判例全文 line
line
【事件名】電解水生成器の不正競争事件
【年月日】平成19年4月26日
 大阪地裁 平成18年(ワ)第1806号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成19年3月12日)

判決
原告 有限会社イノウエ
訴訟代理人弁護士 小野健二
被告 株式会社アルテック
訴訟代理人弁護士 山根祥利
同 近藤健太
同 的場美友紀
同 奥山隆之


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、4億2000万円及びこれに対する平成17年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、電解水生成器を販売していた原告が、被告の製造・販売する電解水生成器は原告の販売する電解水生成器の形態を模倣したもので、その行為は平成17年法律第75号による改正前の不正競争防止法(以下「不正競争防止法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当するなどとして、被告に対し、同号、民法709条に基づき、上記被告の不正競争行為などによる損害の賠償金及び上記不正競争行為後である平成17年9月10日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
第3 前提となる事実(次の事実は、当事者間に争いがないか、末尾記載の証拠等により認められる。)
1 電解水生成器
(1) 電解水生成器とは、一般的には、電解助剤等を加えるなどして、水を電気分解する装置であり、生成された電解水は飲料等に使用される。(乙17、弁論の全趣旨)
(2) 電解水生成器の中には、重曹や食塩を加えた水道水等を電気分解することにより、主として洗浄用に使用する電解水を生成するための装置もある。この種のものは、「電解洗浄水生成器」と呼ばれることもある。
 重曹を加えた水を電気分解して生成したアルカリ性溶液である電解洗浄液は、そのマイナスイオンにより、合成洗剤を使わなくても、汚れを落とすことができるとされ、洗車、顔・髪・身体の洗浄、入浴、浴室・浴槽・洗面台・キッチンの清掃、ジュータンのシミ汚れ、野菜・果物・米の洗浄、食器類の洗浄、衣類の洗濯等に用いられる。
 食塩を加えた水を電気分解すると強酸性水と強アルカリ還元水が生成される。強酸性水は、皮膚・口内・足の殺菌、室内・車内・家具類・台所用品・ベビー用品その他の除菌等に用いられ、強アルカリ還元水は、脂肪・タンパク質等の汚れの除去、野菜のあく抜き、植物の活性・種の発芽促進に用いられる。(甲1、2、弁論の全趣旨)
2 電解水生成器の販売
(1) 原告の電解水生成器の販売
 原告は、遅くとも平成13年7月16日ころから、別紙原告商品目録記載の電解水生成器(以下「原告商品」という。)を販売している。なお、原告は、平成16年8月ころ、原告商品の名称を「AQUA TRIO」から「NEW AQUA TRIO」に変更した。
(2) 被告の電解水生成器の販売
 被告は、遅くとも平成14年4月ころから、別紙被告商品目録記載の電解水生成器(以下「被告商品」という。)を製造・販売している。
3 原告商品の形態等と被告商品の形態等
(1) 原告商品の形態は、別紙1のとおりである。被告商品の形態は別紙2のとおりである。
(2) 原告商品の形態と被告商品の形態は、別紙3の点で一致し、別紙4の点で相違している(別紙4における「アクアトリオ」は原告商品、「サンピュア」は被告商品のことである。)。
(3) 原告商品も被告商品も、4リットルサイズのポット型家庭用電解水生成器(電解洗浄水生成器)であり、重曹を加えた水を電気分解して電解洗浄液を生成する機能(以下「重曹電解洗浄液生成機能」という。)と食塩を加えた水を電気分解して強酸性水・強アルカリ水を生成する機能(以下「強酸性水・強アルカリ水生成機能」という。なお、強酸性水は、原被告商品ともにpH2.7以下、強アルカリ水は原告商品はpH11以上、被告商品はpH10.5以上である。)を備えており、生成した電解水を保存容器に移し替えて使用するものである。(甲1、2、弁論の全趣旨)
第4 争点
1 原告商品の形態は被告にとって「他人の」商品の形態か(原告商品の形態に関する権利の帰属・争点1)。
2 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品か(原告商品と被告商品の形態の実質的同一性の有無・争点2)。
3 損害の発生の有無及びその数額(争点3)
第5 争点に対する当事者の主張
1 原告商品の形態は被告にとって「他人の」商品の形態か(争点1)について
(1) 原告の主張
ア 原告商品の形態に関する権利の帰属
 原告は、平成13年3月24日ころ、被告に対し、原告商品の開発を代金2044万円で委託し(以下「本件契約」という。)、同年12月末ころ、上記代金を完済した。このように、原告は、対価を支払って被告に原告商品(商品の形態も含む。)の開発を委託したのであるから、原告商品の形態は、原告に帰属し、被告には帰属しないので、被告にとって「他人の」商品の形態である。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、本件契約は、被告の製品に原告のブランドを付して、被告が原告に一定価格で一定数納品することを内容とするものであったと主張する。
 しかし、見積書(甲5の1ないし3、乙2)、「過去の動き」(甲6)には、原告商品の製品としての完成のために必要な金型製作費用等の明細が記載され、見積書における1000台の数量とその単価の記載は、原告商品の開発と連動して、原告商品を製造する場合の納品価格が提案されているもので、被告の製品に原告のブランドを付して以後一定価格で納品するための記載ではない。被告の提案書(甲10)の「開発費及び金型」欄にも、原告が開発費を支払えば、その支払対象となった金型等が原告の保有となる旨記載され、原告が開発費を経費として償却できる台数を1万台として仮定的計算がシミュレーションされている。
(イ) 被告は、被告が複数の業者に対し、当該業者のブランドで被告の製品を供給する契約をしており、被告商品の開発について原告は了承していたと主張するが、否認する。原告は、平成13年9月25日と同年11月16日に被告商品の開発について明確に断った。
(ウ) 被告は、被告が開発イニシアル費のうち400万円を負担したことにより、原告商品の形態に関する権利の一部を取得した旨主張するが、400万円の負担は本件契約においては代金の値引きにすぎず、形態についての権利の一部を被告に認めるものではない。
(2) 被告の主張
ア 原告商品の形態に関する権利の帰属
(ア) 原告商品を開発、設計、製造したのは被告であり、原告の技術やアイディアは用いられていないので、原告商品の形態に関する権利は被告に帰属する。したがって、原告商品の形態は、被告にとって「他人の」商品の形態ではない。
(イ) 原告は、本件契約により、被告が原告に開発の成果を売り渡したと主張する。
 しかし、本件契約は、原告が被告にデザイン、形態の作出を委託したものではなく、原告が被告から一定数以上の製品を一定額で購入して原告のブランドを付して販売できることを合意したものにすぎない。開発の成果を売り渡したのであれば、見積書(乙2)に1000台の数量と単価が記載されることもないはずである。開発イニシアル費の「開発工数一式」804万2500円(甲5の2)は、製品開発の基礎(機構、回路、材料、基本実験データ等)が既に存在することを前提として、それらをベースに原告のブランドが付された商品として開発する工数についての費用であり、被告が原告に開発の成果を売り渡すには安すぎる価格である。
(ウ) 原告は、開発イニシアル費が製作図面に対する対価であるとも主張するが、原告商品の図面は、本来、原告ではなく被告のみが保有すべきところ、原告が兵庫県の新産業創造プログラムの補助金申請をするために必要であるとして交付を求めたので、被告は交付したにすぎない。
(エ) 原告は、被告の提案書(甲10)によれば、金型等が原告の保有となる旨記載されていると主張する。
 しかし、同提案書は合意に至ったものではなく、最終的合意は平成13年5月15日の合意(乙3)である。同提案書の表題部に「J−ONE4000」と明記されていることからも、同提案書6項は、J−ONE4000の金型を用いて名称のみを変更した商品を第三者に供給する場合でも総販売元は原告とすることを示したものにすぎない。
イ 原告の承諾
 原告は、被告が、原告以外の者と、原告と同様の契約(被告が開発、製造する製品に相手方のブランドを付して供給する旨の合意)をして、原告商品と類似する部分のある製品を第三者に供給することを了承していた。すなわち、被告は、サンルート株式会社(以下「サンルート」という。)に4リットルポット型の電解水生成器を同社のブランドで販売するため提供するに際し、原告商品の金型を1台あたり5000円の金型使用料で使用することを原告に提案した。原告が辞退したので、被告は独自に金型をおこし、サンルートを通じて訪問販売、組織販売を中心に販売する旨原告に伝えた。原告は、原告商品の主な販売先は飲食店であり、業種、販売方法が異なるので競合しないと了承した。被告が当初、原告商品の金型を使用する提案をしていることから明らかなとおり、この時点で想定していた製品は原告商品と類似する部分のある製品であったが、原告は異議を唱えていない。
