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【事件名】「インディアン」の商標権事件I(2)
【年月日】平成19年5月17日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10520号 審決取消請求事件
 (平成19年3月20日 口頭弁論終結)

判決
原告 株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 東洋エンタープライズ株式会社
訴訟代理人弁理士 野原利雄


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2006−89036号事件について平成18年10月17日にした審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、後記本件商標の商標権者である被告を被請求人として、商標登録無効審判の請求をしたところ、請求は成り立たないとの審決がされたため、同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件商標(甲第1号証の1〜3)
 登録番号:第4751429号
 商標権者:東洋エンタープライズ株式会社(被告)
 商標の構成「略」
 指定商品:第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ショール、スカーフ、手袋、ネクタイ、ネッカチーフ、マフラー、帽子、靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)、げた、草履類」
 登録出願日:平成9年3月31日(商願平9−34959号)
 設定登録日:平成16年2月27日
(2) 本件手続
 審判請求日:平成18年3月28日(無効2006−89036号)
 審決日:平成18年10月17日
 審決の結論:「本件審判の請求は、成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成18年10月27日(原告に対し)
2 審決の理由の要点
 審決は、原告が、下記商標(以下「引用商標」という。)を引用し、本件商標は、引用商標と類似する商標であって、引用商標の指定商品である「靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)」と同一又は類似する商品を指定商品とするものである旨主張したのに対し、本件商標と引用商標とは、称呼において顕著に相違し、観念及び外観のいずれにおいても十分に区別し得るから、非類似の商標であり、商標法4条1項11号に違反して登録されたものといえず、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすることはできない、とした。
(引用商標)
 登録番号:第4135689号
 商標権者:株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン(原告)
 商標の構成:「略」
 指定商品:第25類「靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)」
 登録出願日:平成4年9月3日(商願平4−172385号)
 設定登録日:平成10年4月17日
 審決の理由中、本件商標と引用商標とが非類似であるとする判断に係る部分は、以下のとおりである。
 「本件商標は、・・・黒塗りの長方形の内側に白抜きのステッチで長方形を描き、その中に『Indian』と『Motorcycle』の欧文字を筆記体風に二段に併記してなるものである。
 しかるところ、『Indian』と『Motorcycle』の文字は、上下二段に表示されてはいるが、『Indian』の『I』の文字がデザイン化された書体であること、両文字の語頭の『I』と『M』の文字部分が一部交錯していること、及び『Motorcycle』の文字の第3文字目における『t』の文字の頭の横線を長く伸ばして描く等、文字部分はやや図案化され一体感があり、全体としてみても図形部分と構成文字が不可分一体的に表示されたものと認識されるから、これを殊更『Indian』と『Motorcycle』の文字に分離観察する特段の理由を見出し得ないところである。
 そうとすれば、本件商標中の『Indian』の文字部分のみが独立して自他商品の識別標識として機能し得るとする特段の理由はないものというべきであるから、本件商標からは『インディアンモーターサイクル』の一連の称呼のみを生じるものであって、その構成中の『Indian』の文字部分から『インディアン』の称呼を生ずるとし、それを前提に両商標が類似するという請求人の主張は認められないものというべきである。
 してみれば、本件商標と引用商標とは、その称呼において顕著に相違すること明らかであり、また、観念及び外観のいずれからしても十分に区別し得る商標であるから、両者は非類似の商標といわざるを得ない。
 そして、他に両商標が類似するという理由を発見し得ない。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
