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【事件名】租税論文共著事件
【年月日】平成19年5月28日
 東京地裁 平成17年(ワ)第15981号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年3月28日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 古沢博
同 西内聖
被告 B
同訴訟代理人弁護士 後藤孝典
同復代理人弁護士 飯田康仁


主文
1 被告は、別紙書籍目録記載の書籍の複製又は頒布をしてはならない。
2 被告は、原告に対し、金123万9072円及びこれに対する平成17年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙書籍目録記載の書籍を発行、販売又は頒布してはならない。
2 被告は、原告に対し、金184万円及びこれに対する平成17年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、別紙広告目録1記載の謝罪広告を、株式会社税務経理協会発行の月刊誌「税務通信」の「News & Information」欄の最終頁末尾、同頁の幅にわたり設けた四角形の枠内、に横書きにより、見出しは12ポイント活字をもって,本文は10ポイント活字をもって、1回掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告の執筆に係る別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)の、別紙対照表1「本件書籍(被告著作物)」欄記載の部分(以下、各表現部分を「被告表現」と、各表現部分を総称して「被告各表現」という。)は、原告の執筆に係る別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)の、別紙対照表1「本件著作物」欄記載の部分(以下、各表現部分を「原告表現」と、各表現部分を総称して「原告各表現」という。)を複製又は翻案したものであり、被告には、同複製又は翻案について故意又は過失があるから、被告は、本件著作物について原告が有する著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して、著作権法112条1項に基づく頒布等の差止め、民法709条、著作権法19条、21条、27条に基づく損害賠償金184万円(著作権侵害として金24万円、著作者人格権侵害として100万円、上記各侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用として60万円)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年9月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに著作権法115条に基づく謝罪広告を求めた事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 共著の執筆
 原告と被告は、それぞれ、大学院において、Cから指導を受け(原告が被告より先輩に当たる。)、現在、ともに、教授として、大学等で財政学、租税論等の科目を担当する者であるが、Cの発案により、共著「租税論」を執筆し、平成12年3月15日、株式会社税務経理協会(以下「税務経理協会」という。)から出版した(以下、同書籍を「共著」という。)。
 共著の出版に当たり、原告は、本件著作物、すなわち、共著中の第1章、第3章、第4章、第6章、第8章及び第9章の執筆を担当した。一方、被告は、共著中の第2章、第5章、第7章及び第10章の執筆を担当した。
(2) 本件書籍
 被告は、本件書籍を執筆し、平成16年5月1日、税務経理協会から出版した。
(3) 税務経理協会に対する訴訟の提起及び原告と税務経理協会との間の和解原告は、平成17年8月4日、被告及び税務経理協会に対し、本件訴訟を提起した(税務経理協会に対する請求は、被告に対する本訴の請求と共通するもののほか、本件書籍の在庫品の廃棄を求めるものであった。)。
 平成19年3月28日、税務経理協会に対する弁論が本件から分離され、同日の本件弁論準備手続期日において、原告と税務経理協会との間で、税務経理協会が、@本件書籍の出版及び販売により、本件著作物について原告の有する著作権及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したことを認め、原告に対し謝罪すること、A本件書籍を回収するとともに、その在庫品を廃棄すること、B別紙広告目録2記載の条件及び内容で、広告を掲載すること、C原告に対し、損害賠償金30万円を支払うことなどを内容とする和解が成立した。
2 争点
(1) 著作権(複製権又は翻案権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の有無並びに被告の故意・過失の有無(争点1)
(2) 原告の損害額はいくらか(争点2)
(3) 謝罪広告の要否(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(著作権(複製権又は翻案権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の有無並びに被告の行為・過失の有無)について
(原告の主張)
ア 本件著作物の著作物性
(ア) 原告は、本件著作物を執筆し、これを被告の執筆部分とともに、原告と被告の共著「租税論」として、税務経理協会から出版した。
 なお、共著は、原告と被告の共同著作物ではなく、各執筆者が、その分担部分をそれぞれ独立して執筆したものであり、各人の執筆した部分は、各執筆者の単独著作物に該当するものである。
(イ) 本件著作物は、全体として、創作性を有する著作物である。
 共著は、租税論の入門的教科書であり、その原理・原則・定説等を説くものであるが、そうであるからといって、その創作性が否定されるものではない。既に説かれている原理・原則・定説を内容とする入門的教科書であるからこそ、わかりやすい例を用い、文章の順序・運びに創意工夫を凝らすことにより、優れた入門教科書が創作され得るのである。
 Cは、弟子の育成のために共著の出版を発案し、自己の学識と経験に基づいて、書籍の価格及びこれに連動して大体のページ数や章分け等の大枠を指示・指導した上で、その具体的表現は、基本的に原告と被告の自由な執筆に任せていた。
 共著の内容に関するCの指示・指導は、@租税論の講義において使用する教科書を執筆すること、A租税の理論と制度を内容とし、「課税の経済学」(サイモン・ジェームズ、クリストファー・ノブズ著、C監訳、A、榊原正幸訳、勁草書房発行)(乙6 以下乙「6文献」という。他の書籍(乙1〜5、15〜24、26〜50、52〜59、66、67、69、枝番を含む。)についても、同様に示す。)のように、それらを分けて書くこと、Bわかりやすい例を用いて説明をするなど工夫を凝らすこと、C「はじめての財政学」(米原淳七郎著、有斐閣発行)(乙4、乙4文献)のように、初心者でも読みやすいようにする、D文体は、「リーディング・やさしい財政学」(古田精司著、中央経済社発行)(乙3、乙3文献)のように、読者に語りかけるような文体とすること、Eデータ等については、「図説日本の税制平成10年度版」(鈴木勝康編、財経詳報社発行)(乙1、乙1文献)及び「図説日本の税制平成11年度版」(田中一穂編・財経詳報社発行)(乙2、乙2文献)を参考にするとよいこと、というものであり、具体的な表現方法について、逐一詳細な指導・指示があったわけではない。
 被告は、平成11年8月10日の、原告、被告及びCの打合せにおいて、Cから、具体的な指導を受けた旨を主張するが、被告が指摘する指導は、個々の細かい内容・表現に関する質問に対する指導の域を出るものではない。
 共著の作成につき、その実質的な制作者はCで、原告も被告もCの指揮監督下において手足として原稿作成作業に従事したにすぎず、その制作者ですらないという被告の主張は、余りにも常識に反する極論である。
 原告は、弟子の育成にかける恩師の厚情に報いるため、限られた条件内にあっても、全力を尽くし、創意工夫を凝らして、創作性のある本件著作物を創作したのである。
(ウ) 本件書籍中の、被告の複製又は翻案に係る被告各表現は、別紙対照表1「本件書籍(被告著作物)」欄記載のとおりであり、それに対応する原告各表現は、同表「本件著作物」欄記載のとおりであるが、上記対応部分の個々の表現についても創作性があり、著作物である。具体的な主張は、別紙対照表2「原告の主張」欄の各部分(同表の左端欄の番号は、別紙対照表1の原告各表現及び対応する被告各表現に付した番号に対応するものである。)に係る「本件著作物の創作性」記載のとおりである。
イ 原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性
 被告の執筆に係る本件書籍は、第1部から第4部、合計13章からなり、本文合計291頁のものであるが、被告は、本件書籍を執筆するに当たり、別紙対照表1記載のとおり、本件著作物から極めて多くの部分を原告の許諾を受けることなく利用し、これと同一又は実質的同一性(実質的類似性)を有する記述を行った。原告各表現と被告各表現とは、別紙対照表1記載のとおり、84か所にわたり、同一又は実質的に同一(類似)である。個々の表現における同一性又は類似性についての主張は、別紙対照表2「原告の主張」欄の各部分に係る「同一性又は類似性」記載のとおりである。
ウ 依拠性
 原告各表現と被告各表現との対応関係は、別紙対照表1記載のとおりであって、被告が、被告各表現を執筆するに当たり、原告各表現を参照し、これに依拠したことは明らかである。
エ 故意又は過失
 被告の上記行為は、本件著作物につき、原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとともに、本件書籍の著作者として被告の氏名のみを表示し、原告の氏名を表示しなかった点において、原告の有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものであり、この権利侵害は故意又は過失によるものである。
(被告の反論)
ア 本件著作物の著作物性
 共著は、以下の、共著出版に至る経緯に関する後記(ア)ないし(エ)記載のとおり、原告及び被告共通の恩師であるCの発案により、租税論における原理・原則・定説をわかりやすく解説するための初学者用の教科書として制作され、執筆に当たり、全体構造、ページ数、ベースとすべき複数の著作の指定、使用する用語、文体等に至るまで、逐一詳細に同人の指導・指示を受けて作成されたものである。したがって、共著中の本件著作物に内容上の創作性がないことはもちろん、その表現の具体的形式もいわば不可避的に選択されたものであり、原告個人の個性が表れているとはいえず、創作性がない。原告各表現に創作性がない旨の主張は、別紙対照表2「被告の主張」欄の各部分に係る「本件著作物の創作性」記載のとおりである。
 また、原告も被告も、Cの指揮監督下において、その手足として原稿作成作業に従事していたものであるから、共著の実質的な制作者は、Cにほかならない。
(ア) Cによる発案
 被告は、青山学院大学、同大学大学院及び千葉商科大学大学院において、いずれもCを指導教授とし、原告も、青山学院大学及び同大学大学院において、Cを指導教授としていた。
 Cは、平成10年7月ころ、青山学院大学において、Cが担当していた「租税論」の講義を引き継ぐことが決定した被告に対し、同講義において使用する教科書を、原告及び被告の執筆により出版することを提案し、具体的に、@その教科書は、理論も制度も現在抱えている租税問題も、全体がその一冊でわかるような初学者向けの租税論の教科書とすること、A講義ノートを作成する際に、一緒に原稿も書いておくこと、B平成11年3月までに脱稿し、同年6月には出版し、学生らの前期試験に間に合わせるようにすること、CCの指定する複数の本をいわゆる種本として原稿を書くこと、D同人が、税務経理協会に出版の段取りをつけることを指示又は提案した。
 原告及び被告は、上記指示を受けて、Cとともに、共同で目次を作り、分担箇所を決め、原稿作りに取りかかったが、同人の構想、つまり、共著のコンセプトは、初学者向けの教科書であって、原理・原則・定説をわかりやすく説くというものであったから、そこに学者としての原告、被告が、内容・思想上の独創性を挿入させる余地はなかった。
(イ) Cによるベース本の指定、構成、文章スタイルの指定
 Cは、共著作成に当たり、原告及び被告に、乙1ないし4文献、及び乙6文献、並びに「図説日本の財政平成10年度版」(増井喜一郎編、東洋経済新報社発行)(乙5、乙5文献)をベース(種本)にして原稿を書くように指示した。
 これらは、財政学、租税を専門とする人間にとってのいわば公共財のようなものであり、書かれている内容は、租税・財政学における大原則・大前提ばかりである。
 そして、Cは、教科書の前段には理論として、乙6文献の第T部のものを載せること、後段は主に、乙1、2文献をいわゆる種本にすること、構成は、目次の表記の仕方がすっきりしている乙6文献をモデルにすること、全B5版(35文字×28行)で、250頁から300頁以内にすることなど、共著の全体構造につき、詳細に原告及び被告に指示を出し、また、教科書の難易レベルは、乙4文献レベルで書くこと、文体は、乙3文献で統一し、丁寧語で初心者に語りかけるものにすること、テクニカルタームを必ず原告被告間で統一することなど、共著の具体的表現方法にも指示を出した。原告及び被告は、かかる指示に従って原稿を作成していった。
 また、上記種本としては、Cが指定した6冊のほかにも推薦本として同人が指定したものがある。
(ウ) その他Cの詳細な関与
 原告及び被告は、更に数度にわたる打合せ等を重ね、共著の原稿作成が、Cの極めて具体的かつ丁寧な関与・指導の下で行われていった。
 例えば、原告及び被告が、各自の原稿を持ち寄った平成11年8月10日の打合せの席において、Cは、以下のような指導をした。すなわち、@「第5章の包括的所得概念の説明のところに、例の『彼らの名前を取ってヘイク=サイモンズの所得概念と呼ばれます。』と名前程度は入れよう。A君のところにはよく外国人名が出てくるから。しかし、A君は、(外国人の名前を)出しすぎだよ、削れ。それとY=ΔW+Cの算式を1行だけ入れる。よし、包括的所得概念の説明はこれでいいと。」、A「租税原則が2人とも抜けているな。2章の頭で入れようか。ワグナーは9原則あるけれど項目名の紹介だけ入れよう『日本の税制』19ページの図を使って。」、B「第3章の所得効果と代替効果(原告原稿担当)と第5章の累進税と労働意欲(被告原稿担当)が内容的にダブっている。どう調整しようか。第3章の簡素な税(原告原稿担当)と第10章の税制改革(被告原稿担当)が簡素な税でダブっている。このダブりはこのままで問題ない。第6章の支出税(原告原稿担当)と第10章の諸外国の税制改革(被告原稿担当)がダブっている。ここは6章を縮める。第10章の税制改革(被告原稿担当)と第8章の地方税(原告原稿担当)がシャウプ勧告地方税改革と地租でダブっている。8章を縮小し、主体は10章にする。第8章の地方税(原告原稿担当)と第7章の資産課税(被告原稿担当)が固定資産税でダブっている。7章を縮める。」、C「テクニカルタームを統一しよう、学生が迷うよ。制限的所得概念と所得源泉説はどちらがよく使われる用語かな。『図説日本の税制』はどっちを使っているかな。そうか、所得源泉説か。テクニカルタームの英語は本文からはすべて省くことに統一しよう。」、D「資産課税(被告原稿担当)の全体像を図で入れたいんだ。何か参考の本があれば鳥瞰図に整理して。資産課税はどんな税を範疇にしているのかが分かればいい。そして『この章ではそのうち国税体系に入る相続税と贈与税と取り上げて説明しましょう。』として説明に入る。僕は図で見てみたい気がするなあ。」(この発言後、原告が「こういう図を何かで見ました。確か米原さんの『はじめての財政学』だったと思いますが」と言って、被告にメモで図を渡した。)、E「第1章(原告原稿担当)を序章とするか、イントロダクションとするかどっちがいいだろうか」、(この発言を受け、被告が、「イントロダクションの方が初心者らしい語感があっていいと思いますが」と返答した。)、「そうか、洋食で行くか、そうしよう。」などである。
(エ) 以上のとおり、入門教科書である共著は、Cの発意によって制作が始まり、完成に至るまで、構成、目次、内容、文体、量、使用する文献等、同人の深い関与を受け、誕生したものである。つまり、同書制作の過程は、Cが同書を通じ、弟子である原告及び被告を育てようとした過程そのものなのである。
 入門教科書という共著の内容的性質、Cによる構成、分量、内容、文体及び量の指示、並びにベースとすべき種本の存在が、共著の内容・形式を決定付けたのである。すなわち、共著の内容は、何ら、原告及び被告による創作的なものとなる余地などなく、表現方法においても、種本の存在、Cの詳細な関与・指示の結果、そう表現するよりほかはない、というほどに不可避的なものであり、そこに原告独自の創造性が入り込む余地はなかったのである。
 また、共著の執筆においては、原告の担当部分に、被告もアイデア・意見を提供し、その逆も行うなど相互に関与し合って制作し合ったものであるから、各執筆者がその分担部分を独立して執筆したものではない。
イ 原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性
 平成15年度の新学期を迎えるに当たり、被告は、教科書として使用する共著の発注を税務経理協会に求めたが、「不良品を含めて在庫がほとんどありません。A先生にはその旨を以前にお知らせしてあるのですが、返答をいただけてないのです。」との回答を得た。
 共著を新学期における教科書として引き続き使用することを予定していた被告は、この回答に困惑し、共著の実質的制作者であるCに、在庫が切れていること、原告がそのことを承知で再版発行を承諾せずに放置をしていることを報告・相談した。この際、Cから、「単著でお出しなさい、書籍名も授業名のとおり租税論としなさい。」と指導を受けた。被告は、共著の実質的制作者であるCの了承を得た以上、そして新学期まで時期的に切迫していたという事情があったことから、迷うことなく新著の制作に取りかかった。
 以上の経緯で作成されたのが、本件書籍である。同書籍は、共著同様に講義のために作成された教科書であり、ベースとした本も同じであり、被告が記録していた共著作成時のCの具体的指示に従い作成されたものであって、その性質上、内容・表現が共著に似ているのはいわば必然である。原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性についての主張は、別紙対照表2「被告の主張」欄の各部分に係る「同一性又は類似性」記載のとおりである。
ウ 依拠性
 依拠性に関する原告の主張は否認する。
エ 故意又は過失
 本件書籍は、上記イ記載の経緯により作成されたのであり、それによれば、被告において、原告の著作権を侵害するという意識があるはずもなく、したがって、故意・過失もない。
オ まとめ
 原告は、被告各表現は、原告各表現の翻案・複製であると主張する。しかし、共著(本件著作物)又は原告各表現は、そもそも著作物ではないのだから、その翻案・複製など観念できない。
 また、「表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」ところ、原告各表現と被告各表現との類似性は、原理・原則・定説が述べられているという表現それ自体でない部分におけるものである。仮に、表現上類似している点があったとしても、それは、本件書籍及び本件著作物が、共通のコンセプト、共通の多数の種本、共通のCによる文体・分量・用語使用等の詳細な指示・指導という多数の共通条件の下で作成されたものである以上、不可避的に採用された表現であって、したがって、「創作性のない部分」にほかならない。
 以上のとおり、共著中の本件著作物は、種本等に基づくものであり、その内容・表現に創作性はないが、仮に、本件著作物又は原告各表現に創作性が認められたとしても、本件書籍及び被告各表現は、本件著作物の翻案・複製に当たるものではない。
(2) 争点2(原告の損害額はいくらか)について
(原告の主張)
 被告の行為により原告が受けた損害は、次のとおりである。
ア 財産上の損害
 本件書籍の定価は、1部3200円(税別)であり、発行部数は、1500部であった。
 原告が、本件著作物に関する著作権の行使により受けるべき金銭の額は、出版部数を基準とし、印税率を10%、共著のため印税を等分するとすれば、
 3、200円×1、500×0.1×0.5=240、000円
 となり、これを原告の財産上の損害として請求する。
イ 精神的損害
 原告は、被告による著作者人格権(氏名表示権)侵害行為により精神的損害を被った。原告の研究者としての地位、被告の研究者としての地位、被告による原告の著作者人格権侵害の程度、侵害を生ずるに至った経緯、故意又は過失の程度及びその態様等を総合すれば、その損害を慰謝すべき額は、100万円を下らない。
ウ 弁護士費用
 被告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵害行為の結果、原告は、やむなく弁護士に依頼して本件訴訟を提起し、弁護士報酬として60万円の支払を余儀なくされ、同額の損害を被った。これは、被告の上記行為と相当因果関係にある損害である。
(被告の反論)
 共著は、創作性がなく、原告の著作物ではないのであるから、原告において、著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵害による損害の発生など観念できない。
(3) 争点3(謝罪広告の要否)について
(原告の主張)
ア これまで述べた各諸事情を考慮すれば、原告が著作者であることを確保し、原告の財政学、租税論の研究者としての名誉信用の回復を図るためには、被告名での謝罪広告を行うことが必要である。
 特に、被告には、自身の著作権・著作者人格権侵害行為の重大性・悪質性についての認識が全くなく、訴訟提起前から現在に至るまで、原告の行為を非難し、挑戦的な態度を取り続けている(甲6の3、乙68など)。被告による著作者人格権侵害等を認めた判決が確定したとしても、被告が、今後いかなる言動に出るかは予断を許さないものであるから、原告が著作者であることを確保するための適当な措置として、謝罪広告の掲載が認められるべきである。
イ 被告の反論に対する再反論
(ア) 被告は、共著には、経済学者としての原告の人格が化体されていないと主張する。
 しかし、租税論の原理・原則・定説等を内容とする初心者用の入門的教科書であっても、また、そのような教科書であればこそ、初学者の興味を引き、理解しやすいよう、適切な例を用い、文章の順序や運びについて創意工夫を凝らす必要がある。このような創意工夫により、著作者の個性的特徴、ひいてはその人格が顕現された優れた教科書が創作され得るのである。
(イ) 被告は、本件書籍の実売部数、発行元による回収、本件書籍と謝罪広告の掲載を求める月刊誌「税務通信」との購読者層及び発行部数の差異等について主張する。
 しかし、本件書籍の実売部数1137部は、未だ回収されてはおらず、販売されたまま残っている。また、被告は、本件書籍の購読者について、そのほとんどが被告の授業を受ける青山学院大学の学生であると主張するが、実際の受講者が600名超であるとして(乙68)、この受講者すべてが本件書籍を購入したとしても、約500部が被告の授業を受ける学生以外の手に渡って残っているのである。これらは、当該専門分野(財政学、租税学)の大学教員や関係者により購買され、また、多くの図書館により購入され、所蔵されているものと思われる。
 このように、本件書籍と「税経通信」との間には購買者層に著しい乖離があるとの被告主張は誤りであり、「税経通信」と本件書籍の実売部数を単純に比較しても意味がない。原告は、むしろ全国紙などのような発行部数が多い媒体を避け、発行部数が比較的限定されており、かつ、本件書籍の発行と関係のある税務経理協会発行の同誌を選択したものである。
(ウ) 被告は、本件書籍を出版するきっかけとなった事情を主張するが、かかる事情は、謝罪広告の掲載の必要性を否定する根拠としては、全く意味がない。なお、そこで、主張されている事情が事実と相違することは前記のとおりである。
(エ) 本件書籍に関し、原告と税務経理協会との間で和解が成立し、税務経理協会が、別紙広告目録2記載の条件及び内容で、広告を掲載することが合意された。
 しかし、同広告は、原告が、訴訟提起時に税務経理協会に対して求めていたものとは相当に異なるし、原告が被告に対して求めている謝罪広告(前記「第1 請求」の3)とは、内容、表現において異なる。
(オ) また、被告が本件訴訟外において、原告の本件著作物についての著作権を否定する発言をしているかどうかは、謝罪広告の要否とは関係しないし、被告の受ける不利益は、被告自身の著作者人格権侵害行為によるものであって、謝罪広告の掲載によるものではない。
(被告の主張)
 仮に本件著作物に創作性が認められ、被告の原告に対する著作権侵害・著作者人格権侵害の事実が認定されたとしても、謝罪広告は認められるべきではない。
ア 本件著作物及び本件書籍は、教科書、しかも初心者向けのものである。つまり、経済学者であるところの原告や被告が、その独自の見解や主張、すなわち、独創性を発揮し得るたぐいの書籍ではなく、むしろ、経済学を学ぶ者すべてにとっての共通認識を紹介する書籍であり、経済学者としての原告の人格が化体されているものではないのである。このことは、Cの発案、指導、多くの指定種本の存在等から明らかである。
イ さらに、本件書籍の実売部数は、1137部であり、この実売された分及び回収不能であった見本等を除いては、すべて税務経理協会において早期(原告からのクレーム発生直後の平成16年夏ころ)に回収済みであり、流通されなくなって久しい。しかも、上記実売分の購読者のほとんどが、被告の授業を受ける大学の学生であり、教科書という特性上、それ以上に流布していくたぐいのものでもない。したがって、原告の社会的名誉・声望が害されたとまで認められないものである。
 これに対し、原告が謝罪広告の掲載を求める月刊誌「税務通信」は、発行部数月刊3万5千部もあり、多くの経済学関係者が定期購読している。上記本件書籍の実売数と余りに差があるとともに、同書籍の購買者層と広告を読むであろう読者層にも著しい乖離がある。そのような雑誌に、原告の名誉回復をするための手段として、金銭賠償に加え、謝罪広告を掲載する必要性は認められない。
ウ そもそも、被告が本件書籍を出版するきっかけとなったのは、共著が在庫切れで、増刷予定もなく、教科書として共著を今後も使用しようとしていた被告にとって、切迫していた状況が存在したからである。しかも、原告は、税務経理協会からの在庫切れの連絡を、被告より先に受けていたにもかかわらず、これにつき何らの対応もせず、放置したのである。被告が、原告のこの放置ぶりを出版社から聞くに及び、「原告は動かない、自分の側だけで何とかしなければ」と考えたとしても、致し方ない状況であったのである。被告は、このような状況をCに報告し相談したが、そのときの回答は、「単著でお出しなさい。書名は『租税論』でいい。あれはいいタイトルだ。」というものであった。この言葉を聞いた被告は、それに従い本件書籍を書いた。
 確かに、被告は、直接、先輩に当たる原告に断りを入れてはおらず、そのことは被告の注意不足として責められるべきことであるとしても、上記切迫した状況、原告の放置、恩師の指示からすれば、上記注意不足は悪質なものとはいえないはずである。
エ 本件著作物は、前記のように、平成16年夏の時点で書店等から回収済みであり、回復措置は一定程度執られている。また、原告と税務経理協会との和解において、別紙広告目録2記載のとおりの広告が掲載されるのであって、十分な原状回復措置がなされることが予定されており、これに加え、金銭賠償のほかに、あえて被告に対し、謝罪広告を求める必要性はない。
オ 被告は、本件訴訟において、本件著作物の創作性について争ってはきたが、訴訟外の社会的場において、原告の本件著作物における著作権を否定するような発言は一切しておらず、その意味でも被告に謝罪広告を掲載させる必要性はない。
 以上に対して、被告名義の謝罪広告が掲載されれば、被告は失職するのであり(乙68)、受ける不利益は余りに大きすぎる。本件書籍の発表・出版経緯に、上記不利益を受けるほどの悪質性が被告に認められないのは前記のとおりであり、謝罪広告を掲載する許容性に欠けることは明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(著作権(複製権又は翻案権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の有無並びに被告の故意・過失の有無)について
(1) 本件著作物の著作物性
ア 被告は、本件著作物には全体として著作物性がないと主張するので、この点について検討する。
 被告は、本件著作物に著作物性がないとする根拠として、本件著作物を含む共著は、原告及び被告共通の指導教授であるCの発案により、租税論における原理・原則・定説をわかりやすく解説するための初学者用の教科書として制作されたものであること、また、執筆に当たり、全体構造、ページ数、ベースとすべき複数の文献の指定、使用する用語、文体等に至るまで逐一詳細に同人の指導・指示を受けて作成されたものであることを挙げ、これらのことからすれば、本件著作物には内容上の創作性がなく、その表現の具体的形式も不可避的に選択されたものであって創作性がないと主張する。
イ しかしながら、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、対象となる書籍などについて著作物性を肯定するためには、表現それ自体において創作性が発現されること、すなわち、表現上の創作性を有することが必要とされるものである。そして、表現上の創作性とは、独創性を有することまでは要せず、著作者の何らかの個性が発揮されていることで足りると解すべきであるが、創作物が言語によるものである場合、アイディアと一体となった表現や、表現形式が制約されている表現、平凡かつありふれた表現などにおいては、筆者の個性が発揮されているということは困難であり、創作的な表現であるということはできない。
 そして、既に明らかとされている原理・原則・定説を解説する場合についても、これをどのような文言、形式を用いて表現するかは、各人の個性に応じて異なり得ることは当然である。したがって、原理・原則・定説を内容とする租税論の入門的教科書であっても、わかりやすい例を用い、文章の順序・運びに創意工夫を凝らすことにより、創作性を有する表現を行うことは可能であり、記述中に公知の事実等を内容とする部分が存在するとしても、これをもって直ちに創作性を欠くということはできず、その具体的表現に創作性が認められる限り、著作物性を肯定すべきものと解するのが相当である。
 また、共著の執筆が、Cの発案によるものであることに加えて、Cが被告の主張するとおり、ページ数、参考とすべき文献についての指導、使用する用語、文体等についての逐一詳細な指導・指示等を行ったとしても、実際に執筆する原告(及び被告)の具体的な表現が、一義的に決定されるというものではないから、これらにより、本件著作物の表現の具体的形式が不可避的に選択されたものであるとか、あるいは、原告個人の個性が表れていない、などということはできない。
 なお、被告は、共著の実質的な制作者がCであると主張し、あるいは、共著の執筆において、相互にアイディア・意見を提供したものであり、本件著作物が原告の単独著作物であることを否定するかのような主張もするが、Cの指導・指示に関する被告の主張によっても、具体的表現を行っていない同人が、本件著作物の著作者であるとは到底評価することができないし、本件著作物の執筆についての被告の関与の具体的な主張立証はなく、被告の主張は採用できない。
ウ 以上からすれば、本件著作物を含む共著全体について、創作性がないとの被告の主張は採用することができない。
(2) 原告各表現の著作物性、原告各表現と被告各表現の同一性及び依拠性
 上記(1)のとおり、本件著作物が全体として著作物性がないということはできないから、原告が、被告各表現において複製ないし翻案されたと主張する原告各表現についての著作物性及び原告各表現と被告各表現の同一性について、以下、検討する。
ア 原告各表現の著作物性
 著作物性を肯定するために要求される創作性は、上記(1)のとおり、独創性を有することまでは要せず、著作者の何らかの個性が発揮されていることで足りると解すべきであるが、創作物が言語によるものである場合、アイディアと一体となった表現、表現形式が制約されている表現、平凡かつありふれた表現などについては、筆者の個性が発揮されているということは困難であり、創作的な表現であるとはいえない場合があると解される。
イ 原告各表現と被告各表現の同一性
 著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年( )第922号同13年6月28日第一小法廷判受決・民集55巻4号837頁参照。)
 そして、著作権法は、前記のとおり、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイディア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、既存の著作物の複製及び翻案に当たらないと解するのが相当である(前記平成13年最高裁判決。)
ウ 依拠性
 原告各表現と被告各表現の同一性が認められる場合に、それらが酷似していたり、既に発行されている文献等に現れないものがそのまま使用されていたりするときは、上記第2、1(前提となる事実等).における共著の出版の経緯や、被告が、共著の再版ができないために、急遽、学生向け教科書として本件書籍を執筆した旨主張していることなども併せ考慮すると、被告各表現は、原告各表現に依拠して再製されたというべきである。
エ 判断
 以上を踏まえて、原告各表現の著作物性、原告表現と被告各表現の同一性及び依拠性について検討すると、別紙対照表2「当裁判所の判断」記載のとおり認められる。
(3) 被告の故意・過失の有無
 上記第2、1(前提となる事実等).及び.の原告及び被告による共著の作成の経緯や被告による本件書籍の執筆の経緯並びに上記.において認定した原告各表現と被告各表現との同一性の状況からすれば、被告には、原告の著作権を侵害したことについて、少なくとも過失があるというべきである。
 被告は、共著を教科書として使用することを予定していた新学期の開始を間近に控えた段階で、原告の了承が得られないために共著の再版ができないことを知り、対応について相談したCから、被告単独の著作物として出版すべきであるとの指導を受けて、本件書籍を執筆したのであり、原告の著作権を侵害する意識もなく、過失も認められない旨主張するが、上記認定に照らし、被告が指摘する事情が存するとしてもこれらによって被告の過失が失われると解することはできないから、被告の上記主張を採用することはできない。
(4) 著作者人格権侵害
 上記複製権侵害が認められる部分の被告各表現には、原告の氏名が表示されていないから、同部分について、原告の氏名表示権の侵害が認められ、被告は、上記.と同様の事情から、同侵害について、少なくとも過失があると認められる。
(5) 小括
 そうすると、本件書籍を複製し、頒布する被告の行為は、別紙対照表2「裁判所の判断」欄で認めた部分において、原告の本件著作物についての複製権及び氏名表示権を侵害する行為に該当する。
 そして、原告は、本件書籍の複製等の差止めを請求しているところ、本件書籍中の同部分のみを分離することはできないから、同部分を含む本件書籍全体について、その複製等の差止めを認容するのが相当である。
 さらに、上記(3)及び(4)のとおり、被告には、原告の本件著作物における著作権及び著作者人格権に対する侵害について、少なくとも過失があるというべきであるから、民法709条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
2 争点2(原告の損害額はいくらか)について
(1) 財産的損害について
 本件書籍について、その定価は、1部3200円(税別)、発行部数は、1500部であったことが認められる(弁論の全趣旨)。
 また、本件書籍の使用料相当額は、上記定価の10パーセントと認めるのが相当である。
 さらに、本件書籍中、原告の本件著作物についての著作権を侵害するのは別紙対照表2「裁判所の判断」欄で認めた部分であり、同部分の合計は行数にして1084行である。本件書籍の1頁当たり行数は28行であるが、図表、表題及び空白部分などを考慮し、1頁当たり20行として同部分を頁数に直すと約54頁となる。本件書籍の本文の総頁数は291頁であるから、総頁に対する侵害部分の頁数の割合を乗ずることとする。
 そうすると、原告が被った財産上の損害は、8万9072円となる。
 3、200円×1、500部×0.1×54/291≒89、072円
(2) 精神的損害
 被告による侵害の態様その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、氏名表示権の侵害に基づく慰謝料は、本件書籍の侵害部分1か所につき2万円と認めるのが相当である。
 本件書籍中、原告の氏名表示権を侵害するのは別紙対照表2「裁判所の判断」欄で認めた61か所であるから、原告が被った精神的損害は、122万円となる。
 20、000円×61か所=1、220、000円
 したがって、被告による氏名表示権侵害行為により被った精神的損害を慰謝すべき額として原告が請求している100万円について、これを認容するものとする。
(3) 弁護士費用
 本件訴訟の性質、経緯その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、被告による著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、合計15万円が相当である。
3 争点3(謝罪広告の要否)について
 著作者は、故意又は過失により著作者人格権を侵害した者に対し、「著作者であることを確保するため、又は、「訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若」しくは声望を回復するため」に適当な措置を請求することができ(著作権法115条)、謝罪広告もこの「適当な措置」に含まれるものということができる。このうち、「訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するため」に適当な措置を請求する場合の著作者の名誉声望とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉声望を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである(最高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照。)
 本件についてみると、まず、被告には、前記認定のとおり、原告の本件著作物についての著作者人格権侵害について、少なくとも過失がある。
 また、本件書籍中、原告の著作者人格権を侵害すると認められる部分は、前記のとおり、頁数にして54頁であり、本件書籍の総頁数291頁の2割近くにも当たること、原告表現と酷似する被告表現も少なくないこと、訴訟提起前から現在に至るまで、被告は、自己の著作権・著作者人格権侵害行為の重大性についての認識が乏しい面がうかがわれることなどの事情が認められる。これらの事情からすれば、本件において、謝罪広告を、著作者であることを確保する等のための適当な措置として認めることも十分考えられるところである。
 しかしながら、本件書籍の実売部数が1137部と限られており、本件書籍が、被告が大学で講義を行う際のテキストとして使用することを主たる目的として出版されたこともあって、これを購入したのは、主に、被告の講義の受講生、財政学・租税学の分野の大学教員や関係者であって、それ以外の一般の購入者はある程度限定されていると考えられるところ、上記第2、1(前提となる事実等)(3)のとおり、平成19年3月28日の本件弁論準備手続期日において、原告と税務経理協会の間で、和解が成立し、別紙広告目録2記載の条件及び内容で、広告を掲載する旨の合意がなされたことにより、上記本件書籍の主な購入者層と読者層の一部が重複すると認められる月刊誌において、同目録記載のとおり、本件書籍には、本件著作物との間に、著作権法上の問題があることが明示されることになったのであるから、本件書籍における原告の著作者人格権侵害部分について、原告が著作者であることを確保するための手段が既に講じられているというべきである。また、上記の本件書籍の実売部数等の事情からすれば、本件書籍によって、原告の社会的名誉声望が害されたとまでいえるかは必ずしも明らかでなく、仮に原告の社会的名誉声望の侵害が認められるとしても、著作者である原告の名誉又は声望を回復するための手段が十分講じられているというべきである。
 したがって、税務経理協会による上記広告に加えて、「著作者であることを確保するため」、又は、「訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するため」に、更に被告による謝罪広告を行わせる必要があるとは認められず、これを認めることはできない。
第4 結論
 よって、原告の請求は、被告に対し、著作権法112条1項に基づく本件書籍の複製又は頒布の差止め、民法709条に基づく損害賠償金123万9072円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年9月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 片山信は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 清水節