 被告は、原告の了承なく被告商品を製造することができたが、後日の紛争を避けるため、類似する部分のある製品を開発、製造する場合は、道義的に報告を入れることにしていたのであり、平成13年11月16日も進捗状況を報告して原告の了解を得ているし、平成14年8月27日にも被告商品の販売状況について原告にファックスで報告している。仮に、被告が、原告に開発の成果を全て売り渡し、類似する部分のある製品を製造することができないとすれば、このような製品を企画、製造することもその旨の報告をすることもない。
ウ 準共有
 仮に、原告が開発イニシアル費を負担することにより開発の成果を買い取ったものであったとしても、開発イニシアル費のうち400万円は被告が負担しているので、被告は、原告商品の形態に関する権利について、負担した費用の割合で準共有している。
2 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品か(争点2)について
(1) 原告の主張
ア 一致点について
(ア) 電解水生成器は、水道水等の水を容器に貯水して塩を加え、電気的装置により電気分解して、酸性水とアルカリ水に分けて取り出す商品である。したがって、商品の機能・効用を奏するためには、貯水できる容器があり、貯水のための開口部があり、電気的装置の作動の結果、貯水された水が酸性水とアルカリ水に分解されて2槽に貯留されるため、容器本体が2つの槽に分かれていることが必要である。原告商品と被告商品が、上記の範囲で共通していることは、「通常有する形態」ということができる。
(イ) 原告商品と被告商品は、上記の点を除いた別紙3の点で一致し、特に、次の点で同一である。
1)容器本体の各サイズと形状が同一である。
2)開口部をなす蓋体の設置位置と方法が同じである。
3)酸性水とアルカリ水の水量を表示する表示計の取付位置が同一である。
4)貯水容器本体内の電解槽の2区分の仕切り位置方法が同じである。
5)容器本体を持ち上げる提手の形状と取付位置が同一である。
6)蓋表面に設置された操作パネルの各スイッチの位置がほぼ同一である。
 したがって、原告商品と被告商品は実質的に同一である。
(ウ) 被告は、原告商品と被告商品の各形態が共通する部分は、電解水生成器という商品が「通常有する形態」であると主張するが、次のとおり、実質的に同一であると疑われないような設計上の工夫をすることは可能であった。
 上記1)については、ポット型ではなく、ジャー型にするという選択肢もあるし、ポット型を前提としても、容器本体の形状を、平面的には正方形、長方形、楕円形等の形状にする余地がある。被告は2リットルの保存容器の使用が当然に必要であるとの前提に立っているが、容器本体のサイズ形状を同一にする必然性はない。
 上記2)については、蓋体はネジ式とか、左右開閉式など、いろいろなバリエーションが考えられる。
 上記4)については、電解槽を備えることから2つの槽が必要であるとしても、同一の区切り方をする必然性はなく、例えば、原告商品が正面から見て縦向きに区分されているのに対し、正面から見て横向きに区分することも可能である。
 上記5)については、提手は容器本体との設置点を2箇所から4箇所にするなどの余地がある。
 上記6)については、操作パネル、ボタンの位置、吐水口の位置等についてバリエーションが考えられ、かつスイッチの設置箇所も本体の横に設置する等の方法もあり、被告の主張は説得的ではない。
イ 相違点について
 被告は、別紙4の点で原告商品の形態と被告商品の形態が相違すると主張するが、これらの相違点は、要部についてのものではなく、原告商品と被告商品を全体的に観察すれば、両者の形態は実質的に同一である。具体的には次のとおりである。
(ア) 本体の色
 本体の色は、原告商品はピンク系で、被告商品はグレー系で異なるが、両者はいずれも薄い色で、本体全体が一つの色で構成されている点で共通する。したがって、ピンク系かグレー系かの差異は、上記共通点に比較すると微差にすぎず、形態の同一性を損なわない。
(イ) 操作パネル
 庇部の上面に設けられている操作パネルは、原告商品は半円形であるが、被告商品は完全な半円形ではなく、左右の曲面と前端の曲面とがアール面によって連続されている点において異なる。しかし、両者は、本体から前方に弧を描いて丸く突きだしている庇部と略相似形をなし、本体の前方に弧を描いて丸く形成されている点で共通している。被告商品の操作パネルは、完全な半円形ではなくても曲面の連続であることに変わりはなく、したがって、完全な半円形であるか否かの差異は微差にすぎず、上記共通点は、上記差異をはるかに凌駕する。
 操作パネルの表面について、原告商品は平面、被告商品は曲面という差異があるが、被告商品の操作パネルは、横幅120ミリメートルに対し、中央と左右端の高さの高低差がわずかに約4ミリメートル生ずる程度の曲面で、曲率半径は極めて大きくほとんど平面に近いものである。したがって、操作パネルが平面か曲面かの差異は微差で、平面あるいはほとんど平面との共通感が差異感をはるかに凌駕する。
 操作パネルの色は、原告商品は薄いグレー、被告商品は濃いグレーで異なるが、操作パネルの色を本体表面の色よりも暗色系にしている点で共通し、グレー系である点でも共通しているので、両者の差異は微差であり、共通感が差異感をはるかに凌駕する。
(ウ) 蓋体
 被告は、蓋体について、原告商品は薄型で、被告商品は3方向のつばがある点で差異があると主張する。しかし、原告商品においても、周縁よりやや内側につばを形成しているので、外周につばを形成しているか、やや内側につばを形成しているかの差異にすぎず、本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられている共通感が差異感をはるかに凌駕する。したがって、蓋体における差異は微差にすぎず、形態上の特徴となるものではなく、形態の同一性を損なうものではない。
(エ) 蓋ヒンジ
 被告は、蓋ヒンジについて、原告商品においては1箇所に着脱不可に取り付けられているのに対し、被告商品は2箇所に着脱可能に取り付けられている点において異なると主張する。しかし、蓋ヒンジは、本体の背面に位置し、需要者である看者の注意をほとんど惹くところではなく、1箇所か2箇所か、着脱可能か不可能かは、機能あるいは強度に関係するにすぎないもので、形態上の特徴となるものではない。したがって、蓋ヒンジにおける差異は、形態上は微差にすぎず、形態上の特徴となるものではなく、両者の蓋体の形態の同一性を損なうものではない。
(オ) 提手
 被告は、提手について、原告商品は握り部のみ二重構造、被告商品は全体が二重構造で差異があると主張する。しかし、両者とも提手は、下向きコ字形で本体の角筒部両側面に前後回動可能に取り付けられ、握部は二重構造に形成されている点で共通し、二重構造か否かは握部以外の部分のみの差異にすぎないので、その差異は格別に需要者の注意を惹くところとはいえない。ましてやその差異は提手を端面方向を見て初めて認識可能な形態であるから、極微細部分における差異であって、提手全体をみると、共通感が差異感をはるかに凌駕する。したがって、提手における差異は形態上微差にすぎず、両者の提手の形態の同一性を損なうものではない。
(カ) パイプ
 被告は、パイプについて、原告商品は印刷がなく、被告商品は印刷がある点で差異があると主張する。しかし、水量計が、角筒部の前面に備えられ上下に長い隅丸長方形であり、中央部に細幅の水量視認部を有する点で共通しているのに対し、パイプは、本体(水量計)の内部に設置され、その差異はほとんど需要者の視認し得ない部位における差異である。したがって、パイプの印刷の有無による差異感は、上記共通点による共通感に埋没し、形態上の特徴となるものではなく、両者の形態の同一性を損なうものではない。
(キ) 電源スイッチ、電源コード接続、電源スイッチ・コード接続部被告は、電源スイッチについて、原告商品はないが、被告商品はある、電源コード接続について、原告商品はマグネットプラグであるが、被告商品は差し込みプラグである、電源スイッチ・コード接続について、原告商品は水濡れ防止つばがないが、被告商品はある点でそれぞれ異なると主張する。しかし、これらの差異は、いずれも本体の背面しかも下部における差異であり、看者である需要者の注意をほとんど惹かない部分に関するもので、いずれも機能上の要請から設けられた差異で、底面視形状が隅丸正方形である角筒部の上端前方に庇部を有している本体全体の共通感に対し、その差異感は極微差にすぎず、共通感が差異感をはるかに凌駕する。したがって、電源スイッチ、電源コード接続、電源スイッチ・コード接続部の差異は形態上は微差にすぎず、形態上の特徴となるものではなく、両者の本体の形態の同一性を損なうものではない。
(ク) 電解槽構造(縁位置)
 被告は、電解槽構造(縁位置)について、原告商品は外ケースより低い位置にあるのに対し、被告商品は外ケースより高い位置にあると主張する。しかし、両者の電解槽は、いずれも操作パネル面より低い位置において周縁に約1センチメートルの帯状縁を形成している点で共通し、電解槽は内部に前後方向の仕切部を形成した点においても共通する。したがって、電解槽構造(縁位置)の差異点は微差にすぎず、共通感は差異感をはるかに凌駕し、形態上の特徴となるものではなく、両者の電解槽構造の形態の同一性を損なうものではない。
(2) 被告の主張
ア 本件における判断の基準