1 審決は、結合商標の類否判断及び商標の類否判断に関する最高裁判所の判例に違背し、本件商標が引用商標と類似しないと誤って判断したものであるから、取り消されるべきである。
2 取消事由(類否判断の誤り)
(1) 結合商標の類否判断については、「簡易迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしも構成部分の全体として称呼、観念されるものではなく、一個の商標から二個以上の称呼、観念が生ずることもありえるのである。」(最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁)とされている。
 しかるところ、本件商標は、「黒塗りの長方形の内側に白抜きのステッチで描いた長方形の図形」(以下「本件図形」という。)と、本件図形の「長方形」の内部に、上下2段に白抜きで配した筆記体の「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字とから成るものである。
 そして、以下のとおり、本件図形、「Indian」の欧文字及び「Motorcycle」の欧文字の三者は、相互に独立しており、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものと認められないものである。
(ア) まず、本件図形と「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字とについて、審決は、「全体としてみても図形部分と構成文字が不可分一体的に表示されたものと認識される」と認定した。
 しかしながら、本件図形は、格別特徴のあるものではなく、看者の注意を惹くものではないのに対し、「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字は、本件図形の概ね全体にわたるように白抜きで大書されており、看者の注意を強く惹くものである。したがって、本件図形と「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字とは、相互に独立しており、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものではなく、審決の上記判断は誤りである。
(イ) 次に、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とについて、審決は、「『Indian』の『I』の文字がデザイン化された書体であること」、「Indian」と「Motorcycle」の各欧文字の語頭の『I』と『M』の文字部分が一部交錯していること」及び「『Motorcycle』の文字の第3文字目における『t』の文字の頭の横線を長く伸ばして描く等、文字部分はやや図案化され一体感があること」を挙げて、「殊更『Indian』と『Motorcycle』の文字に分離観察する特段の理由を見出し得ない」と判断した。
 しかしながら、「I」の文字は特段デザイン化されたものではなく、仮にデザイン化されたものだとしても、そのゆえに文字部分に一体感があることにはならない。また、「I」と「M」の文字部分が交錯している部分はわずかであり、文字部分に一体感をもたらすようなものではない。さらに、「t」の文字の頭の横線が長く伸ばして描かれていたとしても、そのゆえに文字部分に一体感があることにはならない。
 商標の構成において、2つの欧文字から成る語を上下2段に配した場合、その2つの語は、別々の語であると認識するのが通常であり、特段のことがない限り、これを不可分一体と認識することはない。「Indian」の「I」の文字と、「Motorcycle」の「M」の文字とがいずれも大文字であることは、「Indian」及び「Motorcycle」の各語が別々であることを強調するものである。
 このような構成からは、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とは、一体としてのみ観察されるものではなく、「Indian」と「Motorcycle」との2つの語から成るものであることが自然に観察されるものであり、仮に、一体感があるとしても、この程度の「一体感」によって、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とが、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものとは認められない。
 加えて「」の語は「北米原、Indian住民の」という意味の英語として知られているが、「Motorcycle」の語は、通常見聞きする語ではなく、一定の観念は生じない。仮に、「Motorcycle」の語から「モーターの付いた二輪車」、「自動二輪車」の観念が生ずるとしても、「Indian Motorcycle」に対応する「北米原住民のモーターの付いた二輪車」、「北米原住民の自動二輪車」は、明確な意味をもつ熟語として認識されないものであり、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とは、観念の上からも、一体としてのみ把握しなければならないものではなく、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものではない。
