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【事件名】立体商標“マグライト”事件(2)
【年月日】平成19年6月27日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10555号 審決取消請求事件
 (平成19年4月23日 口頭弁論終結)

判決
原告 マグ インスツルメント インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 高橋美智留
同 浅野絵里
同 小宮山展隆
同 石新智規
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 中村謙三
同 小林和男
同 大場義則


主文
1 特許庁が不服2003−2070号事件について平成18年8月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同じ。
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、別紙「商標目録」のとおりの構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を第11類「懐中電灯」として、平成13年1月19日に立体商標の登録出願(商願2001−3358号)したが、平成14年11月18日に拒絶査定を受け、平成15年2月7日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を不服2003−2070号事件として審理し、平成18年8月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その審決謄本は、同年9月4日に原告に送達された(付加期間90日)。
2 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書写しのとおりである。その要旨は、以下のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、また同条2項の適用により登録を受けられるべきものにも該当しないとするものである。
(1) 商標法3条1項3号の該当性
ア 立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という場合がある。)の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。
 そして、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは前記したように、商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって、本来的には、自他商品を識別するための標識として採択されるものではなく、全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者・需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するに止まり、このような商品等の機能又は美感と関わる形状は、多少特異なものであっても、いまだ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。
 また、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でない。そうすると、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、使用をされた結果、当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず、取引者・需要者間において、当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。
イ ところで、阪神大震災を契機に、近時「防災用品」が特に注目される傾向になり、例えば、阪神大震災で役立ったグッズ、ベスト20の第1位として「懐中電灯」が挙げられており、さらに、「懐中電灯」は、アウトドアー用品としても着目され、ライト頭部がやや大きく胴体部分が円筒形の従来タイプの懐中電灯に加えて、小型のペンシル型や、全体が細長い筒型のような様々なタイプと機能を備えた懐中電灯が製造、販売されているのが実情である。
ウ 本願商標は、別紙「商標目録」のとおり、明らかにライト頭部がやや大きめで、胴体部分が細長く、手で握って用いる携帯用照明器具の一つである携帯用の懐中電灯といえるものである。
 そして、本願商標は、その構成部分のライトのヘッド部分の一部、握る胴体部の中央部に切り込み模様が施され、テールの最後部に穴が施されているが、これらの切り込み模様は、光度の調整のしやすさ、握り易さのために、また、テールの最後部の穴は、ストラップ等を取り付けるためのものといえ、懐中電灯の機能性と美感を兼ねているといえるものであって、懐中電灯の機能又は美感とは全く関係のない特異な形状とはいい難く、いまだ懐中電灯の基本的な機能、美感を発揮させるために必要な形状の範囲内であって普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない。
 そうとすると、本願商標は、一見して直ちに懐中電灯の形態を表したものと容易に認識し理解されるものであるといわざるを得ないから、これをその指定商品である「懐中電灯」に使用しても、取引者・需要者は、単に商品の形状を表示するにすぎないものとして認識し理解するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ないものといわざるを得ない。
 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
(2) 商標法3条2項の該当性
 確かに、請求人(原告)提出に係る証拠よりすると、本件商品(定義後述)が、本願商標の登録出願前より相当数製造販売され、また、多くの雑誌及び新聞にその紹介記事が掲載されたことは認められる。
 しかしながら、これらの甲各号証に掲載されている本願商標に係る形状の懐中電灯及び検甲第1号証(本件訴訟における検甲1)の現物見本には、不鮮明なものを除き、いずれにも「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の欧文字と登録商標記号(○にR記号)が表示されていることが認められる一方、「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の表示が施されていない本願商標に係る立体形状のみからなる商品が製造販売され、あるいは頒布されたことが認められる証拠はない。
 また、「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の欧文字が、識別標識としての機能を果たしていることは登録商標記号(○にR記号)からもうかがえる反面、本願商標に係る形状の懐中電灯に「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の欧文字と登録商標記号(○にR記号)が表示されていないものについて、我が国における同業組合・同業者、第三者機関による証拠の提出もない。
 そして、本願商標に係る立体形状のみからなる商品が、請求人(原告)に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるようになったものとはにわかには認め難く、他に、本願商標について商標法3条2項に基づき登録が認められるべき客観的な証拠は見当たらない。
 したがって、本願商標は、その立体形状のみの使用により自他商品の識別機能を有するに至ったものともいえないから、請求人の本願商標が商標法3条2項の適用により登録を受けられるべきものであるとする主張も採用できない。
第3 取消事由に関する原告の主張
 審決には、本願商標について、商標法3条1項3号該当性の判断を誤り(取消事由1)、また同条2項該当性の判断を誤った(取消事由2)違法がある。
1 商標法3条1項3号該当性の判断の誤り(取消事由1)
