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【事件名】商標“ジュウルイノアシアト”侵害事件(2)
【年月日】平成19年6月13日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件
 (平成19年4月23日 口頭弁論終結)

判決
原告 ジャック ウルフスキン アウスルスタング ヒユア ドローセン ゲゼルシャフト ミツト ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンデイト ゲゼルシャフト アウフ アクチエン
同訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 木村育代
同訴訟代理人弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト
同 山崎和香子
被告 ザ ボイズ コレクション リミテッド
同訴訟代理人弁理士 恩田博宣
同 木村達矢
同 恩田誠
同 本田淳


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2004−89001号事件について平成17年10月17日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、後記商標につき、平成13年5月25日に登録出願をし、平成14年3月22日に商標登録第4554584号として登録を受けた(甲5の1。以下「本件商標」という。)。
 本件商標は、別紙審決書の写し中の別掲(1)記載のとおりの構成からなり、その指定商品は、商標登録原簿(甲5の1)記載のとおりである。
 原告は、平成16年4月2日付けで商標登録の無効審判を請求をし、特許庁は、平成17年10月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年10月28日、審決の謄本が原告に送達された。
2 審決の内容
(1) 審決の内容
ア 別紙審決書の写しのとおりである。要するに、本件商標は、後記引用商標と類似し又は引用商標と混同のおそれがあるとはいえないから、商標法4条1項11号、10号、15号に違反して登録されたとはいえない、とするものである。
イ 審決の「判断」部分の要旨は、以下のとおりである。
(ア) 商標法4条1項11号の該当性について
@ 本件商標は、別掲(1)(別掲図柄は判決においても同じ)のとおり、歯車様の黒塗り円図形(以下「歯車様黒塗り円図形」という。)内に、白抜きの楕円の点を連ねた綱様の円輪郭(以下「白抜き綱様円輪郭」という。)を配し、さらに、該白抜き綱様円輪郭内に、白抜きの山形図形を配し、その上部に5つの白抜き縦長楕円形を該白抜きの山形図形の凸部に沿うように並べてなるのものであり、これらの白抜きの山形図形及び5つの白抜き縦長楕円形は、全体として、獣類の足跡を表したと理解させるものといえる(本件商標中の上記白抜きの山形図形及び5つの白抜き縦長楕円形を合わせ、以下「本件足跡様図形」という。)。
 引用商標は、別掲(2)(別掲図柄は判決においても同じ。)のとおり、黒塗り山形図形を配し、その上部に4つの黒塗り縦長楕円形を該黒塗り山形図形の凸部に沿うように並べ、さらに、これら4つの黒塗り縦長楕円形の図形の上部には、それぞれ小さな黒塗り三角形を配してなるものであり、全体の図形は、仮想垂直線より右方向に約45度の傾きをもって描いてなるものである。そして、引用商標は、構成全体をもって、爪を有する獣類の足跡を表したと理解させるものといえる。そうすると、本件足跡様図形と引用商標は、いずれも獣類の足跡を表したと理解させるものと認めることができる。
A 本件商標は、その構成中の歯車様黒塗り円図形及びその内部に配された白抜き綱様円輪郭は、極めて看者の注意を惹く態様よりなるものであり、本件商標に接する取引者又は需要者がこれらの構成要素を無視して、本件足跡様図形のみに印象づけられるとみることはできない。よって、本件商標は、その構成中の本件足跡様図形のみに看者の注意が強く惹かれるものではなく、構成全体の特異性をもって、看者に印象づけられるものであるから、これより特定の称呼、観念は生じないというのが相当である。
 他方、引用商標は、全体として、爪を有する獣類の足跡を表したと理解させるものといえるから、これより「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念を生ずるものというのが相当である。
 したがって、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念において比較することができない。