(別紙)著作物目録
 次に掲げる書籍中、第1章、第3章、第4章、第6章、第8章及び第9章
 書籍の名称 「租税論」
 著者名 A・B
 発行者 D
 発行所 株式会社税務経理協会
 発行日 平成12年3月15日

(別紙)書籍目録
 書籍の名称 「現代租税論−理論・法・制度−」
 著者名 B
 発行者 D
 発行所 株式会社税務経理協会
 発行日 平成16年5月1日

(別紙)広告目録1
 「謝罪広告」
 「私は、書籍『現代租税論−理論・法・制度』を平成16年5月1日、株式会社税務経理協会から発行しましたが、同書籍中において、私とA氏との共著『租税論』(平成12年3月15日株式会社税務経理協会発行)中のA氏執筆の同氏の著作物部分を利用することにより、同氏の著作権および著作者人格権を侵害し、同氏に対し多大の迷惑をお掛けいたしました。よって、ここに同氏に対し謝罪いたします。
  B」

(別紙)広告目録2
 税務経理協会は、平成19年6月15日までの間に、同社発行の月刊誌「税経通信」の「News & Information」欄の最終ページ末尾、同ページの幅にわたり設けた四角形の枠内に、横書きにより、下記の広告を見出しは12ポイント活字をもって、本文は10ポイント活字をもって、1回掲載するものとする。
 記
 見出し 絶版のお知らせ
 本文 B著「現代租税論−理論・法・制度−」(平成16年5月1日発行)は、A・B著「租税論」(平成12年3月15日発行)中のA氏執筆部分との間に、著作権法上の問題があることが判明したため絶版とし、A氏にお詫び致します。

(別紙)対照表1<略>

(別紙)対照表2
  被告の主張 原告の主張 当裁判所の判断
1 (1)原告表現の著作物性
 乙6文献の3頁5〜19行目に依拠して記述されている。乙6文献の3頁「租税はキリストの誕生以外のさまざまな歴史的出来事と関わってきた」の文章と全く同一であるし、「古代ローマの国勢調査」や「イギsリスの上地台帳」を例に挙げ、租税が行政的発展に貢献してきたと述べている点も同一である(「貢献」という表現も同一である。)。














(2)同一性又は類似性
 同じ乙6文献を種本にしているのだからある程度表現内容・形式が類似するのは当然である。むしろ、本件書籍では「歴史上の革命は租税に対する人々の強い不満が引き金となって…」と記述され、被告独自の視点が導入されている。また、「太閤検地」等、日本人学生になじみ深い例を挙げるなどし工夫されている。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、共著の第1章の冒頭の部分であり、重要な書き出し部分である。ここで原告は、「人類の歴史は戦争の歴史と言われることがあ」ること、「租税はその戦争と非常に強く結びついてき」たこと、それは「新たな租税を導入した理由が戦争だからで」あること、「租税が深く関わってきたのは戦争だけでは」ないこと等の命題をかかげて、初学者である読者の興味をそそるとともに、その例証として、乙6文献中の「租税はキリストの誕生以外のさまざまな歴史的出来事と関わってきた」との文章を引用するとともに、古代ローマの国勢調査や中世イギリスの土地台帳等の歴史的事実を取り上げているのである。
 この部分には、例証として乙6文献からの引用文や歴史的事実に関する記述が含まれているものの、これを全体としてみるとき、原告の個性が表現され、創作性が認められる著作物であるというべきものである(もちろん、上記引用部分や歴史的事実自体の複製等について原告の著作権が及ぶものでないことは、いうまでもない。)。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分もまた、同書籍第1章の冒頭の文章であり、その第1文「人類の歴史……非常に強く結びついてきました。」は、本件著作物の第1文と1字1句同一のデッド・コピーであり、その複製である。また、第2文についても、本件著作物が「新たな租税を導入した理由の多くが戦争だからです。」であるのに対し、本件書籍では、「新たな税を導入した理由の多くが戦争のための財源の調達でした。」となっており(以下、下線はいずれも原告代理人による。)、1字1句同一ではないものの、後者は前者の「単なる増減変更」として複製と解すべきものである(複製でないとしても翻案に当たる。)。
 そして、本件著作物のうち、上記被告の複製等にかかる部分は、ありふれた表現ではなく、原告の個性が表現されている創作的な表現であるといわなければならない。
 なお、被告は、本件書籍には被告独自の視点が導入されているとか、大閤検地など本件著作物にない例が挙げられている旨主張するが、これらは著作権侵害の成否と関係がない。
 本件著作物の当該部分は、租税と歴史的事象との結びつきを、具体的事例を挙げて説明するものである。このうち、「租税はキリストの誕生以外のさまざまな歴史的出来事と関わってきた」、「古代ローマの国勢調査」及び「イギリスの上地台帳」との表現は、乙6文献の被告指摘部分と同一の表現ということができるが、そのほかの表現は、乙6文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 被告表現は、原告表現と実質的に同一であると認められ、原告表現の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、被告表現には、原告表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、被告表現は、原告表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
2 (1)原告表現の著作物性 
 乙3文献の22頁7行目〜23行目、及び28頁3行目、乙8、乙15文献の19頁末尾から2行目〜20頁5行目並びに19頁及び20頁下段に拠って記述されている。
 イギリスから話が始まるという構成が乙3文献と同一だし、イギリスの革命を入れるようCより指示があったのだから、当然のことである。
 マグナカルタが租税法律主義のはじまりであり、これに2大革命がからめられ説明する構成は、乙8文献と全く同様である。国王らの「恣意的な課税」が問題であったとの指摘も乙8文献、乙15文献と同じである。
 また、本件著作物の当該部分は、乙67文献にも依拠している。すなわち、「議会は『権利請願』を提出しました。これは、献金の強制、恣意的な課税、不法な逮捕・投獄等が…」と記述されている部分(11行目以下)と、「マグナカルタはイギリス国民の自由の守り神という新しい精神をもって蘇ったのです。このことは『マグナ・カルタの神話』と呼ばれています。…」と記述されている部分(段末から4行目)は、それぞれ乙67文献の101頁、「…『権利請願』を国王に提出した。…献金の強制、恣意的な課税、不法な逮捕・投獄、…」と記述されている部分、及び「…イギリス国民の自由の守り神という新しい精神をもって蘇ってきた。『マグナ・カルタの神話』とよばれるゆえんである。」と記述されている部分と内容・表現とも同一であることが認められるから、本件著作物の当該部分は創作性がない。
(2)同一性又は類似性
 イギリスから話が始まり、マグナ・カルタ及び2大革命に流れ、租税法律主義の根源を説明していく構成は、本件著作物と同じであるが、乙3文献、乙8文献及び乙15文献も同様の構成をとっている以上必然である。むしろ、以下の本件著作物との相違点が顕著といえる。
 導入部分が本件著作物では、「まず、イギリスから始めましょう。」と口語調で述べられているのに比し、本件書籍では、「イギリスでは」と淡々と開始されている。
 本件書籍では「ピューリタン革命は、ピューリタンによって起こされた市民革命です」という一文を権利請願の話の前に導入することで、以下の記述がピューリタン革命への契機とわかる構成をとっているが、本件著作物にはそれがない。
 本件著作物では「チャールズ1世」の名が突如として出てくるが、本件書籍では「国王(チャールズ1世)」として表現されている。
 本件著作物では「名誉革命」についてはその内容につき触れられてないが、本件書籍では4行も使い説明されている。
(1)原告表現の著作物性
 ア 原告は、本件著作物の執筆に際して、乙8を参照し、あるいは、これに依拠したことはない。そもそも、乙8は、2003年(平成15年)5月15日及び同年6月12日に、野口悠紀雄氏のホームページに掲載されたものであり、平成12年3月に刊行された原告表現の著作物性に関し何の関係もない。
 イ 被告は、乙3文献、乙8文献、乙15文献に拠って記述されている旨主張するが、原告が本件著作物執筆時に乙8文献に依拠していないことは、前述のとおりである。
 乙3文献、乙15文献についてであるが、租税法律主義の歴史に関する記述を、イギリスのマグナ・カルタや2次にわたる革命や、国王の恣意的な諜税の問題にからめて説明することは、よく行われることである。また、その際、歴史書を参照して、これを断片的利川することもなされる。しかしながら、このようなことがあったとしても、短絡的に、その著作物の創作性を否定すべきではない。これらの歴史的事実にからめて、どのように工夫し、どのようにまとめて説明するかという点に、著作者の個性が表現され、この点において創作性が認められるのである。特に、教科書等の初学者川入門書においてこの点が要求される。乙3文献、乙15文献の指摘部分の表現は、木件著作物の原告の表現とは異なっており、本件著作物の当該部分には、創作性があるというべきである。


