判例全文 line
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【事件名】商標“お医者さんのひざベルト”審決取消事件(2)
【年月日】平成19年3月29日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10441号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成19年3月1日)

判決
原告 株式会社アルファックス
訴訟代理人弁理士 倉内義朗
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 久我敬史
同 内山進


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2004−19394号事件について平成18年8月21日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が後記商標出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたので、その取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成15年9月3日、下記商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(商願2003−76035号)をしたところ、平成16年8月6日付けで特許庁から拒絶査定を受けたので、不服の審判請求をした。
 特許庁は、同請求を不服2004−19394号事件として審理した上、平成18年8月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」ということがある。)を行い、その謄本は平成18年9月1日原告に送達された。
 記
ア 商標(標準文字) 「お医者さんのひざベルト」
イ 指定商品 第25類 「保温用サポーター」
(2) 審決の内容
 審決の内容は、別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、単に商品の品質を表示するにすぎないもので、自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認められないから、商標法3条1項3号に該当する、というものである。
(3) 審決の取消事由
 しかしながら、審決の判断には、次のとおり誤りがあるから、審決は違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断したことの誤り)
(ア) 格助詞「の」により結合された語句からなる商標と商標の識別性にかかわる審決の誤認
 審決は、本願商標の「構成中の『の』は格助詞であって、各種の意味合いを表す用法の一つとして、所有者を示す用法であり(岩波書店発行「広辞苑」参照)…全体として、その商品が『お医者さんが作ったひざ用のベルト』程度の意味合いを容易に理解・認識させるものということができる。」と認定した(2頁2行〜6行)。
 しかし、この認定は、次のとおり誤りである。
a 特許庁は、以下に例示するとおり、「の」の格助詞により商標が表示している商品名を含む名詞が結合された商標に識別性を認め、その登録を認めている。
@ 登録第4933176号「お医者さんの低反発円座クッション」(甲2の1)
A 登録第4715560号「お医者さんのコルセット」(甲2の2)
B 登録第4702680号「ふとんのお医者さん」(甲3の1)指定商品第20類「クッション、座布団、まくら、マットレス」
C 登録第4716168号「ふとんのお医者さん」(甲3の2)指定商品第24類「布団」
D 登録第4795043号「八百屋さんのフルーツゼリー」(甲4の1)
E 登録第4689409号「くだもの屋さんのプルーン」(甲4の2)
F 登録第4526012号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の3)指定商品第29類「コーヒー入りの牛乳、コーヒー入りの豆乳」
G 登録第4529750号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の4)指定商品第32類「コーヒー入りの清涼飲料等」
H 登録第4351001号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の5)指定商品第30類「コーヒー、コーヒー豆等」
I 登録第4287749号「牛乳屋さんのミルクココア」(甲4の6)
J 登録第4287750号「牛乳屋さんのあじわいココア」(甲4の7)
K 登録第4287747号「牛乳屋さんのミルク紅茶」(甲4の8)
L 登録第4287748号「牛乳屋さんのカフェ・オ・レ」(甲4の9)
M 商公平8−113897号「牛乳屋さんのミルクセーキ」(甲4の10)
N 登録第4868259号「農家の梅」(甲6の1)
O 商公平7−33471号「ドクターの赤汁」(甲6の2)
b 審決が判断するように、「の」の語を「製造した」「販売した」「推薦した」という記述的なものに置き換え、その上で、当該商標が全体として記述的なものであるか否かという観点から判断をし、そのことのみをもって、当該商標が品質を表す商標であると結論付けるとすれば、上記「の」の語により結合された商品名を含む商標は、品質を表すものとしてすべて識別性が存しないとの結論に至る。すなわち、審決が採用した手法により識別性の判定をするとすれば、上記Dは、青果業を営む「八百屋さん」が製造するフルーツゼリーを意味し、上記Eは、青果業を営む「くだもの屋さん」が生産するプルーンを意味し、上記F〜Mは、牛乳配達業を営む「牛乳屋さん」が製造販売する各商品を意味し、上記Nは、農業を営む「農家」が生産、採取、販売する梅・梅干し等を意味し、上記Oは、医師である「ドクター」が薦めるトマト、アセロラ、赤ピーマン等の天然の野菜・果物を加工した健康飲料「赤汁」を意味するものとして理解されるべきこととなる。したがって、上記商標はすべて識別性を有しない商標として登録が拒絶されるべきこととなる。
 さらに、審決のような判断手法で識別性を判定する場合、「の」の格助詞が、商品又は役務名を含む二つの名詞を結合するものとして使用されている商標(甲7参照)のすべてについて、その識別性が否定されることとなる。
c 以上から明らかなとおり、商品名を含む二つの名詞を結合する「の」を含む商標において、「の」の部分を「製造した、販売した、又は、推薦した」という意味での記述的なものに置換し、そのことのみで、当該商標が品質を表し、商標法3条1項3号に違反するという審決のような立場は、従前の特許庁の実務においても採用されていないものであり、そのもたらす結論からしても、非常識なものであって、いたずらに商標審査の秩序を乱し、法的安定性を損うものである。
(イ) 審決の誤認の遠因
a 審決は、「近年、専門家である医者が製作したり、あるいは関与した製品であることを謳い文句にしている商品が数多く販売されている実情にある。」(2頁19行〜20行)として、インターネットに見られる例を挙げている。
b 仮に、本願商標の指定商品を扱う取引者において、「お医者さん」という語が、日常的かつ頻繁に商品と結合されて使用され、かつ、それが製作及び開発に医師の関与を表すという用法が一意的に確立されているということであれば、「お医者さんの」という語は、「医師が製作した」又は「医師が開発した」という語と同義に解され得る可能性があるかも知れない。しかし、そのような用法についての業界慣行等は一切存しない。
 審決に表れたインターネットのホームページ情報はわずか4件にすぎない点で、そのような語句に対する一般的な用法を基礎付ける資料として不足していることは明らかである。
 そのうえ、これら審決が指摘した4件のうち、3件は、いずれもA医学博士、A式との記載があることから明らかなように、株式会社メイダイ(以下「メイダイ」という。)の製品に関する広告としてのホームページである(甲8の1〜3)。
 しかし、メイダイは、原告が平成14年5月ころから順次販売を始め、同年6月ころから順次商標登録を開始した「お医者さんの」シリーズ商品(コルセット、ひざベルト、円座クッション等)の販売実績が好調であったことから、「お医者さんの」シリーズ商標の著名性にフリーライドし、平成16年10月13日に、「お医者さんの低反発円座クッション」(商願2004−093731号)、「お医者さんの体圧分散枕」(商願2004−093732号)の商標登録を申請し(甲10の1、2)、「お医者さんの」文言を含む商標の使用を開始した業者である。原告は、メイダイに対し、「お医者さんの低反発円座クッション」の商標の使用について、その当時原告が登録を得ていた「お医者さんの」登録商標を侵害する商標権侵害及び周知となった「お医者さんの」表示を侵害する不正競争防止法違反を理由とする警告を行った(甲11の1、2)。これに対し、メイダイは、「お医者さんの」という文言の使用を停止し、「医学博士の」という文言に変更している(甲12の1〜3)。メイダイの当該変更は、「お医者さんの低反発円座クッション」の商標使用が原告の商標権の侵害となり得ることを自認した上で、侵害を構成しない商品の品質表示用語である「医学博士のひざベルト」の文字を採択したものといえる。仮に、「お医者さんの」という語が、取引者において、「医師の開発した」又は「医師の製造した」という記述的な語を意味するということが明らかであれば、同社が、そのような対応をとることはあり得ない。なお、メイダイが出願した上記2商標については、原告が有する登録商標と同一又は類似であることを理由として商標法4条1項11号に基づき拒絶査定がなされている。
 審決が業界の一般的な用法として依拠した事実関係は、上記のように原告の本願商標等にフリーライドをしようとした業者の用例であるから、一般的な用法を基礎付ける資料とはならない。
c したがって、審決には、本願商標の識別性を否定する判断の前提となっている事実認識に誤りがある。
(ウ) 本願商標における格助詞「の」の多義性
 審決は、「お医者さん『の』ひざベルト」の格助詞「の」を「製造した」という記述的な意義に解釈をして結論を導き出している。
 しかし、格助詞「の」については、次のとおり、各種用法があり、職業を表す名詞と商品を表す名詞を「の」で接続した語について、直ちに、当該職業の人が作った商品であると理解認識されるものとは認められないから、審決の認定は合理性がない。
a 広辞苑第五版(甲13の1)2078頁に説明された格助詞「の」の用法は、前の語句の内容を後の体言に付け加え、その体言の内容を限定する用法として、@場所を示す、A時を示す、等に並立して、所有者を示す用法が紹介されている。
 例えば、
(a) 東京のおじさん
(b) 昨日の出来事
(c) 毛糸のセーター
(d) 本校の生徒
(e) 私の本
(f) 先生の本
(g) 子どもの本
 以上の例を考察すると、ここで、修飾限定する語が(a)「東京」のように場所を表すならば、おじさんが住んでいる地域が東京であることが、(b)「昨日」のように時を表すならば、出来事が起きたのが昨日であることが、(c)「毛糸」のように原料・品質を表すならば、セーターの素材が毛であることが、(d)「本校」のように所属を表すならば、生徒の所属が本校であることが、それぞれ意味される。
