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【事件名】商標“POLO COUNTRY”侵害事件(2)
【年月日】平成19年5月31日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10528号 審決取消請求事件
 (平成19年4月17日 口頭弁論終結)

判決
原告 ポロ・ビーシーエス株式会社
訴訟代理人弁護士 山本忠雄
同 中橋紅美
訴訟復代理人弁護士 佐々木優雅
補佐人弁理士 江原省吾
同 田中秀佳
同 川本真由美
被告 ザポロ/ローレンカンパニーリミテッドパートナーシップ
訴訟代理人弁護士 松尾眞
同 兼松由理子
同 岩波修
同 大堀徳人
同 杉本亘雄
同 山田洋平
訴訟代理人弁理士 曾我道照
同 曾我道治
同 岡田稔
同 坂上正明


主文
 特許庁が無効2005−89159号事件について平成18年10月25日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は、商標登録に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案であり、原告は無効審判の請求人、被告は商標権者である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は、「POLO COUNTRY」の欧文字を標準文字で書して成り、指定商品を商標法施行令別表第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とする登録第4720921号商標(平成12年8月7日登録出願、平成15年10月24日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1の1、2)。
(2) 原告が本件商標の登録(上記指定商品中の「被服」に係る部分)について無効審判の請求をした(無効2005−89159号事件として係属)ところ、特許庁は、平成18年10月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年11月7日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点
 審決は、原告が、下記各商標(以下、個別に表示する場合には「引用商標1」〜「引用商標5」といい、一括して表示する場合には、「各引用商標」という。)を引用し、本件商標は、各引用商標と類似する商標であって、本件商標の指定商品中「被服」は、各引用商標の指定商品と同一又は類似するものであるから、本件商標の指定商品「被服」に係る登録は、商標法4条1項11号に違反してなされたもので、無効である旨主張したのに対し、本件商標は、各引用商標と、外観、称呼及び観念のいずれの点より見ても類似しない商標であり、商標法4条1項11号に違反して登録されたものでないから、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすることはできない、とした。
(引用商標1)
 登録番号:第1434359号
 商標権者:ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)
 商標の構成:別紙引用商標目録1記載のとおり
 指定商品:平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下「旧別表」という。)第17類「ネクタイ、その他本類に属する商品、但し、ポロシヤツ及びその類似品ならびにコートを除く」
 登録出願日:昭和47年6月13日
 設定登録日:昭和55年9月29日
 存続期間の更新登録日:平成2年9月20日
 存続期間の更新登録日:平成12年4月18日
(引用商標2)
 登録番号:第1447449号
 商標権者:ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)
 商標の構成:別紙引用商標目録2記載のとおり
 指定商品:第5類「失禁用おしめ」、第9類「事故防護用手袋、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、溶接マスク」、第10類「医療用手袋」、第16類「紙製幼児用おしめ」、第17類「絶縁手袋」、第21類「家事用手袋」及び第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児用おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、バンダナ、保温用サポーター、マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子」(平成13年2月14日書換登録前は、旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」)
