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【事件名】商品説明会での虚偽告知事件(ろうそく)
【年月日】平成19年5月25日
 東京地裁 平成17年(ワ)第8140号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年3月7日)

判決
原告 株式会社日本香堂
訴訟代理人弁護士 浅岡輝彦
同 三森仁
同 中久保満昭
同 宮村啓太
被告 カメヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士 櫻林正己
同 楠井嘉行
同 西澤博
同 赤木邦男
同 加藤明子
同 今井潔
同 中西正洋
同 森隆行


主文
1 被告は、原告又は被告の製造又は販売に係る商品を現に取り扱い、又は今後取り扱う可能性のある相手先に対し、次の告知をしてはならない。
(1) 別紙告知行為目録1記載の内容の告知、
(2) 同目録2記載の内容の告知、
(3) 「原告製ローソクは「倒れたり、グラついたり」の理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との内容の告知、
(4) 「原告製ローソクは「芯糸、 が不揃い」との理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との内容を、実際よりも芯糸を不揃いとした写真を添えてする告知
2 被告は、原告に対し、金1100万円及びこれに対する平成17年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、次の被告の商品説明会の出席企業に対し、別紙裁判所指定信用回復措置目録1記載の訂正文を、本判決確定の日から10日以内に送付せよ。
@ 平成16年2月4日東京、
A 同月19日福岡、
B 同年4月16日大阪
4 被告は、次の被告の商品説明会の出席企業に対し、別紙裁判所指定信用回復措置目録2記載の訂正文を、本判決確定の日から10日以内に送付せよ。
@ 平成17年4月7日名古屋、
A 同月13日長野(松本)、
B 同月18日仙台、
C 同月20日盛岡、
D 同月22日八戸、
E 同月25日青森
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告又は被告の製造又は販売に係る商品を現に取り扱い、又は今後取り扱う可能性のある相手先に対し、別紙告知行為目録1ないし4記載の告知をしてはならない。
2 被告は、原告に対し、次の金員を支払え。
(1) 金1億円及びこれに対する平成17年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員、
(2) 金5000万円及びこれに対する平成18年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員
3 被告は、原告に対し、別紙業界紙目録記載の各業界紙に、別紙謝罪広告目録1及び別紙謝罪広告目録2記載の謝罪広告を、別紙「謝罪広告の掲載条件」記載の掲載条件で各1回、掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、ローソク及び線香の製造販売において競争関係にある被告に対し、被告の代表取締役や担当従業員らが流通業者向けの商品説明会で行った説明や説明資料の配布が、不正競争防止法2条1項14号所定の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たると主張して、同法3条1項に基づく差止め、4条に基づく損害賠償及び7条に基づく信用回復の措置としての謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、線香及びローソク等の製造及び販売等を主たる目的とする株式会社である。
 原告は、線香において国内で第1位の市場シェアを、ローソクにおいて国内で第2位の市場シェアを有している。
イ 被告は、線香及びローソクの製造・加工・販売等を主たる目的とする株式会社である。
 被告は、ローソクにおいて、国内で第1位の市場シェアを有している。ウしたがって、原告と被告とは、ローソク及び線香の製造販売に関し、競争関係にある。
 (以上、争いのない事実、弁論の全趣旨)
(2) 被告の商品説明会
ア 被告の商品説明会の概要
 被告は、毎年2月から5月ころにかけて、ローソクや線香を取り扱う問屋、量販店、仏壇仏具店など専門店の担当者を集めて、全国各地で商品説明会を行っている。
イ 平成16年商品説明会
(ア) 平成16年における被告の商品説明会の開催日、開催地、会場及び被告側出席者は、別紙「カメヤマ商品説明会開催日程」(甲32)のとおり、少なくとも23箇所であった。
 ただし、長崎の会場は「L&Lホテルセンリュウ」が正しい。
(イ) 平成16年の商品説明会は、午前11時から午後12時まで、A、Bなどが、市場の動向及び被告製品の概況説明並びに新商品の紹介等を行い、午後1時から午後4時まで、個別の商談等を行うという内容でされた。
ウ 平成17年商品説明会
(ア) 平成17年における被告の商品説明会の開催日、開催地及び会場は、別紙「2005年度カメヤマ展示会会場一覧」(甲31)のとおり、25箇所であった。
(イ) 平成17年の商品説明会の内容は、平成16年のそれとほぼ同様であった。
 (以上、争いのない事実、弁論の全趣旨)
(3) 被告の告知行為
ア A発言
(ア) Aは、平成16年2月19日、福岡市内の「ホテルオークラ」において開催された商品説明会において、別紙「Aの発言内容」の発言を行った(以下「A発言」といい、丸数字の番号を付した段落部分を「A発言@」のように特定する。)。
(イ) その際、Aは、原告製「毎日ローソク」と被告製「クリ・オ」を出席者全員に配布させ、それぞれを十字の形に掛け合わせ、どちらかが割れるかへこむまで押し当てさせるという実験(以下「掛け合わせ実験」という。)を行わせた。掛け合わせ実験において、ほとんどの場合、毎日ローソクの方が折れた。
 (以上、争いのない事実、甲10の1・2)
イ B発言
(ア) Bは、同月25日、長崎市内の「L&Lホテルセンリュウ」において開催された商品説明会において、別紙「Bの発言内容」の発言を行った(以下「B発言」といい、丸数字の番号を付した段落部分を「B発言@」のように特定する。)。
(イ) その際、Bは、上記ア(イ)と同様の掛け合わせ実験を行わせた。
(ウ) また、Bは、線香に関する説明の際には、原告製線香と被告製線香をボードに並べて貼り付け、一部をマスクして3日から1週間程度日光にさらし、原告製線香を変色させたものを回覧させた。
 (以上、争いのない事実、乙35、36)
ウ 本件配布資料
(ア) 被告は、平成17年の商品説明会のうち、名古屋、長野(松本)、仙台、盛岡、八戸及び青森の6か所において、資料(甲12の1〜10。以下「本件配布資料」という。)を配布した。
(イ) その中には、別紙「配布資料中の芯の長さ等に関する記載」(以下「本件配布資料中の記載」という。)のとおりの記載がある。
 (争いのない事実)
(4) 別件訴訟の経緯
ア 原告は、平成11年ころ、「プレミアム毎日ローソク」との商品名のローソクの販売を開始したが、平成13年ころから、その商品パッケージ、パンフレットなどに「油煙90%カット!」「消しにおい50%カット!」などの表示を行った。
イ 被告は、平成14年8月、上記アの表示が不正競争防止法2条1項13号及び14号所定の不正競争行為に当たるとして、その差止め、損害賠償及び謝罪広告を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(以下「別件訴訟」という。)。
ウ 原告は、同年9月20日出荷分以降、「プレミアム毎日ローソク」の上記アの表示を別の表示に変更した。
エ 別件訴訟につき、大阪地方裁判所は、平成16年6月1日、上記アの表示が不正競争防止法2条1項13号に当たるとして、その差止め及び損害賠償の一部を認める判決をした。
オ 平成17年4月28日、別件訴訟につき、大阪高等裁判所は、原告の控訴を棄却し、被告の控訴に基づき、損害額を増額する判決をした。
 (乙40、41、C、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 被告の告知行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の告知に当たるか(争点1)
ア 被告の告知行為は、原告製品を対象としたものか。
イ 他の商品説明会においても同旨の発言又は配布があったか。
ウ 被告の告知行為の内容は虚偽か。
エ 営業上の利益を侵害するおそれはあるか。
(2) 損害賠償(争点2)
ア 故意又は過失の有無
イ 損害額
(3) 謝罪広告の必要性(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 本件告知行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の告知に当たるか(争点1)
ア 原告の主張
(ア) 告知行為1(ロウの固さ)
a 原告製ローソクとの特定
 A発言@及びB発言@は、別紙「告知行為目録」1記載のとおり、原告製ローソクと特定し、それに向けて行われたものである。
b 他の商品説明会での発言
 被告は、福岡及び長崎以外にも、平成16年のすべての商品説明会において、その取締役又は支店長をして、A発言@又はB発言@と同旨の発言をさせた。
c 虚偽
(a) A発言@及びB発言@は、別紙「告知行為目録」1記載のとおり、原告製ローソクは、被告製ローソクよりも柔らかいから、品質が悪いとの事実を告知するものである(以下「告知行為1」といい、他の告知行為についても同様に略称し、これらの告知行為1ないし4を総称して「本件告知行為」という。)。
(b) まず、掛け合わせ実験により品質が判別できるという前提に合理性がない。
 掛け合わせ実験は、ローソクの品質に関する伝統的判別方法といえるものではなく、単に被告が営業用デモンストレーションとして用いてきた手法にすぎない。
(c)一 しかも、ローソクには統一的な規格はなく、毎日ローソクとクリ・オとは、同じ「3号」とはいえ、太さも長さも異なる。
二 したがって、太さ等の異なるものを掛け合わせてどちらかが折れたからといって、固さを判別することはできない(甲19)。
(d)一 さらに、毎日ローソクは、石油系パラフィンであるノルマルパラフィンを主原料とし、添加物も付加されているのに対し、クリ・オは、大部分植物系パラフィンである3脂肪酸類から組成されている(甲16の1・2)。
二 上記一のとおり組成等が異なる以上、ローソクの固さは、融点の高低などのパラフィンの品質とは無関係である。
d 営業上の利益の侵害
 告知行為1は、原告製ローソクと特定し、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する。
(イ) 告知行為2(関東でのローソク火災等)
a 原告製ローソクとの特定
(a) A発言A及びB発言Aは、別紙「告知行為目録」2記載のとおり、
一 原告製ローソクが、安い粗悪な原料を使用しているため、倒れて火災が発生する確率が高いこと、
二 原告製ローソクが原因で、関東では火災の発生率が高いこと、
三 Aが消防署に呼び出された際、火災の原因として原告製ローソクの箱を見せられたことと原告製ローソクと特定し、それに向けて行われたものである。
(b) すなわち、A発言Aは、毎日ローソクとクリ・オとの掛け合わせ実験等についてのA発言@に続く一連の話題としてされており、「この箱」(甲10の2の9頁2行)の部分は、その前の掛け合わせ実験で用いた原告製ローソクの箱を指している。
(c) B発言Aも、毎日ローソクとクリ・オとの掛け合わせ実験等についてのB発言@に続く一連の話題としてされており、「他社さん」とは原告を指し、「これですね」の部分は、その前の掛け合わせ実験で用いた原告製ローソクの箱を指している。