 仮に、原告商品の形態に関する権利が原告に譲渡されていたとしても本件のように、被告が設計、製造した商品を複数の業者に提供する契約をしている場合においては、原告の原告商品の形態に関する権利の及ぶ範囲は、原告商品の金型を流用し、同一金型を用いた場合に限定すべきである。
イ 一致点について
 4リットルの家庭用電解水生成器としての機能を確保するためには、その形状は自ずと制限されており、ポット型の電解水生成器を設計しようとすれば、誰が製造しても同様・類似の形状になる。したがって、原告商品と被告商品の各形態が同様なものになることは当然であり、原告が主張する別紙3の一致点は、4リットルポット型の家庭用電解水生成器が「通常有する形態」の範囲のものである。
 すなわち、ポット型である以上、全ての電解水生成器は別紙3のA、BABDE、C、Dを充たすし、電解水生成器であることから別紙3のB@を有するし、操作パネルを設けて押しボタンを配すると別紙3のBCも当然有することとなる。具体的には以下のとおりである。
(ア) ポット型であること(別紙3のA、BABDE、C、D)ポット型にしたのは、電解水生成器により生成された電解液は、保存容器に入れて保存されるが、保存容器は、一般家庭で入手しやすい2リットルサイズのペットボトルを用いるのが便利である。また、一般家庭の主婦等、使用者の直感的な操作性を考慮し、誤操作の危険を排除するには、一般に普及している湯沸かしポット型を踏襲するのが合理的である。サイズは使用時に安定した設置性を保つことができる程度に床面積を小さくし、持ち運びに便利なように提手を付す必要がある。なお、原告商品の開発当時、電解助剤を添加し貯水式で電解水を生成する電解水生成器は既に存在していたが(例えば、日精技研株式会社が平成8年以降製造しているもの)、これについても従前から存在するポット型が用いられていた。
 したがって、2リットルのペットボトルの高さ程度に吐水口のある4リットルサイズの電解水生成器としては湯沸かしポット型の形状を踏襲するのは必然である。原告は、ジャー型を例に挙げるが、ジャー型は、生成された電解水をコップ等でくみ出すほかなく、設置にも広い面積を要するので、商品化に耐えられない。よって、湯沸かしポット型であることから来る形状である別紙3のA、BABDE、C、Dが共通するのは不可避である。
(イ) 本体・蓋体・提手(別紙3のA、C、D)
 被告商品は、4リットルの原水を注ぎ込んで電気分解する装置であるから、本体の上方に開閉可能な蓋体が必要である。本体を洗浄するため、持ち運び可能であることを要するから提手も取り付けることが必要である。提手の形状は、注水時に干渉しないよう、前後回動可能な下向きコ字形とすることになる(以上につき別紙3のA、C、D)。なお、原告商品に先立つ1.4リットル角形の電解水生成器(乙21)も、本体と蓋体と提手からなり(別紙3のAに該当)、蓋体は本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられ(別紙3のCに該当)、提手は下向きコ字形で本体の角筒部両側面に前後回動可能に取り付けられている(別紙3のDに該当)。
(ウ) 電解槽を備える点(別紙3のB@)
 電解水生成器は、原水を電気分解する装置であるから、隔膜に隔てられた2つの槽から構成され、隔膜を挟んで一対の電極板を有する形状の電解槽を備えること(別紙3のB@)は不可避である。原告商品に先立つ1.4リットル角形の電解水生成器(乙21)も同様である。
(エ) 操作パネル・ボタンの位置(別紙3のBC)
 4リットルタイプの電解水生成器には、4リットルの原水を入れる作業が必要なので、上部開口部はできるだけ大きく開け、蓋を付けることが必要である。その帰結として、開口部、蓋部に操作パネル・ボタンを配置することは不可能であるし、一般的な湯沸かしポットを踏襲するのが使用者の操作性の観点からも合理的なので、操作パネル・ボタンは、庇部に配置することになる。
 生成される電解水は、電解洗浄水(重曹を混ぜる場合)と強電解水(食塩を混ぜる場合)という全く性質の異なる水である。これらの電解水を間違うことなく生成して取り出すためには、誤操作の危険を排除する必要があり、ボタンは左右双方にわかりやすく分けて配置するほかない。ボタンの個数も、電解開始と電解水排出が必要なので、自ずと限られる。よって、別紙3のBCが共通することは不可避である、
(オ) 吐水口の位置・底面の形状等(別紙3のB、BBDE、D)
 生成された電解水を2リットルサイズのペットボトルに容易に移すことを可能とするには、庇部を設け、2リットルサイズのペットボトルと同じ高さの位置に吐水口を設けることになる(別紙3のB、BBDE)。本体を円筒状とすると、ペットボトルと干渉して電解水を移すことが困難になったり、設置場所に広めの場所が必要となるなど、特段のメリットがないので、一般的な湯沸かしポット型の形状である隅丸正方形とするほかない(別紙3のB)。なお、原告商品に先立つ1.4リットル角形の電解水生成器(乙21)の本体も底面視形状が隅丸正方形である角筒部を有している(別紙3のDに該当)。
ウ 相違点
 原告商品の形状と被告商品の形状は別紙4の点で相違する。すなわち操作パネルや蓋の形状、蓋ヒンジの個数や着脱の可否、提手の構造、パイプ印刷の有無、電源スイッチの有無、電源コードの接続方法、電源スイッチ・コード接続部の水濡れ防止つばの有無、電解槽構造等において差異が認められる。よって、原告商品の形態と被告商品の形態は実質的に同一ではない。
3 損害の発生の有無及びその数額(争点3)について
(1) 原告の主張
 被告は、故意又は過失により、上記2(1)のとおり原告商品の形態を模倣した被告商品を販売し、原告商品と被告商品について混同を生じさせることにより、次の損害を原告に生じさせた。
ア 逸失利益4億円
 原告商品の販売価格は、1台あたりAQUA TRIOが34万円、NEW AQUA TRIOが38万円であり、純利益は1台あたり2万円である。被告は、平成14年4月ころから平成16年7月15日までに被告商品を少なくとも2万個販売した。よって、被告の不正競争行為により原告の受けた損害は少なくとも4億円である。
イ 弁護士費用2000万円
 原告は、本件訴訟の追行を原告代理人弁護士に依頼し、その費用2000万円を負担する損害が生じた。
ウ 合計4億2000万円
(2) 被告の主張
 争う。
第6 当裁判所の判断
1 まず、被告商品は原告商品の形態を模倣した商品か(原告商品と被告商品の形態の実質的同一性の有無・争点2)について判断する。
(1) 原告商品の形態
 原告商品の形態は、別紙1のとおりである。争いのない事実に証拠(甲1、乙18)及び弁論の全趣旨を加えれば、原告商品の形態の詳細は、次のとおりと認められる(正確には、原告商品のうち「AQUA TRIO」についてのものであるが、「NEW AQUA TRIO」も同じ形態である。)。
 なお、下線は後記(2)の被告商品の形態と異なる部分であり、波線の下線(編注:イタリック)は後記(4)イの「水世紀アクアデュオ」の形態と共通する部分であり、太い波線の下線(編注:太文字イタリック)は後記(4)ウの「アルカリポット」の形態と共通する部分である。「水世紀アクアデュオ」の形態と共通する部分と「アルカリポット」の形態と共通する部分の双方が共通する部分は波線の下線のみ付した。
A 全体の構成
@ 本体、蓋体、提手からなる
A 本体、蓋体、提手の色は薄いピンクである。外径寸法は、高さ406ミリメートル、幅205ミリメートル、奥行267ミリメートル(突起部を除く)である。
B 本体の形態
B-1 本体全体
B 本体全体の基本的な形態は、底面視の形状が隅丸正方形の角筒形の部分を中心とし(以下「角筒部」という。)角筒部の上端前方に庇部を有し角筒部の内部に電解槽を備えている
B-2 角筒部
B-2-1 角筒部正面(水量表示部等)
C 角筒部の正面には、上下に細長い隅丸長方形の表示部分が合計2つ縦に並列して存在し(以下「水量表示部」という。)、各水量表示部の中央にそれぞれ細幅の窓があり(以下「水量視認部」という。)、各水量視認部の内部にそれぞれ透明のパイプを有する水量計がある
D 水量表示部は、操作パネルと同色の薄いグレーであり、その幅は細長であるが比較的太く長さは比較的短い。水量表示部には合計7本の水平方向の線が目盛りとして縦に並んで記載され、下から5本目の線の左(右側の水量表示部)ないし右(左側の水量表示部)に「1l」の表示があり、水量視認部の下には「水量表示」の表示がある。目盛り及び文字表示はすべて黒色である。薄いグレーの各水量表示部の内側に沿って隅丸細長の長方形の黒い囲み線がある
E 水量視認部の内部の水量計の透明なパイプに印刷はない
F 水量表示部の位置は、その上部が吐出口とほぼ同じ高さであり庇部の付け根よりも下である
G 角筒部正面の下部には薄いグレー地に焦げ茶色で「AQUA TRIO」等と記載されたシールが添付されている。
B-2-2 角筒部背面(プラグ差込口等)
H 角筒部背面下部には電源スイッチはなくマグネット式プラグ差込口があるプラグ差込口のある部分に水濡れ防止用のつばはない
I 角筒部背面下部のプラグ差込口よりすぐ上の部分に、型式番号等が記載されたシールが添付されている。
B-3 庇部
B-3-1 庇部全体
J 庇部は、弧を描いて丸く前方に突出し庇部の上面には操作パネルがある
K 庇部の下面には角筒部前面から庇部前端まで達する吐出口部が形成されている
B-3-2 操作パネル
L 操作パネルは、半円状の扇形であり、全体が薄いグレーである。