(1) 立体商標における商品等の形状の識別力の判断基準
 審決は、当該立体形状が機能や美感に関係する場合には、「多少特異なものであっても、いまだ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない」として、商標法3条1項3号に該当するとしている。
 しかし、審決の判断基準に従えば、商品デザインの実状を全く無視し、いわゆる工業デザインに属する立体形状については商標登録を全く認めない結果となるから、審決の判断は誤りである。
 すなわち、一般に商品の形状をデザインする場合、それが市場で受け入れられ、商業ベースで売れる(利益及び需要者による認知を生む)商品となることが指向されるので、需要者に受け入れられる可能性の低い「機能又は美感とは関係のない特異な」デザインが採用されることは極めて稀である。
 商標法は商標の自他識別機能を保護するものである。立体商標について商標登録を認め、同法による保護を付与すべきか否かを判断する際の考慮要素は、同法4条に規定する立法政策上の考慮を除けば、当該立体商標が自他商品の識別標識としての機能を有するか否かのみとすべきであり、これを超えて「機能又は美感とは関係のない特異」な形状であることを要件とするの、は誤りである。そのような要件についての商標法上の根拠はない。同法3条1項3号が商品の形状を普通に用いられる方法で表示する商標の登録を拒絶するのは、それが商標として自他商品の識別標識機能を有することができないからであって、自他識別機能を「極めて顕著に」果たし得ないからではない。
 上記のとおり、工業デザインにおいては、機能又は美感とはおよそ関係のない「特異」な形状が採用されることは極めて稀であり、経験則からも、機能や美感を向上させる特徴的な形状が採用された場合、その形状の特徴によって、他の商品と識別するという機能を発揮する余地もある。
 このような工業デザインの実状に照らすならば、商品の形状が、およそ機能や美感とは関係のない「特異」なものでなくとも自他識別可能性は十分に認められる。以上のとおり、機能又は美感とはおよそ関係のない「特異」な形状でない限り、同法3条1項3号に該当するとして、立体商標としての登録を認めない審決の判断基準に合理性はない。
(2) 本願商標の形状の特異性
 審決は、本願商標について、「懐中電灯の機能性と美感を兼ねているといえるものであって、懐中電灯の機能又は美感とは全く関係のない特異な形状とはいい難く、いまだ懐中電灯の基本的機能、美感を発揮させるために必要な形状の範囲内であって普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないというのが相当である。」(審決4頁18行〜22行)とし、また、「『携帯用の懐中電灯』において、・・・(中略)・・・本件商品のように小型のタイプや、小型のペンシル型の懐中電灯が相当数製造、販売されている実状が存すること、『胴体部分』が握りやすさのため円筒形を成していること、『溝』、 模様も同様に握りやすさ・光度の調節及び美感を兼ねて施されていること及びテールキャップ部にストラップ取り付け部が施されていることは、『小型の携帯用の懐中電灯』の機能を効果的に発揮させるために採択されたとみるのが相当であって、・・・(中略)・・・『携帯用の懐中電灯』として格別 独創的で奇異なものとはいえないものである。」(審決5頁24行〜35行)と判断する。
 しかし、審決は、@立体商標の登録可能性を、原則として「商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状」に限定して認める前提に立ったものであって、この点において誤りがあり、A本願商標に係る形状が機能を効果的に発揮させるために採用されたものであるから格別独創的でないとする点で誤りがあり、B本願商標が有する特徴に何ら言及しておらず、当該特徴を把握していない点で誤りがある。
ア 本願商標の形状の特異性について
(ア) 原告の製造・販売に係る懐中電灯は「マグライトシリーズ」の称呼の下に世間において親しまれている。本願商標は、「マグライトシリーズ」のうち、「ミニマグライトAA」(以下、「本件商品(1)」という。)と「ミニマグライトAAA」(以下「本件商品(2)」という。また、これらを併せて「本件商品」という。)が共通して有する形状に基づくものである。なお、これらは総称して「ミニマグライト」と呼ばれている。
 本願商標に係る立体形状(以下、これを「本願商標」あるいは「本件形状」という場合がある。)は、次のような特徴を有しており、これらの特徴があいまって、本件形状独自の特徴を作り出し、他社商品との識別性を発揮している。
A ライト頭部は、円筒形のフェイスキャップをその上部に有すること。
B ライト頭部は、上記A記載のフェイスキャップとフェイスキャップ直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体からなること。
C 上記B記載の放物体部分のうち、フェイスキャップと接する位置の周縁には、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様があること。
D ライト胴体部は、円筒形を成し、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差した細かい平行線の帯状の溝模様があること。
E ライト頭部の長さの胴体部の長さに対する比率が約0.41に設定されていること、ライト頭部最大径の胴体部直径に対する割合が約1.4に設定されていること、及び上記比率の設定によりライト頭部から胴体部にかけて、全体としてすらっとしたデザインが構成されていること。
(イ) 本件形状の特異性は、本件形状の特徴を有する懐中電灯が従来存在せず、現在に至るまで存在していないことにより根拠付けられる。
 本件形状の特徴を有する懐中電灯は、本件商品が米国で販売開始される前には、全く懐中電灯市場において存在していなかった。さらに、本件商品の販売以後も、本件形状と同じ特徴を有する懐中電灯は存在していない。審決は、現在のインターネットサイト上で販売又は紹介されている懐中電灯を種々引用しているが、これらのサイトで紹介している懐中電灯を見ても、本件形状と同一の特徴を有する懐中電灯は存在していない。
(ウ) 本件形状の独自の特徴は、以下の2点である。
a ライト頭部のデザインの独自性
 本件形状のライト頭部のデザインにおいて独自性を有する第1の特徴は、本件形状の特徴の構成Bのうち、「フェイスキャップ直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体」を有するという、頭部のカーブにある。また、第2の特徴は、頭部の長さと胴体部の長さにおいて、本件形状は頭部が長く設定されているということである。
b ライト頭部から胴体部につながる、全体としてすらっとしたデザイン 本件形状は、上記のとおり、その頭部の長さが非常に長く設定されることで、ほっそりした印象を与えているが、加えて、頭部最大径(本件商品(1)では2.4センチ)の胴体部直径(本件商品(1)では1.7センチ)に対する割合(本件商品(1)では約1.4)が、小さく設計されており、よりほっそりした印象を与えている。
イ 本願商標の立体的形状の自他商品の識別性
 本願商標の立体的形状に自他商品の識別性及び独自性のあることは、次の各事実からも明らかである。
(ア) デザイン賞の受賞及び有名美術館における永久コレクションとしての保存
 本願商標は、その優れたデザイン性から、有名なニューヨーク近代美術館にパーマネントコレクションとして永久保存されているほか、形状の独自性・独創性を表彰される趣旨で、日本をはじめ、米国、ドイツ、フランス等の諸国において、デザイン賞を受賞している。この事実は、本願商標の形状が優れたデザイン性を有し、それに基づく商品の形状として独自性・独創性を有することを示すものである。
 審決は、「たとえ、本願商標が通商産業省によるグッド・デザイン賞を含め外国のデザイン賞を受賞し、また、外国の著作権法の下で保護される応用美術であることを認める決定を出され、その保護が認められたものであるとしても、『携帯用の懐中電灯』として格別独創的で奇異なものとはいえない」(審決5頁31行〜35行)とする。