 登録出願日:昭和47年4月22日
 設定登録日:昭和55年12月25日
 存続期間の更新登録日:平成2年12月21日
 存続期間の更新登録日:平成12年9月5日
(引用商標3)
 登録番号:第2721189号
 商標権者:ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)
 商標の構成:別紙引用商標目録3記載のとおり
 指定商品:旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類
 に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」
 登録出願日:昭和56年4月6日
 設定登録日:平成9年5月2日
(引用商標4)
 登録番号:第4015884号
 商標権者:ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)
 商標の構成:別紙引用商標目録4記載のとおり
 指定商品:旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」
 登録出願日:昭和58年5月11日
 設定登録日:平成9年6月20日
(引用商標5)
 登録番号:第4041586号
 商標権者:ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)
 商標の構成:別紙引用商標目録5記載のとおり
 指定商品:旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」
 登録出願日:昭和58年5月11日
 設定登録日:平成9年8月15日
 審決の理由中、本件商標と各引用商標とが非類似であるとする判断に係る部分は、以下のとおりである。
 「本件商標は、・・・『POLO COUNTRY』の欧文字よりなるところ、その構成に係る前半部の『POLO』の文字と後半部の『COUNTRY』の文字が一文字分の間隔をおいて表されているものの、外観上まとまりよく一体的に構成されているものである。そして、観念上は、全体として特定の熟語や団体名称等を表すものとは認められないが、これらの各文字より生ずる『ポロカントリー』の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものであり、他に構成中の『POLO』あるいは『COUNTRY』の文字部分のみが独立して認識されると見るべき特段の事情は見いだせない。
 この点に関し、請求人は、構成中の『COUNTRY』の語は、被服について、商品の用途、材質ないしデザインを表すものである旨を主張しているが、『COUNTRY』の文字が単独で被服の品質を表示するものと普通に使用されているとする証左は見当たらないものであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
 そうとすれば、本件商標は、その構成全体をもって不可分一体のものと認識し把握されると見るのが自然であり、その構成文字全体に相応した『ポロカントリー』の称呼を生ずる一種の造語よりなるものというべきである。
 これに対し、各引用商標の構成は前記のとおりであるから、引用商標1、2及び3からは『ポロ』の称呼を生じ、また、引用商標4及び5からは『ポロスポーツ』の称呼を生ずるものと認められる。
 しかして、本件商標と各引用商標より生ずると認められる上記の各称呼は、構成音数、音構成の差等により判然と区別できるものであるから、各引用商標とは、称呼上、相紛れるおそれのない非類似の商標といわざるを得ない。
 その他、本件商標は、各引用商標と外観、観念において類似とすべき点は見当たらない。
 してみれば、本件商標は、各引用商標と外観、称呼及び観念のいずれの点より見ても、類似しない商標といわなければならない。」
第3 当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由の要点(類否判断の誤り)
(1) 本件商標の称呼、外観及び観念について
ア 本件商標は、「POLO」の文字と「COUNTRY」の文字を1文字の間隔を置いて表した構成の商標であるところ、「POLO COUNTRY」なる語は、辞書に記載がなく、また、全体として特定の熟語や団体名称を表す既成の観念を示すものでもないから、本件商標に接した取引者・需要者は、「POLO」と「COUNTRY」の文字部分を分離して認識するのが通常である。そうであれば、本件商標は、外観及び観念上、各構成部分を分離して観察することが取引上不自然と考えられるほどに不可分一体に結合しているということはできず、簡易迅速を尊ぶ取引においては、前段の「POLO」の文字部分のみが分離して認識され、自他商品の識別標識として機能することは経験則上明らかである。したがって、本件商標からは、「ポロカントリー」の称呼のほか、「ポロ」の称呼及び「POLO」の観念が生じる。