M 操作パネルは、更に2つの大小の左右に位置する円の4分の1の扇形の枠で囲まれている部分があり、囲み線は、正面から左側は濃い青、右側は濃いピンクである。
N 操作パネル内の小さい方の円の4分の1の扇形の枠は、正面から左側にあり、同枠の上部には、枠線を断絶させる形で「電解洗浄液」の濃い青の文字があり、枠内には2つの丸形のボタンがあり、それぞれ左上から順に黒と濃いピンクの線で囲まれ、「生成開始」、「洗浄出る」の文字が黒色で記載されている。各ボタンの内側には、ランプのつく小さな丸い部分がある。
O 操作パネル内の大きい方の円の4分の1の扇形の枠は正面から右側にあり、同枠の上部には、枠線を断絶させる形で「強電解水」の濃いピンクの文字があり、枠内には3つの丸形のボタンがあり、それぞれ右上から順に黒い線で囲まれているもの、全体が濃いピンクのもの、全体が濃い青のもので、「生成開始」、「強酸出る」、「強アルカリ出る」の文字が黒色、白色、白色で記載されている。各ボタンの内側には、ランプのつく小さな丸い部分がある。
P 操作パネル内の大小2つの円の4分の1の扇形の枠の間に、ランプのつく小さな丸い部分があり、その下に黒の「電源」の文字がある。小さな丸い部分と「電源」の文字を隅丸台形状をなす黒の二重線(外側が太く内側が細いもの)が囲んでいる
Q 操作パネルの面は、平面である。
R 操作パネルの正面から手前部分に文字はない
B-3-3 吐出口部
S 吐出口部は、中央部分に底面視U字状の突出部があり、同突出部の下部に白いゴム製の円筒状の吐出口ノズルがある。
<21> 庇部の裏面と底面視U字状の突出部との接続部は、庇の裏面が中央の突出部に向かって比較的急に下降する傾斜面であり、U字状の突出部の角筒部における付け根は、庇部の裏面にあり庇の裏面にのみ接しているため、両側面から見ると、突出部は庇部の裏面との接触部を一辺とする直角三角形に見える。
<22> 底面視U字状の突出部の幅は比較的太めであり、ゴム製の円筒状の吐出口ノズルは比較的細めで長めある。
B-4 電解槽
<23> 電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有し、2つの槽になっている。仕切部は上部の一部を除いて黒のメッシュ状になっている。
<24> 電解槽の縁位置は、外ケースより低い位置にある。
<25> 電解槽の内側も、本体、蓋体、提手と同じ薄いピンクである。
C 蓋体の形態
<26> 蓋体は本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられている
<27> 蓋体の形状は、つばはない
<28> 蓋体の裏面は、蓋体の裏面中央の端から端まで縦に走る筋状の突起があり、蓋ヒンジに近い部分に凹部が形成されている
<29> 蓋ヒンジは、背面に1箇所あり、蓋の着脱ができない形状である。
D 提手の形態
<30> 提手は、下向きコ字形であって、本体の角筒部両側面に前後回動可能に取り付けられている
<31> 提手は、握手部分のみが背面からみると二重構造でやや厚めであるがそれ以外の部分は二重構造ではなくその幅は薄めである提手のコ字の形状は、コ字の角部分が比較的角張っている
<32> 提手のコ字の両端の本体に留められている部分は、提手部分に比してやや大きめの円形状になっている
(2) 被告商品の形態
 被告商品の形態は、別紙2のとおりである。争いのない事実に証拠(甲2、乙18)及び弁論の全趣旨を加えれば、被告商品の形態の詳細は、次のとおりと認められる。
 なお、下線は前記(1)の原告商品の形態と異なる部分であり、波線の下線は下線のない部分における後記(4)イの「水世紀アクアデュオ」の形態と共通する部分であり、太い波線の下線は下線のない部分における後記(4)ウの「アルカリポット」の形態と共通する部分である。「水世紀アクアデュオ」の形態と共通する部分と「アルカリポット」の形態と共通する部分の双方が共通する部分は波線の下線のみ付した。
A 全体の構成
@ 本体、蓋体、提手からなる
A 本体、蓋体、提手の色は薄いグレーである。外径寸法は、高さ406.5ミリメートル、幅205.1ミリメートル、奥行269.8ミリメートルである。
B 本体の形態
B-1 本体全体
B 本体全体の基本的な形態は、底面視の形状が隅丸正方形の角筒形の部分を中心とし(角筒部)角筒部の上端前方に庇部を有し、角筒部の内部に電解槽を備えている
B-2 角筒部
B-2-1 角筒部正面(水量表示部等)
C 角筒部の正面には、上下に細長い隅丸長方形の表示部分が合計2つ縦に並列して存在し(水量表示部)、各水量表示部の中央にそれぞれ細幅の窓があり(水量視認部)、各水量視認部の内部にそれぞれ透明のパイプを有する水量計がある。
D 水量表示部は、操作パネルと同色の濃いグレーであり、その幅は比較的細く長さは比較的長い。水量表示部には合計10本の水平方向の線が目盛りとして縦に並んで記載され、下から1本目の線の右上(右側の水量表示部)ないし左上(左側の水量表示部)に「0」、下から6本目の線の右上(右側の水量表示部)ないし左上(左側の水量表示部)に「1l」の表示があり、水量視認部の下には「水量表示」の表示がある。目盛り及び文字表示はすべて白色である。
E 水量視認部の内部の水量計の透明なパイプにはその全面にオレンジ色の斜線が印刷されている
F 水量表示部の位置は、その上部が吐出口より上にあり庇部の付け根付近にまで到達している
G 角筒部正面の下部には銀地に虹色で「Sun Pure」等と記載されたシールが添付されている。
B-2-2 角筒部背面(プラグ差込口等)
H 角筒部背面下部には電源スイッチと差込式プラグ差込口がある電源スイッチとプラグ差込口のある部分に小さな水濡れ防止用のつばが突き出ている
I 角筒部背面下部の電源スイッチとプラグ差込口より少し上の部分に、型式番号等が記載されたシールが添付されている。
B-3 庇部
B-3-1 庇部全体
J 庇部は、弧を描いて丸く前方に突出し庇部の上面には操作パネルがある
K 庇部の下面には角筒部前面から庇部前端まで達する吐出口部が形成されている
B-3-2 操作パネル
L 操作パネルは、全体がやや角ばった半円状の扇形(別の表現をすれば2箇所が比較的なだらかな隅丸の長方形)であり、全体が濃いグレーである。
M 操作パネルは、更に2つの大小の左右に位置する円の4分の1の扇形の枠で囲まれている部分があり、囲み線は薄いグレーである。
N 操作パネル内の小さい方の円の4分の1の扇形の枠は、正面から左側にあり、同枠の上部には、枠線を断絶させる形で「電解洗浄水」の薄いグレーの文字があり、枠内には2つの丸形の薄いグレーのボタンがあり、それぞれ左上から順に「生成開始」、「洗浄出る」の文字が黒色で記載されている。各ボタンの内側には、ランプのつく小さな丸い部分がある。
O 操作パネル内の大きい方の円の4分の1の扇形の枠は正面から右側にあり、同枠の上部には、枠線を断絶させる形で「強電解水」の薄いグレーの文字があり、枠内には3つの丸形の薄いグレーのボタンがあり、それぞれ右上から順に「生成開始」、「強酸出る」、「強アルカリ出る」の文字が黒色で記載されている。各ボタンの内側には、ランプのつく小さな丸い部分がある。
P 操作パネル内の大小2つの円の4分の1の扇形の枠の間に、ランプのつく小さな丸い部分があり、その上に薄いグレーの「電源」の文字がある。
Q 操作パネルの面は、外側が若干下降し中央が盛り上がっているなだらかな曲面である。
R 操作パネルの正面から手前部分に薄いグレーの「SA-400DX」の文字がある
B-3-3 吐出口部
S 吐出口部は、中央部分に底面視U字状の突出部があり、同突出部の下部に白いゴム製の円筒状の吐出口ノズルがある。
<21> 庇部の裏面と底面視U字状の突出部との接続部は、庇の裏面が中央の突出部に向かって比較的なだらかに下降する傾斜面であり、底面視U字状の突出部の角筒部における付け根は、庇部の裏面より下にあり、庇部の裏面と角筒部の双方に接しているため、両側面から見ると、突出部は庇部の裏面と角筒部との接触部をぞれぞれ1辺とする両側辺が平行の台形に見える。
<22> 底面視U字状の突出部の幅は比較的細めであり、ゴム製の円筒状の吐出口ノズルは比較的太めで短めである。
B-4 電解槽
<23> 電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有し、2つの槽になっている。仕切部は上部の一部を除いて黒のメッシュ状になっている。
<24> 電解槽の縁位置は、外ケースより高い位置にある。
<25> 電解槽の内側も、本体、蓋体、提手と同じ薄いグレーである。
C 蓋体の形態
<26> 蓋体は本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられている
<27> 蓋体の形状は、両側面、背面の3方向に、やや深めのつばがある
<28> 蓋体の裏面は、正面方向側に蓋体を本体に留めるための突起状の留め具部分があるが、全体として凹凸はない
<29> 蓋ヒンジは、背面に2箇所あり、蓋の着脱が可能な形状である。
D 提手の形態
<30> 提手は、下向きコ字形であって、本体の角筒部両側面に前後回動可能に取り付けられている
<31> 提手は、その全体が、背面からみると二重構造でやや厚めである提手のコ字の形状は、コ字の角部分が比較的弧に近い曲線である
<32> 提手のコ字の両端の本体に留められている部分は、提手部分とほぼ同じ幅のなだらかな形状で隅丸の略ベース型五角形である。五角形の中央には円形状の若干盛り上がった部分がある