 しかし、各賞の判断基準に照らせば、本願商標に係る形状が各賞を受賞した理由が形状の独自性を専門家によって評価されたことにあることは明白であり、それも一つのみならず複数の賞を受賞しているにもかかわらず、審決が、本願商標に係る形状の独自性を認めないのは失当である。また、前述のとおり、「奇異」なデザインでなくとも立体商標としての識別性を有すると解すべきであるから、形状に「奇異」性が必要であるとする審決の判断には誤りがある。
(イ) 本願商標の形状の著作物性
 本願商標の形状に関しては、スウェーデンデザイン協会が、スウェーデン著作権法の下で保護される応用美術であることを認める決定を出しているほか、香港及び英国においても、著作権を基礎としてその保護が認められている。
(ウ) デザインに関する出版物への掲載
 本願商標の形状は、そのデザインの独自性・独創性により、米国及びドイツにおいて出版された、優れたデザイン性を有する商品を収集した出版物に掲載されている。商品デザインに関する出版物において本件商品が紹介されている事実は、本件商品のデザインが独自性を有し、優れたものであると評価されていることを端的に示すものである。
(エ) 専門家の見解
 ハル・ワトソン・ジュニア博士(米国メソジスト大学機械工学助教授、ジェラルド・エル・フォード博士(カリフォルニア州立大学ロン)グビーチ校ビジネススクール名誉教授)等の専門家の意見によれば、本願商標の形状は、従来の懐中電灯のデザインと根本的にかけ離れたものとしているが、本願商標は、このような相違性があるため、他の商品との識別性が認められるというべきである。
(オ) 不正商品の氾濫への対応
 本件商品が1983年末に米国で販売開始された後、1985年ころから、本件商品の形態の模倣品が多く出回るようになった。模倣品は、米国に止まらず、全世界的に広がったが、原告はこれらの模倣に対して厳しく対処し、不正商品の氾濫への対応を通して、本願商標の独自性の維持に努力を重ねてきた。
 なお、このような模倣品は、形態のみを模倣した商品であって、マグライトの文字商標は付されていないが、これは、偽物製造者にとって、本件商品の出所識別性は、その形態にあり、文字商標部分の使用は不要と考えたからにほかならない。
(カ) 外国及び我が国における競業者による認知
 原告が、1985年ころから、世界各国において本件商品の模倣品対策を行っていたことは前述のとおりであるが、外国における模倣者の多くは、和解契約又は念書等により、本件商品の形態に関する権利侵害を認め、模倣品の販売を中止するに至っている。また、我が国においても、原告は、1997年ころから、本件商品の模倣品対策を始めたが、本件商品に類似する商品を販売していた会社等の多くは、周知商品表示である本件商品の形態を模倣した商品であることを念書又は和解文書で認め、その販売中止に応じている。本願商標の形態の顕著性は、模倣品を販売していた競争会社からも認識されている。
(キ) 外国及び我が国の各裁判所による認知
 前述のとおり、本件商品の模倣品が世界的に出回ったため、1985年ころから、原告は、米国をはじめとする30か国以上においてかかる模倣品の販売差止めを求める訴訟を提起するに至り、米国をはじめ、ドイツ、スウェーデン、香港、英国、ベルギー、ノルウェー、カナダ等の世界各国の裁判所において、原告の主張が認められ、本件商品の模倣品である懐中電灯の販売が差し止められた。
 我が国においても、原告は、本件商品の形態と類似する懐中電灯を販売している朝日電器株式会社を被告として、不正競争防止法2条1項1号に基づきその販売の差止め及び損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起したが(同庁平成13年(ワ)第10905号。甲29)、同裁判所は、平成14年12月19日、原告の主張を認め、同被告に対して、不正競争防止法違反を理由に類似商品の輸入・販売の差止め、類似商品の廃棄及び損害賠償の支払を命ずる判決を言い渡した。
 このように、本件商品すなわち本願商標の形態が、商品表示性すなわち自他商品識別機能を有することは、外国及び日本の裁判所においても認められてきた。
(ク) 混同事例
 後述(後記2(2)カ)のとおり、本件商品については、その類似商品との間での混同事例が多数報告されている。このように、消費者において混同が実際に生じた事例が存在するということは、本願商標の形状が本来的に自他商品識別機能を有することを示している。
(ケ) 本願商標の各国における立体商標登録の現状
 本件商品は、現在、アメリカ、ヨーロッパ各国、日本をはじめとするアジア各国等、ほぼ全世界で原告により販売されている。そのため、原告は、本願商標の形状からなる立体商標登録出願を2007年1月現在世界25か国(日本を含む。)で出願しているが、そのうち22か国においては既に商標登録を取得し、その他欧州共同体商標登録も取得している。これら登録済みの22か国のうちには、アメリカ、ドイツ、ノルウェー、スイス等も含まれており、それらの国々においては、本願商標の識別力が認められている。このように、本願商標が、多くの国々において既に立体商標として登録されているという事実は、本願商標が原告の出所を表示し、商標として識別機能を有していることを示している。
(コ) 本件商品の形状の創作者の意図
 原告の創始者であり、本件商品を開発し創作したアンソニー・マグリカは、出所表示機能を有する顕著性のある形態を有する懐中電灯シリーズを創り出すことを、その開発の初めから意図していた。創作者の意図は、その形態をもってその出所を表示する機能を有するような特徴を備えた懐中電灯を創作するということであり、実際にも、上記のフォード教授等が意見を述べているとおり、本件商品の形態は、従来の懐中電灯とは全く異なったものである。
(3) 上記のとおり、本件形状は、それ自体が、商標として独自の出所表示機能・自他商品識別機能を有するものである。審決が「いまだ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない」ことを理由に、本願商標を商標法3条1項3号に該当すると判断した点には誤りがある。
2 商標法3条2項該当性の判断の誤り(取消事由2)
 本願商標が、商標法3条1項3号に該当する場合、以下のとおりの理由により、本願商標は、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるものであるから、同条2項に該当する。
(1) 本件商品についての販売実績及び広告活動
ア 本件商品の販売
 本件商品は、原告により1983年(昭和58年)12月に開発が完成し、米国において販売開始された後、短期間のうちに米国及び世界各国でベストセラー商品となった。
 日本国内においては、本件商品(1)については1986年(昭和61年)に、本件商品(2)については1988年(昭和63年)に、アウトドア用品専門店である株式会社エイアンドエフ(以下「エイアンドエフ」という。)により、本件商品の本格的な輸入販売が開始され、次いで1989年(平成元年)6月には三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)が原告の総代理店として本件商品の販売活動を行うこととなり、同社によって、1993年(平成5年)12月から卸売業者及び一般消費者に対してカタログの頒布が行われている。三井物産は、複数の大手卸売業者を販売代理店として、他の卸売業者、量販店及び小売店舗等に本件商品を販売している。
 三井物産の拡販活動の結果、本件商品を取り扱う販売代理店は、2000年(平成12年)9月の時点で12社にのぼっており、販売額は、本件商品を含むマグライトシリーズ全体の商品では、1995年(平成7年)3月期(前年4月から当年3月までの1年間)には、年商5億円を突破し、2000年(平成12年)3月期には、年商10億8000万円にのぼり、また、本件商品のみでは、2001年(平成13年)3月期には5億800万円に達し、売上本数は55万本に至っている。
 本件商品について、2007年(平成19年)2月における販売小売店舗数は、約2、700店舗に達し、また、近時は、小売店に加えて、インターネット上の楽天、アマゾン等のサイトのほか、多数の通販サイトでも販売されている。
イ 本件商品の宣伝広告等
 本件商品は、多くの雑誌及び新聞において、紹介記事が掲載されているが、これは本件商品の人気・注目度を示すものといえる。
