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【事件名】キャッチコピー“大メーカーに真似されました”事件
【年月日】平成19年6月11日
 大阪地裁 平成18年(ワ)第5437号 信用回復措置等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成19年4月10日)

判決
原告 株式会社タニグチ
訴訟代理人弁護士 飯島歩
同 栗山貴行
補佐人弁理士 横井知理
被告 有限会社北川自動車商会
訴訟代理人弁護士 加藤静富
同 宮田逸江


主文
1 被告は、次の刊行物に各1回ずつ、別紙謝罪広告目録記載の文案により、被告会社名と被告代表取締役名は4号活字、その他の部分は5号活字を使用した広告を掲載せよ。
(1) ジムニースーパースージー(芸文社)
(2) ジムニープラス(株式会社アイディグラフィクス)
2 被告は、原告に対し、170万円及びこれに対する平成18年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを5分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、次の刊行物に各1回ずつ、別紙謝罪広告目録記載の文案により、被告会社名と被告代表取締役名は4号活字、その他の部分は5号活字を使用した広告を掲載せよ。
(1) ジムニースーパースージー(芸文社)
(2) ジムニープラス(株式会社アイディグラフィクス)
(3) ジムニー天国(学習研究社)
2 被告は、原告に対し、1500万円及びこれに対する平成18年6月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告のした広告が、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たるとして、原告が、不正競争防止法2条1項14号、4条、14条に基づき、損害賠償と信用回復措置を求める訴訟である。
 なお、本件と併合して、原告から、被告がもと有していた実用新案登録第3119345号(平成17年12月7日出願、平成18年2月1日登録)の実用新案権の侵害に基づく損害賠償債務の不存在確認を求める訴えが提起されていたが、上記実用新案登録を無効とする審決が確定し、訴え取下げにより終了している。
1 基礎となる事実
(1) 原告及び被告は、いずれもスズキ株式会社が製造する軽四輪自動車ジムニー(以下「ジムニー」という。)のアフターマーケットパーツ(交換用部品)の開発・製造・販売を営んでいる会社であって、ジムニーの交換用部品市場において需要者を共通とする関係にある。原告は、上記市場では大手である。
(2) 原告は、ジムニー用リーフスプリング(重ね板バネ)の交換用部品の新製品として、「無双懸架」を平成18年3月から販売し始めた(以下、この販売されている製品を「原告製品」という。)。
(3) 被告は、平成18年2月15日発売の「ジムニープラス」(株式会社アイディグラフィクス)第8号において、「タニグチさんも認めた!○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです!」、「大メーカーに真似されました。」という文言を記載した広告(以下「本件広告@」という。)を、平成18年4月15日発売の「ジムニープラス」(株式会社アイディグラフィクス)第9号、平成18年3月9日発売の「ジムニースーパースージー」(芸文社)2006年4月号及び平成18年5月9日発売の「ジムニースーパースージー」(芸文社)2006年6月号において、いずれも「あのタ○グチさんも認めた高性能!」、「大メーカーに真似されました。」という文言を記載した広告を掲載した(以下「上記「ジムニープラス」第9号の広告を「本件広告A」、「ジムニースーパースージー」2006年4月号の広告を「本件広告B」、「ジムニースーパースージー」同年6月号の広告を「本件広告C」といい、本件広告@ないしCをまとめて「本件広告」という。)。
(4) リーフスプリングは、板バネ数枚を重ねたものである(以下、板バネのうち最も長いものを「親板バネ」、それ以外のものを「子板バネ」といい、子板バネのうち、親板バネの次に長いものを「2番子板バネ」、親板バネを含めて3番目に長いものを「3番子板バネ」の如く長さの順位を付していう(したがって子板バネに「1番」は存在しない。)。)。原告製品は、板バネ数枚を左右非対称に重ねた形態を有する。
(5) 被告は、平成9年に、板バネ数枚を左右非対称に重ねた形態を有するリーフスプリング(以下「被告製品」という。)について雑誌に発表し、そのころから、被告製品を販売している。(被告の発表時期について乙1)
2 争点
(1) 本件広告が虚偽の事実を告知するものか。
ア 原告の主張
(ア) 本件広告中の「タニグチさんも認めた!○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです。」、「大メーカーに真似されました。」、「あのタ○グチさんも認めた高性能!」は、原告製品が被告製品を模倣したものであるという趣旨である。
 原告製品は、信頼性の高さや純正品にはないバネの特性などにおいて独自のノウハウや付加価値を有するものの、リーフスプリングの基本的な形状・構造においては従来公知であった方法を使用して製造されており、被告のリーフスプリング製品の形状等を真似した物でもなければ、被告製品を参考にして製造された物でもない。
 被告は、左右非対称に配置された板バネの構造が被告独自のものであるかのように主張する。しかし、非対称構造の板バネは古くからある構成であり、これをジムニーに用いたからといってそこには何らの新規性もないし、原告も従来から採用していたものである。そして、かろうじて被告独自の技術とも言い得る、子板バネの偏り程度やずらし具合など具体的な最適化のあり方については、原告製品に被告の技術に依拠する部分はない。