(3) 原告商品の形態と被告商品の形態の共通点と相違点
ア 共通点
 上記(1)及び(2)において挙げた点のうち、原告商品と被告商品が共通する点は、各@の全体の構成、各Bの本体の基本的な形態、各Cの角筒部の正面の水量表示部の存在と基本的な形状、各Iの角筒部背面下部のシールの存在、各J及び各Kの庇部の基本的な形状、各Lないし各Pのうち操作パネルの基本的な形状、操作パネル上を2分割する扇形の枠の存在、各扇形における文字の内容、ボタンとランプの存在及び配置状況、各Sの吐出口部の基本的な形状、各<23>の電解槽の基本的な形状、各<26>の蓋体の基本的な取付状況、各<30>の提手の基本的な形状・取付状況である。なお、同各Aのうちの外径寸法はほぼ同じである(以下、原告商品の形態と被告商品の形態の「共通点」、「共通する部分」という場合は、ほぼ同じ部分も含む。)。
イ 相違点
 上記(1)及び(2)において挙げた点のうち、原告商品と被告商品が相違する点は、各Aのうちの本体、蓋体、提手の色、各Dないし各Fの水量表示部の色・位置・目盛り等の形態及び水量計(パイプ)の形態、各Gのシールの内容・色彩、各Hの電源スイッチの有無及びプラグ差込口の形態、各Lないし各Rの操作パネルの形状・色・表示及びボタンの色・表示、各<21>及び各<22>の吐出口部の突出部及び吐出口ノズルの形状、各<24>及び各<25>の電解槽の縁位置及び色、各<27>ないし各<29>の蓋体の形状・蓋ヒンジの個数・形状、各<31>及び各<32>の提手の構造・形状である。
(4) 同種の商品とその形態
 争いのない事実、証拠(乙6、16、17、20、21)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 同種の商品
(ア) 家庭用電解水生成器であって、重曹電解洗浄液生成機能と、強酸性水・強アルカリ水生成機能の双方を備えた商品は、4リットルポット型のものとしては、現在までに原告商品と被告商品しかない。
(イ) 原告商品が販売される以前に販売された家庭用電解水生成器であって、重曹電解洗浄液生成機能と、強酸性水・強アルカリ水生成機能の双方を備えた商品は、MiZ株式会社の「洗浄革命」(1.2リットル卓上型。発売開始時期:平成11年10月下旬ころ)、エコモ・インターナショナル株式会社(以下「エコモ」という。)の「水世紀アクアデュオ」(1.4リットル角型タイプ。発売開始時期:平成12年9月ころ。乙21。以下「アクアデュオ」という。)の2つである。
 アクアデュオは、1.4リットルサイズの角型家庭用電解水生成器であり、電解洗浄水生成器であり、生成した電解水を保存容器に移し替えて使用するものである。アクアデュオは、被告が製造してエコモに供給し、エコモが自社ブランドを付して販売しているものである。
(ウ) 原告商品が販売される以前に販売された家庭用電解水生成器としては、日精技研株式会社が、平成8年ころ以降、貯水型のポット型家庭用電解生成器「アルカリポット」(医療用具承認番号20800BZZ00775000号)を製造している。「アルカリポット」は、電解助剤(カルシウム)を添加した水道水を貯水し、電気分解することにより、飲用の電解水を生成する商品である。
 「アルカリポット」は、洗浄用の電解水ではなく、飲用の電解水を生成する商品であるが、水を貯め、これを電気分解して電解水を生成する家庭用電解水生成器であるから、原告商品及び被告商品と同種商品ということができる。
イ アクアデュオの形態
 アクアデュオの形態は次のとおりである。なお、波線の下線は、前記(1)(2)の原告商品の形態と被告商品の形態が共通する部分(下線のない部分)と共通する部分である。
A 全体の構成
@ 本体、蓋体、提手からなる
A 本体、蓋体、提手の色は白である。外径寸法は、高さ305ミリメートル、幅161ミリメートル、奥行131ミリメートル(突起部を除く)である。
B 本体の形態
B-1 本体全体
B 本体全体の基本的な形態は、底面視の形状が隅丸長方形の角筒形であり(以下「角筒部」という。)、4本の足を持ち、内部に電解槽を備えている
B-2 角筒部
B-2-1 角筒部正面
C 角筒部の正面には、注意書の記載、表示パネル、吐水口がある。
B-2-1-1 表示パネル
D 表示パネルは、銀地の長方形であり、上半分に逆U字型の青色部分、下半分にU字型の青色部分がある。
E 上半分の逆U字型青色部分には、中央に「電解洗浄液」の表示があり、左右にランプ表示部分があり、左側のランプ表示部分の上に「電解」、右側のランプ表示部分の上に「完了」の文字がある。
F 下半分のU字型青色部分には、中央に「強電解水」の表示があり、左右にランプ表示部分があり、同各ランプ表示部分の上に「強アルカリ性」、下に「強酸性」の文字がそれぞれある。
G 上下の逆U字型及びU字型の青色部分で囲まれた中央の銀色部分に、ランプとスイッチがあり、同ランプの向かって右に「電源」の表示、同スイッチの上に「電解開始」の表示がある。
B-2-1-2 吐水口
H 吐出口は、表示パネルの下に、左右に1つずつある。
B-2-2 角筒部右側面
I 角筒部右側面には、吐水操作のためのバルブノブがある。
J バルブノブの左斜め上に「止」、左斜め下に「出」の字が丸で囲まれた表示(青色)があり、青色の弧を描く線(半分は細い二重線、残り半分は太線)で結ばれている。
B-3 電解槽
K 電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有し、2つの槽になっている
C 蓋体の形態
L 蓋体は本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられている
M 蓋体の形状は4方向につばがある。
N 蓋ヒンジは背面に2箇所ある。
D 提手の形態
O 提手は、下向きコ字形であって、本体の角筒部両側面に前後回動可能に取り付けられている
P 提手のコ字の両端の本体に留められている部分は、提手部分に比してやや大きめの円形状になっている。
ウ アルカリポットの形態
 アルカリポットの形態は、次のとおりである。なお、同形態が、電解槽の点を除き、家庭用電気式湯沸かし保温ポットの一般的な形態であることは、当裁判所に顕著である。また、太い波線の下線は、前記(1)(2)の原告商品の形態と被告商品の形態が共通する部分(下線のない部分)と共通する部分である。
A 全体の構成
@ 本体、蓋体、提手からなる
B 本体の形態
B-1 本体全体
A 本体全体の基本的な形態は、底面視の形状がほぼ円である円筒の部分(以下「円筒部」という。)を中心とし、円筒部の上方前方に庇部を有し円筒部の内部に電解槽を備えている
B-2 円筒部
B-2-1 円筒部正面
B 円筒部の正面には、上下に細長い水量表示部を有し、水量表示部は、その中に縦に細長・細幅の窓(水量視認部)を有する
B-2-2 角筒部背面等
C 円筒部の背面下部にはプラグ差込口がある
B-3 庇部
D 庇部は、弧を描いて丸く前方に突出し、庇部の下面には円筒部前面から庇部前端まで達する吐出口部が形成されている
C 蓋体の形態
E 蓋体は、本体の後方縁を中心に上方に開閉可能に取り付けられ、背面に蓋ヒンジがある
D 提手の形態
F 提手は、下向きコ字形又は逆U字形であって、本体の円筒部両側面に前後回動可能に取り付けられる
E 操作スイッチ・ボタン等
G 庇部の上面に操作パネルがある。
(5) 同種の商品が通常有する形態
ア アクアデュオの形態との共通点
(ア) アクアデュオは、原告商品及び被告商品と同様、重曹電解洗浄液生成機能と強酸性水・強アルカリ水生成機能の双方を備えた電解水生成器である。したがって、原告商品及び被告商品の各形態が共通する点のうち、アクアデュオの形態(前記(4)イのとおり)にも共通する形態は、同種の商品が通常有する形態である。
(イ) 原告商品、被告商品、アクアデュオの各形態について共通する部分は、前記(1)(2)の各@の本体、蓋体、提手からなること、各Bのうち全体の基本的な構成は角筒部を中心とし、角筒部の内部に電解槽を備えていること、各<23>のうち電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有し、2槽であること、各<26>の蓋体の取付位置・取付状況、各<30>の提手の形状、取付状況・取付位置である。
(ウ) また、原告商品、被告商品の各形態は共通するが、アクアデュオの形態とは共通すると確認できない点(アクアデュオの形態は不明である点)として、前記(1)(2)の各Iがある。
 同各Iの角筒部背面下部のシールの存在は、通常、家庭用電化製品には型式番号等を示すシールを商品の裏側などに付するのが一般的であるから、電解水生成器としてというよりは、その上位概念たる家庭用電化製品としてありふれている陳腐な形態ということができる。したがって、実質的同一性の判断においては、まったく意味のないもので無視できるものである。
イ アルカリポットの形態との共通点
(ア) 前示のとおり、アルカリポットは、電解水生成器である。したがって、原告商品及び被告商品の各形態が共通する点のうち、アルカリポットの形態(前記(4)ウのとおり)にも共通する形態は、同種の商品が通常有する形態である。また、アルカリポットの形態のうち、電解槽の点以外は、家庭用電気式湯沸かし保温ポットの一般的な形態であるから、アルカリポット、原告商品及び被告商品を含む上位概念としての水を内部に蓄えて電力により変化させるポット型の家庭用電気製品(いわゆる電気式ポット)の通常有する形態ということもできる。