(2)同一性又は類似性
 ア 本件書籍の当該部分は、イギリスから話が始まり、マグナ・カルタ、2大革命に流れ、租税法律主義の根源を説明していく本件著作物と同様であるのみならず、その説明には、本件著作物と同一又は実質的に同一のものが、次のとおり多く存在する。
@-1本件書籍3頁13行、14行
 「(イギリスでは、)十字軍の遠征やフランスとの戦争によって財政が困窮し、ジョン王が軍役代納金をはじめとする種々の租税を強要していました。」
@-2本件著作物2頁13行〜15行
 この(マグナ・カルタの)発布は、「十字軍の遠征やフランスとの戦争によって財政が困窮していたために、ジョン王が軍役代納金をはじめとする種々の租税を強要したことが原因になっています。」
A-1本件書籍3頁18、19行
 (マグナ・カルタは)「4世紀以上を経た17世紀になると財政民主主義誕生の礎として効力を発揮するようになりました。」
A-2本件著作物2頁15、16行
 「その後、4世紀以上も経た17世紀に、マグナ・カルタは財政民主主義誕生の礎として本当の意味で効力を発揮しました。」
B-1本件書籍4頁4行〜7行
 「イギリスでは17世紀にイギリス革命と呼ばれる2大革命が起きましたピューリタン革命(1640〜1660年)と名誉革命(1688〜1689年)です革命が勃発した原因は、いずれも緊急事態の発生を理由に議会の同意なしに外交や課税を強行する専横の国王と、それに反対する議会との深刻な対立でした。」
B-2本件著作物2頁17行〜20行
 「17世紀には、イギリス革命と呼ばれる2つの革命が起きましたピューリタン革命(1640〜60年)と名誉革命(1688〜89年)です。このような革命が勃発したのは緊急事態の発生を理由に議会の同意なしに外交や課税を強行する国王とそれに反対する議会との対立が深まったためです。」
C-1本件書籍4頁9行〜26行
 「議会は国王(チャールズ1世)に対して、「権利請願」を提出します献金の強制、恣意的な課税、不法な逮捕・投獄等がマグナ・カルタによって保証された国民の権利を脅かしている、という訴えですチャールズ1世は「権利請願」を受託したかに見えましたが、翌年に議会を解散し、その後11年間は議会を開かず専制政治を続けましたその間にも国王はさらに関税の強化やさまざまな罰金の取立て等、新たな財源の確保を行っています。さらに港湾都市だけに課されていた船舶税を全国に拡大しました。この船舶税の改正が、大規模な反対を招きました同時期にスコットランド干渉に対する暴動も発生し、国王を処刑するピューリタン革命へと発展しています

 続いて起きた名誉革命も(中略)。この革命の結果、50年以上も続いていた国王と議会の争いを集約する形で「権利章典」が成立しました。この中に、課税は議会の承認を必要とすることが明記されています
 このように17世紀における歴史の中でマグナ・カルタは、国王の専制を廃し、財政民主主義あるいは租税法律主義を生み出すために、イギリスの国民の自由の守り神という精神を新たに加えて蘇りました。」
C-2本件著作物2頁21行〜3頁9行
 「議会は「権利請願」を提出しました。これは、献金の強制、恣意的な課税、不法な逮捕・投獄が、マグナ・カルタによって保証された国民の権利を脅かす、という趣旨の訴えです。チャールズ1世は一度は権利請願を受託しましたが、翌年には議会を解散し、その後の11年間にわたり議会を開かずに専制政治を続けました。その間、国王は関税の強化やさまざまな罰金の取り立て等、新たな収入源の確保に努めました。結果的には、港湾都市だけに課されていた船舶税を全国に広げたことが、大規模な反対運動を招きました。同時期には、スコットランド干渉に対する暴動も発生し、ピューリタン革命へと発展しています。続いて起きた名誉革命の結果、50年以上も続いた国王と議会の争いを集約する形で、「権利章典」が成立しました。この中にも、課税の承認を必要とすることが明確に記されています。
 このように17世紀の歴史的状況の中で、財政民主主義あるいは租税法律主義を生み出すために、マグナ・カルタはイギリス国民の自由の守り神という新しい精神をもって蘇ったのです
。」
 イ 被告は、本件著作物との相違点を強調するが、著作権侵害に関しては、保護著作物のいかなる部分が複製(又は翻案)されたか、またその複製等のなされた部分が、創作性のある表現であるかどうかが重要であり、本件書籍に、本件著作物にない部分が追加されているとの点は、あまり重要ではない。その他、同被告の主張する相違点は些細なものが多い。
 本件書籍のこの部分は、加筆されている部分を除き、ほとんど本件著作物のデッド・コピー又は、これに類するものである。その記述の内容を考慮したとしても、本件書籍の記述の表現以外に選択の余地がない、ということはできない。 
 被告は、本件著作物は、乙3文献、乙8文献、乙15文献に拠って記述されている旨主張する。このうち、乙8文献は、平成15年5月15日及び同年6月12日の記事であり、平成12年3月に刊行された本件著作物の執筆時に、原告がこれに依拠していないことは明らかである。
 また、被告は、本件著作物とこれらの文献は、「マグナカルタが租税法律主義のはじまりであり、これに2大革命がからめられ説明する構成」や、「国王らの『恣意的な課税』が問題であったとの指摘」が同じであると主張するが、具体的な表現に創意工夫の余地がないとはいえず、筆者の個性が発揮され得るのであるから、被告主張の点をもって直ちに原告表現の著作物性が否定されるべきであるということにはならない。
 以下、本件書籍の表現のうち、原告が、本件著作物の複製であると主張する部分について個別に検討する。











 本件書籍の@部分のうち、本件著作物の@部分と共通するのは、マグナ・カルタ発布当時のイギリスの財政状況という歴史的事実を、一般的な用語を用いて説明する部分であるし、表現で共通するのは、文章が比較的短く、ありふれた表現であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえないものである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 本件著作物のA部分は、そもそも、文章が比較的短く、表現に創意工夫をする余地が少ないところ、前半部分は、2大革命が起きた17世紀が、マグナ・カルタの発布(12世紀)から4世紀以上経過した後のことである旨を表しているにすぎないし、後半部分は、マグナ・カルタが財政民主主義誕生の礎であって、2大革命時に、その効力を発揮したという歴史的事実を説明しているにすぎないから、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえないものである。
 したがって、本件著作物の同部分については、複製権侵害・翻案権侵害の問題は生じないのであり、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当しない。
 本件著作物のB部分は、ピューリタン革命と名誉革命の概要について述べるものである。2大革命が勃発したことやその年代については、歴史的事実の記載にすぎないから、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍のB部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献にはみられないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物
の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 本件著作物のC部分は、権利請願の提出から、ピューリタン革命及び名誉革命の勃発という歴史の流れと、その流れの中でのマグナ・カルタの意義等を説明するものである。その内容は、歴史的事実及び経過が中心となっており、創作性の幅が限定されているものの、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
3 (1)原告表現の著作物性
 イギリスがフランスとの対立に勝利し、アメリカを植民地として独占支配するようになったこと、これを契機にアメリカに対する関税が問題になり、「代表なければ課税なし」としてアメリカで反対運動が起き、その象徴がボストン茶会事件であり、これがアメリカ独立の契機となったことが述べられているが、この構成は乙8文献の3頁と全く同一である。 
 「インディアンのモホーク族に変装した若者達がボストン港に停泊していた東インド会社の船を襲撃して」という表現と乙9文献の「インディアンに扮した…青年がボストン港に停泊していた東インド会社の船を襲撃し」とほぼ同じ表現が使用されている。
 東インド会社が植民地で茶を売るようになったことは、一見、植民地の消費者らにとって安価な茶の供給となり、喜ばしいと思われるが、さにあらず、といったくだり(第3段落)は、乙27文献の216頁と同様の書きぶりである。
 その他、乙8文献、乙9文献、乙27文献と同様のキーワードがちりばめられている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様乙8文献等を参考にしているのだから、構成がほぼ本件著作物と同じになるのは当然だし、同じキ一ワードが使用されているのも当然である。
 本件書籍では「植民地関税」の実施についての説明が本件著作物より詳細であり(第2段落)、「植民地の防衛や統治に必要な費用はその植民地の住民に負担させることを議会で可決します」として、植民地関税の目的を端的に表現している等の工夫が認められる。
(1)原告表現の著作物性
 原告が乙8文献を参照し、これに依拠していないことについては、既に述べたところである。
 同様に、乙9文献についても、原告はこれを参照し、これに依拠してはいない。そもそも、乙9文献はインクーネット上の百科事典であるが、それが、2005年(平成17年)9月29目に最終更新されたことはわかるが、一体いつ掲載されたものであるかすら、わからないものである。
 乙27文献にも、木件著作物と同様の具体的表現はなく、乙28文献については、なおさらである。
 本件著作物の当該部分は、それ以外の表現の選択の余地がない程必然的とはいえない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分の記述は、ほとんど本件著作物のデッド・コピーに近い。本件書籍のこの記述が、他の表現の選択の余地がないほど必然的であるということはできない。
 本件著作物の当該部分の内容は、フランスとの7年戦争後、イギリスの重商主義政策が強化されたこと、アメリカが、「代表なければ課税なし」としてイギリスの植民地関税に抗議したこと、さらに、ボストン茶会事件が起こり、これがアメリカ独立戦争の契機となったことなどを説明するものである。取り上げている内容の多くが、歴史的事実・経過であるため、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
4 (1)原告表現の著作物性 
 フランスがアメリカ独立戦争援助のために財政が重税を呼び、階層間の不平等感を浮き彫りにし、フランス革命に繋がっていくという構成は乙8文献と同様である。
 「塩税」、税の取立て人を問題にしている点も同じである。




(2)同一性又は類似性
 上記のような常識に属する記述である。その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 原告が乙8文献を参照し、これに依拠していないことについては、既に指摘した。
 乙31文献の259〜272頁には、フランス人権宣言及び租税法律主義の背景についての記述が、乙59文献の10頁14行目〜11頁12行目には、フランス革命前のフランス租税制度についての記述が、それぞれ存するが、その具体的表現は、本件著作物の当該部分とは全く異なり、本件著作物の表現には、原告の個性が表現されている。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句や順序の変更があるものの、ほとんど本件著作物の当該部分のデッド・コピーに近い。他の表現の選択の余地がないほど、常識に属する記述であるということはできない。
 本件著作物の当該部分の内容は、アメリカ独立戦争を援助したことでフランスの財政危機が深刻化したこと、フランス革命前のフランス租税制度とその問題点、さらに、フランス革命が租税の歴史においても重要な意味を持っことなどを説明するものである。取り上げている内容の多くが、歴史的事実・経過であるため、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということがでる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
5 (1)原告表現の著作物性
 我が国の租税徴収につき大化の改新にさかのぼり説明する構成は、乙26文献の69頁5〜21行目、乙2文献の32頁4〜10行目、及び34頁17〜21行目のとおりであるし、徳川家康のくだりは乙3文献の119頁囲み記事左側1〜13行目のとおりである。豊臣秀吉の太閤検地のくだりは、乙28文献の53頁27行目〜54頁5行目を土台にしている。





(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙26文献、乙2文献、乙3文献等を種本として使用している以上、表現が類似するのは不可避である。
(1)原告表現の著作物性
 乙2文献及び乙26文献には、大化の改新に触れている部分があり、乙2文献の他の部分、乙28文献、乙26文献、乙59文献には太閤検地について記述している。また、乙3文献及び乙59文献には、徳川家康の言葉(と伝えられている)についての記述がある。 
 しかし、本件著作物の当該部分は、これらの事実や伝えられている言葉を例証として示しながら、「年貢とわが国の農民」(本件著作物の当該部分の見出し)について、約1頁分にわたり、わかりやすく、興味深い具体的な文章としてまとめて表現したものである。本件著作物の当該部分全体に対応する具体的表現は、被告指摘の乙号証の文献にはなく、また、本件著作物の表現が不可避的に選択されざるを得ない、ということもできない。本件著作物には創作性がある。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の追加・変更等はあるものの、ほとんど本件著作物の当該部分のデッド・コピ一に近い。
 本件著作物の当該部分の内容は、我が国の租税制度の確立が大化の改新までさかのぼること、そのほか、我が国の租税制度の歴史について、太閤検地や徳川家康の言、及び幕藩体制下での年貢の徴収などを取り上げて解説するものである。内容の多くが、歴史的事実・経過であるため、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
6 (1)原告表現の著作物性
 いわゆる人頭税につきサッチャー政権の政策をもって歴史的に説明することはいわば常識であり(乙4文献の153頁12行目〜154頁5行目、及び同頁10〜22行目、乙6文献の265頁28行目〜266頁16行目)、両文献指摘部分ともに説明の終わりで人頭税導入がサッチャー政権の終焉を招いた旨の文章で終わる構成を取っている点で本件著作物と類似している。また、乙4文献ではサッチャー政権を「小さな政府」として呼称している点でも同様だし、「11年間」をサッチャーないしはサッチャー政権の形容詞として使用している点においても乙4文献と本件著作物は類似している。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物と類似する表現といえば@サッチャー政権を「小さな政府」と呼称して紹介している点、A段の最後が「11年間続いたサッチャー政権は終焉」で終わっている点ぐらいである。@、A共に乙4文献でも同様なのであるから、乙4文献を種本にしている以上、当然である。その他、本件書籍は主に乙4文献の152頁、153頁を参考に記述した。本件著作物よりも乙4文献との類似性のほうが顕著である。
(1)原告表現の著作物性
 乙4文献、乙6文献、乙30文献では、イギリスのサッチャー首相時代に、従来の土地・建物に対する税であるレイトに代えて採用されたコミュニティー・チャージ(人頭税)についての記述がある(ただし、乙30文献では3行のみ)。
 しかし、本件著作物の当該部分では、この人頭税と財政規模との関係等につき、食事費用の割り勘などの身近な例を引き、わかりやすく、約1頁にわたって説明している。被告指摘の乙号証の文献には、これに対応する具体的表現はなく、本件著作物の当該部分の表現には創作性がある。


(2)同一性又は類似性
 ア 被告は、本件書籍と本件著作物と類似する表現は、@サッチャー政権を「小さな政府」と呼称している点、A段の最後が、「11年間続いたサッチャー政権は終焉」で終わっている点である旨、また、本件書籍は、主に乙4文献を参考に記述したから、本件著作物よりも乙4文献との類似性の方が顕著である旨主張する。
 しかしながら、その主張は事実に反するものである。
 @‐1本件書籍8頁3行〜10行
 「1979年に誕生したイギリスのサッチャー政権は、小さな政府の実現を目標に掲げていました地方政府についても同様です租税負担が一部の人々に偏っている場合は、負担の痛みを伴わない人々によって、より多くの公共サービスを提供する政府が歓迎されがちです。そして財政規模は増大していきます。経済先進国は例外なくこの政府財政規模の膨張に頭を痛めています。しかし租税が全ての住民の負担となれば負担を軽減するために全ての住民は財政規模の縮小を考えるようになるでしょう。」
 @‐2本件著作物6頁17行〜21行
 「1979年に誕生したイギリスのサッチャー政権は、小さな政府の実現を目標に掲げていました地方政府についても同様です租税負担が一部の住民に偏っている場合には、負担の痛みを伴わない他の住民は、より多くの公共サービスを供給する大きな政府を歓迎しがちです。しかし財政規模の増大が全ての住民の負担となれば、負担を軽減するために住民は規模の縮小を求めるでしょう。」
 (なお、両者とも、見出しは「人頭税とサッチャー政権(1990年)」であり、全く同じである。)
 A‐1本件書籍8頁11行〜22行
 「そこで鉄の宰相と言われたサッチャーは、(中略)人頭税を導入(1990年)しました。これはコミュニティー・チャ一ジ(地域住民税)と呼ばれ、18歳以上の全員が課税される地方税です地方税の「レイト」という土地・建物に対する税に代えての導入のため小さな家に住んでいる人々あるいは借家のためにレイトを支払っていない人々に納税義務が生じました。また人頭税の税額は、地方政府の財政規模と納税者数によって算出されました。すなわち、個人の能力とは関係なく税額が決まります家族数が多ければ負担は重くなります。その結果、レイトのときよりも負担が増える人の数が、負担が減る人の数よりも多くなりました。そのために多くの国民の反発を生みました。厳しい人頭税の結果11年間続いたサッチャー政権は終焉を迎えます。」
 A‐2本件著作物7頁9行〜17行
 「1990年にサッチャー首相は地方税のレイトという土地・建物に対する税に代えて人頭税を導入しました。 課税の免税措置がとられているとは言え、課税対象は18歳以上の全ての成人で税額は地方政府の財政規模と納税者数によって算出されました。人頭税の導入によって小さな家に住んでいるためにレイトを支払っていなかった人々にまで納税義務が生じました。その上、当然のことですが、家族数が多ければ負担は重くなります。このような人頭税は、個人の能力とは関係なく税額が決まり、負担の逆進性が強かったために、多くの国民の反発を生みましたその結果11年間続いたサッチャー政権は終焉を迎えることになりました。」
 イ 本件書籍の当該部分の見出し、冒頭の第1文は、本件著作物の当該部分と全く同じであり、第2文も、一部の語句を変えたほか、同一である。その他の点については、語順の変更や追加部分の付加がみられるものの、主として本件著作物に依拠して、その多くの部分を複製ないし翻案したものというべきものである。
 被告の主張するとおり、人頭税につきサッチャー政権の政策をもって歴史的に説明することが一般的であり、文章の構成や、指摘している事項が同一であるとしても、具体的にどのように工夫して説明するかという点に、筆者の個性が発揮されるのであり、被告主張の点をもって直ちに本件著作物の創作性が否定されるということにはならない。
 以下、本件書籍の表現のうち、原告が、本件著作物の複製であると主張する部分について個別に検討する。









 本件著作物の@部分は、サッチャー政権における人頭税の導入の前提として、小さな政府の実現や、財政規模の縮小について説明したものである。その内容は、サッチャー政権の誕生といった歴史的事実などの説明や、財政規模の縮小の必要性など、それ自体一般的なものであるとしても、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。





 本件著作物のA部分のうち、本件書籍のA部分と共通しているのは、(ア)(人頭税が)18歳以上の全員が課税される地方税であること、(イ)(人頭税が)地方税の「レイト」という土地・建物に対する税に代えての導入であること、(ウ)小さな家に住んでレイトを支払っていない人々に納税義務が生じたこと、(エ)人頭税の税額は、地方政府の財政規模と納税者数によって算出されたこと、(オ)個人の能力とは関係なく税額が決まること、(カ)家族数が多ければ負担は重くなること、(キ)多くの国民の反発を生んだこと、(ク)結果として、11年間続いたサッチャー政権は終焉を迎えたこと、である。 
 そして、(ア)〜(カ)は、人頭税の制度の内容を、(キ)、(ク)は、人頭税の結果として生じた歴史的事象を、それぞれ一般的な用語を用いて説明する部分であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。  
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
7 (1)原告表現の著作物性
 公債発行の利点を挙げ、その後に問題点を指摘する構成をとっているが、その構成自体は極めて一般的であり、何ら創作性はない。また、利点の内容についても、乙37文献の172頁末尾から3行目〜173頁6行目、乙5文献の55頁8行目〜14行目、末尾から3行目〜最終行記載の内容、問題点の指摘についても、乙5文献、乙37文献、乙33文献の166頁13〜14行目、末尾から2行目ないし最終行及び167頁2〜9行目の内容をそのまま摘示しただけである。



