判例全文 line
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【事件名】マンションの大容量テレビ番組録画装置事件(2)
【年月日】平成19年6月14日
 大阪高裁 平成17年(ネ)第3258号 著作権侵害差止等請求控訴事件、
 平成18年(ネ)第568号 同附帯控訴事件、
 平成18年(ネ)第362号 反訴請求事件
 (原審・大阪地裁平成17年(ワ)第488号)
 (平成19年2月15日 口頭弁論終結)

判決
控訴人・当審反訴原告・附帯被控訴人(1審被告) 株式会社クロムサイズ(以下「控訴人」という。)
代表者代表取締役 A
同 B
訴訟代理人弁護士 岡邦俊
同 小畑明彦
同 小倉秀夫
同 瀧谷耕二
被控訴人・当審反訴被告・附帯控訴人(1審原告) 株式会社毎日放送(以下「被控訴人毎日放送」という。)
代表者代表取締役 C
訴訟代理人弁護士 平野惠稔
同 若林元伸
同 佐藤俊
被控訴人・当審反訴被告・附帯控訴人(1審原告) 朝日放送株式会社(以下「被控訴人朝日放送」という。)
代表者代表取締役 D
訴訟代理人弁護士 泉薫
同 今井佐和子
被控訴人・当審反訴被告・附帯控訴人(1審原告) 関西テレビ放送株式会社(以下「被控訴人関西テレビ」という。)
代表者代表取締役 E
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 井上周一
同 金尾基樹
被控訴人・当審反訴被告・附帯控訴人(1審原告) 讀賣テレビ放送株式会社(以下「被控訴人讀賣テレビ」という。)
代表者代表取締役 F
訴訟代理人弁護士 山本矩夫
同 岩井泉
同 阪口祐康
同 西山宏昭
同 中澤構
訴訟復代理人弁護士 白木裕一
被控訴人・当審反訴被告・附帯控訴人(1審原告) テレビ大阪株式会社(以下「被控訴人テレビ大阪」という。)
代表者代表取締役 G
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 雨宮沙耶花
訴訟復代理人弁護士 井口敦


主文
1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビとの間では、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに、被控訴人テレビ大阪との間では、大阪府内の集合住宅向けに、本判決別紙商品目録記載の商品を販売して同集合住宅の入居者にその使用による放送番組の録音・録画をさせてはならない。
(2) 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人の当審反訴請求(予備的請求とも)をいずれも却下する。
3 訴訟費用は、1、2審及び本訴、反訴を通じ、これを2分し、その1を被控訴人らの、その余を控訴人の負担とする。
4 上記主文第1項(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 本件控訴(控訴人)
(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 本案前の申立て
 被控訴人らの請求をいずれも却下する。
(3) 本案の申立て
 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人らの連帯負担とする。
2 本件附帯控訴(被控訴人ら)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、原判決別紙物件目録記載の商品を使用し、又は集合住宅の所有者をして上記商品を集合住宅の入居者に使用させてはならない。
(3) 控訴人は、(2)項記載の商品を集合住宅向けに販売してはならない。
(4) 控訴人は、(2)項記載の商品を廃棄せよ。
(5) 訴訟費用は、1、2審とも控訴人の負担とする。
(6) 仮執行宣言
3 当審反訴請求(控訴人)
(1) 主位的請求
 被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビが、控訴人に対し、控訴人が滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録1記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の各放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないこと、並びに、被控訴人テレビ大阪が、控訴人に対し、控訴人が大阪府内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録1記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
(2) 予備的請求
ア 被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビが、控訴人に対し、控訴人が滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録2記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の各放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないこと、並びに、被控訴人テレビ大阪が、控訴人に対し、控訴人が大阪府内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録2記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
イ 被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビが、控訴人に対し、控訴人が滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録3記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の各放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないこと、並びに、被控訴人テレビ大阪が、控訴人に対し、控訴人が大阪府内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録3記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
ウ 被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビが、控訴人に対し、控訴人が滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録4記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の各放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないこと、並びに、被控訴人テレビ大阪が、控訴人に対し、控訴人が大阪府内の集合住宅向けに本判決別紙物件目録4記載の機器を販売することについて、本判決別紙放送目録記載の放送に関して享有する著作隣接権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
4 当審反訴請求に対する答弁(被控訴人ら)
(1) 本案前の答弁
 控訴人の請求を却下する。
(2) 本案の答弁
 控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、大阪市に所在するテレビ放送事業者である被控訴人らが、控訴人が販売する原判決別紙物件目録記載の商品(以下「控訴人商品」というが、「選撮見録」ということもある。)が、被控訴人らがテレビ番組の著作者として有する著作権(複製権、公衆送信権、送信可能化権)及び被控訴人らが放送事業者として有する著作隣接権(複製権、送信可能化権)の侵害に専ら用いられるものであり、その販売等により上記各権利を侵害され、又は侵害されるおそれがあると主張して、控訴人に対し、著作権法(以下「法」という。)112条1項、2項に基づき、控訴人に対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事案である。
 原審は、控訴人に対し、被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ、同讀賣テレビとの間では、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに、被控訴人テレビ大阪との間では、大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ控訴人商品を販売してはならない旨命じ、その余の被控訴人らの請求を棄却したところ、控訴人が上記販売差止め命令の取消しを求めて控訴を提起し、これに対し被控訴人らも附帯控訴した。
 さらに、控訴人は、当審において、被控訴人らに対し、前記第1の3のとおり反訴を提起した。
2 前提となる事実(いずれも争いがない。)
(1) 被控訴人らは、いずれも、大阪市に本社を置く一般放送事業者である株式会社であり、地上波テレビ放送事業を行っている。
 控訴人は、システムコンサルティング事業、ソフトウェア開発事業、ハードウェア設計開発事業、システムエンジニア派遣事業等を行う株式会社である。
(2) 控訴人は、集合住宅向けに、「選撮見録」という商品名で、テレビ放送を対象としたハードディスクビデオレコーダーシステムの販売の申し出を行っている。
3 争点
(1) (本案前の主張〕本件請求は特定を欠くものとして不適法なものであるか
(2) 控訴人商品の構成
(3) 著作権に基づく請求
(4) 複製権侵害について−控訴人商品の使用時において、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組ないし放送に係る音及び影像を複製することは、法30条1項(102条1項により準用される場合も含む。)により適法化されるか(「私的使用のための複製」の抗弁・「公衆用自動複製機器」の再抗弁)
(5) 控訴人商品の使用によって、控訴人商品のサーバーのハードディスクに録音・録画(以下、単に「録画」という。)された放送番組は、公衆送信(法2条1項7号の2、23条)されるといえるか
(6) 控訴人商品の使用時において、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送番組を送信可能化(法23条、99条の2)するといえるか
(7) 控訴人は侵害行為の主体であるか
(8) 差止め請求
(9) 当審反訴請求
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本案前の主張)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(1)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
ア 法112条1項は、具体的な支分権を侵害する行為に対する差止請求権を定めた規定であり、差止めを求められる者が上記具体的な支分権に該当する態様の行為を行なっていることが適用の前提となるところ、被控訴人らの請求においては、控訴人の行為(控訴人商品を集合住宅向けに販売する行為)と具体的な支分権(複製権、公衆送信・送信可能化権)に該当する態様の行為との関連性が不明で、差止対象行為が著作権等の侵害行為として特定されていない。
イ 商品名や種類のみによって差止対象物件を特定することができるのは、特定の種類の商品における標章の使用が権利侵害となる商標権侵害訴訟や不正競争訴訟に限られる。本件は、著作権等侵害行為の差止訴訟であり、差止対象物件の構造・機能によって権利侵害の成否が左右されるから、商品名や種類を記載することのみによっては差止対象物件が特定されているとはいえず、少なくとも構造及び機能の主要部分でもって特定される必要がある。