b 他の商品説明会での発言
 被告は、平成16年のすべての商品説明会において、その取締役又は支店長をして、A発言A又はB発言Aと同旨の発言をさせた。
c 虚偽
(a) 「原告製ローソクが、安い粗悪な原料を使用しているため、倒れて火災が発生する確率が高いこと」は、虚偽の事実である。
(b) 「原告製ローソクが原因で、関東では火災の発生率が高いこと」は、虚偽の事実である。
(c) 「被告会長が消防署に呼び出された際、火災の原因として原告製ローソクの箱を見せられたこと」は、虚偽の事実である。
d 営業上の利益の侵害
 告知行為2は、原告製ローソクと特定し、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する。
(ウ) 告知行為3(線香の変色)
a 原告製線香との特定
(a) B発言Bは、別紙「告知行為目録」3記載のとおり、原告製線香と特定し、それに向けて行われたものである。
(b) B発言Bは、B発言@から続く一連の話題としてされており、「他社さん」とは原告を指している。
(c) B発言Bは、原告製線香と被告製線香を並べて貼り付け、原告製線香のみが変色したボードを示しながら行われた。
(d) 盛岡市での説明会では、原告製品「青雲バイオレット」と被告製線香を並べて貼り付け、原告製品「青雲バイオレット」のみが変色したボードを配布して行われた(甲7)。
b 他の商品説明会での発言
 被告は、平成16年のすべての商品説明会において、その取締役又は支店長をして、B発言Bと同旨の発言をさせた。
c 虚偽
(a) B発言Bは、別紙「告知行為目録」3記載のとおり、通常の用法下で対照された原告製線香が変色した旨述べている。
(b) ところが、前提事実(3)イ(ウ)のとおり、被告が商品説明会で用いた線香は、室内の蛍光灯ではなく直射日光に、3日から1週間さらしたものである。
(c)一 しかも、線香は、裸で露出しておくと湿気を吸い、香りが飛び、利用価値がなくなってしまうため、室内で箱に入れて保管される。そして、一般家庭の仏壇で3〜4か月で消費されるのが通常である。
二 したがって、原告製線香は、室内での通常の用法において変色することはない。
(d)一 原告製品である「毎日香」及び「青雲バイオレット」は、ブラックライトにより、0.3mW/?の紫外線を12時間照射しても、被告製品「花ふぜい黄」及び「花ふぜい紫」と比較し、色があせていない。
二 この紫外線照射量は、一般的な家庭用蛍光灯から60pの距離に1日16時間さらしたとして、約1年3か月分に相当する(甲17の1〜3)。
(e)一 後記被告の主張(e)(被告実験)一は否認し、二及び三は不知。
二 被告実験(乙23)における紫外線照射量は、原告実験の2.33倍から3.33倍、一般家庭の約2.9年〜4.1年分に相当する。
(f) したがって、告知行為3は、虚偽の事実を告知するものである。
d 営業上の利益の侵害
 告知行為3は、原告製線香と特定し、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する。
(エ) 告知行為4(ローソクの芯糸の長さ等)
a 原告製ローソクとの特定
(a) 本件配布資料1枚目(甲12の1)の写真の中に、対照製品が「毎日ローソク小粒」と記載されている。
(b) したがって、本件配布資料は、原告製ローソクと特定し、それに向けて行われたものである。
b 他の商品説明会での配布
 被告は、名古屋等6か所以外にも、平成17年のすべての商品説明会において、本件配布資料を配布した。
c 虚偽
(a) 芯糸の出すぎたローソクの存在
一 毎日ローソク小粒の尻部の芯糸には、本件配布資料中の写真(甲12の1・2)のように外部に長く出すぎている商品はない。
二 原告が、外注先ごとにそれぞれ4箱、700本を無作為に抽出して調べた結果においても(甲23)、尻部の芯糸の長さが15oに至ったものはなく、10oを若干上回るものが数本あったにすぎない。
三 また、原告の最大の外注先である佐藤油脂工業株式会社におけるローソクの製法(甲30)によれば、ローソク本体長さの理論的な最大値は15.23oであり、これを超える芯糸のローソクが製造されることはあり得ない。
四 本件配布資料中の写真(甲12の1及び2)は、作為が加えられたものである。
(b) 長すぎる芯糸と火災原因
一 仮に、尻部の芯糸が長かったとしても、それが火災の原因になることはない。
二 原告の実験(甲28の2)は、芯糸を15oと17oとしたものを製作し、市販の燭台の中で径が最小のものを使用し、ローソクの芯を燭台からはみ出させて行ったものである。
 同実験結果によれば、ローソクの尻部を燭台の突起に差すと、芯糸が燭台の突起に接し、燃焼が進むにつれ、溶けたロウが突起と芯糸を接着する役目を果たし、はみ出た芯糸を引き寄せるようにして燃焼するため、芯糸が燭台の外に落ちていない。
(c) 被告実験について
一 後記被告の主張c(c)一は否認する。
二 被告の燃焼実験(乙27)は、17o以上の芯糸を、燭台の外にはみ出すように、しかもローソク尻部の穴を燭台の突起にきちんと差し込まず、芯糸が燭台の突起に接触しないようにしたものである。
 したがって、同実験は、あり得ない製品をあり得ない用法で実験したものであり、毎日ローソク小粒が火災の原因になり得ることを何ら示すものではない。
(d) グラつき等
 毎日ローソク小粒は、「倒れたり、グラついたり」しない。
(e) 製造物責任法
一 なお、卸問屋や小売店は、製造物責任法2条3項の「製造者等」に該当しないから、同法に基づいて責任を負うことはない。
二 したがって、本件配付資料1枚目(甲12の1)中の「その商品を販売した小売店・卸問屋にも責任を求める事が出来ます。」との点も虚偽である。
d 営業上の利益の侵害
 告知行為3は、原告製線香と特定し、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する。
イ 被告の主張
(ア) 告知行為1(ロウの固さ)
a 原告製ローソクとの特定
(a) 原告の主張(ア)aは否認する。
(b) ローソクの掛け合わせ実験は、@ローソクの融点が低すぎるとロウ垂れが生じるなど、品質に一定影響を与えること、A融点が低いほど柔らかいこと、B業界で従来から行われているローソクの固さの簡単な見分け方として互いに十字にして押しつける方法があることを伝えたものであって、毎日ローソクとクリ・オの品質を比較したものではない。
(c) 商品説明会においては、当初の数会場においては1テーブルに原告製ローソクと被告製ローソクを1箱ずつ置いていたが、その後の会場では、パッケージを開いてローソクを取り出してもらうのに時間がかかるので、被告従業員が1本ずつローソクを出席者に配るようにした。その際、比較対象品が原告製ローソクであることは出席者に告げていない。
b 他の商品説明会での発言
 同bは否認する。
c 虚偽
(a) 同cのうち、(a)(原告製ローソク誹謗)の及び(b)(掛け合わせ実験での判別不能)は否認し、(c)のうち一(統一規格の不存在)は明らかに争わず、二(判別不能)は否認し、(d)のうち一(主原料)は明らかに争わず、二(品質とは無関係)は否認する。
(b) ローソクの原料であるパラフィンワックスについては、日本工業規格において試料の硬さを示す「針入度」という値により、一定以上硬いことが要求されているが、硬さの上限は定められていない(乙31)。このことは、パラフィンワックスの品質を判断する上で硬さが重要な要素であることを示している。
(c) 石油系パラフィンと植物脂肪の脂肪酸では、化学式でいえば鎖式炭化水素の末端にカルボキシル基(COOH)がないかあるかの違いである。確かに、脂肪酸はカルボキシル基があることによって、同じ炭素数であれば結合力は高くなるが、パラフィンは一般的に脂肪酸より炭素数が多いため、その分結合力が高く、結果的に両者に大差はない。また、パラフィンを主原料とするローソクであっても、実際にはさまざまな添加物が加えられている。
(d) 上記(c)のように材料が違うからといって、固さの比較ができないとすると、伝統的な判別方法が採用できないことになってしまう。
d 営業上の利益の侵害
 同dは否認する。
(イ) 告知行為2(関東でのローソク火災等)
a 原告製ローソクとの特定
(a) 同(イ)a(a)は否認する。
(b)一 A発言A及びB発言Aは、以下のとおり、安い粗悪な原料を使用している関東のメーカー数社を指すものであり、原告を指したものではない。
二 A発言Aは「こういうよそ、 の箱」(甲10の2の9頁3行)と言い直しており、原告製品を指していない。
三 B発言Aの「他社さん」は、原告を指すものではない。B発言@からB発言Aまでには、約8分が経過しており、その間「他社さんにおきましては、まあ、値段の安い、あるいは、特に関東の方ですね、ローソク屋さんでも、去年、一昨年と2社続いてですね、倒産されました。」という発言部分があり、ここでは原告を指していない(甲9の2の7頁)。
 また、「これですね」との発言部分だけで原告を指すとはいえない。
四 A発言A、B発言Aとも、A発言@、B発言@におけるローソクの固さとは別の話題であり、原告製ローソクを使った実演などもしていないから、掛け合わせ実験のイメージが影響を与えているとはいえない。
b 他の商品説明会での発言
 同bは否認する。
c 虚偽
 同cは認める。
 ただし、ローソクが火災の原因となること、及び東京都内のローソクによる火災発生率が大阪府内よりも高いとの限度では、事実である(乙32〜34)。
d 営業上の利益の侵害
 同dは否認する。
(ウ) 告知行為3(線香の変色)
a 原告製線香との特定
(a) 同(ウ)a(a)及び(b)は否認する。
 B発言Bは、「他社さん」と匿名性を保った上でボード比較をしており、原告製線香を対象としていない。
(b) 同b(c)は認め、(d)のうち、原告製線香が「青雲バイオレット」であったことは否認し、その余は認める。
 被告が商品説明会において対照用に示した原告製線香は「毎日香」である(乙35、36)。
b 他の商品説明会での発言
 同bは否認する。
c 虚偽
(a) 同c(a)(B発言Bの意味)は否認する。
 B発言Bは、太陽光でと明言している。
 また、B発言Bは、被告製品の線香の特徴として、ローソク用に開発された顔料のため色落ちを防ぐことができると言ったものであり、原告製品が色あせのする粗悪な商品と言っていない。
(b) 同c(b)(被告パネルの作成条件)は認める。
(c) 同c(c)(室内での使用)は明らかに争わない。
(d) 同c(d)(原告実験)は明らかに争わない。
(e)一 原告製線香が被告製線香よりも色あせしやすいことは、事実である。
二 被告製「花ふぜい黄」と原告製「毎日香」を、@平成17年7月12日に太陽光に8時間さらした実験、Aブラックライト蛍光管の直下約10pの位置で12時間照射した実験を行ったところ、いずれも毎日香の方が強く変色した(乙23)。
三 ブラックライトは通常の蛍光灯の約40倍の紫外線量であるため、蛍光灯であれば480時間分に当たることになるが、このような条件は、一般店舗では通常の環境である。
(f) 同c(f)(まとめ)は否認する。
d 営業上の利益の侵害
 同dは否認する。
(エ) 告知行為4(ローソクの芯糸の長さ等)
a 原告製ローソクとの特定
(a) 同(エ)a(a)は認め、(b)は否認する。
(b) 本件配付資料は、対照製品が原告製ローソクであることを特定していない。
 本件配布資料1枚目(甲12の1)の写真中の「毎日ローソク小粒」との表示は、非常に小さく見にくいものであるし、同写真右の説明文中には原告製ローソクであることに触れていない。
さらに、同2枚目(甲12の2)の比較写真には「他社」と表示しており、原告名や商品名は表示していない。
b 他の商品説明会での配布
 同bは否認する。
c 虚偽
(a) 芯糸の出すぎたローソクの存在
一 同c(a)一(不良品の不存在)は否認する。
二 同c(a)二(原告の抽出調査)は不知。
三 同c(a)三(佐藤油脂)は不知。