 また、被告は、P1が行った雑誌向け取材による技術の盗取を主張するが、取材によって知り得たのは、性能向上のために非対称構造を採用しているというごく一般的事実にすぎない。バネ特性はバネの厚みや小バネの配置、使う金属材料によって全く違うものとなるから、そのような技術的事項を雑誌の取材程度によって盗取することは不可能である。また、仮に剽窃を企図するなら市場で被告製品を入手すれば済むことであるし、その気になれば車検(構造変更)に必要な構造計算書も容易に入手できるから、被告の主張は理由がない。
(イ) 「無双懸架」の形態は、発売前の広告と実際に発売された原告製品とでは若干異なる。これは、発売前の広告においては、原告製品のプロトタイプ(以下「原告試作製品」という。)の写真が掲載されたのに対し、販売された製品は、上記広告後に実施されたモニターによる試乗の結果によって更に様々な改善が加えられたものとなっているからである。
 被告は、本件広告の中で、原告の製品を発売前の広告に掲載されたものとは限定していないから、読み手は、本件広告による摘示の対象となっているのは、発売前の広告に記載された試作製品などではなく、現に販売されている原告製品であると考えるのが通常である。
 被告は、原告試作製品と被告製品は小バネの入れ方が似ていると主張する。しかし、被告は、特許権や実用新案権等の技術的な独占権がないことを実質的に自白しているから、被告の主張は、技術的構成の対比を目的とするものではない。そして、被告が外観の類否を問題とするのであれば、あくまで製品の外観を問題とすべきであって、技術的観点から製品の構成の一部を抽出して比較するのは不当である。外観の類否は、技術的分析に基づく製品の構成の対比によるのではなく、需要者から見た製品の外形を総合的に考慮すべきである。製品の外形を総合的にみると、原告試作製品も、被告製品とは、ミリタリー巻きの有無、結束バンドの構成、テーパー加工の有無などの点で大きく異なることは明らかである。要するに、被告は、独自の論理に基づいて、両製品の同じ部分だけを取出し、「同じだ」と主張しているにすぎない。
イ 被告の主張
(ア) ジムニー用のリーフスプリングにおいては、子板バネを一端側に偏在させ、非対称とする形態は、決して一般的な技術でもなければ、基本的な構成でもない。一般的なリーフスプリングは、中央線から左右対称、つまり車体に取り付けた状態でいえば前後対称となっている。ところが、専らオフロードを走ることを目的とするジムニーの場合、路面の凹凸により、タイヤの回転方向に生じるトルクとこれに反作用する力が生じ、そのために、従前のリーフスプリングを使用した場合はバネ前部がへたってしまうという問題があり、しかしバネ前部の強度を確保するために全体の強度を均一に高めると弾性が劣ってしまうという問題が生じた。被告は、この点に着目し、子板バネを親板バネの一端側に偏らせた状態で配置することで、バネ前部と後部のバネ定数を異ならせたリーフスプリングを開発した。ジムニー用のリーフスプリングで、子板バネがバネの一端側に偏った非対称のリーフスプリングは、被告が開発し、被告がジムニーの専門誌3誌その他に、継続的に「不等レートスプリング」について広告を掲載するなどの努力により、被告の販売する製品の形態・特徴として定着していたものである。
 被告は、平成16年にジムニー雑誌「ジムニー天国」の記者であったP1から、被告製品である「不等レート」リーフスプリングについての取材を受けた。ところが、P1は、上記取材後、原告に転職し、原告の企画・開発・広報の主任となった。原告は、被告の技術を取材で知ったP1が原告に入社したことを奇貨として、子板バネをバネの一端側に偏らせ、かつ子板バネのずれ具合の被告の技術とノウハウをそのまま取り込んだリーフスプリングである原告製品の製造販売に至ったものである。このように、「無双懸架」は被告製品の子板バネの配置の仕方がそっくり取り入れられているから、本件広告@の「○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです」は虚偽ではない。
 また、上記のとおり、原告が原告製品を販売するに至った経緯、原告が被告製品の特徴である子板バネの偏置、非対称の形態をそのまま採用している点に照らすと、本件広告の「大メーカーに真似されました」との記載も真実である。
 さらに、原告が、従来の子板バネを対称に設置した形態から、非対称、偏在させる形態の採用に至ったのは、当該形態に、従来の原告製品にはない利点を認めたからである。したがって、本件広告の「あのタ○グチさんも認めた高性能!」も虚偽ではない。
(イ) 被告が摘示した事実は、「無双懸架」が被告製品と同様に、子板バネを偏らせる形態を採用した点、及び「無双懸架」の形態のうち、被告製品の特徴的形状である小バネの形態が類似することである。
 また、フロント用とリア用に2対4本あるリーフスプリングのうち、本件で問題となるのはリア用リーフスプリング(以下「リアリーフ」という。)の形状である。
 原告は、平成18年春に発売予定であった新製品「無双懸架」を、平成17年12月30日発行の雑誌「ジムニー天国2006」(以下「本件雑誌1」という。)及び平成18年2月1日発行の雑誌「4WDCRAFT 2006年冬号」(以下「本件雑誌2」という。)で発表した。被告が本件広告@を掲載した時点では、原告製品はまだ発売されていなかったから、被告は、「無双懸架」の形態を上記の各雑誌に掲載された写真から認識し特定することしかできなかった。そして、上記写真の「無双懸架」のリアリーフと被告製品のリアリーフは、@スパン(親板バネの長さ)の略中心にセンターボルトが位置し、他方、子板バネは、センターボルトを基準に徐々にピボット側にずれ、ピボット側の長さの比が、シャックル側に対し、下の子板バネほど大きくなっている点、A小バネ(最下端の子板バネ)がセンターボルトを基準にピボット側に極端に長く、シャックル側はセンターボルトに係止する長さしかない点において酷似している。