(ウ) したがって、上記最高裁昭和38年12月5日判決の判旨に照らして、本件商標は、その「Indian」の欧文字部分から、「インディアン」の称呼と「北米原住民」の観念が生ずるものである。
(2) 引用商標からは、その構成に対応して、「インディアン」の称呼と「北米原住民」の観念が生ずるものである。
 しかるところ、商標は、例外的な事情のない限り、対比される商標の称呼、外観、観念のうちの一つが類似するならば、それらの商標が用いられた商品の出所について、誤認、混同のおそれが生ずるものとされ、類似するものとして取り扱われるものである。
 したがって、本件商標と引用商標とは、「インディアン」の称呼及び「北米原住民」の観念において類似するから、類似する商標である。
(3) なお、原告は、「Indian 商標」を用いたブランドビジネスを日本に導入展開し、「Indian 商標」の正当な出所として広く認識されている。そして、「Indianロゴ」は、原告の周知の「Indian商標」の中核をなす商標として、また、「INDIAN」、「インディアン」は、原告のハウスマークであり、原告の業務に係る「Indian商標」の総称として、さらに、「INDIAN MOTOCYCLE」、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は、原告の略称として、それぞれ、遅くとも本件商標の登録査定時である平成16年2月4日には周知であった。
 しかるところ、本件商標の「Indian」の欧文字部分は、上記「Indianロゴ」と同一書体であり、酷似するものである。
 このような事情の下において、本件商標中の「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字部分を一体としてのみ把握すべき事情はなく、また、本件商標を、その指定商品中の「靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)」に用いたときは、原告の業務に係る商品であるとの誤認混同が生ずるおそれがある。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(類否判断の誤り)に対し
 原告は、本件商標から、「インディアン」との独立した称呼及び「北米原住民」との独立した観念が生ずると主張し、この主張を前提として、本件商標が引用商標と類似するものと主張するが、以下のとおり、その前提自体が誤りである。
(1) 本件商標は、全体の図形態様が横長方形の図柄からなり、方形のステッチ柄の枠内に、特徴ある欧文字筆記体からなる「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とを二段表記してなる結合商標である。このように、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字は、二段に表記されているものであるが、共に特徴のある同一の書体から成り、その上下及び左右の幅も合わせ、しかも、それぞれの頭文字の「I」の文字と「M」の文字の各一部を重ね合わせ、「Motorcycle」に係る「t」の文字の頭の横線を長く伸ばすなどして、全体として一体感ないし統一感をもたせるものである。
 その結果、本件商標は、全体として一体不可分な一つの識別標として認識され、機能するものであって、これを殊更、「Indian」の欧文字部分と「Motorcycle」の欧文字部分とに分離し、それぞれの文字部分から独立した称呼及び観念が生ずるとすることには、合理性はない。
 原告の引用する最高裁昭和38年12月5日判決は、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」に関するものであり、本件商標のように、一体不可分であると認められる商標の場合は、これと事案を異にするものである。
 なお、原告は、「Motorcycle」の語は、通常見聞きする語ではなく、一定の観念は生じないとか、「Indian Motorcycle」の語は、明確な意味をもつ熟語として認識されないと主張するが、我が国において、「Motorcycle」の語は、「Indian」の語と軽重の差なく、 広く認知されているものであり、「Indian」の欧文字部分と「Motorcycle」の欧文字部分とを分離しなければならない観念上の事情も存在しない。
 したがって、本件商標からは、「インディアンモーターサイクル」の称呼と、「北米原住民の自動二輪車(インディアンオートバイ)」の観念のみが生ずるものである。
(2) また、原告は、本件商標の「Indian」の欧文字部分が、原告の業務に係る商品を表示するものとして周知である商標と酷似しているから、本件商標を、その指定商品中の「靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)」に用いたときは、原告の業務に係る商品であるとの誤認混同が生ずるおそれがあると主張する。
 しかしながら、商標の類否判断に、対比する商標の周知著名性が影響を及ぼすこと自体については、争うものではないが、原告の主張に係る様々な「Indian商標」が周知であることは、いずれの商標についても、いかなる商品についても、また、いかなる時点についても、争う。