(イ) 原告商品、被告商品、アルカリポットの各形態について共通する部分は、前記(1)(2)の各@の本体、蓋体、提手からなること、各Bのうち角筒部(円筒部)の上方全体に庇部があり、内部に電解槽があること、各Cのうち角筒部の正面に細長・細幅の水量表示部・水量視認部を有すること、各Hの角筒部(円筒部)の背面にプラグ差込口がある点、各J及び各Kのうち庇部の基本的な形状、庇部上面の操作パネルと吐出口部の存在・位置、各<26>の蓋体の位置・取付状況、各<30>の提手の形状・取付状況である。
(ウ) また、原告商品、被告商品の各形態は共通するが、アルカリポットの形態とは共通すると確認できない点(アルカリポットの形態は不明である点)として、前記(1)(2)の各Cのうち各水量視認部の内部にそれぞれ透明のパイプを有する水量計がある点がある。
 しかし、上記の点は、家庭用電気式湯沸かし保温ポットが有する一般的な形態であることは当裁判所に顕著であって、ポット型の電解水生成器としてというよりは、その上位概念たる電気式ポットないし家庭用電化製品としてありふれている陳腐な形態ということができる。したがって、実質的同一性の判断においては、まったく意味のないもので無視できるものである。
ウ 電解水生成器についての「通常有する形態」
(ア) 上記ア(イ)認定に係る形態(原告商品、被告商品及びアクアデュオの各形態の共通点)及びイ(イ)認定に係る形態(原告商品、被告商品及びアルカリポットの各形態の共通点)は、電解水生成器の通常有する形態である。もっとも、個々の形態が通常有する形態であるとしても、その全部を同時に備えること(上記ア(イ)の形態と上記イ(イ)の形態が同じ製品に存在すること)まで直ちに通常有する形態となるものではない。
 そこで、上記ア(イ)の形態と上記イ(イ)の形態が同じ製品に存在することまでもが、同種商品が通常有する形態に該当するといえるか否かを検討すべきである。上記ア(イ)認定の形態のうち、上記イ(イ)認定に存在しないのは、@内部の電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有する点、A全体の基本的な構成が角筒型である点であるので、以下順次検討する。
(イ) 上記ア(イ)認定の形態のうち、内部の電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有するという点について
 電解水生成器は2つの槽を備える必要があり、両方の槽を正面図方向から見て左右に配するか(仕切りは前後方向)、前後に配するか(仕切りは左右方向)、外側と内側に配するか(仕切りは環状)しかない。こうした制約の中で、仕切りを前後方向に配すること(2つの槽を左右に配すること)は、2つの槽の水を同様の条件で使用できる配置であるから、通常想起される技術的な形態であって、最も自然で選択しやすいものということができる。このように、内部の電解槽が前後方向に仕切部を有するという点は、電解水生成器ないし2つの槽に強酸性水・強アルカリ水という2種類の洗浄用水等を生成して使用する電解水生成器であることに由来する技術的な形態であって、最も自然で選択しやすいものであり、既に同種の商品であるアクアデュオにおいても採用されていた形態である。以上の事実からすれば、電解水生成器において、内部の電解槽が正面図方向から見て前後方向に仕切部を有するという点は、当該電解水生成器が前記イ認定に係る形態(いわゆるポット型の形態)を備えている場合においても、やはり、技術的な形態であって、かつ、数少ない選択肢の中で最も自然で選択しやすいものという意味で、通常有する形態というべきである。
(ウ) 上記ア(イ)認定の形態のうち、全体の基本的な構成が角筒型である点について水を入れる容器として一般的な形は円筒型と角筒型である。そして、本体内部の電解槽が仕切りを前後方向に配した場合には左右2槽に分かれることから、円筒体とすると2分された各槽に必要な容積を確保するため円の半径を大きくせざるを得ず、設置場所に大きな面積が必要となってしまう。したがって、槽を2分しても各槽について比較的大きな容積を確保できる角筒体を採用する方が有利である。そうすると、本体を角筒型とすることは、電解水生成器として必要不可欠な2槽を確保しなければならないという制約の中で、仕切りを前後方向に配した以上、通常想起される技術的な形態であって、最も自然で選択しやすいものということができる。そして、これまた既に同種の商品であるアクアデュオにおいても採用されていた形態である。以上の事実からすれば、電解水生成器の全体の基本的な構成が角筒型である点は、当該電解水生成器が前記イ認定に係る形態(いわゆるポット型の形態)を備えている場合においても、やはり、技術的な形態であって、かつ、数少ない選択肢の中で最も自然で選択しやすいものという意味で、通常有する形態というべきである。
(エ) 見方を変えれば、全体の基本的な構成は角筒部を中心とし、内部の電解槽は正面図方向から見て前後方向に仕切部を有するとの形態が、技術的な形態であって、かつ、数少ない選択肢の中で最も自然で選択しやすいものであるからこそ、アクアデュオの形態も、上記形態を備えていると解される。そして、アクアデュオが上記形態を備えていることは、電解水生成器ないし2つの槽に強酸性水・強アルカリ水という2種類の洗浄用水等を生成して使用する機能を有する電解水生成器一般において、上記形態が通常有する形態であることを裏付けるものということができる。
(オ) 以上のとおりであるから、上記ア(イ)の形態(全体の基本的な構成は角筒部を中心とし、内部の電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有するという点を含む。)と上記イ(イ)認定の形態の全部を同時に備えた形態も、同種の商品が通常有する形態として、不正競争防止法2条1項3号による保護の対象から除かれる。
(6) 原告商品と被告商品の形態の実質的同一性の有無
ア 「通常有する形態」を除いた共通点
 上記「通常有する形態」を除くと、原告商品の形態と被告商品の形態が共通する部分は、前記(1)(2)のうち、(ア)各Aのうちの外形寸法、(イ)各Bの本体の角筒部が底面視正方形である点、(ウ)各C、(エ)各Lないし各Pのうち操作パネルの形状、操作パネル上を2分割する扇形の枠の存在、各扇形における文字の内容、ボタンとランプの存在及び配置状況、(オ)各Sの吐出口部の基本的な形状、及び(カ)各<23>の電解槽仕切部の黒のメッシュの点である。
 なお、このほかに、原告商品、被告商品の各形態は共通するが、他の電解水生成器の形態と共通するか否か確認できない点として、前記(1)(2)の各Iの角筒部背面下部のシール、前記(1)(2)の各Cのうち各水量視認部の内部にそれぞれ透明のパイプを有する水量計がある点がある。これらの点については、電解水生成器の上位概念である電気式ポットないし家庭用電化製品としてありふれている陳腐な形態であり、実質的同一性の判断においては、まったく意味のないもので無視できるものであることは、前記のとおりである。
イ 各共通点についての検討
(ア) 本体の高さ、幅、奥行(前記(1)(2)の各A)について
 本体の高さ、幅、奥行は、一般的には、4リットルという容量を前提としても、選択の余地があるものではある。しかし、証拠(甲1、2)によれば、生成された電解水は速やかに保存容器に移さなければならず、4リットル用の電解水生成器からは1回の電解で強酸性水・強アルカリ水が各2リットル作られるから、保存容器も2リットル程度の容量のものとなることが認められる。したがって、4リットル用の電解水生成器は、2リットル程度の保存容器と吐出口ノズルが見合う高さとし、吐水の際に保存容器を電解水生成器本体と干渉することなく置くことができること、電解水生成器自体が不必要に広い面積の設置場所を要せず、かつ安定的に置くことができることが技術的に必要であり、加えて提手を持って持ち運び可能であることも必要であるから、これらを前提とすれば自ずと定まってくるものであって、その選択の幅はさほど広くはないものと認められる。そして、原告商品及び被告商品の高さ、幅、奥行の比率は、従来の家庭用湯沸かしポットと比べて、特異な比率であるということもできない。したがって、原告商品の本体の高さ、幅、奥行の長さは、大まかにみれば、普通に想定される高さ、幅、奥行の具体的な長さの組合せの中から、その一つを選択したものということができ、被告商品について、これが共通することは、実質的同一性の評価において、さほど大きく評価するべきものではない。
 なお、原告商品の本体の高さ、幅、奥行を厳格にみたときには、被告商品の本体の高さ、幅、奥行とはミリ単位では異なるから、両者は全く同一であるとまでいうことはできない。
(イ) 本体の角筒部が底面視正方形である点(前記(1)(2)の各B)について本体の角筒部の底面の形状は、本体の幅と奥行で決まる。角筒型において、底面が正方形である(すなわち、幅と奥行が同じ)というのは、特段特色のあるものということはできない(ちなみに、円筒型の電気式ポットでも、本体の幅と奥行が同じであることが多いことは当裁判所に顕著である。)。したがって、被告商品について、底面が正方形である(本体の幅と奥行が同じである)ことが共通することは、実質的同一性の評価において、さほど大きく評価するべきものではない。