 本件商品の広告は、各種雑誌及び新聞において、繰り返し多数掲載されている。これらの広告においては、常に、本件商品の形状が看者に印象付けられるように、本件商品の全体の形状が表示されている。これらの広告によって、本件商品の形状は、そのデザイン性とあいまって、本件商品の出所を識別するものとして、需要者に強く印象付けられている。
 本件商品は、その著名性により、多くの米国映画、米国テレビドラマにおいて使用されており、その多くが日本でも上映ないし放映されている。
ウ 以上のとおり、原告は、本件商品について、三井物産を総販売代理店として全国約2700にも上る数の拠点をもって本件商品の宣伝・販売活動を行ってきたのみならず、多額の費用をかけて本件商品、特にその形状を印象づけることができるよう、宣伝広告活動を行ってきた。その結果、本願商標が原告の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されることとなった。本件商品の形状が、我が国において周知著名であり、よって、本願商標もまた、本件商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことは、明らかである。
(2) 本件商品の形態の特異性を示す実例2
ア 本件商品の形態の特異性、優秀なデザイン性
 前記1(2)で述べたとおり、本件商品の形態は、@本願商標の形態の特徴を有する懐中電灯が従来存在しなかったこと、Aデザイン賞を受賞したり、有名美術館において永久コレクションとしての保存されていること、Bデザインに関する出版物へ掲載され、専門家によって、その特徴について見解が述べられていること等の事実から明らかなとおり、形態の独自性が強く、従来の懐中電灯とは大きく異なるものである。このような本件商品の形態の特異性、独自性からすれば、本願商標の永年にわたる使用とあいまって、需要者において、「MINI MAGLITE」などの文字標章がなくとも、その形態を見ただけで本件商品の出所を識別し得ることは明らかである。
イ 外国における立体商標の登録例
 前記1(2)イ(ケ)で述べたとおり、本願商標と同様の標章について、世界22か国において商標登録が認められている。このことは、本願商標について自他商品識別性がこれらの国で認められたことを示している。
ウ 本願商標の形状を模倣した模倣商品の存在等
 前記1(2)イ(オ)(カ)で述べたとおり、本願商標の形状を模倣した商品が存在した例があった。それらの模倣品には、何ら文字商標が使用されていないか、又は、原告の文字商標ではなく、模倣者自身を示す文字商標が使用されていた。このことは、侵害者が、文字商標を含まない本願商標の形状をもって、原告の業務に係る商品であることを、需要者・取引者が識別していることを認識していることを示している。すなわち、「ミニマグライト」という文字商標を使用しなくとも、本願商標の形状と類似する形状の商品を販売することをもって、著名な本件商品の人気に乗じて利益を獲得することができると認識されていたことを示している。
エ 不正競争防止法上の保護との関係
 前記1(2)イ(キ)で述べたとおり、大阪地裁平成14年12月19日判決(平成13年(ワ)第10905号)は、本件商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品等表示」に該当することを認定した。同判決によれば、本願商標の形状が自他商品の識別力を備え、商標法3条2項における識別力が存在することを認定したものというべきである。
 不正競争防止法2条1項1号における商品形態の商品表示性は、商品形態がその使用により、二次的に出所表示の機能を備え、特定人の商品たることを示す表示に該当する場合に、これを保護するものであり、商標法3条2項の使用による識別力の獲得のための要件と共通する。したがって、前掲判決の判断は、本願商標の識別力の存否の判断においても妥当する。
オ 需要者における本件商品の認知度等
 2001年(平成13年)12月に340人を対象にして実施されたアンケート調査(甲86)によれば、@本件商品は、認知度が極めて高いこと、A本件商品を購入する理由や本件商品の魅力に、デザインの要素が大きいことという結果が示されている。消費者は、本件商品を認知するについて、「ミニマグライト」という商品名だけではなく、その形状、デザインを本件商品独自のものとして認識し、本件商品の出所を示すものとして認識しているといえる。
カ 混同事例
 本件商品と他の模倣商品との混同事例は、需要者が、本件形状を出所表示として認識していることを示している。三井物産ないしその販売代理店は、本件商品の模倣品についても修理依頼を受ける。このような事例は、消費者において、本願商標の形状の特徴を備えた商品に接するときには、かかる形態的特徴が本件商品を示し、その出所を原告と誤認しているということを示している。本件商品の形態を有する商品については、消費者は、文字商標によらず、その形態のみをもって、出所を識別しているといえる。
キ 類似商品を「(本件商品)風」と称する事例
 需要者が混同するまでには至っていないとしても、本件形状と同一又は極めて類似する特徴を有する商品について、「マグライト風」と称して紹介されている例が存在する。このような事実は、需要者において、本願商標の特徴を本件商品の出所と結び付けて認識していること、すなわち、本願商標の形状が自他商品識別力を獲得していることを示している。
 また、懐中電灯ではないが、本願商標の形状を模したパイプを「ミニマグライト風パイプ」として販売していた事例があった。この事実も、当該販売者において、本件商品の形状が、本件商品を表示するものとして一般に認識されているということ、すなわち自他商品の識別力があることを示すものである。
(3) 審決の判断に対し
 この点について、審決は、@「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の表示が施されていない本件形状のみからなる商品が製造販売され、あるいは頒布されたことが認められる証拠はないこと、A「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の欧文字と登録商標記号(○にR記号)が表示されていないものについて、我が国における同業組合・同業者、第三者機関による証拠の提出もないこと、B本件形状のみからなる商品が、原告に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるようになったものとはにわかに認めがたいこと、を理由として、本願商標は、その立体形状のみの使用により自他商品の識別機能を有するに至ったものともいえないとして、商標法3条2項の該当性を否定する(審決9頁11行〜27行)。
 しかし、審決の判断は、以下のとおり失当である。
 @の点について、一般に企業が自己の商品を販売する場合、自己の文字商標を取得していれば、それを活用して商品に付するのは当然のことであり、自己の文字商標を付さないで商品を販売するなどはあり得ない。こうした通常の取引の実情に鑑みれば、商標登録出願されている立体形状に文字商標も付されて商品が販売されていることを前提とした上で、立体形状自体に自他識別機能が存するかを判断すべきである。
 そして、審決は、本件商品の頭部に「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の表示が施されていることを重視するが、甲1ないし3に掲載されている本件商品の写真からも明らかなように、本件商品に付された文字商標は極めて小さいものであり、一見して文字を認識できる大きさを有しているものではなく、特に目立つよう装飾が施されているものでもない。また、当該文字商標はランプ頭部の周囲を回るように付されており、そのすべての文字を同時に見ることはできない。さらに、本件商品は様々な色彩のものが販売されているが、特にグレーやシルバーの商品は、背景の色とのコントラストから、文字が非常に読みにくく表記されている(検甲7 。この)ように、本件商品は、およそ需要者が頭部に施された文字商標をもって出所を識別しているとは考えられない。
 したがって、本件商品が原告の製造・販売に係る商品であることが需要者に識別されているのは、目立つこともなく、一見して全体を認識することもできない文字商標によるのではなく、本件商品の特徴的な立体形状によるものである。
