判例全文 line
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【事件名】顧客情報プログラムのロイヤリティ契約事件
【年月日】平成19年4月25日
 東京地裁 平成17年(ワ)第8240号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年3月6日)

判決
原告 破産者バディ・コミュニケーション株式会社破産管財人 田川淳一
同訴訟代理人弁護士 吉野正己
被告 株式会社ハドソン( 以下「被告ハドソン」という。)
被告 ジェイビートゥビー株式会社(以下「被告ジェイビートゥビー」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 田口明
同 前田哲男
同 中川達也


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 主位的請求
(1) 被告ハドソンは、原告に対し、金1億3000万円及びこれに対する平成17年12月13日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告ジェイビートゥビーは、原告に対し、金1950万円及びこれに対する平成17年12月13日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告らは、原告に対し、連帯して、金1700万円及びこれに対する平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(1) 被告らは、別紙1物件目録1記載のプログラムを複製又は翻案してはならない。
(2) 被告らは、別紙1物件目録1記載のプログラムの複製物を譲渡又は貸与してはならない。
(3) 被告らは、別紙1物件目録1記載のプログラムを格納したCD-ROM、ハードディスク等の記憶媒体を破棄せよ。
(4) 被告ハドソンは、原告に対し、金1億3000万円及びこれに対する平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告ジェイビートゥビーは、原告に対し、金1950万円及びこれに対する平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告らは、原告に対し、連帯して、金1700万円及びこれに対する平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 主位的請求に対する本案前の答弁
 原告の主位的請求は、いずれも却下する。
4 主位的請求及び予備的請求に対する答弁
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、破産者バディ・コミュニケーション株式会社(以下「バディ」という。)の破産管財人である原告が、バディが被告ハドソンから発注を受けて別紙1物件目録1記載のコンピュータプログラムを作成し、同プログラムの著作権を有することを前提に、
 主位的請求として、被告ハドソンに納入した同プログラムの複製物を被告ハドソンが他社に販売又は貸与する場合には、その販売及び貸与について被告ハドソンからバディに対してロイヤリティを支払う旨の合意が成立し、被告ジェイビートゥビーにおいて、被告ハドソンの当該業務を承継して上記契約上の立場を承継したとして、上記合意に基づき、被告ハドソンに対し1億3000万円及び被告ジェイビートゥビーに対し1950万円並びにそれぞれについて、同請求を行った本訴の第4回弁論準備手続期日の翌日である平成17年12月13日から支払済みに至るまで年6分(商事法定利率)の割合による遅延損害金の支払を、一部請求として求めるとともに、民法709条に基づき、被告らに対し、弁護士費用相当の損害1700万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分(民法所定の利率、以下同じ。)の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、
 上記ロイヤリティ支払の合意がないとされる場合の予備的請求として、バディは、被告ハドソンの従業員に欺罔されて、当該支払がされる旨信じたために、上記プログラムの複製物の販売及び貸与について許諾をしたものであり、当該許諾は錯誤により無効となり、結局、被告らによる複製物販売及び貸与について著作権者である原告の許諾がないこととなるから、上記プログラムについての原告の著作権(譲渡権又は貸与権)を侵害したものとして、著作権法112条に基づき、被告らに対し上記プログラムの複製等の差止め等、民法709条および704条に基づき、ロイヤリティ相当の損害及び不当利得(被告ハドソンについて1億3000万円、被告ジェイビートゥビーについて1950万円)並びに遅延損害金(訴状送達日の翌日である平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合)の支払を求めるとともに、民法709条に基づき、被告らに対し、弁護士費用相当の損害1700万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年5月3日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。
 これに対し、被告らは、まず、主位的請求に係る本件訴えは、バディと被告ハドソン間の別件の事件について、更に訴えを提起するものであり、不適法な訴えとして却下されるべきであると主張するとともに、ロイヤリティ支払合意の存在、上記プログラムの著作物性、原告が同プログラムの著作権を有していること、被告らが同プログラムの複製物を貸与したことについて、それぞれ否認して争い、さらに、同プログラムの複製物の譲渡・貸与があるとしても、同行為に対してはバディの許諾があること、原告の譲渡権は消尽していることも主張して争っている。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア バディは、コンピュータソフトウェアの開発・販売及び運営管理、コンピュータ利用に関するコンサルタント業務等を業とする会社であるが、平成19年2月9日に破産手続開始決定を受け、原告が破産管財人に選任された(弁論の全趣旨)。
 原告は、平成19年2月23日に、本件訴訟手続を受継する申立てをした。
イ 被告ハドソンは、通信機器の販売、コンピュータソフトウェアの製作、販売等を業とする会社である。
ウ 被告ジェイビートゥビーは、情報処理及び情報提供のサービス業、これに関連するコンピュータ機器及びソフトウェアの開発、販売、賃貸等を業とする会社であり、被告ハドソンと資本関係がある関連会社である。
(2) 原告及び被告ハドソン間の取引の概要
 バディは、平成9年4月ころ、被告ハドソンとの間の請負契約に基づき、丸井今井百貨店(以下「丸井今井」という。)に対し、顧客分析・管理システムを納入した(以下、原告から丸井今井に納入されたシステムを「本件システム」という。なお、別紙2物件目録2記載のうち、データベースを除いたアプリケーション・プログラムが、ほぼ本件システムに相当する(弁論の全趣旨))。
 被告ハドソンは、その後、本件システムを「P2/S」という商品名で、丸井今井以外にも導入していくこととし(以下、本件システムを「P2/S」ともいう。なお、別紙1物件目録1記載1の「SORAN P2S」は、これに相当するものと認められる(弁論の全趣旨)。)、導入先に合わせてカスタマイズ(仕様変更)することとした。そして、P2/S については、平成10年から平成11年に、大丸百貨店(以下「大丸」という。)及び韓国のロッテ百貨店(以下「ロッテ」という。)に導入し、それぞれ、カスタマイズを行った。さらに、P2/S を百貨店向けからスーパーマーケットや生協向けに改良して、「P2/R」というシステムとし(以下、同システムを「P2/R」という。別紙1物件目録1記載2の「SORAN P2R」は、これに相当するものと認められる(弁論の全趣旨)。)、平成11年に、鹿児島生協に導入し、カスタマイズを行った。