b このように、格助詞「の」は、修飾する語によって、それぞれの用法が特定されるが、(e)〜(g)の「私」「先生」「子ども」のように人を表す場合は、本の持ち主が私であるといった、所有を表す助詞として理解される場合の外、修飾される名詞の意味合いとの関係で、(f)「先生が執筆した本」、(g)「子ども向けの本」といった、所有以外の語義となる意味合いが生じ得るから、必ずしも一義的ではない。
 この事実について更に文法的な解釈をすすめると、助詞「の」の用法は、「名詞+の+名詞」という形で用いられ、名詞句を作る連体助詞として機能する。二つの一般名詞を「の」で連結する構成で、主と従の関係や、特徴やありかによる特定や、動詞を名詞に変えたときの用法に実例が見られ、「の」は直前の名詞と結合することで、連体修飾語を作る働きがある。そして、人物等を表す名詞の後に「の」が付属すると、所有者と所有物、帰属者と帰属先、生産者と生産物のような、主と従の関係を成立させる役割を果たし(村田美穂子編「文法の時間」至文堂[甲13の2]92頁参照)、修飾限定される名詞の字義によって、様々な意味合いが生じることになる。
c 以上のことからすれば、職業を表す名詞である「お医者さん」と商品を表す名詞である「ひざベルト」が「の」で接続された場合は、「お医者さん」が所有する「ひざベルト」あるいは「お医者さん」が用いる「ひざベルト」という観念も導き得るものであって、当該語から一義的に「お医者さん」が「ひざベルト」を考案した製作者であるがごとき意味合いを補充して語句全体の観念を想起させると認定することは不自然である。
 特に、「ひざベルト」という商品は、一般的には医師が作るものではないことからすれば、「お医者さん」と「ひざベルト」を「の」で接続した場合に、当然に「お医者さんが作ったひざ用のベルト」と理解・認識させるとの審決の認定は、不当である。
d 審決においては、本願商標の格助詞の「の」の用法について、「所有者」を示す用法であるとしながら、本願商標「お医者さんのひざベルト」の解釈としては、「お医者さんが『作った』ひざ用のベルト」として理解・認識されると認定しており、審決自身、「の」の多義性について混乱している。
e 以上のとおり、本願商標の構成から直ちに「お医者さんが作ったひざ用のベルト」という意味合いが導き出されるものではない。
(エ) 審決が引用するインターネット広告の記載等
a 審決は、「原審において引用したインターネット情報に記載されている『お医者さんのひざベルト』は、BクリニックのB院長の考案に係るひざベルトであり、『医者の私が考案しました』と記載されているように、正に『お医者さんが作ったひざ用のベルト』であることを示しているものということができる。」と認定した(2頁7行〜11行)。
b しかし、当該引用されたホームページの商品広告から明らかなように、「お医者さんのひざベルト」の語自体は商標として機能する商品の出所を示す語句であり、「医者の私が考案しました」と記載されている部分は、商品の説明として、B院長が考案したことが補足的に説明されたものにすぎない。これらのインターネットのホームページは、商品名「お医者さんのひざベルト」に係る保温用サポーターの内容を図や写真・文章等で説明していることが容易に理解できるものである。
 これに対し、本願商標は、抽象的かつ漠然とした表現であり、商品のどのような性能を示しているかが具体化せず、単なる造語として認識されるとするのが、様々なアイディア商品が案出されその特徴を表した名称が商品の識別標識として頻繁に用いられているひざ用ベルトをはじめとする、この種の商品における取引の実情である。
c なお、被告提出の証拠(乙1〜21)において、商品の紹介広告、説明記事等に商品名と共に、その製品は、医師や他の特定の製造者が製造したものであることが記載されているとしても、「お医者さんの〜」という商品名が品質表示として理解されることはあり得ない。
(オ) 本願商標の識別性の判断基準
a 「品質」の具体性の欠如
(a) 商標法3条1項3号は「品質」に関する表示の登録を規制しているが、そこでいう「品質」の表示は具体的な商品内容としての特徴に結び付けられたものを表示するものに限定されるべきである。
 このことは、上記(ア)aG「牛乳屋さんの珈琲」に関する審判において、「『「牛乳屋さんの珈琲』の文字よりなり、『牛乳販売店で売られている珈琲』の如き意味合いを看取させる場合があるとしても、商品の品質を具体的に表したものとはいい得ない」と認定されたこと(甲5)や、原告が商標権を有する登録第4839578号「お医者さんの」商標に関する異議の決定(異議2005−90186号)において、「本件商標は、…『お医者さん』と格助詞『の』とを連綴して『お医者さんの』の文字を表示してなるものであるところ、その構成に係る文字からは、登録異議申立人が主張するような商品の品質を具体的に表示したものとして、把握し認識されるものということはできない。」と認定されたこと(甲14)からも明らかである。
(b) 本願の指定商品の「品質」は、素材、機能、原産地等といったことにかかわるものであり、そのような商品自体のもつ性質に関する特徴が客観的視できる用語で正確に表示されたもののみが商品の「品質」の表示として捉えられるべきである。
 「誰」が製造するかということは、具体的な商品の性質に関連づけられた客観的な特徴を示すものではなく、当該「人物」の技能その他の個別的な信頼性に依拠したものにすぎず、その結果製造されている商品が、客観的に優れた商品としての品質を有するものとの保証はない。
(c) したがって、仮に、本願商標の格助詞「の」を「製造した」という記述的な語句に置換したとしても、当該語句は具体的な品質を表示するものではない。
 審決は「お医者さん『の』」をもって、「製造した」という記述的な語として認定するが、実際の「製造者」が医師であることはありえない想定であり、医師という職業に関する親しみをこめた表現である「お医者さん」が「製造した」ことが「品質」に関する表示であると認めることは不可能である。
b 「普通に用いられる方法」の非該当性
 商標法3条1項3号は、品質等を「普通に用いられる方法」で表示する標章のみからなる商標であることを、登録不許可事由としている。
 本願商標は、「医師」や「医学博士」といった語句は使用しておらず、医師を親しみを込めて呼びかける愛称と理解される「お医者さん」という単語を使用している。製造者にしろ、開発者にしろ、推薦者にしろ、商品等について、その「者」の権威を利用しようとする場合には、「医師」や「医学博士」といった正式の用語を用いるのが一般的である。
 したがって、本願商標は、「普通に用いられる方法」で表示する標章ではない。
(カ) 現実に広く使用されたことにより、他社製品を識別できるだけの機能を有するに至った商標について、商標法3条1項3号又は6号に該当しないとする審決例が、特許庁において顕著に見られる(甲18〜21)。
(キ) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの審決の判断は誤りである。
イ 取消事由2(本願商標は商標法3条2項により商標登録を受けられること)
 仮に、本願商標の「お医者さんのひざベルト」が商品の品質を表示するとして商標法3条1項3号に該当するとしても、「お医者さんのひざベルト」の商標については、次のとおり、その使用により、需要者は原告の業務に係る商品であることを認識することができるようになっており、そのような使用を通じた識別力が獲得されていることから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものである。
(ア) 原告による「お医者さんの」シリーズ商標の展開
 原告は、必ずしも医師が開発に携わることがなかったコルセットをはじめとする健康関連商品につき、スポーツ医学等の分野でアスリートの治療を行う当業界の第一人者である医師に対し商品の開発を依頼し、「お医者さんの」シリーズとして広告宣伝し、販売することとした。
 原告は、平成14年6月に腰保護用コルセットを指定商品とする商標「お医者さんのコルセット」の登録申請を行ない、その登録を受けて、同商標を使用した商品販売を開始した。
 原告は、同年6月ころから、全国のテレビ放送局で放送されるショッピング番組における広告、全国的に配布される大手通信販売業者、大手百貨店等のカタログや、毎日、読売、朝日、産経等の全国紙及び地方紙等の新聞に「お医者さんのコルセット」の商標を使用した商品の広告宣伝を継続して多数回にわたり掲載している(甲15の2の1〜156、甲16、17)。なお、新聞広告は、平成15年6月より前から掲載しているが、リスト作成者である「いいもの王国株式会社」において同月より以前のデータを廃棄してしまっていたため、同月以降のリスト(甲17)のみを提出する。
 次に、原告は、平成15年9月に保温用サポーターを指定商品とする本願商標の登録申請を行い、同月ころから、同商標を使用した商品販売を開始した。原告は、平成15年秋ころから、全国的に配布される大手通信販売業者、大手百貨店等のカタログや、毎日、読売、朝日、産経等の全国紙及び地方紙等の新聞に「お医者さんのひざベルト」の商標を使用した商品の広告宣伝を継続して多数回にわたり掲載し、テレビ放送による商品広告も行っている(甲15の1の1〜117、甲16、17)。
 さらに、原告は、平成16年11月に、低反発素材を使用した円座クッションを指定商品とする「お医者さんの低反発円座クッション」の商標登録申請を行い、平成16年秋ころから同商標を使用した商品販売を開始した。原告は、平成16年冬ころから、全国的に配布される大手通信販売業者、大手百貨店等のカタログや、朝日、日経等の全国紙及び地方紙等の新聞に「お医者さんの低反発円座クッション」の商標を使用した商品の広告宣伝を継続して多数回にわたり掲載している(甲15の3の2〜5、8〜19、甲17)。
 以上のとおり、原告は、平成14年5月ころより、「お医者さんのコルセット」、「お医者さんのひざベルト」、「お医者さんの低反発円座クッション」の「お医者さんの」シリーズ商標を付した商品を継続して販売している。このような原告の、当該商標を全国的に継続して多数回にわたり広告掲載するという営業努力によって、本願商標を含む「お医者さんの」シリーズ商標は、一般需要者の広く知るところとなっており、北海道から沖縄まで広く周知になっている。
(イ) 「お医者さんの」シリーズ商品の売上実績
 原告の営業努力及び宣伝広告の成果並びにその取扱商品の優秀さにより、「お医者さんの」シリーズ商品は、例年多額の売上げを記録するに至っている。商品の売上高は、「お医者さんのひざベルト」について、平成15年9月から平成18年5月までで5億4000万円を超え、その他「お医者さんの」シリーズ商品の平成14年5月から平成18年5月までの売上げの総合計は約21億円となっている(甲9)。原告の製造に係る保温用サポーター、コルセット、クッション等は「お医者さんの」ではじまる統一された一連のブランドとして業界及び一般顧客に知られ、多種多様の販路によって販売されている。