ウ なお、控訴人は、特定に係る主張を本案前の主張としてのみならず、本案に関するものとしても主張するものである。
〔被控訴人らの主張〕
ア 従前の控訴人の言動からすると、差止めの対象を控訴人が現実に販売を申し出た商品の構造及び機能で特定すれば、控訴人は、基本的なコンセプトを共通にしながら構造及び機能を既存の商品と微妙に変えた商品を同一名称で販売するであろうことは明白であり、本件訴訟による差止めの実効性を無にする結果となる。
イ 控訴人において将来製造する機器についても「選撮見録」との名称を用いる場合は、仕様変更毎に品番を付すとか、同名であっても別製品であるとして別訴で争う等の方法によって対処すれば足りる問題にすぎない。
(2) 争点(2)(控訴人商品の構成)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(2)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
ア 当事者双方は、控訴人商品に係る「設置者」なる概念について主張したこともなければ、まして設置者が管理組合等であるなどと主張したことはないし、そのようなことを示す証拠もない。そもそも、区分所有建物においては、管理組合ないし管理組合法人の設置は必要的ではなく、存在しないこともあり得る(建物の区分所有等に関する法律〔以下「区分所有法」という。〕3条)。
イ 「選撮見録」は、採算性の問題を措けば、技術的には1サーバー当たりのビューワー数を10個程度とすることは可能であって、50個というのは全商品に共通する数値ではない。また、最大5局分の番組を同時に1週間分録画することができるという点も、「選撮見録」という名称の全商品に不可欠の構成ではなく、一構成例にすぎない。
ウ 控訴人商品には「個別予約モード」と「全局予約モード」があるにもかかわらず、「全局予約モード」の機能のみから、商品の全てを被控訴人らの著作権等の侵害のみを目的とする機器であるかのごとく主張するのは不当である。
〔被控訴人らの主張〕
ア 「設置者」につき、被控訴人らは、「サーバーを共有している居住世帯」、「集合住宅の管理組合等」、「集合住宅の所有者」等の語を用いて主張している。
イ 控訴人商品は、サーバー1台あたり50戸程度を単位として設置されることが予定されているのであるから、これを上限の戸数として考慮することは当然許されるところである。
ウ 現実には、全局予約機能が付されていない控訴人商品が販売された事実はない。ただし、「全局予約モード」の場合にのみ著作権等の侵害性が肯定されるわけではない。
(3) 争点(3)(著作権に基づく請求)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(3)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔被控訴人らの主張〕
 被控訴人らが行う放送の中には、他社制作のものだけではなく、日々何度も放送される準キー局として制作するローカルニュースやバラエティ番組のように被控訴人らが職務著作(法15条1項)として著作権を有する複数の自社制作番組も含まれており、これらの番組は、系列局への放送許諾や番組販売によってほぼ全国にわたって放送されている。このことは、原審で提出した甲2、12ないし14(いずれも枝番を含む。特記しない限り、以下同じ。)に加えて、当審提出の甲A1ないし10、B1ないし9、C1ないし10、D1ないし49、E1ないし11によっても明らかである。
 なお、物権的請求権の行使において、差止めは、保存的行為として共有者の一部が単独で行えることからして、控訴人商品の販売等の差止を求めるに当たって、控訴人商品が侵害する全ての著作権者が訴訟当事者となる必要はない。
〔控訴人の主張〕
 法117条においては、共同著作物である場合その他著作権が共有の場合について、各共有著作権者が単独で法112条の差止請求権を行使できる旨規定しているから、被控訴人らと第三者とが当該番組の著作権を共有している場合でなければ、番組著作権が侵害されたことを理由とする差止請求権を被控訴人らが単独で行使することはできない。
(4) 争点(4)(複製権侵害)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(8)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
ア 私的使用のための複製の抗弁について
 控訴人商品においては、各入居者による録画(複製)行為は、専らそれぞれの家庭内において視聴(使用)することを目的とし、視聴する者が録画しており、控訴人商品に録画された番組を視聴する行為も家庭内における使用として目的外使用(法102条4項1号)にも該当しない。したがって、控訴人商品が著作権者等の複製権を侵害することはない。
 被控訴人らは、控訴人商品では、最初に使用者が録画予約をし、その後別の使用者が同じテレビ番組を録画予約した場合、専ら最初の使用者の録画予約によって録画(複製)が行われ、その後の使用者の録画予約は録画(複製)に関して意味がなく、最初の使用者の録画予約によって録画(複製)された録画(複製)物の視聴(再生)予約にすぎないこととなるから、最初の使用者の行為は目的外使用(法49条1項1号)に該当し、後の使用者の行為は法30条1項柱書の「使用する者が複製する」という要件を欠くと主張するが、かかる主張を前提すると、後の使用者の行為は「複製」ではなく単なる視聴(再生)予約に過ぎないことになるため、そもそも法上問題となり得ず、最初の使用者の行為も「公衆に提示した」場合には当たらないから、目的外使用には該当しないことになる。
 また、上記主張は、控訴人商品の録画予約とそれに基づく録画の仕組みに関する誤った理解を前提としており、失当である。すなわち、控訴人商品においては、使用者が録画予約を行うと、サーバーに番組単位で録画実行ファイルが生成され、そのファイルに当該使用者が録画予約したことが記録され、当該番組開始時に、当該ファイルにおける録画予約の記録に基づいて録画が指示されるところ、複数の使用者が同一番組を録画予約した場合、専ら最初に録画予約した使用者の予約で録画が行われるわけではなく、2番目以降に録画予約した他の使用者の録画予約も独立した録画指示としての意味を有している(乙38)からである。
イ 公衆用自動複製機器による複製の再抗弁について
 集合住宅の入居者が控訴人商品を用いてテレビ番組を録画する目的はタイムシフト視聴の目的であり、これは法30条1項柱書にいう私的使用目的にあたるから、入居者による録画行為が法30条1項により適法となるか否かは、当該集合住宅に設置された控訴人商品が公衆用自動複製機器に該当するか否かにかかるところ、原判決は、控訴人商品は、複製の機能が自動化されている機器であり、その使用者数は公衆に当たるということができる程度に多数であるから、控訴人商品の使用時における、放送に係る音及び影像の複製については、公衆用自動複製機器の使用に該当すると判示した。
 しかし、本件訴訟は差止請求訴訟であり、裁判所が請求を認容する場合には、控訴人商品1サーバーあたりの使用者数が裁判所の限界とする一定の人数を超え、1サーバーあたりの使用者数が「公衆」にも当たるということができる程度に多数である場合に限られるはずであり、そのことは判決主文に反映されるべきであるのに、原判決主文は多数でない場合についても控訴人商品を販売することを禁止しており、差止めによる控訴人の不利益は、適法な商品の販売利益を失うことにまで拡張されているが、かかる解釈は妥当でなく、原判決が複製の主体を「設置者」と認定し、私的使用のための複製の抗弁を排斥したこと、及び傍論としてではあるが公衆用自動複製機器による複製の再抗弁を認めたことは、いずれも誤りである。
 また、控訴人商品の1サーバーあたりのビューワーの数は50個以下に限定されているので、控訴人商品は、特定かつ少数の者に使用されるにすぎず、いずれにせよ、控訴人商品は公衆用自動複製機器に該当しない。
〔被控訴人らの主張〕
ア 私的使用のための複製の抗弁について
(ア) 控訴人商品は、入居者の誰かが「全局予約モード」を設定すれば、24時間各局の番組を録画し続けるものであり、入居者はどの番組を再生視聴するかを選択するのみで、録画(複製)への関与は皆無に等しい。これに対してコピー機の場合には、使用者が自ら複製すべき著作物を選定し、自ら複製機器を操作して、複製の範囲、部数等を決定するものであり、複製の主体は使用者であることが明らかであり、控訴人商品と同視できない。
(イ) そもそも、控訴人商品による放送番組の利用は、私的使用目的を欠く点で、法30条1項が適用されない。
 法30条1項により私的使用について著作権が制限されるのは、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用」は、通常ごく零細な使用であり、著作物の通常の利用と衝突せず、著作権者の経済的利益を害するおそれがないからである。このような趣旨から、同条項により著作権が制限される範囲は、限定的に解されるべきである。
 かかる観点から、「家庭内」とは同一家計で同居している人間関係が予定され、「その他これに準ずる限られた範囲内」とは、メンバー相互に強い個人的結合関係があることが必要とされる。
 本件においては、控訴人商品での複製は、「その他これに準ずる限られた範囲内での使用」が目的とされていないので、私的使用目的を欠く。また、控訴人商品による複製は、居住世帯の共同行為又は集合住宅の管理組合等の行為と理解できるところ、通常、集合住宅の入居者相互間には強い個人的結合関係はなく、その直接占有者は常に変動しているのであって「その他これに準ずる限られた範囲内」には該当しない。なお、控訴人商品は、もともと入居者未定の段階で集合住宅に設置され、その性質上、将来の入居者という不特定者が構成する管理組合等による複製が予定されているのであって、そこに個人的結合関係が存在する余地はない。
 したがって、同じサーバーにビューワーを接続する入居者の共同行為による複製は、「その他これに準ずる限られた範囲内での使用」を目的としたものとはいえない。
(ウ) 控訴人商品を使用すると、必然的に複数の者が同一の番組の録画予約をすることになり、その結果、最初に録画予約した者以外の使用者は、必然的に他人(設置者)が複製した番組を利用することになるし、最初に録画予約をした者は、自己の録画予約によって録画物を設置者に作成させているが、その録画物を第三者にも利用(再生)させることになるから、必然的に私的使用のための複製の抗弁の客観的要件を欠くことになるものであって、控訴人商品はその構造上必然的に違法複製を発生させる侵害専用品である。すなわち、控訴人商品においては、最初に使用者(入居者)が録画予約をし、その後別の使用者が同じテレビ番組を録画予約した場合、専ら最初の使用者の録画予約によって録画(複製)は行われ、後の使用者の録画予約は録画(複製)に関して意味がなく、最初の録画予約によって録画(複製)された録画(複製)物の視聴(再生)予約に過ぎないこととなり、最初の使用者の行為は目的外使用(法49条1項1号)に該当し、後の使用者の行為は「使用する者が複製する」という要件を欠き、違法となる。
イ 公衆用自動複製機器による複製の再抗弁について
 控訴人商品の設置された集合住宅の入居者は、テレビ番組の録画行為を行っておらず、他人(設置者)が録画したものの利用行為のみである。
 控訴人商品による録画態様は、控訴人商品を使用する入居者の1人がビューワーを通じた録画指示(配信予約)を行うことにより、サーバーが指定された番組(全局録画の場合は全局の全番組)を録画する。そして、1人が録画指示を行った後の、他の居住世帯による録画予約は、サーバーによる録画に何ら影響を与えないため、客観的には録画の予約ではなく、単なる視聴(配信)予約に過ぎない。
 上記過程を経て、サーバーに蓄積された複製物は、最初に録画指示を行った者のみならず、配信予約を行った者全てについて視聴が予定されている。すなわち、控訴人商品においては、最初に配信予約を行った者の指示のみが録画の指示をしたといい得るが、視聴が予定されているのはその者を含む視聴予約をした複数者であり、視聴予約を行った入居者が、サーバー内の録画物を視聴する場合、複製行為はその者と何ら人的関係のない第三者により行われており、その複製物の使用(視聴)は、複製者の一部を構成するにすぎない者が行なっている。