B 本件商標と引用商標の外観についてみるに、本件商標は、構成中のいずれかの部分のみが独立して把握、認識されるものではなく、構成全体をもって一つの商標を表したと認識されるものであり、また、本件足跡様図形が白抜きで描かれているのに対し、引用商標は、黒塗りで描かれていること、小さく描かれているとはいえ、看者の印象に強く残る爪を有することなどの差異を併せ考えれば、両商標を時と所を異にして離隔的観察した場合においても、外観上互いに紛れるおそれはないというべきである。
 したがって、本件商標と引用商標とは、称呼、観念及び外観のいずれの点においても非類似の商標というべきであるから、本件商標の登録は、商標法4条1項11号に違反してされたものではない。
(イ) 商標法4条1項10号及び同項15号の該当性について
 請求人(原告)は、引用商標と同一の構成よりなる商標(以下「引用標章」という。)又は引用標章と「Jack Wolfskin」の文字を結合させた商標をアウトドア関連商品に使用し、関東地方、東北地方、北海道等において販売活動をし、かつ、アウトドア関連の雑誌に宣伝広告をしていた事実を認めることができ、引用標章は、請求人(原告)の取扱いに係るアウトドア関連商品を表示するためのものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、この種商品分野の取引者又は需要者の間では広く認識されていたものと認め得る。
 しかし、本件商標と引用商標とは、互いに紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異の商標として印象づけられるものであるから、本件商標に接する取引者又は需要者は、これより引用標章を想起又は連想することはない。
 そうすると、本件商標は、これをその指定商品について使用しても該商品が請求人(原告)若しくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれのない商標といわなければならない。
 したがって、本件商標の登録は、商標法4条1項10号及び同15号に違反してされたものではない。
(2) 引用商標
 引用商標は、@昭和63年6月30日に登録出願され、登録第2324652号として登録されたもの(甲5の2)、及びA昭和63年6月30日に登録出願され、登録第2329483号として登録されたもの(甲5の3)の2つである(以下併せて「引用商標」という。)。いずれも、別紙審決書の写し中の別掲(2)記載のとおりの構成からなり、その指定商品は、商標登録原簿(甲5の2、3)記載のとおりである。
第3 原告主張の取消事由
 以下のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても非類似の商標というべきであるとした審決の判断には誤りがある。
1 商標法4条1項11号の該当性について
(1) 外観について
ア 本件商標の構成中、歯車様黒塗り円図形及び白抜き綱様円輪郭は単なる背景又は装飾部分として認識される。これに対して、黒塗りの図形に白抜きで表わされた足跡様図形は、本件商標の中で際だって目立つ態様で表わされており、本件商標の構成中で唯一、「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念を生じる部分であるから、本件足跡様図形は本件商標の要部といえ、看者は専らこの部分に印象づけられる。
 したがって、審決が、本件商標について、足跡様図形のみが独立して把握、認識されるものではなく、構成全体をもって1つの商標を表わしたと認定、判断した点には誤りがある。
イ また、商標における図柄の形状が類似している場合に、黒白の色彩が相反することのみをもって、外観の類似性を否定することはできない。
 したがって、審決が、本件商標が白抜き、引用商標が黒塗りであるという色彩の相違をもって取引者又は需要者が両商標を識別できると認定、判断した点には誤りがある。
ウ さらに、本件商標と引用商標を離隔観察した場合、外観上、最も看者に強い印象を与えるのは、山形図形を配し、その上部に縦長楕円様図形を山形図形の凸部に沿うように並べてなり、一見して獣類の足跡と認められる点であるから、色彩の相違や爪の有無のような細部は捨象される。
 したがって、審決が、本件商標と引用商標は、爪を有することなどの差異により、外観上互いに紛れるおそれはないと認定、判断した点には誤りがある。
(2) 称呼及び観念について
ア 本件商標