 被告ハドソンは、平成11年から平成12年にかけて、丸井今井に納入済みの本件システム(P2/S)について、売上げだけからではなく、仕入データからも分析できるように改良する作業を行った。
 また、被告ハドソンは、平成12年から平成13年にかけて、本件システムの内容をASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)システム(インターネットを通じた汎用アプリケーション提供サービス(乙9))化する開発を行い(以下、同システムを「ASP システム」という。別紙1物件目録1記載3の「SORAN ASP」は、これに相当するものと認められる(弁論の全趣旨)。また、本件システム(P2/S)、P2/R 及びASP システムを併せて「本件各システム」という。)、株式会社マルト(以下「マルト」という。)向けの導入業務を行った。
 バディは、被告ハドソンとの契約に基づき、これらの作業に携わり、それぞれの作業の成果を、各導入先に納入した。
(3) 被告ハドソンから被告ジェイビートゥビーに対する業務移管
 被告ハドソンは、平成13年3月ころ、本件各システム及び顧客動向分析・管理システムに関する事業を、被告ジェイビートゥビーに売却し、以降、被告ジェイビートゥビーが同事業を行っている。
(4) バディの被告ハドソンに対する別件の訴訟提起
 バディは、被告ハドソンに対し、平成14年11月ころ、横浜地方裁判所小田原支部に委託業務料支払等請求事件(同裁判所平成14年(ワ)第769号、以下「別訴」という。)を提起し、平成13年1月から平成14年2月までの業務委託料の支払及び立替金の返還を請求した。別訴においては、本件システム等の大丸等への導入に係るロイヤリティの請求はされていない。
 別訴については、平成17年8月31日に第1審判決の言渡しがされたが(甲31)、その後控訴の手続がとられ、平成18年9月25日、控訴審において和解が成立して終了した(当裁判所に顕著な事実)。
2 争点
(1) 主位的請求は重複する訴えの提起となるか(争点1)
(2) バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意の有無(争点2)
(3) 本件システムの著作物性の有無(争点3)
(4) 本件システムについてバディが著作権を有しているか(争点4)
(5) 本件各システムの各取引先への導入は、本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡か、又は、貸与か(争点5)
(6) 本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡又は貸与についてのバディの許諾は錯誤により無効となるか(争点6)
(7) 本件各システム(又はそれらの複製物)についての譲渡権は消尽しているか(争点7)
(8) 主位的請求に係るロイヤリティ額等及び予備的請求に係る原告の損害及びその額(争点8)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(主位的請求は重複する訴えの提起となるか)について
(被告らの主張)
 原告の主位的請求は、後記(2)(原告の主張)のとおり、被告ハドソンがバディにカスタマイズ作業を委託する際に、作業委託代金とは別にロイヤリティをプラスアルファとして支払う旨の合意が成立しており、その合意に基づくロイヤリティを請求するというものである。そうすると、1つの契約における対価の請求として2種類のものがあったと主張していると解される。
 しかしながら、バディは、横浜地方裁判所小田原支部に別訴(同裁判所平成14年(ワ)第769号委託業務料支払等請求事件)を提起して、委託代金の請求をしたが、ロイヤリティ支払を当該請求の対象から除外していない。そして、社会通念に照らして1個と認められる契約に基づく対価の請求は、その本体部分であれ、本体部分のプラスアルファの部分であれ、訴訟物は1個と考えるべきであり、少なくとも社会通念上1個の紛争として1回の訴訟で解決をはかることが訴訟経済及び当事者間の公平に合致するといえる。
 したがって、本件訴訟における主位的請求は、重複する訴えに該当し、不適法であるから、却下されるべきである。
(原告の反論)
 被告らの主張は争う。
(2) 争点2(バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意の有無)について
(原告の主張)
ア バディと被告ハドソン間の合意に至る状況
 バディが平成9 年4 月ころに丸井今井に納入した本件システムは、NCR3600というデータベース専用機で動いていたシステムを、ハードウェアをDec8200というサーバコンピュータに交換し、同サーバ内に米国サイベース社のデータベースソフトである「Sybase-IQ」という新しいソフトウェアを置き、 丸井今井の各パソコンから指示されたとおりに、Sybase-IQ内に構築されたデータベースからデータを取り出して処理するという全く新しい顧客管理システムである。データベースの箱となるスキーマーを作るプログラム、データベースを動かすパソコン側でのアプリケーションプログラム及びサーバ側でのデータベース運用プログラムの新規開発等について、バディが被告ハドソンから業務委託を受けたものであった。
 本件システムは、丸井今井向けに開発したプログラムであったが、被告ハドソンにおいて、これを、他の百貨店等にパッケージとして複製販売することを計画し、そのころ、被告ハドソンの部長を務めていたAから、業務委託料とは別にロイヤリティを支払う旨の話が出てきたものである。
イ バディと被告ハドソン間の合意
(ア) 被告ハドソンは、上記アのとおり、平成9年春ころより、丸井今井に納入した本件システムをP2/Sとして、富士通株式会社(以下「富士通」という。)等を通じて、他にも導入できるようにしていくことを意図していたが、同年4月22日、被告ハドソンのAは、バディ代表者であったBに対し、本件システムのパッケージ販売等が行われる場合は、被告ハドソンからバディに対し、ロイヤリティを支払うと述べて、本件システムのパッケージ販売等について著作権者である原告の許諾を求めるとともに、販売先がカスタマイズを望む場合には、バディにこの作業を委託し、カスタマイズ作業代金とは別に、ロイヤリティを支払うとの申入れをした。これは、本件システムの開発内容が途中で追加されるなどして、当初の予定よりも開発作業期間が長くなり、そのための追加作業代金及び交通費の支払をBからAに要求した際に、Aが、「予算がないので開発費は当初予定した650万円以上は支払えない。」と述べる一方で、「ここで開発したシステムをパッケージとして他にも販売していくので期待してほしい。そのときにはバディにライセンス料が入るので、それで過去の作業代金等を清算することにしてほしい。」と述べたものである。
 Bは、Aのこの発言を信じ、ロイヤリティが将来支払われると信じたからこそ、平成9年1月から同年3月までの追加開発費の請求をしなかった。
 ただし、この時点では、Bは、過去の業務委託料が、売れるか否かわからないシステムの将来のロイヤリティに置き換えられてしまうことに、全く納得していなかった。
(イ) 平成9年7月31日、再びAとBの打合せが行われた。Bは、Aから、本件システムのパッケージは富士通、東芝、伊藤忠を通じて販売する予定であり、各エンドユーザーがパッケージを導入した場合は、原告に対しロイヤリティとしての支払を行うとともに、各エンドユーザーのカスタマイズ作業も別途生じるので、その業務委託料もプラスアルファとして支払う旨の申入れを受け、これを了解した。
 したがって、この時点で、その後に被告ハドソンが本件システムの複製販売等を行う場合は、ロイヤリティの支払があることを前提に、バディが同複製販売を許諾するとともに、被告ハドソンが必要なカスタマイズ作業をバディに委託し、委託代金を支払うとの基本的な枠組みが合意された。