 以上のとおり、審決の判断には誤りがある。
(4) 小括
 以上のとおり、本件商品が販売開始される以前には、前記(1(2)ア(ア))のA〜Eに記載した特徴を有する形態からなる懐中電灯は全く販売されていなかったこと、前述のとおり、本願商標に係る形状は、独自性・独創性を有し、出所表示機能・自他商品識別機能を果たし得る形状であること、その製造、販売の開始から現在に至るまで、形状に一切の変更を加えられることなく継続して使用されていること、同一形状の下に強力に宣伝広告されて今日に至っていること等の事実経緯に照らすならば、本願商標は、このような永年の使用に基づき、自他商品を識別するものである。
 本件審決は、証拠やこれにより示される事実を十分検討することなく、文字商標が立体的形状と共に使用されていることのみをもって、本願商標の商標3条2項該当性を否定したものであって、その認定判断には誤りがある。
第4 被告の反論
 審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法事由はない。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。
 そして、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは、商品等の機能、又は美感をより発揮させるために施されるものであって、本来的には、自他商品を識別するための標識として採択されるのではない。商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者、需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するに止まり、このような商品の機能又は美感に関わる形状は、多少特異なものであっても、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。
 また、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには、原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。
 そうであれば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はさておき、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。
(2) これを本件についてみれば、その形状は、別紙「商標目録」(特に斜め全体図)のとおり、ライト頭部がやや大きめである点、胴体部分が細長く、手で握って用いる点等、専ら携帯用照明器具の一つである携帯用の懐中電灯の機能をより発揮させるために採択された形状であるといえる。
 そして、本願商標は、その構成部分のライト頭部の円筒形のフェイスキャップ、ライト頭部に直線の溝模様、胴体部分に帯状の溝模様等に特徴を有しているとしても、これらの溝模様は光度の調整のしやすさ、握り易さのために、テールの最後部の1つの穴はストラップ等を取り付けるために、また、ライト頭部から胴体部にかけての全体としてのすらっとした形状は、懐中電灯としての機能性と美感を兼ねた形状であり、懐中電灯の機能又は美感とは全く関係のない特異な形状よりなるものとはいい難く、いまだ懐中電灯の基本的な機能、美感を発揮させるために必要な形状の範囲内であって普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない。
 そうすると、本願商標の形状は、これに接する取引者・需要者にとって、懐中電灯と理解され得るものであり、本願商標は、その指定商品「懐中電灯」に使用された場合、取引者・需要者は、懐中電灯の形状そのものを表示したと認識するにとどまるというべきである。
 また、このような「」の立体形状については、商標法3条1項懐中電灯3号の趣旨に鑑みれば、その使用の機会を当該商品を製造販売する多くの事業者に開放しておくことが適当であって、これを特定人に商標登録を許し独占使用させることは公益上望ましくないというべきである。
 したがって、本願商標を商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
(3) 阪神大震災を契機に、近時「防災用品」が特に注目される傾向にあるところ、さらに、「懐中電灯」は、アウトドアー用品としても着目され、ライト頭部がやや大きく胴体部分が円筒形の従来タイプの懐中電灯に加えて、小型のペンシル型や、全体が細長い筒型のような様々なタイプと機能を備えた懐中電灯が製造、販売されている。このことは、審決の引用する「懐中電灯フラッシュライト」の検索子にてインターネット検索した情報にところによっても、その事実を確認することができる。
 審決時(平成18年8月21日)以前より、本願商標のような「懐中電灯」の立体形状からなるものであって、「ライト頭部がやや大きめで胴体部分が円筒形」、「ライト頭部を含めて全体が円筒形」、「ライト頭部に帯状の溝模様」、「胴体部分に帯状の溝模様」が、懐中電灯の形状としてありふれている(乙1、2、枝番号の表記は省略する。以下同じ)。
 そうすると、本願商標は、明らかにライト頭部がやや大きめで、胴体部分が細長く、携帯用照明器具の一つである携帯用の懐中電灯の形状を表したものといえるから、その指定商品「懐中電灯」の用途・機能からみて予想をし得ない特異な特徴を有し、通常採用し得るこの種商品の形状の範囲を超えていると認識することができないものというべきである。
(4) したがって、本願商標を商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に何ら誤りはない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 商標法3条2項の趣旨は、特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別機能として他人に使用されることなく永年独占排他的に継続使用した実績を有する場合には、当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に、当該商品の取引界において当該特定人の独占使用が事実上容認されている以上、他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから、当該商標の登録を認めようとするものである。
 商標法3条2項の適用に当たり、使用により識別力を有するに至った商標として認められるのは、出願商標が、」使用に係る商標と同一で、あってかつ、使用に係る商品と同一の商品を指定商品とする場合に限られるというべきである。
 出願に係る商標が立体的形状のみからなるものであるのに対し、使用に係る商標が立体的形状と文字、図形又は記号(色彩)との結合により構成され、その立体的形状自体が独立して自他商品の出所表示機能を有しない場合には、両商標の全体的構成が商標的使用といえないから、出願に係る商標については、原則として使用により識別力を有するに至った商標ということができないというべきである。
(2) これを本件についてみるに、原告が、本件商品の形態の自他識別性の獲得として提出した商品カタログ、雑誌等に掲載されている商品には、不鮮明なものを除き、いずれにも「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の欧文字と登録商標記号(○にR記号)が表示されていることから、使用に係る商標は、立体的形状と文字商標より構成されているものであって本願商標と全体的構成において同一ではない(なお、前記のいずれの証拠も、懐中電灯の斜め全体図、側面図しか確認できず、後面がどのような形、デザインを採用しているか確認することができない。)。