 原告は、ローソク製造、品質検査ともすべて外注先に委託しているところ、少なくとも平成17年初頭ころまでは、ローソクの糸を手作業で切り離し、品質検査も目視によっていたため、芯糸の長さが不揃いな製品が市場に出回っていた(乙26、29、38)。原告は、平成17年初頭ころまでに、ローソク製造の外注先を一部変更している。
四 同c(a)四(被告の作為)は否認する。
(b) 長すぎる芯糸と火災原因
 同c(b)のうち、一(火災の原因とならないこと)は否認し、二(原告実験)は不知。
(c) 被告実験
一 被告実験(乙27の1・2、30の1・2)は、ローソクの尻部の芯糸が長い場合に火災の原因となり得ることを示している。
二 原告は、被告実験があり得ない製品をあり得ない用法で実験したものである旨主張するが、事故はいくつかの悪条件が重なって起きるものであるから、被告実験があり得ない製品をあり得ない用法で実験したものであると評することは、到底できない。
(d) グラつき等
 同c(d)は否認する。
 毎日ローソク小粒には、実際に一部が大きく欠けたものがある(乙26)。一部が大きく欠けたローソクには、安定した燃焼が得られなかったり、倒れたりする危険がある。
(e) 製造物責任法
一 同c(e)一(販売業者の責任)は認め、二(虚偽)は否認する。
二 問題のある製品を扱った卸問屋や小売店が社会的責任を問われ、商品回収を余儀なくされる可能性が高いことは、経験則上明らかであり、卸問屋等も責任を問われることは、実質的には虚偽ではない。
(2) 原告の損害額(争点2)
ア 原告の主張
(ア) 故意又は過失の有無
 告知行為1ないし4は、各告知者が原告の信用を毀損することを知りながら、少なくとも過失によりこれを知らないでされたものである。
(イ) 売上減少による逸失利益
a ローソクの売上額
(a) 「毎日ローソク」全体
一(一) 原告製「毎日ローソク」全体の出荷金額は、平成10年4月以降、約5年間にわたり市場の成長を大きく上回る伸びを示していた。
(二) ところが、毎日ローソク全体の出荷金額は、平成16年2月から平成17年4月ころまで下落した。
(三) また、ローソク市場全体は平成17年3月ころから急速に増加している。
(四) それにもかかわらず、毎日ローソク全体の出荷金額は、同年下半期からわずかに回復したにすぎない。
 (以上、甲27の2の8頁、27の4の17頁、29)。
二 毎日ローソクの出荷金額減少額は、平成16年1月までの直近1年間と、平成17年3月までの直近1年間とを比較すると、約5100万円に及ぶ(甲27の2の8頁)。
(b) 毎日ローソク小粒
一(一) 毎日ローソク小粒の出荷金額は、平成15年4月〜平成16年3月の会計年度(以下「平成16年3月期」といい、他の会計年度についても同様に略称する。)まで右肩上がりで推移してきた。
(二) ところが、毎日ローソク小粒の出荷金額は、平成17年3月期から増加ペースが急減し、平成18年3月期もこの傾向が続いている(甲27の2の9頁)。
二(一) 平成16年3月期の出荷金額は、平成15年3月期比982万3000円増であった。
(二) これに対し、平成17年3月期の出荷金額は、平成16年3月期比315万円増であり、平成16年3月期の増加分と比較すると、667万3000円減少した。
(三) 平成18年3月期の出荷金額は、平成17年3月期比413万7000円増であり、平成16年3月期の増加分と比較すると、568万6000円減少した。
(四) よって、減少額の合計は1235万9000円である。
 9,823,000−3,150,000=6,673,000
 9,823,000−4,137,000=5,686,000
 6,673,000+5,686,000=12,359,000
(c) 被告製ローソクに切り替えた量販店
一 平成16年前後から、取扱商品を「毎日ローソク」から被告製ローソクに切り替えた主要な量販店は、多数に上る(甲42の2)。
二 その売上減少額だけでも5445万円に及ぶ。
(d) ローソクのまとめ
 以上のとおり、原告製「毎日ローソク」の売上減少額は、上記(a)、(b)の合計額6335万9000円を下ることはない。
 51,000,000+12,359,000=63,359,000
b 線香の売上額
(a) 小売店における販売金額の動向
 株式会社インテージが全国3110店舗のPOSデータに基づいて調査した全国小売店パネル調査「SRI」のデータ(甲26の1〜3の2、甲27の3)によれば、以下の事実を看取することができる。
一 線香市場全体の傾向は、平成16年3月期及び平成17年3月期はほぼ横ばいの状態にあり、平成18年3月期の下期から拡大傾向に転じている(甲27の3の11頁)。
二 被告製「花ふぜい」は、平成16年3月期から平成18年3月期にかけて、漸増傾向にある(甲27の3の12頁)。
三 原告製「毎日香」及び「青雲バイオレット」全体の傾向でみると、平成15年9月からは急増しているにもかかわらず、平成16年2月、急激に減少に転じた(甲27の3の13頁)。
四 青雲バイオレットのみでみると、平成16年2月ころまでは市場全体の動向に沿う形で横ばいか漸減の状態にあったところ、同年3月ころから市場全体は増加に転じる平成18年3月期の下期にかけて、市場の動きに反して減少傾向にある(甲27の3の14頁)。
(b) 出荷金額の動向
一 平成11年3月期から平成18年3月期までの原告製線香の出荷金額の推移でみても、@毎日香・青雲バイオレット全体、A青雲バイオレット(小箱)、B毎日香(大型バラ)において、前期比で出荷金額が減少しているのは平成16年3月期及び平成17年3月期のみであり、特に平成17年3月期において大幅に減少している(甲27の1)。
二 この推移は、上記(a)一の線香市場全体の動向と一致しない。
(c) 減少額
 青雲バイオレットの平成16年3月期の小売店販売金額18億6691万6000円と、市場がすでに回復・拡張に転じている平成18年3月期の販売金額17億5885万3000円とを比較すると、減少額の合計は1億0806万3000円である(甲27の3の14頁)。
 1,866,916,000−1,758,853,000=108,063,000
c 因果関係
(a) 以上のとおり、毎日ローソク及び青雲バイオレットの売上げが減少した期間は、平成16年3月期の終わりである平成16年2月ころから平成18年3月期の初めである平成17年5月ころまでであり、被告が商品説明会を行った期間と一致している。
(b) 被告が行った商品説明会の出席者は、原告の現在又は将来の取引先である日本全国のほぼすべての日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店関係者をカバーしている。
 これらの出席者が自社の棚割決定や小売店の棚割決定に及ぼす影響は、極めて大きい。
(c) したがって、上記の出荷減少は、本件告知行為によって生じたものである。
d 売上減少による損害額の算定
(a) 売上減少額
 前記a(d)及びb(c)のとおり、毎日ローソクと青雲バイオレットの売上減少額の合計は、1億7142万2000円である。
 63,359,000+108,063,000=171,422,000
(b) 費用
一 原告の直近3期分(平成16年3月期から平成18年3月期まで)における各売上合計に対する売上原価率の平均値は、40.31%である。
二 販管費のうち、売上高の増加に伴って増加する費目は、取引先に支払う奨励金等の割戻金のみであるところ、同直近3期分の各売上高に対する割戻金比率の平均値は、15.44%である(甲35の2)。
(c) 損害額
 したがって、原告の逸失利益の額は、上記(a)の売上減少額から上記(b)の費用の割合を控除した7585万4235円である。
 1−(0.4031+0.1544)=0.4425
 171,422,000×0.4425=75,854,235
(ウ) 信用毀損による損害
a 原告の対策
(a) テレビCMの増強
一 原告は、平成16年4月以降、毎日ローソクのテレビCMを、以下のとおり強化した。なお「GRP」とは、 、延視聴率とも言い、当該コマーシャルが獲得し得る視聴率の合計を指す(甲40の1参照)。
 平成14年度 317.9GRP
 平成15年度 425.6GRP
 平成16年度 1045.6GRP
 平成17年度 926.0GRP
二 1GRP当たりの広告単価は、通常7万円から8万円程度である(甲43)。
三 したがって、平成16年度及び平成17年度に、毎日ローソクのためにテレビCMに投じた費用の増加額は、単価7万円を前提とすると、平成16年度4340万円、平成17年度4370万8000円にも及ぶ。
 1,045.6−425.6=620
 70,000×620=43,400,000
 1,050−425.6=624.4
 70,000×624.4=43,708,000
(b) 店頭巡回員の増強
 原告は、平成17年3月期以降「、 FIS」と呼ぶ店頭巡回員を、それまでの50名から70名に増強した。これにより増加した人件費は、年額で3300万円にも及んでいる。
b 因果関係
 被告の商品説明会は、平成16年及び平成17年の2年にわたり、全国各地において、原告の直接の出荷先又は出荷先となり得る問屋、量販店及び仏壇・仏具店関係者に対して行われたため、原告は、本件告知行為による悪影響を取り除くため、上記aの対策を講じることを余儀なくされたものである。
c 信用毀損による損害額
 前記(1)アの各営業誹謗行為の内容に併せ、上記a及びbを考慮すると、原告の信用毀損による損害は、1億円を下らない。
(エ) 事実調査費用等
a 費用支出
 原告は、事実調査及び本件訴訟の準備のため、以下のとおり、合計394万9430円を支出した(甲34)。
(a) 商品説明会の出席者に対する事情聴取のための交通費及び人件費 101万5430円
(b) 被告の研究室所属従業員による実験及びその写真・ビデオ撮影による証拠資料作成 180万円
(c) 被告嘱託社員及び法務部所属従業員によるその他の写真・ビデオ撮影等による証拠資料作成 90万円
(d) 被告の情報システム部所属従業員による訴訟資料作成 23万4000円
(e) 合計 394万9430円
b 因果関係
 上記aの事実調査及び本件訴訟の準備のための費用は、本件不正競争行為と相当因果関係を有する損害である。
(オ) 弁護士費用
a 委任
 原告は、本訴原告代理人弁護士に本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金及び成功報酬として1000万円以上を支払うことを約した。
b 因果関係
 このうち、本件不正競争行為と相当因果関係を有する損害額は、1000万円を下らない。
(カ) 一部請求
 以上の合計は、1億8980万3665円であるが、原告は、上記損害の一部である1億5000万円、及び当初から請求していた内金1億円に対する本訴状送達日の翌日である平成17年4月29日から、その後請求を拡張した内金5000万円に対する平成18年1月20日付け原告準備書面4の送達日の翌日である平成18年1月19日から、各支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
(キ) 原告製品の売上減少の要因に対する反論
a ローソクについての他の要因の存在
(a) 後記被告の主張(キ)a(a)(水晶ローソク)は否認する。
(b) 同(b)(別件訴訟)は否認する。
 原告は、別件訴訟提起の1か月後である平成14年9月20日出荷分以降、問題となった表示を切り替えている。この時期と、上記原告製品の売上減少期間とは、1年半もずれている。
 また、別件訴訟で問題となったプレミアム毎日ローソクの売上金額は、毎日ローソクと比較して少なく、その影響は非常に小さい。
(c) 同(c)(被告の新製品)は否認する。
(d) 同(d)(値上げ)は否認する。
(e) 同(e)一(競合品)は否認する。
 被告が主張する商品は、いずれも仏壇仏具店向けであり、原告製ローソクや被告製ローソクの販売チャンネルである量販店向けの商品ではない。実際、全国3110の対象店舗のPOSデータを基礎としたSRIデータにほとんど含まれていない(甲26の2)。