 また、本願商標の指定商品である「保温用サポーター」は、いわゆるアイディア雑貨であり、購入者の趣味が著しく反映される特徴にあり、商品の流行性が極めて早く、販売サイクルの短い商品が多い。この中で、商品に付される商標は需要者の商品採択において重要な働きをなし、特に構成文字の特異性によって商品の認知度が高まるので、各社アイディアを凝らした商品名が採択される傾向にある。このような、種々雑多な商品が短い商品サイクルで販売されるアイディア商品としては、「お医者さんの」シリーズ商品は、異例のロングセラーとなっている。
(ウ) 「お医者さんの」シリーズ商標の著名性にフリーライドする者が出現したこと
 前記のとおり、メイダイは、原告の獲得した「お医者さんの」シリーズ商標の識別力にフリーライドして、平成16年10月ころから、「お医者さんの低反発円座クッション」という商標を使用し、その商標の登録申請まで行った。
 メイダイが、原告の警告により「医学博士」という表現に改めていることは、「お医者さんの」シリーズ商標が取引者において原告の業務にかかる商品であることが識別されていることを示しており、「お医者さんのひざベルト」商品が原告に係る名称として理解されていることが認められる。
(エ) 以上の各事実を総合すると、本願商標は原告の商品を示す商標として広く知られるに至っていて、一般消費者間においても極めて著名であるということができる。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、(3)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 本願商標
 本願商標は、「お医者さんのひざベルト」の文字を標準文字で書してなるところ、本願商標の構成中、「お医者さん」の文字部分は、「医者」の文字に、相手に対する敬意を表す接頭語「お」及び接尾語「さん」の各文字を付したものであり、医師を表す語として普通に使用されている。
 また、同じく「ひざベルト」の文字部分は、「ひざ」の文字と「ベルト」(belt)の文字とを組み合わせたものであり、「ひざ用のベルト」ほどの意味合いを理解・認識させるものであって、本願の指定商品「保温用サポーター」との関係においては、商品の名称を表す語とみて差し支えないものである。
 そして、本願商標は、前記各文字部分を格助詞「の」で結合してなるところ、該格助詞「の」は、「連体格を示す。前の語句の内容を後の体言に付け加え、その体言の内容を限定する。」「所有者を示す。」「所属を示す。」(広辞苑第五版[甲13の1]2078頁)ものであり、また、「主と従の関係」を表し、例えば、「生産者と生産物の関係を『AのB』という形で表す。」(村田美穂子編「文法の時間」至文堂[甲13の2]92頁)ものであって、実際に、「夏目漱石の小説」「エジソンの電球」「母の料理」などのように使用されるものである。そうすると、「AのB」のように格助詞「の」を使用した場合、「の」の文字は、「〜が作った」(「〜が考案した」、「〜が開発した」等を含む。)の意味合いを有するものというべきである。
 したがって、「お医者さんのひざベルト」の語は、格助詞「の」の用法からして、構成全体として、これに接する取引者・需要者に「お医者さんが作ったひざ用のベルト」の意味合いを理解・認識させる語であることは否定できない。
イ 商標法3条1項3号の趣旨
 商標は、自他商品又は自他役務を識別する標識になり得ることをその本質的機能とするものであるから、商標法は、3条1項において、商標の登録要件として、1号ないし5号に該当する標章の他、6号において包括的に需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものについては登録を受けることができない旨規定している。
 そして、商標登録の要件を具備しない商標として、3号に「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」が規定されているところ、ここに列挙されたものを不登録とするのは、これらは通常、商取引に際し必要な表示であり、何人もその使用を欲するものであるから、特定人による、その独占使用をするのを認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般に使用される標章であるから、これらのものに自他商品等の識別力を認めることはできないという理由による。
 そうとすれば、商標登録出願に係る商標が、商品の品質等を表示させるものは、商品流通過程に置く場合に必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであり、これを特定人に独占使用させることを不適当とする公益上の理由があるから、当該商標は商標法3条1項3号に該当し、商標登録の要件を具備しないものというべきである。
ウ 健康に関する商品分野において、医者等が商品を考案したり、開発したり、関与したりして、そのことを宣伝していること本願の指定商品である「保温用サポーター」は、健康を維持するための商品と考えられるが、このような健康に関する分野は、医師、整骨医等が専門とするところであり、関連する商品について、専門家である医師等が考案したり、開発したり、あるいは、それらに関与して、より有効な商品として製品化することがしばしば行われており、さらに、そのような商品の販売に際し、専門の医師等が関わった商品であることを商品の重要な販売戦略の特徴とし、購買意欲をそそる手法の一つとして宣伝、広告することが広く行われている商取引の実情がある。
 原告商品の宣伝、広告においても、原告の提出する「Dr.Departureお医者さんのひざベルト」、「Dr.Departureお医者さんのコルセット」及び「Dr.Departureお医者さんの円座クッション」の宣伝広告(甲15の1の1〜甲15の3の19)には、「日本スポーツ医学の第一人者が考案」と大きく記載されている(甲15の1の58)のを始め、ほとんどすべての宣伝広告において、それらの商品がB医師によって開発・考案されたものであることを謳っている。
 原告以外の者による宣伝広告も同様である(甲15の1の1〜甲15の3の19、乙1〜11)。
エ 格助詞「の」を「〜が作った」の意味合いで使用していること格助詞「の」は、上記アで述べたとおり、「〜が作った」「〜が考案した」「〜が開発した」等のような意味合いをも有するものであり、実際の商取引において、健康に関する商品分野で「お医者さんの…」と使用されている事実(乙12〜16)があるほか、その他の商品について、格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている事実(乙17〜21)がある。
オ 上記ア〜エの実情等を総合勘案すると、本願商標は、普通に使用されている「お医者さん」の文字と、商品名を表すものとしての「ひざベルト」の文字とを、上記の如く使用されている格助詞「の」で結合して、「お医者さんのひざベルト」と書してなるものであるから、本願商標がその指定商品「保温用サポーター」について使用された場合、取引者・需要者は、これにより「お医者さんが作ったひざ用のベルト」の如き記述的な意味合いを容易に理解し、認識するにすぎないものである。
 そうすると、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、単にその商品の品質を表示するというべきであり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものである。
 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
カ 原告の主張に対する反論
(ア) 原告は、格助詞「の」を含む登録例を挙げて、本願商標が商標法3条1項3号に該当しない旨を主張する。
 しかし、登録出願された商標が登録され得るものであるか否かの判断は、個々の商標ごとに個別具体的に検討判断されるものであり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かの判断が、他の登録例に拘束されるものではない。また、原告が主張する「お医者さんの低反発円座クッション」「お医者さんのコルセット」の登録例は法的な最終判断を経ているものでなく、その他の登録例は、本願商標とは商標の構成を異にするものであって、事案を異にするから、原告の挙げた登録例によって本願商標における判断が左右されるものではない。
(イ) 原告は、本願商標の指定商品を扱う取引者において、「お医者さん」という語が、日常的かつ頻繁に商品と結合されて使用され、かつ、それが製作及び開発に医師の関与を表すという用法が一意的に確立されているという業界慣行等は一切存しない、と主張する。
 しかし、本願の指定商品「保温用サポーター」に関連する健康に関する分野の商品の開発等に当たっては、医師、接骨医等の専門家がかかわることにより有効な商品作りがされているものであり、また、そのように製品化された商品の販売に当たり、専門の医師等がかかわったことを商品の重要な販売戦略の特徴として宣伝広告することが、この種業界において、広く行われていること、及び、その際、「お医者さん」の語の使用の事実もあることは、上記ウ、エで述べたとおりである。
(ウ) 原告は、審決が「お医者さん」の語の使用態様についての事実評価の基礎としているホームページの使用例はわずか4件にすぎないものであり、しかも、使用例のうち、メイダイのホームページによる使用例は、原告の商標にフリーライドをしようとした業者の使用例であるなどと主張する。
 審決は、例として4件を挙げたが、本願商標は、上記のとおり、「お医者さんが作ったひざ用のベルト」の如き記述的な意味合いを認識させる自他商品の識別標識としての機能を有しないものであり、本願の指定商品等の健康に関する商品の取引者が使用を欲する可能性が高いものであると考えられるし、上記エのとおり、実際に複数の取引者によって「お医者さんの〇〇」の用例をもって使用されている。
 したがって、「お医者さんの〇〇」の商標が自他商品の識別力を有することを前提として、メイダイによる使用例が原告の商標にフリーライドしようとした業者の使用例であるとする原告の主張は、失当である。メイダイが原告の警告の後に「医学博士」と変更したとしても、それは、メイダイの経営戦略としてなされたものであって、そのことにより、メイダイが原告の「お医者さんの〇〇」のみからなる商標が自他商品の識別標識としての機能を有するものと認めたとか、「お医者さんの」に係る商標にフリーライドしたということはできない。
(エ) 原告は、格助詞「の」については、各種用法があり、職業を表す名詞と商品を表す名詞を「の」で接続した語について、直ちに、当該職業の人が作った商品であると理解認識されるものとはいえない、と主張する。
 しかし、上記のとおり、格助詞「の」は、主と従の関係を表し、「△△が作った○○」の如き語義をもって用いられることは不自然ではないし、「お医者さん」と健康に関する商品名ともいえる「ひざベルト」を格助詞「の」で接続した場合に考えられる語義は、お医者さんが「作った」「所有する」など語義が限られるものではなく、本願の指定商品の分野における取引の実情からすると、「作った」の語義を一義的に認識するというべきであるから、格助詞「の」に複数の用法があることを根拠にする原告の上記主張は、理由がないというべきである。