 商品の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいは、その美感を追求する等の目的で選択されるものであって、本来的には、商品の出所を表示し自他商品を識別する標識として選択されるものではなく、その識別機能を果たすものとしては文字、図形又は記号等が適しているため、文字、図形又は記号等が自他商品の識別標識として選択、使用されている。雑誌等に「懐中電灯」の図形が掲載されていた場合、それは商品そのものの形状を表示したものにすぎないのであって、当該商品の出所は、「MAG INSTRUMENT」及び「MINI MAGLITE」の文字商標により識別されているというべきであるから、その形状のみが独立して認識され自他商品の識別力を獲得したものとはいえない。
 その他、本件全証拠によるも、本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているものとすることはできない。
 したがって、「本願商標は、その立体形状のみの使用により自他商品の識別機能を有するに至ったものともいえない」(審決9頁28行〜29行)とした審決の認定判断に誤りはない。
(3) 原告の主張に対し
ア 原告は、本件商品について、文字商標とは別に立体形状自体に自他識別機能が存するかのみを判断すれば足りることを前提として、本件において、「MAG INSTRUMENT」若しくは「MINI MAGLITE」の表示が目立つこともなく、これを一時に見ることすらできないとして、文字商標による識別でなく立体形状それ自体に識別力が生じていると主張する。
 しかし、商標法3条2項該当性の判断においては、原則として出願された商標そのものが使用されているか否かを検討すべきであること、需要者は、商品の形状のみならず、そこに付された文字等も見て、自他商品の識別を行うから、出願された商標と文字とが併せて使用されたとみるべきことから、使用に係る商標のうち立体的形状のみを比較すべきである旨の原告の主張は、失当である。仮に、文字商標が目立つこともなく、一時に読むこともできないとしても、商品を手に取った需要者が、文字商標に着目することは容易であるから、文字商標による識別でなく立体形状それ自体の識別によるものである旨の主張も、失当である。
イ 原告は、大阪地裁平成14年12月19日判決において、本件形状について不正競争防止法2条1項1号の商品表示性が認められたことを挙げて、商標法3条2項における識別力も認められるべきであると主張する。
 しかし、商標法と不正競争防止法とでは、制度の目的・趣旨を異にするものであり、たとえ、本件商品の形態につき、原告の商品であることを示す周知商品表示に該当することが認められたとしても、これをもって、商標法における自他商品識別機能の有無の認定判断が左右されるものではない。原告のこの点の主張は失当である。
3 以上のとおり、原告の主張はいずれも失当であって、本願商標につき、商標法3条1項3号に該当し、同法3条2項の要件を具備していないものとした本件審決の認定判断に誤りはなく、これを取り消すべき理由はない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における商品の形状
ア 立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供に供する物自体の形状をも対象とする。
 ところで、商標法は、3条1項3号で「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を、同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」旨を、4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は、同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を、26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては、商標権の効力は及ばない旨を、それぞれ規定している。
 このように、商標法は、商品等の立体形状の登録の適格性について、平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが、同法4条1項18号において、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については、登録を受けられないものとし、同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと、商品等の立体形状のうち、その機能を確保するために不可欠な立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
 そうすると、商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については、商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美観を追求する目的により選択される形状であっても、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば、立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも、以下のイで述べるように、識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。)、また、出願に係る立体商標を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
イ 以上を前提として、まず、立体商標における商品等の形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際だたせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
 そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり、そのような目的のために採用されると認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また、商品等の具体的形状は、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品等について、機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として、同号に該当するものというべきである。
 けだし、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないからである。
(ウ) さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
 けだし、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美観の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有する点を踏まえると、商品等の形状について、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。
(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標は、別紙「商標目録」のとおりの構成よりなるものである。
 これによれば、本願商標に係る形状は、次のような特徴を有している。
A ライト頭部は、円筒形のフェイスキャップをその上部に有すること。
B ライト頭部は、上記A記載のフェイスキャップとフェイスキャップ直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体から成ること。
C 上記B記載の放物体部分のうち、フェイスキャップと接する位置の周縁には、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様があること。
D ライト胴体部は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差した細かい平行線の帯状の溝模様があり、その底部にはテールキャップが嵌め込まれ、テールキャップ底部がほぼ半円形部分につき両側から穿たれて中央残部に1つの穴が設けられていること。