(f) 同(f)(プライベートブランド)は否認する。
 大手量販店のプライベートブランドは、ほとんど原告の毎日ローソクの取扱いを減らしたものではない(甲42の1)。
b 線香についての他の要因の存在について
 同bは否認する。
イ 被告の主張
(ア) 故意又は過失の有無
 原告の主張(ア)は否認する。
(イ) 売上減少による逸失利益
a ローソクの売上額
 同(イ)aのうち、(a)(「毎日ローソク」全体)及び(b)(毎日ローソク小粒)は不知、(c)(被告製ローソクに切り替えた量販店)一は認め、二は不知、(d)(ローソクのまとめ)は否認する。
b 線香の売上額
 同bのうち、(a)(小売店における販売金額の動向)及び(b)(出荷金額の動向)は不知、(c)(減少額)は否認する。
c 因果関係
(a) 同cは否認する。
(b)一ローソク市場全体の傾向として、平成15年から平成17年3月まで減少傾向にあり(甲27の4の17頁)、毎日ローソクの売上減少もこれに沿ったものである。また、毎日ローソクの売上げは、平成17年4月以降回復している市場全体の動きと若干時間差はあるものの、同年下半期からは回復に向かっている(甲27の4の20頁)。このように、市場動向に従った売上げの傾向となっている。
二 被告の商品説明会がされた期間中、被告製ローソクの売上げも増えていない(甲27の4の18頁)。
三 また、被告から原告に切り替えた取引先も少なからず存在する(乙51)。
(c)一 線香市場全体の動向は、平成14年度に比べ平成15年度、平成16年度は減少し、平成17年度に入って増加しており、原告商品の売上げ推移とほぼ同様である(甲27の1の2頁、27の3の11頁)。
二 被告製「花ふぜい紫・黄色」は、パッケージを窓空きにするなど良好な品質が市場に受け容れられ、平成14年3月に値下げしたこともあり、同年から既に漸増傾向にある(甲27の3の12頁)。
(d)一 日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店関係者が、商品説明会における説明という一過性の要因に基づいて製品の取扱いを決めることはあり得ない。現実の商取引においては、メーカーの営業担当とバイヤーとの普段からの関係が最も重要である。商品説明会にしても、全体説明よりは個別の商談における条件提示の重要性が高い。そして、最終的には消費者にどう判断されるかが重要であり、この点をプロのバイヤーの厳しい鑑識眼で判断していくことになる。
二 被告の商品説明会の出席者は、もともと被告と懇意にしているバイヤーが大半である。
d 売上減少による損害額の算定
 同dのうち、(b)(費用)は不知、(c)(損害額)は否認する。
(ウ) 信用毀損による損害
a 原告の対策
 同(ウ)aは不知。
b 因果関係
(a) 同bは否認する。
(b)一 原告の信用低下は、別件訴訟の影響による。
二 原告のTVコマーシャルは、被告の商品説明会が行われた平成16年2月から平成17年5月までの16か月で1045.65GRP、売上げが回復した平成17年10月から平成18年3月までの6か月間で926GRPというものであり、前者の期間は1か月65.35GRP、後者の期間は154.33GRPであるから、被告の商品説明会への対策とは考え難い。
c 信用毀損による損害額
 同cは否認する。
(エ) 事実調査費用等
a 費用支出
(a) 同(エ)aは不知。
(b) 実験費用等は、自社で行っていることからすれば、過大である。
b 因果関係
(a) 同bは否認する。
(b) 問屋等への事実調査は、正当な調査活動とは認められない。
(オ) 弁護士費用
 同(オ)のうち、a(委任)は不知、b(因果関係)は否認する。
(カ) 一部請求
 同(カ)は否認する。
(キ) 原告製品の売上減少の要因
a ローソクについての他の要因の存在
(a) 原告は、平成13年、水晶ローソクのブランド及び営業権を買収し、同社の販売網を通じて、毎日ローソクの販売拡大を図った。平成16年ころまではその影響があったものの、一通り商品が出回り、消費者がこれに飽きてしまったと考えられる。
(b) 平成16年から平成17年にかけて売上げが下落した要因としては、平成14年8月に別件訴訟を提起されたことにより、プレミアム毎日ローソクの撤収や販売戦略の見直しを余儀なくされ、ローソク販売の積極的な展開をできなかったことが考えられる。
 店頭での棚割りは春か秋に決まり、業界では、商品が店頭から姿を消すまで半年から1年かかることを考えると、別件訴訟提起から1年半後に売上げが減少したと考えるのが合理的である。
 また、虚偽広告を行ったという事実そのものが、プレミアム毎日ローソクのみにとどまらず、原告製品全体の信用を低下させたと思われる。
(c) 被告が、平成14年に業界初の植物性原料による神仏用ローソク「クリ・オ」を、また平成15年には、天然ガスを原料とした「灯しびローソク」をそれぞれ発売し、量販店の店頭で被告商品が統一ブランドとして棚割りを受けるなど大きく店頭展開したことも、原告製ローソクの売上げに影響した。
(d) 原告以外のローソクメーカーは、平成17年2月から4月にかけて、原油価格高騰を理由とする値上げを発表し実施したが、原告は値上げをしなかったため、卸店は、原告製以外のローソクを値上げ前に買い込んだのに対し、原告製ローソクを買い込む必要はなかった。また、卸店は、買い込んだローソクの在庫を消化するまでは余分なローソクを買うこともなかった。
(e)一 毎日ローソク小粒については、@被告、マルエス、東亜若松、ニホンローソク、ダイヤモンド油脂等が類似商品を発売したり、出荷量を増やしたこと、A主力販売先であったジャスコが平成14年6月ころに取扱いをやめたことが影響したと考えられる(乙49、50)。
二 原告は、他社の競合商品は仏壇仏具店向けがほとんどであると主張するが、ローソクは、仏壇仏具店で購入されることが多く、それまで量販店で販売されていたものが仏壇仏具店で販売されるようになれば、当然売上げは分散される。
(f) 毎日ローソクについては、例えばDCM、マツモトキヨシなどの量販店が原告製のプライベートブランドに切り替えたという要因もある(乙50)。これらのプライベートブランドの導入は、多かれ少なかれ、原告製ローソクを含む従来の取扱商品の棚割りに影響する。
b 線香についての他の要因の存在
(a) 青雲バイオレットは、昭和59年に販売されて以来20年が経過し、他社の製品が競合するなか当該商品の目新しさが失われ、次第に市場に受け入れられなくなったものと推測される。
(b) 青雲バイオレット(小箱)の出荷金額が減少しているのは、原告が大箱サイズの販売を開始したことも影響している。
(c) また、原告は、煙の少ない、臭いのあまりない、灰の少ないなどの新機能をもった線香が一般消費者のニーズに合うと考え、従来の主力商品であった毎日香、青雲のみではなく、前記機能を備えた新製品を次々と発売している。そのため、従来製品の売上げが新製品にシフトしていることが考えられる。
(3) 謝罪広告の必要性(争点3)
ア 原告の主張
 本件告知行為は、@専ら原告製品をターゲットとしたネガティブキャンペーンの性格が強いこと、A極めて悪質かつ広範囲・長期間に及び、影響力の極めて大きい日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店関係者が多数出席した面前で行われたこと、B告知した内容も多岐にわたり、火災発生の原因となり得るとのセンセーショナルな事実を告知していること、C組織的に周到に準備した上での計画的行為であること、D告知期間も2か年にわたっていること、Eその結果、原告製品の売上げに悪影響を与えていること等を勘案すると、謝罪広告による信用回復の措置が不可欠である。
イ 被告の主張
(ア) 本件告知行為は、仮に不正競争行為に当たるとしても、その違法性は極めて低い。
(イ) 本件は、一般消費者ではなく業界のバイヤーを対象にしたもので、その説明内容も業界で従来から周知であった掛け合わせの実演等を行ったものにすぎず、出席者に与える影響も小さい。
(ウ) 本件告知行為から、3年又は2年が経過し、本件告知行為の影響は、既に薄れてきている。
(エ) したがって、原告主張の信用回復措置を採る必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 被告の告知行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の告知に当たるか(争点1)
(1) 告知行為1(ロウの固さ)について
ア 原告製ローソクとの特定
(ア) A発言@及びB発言@(前提事実(3))は、別紙告知行為目録1記載のとおり、原告製ローソクと特定し、それに向けて行われたものと認められる。
(イ) 被告は、ローソクの掛け合わせ実験は、ローソクの融点が低すぎるとロウ垂れが生じるなど品質に一定影響を与えることなどを伝えたものであって、毎日ローソクとクリ・オの品質を比較したものではない旨主張するが、A発言@及びB発言@(前提事実(3))によれば、クリ・オの品質がよいことを分かりやすく説明する目的で、毎日ローソクとの固さの比較を行ったことは明らかであり、被告の上記主張は、採用することができない。
イ 他の商品説明会での発言
(ア) 証拠(甲1、4、5、7、D及び弁論の全趣旨によれば、被告は、福岡及び長崎以外にも、平成16年のすべての商品説明会において、その取締役又は支店長をして、別紙告知行為目録1記載のとおり、原告製ローソクと特定し、A発言@又はB発言@と同旨の発言をさせたことが認められる。
(イ) 被告は、当初の数会場においては1テーブルに原告製ローソクと被告製ローソクを1箱ずつ置いていたが、その後の会場では、パッケージを開いてローソクを取り出してもらうのに時間がかかるので、比較対象品が原告製品であることなどを告げずに、被告従業員が1本ずつローソクを出席者に配るようにした旨主張し、E及びFはそれに沿う証言をする。
 しかしながら、証拠(甲4、5、D)によれば、平成16年の商品説明会の比較的後期に開催された平成16年5月10日の旭川会場及び同月26日の名古屋会場において、参加者の机の上に、プレミアム毎日ローソクが置かれていたことが認められる。そして、これらの第三者の供述は、被告の元社員であるEやその取締役であるFの証言よりも信用することができる。よって、E及びFの各証言の一部(乙12、39を含む。)は採用することができず、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
ウ 虚偽
(ア) 原告製ローソクの誹謗
 A発言@及びB発言@は、別紙告知行為目録1記載のとおり、原告製ローソクは、被告製ローソクよりも柔らかいから、品質が悪いとの事実を告知するものである。
(イ) 固さと品質との関係
 ローソクは、単純に固ければ固いほどよいことが、業界で広く受け入れられた評価の基準であることを認めるに足りる的確な証拠はない。
 かえって、Gの陳述書(甲19)は、ローソクは固すぎても、柔らかすぎてもだめで、ちょうど良い固さが必要である、固すぎるローソクは、気温の低い冬場に着火しにくかったり、立ち消えの原因になる、また、輸送中にローソクが折れたり、尻部が欠けてしまうおそれがある、逆に柔らかすぎるローソクは、夏場に、ロウが溶けたり、変形してしまうおそれがある旨述べるが、ちょうど良い固さが必要である理由を具体的に述べており、採用することができる。
(ウ) 比較の前提
 次に、毎日ローソクは、石油系パラフィンであるノルマルパラフィンを主原料とし、添加物も付加されているのに対し、クリ・オは、大部分植物系パラフィンである3脂肪酸類のみで組成されていることは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
 そして、石油系パラフィンと植物脂肪の脂肪酸では、化学式でいえば鎖式炭化水素の末端にカルボキシル基(COOH)がないかあるかの違いであり、脂肪酸はカルボキシル基があることによって、同じ炭素数であれば結合力は高くなることは、被告が自認するところである。