 このような複製及び視聴状況から、控訴人商品による複製行為が「その使用する者が複製する」との要件を満たさないことは明白である。
 法30条1項1号の趣旨が仮に「店頭に設置された公衆用自動機器」を用いて複製物が「大量に増製され、公衆に頒布される場合」に限定するものであったのであれば、条文上もそのような限定が付されたはずであるが、そのような限定は何ら付されていない。そして、控訴人商品は、集合住宅の入居者という不特定又は多数の者、すなわち「公衆」の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器としてまさしく上記条項の要件を充足する。そして、ビューワーの数が50個以下に限定されていても「公衆用自動複製機器」に該当する。
(5) 争点(5)、(6)(控訴人商品の公衆送信・送信可能化性)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(4)、(5)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
 控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することが「送信可能化」(法2条1項9号の2)に該当するためには、当該録画に係る情報が「公衆送信」(同項7号の2)されるものであることが前提となるが、次のとおり、控訴人商品においてはその前提を欠く。
ア 控訴人商品におけるサーバーからビューワーへのデータの伝達は、使用者の再生指示に基づく製品の内部的なデータのやり取りにすぎないから、そのような伝達は、そもそも法上の「送信」に該当しない。
イ 控訴人商品が設置される集合住宅の共用部分は入居者の共有に属し、各入居者は共用部分を「占有」しているから、当該共用部分に設置されたサーバーから各入居者宅のビューワーへの情報の伝達は「同一の者の占有に属する区域内」での伝達にすぎず、「公衆送信」に該当しない。
ウ 法上の「公衆」に含まれる「特定かつ多数の者」(2条5項)の「多数」が何人以上をいうのかは不確定であり、条文の趣旨やケースに即して決められるべきところ、一般論としては、公衆性の判断において、対象が特定者の場合、公衆に該当する多数とは50人超などとされていること、放送の視聴は本来自由であり、各世帯でのタイムシフト視聴も家庭内で行われる限りその人数にかかわりなく適法であることを考慮すると、控訴人商品のビューワー数(ビューワーが設置された世帯数)が50以下の場合は、放送事業者等に不利益を被らせる程度に多数ではなく「公衆」に該当しないと解すべきである(ちなみに、文化庁長官官房著作権課長は、少なくとも30戸を対象とする送信は「特定少数」になって権利者の権利が及ばないと著作権法解釈されることになるという考えを示している・乙34)。
エ 控訴人商品の使用者は、あくまでも自らが放送番組を録画して自らが再生することを目的としているにすぎず、「公衆によって直接受信されることを目的」としていない。
〔被控訴人らの主張〕
ア 控訴人は、控訴人商品におけるサーバーと各住戸のビューワーが、「同一の者の占有に属する区域内」にあるとして、公衆送信に該当しないと主張するが、集合住宅の共用スペースに設置されたサーバーについて入居者の占有を認めるとしても、入居者全員の共同占有である以上、かかる共同占有スペースと、各入居者が単独で占有するビューワーの設置場所とは、「同一の者の占有に属する区域内」とはいえない。
イ 控訴人は、各入居者による控訴人商品を使用しての録画は「公衆によって直接受信されることを目的」としない旨主張するが、控訴人商品においては、入居者が録画指示をした場合、ほぼ必然的に他の不特定又は多数の入居者によっても受信され得ることを意味するから、「公衆によって直接受信されることを目的」としている。
ウ 法は、「同一の建物でも、その内部が区分され、占有者を異にする区域が複数存在する場合」(その典型的な例が集合住宅である。)には「公衆送信」がされ得ることを前提とした定義規定を置いているから、公衆送信の定義に関して「公衆」を解釈する場合には、これを前提として「多数」の概念を決すべきであり、集合住宅の場合は、原則として多数の戸数を含むものと解すべきである。
(6) 争点(7)(控訴人の侵害主体性)について
 以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(6)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
ア 集合住宅が区分所有に係る場合、控訴人商品においては、サーバーに接続したビューワーが設置された居室の所有者たちが当該サーバーを共有することが基本となっており、管理組合や管理組合法人が設立された場合でも、これらが所有者となるわけではない。控訴人商品に関して、被控訴人らを含む放送事業者が放送するテレビ番組を録画・再生することによって利益を得るのは、当該録画行為を行った入居者自身である。また、サーバーについてどのチャンネルに周波数を合わせるのか等についても、サーバーの共有者たちで協議の上定めることが予定されているものである。
イ 複製機器を管理、支配することと、当該複製機器を用いた複製行為を管理・支配することは、混同されてはならない。仮に管理組合等が控訴人商品を管理しているとみられるような事実があったとしても、入居者による控訴人商品を使用しての複製(録画)行為を管理組合が管理・支配しているわけではない。少なくとも、管理組合等は、入居者による複製行為によって利益を図る意図をもって入居者に複製行為を行わせているものではないのである。
 仮に複製機器を管理・支配している者が複製の主体であるとすれば、法30条1項1号の場合、複製の主体は、公衆用自動複製機器の設置者であって、当該機器を操作して複製を物理的に行う者ではないということになるが、同号や法119条1項1号は、現実の複製行為を行った者を複製主体とすることを前提としているし、同項2号も、当該機器類の所有者又は管理者がそのような複製の主体ではないことを当然の前提とするものである。
ウ 被控訴人らの主張は、複数人が共同して保有する複製機器をそのうちの一人が用いて私的使用目的で複製した場合、複製主体を当該複製機器の共同保有者とすることによって私的使用目的の抗弁を封じようとずるもので、換言すれば、私的使用目的の抗弁の適用範囲を自己が単独で保有する機器を用いて複製を行った場合に限定しようとするものである。しかし、法30条1項柱書は私的使用目的の複製に用いる複製機器の保有関係については何ら規定していないから、上記のような限定は、法解釈としての限界を超えている。テレビ番組を録画するための機器類を、集合住宅の各入居者が単独保有していようと、数十世帯で1台を共有していようと、被控訴人らの収益が変化するわけではない。
エ 集合住宅の広告等において「全局予約モード」を選択した場合を前提として利点が述べられていたからといって、必ずしも、使用者が「全局予約モード」を選択して使用するとは限らない。なぜなら、「全局予約モード」を選択した場合は、特定のテレビ番組を再生視聴しようとする場合に操作が煩雑になるなどの短所もあり、他方、「個別予約モード」は、従前より慣れ親しんできた録画予約のスタイルに適合するなどの長所もあるからである。
オ 控訴人商品の機能の実体は「タイムシフト」に過ぎず、タイムシフトの目的で放送を複製することは被控訴人らに何ら損害を与えない。放送法1条も、放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障することを最重要の原則として掲げており、タイムシフトは、放送視聴の機会を最大限に拡張するための手段の一つである。放送事業者は、新聞社、出版社、レコード会社などの有体物としての情報商品の製作・販売業者とは異なり、情報商品の購入者数などに比例して直接の経済的利益を上げる業種ではないから、タイムシフトによって使用料相当額の損害が発生することはない。また、既に、1週間分の全局録画ができるのみならず、対応可能なチャンネル数においても控訴人商品を上回るテレビチューナー付きパソコンが市販されている。
 そして、控訴人商品は、その性能、機能、設置場所などから、店頭に設置された公衆用自動複製機器とは全く異なった類型に属する機器であり、複製物も1個であって増製されることはなく、他に伝播する可能性も皆無であるから、違法複製物が公衆に頒布される場合と同様の損害を正規商品の市場に及ぼすこともない。
 被控訴人らは、差止請求において損害の発生は要件とされていないと主張するが、著作権等に基づく差止請求権は、著作物の創作(情報の流通)に一定の寄与をした者に対して、当該著作物(情報)から収益を受ける機会を法的に創設することにより、著作物の創作(情報の流通)を促進し、もって文化の発展に寄与することを目的として定められたものであり、著作権者等が当該著作物(情報)から受ける収益を有意に減少させるおそれのない行為についてまでこれを禁止するのは、法の趣旨・目的を逸脱する。
カ(ア) 「カラオケ法理」の発端とされるクラブ・キャッツアイ事件最高裁判決は、カラオケをめぐる極めて複雑かつ特殊な事情を前提とした事例判決であり、これを一般化された法理として援用することは許されない。特に、物理的な利用行為が適法であるにもかかわらず、当該利用行為に関与する者を行為主体とすることによって関与行為について著作権等の侵害を肯定することは、立法によらず権利範囲を拡張するに等しく、少なくともそれを正当化するだけの実質的な根拠が必要なはずであるが、本件においては前記のとおり控訴人商品の使用によって被控訴人らに損害が生じないことから、かかる根拠はない。
(イ) カラオケ法理を前提としても、各入居者の行為に何ら関与しない管理組合等や、控訴人商品を販売したに過ぎない控訴人を、複製、公衆送信及び送信可能化の主体と評価することはできない。
 被控訴人らは、複数の集合住宅につき、控訴人が控訴人商品を販売した後も録画代行サービスの一種と評価し得るだけの濃密な管理支配行為を行っていると主張するが、控訴人商品は、購入者による自動運用が可能な商品であって、控訴人は通常の電気機器と同様の保守を行っているにすぎない。控訴人が、控訴人商品を導入する予定のデベロッパー等に対して設置条件等の説明をしたのも、法令遵守上の問題点に照らして試行錯誤を繰り返す中で、控訴人商品についてリモート保守等を行わないという方針を固める以前のことである。
 また、被控訴人らは、控訴人が第三者から電子番組表(EPG)データを入手し、集合住宅内のサーバーに供給していると主張するが、現在市販されているほぼ全てのHDD・DVDレコーダーは同様にEPGを用いて録画する機能(EPG機能)を有しており、継続的に外部からEPGデータを取得している(乙39)。なお、控訴人商品は、指定されたEPGデータ業者から直接にデータを取得している(乙40)。
〔被控訴人らの主張〕
ア 控訴人商品の性質上サーバーについて共有物分割が観念できないこと及び控訴人商品は区分所有法の共用部分に該当すること等から、控訴人商品は区分所有者の合有ないし合有と近似した共同所有関係となる。控訴人商品は、集合住宅に設置されるサーバー数にかかわらず、受信アンテナ・全サーバー・全ビューワー・全コントローラー・全ケーブル等の構成物が一体となって1個のシステムを構成するものである。よって、1システムを構成する全サーバーが区分所有者全員の合有となる。また、差止めの対象となる主体を判断する要素としての管理・支配性は、複製行為等それ自体を構成する行為だけから判断されるものではなく、設置者が行う受信チャンネルの設定についても、特定のテレビ局による放送を録画する行為の前提となる行為であるから、管理・支配性の重要な判断要素となる。
イ 「全局予約モード」は、選択可能な機能の一つにすぎないものではなく、常時選択して使用されるものである。他方、「個別予約モード」は、控訴人商品の著作権侵害性の外形を薄めるために導入された機能にすぎず、機器の操作が簡便でなく、画質が優れているわけでもなく、料金体系が異なるものでもないなど利点が極めて少ない。