 したがって、本件広告は虚偽ではない。
(2) 被告の行為の違法性の有無
ア 被告の主張
 被告製品の開発した「不等レートスプリング」の形態ないし「不等レート」の用語は、独自の特徴と長期間の宣伝広告により、周知性を獲得するに至っている。原告は、これに類似する形態の原告製品を製造販売し、同製品の説明文中で「不等レート」との用語をそのまま用いている。原告のこれらの行為は、被告の技術ないし被告が築いた商品価値にフリーライドする行為であって、不正競争行為あるいは不法行為に該当する蓋然性の高い行為であり、被告はこれにより営業上の利益を大きく奪われている。そうである以上、原告のこれらの行為に対し、被告が本件広告に記載した程度の表現を使用することは、社会的に許容されるものであって違法性がない。
イ 原告の主張
 被告が被告製品の形態の特徴と主張する非対称バネ部分は、非対称バネとしての機能を確保するために不可欠な形態を超える形態を含まないから、被告製品の形態は不正競争防止法2条1項3号にいう商品の形態から除外され、被告に独占権はない。また、前記(1)アのとおり、非対称構造の板バネの構成を採用することは何らの新規性もなく、原告も従来から採用していたものであって、被告に独占権を有する技術はない。
 「不等レート」の語は、一般名称の単純な組合せであり、かつ、それ自体一般名称として定着している。被告は「不等レート」の用語について何らかの権利を有していると考えることはできないから、原告が「不等レート」の語を用いたとしても、不正競争行為あるいは不法行為に該当することはない。
(3) 被告の過失
ア 原告の主張
 「無双懸架」の形態は、発売前の広告(原告試作製品)と実際に発売された製品(原告製品)とでは若干異なるが、被告は、プロトタイプと最終製品の外観に変化があり得ることは当業者として当然知り得たし、また、プロトタイプが実際に販売される製品かどうか確認することも可能であった。したがって、仮に、被告がプロトタイプである原告試作製品の写真を見て最終製品であると誤信したとしても、そのこと自体が被告の過失にほかならない。
 被告は、P1の就職を根拠に剽窃の機会があったと主張するが、雑誌の取材程度では技術を剽窃できないことは前記(1)ア(ア)のとおりであり、被告の主張は、自らの軽信を自白するものである。
イ 被告の主張
 原告は、単なる偶然により同一の技術を採用したというに止まらず、被告の技術を取材したP1の採用という被告の技術を剽窃する具体的機会が存在していた。また、P1の原告入社の時期と、原告が不等レートを採用したリーフスプリングの開発を始めたと思われる時期が一致している。
 以上のような事実が重なることにより、被告は、原告が被告の不等レート技術を評価し、採用したと信じるに至ったものである。
(4) 原告の損害
ア 原告の主張
(ア) 被告による本件広告により、原告の従業員が、日本各地で行われたイベント会場等において、その参加者から「広告の記載内容は本当か」という旨の問い合わせを受け、心ない参加者からは原告製品をバッシングする発言をされたりするなど、原告製品の売上げに強い悪影響がもたらされている。本件広告により原告が販売することができなくなった原告製品の台数は、販売開始後平成18年9月までで150台となる。原告製品1台当たりの利益は2万円であるから、原告の逸失利益は300万円である。そして、本件広告の影響力は、今後も長く消えることがなく、原告の信用毀損の状態が続くことになり、さらに、原告は独自の信用回復努力も継続しなければならないからその出費も相当のものとなる。これらの状況からすれば、本件広告による原告の損害は、1000万円を下ることはない。
(イ) 本訴追行のための弁護士費用は500万円が相当である。
イ 被告の主張
 原告製品は新製品であり、従来の実績はなく、販売予測にも根拠がない。被告製品の販売数は上昇したが、原告製品の売上げが不振であることとの間に因果関係はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(虚偽の事実の告知)について
(1) 本件広告
 証拠(甲1ないし4)によれば、次の事実が認められる。
ア 本件広告@
 本件広告@には、枠で囲んだ中に太字で「タニグチさんも認めた!○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです!」、小さく細字で「以前よりあったベルリン巻きを当社がいち早く導入!・・・しかしベルリンの名だけで安い他社製品を買い、・・・ベルリンもたいした事はない”と思われるのも心外です。実はキタガワリーフの真価は『不等レート』にあるのです。その時間と苦労をかけた不等レートが大メーカーに真似されました。不等レートの小バネの入れ方は当社独自のデザインです。なお、不等レート・・・は実用新案申請済みです。」、大きく太字で「不等レート・類似品対策キャンペーン!」、「フロント用ベルリン巻き」、「リア用不等レート」との記載があり、被告製品の写真が掲載されていることが認められる。上記事実によれば、本件広告@は、被告製品のリアリーフが「不等レート」であり、それは被告が時間と苦労をかけて作り出した価値のあるものであって、原告製品は、被告製品を真似したものであるとしているものということができる。そして、その「不等レート」は実用新案申請済みというのであるから、被告は、知的財産法等の権利の侵害を問題にしていることを示唆しているものとも理解される。