E ライト頭部の長さの胴体部の長さに対する比率がおおむね0.4に設定されていること、ライト頭部最大径の胴体部直径に対する割合がおおむね1.4に設定されていること、及び上記比率の設定によりライト頭部から胴体部にかけて、全体としてすらっとした輪郭が構成されていること。
イ 本願商標の上記形状についていえば、ライト頭部がやや大きめである点は光度の大きさに関連し、放物体部分のフェイスキャップと接する部分の溝模様は光度の調整のしやすさに、胴体部の中央部分における溝模様は握り易さにそれぞれ資するものであり、また、テールキャップ底部に設けられた1つの穴はストラップ等を取り付けるためのものである。そして、ライト頭部から胴体部にかけての全体としてのすらっとした輪郭は美観を与えるために採用されたものということができる。これらによれば、上記の各特徴は、いずれも商品等の機能又は美観に資することを目的とするものというべきであり、需要者において予測可能な範囲の、懐中電灯についての特徴であるといえる。そうすると、本願商標の形状は、いまだ懐中電灯の基本的な機能、美観を発揮させるために必要な形状の範囲内であって、懐中電灯の機能性と美観を兼ね備えたものと評価することができるものの、これを初めて見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する標識と認識し得るものとはいえない。
(3) 以上検討したところによれば、本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における使用による識別力の獲得
 前記のとおり、商標法3条2項は、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法3条1項3号に該当する商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には、商標登録を受けることができることを規定している(商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。
 商品等の立体形状よりなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。もっとも、商品等は、その販売等に当たって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であることに照らせば、使用に係る立体形状に、これらが付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく、使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について、その外観、大きさ、付されていた位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該名称・標章が付されていたとしてもなお、立体形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。
(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
ア そこで、上記の観点から、本願商標が使用により自他商品識別機能を備えるに至っているかどうかを判断する。後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 原告は、米国において、1984年(昭和59年)に本件商品(1)の販売を、1987年(昭和62年)に本件商品(2)の販売を、それぞれ開始した(甲3、4 )。
 我が国においては、本件商品(1)については1986年(昭和61年)に、本件商品(2)については1988年(昭和63年)に、エイアンドエフにより、本件商品の本格的な輸入販売が開始された。エイアンドエフは、通信販売のほか、アウトドア関連用品小売店、大手百貨店、東急ハンズ等の500以上の小売店に対して本件商品の販売を行っていた。また、エイアンドエフは、本件商品を含む原告の販売に係る懐中電灯を掲載したカタログを毎年、現在にいたるまで作成し、同カタログは、アウトドア専門店、スポーツ店、百貨店及び通信販売用に毎年約1万〜1万5000部頒布されている(甲2、32〜35)。
 1989年(平成元年)6月には三井物産が原告の総代理店として本件商品の販売活動を行うこととなり(エイアンドエフも三井物産の代理店となる。)、同社によって、1993年(平成5年)12月からカタログの頒布が開始され、年5000部(近年は、年2000部程度)のカタログが卸売業者及び一般消費者に対して頒布されている(甲1、35)。
 三井物産は、本件商品の販売について、複数の大手卸売業者を販売代理店として指定し、それらの販売代理店を通じて、他の卸売業者、量販店及び小売店舗等に本件商品を販売している。これらの販売代理店のうちには、上記の三井物産発行のカタログとは別に、独自に本件商品を含めた販売商品のカタログを頒布しているものもある(甲35〜38)。
(イ) 三井物産が複数の販売代理店を通じて、拡販路線を採用した結果、本件商品を取り扱う代理店は、2000年(平成12年)9月時において12社にのぼっていた。これに伴って、1992年(平成4年)から1995年(平成7年)にかけて売り上げが拡大し、1995年(平成7年)3月期(前年4月から当該年3月までの1年間。以下同じ)には、本件商品を含むマグライトシリーズ全体の商品の売上高は5億円を上回り、その後、2000年(平成12年)3月期には10億8200万円、2001年(平成13年)3月期には9億5300万円に至っている。このうち、本件商品についていえば、2000年3月期には売上高5億7700万円、本数にして60万7000本、2001年3月期には売上高5億0800万円、本数にして55万1000本となっている。本件商品の2007年(平成19年)2月現在の販売小売店舗数は、約2700店舗であるが、近時は、小売店を通じての販売に加えて、インターネット上の楽天、アマゾン等のサイトのほか、通信販売サイトを通しての販売もされている(甲36、39、112)。
(ウ) 本件商品については、米国をはじめとする海外での販売実績等を反映して、1985年(昭和60年)から、新製品・注目商品の紹介等を内容とする「モノ・マガジン」、「グッズプレス」やアウトドア関連商品の紹介等を内容とする「BE−PAL」などの雑誌や新聞等に頻繁に紹介記事が掲載されるようになった(甲3、39〜57)。
 本件商品の広告は、「モノ・マガジン」、「BE−PAL」、「朝日新聞」などの雑誌、新聞等に、頻繁に掲載されている。三井物産は、本件商品を含むマグライトシリーズ商品に関する雑誌及び新聞の広告費用として、1997年度(前年10月から当該年9月までの1年間以下同じ。)に4177万円、1998年度に4510万円、1999年度に5304万円、2000年度に4425万円、2001年度に5135万円の広告費を支出している。
 また、2003年から2005年に掛けて、夏季又は春季の一定期間、東京都内の主要なJR駅構内及び山手線の電車内に、本件商品を表示したポスターを掲示するなどしている(甲159、161)
(エ) 前記1(2)ア記載のA〜Eの特徴を備えた懐中電灯は、本件商品以前には存在しなかったことから、本件商品は、そのデザイン性が評価され、米国のニューヨーク近代美術館、ドイツのケルン応用美術館、ベルリン国立工芸美術館等の美術館の永久コレクションとして収蔵されている(甲4、9)。また、本件商品を含むマグライトシリーズ懐中電灯が、Busseロングライフデザイン賞1996年において金賞を受賞したほか、本件商品は、我が国において、通商産業省により、平成2年度のグッド・デザイン商品に選定され、需要者の間でも、本件商品の堅牢性、耐久性と並んでデザイン性が関心を集めていた(甲5、7)。
(オ) このように、本件商品のデザイン性が評価されていることから、本件商品の宣伝広告においても、本件商品の堅牢性、耐久性と共にそのデザインの優秀さが強調され、本件商品を含むマグライトシリーズの懐中電灯の形状を中心的に位置づける広告のほか、本件商品(1)の形状のみを表示した広告による宣伝も行われている(甲64、68、69、73〜75、78、126〜134、136〜144、146、148、149、159、161)。