(オ) 原告は、商標法3条1項3号でいう「品質」の表示は具体的な商品内容としての特徴に結び付けられたものを表示するものに限定されるべきであるところ、「誰」が製造するかということは、具体的な商品の性質に関連づけられた客観的な特徴を示すものではなく、客観的に優れた商品としての品質を有するものとの保証はないなどと主張する。
 しかし、同号にいう「品質」には、「スーパー」・「BEST」・「プロフェッショナル」等のように、その商品の品質について具体的に特定するものばかりではなく、取引者・需要者が、品質・性能等の特性を誇示するようなものであると認識するような場合も含まれると解される。
 そして、本願商標については、本願の指定商品に係る分野の取引の実情からすると、「お医者さんが作ったひざ用のベルト」の意味合いを認識させ、しかも専門家である医師が作ったものであることにより、その商品が高品質・高性能であることを誇示したものと認識させるというべきであるから、自他商品の識別標識としての機能を有するものということができない。
(カ) 原告は、「ひざベルト」の実際の「製造者」が医師であることはあり得ないと主張する。しかし、実際に販売する個々の商品を当該医師が製造したということではなく、その商品の開発に当たって、当該医師が関与した(考案した、開発した)と考えるのが自然であり、需要者も当然にそのように認識するものであって、原告のこの点についての主張は、需要者・取引者の認識を考慮していない、独自の見解といわざるを得ない。
(キ) 原告は、本願商標は、医師を親しみを込めて呼びかける愛称と理解される「お医者さん」という単語を使用しているから、「普通に用いられる方法」で表示する標章ではない、と主張する。
 しかし、「お医者さん」の語は、「医師」を親しみを持って表す場合に日常的に広く用いられているものであって、「お医者さん」といえば、直ちに「医師」を認識するといっても差し支えない同義語の如き語であるから、商品の宣伝・広告に「医師」・「医学博士」等の語が用いられることがあるとしても、それにより、本願商標に接する需要者が、構成中の「お医者さん」の文字が「医師」であること以上に特別の意味合いを認識するということはできない。したがって、「医師」を「お医者さん」と表したことをもって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものはいえないというべきである。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告は、本願商標は、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものである、と主張する。
 しかし、この主張は、審判段階においては全く主張されず、訴訟段階に至って、初めて新たに主張されたものである。
 審決取消訴訟は、審決の違法性について争うものであって、当該審判手続において現実に争われ、審理判断された事由を審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めるものであるから、当審において新たな主張を行うことは許されない。
 したがって、本願商標が商標法3条2項の要件を具備するとの上記主張は、許されないものである。
イ 仮に、本件について、商標法3条2項の要件を具備するとの主張をすることができるとしても、以下に述べるとおり、原告の提出に係る証拠によっては、使用により識別力を有したものということはできない。
(ア) 商標法3条2項の趣旨
 商標法3条2項は、いわゆる使用による特別顕著性(識別力)の取得の規定である。3条1項各号に掲げる商標は、自他商品又は自他役務の識別力がないものとされて商標登録を受けられないのであるが、同条同項3号から5号までのものは特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場合には特別顕著性(識別力)が発生したと考えて商標登録をし得ることにしたのである。
 その趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、特定人がその業務に係る商品の自他商品識別標識として他人に使用されることなく永年独占排他的に継続使用した実績を有する場合には、その商品の取引界において特定人の独占使用を容認したことを証することにもなり、一般取引者に対してこれを開放しておかなければならない公益性も薄れたものということができるから、当該商標の登録を認めようというものであると解される。
 以上のような商標法3条2項の趣旨に照らすと、同条項によって商標登録が認められるためには、@使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、判断時である審決時において、商標が使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められること、A登録出願された商標と使用に係る商標の同一性が認められることが必要であると解され、商標法3条2項の適用に当たっては、使用による識別性の取得という観点から、その使用の状況、使用の結果による著名性の獲得など厳格に解釈し、適用されるべきである。
(イ) 本願商標が商標法3条2項の要件を具備しないこと
a 原告は、「お医者さんの」シリーズの商標展開、「お医者さんの」シリーズの売上げ実績、「お医者さんの」シリーズの著名性にフリーライドする者が出現したことの事実を挙げて、本願商標は、原告の一連の「お医者さん」シリーズ商標として識別力を獲得していると主張する。
 しかし、本願商標は「お医者さんのひざベルト」であり、これとは異なる「お医者さんのコルセット」「お医者さんの低反発円座クッション」等の商標が使用され、仮に著名であるとしても、本願商標が使用され、自他商品の識別力を獲得するか否かとは、何ら関係のないことである。
 前記(1)カ(ウ)のとおり、メイダイの使用は必ずしもフリーライドとはいえないし、メイダイによって使用されたとする商標は、「お医者さんの低反発円座クッション」であって、本願商標「お医者さんのひざベルト」ではない。
 したがって、「お医者さんのコルセット」及び「お医者さんの低反発円座クッション」に係る宣伝広告及び売上げ実績並びにフリーライドに関する原告の主張は、失当である。
b 原告は、平成15年9月ころから、本願商標を使用した商品の販売を開始し、同年秋ころから、全国的に配布される大手通信販売業者、大手百貨店等のカタログや全国紙及び地方紙等の新聞に本願商標を使用した商品の広告宣伝を継続して多数回にわたり掲載し、テレビ放送による商品広告も行っている、と主張する。原告の提出に係る甲15の1の1〜117において、原告が商品「ひざ用のサポーター」に「お医者さんのひざベルト」の商標を使用していることが認められるとしても、本願商標「お医者さんのひざベルト」の文字は、常に「Dr.Departure」、「<Dr.Departure>」、「Dr.Departure(ドクター・ディパーチャー)」又は「ドクター・ディパーチャー」等の文字(以下、これらをまとめて「Dr.Departure」という。)が併記又は隣接された態様で使用されているものである。
 そして、「お医者さんのひざベルト」は、前記のとおり、本願の指定商品に使用された場合には、「お医者さんが作ったひざ用のベルト」の意味合いを認識させるものであるから、当該商品「ひざ用のサポーター」に接した需要者は、自他商品の識別力を有し顕著に書された「Dr.Departure」の文字に着目し、「Dr.Departure(ドクター・ディパーチャー)のお医者さんが作ったひざ用のベルト」と認識するのが自然であって、使用の結果、「お医者さんのひざベルト」の文字単独で、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるほど自他商品識別標識としての機能を発揮し、商品の出所を表示するものとして広く知られるに至ったものとはいえない。
 また、原告の「お医者さんのひざベルト」に係る売上げ実績(甲9)が事実であるとしても、平成15年9月から平成18年5月の2年9か月間で約5億4000万円の販売にすぎず、販売数も合計約17万5000個、月間販売個数が1万を超えたのはわずか1月で最近1年間の月刊販売個数は、2000〜4000個にすぎないものである。
 さらに、テレビコマーシャルについての原告主張が事実であるとしても、CS放送のテレビショッピングで1回放映(2006年2月17日)されたにすぎず(甲16)、しかも原告提出の他のカタログ・新聞等の宣伝広告の内容からすると、「Dr.Departure」とともに「お医者さんのひざベルト」を使用している可能性が高いと考えられるし、カタログ誌も、その多くは、原告の「ひざ用のサポーター」を採り上げ、特集しているというようなものではなく、広く日常的に使用される様々な商品を百数十頁以上に掲載されている多数の商品の一つとして掲載されているにすぎないものが多いから、仮にこれらカタログの発行部数が一定程度あるとしても、需要者に原告の「ひざ用のサポーター」が広く知られているとまでいうことはできない。
c 以上のとおり、原告提出の各証拠によっては、本願商標「お医者さんのひざベルト」の文字が使用されていることは認められるとしても、本願商標が原告の業務に係る商品であることを、需要者・取引者において認識することができたとまでいうことはできないから、商標法3条2項の要件を具備するものではない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(審決の内容)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由について
(1) 取消事由1(本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断したことの誤り)につき
ア 商標法3条1項3号の趣旨
 商標法3条1項3号が、「その商品の産地、販売地、品質、原材料…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができない旨を規定する趣旨は、このような商標は、「商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによる」と解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁〔判例時報927号233頁〕)。
 この点につき原告は、商標法3条1項3号の「品質」の表示は具体的な商品内容としての特徴に結び付けられたものを表示するものに限定されるべきであり、「誰」が製造するかということは、具体的な商品の性質に関連づけられた客観的な特徴を示すものではなく、「品質」に関する表示であると認めることは不可能である、と主張する。しかし、商標法3条1項3号の「品質」を原告が主張するように限定的に解すべき理由はない。「誰」が製造するかということが商品の品質と密接な関連を有する場合には、「誰」が製造するかということも、商品の「品質」に当たるというべきである。
 そこで、以上の見解に立って、本願商標が商標法3条1項3号に当たるかどうかについて検討する。
イ 本願商標の構成
 本願商標は、「お医者さんのひざベルト」の文字を標準文字で書してなるものである。