 なお、上記(ア)の原告商品及び被告商品の奥行は、本体の奥行と庇部の張出しの長さの合計である。そして、庇部は、その先端にある吐水口から出る水を受ける容器と合わせ易く注ぎ易い位置に、吐水口を配置できる長さとすることが必要であるから、庇部の張出しの長さは、一般にほぼ一定の長さに定まるものであり、原告商品及び被告商品の庇部の張出しの長さも、一般的な長さということができる。したがって、原告商品及び被告商品の幅と奥行の比率は、両者の本体が底面視正方形であることによる影響が大きい。とすれば、本体の角筒部が底面視正方形である点は、実質的同一性の評価においては、高さ、幅、奥行の具体的な長さの点と併せて、全体として普通に想定される形態の中から一つを選択したものと評価することができる。
(ウ) 水量表示部・水量視認部・水量計(以下「水量表示部等」という。)が合計2つ縦に並列して存在する点(前記(1)(2)の各C)
 証拠(乙17)によれば、アルカリポットにおいて、吐出口につながるパイプはアルカリイオン水の水槽にのみつながっていることが認められ、この事実によれば、アルカリポットは、飲用アルカリイオン水を生成して、これを吐出口から吐出するものであって、吐出する水が一種類であるから、水量表示部等も1つであるものと認められる(アルカリポットは、電解水生成器である以上酸性水も生成されるはずであるが、酸性水は飲用ではなく、誤飲を避けるなどのため、アルカリイオン水のように吐出口からの吐出はされないものと推認される。)。これに対し、原告商品及び被告商品は、2つの槽を備えるとともに、強酸性水・強アルカリ水生成機能を有し、同機能を使用した場合はこの2種類の水を吐出する。したがって、原告商品及び被告商品において水量表示部等を設けるに当たっては、同時に2種類の水を生成する機能があり槽も吐出する水も2種類ある以上、各槽ごとの水量の確認が必要となるから、水量表示部等を2つとすることは、技術的な形態であって、かつ、数少ない選択肢の中で最も自然で選択しやすい形態である。よって、2つの水量表示部等を設けることは、その意味で同種の商品が通常有する形態というべきである。また、2つの槽の各々に縦長の水量表示部等を1つずつ設ける以上、2つが並列するのは不可避であって、これまた同種の商品(うち特に電解水生成器であって強酸性水・強アルカリ水生成機能を有するもの)が通常有する形態である。
(エ) 操作パネルの共通部分(前記(1)(2)の各Lないし各P)について
 操作パネル全体の形状が半円状の扇形に近い形であるのは、庇部が弧を描いて丸く前方に突出し、庇部上面が半円状の扇形に近い形であり、操作パネルはその庇部上面に設置されていることに由来すると認められる。前記のとおり、庇部が弧を描いて丸く前方に突出していることは、電解水生成器が通常有する形態であり、また、一般的な家庭用電気式ポットが通常有する形態でもあるから、上記の操作パネルの形状も、庇部上面に設置する場合には、扇形あるいはそれに近い形状とすることは、極めて一般的であり、普通に想定される形態の中の選択肢の一つであって、同種商品が通常有する形態であるか否かはともかく、少なくとも、実質的同一性の評価において、大きく評価することはできない。
 また、原告商品と被告商品が、重曹電解洗浄液生成機能と強酸性水・強アルカリ水生成機能の双方を備え、それぞれについて操作ボタンを設置することが必要であり、誤操作を防止するため、上記の2つの装置の操作を明確に区別するという意味においては、表示を2分割することも不可避的な形態であり、前記(4)イで認定したとおり、アクアデュオの表示パネルも2分割されている。そして、扇形の操作パネルを2分割する場合、半円状の扇形に近い形を左右に分けて、円の4分の1の扇形とすることも、操作パネル全体の形状からすれば極めて一般的であり、普通に想定される形態の中の選択肢の一つであって、実質的同一性の評価において、大きく評価することはできない。
 他方、操作パネル内のボタン、ランプ、これらに付された文字ないし表示については、原告商品と被告商品は、α)左側の扇形には、「電解洗浄水」ないし「電解洗浄液」の文字、ボタン、「生成開始」、「洗浄出る」の文字、ランプがあり、β)右側の扇形には、「強電解水」の文字、ボタン、「生成開始」、「強酸出る」、「強アルカリ出る」の文字、ランプがあり、γ)中央にはランプ、「電源」の文字があるところ、前記(4)イで認定したとおり、アクアデュオの表示パネルについては、α)区分された上半分に「電解洗浄液」、「電解」、「完了」の表示、ランプがあり、β)区分された下半分に「強電解水」、「強アルカリ性」、「強酸性」の表示、ランプがあり、γ)中央に「電源」、「電解開始」の表示、スイッチがあり、その内容は異なっている。また、原告商品と被告商品とでは、ボタンの数、配置、ランプの数、配置もまったく同一である。
(オ) 吐出口部の基本的形状(前記(1)(2)の各S)について原告商品と被告商品が共通する前記(1)(2)の各Sの吐出口部の基本的な形状は、中央部分に底面視U字状の突出部があり、同突出部の下部に白いゴム製の円筒状の吐出口ノズルがあるというものである。このうち、吐出部の中央部分に底面視U字状の突出部があることは、家庭用湯沸かしポットの吐水口にもまま見られる一般的な形態であることは当裁判所に顕著であって、普通に想定される形態の中の選択肢の一つにすぎないから、実質的同一性の判断においてさほど大きく評価することはできない。
 他方、突出部の下部にゴム製の管状の吐出口ノズルを設けることは家庭用電気式湯沸かし保温ポットにはない形態である(なお、ゴム製の吐出口ノズルが設置されているのは、生成された電解水を吐水口から保存容器としてペットボトル等の注ぎ口が細いものが使用される場合にこぼれることのないように注ぐためのものと考えられる。)。
(カ) 電解槽仕切部の黒のメッシュ(前記(1)(2)の各<23>)について
 上記は、蓋を開けて中をのぞき込まなければ見えない点であって、実質的同一性判断において、大きく評価することはできない。
ウ 各相違点についての検討
 原告商品の形態と被告商品の形態で相違する点は、前記(3)イのとおりである。
(ア) 色(前記(1)(2)の各A、各<25>)
 本体、蓋体、提手すなわち商品の外側全体及び電解槽の内側の色は、原告商品は薄いピンク、被告商品は薄いグレーであり、色が異なる。
(イ) 水量表示部(前記(1)(2)の各Dないし各F)
 水量表示部が、細長丸隅長方形で縦に2つ並列して角筒部正面にあることそれ自体は、前記認定のとおり、同種商品が通常有する形態であるが、それ以外の選択の余地がある部分、すなわち水量表示部の色・位置・目盛り等の形態及び水量計(パイプ)の着色の有無は、原告商品と被告商品とで相違している。
 特に、水量表示部の隅丸細長の長方形の形状は、原告商品が比較的太く短いのに対し、被告商品は比較的細く長い。これに加えて、水量表示部の色は、原告商品では本体が薄いピンクであるのに対して薄いグレー、被告商品では本体が薄いグレーであるのに対して濃いグレーであることから、原告商品の水量表示部は短く幅広であり、被告商品の水量表示部は細長である印象が強められている。
 また、目盛りの刻み方も、同じ2リットルを表示するものであっても、目盛り線の本数に2本の差があり、目盛りの数字の表示の内容・方法も、「0」表示の有無、表示位置(角筒部に対して内側か外側か)において異なっている。そして、被告商品では、目盛り線の本数が多いことから、なおいっそう水量表示部が原告商品よりも細長である印象を強化している。また、目盛り線の色も、原告商品では薄いグレーの水量表示部に対し黒い線であり、被告商品では濃いグレーの水量表示部に対して白い線であって、異なる印象を生じさせる。
(ウ) 操作パネル・ボタンの色・表示等(前記(1)(2)の各Lないし各R)
 原告商品では、薄いグレー地をベースとした操作パネルの上に、濃い青、濃いピンク、黒の二重線の枠があり、ボタンの色も濃い青、濃いピンク、黒い線・濃い青の線・濃いピンクの線で囲んだものであるのに対し、被告商品では、濃いグレー地をベースとした操作パネルの上に、枠はすべて薄いグレーで、ボタンの色も5個がすべて薄いグレーに統一されている。
 原告商品の操作パネルは半円状の扇形で、平面であり、正面視ではむしろ凹状に見えるのに対し、被告商品の操作パネルは、隅丸の長方形ないし角張った形に変形された半円状扇形であり、かつ凸状の曲面であるという差異がある。これらの差異により、操作パネル部の印象は異なるものとなっている。
(エ) 吐出口部の突出部及び吐出口ノズルの形状(前記(1)(2)の各<21>及び各<22>)
 吐出口部の突出部及び吐出口ノズルの形状は、突出部下部にゴム製の管状の吐出口ノズルがあることは、同種商品が通常有する形態ではないにもかかわらず、原告商品と被告商品とで共通する形態ではある。しかし、原告商品は、突出部の幅が太めで吐出口ノズルが細めで長めであるのに対し、被告商品は、突出部の幅が細めで吐出口ノズルが太めで短めである。これらの差異があるので、庇部の裏面と突出部との接続部の形状が異なることも相まって、突出部やノズルの形態が同一であるとまではいえない。
(オ) 蓋体の形状、蓋ヒンジの個数・形状、電解槽の縁位置(前記(1)(2)の各<24>、各<27>ないし<29>)
 原告商品は、蓋体の裏面の筋状の突部があるものの蓋体自体につばはなく、蓋ヒンジも1個であり、蓋体がコンパクトな印象を与えるものとなっている。他方、被告商品は、蓋体の裏面は平坦であるが三方につばがあり、蓋を開口した場合、蓋ヒンジが2つであることもあって、蓋体が大きく広がっている印象を与える。また、被告商品は、蓋体が三方につばがあることに対応して、電解槽の縁位置が外ケースより高くなっている点も、蓋体の蓋の仕方の違いとして認識されるから、蓋の部分の印象の相違に関係しており、全く無視できるものではない。