 ところで、「真似」をしたとは、「模倣」したということであり、「模倣」とは、「自分で作り出すのではなく、すでにあるものをまねならうこと。他者と類似あるいは同一の行動をとること。」(新村出編・広辞苑第5版)である。したがって、本件広告@は、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフの形態に依拠して、これと同一ないし類似の形態とした商品であるという事実を告知するものと認められる。また、「タニグチさんも認めた!○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです!」は、原告製品が被告製品と小バネの入れ方がそっくりであることを原告も認めたという事実の告知と読まれるように思われる。
イ 本件広告A、B
 本件広告A、Bには、枠に囲んだ中に太字で「あのタ○グチさんも認めた高性能!」とし、小さく細字で「以前よりあったベルリン巻きを当社がいち早く導入!・・・しかしベルリンの名だけで安い他社製品を買い、・・・ベルリンもたいした事はない”と思われるのも心外です。実はキタガワリーフの真価は『不等レート』にあるのです。その時間と苦労をかけた不等レートが大メーカーに真似されました。不等レートの小バネの入れ方は当社独自のデザインです。なお、不等レート・・・は実用新案取得(判決注・本件広告Bは「取得」の部分が「申請」となっている。)済みです。」、大きく太字で「不等レート・類似品対策キャンペーン!」、太字で「フロント用ベルリン巻き」、「リア用不等レート」との記載があり、被告製品の写真が掲載されていることが認められる。上記事実によれば、本件広告A、Bは、本件広告@と同様、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフの形態に依拠して、これと同一ないし類似の形態とした商品であるという事実を告知するものと認められる。また、「あのタ○グチさんも認めた高性能!」とは、被告製品の性能が優れているから、原告がこれを模倣したとの事実を告知するものということができる。
ウ 本件広告C
 本件広告Cには、黒字に白抜きで「あのタ○グチさんも認めた高性能!」、小さく細字で「以前よりあったベルリン巻きを当社がいち早く導入!・・・しかしベルリンの名だけで安い他社製品を買い、・・・ベルリンもたいした事はない”と思われるのも心外です。実はキタガワリーフの真価は『不等レート』にあるのです。その時間と苦労をかけた不等レートが大メーカーに真似されました。不等レートの小バネの入れ方は当社独自のデザインです。なお、不等レート・・・は実用新案取得済みです。」、太字で「フロント用ベルリン巻き」、「リア用不等レート」との記載があり、被告製品の写真が掲載されていることが認められる。上記事実によれば、本件広告Cも、本件広告@ないしBと同様、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフの形態に依拠して、これと同一ないし類似の形態とした商品であるという事実を告知するものと認められる。また、「あのタ○グチさんも認めた高性能!」とは、被告製品の性能が優れているから、原告がこれを模倣したとの事実を告知するものということができる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件広告は、子板バネだけを偏らせる形態を採用した点及び「小バネ」の形態の類似性を摘示しているにすぎないと主張する。
 しかし、本件広告は、いずれも「不等レートの小バネの入れ方」として、不等レートと小バネの入れ方を区別しつつ、「不等レート」が真似されたとした上で、「リア用不等レート」として、被告製品のリアリーフの写真を掲載しているから、これを普通に読めば、真似された「不等レート」とは被告製品のリアリーフの形態全体のことであって、「真似された」のは小バネの入れ方に限定されないと理解されるところである。
 また、本件広告@ないしBには、大きく太字で「不等レート・類似品対策キャンペーン!」との記載があり、この記載は、原告製品と被告製品の各リアリーフの部分的な共通点を問題とするものではなく、原告製品のリアリーフの全体を被告製品(リア用不等レート)の「類似品」とする趣旨であることは明らかである。
 さらに、本件広告AないしCの「あのタ○グチさんも認めた高性能!」とは、被告製品の性能が優れているから、原告がこれを模倣したとの趣旨と認識されることは前示のとおりであるが、本件広告AないしCでは、被告製品(キタガワリーフ)の真価は「不等レート」にある旨記載されていることからすれば、この文言も、原告製品のリアリーフ全体を被告製品のリアリーフの模倣品であるという趣旨の記載ということができる。
 他方、本件広告@には、「タニグチさんも認めた!○○懸架は小バネの入れ方がそっくりです!」との記載があるが、これは、「タニグチさんも」「○○懸架は小バネの入れ方がそっくり」であることを認めたとの趣旨に読まれるように思われることは前示のとおりであって、「小バネの入れ方だけがそっくりであるが、全体としては模倣ではない」との趣旨とは解されないから、上記記載は以上の認定を左右するものではない。
 なお、原告製品のリアリーフの子板バネの形態や配置が、被告製品のリアリーフの子板バネの形態や配置の模倣とは認められないことは、後記(3)ウのとおりである。
(イ) 被告は、「リーフスプリングの最下端の子板バネ、いわゆる小バネ」との表現を用いて、本件広告の「小バネ」がリーフスプリングの最下端の子板バネのみを指すかのような主張もする。しかし、「小バネ」の用語が一般に最下端の子板バネに限定されて用いられると認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙1)によれば、被告は、ジムニー関係の雑誌に「不等レートスプリングはフルバンプ等遇大な力が加わった逆反り時にも親バネが均等な円弧になるよう小バネを入れてあります。」、「へたり」として親板バネが部分的に逆に反っている図、「へたる場所をカバーする不等レート増リーフ」として親板バネと3枚の子板バネの図を各記載をしていることが認められ、上記事実からすれば、本件広告における「小バネ」とは子板バネ全般のことのように思われるところである。