 のみならず、商標法4条1項11号に基づく類否判断において、考慮すべき周知著名性は、対比する先願登録商標に係る周知著名性であって、かつ、その判断の基準日は、類否判断の対象である商標の登録出願日である。
 すなわち、本件においては、本件商標の登録出願日である平成9年3月31日における、引用商標の周知著名性であるが、同日現在において、引用商標が、原告の業務に係る商品を表示するものとして周知著名であったことを示す証拠は全くない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(類否判断の誤り)について
(1) 本件商標は、全体が、黒塗りで横長の長方形状の図形より成り、当該長方形状の図形の内側の外周辺近くに、その各辺に沿った、白抜きステッチより成る直線によって、横長の長方形を描き、当該白抜きステッチより成る長方形の内側に、上下左右に多少の余裕を残して、 白抜きの欧文字により「Indian」の文字と「Motorcycle」の文字とを2段に書して成るものであり、当該両文字は、共に筆記体風の特徴のある同一の書体で構成され、各文字列の横幅をほぼ同じくし、前後を揃えて2段に配されており、また、それぞれの語頭の「I」と「M」の各文字は一部交差し、「Motorcycle」の文字に係る「t」の文字の上部の横棒が右側に長く伸ばされたものである。
 他方、引用商標は、ゴシック体風の特徴のない活字体で、「INDIAN」の欧文字と「インディアン」の片仮名文字とを2段に書して成るものであり、当該両文字は、各文字列の横幅を同じくし、前後を揃えて2段に配されているものである。
(2) 本件商標が、いわゆる結合商標であることは、当事者間に争いがないところ、上記(1)の認定に係る構成に基づいて検討すると、「Indian」の文字と「Motorcycle」の文字とは、2段に表示されたものであるが、共に、特徴のある同一の書体より成り(「Motorcycle」の文字に係る「t」の文字の上部の横棒が右側に長く伸ばされている点は、書体の特徴を強調するものといえる。)、両文字が、いずれも白抜き文字であって、各文字列の横幅をほぼ同じくし、前後を揃えてあるほか、それぞれの語頭の「I」と「M」の各文字が交差している点は、いずれも両文字の一体感又は統一感を強く感じさせるものである。のみならず、本件商標においては、両文字とも、白抜きのステッチで描かれた長方形の内部に、上下左右に多少の余裕を残して配されているところ、このように、結合商標の文字部分が、単に図形部分と重なっているというだけでなく、長方形の周辺のような閉じている点に特徴を有する図形の内部に、納まりよく配されている場合には、看者に、文字部分が図形部分に囲われているとの印象を与え、図形部分と文字部分との一体感を訴えかけるものであり、本件商標においては、さらに、文字を囲む長方形の周辺が、黒塗りの横長長方形状の図形の周辺と白抜きのステッチで描かれた長方形の周辺との2重になっている点、及び内側の長方形状が文字と同じ白抜きで構成されている点で、図形部分と文字部分との一体感がより強調されているものということができる。
 そうすると、本件商標に係る「Indian」の文字部分と「Motorcycle」の文字部分とは、図形部分も併せて不可分一体的に結合しているものと認められる。「Indian」の文字と「Motorcycle」の文字のそれぞれ語頭の「I」と「M」の各文字が、大文字であることは、原告主張のとおりであるが、そうであるからといって、「Indian」及び「Motorcycle」の各語が別々であることを強調することにはならず(英語の表記法に従えば、「Indian Motorcycle」という一連の語句をなす各単語の語頭が大文字であることも、「Indian」、「Motorcycle」というそれぞれ独立した単語の語頭が大文字であることも、共に不自然であり、「Indian」及び「Motorcycle」の各語を別々とすれば、自然であるというものではない。)、そうでないとしても、「Indian」、「Motorcycle」の各文字部分と図形部分とに係る上記不可分一体性を損なう程度のものということはできない。
 なお、原告の引用に係る最高裁昭和38年12月5日判決は、その判文によれば、「古代ギリシヤで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と『宝塚』なる文字との結合からなり、しかも、これに『リラタカラズカ』、『LYRATAKARAZUKA』の文字が添記されている」ものであって、かつ、「右『宝塚』なる文字は本願商標のほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひく」という構成より成る商標(当該事件の「本願商標」)に関するものであり、「右図形が古代ギリシヤの抱琴でリラという名称を有するものであることは、本願商標の指定商品たる石鹸の取引に関係する一般人の間に広く知れわたつているわけではなく、これに対し、宝塚はそれ自体明確な意味をもち、一般人に親しみ深いものであ」るという事情の下で、「本願商標よりはリラ宝塚印の称呼、観念のほかに、単に宝塚印なる称呼、観念も生ずることが少なくないと認め」た原判決の判断を正当としたものであり、本件とは全く異なる事案に係るものというべきであるから、本件に適切であるとはいうことはできない。