 なお、この際、Aから、各エンドユーザー当たりのロイヤリティ額が1200万円から1300万円の予定であることが言及された。
(ウ) 平成10年になると、本件システムの大丸及びロッテへの販売が具体化し、同年2月17日、AとBの間で、これに伴う金銭の支払についての打合せが行われた。その席上でも、Aから、ロイヤリティを支払う旨の話がされた。その後、バディにより、以下のとおりカスタマイズ作業が行われた。
 同10年4月ころから同年8月ころまで 大丸
 同年10月ころから平成11年2月ころまで ロッテ
(エ) Bは、富士通を通じた本件システムの複製販売等が具体化する一方で、ロイヤリティ支払等の具体的話合いがされなかったことや、当時、バディが丸井今井、大丸及びロッテ向けのカスタマイズ作業を行い、更には、P2/Rの開発作業に従事しているにもかかわらず、被告ハドソンから対価を支払ってもらえなかったことから、状況を確認し合い、無報酬のままで開発作業を続ける状況を何とか改善したいと考えて、平成10年10月19日、東京の八重洲富士屋ホテルでAと話合いを行った。
 その際、Aから、大丸やロッテ等のエンドユーザーに本件システムの複製販売等がされる場合は、保守やカスタマイズの作業料金とは別に、ロイヤリティとして「プラスアルファ」がその都度支払われる旨の申入れが、改めてなされ、Bは、これに同意した。
 このとき、具体的なロイヤリティの料率まで口頭で明確に話し合われなかったが、Bとしては、システム業界のロイヤリティの基準として、エンドユーザーへの小売価格の3分の1が支払われるべきであり、本件システムのロイヤリティも、これに従って支払われるものと考えていた。また、Aも、同じシステム業界の人間として、ロイヤリティとして「プラスアルファ」を支払う旨述べた以上は、荒唐無稽な低料率ではなく、バディと同じような料率を想定していたと考えるのが合理的である。
 なお、この支払の履行期限については、明示の定めがなく、民法412条3項の「期限の定めのない債務」として、バディが被告ハドソンに対して支払を請求した時に履行期が到来するというのが当事者の合理的意思と考えられる。
 したがって、遅くとも平成10年10月19日に、バディと被告ハドソンの間で、以下のような内容での合意が成立した。
@ バディは、被告ハドソンが富士通を通じてエンドユーザーに本件システムを複製し、その複製物を販売・公に貸与することを許諾する。
A 被告は、バディに対し、@の許諾の対価であるロイヤリティとして、各エンドユーザーへの小売価格(貸与価格)の3分の1を支払う。
B このロイヤリティの支払は、履行期限の定めがなく、バディが請求したときに支払う。
 なお、上記合意のうち、@は明示の合意であり、A及びBは、上記の各事情から黙示に成立した合意である。
(オ) 上記平成10年10月19日の打合せにもかかわらず、ロッテに関する作業に係る支払について、バディから被告ハドソンに対する請求ができなかったので、Bは、Aに面談を申し入れ、平成11年1月8日にAとの打合せを行った。このときに、Aから、従来より開発を進めていたスーパー量販店向けのP2/Rを鹿児島生協に導入することになった旨が明らかにされ、ロッテとともに、鹿児島生協についても、ロイヤリティ支払と、それとは別に、技術支援、カスタマイズ等の業務委託料を支払うことが提案され、Bはこれに同意した。
(カ) Bは、ロイヤリティの具体的な料率又は金額について、Aと明示的に踏み込んだ話合いを持っていなかったが、それは、過去の業務委託料、交通費等の実費さえもきちんと請求できない状況下で、更にロイヤリティについて踏み込んだ話をするのは、原告が下請の地位にあり、Aの個性も考えると、その後の取引停止や業務委託料の不払等に至る可能性があり、Aの機嫌を損ねないように、話合いのタイミングを見るしかなかったからである。
ウ 上記合意の対象となるエンドユーザー
 上記イ(エ)の合意が成立した平成10年10月19日より前に、上記イ(ウ)のとおり、大丸及びロッテに対するバディによるカスタマイズ作業が行われていたが、上記イ(イ)のとおり、上記作業より以前にバディと被告ハドソン間での基本的枠組みが合意されていたことから、同日の話合いも、上記作業の作業代金とロイヤリティの支払を含めて行われたものである。
 その後、バディは、被告ハドソンの依頼を受け、以下のとおり、エンドユーザーへのカスタマイズ作業を行った。
 平成11年3月ころから同年9月ころまで 鹿児島生協
 平成11年10月ころから平成12年5月ころまで 丸井今井
 (改良版)
 また、被告ハドソンは、エンドユーザーごとのサーバに本件システムの複製物を置くクライアント・サーバ型ではなく、富士通のデータセンターの集中サーバに本件システムの複製物を置いてエンドユーザーに本件システムを利用させるASPシステムの開発を行うこととし、バディは、平成12年春ころ、被告ハドソンから依頼を受け、同開発作業を同年12月ころまで行った。
 なお、ASPシステムを用いた貸与業務は、被告ジェイビートゥビーが行い、現在までに、スーパーのマルトが同システムを利用している。
 したがって、上記合意に基づいて被告らが原告にロイヤリティを支払うべきエンドユーザーは、少なくとも、大丸、ロッテ、鹿児島生協、丸井今井及びマルトの5社である。
エ 被告らの主張に対する反論
 被告らは、AがBに「ロイヤリティ」という発言をしたとしても、それは、被告ハドソンからバディに支払われるものではなく、被告ハドソンに対するロイヤリティである旨主張する。
 しかしながら、Bが、Aとの打合せ時に作成したメモ(甲9、25、27の1〜27の3、37の1〜37の2、38、40)の記載によれば、ロイヤリティは、被告ハドソンに支払われるのではなく、被告ハドソンよりバディに支払われることが明確になっている。
(被告らの反論)
ア 平成9年4月22日の打合せについて
 この打合せにおいて、Bは、本件システムの請負代金650万円を不満として、Aに増額を求めたが、Aは、予算がないことからこれを拒否した。ただし、バディは、丸井今井に対する本件システムの調整・立上げ作業を行っていたので、Aは、これについて別途150万円を支払うことを約し、Bもこれを了解したため、バディから請求書が出され、被告ハドソンが支払を行った。また、Aは、本件システムのパッケージ販売を企画していること、販売は第三者にライセンスを付与して行うことを明らかにし、同システムが売れればバディの仕事は増えること、被告ハドソンにはロイヤリティが入るので予算も潤沢となることを説明し、Bの不満を抑えた。
 バディは、別訴において、被告ハドソンに対し、平成12年4月以降の業務委託料の支払を請求しているが、それ以外は清算済みとして何らの請求もしていない。そして、原告は、バディにおいて、Aの述べたロイヤリティの支払の話を信じて、平成9年1月から3月までの追加開発費の請求をせず、別訴でも請求しなかったこと、他方、このときのAの、本件システムのパッケージ販売及びそれによるロイヤリティの支払の話について、Bは納得していなかったことを主張するが、これらの主張は矛盾するものであり、信用に値しない。
イ 平成9年7月31日の打合せについてここでは、丸井今井に納入された本件システムについて、データ投入スクリプトを修正する必要が生じたため、この業務の委託と業務委託料を取り決めるための交渉が行われた。バディは、この直後、被告ハドソンに対し、同年8月20日付けで、「丸井今井殿向データ投入スクリプト修正」と題する請求書を送付している。
ウ 平成10年2月17日の打合せについて
 このころ行われた、AとBの打合せは、大丸及びロッテ向けのカスタマイズ作業の業務委託料の取り決めについてである。具体的には、Aが、Bに対し、大丸についての業務委託料は840万円とし、これを340万円、250万円、250万円の3回に分けて支払うこと、ロッテについての業務委託料は、交通費とは別に改めて決めることを提案し、Bはこれを了解した。
エ 平成10年10月19日の打合せについて