(2) 被告製品と原告製品の各リアリーフの異同
 証拠(甲20の2、22の1ないし6、23、24、乙3の6ないし11)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告製品のリアリーフの形態
(ア) 長さの異なる板バネを、長い順に複数重ね合わせ、長い側(親板バネ側)を内側とする弧状をなし、親板バネの両端は円状(アイ)となっている。
(イ) 中央からややピボット側に偏った位置に各板バネを貫通するセンターボルトがあり、センターボルトを中心にみると、各板バネは左右非対称に配置されている。
(ウ) 板バネの数は5枚である。
(エ) 各板バネのセンターボルトから末端の長さは、別紙対比図の「キタガワリーフ(被告製品)」のとおり、シャックル側、ピボット側の順に記載すると、親板バネは530o、495o、第2子板バネは425o、465o、第3子板バネは300o、395o、第4子板バネは185o、295o、第5子板バネは55o、185oである。
(オ) 子板バネの先端は丸みを帯びた形状である(小バネの先端はテーパー加工している。)。
(カ) 結束バンドは、ピボット側には、子板バネのうち2番子板バネから4番子板バネの各先端付近に各1個ずつ(合計3個)設けられているが、シャックル側には存在しない。
(キ) 2番子板バネのピボット側の先端は、親板バネのアイの直前まで延びている。
(ク) 各板バネの間には、インターリーフ(リーフスペーサー)を1枚ずつ使用している。
(ケ) 板バネの厚みは、親板バネ5.97o、2番子板バネ6.06o、3番子板バネ6.02o、4番子板バネ6.01o、5番子板バネ5.97oである。
イ 原告製品のリアリーフの形態
(ア) 長さの異なる板バネを、長い順に複数重ね合わせ、長い側(親板バネ側)を内側とする弧状をなし、親板バネの両端は円状(アイ)となっている。
(イ) 中央からややピボット側に偏った位置に各板バネを貫通するセンターボルトがあり、センターボルトを中心にみると、各板バネは左右非対称に配置されている。
(ウ) 板バネの数は5枚である。
(エ) 各板バネのセンターボルトから末端までの長さは、別紙対比図の「無双懸架(原告製品)」のとおり、シャックル側、ピボット側の順に記載すると、親板バネは517o、508o、第2子板バネは455o、508o、第3子板バネは330o、395o、第4子板バネは210o、270o、第5子板バネは113o、167oである。
(オ) 子板バネの先端は、シャックル側は丸みを帯び、ピボット側は角張っている(シャックル側にのみテーパー加工が施され、ピボット側には施されていない。)。
(カ) 結束バンドは、ピボット側には、3番子板バネの先端よりややピポット側アイ寄りと、3番子板バネの先端と4番子板バネの先端の中間点よりやや3番子板バネの先端寄りと、4番子板バネの先端と5番子板バネの先端の中間付近とに各1個ずつ(合計3個)、シャックル側には、2番子板バネの先端と3番子板バネの先端の中間点よりやや2番子板バネの先端寄りと、3番子板バネの先端と4番子板バネの先端の中間点よりやや3番子板バネの先端寄りとに各1個ずつ(合計2個)設けられている。
(キ) 2番子板バネのピボット側の先端は、親板バネのアイの周囲を取り巻くような円状になっている。
(ク) インターリーフは、親板バネと2番子板バネ、2番子板バネと3番子板バネ、3番子板バネと4番子板バネの間にそれぞれ2枚ずつ、4番子板バネと5番子板バネの間に1枚使用している。
(ケ) 板バネの厚みは、親板バネ6.02o、2番子板バネ6.04o、3番子板バネ5.11o、4番子板バネ4.98o、5番子板バネ5.12oである。
ウ 共通点と相違点
 被告製品及び原告製品の各リアリーフの形態は、基本的構成態様ともいうべき上記ア、イの各(ア)(重ね板バネ)、(イ)(非対称配置)の点と、具体的構成態様ともいうべきその余の点のうち、上記ア、イの各(ウ)(板バネの数)において一致しているものの、その余の点については相違しているということができる。
(3) 模倣の有無
ア 前記(2)ア、イの各(ア)(重ね板バネ)、(イ)(非対称配置)の点について
 証拠(甲12ないし17、26)及び弁論の全趣旨によれば、前記(2)ア、イの各(ア)の形態は、重ね板バネとして必須の形態であるが、この形態と前記ア、イの各(イ)の形態の両方を備えたもの(以下「非対称重ね板バネ」ともいう。)は、1920年代には既に自動車に用いられていたこと、ばね技術研究会編「ばね」第3版(1982年刊行)には、「非対称重ね板バネ」が紹介され、「ばね定数を変えることなくばねを非対称にすると、ワインドアップに対するこわさkTは対称ばねにおけるよりも減少する」(174頁)などとして、ワインドアップ(走行方向に直角な水平軸のまわりに車体が回転する現象)に対する非対称重ね板バネの特性などが紹介されていること、非対称重ね板バネは、昭和37年にはトヨタランドクルーザーに、昭和40年代にはトヨタカローラ及び日産サニーに、昭和63年ころにはトヨタハイラックスに、それぞれ用いられていたこと、実願昭49−002225号(実開昭50−90946号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、非対称重ね板バネ(非対称度は第1図の●/●’)において、子板バネを偏らせた状態で配置することによりバネ定数を調整すること(明細書2頁、第1図、第2図、第4図)が記載されていることが認められ、以上の事実によれば、前記(2)ア、イの各(ア)、(イ)の形態は、昭和時代には既にSUV(スポーツ用多目的車。ジムニーもこれに分類できる。)を含めた自動車一般のスプリングとして周知慣用の技術であり、かつ、ありふれた形態であったことが認められる。