(3) 「Indian」の語は、我が国において、「インドの」、「インド人」若しくは「インド人の」又は「北米原住民」、「北米原住民の」という意味の英語として、広く知られているということができる。
 これに対し、「Motorcycle」の語に関して、原告は、通常見聞きする語ではなく、一定の観念は生じないと主張し、さらに、仮に、「Motorcycle」の語から「自動二輪車」等の観念が生ずるとしても、「Indian Motorcycle」に対応する「北米原住民の自動二輪車」等は、明確な意味をもつ熟語として認識されないとも主張する。
 しかしながら、「Motor」は「モーター」という外来語として我が国に定着しており、また、例えば、「サイクリング」、「レンタサイクル」等の用語が頻繁に使用されることにかんがみると、「cycle」が「自転車」、「二輪車」という意味を有することも広く知られているものと認められ、そうであれば、「Motorcycle」が「自動二輪車」、「オートバイ」を意味する単語であることも、同様に広く知られているというべきである。そうすると、「Indian Motorcycle」の語から、「インドの(又は、「インド人の」、「北米原住民の」)オートバイ」との観念が生ずることは明らかであるところ、これが、明確な意味をもつ熟語として認識されないということはできず、原告の上記主張を採用することはできない。
 したがって、上記主張を前提として、「Indian」の欧文字と「Motorcycle」の欧文字とは、観念の上からも、一体としてのみ把握しなければならないものではなく、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものではないとする原告の主張も失当である。
(4) 以上によれば、本件商標において、「Indian」の欧文字部分と「Motorcycle」の欧文字部分とは、図形部分とともに、不可分一体のものとして結合しており、これを分離して観察する理由はない。
 そうすると、本件商標からは、「インディアンモーターサイクル」の称呼が生ずるものであって、「インディアン」又は「モーターサイクル」の称呼が生ずるものということはできない。
(5) 引用商標からは、その構成に応じて、「インディアン」の称呼が生じ、また、「インドの」、「インド人」若しくは「インド人の」又は「北米原住民」、「北米原住民の」という観念が生ずるものと認められる。
 そうすると、本件商標と引用商標とは、称呼が顕著に相違するとともに、観念も異なり、さらに、上記(1)のとおり、外観も明確に異なるものであるから、両者を、類似する商標と認めることはできない。
(6) なお、原告は、「Indianロゴ」、「INDIAN」、「インディアン」を含む「Indian商標」や、「INDIAN MOTOCYCLE」、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」が原告の商標として、本件商標の登録査定時である平成16年2月4日には周知であり、本件商標の「Indian」の欧文字部分は、上記「Indianロゴ」と酷似するものであるとした上、このような事情の下において、本件商標中の「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字部分を一体としてのみ把握すべき事情はなく、また、本件商標を、その指定商品中に用いたときは、原告の業務に係る商品であるとの誤認混同が生ずるおそれがあるとも主張する。
 しかしながら、 上記主張にかんがみれば、「Indian ロゴ」や「INDIAN MOTOCYCLE」、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」が引用商標とは別の商標であることは明らかであり、また、上記主張に係る「INDIAN」、「インディアン」が、引用商標を指すものであるか否かも明確であるとはいえないところ、仮に、本件商標の「Indian」の欧文字部分が、原告主張の「Indianロゴ」と酷似するものであるとしても、上記のように、「Indian」の欧文字部分が、「Motorcycle」の欧文字部分及び図形部分と不可分一体のものとして結合する構成の下で、「Indian」及び「Motorcycle」の各欧文字部分を一体としてのみ把握すべき事情はないとすることはできない。また、審決は、引用商標との対比において(すなわち、引用商標を商標法4条1項11号の「他人の登録商標」として)、本件商標が同号に該当する商標であるか否かについて審理判断したものであり、当該審決の取消しを求める本件訴訟において、引用商標以外の商標との関係における類似性や、商品の出所の誤認混同等を、審決の取消事由として審理の対象とし得ないことはいうまでもない。
 したがって、原告の上記主張は失当である。
2 結論
 以上によれば、原告の主張は理由がなく、原告の請求は棄却されるべきである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 石原直樹
 裁判官 高野輝久は、差支えにつき署名押印することができない。
裁判長裁判官 塚原朋一
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