 本件商標の足跡様図形は、白抜きの山形図形を配し、その上部に5つの白抜き縦長楕円形を当該白抜き山形図形の凸部に沿うように並べられたものであり、中央下部の山形図形は獣類の足裏の肉瘤を、その凸部に沿うように並べられた変形楕円形は足指を表わしたかのように看取され、全体として獣類の足跡を連想、想起させる。これに対し、本件商標の「歯車様円輪郭」及び「白抜き綱様円輪郭」は、図形等を装飾するのによく用いられるありふれた図形であり、単なる輪郭・背景にすぎないので、識別力はなく、これらに看者が関心を向ける特異性はないし、特段の称呼及び観念を生ずることはない。
 そうすると、本件商標において、一般の取引者又は需要者は、中央下部に山形図形を配し、その凸部に沿うように縦長楕円形が複数並べられた図形に注目するのであって、同図形から「獣類の足跡」を看取する。
 したがって、本件足跡様図形からは、「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念を生ずる。
イ 引用商標
 引用商標からは、「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念を生ずる。
 イヌ、ネコ、クマ、イタチ等の獣類、すなわち、獣の足跡は、その足裏の構造上、中央下部に山形の肉瘤の跡がつき、その山形図形の凸部に沿うように縦長楕円形の足指の跡がつくという特徴を持つ(甲8)。一般の人々は、ペットやテレビ映像により実際の動物を見たり、図鑑等書籍の挿絵に触れたりするなどして、日常生活において何らかの形で獣の足跡に接している。そのため、中央下部に山形図形を配し、その凸部に沿うように縦長楕円形が複数並べられた図形を見た場合、いかなる動物の足跡かを区別することはできないとしても、獣すなわち獣類の足跡であると認識する。
 引用商標は、中央下部に黒塗り山形図形を配し、その上部に4つの黒塗り縦長楕円形を当該黒塗り山形図形の凸部に沿うように並べているため、中央下部の山形図形は獣類の足裏の肉瘤を、その凸部に沿うように並べられた変形楕円形は足指を表わしたかのように看取され、全体として獣類の足跡を連想、想起させる。
ウ 対比
 したがって、本件商標と引用商標は、観念、称呼において共通する。
 この点に対し、被告は、引用商標からは「強く凶暴な野生のけもの」という観念を生じ、本件商標からは「愛らしくかわいい愛玩動物」という観念が生じ、観念において相違すると主張する。しかし、「強く凶暴な野生のけもの」、「愛らしくかわいい愛玩動物」の相違は、主観的な印象であり根拠にも基づくものではなく、愛玩する目的で飼うイヌやネコも爪を持つことに鑑みると、「強く凶暴な野生のけもの」、「愛らしくかわいい愛玩動物」という観念の相違は生じない。
(3) 指定商品の同一性
 本件商標の指定商品のうち、「第20類クッション、座布団、まくら、マットレス」及び「第25類被服」は、引用商標のうち、第2329483号の指定商品と同一であり、「第25類履物」には、引用商標のうち、第2329483号の指定商品と同一である。
2 商標法4条1項10号及び同条1項15号の該当性について
(1) 引用商標の周知性
 引用商標の周知性は本件審決が認めるとおりである。
(2) 商標の類似性
 本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念において類似する互いに相紛らわしい商標であるから、本件商標に接した取引者又は需要者がその出所として原告を想起する可能性は高い。
(3) 商品の同一性
 本件商標の指定商品のうち、「第20類クッション、座布団、まくら、マットレス」以外の商品、第25類の「被服、履物」以外の商品、及び第16類、第28類の商品に使用されれば、本件商標と引用商標の類似性及び引用商標の周知性に鑑みて、原告の商品との関連において出所につき混同が生ずるおそれは否定できない。
第4 被告の反論
 以下のとおり、審決のした認定、判断に誤りはない。
1 商標法第4条1項11号の該当性について
(1) 外観について
 本件商標中の、歯車様黒塗り円図形とその円図形の内部に白抜き綱様円輪郭を組み合わせて二重円様とした構成は決してありふれたものではない。外側の黒塗り円図形と内部の白抜き綱様円輪郭と楕円図形とは、色彩(白黒)によってコントラストが付けられており、バランスよく調和し、全体として統一感をもった図形であると看取される。
 したがって、歯車様黒塗り円図形及び白抜き綱様円輪郭がありふれた図形であるから、看者は専ら内部に配された図形のみに印象づけられるとする原告の主張は、失当である。
 また、引用商標中の爪は、各縦長楕円様図形の先端にそれぞれ4つ配されており、この爪の図柄部分は引用商標の印象を特徴づける極めて重要な要素であるといえるから、爪の有無は、本件商標と引用商標の相違を際だたせる。