イ 本件商標に係る指定商品中の「被服」に関し、ファッション業界では、「COUNTRY」は「田舎風の」、「田舎」を意味する語であり、「COUNTRY」又は「カントリー」の語及びこれを使用したファッション用語は、「カントリー・テイストの商品群」に含まれる商品又は当該商品に使用される素材、デザイン若しくは色合いを意味するものとして、取引者・需要者に認識されている(とりわけ、「カントリー・ウェア」は、カントリー・テイストのカジュアル・ウェアを示す語として認識されている。)。そうすると、「被服」の分野における一般の取引者・需要者が、「カントリー・テイストの衣服」に使用された本件商標に接した場合、「COUNTRY」の文字を「カントリー・テイストの衣服」という商品の内容等を示すものと認識し、「COUNTRY」以外の文字に注目して当該商品の出所の識別に当たることが多いといえるから、本件商標中、取引者・需要者が出所識別の手がかりとする要部は「POLO」の文字であるといえる。したがって、本件商標は「POLO」の外観を有し、また、本件商標からは「POLO」の観念及び「ポロ」の称呼が生じる。
ウ 以上のとおりであるから、本件商標が不可分一体のものと認識されるとした上、本件商標から「ポロカントリー」の称呼のみが生ずるなどとし、外観及び観念についても上記不可分一体性を前提とした審決の認定は誤りである。
(2) 本件商標と各引用商標との類否について
ア 引用商標1及び3は、まさに「POLO」の文字のみからなるものであり、本件商標の要部と称呼、観念及び外観において同一である。
イ 引用商標2及び4は、外観上、筆記体で表した「Polo」の文字部分が、引用商標5は、外観上、「PoLo」の文字部分が、それぞれ他の図形及び文字部分とは異なる態様で大きく表されており、外観及び観念上、各構成部分を分離して観察することが取引上不自然と考えられるほどに不可分一体に結合しているということはできないから、それぞれ筆記体で表した「Polo」の文字部分又は「PoLo」の文字部分のみが分離して認識され、自他商品の識別標識として機能することは経験則上明らかである(なお、引用商標4及び5の「SPORTS」なる語が「スポーティーなウェア、カジュアルウェア」という「被服」の用途又は品質を示すものであって、自他商品の識別標識として機能しないことは顕著な事実である。)。そうすると、引用商標2、4及び5からは、「ポロ」の称呼及び「POLO」の観念が生じる。また、外観においても、本件商標の「POLO」の文字部分は、引用商標2及び4の「Polo」の文字部分並びに引用商標5の「PoLo」の文字部分の書体を変更したものにすぎない。
ウ そうすると、本件商標と各引用商標とは、称呼、外観及び観念において類似するものであり、加えて、本件商標の指定商品「被服」の需要者が、通常は特別の専門知識を有しない一般消費者であることも考慮すれば、本件商標と各引用商標を「被服」に使用した場合、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれが極めて高いといえるから、本件商標と各引用商標とが非類似の商標であるとした審決の判断は誤りである。
(3) なお、本件と同一の当事者間で、@「POLO JEANS」の文字を標準文字により書して成る商標、及びA「POLO GOLF」の文字を標準文字により書して成る商標につき、引用商標1ないし5との類否が争われた事案について、知的財産高等裁判所は、上記@の商標、上記Aの商標とも、引用商標1及び3と類似する旨の判断をし、これと異なる判断をした審決を取り消す旨の判決をした(@の商標につき、同裁判所平成17年5月30日判決、Aの商標につき、同裁判所同年9月14日判決)。
2 被告の反論の要点
(1) 本件商標の称呼、外観及び観念について
ア 特許庁の商標審査基準改訂第8版(以下「審査基準」という。)によれば、商標法4条1項11号に係る結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、大小のある文字からなる商標は原則として大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似し(審査基準九4(2))、著しく離れた文字の部分からなる商標は原則として離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似する(審査基準九4(3))とされているところ、本件商標は、「POLO COUNTRY」の文字を同書・同大に普通の字体で横一列に配してなるものであり、「POLO」と「COUNTRY」の間には1文字程度の間隔があるのみで著しく離れているとはいえない。