(2)同一性又は類似性
 公債の利点を挙げ、その後に問題点を指摘するという構成は本件著作物と同じであるが、前記のとおりこのような構成は一般的で凡庸である。その他、特段表現上の類似性は認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、公債発行の利点や問題点について、簡潔に、初学者にわかりやすいように工夫してまとめた文章であり、創作性がある。平凡でありふれた表現ということはできない。
 乙4文献の124頁18行目〜125頁2行目及び130頁末尾から7行目〜131頁5行目、乙3文献の11頁8〜10行目、乙5文献及び33の被告指摘部分は、これらの問題点に触れた部分があるが、その具体的表現は、本件著作物とは異なる。
 被告は、本件著作物や本件書籍の「構成」について論じているが、かかる構成自体が問題となるのではなく、それそれの具体的表現が問題なのである。
(2)同一性又は類似性
 被告は、本件書籍の構成は本件著作物と同じであるが、このような構成は一般的で凡庸である旨主張するほか、両者には、「その他、特段表現上の類似性は認められない。」と主張する。
 しかしながら、その主張は全く不思議な主張である。本件書籍の記述は次のとおり、本件著作物に依拠し、些細な字句の変更や文章の運びの順序を加えてあるものの、本件著作物の複製(そうでないとしても翻案)にほかならない。
 @‐1本件書籍11頁23行〜12頁1行
 「建設公債による調達は、公共財の建設費用の負担とその公共財から受ける便益の一致が可能になり、世代間の負担の公平を達成することができます。いわゆる世代間のフリー・ライダーの防止です
 また不況時には、租税収入による財源の不足を赤字公債の発行によって調達することができます。さらに公債の発行や財政支出が景気刺激政策の有効な手段として活用されています。
 A‐1本件書籍12頁2行〜9行
 「しかし問題点も指摘されています強制徴収である租税とは違い公債発行による財政支出には負担感がありませんこのため、財政錯覚を引き起こす恐れがありやがては財政規模の拡大をもたらしていきます。また、公債は人々の自発的な購入を期待しているために金利を高く設定する必要がありますさらに租税とは異なり、将来的には償還しなければならない債務ですから、金利の支払いと償還のために財政の硬直化を招くことがありますとくに赤字公債の場合には、公債費を賄うための増税によって、将来世代へ負担の転嫁が起きることが考えられます。」
 A‐2本件著作物8頁14行〜22行
 「しかしながら、問題点も指摘されています強制的な租税とは違い公債発行による財政支出の場合には負担感がありませんこのため、財政規模の拡大につながる財政錯覚を引き起こす恐れがあります。また、自発的に購入してもらうためには金利を高くしなければなりません。高金利政策は、経済投資をはじめとして、民間部門に大きな影響を及ぼすでしょう。さらに租税とは異なり、将来的には、債務である公債は償還しなければなりません財政規模の拡大や財政の硬直化に加えて、とくに赤字公債の場合には公債費を賄うための増税による将来世代への負担の転嫁も起きるでしょう。」
 被告は、本件著作物の「公債発行の利点を挙げ、その後に問題点を指摘する構成」を問題とするが、文章の構成や、指摘している事項が同一であるとしても、具体的な表現に創意工夫の余地がないとはいえず、筆者の個性が発揮され得るのであるから、被告主張の点をもって直ちに本件著作物の創作性が否定されるべきであるということにはならない。また、被告が指摘する文献中には、公債発行の利点や問題点に触れた部分があるが、本件著作物の表現は、制度や字句の説明等を除き、これら被告の指摘する文献の表現と同一とはいえないから、この点からも創作性を否定することはできない。
 以下、本件書籍の表現のうち、原告が、本件著作物の複製であると主張する部分について個別に検討する。







 本件著作物の@部分のうち、本件書籍の@部分と共通するのは、公債の発行の利点について一般的な用語を用いて説明する部分であるし、表現で共通するのは、建設公債、世代間の負担の公平、フリー・ライダーなど、比較的短く、ありふれた表現であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえないものである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。


 本件著作物のA部分は、公債発行の利点や問題点について説明するものである。これらの利点や問題点自体は、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的なものであるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
8 (1)原告表現の著作物性
 公共財についての説明と、これを完全に料金化させることは無理がある旨の記述がなされている。公共財について国防を例にあげて説明することは常識であるし(乙2文献の2頁2〜8行目)、無理があるとの結論も同様である(乙6文献の11頁10行目〜12頁2行目、及び9頁18ないし22行目)。
 さらに、「非排除性」「非競合性」という文言をもって説明することも一般的なことである(乙4文献の30頁末尾から8行目〜31頁末尾から4行目)。なお、「料金化には無理があるでしょう」との終わり方は、乙6文献の前記部分の終わり方と同様である。
(2)同一性又は類似性
 この段の内容は、公共財についての説明と、これを完全に料金化することの困難性をわかりやすく解説するものである。したがって、表現方式が、その導入部分と結び部分で類似するのは必然である。なお、中間部分につき特に類似する表現は見当たらない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、政府が供給する公共財・サービスの利用者から徴収する料金・手数料及びその問題点について、簡潔に、初学者にわかりやすいように工夫してまとめた文章であり、創作性のあるものである。
 乙6文献、乙4文献の被告指摘部分、乙3文献の41頁3〜10行目、乙2文献の2〜8行目には、これについての言及がある。しかしながら、その具体的表現は本件著作物の具体的表現とは異なる。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、その中間部分に東京湾横断道路の例を付加したり(被告は、この点をもって、「中間部分につき特に類似する表現は見当らない。」と主張するのであろうか。)、些細な字句の変更を加えているほか、その記述は、上記の付加部分(「海ホタルのある東京湾横断道路に見られるように、利用者にとって日常の生活で利用しにくいような高い料金の設定は、その道路の利用を拒むことにつながります。」とある部分)を除いては、本件著作物の当該部分に依拠し、これを複製したものである。なお、前記のような付加部分があることにより、被告が被告が侵害責任を免れることはない。
 本件著作物の当該部分は、公共財の概念、及び公共財の完全な料金化には無理があることを説明するものである。公共財について国防を例にあげて説明することや、財源調達を目的とする料金化に無理があるとの結論自体一般的なものであるとしても、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
9 (1)原告表現の著作物性
 ナムル共和国を例に出して、国有財産等の処分について、そのデメリットを中心に説明することはCの講義どおり(乙61)である。資源が枯渇した場合のことは乙11のとおりである。






(2)同一性又は類似性
 内容については恩師の指示どおりであるから、類似するのは当然である。
 表現につては特段i類似する部分はない。
(1)原告表現の著作物性 
 本件著作物の当該部分は、国有財産の売却による政府の収入につき、簡潔かつ平易に工夫してまとめた文章であり、創作性を有するものである。
 乙11は、インターネット上の百科辞典で、ナムル国の事情に関する項目であるが、原告は、これを参照したり、これに依拠したりしたことはない。また、そもそも、この項目の記載がいつなされたかも不明なものである。また、Cの昭和62年度の財政学の講1義(乙61)については原告は聴講していない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更及び字句の配列の若干の変更があるほかは、本件著作物に依拠しているとともに、同一又は実質的に同一である。
 本件著作物の当該部分は、国有財産の売却による政府の収入について、ナムル共和国(本来の名称は「ナウル共和国」)の例などを用いて説明するものである。国有財産の売却の問題点など、その内容自体一般的なものであるとしても、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
10 (1)原告表現の著作物性
 財源調達の方法としての貨幣発行に関する問題点を指摘した段落である。
 これが「政府にとってもっとも安易な方法」であろうことは素人でも指摘し得ることであり、形容として凡庸である。貨幣価値の下落、インフレを引き起こすという指摘も同様である。また、「…何世紀にもわたり度々試みられてきた」及び段落の末文は、乙6文献の9頁9〜17行目と同様の表現である。





(2)同一性又は類似性
 類似点としては「天保通宝」を例に挙げて説明していることくらいだが、貨幣の過剰な生産の我が国における1例としてこれを挙げるのは一般的であり凡庸である(乙12)。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、政府が必要とする財源の調達を貨幣の発行により行う方法について、簡潔かつわかりやすく、工夫してまとめた文章であり、創作性を有するものである。
 乙12は、原告において、これを参照し、依拠してはいない。そもそも、これは、氏名不詳者がそのホームページに書き込んだもので、その書き込み日自体明らかでないものである上、その天保通宝に関する内容が、本件著作物とは合致しないことからも、上記の点は明らかである。乙6文献の被告指摘部分には、政府による過剰な貨幣の生産についての記述があるものの、その具体的表現は、本件著作物のものとは異なっている。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、一部付加部分(太政官札に関する部分)があるほか、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分の引き写し同然であり、これと同一又は実質的に同一である。
 本件著作物の当該部分は、政府が必要とする財源の調達を貨幣の発行により行う方法について説明したものである。その内容は、財源調達を貨幣の発行により行う場合の問題点としてよく知られたものや、歴史的事実などの説明であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
 ただし、本件書籍の当該部分の最終段落の「しかし、生産資産の増大を…(中略)…『インフレ税』と呼ばれました。」との表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の最終文)と、「インフレ税」の定義を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、「インフレ税」の定義を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
11 (1)原告表現の著作物
 「資源の徴発」についての説明の段である。
 かつて我が国では物納や労役が行われてきたこと(乙3文献の96頁末尾2行目〜97頁5行目)、現在でも他国では兵役がある国もある等、極めて凡庸な説明である。
 また、相続税においてのみ物納が行われている旨の指摘は、乙69の175頁と同様の表現が使用されている。



(2)同一性又は類似性
 内容的には「資源の徴発」につき一般的な説明をしたものである。表現上の類似性は特段認められない。
(1) 原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、政府の民間からの必要な資源の資源の徴発について、簡潔かつ平易に工夫してまとめた文章であり、創作性を有するものである。
 本件著作物の被告指摘部分(乙69文献の175頁)には、相続税についてのみ物納が認められていること、乙3文献の被告指摘部分には、古代における租・調・徭役に代り、現代では原則として貨幣払いという形をとる旨が記載されているものの、その具体的表現は、本件著作物のものとは異なり、原告表現の著作物性は否定されるべきものではない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分の表現は、些細な字句の変更・追加を除くと、ほとんど本件著作物の当該部分の表現の引き写し同然である。
 本件著作物の当該部分は、古代における租・調・徭役が、現代では貨幣払いに変わったことなど、資源の徴発の形態について説明するものである。歴史的事実については創作性の幅が限定されるし、また、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
12 (1)原告表現の著作物性
 国家の財源調達の手段としてモナコのギャンブルを例に挙げて説明するという手法は、Cの講義どおり(乙61)である。
 原告の表現上の工夫は特段認められない。








(2)同一性又は類似性
 上記乙61をまとめたものであって、内容が本件著作物に類似するのは不可避。
 また表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、その他の政府の収入として、競輪、競馬、競艇やカジノ等のギャンブル収入が考えられること及びこれらの問題点について、モナコ公国の例なども含めて工夫し、簡潔かつ平易にまとめて記述したものであり、創作性がある。
 被告が指摘する乙6文献の10頁5〜6行目は、2行だけで、そこには、政府の用いる種々の資源調達方法のうち、一般に政府にとって課税が最も重要な収入源となっている旨が記載されているだけである。また、Cの昭和62年度の財政学の講義(乙61)は、原告の卒業後のものであって、原告は、これを聴講していない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分につき、些細な字句の変更やその配列の順序の変更はあるものの、本件著作物に依拠し、そのほとんどを引き写したものであり、本件著作物の複製(そうでないとしても、翻案)したものである。なお、もし、乙13記載の数字が正しければ、本件著作物中のモナコ王国(公国)についての記述には不正確な数字が含まれていることになるが、被告は、本件著作物に依拠した結果、本件著作物中の不正確な数字まで、そのまま利用しているのである。
 本件著作物の当該部分は、政府の収入としてのギャンブルや罰金の問題点及び租税の重要性について述べたものである。その内容自体一般的なものであるとしても、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
13 (1)原告表現の著作物性
 「今日の経済は…」で始まる導入部分は、乙35文献の3頁14行目〜4頁1行目の導入と同様である。「混合経済」についても一般的に使用される語である(乙37文献の15頁最終行〜16頁4行目)。また、マスグレーブが分類した3つの機能に沿って説明していくという構成は、Cの講義どおりである。その内容も一般的なものである(乙4文献の9頁10〜16行目、乙36文献の18頁19〜24行目)。





(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、恩師の指示に従い、乙35文献、乙37文献、乙4文献等を参考に短くまとめたものである以上、本件著作物と表現が類似するのは不可避である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の機能の項の導入部分である。マスグレイブによる財政の3機能はよく説かれるところである。また、混合経済の語などもよく用いられる語ではある。本件著作物の当該部分は、その性質上、内容的新規性は認められないとしても、初学者に対する、租税の機能の簡潔かつ平易な導入部分として工夫され、まとめられたものとして、創作性があり、これをそのまま又は実質的にそのまま複製等の利用をされない保護が与えられるべきものである。また、恩師の講義については、既に述べたとおりである。さらに、乙号各証の被告指摘部分には、本件著作物の具体的表現に対応するまとまった表現はみられない。
(2)同一性又は類似性
 被告は、「本件著作物同様、恩師の指示に従い、乙35文献、乙37文献、乙4文献等を参考に短くまとめたものである以上、本件著作物と表現が類似するのは不可避。」と主張するが、そのようなことはない。本件著作物に依拠し、これを引き写し、又は実質的に引き写した結果の類似である。本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分にっき、些細な語句やその配列に変更を加えた点があるものの、本件著作物の引き写しにすぎない。
 本件著作物の当該部分は、租税の機能の項の導入部分であって、マスグレイブによる財政の3機能そのものや、混合経済の用語など、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的なものであるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
14 (1)原告表現の著作物性
 純粋公共財と準公共財の説明の段であるが、「自由主義社会において…」の導入部分は、乙5文献の2頁11行目〜3頁22行目と同一であり、その後の構成も乙5文献ないしは乙2文献の2頁2〜11行目及び21〜28行目に拠っていることがわかる。「最適供給量の実現」なる言葉も乙5文献で使用されている。「非競合性」「非排除性」なるキーワードの説明は乙35文献の12頁3〜9行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 導入部分が本件著作物と類似しているようにも見えるが、それは前記のとおり乙5文献指摘部分を共に参考としている以上必然的結果である。その他表現上の類似点は特段ない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の資源配分上の機能につき、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう工夫して、原告自らの言葉によりまとめた文章であり、創作性を有する。
 乙5文献には、本件著作物と内容的に一致する部分があるが、その具体的表現において異なっている。乙4文献の9頁17行目〜10頁12行目は、主として「公共財」、「民間財」などの言葉の説明のみである。乙3文献の22頁10行目〜24頁末尾から6行目の記述は、本件著作物の具体的表現とは全く異なる。乙35文献は、用語の説明に終始している。乙2文献は、その具体的表現が本件著作物とは異なる。
(2)同一性又は類似性
 被告は、本件書籍の当該部分につき、導入部分以外は、本件著作物と「表現上の類似点は特段ない。」と主張する。
 しかしながら、本件書籍では、一部文章の追加(中略部分等)や、文章配列の変更及び些細な字句の変更があるものの、両者の類似点は次のように認められる。
 @‐1本件書籍14頁5行〜25行
 「自由主義経済においては、市場における適正な資源配分は自由競争に基づく価格メカニズムにゆだねられています。(中略)。
 しかし価格メカニズムが全ての財に適切に機能するわけではありません資源配分を市場の価格メカニズムにゆだねると国民生活に必要な財・サービスであっても供給が不可能なあるいは供給できたとしても最適量を供給できない財・サービスがあります。これらは「公共財」と呼ばれています。すなわち、国全体の防衛や治安、防災などに代表される公共財は消費の非排除性消費の非競合性という二つの大きな性質を持っているために、その社会に住む人には無差別に供給されます。完全にこの二つの性質が成立する公共財を、「純粋公共財」と言います。
 純粋公共財は消費の非排除性ゆえに政府は対価を支払わない人を公共サービスの利用から排除することができません。逆に言えば、対価を支払わなくても、その社会に住む人なら誰でも公共サービスを受けることができますまた、消費の非競合性ゆえにある人がその公共サービスを多く消費したからといって、他の人の消費量が減るわけでもありません享受するサービスの量は変わらないのです。したがって、純粋公共財は、市場の価格メカニズムがうまく機能しないために、民間で提供することは不可能です。」
 @‐2本件著作物12頁2行〜16行
 「自由主義経済において、適正な資源配分は自由競争に基づく価格メカニズムに委ねられていますしかしながら、価格メカニズムが全ての財に適切に機能するわけではありません資源配分を市場の価格メカニズムに委ねると国民生活に必要な財・サービスであっても全く供給できない、あるいはできたとしても最適量を供給できない財・サ一ビスが生じてしまいます
 その典型的なものが、いわゆる公共財と呼ばれるもので国防や司法等です消費の非排除性と消費の非競合性という性質のために公共財は全ての国民に無差別に供給されます消費の非排除性という性質を持つサービスの利用について見ると利用者はその対価を支払わずにサービスを受けることができ、逆に言えば供給者は対価を支払わない利用者の排除ができませんまた、消費の非競合性という性質によれば利用者の増減は今までの利用者に何ら影響を及ぼさず、言い換えればある利用者が享受するサービスの量は他の利用者が享受するサービスの量に影響を及ぼしません。このような2つの性質を持つ純粋公共財の場合には、市場の価格メカニズムが機能しないために、民間部門による供給は不可能です。」
 A-1本件書籍14頁25行〜15頁11行
 「教育や公衆衛生のように、この二つの性質が完全には成立しない公共財を「準公共財」と言います準公共財の場合には、民間でもある程度の供給が可能ですしかし民間部門で供給しようとすれば、「外部性」(この場合は外部便益)が評価されないために市場の価格メカニズムにゆだねればその財は過少供給になり、社会的に望ましい水準から見て最適供給量が実現できません
 このように民間部門において資源配分上の非効率性がある場合には、政府が積極的に経済活動をすることが必要になってきます
 そこで、このような政府活動の費用を賄うために政府は民間部門から財源を調達しています。これが租税の任務です。その際には、「どのような目的で課税するか」、そのためには「何を課税ベースにするか」、「誰を納税義務者にするか」、「税率をどうするか」が問題になってきます。
 言い換えれば、租税は、政府への財源調達を通して社会全体の資源の最適配分に貢献しています。そこで国民経済において利用可能な資源は有限であるため、租税として民間部門から貨幣を徴収することによって民間部門の需要を減少させると同時に利用可能な資源の量も削減します。」
 A-2本件著作物12頁17行〜13頁1行
 「教育や公衆衛生のような準公共財の場合には、民間部門でもある程度の供給が可能ですしかしながら市場では外部便益が評価されないために市場の価格メカニズムに委ねると過少生産となり最適供給量が実現できませんそこで最適供給量を確保するために、政府による供給が行われています。最近の政府支出から判断すると、準公共財の伸び率が大きくなっています。
 このような公共財・サービスの供給費用を賄うために政府は民間部門から財源を調達しなければなりません租税は公共部門への財源調達を通して、社会全体の資源の最適配分に貢献しています国民経済において利用可能な資源は無限ではありません租税は、民間部門から貨幣を徴収することによって、民間部門の需要を減少させると同時に利用可能な資源の量を削減しますそこで、「何を課税べ一スにするか」、「誰を納税義務者にするか」、「どの程度の税率を適用するか」、そしてさらに「どのような目的で課税するか」といった租税の基本要素が重要になってきます。」
 被告の指摘する文献には、純粋公共財と準公共財の説明があるが、その具体的表現は、消費の非排除性や消費の非競合性といった学術用語等を除き、本件著作物とは異なるので、この点から原告表現の著作物性をすべて否定することはできない。
 以下、本件書籍の表現のうち、原告が、本件著作物の複製であると主張する部分について個別に検討する。









 本件著作物の@部分のうち、「しかしながら、価格メカニズムが全ての財に適切に…(中略)…最適量を供給できない財・サービスが生じてしまいます。」との部分で述べられている、資源配分を市場の価格メカニズムに委ねることのできない財・サービスの存在という内容自体は、一般的なものであるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の@部分のうち、上記部分に対応する「しかし、価格メカニズムが全ての財に適切に…(中略)…最適量を供給できない財・サービスがあります。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。 
 しかし、本件書籍の@部分の「自由主義経済においては(中略)…民間企業が提供してくれます。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の最初の文)と、冒頭の「自由主義経済においては…(中略)…ゆだねられています。」の部分で共通するにすぎない。そして、共通する部分に係る本件著作物の表現は、普通に使用されるありふれた言葉であることが、被告指摘の文献から明らかであって、創作的な表現とはいえない。
 また、本件書籍の@部分の「これらは『公共財』と呼ばれています。…(中略)…民間で提供することは不可能です。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の第2段落)と、消費の非排除性、消費の非競合性を説明し、その結果、民間部門による提供が不可能であることを説明する部分で共通するにすぎない。そして、共通する部分に係る本件著作物の表現は、一般的な用語を用いて説明する部分であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 本件著作物のA部分は、準公共財の場合に、最適供給量を実現するため、政府が供給することの必要性を説明し、さらに、租税が、社会全体の資源の最適配分に貢献していることを述べるものである。同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であり、「純粋公共財」や「準公共財」もよく」使われる用語であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍のA部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまましようされているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
15 (1)原告表現の著作物性
 所得と富の再分配につき説明した段である。乙4文献の10頁13行目〜最終行を基本に説明されており、ワグナ一の累進税率については乙3文献の24頁末尾から5行目〜25頁3行目を、遺産や先天的能力が所得に影響するとの表現は乙2文献の6頁14〜19行目に拠っている。また累進課税については乙5文献の3頁末尾から6行目〜4頁11行目等に拠っている。