 このころの打合せは、バディが、富士通に対し、大丸へのP2/S導入支援作業料として、法外な金額を請求したこと、バディが、被告ハドソンの承諾を得ることなく、大丸の要望に基づいてP2/Sを無断改修しようとしていたことから、その対応について協議するために実施されたものである。そして、この際に、Bからの求めに応じて、Aは、P2/Sの商談の進捗状況や、ロッテへのP2/S導入の商流について説明を行ったが、ロイヤリティ支払の話はなかった。
オ 平成11年1月8日の打合せについて
 この打合せは、鹿児島生協が顧客情報システムの導入を決めたことから、P2/Rの開発及び鹿児島生協向けのカスタマイズ作業をバディに依頼するために行われたものであった。
カ 原告の主張の不自然さ
 原告は、BとAとの度重なる面会交渉の際、被告ハドソンがバディにロイヤリティを支払うことが言及され、さらに、平成9年7月31日の打合せの際には、Aから各エンドユーザー当たりのロイヤリティ額が1200万円から1300万円になる予定である旨の言及もされたと主張するが、何ら具体的にロイヤリティの請求をしていないのであり、極めて不自然である。
キ 小括
 以上から、バディと被告ハドソン間に、ロイヤリティ支払合意が成立したことはない。
(3) 争点3(本件システムの著作物性の有無)について
(原告の主張)
ア 本件システムの概要及びバディ従業員の作成部分
 本件システムは、別紙3「本件システム概要図」の網掛け表示をした部分のプログラムに、PC側の画面フォームに関するプログラムを加えたものである。
 そのうち、バディ従業員であるCが作成した部分は、PC側では、サーバにあるデータベースに検索、結果出力等を指示するアプリケーションプログラムすべてと、画面に関する一部のプログラム、サーバ側では、データベースの枠組であるスキーマーを作成するプログラム、サーバパージプログラム、データ更新プログラム、データロードプログラム、データ搬送プログラムであった。
イ 創作性のある部分
 上記アで示したC作成部分のうち、創作性を有し、著作物性がある部分は、P2/Rを一例にとると、以下のとおりである。
(ア) DM モジュール(別紙4の1、4の2)
 別紙4の1の、690行から1644行まで、1670行から1715行、別紙4の2の、732行から765行まで、687行から715行まで、718行から730行までである。
 これらの部分において、Cは、要求される機能を速く実現できるように、Sybase-IQに指示を出すSQL文に通常あまり用いられない、長いhaving構文を用い、その結果、通常であれば6個のテンポラリーテーブルで処理をするプログラムになるところを、1つ省略した。
(イ) 会員名簿モジュール(別紙5)
 別紙5の、ページ(4)25行から44行まで、ページ(6)24行からページ(8)37行まで、ページ(8)52行からページ(9)30行まで、ページ(9)33行からページ(10)41行まで、ページ(10)46行からページ(11)5行まで、ページ(11)8行から54行までである。
 ここでのテーブルの切り方においても、Cの個性が発揮されている。
(ウ) スキーマー作成用プログラム(別紙6)カラム(項目)に関する部分として、別紙6の、ページ(3)56行から60行まで、ページ(4)36行から45行まで、ページ(4)最終行からページ(5)9行まで、ページ(5)37行から44行まで、ページ(6)25行から40行まで、ページ(7)16行から32行までである。
 インデックスに関する部分として、別紙6の、ページ(6)下から12行目、ページ(7)18行目である。
 クライアントの要望する機能を実現する上で、アプリケーションプログラムだけでなく、これに対応するデータベースのスキーマーも、迅速にデータ処理を行うことができるように、カラム(テーブルの項目)、インデックスの張り方に工夫をこらす必要がある。
(被告らの反論)
ア Cの関与
 本件システムは、当初Visual Basicという開発言語により開発されたが、鹿児島生協への納品分以降、Visual Worksという開発言語に変更して開発し直されたため、本件システムの当初の開発作業において、Cが作成に関与した部分があったとしても、当該部分は、上記変更以降、本件システムにおいて用いられていない。
イ 創作性のないこと
(ア) DMモジュールについて
 これは、ダイレクトメールの発送対象を拾い出すために、データベースからデータを抽出するためのSQL文(基本的にはデータベースへの指示文)を生成している部分である。SQL自体は、国際的に決められた規格であり、データの構造と処理内容が決まれば、ほぼ同じ内容のSQL文が生成されるものであり、この生成自体に創作性はない。
(イ) 会員名簿モジュールについて
 これについても、DMモジュールと同様のことが当てはまる。
(ウ) スキーマー作成用プログラム
 原告は、丸井今井のホストコンピュータから送られてくる情報が持っていた項目のほか、Cが追加したカラムがあると主張するが、仮にそうであるとしても、それは、ホストコンピュータからの情報を元にアプリケーションが必要とするカラムを追加したものにすぎず、創作的とはいえない。インデックスの張り方についても、創作性はない。
(4) 争点4(本件システムについてバディが著作権を有しているか)について
(原告の主張)
 本件システムは、被告ハドソンがバディに発注した結果、バディの発意によって、バディの従業員であるCがその職務上創作したものである。したがって、本件システムは、バディの職務著作物であり、その著作権はバディに帰属する。
(被告らの反論)
 被告ハドソンは、平成2年に丸井今井向けの顧客分析・管理システムである「MICUSIS」を開発した。その後、サーバ・クライアント機上で稼動するシステムに移植する必要が生じ、平成8年半ばから、Sybase-IQというデータベースソフトウェアを用いることとして本件システムの開発を進め、平成9年4月ころ、同システムを丸井今井に納入した。
 バディの従業員であるCは、Sybase-IQを用いて開発作業を行うようになってから、作業に参加したが、本件システムの骨格は、従前のものをベースにしており、Cが担当したものではない。Cは、SQLのコーディング作業やデータの構築、顧客の要望に合わせた調整、データの確認作業・チューニング等を担当しただけであり、設計ドキュメント類や完成したソフトウェアを創作したことはなく、被告ハドソンのAの指示のもとで作業を行っていたにすぎない。
 なお、本件システムのごく一部にCの創作に係る部分が含まれているとしても、Cは、被告ハドソンのAの指示のもとで作業に従事し、被告ハドソンはCの開発作業への参加について、バディに対価を支払っていたから、その著作権は、被告ハドソンに移転させるのが当事者の合理的意思であった。
(5) 争点5(本件各システムの各取引先への導入は、本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡か、又は、貸与か)について
(原告の主張)
ア P2/S及びP2/Rについて
 被告ハドソンは、P2/Sの複製物を、平成10年8月ころ、大丸に対し、平成11年2月ころ、ロッテに対し、いずれも販売又は貸与し、P2/Rの複製物を、平成11年9月ころ、鹿児島生協及び丸井今井に対し、販売又は貸与した。
イ ASPシステムについて
 被告ジェイビートゥビーは、ASPシステムの複製物を、平成12年9月以降に、マルトに貸与した。
ウ ASPシステムを用いた業務がASP システムの貸与に当たること
 ASPシステムを用いた業務(以下「ASP業務」という。)において、被告ジェイビートゥビーは、ASPシステムを富士通の集中サーバに置き、顧客であるマルトに、この複製物をインターネットを通じて使用させ、ライセンス料あるいは使用料名目での対価を得ている。
 ASPシステムの複製物をマルトのサーバ内に置いて使用させる行為も、富士通のサーバ内に置いてマルトに使用させる行為も、マルトに「使用の権限を取得させる」行為であり、著作権法上の貸与行為に当たる。ここでは、マルトに独占的占有を与えているわけではないが、著作権法上の貸与は、占有の移転あるいは独占的占有を要件としているわけではなく、貸与と解することに問題はない。
