれ以上の学習課程において習得又は学習されるものであり、また、前記1のとおり、本願指定商品との関係でも、一般に親しまれた英語といえないから、これに接する取引者・需要者をして、一種の造語と理解ないし認識させることも少なくないというべきである。
 一方、引用商標の構成中の「PORT」の欧文字は、「港、空港」の意味を有する比較的平易な英語として、日常親しまれていることから、これより「港、空港」の観念を生ずることは明らかである。
 したがって、本願商標と引用商標とは、観念において比較すべくもないものである。
(3) 本願商標と引用商標は、外観において、それぞれ区別できるものであるが、看者の記憶に残る程の特徴的な構成における相違はない。
(4) 上記のとおり、本願商標及び引用商標の構成自体は特異なものではなく、また、本願商標は特定の意味を有しない造語と理解ないし認識され得るから、その観念と結びついて、看者に連想、記憶されるものとはいえない上、本願商標の指定商品の需要者は老若男女にわたり得ることからすれば、常に注意深く商品に付された商標の外観、観念の相違点を吟味し、選択するということはできず、むしろ簡易迅速を尊ぶ商品の取引の実情等を考慮すると、商標の外観、観念の相違点にかかわらず、比較的記憶しやすい称呼をもって、取引されることが少なくないというべきである。
 なお、最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号399頁)は、指定商品の特殊性、新規参入の困難性など、当該事案に固有の取引の実情ないし経験則の下で、称呼の対比考察が比較的緩やかになされた事例であり、本願商標の指定商品については、上記のような特殊事情は認められない。
(5) 以上のとおりであるから、取引の実情等を考慮しても、本願商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念の3点のうち、@外観及び観念において著しく相違するとまではいえず、A称呼において類似するから、本件商標と引用商標は類似するというべきである。
第5 当裁判所の判断
 当裁判所は、審決は本願商標と引用商標の類否判断を誤ったものであり、これを取り消すべきものと考える。その理由は、以下のとおりである。
1 商標法4条1項11号は、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務‥‥‥又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない旨規定している。この場合、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは、そのような商品・役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を考察するとともに、その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に照らし、その商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
2 本件商標と引用商標の類否の検討
 そこで、上記の見地から、本件商標と引用商標の類否について検討する。
(1) 観念について
 証拠(甲5の1、2、22の1〜3、乙2の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、@本願商標を構成する「POUT」の欧文字は、「ふくれっ面をする、口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有し、我が国では、大学教養程度又はそれ以降に学習される英単語であり(乙2の1、2)、あまり親しまれてはいないものの、中学程度の英語学習に用いられる辞典にも掲載されており(甲5の2)、ごく平易な単語であること、A引用商標の構成中の「PORT」の欧文字及び「ポート」のカタカナ文字は、「港」等の意味を有する英単語又はそのカタカナ表記であって、我が国において広く親しまれている、平易で分かりやすい語であることが認められる。
 したがって、本願商標と引用商標とは、その観念において相違する。
(2) 外観について
 本願商標を構成する「POUT」の文字列と引用商標の構成中の「PORT」の文字列は、3番目の文字である「U」と「R」が相違するが、「PORT」の欧文字は我が国において広く親しまれた英単語である点を考慮すると、取引者、需要者にとって、上記綴りの相違により、視覚的に異なる印象を与えるものいうことができる。
 また、引用商標は、いずれも「PORT」の欧文字以外の構成を含む(すなわち、引用商標1は、円の中に牛を描いた図形、「PORT」の欧文字及び「ポート」のカタカナ文字を3段に書してなるものであり、引用商標2は、「ポート」のカタカナ文字及び「PORT」の欧文字を2段に書してなるものであり、引用商標3は、「PORT」の欧文字及び「ポート」のカタカナ文字を2段に書してなるものである。)のに対して、本願商標は、「POUT」の欧文字のみを横1段に書してなるものである点での相違からしても、視覚的に異なる印象を与えるものといえる。
 したがって、本願商標と引用商標とは、外観において相違する。
(3) 称呼について
ア 前記のとおり、本願商標を構成する「POUT」の欧文字は、「ふくれっ面をする、口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有するごく平易な英単語であるところ、これを英語として発音すれば、「パウト」の称呼を生ずる(当事者間に争いがない。)。