(2)同一性又は類似性
 本件著作物と同様、乙2文献、乙3文献、乙4文献、乙5文献に拠っているため内容が類似するのは当然である。表現上類似している箇所は最後の段の累進課税についてぐらいであるが、これも乙5文献を参考にしている以上、不可避である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の所得と富の再分配機能につき、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう工夫して、原告自らの言葉によりまとめた文章であり、創作性を有する。
 乙4文献には、財政活動による所得や富の公平な分配に関しての一般的記述はあるものの、税制との関係については全く触れられていない。乙3文献では、アドルフ・ワグナーと累進課税についての記述がある。乙2文献には、遺産や個人の先天的能力等その山発点における格差や累進課税についての記述がある。乙5文献は財政の役割と機能についての記述であって、そのごく一部として(1行半だけ)累進税率について触れているだけである。これらには、本件著作物の当該部分の表現全体に対応する具体的表現はない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分と対比してみれば、文章に追加・変更部があるにもかかわらず、全体としてみるとき、本件著作物に依拠し、かつその表現部分を、複製(又は翻案)したものというべきである。
 本件著作物の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、所得と富の再分配、累進税率などの一般に使われる学術用語や定義、あるいは、累進税率について一般的な用語を用いて説明する部分であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない
16 (1)原告表現の著作物性
 景気変動が不可避である旨から始まる冒頭は、乙2文献の6頁末尾から6行目〜最終行に拠っている。好況期、不況期の場合と順に説明する手法は、乙5文献の4頁13〜22行目に拠っている。
 景気変動の代表例として1929年の大恐慌が引用されるのは一般的なことである(乙3文献の3頁11行目〜4頁15行目、乙37文献の245頁11〜13行目)。ビルト・イン・スタビライザーの説明一般は、乙4文献の98頁7〜13行目及び同頁末尾から3行目〜最終行等に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 好況期、不況期の場合と順に説明している点は類似しているものの、これは乙5文献を参考にしたものである以上、当然である。
 また、最後の段のビルト・イン・スタビライザーについての説明も、もっぱらその定義を述べたものである以上、類似するのは必然である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の経済安定化機能に関する記述であり、これに続く[17]の記述と関連するものである。初学者にわかりやすいよう、簡潔かつ平易に、原告自らの言葉により、まとめて表現したものであり、創作性を有する。被告指摘部分には、内容的に対応する部分もあるが、これら乙号各証には、本件著作物の当該部分の表現全体に対応する具体的表現はない。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該の記述は、次のとおり、些細な字句の修正増減はあるものの本件著作物の当該部分と同一である。
 @‐1本件書籍16頁22行〜17頁10行
 「自由主義経済は国外的にも国内的にも多くの不安定要因があり絶えず景気変動にさらされてきました。その代表例が1929年に始まった世界的大恐慌です。この経験から、景気変動を緩和し失業とインフレーションを最小限度に抑えながら、経済成長を維持することが政府にとって重要な課題となりました経済活動の改善を図り、経済を安定的成長に導く機能を租税は有しています
 所得や利益に対して課税される所得課税(所得税、法人税)について考えましょう。好況期に所得が増大すれば、累進課税によって税額も増加します。したがって可処分所得の増大割合は減少し、総需要の増大は緩和されます反対に、不況期に所得が減少すれば、税額は低く抑えられ、総需要の逓減は緩和されます
 このように、景気変動に応じて自動的に安定化を図る機能が租税制度に組み込まれています。これはルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)と呼ばれていますこのビルト・イン・スタビライザーは租税だけではなく社会保障制度にも組み込まれています。」
 @‐2本件著作物14頁2行〜13行
 「自由主義経済は多くの不安定要因を有し絶えず景気変動にさらされてきましたその代表例が1929年にはじまった世界的大恐慌ですこの経験から景気変動を緩和し失業とインフレーションを最小限度に抑えながら経済成長を維持することが政府にとって重要な課題となりましたこのような経済を安定させ、成長に導く機能をも租税は有しています
 税収の所得弾力性が大きい累進所得税や法人税について考えましょう好況期に所得が増大すれば税収はそれ以上に増加して、総需要が抑制されます反対に、不況期に所得が減少すれば税収は低く抑えられ総需要が刺激されますこのように、景気変動に応じて自動的に安定化を図るために制度に組み込まれた装置は、ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)と呼ばれていますこのビルト・イン・スタビライザーは租税だけではなく社会保障制度にも組み込まれています。」
 本件著作物の当該部分は、自由主義経済における景気変動及びその緩和等の重要性や、租税の経済安定化機能などについての説明するものである。内容は、租税の中立性というよく知られた原則に関する説明であるとしても、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 ただし、本件書籍の当該部分の最終段落の「このように、景気変動に応じて…(中略)…組み込まれています。」との表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の最後の2文)と、ビルト・イン・スタビライザーを説明する点で共通するが、対応する本件著作物の部分は、ビルト・イン・スタビライザーを、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
17 (1)原告表現の著作物性
 フィスカル・ポリシーに関する解説の段である。
 フィスカル・ポリシーにつき説明する際、その積極的主張者であるケインズをもって導入とする手法は一般的(乙5文献の14頁10行目〜15頁3行目、及び4頁末尾から6行目〜5頁1行目、乙3文献の25頁12〜18行目、乙4文献の11頁1〜15行目)である。
 全体的な構成は乙5文献に拠っており、数式も同じ、cを0.8として減税の効果を説明している点も同様である。








(2)同一性又は類似性
 数式の具体的なあてはめ以外は特段類似している表現はない。数式のあてはめが類似しているのは、共に乙5文献指摘部分を参考にしている以上当然である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の経済安定化機能につき、[16]部分に引き続く部分である。乙2文献の28頁5〜14行目には減税の経済的効果一般についての記述があり、乙4文献の被告指摘部分には、経済全体の安定及び成長と財政との関係一般についての記述があり、乙5文献の被告指摘部分にはケインズの乗数効果に関する数式とその説に関する記述及びフィスカル・ポリシーについての記述がある。しかし、本件著作物の当該部分は、上記のケインズの減税の乗数効果の数式及びその説明を含みながら全体として、本件著作物の当該部分に続き、租税の経済安定化機能につき、初学者にわかりやすいよう、簡潔かつ平易に、原告自らの言葉によりまとめて表現したものであり、全体として創作性を有するものである(ケインズの乗数効果に関する数式及びこれに必然的に伴う説明自体については、原告の著作権が及ぶものではないが。)。 
(2)同一性又は類似性 
 本件書籍の当該部分は、上記のケインズの数式等以外の点においては、些細な字句の修正増減や文章の配列の変更があるものの、次のとおり実質的に同一である。
 @‐1本件書籍17頁16行〜21行
 「J.M.ケインズ(1883〜1946)は政府の積極的な経済介入を主張しました。それによれば、好況期には、景気の行過ぎによる有効需要の過度な拡大やインフレーションを抑えるために、財政支出の削減や増税、金融引締めが有効な対策です反対に不況期には、景気を刺激するために、公共事業の増大や減税、金融緩和が有効ですこの対策によって有効需要を拡大し失業を減少させ、不完全雇用の緩和を図ります。」
 @‐2本件著作物14頁14行〜18行
 「J.M.ケインズは政府の積極的な介入を主張しました。たとえば、好況期には、景気の行き過ぎによる有効需要の過度な拡大やインフレーションを抑えるために増税が有効です反対に不況期には、景気を刺激するために減税が求められます。すなわち、減税によって有効需要を拡大して失業を緩和しなければなりません。」
 A本件書籍17頁22行〜24行
 「このように、景気の安定を図るために、租税や公債、財政支出を組み合わせて政府が打ち出す積極的な政策は、フィスカル・ポリシー(裁量的財政政策)と呼ばれています。」
 A‐2本件著作物14頁25行〜27行
 「このように租税だけではなく公債や政府支出と組み合わせて景気の安定を図るために政府が新たに打ち出す積極的な政策は、フィスカル・ポリシー(裁量的な財政政策)と呼ばれています。」
 本件著作物の当該部分のうち、本件書籍の当該部分(「ケインズの乗数効果に関する数式及びこれに必然的に伴う説明自体」以外の部分。)と共通するのは、J.M.ケインズの主張の中身や、フィスカル・ポリシーの定義というべき部分である。その表現は、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
18 (1)原告表現の著作物性
 3種の税率につき説明した段であるが、税率の説明には課税べ一スに触れておかねばならないのであるから、課税べ一スの説明による導入部分は一般的な表現である。3種の税率についての説明も凡庸なものであるし(乙6文献の17頁18行目〜18頁7行目及び267頁19〜23行目、乙33文献の96頁6〜16行目、乙38文献の24頁4行目〜25頁2行目)、消費税の逆進性についての説明も乙6文献指摘部分に拠るものである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物との表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、累進税、比例税、逆進税につき、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、これを原告自らの言葉によりまとめた文章であり、その内容は特別なものではないが、その具体的表現は創作性がある。その権利の範囲は広くないものの、これをそのまま(あるいは実質的にそのまま)利用されることに対する保護はあるというべきである。
 乙号各証には、本件著作物の当該部分全体に対応する具体的表現はない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更はあるものの、本件著作物の当該部分と実質的に同一である。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、累進税、比例税、逆進税といった一般に広く使われる用語や、その内容の説明部分である。その表現は、普通に使用されるありふれた言葉であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
19 (1)原告表現の著作物性
 直接税と間接税に関する説明の段である。
 租税をこの2種に分類することは常識であるし、その定義も一般的なものである(乙2文献の14頁10〜18行目、及び20頁9〜16行目、乙5文献の34頁14〜21行目、乙3文献の100頁末尾から2行目〜101頁5行目、102頁2〜13行目、及び106頁19行目〜107頁3行目、乙4文献の156頁最終行〜157頁5行目、同頁15行目〜158頁2行目、及び157頁1行目〜5行目、乙6文献の10頁〜15頁、乙40文献の115頁18行目〜116頁11行目、乙文献26の18頁23〜26行目、乙33文献の94頁4行目〜95頁4行目、及び110頁8〜13行目、乙36文献の130頁4〜5行目)。
 また、アングロサクソンとラテン系を具体例に直接税と間接税を語るのはCの口癖のようなものであるし、乙3文献、乙4文献、乙33文献の各指摘部分にも同様の記述があり、これらに拠るものである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、直接税と間接税に関する記述である。被告は、創作性がなく、同部分が著作物に該当しない旨主張する。
 しかし、これらの乙号証の多くは、直接税・間接税の定義及びこれに関連して、租税の転嫁一般について簡単に触れているものであり、直間比率について国際的な違いに触れたものも若干あるものの(乙4文献、乙3文献、乙36文献、乙33文献)、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現はなく、原告表現の著作物性が認められる。











(2)同一性又は類似性
 被告は、本件書籍は本件著作物と表現上の類似性は特段認められない、と主張する。
 しかしながら、本件書籍の当該部分は、若干の付加部分や些細な字句やその配列に修正・変更はみられるものの、次のとおり本件著作物の当該部分と同一ないし実質的同一の部分が存する。
 @‐1本件書籍22頁9行〜23頁4行
 「租税は、納税義務者と税金を実際に負担する者が同じであるか否かによって、言い換えれば租税の転嫁があるかないかによって、直接税と間接税に分けられます
 直接税とは、税の転嫁は起きず法律上の納税義務者と実際の担税者が一致することを、立法者(課税当局者)があらかじめ予定している税です直接税は一般に、個人の事情を考慮に入れることも、課税べ一スの大きさに応じて限界税率や平均税率を調節することも可能です。たとえば、 所得税は、所得を得た人が税法上の納税義務者であり、またその人が実際に自分の得た所得の中から税を負担します。その後も税は他の人の負担となっていくことが予定されていませんから、直接税です。そこで納税義務者の家族構成など個人的な事情を加味したきめ細かな課税が可能になります
 これに対し、間接税は、租税が転嫁されていき税法上の納税義務者と実際の担税者が一致しないことを、立法者があらかじめ予定している税です。」
 @‐2本件著作物16頁11行〜19行
 「租税は直接税と間接税に分けられています。この分類方法はもっともよく用いられ、租税の転嫁の有無によって、決まります直接税とは、法律上の納税義務者と実際の担税者の一致を課税当局者が予定している税です。したがって直接税の場合には、本来は租税の転嫁が起きません直接税は一般に個人個人に対して査定されるので、個人の事情を考慮に入れることも、個々の課税べ一スの大きさに応じて限界税率と平均税率を調節することも可能です。直接税には所得税、法人税、住民税、固定資産税等が含まれています。これに対して間接税の場合には、課税当局者は租税の転嫁によって法律上の納税義務者と実際の担税者が一致しないことをあらかじめ予定しています。」
 A‐1本件書籍23頁11行〜17行
 「しかし、現実には租税の転嫁は経済的な諸条件に影響され、課税当局者の予定どおりになるとは限りません。たとえば、競争が激しい市場では、間接税である酒税を消費者に転嫁しないで、企業努力によって吸収することもあるでしょう。また反対に固定資産税の場合を考えてみましょう。固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者ですしかし、貸地や貸家として第三者に賃貸している場合には、租税が地代や家賃に含まれる場合があります直接税でありながら転嫁がしばしば生じています。」
 A‐2本件著作物16頁22行〜17頁1行
 「しかしながら、現実には租税の転嫁は経済的諸条件に影響され課税当局者の計画通りになるとは限りません固定資産税が顕著な例でしょう。固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者です。しかしながら、借地や借家として第三者に貸している場合には租税が地代や家賃に含まれることが多く直接税でありながら転嫁がしばしば生じています反対に競争が激しい市場では小売業者が客離れを恐れて間接税である消費税を消費者に転嫁できないこともあります。租税の転嫁については第3章で再度取り上げましょう。」
 B‐1本件書籍23頁18行〜24頁13行
 「ところで租税収入全体に占める直接税と間接税の比率を直接比率と言いますが、これは学問的に論じられる性格のものではなく、その国の風土、国民性徴税技術やその他の社会的事情の結果として決まってくるものです。かつてわが国は、直間比率が65%対35%(昭和10年代)という間接税中心主義の時代がありましたが、シャウプ勧告による税制改革以来、直接税の比率が増してきました。そして1990年(平成2)には、74%対26%という直接税中心主義が最高に表現された租税体系になっていました。今日の国際的な状況は、相対的に間接税の割合を増大させる傾向にあります。わが国の2002年(平成14)時点の直間比率は、56.7%対43.4%(消費税率5%)になっています。
 一般に、アングロ・サクソン系は伝統的に直接税中心主義を、ラテン系は間接税中心主義をとる傾向があると言われています
 建国の歴史が他の国と異なるアメリカは、世界の中で秀でて納税意識が高い国です。新大陸に移住しゼロから国を築き上げるためには、納税は当然であり成功の証しであると考えられてきましたこのような納税意識を持つアメリカにおいては、脱税は犯罪であり社会的に非難される問題です
 反対に納税意識が極めて低いとされるイタリアは、都市国家時代が長く続き一つの国に統一されてから約100年しか経っていません統一以前のいわゆる他国による税の取立てはかなり厳しく行われ正直に納税をすれば生活ができなくなるものでした当時のイタリアにおいて脱税は生きていくための手段であったと言われていますこのような歴史的な経緯によって脱税が慣習化していたイタリアでは、租税制度の中心に脱税の機会がある直接税を置くことは困難であり、伝統的に間接税中心主義がとられてきました。このように租税制度には、その国の歴史や文化が表現されています。1990年代になってイタリアは他の先進国とは異なり、直接税の割合を増加させる税制改革を行っています。」
 B‐2本件著作物17頁2行〜9行
 「ところで、わが国の税制の特徴として直接税中心主義があげられていますが、このことは直間比率(税収全体に占める直接税と間接税の割合)から明らかです。直間比率は徴税技術と納税者意識によって決まるとされてきました。一般に両方が高い国は直接税中心主義を、反対に両方が低い国は間接税中心主義をとってきました。したがってアングロ・サクソン系は伝統的に直接税中心主義を、ラテン系は間接税中心主義をとる傾向があります。」
 本件著作物224頁下から6行〜225頁11行
 「各国の直間比率は、課税当局の徴税技術と国民の納税意識によって、かなり差があります。一般に両方が高い国は直接税中心主義を、反対に両方が低い国は間接税中心主義をとってきました。したがって、アングロ・サクソン系は直接税中心主義を、ラテン系は間接税中心主義をとる傾向があります
 ここで納税意識について簡単に触れておきましょう。納税意識が極めて高いとされるアメリカは、独立によってゼロからスタートした国ですしたがって、自分たちの国を築き上げるために納税は当然であり、成功の証しと考えられてきました納税に対してこのような考えを持つアメリカにおいて、脱税は犯罪であり、社会的に非難されてきました反対に納税意識が極めて低いとされるイタリアは、都市国家時代が長く続き、1つの国に統一されてから約100年しか経っていません統一以前、いわゆる他国による課税の取立てはかなり厳しく、正直に納税をすれば生活ができなくなりました当時のイタリア国民にとって、脱税は生きていくための手段であったと言われています歴史的な経緯によって脱税がいわば慣習化してきたイタリアにおいて、脱税の機会がある直接税を租税制度の中心に置くことには無理があり、伝統的に間接税中心主義がとられてきました。しかしながら、1990年代になってから、他の先進国とは異なりイタリアでは税制改革によって直接税の割合が増大しています。」
 被告の指摘する文献には、直接税・間接税の定義、及びこれらに関連して、租税の転嫁一般について説明があるが、その具体的表現は、本件著作物とは異なるので、この点から原告表現の著作物性をすべて否定することはできない。

 以下、本件書籍の表現のうち、原告が、本件著作物の複製であると主張する部分について個別に検討する。



















 本件著作物の@の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、主に、直接税及び間接税の定義を、一般的な用語を用いて説明する部分であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。


























 本件著作物のA部分は、租税の転嫁が課税当局者の見込みどおりにはならないことについて、固定資産税の例などを用いて説明するものである。同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍のA部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。 
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 本件書籍のB部分のうち、「ところで、租税収入全体に占める…(中略)…56.7%対43.4%(消費税率5%)になっています。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物のB部分の最初の段落)と、直間比率の定義等で共通するにすぎない。そして、共通する部分に係る本件著作物の表現は、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 一方、本件書籍のB部分のうち、「一般に、アングロ・サクソン系は伝統的に直接税中心主義を…(中略)…直接税の割合を増加させる税制改革を行っています。」との部分は、アングロ・サクソン系は直接税中心主義を、ラテン系は間接税中心主義をとる傾向があるという事実を歴史的経過を踏まえて説明する内容であって、本件著作物の対応する部分(「各国の直間比率は、課税当局の…(中略)…イタリアでは税制改革によって直接税の割合が増大しています。」の部分)は、創作性の幅が限定されているものの、その表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、あるいは他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
20 (1)原告表現の著作物性 
 租税を普通税と目的税に分類し、主に目的税につき解説をしている段である。租税を使途によりこの2種に分類するのはいわば常識であり(乙3文献の96頁9〜14行目、乙26文献の23頁2〜15行目、乙39文献の29頁末尾3行目〜30頁1行目)、また、本件著作物における目的税の例示は、乙26文献指摘部分記載の表の順番とも同一であり、これらに拠り記述されたものである。