 したがって、本件商標も引用商標も、一見して獣類の足跡と認められる点で共通し、色彩の相違や爪の有無のような細部は捨象されるとする原告の主張は、失当である。
 以上のとおりであって、本件商標と引用商標は、外観において相違する。
(2) 称呼について
 一般に、簡易迅速を尊ぶ取引の現場において、通常の取引者又は需要者が「ジュウルイノアシアト」というような冗長かつ不自然な称呼をもって称呼することは考えられない。
 本件商標は、歯車様黒塗り円図形及び白抜き綱様円輪郭の内部に複数個の不整形の楕円を組み合わせた抽象的な図形であり、一種の幾何学図形と認識されるものであり、特定の称呼は生じない。また、足跡様図形は、極めて抽象的な不整形の複数個の楕円からなり、一種の幾何学図形と見られるものであって直ちに動物の足跡とは看取できない。本件商標中の楕円図形から特定の称呼が生じることはない。
 引用商標は「爪を有する獣類の足跡」を表したと理解させるものであることは認められるが、「爪を有する獣類の足跡」とは極めて漠然とした概念であり、これに相応する称呼は生じない。よって、本件商標から特定の称呼は生じない。
(3) 観念について
 本件商標は、歯車様黒塗り円図形及び白抜き綱様円輪郭の中心に複数個の抽象的な不整形の楕円が配されてなる。また、本件商標の中心に配された図形は、極めて抽象的な不整形の複数個の楕円からなり、「爪跡」もなく、上記特徴は全く見出せないから、本件商標は、獣類の足跡とは認識されることはない。本件商標から特定の観念が生じることはない。
 引用商標は「爪を有する獣類の足跡」を表したと理解させるものであることは認める。しかし、「爪を有する獣類の足跡」は極めて漠然としていて、識別標識たり得る固有の観念は生じない。
 仮に、本件商標及び引用商標から何らかの観念が生じるとしても、爪跡の有無により、引用商標からは「強く凶暴な野生のけもの」との観念が生じ、本件商標からは「愛らしくかわいい愛玩動物」との観念が生じるので、引用商標と本件商標とは観念において相違する。
2 商標法4条1項10号及び15号の該当性について
(1) 引用商標の周知性
 引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時においてアウトドア関連商品の分野の取引者又は需要者の間で広く認識されていた事実はない。
 また、商標法4条1項15号の規定は、引用商標(引用標章)に係る商品と無効審判の対象とされた登録商標の指定商品との類似性を要件としていないことに照らすならば、引用商標(引用標章)は、商標法4条1項10号所定の「広く認識されている」ことを超える要件が必要であると解すべきところ、引用商標(引用標章)が登録出願時及び登録査定時に「広く認識されていること」を超える周知性があったとはいえない。
(2) 本件商標と引用商標との類似性
 仮に引用商標が一部商品について、「広く認識されていること」を超えるものがあったとしても、本件商標と引用商標とは、上記のとおり非類似であって、別異の商標として印象づけられるから、本件商標を引用商標の指定商品に使用しても出所の混同が生ずるおそれはない。
第5 当裁判所の判断
1 商標法4条1項11号の該当性について
 本件商標が商標法4条1項11号に該当性しないとした審決の認定、判断に誤りはない。その理由は、以下のとおりである。
(1) 本件商標について
ア 構成
 本件商標は、別紙審決書の写し中の別掲(1)記載のとおり、歯車様黒塗り円図形の内部に白抜き綱様円輪郭を配置し、さらにその白抜き綱様円輪郭の中に足跡様図形を配置し、足跡様図形は、白抜きの不整形の山形図形とその凸部に沿うように5つの白抜きの縦長楕円様図形が並べてなるものである。
イ 外観、観念及び称呼
 (外観)本件商標では、足跡様図形は白抜きで、縦長楕円様の図形が5つ並んでいること、歯車様黒塗り図形及び白抜き綱様円輪郭が足跡様図形を囲んでいること、外側図柄の占める面積は中央部分の図形より、はるかに大きいことという点で外観上の特徴がある。
 (観念)本件商標は、その中央の足跡様図形を取り囲む歯車様黒塗り図形及び白抜き綱様円輪郭は、格別の観念を生ずるものではないが、強いていえば、「歯車」あるいは「円状の物体が破裂した状況」などを連想させる。中央の図形のみに着目するならば、「動物の足跡」の観念を生じる余地がないではないが、外側の図形を含めて図形全体からどのような観念が生じるかを検討すると、@円状の図形が中央の図形と比べて極めて広い面積を占めていること、A外側の歯車様図形には装飾が施され、歯車のような印象を与えていること、B中央の足跡様図形は、丸みを帯びて、抽象化されて描かれていること、C外側の図形の存在が、機械的、無機質的な印象を与えるため、中央の図柄に注目したとしても「垂直上方に進む動物が残した1足の足跡」との観念を抱かせることに大きな障害があるといえること等を総合すると、本件商標を看た者が、確定的に動物の足跡と観念することはないと理解するのが相当である。