イ また、審査基準によれば、上記結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、長い称呼を有するため又は結合商標の一部が特に顕著であるためその一部分によって簡略化される可能性がある商標は原則として簡略化される可能性がある部分のみからなる商標と類似する(審査基準九4(4))とされているところ、「ポロカントリー」の称呼は長音も含めて7音にすぎず特に冗長とはいえないし、ファッション業界においては本件商標をはるかに上回る文字数の商標も珍しくないから、簡易迅速を尊ぶ取引の実情においても、本件商標が「POLO」や「ポロ」と簡略化されることはない。
ウ さらに、審査基準によれば、上記結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字又は役務の提供の場所、質等を表示する文字)を有する結合商標は原則としてそれが付加結合されていない商標と類似し(審査基準九4(1))、指定商品又は指定役務について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似する(審査基準九4(5))とされているところ、本件商標は、ともに名詞である「POLO」と「COUNTRY」を結合させたものであって、相互に主従の関係はなく、また、いずれも商品の品質、原材料等を表示する文字ではないから、形容詞的に用いられている文字ではなく、さらに、「POLO」及び「COUNTRY」は、いずれも本件商標の指定商品中の「被服」について慣用される文字ではない。
 なお、原告は、ファッション業界では、「COUNTORY」が「田舎風の」、「田舎」を意味する語であり、「COUNTORY」又は「カントリー」の語及びこれを使用したファッション用語が「カントリー・テイストの商品群」に含まれる商品又は当該商品に使用される素材、デザイン、色合いを意味するものとして、取引者・需要者に認識されている旨主張するが、「COUNTRY」又は「カントリー」の語のみでは、単に「国、地方」との意味合いしかなく、これに接した者に対し、特定の品質、用途、デザイン、一定の傾向、嗜好性を想起させるものではない。
 また、そもそも、「カントリー・テイスト」等の語が意味するところの「田園風」、「田舎風」の内容は実に不明確であり、「COUNTRY」又は「カントリー」を用いた語が、被服等の商品分野において、特定の品質、用途、デザイン、傾向、嗜好性を表すものとして一般に用いられているということはない。
エ 加えて、審査基準によれば、上記結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標はその外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め原則としてその他人の登録商標と類似するものとする(審査基準九4(6))とされているところ、引用商標1又は3がその指定商品について需要者の間に広く認識されているとは到底いえない。
オ 以上のとおりであるから、各引用商標と対比されるべき本件商標は、一体としての「POLO COUNTRY」として理解されるべきであり、「POLO」を本件商標の要部と解することはできない。本件商標は「POLO COUNTRY」の外観を有し、また、本件商標からは「ポロカントリー」の称呼及び「ポロの国」又は「ポロの地方」の観念が生じるものである。
(2) 本件商標と各引用商標との類否について
ア 上記(1)のオのとおり、各引用商標と対比されるべき本件商標は、一体としての「POLO COUNTRY」として理解されるべきであるところ、引用商標1及び3は「POLO」の文字を普通の字体で横一列に配した商標であり、引用商標5は「PoLo」のやや太い文字に続けて「SPORTS」をやや小さく連記した商標であり、引用商標2は「Polo」の筆記体文字をシルエット状に表し、左側に馬上にある人を描写したと思われる簡略化した図形を組み合わせた商標であり、引用商標4は「Polo」の筆記体文字に続けて「SPORTS」とやや小さく記載し、左側に馬上にある人を描写したと思われる簡略化した図形をシルエットにして組み合わせた商標であって、これらの外観は、いずれも本件商標のそれと全く異なるものである。
イ また、本件商標からは「ポロカントリー」の称呼及び「ポロの国」又は「ポロの地方」の観念が生じるところ、引用商標1ないし3からは「ポロ」の称呼及び「ポロ競技」の観念が生じ、引用商標4及び5からは「ポロスポーツ」の称呼及び「ポロのスポーツ」又は「ポロ競技」の観念が生じるものである。
ウ さらに、上記(1)のとおり、審査基準に照らしても、本件商標と各引用商標とが類似するとはいえない。