 また、両者の蓋ヒンジの形状の相違により、原告商品は蓋体の着脱ができないのに対し、被告商品は蓋体の着脱が可能となっている。需要者は、通常、電解水生成器を使用する際に、蓋を開口して、水を電解槽内に注ぎ込んだり、本体及び蓋体を洗浄するから、水の注入時及び洗浄時の便宜として、蓋ヒンジの形状につき、蓋体の着脱の可否を確認し、着脱できる形状の場合は、蓋を外して利用することも多いことは推測に難くない。このことからすれば、着脱の可否を異ならせる蓋ヒンジの形状の違いは、必ずしも微差であるとはいえない。
(カ) 提手の構造・形状(前記(1)(2)の各<31>及び各<32>)
 原告商品では、提手は全体として比較的細めでコ字状部分が比較的角張った印象を与えるのに対し、被告商品では、提手は全体として比較的幅のある太いもので、コ字状部分が比較的丸い印象を与え、両者は同一とはいえない面がある。
(キ) シール(前記(1)(2)の各G)
 シールの内容・色彩は異なってはいるが、角筒部下部に貼付されたシールにすぎず、その大きさも本体全体の大きさからすれば小さな部分なので、その差異は無視しうるものである。
(ク) 電源スイッチの有無及びプラグ差込口の形態(前記(1)(2)の各H)
 これらは、角筒部の背面下部にあるものであって、さほど目立つものではないが、電源スイッチや水濡れ防止用のつばは機能的な相違をもたらしており、形態の相違としても完全に無視できるものではない。
エ 実質的同一性の有無
(ア) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨は、他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにも関わらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にただ乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価することができる。また、このような行為により模倣者が開発・商品化のための資金・労力をかけずに先行者と市場において競合することを許容するならば、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することになる。このような観点から、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたものと解される。
(イ) 前記(4)認定に係る同種の商品の形態と原告商品を対比すると、原告商品の形態中、電解水生成器のうち重曹電解洗浄液生成機能と強酸性水・強アルカリ水生成機能を備えたもの(電解洗浄水生成器)として、従来の製品(アクアデュオ)と異なるのは、ポット型を採用した点にあると認められる。しかし、電解水生成器においてポット型を採用することは、既にアルカリポットにおいて行われていたから、ポット型であること自体は同種商品が通常有する形態であって、不正競争防止法2条1項3号による保護の対象とはならない。
(ウ) 原告商品は、全体の基本的な構成は角筒部を中心とし、内部の電解槽は、正面図方向から見て前後方向に仕切部を有するという従来の製品(アクアデュオ)の形態を保ちつつポット型を採用している点で、アルカリポットの形態とは異なる。しかし、これが原告商品と同種の商品が通常有する形態であることは前示のとおりである。また、原告商品は、水量表示部等が合計2つ縦に並列して存在する点においても、新規な形態と認められるが、これまた同種商品が通常有する形態であることも前示のとおりである。
 さらに、原告商品と被告商品の共通点である本体の高さ、幅、奥行の長さや本体の角筒部が底面視正方形である点、操作パネルの形状や表示の2分割、ボタンの位置の点も、しばしば見られる一般的な形態で、普通に想定される形態の中の選択肢の一つにすぎないから、実質的同一性の評価において、さほど大きく評価するべきものではないことは前示のとおりである。
 そして、それ以外の原告商品と被告商品の共通点は、操作パネル2分割について、円の4分の1の扇形とする点、ボタンの数・配置、表示文言、ランプの数・配置、吐出口部の基本的形状、電解槽仕切部の黒のメッシュ、シールや水量表示部の内部のパイプといった、細部にわたる小さな形態や目立たない形態ないし一般的でよく見られる形態である。
 他方、被告商品は、細部の具体的な形状をみると、前記(3)イのとおり、水量表示部、電源スイッチやプラグ差込口、操作パネル、吐出口部、電解槽の縁位置、蓋体や蓋ヒンジ、提手など、少なくない点で原告商品と相違し、蓋の取外しやスイッチによる入力の可否などの機能の相違ももたらしている。また、この形状の相違に加えて、薄いピンクを基調としてボタンに濃い青や濃いピンクを配する原告商品と異なり、操作パネルや数量表示部も含めて全体をグレーでまとめているという色彩の違いも相まって、原告商品は可愛らしい印象であるのに対し、被告商品はこれよりも渋くしっかりした印象をもたらしているという印象の相違もある。
 上記同種商品が通常有する形態を除いた原告商品と被告商品の共通点は、その形態について他の選択肢がないとはいえないにせよ、しばしば見られる一般的な形態で、普通に想定される形態の選択肢の中の一つにすぎないというべきもの、細部にわたる小さいもの、目立たないものが多いことを考慮すると、これら共通点が、両商品の相違点を圧倒して無視できるほどのものとまでいうことはできないから、原告商品と被告商品が実質的に同一であるとすることはできない。換言すれば、被告商品も、通常有する形態や一般的で普通に想定される形態の選択肢の中の一つにすぎない形態以外の点では、相当程度に原告商品とは異なる選択をしており、開発・商品化に当たりそれなりに資金・労力を投下したものと認められるから、これを原告商品のデッドコピー(実質的に同一のもの)とすることはできないのである。
(7) 原告の主張について
ア 容器本体の形状とサイズ
 原告は、ポット型ではなく、ジャー型にするという選択肢もあるし、ポット型を前提としても、容器本体の形状を平面的に正方形、長方形、楕円形等にする余地があるし、4リットルにする必然性もないと主張する。
 しかしながら、ポット型の電解水生成器としてアルカリポットが従前から存在するから、ポット型という形態を採用したという点で共通であったとしても、それは、同種商品が通常有する形態であって、不正競争防止法2条1項3号の保護の対象となるものではない。
 また、本体の形状についても、底面視が正方形の他にも、長方形等の選択肢はあるが、正方形は、一般的で普通に想定される形態の選択肢の中の一つにすぎない形状であって、実質的同一性の評価においてさほど大きく評価するべきものではないことは前示のとおりである。
 4リットルというサイズは、それ自体が形態ではないから、原告の主張は失当である。
イ 蓋体の設置位置と方法
 原告は、蓋体はネジ式とか、左右開閉式など、いろいろなバリエーションが考えられるので、設置位置と方法を同じくする必然性はないと主張する。
 しかし、蓋体の設置位置及び取付方法は、アクアデュオ及びアルカリポットと同一であって、同種商品が通常有する形態であることは前示のとおりである。
ウ 水量表示計の取付位置
 原告は、水量表示計の取付位置が同一であることを実質的同一性の根拠として指摘するが、原告商品及び被告商品における水量表示計の取付位置が、同種商品が通常有する形態であることも前示のとおりである。
エ 電解槽の仕切方法
 原告は、電解槽の仕切方法を同一にする必然性はないと主張するが、原告商品及び被告商品における電解槽の仕切方法が、同種商品が通常有する形態であることは前示のとおりである。
オ 提手の形状と取付位置
 原告は、提手は容器本体との設置点を2箇所から4箇所にするなどの余地があり、その形状と取付位置を同一にする必然性はないと主張するが、原告商品及び被告商品における提手の形状と取付位置は、アクアデュオ及びアルカリポットと同一であり、同種商品が通常有する形態であることは前示のとおりである。
カ 操作パネルの各スイッチの位置
 原告は、操作パネル、ボタンの位置、吐水口の位置等についてバリエーションが考えられ、かつスイッチの設置箇所も本体の横に設置する等の方法もあり、同一にする必然性はないと主張する。
 しかし、操作パネルを庇部上面に設置すること及び庇部下面に吐水口部を設けることが、同種商品が通常有する形態であることは前示のとおりである。また、ボタンの配置は、原告商品と被告商品とで同一であるが、そのことを考慮しても、全体として、原告商品と被告商品が実質的に同一ということができないことも、前示のとおりである。
(8) まとめ
 以上より、被告商品の形態は、原告商品の形態と実質的に同一ではないので、被告が被告商品を販売することが、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するということはできない。また、これを民法709条に該当するとすることもできない。
2 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田知司
 裁判官 高松宏之
 裁判官 村上誠子
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/