ウ 本件は差止請求訴訟であって、損害賠償請求訴訟ではないから、「損害」の発生は要求されていない。また、被控訴人らに損害がないとの控訴人の主張を差止めの必要性がないとの趣旨と解するとしても、本件においては控訴人が権利侵害の成立を争っている以上、被控訴人らが差止めを求める必要性は当然に認められる。
エ 控訴人商品は、違法性の高い権利侵害専用品である。
(ア) 控訴人商品を用いた録画は、管理組合等この機器を設置した者の行為と理解することができるから、「個別予約モード」・全局録画モードのいずれでなされた録画物についても使用者と複製者が異なることになり、私的使用目的での使用はあり得ず、法の制限規定に該当しない。
 控訴人商品が導入されると、必然的に被控訴人らの著作権等が侵害されることになる。さらに、数十から数百にのぼる集合住宅の入居者の誰もが、「全局予約モード」を設定しないことはありえないので、控訴人商品は、エンドユーザーである入居者の誰かが「全局予約モード」に設定したならば、24時間各局の全番組について無断複製と送信が行われることになってしまう。したがって、控訴人商品は、権利侵害専用品である。
(イ) 控訴人商品は、侵害専用品の中でも特に違法性が高い機器である。控訴人商品の販売とは、入居者未定時に集合住宅に設置されるということであり、控訴人商品の所有関係を共有と考えると、使用開始の段階で、管理組合として使用を止める意思決定をすることはおよそ考えられないので、控訴人の販売により、必然的に侵害結果が発生するから、販売行為自体と権利侵害行為が密接かつ必着しており、その意味で、控訴人商品の販売行為は直接の侵害行為と変わるところはない。
 さらに、控訴人商品の最も現実的な使用方法である全局予約は、大量の無駄な複製を行う点、実質的には、入居者が自由に視聴できるよう常に全局の全ての最新番組を自動的に複製して送信可能化する商品であるという点で、その違法性は深刻である。
(ウ) なお、控訴人は、デベロッパーや集合住宅の入居者が著作権等の処理を行うということが現実的には期待できないこと、及び従前の経緯から被控訴人らが使用許諾を行うことはあり得ないことを熟知しながら、侵害専用品たる控訴人商品を販売し、訴訟手続においても販売活動を継続する旨公言していたものである。
オ 控訴人商品の販売等差止の必要性及び許容性がある。被控訴人らは放送事業者であるところ、法において放送事業者に著作隣接権が認められたゆえんは、著作物等の伝達活動が文化の発展に寄与していることを評価し、多大なリスクを背負いながら著作物の伝達活動を行う放送事業者を保護することにあり、著作物の伝達活動を保護することは間接的に、伝達される著作物の著作権の保護にもなるからである。そして、被控訴人らが、控訴人商品の流通を常時調査し設置者や最終ユーザーに対し損害賠償請求等を行うことにより被害回復を図ることは、事実上不可能である一方で、著作権等の侵害を必然的に伴う侵害専用品である控訴人商品の販売を差止めることにより控訴人が被る不利益は、法的保護に値しない。
カ(ア) 侵害専用品の提供者を侵害の主体と評価し得る。すなわち、控訴人商品は侵害専用品であり、その提供行為(販売行為)は、その使用行為と同視することが可能である。そして、本件のように、侵害専用品を流通に置く場合、その行為はそれ自体、直接侵害行為と法的に同視すべきであり、そのような行為をなす者は、法112条1項の「著作権等を侵害する者または侵害するおそれがある者」に該当するとすべきである。直接侵害行為を行っていない場合であっても、これと異ならない権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であれば、権利侵害の蓋然性は変わらず、法的・規範的には直接侵害行為と同視し得るからである。
 さらに、本件では、最終ユーザーは、被控訴人らの著作権等を侵害しているとの認識を持たずに控訴人商品を使用している。つまり、入居者の権利侵害の意識とは無関係に複製が実施されており、控訴人が入居者をいわば手足として用いていると評価すべき事案である。
 また、控訴人は、第三者から電子番組表(EPG)データを入手し、集合住宅内の選撮見録に供給している(甲82)。選撮見録が実用的な録画機器であるためにはEPGは必要不可欠なものであるから、控訴人がEPGデータを供給していることは、控訴人が選撮見録を管理支配していることを裏付ける。
(イ) 控訴人は、クラブ・キャッツアイ事件最高裁は事例判決であり、この判決において示されたカラオケ法理を一般化された法理として侵害主体性の判断に援用することは許されないと主張するが、カラオケに限らず、著作物の複製技術や伝播技術の飛躍的発展により、物理的に直接著作権等の侵害行為を行っている者以外の者を侵害主体と評価しなければ権利侵害の状況に対処し得ない事態が現実に起こっている以上、カラオケ法理の一般的規範性が否定されるべきでない。
(ウ) 控訴人代表者の陳述書(乙21)、特にリモート保守に関する記載部分は全く信用できない。すなわち、ハイネスコーポレーションの回答書(甲64)によれば、ハイネスクラウズ宝塚駅前という物件に関して、控訴人は、「固定グローバルIPアドレスが割り当てられること」、「遠隔操作による運用保守を実施する上でインターネットによる常時接続環境は必須である」と記載した資料を提供しており、ダイワハウスの回答書(甲67)でも、D’グラフォート熊本タワーという物件に関して、控訴人が株式会社イーキュービックにOEM供給していた控訴人商品と機能が同じ録画機器について、同会社がダイワハウスに対し、上記と同様の説明をしているからである。また、ダイナシティ浅草という物件に関しても、控訴人がOEM供給していた控訴人商品と機能が同じ録画機器「ウィークリーネビオ」について、控訴人は、外部からのリモートコントロールによってこれに対応していると推認される対応をしている(甲70)。そして、「選撮見録」を含む控訴人開発の録画機器は、現時点においても、控訴人が、外部から常時リモートコントロールしなければ、その機能を十分発揮し得ない程度のレベルにあることが推認され、控訴人が「選撮見録」販売後も録画代行サービスの一種と評価し得るだけの濃密な管理支配行為を行っていると認定することこそが経験則に合致するところである。
(7) 争点(8)(差止め請求)について
以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(7)に記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
ア 原判決は、@控訴人商品の販売後、必然的に被控訴人らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することは、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば社会通念上不可能であり、A裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、B他方、控訴人において控訴人商品の販売を止めることは容易であり、C差止めによる不利益は、控訴人が控訴人商品の販売利益を失うことに止まるが、控訴人商品の使用は被控訴人らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しいとして、控訴人商品の販売を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができると判示している。
 しかし、@及びCについては、控訴人商品の使用が被控訴人らの著作権等の侵害を必然的に伴うものであるという前提自体が誤っており、A及びBについては、インターネット上のファイル交換等のように匿名性・密行性が強い行為であればともかく、集合住宅に控訴人商品が設置されているかどうかを探知する程度のことをもって、侵害場所等を知ることが非常に困難とまではいえず、むしろ、控訴人商品が設置されていることは、集合住宅のセールスポイントとして積極的に広告・宣伝されるものと予想されるから、探知することは容易である。
イ 著作権等は、法に規定された利用行為を独占する権利であるため、法に規定された利用行為を著作権者等に許諾を得ることなく行う行為のみが著作権等の侵害となり、著作権者等は当該許諾を行うことなく控訴人に規定された行為を行う者のみに差止めを求め得るに過ぎない。他方、物権的請求権の相手方が、上記のような一定の者や妨害行為を自らの意思・判断に基づいて行った者に限定されないのは、物権が物を直接に支配して利益を受ける排他的な権利であり、何人が行ったにせよ、目的物の円満な支配を回復することができるからである。
ウ 法は、著作権等を侵害する行為及び侵害するおそれのある行為(法112条)並びに著作権等を侵害する行為とみなされる行為(法113条)を差止めの対象としつつ、それ以外の著作権等の侵害に関与する行為は、たとえ民法上の不法行為が成立する行為であっても差止めの対象としていない。これは不法行為の効果として差止め請求は認められないという民法上の原則からの当然の帰結であって、法が他の法益との衝突の可能性を考慮して差止めの対象を限定した結果ではない。
エ 控訴人商品の販売の差止めにより、控訴人は、被控訴人らの著作権等の侵害を伴わないよう対策を講じた商品の販売をする機会まで奪われることとなるのであって、本件において差し止められるべき行為が保護すべき利益に乏しいとはいえない。
オ 著作権等との関係でも特許法101条のような間接侵害に相当する行為態様を想定することは容易であるにもかかわらず、法が、「侵害とみなす行為」に関する規定(法113条)を置きながら、同規定において間接侵害に相当する行為を著作権等を侵害する行為とみなしていないのは、著作権等の間接侵害に相当する行為については、差止めの対象とはしないとの立法判断であると解され、かかる間接侵害に相当する行為について、広く差止めの対象とするコンセンサスが得られているとも認められない。
 法112条1項の類推適用により、控訴人に対する差止め請求を認めることは、カラオケ法理をもってしても直接の利用行為者と同視することができない者を、「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視するものであって、擬制に擬制を重ねる法解釈であり、著しく法的安定性を害し、法解釈の限界を超える。
〔被控訴人らの主張〕
ア 控訴人商品のような違法目的しか有さない商品の販売には、保護すべき何らの価値も見いだし得ないので、控訴人商品を販売差止めの対象とすることに何ら問題はない。仮に控訴人商品を差止めの対象とすることができなければ、被控訴人らは、全国で販売される集合住宅全てについて常時監視しなければならず、侵害者に対する裁判手続にも膨大な費用と手間がかかることになり、違法行為を完全に除去することは事実上不可能となる。
イ 法に基づく差止請求権が、物権的請求権としての妨害排除(予防)請求権の性質を持つことは、通説的理解である。また物権的請求権についての判例理論も、所有権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求の相手方を、その所有権を侵害し、あるいは侵害するおそれのある物の所有権者に限るのではなく、事案毎に物権の妨害ないしそのおそれを惹起することに直接責任があり、かつ、物権の権利保全をはかるために最も実効性が認められる者を相手方にすべきであるとの柔軟な解釈を示している。
ウ 特許法と法は法領域を異にするものであり、特許法の間接侵害規定と同様のものが法に存しないことと、法112条1項による差止め請求の相手の範囲をどのように捉えるかは、論理的に必ずしも結論が一致する問題ではない。
エ 本件については、法112条1項の類推適用をすべきである。
(ア) 直接侵害行為の教唆・幇助的行為について差止めを行う必要性は極めて高い。インターネット通信網等の進化・普及等により、著作物の流通形態が多様化し、教唆・幇助行為であってもそれが権利侵害について重要な役割を果たしており、著作権等侵害に極めて重要な役割を果たす教唆・幇助等の関与行為自体を差止めなければ、根本的な著作権等の侵害の防止が図れない。