エ 以上のとおりであるから、本件商標と各引用商標は類似しないものであり、本件商標が商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものではないとした審決の判断に誤りはない。
(3) なお、原告が指摘する知的財産高等裁判所の判決は、「POLO JEANS」又は「POLO GOLF」の文字を書して成る商標について判断したものであるところ、「JEANS」、「GOLF」の語からは、それぞれ「ジーンズ製の」、「ゴルフ用の」といった被服の品質又は用途を意味する概念が容易に導き出されるのに対し、「COUNTORY」の語からは、一定の品質、用途等を導き出すことは困難であるから、上記各判決は、本件において参考となるものではない。
第4 当裁判所の判断
1 原告主張の審決取消事由(類否判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項11号は、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務・・・又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない旨規定している。この場合、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべきであり、誤認混同を生じるおそれがあるか否かは、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、これらに加え、その商品についての取引の実情を明らかにし得る限り、具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第二小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 そこで、引用商標1及び3並びにこれらに係る指定商品との対比において、上記の観点から、本件商標の指定商品中「被服」に係る登録が商標法4条1項11号の規定に違反してされたものであるか否かについて検討する。
(2) 本件商標につき、原告は、「POLO」の文字部分がその要部である旨主張するのに対し、被告は、「POLO」の文字部分が要部であると解することはできず、本件商標は一体としての「POLO COUNTRY」として理解されるべきである旨主張するので、まず、この点について検討する。
ア 掲記の証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア) 一般の国語辞典、英和辞典等においては、「カントリー」又は「COUNTRY」の語は、「くに。地域。田舎。田野」(昭和58年12月6日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第三版」。甲10)、「他の外来語に付いて、『田園(の)』『郊外(の)』『国(の)』などの意を表す」(平成7年11月3日株式会社三省堂発行の「大辞林第二版」(以下「大辞林」という。)。甲42の1)、「『田園(の)』『郊外(の)』『国(の)』などの意」(平成10年7月10日同社発行の「ハイブリッド新辞林」(以下「ハイブリッド新辞林」という。)。甲45の1)、「(都会に対して)田舎、郊外、地方。国、故郷、祖国。カントリー−アンド−ウエスタン、カントリー−エレベーター」(平成6年9月10日同社発行の「コンサイスカタカナ語辞典」(以下「コンサイスカタカナ語辞典」という。)。甲46の1)、「(ある性質の)土地、地方、地域、…地。一国の全領土、国土。国、国家。国民、大衆、一般民衆。〔法〕陪審に代表される一般民衆。(都会に対して)いなか、田園地方、郊外。(活動・知識などの)分野、領域、方面。〔クリケット〕外野。〔略式〕country-and-western」(平成10年1月1日株式会社小学館発行の「小学館プログレッシブ英和中辞典第3版」。甲11)の意味を有するものとして掲載されている。
(イ) これに対し、服飾用語としての「COUNTRY」の語は、「田舎風の」の意味を有するものとされ(平成元年2月1日伊藤忠ファッションシステム株式会社発行の「Quadrilingual Fashion Glossary(4ケ国語ファッション用語集)」。甲56)、各種服飾用語辞典等においても、「カントリー」の語を含む服飾用語は、次のような意味を有するものとして掲載されている。
a 「カントリー・ウェア」又は「カントリー・ウエア」(以下、表記のいかんにかかわらず、同音・同義の語は、1つの表記で統一することがある。)
(a) 「田舎や郊外で着る服の総称。タウン・ウェア、つまり町着と対比して使われる語。旅行や散歩、また避暑地などで着用するのにふさわしいスポーティな服がこれにあたる」(平成元年4月23日文化出版局発行の「改訂版実用服飾用語辞典」。甲19。平成12年5月28日同出版局発行の「新・実用服飾用語辞典」。甲16)