 本願商標の構成のうち「お医者さん」の文字部分は、「医者」の文字に、相手に対する敬意を表す接頭語「お」及び接尾語「さん」の各文字を付したものであり、医師を表す語として認識されるものである。また、「ひざベルト」の文字部分は、「ひざ」の文字と「ベルト」(belt)の文字とを組み合わせたものであり、「ひざに使用するベルト」として認識されるものである。
 そして、本願商標は、上記の「お医者さん」の文字部分と「ひざベルト」の文字部分を格助詞「の」で結合したものである。該格助詞「の」は、「連体格を示す。前の語句の内容を後の体言に付け加え、その体言の内容を限定する」ものであり(広辞苑第五版[甲13の1]2078頁)、「生産者と生産物の関係を『AのB』という形で表す」ことがある(村田美穂子編「文法の時間」至文堂[甲13の2]92頁)。したがって、「AのB」という形で格助詞「の」を使用した場合、「の」の文字は、「〜が作った」の意味を有することがあるものと認められる。
ウ 本願の指定商品との関係等
 本願の指定商品である「保温用サポーター」は、健康に関連する商品であるから、それを医師が開発・考案することがあるものと考えられるところ、次のとおり、健康に関連する商品について医師等の専門家が開発・考案したことを宣伝広告することによって、商品への信頼性を高めることが行われているものと認められる。また、これらの中には、本願指定商品以外の商品について、「お医者さんの…」という商品名が用いられる例(後記(ク)並びに(ス)のl、m、n、o及びp)がある。
(ア) 原告は、後記(2)ウ(ア)のとおり、「お医者さんのひざベルト」の広告を行っているが、それらの広告の多くに、「お医者さんのひざベルト」はB医師が開発・考案したものである旨の記載がある(甲15の1の1〜117)。また、原告は、「お医者さんのひざベルト」と同様に、「お医者さんのコルセット」についても広告を行っているが、それらの広告の多くには、B医師が開発・考案したものである旨の記載がある(甲15の2の1〜156)。さらに、原告は、これらの商品と同様に、「お医者さんの円座クッション」についても広告を行っているが、それらの広告の多くには、B医師が開発・考案したものである旨の記載がある(甲15の3の2〜5、8〜19)。
(イ) 株式会社プライムが発行する「Prime Box」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)10周年謝恩号に、骨盤用のサポートベルトの広告が掲載されており、そこでは、「開発者の声」として、C接骨院院長Cのことばと顔写真が掲載されている(甲15の1の17)。また、資生堂ショッパーズクラブ株式会社が発行する「ヘルス&ビューティーグッズエスカタログ」という名称のカタログショッピング誌(カタログ有効期限2004年[平成16年]9月30日のもの及び2005年[平成17年]7月29日のもの)に、ひざベルトの広告が掲載されており、そこでは、C接骨院院長C柔道整復師の写真と同人が考案したことが記載されている(甲15の1の34、75)。
(ウ) 株式会社ジェイオーディが発行する「アクセス」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号に、外反母趾・内反小指サポーターの広告が掲載されており、そこでは、「考案者柔道整復師D」の記載とともに、同人の写真が掲載されている(甲15の1の18)。また、株式会社ファミリー・ライフが発行する「ファミリー・ライフの通信販売」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)新年号には、外反母趾・内反小指サポーター及び膝サポーターの広告が掲載されており、そこでは、「D式サポーター」の文字とともに、「柔道整復師D接骨院院長D」の写真と経歴が掲載されている(甲15の1の63)。
(エ) 株式会社ファミリー・ライフが発行する「ファミリー・ライフの通信販売」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号には、骨盤矯正ベルトの広告が掲載されており、そこでは、「専門医E先生考案。話題の腰痛予防サポーター!」と記載され、「発明者」として、E治療院院長Eの写真が掲載されている(甲15の1の20)。また、東急百貨店が発行する「しまい上手」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)夏号(甲15の1の25)、浜口通販株式会社が発行する「花もめん」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)初夏号(甲15の1の77)及び株式会社ベルーナが発行する「雑貨くらぶ」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号(甲15の2の33)にも、骨盤矯正ベルトの広告が掲載されており、そこでは、E治療院院長Eが考案者又は開発者として記載されている。
(オ) STEILAR C.K.M株式会社が発行する「元気の処方箋第九集」という名称のカタログショッピング誌(2004年[平成16年]10月2日発行)には、関節や腰の痛みを軽減する靴の広告が掲載されており、そこでは、「Dr.Fプロデュース」の記載とともに「バイオメカニクスDr.F」の写真が掲載されている(甲15の1の36)。また、東急百貨店が発行する「しまい上手」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)新春号にも、同様の靴の広告が掲載されており、そこでは、「バイオメカニクストレーナーF氏監修」の記載とともに同人の写真が掲載されている(甲15の1の62)。
(カ) インペリアル・エンタープライズ株式会社が発行する「使ってヨカッタ」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)早春特別号に体圧分散抱き枕の広告が掲載されており、そこでは、「開発者理学療法士G先生」と記載され、同人の写真が掲載されている(甲15の1の47)。また、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国BEST HIT」という名称のカタログショッピング誌(注文承り期間2006年[平成18年]3月31日)に、ひざサポーターの広告が掲載されており、そこでは、「この商品を考案した『赤ひげ先生』」として、「理学療法士G先生」と記載され、同人の写真が掲載されている(甲15の1の107)。
(キ) 株式会社ファミリー・ライフが発行する「ファミリー・ライフの通信販売」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)冬号には、腰用テーピングサポーターの広告が掲載されており、そこでは、「鍼灸の第一人者H…考案…テーピングサポーター」の記載とともに同人の写真が掲載されている(甲15の1の52)。
(ク) 藤久株式会社が発行する「BEST GALLERY」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)12月号、2005年(平成17年)2月号、4月号及び5月号には、「お医者さんの円座クッション」という商品名の円座クッションの広告が掲載されており、そこでは、「医師が考案した」の記載とともにA医師の名前が記載され、同人の写真が掲載されている(甲15の1の73、78、甲15の3の1、6、7)。
(ケ) 株式会社テレマートが発行する「テレマート」という名称のカタログショッピング誌の2003年(平成15年)春号には、エナジーテープの広告が掲載されており、そこでは、「I先生が開発した体に優しいテープです。」の記載とともに同人の写真が掲載されている(甲15の2の4)。
(コ) ロイヤルステージ株式会社が発行する「ROYAL selection」(ロイヤルセレクション)という名称のカタログショッピング誌の2003年(平成15年)新年号には、シェイプスリッパの広告が掲載されており、そこでは、「東洋医学の権威、J先生が考案。」の記載があり、同人の写真が掲載されている(甲15の2の11)。
(サ) インペリアル・エンタープライズ株式会社が発行する「使ってヨカッタ」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)秋・冬号に外反母趾補正靴の広告が掲載されており、そこでは、「足の構造を知り尽くした専門医が開発」の記載があり、「開発者」としてK医師の写真が掲載されている(甲15の2の30)。
(シ) 大阪通販株式会社が発行する「ナースカタログ」という名称のカタログショッピング誌(カタログ有効期限2005年[平成17年]9月30日のもの、2005年11月30日のもの及び2006年[平成18年]3月31日のもの)に股関節&骨盤補整サポートガードルの広告の広告が掲載されており、そこでは、「各業界第一人者共同企画商品D先生L先生」の記載とともに、それぞれの者の写真が掲載されている(甲15の2の121、129、148)。
(ス) 一方、インターネットにおいては、次のような記載が見られる。
a 「お医者さんが作ったサンダル☆A式進化したアーチケアサンダル」の見出しの下に「…A整形クリニック院長である医学博士・A先生が監修した『A式進化したアーチケアサンダル』を試してみて!」の記載がある(乙1)。
b 「楽しくむし歯予防! 歯医者さんが作ったチョコレート」の見出しの下に「『歯医者さんが作ったチョコレート』は、『子どもたちの大好きなチョコレートで楽しくむし歯を予防したい』と願う歯科医師の発案で生まれました。」の記載がある(乙2)。
c 「歯医者さんが作ったハブラシ」の見出しの下に「弾力性、跳ね返りのある、ブラシの素材を考え、口腔内の隅々までブラシが届くよう使い捨てしやすい価格ということで考案しました。」の記載がある(乙3)。
d 「犬用食事療法食」の見出しの下に「動物のお医者さんが作った食事療法食」「動物のお医者さんが作ったシャンプー」の記載がある(乙4)。
e 「お医者さんが考えたメディカルサロンのサプリメントです。」の記載の下にサプリメント(イチョウ葉&テアニン)が紹介されている(乙5)。
f 「お医者さんが作ったスキンケア化粧品」の見出しの下に各商品が記載され、その説明中に「デリケートなお肌のために医師が開発した…」「お医者さんが作った化粧品」の記載がある(乙6)。
g 「ドクターズコスメとは。」として、「ドクターズコスメとは、商品の開発に美容や皮膚科のお医者さんが関わって出来た化粧品のことです。ドクターズコスメは、もともとお肌の敏感な方のために開発されたコスメですが、ドクター(医師)が開発したということで、より多くの方が効果、効能、信頼性ということで支持しています。『お医者さんが作った化粧品だったら安心』という口コミで一般の人に広がりました。」と記載されているほか、各商品の説明に、医師が開発した旨の記載がある(乙7)。
h 「お医者さんが作った画期的パック。炭酸ガスパック『エンチボーテ901』!!」の記載がある(乙8)。
i 「お医者さんが作り出したドクターズコスメWHITE OUT【ホワイトアウト】」の記載がある(乙9)。
j 「ドクターズコスメ『キャタリクア』e.コンシーラー」の見出しの下に「お医者さんが作ったメイクしながらスキンケアするドクターズコスメです。」の記載がある(乙10)。