(イ) 法112条において差止請求権が認められた趣旨は、著作権等が著作物を排他独占的に支配できる物権的権利であることから、これに対する妨害ないし妨害のおそれを排除し、著作物支配の十全性を保持することにある。そして、物権的請求権は、所有物に対する直接支配権の十全性を実現するために認められるものであるが、その相手方は、直接妨害を生じさせている者のみならず、妨害を生じさせている事実をその支配内に収めている者であり、妨害状態を除去し得る地位にある者も含むとされる。したがって、法が排他独占的支配を確保する手段として敢えて認めた著作権等の差止請求権についても、物権的請求権と同様、その対象となる妨害行為は、著作権等の直接侵害行為のみならず、間接的であっても規範的にこれと同一と評価出来る行為を含み、また、その相手方も著作物の直接の利用主体のみならず、著作権侵害状態を生じさせている事実をその支配内に収めている者であって妨害状態を除去し得る地位にある者を含むと解するのが、法の趣旨にも合致する。
(ウ) 特許法101条のような規定が法に存在しないことは、法上間接侵害に対する差止め請求が認められないことの根拠にならない。すなわち、法に特許法と同様の規定が設けられていないのは、特許法との保護対象物の相違などによる法制の違いであり、著作者の権利侵害にのみ利用される物が定型的に想定されなかったにすぎない。特許法と法とは法領域を異にするものであるから、特許法における間接侵害の規定が法にないとしても、そのことから、直ちに、法が幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止め請求を認めていないと解する必然性はない。
 また、法113条のみなし規定は、排他的権利による規制対象とはなり得ない行為について「侵害とみなす」旨の規定であるところ、教唆・幇助等の間接的な権利侵害行為は、排他的権利による規制対象となり得る行為であることから、これが規制されなかったにすぎない。
(エ) 間接侵害者については、著作権等を侵害した者の従犯として、刑罰の対象ともなり得るものであり(法119条、刑法61、62条)、罰則を課してまで抑制しなければならない違法性の高い行為を事前に抑制する差止め請求が認められないというのでは、明らかに均衡を欠く。
(8) 争点(9)(当審反訴請求)について
〔控訴人〕
ア 主位的請求
 控訴人は、本訴請求の棄却を待って控訴人商品について様々な販売活動を展開する予定であるから、被控訴人らの請求が「選撮見録」という商品名の集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムというような漠然としたものである限り、同商品の販売について被控訴人らが差止請求権を有しないことの確認を求める利益を有する。
イ 予備的請求
 控訴人は、予備的請求の趣旨記載の商品についても確認の利益を有する。すなわち、控訴人が販売しようとする商品は、注文に応じて仕様を調整することが可能であり、原判決が差止めを認容した商品の利用が被控訴人らの著作権等を違法に侵害しないような構造・機能の商品を販売することも可能である。例えば、チャンネル設定機能、一括録画予約機能、重複予約対応機能はオプションであるから、これを付加しない製品を製造・販売することも可能である。現に、控訴人は、その製造・販売する商品の形態を、平成14年11月の開発開始から本件訴訟の提起直前まで、3次にわたり大きく変更しており、ハードウェアの組合せとソフトウェアの仕様によっては、控訴人商品の基本機能を維持しつつ、控訴人商品が侵害品とならないよう対応することが可能である。
 しかし、原判決は、控訴人が販売しようとする商品の構造・機能を決めつけ、「『選撮見録』との名称の集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム」全てについて、控訴人が集合住宅向けに販売することの差止めを命じたため、「選撮見録」という名称を使用するだけで、控訴人はその販売を差止められることとなった。差止めの対象の控訴人商品の「1サーバー当たりのビューワー数」および「録画予約モード」の種類その他の構造・機能上の重要事項を主文に明記しなかった結果、原判決が、違法であるとまで判断していない構造・機能の控訴人商品まで差止めの対象とされたから、上記確認の利益を有する。
 被控訴人らは、製品化もしていない物件の適法性については確認の利益がないなどと主張するが、未販売の商品であっても予防的に確認訴訟を提起することは許されると解され、とりわけ、ある商品や役務を提供することが第三者の知的財産権を侵害するか否かが問題となり、新聞等に紛争状況が報じられて、違法とはならない可能性が高い仕様の商品についてまで販売できない状況にある場合においては、確認の必要性は高いというべきである。
〔被控訴人ら〕
ア 主位的請求について
 本判決別紙物件目録1記載の商品の機能・仕様は、原審で差止めの当否が争われた控訴人商品そのものであるから、別途同一の製品について差止請求権不存在確認を求めることは、確認の利益を有しないし、二重起訴の禁止に該当し、却下されるべきである。
イ 予備的請求について
 控訴人の予備的請求は、控訴人が製品化もしていない物件について、仮定に基づいて提起したものであり、現実に具体的な製造や販売を予定しているものではなく、紛争解決の現実的利益を有していないなど、確認の利益を有しないし、二重起訴の禁止にも該当するから、却下されるべきである。
 また、控訴人は、自らが主張立証すべき事項を何ら立証することなく、差止め認容の範囲を縮減しようとしている。すなわち、控訴人商品がテレビ放送番組を複製(録画)する機器であることは争いがなく、特段の正当化事由がない限り、複製行為が違法行為として評価されるから、控訴人は、差止め認容の範囲を縮減した判決を得るためには、自らが製造・販売しようとしている「選撮見録」の構造、機能や使用、管理の実態について積極的に明らかにし、その構造、機能や使用、管理の実態と関連させた上で、「何故選撮見録による複製が私的使用の範囲内にあるといえるのか」という自らの抗弁事由を明確かつ具体的に論証し、自己の主張する権利侵害のおそれのないタイプの録画機器を製造・販売できることを一点の疑いも挟み得ない程度にまで立証する必要がある。にもかかわらず、控訴人は、そのような立証をすることなく、不誠実な訴訟態度を繰り返しているのであるから、控訴人の主張が認められる余地はない。そして、控訴人商品においては、サーバーに接続された複数のビューワーから同一の番組について複数の録画予約がされていても、1つの放送番組は、1サーバーにおいては1回しか録画されないから、「使用する者が複製する」という要件を原理的に欠き、「全局予約モード」をなくしても、1サーバーあたりの戸数を少なくしても、私的複製として適法化されることはありえない。「選撮見録」による複製は常に違法となり、控訴人商品の基本機能を維持しつつ、著作権等を侵害しないようにすることは不可能である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本案前の主張)について
 原判決第3の1のとおりであるから、これを引用する。
 なお、控訴人の主張は、被控訴人らが請求を理由あらしめる原因として十分か否かとの観点からは問題となり得るとしても、請求の特定の観点からは問題とならない。被控訴人らは、本件においても、請求の原因中においては控訴人商品の構造・性能等に基づく主張をしているから、仮に被控訴人らの主張立証が足りず、請求を理由あらしめる主張として不十分であれば、その限りで、被控訴人らの請求を一部棄却すれば足りることがらである。
2 争点(2)(控訴人商品の構成)について
(1) 控訴人商品の主要な構成
 「選撮見録」について控訴人が作成したカタログ(甲15)、「選撮見録」の取扱説明書の版下(乙7)及び「選撮見録チャンネルプリセット変更マニュアル」(乙8)、「選撮見録」についての控訴人のウェブサイト上での説明(甲16)、控訴人が作成した「選撮見録」についての説明(乙9)、弁護士岡邦俊他1名作成の2004年7月15日付控訴人宛書面(甲17)、控訴人代表取締役三津川義和作成の陳述書(乙21)、「選撮見録」等の導入が予定された集合住宅の広告(甲10、31、42、47、48)及び導入予定先の回答書(甲19、46、64)並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人商品は、集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとして、少なくとも、次のような構造及び機能を有するものであることが認められる。
ア 控訴人商品は、テレビ放送受信用チューナーと放送番組録画用ハードディスクを備えたサーバー並びに各利用者用のビューワー及びこれを操作するコントローラーからなる。
イ サーバーは、集合住宅の共用部分(管理人室等)に設置されて多数のビューワーに接続され、また、チューナー部がテレビ放送受信用アンテナに接続される構造となっている。
 各使用者用のビューワー及びそのコントローラーは、集合住宅の居室に、各戸1台ずつ設置され、各ビューワーとサーバーとの間が有線回線で電気的に接続される。また、ビューワーにはテレビ受像機が接続されることを予定している。
 1サーバー当たりのビューワー数は、具体的な設置場所によって異なり、その上限は50個(50戸)程度とすることが予定されている一方、この上限は技術的な上限でないが、これを超える数のビューワーを設置する際には、これに応じてサーバーを増設することとなる。
ウ 「選撮見録」は、そのサーバーによって、テレビ放送から、あらかじめ選定され設定された最大5局分の番組を、同時に、1週間分録画することができる。
 受信する放送局ついては、控訴人において(デベロッパー等の意向を聞くなどして)民放5局にプリセットしてあるが、設置後に、集合住宅購入者の協議等により変更することもできる。
 放送番組の録画は、サーバーの記憶装置上に行われ、各放送番組に係る音及び影像の情報は、1週間経過後に自動的に消去される。
エ 放送番組の録画は、ビューワーからの録画予約指示によって自動的にされる。
 録画予約モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」があり、各ビューワー毎に設定することができる。
 工場出荷時は「個別予約モード」に設定されているが、テレビ画面上の操作で、各利用者において簡単に「全局予約モード」への変更ができるようになっている。
 「個別予約モード」においては、各利用者において、ビューワーを用いて、録画すべき番組を個別に予約することとなるが、「全局予約モード」に設定された場合は、1週間分5局分の番組すべてを録画するようなっている。
 ただし、サーバーに接続された複数のビューワーから、同一の番組について複数の録画予約(「全局予約モード」の設定による予約も含む。)がされていても、1つの放送番組は、1サーバーにおいては、1か所にしか録画されない(したがって、1つの放送番組についての音及び影像の情報は、1サーバーにおいて1つしか記録されない。)。
オ 録画された放送番組の再生は、ビューワーからの再生指示によって自動的にされる。
 各利用者が、ビューワーを用いて、既に録画予約(「全局予約モード」に設定した場合を含む。)の指示をしてある番組の中から、再生すべき番組を指定して再生の指示をすると、サーバーから当該ビューワーに録画してある番組の音及び影像の情報が信号として送信され、各利用者は、当該ビューワーに接続されているテレビ受像機を用いてその番組を視聴することができる。
 ビューワーの録画予約モードが「個別予約モード」に設定されている場合には、当該ビューワーから録画予約の指示をしていなかった番組については、仮にサーバーにおいてその番組の録画をしていても、当該ビューワーから再生の指示をして番組の視聴をすることはできない。
(2) 控訴人商品における販売、設置、所有・占有の状況
ア 販売、設置
 控訴人商品は、通常、集合住宅の建設・販売業者(以下「デベロッパー」という。)に対して販売後、当該集合住宅に設置され、当該デベロッパーにおいて、集合住宅の付帯設備として集合住宅購入者に販売されるほか、賃貸用集合住宅(甲21、37〜39、43、58、60、62等に係るマンション「H」がそのケースと思われる。)やいわゆる投資用集合住宅(甲70の集合住宅がその例と思われる。)の場合でもほぼ同様に販売されるものと考えられる。