 (称呼)本件商標は、上記のとおり、動物の足跡を連想させる余地もあるものの、なおかつ、それを取り囲む歯車様黒塗り図形及び白抜き綱様円輪郭と併せると一体の図形としては何らの称呼も生じさせることはない。
(2) 引用商標について
ア 構成
 引用商標は、別紙審決書の写し中の別掲(2)記載のとおり、黒塗り図形で、@中央下部に丸みのある不整形の山形図形、Aその上部に上記山形図形の凸部に沿うように4つの縦長楕円様図形、Bその先に4個の丸みのある二等辺三角形の図形から構成され、これらの図形はいずれも右斜め上方約45度の角度で配置されている。
イ 外観、観念及び称呼
 (外観)引用商標では、黒塗りで右斜め上方45度に傾けられて描かれていること、縦長楕円様図形が、また、その先に二等辺三角形の図形が、それぞれ4つ描かれている。
 (観念)引用商標では、不整形の山形図形、4つの縦長楕円様図形及びそれに対応する4つの二等辺三角形を併せると、全体として爪のある獣の足跡との観念を生じる。
 (称呼)引用商標では、取引実務において、爪のある獣の足跡という観念に相当する的確な称呼は生じない。
(3) 本件商標と引用商標との類否
ア 以上を前提として本件商標と引用商標を対比する。@外観について、後述イのとおり、本件商標の足跡様図形のみと引用商標とを対比したとしても、本件商標は、引用商標と異なるのみならず、本件商標の全体形状(足跡様図形の周りに歯車様黒塗り図形及び白抜き綱様円輪郭が設けられている形状)と引用商標とを対比するならば、両者は明らかに異なること、A観念について、前記のとおり、引用商標からは「爪のある獣の足跡」を観念できるが、本件商標からは動物の足跡を観念できず、B称呼について、本件商標には何らの称呼も生じないので対比できないこと、との点を総合すれば、本件商標と引用商標とは類似しない商標ということができる。
イ これに対して、原告は、本件商標と引用商標を離隔観察した場合、外観上、最も取引者又は需要者に強い印象を与えるのは、山形図形を配し、その上部に縦長楕円様図形を山形図形の凸部に沿うように並べてなり、一見して獣類の足跡と認められる点にあり、この部分によって商品の出所を識別するのであって、色彩や爪の有無のような細部は捨象されると主張する。
 しかし、引用商標は、「右斜め上方に向いた爪のある獣の足跡」と明白に認識できる独特の形状から構成されているのに対して、本件商標は、中央部に配置された山形図形と5つの縦長楕円様図形と外側に配置された歯車様の図形から構成されるものであり、中央の図形は全体的に丸みを帯びたものであって、引用商標と本件商標(全体に着目した場合及び中央の図形に着目した場合のいずれも)の相違は決して微細なものとはいえない。取引者又は需要者が本件商標と引用商標を離隔観察した場合、各図形の向き、縦長楕円様図形の有無、上記色彩や二等辺三角形の図形の有無等を総合して観察した場合に、本件商標と引用商標との間において、商品等の出所を識別するに足りるほどに相違しているというべきである。原告の上記主張は理由がない。
2 商標法4条1項10号及び15号の該当性について
 前記1で認定判断したとおりの理由から、本件商標と引用商標とは類似しているとはいえないので、他の要件の存否について判断するまでもなく、商標法4条1項10号に該当するとはいえない。また、同様に、前記1で認定したとおりの理由から、本件商標と引用商標において、引用商標の指定商品等の取引者又は需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標と引用商標(引用標章を含む。)とはその出所を区別することができ、混同(広義の意味での混同を含む。)を生ずるおそれがあるということはできず、他の要件の存否について判断するまでもなく、商標法4条1項15号に該当するとはいえない。
 なお、被告が本件商標の一部分を使用したりするなど、本件商標の使用態様を変更すること等によって、原告商品との出所の混同を来すような場合があるとすれば、これに対する救済は別途の手段によりされるべきであって、審決のした判断の違法性の有無に消長を来すものとはいえない。
3 結論
 以上に検討したところによると、原告の請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 三村量一
 裁判官 上田洋幸
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