(b) 「本来は英国の田園紳士たちがその所領で着用した田舎服・運動服のこと。ツイードのノーフォーク・ジャケットやニッカーボッカーズはその典型。カントリーといっても、わが国の田舎着・野良着とはまったく別種のウェアである点に注意したい。」(平成3年11月20日株式会社婦人画報社発行の「男の服飾事典」(以下「男の服飾事典」という。)。甲17)
(c) 「カントリーは(いなか)の意味。タウン・ウェア(town wear=街着)に対して、旅行や避暑などのさい、旅先で着る軽快な感じのする服飾をいう。また野外服、スポーツ服をもふくむ。」(平成3年10月22日同文書院発行の「新・田中千代服飾事典」(以下「新・田中千代服飾事典」という。)。甲18)
(d) 「カントリーには、田園、いなかの意があり、そこで着るのにふさわしい服装のこと。タウン・ウェアに対していう。旅先や避暑地で着るリゾート・ウェアの類であり、スポーティで気楽に着られる衣服、ブラウスとスカートやスラックスにセーターを組み合わせる着方などその典型である。材質も素朴な感じの木綿、デニム、ニット、フラノ、ツイードなどが用いられる。色彩は田園にふさわしい強い色、多少大胆な柄がいい。現在では一般の服装にカジュアル化が進んでいるため、タウン・ウェア、カントリー・ウェアの区別はつけがたくなった」(昭和54年3月5日文化出版局発行の「服飾辞典」(以下「服飾辞典」という。)。甲20)
b 「カントリー・スーツ」
(a) 「ツイードなどカントリー風な生地で仕立てたカジュアル・スーツ」(男の服飾事典)
(b) 「郊外着として着られるスポーティーな男子用のスーツのこと。タウン・スーツ、ビジネス・スーツなどに対する語」(新・田中千代服飾事典)
c 「カントリー・ジャケット」
(a) 「スポーツ・ジャケットの一種。本来は地方のカントリー・ハウスやカントリー・クラブで着用したスポーティーな替え上衣、とりわけノーフォーク・タイプやシューティング(射撃)タイプのそれを指した。現在では一般に変わりデザイン(ひじ当てや肩当てや背バンドや変わり型ポケットなど)を特徴とするツイード系の服を指している」(男の服飾事典)
(b) 「郊外で着用するジャケットのこと。タウン・スーツなどと対照的にスポーティーなデザインやくだけた柄のものが多い」(新・田中千代服飾事典)
d 「カントリー・ルック」
(a) 「田舎で着るような気軽な感じの装いのこと。ジーンズ、ニッカーズ、ターンドル・スカート、ロング・セーター、バスローブ式トッパー、ジレなどが多く、また色彩も田園的なものである。シビライズド(都会的)などに対して使われることば」(新・田中千代服飾事典)
(b) 「田舎や郊外で着るスポーティな服をカントリー・ウェアという。カントリー・ルックは、素朴なツイードや木綿でつくられた野趣的な服を都会でモダンに着こなすファッションの意。反対語にシビライズド(都会的に洗練された)がある」(服飾辞典)
(ウ) さらに、ファッション系の各種雑誌、新聞、書籍、ウェブサイト等においては、従前から本件登録出願までの間に、服飾に関連して、「カントリー」、「カントリーイメージ」、「カントリー・インフルエンス」、「カントリー・ウェア」、「カントリーガーデン」、「カントリーカジュアル」、「カントリー柄」、「カントリーカラー」、「カントリー感覚」、「カントリーコート」、「カントリー・サープラス」、「カントリー・ジャケット」、「カントリー・シャツ」、「カントリー・ジェントルマン・ルック」、「カントリースタイル」、「カントリースポーツ」、「カントリー・スポーツウェア」、「カントリータイプ」、「カントリー・タウンカジュアル」、「カントリータッチ」、「カントリー調」、「カントリーツイード調」、「カントリー(な)テイスト」、「カントリードレス」、「カントリー派」、「カントリーファッション」、「カントリー・フィーリング」、「カントリー風」、「カントリー・ブリティッシュ」、「カントリー・ムード」、「カントリー用」、「カントリーライン」、「カントリー・ルック」、「アメリカンカントリー」、「ノース・カントリー」、「ノルディックカントリー」、「ブリティッシュ・カントリー」、「ラスティック・カントリー」、「ロマンティック・カントリー路線」などの語が用いられてきた例が多数あり、その中には、被告の販売に係る被服につき、「カントリースタイルにおいてもラルフ・ローレンの理想としているスタイルが確立されてきている。」などと紹介されているもの(甲55)もある(甲26、28ないし30、54、55、59ないし77、79、81ないし85、87ないし98、100、103ないし106、108ないし118、120ないし122、125ないし127、129ないし132、134、135、137ないし144、146ないし149、153、155、156、158ないし166、168、170ないし172、174、177、179、182ないし200、202、203、205ないし207、209ないし213、465ないし467、469ないし483、485、486、499)。