 なお、甲9、10の集合住宅は、戸数156戸で4式のサーバーが設置される予定であり(甲19)、甲31の集合住宅は戸数は不明であるが地上46階程度のタワーマンションであり、多数のサーバーが増設される予定であったものと考えられる。さらに、甲42、46、47の各集合住宅は戸数24戸、甲48の集合住宅は戸数51戸(ただし「ウイークリーネビオ」)であるが、以上のうち、甲10の集合住宅以外は通常の分譲用集合住宅と考えられる。
イ 所有・占有
 分譲用集合住宅の場合は、集合住宅の販売時等に、特段の約定のない限り、少なくともサーバー等の共用部分に設置される物については、集合住宅購入者の共有(区分所有法11条)及び共同占有となる(区分所有法11条)。ただし、当該集合住宅に管理組合等が設立された場合は、機器の維持保全の必要上、管理組合等が鍵を保管し、保守契約等に関わるのが通常と思われる。また、賃貸用集合住宅等の場合は当該集合住宅の所有者が控訴人商品をも所有することが多いと考えられる。
3 争点(3)(著作権に基づく請求)について
 甲2、12ないし14(いずれも枝番を含む。特記しない限り、以下同じ。)、甲A1ないし10、B1ないし9、C1ないし10、D1ないし49、E1ないし11によれば、被控訴人らが行う放送番組の中には、他社制作のものだけではなく、一部であるが準キー局として制作するローカルニュースやバラエティ番組のように、被控訴人らが職務著作(法15条1項)として著作権を有する複数の自社制作番組も含まれ、これらの番組は、自局の放送地域内で放送されるほか、系列局への放送許諾や番組販売によりその地域外に放送されることのあることが認められる。
4 争点(4)(複製権侵害)について
(1) 控訴人商品におけるサーバーのハードディスクへの録音・録画が、著作権等の対象である「情報」の「複製」(法2条1項15号にいう「録音・録画…による有形的な再製」)に当たることは明らかである。
(2) 一般に、放送番組に係る音及び影像を複製し、あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは、前記認定事実によれば、控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体はサーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが、これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから、指示信号を発して実際に複製行為をし、公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ、各使用者、即ち各居室の入居者は、少なくとも、複製行為、公衆送信・送信可能化行為主体ということができる。
 そして、控訴人商品は、いわゆるマンション等集合住宅入居者用のものであって、多数のユーザーの使用を前提としているところ、当該予約指示に基づいて作成される放送番組に係るファイルは、常に単一のファイルであり、同一のファイルがその後の予約指示をした入居者に使用されることになり、最初の予約指示をした者は、自己の個人的又は家庭内等の範囲内の使用とならないから、法30条1項の目的以外の目的のために使用したこととなり、その後の予約指示をして使用する者は、自分で複製をした者には当たらず、いずれも法30条1項柱書、102条1項の適用外の者となる。
 もっとも、上記多数のユーザーが全て「個別予約モード」を選択し、録画番組と再生番組とが重ならない場合も想定し得るが、少なくとも、「全局予約モード」の機能がある以上、極めて例外的事態であり、集合住宅が通常予定するユーザー数において通常起こり得ない事態といえる。
 この点に関し、控訴人は、各居室のビューワーからの予約指示は、番組毎に作成された録画実行ファイルに記録され、当該番組開始時に、予約指示の先後に関係なく、各ファイルに記録された録画指示が同時に実行される旨主張し、控訴人代表者も乙38においてその旨供述しているが、上記陳述書以外に控訴人商品がかかる構成を有していることを裏付けるに足りる客観的な資料を何ら提出していないから、にわかにこれを採用し難い上、仮に控訴人商品がそのような構成を採用していると仮定しても、控訴人主張のように同時に録画指示がなされたものとは解し難いから、上記の判断を左右するものではない(なお、上記構成に関しては、控訴人代理人自身の意見書〔甲17、乙18の2〕でも、単一の情報である場合は複製権侵害になるとの見解があるなどとして、控訴人に対し、単一の情報からの複製にならないような構成にすることを勧めていること、同代理人と民放連等との交渉〔乙18の1、3〜12〕の中でも、控訴人商品が個々の使用者毎にハードディスクを分ける構成であるとの答弁を繰り返していること、控訴人代表者自身、第二次仕様までは単一の情報からの複製とならないような構成にしようとしていた旨陳述していること〔乙21〕、控訴人は、陳述書等を提出するだけで、控訴人商品の構成に係る客観的な裏付け資料を提出していない等の経緯が認められる。)。
(3) 以上のとおりであるから、再抗弁につき判断するまでもなく、控訴人商品による放送番組の複製は、法30条1項、102条1項の私的利用に該当せず、違法であることに変わりはない。
 なお、本件においては、弁論の全趣旨に照らし、被控訴人らの許諾が得られる見込みのないことが明らかである。
5 争点(5)、(6)(控訴人商品の公衆送信・送信可能化)について
(1) 前記のとおり、控訴人商品は、個々の利用者が「全局予約モード」に設定しているか「個別予約モード」に設定しているかに関係なく、サーバー毎に、これに接続されたビューワーのいずれかから録画予約された番組(「全局予約モード」に設定しているビューワーがある場合は全番組)について、そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音及び影像の信号が記録され、録画の起因となった予約をしているビューワーに限らず、当該番組の予約(全局予約を含む。)をしたビューワーから、録画より1週間の保存期間内に番組再生の要求があった場合には、自動的に、録画した番組の音及び影像の情報を再生要求のあった当該ビューワーにのみ送信するものである。そして、控訴人商品は、サーバーとビューワーが有線回線によって電気的に接続され、サーバーは集合住宅の共用部分に、ビューワーは個々の居室に設置されている。
(2) まず、公衆送信権(法2条1項7号の2、23条)について検討する。
ア 控訴人商品においては、入居者の番組再生の要求に基づき、録画した番組の音及び影像の情報信号が有線回線を介して当該ビューワーに送信されるのであるから、受信者によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信が行われるものであることは明らかである。
イ この点に関し、控訴人は、控訴人商品におけるサーバーからビューワーへのデータの伝達は、製品の内部的なデータのやり取りにすぎないから、そのような伝達は、そもそも法上の「送信」に該当しないとも主張しているが、「送信」(同項7号の2)を「情報の無線通信又は有線電気通信による送信」という意味以上に限定的に解釈すべき法文上の根拠は見出せないから、この点の控訴人の主張は採用できない。
ウ また、控訴人は、控訴人商品が設置される集合住宅の共用部分は入居者の共有に属し、各入居者は共用部分を「占有」しているから、当該共用部分に設置されたサーバーから各居宅のビューワーへの情報の伝達は「同一の者の占有に属する区域内」での伝達にすぎず、「公衆送信」に該当しない旨主張するが、上記共同占有部分と上記単独占有部分とで一部重複があることにすぎず、上記両占有部分が法2条1項7号の2所定の同一の者の占有に属するとはいえないから、その送信は「その構内が二以上の者の占有に属している場合における同一の者の占有に属する区域内」での送信には該当しないと解され、上記控訴人の主張は採用できない。
 さらに、控訴人は、控訴人商品の使用者は、あくまでも自らが放送番組を録画して自らが再生することを目的としているにすぎず、「公衆によって直接受信されることを目的」としていないとも主張しているが、既にみたように、控訴人商品が単一の情報を複数の使用者が再生する構成となっている以上、この点の控訴人の主張も採用できない。
 ところで、信号の受信者、すなわち各居室の入居者をもって「公衆」といえるか否かの点について、控訴人は、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが番組の送信の要求をして番組を受信することができるのであるから、送信を要求し、これを受信する者をもって「公衆」ということはできない、控訴人商品では1サーバーに接続されるビューワー数は50個程度を上限としているから、その数に照らして使用者を「公衆」ということはできない旨主張している。
 しかしながら、前記のとおり、控訴人商品においては、番組の録画は、録画予約をしたビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ1組のみの音及び影像の情報が記録され、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の信号として送信されるものであるから、人数の点を別とすれば、控訴人商品の使用者は、「公衆」であることを妨げる要素を含んでいるものではない。
 そして、控訴人商品においては、ビューワーは、集合住宅の各戸に設置されることが予定されているから、1サーバーに接続されるビューワー数は、設置場所によって異なるとしても、集合住宅向けに販売される以上、少なくとも前記認定の24戸以上の入居者が使用者となることに照らせば、控訴人商品の利用者の数は、公衆送信の定義に関して「公衆」といい得る程度に多数であるというべきである(ちなみに、控訴人商品を利用すれば、一つの集合住宅内であっても、サーバーを増設することにより大人数の使用が可能となる。甲10や甲31の集合住宅はその例であると考えられる。)。
エ 以上によれば、控訴人商品においては、法2条1項7号の2にいう「公衆送信」が行われるものである。
(3) 次に、送信可能化権(著作権に関し法2条1項9号の5、23条、著作隣接権に関し法2条1項9号の5、99条の2)について検討する。
ア 既に検討したところに照らせば、控訴人商品において、サーバーとビューワーとを接続している配線が「電気通信回線」であり、これが公衆に該当する入居者の用に供されていること、控訴人商品のサーバーが「自動公衆送信装置」に、そのハードディスクが「公衆送信用記録媒体」に、それぞれ該当することは、明らかである。
 そして、利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより、控訴人商品のサーバーに、放送番組に係る情報が記録され、これによって、当該情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組が録画されることにより、その放送は「送信可能化」されるということができる。
イ 控訴人は、放送事業者の送信可能化権(法99条の2)について、同条の「送信可能化」とは、いわゆる「ウェブキャスト」のように、受信した番組を録音・録画せず、サーバー等を通じてそのまま流す場合のみを対象とし、いったん録画されたビデオ等を用いて送信可能化する行為は、送信可能化には当たらないと主張するが、法上、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に、情報を記録することによって自動公衆送信し得るようにすることも、「送信可能化」として定義されているのであるから、この点の控訴人の主張は採用できない。
ウ 以上のとおりであるから、控訴人商品の使用時において、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができる。
6 争点(7)(控訴人の侵害主体性)について