イ 前記(2)ア、イの各(ウ)(板バネの数)について
 証拠(甲14、26)によれば、前記アのトヨタハイラックスの非対称重ね板バネにはフロント用、リア用ともに板バネの数が5枚のものがあったこと、刊行物1には板バネの数が5枚の非対称重ね板バネ(第2図)が記載されていることが認められ、以上の事実によれば、非対称重ね板バネにおいて板バネの数を5枚とすることは、昭和時代から周知慣用の技術であり、かつ、ありふれた形態であったことが認められる。
ウ 対比
 以上の事実によれば、被告製品及び原告製品の各リアリーフの形態が共通するのは、周知慣用の技術であり、かつ、ありふれた形態である前記(2)ア、イの各(ア)ないし(ウ)の点にすぎず、それ以外の点では異なるから、両者の形態を類似するということはできないし、もとより同一でもない。したがって、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフを模倣したとはいえないものと認められる。
 なお、重ね板バネの機能は、各バネの長さ・厚さ・形状・重ね方とずらし方、結束バンドの数や位置等により様々に異なることは自明であるから、上記(2)ア、イ認定の被告製品及び原告製品のように形態上の共通点が乏しいものについて、5枚の板バネを重ねた非対称重ね板バネである(前記(2)ア、イの各(ア)ないし(ウ)の点)という以上の技術的な共通点を見出すこともできない。したがって、技術に着目しても、原告製品のリアリーフの技術は、被告製品のリアリーフの技術を模倣したとはいえないものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は、従来の非対称重ね板バネは、センターボルトが親板バネの長さの略中心にない構造のことであるのに対し、被告製品は、センターボルトが親板バネの長さの略中心にあり、子板バネのみを偏らせた技術であると主張する。
 しかし、証拠(甲14)によれば、前記アのトヨタハイラックスのフロント用板バネは、センターボルトがスパン(親板バネの長さ)の略中心に位置し、他方、子板バネは、センターボルトを基準に徐々にピボット側にずれ、ピボット側の長さの比が、シャックル側に対し、下の子板バネほど大きくなっていることが認められるから、センターボルトが親板バネの長さの略中心にあり、子板バネのみを偏らせたことも、従来の非対称重ね板バネに存在した技術及び形態というべきである。のみならず、前認定のとおり、被告製品のリアリーフも、全長1025oの親板バネに対し、センターボルトはシャックル側端から530oの位置にあるから、明確に中心から離れた場所にあるというべきであって、被告が「略中心」ということの意味も曖昧というほかはない。よって、被告の上記主張は、採用することができない。
(イ) 被告は、被告が本件広告@を掲載した時点では、原告製品はまだ発売されておらず、本件雑誌1、2に掲載された写真から認識し特定することしかできなかったから、被告製品と対比すべきは、上記各雑誌に掲載された写真であると主張する。しかし、本件広告@には、本件雑誌1、2に掲載された写真の形態を問題にしているとの記載は全くなく、同広告を普通に読めば、製品として販売される「無双懸架」(原告製品)が「真似」したものであるとの趣旨と理解されるから、本件広告@に関する被告の上記主張は採用することができない。
 のみならず、証拠(乙8、9)によれば、本件雑誌1、2の「無双懸架」(原告試作製品)の写真は、小さいものであるため各板バネの長さや細部を正確に測定できないものの(被告も、その長さが同じであるとの主張をしていない。)、リアリーフについて、結束バンドの数(前記(2)イ(カ)の点)、2番子板バネのピボット側の先端が親板バネのアイの周囲を取り巻くような円状になっている点(同(キ)の点)は明瞭に見て取れる上、本件雑誌2には「ハーフテーパー形状」(同(オ)の点)、「インターリーフは各リーフの間に2枚ずつ入る」(同(ク)の点。ただし、原告製品とは一部異なる。)、「リア6−6−5−5−5o」(同(ケ)の点)、本件雑誌1には、「シャックル側はハーフテーパーに加工」(同(オ)の点)、「バネ板厚・・・Rear・・・6−6−5−5−5o」(同(ケ)の点)との記載があることが認められ、以上の事実によれば、本件雑誌1、2に掲載された原告試作製品のリアリーフの形態も、被告製品のリアリーフとは、前記(2)ア、イの各(ア)(重ね板バネ)、(イ)(非対称配置)、(ウ)(板バネの数)において一致するものの、同(エ)(各板バネの長さ)が具体的に比較できないだけで、その余の点については相違しているこが認められるから、形態において同一ないし類似するということはできない。なお、上記各板バネの長さについて、「具体的な長さを比較できない」ものを「同一ないし類似」又は「模倣」として事実を告知することは虚偽の事実の告知というべきである。
 この点に関し、被告は、本件雑誌1、2の「無双懸架」の写真では、@スパン(親板バネの長さ)の略中心にセンターボルトが位置し、他方、子板バネは、センターボルトを基準に徐々にピボット側にずれ、ピボット側の長さの比が、シャックル側に対し、下の子板バネほど大きくなっている点、A最も小さな子板バネ(原告製品及び被告製品のリアリーフでは第5子板バネ)がセンターボルトを基準にピボット側に極端に長く、シャックル側はセンターボルトに係止する長さしかない点において、原告製品のリアリーフは、被告製品のそれと酷似していると主張する。しかし、前記トヨタハイラックスのフロント用板バネは、スパン(親板バネの長さ)の略中心にセンターボルトが位置し、他方、子板バネは、センターボルトを基準に徐々にピボット側にずれ、ピボット側の長さの比が、シャックル側に対し、下の子板バネほど大きくなっていることは前示のとおりであるから、上記@の点は従来から存在した技術・形態であるものというべきである。証拠(甲26)によれば、刊行物1には、非対称重ね板バネにおいて、最も小さな子板バネが、センターボルトを基準にリア側に極端に長く、フロント側がごく短いもの(第4図)が記載されていることが認められ、上記Aの点も、従来から存在した形態と異なる新規なものということはできない。さらに、上記Aの点について、被告は、その長さを具体的に主張しておらず、本当に「酷似」しているといえるかどうかは不明であるが(被告提出に係る乙11、12の写真を定規で大雑把に計測しても異なるようにも思われる。)、仮にそうだとしても、そのようなごく一部の形態が酷似しているという理由で、全体の形態を同一ないし類似といえるものではない。