(エ) なお、「カントリー・ウェア」の語については、一般に、国語辞典等においても、「野外活動のための服装。バード・ウオッチングやハイキングなどの服装の総称」(大辞林、ハイブリッド新辞林)、「旅先や野外で着るのに適したスポーティーな服。また、その服装」(平成元年11月6日株式会社講談社発行の「日本語大辞典」。甲43の1)、「野外服、避暑、ハイキング用などの軽装」(コンサイスカタカナ語辞典)の意味を有するものとして掲載されている。
イ 上記認定事実によれば、「COUNTRY」又は「カントリー」の語は、一般には、「国」、「地方」、「田舎」、「郊外」等の意味を有するものであるが、服飾用語としては、専ら「田舎」、「郊外」又はこれに類する意味に限定され、「カントリー・ウェア」、「カントリー・ジャケット」などのように、「田舎風の」というような意味で、他の語句の修飾語として用いられる場合、「カントリー調」、「カントリー風」などのように、物事の様子やおもむきを表す語と結び付いた状態で「田舎風」という趣旨で用いられる場合、さらに、「COUNTRY」又は「カントリー」単独で、あるいは「ブリティッシュ・カントリー」のように、他の語句に修飾されて、「田舎風」という意味で用いられる場合などがあることが認められる。
 そうであれば、「COUNTRY」又は「カントリー」の語が被服について使用された場合には、これに接した取引者・需要者は、これらの語が、当該被服がカントリー・ウェア、あるいはカントリー風のデザイン、色彩等を備えた被服であることを示すものと認識、理解するのが通常であるということができ、そうだとすると、「POLO COUNTRY」の欧文字から成る本件商標が、その指定商品である「被服」について用いられた場合、本件商標の構成中の「COUNTRY」の部分は、当該被服の形状、品質等を表すものとしか認識されず、「POLO」の部分のみが、自他商品の識別機能を果たすものと、取引者・需要者に認識されることは明らかである。したがって、本件商標のいわゆる要部は、「POLO」の文字部分にあるものと認めるのが相当である。
 被告は、「COUNTRY」又は「カントリー」の語のみでは、単に「国、地方」との意味合いしかないとか、「COUNTRY」又は「カントリー」を用いた語が、被服等の商品分野において、特定の品質、用途、デザイン、傾向、指向性を表すものとして一般に用いられているということはない旨主張するが、当該主張を認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、上掲各証拠により、上記説示のとおり認められるのであるから、被告の上記主張を採用することはできない。
(3) 一方、引用商標1及び3は、まさに「POLO」の文字のみからなるものであるから、上記(2)において認定した本件商標の要部と対比すると、称呼において同一であるということができる。
 また、「POLO」の語が、主として英国及び旧英国領の諸地域等において行われている馬上競技を示す普通名詞であること、襟付の半袖のカジュアル衣料を示す「ポロシャツ」の語が、本来ポロ競技の選手が着用したことにちなむもので、今日広く各国において普通名詞として用いられていることは、公知の事実であり、本件商標の要部と引用商標1及び3とは、いずれも、取引者及び需要者に、ポロ競技又はその略称であるポロの観念を生じさせるものと認められる。
 そうすると、本件商標と引用商標1及び3とは、称呼及び観念において類似するというべきである。
(4) 以上に加え、本件商標の指定商品中「被服」と引用商標1及び3の指定商品とは重複し、その需要者が通常は特別の専門知識を有しない一般消費者であることをも併せ考慮すれば、本件商標と引用商標1及び3とは、本件商標の指定商品中「被服」について使用される場合、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあると認められる。したがって、本件商標の指定商品中「被服」に係る登録は、商標法4条1項11号の規定に違反してされたものというべきであり、これと異なる審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。
2 以上のとおりであるから、原告の本件請求は理由があり、審決は取消しを免れないというべきである。
第5 結論
 よって、原告の本件請求を認容することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 石原直樹
 裁判官 古閑裕二
 裁判官 浅井憲


引用商標目録 略
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