 なお、被告らは、ASPシステムの販売先が「公衆」ではないと主張するが、著作権法上の公衆とは、特定かつ多数の者を含むのであり、販売先が被告らと契約関係にある特定人であるとしても、多数にわたるのであれば、公衆に該当する。
(被告らの反論)
ア P2/S及びP2/Rについて
 被告ハドソンが、大丸等の各エンドユーザーにP2/S又はP2/Rを貸与した事実は否認する。
 P2/S及びP2/Rは、販売先である上記エンドユーザーから注文を受け、顧客ごとに作成して当該特定の顧客に納品するものであるから、各販売先は特定人であり、公衆に当たらない。
イ ASPシステムについて
 被告ジェイビートゥビーが、ASPシステムの複製物を、マルトに貸与した事実は否認する。マルトが「公衆」に当たるとの点も否認する。
ウ ASP業務はASPシステムの貸与に当たらないこと
 貸与権の対象となる行為は、複製物の貸与により公衆に提供することである。この複製物の貸与に当たるというためには、貸与の通常の語義から、少なくとも一定期間は複製物の直接占有が借主に移転し、その期間中には借主が当該複製物を独占的に使用する権原を取得することが必要である。このため、例えば、漫画喫茶などで利用者が備え置かれたコミックを自由に手に取り、閲覧ができるようにすることは貸与に当たらないとされていた。書籍・雑誌を図書館の館内における閲覧・視聴等に供することも同様である。
 なお、著作権法2条8項は、「この法律にいう『貸与』には、いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。」と規定しているが、これは、貸与でないという見せかけの形式をとった契約によって実質的には貸与に相当する行為を行う場合も著作権法上の貸与と取り扱うこととするものであり、相手方に複製物の直接占有を取得させず、一定期間独占的に使用できる権原を与えないものまで貸与とするものではない。
 ASP業務においては、顧客が被告ジェイビートゥビーの管理するASPシステムにデータを送り、同システムで行われたデータの処理結果が同システムから顧客に送信されるのであるから、そもそも同システムの複製物が作成されないし、それが顧客に移転されることはない。顧客が同システムの複製物を所持することもない。また、顧客に一定時間内での同システムの独占的な使用権原・地位を与えることもない。
 したがって、 業務ASPは、著作権法上の貸与行為には当たらない。
(6) 争点6(本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡又は貸与についてのバディの許諾は錯誤により無効となるか)について
(原告の主張)
 バディが、被告らの本件各システムの複製物の販売・貸与行為について許諾したのは、Aが、請負代金とは別にロイヤリティを支払う旨の発言を続けたことを、Bにおいて信じたためであり、バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意が認められない場合には、バディの上記許諾の意思表示は、動機において錯誤があることになり、同意思表示は無効である。
(被告らの反論)
 原告の錯誤無効の主張は否認する。
 AがBに対してロイヤリティを支払う旨述べた事実はないから、Bにおいて信じたこともあり得ない。
(7) 争点7(本件各システム(又はそれらの複製物)についての譲渡権は消尽しているか)について
(被告らの主張)
 原告は、P2/S及びP2/Rについて、バディが複製して納品したと主張するが、これをバディから被告ハドソンに対する納品及び被告ハドソンから丸井今井等への納品と考えるのであれば、バディから被告ハドソンへの納品によって譲渡権は消尽する(著作権法26条の2第2項3号)から、被告ハドソンの丸井今井等への納品が譲渡権侵害になることはない。
(原告の反論)
 被告らは、譲渡権が消尽している旨主張するが、消尽の制度趣旨は、@市場における自由な流通の確保、A権利者に対する代償を確保する機会の保障であるところ、@については、市場における公の譲受人に消尽の抗弁を認めれば足り、特定された第1譲受人である被告らにこの抗弁を認める必要はない(その意味で、著作権法26条の2第2項3号は、特定少数の者に譲渡された複製物について、公衆である第2譲受人の行う第2譲渡から消尽すると限定解釈されるべきである。)。そして、Aについては、本件では、まさに、権利者であるバディは、Aのロイヤリティは別途支払う旨の虚偽の発言を信じたために、その代償を確保する機会を失ったのであるから、このような場合に消尽を認めることは、消尽の制度趣旨に反するというべきである。同号は、最初の譲渡行為以降の取引行為の安全を確保するためには、最初の譲渡行為が適法に行われた場合には譲渡権を消尽させることが適当であると解されており、海賊版や無許諾の譲渡だけでなく、本件のような詐欺的言辞を受けて請負契約を履行した場合も、消尽を認めるべきではない違法な譲渡と評価されるべきである。
(8) 争点8(主位的請求に係るロイヤリティ額等及び予備的請求に係る原告の損害及びその額)について
(原告の主張)
ア 主位的請求
(ア) ロイヤリティ額
 大丸及びロッテに導入されたP2/S並びに鹿児島生協及び丸井今井に導入されたP2/Rについて、各社が被告ハドソンに支払った金額は、1社当たり、1億円であると推定される。また、ASPシステムの利用を行っているマルトは、被告ジェイビートゥビーに貸与料として6000万円を支払ったものと推定される。
 そして、バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意においては、被告ハドソンが、各エンドユーザーへの小売価格(貸与価格)の3分の1をバディに支払うこととされ、この合意に基づく地位が被告ジェイビートゥビーにも承継されているから、被告らが支払うべきロイヤリティ額は、以下の計算式のとおり、被告ハドソンについて1億3333万円、被告ジェイビートゥビーについて2000万円となる。
 被告ハドソン1億円× 4 社× 1/3 = 1 億3333万円
 被告ジェイビートゥビー6000万円× 1 社× 1/3 = 2000万円
 原告は、上記各金額のうち、被告ハドソンには1 億3000万円、被告ジェイビートゥビーには1950万円を請求する。
(イ) 弁護士費用
 本件は、専門性の高い訴訟であり、弁護士費用としては、1700万円が相当である。
イ 予備的請求
(ア) 被告ハドソンに対する請求
 被告ハドソンは、P2/S又はP2/Rの複製物を、少なくとも上記4社に販売又は貸与して、1社当たり5000万円、合計2億円を下らない対価を得ている。このようなプログラムの複製物の販売又は貸与を許諾する場合、そのライセンス料率は65パーセントが相当であるから、バディは、上記2億円に65パーセントを乗じた1億3000万円の支払を受けるべきであった。そして、上記の販売又は貸与が行われるようになった平成9年4月ころから、本件訴訟の提起までの約8年間において、毎年均等に損害が発生したものと考えられるところ、1年間の金額は1625万円となる。
 したがって、平成14年4月から本訴状送達日である平成17年5月2日までの間について、著作権侵害の不法行為による損害額は、4875万円(1625万円×3年間)となる。
 また、平成9年4月から平成14年3月までの間について、被告ハドソンがライセンス料を免れた不当利得額は、8125万円(1625万円×5年間)となる。
(イ) 被告ジェイビートゥビーに対する請求
 被告ジェイビートゥビーは、ASPシステムの複製物をマルトに貸与して、少なくとも3000万円の対価を得ている。これについてのライセンス料率も、65パーセントが相当であるから、バディは3000万円に65パーセントを乗じた1950万円の支払を受けるべきであった。そして、上記の貸与が行われるようになった平成12年12月ころから本件訴訟の提起までの約4年半の間において、毎年均等に損害が発生したものと考えられるところ、1年間の金額は450万円となる。