 また、ローソクには統一的な規格はなく、毎日ローソクとクリ・オとは、同じ3号とはいえ、太さも長さも異なることも、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
 したがって、毎日ローソクとクリ・オとを掛け合わせて毎日ローソクが折れたとしても、本来原料の相違により比較することができないものを比較し、又は太さの同一など公平な比較の基礎を欠く状態での比較を行ったものにすぎないといわなければならない。
(エ) 被告の主張に対する判断
a 被告は、掛け合わせ実験はローソクの品質の伝統的な判別方法である旨主張する。
 しかしながら、それを裏付けるF及びHの各証言(乙12、39を含む。)並びに乙24陳述書も、先輩や取引先から上記判別方法を教えてもらったというにすぎないものであり、理論的裏付けをもってその有用性を述べるものではない。しかも、原料や太さ等の違うものの比較においても有用であることについては、何ら根拠は示されていない。よって、上記証言等は、到底採用することはできない。
b 被告は、ローソクの原料であるパラフィンワックスについては、日本工業規格において試料の硬さを示す「針入度」という値により、一定以上硬いことが要求されているが、硬さの上限は定められていないことは、パラフィンワックスの品質を判断する上で硬さが重要な要素であることを示している旨主張する。
 確かに、証拠(乙31)によれば、日本工業規格においては、「針入度30以下」のように、一定以上硬いことが要求されているが、硬さの上限は定められていないことが認められるが、この事実からは、パラフィンワックスの品質を判断する上で硬さが一定の値以上であることが重要であることは認められるが、硬ければ硬い方がよいとまで認めることは到底できないから、被告の上記主張は、採用することができない。
(オ) 結論
 よって、告知行為1は、虚偽の事実を告知するものといわなければならない。
エ 営業上の利益の侵害
 告知行為1は、上記アのとおり、原告製ローソクと特定し、上記ウのとおり、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する行為である。
(2) 告知行為2(関東でのローソク火災等)
ア はじめに
 原告が主張する告知行為2の内容は、
一 原告製ローソクが、安い粗悪な原料を使用しているため、倒れて火災が発生する確率が高いこと(以下「告知行為2−一」といい、他の告知行為についても同様に略称する。)、
二 原告製ローソクが原因で、関東では火災の発生率が高いこと(告知行為2−二)、
三 Aが消防署に呼び出された際、火災の原因として原告製ローソクの箱を見せられたこと(告知行為2−三)
 というものである。
イ 原告製ローソクとの特定
(ア) 告知行為2−三
a A発言A(前提事実(3)ア)は、Aが消防署に呼び出された際、火災の発生原因として消防署員から見せられたのは、原告製ローソクであったことを述べるものである。
b 被告は、A発言Aは「こう、 いうよその箱」と言い直しており、原告製品を指していない旨主張する。
 確かに、A発言A(前提事実(3)ア)は、「こういうよその箱」と述べているが、その直前に、「それでパァーッと見たらですね、こうやってこの箱やったんです。」と述べていることは争いようがない。そして、文脈の中で見れば、「この箱」が原告製ローソクを意味していることは明らかである。その直後にされた「こういうよその箱」をその場にいた聞き手の立場で、文脈の中で検討しても、原告製ローソクを意味する「この箱」を訂正し、被告以外の他社製品を意味するものと言い直したものと認めることはできない。いったん「この箱」と述べてしまった以上、真に原告製ローソクではないことを聴衆に伝えたかったのであれば、もっとしっかりした言い直しが必要であったものといわなければならない。
(イ) 告知行為2−一及び2−二
a B発言
 B発言Aが原告製ローソクと特定し、それに向けて行われたものであると認めることはできない。
 確かに、同発言中には、「他社さん、」「これですね。」との部分があるが、B発言@からB発言Aまでには、約8分が経過しており(甲9の1)、その間「他社さんにおきましては、まあ、値段の安い、あるいは、特に関東の方ですね、ローソク屋さんでも、去年、一昨年と2社続いてですね、倒産されました。」という発言部分もあるから(甲9の2の7頁) 「、 他社さん、」「これですね。」が原告製ローソクと特定したものと認めることはできない。
b A発言
(a) A発言A−2の前半部分は、その直後に告知行為2−三(消防署)が続いているから、告知行為2−三と一体となって、原告製ローソクと特定して、告知行為2−二をしたものと認められる。
(b) A発言A−1は、その部分だけでは原告製ローソクと特定した上での説明と認めることはできないが、その後にA発言@が続き、更にA発言A−2が続いているから、聞き手は、A発言A−1中の「関東のローソク屋」に原告が含まれると理解するものと認められる。
 したがって、A発言A−1は、原告製ローソクと特定して、告知行為2−一及び二をしたものと認められる。
ウ 他の商品説明会での発言
(ア) 証拠(甲1、36、Cの供述(以下「C」という。))及び弁論の全趣旨によれば、Aは、平成16年2月19日の福岡会場に加え、同年2月4日の東京会場及び同年4月16日の大阪会場においても、告知行為2−一ないし三の説明をしたことが認められる。
 乙5の1・2及び12も、上記認定を左右するに足りるものではない。
(イ) Bの長崎での説明中に、Aの告知行為2−一ないし三と同旨の説明があったことを認めるに足りる証拠はないから、B、他の取締役又は支店長が他の会場において、Aの告知行為2−一ないし三と同旨の説明をしたことを認めるに足りる証拠はない。
エ 虚偽
 告知行為2−一ないし三の内容が虚偽の事実であることは、当事者間に争いがない。
オ 営業上の利益の侵害
 告知行為2−一ないし三は、原告製ローソクと特定し、虚偽の事実を告知するものであるから、原告の営業上の信用を害する。
(3) 告知行為3(線香の変色)について
ア 原告製線香との特定
(ア) 証拠(甲4、7、D)及び弁論の全趣旨によれば、B発言Bは、別紙告知行為目録3記載のとおり、原告製線香と特定し、それに向けて行われたことが認められる。
(イ) 被告は「他社さん」と匿名、 性を保った上でボード比較をしており、原告製線香を対象としていない旨主張するが、B発言Bは、原告製線香と被告製線香を並べて貼り付け、原告製線香のみが変色したボードを示しながら行われたことは、当事者間に争いがなく、しかも、前提事実(1)アのとおり、 原告が線香のトップメーカーであり、このことは、被告の商品説明会への出席者も当然知っていたことであるから、被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 比較された原告製線香につき、被告は、毎日香であると主張し、乙35及び36を提出し、原告は、青雲バイオレットも使用された旨主張し、甲4、7及び18並びにDの証言を指摘する。
 この点については、会場ごとに使用された線香が異なる可能性があり、原告の主張が一部正しい可能性はあるが、色についての記憶は不正確になりがちであることを考慮すると、比較された原告製品に青雲バイオレットが含まれていたとまで認めることはできない。
イ 他の商品説明会での発言
 証拠(甲4、7、D)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、長崎以外にも、Aが商品説明を行った東京、福岡及び大阪を除く平成16年のその余の商品説明会において、その取締役又は支店長をして、別紙告知行為目録3記載のとおり、原告製ローソクと特定し、B発言Bと同旨の発言をさせたことが認められる。
 Aが商品説明を行った東京、福岡及び大阪会場については、Aの説明中にB発言Bと同旨の説明があったことを示す録音テープはなく(甲10の1・2)、参加者の陳述書にも、Aの説明中にB発言Bと同旨の説明があった旨の記載はないから(甲1、2)、東京等の上記3会場については、B発言Bと同旨の説明があったことの立証はないといわなければならない。
ウ 虚偽
(ア) B発言Bの意味
 原告は、B発言Bは、原告製線香は、日光だけでなく、室内の蛍光灯に当たっても変色して色があせる旨述べた旨主張するが、B発言Bをそのように理解することはできない。
 すなわち、B発言Bのうち蛍光灯に言及した部分は、「染料、顔料を使って、このいわゆる蛍光灯、あるいは、日光暴露といいますか、ダイレクトにですね直接太陽にさらしても色が変わらない。」との部分であるが、この部分は、被告製線香は蛍光灯はもちろん、日光に当たっても変色しないことを述べたものと理解できる。そして、比較の方法も、「線香は半分ですね、しまして、そして、上半分だけ日光曝露、・・・日光に当てますと、他社さんのやつは色が変わって、私どものはほとんど変わってないという結果が出ております。」と日光に当てた場合の比較であることが明示されている。
 したがって、B発言Bは、原告製線香は日光に数日当てると変色するが、被告製線香は変色しないと述べたものと理解すべきであり、原告製線香は室内で蛍光灯に当たっても変色すると述べたものと理解することはできない。
(イ) 虚偽
a 証拠(乙23、35、36)及び弁論の全趣旨によれば、日光に数日当てた場合、被告製「花ふぜい黄」は、染料だけでなく顔料を使用しているため、変色しにくいが、原告製「毎日香」は変色すること、この点は、太陽光に8時間照射した実験(乙23の前半)及びブラックライト蛍光管に直下約10pの位置で12時間照射した実験(乙23の後半)でも実証されていることが認められる。
 原告の実験結果(甲17の1〜3)のうち、ブラックライトの照射時間が6時間までのものは、紫外線照射量が上記被告実験(乙23)のそれに達していないし、照射時間が12時間のものについては、少なくとも花ふぜい黄と毎日香とを比較したものでは変色の違いが観察されるから、上記認定を左右するものではない。
 したがって、原告製線香は日光に数日当てると変色するが、被告製線香は変色しないことが虚偽であると認めることはできない。
b なお、被告が商品説明会で用いた線香を日光に当てた日数は3日から1週間であり(前提事実(3)イ(ウ))、B発言Bで触れられた「2日間」と異なることが問題となり得る。
 しかし、A発言B(前提事実(3)イ(ア))自体、「2日間かな、」とある程度不確かな又は幅のあるものであることを示したものであるし、変色が現れる日数も天候に左右されるものであるから(乙36)、上記日数の違いをもって、虚偽であると認めることはできない。
エ まとめ
 よって、原告の請求のうち、告知行為3(線香の変色)を理由とする部分は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(4) 告知行為4(ローソクの芯糸の長さ等)について
ア 原告製ローソクとの特定
(ア) 本件配布資料1枚目(甲12の1)の写真の中に、対照製品が「毎日ローソク小粒」と記載されていることは、当事者間に争いがなく、この事実によれば、本件配布資料は、比較対照された製品を原告製ローソクと明示しているものと認められる。
(イ) 被告は、本件配布資料1枚目(甲12の1)の写真中の「毎日ローソク小粒」との表示は非常に小さく見にくく、同写真右の説明文中には原告製ローソクであることに触れていないし、同2枚目(甲12の2)の比較写真には「他社」と表示しているから(前提事実(3)ウ)、原告製ローソクであると特定していない旨主張するが、本件配布資料1枚目(甲12の1)の写真中の「毎日ローソク小粒」との表示は、被告が主張するほど小さなものではなく、通常の注意力を有する者、特に線香の品質に関心を持つバイヤー等が十分気付く大きさで書かれているものと認められるから、被告の上記主張は採用することができない。
イ 他の商品説明会での配布