(ウ) 証拠(乙13)には、被告代表者の陳述として、従来第2子板バネは、親板バネと同じ長さがないと板バネ全体の強度が不足してしまい、そのようなバネの設計は困難であると考えられていたところ、被告「不等レート」とは、第2子板バネから親板バネより長さを減らし、片方の強度を増したリーフスプリングである旨の記載がある。しかし、証拠(甲26)によれば、刊行物1には、従来技術及び実施例として、第2子板バネが親板バネより短く、左右の強度の異なる非対称重ね板バネが記載されている(第1図、第2図、第4図)ことが認められるから、その点が一致するとしても、原告製品のリアリーフが被告製品のリアリーフと形態において同一ないし類似であるということはできない。
(4) 小括
 以上のとおり、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフと形態において同一ないし類似するとはいえないから、被告製品のリアリーフを模倣したものということはできない。そうである以上、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフの模倣(真似)であるとする本件広告は、虚偽の事実を告知するものというべきである。
 なお、本件広告が原告の営業上の信用を害するものであることは、その文面から明らかである。また、原告と被告が競争関係にあることは、前記第2の1(1)から明らかである。したがって、被告が本件広告を掲載した行為は、不正競争防止法2条1項14号に該当する。
2 争点(2)(被告の行為の違法性)について
 被告は、被告の「不等レートスプリング」の形態が独自の特徴等により周知性を獲得しており、原告製品がこれに類似することを前提として、本件広告には違法性がないと主張する。
 しかし、被告製品のリアリーフの形態のうち、原告製品のリアリーフの形態と共通する点は、自動車一般のスプリングにおいて周知慣用の技術であり、ありふれた形態であったことは前示のとおりであり、これを独自の特徴とすることはできない。そして、原告製品のリアリーフは、被告製品のリアリーフと形態において類似するとはいえないことも前示のとおりである。したがって、被告の主張は前提を欠くものである。
 また、被告は、「不等レート」の用語が、被告の商品等表示として周知性を獲得していることを前提として、本件広告に違法性がないと主張する。しかし、「レート」は「割合」の意味であるから、「不等レート」とは「割合が等しくない」、すなわち「非対称」という意味に理解され、これを重ね板バネに用いた場合には、非対称重ね板バネの意味に理解されてしまい、商品の形状を表示することになる。そして、このような商品の形状を表示する用語が、被告の商品等表示として周知性を獲得したと認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は前提を欠くものである。かえって、証拠(甲19)によれば、平成18年ころには、OTSなる業者も、「不等レート」を「ベルリン巻」などと並べて形態を表示する普通名詞としてリーフスプリングに使用していたことが認められ、上記事実からすれば、他の業者は、「不等レート」を普通名詞と認識しているのではないかとも疑われるところである。
 よって、被告の主張は採用することができない。
3 争点(3)(過失)について
(1) 証拠(甲33、乙8、9)によれば、原告製品の発売開始は、平成18年3月24日であるから、本件広告@及びBの時点では、未発売であったこと、本件雑誌1、2において原告製品の発売予定が報道されており、被告は、これによって原告製品を認識していたことが認められる。しかし、本件雑誌1、2に掲載された「無双懸架」(原告試作製品)についてみても、本件広告が虚偽の事実の告知に該当することは前示のとおりであるから、被告が、本件広告@、Bをするに際して、本件雑誌1、2によって原告製品を認識していたとしても、やはり被告には過失があるというべきである。のみならず、証拠(乙8)によれば、本件雑誌2には、「実際リリースされるまでには、さらに微調整を行ない、細部を煮詰め直したものとなる予定。」として、実際に発売される原告製品は、本件雑誌2のものとは細部が異なる可能性があることが記載されていることが認められるから、発売前の写真をもとに本件広告@、Bをしたことにおいても、被告には過失があるということができる。
 なお、本件広告A、Cの時点では、原告製品は既に発売されていたから、もしも、被告が本件雑誌1、2によって原告製品を認識していた場合には、そのこと自体に過失がある。
(2) 被告は、被告の技術を取材したP1の採用という被告の技術を剽窃する具体的機会が存在していたと主張する。しかし、本件広告は、原告製品が被告製品の模倣品であるとの虚偽の事実を告知するものであって、外形的に形態を判断すれば、原告製品が被告製品の模倣といえないことは前示のとおりであるから、原告によるP1の採用の事実は、被告の過失についての前記(1)の判断を左右するに足りるものではない。なお、形態は製品を見ることによって知ることができるから、原告が、P1を採用したことにより被告製品の形態を初めて知ったとは考えがたい。また、被告は、P1がいかなる「被告の技術」を取材したのかも、その「被告の技術」がどのように原告製品に用いられているというのかも具体的に主張していないから、その「被告の技術」を剽窃する具体的機会が原告にあったとも認めることはできない。