(2)同一性又は類似性
 同じ目的の段であるため内容が類似していることは当然である。表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、普通税と目的税についての記述部分である。被告の指摘する乙号証の多くは、その定義程度の記述があるにすぎない(乙26文献には、それらに目的税の内容の記載がある。)。本件著作物の当該部分は、租税は歴史的には戦費調達を目的として臨時に課せられた目的であったこと、現在では目的税は公共サービスと納税義務者との問に何らかの受益関係がある場合にのみ認められるため、目的税はごく一部に限られていること、その他の視点を入れて、普通税と目的税について、簡潔かつ初学者にわかりやすい記述を表現しているのである。本件著作物の当該部分を全体としてみるとき、著作物として保護されるべきである(普通税や目的税の定義などの部分それ自体について創作性があると主張するものではないが。)。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分につき、些細な字句の変更等はあるものの、これをそのまま全体として利用しているのである。
 本件著作物の当該部分は、本件書籍の当該部分と、普通税と目的税の定義、内容、目的税の例を説明する部分で共通するが、本件著作物の当該部分は、上記を一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
21 (1)原告表現の著作物性
 従価税と従量税についての説明の段である。乙2文献の176頁の16〜18行目、178頁14〜16行目、及び180頁6〜10行目、乙6文献の17頁9〜17行目、乙33文献の97頁7〜12行目、乙36文献の131頁6〜10行目を参考に記述されている。従量税の具体例が記される順番は乙36文献と同一であるし、個々の説明も乙2文献該当箇所のものに拠っている。
 また、後半の環境税に対する問題意識はCから指摘されて加えたものであり、かつ、乙2文献の296頁末尾から7〜末尾から2行目、及び302頁16〜22行目に記載されている内容である。
(2)同一性又は類似性
 前段部分での表現上の類似性は特段認められない。後段部分は上記のとおり、Cの指示に拠ったものである。 
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、従価税及び従量税についての記述である。単にこれらの税の説明だけでなく、これらの税の功罪や近年論議されている環境税の問題にも触れ、簡潔かつ初学者にわかりやすくまとめて表現しており、創作性を有する。
 被告の指摘する乙号各証は、ほとんど従価税や従量税の定義程度の記載にすぎず(乙33文献は、環境税に触れている。)、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現はない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、次のとおり、些細な字句やその配列の変更はあるものの、次のとおり、その全部が本件著作物に依拠して、これと同一(又は実質的に同一)である。
 @-1本件書籍25頁10行〜26頁2行
 「租税の課税べ一スは、個々の税目により価額、数量、重量などで表示されますが、価額で表示される課税べ一スの税を従価税と呼んでいます大部分の租税は従価税に属します。また、課税べ一スが重量あるいは数量単位で表示される税が従量税です。従量税には、酒税、たばこ税、ガソリンにかかる揮発油税などが属します。酒税は、酒の種類やアルコール度に応じて1キロリットルを単位とした課税べ一スに税率が課されます。たばこ税は、1、000本当たり、揮発油税はガソリン1キロリットル当たりを基準として課されます
 近年、環境問題が議論されるようになってから従量税を再評価する動きが出てきました。外部不経済を内部化する手段として環境税を課すことが議論されていますが、地球の温暖化や大気汚染のように環境を汚染する度合(外部不経済の程度)は汚染源の消費量に依存しています。そのために環境税の課税べ一スは、従量税のほうが適していると言えるでしょう。」
 @‐2本件著作物18頁11行〜23行
 「各々の租税の課税べ一スは価額、数量、重量等で示されていますが課税べ一スの価額に基づいて課税されるのが従価税です。全ての直接税や消費税をはじめとして、大部分の租税は従価税に分類されています課税べ一スの重量あるいは数量に基づいて課税されるのが従量税です従量税には、種類やアルコール度に応じて酒1キロリットル当たりに課す酒税、たばこ1、000本当たりに課すたばこ税あるいはガソリン1キロリットル当たりに課す揮発油税等があります。従量税は、公平の観点からは逆進的負担をもたらすために、そして中立の観点からは相対価格に歪みを引き起こすために、その適用範囲はあまり広くありません。しかしながら、環境問題が関心を集めるようになってから、従量税を再評価する動きが生じてきました。外部不経済を内部化するための手段として環境税が最近議論されていますが地球の温暖化や大気汚染といった外部不経済の程度は原因となる財の価格ではなく消費量に依存していますこのため、環境税は従量税の方が適しているでしょう。」
 本件著作物の当該部分は、従価税と従量税について、及び環境税について説明するものである。その内容が従価税や従量税の定義等に関するものであり、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
22 (1)原告表現の著作物性
 課税の中立性についての序章にあたる段であるが、この「課税の中立性」というネーミング自体、Cが決定したものである。
 民間部門と公共部門間の影響の話から始まるのは乙35文献の3頁14行目〜4頁1行目と同じであり、これに拠っている。同じく「混合経済」と呼ばれているとの表現も乙35文献ないしは乙37文献の15頁最終行〜16頁4行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
本件著作物と類似した表現といえば「…租税負担率を上昇させ、租税が民間部門の活力を阻害するという懸念が起こりました」という一文くらいであるが、これも主語が異なる以上、同一とはいえないし、内容からして他に表現しようのないものである。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、本件著作物第3章の要約的な記述である(冒頭の囲み欄)。被告の指摘する乙37文献、乙33文献は、いずれも「混合経済」の説明程度のものであり、そこには、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現はみられない。なお、同部分の具体的表現が日向寺の指示によるものであることは争う。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更はあるものの、次のとおり本件著作物の当該部分に依拠し、これと同一(又は実質的に同一)である。他の表現があり得ないわけではない。
 @‐1本件書籍51頁本文2行〜10行
 「課税の影響は、人々の可処分所得を減らすだけでなく、民間部門の経済活動や資源配分に対しても当然に影響を及ぼします。経済の発展に伴って政府の活動は拡大し多様化してきました。その結果、公共部門の発展は租税負担率を上昇させ、租税が民間部門の活力を阻害するという懸念が起こりました。このことは近年の、租税原則における中立性(あるいは効率性)を重視する税制改革に現れていますそこで、本章では課税の中立とは何かについてさまざまな角度から考察しましょう次に、各国の税制改革に共通したもう一つの傾向である簡素な税について述べ最後に最適課税論を紹介します。」
 @‐2本件著作物35頁本文1行〜12行
 「同様に民間部門の経済活動や資源配分に対する課税の影響をも考慮に入れる必要があります。経済の発展に伴って政府の活動が多様化した結果、混合経済と呼ばれるまでに公共部門は発展を続けました。高価な政府の誕生は租税負担率を上昇させ、租税が民間部門の活力を阻害するという懸念を引き起こしました。このような懸念が租税原則における中立性あるいは効率性を重要視する最近の傾向に現れています。このことは1980年代に行われた先進諸国の税制改革からもはっきりと読み取れます。
 そこで、本章では課税の中立性についてさまざまな角度から考察しましょう。まず最初にその懸念を述べ、次に転嫁および超過負担による分析を行います。さらに簡素な租税にも触れます。そして最後は最適課税論で締め括ります。」
本件著作物の当該部分は、本件書籍の当該部分と、課税の中立性の概念を簡潔に紹介する部分で共通するが、本件著作物の当該部分は、上記の内容を一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
23 (1)原告表現の著作物性
 「中立性」につきさらに突っ込んで説明した段である。
 冒頭部分の「…削減されることを意味します」という表現は乙6文献の9頁7〜9行目に拠った表現であるし、「歪み」という表現を使用するのも中立性の解説の際に一般的なことである(乙2文献の18頁15〜19行目、乙38文献の35頁末尾から5行目〜最終行)。後段ラストの逆説的な問題意識は、Cの口癖でもあり、乙38文献指摘部分にも記されている内容である。
(2)同一性又は類似性
 文章表現上、本件著作物との類似点は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の中立性につき、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告自身の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性が認められる。
 被告の指摘する乙号各証には、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的な表現は存在しない。





(2)同一性又は類似性
 被告は、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分につき、文章表現上、類似点は特段認められないと主張する。しかしながら、本件書籍の当該部分は、字句やその配列に多少の変更があるものの、次のとおり、本件著作物の当該部分に依拠し、その表現と同一(又は実質的に同一)である。
 @‐1本件書籍51頁本文12行〜52頁7行
 「政府は活動の財源を民間部門から調達しますが、第1章で述べたように、いくつかある財源調達手段の中で租税は最も優れた手段ですが、租税による民間部門から公共部門への強制的な資源の移転は、民間部門の利用可能な資源を税額分だけ削減することを意味します。こうした民間部門に対する課税の影響は、資源を削減させるだけでなく、課税によっては個々の経済行動が影響を受け、ひいては資源配分に歪みを生じさせることになりかねません
 民間部門における資源配分をできるだけ歪めない租税が望ましい租税であるとする課税原則が、課税の「中立」あるいは「効率」と言われるものです。市場のメカニズムに限らず、労働・余暇・消費・貯蓄などの選択にもできるだけ影響を及ぼさないような租税が中立な税です特定のものへの重課によって市場の経済活動が歪んだり、経済の活性化が妨げられたりすることは、可能な限り避けるべきであるという概念です
 ただし、経済の外部性がある財の場合には、課税が市場のメカニズムに影響を及ぼすことによって最適な資源配分が達成されることがあります。この効果はたばこ税や酒税、環境税などで活用されています。」
 @‐2本件著作物36頁2行〜18行
 「政府は財政活動の財源を民間部門から調達しなければなりません。財源調達手段としてはいくつかの方法が考えられますが、第1章で述べたように、その中で租税はもっともすぐれています租税による民間部門から公共部門への強制的な資源の移転は、民間部門における利用可能な資源が税額分だけ削減されることを意味します。しかしながら、民間部門における課税の影響は資源の削減だけではありません。その他にも課税に対してさまざまな経済行動がとられるために、資源配分に歪みが生じます
 そこで、中立性あるいは効率性とは、民間部門において効率的に資源が配分されていることを前提として、その資源配分をできるだけ歪めない租税が望ましいとする原則です。たとえば、特定の財への重課によってその価格が上昇一し、需要が減少するのは好ましいことではありません。経済活動に歪みを与えたり、経済の活性化を妨げたりする租税は可能な限り避けるべきでしょう。そこで市場の価格メカニズムだけではなく労働と余暇や消費と貯蓄等の選択にも影響を及ぼさない租税が中立な租税と言えます。しかしながら、外部経済の存在等によって先の前提条件が満たされない場合には、租税が価格メカニズムに影響を及ぼすことによって最適な資源配分が達成されるかもしれませんこのような考え方はたばこ税や酒税さらに環境税に活かされています。」
 本件著作物の当該部分は、租税の中立性の定義や、同原則の重要性等について述べるものである。内容は、租税の中立性というよく知られた原則に関する説明であるとしても、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
24 (1)原告表現の著作物性
 租税の転嫁についての段である。転嫁一般の説明は乙3文献指摘部分に拠っている。小売業を例にとって説明している点も同じである。
 前転、後転、帰着等の説明は、乙3文献の129頁6行目ないし130頁3行目、乙4文献の192頁4〜16行目、乙35文献の74頁最終行〜75頁末尾から4行目(乙36の159頁8〜23行目)の記載に拠っている。
 「さまざまな形態があり」「複雑」であるとの評価は、乙33文献の94頁17行目〜95頁3行目、乙34文献の159頁8〜23行目該当箇所に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 構成においても文章表現においても本件著作物との類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の転嫁について、簡潔かつ初学者にわかりやすいようにまとめて表現したものであり、創作性がある。
 被告指摘の乙号各証は、租税の転嫁の諸形態について簡単な説明にすぎず、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現はみられない。







(2)同一性又は類似性
 被告は、本件書籍には、構成においても文章表現においても本件著作物との類似性は特段認められない旨主張する。
 しかしながら、本件書籍の当該部分は、字句を変更したり(例えば、「卸売売上税」を「小売売上税」に、「卸売業者」を「小売業者」に、「卸売価格」を「小売価格」に変更するなど)、語句の配列を変えたりする部分はあるものの、次のとおり、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一である。
 @‐1本件書籍52頁9行〜20行
 「租税の負担はJ.S.ミルが犠牲と表現しているように、いつの時代もどこの国においても歓迎されないようです誰もが、自分の負担が軽くなることを望んでいるのではないでしょうか。租税を支払わずに済ませる方法を考える人もいるでしょう。本節では、合法的に租税を負担しない形態の一つである租税の転嫁を取り上げましょう
 租税の転嫁とは、課税の負担に対して民間部門で起きる一つの経済現象です。たとえば、小売売上税が導入されたとしましょう。法律上の納税義務者である小売業者は、課税に対しどのような経済行動をとるでしょうか
 一つは、課税の負担を他の人にさせるために、小売価格に税額分を上乗せして販売します。税額分が上乗せされた小売価格を支払う消費者が実質的に売上税を負担することになりますすなわち、納税義務者は小売業者ですが、税を負担する人(担税者)は消費者になりました。」
 @‐2本件著作物36頁22行〜37頁15行
 「租税はいつの時代においても、どこの国においても嫌われてきました。このことはJ.S.ミルが租税負担を犠牲と呼んだことからもわかります。納税者の誰もが、自分の納税額を重すぎると感じて、負担が軽くなることを望んでいるでしょう。たとえば、アメリカで行われた所得税に関するアンケート調査では、所得税を全く支払っていない低所得者までが所得税の負担を重すぎると答えています。このように租税は拒絶反応を起こしかねないほど嫌われていますから、租税を支払わずに済ます方法を考える人がいるとしても当然でしょう。本節では、その方法の1つである租税の転嫁の懸念と形態を取り上げます
 租税の転嫁は、課税に対して民間部門で起きる経済現象ですたとえば、卸売売上税が導入されたとしましょう法律上の納税義務者である卸売業者は、課税に対してどのように対応するでしょうか。卸売業者は、負担を転嫁するために、卸売価格に税額分を上乗せするかもしれません。小売業者も同様の行動をとり、最終的には税額分が上乗せされた小売価格を支払うことによって、消費者が売上税を負担することになるかもしれません。」
 A‐1本件書籍53頁13行〜19行
 「租税の転嫁は、転嫁が起きないとされている直接税においても実際には生じています。たとえば、固定資産税の納税義務者は固定資産の所得者ですが、借地人や借家人が固定資産税含みの地代や家賃を支払っていれば、固定資産税は前転しています法人税は、販売価格、従業員の賃金、株主の配当などに影響を及ぼしています。直接税でも転嫁はときに生じるのです。
 このように租税の負担は、さまざまな形態で転嫁が起こり、しかも実際にはそれらが複雑に絡み合っています。」
 A‐2本件著作物37頁16行〜26行
 「租税の転嫁は、転嫁が起きないはずの直接税においても生じています。第1章でも簡単に触れましたが、固定資産税がわかりやすい例です。固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者ですが、借地や借家として第三者に貸している場合には所有者が実際に租税を負担することはほとんどありません。借地人や借家人が固定資産税の含まれた地代や家賃を支払っているからです。納税義務者は所有者でありながら、賃貸契約書には固定資産税の税率の引上げに合わせた賃貸料の引上げが明記されていることもあります。固定資産税の転嫁が日常化している証拠でしょう。他の直接税でも転嫁はしばしば生じています。たとえば、法人税は販売価格、従業員の賃金もしくは株主の配当に影響を及ぼしていますこのように転嫁にはさまざまな形態があり、しかも実際にはそれらが複雑に絡み合っています。」
 本件著作物の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、租税の転嫁の定義や、その具体例を一般的な用語を用いて説明する部分であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
25 (1)本件著作著
 転嫁の過程を図を使って説明した段である。
 この図はCが講義で板書するもの(乙61)であり、これに拠ったものである。説明の内容は乙6文献の95頁末尾から2行目〜96頁10行目に拠っており、租税が一部しか消費者に転嫁されない場合を選択している点も共通であるし、需要と供給の弾力性との関係につき言及している点も同じである。他に乙4文献の262頁4〜10行目、263頁2〜16行目、264頁図15.3、乙34文献の162頁9行目〜163頁16行目にも拠っている。
(2)同一性又は類似性
 Cが板書した図についての説明であるから、内容・表現が類似するのは不可避である。
   本件著作物の当該部分は、転嫁の過程を一般に用いられる図表を使って説明するものである。その表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、ごくありふれた表現や、一般に広く使われる用語や定義であって、原告の創作性が認められないものであることは、被告指摘の各文献から明らかである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
26 (1)原告表現の著作物性 
 超過負担について解説した段である。
 「窓税」を例にとった解説の箇所は、乙3文献の124頁最終行〜125頁7行目、乙6文献の26頁最終行〜27頁6行目に拠っている。
 「棟別銭」を例にした解説は乙14に拠り、人頭税であっても超過負担は観念し得る旨の問題意識は乙6文献の29頁6〜12行目、乙3文献の125頁8〜13行目に拠っている。
 また、超過負担についての乙69の42頁図3-3は、乙3文献の126頁図7-1及び、乙6文献の27頁図3.1に類似していることからも、これらが種本であったことがわかる。
(2)同一性又は類似性 
 本件著作物同様、乙3文献、乙6文献に拠り記述し、乙14を参照したものである。
 内容的な類似性は必然である。構成上、表現上の類似性は認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、課税の超過負担に関する記述であり、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告自らの言葉によりまとめて表現したものであり、創作性が認められる。
 被告指摘の乙号証中には、窓税や人頭税に関し超過負担の有無について触れたものもあるが、本件著作物の当該表現に対応する具体的表現は、そこにはみられない。なお、乙14はインターネットのホームページへの書き込みであり、その記載からすると、2004年(平成16年)5月の書き込みとしか思われない。これを、参照することは本件著作物執筆当時も、被告の単著執筆時においても、不可能である。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分と対比すれば、「棟別銭」に関する記述と窓税に関する記述の順序を入れかえ、また、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分の表現と同一(又は実質的同一)であることが明らかであり、また被告の主張とは異なって、本件著作物の当該部分に依拠して作成されたことが、明らかである。
 本件著作物の当該部分は、租税の超過負担について説明するものである。窓税や棟別銭といった歴史的事実、租税の超過負担等の概念の説明のほか、人頭税であっても超過負担が考え得ることなど、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、内容は一般的であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
27 (1)原告表現の著作物性
 消費者余剰と生産者余剰につき図を使って説明した段である。
 この章を書くに当たってCからは「ここの経済分析はどの程度まで書くかだな。経済原論も選択科目になったから、原理をしっかり説明し、あとは極端な4つのケース図と簡単な転嫁の度合までだろう」との指示を受けた。
 この指示を受け、かつ乙3文献の125頁14行目〜127頁11行目、乙6文献の28頁3〜27行目、及び27頁図3-1、同頁7〜8行目、及び28頁15行目〜29頁4行目、乙40文献の104頁図4-7、及び同頁10行目〜105頁12行目、乙41文献の100頁最終行〜101頁15行目、乙56文献の68頁2行目〜末尾から4行目、及び同頁図V‐5、乙57文献の86頁6行目〜最終行等に依拠されて記述されている。解説の手法、ケースを挙げる順番等、構成が同一である。
 本件著作物に使用された図(3-3)は、乙3文献の126頁図7-1、ないしは乙4文献の264頁図15-3に拠っている。(2)同一性又は類似性
 本件書籍における図も、上記乙3文献、乙4文献に拠っている。解説の手法も乙3文献指摘部分に拠っている以上、内容はもとより表現が類似するのは当然である。
   本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、ごくありふれた表現や、一般に広く使われる用語や定義であって、原告の創作性が認められないものであることは、被告指摘の各文献から明らかである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
28 (1)原告表現の著作物性
 需要と供給の価格弾力性と超過負担との関係を図を使って解説した段である。
 使用されている図は、乙4文献の264頁図15.4(b)であり解説の手法も当該部分に拠っている。導入部分は乙38文献の88頁6行目〜89頁末尾から2行目に拠っている。
 なお、これらの図はCが講義で板書するもの(乙61)である。
 同様の図は、乙34文献の163頁にもある(図5-10)。生活必需品を例にとって説明している点は乙41文献の103頁4〜6行目、104頁8〜11行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 恩師講義の板書どおり解説している。表現が類似するのは図が同じであるから当然である。
   本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、ごくありふれた表現や、一般に広く使われる用語や定義であって、原告の創作性が認められないものであることは、被告指摘の各文献から明らかである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
29 (1)原告表現の著作物性
 [28]に引き続いての図を使用しての説明である。使用されている図は乙4文献の264、265頁の図15.4及び5に拠り、解説の手法も乙4文献の263頁2行目〜264頁最終行に拠っている。
 ダイヤモンドや工業製品を例にとって説明する手法は、Cの講義どおりのものである(乙61)。図の説明内容、順序等は乙3文献の127頁12〜18行目、130頁16〜19行目及び178頁9〜11行目、乙42文献の174頁末尾から4行目〜175頁7行目に拠っている。
 必需品への課税への選択につき言及している点は乙35文献の77頁末尾から7行目〜78頁3行目に拠っている。段のまとめかたは乙37文献指摘部分に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 ダイヤモンドや工業製品を例にとって説明する指示を受けていたこと、講義どおりの内容を再現しようとしていたこと、乙4文献の図、解説をもとにしている以上、内容や表現方法が多少類似するのは必然である。
   本件著作物の当該部分の表現中、本件書籍の当該部分と同一性が認められるのは、ごくありふれた表現や、一般に広く使われる用語や定義であって、原告の創作性が認められないものであることは、被告指摘の各文献から明らかである。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
30 (1)原告表現の著作物性
 簡素の原則に関する解説の段である。同原則の定義については、乙2文献の3頁15〜18行目のそれをそのまま引用している。
 所得税を例にとり租税制度の複雑性を説明する手法は乙42の53頁5〜10行目に拠るものである。
 また、KONISHIKIは、人頭税も不公平感が出る例として恩師がよく用いるものであった。作業の途中で「小錦」という表現は使えないなと話し合った。
 さらに、サッチャー政権についてのくだりは乙4文献の153頁11行目〜154頁15行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 簡素の原則につき、所得税や、人頭税の不都合性を例に挙げて解説するという同じ指示に従ってのものである。したがって、その限りでの類似性は不可避である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、簡素な租税の原則について、簡潔かつ初学者にわかりやすく、原告が自らの言葉によりまとめて表現したもので、その表現には創作性が認められる。
 被告の摘示する乙号各証には、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現はみられない。乙4文献、乙34文献、乙38文献は中立的課税としての人頭税についての記述はあるが、簡素な租税の原則には触れていない。乙42は簡素の原則と税法が複雑になる原因につき簡単な説明があるのみである。乙43文献も、税制が複雑化する原因とその弊害について簡単に触れ、簡素な税制が求められる、と説くのみである。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分が、中立性とともに簡素の極致の例として挙げている割り勘に例えられる人頭税の説明としてKonishikiとの会食費用の割り勘の例を、小さな貸家に住む大家族対大きな自分の屋敷に住んでいる夫婦2人だけの家族の例に変えているほか、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分に依拠し、これと実質的に同一な表現であるというほかはない。
 本件著作物の当該部分は、簡素の原則に関する定義や、租税制度の複雑性、及び最も簡素である人頭税の問題点などを説明するものである。簡素の原則の定義や、人頭税の不公平感によって、サッチャー首相が退陣に追い込まれたといった歴史的事実など、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、あるいは他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
31 (1)原告表現の著作物性
 簡素な租税制度と徴税費との関係についての段である。
 税務行政費用、納税協力費用等の概説は乙6文献の44頁12〜24行目、45頁末尾から4行目〜46頁13行目及び23頁17〜23行目に拠っている。