 被告が、名古屋等6か所以外にも、平成17年のすべての商品説明会において、本件配布資料を配布したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 虚偽
(ア) 芯糸の出すぎたローソクの存在
a 証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、毎日ローソク小粒の尻部の芯糸には、本件配布資料中の写真(甲12の1・2)の程度に外部に長く出すぎている商品はなく、本件配布資料中の写真(甲12の1・2)は毎日ローソク(小粒)に作為をして撮影されたものと認められる。
 したがって、告知行為4は、毎日ローソク小粒の尻部の芯糸を実際よりも長く表示した写真を掲載した点において虚偽である。
b 被告は、原告はローソク製造、品質検査ともすべて外注先に委託しているところ、少なくとも平成17年初頭ころまでは、ローソクの糸を手作業で切り離し、品質検査も目視によっていたため、芯糸の長さが不揃いな製品が市場に出回っていた旨主張し、被告社員作成の写真撮影報告書(乙26、29、38)を提出する。確かに、被告の写真撮影報告書(乙26、29)には、本件配布資料中の写真(甲12の1・2)に似た結果が示されているし、証拠(C)及び弁論の全趣旨によれば、原告はローソクの製造、品質検査ともすべて外注先に委託しているところ、少なくとも平成17年初頭ころまでは、ローソクの糸を手作業で切り離し、品質検査も目視によっていたとの欠陥品が生産される可能性を示す事実が認められる。ただし、原告が平成17年初頭ころまでにローソク製造の外注先を変更したことを認めるに足りる証拠はない。
 しかしながら、本件配布資料中の毎日ローソク小粒の写真(甲12の1・2)、特に甲12の1をよく観察すると、不自然な感じを持たざるを得ない。しかも、被告が証拠として提出する書証(乙26、29、38)は、被告担当者が一方的に作成したものであり、直ちにこれを信用することはできない。被告は、他社製ローソクの火災につながる欠陥を具体的に指摘する以上、作為が疑われないよう事実実験公正証書の作成、相手方及び裁判所立会いの下での開封等の工夫をすべきである。
 よって、上記認定を左右するに足りる証拠はないといわなければならない。
(イ) 尻部の芯糸の長さと火災の危険性との関係
a 証拠(乙27の1・2、30の1・2)によれば、ローソクの尻部の芯糸が17o程度と長いため燭台からはみ出し、しかもローソクを燭台の突起に十分差し込まない等の条件が重なると、燃焼の末期に火のついた芯糸が燭台の外に落下し、火災の原因となることが認められる。この事実によれば、ローソクの尻部の芯糸が不必要に長いことは、火災防止の観点からは問題があるといわなければならない。原告提出の実験結果(甲28の1・2)も、上記認定を左右するものではない。
b 原告製ローソクにおいて尻部の芯糸の長さが10〜15oのものが相当の頻度であることは、原告作成の写真撮影報告書(甲23)によっても認められるが、この点は、火災防止の観点からは問題があるといわなければならず、告知行為4のうち、原告製ローソクにおいて尻部の芯糸の長さが10〜15oのものが相当の頻度であり、火災発生の危険があるとの指摘にとどまっていたとすれば、虚偽であると認めることはできない。
(ウ) グラつき等
a 証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、毎日ローソク小粒は、尻部が欠けている等の理由により「倒れたり、 、グラついたり」するものではないことが認められる。
b 被告の写真撮影報告書(乙26、29)には、ローソク本体が短かったり、尻部が欠けているローソクが撮影されているが、被告が一方的に作成したこれらの書証を直ちに信用することはできない。被告は、他社製ローソクの火災につながる欠陥を具体的に指摘する以上、作為が疑われないよう事実実験公正証書の作成、相手方及び裁判所立会いの下での開封等の工夫をすべきである。
 よって、上記認定を左右するに足りる証拠はないといわなければならない。
(エ) 製造物責任法
a(a) 卸問屋や小売店は、原則として、製造物責任法2条3項の「製造者等」に該当しないから、同法に基づいて責任を負うことはない。
 したがって、本件配付資料中の「その商品を販売した小売店・卸問屋にも責任を求める事が出来ます。」との部分は、虚偽である。
(b) 被告は、問題のある製品を扱った卸問屋や小売店が社会的責任を問われ、商品回収を余儀なくされる可能性が高いことは、経験則上明らかであり、実質的には虚偽内容ではない旨主張するが、上記「小売店・卸問屋にも責任」にいう責任が法的責任であることは文脈から明らかであるから、被告主張の社会的責任を理由に実質的に虚偽ではないと認めることはできない。
b しかし、製造物責任法の点の虚偽は、原告製ローソクを直接誹謗する行為ではないから、原告がその告知の差止めを求めることはできない。
(5) 差止請求についてのまとめ
 以上によれば、原告の差止請求は、原告又は被告の製造又は販売に係る商品を現に取り扱い、又は今後取り扱う可能性のある相手先に対し、告知行為1、告知行為2、並びに告知行為4のうち、「原告製ローソクは、「倒れたり、グラついたり」の理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との内容の告知、及び「原告製ローソクは、「芯糸が不揃い」との理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との内容を、実際よりも芯糸を不揃いとした写真を添えてする告知の差止めを求める限度で理由があるが、その余の告知の差止めを求める部分は理由がない。
2 損害賠償(争点2)について
(1) 故意又は過失の有無
ア(ア) 告知行為1(ロウの固さ)
 ローソクは固ければ固い方がよいとの考え方に問題があること、及び同一の原料で、太さ等も同じでないものにつき、被告の主張する伝統的判別方法を適用することに問題があることは容易に知ることができたものと認められるから、告知行為1の点につき、Bら告知行為1を行った者には、少なくとも原告の信用毀損につき過失があったものと認められる。
(イ) 告知行為2(関東でのローソク火災等)
 その陳述内容自体から、告知行為2による信用毀損につき、Aに故意があったことは明らかである。
(ウ) 告知行為4(ローソクの芯糸の長さ等)
a 「原告製ローソクは「倒れ、 たり、グラついたり」の理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との部分は、そのようなローソクの存在を裏付ける十分な根拠なしに行われたものであるから、本件配布資料の作成の責任者に、原告の信用毀損につき、少なくとも過失があったものと認めるべきである。
b 「原告製ローソクは、「芯糸が不揃い」であるとの理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である」との部分は、本件配布資料中の写真(甲12の1・2)に作為がされたことからすると、本件配布資料の作成の責任者に、原告の信用毀損につき、故意があったものと認めるべきである。
(2) 損害額
ア 売上減少による逸失利益
(ア) ローソクの売上額
a 原告製の神仏用ローソクの売上額
 証拠(甲27の2の7頁)によれば、原告製の神仏用ローソクの売上額は、
 平成11年3月期は4億9400万円、
 平成12年3月期は6億1200万円、
 平成13年3月期は6億3600万円、
 平成14年3月期は7億9700万円、
 平成15年3月期は8億8800万円
 と前年比で増加してきたが、
 平成16年3月期は8億2100万円、
 平成17年3月期は7億8800万円
 と減少し、
 平成18年3月期は8億0500万円
 と増加したこと(平成17年3月期比で2.2%増)が認められる。
b 毎日ローソクの売上額
 証拠(甲27の2の8頁)によれば、毎日ローソクの売上額は、
 平成11年3月期は3億8200万円、
 平成12年3月期は4億3900万円、
 平成13年3月期は4億5200万円、
 平成14年3月期は5億2000万円、
 平成15年3月期は5億5300万円
 と増加してきたが、
 平成16年3月期は5億4000万円、
 平成17年3月期は5億0200万円
 と減少し、
 平成18年3月期は5億2000万円
 と増加したこと(平成17年3月期比で3.6%増)が認められる。
c 毎日ローソク小粒の売上額
 証拠(甲27の2の9頁)によれば、毎日ローソク小粒の売上額は、
 平成12年3月期は1100万円、
 平成13年3月期は3500万円、
 平成14年3月期は5400万円、
 平成15年3月期は7100万円、
 平成16年3月期は8100万円、
 平成17年3月期は8400万円、
 平成18年3月期は8800万円
 と増加したことが認められる。
d ローソク市場全体の売上額
 証拠(甲27の4の17頁)によれば、SRIデータ(株式会社インテージが全国3110店舗のPOSデータに基づいて調査した全国小売店パネル調査「SRI」のデータ)に基づくローソク市場全体の売上額は、
 平成14年3月期は55億1300万円、
 平成15年3月期は54億5900万円(平成14年3月期比で1.0%減)、
 平成16年3月期は54億1400万円(平成14年3月期比で1.8%減)、
 平成17年3月期は53億2700万円(平成14年3月期比で3.4%減)
 とやや減少傾向にあったこと、しかし、平成17年4月から増加に転じ、
 平成18年3月期は54億9000万円(平成17年3月期比で3%増)
 となったことが認められる。
e カメヤマローソクの売上額
 証拠(甲27の4の18頁)によれば、SRIデータに基づく「カメヤマローソク」の売上額は、
 平成14年3月期は34億7100万円、
 平成15年3月期は35億4200万円
 であったが、
 平成16年3月期は35億2100万円(平成15年3月期比で0.6%減)、
 平成17年3月期は34億9300万円(平成15年3月期比で1.4%減)
 とやや減少傾向にあったこと、しかし、平成17年4月から増加に転じ、
 平成18年3月期は36億2500万円(平成17年3月期比で3.8%増)
 となったことが認められる。
(イ) メーカーを切り替えた量販店
a 被告製ローソクに切り替えた量販店
 証拠(甲42の2)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年前後から、取扱商品を毎日ローソクから被告製ローソクに切り替えた主要な量販店は27取引先に上るが、そのうち5取引先は、平成16年2月の商品説明会以前に被告製ローソクに切り替えていること、これらの22取引先の減少による年間売上高の減少は3730万円程度であることが認められる。
b 原告製ローソクに切り替えた量販店
 証拠(乙51)によれば、平成16年2月以降、被告製ローソクから原告製ローソクに全部又は一部切り替えた取引先は、少なくとも8取引先あることが認められる。
(ウ) バイヤーとの関係等
 前提事実(2)、証拠(甲36、乙12、39、D、F、E、C)及び弁論の全趣旨によれば、被告の商品説明会は、年に1回、春のお彼岸やお盆というローソク製品が最も売れる時期に向け、商品の選択につき決定権又は多大な影響力を有する日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店の責任者やバイヤーを招待して行われるものであること、その出席者には、もともと被告製品だけを取り扱う日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店もいるが、原告製品、被告製品双方を取り扱う業者も多いこと、問屋は、商品の性能や売れ行き動向について小売店よりも豊富な情報を得ているため、問屋が小売店の棚割決定に及ぼす影響は大きいこと、業者への新たな製品の納入や取引の継続に当たっては、製品としての優秀性、メーカーの営業担当とバイヤーとの普段からの人間関係、商品説明会の個別の商談における条件提示等が関係してくることは当然であるが、メーカーや製品が蓄積してきた信用も重要であることが認められる。