 したがって、平成14年4月から本訴状送達日である平成17年5月2日までの間について、著作権侵害の不法行為による損害額は、1350万円(450万円×3年間)となる。
 また、平成12年12月から平成14年3月までの間について、被告ジェイビートゥビーがライセンス料を免れた不当利得額は、600万円(1950万円−1350万円)となる。
(ウ) 弁護士費用
 予備的請求に関する弁護士費用は、上記(ア)(イ)の不法行為の損害賠償額及び不当利得の返還請求額の合計1億4950万円に、差止請求権の経済的利益の額である2075万円(著作権者が通常1年間に受けるべき金銭の額である、被告ハドソンに対する1年当たり1625万円と、被告ジェイビートゥビーに対する1年当たり450万円の合計金額である。)を加えた、合計1億7025万円の約10パーセントである1700万円が相当である。
(被告らの反論)
 原告の主張は、否認し、争う。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(主位的請求は重複する訴えの提起となるか)について
 被告らは、1つの契約(社会通念に照らして1個の契約と認められる契約)に基づく対価の請求は、対価として複数の種類があるとしても、訴訟物としては1個と考えるべきであり、少なくとも、社会通念上1個の紛争として1回の訴訟で解決を図ることが訴訟経済及び当事者間の公平に合致すると解されるところ、原告の主位的請求は、被告ハドソンがバディにカスタマイズ作業等を委託する際に、作業委託代金とは別にロイヤリティを支払う旨の合意が成立したことを前提に、その合意に基づくロイヤリティを請求するというものであり、別訴において、上記と同一の契約に基づいて、ロイヤリティを請求対象から除くことはせずに、委託業務料を請求していることからすれば、別訴と重複する訴えに該当する旨主張する。
 しかしながら、カスタマイズ作業等の委託に係る契約(カスタマイズ作業等とその対価に関する契約)と、当該カスタマイズ作業の成果である対象物をカスタマイズ先に納品したことに関するロイヤリティの支払に係る契約(当該対象物の譲渡又は貸与の許諾と、その対価としてのロイヤリティに関する契約)とは、密接に関連するものではあるが、別個に観念することができ、異なる時期に成立することもあり得るのであるから、同一の訴訟物であるとは認められず、社会通念に照らして1個の契約とまで認めることもできない。また、本件においても、原告は、両者を別個の契約として請求しており、両者を1個の契約と解すべき事情も認められない。
 したがって、本件における主位的請求が、別訴と重複する不適法な訴えであるとはいえず、被告らの上記主張は採用することができない。
2 争点2(バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意の有無)について
(1) 事実認定
 上記前提となる事実等、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 丸井今井に対する本件システムの開発及び納品
 被告ハドソンは、平成2年に、丸井今井向けの顧客分析・管理システムを開発し、これを同社に納入したが、平成8年ころに、同システムの再開発が計画された。そこで、コンピュータソフトウェアの開発等を業とするバディにその作業の一部を依頼することとし、同年6月ころ、被告ハドソンのAとバディのBとの間で、作業内容やスケジュールに関する打合せが行われた。その結果、同年7月23日、被告ハドソンからバディに対し、依頼内容を「丸井今井向け顧客情報システム(開発)(ソフトウェア開発)」(甲24の1)とし、対価を650万円として、開発作業が依頼され、同日、バディは同依頼を承諾し、本件システムに関する契約が成立した(甲21〜24の2、乙10)。
 本件システムの開発は、当初、同年10月31日までと予定されていたが、同期日までには終了せず、本件システムは、平成9年4月に、丸井今井に納入された(甲21、乙10)。
イ 平成9年4月22日の打合せ
 本件システムの開発作業が当初の予定よりも長くなったため、Bの申入れにより、平成9年4月22日、業務委託料の追加支払についての打合せが、BとAとの間で行われた(甲21、25、乙10)。この打合せにおいては、本件システム開発に関するその後の作業内容、スケジュール等の確認が行われるとともに、BからAに対し、追加支払の依頼等が行われ、当初の契約金額は、同年3月までの作業についての対価として、同年4月及び5月の作業については、150万円の追加支払をすることが合意された(甲21、25、乙2の1、2の2、10)。そして、同年5月20日付けで、バディから被告ハドソンあてに、同年7月限りの支払として、150万円(消費税相当分を含めて157万5000円)の請求書が送付され、その後、同支払がされた(乙2の1、2の2、10)。
ウ 平成9年7月31日の打合せ
 平成9年7月31日に、BとAとの打合せが行われ、丸井今井に納入した本件システムの修正(データ投入スクリプト修正)に関する話合いがされた。この打合せでは、同修正に係る対価として150万円の支払が合意され、被告ハドソンからバディに対し、同年8月20日付けで、消費税相当分を含めた157万5000円の請求書が送付され、同年10月20日ころに支払がされた(甲27の3、乙3の1、3の2、10)。
エ 平成10年2月17日の打合せ
 被告ハドソンは、丸井今井向けに開発した本件システムを一般向けのパッケージとして改良し、販売していくことを計画し、平成9年4月ころからその準備を進めていたところ、被告ハドソンとライセンス契約を締結した富士通等が、本件システムを百貨店向けのパッケージとして、P2/Sという商品名で販売することとされた。そして、平成10年2月ころ、P2/Sを大丸及びロッテに導入することが確実となった(甲21、乙10)。
 そこで、同月17日、BとAの打合せにおいて、被告ハドソンからバディに対する大丸及びロッテへのP2/S導入作業の業務委託が行われた(乙10)。
オ 大丸及びロッテへのP2/S の導入作業
 上記エの委託に基づく、バディの大丸へのP2/S導入作業は、平成10年4月から同年8月ころまでの間に行われ(争いがない。)、同年4月30日に340万円、同年6月30日に250万円、同年8月31日に250万円、合計840万円が、被告ハドソンからバディに対して支払われた(乙10)。
 また、同様に、バディのロッテへのP2/S導入作業は、平成10年10月ころから平成11年2月ころまでの間に行われ(争いがない。)、平成10年6月30日に50万円、平成11年3月23日に360万円、同年5月30日に300万円、合計710万円が、被告ハドソンからバディに対して支払われた(乙10)。
 ロッテへの上記導入作業に関しては、作業のみが先行して業務委託料の取決めがされていなかったことから、既にかなりの作業が進んだ平成10年12月24日に、年内作業分の業務委託料の清算を要望するBからAに対する依頼が行われた。これを踏まえて、後記キのとおり、平成11年1月8日に打合せが行われ、その結果を受けて、上記のとおり、平成11年3月及び5月に、ロッテ作業分の支払がされたものである(乙5、10)。
カ 平成10年10月19日の打合せ
 平成10年10月19日に、BとAとの打合せが行われ、AからBに対し、本件システムの販売状況等が紹介され、本件システムがエンドユーザーに導入される場合の取引の流れなどの話がされた(乙10)。
キ 平成11年1月8日の打合せ
 平成11年1月8日、上記オのとおり、BとAとの打合せが行われ、ロッテに対する導入作業P2/Sの業務委託料が取り決められたが、その際、本件システムをスーパーマーケットや生協向けに改修し、これを鹿児島生協に導入する作業について、被告ハドソンからバディに対する依頼が行われた(甲21、乙10)。
ク 鹿児島生協へのP2/R導入作業及び丸井今井への改修作業