(1) 一般に、放送番組に係る音及び影像を複製し、あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは、実際に複製行為をし、公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ、前記認定事実によれば、控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体は、サーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが、これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから、上記指示信号を発する入居者が実際に複製行為、公衆送信・送信可能化行為をするものであり、したがって、少なくとも、その主体はいずれも、現実にコントローラーを操作する各居室の入居者ということができる。
 しかし、現実の複製、公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても、その過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている等の場合には、その者も、複製行為、公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、複製行為、公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。
(2) 控訴人商品の商品特性等について
ア 控訴人商品は、もともと全局・自動録画の構成からなる商品として開発されたものであるが、その後、著作権、著作隣接権侵害となることを回避するために、全局・自動録画の場合でも、使用者において「全局予約モード」に設定する必要があるように構成を変更するとともに、個別予約機能(「個別予約モード」)を付加したものである(乙21)。
イ 上記のような経緯で、控訴人商品は「全局予約モード」と「個別予約モード」を備えるに至ったものであるが、実際には、控訴人の商品カタログ等や集合住宅のデベロッパーによる広告・宣伝等(甲10、15、16、31、42、44、乙7等)の上では一貫して「全局予約モード」が強くアピールされ、工場出荷時点こそ「個別予約モード」に設定されているものの、控訴人商品の購入者が自室のテレビ画面上で「全局予約モード」を選択することにより、ごく簡単に「全局予約モード」に変更することができるようになっている(乙7)。
 また、使用者の立場からみても、「全局予約モード」がある限り、敢えて「個別予約モード」を選択する利点は殆ど考えられず、本件全証拠によっても、控訴人商品を「個別予約モード」で使用した実例は、操作を誤った場合を除けば、認めることができない。
 したがって、控訴人商品は、「全局予約モード」をもってその本来的な使用態様とするもので、「個別予約モード」は、実際には殆ど利用されることのない機能にすぎないということができる。
 のみならず、「全局予約モード」にしても、いったん使用者において「全局予約モード」に設定を変更した後に、1週間毎に再設定又は再予約を繰り返す必要があるのかすら、取扱説明書(乙7。控訴人商品と基本的に同一構成の商品と思われる「ウィークリーネビオ」に係る甲70中の取扱説明書も同じ。)には何ら記載されておらず、その場合、録画操作といっても、個々の使用者においてはテレビ画面上で「全局予約モード」を選択するだけで、これを実質的にみる限り、個々の使用者は、控訴人商品の全局予約機能を使用する、使用しないの選択を行なっているにすぎないといっても過言ではない(もっとも、その限りで、各使用者の自由意思が維持されていることは否定できない。)。
ウ そして、控訴人商品が、既にみたとおり、予約指示に基づく録画によって作成される単一のファイルを他の使用者も使用する構成になっている以上、これを集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとしての本来の用途に用いる場合には、被控訴人らの複製権等を侵害せざるを得ないし、また、控訴人商品を上記本来の用途に用いる以外には、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的であると認められるような他の用途が全く考えられず、控訴人においても、その使用者がそのような用途に用いることを前提としてこれを製造・販売し、あるいは後記のようにこれを維持・管理しているものであることは明らかである。
 もっとも、この点について、控訴人は、大邸宅など個人住宅向け用途や監視カメラ等としても使用し得る旨主張しているが、前者は、そもそも本件差止め請求の対象とされていないし、また後者についても、控訴人主張のような機能は、仮にこれが付加されたとしても単なるオプションにすぎないもので、集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとしての本件商品の本来の用途と並存し得るような「他の用途」とは認め難いから、この点に関する控訴人の主張も採用することはできない。
エ また、上記控訴人商品の取扱説明書(乙7)には、複製、公衆送信・送信可能化が行われるサーバーの仕様や仕組み(特に放送番組ごとのファイルが一つしか作成されないこと)についての説明がないから、集合住宅購入者としては、控訴人商品の代金込みで集合住宅を購入し、入居後はその仕様や仕組みを知らないままこれを使用する立場にある。
オ なお、受信すべきテレビ放送のチャンネルの設定について、購入側においてプリセットを変更できるようになっており、また、その選択権が購入側にあることは確かであるが、本件全証拠によるも、民放5局以外の設定をした実例の存在を認めることができず、したがって、実際には、控訴人がプリセットしたまま使用される事例も多いと考えられる。
(3) 控訴人商品の保守管理について
ア 甲38、42、46、64、乙12、13、21によれば、過去に控訴人が販売しようとした「選撮見録」については、その購入者等と控訴人との間で、保守業務委託契約が締結されることが想定されていたこと、従来、保守業務の対価は、導入先によって異なるが、月額で、1戸当たり1200円ないし1600円程度、1サーバー当たりにすると3万円ないし4万円程度(いずれも消費税別)とされていたこと、保守業務にあたっては、固定グローバルIPアドレスを取得して控訴人商品のサーバーをインターネットに接続し、控訴人において、インターネットを介してリモートコントロールで作業するものとされていたこと、保守業務委託契約では、サーバーの設置場所を施錠すること及びその鍵の管理を控訴人が受託するものとされていたこと、保守業務委託契約では、控訴人商品の設置者が、控訴人の確認なく控訴人商品の移設や改造を行ったときには、契約が解消されるとされていたことが認められる。
イ また、甲37ないし39によれば、マンション「H」には、控訴人が開発して販売した商品が設置され、控訴人においてその保守業務をしているところ、同商品は、当初は画面上「ウィークリー・ネビオ」と表示されていたが、控訴人がサーバーないし部品を変更したことによって「選撮見録」との画面表示がされるようになっていること、控訴人従業員は、上記集合住宅の入居者から強く要求された際に過去の番組を録画したVHSビデオテープを提供したことがあること、上記マンションの賃貸人であるエイブル保証株式会社は、「選撮見録」が同集合住宅の管理人室に設置されており、選撮見録サーバーを管理しているのは控訴人であって、入居者からのメンテナンス及び故障等の問い合わせは控訴人と入居者との間で行われており、同会社としては、毎月のランニング費用を入居者から集金して控訴人に送金しているだけであると認識していることが認められる。
ウ この点に関し、控訴人代表者は、乙21の陳述書において、現在の控訴人商品の仕様(第三次仕様)ではリモート保守を行わないことにしている、マンション「H」に設置されているのは控訴人商品ではなく、その前身となった仕様の実験機であり、「選撮見録」と表示されるようになったのは誤表示であって、その後「HVR」と表示されるように修正した、上記マンション入居者に過去の番組を録画したVHSビデオテープを提供したのは従業員の個人的行為であって、控訴人は、同集合住宅に設置された商品に録画されたデータを取得できない立場にあるなどと陳述しているが、控訴人は、これらの事実を客観的に裏付けるに足りる証拠を全く提出していない。
 そして、時期の点では必ずしも明瞭でない点があるものの、甲64や67でも、サーバーに「固定グローバルIPアドレスが割り当てられること」「遠隔操作による運用保守を実施する上でインターネットによる常時接続環境は必須である」と記載した資料を提供する等しているし、また、上記のとおり、第3次仕様以降はリモート保守を行わないことにした旨記載された陳述書の作成時点より後の事例(甲70)についても、控訴人商品と同様の商品と思われる「ウィークリーネビオ」について、なお、固定IPアドレスを用いたリモートコントロールによる保守管理を行っていることが窺われる。
 そうすると、乙21における控訴人代表者の説明はにわかに採用できず、むしろ、前掲各証拠に照らせば、「選撮見録」を含む控訴人開発の録画機器は、現時点においても、控訴人による外部からのリモートコントロールを要するものであり、「選撮見録」販売後も、その安定的な運用のためには、控訴人において、なお一定の保守管理を必要とするものと推認するのが相当である。
エ 控訴人は、第三者から、「選撮見録」の録画機器としての実用性を維持するために必要と考えられる電子番組表(EPG)データを入手し、「選撮見録」の購入者に継続的に供給している(甲82)。
(4) 利益の帰属について
 控訴人は、控訴人商品の販売によって利益を得られるばかりでなく、その販売後も、保守業務上の収入のほか、控訴人商品の使用者に複製等の行為を支障なく継続させることによって、控訴人商品の声価が高まり、その後の販路拡大等に大きく寄与することは明らかである上、既販売先においても、控訴人商品の使用による機器の劣化による買替え需要も望めないではなく、継続的に利益を受けることができる。
(5) なお、被控訴人らは、管理組合等の控訴人商品の設置者も複製等の主体とみなし得ると主張しているが、そもそも「設置者」の定義自体が明瞭でない上、控訴人も主張するように、機器自体の管理支配とこれを使用しての複製等の管理支配とは別異の観点から検討されるべきことがらであると考えられるところ、少なくとも管理組合や管理組合法人については、控訴人商品の物理的維持や保守費用徴収の便宜上の必要から、控訴人商品の使用者である個々の入居者から、機器自体の管理を委託されているにすぎず、入居者による複製等の過程について格別の管理や支配を及ぼしているわけではなく、これによって利益を得ているわけでもないと考えられるから、この点に関する被控訴人らの主張はにわかに採用できない。
(6) 以上によれば、控訴人商品においては販売の形式が採られており、控訴人自身は直接に物理的な複写等の行為を行うものではないが、控訴人商品における著作権、著作隣接権の侵害は、控訴人が敢えて採用した(乙21)放送番組に係る単一のファイルを複数の入居者が使用するという控訴人商品の構成自体に由来するものであり、そのことは使用者には知りようもないことがらであり、使用者の複製等についての関与も著しく乏しいから、その意味で、控訴人は、控訴人商品の販売後も、使用者による複製等(著作権、著作隣接権の侵害)の過程を技術的に決定・支配しているものということができる。のみならず、控訴人商品の安定的な運用のためには、その販売後も、固定IPアドレスを用いてのリモーコントロールによる保守管理が必要であると推認される上、控訴人は、控訴人商品の実用的な使用のために必要となるEPGを継続的に供給するなどにより、使用者による違法な複製行為等の維持・継続に関与し、これによって利益を受けているものであるから、自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、規範的な意味において、独立して著作権、著作隣接権の侵害主体となると認めるのが相当である。