k 「お医者さんが考えたダイエットおからパン」の見出しの下に「実は…この商品はお医者さんが開発しました!!」と記載され、さらに、「内科医M先生」と記載され、同人の写真が掲載されている(乙11)。
l 「お医者さんが考えた、こだわり素材とこだわり形状の快適安眠枕」の見出しの下に、「A式お医者さんの体圧分散枕」の記載があり、さらに、「A整形クリニック院長医学博士A先生」と記載され、同人の写真が掲載されている(乙12)。
m 「A式『お医者さんの低反発円座クッション』」の見出しの下に「これは人間工学に基づき、スポーツドクターのA先生が考案したものなんです。」の記載がある(乙13)。
n 「履くだけでポッコリお腹解消!?お医者さんの姿勢美人スリムサンダル」の見出しの下に「なんとこのサンダル、あのドーナツ形低反発クッションを生み出した、人気のお医者さんシリーズ。その名のとおりお医者さんが開発しただけあって、真面目に作られている優秀グッズなんです。」の記載がある(乙14)。
o 「新発売!!お医者さんの★セラミド100%原液★特にアトピー・敏感肌の方、お薦めです!¥300から」の見出しの下に「お医者さんの開発した天然セラミド」の記載がある(乙15)。
p 「お医者さんのメディカル骨盤マクラ」「整形外科医グループが開発した《腰の枕」の見出しの下に、「現役整形外科医グループが開発したこの《骨盤枕》は、最新医学に基づいた形状が最大の特長です。」の記載がある(乙16)。
エ 商品名において格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている他の事例
 インターネットには、次のとおり、商品名において格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている事例が見られる。
(ア) 「お豆腐屋さんの『豆乳石鹸』盛田屋せっけん」「あの有名豆腐屋さんの石鹸!」の見出しの下に「椎葉村の"豆腐職人"Nさんが研究を重ねて作り上げた『豆乳石鹸』。」の記載がある(乙17)。
(イ) 「全国70余店、ほくほくの『お肉屋さんの和牛コロッケ』を創っている25歳女性」の見出しの下に「うちの店の場合、お客様はお肉の専門店としての品揃えと安さをもとめて来店されますが、お惣菜の場合は、それに加えて家でも簡単に作れるものではなくて、なかなか真似のできない味とか、家で作るにはあまりにも手間ひまがかかりすぎるもの、たくさんの種類の食材を使っているものなどが売れます。」の記載がある(乙18)。
(ウ) 「県内組合産品紹介コーナーお肉屋さんの”ジューシー”肉まん」「お肉のプロが造った豚肉タップリボリュームタップリ」の記載がある(乙19)。
(エ) 「お魚屋さんの寿司… 鮮度の良い切りたての生ネタとしゃりにこだわった“魚屋さん”の寿司を提供します。」の記載がある(乙20)。
(オ) 「【お魚屋さんのおかず】夏セット」の見出しの下に「魚屋さんが自信を持って選び抜いた、新鮮な素材を調理したおかずセットです。」の記載がある(乙21)。
オ 以上のイ〜エを総合すると、本願商標は「お医者さん」が開発・考案した「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められるところ、「お医者さん」が開発・考案したことによって、その「ひざベルト」が、高品質の信頼性が高いものという認識が生ずるということができるから、誰が製造したかが商品の品質と密接に関連しており、本願商標を本願の指定商品である「保温用サポーター」に使用した場合は、商品の「品質」を表したものと理解されるにとどまるものというべきである。
 そして、「お医者さん」は、医師を表示する用語として普通に用いられるものであるから、本願商標は、その品質を普通に用いられる方法で表示したものということができる。この点につき原告は、製造者にしろ、開発者にしろ、推薦者にしろ、商品等について、その「者」の権威を利用しようとする場合には、「医師」や「医学博士」といった正式の用語を用いるのが一般的であると主張するが、そのような経験則が存在するとは認められない。
 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に当たるというべきである。
カ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は、他の事例において特許庁は、「の」の格助詞により商標が表示している商品名を含む名詞が結合された商標に識別性を認め、その登録を認めているとして、前記第3の1(3)ア(ア)aの@〜Oの16件(甲2の1、2、甲3の1、2、甲4の1〜10、甲6の1、2)をその例として挙げる。
 しかし、これらのうち、B 登録第4702680号「ふとんのお医者さん」(甲3の1)とC 登録第4716168号「ふとんのお医者さん」(甲3の2)は、「お医者さん」が格助詞「の」の後に付いているものであって、本願商標とは異なる。
 また、D 登録第4795043号「八百屋さんのフルーツゼリー」(甲4の1)、E 登録第4689409号「くだもの屋さんのプルーン」(甲4の2)、F 登録第4526012号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の3)、G 登録第4529750号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の4)、H 登録第4351001号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の5)、I 登録第4287749号「牛乳屋さんのミルクココア」(甲4の6)、J 登録第4287750号「牛乳屋さんのあじわいココア」(甲4の7)、K 登録第4287747号「牛乳屋さんのミルク紅茶」(甲4の8)、L 登録第4287748号「牛乳屋さんのカフェ・オ・レ」(甲4の9)、M 商公平8−113897号「牛乳屋さんのミルクセーキ」(甲4の10)は、職業に「さん」を付けたものと商品名を「の」で結合した点において本願商標と共通するが、本願商標とは、職業も商品名も異になる。
 さらに、N 登録第4868259号「農家の梅」(甲6の1)、O商公平7−33471号「ドクターの赤汁」(甲6の2)は、「の」の前後の言葉が本願商標とは異なる。
 したがって、本願商標が商品の品質を表したものと理解されるからといって、直ちに上記B〜Oの商標が商品の品質を表したものと理解されるということはできない。まして、本願商標が商品の品質を表したものと理解されるからといって、「の」の格助詞が、商品又は役務名を含む二つの名詞を結合するものとして使用されている商標(甲7参照)のすべてについて、その識別性が否定されることとなるということはない。
 なお、@ 登録第4933176号「お医者さんの低反発円座クッション」(甲2の1)、A 登録第4715560号「お医者さんのコルセット」(甲2の2)は、「お医者さん」と商品名を、格助詞の「の」で結合した点において、本願商標と共通する。そして、仮に、そのことにより、上記@、Aの登録商標が商品の品質を表したものと理解されるとしても、そのことは、上記@、Aの登録商標とは異なる本願商標について商品の品質を表したものと理解されるとの上記判断を左右すべき理由にはならない。
(イ) 原告は、審決に表れたインターネットのホームページ情報はわずか4件にすぎないから、一般的な用法を基礎付ける資料として不足している上、これら審決が指摘した4件のうち、3件は、原告の「お医者さんの」シリーズ商標の著名性にフリーライドしたメイダイの製品に関する広告としてのホームページであり、メイダイは、原告の警告によって「お医者さんの」という文言の使用を停止した、と主張する。
 しかし、健康に関連する商品について医師等の専門家が開発・考案したことを宣伝広告することによって、商品への信頼性を高めることが行われており、それらの中には、原告以外の商品について、「お医者さんの…」という商品名が用いられる例があること、その他にも商品名において格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている事例があることは、前記ウ、エのとおりであって、審決が認定した事例に限られない。
 また、原告以外の商品について「お医者さんの…」という商品名が用いられる例(前記ウ(ク)並びに(ス)のl、m、n、o及びp)のうち、前記ウ(ク)及び(ス)のl、m、nの広告は、原告の主張によると、メイダイの製品である可能性があるが、前記ウ(ス)のo、pについては、そのような事情はない。そして、メイダイが、原告が主張するように、原告より後から「お医者さんの…」という商品名の使用を始めたとしても、もともと本願商標は、前記のとおり識別力に乏しいことからすると、必ずしもフリーライドということはできない。また、メイダイが、原告の警告によって、「お医者さんの」という文言の使用を停止し、「医学博士の」という文言に変更しているとしても、メイダイが原告との紛争を避けるために変更したとも考えられ、本願商標が、単に商品の品質を表したものと理解されることはなく識別性を有することの根拠となるものではない。
(ウ) 原告は、格助詞「の」については、各種用法があり、職業を表す名詞と商品を表す名詞を「の」で接続した語について、直ちに、当該職業の人が作った商品であると理解認識されるものとは認められない、と主張する。
 格助詞「の」について、各種用法があることは、原告が主張するとおりである(広辞苑第五版[甲13の1]2078頁)が、前記イ〜エのとおり、格助詞「の」の用法に、本願の指定商品にかかわる取引の実情等を考慮すると、本願商標は、「お医者さん」が開発・考案した「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められ、商品の品質を表したものと理解されるのであって、格助詞「の」について各種用法があることは、この認定を左右するものではない。
 原告は、「ひざベルト」という商品は医師が作るものではないとも主張するが、前記ウのとおり、本願の指定商品である「保温用サポーター」は、健康に関連する商品であるから、それを医師が開発・考案することがあるものと考えられるのであり、そのような意味で原告の主張は採用することができない。
(エ) 原告は、「お医者さんのひざベルト」の語自体は商標として機能する商品の出所を示す語句であり、広告中でB医師が考案したことが記載されている部分は商品の補足的な説明にすぎない、と主張する。
 しかし、前記ウ(ア)のとおり、原告が行っている「お医者さんのひざベルト」の広告の多くに、「お医者さんのひざベルト」は、B医師が開発・考案したものである旨の記載があることは、本願商標について「お医者さん」が開発・考案したものであると理解されることを示す事情ということができるのであり、前記イ〜エのその他の事情も総合すると、前記のとおり、本願商標は商品の品質を表したものと理解されるというべきである。
(オ) 原告は、現実に広く使用されたことにより、他社製品を識別できるだけの機能を有するに至った商標について、商標法3条1項3号又は6号に該当しないとする審決例(甲18〜21)が存する旨主張するが、甲18〜21は、本件とは異なる商標についての特許庁の判断であるから、本願商標が商標法3条1項3号に当たるとの判断を左右するものではない。