 被告の商品説明会における説明の重要性についてのF及びEの各証言の一部(乙12、39を含む。)は、採用することができない。
(エ) その他の事情
a 水晶ローソクの買収
 証拠(甲19、乙25の1、52、56)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成13年、水晶ローソクのブランド及び営業権を買収し、同社の販売網を通じて毎日ローソクの販売拡大を図ったことが認められる。前記(ア)b及びdのとおり、原告が毎日ローソクにつき、ローソク市場全体の売上減少傾向に反して、平成14年3月期(平成13年3月期比15.1%増)及び平成15年3月期(平成13年3月期比22.5%増)に売上げを増加したことについては、水晶ローソクのブランド及び営業権を買収したことが影響しているものと認められる。
b 別件訴訟
 被告は、平成16年から平成17年にかけて売上げが下落した要因としては、平成14年8月に別件訴訟を提起されたことにより、プレミアム毎日ローソクの撤収や販売戦略の見直しを余儀なくされ、ローソク販売の積極的な展開をできなかったこと、虚偽広告を行ったという事実そのものが原告製品全体の信用を低下させたことが考えられる旨主張するが、原告は、別件訴訟提起の1か月後である平成14年9月20日出荷分以降、問題となった表示を切り替えており(前提事実(4)ウ)、さらに、原告主張の売上減少期間がこの時期から1年半後であることを考慮すると、別件訴訟の影響はないか、あったとしてもわずかであると認めるべきである。
c 被告の新製品
 証拠(乙12、56)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成14年に業界初の植物性原料による神仏用ローソク「クリ・オ」を、平成15年に天然ガスを原料とした「灯しびローソク」をそれぞれ発売したこと、その結果、量販店の店頭で被告商品が統一ブランドとして棚割りを受けることができ、大きく店頭展開することができたことが認められ、この事実は、原告製品の売上げの減少方向に影響したものと認められる。
d 平成17年の値上げ
 証拠(乙53、54の1・2、55の1〜4、56)及び弁論の全趣旨によれば、原告以外のローソクメーカーは、平成17年2月から4月にかけて、原油価格高騰を理由とする値上げを発表し実施したが、原告は値上げをしなかったため、卸店は、原告製以外のローソクを値上げ前に買い込んだのに対し、原告のローソクを買い込む必要はなかったことが認められる。この事実は、平成17年2月ないし4月の時期における原告の売上減少に多少影響したものと認められる。
e 他社による小粒ローソクの販売開始
 証拠(乙49の2、50、56)及び弁論の全趣旨によれば、毎日ローソク小粒については、@東亜若松(株)、ニホンローソク(株)、ダイヤモンド科学(株)、(株)東海精蝋、(株)マルエス、被告等が類似商品を発売したり、出荷量を増やしたことが認められ、この事実は、毎日ローソク小粒の売上増加の鈍化に相当影響したものと認められる。
 原告は、被告が主張する商品は、いずれも仏壇仏具店向けであり、原告製ローソクや被告製ローソクの販売チャンネルである量販店向けの商品ではないから、毎日ローソク小粒の売上の減少に関係しない旨主張するが、それまで量販店だけで販売されていたものが仏壇仏具店でも販売されるようになれば、当然量販店での売上げはその影響を受けると考えられるから、原告の上記主張は採用することができない。
f 原告のPB製品の供給
 証拠(甲42の1、乙50)及び弁論の全趣旨によれば、毎日ローソクについては、DCM、マツモトキヨシなどの量販店が原告製のプライベートブランド製品に切り替えたことが認められ、これらのプライベートブランドの導入は、原告ブランドでのローソクの売上げに影響すると認められる。
(オ) 因果関係のある売上減少額
a 前記差止めの対象とした告知行為は、ローソク製品の信用の根本に関わる火災の危険について、消防署で原告製ローソクの箱を見せられた等の虚偽の事実を交え(平成16年)、原告製ローソクの尻部の芯糸の長さを実際以上に悪く見せるよう作為まで施してされたものであり(平成17年)、告知の方法も、年に1回、春のお彼岸やお盆というローソク製品が最も売れる時期に向け、商品の選択につき決定権又は多大な影響力を有する日用雑貨問屋、量販店及び仏壇仏具店の責任者及びバイヤーを招待して行われた商品説明会において、会長や社長が先頭に立って行ったというものであり、その影響は、被告が主張するように軽微なものでは決してないから、これらの告知行為により、原告製ローソクの売上げが減少したこと自体は、優に推認することができる。
b しかしながら、売上げの増減に影響する事情は、競業各社の営業努力、新製品の発売、消費者の嗜好の変化など様々な事情にわたるため、上記告知行為により減少した売上額を認定することは、極めて困難であるといわざるを得ない。
 したがって、不正競争防止法6条の3に基づき、以上に説示した諸事情に基づき相当な損害額を認定することとし、平成16年2月4日の告知行為1及び2に始まり、平成17年の告知行為4に及ぶ一連の原告製ローソクに対する告知行為による売上減少額を2000万円程度と認める。
c 証拠(甲35の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告の平成16年3月期から平成18年3月期までにおける各売上合計に対する売上原価率の平均値は40.31%であり、販管費のうち、売上高の増加に伴って増加する費目は、取引先に支払う奨励金等の割戻金のみであるところ、同3期分の各売上高に対する割戻金比率の平均値は15.44%であることが認められる。
 線香とローソクでは売上げ原価率や割戻金の割合が異なる可能性があり、しかも前提事実(1)のとおり、原告は、線香においては国内で第1位の市場シェアを占めているが、ローソクについては、被告が国内で第1位の市場シェアを占めていることを考慮すると、原告がローソク、線香で分けた原価率等の主張立証をしていない現状では、安全を見込んで限界利益率を35%程度と認定すべきである。
 そうすると、ローソクの売上減少による逸失利益額は、中間利息の控除の点も考慮しても、700万円と認められる。
 20,000,000×0.35=7,000,000
イ 信用毀損による損害
(ア) テレビCMの増強
a 証拠(甲40の2)によれば、原告は、平成16年4月以降、「毎日ローソク」のテレビCMの回数を、以下のとおり増やしたことが認められる。
 平成14年度 317.9GRP
 平成15年度 425.6GRP
 平成16年度 1045.6GRP
 平成17年度 926.0GRP
b 証拠(甲43)によれば、1GRP当たりの広告単価は、4万2000円から8万円と幅があることが認められる。
c C(甲36を含む。)は、テレビコマーシャルの増強は信用毀損による影響を減らすためにされた旨証言するが、証拠(甲40の2)及び弁論の全趣旨によれば、コマーシャルの内容は、ローソクだけを対象とし、バイヤー等が与えられた原告製ローソクの火災の危険性について反論するようなものではなく、単に毎日ローソクのイメージ向上を目指したものであることが認められ、月ごとの放映回数も、被告の商品説明会におけるネガティブキャンペーンに対応したものとは必ずしも認められないものである。
(イ) 店頭巡回員の増強
 証拠(甲36、C)によれば、原告は、平成17年3月期以降、「FIS」と呼ぶ店頭巡回員を、それまでの50名から70名に増強したが、これにより増加した人件費は、年額で3300万円に及んでいることが認められる。
 しかしながら、これらの店頭巡回員が信用毀損による影響を減らすために、一般的な販売強化策とは異なる行為を行ったことの主張立証はない。
(ウ) 信用毀損による損害
 前記アに説示の事実によれば、売上げの減少による損害の填補だけでは填補されない無形の損害が発生したといわざるを得ないが、後記3のとおり信用回復措置を命じること等を考慮すると、売上減少による逸失利益によって填補されない信用毀損の損害額を200万円と認めるのが相当である。
ウ 事実調査費用等
(ア) 証拠(甲34、36、C)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告の商品説明会に出席した者から事情聴取して陳述書を作成し、告知行為の虚偽性を立証したり、損害額を立証するための資料を作成するために、別紙「裁判所認定事実調査費用等」に記載の費用を要したこと、人件費については、役員はもちろん管理職については、原告が主張する金額をそれらの者に支払ったことの立証はないこと、社員や嘱託社員については、通常業務外の資料作成等のために一部残業を行い(資料作成等を勤務時間内に行い、通常業務を処理するために残業した場合を含む。)、同別紙中の「人件費認定額」欄記載の額が残業代等の名目で支払らわれたことを認定又は推認することができる。
 その合計額は、163万5430円である。
(イ) 上記金額には、本件訴訟で営業誹謗行為とは認められなかった線香に関する資料作成費が含まれていること、被告の商品説明会の出席者からの事情聴取につき弁護士を含む3名で対応しているが、その全員分の費用が本件告知行為と因果関係があるものとは認められないこと、その他本件訴訟における認容額、経緯等を考慮すれば、違法とされた告知行為と相当因果関係を有する事実調査費用等の損害を70万円と認めるのが相当である。
エ 弁護士費用
(ア) 委任
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴原告代理人弁護士らに本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金及び成功報酬として1000万円以上を支払うことを約したことが認められる。
(イ) 因果関係
 このうち、違法とされた告知行為と相当因果関係を有する損害額を130万円と認める。
3 信用回復措置
(1) 平成16年
ア 告知行為1(ロウの固さ)が告知されただけでは、信用回復措置の必要性は認められない。
イ しかしながら、Aによる告知行為2は虚偽であり、その内容は、ローソクの根本に関わる火災原因についてされたものであるから、その違法性は高いといわなければならない。したがって、告知からの時間の経過等の事情を考慮しても、信用回復措置を講ずる必要があると認められる。
ウ 告知の相手方は相当数に及ぶが、被告の特定の商品説明会への出席者と特定されているから、新聞への掲載の必要性までは認められず、Aがこれらの発言をしたと認定できる東京、福岡及び大阪の参加者に対し、別紙裁判所指定信用回復措置1の訂正文を手紙形式で送付することで足りると認められる。
 1社から数人の出席者があった場合は、当該参加社あて1通の訂正文を送付すれば足りる。
エ 原告の信用回復の措置としての謝罪広告の掲載を求める請求の中には、上記訂正文の送付の請求も含まれているものと解する。
(2) 平成17年
ア 告知行為4も、虚偽であり、その告知内容は、ローソクの根本に関わる火災原因についてされたものであるから、その違法性は高いといわなければならない。
 したがって、告知からの時間の経過等の事情を考慮しても、信用回復措置を講ずる必要があると認められる。
イ 告知の相手方は相当数に及ぶが、被告の特定の商品説明会への出席者と特定されているから、新聞への掲載の必要性までは認められず、本件配布資料が配付されたと認定できる名古屋、長野(松本)、仙台、盛岡、八戸及び青森の参加者に対し、別紙裁判所指定信用回復措置2の訂正文を手紙形式で送付することで足りると認められる。
 1社から数人の出席者があった場合は、当該参加社あて1通の訂正文を送付すれば足りる。
4 結論
 仮執行宣言は、相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 大竹優子