(7) なお、控訴人は、控訴人商品同様に1週間分の全局録画ができるパソコンが既に市販されているし、控訴人商品における保守業務やEPGデータの継続的提供も、市販されている電気機器やHDD・DVDレコーダーにおいても通常行われていることにすぎない旨主張しているが、仮に控訴人主張のとおりであるとしても、その使用が著作権、著作隣接権の侵害とはならない商品に関する保守業務等と、その使用自体が著作権、著作隣接権を侵害することになる控訴人商品における保守業務等とを同列に論ずることはできないから、この点に関する控訴人の主張も採用できない。
7 争点(8)(差止め請求)について
(1) 法112条1項は、差止めにつき、これを請求し得る者としては「著作者、著作権者、…著作隣接権者」、請求の相手方としては「著作権、…著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」、請求し得る内容としては「その侵害の停止又は予防」とそれぞれ規定している。
 そして、既にみたとおり、被控訴人らは、放送事業者として著作隣接権者であり、一部の番組については職務上著作の著作者でもあり、他方、控訴人は、被控訴人らの支分権としての複製権、公衆送信権・送信可能化権をいずれも侵害し、又は侵害するおそれがあるものといえるから、被控訴人らは、控訴人に対し、同条項に基づき侵害の停止又は予防を請求することができるというべきである。
 ところで、ここにいう著作権、著作隣接権の侵害とは、本件に即していえば、著作者の複製権、公衆送信・送信可能化権、著作隣接権者の複製権、送信可能化権の侵害であり、したがって、停止を求め得る侵害行為は、複製行為、公衆送信・送信可能化行為であるところ、商品販売によって所有権、占有権が入居者等に帰属するなどの状況において、控訴人が控訴人商品を使用した複製行為、公衆送信・送信可能化行為そのものを現実に差し止め又は入居者等をして差し止めさせ得る直接的手段を有することを認めるに足りる証拠はない。
 しかるところ、前記のとおり、入居者の控訴人商品の使用による被控訴人らの著作隣接権等の侵害は控訴人商品の構成自体に由来し、控訴人商品を販売しないことは、当該侵害の停止、予防として直截的かつ有効であるから、被控訴人らは上記のとおり侵害行為の主体といい得る控訴人に対し、次の内容の限りで、控訴人商品の販売による入居者の侵害行為の差止め請求をすることができる。
 すなわち、本件における侵害行為である複製行為、公衆送信・送信可能化行為のうち、公衆送信・送信可能化行為該当の要件となる「公衆」という概念は、法上、行為者から見て相手方が不特定人である場合の当該不特定人を意味するほか、特定かつ多数の者を含むから、控訴人商品の設置される集合住宅の入居者が特定人に該当するとすれば、多数である場合に「公衆」に該当し、そうでなければ「公衆」に該当せず、公衆送信・送信可能化行為に当たらないこととなるところ、前記のとおり、少なくとも24戸以上の入居者が使用者となる場合は「公衆」に該当して必ず公衆送信・送信可能化権の侵害が生じ、その限度では、控訴人商品は、少くとも、使用の都度、常時、被控訴人ら著作隣接権者の有する送信可能化権侵害が発生するいわゆる侵害専用品といい得るが、当該戸数に至らない場合、控訴人商品の使用態様、条件によっては、公衆送信・送信可能化権を侵害しない場合もあり得る。
 一方、前記したところによれば、控訴人商品は、集合住宅向けに販売してこれをその本来の用途に従って使用すれば、上記「公衆」該当の如何に関わらず、必ず複製権侵害が発生する物、少なくとも、使用の都度、常時、被控訴人ら著作隣接権者の有する複製権侵害が発生する、いわゆる侵害専用品といい得る物である。
 我が国のような自由市場においては、すべての取引はこれを行う当事者の自由な創意、工夫にゆだねられ、これにより経済の発展が図られるとの理念の下に経済社会の運営が行われているところ、その一方、取引当事者は、秩序ある公正な市場での適切かつ公正な競争を維持する責任を負っているというべきであり、知的財産権の重要性を考慮すると、絶対権である知的財産権のいわゆる侵害専用品は、通常の流通市場において取引の対象とするのが不相当の物といえる。
 そして、前記のとおり、控訴人商品の構成上、その販売が行われることによって、その後、ほぼ必然的に入居者による被控訴人らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であるところ、裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しい。
 したがって、法112条1項、2項により、被控訴人らは、少なくとも、著作隣接権に基づき、複製権侵害を理由に侵害行為の主体といえる控訴人に対し、規範的には、その侵害の差止めを求めることができ、具体的には控訴人商品の販売により同入居者に同商品使用による放送番組の録画をさせてはならない旨求めることができるものと解するのが相当である。
 もっとも、著作権に基づく同様の差止め請求は、被控訴人らの著作権のある放送番組が常時放送されているといえない以上、控訴人商品が同著作権についての侵害専用品とはいえないので、控訴人商品の販売により同商品を使用させてはならない旨を命ずることが著作権のない番組を含めたすべての番組に関する差止めを認めることとなり、被控訴人らに過大な差止めを得させることとなり、不相当であるから、認めることができない。
 一方、個々の著作権のある放送番組を個々に特定してその複製行為、公衆送信・送信可能化行為そのものの差止めを控訴人に求めることは、前記のとおり、控訴人がこれを現実になし得る直接的手段を有しない以上、認められない。
 そして、被控訴人らの求める著作隣接権及び著作権に基づくその余の差止め請求は法112条1項に照らし、認められない。
 次に、被控訴人らは、法112条1項の類推適用を主張するが、その主張するところは、侵害主体性の根拠としていうところと大差なく、仮に同条項の類推適用が肯定されるとしても、上記のとおり、同条項に基づく差止め請求の可否につき説示したことと異なる結論を導くこととならない。
(2) 差止めの地理的範囲について
ア ところで、被控訴人らの請求は、現に、被控訴人らの著作権等が侵害され、侵害されるおそれのある限りで認められるべきであるから、被控訴人らの放送番組が放映されない地域においては、差止めを求めることができないことはいうまでもない。したがって、その地理的範囲は、被控訴人らによるテレビ放送が行われている地域、すなわち、被控訴人らが行うテレビ放送を受信することができる地域に限られる。
 この点について、被控訴人らは、第三者の著作権等のみが侵害される場合であっても、被控訴人らにおいて、保存行為としてその妨害排除等が認められるべきであるとも主張しているが、著作権に基づく上記差止め請求が認められないことは上記のとおりである上、法117条が、共同著作物である場合その他著作権の共有の場合について、各共有著作権者が単独で法112条の差止請求権を行使できる旨規定している趣旨等に照らせば、少なくとも著作権を共有する放送番組が放送されている場合でなければ差止め請求はできないものと解するのが相当であり、同主張は採用できない。
イ そこで、被控訴人らの請求が認められる地理的範囲について検討する。
 放送普及基本計画(昭和63年郵政省告示第660号)においては、一般放送事業者の地上波テレビ放送の放送系の数は、近畿放送圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県)を放送対象地域とした広域放送系については4と、大阪府を放送対象地域とした県域放送系については1と、それぞれ定められている。そして、甲2の1・3・5及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人毎日放送、同関西テレビ、同朝日放送及び同讀賣テレビは、放送普及基本計画にいう近畿放送圏を放送対象地域とした広域放送系の放送局の設置者、被控訴人テレビ大阪は、大阪府を放送対象地域とする県域放送系の放送局の設置者であると認められる。
 甲2の1・3、A2、B9、C2、D2によれば、被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビの行う地上波テレビ放送は、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の全域及び徳島県の東側の一部地域等で受信することができるものと認められる。
 もっとも、上記地域のうち、徳島県の東側の一部地域等の、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県以外の地域については、元来上記被控訴人らの放送対象地域ではなく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定することができない。
 したがって、上記被控訴人ら4社については、その請求を認めることができる地域としては、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県を限度として認めるのが相当である。
ウ これに対し、被控訴人テレビ大阪については、甲2の5、E2によれば、そのテレビ放送は、大阪府の全域及び兵庫県等の一部地域で受信することができるものと認められる。
 もっとも、上記地域のうち、兵庫県等の一部地域の、大阪府以外の地域については、元来、大阪府を放送対象地域とする県域放送系である上記被控訴人による放送の放送対象地域ではなく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定することができない。
 したがって、上記被控訴人については、その請求を認めることができる地域としては、大阪府を限度として認めるのが相当である。
エ 以上のとおりであるから、控訴人に対し、控訴人商品の販売差止めを請求することのできる地理的範囲は、被控訴人毎日放送、同朝日放送、同関西テレビ及び同讀賣テレビについては、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各府県内に、被控訴人テレビ大阪については、大阪府内に、それぞれ限られるものというべきである。
オ なお、被控訴人らは、系列局等との放送許諾、番組販売により、本来の放送地域の外でも被控訴人らを著作者とする一部の番組が放送されていると主張するが、著作権に基づく上記差止め請求が認められない以上、採用できない。
(3) 廃棄請求については、上記差止め行為の内容に鑑み、ことがらの性質上、相当でないというべきであるから、認められない。
8 争点(9)(当審反訴請求)について
 控訴人の反訴請求に係る本判決別紙物件目録記載の物品は、差止めの当否が争われている控訴人商品そのものであるから、別途同一の製品について差止請求権不存在確認を求めることは、二重起訴の禁止に該当し、不適法である。
9 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、上記認定、判断を覆すほどのものはない。
第4 結論
 以上のとおりであるから、被控訴人らの請求は、控訴人に対し、本判決主文記載の限度でこれを認容すべきところ(その余の請求は理由がない。)、これと結論を一部異にする原判決を、本件控訴及び附帯控訴に基づき、上記主文記載のとおり変更するとともに、その余の請求を棄却し、反訴請求をいずれも却下することとする。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 若林諒
 裁判官 小野洋一
 裁判官 菊地浩明


(別紙) 商品目録
1.商品の名称選撮見録
2.商品の種類集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム
3.下記の構造・機能を有するもの
 記
 テレビ放送受信用チューナー及びテレビ放送番組録画用ハードディスクと利用者操作用ビューワー(複数個)を備え、少なくとも、各利用者のビューワーから1局又は複数局の一定期間の放送番組すべてを録画するように予約する「全局予約モード」を有し、複数のビューワーからサーバーへの指示によって自動的に再生される構成のもので、1つの放送番組についての音及び影像の情報が1サーバーにおいては1つしか記録されないようになっているもの。
 以上
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