(カ) 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。キよって、原告主張に係る取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(本願商標は商標法3条2項により商標登録を受けられること)につき
ア 商標法3条2項の趣旨
 商標法3条2項は、商標法3条1項3号等に対する例外として、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」は商標登録を受けることができる旨を規定している。その趣旨は、特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別標識として長期間継続的かつ独占的に使用し、宣伝もしてきたような場合には、当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に、他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は乏しいということができるから、当該商標の登録を認めるというものであると解される。
 そして、このような商標法3条2項の趣旨からすると、商標法3条2項の要件を具備し、登録が認められるための要件は、@実際に使用している商標が、判断時である審決時において、取引者・需要者において何人の業務に係る商品であるかを認識することができるものと認められること、A出願商標と実際に使用している商標の同一性が認められること、であると解される。
 そこで、以上の見解に立って、本件について検討する。
イ 原告が商標法3条2項該当性を主張することの可否
 被告は、本願商標は商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであるとの原告の主張は、審判段階においては全く主張されず、訴訟段階に至って、初めて新たに主張されたものであるから、当審においてこのような主張を行うことは許されない、と主張する。
 しかし、本件審決及びそれに先立つ審判手続においては、商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるかどうかが審理判断の対象となったのであるから、原告は、本件審決の取消訴訟においては、商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるべきでないことについて主張立証して、審決の取消しを求めることができるところ、商標法3条2項は上記のとおり商標法3条1項3号を前提としてこれに対する例外を規定したものであるから、審判手続段階において商標法3条2項のいわゆる特別顕著性に該当する事実について主張立証がなされていなかったとしても、その後の審決取消訴訟段階において、原告は、商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるべきでないことについての主張立証として、商標法3条2項に該当することを主張立証することができると解するのが相当である。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告による「お医者さんのひざベルト」等の広告
(ア) カタログショッピング誌等による広告
a(a) 原告は、株式会社エヌ・ジー・シーが発行する「いいもの王国」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の3)。
(b) 原告は、株式会社エヌ・ジー・シーから商号変更した株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国毎日が元気」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)盛夏号及び秋号、2005年(平成17年)盛夏号及び秋号並びに2006年(平成18年)新春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の1、2、43、44、96)。
(c) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)夏号、増刊号2005年(平成17年)保存版、増刊号2005年改訂版、増刊号2006年(平成18年)最新版、増刊号2006年改訂版及び2006年新春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の4、41、42、94、95、108)。
(d) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国暖房特集」という名称のカタログショッピング誌の「2004年(平成16年)〜2005年(平成17年)冬号」に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の5)。
(e) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国涼夏特集」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)夏号及び2006年(平成18年)夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の45、97)。
(f) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国BEST HIT」という名称のカタログショッピング誌(注文承り期間2005年[平成17年]3月31日までのもの[2誌]、2005年5月31日までのもの、2005年8月31日までのもの、2006年[平成18年]3月31日までのもの及び2006年9月30日までのもの)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の60、61、65、81、107、115)。
(g) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国Best Hits」という名称のカタログショッピング誌(注文承り期間2005年[平成17年]7月31日まで)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の76)。
(h) 原告は、株式会社いいもの王国が発行する「いいもの王国冬の快適生活」という名称のカタログショッピング誌(注文承り期間2006年[平成18年]3月31日まで)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の109)。
b 原告は、株式会社テレマートが発行する「テレマート」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)早春号及び冬号、2005年(平成17年)冬号並びに2006年(平成18年)早春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の6、7、46、98)。
c 原告は、インペリアル・エンタープライズ株式会社が発行する「使ってヨカッタ」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)新春特大号及び2005年(平成17年)早春特別号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の8、47)。
d 原告は、株式会社スタープライスが発行する「はぴねすくらぶ」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)新年号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の9)。
e 原告は、株式会社サントリーショッピングクラブが発行する「通販ヘルス」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の10)。
f 原告は、株式会社ファミリー・ライフが発行する「ファミリー・ライフの通信販売」という名称のカタログショッピング誌の2003年(平成15年)冬号、2004年(平成16年)春号、盛夏号、秋号及び冬号並びに2005年(平成17年)新年号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の11、20、33、39、52、63)。
g 原告は、EH株式会社が発行する「Excel Club」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)2月号、9月号及び10月号並びに2005年(平成17年)6月号及び9月号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の12、27、35、68、84)。
h(a) 原告は、株式会社ベルーナが発行する「雑貨くらぶ」という名称のカタログショッピング誌の2003年(平成15年)冬号並びに2004年(平成16年)夏号及び秋号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の13、31、54)。
(b) 原告は、株式会社ベルーナが発行する「こだわり」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)冬号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の55)。
(c) 原告は、株式会社ベルーナが発行する「おしゃれ生活百科」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の72)。
(d) 原告は、株式会社ベルーナが発行する「ハナマルクラブ」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の86)。
i 原告は、藤久株式会社が発行する「BEST GALLERY」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)4月号、5月号及び7月号、2005年(平成17年)3月号、4月号、5月号、6月号、9月号及び11月号並びに2006年(平成18年)6月号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の14、16、23、57、73、78、83、93、101、114)。
j 原告は、フットワークインターナショナル株式会社が発行する「THE NEXT ONE」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)5月号及び9月号並びに2006年(平成18年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の15、29、103)。
k 原告は、株式会社プライムが発行する「Prime Box」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)10周年謝恩号及び10周年謝恩号第2弾に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の17、28)。