4 争点(4)(原告の損害)について
(1) 本件広告により原告が販売することができなくなった原告製品の台数は、販売開始後平成18年9月までで150台となり、逸失利益が300万円であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(2) もっとも、原告は、信用毀損をも主張するところ、以下の事実によれば、本件広告による信用毀損のため、原告が営業上の利益を侵害され、損害が生じているものと認められる。そして、以下の事実に加えて、本判決において後記5の信用回復措置を命じることを考慮すれば、原告の受けた損害は150万円を下らないと認められるものの、これを超えるものと認めるに足りる証拠はない。
ア 原告のメーカーとしての信用毀損がされていること
 原告は、ジムニーの交換部品の製造販売業者である。
 弁論の全趣旨によれば、ジムニーには、数千人規模のオフロード走行の愛好者層がおり、競技会が開催されていることが認められる。これらの者はオフロード走行用・競技用の交換部品を求めるが、その際には、部品メーカーの技術力が重視されることは明らかである。また、ジムニーは、SUVであり、その保有者は自動車に強い関心を持つ層であって、ジムニーを自己仕様に改造して楽しもうとする者も少なくないと推認されるが、交換部品を購入する際には、部品の技術的な面に注意が向けられることも明らかである。したがって、ジムニーの交換部品市場では、メーカーの技術力は、需要者層に対して非常に重要な意味を持っている。
 あるメーカーが、競争関係にある他のメーカーの製品の模倣品を販売していることは、技術開発力がなく、技術的に劣位にあることを意味すると受け止められるから、模倣品であると指摘された製品だけでなく、メーカーとしての技術力や開発姿勢全体に疑問がもたれることとなる。そのため、ジムニーの交換部品市場のような技術力重視の市場では、本件広告は、原告製品のみならず、原告のメーカーとしての信用を毀損した面がある。
イ 原告がメーカーとして存在する市場規模が、以下のとおりであること
 証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、ジムニーの平成12年までの累計販売台数は50万台であり、最近は年間約1万5000台が販売されていること、ジムニーの専門誌として、隔月刊のものが2誌(「ジムニースーパースージー」及び「ジムニープラス」。いずれも発行部数約2万部と称される。)、年刊誌が1誌(「ジムニー天国」(学習研究社)。発行部数約10万部と称される。)があることが認められ、ジムニーの交換部品市場には、上記各雑誌の発行部数に対応して、数万人ないし10万人程度の需要者が存在すると認められる。
ウ 原告の信用毀損が原告製品の販売活動に影響を与えたと認められること
 前記アのとおり技術力重視の市場において、模倣品であることは商品の購入意欲を損なわせるものであるから、本件広告は、原告製品の販売活動にも少なからぬ影響があったものと推認される。
 弁論の全趣旨によれば、ジムニーのサスペンションは平成10年にそれまでのリーフスプリングからコイルスプリングに変更されており、原告製品は、上記変更以前に製造された旧型のジムニーの保有者を対象とするものであるから、その需要者数は、上記認定の数よりもかなり限定されていると認められる。また、証拠(甲29、30、乙13)によれば、大手メーカー製品である原告製品と競合する被告製品の販売数は、平成17年10月から平成18年9月までの間に、14ロット前後であること、原告の1ロットは20セットであること、被告は1ロットを「50台分するのか、25台分するのかは、その時によって変わります」と陳述書に記載していることが認められる。他方、証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品の販売価格は1セット7万3500円であって、原告は1セット当たり2万円程度の利益を得ることができることが認められる。前記信用毀損による原告製品の販売活動に対する影響は、上記認定から推測される原告製品の存在する市場の規模や製品価格を踏まえて、控え目に考慮するべきである。
エ 本件広告は合計4回(各誌2回)であるが、信用回復措置による後記広告は、2回(各誌1回)であることもあり、信用回復措置により直ちに信用が完全に回復するとは認められないこと。
(3) 弁護士費用
 本件訴訟のために原告が要した弁護士費用としては、後記5の信用回復措置請求も考慮し、20万円を相当と認める。
5 信用回復措置について
 前記4(2)アないしウ認定のジムニーの交換部品市場の状況からすれば、本件においては、損害の賠償とともに、原告の営業上の信用を回復するのに必要な措置として、本件広告が掲載された雑誌(「ジムニースーパースージー」及び「ジムニープラス」)に、別紙謝罪広告目録のとおりの広告を掲載させることが相当である。「ジムニー天国」は、本件広告掲載紙ではないので、信用回復措置としての広告掲載は相当とは認められない。
6 結論
 以上の次第で、原告の請求は、主文第1、第2項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文第1項についての仮執行宣言は、相当ではないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田知司
 裁判官 高松宏之
 裁判官 村上誠子
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