 裁判官 頼晋一は、転勤のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 市川正巳


(別紙)告知行為目録
1 ローソクにおいては、ロウの固さによって、その品質が変わってくる。カメヤマ株式会社製のローソクと、株式会社日本香堂製のローソクを、互いに押しつけると、株式会社日本香堂製のローソクの方が、折れたりへこんだりすることから、カメヤマ株式会社製のローソクと比較して、株式会社日本香堂製のローソクの方が、品質が悪いことがわかる。
2 株式会社日本香堂製のローソクは、安い、粗悪な原料を使用しているために、ローソクが倒れて火災の発生する確率が高い。
 このため関東では火災の発生率が一番高い。
 被告が消防署に呼び出された際、火災の発生原因として消防署員から見せられたのは、株式会社日本香堂製のローソクであった。
3 株式会社日本香堂製の線香は、蛍光灯又は日光に当たると変色して色があせるが、カメヤマ株式会社製の線香は、ほとんど変色しない。
4−1 株式会社日本香堂製のローソクは、「倒れたり、グラついたり、芯糸が不揃い」であるとの理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である。
4−2 製造物責任法は、メーカー責任を求めるだけでなく、その商品を販売した小売店・卸問屋にも責任を求めることができる。一連の食品偽装事件で、一部の大手量販店が販売していた製品を自主回収したりするのもこの為である。

(別紙)Aの発言内容
 「A−1 関東が一番火事が多いんですよ。どういうことかといいますと、関東のね、バイヤーさんはね、安いの持ってこい、安いの持ってこいと言うわけですね。ローソクの安いのを。それで関東のローソク屋さんはまあバイヤーさんの言われるとおり安いローソクを持ってくる、原料下げてね。そうしますとね、安かろう悪かろうになりましてね、何百本か何千本に1本火事が起きるんですよ。ね。だけど火事が起きてても、目の前でローソクが倒れて火事になれば、あ、ローソクやとわかりますけれども、大体火をつけてお経が終わってお茶飲みに台所へ行っておる間に倒れて火事になる。そうすると先祖の供養が足らないとかね、先祖がまだ迷ってるとかね、いろいろつまらんこと勝手に想像する。ねえ。まあ亡くなった方が成仏してないんやなとかね。そうじゃないんですよ。原因はローソクなんですよ。」
 「@ それで高いパラフィンを使えば使うほど、そういう危険率が少ないんです。それを皆さんにね、簡単に説明しましょう。ここにありますね。我が社の、まず1本出してください。「クリ・オ」といいまして植物ローソクが皆様方のテーブルに一つありますわね。これ1本出してくださいね、よろしいですか、それからもう一つ別に日本香堂さんと、日本香堂さんと別に争うつもりやないけど、毎日、毎日ローソクありますね。これを1本出してください。2本出ましたか。そうしますと、毎日香のが長いですよね。カメヤマのクリオは短いですよね。ね。これを十字、十という字に合わせて真ん中をグッと押したら、弱い方が折れますね、強い方が残りますね。固い方が残りますね。いっぺんやってください。カメヤマの短い方が残るはずです。真ん中を十の字にして真ん中をグッと押してください。どっちかが折れるはずです。真ん中、真ん中を押さんとだめですよ。うまいこといきませんか。ほんならもう1回やってください。このね、十の字にしてね、この十の字の真ん中、十の字の真ん中をグウーッと押してください、グウーッと。2つ合わせたところを押してください。合わせたところ。どっちかが折れるはずです。皆様方の力が強いから…。どうです?どうですか、短い方が残るでしょう。だけどね、こうやって箱を見ただけではわからないんですよ。うちは安うします、安うします、ね、安い原料と高い原料は箱だけじゃわからない。だけど、実際に使ってみるとですね、消費者はよくわかる。」
 「皆さん方のね、テーブルのところにチェーンエイジの雑誌がコピーがあると思うんですよ。ありませんか、これ。これがあると思うんですね。これのですね、1、2、3枚目159ページって書いてあります。そこを開いてください。159ページにですよ、カテゴリー別の売り上げシェア20(聴取不能)がちゃんと載ってます。これは私のところが調べたわけじゃなくてチェーンエイジという、チェーンストアエイジという会社が調べた結果なんです。そうしますと、1から20番まではほとんどカメヤマです。それで63%がカメヤマです、全国で。ということは、カメヤマろうそくは多少高くても消費者の皆さんは安心して使っていただける、だからカメヤマを買っていただいているのだなと私は思うんですね。これで火災事故がしょっちゅう起きればですよ、カメヤマのろうそくは買ってくれないと思うんです。それで私らの目的は何かといいますと、まず消費者に安心して使ってもらえる、火災事故が絶対起きないろうそくをつくるというのは、おやじの時代もじいさんの時代も私もその趣旨でやってきております。火災が起きたらどうしようもない。」
 「A−2 例えば関東はですね、関西よか九州よか、北陸、北海道に比べて一番火事が多いんですよ。関東のろうそく屋さんで火事が起きる。私は去年の4月までローソク業界の会長をやらせてもらっていました。それまでにですね、2、3度消防署から呼び出されたことがある、関東の。ローソクで火事が起きるのはどういうことやと、おまえローソク業界の会長出てこい。ね。それでいっぺん消防署員の社員に全部説明してくれと。ローソクで火事になる、どういうことなんや。それでパァーッと見たらですね、こうやってこの箱やったんです。こういうよその箱。何で俺、よその箱で説明せなあかんねんて。これメーカー呼んだって本当のこと言わんからあんたに聞きたいんやと。なら説明しましょう。安い原料を使ってるとまず火事の元ということですよということを私は説明したわけです。安かろう悪かろうで、結局自分の首を絞めていってるんです。」

(別紙)Bの発言内容
 「@ で、きょう皆さん方にちょっとお手元に配りましたんですけども、ローソクの見分け方、いいものと悪いものって分かりますかね。あのいわゆる燃費効率がいいもの、品質がいいものとそうでないものとですね、ちょっと横に。私どもの、(録取不能)いただきますとね、植物ローソク、それから、これ他社さんですけどね。あの、中傷する気はないですよ、ゲスな話しとるわけやないんですから。1本ずつちょっと出していただけませんでしょうか。ローソク、石油パラフィンにおきましては、ロウの固さによってですね、その品質が変わってくる。固さというのは、溶ける温度が高いということですね、不純物が少ない。そういった中で、お互いにですね、十字にですね、このダルマの方でですね、と私どものローソク、植物ローソクをグッと十字に押していただいて、親指でですね、叩いていただいて、平均的に力を入れていただきましてグーッと押していただきたいんですね。そうした場合に、この強弱ということですかね、強さがわかります。一方が折れたり、あるいはへこんだりするということは、その方がですね、いわゆる温度が低いという意味ではですね、まあ、劣るということでございます。どんどん力入れてください。これが一番簡単な比較の方法でございますし、ぜひやっていただきたい。」
<中略>
 「A やはり、(録取不能)いい、安心ができるまでいかなきゃならんなということですけども、やはり火災の原因になりますね。温度が低い、あるいは、純度の低いですね、不純物の多いワックスを使います。他社さん、130から132度だと僕は思いますけども、これですね。そうすると、純度がないわけですから、まあ、小さなローソクではあまりわかりません、差がつきませんですけども、芯糸、いわゆる毛細管現象でですね、そこに、まあ不純物がついて、ろうの行き場がなくなってろうがこぼれるわけ、いわゆる流れるわけですね。流れますと、芯糸だけが残る。残って最後、それがぱたんと倒れる。そして固いんだとか、あるいは薄い芯だとか、いうようなことをですね、燃やす、それが、最終的には、火災にもつながるということ。だから、悪かろう、安かろう悪かろうではだめなんです。ローソクというのは、価格で販売するもんじゃ、僕はないと思いますし、自分の身内にですね、不幸がありましてね、(録取不能)買ってこいとかね、一番ええローソク買ってこい、一番安いローソク買ってこいとかっていうことを一切言わないと思う。逆にいいものをね、手向けたいということだろうと思いますね。だから、ぜひ皆さん、火災ということをね、これは1万本に1本でもあったらだめなんです。あるいは、100万本に1本でもあってもだめというような固い決意で私どもはやらさしていただいております。」
<中略>
 「ちょっと注目いただきたいのは、私どものこのお線香すべて窓開きということですね。ローソクもそうでございますね。ローソクも、私ども初めて窓開きしまして、今は、ローソク、スタンドメーカーさんが結構窓はみんなあいてますけども、お線香はまだあいてませんね。うちだけだと思うんですけど。やっぱりこれは色をつけるわけですよ。ローソクもそうですけどね。」
「B 染料、顔料を使って、このいわゆる蛍光灯、あるいは、日光暴露といいますか、ダイレクトにですね直接太陽にさらしても色が変わらない。ちょっとお見せしましょう。ちょっと今、お回りさしていただきましたですけど、私どもの商品とですね、他社さんの商品、ちょっと見比べていただきたいなと思いますけども。線香は半分ですね、しまして、そして、上半分だけ日光曝露、2日間かな、日光に当てますと、他社さんのやつは色が変わって、私どものはほとんど変わってないという結果が出ております。」

(別紙)裁判所指定信用回復措置1
 当社は、平成16年○月○○日(注1)、○○(注2)で実施した当社商品説明会において、
(1) ローソクにおいては、ロウの固さによって、その品質が変わってくる。カメヤマ株式会社製のローソクと株式会社日本香堂製のローソクとを互いに押し付けると、株式会社日本香堂製のローソクの方が、折れたりへこんだりすることから、カメヤマ株式会社製のローソクと比較して、株式会社日本香堂製のローソクの方が、品質が悪いことが分かる。
(2) 株式会社日本香堂製のローソクは、安い、粗悪な原料を使用しているために、ローソクが倒れて火災の発生する確率が高い。このため関東では火災の発生率が一番高い。
 との事実を告知し、貴社に対し、株式会社日本香堂製のローソクが粗悪品であるかのような印象を与えました。
 これらの事実は虚偽ですので、撤回いたします。
 今後、かかる行為を行わないことを誓約し、株式会社日本香堂に対し、お詫び申し上げます。
 平成年月日
 カメヤマ株式会社
 ○○(注3) 御中

 注1 各商品説明会の開催日時を入れる。例えば、東京であれば、「2月4日」と入れる。
 注2 各商品説明会の開催地区を入れる。例えば、2月4日に開催されたものであれば、「東京」と入れる。
 注3 参加企業名を入れる。例えば、「I」と入れる。担当部署を加えることは許される。

(別紙)裁判所指定信用回復措置2
 当社は、平成17年○月○○日(注1)、○○(注2)で実施した当社商品説明会において、
(1) 株式会社日本香堂製のローソクは「倒れたり、グラついたり」の理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である。
(2) 株式会社日本香堂製のローソクは、「芯糸が不揃い」との理由により火災事故につながるおそれがあり、危険である。
 との説明文書を配布し、貴社に対し、株式会社日本香堂製のローソクが粗悪品であるかのような印象を与えました。
 上記(1)の事実は虚偽であり、上記(2)の事実は、実際よりも芯糸を不揃いとした写真を添えて告知した点で虚偽ですので、撤回いたします。
 今後、かかる行為を行わないことを誓約し、株式会社日本香堂に対し、お詫び申し上げます。
 平成年月日
 カメヤマ株式会社
 ○○(注3) 御中

 注1 各商品説明会の開催日時を入れる。
 注2 各商品説明会の開催地区を入れる。
 注3 参加企業名を入れる。担当部署を加えることは許される。
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