(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、税務行政費用と納税協力費用に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性が認められる。
 被告の指摘する乙号証中には、本件著作物の当該部分に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、本件著作物の当該部分と対比すれば、些細な字句の変更はあるものの、これと同一(又は実質的同一)のものであり、これに依拠して作成されていることも明らかである。
 本件著作物の当該部分は、税務行政費用と納税協力費用について述べたものである。税務行政費用や納税協力費用の定義や、これらの費用と簡易な租税制度の関係など、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、内容は一般的であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
32 (1)原告表現の著作物性
 公平と中立のトレードオフについて解説した段である。
 トレードオフについての定義、一般的説明については、乙43文献の19頁2〜4行目、乙44文献の215頁4〜13行目に拠っている。
 所得税を例にとっての説明は乙5文献の33頁24行目ないし34頁2行目を、生活必需品への課税における問題点については乙3文献の177頁〜179頁、及び120頁〜124頁を参考にしている。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、公平と中立の対立(トレード・オフ)の問題に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自らの言葉によりまとめて表現したものであり、創作性が認められる。
 被告の摘示する各乙号証には、公平の原則と中立の原則のトレード・オフについて触れているものがあるが、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更はあるものの、本件著作物の当該部分と同一(又は実質的に同一)であり、かつ、本件著作物の当該部分に依拠して作成されたことが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、公平と中立のトレード・オフについて述べたものである。公平と中立のトレード・オフの定義や、公平と中立が対立する具体的場面など、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、内容は一般的であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
33 (1)原告表現の著作物性
 導入部分は、乙43文献の155頁1〜5行目に拠っている。源泉についての区別の必要性の説明についての不労所得の「ソファー」の例はCが授業で使用している話であるし、図表3-6も板書のとおりである(乙61)。また、この部分は、乙3文献の127頁、乙5文献の37頁9行目〜最終行、乙44文献の107頁4行目〜108頁13行目、109頁7〜16行目に拠っている。最後の段のまとめは乙39文献の24頁最終行〜25頁7行目、乙44文献指摘部分に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、最適課税論に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の指摘する乙号各証には、いずれも、本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。




(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、若干の字句や配列の変更が認められるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「今までの説明から、公平と中立という2つの…(中略)…複数税率構造をもった一般消費税が求められています。」との部分、及び「そこで、間接税だけではなく…(中略)…国際間の移動の可能性等をも考慮に入れる必要があるでしょう。」との部分は、公平の及び中立の原則を満たす租税のあり方や、今後の最適課税における考え方などを説明するもので、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「以上のように、公平と中立の原則は相対する関係に…(中略)・・税が中立の原則に適っています。」との部分、及び「公平と中立のトレード・オフという相対する二つの原則の…(中略)…国際間の課税の比較なども考慮に入れることが必要とされています。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「これを言い換えれば、…(中略)…納税者の所得格差を考慮したものではありません。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(「このような消費税の税率に…(中略)…納税者の所得格差等は考慮されていません。」)と、ラムゼイの「逆弾力性のルール」の内容を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記「逆弾力性のルール」を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるとはいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
34 (1)原告表現の著作物性
 所得税が垂直的公平の確保に適している点、ただし、水平的公平の点で歴史的に問題が生じてきた点等は乙3文献の141頁13〜15行目、142頁5〜10行目、同頁20行目〜143頁1行目、141頁18行目ないし142頁1行目、219頁2〜6行目、乙4文献の179頁6〜10行目、162頁22〜23行目に拠っている。トウゴウサン、クロヨンなどという言葉も乙3文献に拠っている。世代間の公平に関するくだりは乙5文献の57頁6〜9行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物と同様、乙3文献、乙4文献等に拠っているため内容・表現がその限りで類似するのは必然である。それ以上の類似点は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、所得課税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。




(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、所得税が垂直的公平の確保に適している点、ただし、水平的公平の点で歴史的に問題が生じてきた点等について説明するものである。トウゴウサン、クロヨンなどの所得補足率の格差を示す俗語や、所得課税の問題点それ自体は、既に知られたものであり、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
35 (1)原告表現の著作物性
 消費税についてのメリット・デメリットは乙3文献の177頁16行目〜179頁13行目、乙4文献の251頁8ないし11行目、265頁2〜13行目に依拠。



(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙3文献、乙4文献に依拠して書かれており、その限りでの類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費課税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、消費税のメリット・デメリットを説明するものである。消費税のメリット・デメリットそれ自体は、よく知られた内容であるとしても、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
36 (1)原告表現の著作物性
 資産税につきその特徴を説明した段である。
 主に乙3文献の191頁〜192頁、乙43文献の283頁〜285頁に拠っている。
 資産の捕捉、評価の難しさを問題にしている点は乙3文献の203頁18行目〜204頁1行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙3文献、乙43文献に依拠して書かれており、その限りでの類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、資産課税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分を複製(又は翻案)したものであることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、資産課税のメリット・デメリットついて述べたものである。資産課税のメリット・デメリットそれ自体は、よく知られた内容であるとしても、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
37 (1)原告表現の著作物性
 タックスミックスについて書かれた段である。
 冒頭「たとえば…」の一行は乙2文献の14頁2行目「例えば所得課税…」の一文とほぼ同表現であり、本件著作物6行目からの「所得、消費および資産といった…」の一文も乙2文献同頁7行目「所得・消費・資産等…」という表現と同一であって、本箇所が乙2文献に依拠して書かれたことが分かる。なお、後者の一文は乙69の262頁、被告担当箇所にも同様の表現がある。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献を種本として使用した以上、内容・表現に類似性が認められるのは当然である。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、タックス・ミックスに関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句等の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、タックスミックスの定義や、所得課税、資産課税などの一般に広く使われる用語等である。その表現は、普通に使用されるありふれた言葉であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
38 (1)原告表現の著作物性
 乙1文献の58頁8行目〜最終行、172頁1〜2行目に依拠している。本件著作物指摘部分に使用されている表4-1と乙1文献の59頁「国税の税目」とが、同じものであることからもわかる。



(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙1文献に依拠しており、その限りで本件著作物との類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、国税の租税体系に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、国税の租税体系を内容とし、所得税や法人税を始めとする各種税の内容を簡潔に記述するものであって、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
39 (1)原告表現の著作物性
 冒頭部分は乙15文献の40頁5〜12行目に拠っている。本件著作物1行〜3行は乙16文献の68頁12行目の文章とほぼ同一、さらに、「目的税の中で…」で始まる文章も乙16文献の68頁19行目「目的税のうち…」とほぼ同じ文章であり、乙16文献が種本として使用されたことがわかる。なお、乙16文献と使用されている言葉で異なるものとして乙16文献では「自治大臣の許可」、本件著作物では「自治大臣の同意」と記述されているものがある。これは平成11年度に改正があったためであり、この箇所だけ乙16文献の平成11年度版である「図説日本の税制平成11年度版」を使用したことが分かる(当該書籍の該当部分は、「許可」と記されている。)。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙16文献を種本としており、その限りで本件著作物との類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の体系に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。









(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更等があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分を複製(又は翻案)したものであることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、地方税が、道府県税と市町村税あるいは普通税と目的税に分けられるとの記載、及び目的税の中で、地方公共団体が導入を決定できる税を列挙している部分に限られており、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
40 (1)原告表現の著作物性
 乙4文献指摘部分に拠っている。内容、表現、いずれも類似していることが分かる。





(2)同一性又は類似性
本件著作物との類似性は認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、本件著作物第6章「消費課税」の冒頭の囲み欄の部分であり、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句や配列の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分と同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、本件書籍の当該部分と共通するのは、消費課税の評価が高まっていること、代表的な消費課税として、付加価値税があることなどの内容であり、その表現は、普通に使用されるありふれた言葉であって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
41 (1)原告表現の著作物性
 所得税と比較しての消費税の利点については乙36文献の176頁最終行〜178頁2行目、及び同頁4〜20行目、乙43文献の223頁17行目〜224頁11行目に拠っており、その歴史がギリシャ・ローマ時代に芽生えたものである旨の記述は乙2文献の4頁8〜13行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 表現上類似している点は、特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費課税の評価に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、消費課税の歴史・その役割や所得課税と比較しての利点等を簡潔に記述するものであって、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
42 (1)原告表現の著作物性
 乙47文献の247頁11〜14行目に拠って記述されたものである。
 内容、表現も同一であることから明らかである。
 また「国境を通過する」という表現は乙3文献の173頁最終行〜174頁末尾から2行目に拠ったものである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙46文献、乙3文献に拠った記述である。その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、関税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「次に間接税に議論を移しましょう…(中略)…この点が関税の持つ特異性といえるでしょう。」との部分は、関税に財政関税と保護関税があることや関税の税率等を説明するものであり、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、「次に間接税に…(中略)・・税の特異性でしょう。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「特異な性質を持つ関税の課税方法は、…(中略)…助けるための特恵課税があります。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の最後の段落)と、関税の税率の種類を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記内容を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
43 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の154頁11〜19行目、乙3文献の175頁11行目及び178頁9〜19行目、乙26の2文献の118頁7〜17行目、154頁11〜19行目、174頁1〜7行目(乙26の2文献の154頁11〜19行目、174頁1〜7行目については、対応部分がない。乙2文献の174頁1〜7行であると思われる。)乙34文献の199頁24行目〜200頁12行目等に拠って記述されている。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、個別消費税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「内国消費税は、特定の財・サービスに対する個別消費税と…(中略)…財との区別が難しくなり、課税基準も曖昧になってきました。」との部分は、内国消費税が、個別消費税と一般消費税に分けられることや、個別消費税のうちの奢侈品課税及び物品税の内容、その問題点などを説明するものであり、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「内国消費税は、特定の商品に課税する…(中略)…商品との区別が難しくなり、課税基準も曖昧になってきました。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「そのような時代の流れの中で…(中略)…『消費税』が1989年(平成元)に導入されました。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(本件著作物の当該部分の最後の一文)と、ほぼ同一であるが、対応する本件著作物の部分は、歴史的事実を記載するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
44 (1)原告表現の著作物性
 「さらに単段階税は…」から4段目まで乙2文献の286頁4〜17行目、及び17〜18行目、287頁の図に全面的に依拠している。説明の手順、構成も同一であるし、製造者売上税の定義において「出荷段階で一度だけ課税する」という表現を使用していることからも明らかである。カナダ、オーストラリア、アメリカを例に出している点も同一である。また、各国の状況については乙4文献にも類似している。
 また、導入部分は乙48文献の3頁3段落目を丁寧語化したものである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、一般消費税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「一般消費税は個々の財にではなく、…(中略)…地方税として導入されています。」との部分は、主に、製造者売上税、卸売売上税、小売売上税がどういうものかについて説明するもので、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとまではいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「一般消費税は、個々の物品に対する課税ではなく、…(中略)・4%〜8%程度で導入されています。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「製造・卸売・小売の全ての…(中略)…これが付加価値税の誕生です。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(「多段階税には取引高税と…(中略)…回避しようとして考えられました。」)と、取引高税の定義を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記の内容を一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
45 (1)原告表現の著作物性
 主にフランスの付加価値税の歴史について述べられているが、この部分は乙48文献の84頁10〜22行目に依拠したものである。「企業間の垂直的統合」なる言葉も乙48の21頁で使用されている。



(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、付加価値税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、若干の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「『付加価値税の母国』と称されているのはフランスです…(中略)…複雑な消費課税制度は依然として解消されませんでした。」との部分は、主に、フランスにおける付加価値税の歴史的経過を内容とするもので、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとまではいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「付加価値税は…(中略)…依然として解消されませんでした。」との部分の表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「1968年になって現行のような…(中略)…占める日が来るでしょう。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(「現行のような完成された…(中略)…それほど遠くないかもしれません。」)と、フランスにおける現行付加価値税制度の導入や、各国の付加価値税導入状況といった内容を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記内容を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
46 (1)原告表現の著作物性
 消費税型付加価値税の2種に付いて説明した段である。前段階税額控除方式、前段階取引高控除方式の2種についての定義は、乙4文献の259頁20行目〜260頁20行目の定義をそのまま引用し、構成も乙4文献に拠っていることがわかる。
 さらに後者が脱税の予防に効果的との指摘の部分は乙3文献の183頁に拠っていることがわかる。
(2)同一性又は類似性
 前段階税額控除方式の定義等、主に乙48文献の7頁8〜21行目、乙3文献の182頁2〜6行目、184頁11行目〜185頁5行目、乙4文献を種本として使用した。
 したがって、その限りで内容が本件著作物に類似しているにすぎず、表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、付加価値税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更及び付加された部分があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、前段階税額控除方式(インボイス方式)及び前段階取引高控除方式(帳簿方式)といった一般に用いられる用語、及びその単なる定義というべき部、創意工夫の余地の限られた内容を、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
47 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の291頁の図、乙4文献の256頁17〜21行目、乙47文献の224頁3〜6行目に拠って記述されたものである。
 「…国の多くは…」という文章は、乙4文献指摘部分の文章にその表現が酷似しており、「生活必需品に…」との対比の部分は、乙47文献指摘部分に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物との表現上の類似性は特段認められない。 
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、付加価値税の税率に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、単一税率や複数税率といった一般に用いられる用語、及びその単なる定義ともいうべき部分であり、創意工夫の余地の限られた内容を、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
48 (1)原告表現の著作物性
 本図表は、乙44文献の57頁表V一2に見られるように極めて一般的な表であって、原告の独創性はない。内容的には乙4文献の258頁13行目〜259頁12行目、乙6文献の260頁8〜23行目に述べられていることを図表化したものである。
(2)同一性又は類似性
 ゼロ税率と免税の仕組みを図表により解説するとしたらこのような表にならざるを得ない。
   本件著作物の当該図表は、ゼロ税率と免税の仕組みを解説するありふれた図表であり、原告の個性が発揮されたものといえないことは、被告の指摘する各文献から明らかである。
 したがって、複製権・翻案権侵害は認められない。
49 (1)原告表現の著作物性
 本段は、乙4文献の267頁17行目268頁最終行を要約したものである。「10年」という年数が強調的に記述されている点、「…減税法案であった」という表現が段末に使用されていることからも明らかである。

(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙4文献指摘部分を要約したものであり、その限りで本件著作物との類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費税導入に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、日本における消費税導入の経過について述べたものである。主に事実経過を内容とするが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
50 (1)原告表現の著作物性
 我が国における高齢化問題の実情と、それが所得税中心から消費税中心の税制へ向かわざるを得ない旨の指摘をしている個所であるが、このような内容は、乙2文献の54頁1〜15行目、乙5文献の「はしがき」5〜11行目、及び57頁6〜9行目、乙43文献の15頁末尾から2行目〜16頁1行目、16頁16行目〜最終行、及び229頁7〜18行目に同様の内容が指摘されているように凡庸なものである。
 また、乙69の269頁から270頁にもその問題意識は既に記述されており、これらに依拠されたものである。また、65歳以上の割合に言及し、2025年の予測等を述べている箇所は、乙5文献「はしがき」箇所をそのまま引用したものである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙5文献、乙43文献等を参考にして記述したものであり、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、資産課税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。









(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、字句や配列の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分を複製(又は翻案)したものである。
 本件著作物の当該部分の内容は、日本における人口の高齢化とそれに対応するため消費税中心の税制の必要性を説明するもので、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
51 (1)原告表現の著作物性
 地方消費税の概要につき乙2文献の220頁の9〜13行目を、諸外国との対比の部分については乙43文献の239頁22〜24行目、及び同頁最終行〜240頁1行目、乙4の256頁17〜19行目、260頁16〜20行目に依拠して記述されている。5%という数字に着目し、これが最も低い旨の指摘も乙43文献においてなされていることからも明らかである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は別段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費税の税率の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件書籍の当該部分のうち、「わが国の消費税の税率は1988年の導入時には…(中略)…大変に低いレベルです。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(「消費税の税率は1988年の導入時には3%でしたが…(中略)…軽減税率と同じ水準です。」)と、消費税の税率の変化、地方消費税制度の概要等を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記の内容を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 一方、本件著作物の当該部分のうち、「また、税率に関する特徴として、消費税は…(中略)…後述するインボイス方式の導入の中で再び触れましょう。」との部分は、諸外国において複数税率制度を採用していること、日本で複数税率制度を採用していない理由などを説明するものであり、いずれも一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、「また、付加価値税を導入している諸外国の…(中略)…しかしこの点は後の節で議論をすすめましょう。」との表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
52 (1)原告表現の著作物性
 我が国ではインボイス方式ではなく、帳簿方式がとられてきたこと及びその内容については、乙2文献の292頁19行目〜最終行に依拠され記述されている。また、将来的にインボイス方式へ移行すべきとの問題意識については、乙69の272頁において被告がもとより記述していたものでもある。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。

(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、累積課税の排除方法である、帳簿方式とインボイス方式について説明するものである。両方式の内容自体は、一般的なものであるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
53 (1)原告表現の著作物性
 国政と地方行政の対比を財政面で説明する冒頭部分は、乙4文献の54頁2〜6行目に拠り、我が国の地方財政の問題点の指摘、将来的課題への言及については、乙4文献の51頁末尾から4行目〜53頁9行目、及び59頁7行目〜60頁末尾から7行目、乙17の2文献の79頁12〜20行目、乙20文献の9頁最終行〜10頁8行目、乙20文献の2の45頁末尾から6行目〜46頁1行目、乙41文献の164頁1〜11行目の指摘部分に拠っていることがわかる。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、国と地方政府の関係に関し、
簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、地方税の説明の前提として、国と地方公共団体との関係を記述するものである。地方行政の問題点等、一般的に言われている内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
54 (1)原告表現の著作物性
 冒頭部分の「経済の安定化政策も…国が…行うべきもの」という文章は、乙4文献の11頁18行目〜最終行に依拠した書き出し、又は乙20文献の26頁1〜11行目の冒頭一文に依拠したものであり、その後インフレについて地域格差がないこと、地方政府の公債発行の困難性と続く構成は、乙4文献の12頁21行目〜13頁15行目と全く同一であり、これに依拠したことは明白である。さらに、乙18文献の9頁5〜22行目にその構成が類似しており、特にインフレに関する表現は酷似していることがわかる。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙4文献、乙20文献、乙18文献等を参考に記述されたものであり、その限りでの類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方政府と経済安定化に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。






(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更等があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「経済の安定化政策も…(中略)…ある地域だけが不況という現象はあまり生じません。」との部分、及び「しかしながら、経済成長を…(中略)…地方政府にも貢献する余地はあるでしょう。」との部分は、主に、経済の安定化機能は、地方政府ではなく中央政府が果たすべきと考えられる理由について述べるものである。同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、一般的に言われている内容ではあるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「経済の安定化機能も…(中略)…マクロ的経済現象が生じていきます。」との部分、及び「しかしながら、経済成長が…(中略)…地方政府にも貢献する余地があります。」との部分の表現は、本件著作物の同部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 一方、本件書籍の当該部分のうち、「また不況対策として…(中略)…おのずと限界があります。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(「さらに、有効需要拡大のために…(中略)…問題を残します。」)と、信用力の弱い地方政府が地方債の発行によって財政支出を増大することは困難であるとの内容を説明する部分で共通するにすぎず、表現で共通するのは、短い表現のみである。そして、対応する本件著作物の部分において用いられる短い表現は、創作的な表現とはいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
55 (1)原告表現の著作物性
 冒頭の一文は、乙21文献の15頁末尾から2行目〜最終行の一文を引用したものであることがわかる。地方税に特殊な5原則については、乙18文献の216頁末尾から2行目〜217頁3行目、乙20文献の101頁3行目〜104頁8行目を要約したものであり、これらに依拠して書かれている。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は別段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の租税原則に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、本件書籍の当該部分と共通するのは、A.スミスやA.ワグナーが租税原則を唱えたこと、及び同原則の概要という創意工夫の余地の限られた内容である。その表現は、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
56 (1)原告表現の著作物性
 本段は、乙18文献の217頁5〜17行目をそのまま丁寧語化したものであり、これに依拠されて書かれたものである。また、地方行政の代表例としてごみ収集を挙げることは乙4文献の216頁23〜26行目でもわかるとおり、一般的なことである。