 上記キの依頼に基づいて、その後、バディによる、P2/Rの開発が行われ、平成11年3月ころから同年9月ころまで、鹿児島生協への導入作業が行われた。この業務委託料については、上記キの打合せ時に合計1400万円とされていたが、その翌日以降のBとAのメールでの交渉を踏まえて、合計1430万円とすることが合意され、同年3月以降に3回に分けて支払が行われた(乙6、10)。
 また、既に丸井今井に導入されていた本件システムについても、売上データだけからでなく仕入データからも分析できるようにする機能を付加する改修が、平成11年10月ころから平成12年5月ころまでの間に行われ、業務委託料として、同年2月までに、合計1280万円が支払われた(甲21、乙10)。
ケ ASPシステムの開発
 被告ハドソンは、その後、エンドユーザーごとのサーバにシステムを構築するクライアント・サーバ型ではなく、富士通のデータセンターに集中サーバを置いて、エンドユーザーにサービスを提供するASPシステムの開発を行うこととした。そして、平成12年春ころから、ASPシステムの開発作業及びASPシステムのマルトへの導入作業が、被告ハドソンの依頼を受けたバディによって行われた(甲21、乙10)。同開発作業は、同年12月ころまで行われ、被告ハドソンからバディに対し、業務委託料として、平成13年1月までに、合計2500万円が支払われた(乙10)。
コ その後の経緯
 平成12年9月ころ、被告ハドソンからバディに対し、業務委託基本契約書案(甲8)が送付されたが、バディでは同契約書案記載の条件には同意せず、契約書は作成されなかった(甲21)。同年11月24日に、Aからバディの業務グループ所属のDに対し、上記契約書案についてのバディの対応を問い合わせる連絡があり、これに対し、Dは、従前、契約書を取り交わさず、明確な見積りも注文もなく対応させられてきたにもかかわらず、これを踏まえた契約条件になっていないことから、契約条件は、なお、バディにおいて検討したいこと、契約書の締結ができず同年11月末の支払ができないのであれば、同年12月になっても仕方ないこと、ただし、交通費も含めてバディにおいて立て替えている金員が相当あること、被告ハドソンから示された契約書案のうち、6条(再委託)及び14条(成果物の帰属)について、変更の希望があること等を伝えた(甲30)。
 その後、被告ハドソンからバディに対する売掛金債権3000万円余の支払について双方で話し合われるなどしたが、平成14年2月になって、バディから、被告ハドソンに対し、未払の業務委託料等がある旨の話が出されるようになり、同年3月に、合計6972万9056円の請求書が送付された。同請求書は、平成13年2月28日付けであり、内訳は、同年3月31日付けの、「SORAN開発支援/保守、平成13年1月から平成13年3月分」1575万円、同年9月30日付けの、「SORAN開発支援/保守、平成13年4月から平成13年9月分」2625万円、平成14年2月28日付けの、「SORAN開発支援/保守、平成13年10月から平成14年2月」1890万円及び同日付けの「ハードウェア立替金」882万9056円とされている(乙8の1〜8の5、10)。
 この請求については、被告ハドソンとバディとの間で支払に関する合意が成立せず、バディは、同年11月に、被告ハドソンに対する別訴を提起して、上記金員等を請求した(甲21、31)。
 なお、バディは、別訴において、上記訴訟提起から1年以上経過した平成16年3月に、被告ハドソンから送金された業務委託料のうちの一部を、被告ハドソンの指示により他社に送金したとして、同金員を立替金として請求する旨の訴えを追加し、請求額を拡張している(甲31)。
(2) 検討
 以上の事実に基づいて検討すると、バディと被告ハドソン間にロイヤリティ支払の合意があったとは認められず、他に、これを認めるに足りる証拠はない。理由は以下のとおりである。
ア 具体的な交渉の経過が認められないこと
 前記(1)のとおり、BとAとの数回にわたる打合せの場面において、ロイヤリティに関する具体的な交渉がなされたとは認められない。
 すなわち、原告は、平成9年4月22日の打合せ時に、初めて、本件システムのパッケージ販売についての話があり、その際、ロイヤリティ支払について言及されたこと、同年7月31日の打合せ時にも再度ロイヤリティ支払の話があり、平成10年10月19日にロイヤリティ支払の合意が成立した旨主張するが、ロイヤリティの計算基準、支払方法、支払時期、今後の見通しなどについて、BとAの間で、又は、その他のバディ側担当者と被告ハドソン側担当者との間で、具体的な話合いが行われたと認めることはできない。
 たしかに、BがAとの打合せ時に作成したとするメモには、ロイヤリティに関する記載があり(甲9、27の3、38)、ロイヤリティに関する事項が話題になったことがうかがえるが、これらのメモの記載は、ロイヤリティの計算基準、支払方法、支払時期、今後の見通しなどについての具体的な記述がされておらず、支払に関する合意が成立したと評価し得るような具体性を有する話合いがされたことを示すものとはいえない。ロイヤリティ額についても、原告は、平成9年7月31日の打合せ時に、Aから、各エンドユーザー当たり1200万円から1300万円の予定であるとの話があったと主張し、また、平成10年10月19日の打合せ時には、各エンドユーザーへの小売価格(貸与価格)の3分の1と合意された旨主張するところ、いったん話が出された1200万円から1300万円の金額が、各エンドユーザーへの小売価格の3分の1の金額に変更されるに至る事情や両者の関係は何ら説明されていないし、上記の小売価格の3分の1の金額という取決めについては黙示の合意であるとしながら、その黙示の合意の成立を基礎付ける具体的な交渉の経過(双方が前提として認識しているべきロイヤリティの相場や業界常識などについての言及)をうかがわせる証拠もない。 
 さらに、Bは、ロイヤリティ額算出の基礎とすることを考えて、Aに、本件各システムの販売代金を聞き出そうとしたが、教えてもらえなかった旨述べる(甲21、32)ところ、両者の間で、販売額を基礎に算出したロイヤリティ額が支払われるとの合意が成立しているのであれば、その基礎となる金額が開示されるのが当然であり、仮に開示されなかった場合には、その旨を強く要求していくのが契約当事者として自然な対応であるにもかかわらず、Bが、上記のように、開示がない状況を打開する手段をとっていないことからすれば、ロイヤリティ額について、具体性のある合意がされていたとは推認し難いといえる。
イ 合意の内容に関する書面は作成されていないこと
 原告が主張するロイヤリティ支払合意については、これを示す契約書、覚書等、何らの書面の作成もされていない。
 Bは、平成10年10月19日の打合せ時に、ロイヤリティ支払に関する書面の作成を依頼したが、Aにはぐらかされた旨述べるが(甲21)、その後、契約書等の作成に関する話合いや、バディからの申入れがされたことをうかがわせる証拠はない。Bは、Aと、直接会って打合せを行うほか、メールでの連絡を行っていたのであり、業務委託料について、打合せの際にAから示された金額と、その後にメールで示された金額とが異なっていた際には、打合せ結果を記載しつつ、確認する内容のメールを返信することもあり(乙6)、このような具体的交渉が行われていた状況にかんがみれば、少なくともバディ側においては、契約書等の書面作成の申入れや、書面作成の意向を伝えることが十分可能であったと考えられるのであり、そのような経緯もない以上、書面作成に関する話合いの機会を持つように働きかけたこと自体がなかったものと推認するのが相当である。
 また、平成12年9月ころに、被告ハドソンからバディに対し、業務委託基本契約案が示されたが、結局、バディはその内容に同意せず、契約書が作成されなかった経緯において、同契約書案についてAと交渉をしたDは、バディが同意し難い理由等をAに伝えているが、その際、業務委託契約に基づく成果物が被告ハドソンに帰属する旨の条項について、変更の希望があることを明確に連絡しながら、ロイヤリティ支払に関する具体的な内容について申し入れたり、バディ側の対案を送付するなどの交渉をしたことは全く認められない。