 また、証拠(甲6〜21)及び弁論の全趣旨によれば、「OUT」の欧文字又は「OUT」の綴りを伴う英単語として、「OUT」(アウト)(甲6、7)、「SHOUT」(シャウト)(甲8の1、2)、「TROUT」(トラウト)(甲9の1、2)、「SPROUT」(スプラウト)(甲10の1、2)、「STOUT」(スタウト)(甲11の1、2)、「SCOUT」(スカウト)(甲12の1、2)、「GROUT」(グラウト)(甲13の1、2)、「BOUT」(バウト)(甲14)、「CLOUT」(クラウト)(甲15)、「FLOUT」(フラウト)(甲16)、「GOUT」(ガウト)(甲17)、「LOUT」(ラウト)(甲18)、「ROUT」(ラウト)(甲19)、「SNOUT」(スナウト)(甲20)、「SPOUT」(スパウト)(甲21)など、「OUT」 を「アウト」と発音する例が数多く存在すること、これらによれば、「OUT」を「アウト」と発音するのは通常であると、一般に理解されているものと認められる。
 さらに、証拠(甲23〜39)及び弁論の全趣旨によれば、本願商標を構成する「POUT」の欧文字は、インターネット上の日本語で作成された様々なホームページにおいて、化粧品のブランドあるいは商品として、紹介ないし掲載され、「パウト」とカタカナ表記されていることが認められる。
 上記の事実を総合考慮すれば、本願商標から生じる自然な称呼は、「パウト」であるということができる。
イ もっとも、証拠(乙3の1〜6)及び弁論の全趣旨によれば、本願商標を構成する「POUT」の欧文字をローマ字風に発音すれば、「ポウト」との称呼を生ずるところ、@音声学上、二重母音「オウ」は長母音化されて「オー」となることがあること(乙3の1、2)、A外来語の表記に関する内閣告示第2号では、長音は原則として長音記号「ー」を用いて書くが、「オー」と書かず、「オウ」と書くような慣用がある場合は、それによるとされていること(乙3の3)、B「POU」の欧文字を「ポー」とカタカナ表記する例として、和製英語である「POUCH」(ポーチ)の例があること(乙3の4、5)、C「LIP POUT」の表記のある容器の写真とともに、「リストレーション リップポート(5ml)」 と誤記したホームページ(乙3の6)があることが認められ、上記の事実によれば、本願商標を構成する「POUT」の欧文字から、およそ「ポウト」ないし「ポート」の称呼が生ずる余地がないとはいえない。
 しかし、前記のとおり、「POUT」という英単語は、あまり親しまれてはいないものの、中学程度の英語学習に用いられる辞典にも掲載されているごく平易な単語であること、「OUT」との綴りが「アウト」と発音される例が数多く知られていること、インターネット上には、「POUT」の欧文字を「パウト」とカタカナ表記した日本語のホームページ(甲23〜39)、「LIP POUT」についても「リップパウト」とカタカナ表記したホームページ(甲40、41)、「POUT」の語義を「不機嫌」「唇を尖らせる」などと説明したホームページ(甲34、36)等が多数存在することに照らすならば、「LIP POUT」を「リップポート」と誤記されたホームページ(乙3の6)という例が存在したことをもって、「POUT」の欧文字に接する取引者・需要者が、これを「ポウト」又は「ポート」と称呼する場合が、少なくないと認めることはできない。
 なお、特許電子図書館の商標出願・登録情報検索における書誌情報において、本願商標と同一の構成からなる国際登録第791489号の商標の称呼が「パウト、プート」とされ、「ポート」の称呼は付されていない(甲44)ことも、「POUT」の欧文字から自然に生じる称呼は「パウト」であって、「ポート」との称呼は当然には生じないことを推認させる事情の一つというべきである(もっとも、同登録情報検索において、本願商標の称呼については「パウト、ポート」とされている〔甲1〕。)。
ウ そうすると、本願商標から「ポウト」ないし「ポート」の称呼が生じることを全く否定することはできないとしても、取引状況に照らして、そのような場合はごく例外的であるといって差し支えない。したがって、本願商標から生じる自然な称呼である「パウト」と、引用商標から生じる「ポート」の称呼とは、その3音のうち、最初の2音において異なり、聴覚的に異なる印象を与えるものであるから、称呼において相違する。
(4) まとめ
 以上によれば、本願商標と引用商標とは、観念及び外観において類似せず、本願商標から自然に生じる「パウト」の称呼と引用商標から生じる「ポート」の称呼も類似しない。上記のとおり、本願商標から「ポウト」ないし「ポート」の称呼が生じることを全く否定することはできないが、通常の需要者・取引者において、そのような称呼を生ずる場合は極めて少ないものと解される。そうすると、本願商標は、その指定商品に使用された場合、引用商標とは異なる印象、記憶、連想等を取引者・需要者に与えるものと認められ、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきである。
 そうすると、本願商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤りがあることになる。
 なお、審決には、本願商標と引用商標の指定商品が同一又は類似することにつき、何ら判断を明示することなく、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした点においても理由不備の誤りがある。
3 結論
 したがって、原告の本件請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 大鷹一郎
 裁判官 嶋末和秀
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