l 原告は、株式会社ジェイオーディが発行する「アクセス」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号及び2005年(平成17年)保存版に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の18、64)。
m 原告は、株式会社ジャパンホームショッピングサービスが発行する「花まる工房」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号及び2005年(平成17年)盛夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の19、85)。
n 原告は、壮快美健館が発行する「壮快美健館」という名称の雑誌の2004年(平成16年)夏号及び秋号のカタログショッピングの部分に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の21、26)。
o 原告は、東急百貨店が発行する「しまい上手」という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)春号及び夏号、2005年(平成17年)新春号、春号及び夏号並びに2006年(平成18年)夏号及び秋号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の22、25、62、71、82、113、117)。
p 原告は、株式会社ジャパンホームショッピングサービスが発行する「ナイスミセス」という名称のカタログショッピング誌の平成16年初夏号及び盛夏号並びに平成17年初春号及び初秋号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の24、30、59、89)。
q(a) 原告は、浜口通販株式会社が発行する「花もめん」という名称のカタログショッピング誌の別冊カタログ(カタログ有効期限2004年[平成16年]9月30日)、2004年秋冬号、2005年(平成17年)春号、初夏号、盛夏号、初秋号、秋冬号及び冬号並びに2006年(平成18年)初夏号及び盛夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の32、51、67、77、87、92、100、105、112、116)。
(b) 原告は、浜口通販株式会社が発行する「花もめんベストセレクション」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)盛夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の88)。
(c) 原告は、浜口通販株式会社が発行する「ピアセラン」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の66)。
r 原告は、資生堂ショッパーズクラブ株式会社が発行する「ヘルス&ビューティーグッズエスカタログ」という名称のカタログショッピング誌(カタログ有効期限2004年[平成16年]9月30日のもの及び2005年[平成17年]7月29日のもの)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の34、75)。
s(a) 原告は、STEILAR C.K.M株式会社が発行する「元気の処方箋第九集」という名称のカタログショッピング誌(2004年[平成16年]10月2日発行)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の36)。
(b) 原告は、STEILAR C.K.M株式会社が発行する「夢みつけ隊」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)春号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の74)。
t 原告は、株式会社JALUXが発行する「JAL World Shopping Club」という名称のカタログショッピング誌(カタログ有効期限2004年[平成16年]10月31日)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の37)。
u 原告は、株式会社総通(日本直販)が発行する「夢運便」(ゆめはこびん)という名称のカタログショッピング誌の2004年(平成16年)冬号及び2005年(平成17年)冬号並びに2005年第10号便、第11号便及び第12号便に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の38、50、70、79、90)。
v 原告は、大阪通販株式会社が発行する「ナースカタログ」という名称のカタログショッピング誌(カタログ有効期限2004年[平成16年]12月31日のもの及び2006年[平成18年]1月31日のもの)に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の40、99)。
w 原告は、株式会社全通が発行する「ほっと生活倶楽部」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)秋冬号及び冬号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の48、49)。
x 原告は、株式会社大丸ホームショッピングが発行する「大丸カタログ」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)初夏号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の56)。
y 原告は、シャディ株式会社が発行する「良品生活」という名称のカタログショッピング誌の2005年(平成17年)冬号に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の104)。
z(a) 原告は、平成17年2月20日、3月13日、6月5日、8月24日、11月27日、平成18年2月5日、3月5日及び5月21日発行の朝日新聞に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の53、58、69、80、91、102、106、111)。
(b) 原告は、平成18年5月8日発行の産経新聞に「お医者さんのひざベルト」の広告を掲載した(甲15の1の110)。
(イ) テレビ放送による広告
 原告は、平成18年2月17日、CS放送で、「お医者さんのひざベルト」の広告をした(甲16)。
(ウ) 新聞による広告
 原告は、上記(ア)z以外にも、平成15年11月から平成18年6月にかけて、読売、朝日、産経、毎日の各新聞及び地方紙において、「お医者さんのひざベルト」の広告をした(甲17)。
(エ) 原告は、「お医者さんのひざベルト」と同様に、「お医者さんのコルセット」及び「お医者さんの円座クッション」についても、カタログショッピング誌、新聞等において、広告を行っている(甲15の2の1〜156、甲15の3の2〜5及び8〜19、甲16、17)。
エ 「お医者さんのひざベルト」等の売上実績(甲9)
 「お医者さんのひざベルト」の売上げは、平成15年9月から平成18年5月までで、個数17万5439個、売上額5億4363億2562円である。
 「お医者さんのひざベルト」、「お医者さんのコルセット」及び「お医者さんの円座クッション」を併せた売上げは、平成14年5月から平成18年5月までで、個数59万5248個、売上額21億0493万8996円である。
オ 上記ウ及びエ認定の事実によると、次のようにいうことができる。
(ア) 上記ウのとおり、原告は、「お医者さんのひざベルト」の広告をしたものと認められるが、それは平成15年11月以降であって長期間にわたるとはいえない。そして、上記ウ(ア)の広告のうち、z以外の広告は、多数の商品が掲載されているカタログショッピングにおける1商品としての広告であり、(ア)zの新聞広告も、複数の商品の広告が掲載されている紙面において1商品として掲載されたものである。テレビ放送は、上記ウ(イ)のとおり、CS放送で1回放送されたのみであり、上記ウ(ウ)の新聞広告については、その態様が証拠上明らかでない。
(イ) 上記ウ(ア)の広告の多くに、B医師が開発・考案したものである旨の記載があり(甲15の1の1〜117)、このことは、「お医者さんのひざベルト」のうち「お医者さんの」の部分が単にB医師が開発・考案したものであることを示すとの印象を与えるということができる。また、上記ウ(ア)の広告の多くは、「お医者さんのひざベルト」に「Dr.Departure」の文字が併記された態様で使用されている(甲15の1の1〜117)。このことは、「Dr.Departure」という、「お医者さんのひざベルト」よりも識別力が高い自他識別標識が付されていることを意味する。
(ウ) 「お医者さんのコルセット」及び「お医者さんの円座クッション」の広告についても、「お医者さんのひざベルト」について上記(ア)、(イ)で述べたのと同様のことをいうことができる(甲15の2の1〜156、甲甲15の3の2〜5、8〜19、甲16、17)。
(エ) 前記(1)ウ認定のとおり、本願指定商品以外の商品について、「お医者さんの…」という商品名が用いられる例(前記(1)ウ(ク)並びに(ス)のl、m、n、o及びp)がある。このうち、メイダイによる「お医者さんの…」という商品名の使用については、前記(1)カ(イ)のとおり、メイダイが原告より後から「お医者さんの…」という商品名の使用を始めたとしても、必ずしもフリーライドということはできず、また、メイダイが、原告の警告によって、「お医者さんの」という文言の使用を停止し「医学博士の」という文言に変更しているとしても、本願商標が、単に商品の品質を表したものと理解されることはなく識別性を有することの根拠となるものではない。
(オ) 「お医者さんのひざベルト」の売上げは、平成15年9月から平成18年5月までの33か月間で、個数17万5439個、売上額5億4363億2562円であり、1か月平均にすると、5300個、1647万3714円であり、「お医者さんのコルセット」及び「お医者さんの円座クッション」を併せても、総額で約21億円である。
(カ) 以上の(ア)〜(オ)のような事情からすると、いまだ、本願商標について、例外的に自他商品識別力を獲得したものであり、他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請が乏しいとまで認めることはできない。
 したがって、本願商標について、商標法3条2項に該当するということはできない。
カ よって、原告主張に係る取消事由2は理由がない。
3 結語
 以上のとおり、原告主張に係る取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 森義之
 裁判官 田中孝一
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