(カ) 本件商品については、当初、海外において、その形状に類似した商品が販売されるようになり、次いで、我が国においても類似商品が販売されるようになった。原告は、これらの類似商品に対して厳しい姿勢で臨み、多くの事例において販売業者に類似商品の販売を中止させている。また、原告は、香港、英国等において、類似商品の販売業者に対して訴訟を提起して販売差止めを命ずる判決を得ているほか、我が国においても、本件商品の類似商品を販売する業者を相手方として、東京地方裁判所(同庁平成12年(ワ)第12553号)及び大阪地裁(同庁平成13年(ワ)第10905号)に不正競争防止法2条1項1号に基づいて販売差止め等を請求する訴訟を提起し、販売の差止め及び損害賠償を内容とする和解(東京地裁)ないし判決(大阪地裁)を得ている。このような原告活動の結果、現在、市場において、前記1(2)ア記載のA〜Eの特徴を備えた懐中電灯は、本件商品のほかには販売されていない(甲17、18、25〜29)。
(キ) 本件商品には、フェイスキャップの周囲に、登録商標記号(○にR記号)が極めて小さく右肩部分に添えられた右を向いた顔のように見える図形(以下「右側頭部様図形」という。)と、これに続けて、同様に登録商標記号が極めて小さく右肩部分に添えられた「MINI MAGLITE」の英文字が、更にこれに続けて、これよりも小さな文字で「MAG INST RUMENT-CALIFORNIA.USA」の英文字が、それぞれ細い刻線により描かれている。これらの文字ないし図形は、商品上部の比較的目立たない位置に、本件商品全体と比べて小さく描かれている。また、上記文字ないし図形は、細線により刻まれていることから、目立たないものであり、特に、シルバー、グレー色の商品においては、間近で注視しない限り、これらの文字・図形の記載に気づくのは困難であるといえる。また、キャップを一周する態様で記載されていることから、一見して、その記載内容を解読することは難しい(甲1、検甲1、7)。
(ク) 上記(キ)で述べた文字ないし図形について検討する。
 まず「右側頭部様図形」については、格別の観念、称呼を生ずるも、のとはいえず、商品等表示ないし商標であるか否か、また、いかなる商品の種類を示すものかすら不明である。同図形標章は、本件商品の掲載した広告に、常に表示されているにもかかわらず、一般に、原告ないし本件商品に関連する商標であることが認識されていないと解される。被告は、本訴において「商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識、としては、文字、図形又は記号こそが適している。」あるいは「本件において、自他商品を識別する機能を有する部分は、商品の立体形状でなく、商標部分である。」旨を主張しているにもかかわらず、審決の判断及び被告の主張において、上記「右側頭部様図形」について何らの言及もない。上記の経緯に照らすと、本件商品においては、本件商品の出所機能ないし自他商品の識別機能を有している部分は、同標章等ではなく、商品の形状にあることを示していると解される。
 また、「MAG INSTRUMENT」の英文字は、原告の名称であるが、我が国における本件商品の広告宣伝においては、全く表記されておらず、そもそも本件商品との関連性自体すら一般に全く知られていないものであり、本件商品上の表示においては、これに続いて「CALIFORNIA.USA」の記載があることから、辛うじて会社の名称であることが推認されるものの、「MAG INSTRUMENT」自体においては、その意味する内容もあいまって、これが会社の名称であると直ちに理解することが困難である。また、原告は、本件商品を含めたマグライトシリーズの懐中電灯を製造販売を専業とする会社であり、他の品目の商品や役務を行っていないことから、本件商品を離れて会社自体としての知名度は全く有していない(甲号各証)。
イ 以上認定した事実を総合すれば、次の点を指摘することができる。
(ア) 本件商品は、本願商標と同一の形状を有し、その指定商品に属するものであるところ、原告により1984年(昭和59年)に米国において発売されて以来、形状を変更せず、一貫して同一の形状を備えていること。
(イ) 我が国においては、本件商品は、1986年(昭和61年)に本格的な輸入販売が開始された後、三井物産を総代理店として販売が拡大され、2000年3月期には売上高5億7700万円、本数にして60万7000本、2001年3月期には売上高5億0800万円、本数にして55万1000本に達し、2007年(平成19年)2月現在における販売小売店舗数は約2700店舗に及んでいること。
(ウ) 本件商品は、1985年(昭和60年)から雑誌記事において頻繁に掲載されるようになり、新聞雑誌等を中心に多額の広告費用を掛けて多数の広告が掲載されていること。
(エ) 本件商品は、その形状が、従来の懐中電灯に見られないものとして、デザイン性を高く評価され、我が国やドイツなどにおいてデザイン賞を受賞しているとともに、米国及びドイツの美術館の永久コレクションとして保存されているものであり、需要者の間でも、その堅牢性、耐久性と並んでデザイン性が関心を集めていること。
(オ) 本件商品の広告宣伝においても、堅牢性、耐久性と共にデザイン性が強調されており、本件商品の写真のみを掲げた広告など、本件商品の形状を需要者に印象づける広告宣伝が行われていること。
(カ) 原告は、我が国の内外において、本件商品に類似した形状の他社の懐中電灯に対して販売の差止めを求める法的措置を採っており、その結果、本件商品と類似する形状の商品は市場において販売されていないこと。
(キ) 本件商品には、フェイスキャップの周囲に、登録商標記号(○にR記号)が極めて小さく右肩部分に添えられた右側頭部様図形、同様に登録商標記号が極めて小さく右肩部分に添えられた「MINI MAGLITE」の英文字及びそれよりも小さな「(原告の名称)のMAG INSTRUMENT」英文字が記載されているが、これらの記載がされている部分は、本件商品全体から見ると小さな部分であり、また、文字自体も細線により刻まれているものであって、目立つものではないこと。
(ク) 原告の主力商品は本件商品を中心とするマグライトシリーズの懐中電灯であり、また、原告の名称である「MAG INSTRUMENT」は当該懐中電灯との関連を示すだけの内容であって、当該名称自体に独立した周知著名性は認められないこと。
ウ 上記に挙げた点に照らせば、本件商品については、昭和59年(国内では昭和61年)に発売が開始されて以来、一貫して同一の形状を維持しており、長期間にわたって、そのデザインの優秀性を強調する大規模な広告宣伝を行い、多数の商品が販売された結果、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと認めるのが相当である。本件商品に「MINI MAGLITE」及び「MAG INSTRUMENT」の英文字が付されていることは、本件商品に当該英文字の付されている前記認定の態様に照らせば、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。
 また、被告の提出に係る乙号各証には、ライト頭部がやや大きめで胴体部分が円筒形の形状を有する他社の懐中電灯が複数掲載されているものの、前記1(2)ア記載のA〜Eの特徴をすべて備えた懐中電灯は存在しない。
 そうすると、本願商標については、使用により自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。
(3) 以上検討したところによれば、本願商標は、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであるから、本願商標を同項に該当しないと判断して商標登録を受けることができないとした審決の判断には誤りがある。
3 結論
 以上によれば、審決の判断には誤りがあり、この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから、審決は違法なものとして取消しを免れない。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 三村量一
 裁判官 上田洋幸
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