ウ 本件訴訟に至るまで、ロイヤリティの請求が行われていないこと
 バディは、被告ハドソンとの間でロイヤリティ支払の合意が成立したと主張する平成10年10月19日以降、本件訴訟提起(平成17年4月25日)に至るまで、被告ハドソンに対し、ロイヤリティの支払を請求していない。
 この点について、Bは、ロイヤリティよりも業務委託料の支払確保を重視していたこと、Aの機嫌を損ねることにより業務委託料の不払や契約を失うことなどの営業上の損失を回避する必要があったこと、下請けとしての立場の弱さがあったことなどを理由として述べる(甲21、32)。
 しかしながら、業務委託料の支払確保を重視し、それを優先させることは、そもそも、ロイヤリティの支払請求をしないことの理由にはならないものと考えられるところである。一般的には、取引関係が継続している中で、一時期に多額の請求をすることにより、相手方とのわずかな考え方の相違が表面化し、増幅され、その後の交渉に支障が出たり、関係が悪化するようなことが想定できなくはないので、請求を控える必要がある場合もあり得るであろうが、本件の場合、被告ハドソンの作成した業務委託基本契約書案において、バディの考えていた契約条件、とりわけ、成果物の帰属について、相容れない考え方を示された際、また、バディから被告ハドソンに未払業務委託料等として6900万円余を請求しながらその交渉が難航していた際、そして、その後交渉が決裂して、別訴を提起するに至った際、さらに、別訴において、立替金請求の請求拡張をした際など、バディと被告ハドソンとの考えの違いが明確となる状況が、既に何回も生じていたのであるから、上記の一般的に想定し得る状況とは異なっており、ロイヤリティの支払請求をしない合理的な理由は見い出し難い。Bは、ロイヤリティの支払がないのであれば、本件各システムの販売等を許諾することはなく、カスタマイズ作業を受注することもなかった旨述べる(甲32)が、そのように毅然とした対応を予定しているのであれば、なおさら、上記のような場面においてもなお請求をしないという対応は不自然といわなければならない。Aの機嫌を損ねることにより業務委託料の不払や契約を失うことへの配慮、下請けとしての立場の弱さという、Bが述べるその他の理由についても、バディの立場においても平成12年までの業務委託料が清算済みであったことを前提にすると、そもそも業務委託料の不払のおそれがあるのか疑問がないではないし、上記理由自体の当否はひとまず措くとして、いずれも、本件訴訟に至るまで支払請求をしていなかったことを合理的に説明するものとはいえない。
エ 以上のとおり、客観的な事実経過及びバディの対応は、ロイヤリティ支払の合意の存在とは整合しないのであって、結局、同合意は成立していないものといわざるを得ない。
3 争点5(本件各システムの各取引先への導入は、本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡か、又は、貸与か)について
 予備的請求については、本件システムの著作物性の有無(争点3)及び本件各システムの著作権の帰属(争点4)の各争点があるが、事案にかんがみ、まず、本件各システムの取引が譲渡か、貸与かの点について検討する。
 まず、P2/S及びP2/Rについて、原告は、被告ハドソンから、又は、被告ハドソンから富士通等を通じて、エンドユーザーに導入される場合には、その行為は、それらのプログラムの譲渡又は貸与である旨主張するのに対し、被告らは、パッケージとして販売しているのであって、譲渡に該当する旨主張するところ、被告主張に沿う証拠がある(乙10)一方、貸与であることを示す証拠はないから、これらについては、被告ハドソンから各エンドユーザーに販売されることによって譲渡されたものと認められる(なお、平成11年10月ころから平成12年5月ころまでの間に丸井今井について行われた作業は、上記2(1)クのとおり、既に導入されていた本件システムに、仕入データからも分析できるようにする機能を付加する改修であり、同作業において、P2/R又はその複製物が導入されたことを認めるに足りる証拠はない。)。
 次に、ASPシステムについて、原告は、マルトに対する貸与である旨主張するが、ASPシステムは、サーバ運用会社のデータセンター内に設置されたデータベースサーバとアプリケーションサーバ並びにエンドユーザー側のアプリケーションソフトウェアから構成されているものであり、データ処理や分析は、データセンター内のサーバにおいて行われるのであって、上記データセンター内のサーバに置かれた、データ処理・解析を行うプログラムの複製物自体(記録媒体等に固定したもの)を、エンドユーザーの占有下に置くものとはいえず、被告ジェイビートゥビーが同プログラムをマルトに対し貸与したものであるとは認められない。
4 争点6(本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡又は貸与についてのバディの許諾は錯誤により無効となるか)について
 上記3説示のとおり、ASPシステムについては、被告ジェイビートゥビーによる貸与権の侵害が認められず、P2/S及びP2/Rについては、被告ハドソンからエンドユーザーに対し、その複製物が譲渡されたものと認められるので、以下、P2/S及びP2/Rの複製物の譲渡について検討する。
 この点について、原告は、バディが、被告ハドソンによるP2/S及びP2/Rの複製物の販売行為について許諾したのは、請負代金とは別にロイヤリティを支払う旨のAの発言を、Bにおいて信じたためであり、同ロイヤリティ支払が認められない場合には、Aの上記発言は虚偽の内容となって、それを信じた上で行ったバディの上記許諾の意思表示は、動機において錯誤があるから無効である旨主張する。
 しかしながら、バディにロイヤリティを支払う旨の上記Aの発言が、それ自体明確に認められないのは、上記2(1)のとおりであるが、仮にこれが認められるとしても、同発言を信じたとのBの動機が、被告ハドソン側に表示されたことの主張はなく、また、上記2で認定し、検討した事実経過によれば、同表示があったとも認められない。
 したがって、他の要件を検討するまでもなく、原告の錯誤に関する主張を採用することはできず、これを認めることはできない。
5 まとめ
 原告は、予備的請求(1)において、本件各システムの複製又は翻案の差止めを求めているが、被告らが、本件各システムの複製権又は翻案権を侵害している旨、又は、そのおそれがある旨の主張を何らしていないので、この請求は理由がない。
 また、原告は、予備的請求(2)において、本件各システムの複製物の譲渡又は貸与の差止めを求めているが、被告らが、本件各システムの譲渡権又は貸与権を侵害しているとの本件における原告の主張は、上記のとおり、認めることができず、その他、被告らの譲渡権又は貸与権侵害についての主張や、その侵害のおそれがある旨の主張を何らしていないので、この請求についても理由がない。
 さらに、予備的請求(3)については、上記のとおり、予備的請求(1)及び(2)が認められないことから、理由がない。
 以上から、他の点について論ずるまでもなく、原告の請求は、主位的請求、予備的請求のいずれについても、理由がないことになる。
第4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 佐野信


(別紙1)物件目録1
 百貨店等流通業者向けの顧客の購買動向分析・管理のアプリケーション・プログラムであって、その複製物の名称に以下のSORANの名称が付されているもの
 1 SORAN P2S
 2 SORAN P2R
 3 SORAN ASP

(別紙2)物件目録2
 百貨店等流通業者向けの顧客の購買動向分析・管理のデータベース及びアプリケーション・プログラムであって、札幌の丸井今井百貨店が平成9年(1997年)4月ころから平成12年(2000年)3月ころまで使用したもの
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