(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙18文献等を種本として使用しており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の安定性の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、地方税において安定性の原則が求められる理由等について述べたものである。同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、一般的に言われている内容ではあるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
57 (1)原告表現の著作物性
 地方税については応能原則よりも応益原則が重視されてきたこと、及びその理由につき、乙18文献の217頁19行目〜218頁9行目、乙19文献の84頁6〜12行目に拠っている。その構成も同一である。また、固定資産税についての指摘は、乙4文献の215〜216頁を参考にしている。
(2)本件書籍
 本件著作物同様、乙4文献、乙18文献、乙19文献を種本としており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の租税原則の応益性に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更等があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、地方税において、応能原則よりも応益原則が重視される理由等について述べたものである。同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、一般的に言われている内容ではあるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
58 (1)原告表現の著作物性
 乙18文献の218頁13行目〜219頁3行目をそのまま丁寧語化したものである。地方税についての分任性の原則について、クラブ会員と会費を例にとって説明し、それが自覚の念、参加意欲に資し、「地方自治の尊重」という見地から重要である旨の指摘等、内容及び構成、表現、すべて一致している。また、最後に「危険性」つき言及し、「均等割」が「対応する」で終わる部分も全く同一である。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙18文献を種本として使用しており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の租税原則の分任性に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。



(2)同一性又は類似性
本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、地方税における分任性の原則の単なる定義というべき部分を、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
59 (1)原告表現の著作物性
 乙5文献の109頁18行目〜110頁3行目、乙16文献の69頁19〜21行目、乙16の2文献の54頁3行目〜55頁3行目、乙18文献の219頁23行目〜220頁3行目に拠っている。特に冒頭の「普遍性」についての定義において「…期待できる」と特異な表現方式を使用している箇所は、乙18文献のそれにも使用されていることからも明らかである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の租税原則の普遍性に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、地方税における普遍性の原則の単なる定義というべき部分を、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
60 (1)原告表現の著作物性
 乙16文献の70頁11〜13行目及び乙20文献の102頁13行目〜103頁1行目に依拠している。「自主的…調整…望」という表現が同一であることから、また、最後に法定外普通税の指摘をして終わっている点が同一であることからも明らかである。

(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は別段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の租税原則の自主性に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現のうち、本件書籍の当該部分の表現と共通するのは、地方税における自主性の原則の単なる定義というべき部分を、普通に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の同部分と本件著作物の同部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
61 (1)原告表現の著作物性
 シャウプ勧告と地方税制に関しての段である。
 この段は乙69の254頁、及び乙2文献の46頁20〜24行目に依拠している。
 本件著作物の「国の財源は所得税と法人税…」という一文と次に続く一文は、乙69の254頁5行目の文章とほぼ同一であることからも、また、「根幹」という特徴的な表現が両者に使用されていることからも、原告が本件著作物の被告の担当箇所に依拠していたことがわかる。また、「付加価値税は…実施が…再三延期され…」の一文は、乙2文献の46頁24〜25行目の表現と酷似しており、やはり乙2文献に依拠して書かれたことがわかる。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様乙2文献、又は乙69文献の254頁を種本にしており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、シャウプ勧告と地方税制に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。








(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、シャウプ勧告と地方税制に関するものである。地方税制の内容、その変遷などは一般的に言われているものであるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
62 (1)原告表現の著作物性
 乙19文献の89頁5行目〜90頁3行目、乙20文献の99頁4行目〜100頁7行目に拠って記述されている。
 「標準課税とは…」で始まる文及び次に続く文は、乙19の「標準課税とは…」で始まる文とほぼ同一であるし、制限税率について説明している文は、内容、表現共に乙20指摘部分に酷似していることからも明らかである。
 尚、市長村税の一例として古都税を挙げることは一般的なこと(乙15文献の64頁4〜7行目)であり、内容についても誰でもこの程度は収集可能であり(乙51の1枚目)、凡庸なものである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方税の特徴に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。







(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件書籍の当該部分のうち、「わが国の地方税は、地方税法によって…(中略)…これを任意税率と呼んでいます。」との部分の表現は、本件著作物の対応する部分(最初の段落)と、地方税法が規定している4つの税率を説明する部分で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記の内容を、一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 一方、本件著作物の当該部分のうち、「自主課税として認められている法定外普通税も…(中略)…地方税の特徴としてあげられています。」との部分は、地方税の特徴としての法定外普通税について、具体例を挙げながら説明するものである。具体的自体は一般的なものであるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「もう一つの特徴に法定外普通税が…(中略)…応益原則に基づく租税の存在などがあげられます。」との表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
63 (1)原告表現の著作物性
 所得税と住民税の目的の相違について、乙2文献の206頁2〜6行目、乙17文献の108頁20〜25行目に拠って記述されている。また、住民税が所得税に比べて累進性が低い旨の記述は、乙17文献の109頁に拠っている。

(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、個人住民税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現中、本件書籍の当該部分の表現と共通する部分は、個人住民税と所得税との相違点について、単なる一般的な事実を記載している部分であり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
64 (1)原告表現の著作物性
 乙43文献の193頁3〜18行目、さらに、乙20文献の119頁末尾から2行目〜120頁9行目、乙21文献の147頁4行目〜148頁14行目に依拠し記述されたものである。特別所得税の新設で終わっているところなど、乙43文献の指摘部分に酷似していることからも明らかである。


(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙43文献、乙20文献、乙21文献等を種本にしており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、事業税の沿革に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
 なお、他の項目でも多く援用されているが、乙43文献の発行日は、本件著作物より後である。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、営業税から事業税に至る沿革について説明するものである。主に事実経過を内容とするので、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、あるいは他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分には、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
65 (1)原告表現の著作物性
 乙43文献の193頁19行目〜194頁5行目、乙24文献の201頁、乙48文献の188頁9〜15行目等に依拠された記述である。




(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は別段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、事業税の沿革(つづき)に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、[64]に引き続いて、シャウプ勧告以降の事業税の沿革について説明するもので、主に事実経過を内容とするので、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
66 (1)原告表現の著作物性
 事業税の課税べ一スについての問題点を二つに分けて説明している段であるが、この構成は、乙52文献の173頁21行目〜174頁13行目と類似しており、表現も類似していることから、これに拠っていることが分かる。また、赤字企業の問題については乙43文献の202頁3行目〜203頁10行目を、税収の不安定性については乙17文献の111頁末尾から2行目〜112頁20行目を要約したものである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、外形標準を巡る問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、多少の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分を複製(又は翻案)したものであることが明らかである。
 本件書籍の当該部分のうち、「そのために次の二つの問題点を抱えています。…(中略)…外形標準課税への移行が提言されています。」との部分の表現は、本件著作物の上記部分に対応する部分(「地方税の租税原則から見た、…(中略)…すぐれているでしょう。」)と、事業税において所得を課税べ一スとすることの問題点や、外形標準課税の利点といった内容を説明する部分で共通するにすぎず、表現で共通するのは、短い表現や数値のみである。そして、対応する本件著作物の部分において用いられている短い表現や数値は、およそ創作的な表現とはいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
 一方、本件著作物の当該部分のうち、「第2の理由は、税収の安定性に基づいています…(中略)…今後も重要な課題として検討されるべきでしょう。」との部分は、事業税の課税べ一スの外形標準化が重要な検討課題である理由等について述べたもので、同様の内容が被告指摘の文献にも表れているように、一般的な内容であるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「二つめは税収の安定性を欠くことです。…(中略)…課税べ一スの外形標準化は重要な検討課題です。」との表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
67 (1)原告表現の著作物性
 固定資産税の歴史について述べられた段である。
 それは地租改正にさかのぼること、一時は国税収入のほとんどを占めたことなど、同内容のことが乙2文献の36頁7〜15行目、及び同頁21行目〜最終行、乙43文献の305頁15〜23行目にも記されており、これらに拠って記述されたものであることが分かる。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、固定資産税の沿革に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、固定資産税の前身である地租の沿革を述べたものである。主に事実経過及び制度の説明を内容とするので、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
68 (1)原告表現の著作物性
 固定資産税の創設について述べた冒頭部分は、乙20文献の125頁3〜6行目に酷似しており、これに拠って記述されたものであることがわかる。また、その後に続く内容も、乙20文献、乙4文献の215頁6〜8行目、乙53170頁24行目〜最終行等に類似しており、これらに依拠されたものである。
(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、固定資産税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更等があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、シャウプ勧告以降の固定資産税の歴史や、市町村税の基幹税としての固定資産税の妥当性について説明するものである。市町村の徴税技術に言及することは一般的であるし、事実経過については、創作性の幅は限定されるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
69 (1)原告表現の著作物性
 乙4文献、乙15文献の67頁、乙18文献の242頁1〜13行目等を要約して記述したものである。
 特に1991年の土地税制改革についての記述は、乙4文献のそれと酷似している。

(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認めらない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、農地の評価の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、固定資産税における農地の評価の問題点及びその対策の一つである宅地並み課税について説明するものである。指摘された問題点は一般的なものであり、また、宅地並み課税制度そのものの説明については創作性の幅が限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
70 (1)原告表現の著作物性
 主に乙4文献の230頁7〜14行目に拠って記述されたものである。また、乙17文献の110頁18行目〜111頁2行目、乙43文献の325頁9〜15行目にも類似の記載がある。


(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙4文献を種本にしており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、固定資産評価の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、固定資産税における土地の評価の変遷について説明するもので、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
71 (1)原告表現の著作物性
 地方消費税の導入への経緯を記述した段であり、乙2文献の174頁1〜2行目、及び175頁図、乙20文献の139頁6〜13行目、乙43文献の325頁9〜15行目に依拠している。


(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方消費税の構想に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現中、本件書籍の当該部分の表現と共通する部分は、地方消費税の導入について、単なる事実経過を記載している部分であり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
72 (1)原告表現の著作物性
 乙34文献の269頁14行目〜270頁14行目、乙16文献の181頁2〜6行目、8〜13行目、179頁3行目〜180頁2行目、乙20文献の140頁8〜11行目を要約して記述されたものである。


(2)同一性又は類似性
 表現上の類似性は特段認められない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方消費税の構想に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の表現中、本件書籍の当該部分の表現と共通する部分は、地方消費税の導入について、単なる事実経過を記載している部分であり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の当該部分と本件著作物の当該部分は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、複製権・翻案権侵害に該当しない。
73 (1)原告表現の著作物性
 地方消費税の概要については、乙43文献の263頁2行目〜264頁11行目を要約したものである。また、小売売上税の特徴、「清算」に関しては、乙2文献の220頁21行目〜最終行、乙39文献の171頁7〜15行目に依拠して述べられている。

(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙39文献、乙43文献に拠って記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、地方消費税の問題点に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、字句や配列の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、その表現部分を複製(又は翻案)したものであることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「独立した地方税の創設に関して…(中略)…マクロ的に調整するシステムが組み込まれることになりました。」との表現であるが、地方消費税の導入の経過そのものは、事実経過であって、創作性の幅が限定されているものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとまではいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「独立した地方税を創設するにあたって…(中略)…マクロ的に調整する精算システムが組み込まれました。」との表現は、本件著作物の前記部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件書籍の当該部分のうち、「すなわち最終消費地と税収の帰属を…(中略)…清算後の税収によって行われます)。」との部分の表現は、本件著作物の上記部分に対応する部分(「既述したように、税収の帰属地と…(中略)…市町村に交付されます。」)と、地方消費税における清算システムを説明する点で共通するにすぎない。そして、対応する本件著作物の部分は、上記の内容を一般的な用語を用いて説明するものであり、創作的な表現とはいえず、また、表現上の格別な工夫があるともいえない。
 したがって、本件書籍の上記部分と本件著作物の上記部分とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、本件書籍の上記部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
74 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の250頁2〜3行目、251頁の末尾から7行目〜最終行を要約して記述されたものである。




(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献の指摘部分に拠って記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、税制の国際比較に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分のうち、「経済の国際化に伴い、各国の政府は諸外国と共通した…(中略)…諸外国の租税制度あるいは租税水準の分析は興味のある課題です。」との表現であるが、諸外国の租税制度等の分析が重要であるとの認識自体は一般的であるものの、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「経済の国際化に伴って、各国の政府は諸外国と共通した…(中略)…諸外国の租税制度の検討は重要な課題になっています。」との表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
 しかし、本件著作物の当該部分のうち、「そこで本節では、まず租税負担率と…(中略)…環境税に対する各国の取組み方を紹介しましょう。」との部分は、当該箇所以降に説明される事項及び項目について列挙したもので、表現に創意工夫をする余地が少ない上、本件著作物における具体的な表現もありふれたものであるから、創作性がないというべきである。
 したがって、本件書籍の当該部分のうち、上記部分に対応する「本章では、まず税制改革の国際的な流れを…(中略)…環境税について各国の取組みを紹介します。」との部分は、複製権・翻案権侵害に該当しない。
75 (1)原告表現の著作物性
 租税負担率の国際比較につき社会保険負担を含めるべき理由の箇所は、乙6文献の153頁2行目〜154頁10行目、乙37文献の147頁2〜9行目、我が国の年金制度についての箇所は、乙55文献の73頁最終行〜74頁8行目に拠っている。

(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙6文献、乙37文献、乙55文献の指摘部分に拠って記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
本件著作物の当該部分は、租税負担率に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、多少の字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分には、国際比較に当たり、租税負担率より、社会保険料等を含めた国民負担率の方が実体に適していること、及びその理由として、各国の社会保険制度等の説明が記載されている。いずれも一般的に言われているものではあるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
76 (1)原告表現の著作物性
 国民負担率の推移を先進国と比較して述べる箇所は乙5文献の「はしがき」5〜11行目に拠っており、数字も同箇所記載の表から拾っていることがわかる。国民負担率を抑えることが今後の課題という指摘も同箇所においてもなされていることからも明らかである(この指摘は乙43文献でもなされている。)また「潜在的な国民負担率」を問題にしている点は乙2文献の10頁13行目〜最終行、乙2文献の2の358頁表3、乙43文献の46頁24〜27行、47頁2〜16行目に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙5文献、乙43文献指摘部分に拠って記述されており、その限りで類似性が認めら
れるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、租税の国民負担率に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、我が国の国民負担率を外国と比較して述べるとともに、今後の国民負担率の見通しについて説明するもので、我が国を含む各国の国民負担率についてなど、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
77 (1)原告表現の著作物性
 前段部分は、全面的に乙2文献指摘部分に依拠して記述されている。「国税収入に占める所得税収入の割合を…」の文は、乙2文献の262頁12〜14行目に同一の文があるし、「アメリカではレーガン政権下…」の文は、乙2文献の258頁12行目の文章と同一である。また、本件著作物227頁に使用されている表は、乙2文献の263頁に使用されている表とほぼ同一であり、この表を解説している段なのであるから、その内容、表現が乙2文献に依拠していることは明らかである。
 さらに、冒頭の書き出しは、乙69の73頁の4行目からの文章及び乙26文献の66頁15〜19行目、及び68頁6〜20行目の文章、乙6文献の157頁の17行目からの文章に酷似している。
 後段部分は、乙2文献の262頁指摘部分に拠っている。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献等を種本としており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、所得税の国際比較に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。












(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、各国の所得税制を比較しながら説明するもので、現実の税制度の解説であるから、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
78 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の286頁19〜21行目、同頁8〜12行目、290頁19行目〜最終行、同頁8〜10行目、291頁図、乙2文献の2の358頁〜359頁図に拠って記述されたものである。



(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献等を種本としており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、消費課税の国際比較に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、各国における付加価値税導入の状況やその税率について説明するものである。各国の状況や税率などについては、創作性の幅が限定されているが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、税率の数字に若干の差異があるものの本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものが、そのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
79 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の302頁16行目〜最終行、及び302頁1〜10行目、乙36文献の217頁6〜14行目、24行目〜最終行、214頁5〜10行目、乙43文献の366頁11行目〜369頁末尾から4行目に拠って記述されている。全体の内容は、乙43文献の要約であり、炭素税についての解説、発展途上国における問題意識は、乙43文献に記述されていることを述べている。また、「酸性雨や海面上昇の影響を受けやすいオランダ…」の一文は、乙2文献の302頁16〜22行目をそのまま使用したものである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙36文献、乙43文献指摘部分に拠って記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、環境税に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。





(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、規制税としての環境税について、各国の導入状況や、その問題点等を説明するものである。現実の税の解説や、各国の状況などであるから、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
80 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の232頁2〜10行目、及び21〜26行目、乙43文献の331頁21行目〜332頁19行目、乙36文献の201頁7〜11行目に拠って記述されている。
 冒頭に出る配当の例は、2重課税を語る際、最も一般的に挙げられる例である(乙36文献、乙43文献)。
 「一般に対人主権と領土主権とに基づいた課税が…」で始まる文と次の文は、乙2文献の232頁2行目の文章と酷似していることからも明らかである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙36文献、乙43文献指摘部分に拠って記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、課税権の競合に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。




(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、国際間の二重課税について、具体的例を挙げ、その原因等から説明するものである。国際間の二重課税の原因などは一般的に言われているものであり、また、具体例自体も一般的なものではあるが、同部分の表現は、被告の指摘する他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現と実質的に同一であると認められ、本件著作物の同部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものである。
 そして、本件書籍の同部分には、本件著作物の同部分の表現で、被告指摘の各文献には見られないものがそのまま使用されているから、本件書籍の同部分は、本件著作物の同表現に依拠して再製されたというべきである。
 したがって、本件書籍の同部分は、複製権侵害に該当する。
81 (1)原告表現の著作物性
 この段の記述に関しては、まずCより「ここで言うことはタックスヘイブンと移動価格税制を使った租税回避と税の競合だろう」という指示があった。
 そして、乙2文献の236頁1〜12行目、乙41文献の132頁13〜16行目、乙36文献の210頁19〜24行目、同頁10〜18行目、及び211頁6ないし11行目、及び4〜5行目、乙43文献の332頁21行目〜334頁10行目に依拠して記述されたものである。
 3段目の「一般に、わが国の課税権は、…可能になります。」という箇所は、乙2文献の236頁5行目〜12行目「一般に…」という文章に酷似していることからも明らかである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙41文献、乙36文献、乙43文献に拠って記述されたものであり、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、タックス・ヘイブンに関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。








(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、タックス・ヘイブン税制について述べる前提として、タックス・ヘイブンを利用した国際的租税回避について説明するものである。その内容自体はありふれたもので、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
82 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の236頁1〜4行目、同頁13行目〜最終行、及び237頁6〜10行目、乙43文献の346頁15〜26行目、乙47文献の281頁17行目〜282頁5行目に拠って記述されたものである。
 最後の段「タックス・ヘイブン税制は…」で始まる箇所は、乙2文献の236頁23行目からの文章と酷似していることからも明らかである。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様、乙2文献、乙43文献、乙47文献指摘部分に拠って記述されたものであり、その限りで類似性が認められるに過ぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、タックス・ヘイブン税制に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。


(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、タックス・ヘイブンを利用した国際的租税回避を防止するためのタックス・ヘイブン税制についての説明である。現実の税制度の解説であるから、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
83 (1)原告表現の著作物性
 移転価格についての段であり、乙2文献の238頁8〜16行目、乙36文献の206頁25行目〜207頁最終行に依拠している。移転価格の具体例として挙げられているものが、乙36文献のそれと酷似していることからも明らかである。

(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様乙2文献、乙36文献、乙43文献の344頁3ないし17行目等に依拠して記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、移転価格税制に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。
(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分は、移転価格税制について述べる前提として、移転価格を利用した国際的租税回避について説明するものである。国際的租税回避の具体例そのものはありふれたもので、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
84 (1)原告表現の著作物性
 乙2文献の238頁17行目〜最終行、及び239頁28行目〜最終行、乙36文献の209頁17〜23行目、乙41文献の136頁2〜17行目、乙41の2文献の133頁6〜15行目等に拠って記述された段である。
 アメリカにおける具体例は乙36文献の17行目からの文章に拠っているし、「ところで、一方の会社に移転価格税制が…」で始まる文章から後6行は、乙2文献の239頁28行目からの文章等と酷似している。
(2)同一性又は類似性
 本件著作物同様乙2文献、乙36文献、乙41文献等に依拠して記述されており、その限りで類似性が認められるにすぎない。
(1)原告表現の著作物性
 本件著作物の当該部分は、移転価格税制に関し、簡潔かつ初学者にわかりやすいよう、原告が自己の言葉によりまとめて表現したものであり、創作性を有する。
 被告の摘示する乙号各証には、いずれも本件著作物の当該部分の表現に対応する具体的表現は認められない。



(2)同一性又は類似性
 本件書籍の当該部分は、些細な字句の変更があるものの、本件著作物の当該部分と対比してみれば、これに依拠し、かつ、これと同一(又は実質的に同一)であることが明らかである。
 本件著作物の当該部分の内容は、移転価格を利用した国際的租税回避を防止するための移転価格税制についての説明である。現実の税制度の解説であるから、創作性の幅は限定されるが、その表現は、他の文献に表れている表現と対比しても、ありふれた表現であるとか、他の表現を選択する余地がないとはいえず、原告の個性が発揮されたものということができる。
 そして、本件書籍の当該部分の表現は、本件著作物の当該部分の表現に酷似しており、同表現に依拠して再製されたというべきであるから、複製権侵害に該当する。
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